説明

熱伝導度検出器

【課題】MEMS技術を用いることにより、小型で熱的安定時間を比較的短くできて配置場所の制限が少なく量産化でき、抵抗値を高くできることから温度変化の検出が比較的容易に行え、さらに必要に応じて、条件の異なる流路やフィラメントを具備した熱伝導度検出器を同時に提供すること。
【解決手段】加熱したフィラメントにガスが接することにより発生するフィラメントの抵抗値の変化に基づきガスの熱伝導度を検出するように構成された熱伝導度検出器であって、前記フィラメントと前記ガスの流路が接合された基板内部に設けられ、前記接合された基板内部には中空部が形成され、この中空部に前記フィラメントが支持されていることを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサの一種である熱伝導度検出器に関し、詳しくは、ガスクロマトグラフ用の熱伝導度検出器(TCD:thermal conductivity detector)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、気体中に含まれる特定のガスに感応して、その濃度に応じて変化する電気信号を出力するもので、ガス分子が固体表面へ吸着し、あるいはさらに反応する特性を利用したものである。このようなガスセンサの一種に、無機分析用のガスクロマトグラフの汎用的な検出器として用いられている熱伝導度検出器がある。
【0003】
図12は、非特許文献1に記載されている従来の熱伝導度検出器の一例を示す構成説明図である。図において、アルミまたはステンレスのボディ1にはほぼM字形のガスの流路2(以下流路2という)とほぼW字形のガスの流路3(以下流路3という)が上下方向に対向して両側辺の端部が連通するように形成されていて、M字形の山部分と対向するW字形の谷部分間にはそれぞれ流路2と3に連通するようにガスの流路4と5が形成されている。
【0004】
これら流路4と5内には、それぞれコイル状の細いタングステン製のフィラメント6と7が配置され、これらフィラメント6と7の両端は気密状態で電気的に外部に取り出されている。M字形の谷部分にはガス入口のパイプ8が流路2に連通するように設けられ、W字形の山部分にはガス出口のパイプ9が流路3に連通するように設けられている。なお、流路2と3の両側辺の穴径は他の部分よりも大きく形成されている。
【0005】
このような構成において、パイプ8から入力されるガスは、流路2,3,4,5を通ってパイプ9から出力される。ここで、加熱したフィラメント6,7に接するガスの熱伝導度が変化するとフィラメント6,7の温度も変化し、抵抗値が変化する。これらフィラメント6,7の抵抗値の変化をブリッジ回路などで検出して出力する。
【0006】
ガスクロマトグラフでは、カラムにHe,H2,N2,Arなどのキャリアガスを流すとともに、そこに計量されたサンプルガスを導入することにより、サンプルガスを時間的に各成分毎に分解し検出器で測定する。出力するピークの出現時間で定性分析を行い、ピーク面積で定量分析を行う。熱伝導度検出器は、出現する成分のガスとキャリアガスの熱伝導度の違いを電気信号に変換する。
【0007】
【非特許文献1】前田 真人、他1名、「ガスクロマトグラフ用新形熱伝導度検出器」、横河技報、横河電機株式会社、1983年、vol.27、No.1、p.27−32
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図12の熱伝導度検出器は、流路2の形成にあたり、複雑な加工と高度な技術が必要であり、フィラメント3の固定にも高度な技術を必要とする。
【0009】
そして、工程の多くが手作業であるため相当の作業時間を要し、費用もかかり量産には不向きであるという問題がある。
【0010】
また、ボディ1が大きいため熱的に安定するまでに時間を要するという問題もあり、金属のフィラメント3の抵抗値が低いため、温度変化を検出するのが困難であるという問題もある。
【0011】
さらに、設計変更などが容易に行えないという問題もある。
【0012】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、MEMS技術を用いることにより、小型で熱的安定時間を比較的短くできて配置場所の制限が少なく量産化でき、抵抗値を高くできることから温度変化の検出が比較的容易に行え、さらに必要に応じて、条件の異なる流路やフィラメントを具備した熱伝導度検出器を同時に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような目的を達成するために、本発明の請求項1は、
加熱したフィラメントにガスが接することにより発生するフィラメントの抵抗値の変化に基づきガスの熱伝導度を検出するように構成された熱伝導度検出器であって、
前記フィラメントと前記ガスの流路が接合された基板内部に設けられ、
前記接合された基板内部には中空部が形成され、
この中空部に前記フィラメントが支持されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2は、請求項1記載の熱伝導度検出器において、
前記ガスの入出口は、前記接合された基板内部の中空部に連通するように前記基板の一部に設けられた貫通穴であることを特徴とする。
【0015】
請求項3は、請求項1または2記載の熱伝導度検出器において、
前記フィラメントは、単結晶シリコンで形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4は、請求項1〜3いずれかに記載の熱伝導度検出器において、
前記ガスの入出口と前記フィラメントの電極は、前記接合された基板の一方に設けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項5は、請求項1〜3いずれかに記載の熱伝導度検出器において、
前記ガスの入出口は前記接合された基板の一方に設けられ、前記フィラメントの電極は前記接合された基板の他方に設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項6は、請求項1〜5いずれかに記載の熱伝導度検出器において、
前記フィラメントを前記基板の一方に固定する固定手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
このように構成することにより、小型で熱的安定時間を比較的短くできて配置場所の制限が少なく量産化でき、抵抗値を高くできることから温度変化の検出が比較的容易に行える熱伝導度検出器が実現できる。
【0020】
また、半導体製造工程により熱伝導度検出器が作製できるため、高度な加工技術が必要とならず、フィラメント11の形状およびフィラメント11と流路1壁面との距離などが設計どおりに作製できる。さらに、様々な条件の流路1およびフィラメント11を具備した熱伝導度検出器が作製できる。
【0021】
また、フィラメントに張力を与える機構、すなわちフィラメントをどちらか一方の基板に固定する固定手段をどちらかの基板に固定することにより、フィラメントに熱を加えた場合においても、フィラメントが熱膨張することによって生じる撓みを発生しないため、フィラメントの動作温度を上げて熱伝導度の検出感度を向上する熱伝導度検出器を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を用いて、本発明の熱伝導度検出器を説明する。図1は、本発明の熱伝導度検出器の一実施例を示す構成図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X断面図である。
【0023】
図1において、基板10はパイレックス(登録商標)(登録商標)ガラス基板やセラミック基板などで形成されたものであり、その表面にはフィラメント11が設けられている。
【0024】
フィラメント11が設けられた基板10の表面には凹部10aが形成され、凹部10aの底面の端部近傍には基板10の裏面に貫通するように貫通穴10b,10cが形成されている。これらの貫通穴10b,10cは、ガスの入力口および出力口として機能する。
【0025】
貫通穴10b,10cの外側には、基板10の表面に設けられたフィラメント11の裏面がそれぞれ露出するように貫通穴10d,10eが設けられている。これら貫通穴10d,10eのフィラメント11の露出部を含む内周面には、フィラメント11の露出部を基板10の裏面から外部に接続するための電極として機能する金属膜12a,12bが形成されている。以下、これら金属膜12a,12bを電極ともいう。
【0026】
基板13は、フィラメント11が設けられた基板10の表面に重ね合わせるようにしてたとえば陽極接合により固着されているが、基板10との対向面には基板10の表面に形成された凹部10aとほぼ等しい大きさの凹部13aが形成されるとともに、その凹部13aの外周にはフィラメント11全体を内包するようにフィラメント11の厚さよりもやや深い段付部13b,13cが形成されている。
【0027】
これにより、基板10の表面に設けられたフィラメント11は、基板13により密閉されることになる。
【0028】
図2は、図1の熱伝導度検出器を作製するプロセスの具体例を断面図により示す工程図である。
【0029】
まず、(a)に示すように、基板10の表面に凹部10aを形成し、凹部10aの底面の端部近傍には基板10の裏面に貫通するように貫通穴10b,10cを形成し、さらに、貫通穴10b,10cの外側には、貫通穴10d,10eを形成する。これら凹部10aや貫通穴10b〜10eは、ウエットエッチング、ドライエッチング、あるいはサンドブラストなどの加工により形成することができる。
【0030】
一方、(b)に示すように、シリコン基板14の表面にたとえばボロンなどの不純物を高濃度に拡散して拡散深さおよび導電率を調整し、高濃度拡散層を形成する。このとき、たとえばエピタキシャル成長を用いることでより高い自由度が得られる。その後、ウエットエッチングあるいはドライエッチングなどで不要部分を除去することにより、フィラメント11と電極パッド部分を形成する。
【0031】
ここで、(c)に示すように、(a)で加工した基板10と(b)で加工したシリコン基板14とを、基板10に形成された凹部10aと、貫通穴10d、10eをシリコン基板14に形成されたボロン高濃度層のフィラメント11が覆うようにして陽極接合する。
【0032】
そして、(d)に示すように、フィラメント11のみを残すために、シリコン基板14全てをヒドラジン、TMAH、KOHなどのアルカリ液でエッチング除去する。
【0033】
続いて、(e)に示すように、パイレックス(登録商標)(登録商標)ガラス基板やセラミック基板あるいはシリコン基板を基板13として用い、その表面をKOHなどによるウエットエッチング、ドライエッチング、あるいはサンドブラストなどで加工し、基板10の表面に形成された凹部10aとほぼ等しい大きさの凹部13aを形成するとともに、その凹部13aの外周にはフィラメント11全体を内包するようにフィラメント11の厚さよりもやや深い段付部13b,13cを形成する。
【0034】
次に、(f)に示すように、(d)で加工した基板10と(e)で加工した基板13を、基板13の表面に形成された凹部13aと段付部13b,13cが基板10の表面に設けられたフィラメント11全体を内包するように重ね合わせて、たとえば基板10がパイレックス(登録商標)、基板13がシリコンの場合は、陽極接合を用いる。
【0035】
そして、(g)に示すように、基板10の貫通穴10d,10eの内周面に金属膜12a,12bをスパッタなどで被着形成する。なお、図示しないが、内周面に金属膜12a,12bが形成された貫通穴10d,10eには、ハンダやメッキで金属を充填したり、導電性ペーストを充填する。
【0036】
このように構成される熱伝導度検出器の動作を説明する。
【0037】
電極12a,12b間に電圧を印加するとフィラメント11に電流が流れ、ジュール熱が発生する。フィラメント11の上下に空間があるため、熱伝導による熱の逃げが小さく、フィラメント11の温度は大きく上昇する。
【0038】
ガス入力用の貫通穴10bからフィラメント11の上下の空間に、図示しないガスクロマトグラフのカラムを介してキャリアガスおよび分離された被測定ガスを入力する。これにより、被測定ガスの成分あるいは濃度によって時々変化する熱伝導度がフィラメント11の抵抗値変化として認識できる。貫通穴10bから入力されたガスは、貫通穴10cから外部に出力される。
【0039】
本発明に基づく熱伝導度検出器は、半導体製造工程により作製できるため、フィラメント11の形状およびフィラメント11と流路壁面との距離などが小さなバラつきでほぼ設計どおりに作製できるとともに、必要に応じて、様々な条件の異なる流路およびフィラメント11を具備した熱伝導度検出器を同時に作製できる。
【0040】
また、同時に一枚のウエハ内に熱伝導度検出器を複数個形成できるため、1個当りの単価を低価格にでき、量産に適している。
【0041】
また、熱伝導度検出器のボディを小型化にできるため、熱的に安定するまでの時間が短縮でき、配置場所や用途の制約が少なくなる。
【0042】
また、フィラメント11の材料として単結晶シリコンを使用しているため、抵抗値を高くしてブリッジ回路の電圧を上げることができ、容易に任意のガスを検出できる。
【0043】
また、パッケージを必要としないため、パッケージ分のコストおよびパッケージに組み立てるコストを削減することができ、低コストを実現できる。
【0044】
また、基板材料の選択によっては、陽極接合による高信頼性シール構造を実現することができる。
【0045】
さらに、ガス分析を行うのにあたり、フィラメント11への通電を高速にON/OFFする必要があり、フィラメント11からの速やかな熱の逃げも重要となるが、本発明の熱伝導度検出器の構造によれば、電極12a,12bを経由して速やかに熱を逃がすことができ、高速ON/OFFを実現できる。
【0046】
図3は本発明の他の実施例を示す断面図による構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図1と異なっているのは、図1ではフィラメント11が設けられている基板10にガスを入力し出力するための貫通穴10b,10cとフィラメント11を駆動するための電極として機能する10d,10eを設けているのに対し、図3では基板13にガスを入力し出力するための貫通穴13d,13eを設けていることである。
【0047】
図3の構成によれば、フィラメント11の駆動電極とガスの入出力口をフィラメント11の上下に分離できることから、図1に比べて構造を単純化できる。
【0048】
図4も本発明の他の実施例を示す平面図による構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図4では、ガスの入出力口を基板の端面に設けるように構成されている。
【0049】
図4の構成は、同一基板上にカラムやバルブの機能を集積する場合に有効である。
【0050】
図5も本発明の他の実施例を示す平面図による構成図であり、図12と共通する部分には同一の符号を付けている。図5は、図12のガスの流路2,3,4,5やフィラメント6,7を半導体製造工程により作製したものである。
【0051】
図5の構成によれば、フィラメント6,7の形状およびフィラメント6,7と流路壁面との距離などが設計どおり高精度に作製できる。また、各ガス流路における分流の比率なども容易に設計できる。
【0052】
図6も本発明の他の実施例を示す平面図による構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図6では、フィラメント11をジグザグパターンとして形成した例を示している。
【0053】
本発明では、熱伝導度検出器を半導体製造工程により作製することから、フィラメント11の形状およびフィラメント11と流路壁面との距離などが設計どおりに精度よく作製でき、フィラメント11を必要に応じて所望の形状に形成できる。
【0054】
たとえば、フィラメント11にかかる応力緩和のためにパターンの一部に折り返しを設けてもよく、あるいは抵抗値を調整するためにパターンを変更してもよい。さらに、フィラメント11の長手方向に沿ってパターン密度を異ならせることにより、温度分布を調整できる。
【0055】
図7は本発明の他の実施例を示す構成図であり、(a)は熱伝導度検出器の平面図、(b)は(a)のX−X'断面図である。図1で説明した構成と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
図1と異なっているのは、図1ではフィラメント21の両端が基板10によって支持されているのに対し、図7ではフィラメント21の両端が基板10によって支持され、さらにフィラメント21の固定手段22が基板10に固定されていることである。
【0057】
図7の構成によれば、フィラメント21の固定手段22を基板10に固定することにより、フィラメント21に熱を加えた場合においても、フィラメント21が熱膨張することによって生じるフィラメント21の撓みが発生しないため、図1(たとえば、フィラメント21の温度上昇ΔT=200K)に比べてフィラメント21の動作温度を高くすることできる。
【0058】
このため、フィラメント21の動作温度を上げて熱伝導度の検出感度を向上することができる。
【0059】
なお、フィラメント21は、本実施例のように、フィラメント21の中央部分をどちらか一方の基板10、13に固定する他に、フィラメント21の長さ方向に引っ張る構造にしても同様の効果が得られる。
【0060】
図8は、本発明の他の実施例を示す断面図による構成図であり、図7と共通する部分には同一の符号を付けている。図7と異なっているのは、図7ではフィラメント21が設けられている基板10にガスを入力し出力するための貫通穴(以下、ガスの導入出口10b,10cという)とフィラメント21を駆動するための電極として機能する10d,10eを設けているのに対し、図8では基板13にガスを入力し出力するための貫通穴(以下、ガスの導入出口13d,13eという)を設けていることである。
【0061】
図8の構成によれば、フィラメント21の駆動電極12a、12bとガスの導入出口13d、13eをフィラメント21の上下に分離できることから、図7に比べて構造を単純化できる。
【0062】
なお、ガス導入出口10b、10cを基板10に形成する構成や、ガス導入出口13d、13eを基板13に形成する構成や、ガスの導入出口10b、10cやガスの導入出口13d、13eを同一の基板に形成しない構成や、フィラメント21に張力を与える機構、すなわちフィラメント21をどちらか一方の基板10、13に固定する固定手段22の組み合わせはいずれであってもよい。
【0063】
図9は、フィラメントを基板に固定する方法を示す図であり、(a)はフィラメントの平面図、(b)はフィラメントに張力を与える機構を形成した図である。
【0064】
ここで、フィラメント21の長さをLとし、フィラメント21に熱を加えることによってフィラメント21が伸びる長さをδLとする。また、フィラメント21が長さδL伸びた場合に相当するフィラメント21の変位をhとし、h変位した場合のフィラメント21の長さをL+δLとする。
【0065】
たとえば、フィラメント21に熱を加えた場合、すなわちフィラメント21の温度をδT分上昇させると、フィラメント21の材料の熱膨張率αにより、フィラメント21が長さδLだけ伸びる。この伸びδLは、式(1)により与えられる。
δL=L×α×δ×T ・・・式(1)
【0066】
このフィラメント21の伸びδLに相当する変位がL>>hの場合、式(2)により近似することができる。
【0067】

【0068】
このように、フィラメント21にこのフィラメント21の長さδLに相当する変位hを加えて、基板に固定する場合に、フィラメント21の温度がδT分上昇したとしても、フィラメント21が伸びた分δLが吸収されるため、座屈が発生しない。
【0069】
ここで、座屈とは、細長い棒状、あるいは薄い板状の物などが、縦方向(長さ方向)に加えた圧力が或る限界値に達すると、横方向に変形をおこす現象をいう。
【0070】
従って、フィラメント21の上昇する温度がδTまでの範囲において、フィラメント21とこのフィラメント21が固定される基板10、あるいは基板13とのギャップは一定の値で保持される。たとえば、あるシリコンの長さLが1mm、熱膨張率αが4×10−6/Kである場合に、温度上昇δTを500Kとした場合、フィラメント21の伸び、および初期状態でのフィラメントの変位hを算出する。フィラメント21の伸びを式(1)により算出すると、約2μmとなる。また、次に初期状態の変位hを式(2)により算出すると、このフィラメント21の伸びを打ち消すためには、初期状態で変位hを約30μmとすればよいことがわかる。
【0071】
このフィラメント21とこのフィラメント21が固定される基板10、あるいは基板13とのギャップを不変にした、すなわちフィラメント21とどちらか一方の基板10、あるいは13とを固定することにより、フィラメント21の動作温度を図1(たとえば、フィラメント21の温度上昇ΔT=200K)に比べて高くすることができる。
【0072】
図10は、図7のフィラメントを基板に固定する具体例を示す断面図であり、(a)はフィラメントが変位していない場合の断面図、(b)はフィラメントに接続されている電極および基板側の固定電極23に電圧を印加した場合の断面図、(c)はそれぞれの電極に電圧が印加された後、フィラメントが固定された場合の断面図である。
【0073】
(a)において、フィラメント21にラッチ機能および静電駆動の可動電極の機能を有するラッチ機能付き可動電極21aが接続形成されている。このラッチ機能付き可動電極21aの形状は、フィラメント21と接続されていない側、すなわち固定電極23と接続する側がくし状に形成されている。
【0074】
フィラメント21と接続されている側は、フィラメント21と接続されている部分から垂直に形成され、固定手段24に挟まれる部分は、テーパー状に形成され、このテーパー状に形成されている内側にスリット21bが形成されている。また、このラッチ機能付き可動電極21aのテーパー状の形状部分と、くし状の形状部分との間は、垂直な棒状部材で形成されている。
【0075】
ここで、このテーパー状は、固定手段24を元の状態に戻さないように留めておくストッパー機能を有している。また、スリット21bは、電極に電圧が印加された場合、固定手段24にラッチ機能付き可動電極21aが押されることにより、ラッチ機能付き可動電極21aのスリット21b部分の空間が狭まるような弾性構造を有している。
【0076】
ここで、ラッチ機能とは接続させた部分をつなぎとめることであり、静電駆動とは固定電極と可動電極の間に電圧を印加することで両電極が引き合う方向に静電力が発生することを利用して駆動することである。
【0077】
また、フィラメント21と対向する側には、フィラメント21が変位することにより、ラッチ機能付き可動電極21aに接続され、固定される固定手段24が形成されている。ラッチ機能付き可動電極21aが動かない場合には、固定手段24はラッチ機能付き可動電極21aのテーパーの部分が、同じようにテーパーに形成されている。
【0078】
また、固定電極23はラッチ機能付き可動電極21aのくし形状とかみ合うように、固定電極23はくし状の形をしている。
【0079】
(b)において、ラッチ機能付き可動電極21aと、固定電極23に電圧を印加すると、ラッチ機能付き可動電極21aを有するフィラメント21が固定手段24の方に引っ張られる。引っ張られるため、ラッチ機能付き可動電極21aのスリット21bの空間がなくなり、ラッチ機能付き可動電極21aと固定手段24とが接する、すなわちラッチ機能付き可動電極21aのスリット21bが固定手段24から圧接される。また、ラッチ機能付き可動電極21aと固定手段24とのくし状部分の先が接続される。
【0080】
(c)において、(b)の状態よりも、さらにラッチ機能付き可動電極21aと、固定電極23に電圧を印加すると、ラッチ機能付き可動電極21aを有するフィラメント21がさらに固定手段24の方に引っ張られる。さらに引っ張られるため、ラッチ機能付き可動電極21aのスリット21bが固定手段24から圧接される状態から解除される。また、ラッチ機能付き可動電極21aのテーパー上面部を固定手段24のテーパーと円錐状の接合部で留めることにより、固定手段24を元の状態に戻さないようにしている。ラッチ機能付き可動電極21aと固定手段24とのくし状部分の先が接続されている。
【0081】
次に、ラッチ機能付き可動電極21aと固定電極23がかみ合うように、ラッチ機能付き可動電極21aを固定電極23で覆うように、接合され、固定される。ここで、ラッチ機能付き可動電極21aおよび固定電極23に印加する電圧を切り、さらに静電力を発生している電圧を切った場合においても、ラッチ機構により、フィラメント21が変形したまま固定される。この固定された状態を(c)の断面図で表している。
【0082】
このように、フィラメント21に張力を与える機構、すなわちフィラメント21をどちらか一方の基板10、13に固定する固定手段22をどちらかの基板10、13に固定する、すなわちフィラメント21、すなわちラッチ機能付き可動電極21a部と固定電極23を固定することにより、ラッチ機能付き可動電極21a部と固定電極23に電圧を印加した場合においても、ラッチ機能付き可動電極21a部から熱が伝わり、フィラメント21が熱膨張することによって生じるフィラメント21の撓みが発生しないため、フィラメント21の動作温度を上げて熱伝導度の検出感度を向上することができる。
【0083】
図11は、本発明の他の実施例を示す平面図による構成図であり、図12と共通する部分には同一の符号を付けている。図11は、図12のガスの流路2,3,4,5やフィラメント6,7を半導体製造工程により作製したものである。
【0084】
ガスが、ガス導入口8から熱伝導検出器に導入され、各流路にガスが分流してガス導出口9から排出される。フィラメント6が配置される流路4の他に、流路断面積が大きい流路2および3を配置することで、熱伝導検出器の圧力損失を抑えつつ、フィラメント6が配置される流路4の流路断面積を小さくして熱伝導度の検出感度を向上する構成となっている。また、フィラメント7もフィラメント6と並列に並べられ、流路7にフィラメント7は構成されている。なお、初期変形を与える構造は図示していない。
【0085】
図11の構成によれば、フィラメント6,7の形状およびフィラメント6,7と流路壁面との距離などが設計どおり高精度に作製できる。また、各ガス流路における分流の比率なども容易に設計できる。
【0086】
また、本発明はフィラメントを基板10、13で挟む構造をしている。
【0087】
以上説明したように、本発明によれば、MEMS技術を用いることにより、小型で熱的安定時間を比較的短くできて配置場所の制限が少なく量産化でき、抵抗値を高くできることから温度変化の検出が比較的容易に行え、さらに必要に応じて、条件の異なる流路やフィラメントを具備した熱伝導度検出器を同時に実現できる。
【0088】
また、図7の実施例によれば、フィラメント21に張力を与える機構、すなわちフィラメント21をどちらか一方の基板10、13に固定する固定手段22をどちらかの基板10、13に固定することにより、フィラメント21に熱を加えた場合においても、フィラメント21が熱膨張することによって生じる撓みを発生しないため、フィラメント21の動作温度を上げて熱伝導度の検出感度を向上する熱伝導度検出器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施例を断面図により示す工程図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す断面図による構成図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す平面図による構成図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す平面図による構成図である。
【図6】本発明の他の実施例を示す平面図による構成図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す断面図による構成図である。
【図9】フィラメントを基板に固定する方法を示す図である。
【図10】図7のフィラメントを基板に固定する具体例を示す断面図である。
【図11】本発明の他の実施例を示す平面図による構成図である。
【図12】従来の熱伝導度検出器の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0090】
10 基板
10a 凹部
10b,10c 貫通穴(ガス入力口および出力口)
10d,10e 貫通穴(電極)
11 フィラメント
12a,12b 金属膜(電極)
13 基板
13a 凹部
13b,13c 段付部
13d,13e 貫通穴(ガス入力口および出力口)
21 フィラメント
21a ラッチ機能付き可動電極
21b スリット
22、24 固定手段
23 固定電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱したフィラメントにガスが接することにより発生するフィラメントの抵抗値の変化に基づきガスの熱伝導度を検出するように構成された熱伝導度検出器であって、
前記フィラメントと前記ガスの流路が接合された基板内部に設けられ、
前記接合された基板内部には中空部が形成され、
この中空部に前記フィラメントが支持されていることを特徴とする熱伝導度検出器。
【請求項2】
前記ガスの入出口は、前記接合された基板内部の中空部に連通するように前記基板の一部に設けられた貫通穴であることを特徴とする請求項1記載の熱伝導検出器。
【請求項3】
前記フィラメントは、単結晶シリコンで形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導度検出器。
【請求項4】
前記ガスの入出口と前記フィラメントの電極は、前記接合された基板の一方に設けられていることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の熱伝導度検出器。
【請求項5】
前記ガスの入出口は前記接合された基板の一方に設けられ、前記フィラメントの電極は前記接合された基板の他方に設けられていることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の熱伝導度検出器。
【請求項6】
前記フィラメントを前記基板の一方に固定する固定手段を設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の熱伝導度検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−185867(P2010−185867A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273269(P2009−273269)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】