説明

熱伝導性ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物および成形体

【課題】
熱伝導性に優れ、かつUL−94規格を満たす難燃性とJEL801規格を満たす高いグローワイヤー特性の双方に優れた、熱伝導性ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物、およびこれを成形してなる成形体を提供する。
【解決手段】
下記(A)〜(E)成分を含むことを特徴とするポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物。
(A)以下の特徴を有する、ポリアルキレンテレフタレート樹脂:100質量部
70モル%以上がテレフタル酸であり且つ水素添加ダイマー酸成分を5〜12モル%含有する酸成分と、70モル%以上が1,4−ブタンジオールであるアルコール成分からなる共重合ポリブチレンテレフタレートを51〜100質量部含む、ポリアルキレンテレフタレート樹脂
(B)窒化硼素及び/又は珪酸マグネシウム塩:50〜200質量部
(C)臭素系難燃剤:5〜60質量部
(D)アンチモン化合物:5〜20質量部
(E)繊維状充填材:20〜100質量部

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた難燃性を有し、且つ熱伝導性が良好なポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物に関する。詳しくは、難燃性、熱伝導性に加えて、絶縁性、耐トラッキング性、低そり性、更にはグローワイヤー特性にも優れ、生産性も良好な、熱伝導材料部品用途に適した、ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物、およびこれを成形してなる高熱伝導性樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂、中でもポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略称することがある。)や、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称することがある。)は、機械的性質、電気的性質、耐熱性などに優れているため、近年、電気機器部品、機械部品などの多くの用途に使用されている。
【0003】
一般的に電気機器等には発熱する部品が搭載されており、近年、装置・部品の高性能化に伴い消費電力量が増え、部品からの発熱量が増大する傾向にある。その為に機器の局部的な高温が誤動作等のトラブルを引き起こす原因となることが懸念されている。現状では、筐体やシャーシ、放熱板などに金属材料を用いて放熱部材を構成し、発生する熱を拡散させているが、機器重量の著しい増加が問題となっている。
【0004】
そこでこれら放熱部材を樹脂材料とし、その熱伝導率を高めることで、これら金属部品の代替とする要求が高まっている。またOA 、電気・電子部品では、絶縁性を求められる用途も多く、高い熱伝導率と絶縁性を併せ持つ材料が望まれている。
【0005】
具体的には例えば、この様な電気機器部品に対してアンダーラインズ・ラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格の難燃性が要求されている。即ち、樹脂成形体が0.8mmの極めて薄い厚みにおいても、好ましくはV−0以上の難燃性が要求されてきている。
【0006】
更に、近年照明として注目されている半導体発光装置を用いた一般家庭用等照明装置におけるLEDの製品規格として、日本電球工業会(JEL801)がある。この規格では、照明装置等の製品における650℃グローワイヤー試験が義務付けられている。この様に照明装置部品としての樹脂成形体には、上述した放熱部材の様な薄肉状においても優れた物理物性を有し、そして当然、該規格をクリアする、高いグローワイヤー特性が望まれている。
【0007】
これらの要求に対しては、具体的には例えば、水素添加ダイマー酸成分を有する共重合PBTを用いて、靭性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する記載はある(例えば特許文献1〜3参照。)しかしこれらの文献には熱伝導性に関する記載はなく、放熱部材としての適用には問題があった。
【0008】
また共重合ポリブチレンテレフタレートを用いた放熱性に優れた樹脂組成物も提案されている(例えば特許文献4〜6参照)。しかしこれらの技術には難燃性、グローワイヤー特性に関する改良は記載されておらず、また窒化硼素等の熱伝導性物質の検討、具体的には例えば粒子系等と放熱特性(熱伝導性)との関係についての検討は不十分であった。よって、未だOA、照明用部材を始めとする電気・電子部品に要求されている難燃性、グローワイヤー特性が要求される分野への適用には問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3067045号
【特許文献2】特許第3107925号
【特許文献3】特許第3162812号
【特許文献4】特開2008−239898号公報
【特許文献5】特開2009−91440号公報
【特許文献6】特開2008−31358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、熱伝導性に優れ、かつUL−94規格を満たす燃焼性と、JEL801規格を満たす高いグローワイヤー特性の双方に優れた、熱伝導性ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物、およびこれを成形してなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した。その結果、樹脂組成物の主成分であるポリアルキレンテレフタレート樹脂として、特定の共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むポリアルキレンテレフタレート樹脂が有効であることを見出した。具体的に、共重合成分とし、酸成分として水素添加ダイマー酸成分を特定量有するものを用いた共重合ポリブチレンテレフタレートを含む、ポリアルキレンテレフタレート樹脂の有効性に着目した。
【0012】
そしてこの特定のポリアルキレンテレフタレート樹脂に、熱伝導率を大きく向上させるための充填剤として窒化硼素及び/又は珪酸マグネシウムを用い、更には臭素系難燃剤および難燃助剤であるアンチモン化合物、そして繊維強化剤にガラス繊維を用いたポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物が、熱伝導性、難燃性、グローワイヤー特性に優れ、そして生産性にも絶縁性にも優れたものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち本発明の要旨は、下記(A)〜(E)成分を含むことを特徴とするポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物、及びこれを成形して、好ましくは射出成形してなる樹脂成形体に関する。
(A)以下の特徴を有する、ポリアルキレンテレフタレート樹脂:100質量部
70モル%以上がテレフタル酸であり且つ水素添加ダイマー酸成分を5〜12モル%含有する酸成分と、70モル%以上が1,4−ブタンジオールであるアルコール成分からなる共重合ポリブチレンテレフタレートを51〜100質量部含む、ポリアルキレンテレフタレート樹脂
(B)窒化硼素及び/又は珪酸マグネシウム塩:50〜200質量部
(C)臭素系難燃剤:5〜60質量部
(D)アンチモン化合物:5〜20質量部
(E)繊維状充填材:20〜100質量部
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、熱伝導性に優れ、そして優れた難燃性、グローワイヤー特性を示し、さらには絶縁性にも優れた繊維強化熱伝導材料部品用ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を良好な生産性をもって供給することができる。そのため、OA 、電気・電子部品の材料として、具体的には例えば、照明装置用放熱部材等に、好ましく用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、反り試験における反り量測定の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳細に説明する。
(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂
本発明に用いる(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂は、70モル%以上がテレフタル酸であり且つ水素添加ダイマー酸成分を5〜12モル%含有する酸成分と、70モル%以上が1,4−ブタンジオールであるアルコール成分からなる共重合ポリブチレンテレフタレート(以下、単に、「ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂」ということがある。)を、51〜100質量部含む、ポリアルキレンテレフタレート樹脂である。
【0017】
この(A)成分としては、具体的には(A−1)ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂のみ、またはこれと、所謂共重合成分を含まないホモポリマーやダイマー酸以外の共重合成分を含む(A−2)ポリアルキレンテレフタレート樹脂との混合物から構成される。
【0018】
(A−1)ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂
本発明に用いるダイマー酸共重合ポリエステル樹脂は、1,4−ブタンジオールを主とするグリコール類を含むアルコール成分と、主としてテレフタル酸を、そして特定割合のダイマー酸を含む酸成分とを重合して得られる、ダイマー酸共重合ポリエステルである。
【0019】
本発明に用いる(A−1)成分としては、その酸成分として、酸成分に占めるダイマー酸成分の割合が、カルボン酸基として5〜12モル%であることが重要である。このダイマー酸の割合が多すぎると、得られる(A−1)成分の長期耐熱性が低下する傾向にあり、逆に少なすぎても、(A−1)成分の靭性が低下する。
【0020】
よって、本発明に用いる(A−1)成分においては、その酸成分に占めるダイマー酸成分の割合が、中でもカルボン酸基として7〜12モル%、特に10〜12モル%であることが好ましい。
【0021】
ダイマー酸は単一化合物ではなく、一般に鎖状、芳香族環、脂環式単環及び脂環式多環構造を有する化合物の混合物である。例えば、ダイマー酸の原料としてリノール酸の成分が多いものを用いた場合には、得られるダイマー酸において、鎖状構造を有する化合物が減少し、環状構造を有する化合物が増加したものが得られる。
【0022】
ダイマー酸は通常、炭素数18の不飽和脂肪酸、具体的には例えばオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸等を、モンモリロナイトなどの粘土触媒等により二量化反応させたて得られた反応生成物を示す。そして炭素数36のダイマー酸を主とするこの二量化反応の反応生成物を、真空蒸留、分子蒸留及び水素添加反応等により精製してダイマー酸とするが、本発明に用いるダイマー酸としては、炭素数36のダイマー酸を主とし、他に炭素数54のトリマー酸、炭素数18のモノマー酸等を含んでいてもよい。
【0023】
本発明に用いるダイマー酸としては、下記一般式(1)で表される鎖状ダイマー酸を10重量%以上含むものを用いることが好ましい。
【0024】
【化1】

(式中、Rはアルキル基を示し、R、R、R及びRの炭素数の和は31である。)
【0025】
鎖状ダイマー酸が10重量%以上のものを用いると、得られるダイマー酸共重合ポリエステル樹脂自体の引張伸度が良好となり、これを用いた本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物の引張伸度も良好となるので好ましい。
【0026】
ダイマー酸に含まれるモノマー酸の割合は、1重量%以下であることが好ましい。モノマー酸は共重合に際して生成する樹脂の高分子化を阻害するが、1重量%以下であれば共重合に際して縮重合が十分に進行するので、高分子量の共重合体が得られ、本発明の樹脂組成物の靱性が向上する。
【0027】
ダイマー酸の好ましい具体例としては、ユニケマ社製のPRIPOL 1008、PRIPOL 1009、更にはPRIPOL 1008のエステル形成性誘導体としてユニケマ社製のPRIPLAST 3008、PRIPOL 1009のエステル形成性誘導体としてPRIPLAST 1899が挙げられる。
【0028】
本発明に用いるダイマー酸共重合ポリエステル樹脂の製造方法は任意であり、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、特開2001−064576号公報に開示された方法に従って、行うことが出来る。
【0029】
(A−2)ポリアルキレンテレフタレート樹脂
本発明に用いる(A−2)成分であるポリアルキレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、且つエチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールが全ジオール成分の50モル%以上を占める樹脂を示す。中でもテレフタル酸は、全ジカルボン酸成分の70モル%以上、更には80モル%以上、特に95モル%以上を占めるものが好ましい。そしてジオール成分においては、エチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールが全ジオール成分の70モル%以上であることが好ましく、中でも80モル%以上、特に95モル%以上を占めることが好ましい。
【0030】
本発明に用いる(A−2)成分としては、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の95モル%、特に98モル%以上を占め、且つエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールが全ジオールの95重量%以上を占める、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート又はこれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0031】
本発明に用いる(A−2)成分の固有粘度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した値が0.50以上であり、中でも0.6以上であることが好ましく、その上限は3.0以下、好ましくは1.5以下であることが好ましい。
【0032】
この固有粘度が0.50より小さいと、得られるポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物の機械的強度が低下する傾向にあり、逆に3.0より大きいと樹脂組成物の成形性が低下する傾向にある。なお本発明に用いる(A−2)成分としては、固有粘度を異にする2種類以上のポリアルキレンテレフタレート樹脂を併用してもよい。
【0033】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂を構成するテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、具体的には例えばフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸など、従来公知の任意のものを使用できる。
【0034】
エチレングリコール又は1,4−ブタンジオール以外のジオール成分としては、具体的には例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオールなど、従来公知の任意のものを使用できる。なおエチレングリコールやブチレングリコールを用いても、反応中にジエチレングリコールやジブチレングリコールが副生してポリアルキレンテレフタレート中に取り込まれることがある。
【0035】
本発明に用いる(A−2)成分には、更に所望ならば、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを、共重合成分として使用してもよい。これらの共重合成分は、生成する(A−2)成分であるポリアルキレンテレフタレート樹脂の5重量%、特に3重量%以下とすることが好ましい。
【0036】
本発明に用いる(A−2)成分であるポリアルキレンテレフタレート樹脂の製造は任意であり、従来公知の任意の方法により行うことができる。具体的には例えば、テレフタル酸等のジカルボン酸成分と、ジオール成分とを、直接エステル化反応させる直接重合法や、例えばテレフタル酸ジメチル等のジカルボン酸誘導体を主原料として使用するエステル交換法が挙げられる。前者は、初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがあるが、直接重合法が原料コスト面から好ましい。
【0037】
またこれらの重合法は、回分法と連続法のいずれで行ってもよい。初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行い、後続する重縮合を回分操作で行う方法や、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行い、それに続く重縮合を連続操作で行ってもよい。
【0038】
本発明に用いる(A−2)成分のポリアルキレンテレフタレート樹脂の物性は適宜選択して決定すればよいが、通常、例えば末端カルボキシル基量は30eq/t以下であることが好ましい。また残存テトラヒドロフラン量は300ppm(重量比)以下であることが好ましい。
【0039】
本発明に用いる(A−2)成分としては、この様に末端カルボキシル基量と残存テトラヒドロフラン量が特定の小さな合い値を示すポリブチレンテレフタレート樹脂を用いるか、またはこのポリブチレンテレフタレート樹脂と、ポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物を用いてもよい。
【0040】
末端カルボキシル基量が30eq/t以下のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることによって、本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性を高めることができるので好ましい。これは、末端カルボキシル基がポリブチレンテレフタレートの加水分解に対して自己触媒として作用するので、末端カルボキシル基量を中でも25eq/t以下、特に20eq/t以下とすることによって、加水分解の抑制、とりわけ高温、高湿条件下においても加水分解を抑制することができるので好ましい。
【0041】
尚、本発明に用いるポリアルキレンテレフタレート樹脂(例えばPBT)の末端カルボキシル基量は、例えばPBTにおいては、PBTを有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を用いて滴定することにより求めることができる。
【0042】
また(A−2)成分における残存テトラヒドロフラン量は300ppm(重量比)、特に200ppm(重量比)以下であることが好ましい。残存テトラヒドロフラン量の少ないポリアルキレンテレフタレート樹脂、例えばPBT樹脂を用いた場合には、本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物の高温下で有機ガスの発生を抑制することが出来る。よってこの様な樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品は、電気接点の腐食のおそれが少ないので、リレー部品などの有接点電気・電子部品に好適に使用することができる。
【0043】
残存テトラヒドロフラン量の下限は、特に限定されるものではないが、通常、50ppm(重量比)程度である。残存テトラヒドロフラン量が少ない方が、有機ガスの発生が少なくなる傾向はあるものの、残存量とガス発生量は必ずしも比例するものではなく、50ppm程度のテトラヒドロフランの存在は、通常の使用に問題とならない。むしろ少量のジオールの存在が、電気接点の腐食を抑制することが知られており(特開平8−20900号公報)、テトラヒドロフランにも同様の効果が期待される。なお残存テトラヒドロフラン量は、ポリブチレンテレフタレートのペッレトを水に浸漬して120℃で6時間保持し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィで定量することにより求めることができる。
【0044】
(B)窒化硼素及び/又は珪酸マグネシウム
本発明に用いる(B)成分は、(B−1)窒化硼素、及び/又は(B−2)珪酸マグネシウム塩である。これらの無機化合物は、本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物に熱伝導性を付与する目的から重要である。
【0045】
(B−1)窒化硼素
本発明に用いる(B−1)成分である窒化硼素としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には例えばc−BN(閃亜鉛鉱構造)、w−BN(ウルツ鉱構造)、h−BN(六方晶構造)、r−BN(菱面体晶構造)等、複数の安定構造の窒化硼素が挙げられる。
【0046】
中でも本発明に用いる窒化硼素としては、熱伝導率の高い六方晶構造の窒化硼素を用いることにより、優れた熱伝導性を有するポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を得るだけでなく、この樹脂組成物を成形して樹脂成形品を得る際に、用いる成形機及び金型の摩耗が低減できるので好ましい。
【0047】
また本発明に用いる窒化硼素は、球状不規則形状の非球状窒化硼素粒子を結合剤等で纏めて噴霧乾燥したものを用いてもよい。この際、噴霧乾燥した粒子のアスペクト比は3未満の略球形状の窒化硼素粒子であることが好ましい。この窒化硼素粒子は、単体で又はアスペクト比が3以上の鱗片状の窒化硼素と併用してもよい。
【0048】
本発明に用いる窒化硼素の重量平均粒径は適宜選択して決定すればよいが、中でも5〜100μm、更には15〜60μm、特に20〜60μmであることが好ましく、重量平均粒径がこの範囲であれば、異なる粒径の窒化硼素を組み合わせて用いてもよい。窒化硼素の重量平均粒径がこの範囲にあることで、熱伝導性、絶縁性に優れたポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
尚、本発明における窒化硼素の重量平均粒径は、JIS Z8825−1に準拠し、レーザー回折法により測定し、JIS Z8819−2に準拠して求めた値である。具体的な窒化硼素の重量平均粒径の測定方法は、先ず1000mlビーカーにヘキサメタリン酸ナトリウム0.2重量%水溶液200mlを入れ、該水溶液に窒化硼素粉末800mgを投入し、超音波分散器で30分間分散処理した。次いで得られた分散液を(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定器LA−910を用い、重量平均粒径を測定した。
【0050】
そして本発明においては、(B)成分として窒化硼素のみを用いてもよいが、(B−2)珪酸マグネシウム塩と併用し、絶縁性を維持し熱伝導性等の諸物性を調整することができる。
【0051】
(B−2)珪酸マグネシウム塩
本発明に用いる(B−2)珪酸マグネシウム塩としては、化学合成したものの他、珪酸マグネシウムを主成分とする鉱物、具体的に例えば、タルク、セピオライト、更には、アルミニウム成分も含んだアパタルジャイト等が挙げられる。中でも本発明においては、熱伝導性の観点からタルクが好ましい。
【0052】
本発明に用いる成分(B―2)としてのタルクは天然鉱物の一種であり、その化学式は3MgO・4SiO・HO又はMgSi10(OH)で表される。タルクは、通常、産地等に応じた不純物を含むが、本発明で使用するタルクは、産地、不純物の種類及びその量について特に制限は無く、従来公知の任意のものを使用できる。
【0053】
タルクの大きさについて特に制限はないが、通常、質量メジアン粒径(D50)が1〜50μmであり、中でも3〜40μmであることが好ましい。ここで質量メジアン粒径とは、レーザー回折法等で測定した値を示す。尚、本発明に用いるタルクは、(A)成分との親和性を高め、且つ本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物中における分散性を高める目的等から、その表面を有機化合物でコーティング処理されたものを用いてもよい。
【0054】
そして本発明に用いるタルクの嵩比重は任意だが、生産性の点から0.4以上であることが好ましい。ここで嵩比重とは、試料10gを秤量し、これを静かに50ml目盛り付きの試験管に入れ、その容積の数値より算出する方法が一例として挙げられ、嵩比重(g/ml)で示した値である。
【0055】
本発明においては、(B−2)成分であるタルクとして、タルクを圧縮して得られる顆粒タルクを用いると、均一分散性が高く、混練作業性に加え、得られる樹脂組成物の機械的特性が改善されて、耐トラッキング性などの電気的特性を大幅に改善できるので好ましい。この際の顆粒タルクの嵩比重は0.4以上、中でも0.6以上であることが好ましい。尚、この様に嵩比重の高いタルクを用いる際には、この数値以上のタルクであれば、異なる嵩比重のタルクを組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明に用いる(B)成分としては、中でも、上述した(B−1)窒化硼素と(B−2)珪酸マグネシウム塩とを併用し、中でも(B−2)成分として顆粒タルクの様に嵩密度が0.4以上の高嵩密度のものを併用することで、絶縁性を維持し、熱伝導性等の諸物性を維持しつつ、且つ樹脂組成物の製造時における計量性が安定し、工業的に優位に、本発明の熱伝導性樹脂組成物を製造出来るので好ましい。
【0057】
本発明に用いる(B)成分である窒化ホウ素や珪酸マグネシウム塩は、絶縁性にも優れているので、本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品は、金属の様な導電体の熱伝導部材では困難であった、電子機器に近接又は当接する様な場所、形状であっても配置、形状設計が可能となるので好ましい。この樹脂成形体の表面固有抵抗は、通常1×1013Ω以上であり、中でも1×1014Ω以上であることが好ましい。
【0058】
本発明に用いる(B)成分の形状は特に限定されず、具体的には例えば、球状、線状(繊維状)、平板状(鱗片状)、曲板状、針状等の何れであってもよい。更には単粒タイプでも、顆粒タイプ(単粒の凝集品)でもよい。中でも鱗片状のものを用いると、熱伝導性に優れた成形品が得られるとともに、機械的特性が良好となるので好ましい。
【0059】
上記無機化合物のアスペクト比は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6〜20である。更に、純度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。上記の範囲とすることにより、熱伝導性に優れる。また、嵩密度は、好ましくは0.4g/cm以上、より好ましくは0.6g/cm以上である。上記の各範囲とすることにより、熱伝導性に優れた樹脂組成物を得ることができる。尚、比表面積は、特に限定されない。
【0060】
本発明においては更に、(B)成分の他に、絶縁性に優れる添加剤、具体的には例えば、珪酸アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、チタン酸カルシウム等を併用してもよい。そしてこれらは、窒化硼素や珪酸マグネシウム塩と組み合わせて、複合塩やコア−シェル構造とした複合型フィラーとして用いてもよい。
【0061】
本発明に用いる(B)成分としては、上述以外の無機化合物物質からなる無機系粒子又は有機系粒子をコアとし、その上に上述の無機化合物を被覆させてシェルを形成した複合型フィラーとして用いてもよく、これを上述した無機化合物と併用してもよい。
【0062】
本発明における(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して50〜200質量部である。中でも60〜190質量部、特に70〜180質量部であることが好ましい。含有量が多すぎると、成形加工性、耐衝撃性及び曲げ歪み特性が劣る傾向にあり、一方、少なすぎると、熱伝導性が劣る傾向にある。
【0063】
そして(B)成分として(B−1)窒化硼素と(B−2)珪酸マグネシウム塩を併用する場合には、(B−1)窒化硼素と(B−2)珪酸マグネシウム塩との質量比は適宜選択して決定すればよいが、通常1:0.5〜2、中でも1:0.8〜1.7、特に1:0.8〜1.1であることが好ましく、(B−1)窒化硼素を多く用いることが好ましい。
【0064】
(C)臭素系難燃剤
本発明に用いる(C)臭素系難燃剤としては、具体的には例えばテトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、ポリブロモフェニルエーテル、ブロム化ポリスチレン、ブロム化エポキシ、ブロム化イミド、ブロム化ポリカーボネート等が好ましいものとして挙げられる。通常、これらの臭素系難燃剤から一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0065】
臭素系難燃剤の配合量は、(A)成分100質量部に対し、5〜60質量部である。臭素系難燃剤の配合量が5質量部未満であると難燃効果が不十分であり、60質量部を越えると機械的強度が低下し、溶融時の熱安定性が低下しやすい。よって臭素系難燃剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは10〜40質量部であり、中でも15〜40質量部、特に18〜40質量部であることが好ましい。
【0066】
(D)アンチモン化合物
本発明に用いる(D)アンチモン化合物としては、例えば酸化アンチモンやアンチモン酸塩が挙げられ、具体的には例えば三酸化アンチモン(Sb)、四酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)およびアンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。アンチモン化合物の配合量は、(A)成分100質量部に対して5〜20質量部である。アンチモン化合物の配合量が5質量部未満であると充分な難燃効果が得られず、20質量部を越えると機械的強度が低下し、溶融時の熱安定性が低下する傾向にあるので、中でも(A)成分100質量部に対して5〜20質量部であることが好ましく、特に7〜15質量部であることが好ましい。
【0067】
本発明に於いては更に、難燃性向上等の目的から滴下防止剤を配合してもよい。滴下防止剤としてはフッ素樹脂が好ましく、具体的には例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体等が挙げられる。
【0068】
(E)繊維状充填材
本発明に用いる(E)繊維状充填材としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えばガラス繊維、ケイ酸カルシウム(ワラストナイト)繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミックファイバー等が挙げられる。また本発明に用いる(E)成分は、必要に応じてその表面をステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸またはパラフィン、ワックス、有機シラン、有機チタネート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等で被覆するなどの表面処理を施してもよい。
【0069】
本発明に用いる(E)成分としては、中でもガラス繊維が好ましく、ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス等の組成からなるものが好ましく、特にEガラス(無アルカリガラス)がポリアルキレンテレフタレート樹脂の熱安定性に悪影響を及ぼさない点で好ましい。また一般的には、取り扱いの容易さや、高い強度・剛性および耐熱性を有する成形物を与える点などから、短繊維タイプ(チョップドストランド)のガラス繊維を使用することが好ましい。
【0070】
特に、耐衝撃特性が要求される樹脂成形体の場合には、樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長をより長く保つ点から、長繊維タイプのものを使用することが好ましい。これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
これらの充填剤は、収束剤又は表面処理剤と組み合わせて使用してもよい。このような収束剤又は表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能基を有する化合物が挙げられる。
【0072】
更に本発明に用いる(E)ガラス繊維としては、異形断面形状を有するものが好ましい。この異形断面形状とは、繊維の長さ方向に直角な断面の長径をD2、短径をD1とするときのD2/D1比(扁平率)が1.5〜10であり、中でも2.5〜10、更には2.5〜8、特に2.5〜5であることが好ましい。2.5以上とすることにより本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物における難燃性、耐ヒートショック性、耐電圧が向上するので好ましい。
【0073】
この様な異形断面形状を有するガラス繊維を用いると、通常の断面形状が丸型(扁平率は1。)の、いわゆる通常のガラス繊維を用いた場合と比較して、驚くべきことに熱伝導率も良好となるので好ましい。これは異形断面形状を有するガラス繊維が樹脂成形体中において、とりわけ射出成形により得られた樹脂成形体において、その表面から樹脂成形体内部に向かう広い範囲に於いて、樹脂成形時の溶融樹脂の流れ方向に配向し、そしてこのガラス繊維の配向に沿って窒化硼素や珪酸マグネシウム等の板状無機化合物が配向することによると考えられる。
【0074】
さらに、異形断面形状のガラス繊維としては、平均繊維長をLとすると、(L×2)/(D2+D1)比(アスペクト比)が、10以上であることが好ましく、中でも50〜10であることが好ましい。
【0075】
ガラス繊維の扁平率は、繊維の断面の顕微鏡により長径と短径の測定値から容易に算出することができる。市販されているガラス繊維は、扁平率がカタログに記載されていれば、この値を用いればよい。また樹脂成形体におけるガラス繊維の繊維長は、例えば樹脂成形体から約5gのサンプルを切り出し、600℃の電気炉中で2時間静置して灰化させた後、残ったガラス繊維の繊維長を測定すればよい。測定には、具体的には例えば、ガラス繊維を折損しないように中性表面活性剤水溶液中に分散させ、その分散水溶液をピペットによってスライドグラス上に移し、顕微鏡で写真撮影を行う。この写真画像について、画像解析ソフトを用い、1000〜2000本の強化繊維について測定を行い、平均繊維長が算出すればよい。
【0076】
本発明に用いる異形断面形状を有するガラス繊維の断面形状としては、具体的には例えば、繊維の長さ方向に直角に切断した際の断面形状が長方形、長円形、楕円形、長手方向の中央部がくびれた繭型であるもの等が挙げられる。これらガラス繊維の断面形状の例は、特開2000−265046号公報に記載されている。
【0077】
断面形状が繭型の繊維状強化材は、中央部がくびれていて、その部分の強度が低く中央部で割れることがあり、またこのくびれた部分が基体樹脂との密着性が劣る場合もあるので、機械的特性向上を目的する場合は、断面形状が長方形、長円形、または楕円形のものを使用するのが好ましく、断面形状が長方形または長円形であることがより好ましい。尚、長円形とは、縦横の長さが異なり、かつ全体に丸みを有する滑らかな曲線からなる形状や、2つの円弧とこれらの円弧を連結する2つの直線からなる形状も含む趣旨である。
【0078】
また本発明に用いる異形断面のガラス繊維は、特公平3−59019号公報、特公平4−13300号公報、特公平4−32775号公報等に記載の方法を用いて製造することができる。特に、底面に多数のオリフィスを有するオリフィスプレートにおいて、複数のオリフィス出口を囲み、該オリフィスプレート底面より下方に延びる凸状縁を設けたオリフィスプレート、または単数または複数のオリフィス孔を有するノズルチップの外周部先端から下方に延びる複数の凸状縁を設けた異形断面ガラス繊維紡糸用ノズルチップを用いて製造された断面が扁平なガラス繊維が好ましい。
【0079】
尚、本発明においては、一般的な円形(または丸型)断面ガラス繊維(扁平率1)を、上記の異形断面ガラス繊維と併用してもよいが、その際の扁平率やアスペクト比は、質量平均にて算出された数値が前記扁平率やアスペクト比の範囲内に入ればよい。
【0080】
(F)白色顔料
本発明においては更に、光隠蔽性を高めて発色(着色)を良好にしたり、色調を調節する等の目的から、(F)成分として白色顔料を用いてもよい。(F)白色顔料としては、従来公知の任意のものを使用できるが、通常は、測色色差計を用いてC光源にて測色した際の明度(L値)が50以上、好ましくは70以上を示すものであり、具体的には例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられる。
【0081】
本発明に用いる(F)成分としては、中でも酸化チタンが好ましい。酸化チタンには、ルチル型とアナターゼ型の2種の結晶型のものがあるが、いずれも使用できる。本発明に用いる(F)成分は、これをポリアルキレンテレフタレート樹脂に高濃度に配合したマスターバッチとして用いてもよく、更には樹脂組成物中における分散性を改良する為に表面処理を施して用いてもよい。
【0082】
本発明における(F)成分の含有量は、通常、(A)成分100質量部に対して30質量部以下であり、中でも0.1〜20質量部、更には1〜30質量部、特に5〜25質量部であることが好ましい。(F)成分の含有量が少なすぎると、樹脂成形体の光隠蔽効果が不充分であり添加効果が低くなってしまう。逆に多すぎても機械的強度が低下する場合がある。
【0083】
本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物の製造法は特に限定されるものではなく、公知の方法により、各成分を混合することにより達成することができる。具体的には例えばブレンダーやミキサーなどを使用してドライブレンドする方法、押出機を使用して溶融混合する方法などが挙げられるが、通常スクリュー押出機を使用して溶融混合してストランドの押し出し、ペレット化する方法が適している。具体的には、各成分を一括して溶融混練する方法、特定成分を先に溶融混合する方法等が挙げられる。
【0084】
各成分の混合方法は、特に制限されることはなく、二軸スクリュー押出機を用いて成分を一括して溶融混練する一括ブレンド方法、および強化充填材等を他の供給口から添加する分割ブレンド方法などが挙げられる。中でも(B)成分や(E)成分を、サイドフィーダおよびメインフィーダからペレットと別にフィードすることにより、良好に生産することが可能であるため好ましい。
【0085】
本発明の樹脂組成物から成形品を得るための成形加工方法に特に制限はなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、具体的には例えば射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形などの成形法を適用することができる。中でも本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物における高流動性の効果が顕著となることから射出成形が好ましい。射出成形に際しての条件は任意であり、ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物における従来公知の射出成形条件から適宜選択して決定すればよい。
【0086】
上述の様にして得られた、本発明のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂成形体は、熱伝導性、難燃性に優れていると同時に、絶縁性、耐トラッキング性、低そり性、更にはグローワイヤー特性にも優れており、且つ生産性も良好なので、各種OA 、電気・電子部品などに好適である。
【0087】
中でもその特性を生かして、自動車、自転車等に搭載する二次電池の放熱部材、そして自動車前照灯や電球等の照明装置用放熱部材としての利用により、その効果が顕著となる。なかでも昨今急速に普及しつつある、半導体光源を用いた照明装置用の放熱部材としての利用により、本発明の効果が顕著となるので好ましい。
【0088】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下に記載した例に限定されるものではない。
【0089】
(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂
(A−1)ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂:
ダイマー酸を10モル%含む酸成分とアルコール成分とを重合して得られた、ダイマー酸共重合PBT樹脂(ベルポリエステルプロダクツ社製P02120(品番名)
【0090】
(A−2)ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂:
ダイマー酸を12モル%含む酸成分と、アルコール成分とを重合して得られた、ダイマー酸共重合PBT樹脂
【0091】
(A−3)PBT樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ノバデュラン(登録商標)5008(固有粘度:0.85dl/g)
(A−4)PET樹脂:三菱化学社製、商品名ノバペックス(登録商標)GS385
【0092】
(A−5)ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂:
ダイマー酸を14モル%含む酸成分とアルコール成分とを重合して得られた、ダイマー酸共重合PBT樹脂
【0093】
(A−6)PBT樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ノバデュラン(登録商標)5510(ポリテトラメチレングリコール(PTMG)共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度:1.3dl/g)
【0094】
(B)窒化硼素及び/又は珪酸マグネシウム塩
(B−1−1)窒化硼素:電気化学工業社製、商品名:SGP(鱗片状、純度:99%、平均粒子径:18μm)
【0095】
(B−1−2)窒化硼素:電気化学工業社製、商品名:GP(鱗片状、純度:99%、平均粒子径:8μm)
【0096】
(B−1−3)窒化硼素:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名:PT110(鱗片状、純度:99%、平均粒子径:45μm)
【0097】
(B−2−1)タルク:松村産業社製、商品名:ハイフィラー#12C(圧縮タルク、平均粒子径:5〜7μm、嵩比重:0.75〜0.9g/ml)
【0098】
(B−2−2)タルク:林化成社製、商品名:タルカンパウダーPKC(平均粒子径:11μm、嵩比重:0.48g/ml)
【0099】
(C)臭素系難燃剤
【0100】
(C−1)テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂(宇進高分子社製、商品名:CXB−300C)
【0101】
(C−2)エチレンビステトラブロモフタルイミド:アルベマール社製、商品名BT−93W
【0102】
(D)アンチモン化合物
三酸化アンチモン:鈴裕化学社製、商品名:ファイアカットAT−3CN(Sb 99.84%)
【0103】
(E)ガラス繊維
日東紡社製、商品名:CSH3PA830(長円形断面、扁平率4、ポリエステル用)
【0104】
(F)白色顔料
二酸化チタン:石原産業社製、商品名タイペークCR−60
【0105】
(その他の成分)
酸化防止剤:ヒンダードフェノール系化合物 チバ・スペシャリティー・ジャパン社製、商品名:イルガノックス1010
【0106】
離型剤:パラフィンワックス 日本精蝋社製、商品名:FT100
【0107】
[生産性]
表1に記載の配合比(数値は質量部を示す)にて、ガラス繊維以外の成分を一括してスーパーミキサー(新栄機械製SK−350型)で混合し、L/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST)のホッパーに投入し、(C)ガラス繊維をサイドフィードして、吐出量20kg/時間、スクリュー回転数150rpm、バレル温度260℃の条件下押出してポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。その際の生産性を「原料フィード性」、「ストランド安定性」の2段階に分けて評価した。
【0108】
[原料フィード性]
前項記載の押出時における原料の充填しやすさを、次の3段階に分類した。
◎:フィード性良好で、問題なく押出可能。
○:吐出量を10kg/hとして問題なく押出可能
×:押出不可能
【0109】
[ストランド安定性]
ストランドの安定性を以下の4つに分けて評価した。尚、ストランドがダイス出口より押し出される際に振れたり、太さが不均一になる等の不安定な挙動を示した場合には、適宜、樹脂押出スクリューの回転数調整等の対処によりストランドの挙動を安定化させる対処を行った。上述の評価に際しては、この対処の要否も考慮して評価した。
【0110】
◎:上述の対処をせずに、安定してストランド生産可能で、ペレットサイズも略均一な場合。
○:目視でペレットサイズの不揃いが見られる場合があるが、上述の対処をせずに安定してストランド生産可能な場合。
●:上述の対処を要するが、この対処により安定してストランド生産可能な場合。
×:上述の対処を施してもストランドが切れてしまい、安定してストランド生産ができない場合。
【0111】
[成形時離型性]
【0112】
樹脂温度270℃、金型温度80℃、サイクル25秒の条件で、ファナック製射出成形機(α−100iA)を用いて、浅いコップ形状(肉厚3mm、外径100mm、深さ20mm)の成形品を連続射出成形し、突き出しピンの痕の有無を目視観察することにより離型性を測定した。ピンの痕が認められるものを×、認められないものを○とした。
【0113】
[性能評価法]
【0114】
(1)シャルピー衝撃強度:ISO 179に従って測定した。
【0115】
(2)熱伝導率
射出成形機(住友重機械工業製、SH100、型締め力100T) を用いて、樹脂温度(パージ樹脂の実測温度):260℃、金型温度:80℃にて、金型: 縦100mm、横100mm、厚み3mmの成形品を射出成形し、得られた射出成形品を3枚重ねて、迅速熱伝導率測定装置(京都電子工業製、Kemtherm QTM―D3)を用いて、射出成形品の熱伝導率を測定した。
(3)体積抵抗率
射出成形機(住友重機械工業製、SH100、型締め力100T)により、樹脂温度(パージ樹脂の実測温度):260℃、金型温度:80℃、金型:縦100mm、横100mm、厚み3mmの条件で射出成形した成形品を、抵抗率計((株)アドバンテスト製:R8340デジタル超高抵抗/微少電流計およびR12704レジスティビティ・チェンバ)にて測定した。体積抵抗率はΩ・cmの単位で表示する。この値は1014Ω・cm以上であることが好ましい。
【0116】
(4)反り量(mm)
射出成型機(日精樹脂工業(株)製:型式NEX−80)を使用し、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で、直径100mm、肉厚1.6mmの円盤状成形品を成形した。(ゲートは円周上の1点サイドゲート)
【0117】
[反り量測定法]
円板の片端を平板に固定し、反対側が平板から浮き上がった際の、最も浮き上がった箇所(図1(a)参照。)の高さを測定し反り量とした。この数値が小さいほど成形品にひずみがなく好ましい。
【0118】
(5)比較トラッキング指数試験(CTI試験):
試験片(厚さ3mmの平板)について、国際規格IEC60112に定める試験法によりCTIを決定した。CTIは固体電気絶縁材料の表面に電界が加わった状態で湿潤汚染されたとき、100Vから600Vの間の25V刻みの電圧におけるトラッキングに対する対抗性を示すものであり、数値が高いほど良好であることを意味する。CTIは600V以上であるのが好ましい。
【0119】
(6)燃焼性試験
UL試験片(厚み0.75mm)について、アンダーライターズ・ラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格垂直燃焼試験により実施した。難燃性レベルは該規格に従った。
【0120】
(7)赤熱棒着火温度(Glow−wire Ignition Temperature)試験(略称:GWIT試験):
実際の製品での製品厚みを考慮し、厚み1.5mm平板試験片について、JEL801に定める試験法に従って行った。具体的には、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間接触させ、着火しない先端の最高温度より25℃高い温度として定義される。
【0121】
この試験には以下の背景がある。近年、L型口金付直管型ランプシステムに関して、日本電球工業会によりJEL801が制定された。その中で、ランプの感電に対して保護の役目を持っている絶縁材の外郭部品及び充電部品を保持している絶縁部品については、十分な耐燃焼性の必要性が規定されている。試験は、完成品のランプにて、試験温度650℃で行われることが規定されている。即ち650℃でのグローワイヤ試験において、製品GWITの規格であるIEC60695−2−11に準じた試験をクリアすることが望ましく、樹脂材料の評価としては650℃におけるIEC60695−2−12に準じた試験に合格し、さらにはIEC60695−2−13に準じた試験において、GWIT(着火温度)が650℃以上であることが望まれる。
【0122】
[実施例1〜14および比較例1〜8]
表1に記載のガラス繊維以外の成分を、同表記載の質量部にて一括してスーパーミキサー(新栄機械社製SK−350型)で混合し、L/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST)のホッパーに投入し、(C)ガラス繊維をサイドフィードして、吐出量20kg/時間、スクリュー回転数150rpm、バレル温度260℃の条件下押出してポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
【0123】
その樹脂組成物ペレットについて、射出成型機(住友重機械社製、型式SH−100)を使用して、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で上記(2)(3)(7)の試験片を、(縦横それぞれ10cm、厚さ3mmの平板試験片)また、住友重機械(株)製SE50を使用して、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、厚さ0.8mmのUL−94規格(6)の試験片を、また、住友重機械社製、型式SG−75Mlll)を使用して、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、ISOシャルピー衝撃試験片(1)を得た。以上の試験片を用いて、上記の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)成分を含むことを特徴とするポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物。
(A)以下の特徴を有する、ポリアルキレンテレフタレート樹脂:100質量部
70モル%以上がテレフタル酸であり且つ水素添加ダイマー酸成分を5〜12モル%含有する酸成分と、70モル%以上が1,4−ブタンジオールであるアルコール成分からなる共重合ポリブチレンテレフタレートを51〜100質量部含む、ポリアルキレンテレフタレート樹脂
(B)窒化硼素及び/又は珪酸マグネシウム塩:50〜200質量部
(C)臭素系難燃剤:5〜60質量部
(D)アンチモン化合物:5〜20質量部
(E)繊維状充填材:20〜100質量部
【請求項2】
(E)成分が、ガラス繊維であることを特徴とする請求項1記載のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(F)白色顔料を、(A)成分100質量部に対して30質量部以下の割合で含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分における珪酸マグネシウム塩がタルクであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分であるタルクの嵩比重が0.4以上であることを特徴とする請求項4記載のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
(B)成分である窒化硼素の重量平均粒子径が15〜60μmであることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
(E)成分におけるガラス繊維が、繊維の長さ方向に直角な断面の長径(D2)と短径(D1)の比(D2/D1)が1.5〜10であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形してなる樹脂成形体。
【請求項9】
照明装置用放熱部材であることを特徴とする請求項8記載の樹脂成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229315(P2012−229315A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97877(P2011−97877)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】