説明

熱伝導性シートおよびその用途

【解決手段】 本発明に係る熱伝導性シートは、バインダー、磁性体および炭素繊維を含有する熱伝導性シートであって、前記バインダー中に、前記磁性体および前記炭素繊維が前記熱伝導性シートの厚み方向に配向していることを特徴とする。また、本発明に係る放熱構造は、高熱部と、放熱部とが、前記熱伝導性シートを介して接合されていることを特徴とする。また、本発明に係る放熱構造は、高熱部の表面に、前記熱伝導性シートが存在していることを特徴とする。
【効果】 本発明に係る熱伝導性シートは、各種の電気機器、電子機器、発電機器等に求められる放熱、熱伝導に係る要求を満たす。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱伝導性シートおよびその用途に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】近年、家庭用・オフィス用の電気機器、電子機器、発電機器等は、機器の高集積化、大容量化、高性能化に伴い、各種機器の半導体素子あるいは発熱振動体等の発熱体からの発熱量が増大する傾向にあるものが多く、さらに、機器の小型化、薄型化などに対する要請から、発熱体からの効果的な放熱が、こうした電気機器、電子機器、発電機器等において重要な課題となっている。たとえば、電気・電子機器のIC、LSI、あるいはこれらを含んだ半導体パッケージ部分、発電機の回転機部分、オーディオ機器等のスピーカーのボイスコイル部分などにおいては、これら各機器の発熱体から発熱される熱を効率よく放熱することが、機器の性能維持、耐久性向上等の観点から、重要な課題となっている。
【0003】このため、従来より発熱体などの高温部と放熱フィンなどの放熱部とを隙間なく接合させ放熱効果を向上させるため、これら発熱体などの高温部と放熱部との間に、熱伝導性の高いシート介して接合する試みが行われていた。しかしながら、たとえば、IC、LSI等の半導体素子等の高熱部と、放熱体またはプリント基板などの放熱部との間に介在させる従来の樹脂製シートは、その熱伝導率はせいぜい5〜6W/mK程度、よくても8W/mK程度であり、半導体素子の高集積化等に伴う発熱量の増大に対応した十分な放熱性を発揮するには不十分であった。
【0004】また、このような高熱部に放熱部材を装着する形態での放熱性能向上に対する要請の一方で、電子部品の高集積化に伴い、半導体パッケージに放熱フィンなどの強い装着負荷をかけることが忌避される場合もあり、このため極めて優れた熱伝導性を有するシート状の放熱部材も求められていた。一方、半導体関連部品以外の電気機器、機械分野においても、たとえば、発電機、電動機などの高圧回転機においては、単機の大容量化、高圧電圧化、小型軽量化等の要請から、回転機自身が発生する許容熱量が増大する傾向にあり、使用する材料、特に、高圧回転電機のコイルと鉄心コアの間に用いる熱伝導性シートの熱伝導性の更なる向上が重要な課題となっていた。また、その他、たとえばオーディオ機器のスピーカーユニットの磁気回路内に蓄積される熱の放熱のため、放熱材料の更なる熱伝導性の向上なども求められていた。
【0005】また、UVランプ等も高出力化のため、そのランプハウジング等が極度に加熱し、ランプの寿命を低下させることや周辺材料、素子の熱劣化を加速することなどが問題となっており、放熱材料のさらなる熱伝導性向上が求められていた。本発明者らは、上記のような要求を満足するべく鋭意研究し、バインダー中に、磁性体と炭素繊維とが、樹脂シートの厚み方向に配向している熱伝導性シートを用いた放熱構造あるいは放熱部材が、各種の電機機器、電子機器あるいは発電機器などにおける放熱材料としての要求を満足することを見出して、本願発明を完成するに至った。
【0006】
【発明の目的】本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、電気・電子製品等に求められる高い熱伝導性の要求を満たすような放熱構造または放熱材料を提供することを目的としている。
【0007】
【発明の概要】本発明に係る熱伝導性シートは、バインダー、磁性体および炭素繊維を含有する熱伝導性シートであって、前記バインダー中に、前記磁性体および前記炭素繊維が前記熱伝導性シートの厚み方向に配向していることを特徴としている。本発明に係る放熱構造は、高熱部と、放熱部とが、前記熱伝導性シートを介して接合されていることを特徴としている。本発明に係る放熱構造は、高熱部の表面に、前記熱伝導性シートが存在していることを特徴としている。前記高熱部は、発熱体である放熱構造であることが好ましい。前記高熱部と、放熱部とが、前記熱伝導性シートを介して接合されている放熱構造の高熱部は、半導体素子、半導体パッケージ、パワートランジスタ、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)素子、サイリスタ、高圧回転機の発熱コイル、ボイスコイルのコイル、Plasma Display、ELパネル、LDまたはLEDであることが好ましい。前記高熱部の表面に、前記熱伝導性シートが設けられてなる放熱構造の高温部は、半導体素子、半導体パッケージ、パワートランジスタ、PTC素子、サイリスタ、プリント基板、画像成型装置の加熱ヒータ、高温流体または電球等発光体であることが好ましい。
【0008】
【発明の具体的説明】[熱伝導性シート用組成物]本発明に係る熱伝導性シートは、バインダー、磁性体および炭素繊維とからなり、前記バインダー中に前記磁性体および前記炭素繊維が、熱伝導性シートの厚み方向に配向している。
【0009】このような本発明に係る熱伝導性シートは、前記バインダー、磁性体および炭素繊維を含有する熱伝導性シート用組成物を硬化または半硬化させつつ、前記磁性体および前記炭素繊維を熱伝導性シートの厚み方向に配向させて得ることができる。
<バインダー>本発明の熱伝導性シートに係るバインダーとしては、熱可塑性または熱硬化性のゴム状重合体あるいは樹脂状重合体のいずれでも使用可能で、また、必要に応じて不飽和二重結合を有する反応性モノマーが添加されていてもよい。
【0010】このようなゴム状重合体としては、具体的には、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソプレン、SBR,NBRなどの共役ジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物、スチレンブタジエンジエンブロック共重合体、スチレンイソプレンブロック共重合体などのブロック共重合体およびこれらの水素添加物、クロロプレン、ウレタンゴム、ポリエステル系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体などが挙げられる。これらのうち、成形加工性、耐候性、耐熱性などの点から、特にシリコーンゴムが好ましい。
【0011】ここでシリコーンゴムについてさらに詳細に説明する。シリコーンゴムとしては、液状シリコーンゴムを用いることが好ましい。液状シリコーンゴムは、縮合型、付加型などのいずれであってもよい。具体的にはジメチルシリコーン生ゴム、メチルフェニルビニルシリコーン生ゴムあるいはそれらがビニル基やヒドロキシル基などの官能基を含有したものなどを挙げることができる。
【0012】本発明に係る樹脂状重合体としては、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが使用可能である。このうち、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものが好ましく、たとえば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、あるいはポリグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートと他の共重合モノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0013】不飽和二重結合を有する反応性モノマーとしては、ヒドロキシスチレン、イソプロペニルフェノール、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、p−メトキシスチレンなどの芳香族ビニル化合物、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタムなどのヘテロ原子含有脂環式ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノ基含有ビニル化合物が挙げられる。
【0014】不飽和二重結合を有する反応性モノマーとしては、さらに(メタ)アクリルアミド化合物および(メタ)アクリル酸エステルも使用することができる。前記(メタ)アクリルアミド化合物としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、これらは単独であるいは混合して用いられる。
【0015】前記(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは単独であるいは混合して用いられる。
【0016】また、多官能性(メタ)アクリレートとしては、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加物のジアクリレート、ビスフェノールA−ジエポキシ−アクリル酸付加物などの2官能(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0017】これらのうち、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。これらは単独であるいは混合して用いられる。
【0018】本発明に係る熱伝導性シートは、熱伝導性シートの用途に応じ、バインダーに用いる前記化合物の種類を選ぶことによって、たとえば(a)接着性のないあるいは接着性の弱いシート(以下「非接着性シート」ということがある。)、(b)粘着性を有する粘着性シート(以下「粘着性シート」ということがある。)、(c)始めは半硬化状態でその後さらに硬化させることにより得られる固着型シート(以下「固着型シート」ということがある。)などの各種の形態に成形することができる。たとえば、非接着性シート(a)を得る場合には、前記のうち、シリコーンゴム、あるいは前記エポキシ樹脂等を硬化させた硬化シートを用いることが好ましい。また、粘着性シート(b)を得る場合には、前記(メタ)アクリル化合物を用いてシートを形成することが好ましい。さらに、固着型シート(c)を得る場合には、半硬化状態のシートを使用時に硬化させて用いる固着型の熱伝導性シートを得たい場合には、たとえば、バインダーとして光硬化性成分と、熱硬化性成分とからなる熱硬化性組成物をまず光によって半硬化し、さらに、使用時に、熱によって熱圧着により硬化、接着させることが好ましい。
【0019】このうち、固着型シート(c)について、さらに詳説する。
固着型シート(c)(光硬化性成分)固着型シート用の熱伝導性シート用組成物に含まれる光硬化性成分としては、紫外線、電子線等により硬化する光ラジカル重合性、光カチオン重合性、配位光重合性、光重付加反応性であるモノマー、オリゴマー、プレポリマーまたはポリマーが挙げられる。このような光硬化性のモノマー、オリゴマー、プレポリマーまたはポリマーとしては、前記シアノ基含有ビニル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物および(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系化合物、ビニルエーテル−マレイン酸共重合体等の光ラジカル重合性、チオール−エン系化合物等の光重付加反応性のものが好ましく、このうち、(メタ)アクリル系化合物が特に好ましい。本発明に係る光硬化性成分としては、このうち光硬化に要する時間が短時間である(メタ)アクリル系化合物のモノマーが好ましく用いられる。
【0020】このような(メタ)アクリル系化合物の光重合性のモノマー、オリゴマー、プレポリマーあるいはポリマーを誘導しうるモノマーとしては、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノ基含有ビニル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物および(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。前記(メタ)アクリルアミド化合物、(メタ)アクリル酸エステル類としては、前記に記載したものが挙げられ、これらは、単独であるいは混合して用いることができる。
(熱硬化性成分)前記熱硬化性成分としては、本発明に係る光硬化条件下においては硬化せず、熱により硬化する官能基を有するモノマー、オリゴマー、プレポリマーまたはポリマーが挙げられる。
【0021】このような官能基として、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基などが挙げられ、反応性の点からエポキシ基が好ましい。このような官能基を有するモノマー、オリゴマー、プレポリマーあるいはポリマーとしては、たとえば、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物などが挙げられる。このうち、優れた接着性、熱硬化時間の短縮の観点からエポキシ系化合物を用いることが好ましく、さらにエポキシ系化合物は、エポキシ基を分子中に2個以上有していることが望ましい。
【0022】このようなエポキシ系化合物の分子量は特に限定されないが、通常、70〜20,000であり、好ましくは300〜5000であることが望ましく、具体的には、前記エポキシ系化合物のオリゴマー、プレポリマーまたはポリマーなど一定の分子量以上を有する各種エポキシ樹脂が好ましく用いられる。なお、本発明に係る固着型シート(c)の用途に係るバインダーの成分として、光硬化性の官能基と、光硬化条件下で硬化しない熱硬化性の官能基とを1分子中に含む化合物を用いて、両成分を兼ねることもできる。このような光硬化性の官能基を含有する化合物として前記(メタ)アクリル化合物、熱硬化性の官能基として前記エポキシ基等が挙げられ、両成分を兼ねることのできる具体的な化合物としては、グリシジル(メタ)アクリルアミドなどのエポキシ(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのエポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0023】本発明に係る(c)の用途に用いる場合のバインダーに含まれる前記光硬化性成分と前記熱硬化性成分との混合割合(光硬化性成分/熱硬化性成分)は、好ましくは80/20〜20/80重量%、さらに好ましくは70/30〜30/70重量%、特に好ましくは40/60〜40/60重量%であることが望ましい。前記光硬化性成分と前記熱硬化性成分とがこのような範囲にあると、半硬化熱伝導性シート中での磁性体と炭素繊維の該シートの厚み方向への配向が充分になされるとともに、優れた接着性を有する該半硬化熱伝導性シートが硬化したシートを得ることができる。なお、本明細書において「重量%」とは、重量の割合を示す。
【0024】本発明に係るこのような光硬化性成分と熱硬化性成分としては、前記(メタ)アクリル系化合物とエポキシ系化合物との組み合わせが、半硬化状態の熱伝導性シートの成形時間の短縮、優れた接着性の観点などから好ましい。このような光硬化性成分と熱硬化性成分の混合方法は特に制限されないが、たとえば、光硬化性成分として前記アクリル系化合物モノマーを用い、熱硬化性成分として前記エポキシ系樹脂を用いる場合、アクリル系化合物モノマーに、エポキシ樹脂を溶解して混合することができる。
【0025】本発明に係るバインダーは、前記光硬化性成分と前記熱硬化性成分に加え、光硬化性成分の硬化による半硬化熱伝導性シートの形成を損なわなければ、その他のバインダー成分を含有していてもよい。このような他のバインダー成分としては、たとえば、熱可塑性または熱硬化性の前記ゴム状重合体、前記樹脂状重合体あるいは前記不飽和二重結合のうち前記光硬化性成分と熱硬化性成分以外の化合物が挙げられる。
(光開始剤)前記光硬化の際に用いる放射線の種類に応じ、たとえば紫外線硬化による場合には光開始剤などを混合することができる。
【0026】このような光開始剤は、本発明に係る光硬化条件下で、前記熱伝導性シート用組成物中に含まれる光硬化性成分を硬化しつつ、かつ熱硬化性成分が硬化しなければよく、公知の光開始剤を用いることができる。このような光開始剤としては、たとえばベンジル、ジアセチル等のα−ジケトン類;ベンゾイン等のアシロイン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のアシロインエーテル類;チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、チオキサントン−4−スルホン酸、ベンゾフェノン、4,4(−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;アセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、α,α’−ジメトキシアセトキシベンゾフェノン、2,2’−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン類;アントラキノン、1,4−ナフトキノン等のキノン類;フェナシルクロライド、トリブロモメチルフェニルスルホン、トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロゲン化合物;ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられる。また、市販品としては、イルガキュア184、651,500,907、CG1369、CG24−61、ダロキュア1116,1173(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、ルシリンLR8728,TPO(BASF社製)、ユベクリルP36(UCB社製)等を挙げることができる。
【0027】このうち、熱伝導性シート用組成物に含まれる光硬化性成分が(メタ)アクリル系化合物で、熱硬化性成分がエポキシ系化合物である場合は、硬化速度の速いイルガキュア651、ルシリンTPOなどの光開始剤を好ましく用いることができる。このような光開始剤の使用量は、実際の硬化速度、可使時間とのバランスなどを考慮して適量使用することが好ましいが、具体的には、光硬化性成分100重量部に対して、1〜50重量部の割合でバインダーに含まれることが好ましく、5〜30重量部の割合で含まれることが特に好ましい。1重量部未満であると、酸素による感度の低下を受け易く、50重量部を超えると相溶性が悪くなったり、保存安定性が低下したりする。
【0028】また、このような光開始剤と併用して、光開始助剤を用いることもできる。光開始助剤を併用すると、光開始剤単独の使用に比べ、開始反応が促進され、硬化反応を効率的に行うことができる。このような光開始助剤としては、通常用いられる光開始助剤を用いることができる。このような光開始助剤としては、たとえば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n-ブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの脂肪族アミン、ミヒラーケトン、4,4'-ジエチルアミノフェノン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルなどが挙げられる。
(熱硬化剤)本発明に係る、前記固着型の熱伝導性シート用組成物には、熱硬化性成分の熱硬化を促進させるため熱硬化剤を混合してもよい。このような本発明に係る熱硬化剤は、公知の熱硬化剤を用いることができる。このような熱硬化剤としては、アミン類、ジシアンジアミド、二塩基酸ジヒドラジド、イミダゾール類などが挙げられる。
【0029】具体的には、ポリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ビスヘキサメチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリエーテルジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ヒ゛ス(o-トルイジン)、m-フェニレンジアミン、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、ブロックイミダゾールなどが挙げられる。
【0030】このような熱硬化剤の使用量は、実際の硬化速度、可使時間とのバランスなどを考慮して適量使用することが好ましいが、具体的には、熱硬化剤は、熱硬化性成分100重量部に対して、1〜50重量%の割合でバインダーに含まれることが好ましく、特に好ましくは1〜30重量%の割合で含まれることが望ましい。なお、前記光開始剤および熱硬化剤の添加方法は特に限定されるものではないが、保存安定性、成分混合時の触媒の偏在防止などの観点から、バインダーに予め混合しておくことが好ましい。
<磁性体と炭素繊維>本発明に係る熱伝導性シートに含まれる磁性体および炭素繊維は、磁性体粒子と炭素繊維、または炭素繊維の表面に磁性体が付着されている炭素繊維であることが好ましい。以下、磁性体、炭素繊維、表面に磁性体が付着している炭素繊維について説明する。
<磁性体>本発明に係る磁性体に用いられる材料としては、たとえば、鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性を示す金属もしくは該金属からなる合金が挙げられ、さらに、鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性を示す金属を含有する金属間化合物あるいは該金属の金属酸化物などの金属化合物が挙げられる。
【0031】このような磁性体は、粒子状あるいは磁性体が炭素繊維の表面に付着された状態の磁性体であることが好ましい。
磁性体粒子本発明に係る磁性体の好ましい形態として用いられる磁性体粒子は、後述する方法により、磁場を印加した場合に磁場方向に配向しうる程度の磁性を示せば、特に限定されない。
【0032】このような磁性体粒子は、前記磁性体を粒子状にした金属粒子である。このような磁性体粒子は、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属の粒子を芯粒子とし、該芯粒子の表面に、他の金属たとえば熱伝導性の高い金属をメッキした粒子、あるいは、非磁性金属粒子もしくはガラスビーズなどの無機物質粒子またはポリマー粒子を芯粒子とし、該芯粒子の表面に、鉄、ニッケル、コバルトなどの強磁性を示す金属のメッキを少なくとも施した粒子などが挙げられる。芯粒子の表面への金属の被覆方法については特に制限はないが、たとえば化学メッキ、無電解メッキなどにより行うことができる。
【0033】前記磁性体の被覆量は、芯粒子に対して0.5〜50重量%が好ましく、より好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは2〜25重量%、特に好ましくは4〜20重量%である。本発明に係る磁性体粒子の粒子径は、1〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは2〜500μm、さらに好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜200μmである。
【0034】磁性体粒子の形状は、特に限定されるものではないが、球状のもの、星形状のものあるいはこれらが凝集した2次粒子による塊状のもの、細長い棒状のものを用いることができる。なお、本明細書においては、「配向」とは粒子がほぼ一定の方向に並んでいる場合、あるいは棒状の炭素繊維等がほぼ一定の方向を向いている場合を意味する。
【0035】前記磁性体粒子の含水率は、5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、とくに好ましくは1%以下である。このような条件を満足する磁性体粒子を用いることにより、後述する製造方法において、熱伝導性シート用組成物を半硬化処理して半硬化した熱伝導性シートを得る際に、半硬化した熱伝導性シート内に気泡が生ずることが防止または抑制される。
【0036】このような磁性体粒子は、熱伝導性シート用組成物に対して体積分率で10〜50容量%、好ましくは15〜40容量%となる割合で用いられることが好ましい。この割合が10容量%未満であると、磁性体粒子とともに半硬化した熱伝導性シート中の炭素繊維を磁場方向へ配向せしめることが困難になることがある。一方、この割合が50容量%を超えると、得られる半硬化熱伝導性シートおよびこれを硬化した熱伝導性シートは脆弱なものとなりやすく、また高熱伝導性シートとして必要な弾性が得られないことがある。
【0037】このような磁性体粒子と炭素繊維は、熱伝導性シート用組成物の全体積中に合計で20〜80容量%の量で含まれることが好ましく、さらに好ましくは30〜60容量%の量で含まれることが望ましい。また、磁性体粒子の表面がシランカップリング剤などのカップリング剤で処理されたものも適宜用いることができる。
【0038】炭素繊維本発明で用いられる炭素繊維は、バインダーよりも高い熱伝導性を示す炭素繊維であれば特に限定されない。このような炭素繊維としては、たとえば、原料の種類によって、セルロース系、PAN系、ピッチ系などの炭素繊維のうちから選択することができるが、本発明においては、良好な熱伝導性の観点からピッチ系の炭素繊維を用いることが好ましい。ピッチ系の炭素繊維のうち、高い熱伝導性を示すものであれば異方性炭素繊維または等方性炭素繊維のいずれも使用することができる。
【0039】本発明に係る炭素繊維は、一般に知られている方法によって調製することができ、また、市販の炭素繊維を用いることができる。このような炭素繊維の直径は、好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは10〜200μmである。また、本発明で用いる炭素繊維の長さは特に限定されないが、半硬化した熱伝導性シートおよび硬化した熱伝導性シート中で厚み方向に配向して、硬化した熱伝導性シートの伝熱性を高めることができるような長さであることが好ましい。
【0040】このような炭素繊維のアスペクト比は、2〜100であることが好ましく、さらに好ましくは5〜100、特に好ましくは10〜50であることが望ましい。このような炭素繊維は、熱伝導性シート用組成物に対して体積分率で10〜70%、好ましくは15〜50%となる割合で用いられることが好ましい。この割合が10%未満であると、硬化した熱伝導性シートの熱伝導性を充分には高めることができないことがあり、一方、この割合が70%を超えると、得られる熱伝導性シートは脆弱なものとなりやすく、熱伝導性シートとして必要な弾性が得られないことがある。
【0041】本発明に係る炭素繊維と磁性体粒子とが、熱伝導性シート用組成物の全体積中に含有される合計量は前述したとおり、熱伝導性シート用組成物の全体積中に合計で20〜80容量%の量で含まれることが好ましく、さらに好ましくは30〜60容量%の量である。
表面に磁性体を付着させた炭素繊維本発明に係る「表面に磁性体を付着させた炭素繊維」は、前記炭素繊維の表面に前記磁性体が付着された炭素繊維である。
【0042】このような本発明に係る炭素繊維表面に付着された磁性体は、後述する方法により、磁場を印加した場合に磁場方向に配向しうる程度の磁性を示せば、炭素繊維表面全体に層状に付着していても、層を形成せずに炭素繊維表面に一部に付着していてもよく、また、磁性体の材料、厚みは特に限定されない。また、炭素繊維に付着した磁性体は、バインダーよりも高い熱伝導性を有していることが好ましい。
【0043】炭素繊維表面への磁性体の付着方法については、たとえば化学メッキなどの無電解メッキなどにより行うことができる。このような本発明に係る「表面に磁性体を付着させた炭素繊維」が、熱伝導性シート用組成物の全体積中に含有される合計量は、熱伝導性シート用組成物の全体積中に合計で2〜70容量%の量で含まれることが好ましく、さらに好ましくは10〜60容量%の量であることが望ましい。
【0044】この割合が2容量%未満であると、硬化した熱伝導性シートの熱伝導性を充分には高めることができないことがあり、一方、この割合が70容量%を超えると、得られる熱伝導性シートは脆弱なものとなりやすく、熱伝導性シートとして必要な弾性が得られないことがある。また、表面に磁性体を付着させた炭素繊維の表面がシランカップリング剤などのカップリング剤でさらに処理されたものも適宜用いることができる。
<その他の添加剤>本発明においては、熱伝導性シート用組成物には、必要に応じて、通常のシリカ粉、コロイダルシリカ、エアロゲルシリカ、アルミナなどの無機充填材を含有させることができる。このような無機充填材を含有させることにより、未硬化時におけるチクソ性が確保され、粘度が高くなり、しかも表面に磁性体を付着させた炭素繊維の組成物中での分散安定性が向上するとともに、硬化または半硬化後における高熱伝導性シートの強度を向上させることができる。
【0045】この無機充填材の使用量は特に限定されるものではないが、あまり多量に使用すると、磁性体粒子と炭素繊維、または表面に磁性体を付着させた炭素繊維の磁場による配向を十分に達成できなくなるので好ましくない。また、本発明の熱伝導性シート用組成物には、シランカップリング剤、チタンカップリング剤が含有されていてもよい。
【0046】さらに、本発明に係る熱伝導性シート用組成物は、必要に応じて他の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、たとえば、紫外線吸収剤、熱重合安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性改善剤、防かび剤などが挙げられる。
<熱伝導性シート用組成物>本発明に係る熱伝導性シート用組成物の調製方法は、従来公知の方法をいずれも採用することができ、たとえば、光硬化性成分と熱硬化性成分とからなるバインダー、磁性体、炭素繊維、および必要に応じ、光開始剤、熱硬化剤あるいは無機充填剤などを混合し、混練する方法などが挙げられる。
【0047】このような本発明の熱伝導性シート用組成物の粘度は、温度25℃において10,000〜1,000,000 cpの範囲内であることが好ましい。
[熱伝導性シート]本発明の前記熱伝導性シート用組成物は、ペースト状であることが好ましく、たとえばこれをシート状に成形し、該シート状組成物の厚み方向に磁場を作用させて磁性体および炭素繊維を配向させるとともに、該シート状組成物を光照射あるいは加熱により硬化あるいは半硬化させて、前記非接着性シート(a)、粘着性シート(b)あるいは固着型シート(c)を、用途に応じて形成することができる。
【0048】また、使用時に被覆物の表面に塗布などの用法により被膜し、塗布された該シート状組成物の厚み方向に磁場を作用させて磁性体および炭素繊維を配向させるとともに、塗布された該シート状組成物を光照射あるいは加熱により硬化あるいは半硬化させて熱伝導性シートを形成することもできる。このような磁性体および炭素繊維の配向と、該シート状組成物の硬化または半硬化は、同時に行ってもよいし、配向させた後、硬化または半硬化を行ってもよい。
【0049】このようにして得られる熱伝導性シート中の、バインダー、磁性体、炭素繊維の構成割合は、前述した熱伝導性シート用組成物と同様である。このような熱伝導性シートの厚さは、用いる用途により異なり特に制限されないが、通常50μm〜1000μm程度であることが望ましい。以下に、本発明に係る熱伝導性シートの成形方法について、さらに詳細に説明する。
【0050】得られる熱伝導性シートの具体例としては、図1および図2が挙げられる。たとえば、図1に示すように、本発明に係る熱伝導性シート1は、前記バインダー2中に、磁性体粒子3と炭素繊維4とが、それぞれ熱伝導性シートの厚みの方向に配向している。また、図2に示すように、本発明に係る熱伝導性シート1は、前記バインダー2中に、表面に磁性体を付着させた炭素繊維5が、熱伝導性シートの厚みの方向に配向している。なお図1および図2は、本発明の熱伝導性シートの模式図面である。
【0051】本発明に係る熱伝導性シート用組成物をシート状に成形するには、従来公知の方法が採用できるが、ロール圧延法、流延法あるいは塗布法などを採用しうる。このようなシート状組成物の厚さは、最終的なシート状組成物から得られる半硬化熱伝導性シートをさらに硬化して得られる成形品の用途により異なり特に制限されないが、通常50μm〜1000μm程度である。
【0052】本発明に係る熱伝導性シート用組成物をシート状にした前記シート状組成物あるいは被覆物表面に塗布したシート状組成物中の磁性体および炭素繊維を、該シート状組成物の厚みの方向に配向させるために印可される磁場の強さは、好ましくは500〜50000ガウス程度、さらに好ましくは2000〜20000ガウス程度であり、磁場印加時間は好ましくは1〜120分程度、さらに好ましくは5〜30分程度である。磁場の印加は、室温下で行ってもよいし、必要に応じ加熱して硬化してもよいが、用途に応じて必要となる前記非接着性シート、前記粘着性シートおよび固着型シートの形成に適した温度で行うことが好ましい。
【0053】本発明に係る熱伝導性シート用組成物を硬化または半硬化する方法は、用いるバインダーの種類および要求するシート性能によって異なり制限されない。たとえば、非接着型シート(a)は、たとえば、前記エポキシ樹脂をバインダー成分として、好ましくは80〜180℃、さらに好ましくは100〜160℃の範囲で加熱して硬化させることにより、得ることができる。このような加熱の方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができ、通常のヒーター等を用いて熱伝導性シート用組成物のシート状組成物を硬化させればよい。加熱時間は、特に制限されず、5〜120分間程度の範囲が好ましい。
【0054】また、たとえば、粘着性シート(b)は、前記(メタ)アクリル化合物をバインダー成分として、好ましくは60〜120℃、さらに好ましくは80〜100℃の範囲で、好ましくは5〜120分間、さらに好ましくは10〜60分間加熱して硬化させることにより、得ることができる。また、前記(メタ)アクリル樹脂をバインダー成分として用いた場合には、光開始剤の存在下に、可視光線、紫外線、赤外線、遠紫外線、電子線、X線などの光を選択的に照射して、粘着性の熱伝導性シート(b)を得ることもできる。光照射の方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができ、たとえば、通常の光重合装置を用いて、前記熱伝導性シートに特定の波長の紫外線等を照射して行えばよい。紫外線蛍光灯の場合は、照射時間は2〜3分程度であり、照射距離は5〜10cm程度であり、高圧水銀灯の場合は、照射時間は10〜20秒、照射距離は7〜20cm程度であることが好ましい。
【0055】また、たとえば、固着型シート(c)は、バインダー成分として、前記光硬化性成分として(メタ)アクリル系化合物と、前記熱硬化性成分としてエポキシ系化合物を含んだシート状組成物から得ることができる。具体的には、このようなシート状組成物に対し、可視光線、紫外線、赤外線、遠紫外線、電子線、X線などの光を選択的に照射して、硬化に必要なエネルギーを供給することによって、該シート状組成物中に含まれる光硬化性成分を重合、硬化して、半硬化状態の熱伝導性シートを得たのち、使用の際に該半硬化状態の熱伝導性シートを、半導体素子と放熱部材との間に熱圧着して硬化させて得ることができる。
【0056】光照射の方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができ、たとえば、通常の光重合装置を用いて、前記熱伝導性シートに特定の波長の紫外線等を照射して行えばよい。光照射に係る光源は特に限定されないが、紫外線照射による場合、紫外線発生源として紫外線蛍光灯あるいは高圧水銀灯などを好ましく用いることができる。紫外線蛍光灯の場合は、照射時間は2〜3分程度であり、照射距離は5〜10cm程度であり、高圧水銀灯の場合は、照射時間は10〜20秒、照射距離は7〜20cm程度であることが好ましい。
【0057】また、未硬化のシート状組成物に磁場を作用させて、磁性体および炭素繊維をシートの厚み方向に配向させつつ、光重合を行って半硬化した熱伝導性シートを得る工程手順は特に制限されず、磁場の印加と同時に光照射してもよいし、磁場の印加により磁性体および炭素繊維をシートの厚み方向に配向させた後、光照射して該シート状組成物を半硬化させてもよい。磁性体および炭素繊維を充分に配向させる観点からは、磁場を印可させてこれらを配向させた後に、光照射して該シート状組成物を半硬化させることが好ましい。このような半硬化状態の熱伝導性シートを得る際の温度は、前記シート状組成物に含まれる熱硬化性成分が硬化しなければ特に制限されないが、通常室温程度で行えばよく、好ましくは20〜100℃、さらに好ましくは20〜60℃であることが望ましい。
【0058】このような本発明に係る半硬化した熱伝導性シートは、簡便かつ短時間で成形することができる。得られる半硬化状態の熱伝導性シートを硬化させた熱伝導性シートを介した、高熱部と放熱部の接合により、前記固着型シートとするには、所定の形状に切断した、前記半硬化熱伝導性シートを、2つの部材、たとえば高熱部と、放熱部との間に挟み込み、次いで該半硬化状態の熱伝導性シート中の熱硬化性成分を、熱圧着により熱硬化させることにより行うことができる。このような熱圧着の条件は、用いる部材により異なり制限されないが、たとえば、半導体パッケージに係る放熱構造の場合、前記放熱構造に係る高熱部、放熱部、放熱構造内の配線、バンプその他の部品が、熱圧着に伴う温度、圧力により変形、損傷あるいは溶解しない範囲で行うことが望ましく、室温もしくは硬化反応が十分に進まない程度に加熱した状態で圧力を加えた状態で仮接着し、その後加熱して硬化反応を完結させる方法、あるいは圧着時に十分に加熱して接着と硬化を同時に行う方法など、必要に応じて適宜選択することができる。たとえば、熱圧着温度は、好ましくは80〜180℃、さらに好ましくは100〜160℃、特に好ましくは120〜150℃の範囲で行うことが望ましい。温度が80℃を下回ると、熱硬化が円滑に行われず、長時間の反応時間を要することがあり、温度が180℃を超えると、前記発熱体等に付着するハンダ等が溶解することがある。また、熱圧着の圧力は、好ましくは0.1〜5kg/cm2、特に好ましくは0.5〜2kg/cm2の範囲で行うことが望ましい。圧力が0.1kg/cm2を下回ると高熱部と放熱部の接着が不十分となることがあり、圧力が5kg/cm2を上回ると、高熱部である半導体素子などが損傷を受けることがある。このような熱圧着の時間は、通常、好ましくは1分〜120分程度であり、より好ましくは20分〜60分程度であることが望ましい。
【0059】[熱伝導性シートの用途]本発明に係る熱伝導性シートは、バインダー中に、磁性体と炭素繊維とが、熱伝導性シートの厚み方向に配向していることから、熱伝導性シートの厚み方向に高い熱伝導性を有している。具体的には、本発明に係る熱伝導性シートは、シートの厚み方向の異方熱伝導性がSUS並の15〜20W/mK程度の熱伝導性を有している。このため、本発明に係る熱伝導性シートは、電機、電子、発電部品等の放熱構造に係るシートとして広範囲な分野において有用である。
【0060】本発明に係る熱伝導性シートを用いた放熱構造は、具体的には、図3で示すように、高熱部6と放熱部7との間に本発明に係る熱伝導性シート1を挟み込んだ構造の放熱構造8が挙げられ、また、図4で示すように、高熱部9の表面に熱伝導性シートが存在している放熱構造10が挙げられる。このような放熱構造を形成するに際し、本発明に係る熱伝導性シートの形状は、用途によって異なり特に限定されず、シートは平面状、曲面状あるいは筒状のいずれであってもよい。
【0061】なお、本明細書においては、前記放熱構造8において高熱部とは、発熱体、もしくは放熱部より高温であることを意味する。また、前記放熱構造10おいて高熱部とは発熱体、もしくは熱伝導シートを介して温度の高い側の固体または流体(気体、液体またはゲル状)を意味する。以下に、本発明に係る放熱構造について説明する。
(I)高熱部と、放熱部とが、前記熱伝導性シートを介して接合されている放熱構造(i)高熱部と放熱部との間に本発明に係る熱伝導性シートを挟み込んだ放熱構造(I)としては、たとえば、半導体パッケージに係る各種の放熱構造に使用でき、このような放熱構造としては、具体的には、■高熱部がIC、LSIなどの半導体素子、半導体パッケージ、パワートランジスタ、サイリスタ、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)素子であり、放熱部が放熱板、放熱フィンなどの放熱部材である放熱構造■高熱部がIC、LSIなどの半導体素子、半導体パッケージ、パワートランジスタ、サイリスタ、PTC素子であり、放熱部がプリント基板、フレキシブルプリント基板、回路基板等である放熱構造■高熱部がプリント基板、フレキシブルプリント基板、回路基板等であり、放熱部が放熱板、放熱フィンなどの放熱部材である放熱構造■高温部が放熱板であり、放熱部が放熱フィンなどの放熱部材である放熱構造などが挙げられる。
【0062】本発明に係る熱伝導性シートを、このような用途に用いる場合には、熱伝導性シートは、前記粘着性シート(b)または固着型シート(c)とすることが好ましい。前記固着型のシートの形態で用いる場合には、半硬化状態の熱伝導性シートを、半導体パッケージ等の製造時に熱圧着によって硬化させて用いることが好ましい。
【0063】このような構造に本発明に係る熱伝導性シートを用いると、本発明に係る熱伝導性シートがそのシートの厚み方向に高い熱伝導性を有することから、高温部から放熱部への熱伝導性に著しく優れた放熱構造とすることができる。なお、本発明に係る熱伝導性シートは、炭素繊維等の導電性物質を含み帯電防止性も有することから、半導体パッケージ等に発生する静電気、あるいは高温部と放熱部との熱圧着時に発生する静電気を緩和することもできる。また、本発明に係る熱伝導性シートは、弾力性に富み、クッション性が大きく、制振性に優れるので、半導体パッケージに与えられた振動、衝撃による半導体パッケージの破損を防止することができる。
(ii)また、本発明に係る放熱構造(I)の別の例示としては、たとえば、下記のものが挙げられる。
■高熱部が加熱圧着用外部ヒーターであり、放熱部がPlasma Display, ELパネル、LD、LEDあるいはプリント基板のような被圧着部材である放熱構造本発明に係る熱伝導性シートをフレキシブルプリント基板と、Plasma Display, ELパネル、LD、LEDあるいはプリント基板のような被圧着部材とを熱圧着するような場合に、加熱圧着用の外部ヒーターとこれらの被圧着体との間に熱圧着補助シートとして挟み込んで用いると、ヒーターからの熱を有効に伝えることができ、熱圧着を確実にかつ短時間に行えるという利点がある。
■高熱部が高圧回転機のコイルであり、放熱部が鉄芯コアである回転電機本発明に係る熱伝導性シートは、発電機、電動機などの高圧回転機の発熱するコイルの放熱に用いることもできる。たとえば、高圧回転機の発熱コイルと、スロットを有する鉄芯コアとの隙間に、本発明に係る熱伝導性シートを挟み込み、コイルと鉄芯コイルを接合した高圧回転機に用いることができる。このようにすると、鉄芯コアとコイルが一体化されてコイルと鉄芯コアの熱伝導を効率的に行うことができるので、高圧回転機の冷却性能を高めることができる。このような放熱構造に本発明に係る熱伝導性シートを用いる場合には、前記半硬化性の熱伝導シートを用い、使用時に加熱硬化させることが好ましい。
■高熱部がボイスコイルであり、放熱部がコイル部あるいは補助紙であるスピーカ本発明に係る熱伝導性シートは、スピーカーのボイスコイルからの放熱のため、ボイスコイルのボビンからの放熱の手段として用いることができる。たとえば、ボイスコイルに本発明に係る熱伝導性シートを巻き付け、さらにその周りにコイルを巻き付けることにより、ボイスコイルからの放熱性に優れたスピーカーを得ることができる。このような放熱構造に好ましく用いられる本発明に係る熱伝導性シートとしては、前記粘着性シートあるいは、半硬化性の熱伝導シートを用い使用時に加熱硬化させる固着型シートが挙げられる。
(II)高熱部の表面に本発明に係る熱伝導性シートが存在している放熱構造(i)高熱部の表面に本発明に係る熱伝導性シートが存在している放熱構造(II)としては、たとえば、半導体パッケージに係る各種の放熱構造に使用でき、このような放熱構造としては、具体的には、以下の放熱構造が挙げられる。
■放熱部がIC、LSI等の半導体素子、半導体パッケージ、パワートランジスタ、PTC、サイリスタである放熱構造このような放熱構造は、半導体素子、半導体パッケージ等の電子部品上に、本発明に係る熱伝導性シートを、熱圧着などにより接合させ、半導体素子あるいは半導体パッケージ等からの放熱を熱伝導性シートを介して効率的に行うものである。また、本発明に係る熱伝導性シートは、半導体パッケージの保護シートとしての機能も有している。このような用途に使用する場合には、本発明に係る熱伝導性シートは、前記粘着性シートあるいは、半硬化性の熱伝導シートを用い使用時に加熱硬化させる固着型シートが好ましい。
【0064】また、本放熱構造は、本発明に係る熱伝導性シートを回路基板材料として、その上に半導体素子、半導体パッケージを設けた放熱構造とすることもできる。本発明の高熱伝導性シートをこのような基板材料として用いる場合には、非接着性のシートとして用いることが好ましい。
■放熱部がフレキシブルプリント基板である放熱構造放熱部がフレキシブル基板等のプリント基板上に、本発明に係る熱伝導性シートを被覆してなるプリント基板は、プリント基板自体からの優れた放熱性を有することとなる。また、本発明に係る熱伝導性シートを粘着性のものとすることにより、プリント基板上に電子部品等を装着する際の電子部品の仮固定を容易に行うこともできる。このようなフレキシブルプリント基板等プリント基板上への本発明に係る熱伝導性シートの被覆方法は、たとえば、プリント基板の表面に塗布などの用法により被膜し、塗布された該シート状組成物の厚み方向に磁場を作用させて磁性体および炭素繊維を配向させるとともに、塗布された該シート状組成物を光照射あるいは加熱により硬化あるいは半硬化させて、熱伝導性シートが被覆したプリント基板を形成することができる。
(ii)また、本発明に係る放熱構造(II)の別の例示としては、たとえば、下記のものが挙げられる。
■高熱部が画像成型装置の熱定着部のヒーターである放熱構造本発明に係る熱伝導性シートは、複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ等の画像成型装置における熱定着部の定着ロールあるいは定着ベルトに用いることもできる。たとえば、本発明に係る熱伝導性シートを、熱定着用ヒータにより加熱される熱定着ロールとして用いることにより、熱伝導性を向上させることができるので、定着速度を高めることができる。このような用途に用いる場合には、バインダーとして、シリコーンゴム等の耐熱性、機械的強度(ヤング率等)にも優れた硬化物を与える成分とすることが好ましい。このような用途に用いる場合には、非接着性のシートとして用いることが好ましい。
■高熱部が高温流体である放熱構造本発明に係る熱伝導性シートは、ボイラ等の大型燃焼装置の低温部排ガス熱回収装置用の材料として用いることもできる。たとえば、本発明に係る熱伝導性シートは、厚み方向の熱伝導度がSUS並であることから、高熱部が150℃以下程度の排ガスの場合に本発明に係る熱伝導性シートを介して熱回収を行い、熱伝導シートを介して高熱部と反対側の媒体に熱伝導させることにより、効率的な排ガスからの熱回収を行うことができる。
【0065】また、筒状に形成された本発明に係る熱伝導性シートは、熱交換機用の熱交換伝熱管として用いることができる。すなわち、本発明に係る熱伝導性シートにより形成された筒の内側に存在する高熱部である媒体から、本発明に係る筒状の熱伝導性シートを介して、筒の外側の媒体と熱交換を行うことができ、熱伝導性に優れた熱交換機用の伝熱管として用いることができる。このような用途に用いる場合は、バインダーとして、シリコーンゴム等の耐熱性にも優れた硬化物を与える成分を用いることが好ましく、またこのようなシートは、非接着性のシートとすることが好ましい。
【0066】なお、本明細書において高温流体とは、気体または液体の高熱部であって、熱伝導シートを介した反対側の固体または流体(気体、液体またはゲル状)よりも、高い温度であることを意味している。
■高熱部が電球等発光体である放熱構造本発明に係る熱伝導性シートは、UVランプ等の電球等発光体の外装、放熱部分に用いることができ、ランプの高出力化に伴う発熱に対する放熱を効率的に行うことができる。
■高熱部がCD−ROMドライブ、CD−R/RWドライブ、DVDドライブ、ハードディスクドライブ等の高速回転が必要なモーターである放熱構造本発明に係る熱伝導性シートは、CD−ROMドライブ、CD−R/RWドライブ、DVDドライブ、ハードディスクドライブ等のドライブのモーター軸受け部、ケーシング部分の表面に設けることができ、これら回転部からの放熱を効率的に行うことができる。
■高熱部が電気ドリルの回転部の軸受け部、ケーシング部、ギヤ部である放熱構造本発明に係る熱伝導性シートは、電気ドリルのモーターやギヤ部分の外装表面に設けることができ、これら回転部からの放熱を効率的に行うことができる。■高熱部が電池の外装筺体である放熱構造本発明に係る熱伝導性シートは、電池の外装部分の表面に設けることができ、電池からの放熱を効率的に行うことができる。
【0067】
【発明の効果】本発明に係る熱伝導性シートは、磁性体と炭素繊維とが熱伝導性シートの厚み方向に配向しているので、該熱伝導性硬化層の厚み方向の熱伝導性に優れる。また、本発明に係る熱伝導性シートは、各種の電気機器、電子機器、発電機器等に求められる放熱、熱伝導に係る要求を満たす。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、磁性体粒子と炭素繊維を含有する半硬化熱伝導性シート断面の模式図である。
【図2】図2は、表面に磁性体が付着した炭素繊維を含有する半硬化熱伝導性シート断面の模式図である。
【図3】図3は、放熱構造の断面の模式図である。
【図4】図4は、放熱構造の断面の模式図である。
【符号の説明】
1 熱伝導性シート
2 バインダー
3 磁性体粒子
4 炭素繊維
5 表面に磁性体を付着させた炭素繊維
6 高熱部
7 放熱部
8 放熱構造
9 高熱部
10 放熱構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】 バインダー、磁性体および炭素繊維を含有する熱伝導性シートであって、前記バインダー中に、前記磁性体および前記炭素繊維が前記熱伝導性シートの厚み方向に配向していることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】 高熱部と、放熱部とが、請求項1に記載の熱伝導性シートを介して接合されていることを特徴とする放熱構造。
【請求項3】 高熱部の表面に、請求項1に記載の熱伝導性シートが存在していることを特徴とする放熱構造。
【請求項4】 前記高熱部が発熱体であることを特徴とする請求項2または3に記載の放熱構造。
【請求項5】 前記高熱部が、半導体素子、半導体パッケージ、パワートランジスタ、PTC素子、サイリスタ、高圧回転機の発熱コイル、ボイスコイルのコイル、Plasma Display、ELパネル、LDまたはLEDであることを特徴とする請求項2または4に記載の放熱構造。
【請求項6】 前記高熱部が、半導体素子、半導体パッケージ、パワートランジスタ、PTC素子、サイリスタ、プリント基板、画像成型装置の加熱ヒータ、高温流体または電球等発光体であることを特徴とする請求項3または4に記載の放熱構造。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開2001−284859(P2001−284859A)
【公開日】平成13年10月12日(2001.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−98943(P2000−98943)
【出願日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【出願人】(000004178)ジェイエスアール株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】