説明

熱伝導性樹脂組成物

【課題】従来品よりも熱伝導性に優れ、しかも、軽量化、軟質化を図ることも容易で、成形性にも優れた熱伝導性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂に対しピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維を充填してなるものである。ピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維は、熱伝導性樹脂組成物全体に対する充填量が、両炭素繊維の合計で15〜40体積%とされる。また、ピッチ系炭素繊維:気相成長炭素繊維の配合比は、体積比で0.99:0.01〜0.1:0.9とされる。このような熱伝導性樹脂組成物であれば、マトリックス樹脂にピッチ系炭素繊維又は気相成長炭素繊維を単独で配合した場合よりも、熱伝導率を1.2倍から最大で3倍以上にまで向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導性のある樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂に対して金属系のフィラーを充填したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、熱可塑性樹脂に対して酸化マグネシウム、アルミナ、窒化ホウ素などのセラミックス系フィラーを配合したものも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
また、熱可塑性樹脂に対して熱伝導性樹脂繊維を添加したものや(例えば、特許文献3参照。)、ピッチ系炭素繊維を添加したものなども知られている(例えば、特許文献4,5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−328155号公報
【特許文献2】特開平2−311553号公報
【特許文献3】特開平9−255871号公報
【特許文献4】特開2009−108118号公報
【特許文献5】特開2002−088256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、金属系のフィラーが配合された熱伝導性樹脂組成物は、一般に、比重が大きくて比較的硬いものになるため、軽量化や軟質化を図りたい場合には、金属系のフィラーは不向きであるという問題がある。
【0006】
また、セラミックス系のフィラーが配合された熱伝導性樹脂組成物は、金属系のフィラーが配合されたものに比べれば、比重を小さくすることができるが、熱伝導率を向上させるには、相応にフィラーの充填量を増大させる必要がある。しかし、フィラーの充填量を増大させると、その分だけ相対的に樹脂分が少なくなるので、溶融時の流動性に乏しくなり、成形性が低下する、という問題がある。また、成形ができたとしても、得られる成形品が硬くなりやすく比較的脆性が高い、といった特性が現れる傾向がある。そのため、例えば比較的軟質な樹脂組成物としたい場合、あるいは靭性を向上させたい場合などに、セラミックス系のフィラーを利用するのは好ましくないという問題もある。
【0007】
また、熱伝導性樹脂繊維が添加された熱伝導性樹脂組成物は、軽量ではあるものの、その熱伝導率は最大でも1.0W/(m・K)程度しかなく、熱伝導率の低い樹脂組成物しか得られない、という問題がある。
【0008】
さらに、ピッチ系炭素繊維が添加された熱伝導性樹脂組成物の場合、比重の増加は少ないが、熱伝導性を向上させるには充填量を上げる必要があり、コスト増や成形性の低下を招きやすいという問題がある。また、PAN系炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維に比べて熱伝導率が小さいため、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を向上させることが、ピッチ系炭素繊維以上に難しいという問題がある。
【0009】
つまり、上記のような従来技術では、「高熱伝導性でありながら、軽量化、軟質化を図ることができ、かつ成形性の低下を防止することも可能な熱伝導性樹脂組成物」を得ることは困難であった。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、従来品よりも熱伝導性に優れ、しかも、軽量化、軟質化を図ることが容易で、成形性にも優れた熱伝導性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂に対しピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維を充填してなり、前記ピッチ系炭素繊維及び前記気相成長炭素繊維は、前記熱伝導性樹脂組成物全体に対する充填量が、両炭素繊維の合計で15〜40体積%とされており、且つ、ピッチ系炭素繊維:気相成長炭素繊維の配合比が、体積比で0.99:0.01〜0.1:0.9とされていることを特徴とする。
【0012】
本発明の熱伝導性樹脂組成物において、前記マトリックス樹脂は、汎用プラスチック及びエンジニアリングプラスチックのいずれか一方又は両方であると好ましい。
汎用プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、塩素化ポリエチレン(CPE)及びエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などを挙げることができる。これらの汎用プラスチックは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
また、エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルペンテン(PMP)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、変性ポリフェニレンエーテル(mPPE)、及びポリアミドイミド(PAI)などを挙げることができる。これらのエンジニアリングプラスチックは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよく、2種以上が共重合体とされていてもよい。
【0014】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物において、前記マトリックス樹脂は、熱可塑性エラストマーであっても好ましい。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、熱可塑性スチレン(TPS)、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(TPEE)、熱可塑性加硫エラストマー(TPV)、熱可塑性塩化ビニル系エラストマー(TPVC)、熱可塑性ポリアミド系エラストマー、有機過酸化物で部分架橋してなるブチルゴム系熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらの熱可塑性エラストマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよく、2種以上が共重合体とされていてもよい。この他、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体からなる熱可塑性エラストマーを用いてもよく、また、ポリプロピレン及びスチレン系エラストマーの混合物又は共重合体を用いてもよい。
【0015】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物において、前記マトリックス樹脂は、ゴムであっても好ましい。
ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン(PB)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、フッ素系ゴム、及びシリコーンゴムなどを挙げることができる。これらのゴムは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよく、2種以上が共重合体とされていてもよい。
【0016】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物において、前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂であっても好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びケイ素樹脂などを挙げることができる。これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよく、2種以上が共重合体とされていてもよい。
【0017】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物において、ピッチ系炭素繊維としては、例えば、真密度が1.5〜2.3g/cm3、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)以上、繊維径が5〜15μm程度のものを利用すると好適である。
【0018】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物において、気相成長炭素繊維としては、例えば、繊維径が0.01〜0.5μm、繊維長が1〜500μm程度のものを利用すると好適である。
【0019】
以下、本発明の構成について、さらに詳しく説明する。
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂に対しピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維、双方を充填した点に特徴がある。
【0020】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性樹脂組成物全体に対する充填量が、両炭素繊維の合計で15〜40体積%とされている点、ピッチ系炭素繊維:気相成長炭素繊維の配合比が、体積比で0.99:0.01〜0.1:0.9とされている点にも特徴がある。
【0021】
両炭素繊維の充填量が15体積%を下回る場合は、炭素繊維による伝熱経路が十分に形成されないため、十分に高い熱伝導性を発現させることが難しくなる。一方、両炭素繊維の充填量が40体積%を上回る場合は、相対的にマトリックス樹脂の比率が低下するため、最終的に得られる熱伝導性樹脂組成物が硬くなりすぎたり脆くなりすぎたりするおそれがある。
【0022】
また、ピッチ系炭素繊維:気相成長炭素繊維の配合比が、体積比で0.99:0.01〜0.1:0.9の範囲外となる場合には、ピッチ系炭素繊維又は気相成長炭素繊維を単独で配合した場合の特性に近づき、熱伝導性が低下する傾向がある。
【0023】
すなわち、本発明においては、ピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維を上記のような特徴的な比率で配合することにより、ピッチ系炭素繊維又は気相成長炭素繊維を単独で配合した場合よりも熱伝導性を向上させており、より具体的には、熱伝導率を1.2倍から最大で3倍以上にまで向上させている。
【0024】
一般に、炭素系フィラーの充填量が増大すれば、相応に熱伝導率は向上するものと考えられる。しかし、本発明の場合は、フィラーの充填量を増大させるのではなく、ピッチ系炭素繊維と気相成長炭素繊維を混合することで、ピッチ系炭素繊維や気相成長炭素繊維を単独で使用する場合よりも、熱伝導率を向上させている。
【0025】
このような傾向は、単に二種類の炭素系フィラーを混合するだけで見られる傾向ではなく、ピッチ系炭素繊維と気相成長炭素繊維を混合したときに発現する特異な傾向である。例えば、ピッチ系炭素繊維や気相成長炭素繊維以外の炭素系フィラーとしては、PAN系炭素繊維、黒鉛、カーボンブラックなどが一般的に知られているが、これらを相互に組み合わせたり、ピッチ系炭素繊維や気相成長炭素繊維のいずれかと組み合わせたりしても、通常、熱伝導率は、二種類の炭素系フィラーの中間的な値にしかならず、本発明の如く熱伝導性を向上させることは難しい。
【0026】
また、粒子径が異なる二種類のフィラーを混合することで、いずれか一方のフィラーを単独で配合する場合よりも、フィラーの充填密度を高める技術は存在する。しかし、上述の通り、本発明の場合は、フィラーの充填量を増大させることなく、熱伝導率を向上させているのであり、この点で、フィラーの充填密度を高める技術とは相違する技術であると言える。
【0027】
以上説明したような熱伝導性樹脂組成物であれば、マトリックス樹脂に対しピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維を充填してあり、それらピッチ系炭素繊維:気相成長炭素繊維の配合比が、体積比で0.99:0.01〜0.1:0.9とされているので、熱伝導性にきわめて優れた樹脂組成物となる。
【0028】
そのため、従来品と同程度の熱伝導性を確保すればよい場合には、ピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維の充填量を低減することができ、マトリックス樹脂の特性を活かした樹脂組成物とすることができる。
【0029】
また、熱伝導性フィラーの充填量を従来品と同程度としてもよい場合には、熱伝導率を1.2倍から3倍以上にまで向上させることができる。したがって、本発明の熱伝導性樹脂組成物を利用して、放熱対策が必要な箇所に用いる部品などを成形することができ、これにより、従来以上に放熱効率を改善し、発熱箇所の温度上昇を抑制するといった対策をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ピッチ系炭素繊維:気相成長炭素繊維の配合比と熱伝導向上率の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の実施形態について一例を挙げて説明する。
スチレン系エラストマー〔スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)、分子量:30万、スチレン含有率:30重量%、製品名:セプトン(登録商標)4077、株式会社クラレ製〕をマトリックス樹脂として使用し、このマトリックス樹脂100重量部に対し、700重量部の軟化剤を添加、混合した。軟化剤としては、700重量部の炭化水素系プロセスオイル〔パラフィン系プロセスオイル、40℃での動粘度:30.9mm2/s、分子量:400、SP値7.4〕を利用した。
【0032】
そして、上記のような樹脂組成物に対し、さらに熱伝導性フィラーとして、2種類の炭素繊維(以下、一方をフィラーA,他方をフィラーBと称する。)を配合した。
一方の炭素繊維(フィラーA)は、粉末状のピッチ系炭素繊維(繊維径8μm、繊維長200μm、真密度が1.5〜2.3g/cm3、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)以上)、他方の炭素繊維(フィラーB)は、気相成長炭素繊維(昭和電工株式会社製、品名:VGCF(登録商標)−H、平均繊維径150nm、繊維長10〜20μm)とした。
【0033】
熱伝導性フィラーの充填量については、上記フィラーAとフィラーBの合計で、上述の樹脂組成物(スチレン系エラストマー+軟化剤)に対し10〜40体積%となる範囲内で複数通りの充填量を設定し、さらに、それら複数通りの充填量それぞれについて、フィラーAとフィラーBの配合比率が異なるものを、複数通り用意した。
【0034】
こうして得られた複数種の試料について、迅速型熱伝導率計(QTM−500、京都電子工業社製)を使用して、熱伝導率(W/m・k)を測定した。その熱伝導率の測定結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
この表1からは、フィラーA,B合計の充填量が多くなるほど熱伝導率の絶対値が向上する傾向が見られる。ただし、フィラーBの比率が高い場合には、フィラーA,B合計の充填量が多くなると成形性に問題が生じることもわかる。
【0037】
また、表1において、フィラーB比率が0の事例は、フィラーAのみが単独で配合されている事例、フィラーB比率が1の事例は、フィラーBのみが単独で配合されている事例であるが、充填量が同じである場合、フィラーAとフィラーBの両方が配合されていると、フィラーA又はフィラーBが単独で配合されているものよりも、熱伝導率が向上する傾向があることがわかる。
【0038】
この点をより一層明確にするため、複数通り設定した異なる充填量ごとに、フィラーB比率が0の事例とフィラーB比率が1の事例のうち、熱伝導率が高い方を基準試料として、この基準試料の熱伝導率に対する各試料の熱伝導率の比率(倍率)を算出した。なお、充填量25体積%以上になると、フィラーB比率が1の事例は成形が不可能になるので、この場合は、フィラーB比率が0の事例を基準試料とした。結果を表2及び図1に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
この表2から明らかなように、充填量がフィラーA,B合計で15〜40体積%とされ、フィラーA,Bの配合比が、体積比で0.99:0.01〜0.1:0.9とされていると、熱伝導率を1.2倍から最大で3倍以上にまで向上させることができることがわかる。
【0041】
このことは、図1のグラフを見ても明らかであり、充填量が10体積%の場合は、フィラーA,Bの配合比を変えても、明確な極大値が現れるグラフにはならないものの、充填量が15体積%以上になると、グラフの左右両端(フィラーA,Bいずれか単独)よりも中央に極大値が現れるグラフになり、2種類の炭素繊維を混合することで熱伝導性が特異的に向上していることがわかる。
【0042】
次に、異なる2種類の炭素系フィラーを混合すれば、どのような組み合わせでも熱伝導性が特異的に向上するのか否かを検証するため、繊維長が異なる2種類のピッチ系炭素繊維(繊維長:200μm、50μm)、気相成長炭素繊維、及び人造黒鉛、以上4種の炭素系フィラーを用意した。
【0043】
これら各フィラーの中から2種を選んで、それぞれをマトリックス樹脂に対し、単独配合(すなわち、配合比1:0又は0:1)するか、2種を等量混合(すなわち、配合比0.5:0.5)し、各試料の熱伝導率を測定した。フィラーの配合量については、各試料ともフィラーA,Bの総量を20体積%とした。熱伝導率の測定結果を表3に示す。また、表3において、熱伝導率の横に併記した括弧内には、表2と同様の倍率も示す。
【0044】
【表3】

【0045】
この表3からは、ピッチ系炭素繊維の繊維長が200μm、50μmいずれの場合でも、気相成長炭素繊維と混合したものを熱伝導性フィラーとして充填することで、ピッチ系炭素繊維や気相成長炭素繊維を単独配合したものよりも、熱伝導率が向上することがわかる。
【0046】
具体的には、ピッチ系炭素繊維と気相成長炭素繊維の比率A:B=0.5:0.5の場合、表3に示した括弧内の数値は、1.73,1.24となっており、これはピッチ系炭素繊維を単独配合した場合よりも熱伝導性に優れるのはもちろんのこと、気相成長炭素繊維を単独配合した場合よりも熱伝導性に優れていることを示している。
【0047】
一方、ピッチ系炭素繊維と気相成長炭素繊維を配合した事例以外に関しては、いずれか一方がピッチ系炭素繊維か気相成長炭素繊維である事例、双方ともピッチ系炭素繊維又は気相成長炭素繊維ではない事例、いずれの事例とも、比率A:B=0.5:0.5の場合、表3に示した括弧内の数値は、0.61,0.90,0.93,0.67となっている。
【0048】
これは、基準試料に配合したフィラーを単独で使用する方が、熱伝導性が良好であることを示しており、換言すれば、2種のフィラーを混合したことで、熱伝導率の低下を招いていることを意味している。したがって、2種類のフィラーを混合することで、熱伝導率向上のための相乗効果を発揮させるには、ピッチ系炭素繊維と気相成長炭素繊維を組み合わせることが重要であることがわかる。
【0049】
次に、ピッチ系炭素繊維と気相成長炭素繊維を組み合わせた熱伝導性フィラーと、マトリックス樹脂との相性を検証するため、上述したスチレン系エラストマーの他、シリコーンゴム、ポリプロピレンをマトリックス樹脂として利用し、各試料の熱伝導率を測定した。フィラーの配合量については、各試料ともフィラーA,Bの総量を20体積%とした。測定結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
この表4からは、マトリックス樹脂がスチレン系エラストマー、シリコーンゴム、及びポリプロピレンのいずれとなった場合でも、ピッチ系炭素繊維と気相成長炭素繊維を組み合わせた熱伝導性フィラーは、ピッチ系炭素繊維や気相成長炭素繊維を単独で配合した場合より、熱伝導性を改善することがわかる。したがって、本発明は、マトリックス樹脂の物性に依存することなく、熱伝導性の改善を図ることが可能な技術であると考えられる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
例えば、上記実施形態では、具体的な物質名をいくつか例示したが、本発明の要旨は、マトリックス樹脂に対しピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維を特定の配合比で充填する点にあり、マトリックス樹脂は、上記実施形態で例示したもの以外であっても構わない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂に対しピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維を充填してなり、
前記ピッチ系炭素繊維及び前記気相成長炭素繊維は、前記熱伝導性樹脂組成物全体に対する充填量が、両炭素繊維の合計で15〜40体積%とされており、且つ、ピッチ系炭素繊維:気相成長炭素繊維の配合比が、体積比で0.99:0.01〜0.1:0.9とされている
ことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記マトリックス樹脂は、汎用プラスチック及びエンジニアリングプラスチックのいずれか一方又は両方であり、
前記汎用プラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、アクリロニトリルスチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、塩素化ポリエチレン、及びエチレン酢酸ビニル共重合体から選ばれる1種又は2種以上であり、
前記エンジニアリングプラスチックは、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルホン、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、及びポリアミドイミドから選ばれる1種又は2種以上、もしくはこれらの共重合体である
ことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記マトリックス樹脂は、熱可塑性エラストマーであり、
前記熱可塑性エラストマーは、熱可塑性スチレン、熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステル系エラストマー、熱可塑性加硫エラストマー、熱可塑性塩化ビニル系エラストマー、熱可塑性ポリアミド系エラストマー、有機過酸化物で部分架橋してなるブチルゴム系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種又は2種以上、もしくはこれらの共重合体、あるいはスチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体からなる熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン及びスチレン系エラストマーの混合物又は共重合体である
ことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記マトリックス樹脂は、ゴムであり、
前記ゴムは、ポリブタジエン、ニトリルゴム、天然ゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、フッ素系ゴム、及びシリコーンゴムから選ばれる1種又は2種以上、もしくはこれらの共重合体である
ことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂であり、
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びケイ素樹脂から選ばれる1種又は2種以上、もしくはこれらの共重合体ある
ことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ピッチ系炭素繊維は、真密度が1.5〜2.3g/cm3、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)以上、繊維径が5〜15μmである
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記気相成長炭素繊維は、繊維径が0.01〜0.5μm、繊維長が1〜500μmである
ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−52020(P2012−52020A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195731(P2010−195731)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】