説明

熱伝導性射出成形体とその製造方法

【課題】軽量で、高い熱伝導性を有する熱伝導性射出成形体とその製造方法を提供する。
【解決手段】ピッチ系炭素繊維10〜70質量%を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる熱伝導性射出成形体であって、前記射出成形体中において、前記ピッチ系炭素繊維が射出成形によりMD方向(射出成形時の樹脂流れ方向)に配向された状態で含有されており、縦120mm、横120mm及び厚さ3mmの成形体における厚さ方向の熱伝導率(λ1)とMD方向(射出成形時の樹脂流れ方向)の熱伝導率(λ2)との比(λ2/λ1)が10以上である、熱伝導性射出成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種放熱部材用として好適な熱伝導性射出成形体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器のハウジング等は、発生する熱を逃がす作用(放熱作用)を有することが望まれているが、通常は熱可塑性樹脂等からなる成形体が使用されているため、放熱作用は十分ではない。
また、発熱する機械・電気部品に取り付けて、熱の放散によって温度を下げることを目的とするヒートシンク(放熱器又は放熱板)には、熱が伝導しやすいアルミや銅等の金属が用いられているが、軽量化の要請がある。
そこで、熱可塑性樹脂からなるハウジングに高い放熱性を付与すること、また金属材料からなるヒートシンクに代えて、軽量化の観点から樹脂を利用することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、高分子材料と黒鉛化炭素繊維を含有する組成物を成形してなる熱伝導性成形体が開示されている。黒鉛化炭素繊維は石油ピッチ系や石炭ピッチ系が好ましいと記載され(段落番号0013)、高分子材料は熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等が例示されている(段落番号0019)。
成形方法としては、プレス成形法、押出成形法、射出成形法、注型成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法等の方法が多数例示されている(段落番号0038)。
さらに黒鉛化炭素繊維を一方向に配向させる方法として、流動場又はせん断場を利用する方法、磁場を利用する方法、電場を利用する方法が例示されており、磁場を利用する方法が好ましいと記載されており(段落番号0039〜0041)、実施例では磁場を利用した方法のみが記載されている。
【0004】
特許文献2の請求項1には、マトリックス樹脂(A)と、これに非相溶な有機化合物(B)と、炭素繊維(C)とを含む熱伝導性シートであって、炭素繊維(C)が、面方向に配向し、面内においてランダムな方向に配向してネットワーク構造を形成していることを特徴とする熱伝導性シートの発明が開示されている。
段落番号0052には、「本発明の熱伝導性シートの成形方法としては、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形法等、樹脂成形において一般的に用いられる方法を適用することができる。」と記載されている。
さらに段落番号0056には、「本発明の熱伝導性シートは、炭素繊維自体の異方性に加え、炭素繊維がシート面に平行な方向に配向しながらランダムな方向に分散されかつネットワーク構造を形成することにより、シートの面方向に対して特に高い熱伝導性が発現する。本発明の熱伝導性シートにおける異方的な熱伝導性は、混合時のバルク状態では得られず、シート状に成形する過程で炭素繊維が配向することにより得られる。」
しかしながら、樹脂成形において一般的に用いられる方法を適用して製造したにも拘わらず、炭素繊維が請求項1及び段落番号0056に記載されているような配向状態になることとの技術的関連が全く不明であり、事実上、未完成発明と言えるものである。
【0005】
特許文献3の請求項1には、ポリアリーレンサルファイド系樹脂(A)と鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末(B)含有する樹脂組成物の成形体であって、成形体の体積の一部または全部が厚み1.3mm以下の面状となるように成形された成形体において、厚み1.3mm以下の面における面方向で測定された熱拡散率が厚み方向で測定された熱拡散率の2倍以上であり、かつ成形体の面方向で測定された熱拡散率が0.5mm2/sec以上であり、さらに成形体の体積固有抵抗値が1010Ω・cm以上であることを特徴とする、熱拡散異方性を有する高熱伝導性樹脂成形体の発明が記載されている。
成形方法については、段落番号0052において、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、射出成形が好ましいことが記載されており、さらに厚みが1.3mm以下となる金型を使用することが好ましいと記載されている。
実施例1(段落番号0060)では、75t射出成形機にて、平板の面中心部分にゲートサイズ0.8mmφで設置されたピンゲートを通じて、150mm×80mm×厚み0.8mmの平板形状試験片、及び50mm×80mm×厚み1.1mmの平板形状試験片を成形したことが記載されている。
特許文献3の発明は、成形体の厚み1.3mm以下にできるように射出成形することで、即ち成形体を1.3mm以下と薄くすることで、得られた成形体の面方向への熱拡散率を高めたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−88257号公報
【特許文献2】特開2008−211021号公報
【特許文献3】特開2010−1402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、軽量で、高い熱伝導性(放熱性)を有している熱伝導性射出成形体と、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、課題の解決手段として、
ピッチ系炭素繊維10〜70質量%を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる熱伝導性射出成形体であって、
前記射出成形体中において、前記ピッチ系炭素繊維が射出成形によりMD方向(射出成形時の樹脂流れ方向)に配向された状態で含有されており、
縦120mm、横120mm及び厚さ3mmの成形体における厚さ方向の熱伝導率(λ1)とMD方向の熱伝導率(λ2)との比(λ2/λ1)が10以上である、熱伝導性射出成形体を提供する。
「MD方向」は、面に沿う方向(厚さ方向に直交する方向)で、射出成形時の樹脂の流れ方向である。
【0009】
また本発明は、他の課題の解決手段として、
上記の熱伝導性射出成形体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂組成物を射出成形するとき、射出速度を制御して樹脂のゲート通過線速度が150〜5,000cm/secの範囲になるように射出成形する、熱伝導性射出成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性射出成形体は、成形体中にピッチ系炭素繊維が一方向に配向された状態で含有されたものであることから、縦120mm、横120mm及び厚さ3mmの成形体における厚さ方向の熱伝導率(λ1)とMD方向の熱伝導率(λ2)との比(λ2/λ1)が10以上である高い熱伝導性(放熱性)を有するものである。
【0011】
また本発明の熱伝導性射出成形体の製造方法によれば、射出速度を制御して樹脂のゲート通過線速度を所定範囲に設定することにより、他の手段(例えば、特許文献1の実施例に記載された磁場を利用する方法)を使用することなく、ピッチ系炭素繊維が一方向に配向された状態で含有された成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1、比較例1、2における熱拡散率の測定方法を説明するための図。
【図2】実施例1、比較例1、2における熱拡散率の他の測定方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<熱伝導性射出成形体>
本発明の熱伝導性射出成形体の製造に使用する熱可塑性樹脂組成物は、ピッチ系炭素繊維10〜70質量%を含有するものである。
【0014】
ピッチ系炭素繊維は公知のものであり、石油ピッチ、石炭ピッチを原料として製造されるもので、光学的等方性ピッチと光学的異方性ピッチ(メソフェースピッチ)を使用することができる。
【0015】
ピッチ系炭素繊維の平均長さは、0.1〜4.0mmが好ましく、0.2〜3.0mmがより好ましく、0.3〜2.0mmがさらに好ましい。ここでいう平均長さは、熱伝導性射出成形体中(即ち、射出成形後)のピッチ系炭素繊維の平均長さであり、製造原料としてのピッチ系炭素繊維の平均長さではない。
ピッチ系炭素繊維の平均直径は、5〜20μmが好ましく、8〜15μmがより好ましく、10〜15μmがさらに好ましい。ピッチ系炭素繊維の平均直径は、製造原料と熱伝導性射出成形体中(即ち、射出成形後)の数値は同じである。
ピッチ系炭素繊維の平均長さと平均直径は、実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0016】
熱伝導性射出成形体に含有されている全ピッチ系炭素繊維中、平均長さ0.2mm以上のものの含有割合が40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である(ピッチ系炭素繊維の平均長さの要件1)。
熱伝導性射出成形体に含有されている全ピッチ系炭素繊維中、平均長さ0.4mm以上のものの含有割合が10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上含有である(ピッチ系炭素繊維の平均長さの要件2)。
ピッチ系炭素繊維の平均長さの要件1と要件2は、いずれか一方を満たしていることが好ましく、両方を満たしていることがより好ましい。
【0017】
熱可塑性樹脂は、熱伝導性射出成形体の用途に応じて公知の樹脂(例えば、特許文献1の段落番号0020に記載された熱可塑性樹脂)から適宜選択することができるが、本発明においては、オレフィン系樹脂及びポリアミド系樹脂から選ばれる1種、同じ種類の樹脂から選ばれる2種以上の組み合わせ又は異なる種類の樹脂から選ばれる2種以上の組み合わせが好ましい。
【0018】
オレフィン系樹脂は、ポリプロピレン、高密度、低密度及線状低密度ポリエチレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、エチレンとプロピレンの共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(原料としてのジエン成分が10質量%以下)、ポリメチルペンテン、エチレン又はプロピレン(50モル%以上)と他の共重合モノマー(酢酸ビニル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル等)とのランダム、ブロック、グラフト共重合体等を用いることができる。
【0019】
ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミドを使用することができる。
脂肪族ポリアミドは、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド1212、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド1112、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド69、ポリアミド810等を使用することができる。
芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミン又は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンから得られるもの、例えば、ポリアミドMXD(メタキシリレンジアミンとアジピン酸)、ポリアミド6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸)、ポリアミド6I(ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸)、ポリアミド9T(ノナンジアミンとテレフタル酸)、ポリアミドM5T(メチルペンタジアミンとテレフタル酸)、ポリアミド10T(デカメチレンジアミンとテレフタル酸)等を使用することができる。
【0020】
熱可塑性樹脂組成物中、ピッチ系炭素繊維の含有量は10〜70質量%であり、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。熱可塑性樹脂の含有量は、合計で100質量%となる残部割合である。
【0021】
熱可塑性樹脂組成物は、熱伝導性射出成形体の用途に応じて、公知の他の成分を含有することができる。
他の成分としては、各種有機又は無機充填材(炭素繊維は除く)、難燃剤、発泡剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、抗菌剤、結晶核剤、着色剤、可塑剤等の公知の各種樹脂添加剤を挙げることができる。
【0022】
本発明の熱伝導性射出成形体は、用途に応じた所望形状に成形されたものであり、平板状、棒状等にすることができる。
平板状にする場合には、用途に応じて選択される形状及び大きさを有する平板にすることができ、例えば、全体の厚みが均一な平板のほか、厚みが不均一な平板、部分的に凹凸を有する平板、孔や窪みを有する平板等を含むものである。
【0023】
本発明の熱伝導性射出成形体は、前記ピッチ系炭素繊維が射出成形により一方向に配向された状態で含有されている。
本発明の熱伝導性射出成形体は、縦120mm、横120mm及び厚さ3mmの成形体における厚さ方向の熱伝導率(λ1)とMD方向の熱伝導率(λ2)との比(λ2/λ1)が10以上のものであり、好ましくは前記比(λ2/λ1)が15以上、より好ましくは20以上のものである。
【0024】
本発明の熱伝導性射出成形体が平板状であるとき、その厚さは用途に応じて適宜設定することができるものであるが、例えば0.5〜10mmの範囲にすることができる。
本発明の熱伝導性射出成形体が平板状であるときには、厚さが5mm以下であり、厚さ方向の熱伝導率(λ1)が0.5W/mK以上であることが好ましい。
なお、本発明の熱伝導性射出成形体が平板状であるときであっても、特許文献3の発明のように1.3mm以下の厚みする必要はなく、1.3mmを超える厚み(例えば、厚み1.5〜5mmの範囲)にすることができる。
【0025】
本発明の熱伝導性射出成形体は、電気絶縁性を有するようにすることができる。
電気絶縁性を有するようにするときは、本発明の熱伝導性射出成形体表面に絶縁性材料からなる層(絶縁層)を形成する方法を適用することができる。
絶縁層は、熱伝導性射出成形体表面に樹脂塗料を塗布して絶縁性塗膜を形成する方法、樹脂フィルムや樹脂シートを貼り付ける(接着、融着、溶着)方法、二色成形法により本発明の平板状射出成形体に絶縁性樹脂層を積層する方法等を適用することができる。
【0026】
<熱伝導性射出成形体の製造方法>
本発明の熱伝導性射出成形体の製造方法は、上記した熱可塑性樹脂組成物を射出成形するとき、射出速度を制御して、樹脂のゲート通過線速度が150〜5,000cm/secの範囲になるように射出成形する。
【0027】
樹脂のゲート通過線速度を150〜5,000cm/secの範囲にするためには、スクリュー断面積が10.2cm2、ゲートサイズ7mm×2mm(最小断面積=0.14cm2)のとき、射出速度を1.4〜70cm/secの範囲に設定すればよい。
スクリュー断面積が0.5倍又は2倍で、ゲートサイズが同じ場合には、射出速度を2.8〜140cm/sec又は0.7〜35cm/secの範囲に設定すればよい。
スクリュー断面積が同じで、ゲートサイズが0.1倍又は2倍である場合には、射出速度を0.14〜7cm/sec又は2.8〜140cm/secの範囲に設定すればよい。
【0028】
ゲート通過線速度は、好ましくは300〜4,000cm/secの範囲、より好ましくは400〜3,000cm/secの範囲、さらに好ましくは500〜3,000cm/secの範囲、特に好ましくは500〜2,000cm/secの範囲である。
このようにして樹脂のゲート通過線速度を所定範囲になるように調整することにより、射出成形体中において、ピッチ系炭素繊維をMD方向に配向させることができ、その結果、上記した所定の熱伝導性(λ2/λ1≧10)を得ることができる。
ゲート通過線速度が低い場合は、ピッチ系炭素繊維の配向が不十分で所定の熱伝導性(λ2/λ1≧10)が得られない。したがって、ピッチ系炭素繊維を成形体中でMD方向に十分配向させるには、ゲート通過線速度ができるだけ高いことが望ましいが、高すぎる場合はせん断熱による樹脂焼けが生じ成形体の力学的物性や外観を悪くする。
【0029】
本発明の熱伝導性射出成形体は、各種機器の放熱部材用の材料(成形体)として使用することができる。具体的には、LEDを使用した照明器具や表示装置のハウジング用(外装材料用)、ヒートシンク用、電気・電子機器のハウジング(筐体)用として好適である。
【実施例】
【0030】
(1)ピッチ系炭素繊維平均繊維長(熱伝導性射出成形体に含まれているピッチ系炭素繊維の繊維長)及び平均繊維径
熱伝導性射出成形体から約3gの試料を切出し、硫酸により樹脂を溶解除去して炭素繊維を取り出した。取り出した繊維の一部(500本)から重量平均繊維長を求めた。計算式は、特開2006−274061号公報の〔0044〕、〔0045〕を使用した。
炭素繊維の平均繊維径Dは、次式:D=√(4W/Nρπ)
〔但し、W:単位長さ当りの繊維束の重さ(繊度)、N:フィラメント数(単糸本数)、ρ:繊維の密度〕から求めた。
【0031】
(2)密度(比重)
ISO 1183
【0032】
(3)比熱
DSC法(ISO 11357−4)
【0033】
(4−1)熱拡散率1
レーザーフラッシュ法により、図1に示す試験片(ダンベル片)(a=20mm,b=120mm,c=10mm,厚み4mm)のY方向とZ方向の熱拡散率を測定した。
Y方向はダンベル片の長さ方向であり、Z方向は厚さ方向(長さ方向に直交する方向)である。
(4−2)熱拡散率2
レーザーフラッシュ法により、図2に示す試験片(縦120mm、横120mm及び厚さ3mmの正方形板)のX、Y、Z方向の熱拡散率を測定した。
Y方向は射出成形時の樹脂流れ方向(MD方向)であり、X方法はY方向と直交する方向であり、であり、Z方向は厚さ方向(X及びY方向に直交する方向)である。
【0034】
(5)熱伝導率
比重、比熱、熱拡散率から求めた。
熱伝導率=比重×比熱×熱拡散率
【0035】
実施例及び比較例
(製造例1)(実施例1の熱可塑性樹脂組成物の製造)
ピッチ系炭素繊維ヤーン(日本グラファイトファイバー製 XN−60−A2S)からなる繊維束(約12000本の繊維の束)を、予備加熱装置による150℃の加熱を経て、クロスヘッドダイに通した。
そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機(池貝製作所製PCM30、シリンダー温度280℃)から溶融状態のポリプロピレン(サンアロマー(株)製のPMB60A)を供給し、繊維束にポリプロピレンを含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、長さ11mmのペレット(円柱状、PP60重量%、ピッチ系炭素繊維40重量%)を得た。射出成形前の炭素繊維長さは前記ペレット長さと同一となる。このようにして得たペレット中では、ピッチ系炭素繊維が長さ方向にほぼ並行になっていた。
【0036】
(製造例2、3)(比較例1、2の熱可塑性樹脂組成物の製造)
表1の比較例1、2それぞれに示す熱伝導性フィラー成分と熱可塑性樹脂を二軸押出機(TEM35B、東芝機械製)を用いて混練したものをペレタイザーに供給して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。熱伝導性フィラー成分と熱可塑性樹脂は一括ブレンドして主フィーダーから供給した。二軸押出機による混練条件は、シリンダー温度250℃、スクリュー回転数250rpm、フィード量15kg/hであった。
【0037】
得られたペレットを用いて、下記および表1の条件で射出成形して、図1、図2で示す熱伝導性射出成形体を得た。
図1で示す成形体は1つの金型内で複数個成形できる金型を使用したので、ゲート最小断面積は、(成形体1個あたりのゲート最小断面積)×(金型内の成形体個数)とした。図2で示す成形体は、1つの金型から1個を成形した。
それぞれの熱伝導性射出成形体について、上記した測定試験をした。結果を表1、表2に示す。
【0038】
射出成形機:住友重機工業社製SH100−NIV(比較例1および比較例2の図1および図2成形体、実施例1の図2成形体)、日本製鋼所製J150E−II(実施例1の図1成形体)
例えば、実施例1の図2の成形体(表2)を射出成形するときのゲート通過線速度は、表2の数値から次のようにして求めた。
射出率(121 cm3/sec)=射出速度(11.9cm/sec)×スクリュー断面積(10.2cm2
ゲート通過線速度(864cm/sec)=射出率(121 cm3/sec)/ゲートサイズ(最小断面積)(2mm×7mm=0.14cm2
【0039】
【表1】

【0040】
ピッチ系炭素繊維(ヤーン):日本グラファイトファイバー製XN−60−A2S,繊度 445g/1000m、フィラメント数 3,000、繊維密度2.12g/cm3、繊維方向の熱伝導率140W/mK,平均繊維径10μm,平均残存繊維長0.42mm,0.2mm以上の繊維の残存率 60%,0.4mm以上の繊維の残存率 26%
窒化ホウ素(板状六方晶結晶):National Nitride Technologies社製Boron Nitride Powder NW 1525、平均粒径100μm以上、熱伝導率30〜50W/mK
金属シリコン(破砕粉末):キンセイマテック製金属シリコン#600、平均粒径約6μm、140W/mK
PP:ポリプロピレン(サンアロマー(株)製、PMB60A)
PA6:ユニチカ製ポリアミド6、A1030BRL
ABS:日本エイアンドエル製AT−08
マレイミドポリマー:スチレン47質量%−Nフェニルマレイミド51質量%−無水マレイン酸2質量%の共重合体,ガラス転移温度196℃,重量平均分子量12万,265℃10kgでのメルトフローレート:4
【0041】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ系炭素繊維10〜70質量%を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる熱伝導性射出成形体であって、
前記射出成形体中において、前記ピッチ系炭素繊維が射出成形によりMD方向(射出成形時の樹脂流れ方向)に配向された状態で含有されており、
縦120mm、横120mm及び厚さ3mmの成形体における厚さ方向の熱伝導率(λ1)とMD方向(射出成形時の樹脂流れ方向)の熱伝導率(λ2)との比(λ2/λ1)が10以上である、熱伝導性射出成形体。
【請求項2】
ピッチ系炭素繊維が、平均長さ0.2mm以上のものが40質量%以上含有されたものである、請求項1記載の熱伝導性射出成形体。
【請求項3】
ピッチ系炭素繊維が、平均長さ0.4mm以上のものが10質量%以上含有されたものである、請求項1又は2記載の熱伝導性射出成形体。
【請求項4】
熱伝導性射出成形体が平板状であるとき厚さが5mm以下で、厚さ方向の熱伝導率(λ1)が0.5W/mK以上である、請求項1〜3のいずれか1項記載の熱伝導性射出成形体。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂及びポリアミド系樹脂から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱伝導性射出成形体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の熱伝導性射出成形体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂組成物を射出成形するとき、射出速度を制御して樹脂のゲート通過線速度が150〜5,000cm/secの範囲になるように射出成形する、熱伝導性射出成形体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂のゲート通過線速度が500〜3,000cm/secの範囲になるように射出速度を制御して射出成形する、請求項6記載の熱伝導性射出成形体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−149143(P2012−149143A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7602(P2011−7602)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】