説明

熱伝導性成形品

【課題】 厚さ方向に高い熱伝導性を有した放熱性の優れた成形品を得る。
【解決手段】 熱伝導率が5W/m・K以上、アスペクト比が5以上で、長辺が0.2〜6mmの繊維状および/又は板状の熱伝導材を1〜70質量%含有する熱可塑性樹脂組成物を成形品1個当たりゲートが2点以上の型を用いて成形したことを特徴とする熱伝導性成形品である。好ましい態様は、成形品1個当たりゲートの数が3点以上であることを特徴とする前記の成形品であり、また、成形品の厚さ方向に測定した熱伝導率が1.5〜25W/m・K以上であることを特徴とする前記の成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導性を有する成形品に関する。さらに詳しくは、成形品の厚さ方向に高い熱伝導性を有して放熱性にたいへん優れた成形品に関する。(以下本明細書において、成形品の肉厚の薄い方向を厚さ方向と呼ぶ。)特に本発明は、IC回路から発熱を有するケースからの局所的な放熱性に優れ、軽薄短小に適した成形品を提供する。デバイス・レギュレーター、イグナイターなどIC回路を有する電子部品のケース用成形品として使用される。
【背景技術】
【0002】
従来、ICケース材料としては、ガラス繊維強化ポリフェニレンスルフィドなどの組成物を成形したケースにアルミの放熱板を接着して使用されていた。この場合、アルミ板を成形する工程やこのアルミ板をケースに耐熱接着剤で接着する工程が必要なことや、使用時に脱落するなどの問題点があった。
この課題を解決するために、これまで、酸化マグネシュームやアルミナや窒化ホウ素など伝熱性の高い無機フィラーを高充填して熱伝導性を高めることが開示されているが、フィラー間の樹脂層による断熱性が高く、伝熱性の上昇はあまり改善されなかった。また、さらに、高充填化すると大変もろく実用に耐えなかった。また場合によっては、流動性が極度に低下して成形が不可能となった。
また、フィラーに加えて繊維状や板状の無機化合物の充填による伝熱性改良も開示されているが、成形時の流動によりこれらが配向するため、流動方向の伝熱性の改善効果は有するが、放熱効果が期待される成形品の厚さ方向の伝熱性は殆ど改善されなかった。
ケース状部品のために、厚さ方向の放熱性に優れた成形品の強い開発要請があった。IC回路などでは発熱は局所的な場合が多いので、成形品の局所部分からの放熱性が高ければ要求を満たすことも多いことから、局所的でも熱伝導が高い成形品の要求があった。
【0003】
【特許文献1】特開平02−311553号公報
【特許文献2】特開平09−255871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、成形が容易で、強度が高い成形品であり、成形品の厚さ方向の熱伝導性が高い成形品を提供する。特に、電気絶縁性を有して、厚さ方向の熱伝導率が高い成形品を提供することであり、熱伝導性改良材の異方性を、特殊な成形法により厚さ方向に有効に活用した成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は、熱伝導率が5W/m・K以上、アスペクト比が5以上で、長辺が0.2〜6mmの繊維状および/又は板状の熱伝導材を1〜70質量%含有する熱可塑性樹脂組成物を成形品1個当たりゲートが2点以上の型を用いて成形したことを特徴とする熱伝導性成形品である。好ましい態様は、成形品1個当たりゲートの数が3点以上であることを特徴とする前記の成形品であり、また、成形品の厚さ方向に測定した熱伝導率が1.5〜25W/m・K以上であることを特徴とする前記の成形品である。
【発明の効果】
【0006】
上記の構成からなる本発明の成形品は、成形が容易で、強度も強く、電気絶縁性があり、厚さ方向の熱伝導性が高い成形品である。本発明の成形品により放熱板の装着をなくすくことが可能になる。また、放熱性が高いので部品の軽薄短小化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱伝導性成形品に使用される樹脂組成物は、熱伝導率が5W/m・K以上を有し、アスペクト比が5以上で、長辺が0.2〜6mmの繊維状および/又は板状の熱伝導材を1〜70質量%含有する熱可塑性樹脂組成物である。
繊維状および/又は板状の熱伝導材の熱伝導率が5W/m・K未満では熱伝導率を局所的に高める効果は小さく好ましくない。熱伝導率は大きい方が好ましく、特に限定されないが、経済性や入手のしやすさから500W/m・K以下である。
【0008】
熱伝導率が5W/m・K以上の繊維状および/又は板状の熱伝導材としては、長手方向に熱伝導性が高く、長い距離に渡って熱伝導性のよいポリベンザゾール繊維(PBO繊維)、アラミド繊維、窒化珪素繊維、チタン酸カリウムウイスカー、炭素繊維、アルミ繊維、スチールファイバーなどの繊維状および/又は板状のものが挙げられる。これらの中では、PBO繊維、アラミド繊維、炭素繊維、窒化珪素繊維などが好ましい。特に電気絶縁性を必要とする用途においては、PBO繊維、アラミド繊維、窒化珪素繊維が好ましい。これら熱伝導材は樹脂組成物中に1〜70質量%含有することが好ましい。1質量%未満では効果が小さく、70質量%より多いと、ゲート部での流動性が低下し、詰まりを発生する場合があるので好ましくない。
【0009】
本発明に使用される繊維状および/又は板状の熱伝導材のサイズは、長辺(以下長さともいう)と厚さの比であるアスペクト比が5以上のものが使用される。好ましくは、10以上である。5未満では、成形時に繊維が優先的に厚み方向に配向せず熱伝導性改良効果は小さい。アスペクト比としての上限は、特に制限されないが、1000未満のものが成形のしやすさや成形品の外観の点から好適である。長さは、0.2〜6mmが好適である。特に、0.2〜4mmが好ましい。長さが0.2mm未満では熱伝導性改良効果が小さく、長さが6mmより長い場合は成形時流動性が低下し好ましくない。
【0010】
本発明に使用される樹脂組成物には、繊維状および/又は板状の熱伝導材の他に、ガラス繊維、ウイスカーなどの繊維状強化材やアルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ワラストナイト、クレイ、シリカなどの無機充填剤やその他の安定剤等を配合することもできる。
【0011】
本発明に使用される熱可塑性樹脂としては、溶融成形が可能である以外、特に限定されない。例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6T共重合体、ポリアミド46、ポリフェニレンエーテル、液晶性樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリオレフィン系エラストマーなどの樹脂やこれらのポリマーアロイ品が挙げられる。これらの中では、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド6、ポリマミド66、ポリアミド6T共重合、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマーが好ましい。特に融点および/又はガラス転移点が120℃以上の熱可塑性樹脂が、実用的な耐熱性の面から好ましい。
【0012】
本発明の熱伝導性成形品を得るには、成形品1個当たり2点以上のゲート、好ましくは3点以上のゲートから熱可塑性樹脂組成物を流入して成形品を成形することが要求される。例えば2点ゲートにした場合、熱可塑性樹脂組成物の融合点である1本以上のウエルドラインが成形体に形成される。3点ゲートにした場合は、2本以上のウエルドラインが形成される。一般にゲート数が増加するとウエルドラインの本数は増加する。本発明の成形品においては、ウエルドラインの本数の増加に伴い、成形品の厚さ方向(厚さが薄い方向)の熱伝導率が高くなる。本発明においては、ゲート部やウエルド部の熱伝導率が他の部分よりも非常に高い。本発明の熱伝導性成形品においてゲート部やウエルド部の熱伝導率が高い理由としては、ゲート部やウエルド部の断面を顕微鏡にて観察すると、アスペクト比の高い熱伝導材が厚さ方向に配向している点が挙げられる。この配向した繊維状および/又は板状の熱伝導材が熱伝導のブリッジを形成するためと考えられる。通常、熱伝導性の高い繊維状の材料を配合して成形した場合、一般に繊維が面に沿って流動方向やその横方向に配向してしまう。このために厚さ方向には熱伝導性の高い繊維は熱可塑樹脂層で細かく分断された状態になり、繊維状熱伝導材の高い熱伝導性が成形品の厚さ方向の熱伝導に活かされないためと考えられる。
【0013】
本発明による成形品は、厚さ方向に局所的に非常に高い熱伝導率を有し、その位置はゲート位置や成形品形状の金型設計により設定できる。従って、放熱が必要な箇所について放熱性を良好にすることや逆に加熱が必要な箇所の加熱源の伝熱を高めることができることも本発明の特徴のひとつである。
【0014】
また本発明の成形品を得る成形方法は、熱可塑性樹脂組成物の流入口であるゲート数が2以上であれば特に限定されないが、射出成形又は射出圧縮成形が好ましい。ゲートは多点ピンゲート又はサイドゲートが好ましい。またゲートサイズは、直径が0.5mm以上、2mm以下、又は高さおよび幅が0.5mm以上、2mm以下が好ましい。直径が0.5mm以上、又は高さや幅が0.5mm以上であれば繊維状の熱伝導材を容易に流動できるので好ましい。また、これらが2mm以上ではゲートの自動切断が難しく好ましくない。
【0015】
本発明に使用される熱可塑性樹脂組成物には、いろいろな改質樹脂や安定剤や着色剤、流動性改良材、離型材が配合される。これらは、重合前後に混合することもできるが、単軸押出機、2軸押出機やニーダーなどの装置を用いて、混練することにより製造することができる。配合剤をより高濃度に含む組成物を予め溶融混練して、成形時にこれをマスターバッチとして混合することもできる。
【0016】
本発明の熱伝導性樹脂成形品の用途は特に限定されないが、上記した特性を有するので請求項4に記載のごとく、ICやLCIなど電子部品関係の用途に用いられるものであり、特に電子回路の基板および/又はケースとして使用することが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により説明するが、これらに限定されるものではない。なお明細書中の物性評価は以下の方法により測定した。
(1)繊維状および/又は板状の熱伝導材の長辺(長さ)、アスペクト比
成形品から一辺2mmの立方体試験片を切削し、スライドグラス板上にて融点+20℃にて加熱溶融した。これをカバーグラスで圧縮してから冷却して厚さ約0.1mmのフィルム状プレパラートに成形した。これを100倍に設定された投影器にて透過にて長さを測定した。無作為に選んだ5cm×5cmの視野にある20個の繊維の長さを測定して、その数平均長さを算出した。(なお、ここでの融点はJIS K7121に準拠して求めた融解ピーク温度Tpmである。)
一方、ISO294に規定された多目的試験片の平行部を、引張り試験軸に垂直方向にミクロトームにて切削し、切削された断面を真空下で金蒸着して、加速電圧15kVにされた走査型電子顕微鏡により断面を写真撮影して、無作為にえらんだ20個の熱伝導材の短辺の平均値を測定した。アスペクト比は、上記の数平均長さを短辺の平均値で徐して求めた。
【0018】
(2)繊維状および/又は板状の熱伝導材の熱伝導率
レーザー加熱ac法熱拡散率測定器(アルバック理工(株)製、LASER PIT)にて、半導体レーザー(波長670nm)を加熱素子として距離変化法により、長手方向の熱拡散率を測定して、繊維の密度、比熱容量、音速から求めた。
(3)成形品の熱伝導率
京都電子工業(株)製の迅速熱伝導計 Kemtherm(R)QTM−63を用いて、平板状試験片を23℃、50%RHにて48時間調整した後、平板の厚さ方向の熱伝導率を測定した。
【0019】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
熱可塑性樹脂としてポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を使用し、各種熱伝導材を表1に示す配合比に従い、ミキサーで撹拌混合した後、池貝鉄工(株)製2軸押出機PCM30を用いて、シリンダー温度300℃で溶融混練して、ストランドカッターにより3mm長さのペレットを作製した。これを熱風乾燥機で140℃、3時間乾燥し、東芝機械(株)製、IS射出成形機を用いて、シリンダー温度300℃で熱伝導率測定用の平板(100×100×3mm厚さ)を成形した。金型はスリプレートからなり、図1〜3に示したように、直径0.8mmのゲート数が2点、および3点にて成形した。また比較例として中央にゲートが1点の金型にて成形した。得られた平板のデートをサンドペーパーにて平滑に処理した後熱伝導率を測定評価した。その結果を表1に示す。
表1からも明らかなように、同組成の材料から成形した多点ゲートの実施例1と実施例2では、1点ゲートの比較例1より飛躍的に熱伝導率が高い。また、3点ゲートから成形した平板でも、アスペクト比が高く長い高熱伝導率のPBO繊維を含む実施例2は、アスペクト比が小さく短い高熱伝導のアルミナを含む比較例4より熱伝導率が格段に高い。
【0020】
なお、本実施例及び比較例使用した原料は以下の通りである。
(1)PPS樹脂:大日本インキ化学工業(株)製T−5、熱伝導率0.25W/m・K
(2)PBT樹脂:東洋紡績(株)製EMC700−01、熱伝導率0.22W/m・K
(3)PBO繊維−1:東洋紡績(株)製HMタイプ、繊維長3mm、アスペクト比270、熱伝導率25W/m・K
(4)PBO繊維−2:東洋紡績(株)製HMタイプ、繊維長0.4mm、アスペクト比45、熱伝導率 25W/m・K
(5)カーボン繊維:東邦レーヨン(株)製、HTA−C6−SRS、繊維長3mm、アスペクト比430,熱伝導率15W/m・K
(6)ガラス繊維:旭ファイバーグラス(株)製JA429、長さ350μm、アスペクト比33、熱伝導率0.89W/m・K
(7)アルミナ:昭和電工(株)製AL−43−M、長さ4μm、アスペクト比1.6、熱伝導率36W/m・K
(8)窒化アルミニウム:東洋アルミニウム(株)製TOYALNITE(R)Mグレード、長さ8μm、アスペクト比1.7、熱伝導率180W/m・K
(9)炭化珪素:セントラル硝子(株)製UFB,長さ0.9μm、アスペクト比1.3、熱伝導率80W/m・K
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の熱伝導性の高い繊維状および/又は板状の熱伝導材を特定量含有する熱可塑性樹脂を成形品1個当たり2点以上のゲートからなる金型により成形して得た成形品は、厚さ方向に非常に高い熱伝導率を示し、放熱性が高い。したがって放熱が必要なICケースなどの電子部品のケースや基板として好適な成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ゲート配置(1点)とウエルドラインが発生しないことを示す図。
【図2】ゲート配置(2点)とウエルドラインの発生場所を示す図。
【図3】ゲート配置(3点)とウエルドラインの発生場所を示す図。
【符号の説明】
【0024】
1 ゲート位置
2 ウエルドライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が5W/m・K以上、アスペクト比が5以上で、長辺が0.2〜6mmの繊維状および/又は板状の熱伝導材を1〜70質量%含有する熱可塑性樹脂組成物を成形品1個当たりゲートが2点以上の型を用いて成形したことを特徴とする熱伝導性成形品。
【請求項2】
成形品1個当たりゲートの数が3点以上であることを特徴とする請求項1記載の成形品。
【請求項3】
成形品の厚さ方向に測定した熱伝導率が1.5〜25W/m・K以上であることを特徴とする請求項1、2いずれかに記載の成形品。
【請求項4】
電子回路の基板および/又はケースとして使用することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−116894(P2006−116894A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309437(P2004−309437)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】