説明

熱伝導率測定装置、熱伝導率演算装置、熱伝導率算出プログラム、及び熱伝導率測定方法

【課題】板状の被測定片を垂直配置や真空中に配置しなくても、当該被測定片の熱伝導率を求めることができる熱伝導率測定装置、熱伝導率演算装置、熱伝導率算出プログラム、及び熱伝導率測定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、被測定片12の一端部13aを加熱し、この被測定片12の一端部13aから他端部13bに向う方向に沿って連続又は断続した当該被測定片12の温度分布を検出し、被測定片12の熱伝導抵抗Rcd1と被測定片12の熱伝達抵抗Rcv1との比である熱抵抗比mと、板状の部材16の一端部17aを加熱したときの当該部材16における一端部17aから他端部17bに向かう方向に沿った板状部材16温度分布に基づく演算用熱伝達率h,h2aと、被測定片12の温度分布と、から当該被測定片12の熱伝導率kを求めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の被測定片の熱伝導率を測定するための熱伝導率測定装置、熱伝導率演算装置、熱伝導率算出プログラム、及び熱伝導率測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、板状の被測定片の熱伝導率kを測定する方法として、以下の方法が知られている。
【0003】
この方法では、図20に示されるように、被測定片100をその主面部100aが垂直となる姿勢で配置(垂直配置)し、自然空冷下で一方の端部102をヒーターH等で加熱する。この被測定片100において、一方の端部102から他方の端部104に向かう方向に沿った複数箇所(図20では7箇所)x1,x2,…で被測定片100の温度をそれぞれ検出する。そして、求めた被測定片100の各位置での温度と、計算式(具体的には、垂直配置された平板の自然対流式と放射式)と、を用いて自然空冷下で垂直配置された被測定片100の熱伝達率hを算出する。この熱伝達率hは、他の姿勢で配置された平板の各位置での温度を検出して前記他の姿勢の平板に対する計算式によって求めた熱伝達率hに比べて誤差が少ない。そのため、上記の計算式(自然対流式及び放射式)によって求めた被測定片の熱伝達率hと、上記のようにして検出した被測定片100の各位置x1,x2,…での温度と、フィン効率を算出するための計算式とから被測定片100の熱伝導率kを精度よく導出することができる。
【0004】
一方、板状の被測定片の熱伝導率kを測定する方法として、非特許文献1に記載の方法も知られている。この方法は、図21に示されるように、真空中に配置された被測定片100の一方の端部(基部)102を冷却部材106で挟み込み、被測定片100の他方の端部である先端部104、及び基部102側の冷却部材106の近傍にヒーターH1,H2をそれぞれ設ける。そして、ヒーターH1,H2によって被測定片100を加熱し、被測定片100の温度を基部102から先端部104に向う方向に沿って複数箇所(図21では3箇所)x1,x2,…で測定する。
【0005】
真空中に配置されているので被測定片100は、真空断熱状態となっている。このため、ヒーターH1,H2から冷却部材106に向けて被測定片100中を流れる熱の被測定片100表面から当該被測定片100の周囲の空間への放熱が無視できる。そのため、被測定片100の熱伝達率hを考慮することなく、被測定片100内の熱流Qと被測定片100の各位置x1,x2,…で測定された温度及び被測定片100のヒーターH1,H2の位置における温度に基づく温度勾配とから所定の計算式によって被測定片100の熱伝導率kを導出することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Heat Transfer, AUGUST 1997,Vol.119,P401-405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記一つ目の熱伝導率の測定方法では、熱伝達率hを算出する際に、垂直配置した平板の自然対流式及び放射式を用いて被測定片100の熱伝導率kを求めている。
【0008】
一方、上記二つ目の熱伝導率の測定方法(非特許文献1に記載の方法)では、熱伝達率hを求める代わりに、被測定片100を真空中に配置して真空断熱状態とし、これにより、被測定片100中を流れるヒーターH1,H2からの熱流Qの熱損が無視できる状態にして、この熱流Qと被測定片100の温度勾配とから熱伝導率kを求めている。そのため、被測定片100が空気中に配置されると、熱伝導率kを精度よく求めることができない。
【0009】
そこで、板状の被測定片を垂直配置や真空中に配置しなくても、当該被測定片の熱伝導率を求めることができる熱伝導率測定装置、熱伝導率演算装置、熱伝導率算出プログラム、及び熱伝導率測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明は、板状の被測定片の熱伝導率を導出するための熱伝導率測定装置であって、前記被測定片の一端部を加熱する加熱部と、前記被側定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に当該被測定片の温度分布を検出する温度分布検出部と、前記被測定片の熱伝導率を算出する演算装置と、を備える。そして、前記演算装置は、演算用熱伝達率を格納する記憶部と、前記被測定片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第1の熱伝導抵抗と前記被測定片の表面から当該被測定片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第1の熱伝達抵抗との比である第1の熱抵抗比と、前記記憶部に格納される演算用熱伝達率と、前記温度分布検出部により検出された前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める被測定片熱伝導率導出部と、を有し、前記演算用熱伝達率は、熱伝導率が既知の板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った板状部材温度分布に基づいている。
【0011】
本発明の熱伝導率測定装置によれば、熱伝導率が既知の板状の部材の一端から他端に向かう方向に沿った温度分布(板状部材温度分布)に基づいて導出される熱伝達率(演算用熱伝達率)を利用することによって、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片の熱伝達率を算出しなくても、被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0012】
具体的に、被測定片の熱伝達率と、被測定片の温度分布(各位置の温度)から求められる第1の熱抵抗比とが分れば、これらを利用して被測定片の熱伝導率を求めることができる。そこで、熱伝導率が既知の板状の部材の熱伝導率と温度分布とから求まる前記板状の部材の熱伝達率(演算用熱伝達率)を被測定片の熱伝達率と擬制することにより、この演算用熱伝達率と被測定片の温度分布とから被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0013】
このように、本発明の熱伝導率測定装置によれば、熱伝導率が既知の板状の部材の熱伝達率を被測定片の熱伝達率と擬制することにより、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式を用いた演算を行わなくても被測定片の熱伝導率を導出することができるため、被測定片を垂直配置しなくてもよい。
【0014】
しかも、被測定片と当該被測定片の周囲の空間との間の熱移動を扱うための係数である被測定片の熱伝達率(詳しくは、被測定片の熱伝達率として擬制した演算用熱伝達率)を用いて被測定片の熱伝導率を求めているため、演算結果には被測定片から周囲の空間への放熱の影響が含まれており、これにより、被測定片を真空中に配置して真空断熱状態としなくても被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0015】
具体的に、前記演算用熱伝達率は、前記板状部材温度分布の関数として前記記憶部に格納されてもよい。このような温度分布の関数として記憶部に格納された演算用熱伝達率を利用すれば、被測定片の温度分布を測定するだけで、演算により被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0016】
また、前記加熱部は、熱伝導率が既知の板状の部材である比較片の一端部を加熱可能であり、前記温度分布検出部は、前記比較片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に当該比較片の温度分布を検出可能であり、前記演算装置は、前記比較片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第2の熱伝導抵抗と前記比較片の表面から当該比較片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第2の熱伝達抵抗との比である第2の熱抵抗比と、前記比較片の熱伝導率と、前記温度分布検出部により検出された前記比較片の温度分布と、から当該比較片の熱伝達率を求める比較片熱伝達率導出部を有し、前記記憶部は、前記比較片熱伝達率導出部で求めた比較片の熱伝達率を前記演算用熱伝達率として格納してもよい。このように、熱伝導率が既知の比較片を実際に加熱してその温度分布から求めた熱伝達率を演算用熱伝達率として利用することによっても、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片の熱伝達率を算出しなくても、被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0017】
この場合、一つの加熱部と一つの温度分布検出部とにより、比較片と被測定片との温度分布をそれぞれ求めて被測定物の熱伝導率を求めてもよく、また、異なる加熱部によって比較片と被測定片とを別々に加熱して異なる温度分布検出部によって比較片と被測定片との温度分布を別々に検出してもよい。
【0018】
加熱と温度分布の検出とを別々に行う場合には、前記加熱部は、前記被測定片の一端部を加熱する被測定片加熱部と、熱伝導率が既知の板状の比較片の一端部を加熱する比較片加熱部とを有し、前記温度分布検出部は、被側定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に当該被測定片の温度分布を検出する被測定片温度分布検出部と、前記比較片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に当該比較片の温度分布を検出する比較片温度分布検出部と、を有し、前記被測定片熱伝導率導出部は、前記第1の熱抵抗比と、前記記憶部に格納される演算用熱伝達率と、前記被測定片温度分布検出部により検出された前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求めるようにしてもよい。
【0019】
本発明に係る熱伝導率測定装置においては、前記被測定片の周囲と前記比較片の周囲とを同じ雰囲気条件に制御するための雰囲気制御手段を備えてもよい。尚、本発明における雰囲気条件とは、被測定片の周囲及び比較片の周囲の風速や風向、温度等のことをいう。
【0020】
かかる構成では、被測定片及び比較片の周囲の雰囲気条件を雰囲気制御手段によって制御することにより、同じ雰囲気条件下で被測定片の温度分布と比較片の温度分布とをそれぞれ検出することができる。これにより、比較片の熱伝達率を用いて求めた被測定片の熱伝導率から、被測定片及び比較片の温度分布を測定したときの雰囲気条件の差異に基づく影響を排除することができる。即ち、比較片の熱伝達率を用いて被測定片の熱伝導率を算出するときの演算において雰囲気条件の差異に基づく影響が排除されるため、被測定片の熱伝導率をより精度よく求めることができる。
【0021】
前記被測定片熱伝導率導出部は、前記第1の熱抵抗比と前記比較片熱伝達率導出部で求められた比較片の熱伝達率と前記被測定片温度分布検出部で検出された被測定片の温度分布とから当該被測定片の熱伝導率を求める第1導出部と、前記被測定片が被測定薄片と熱伝導率が既知で且つ板状の1又は複数の厚さ調整薄片とを積層することにより構成されている場合に、前記第1導出部で求められた被測定片の熱伝導率と当該被測定片の厚さと前記被測定薄片の厚さと前記厚さ調整薄片の熱伝導率と当該厚さ調整薄片の厚さとから、前記被測定薄片の熱伝導率を求める第2導出部と、を有してもよい。
【0022】
かかる構成によれば、薄く熱伝導率を求めることが困難な試験薄片であっても、当該試験薄片と厚さ調整薄片とを積層して被測定片とすることにより、試験薄片の熱伝導率を比較的正確に求めることができる。即ち、試験薄片と厚さ調整薄片とを積層して、一端部から他端部に向う熱流の通過する断面積を大きくすることにより一端部から他端部に向って流れる熱の温度勾配を演算に適した大きさとすることができ、これにより、薄く熱伝導率が小さな試験薄片の熱伝導率を求めることが可能となる。
【0023】
また、厚さ調整薄片を用いることにより、試験薄片が1つあれば、この試験薄片の熱伝導率を求めることができる。
【0024】
互いに同一又は異なる熱伝導率の複数の比較薄片を積層することにより構成される比較片を備えることが好ましい。
【0025】
かかる構成によれば、複数の比較薄片を組み合わせることによって比較片の温度分布(温度勾配)を被測定片の温度分布(温度勾配)と近似させることにより、比較片の熱伝導率と被測定片の熱伝導率とが近似するため、この比較片の熱伝達率を用いて求めた被測定片の熱伝導率の精度がより向上する。
【0026】
また、上記課題を解決すべく、本発明は、板状の被測定片の熱伝導率を算出するための熱伝導率演算装置であって、演算用熱伝達率を格納すると共に、前記被測定片の一端部が加熱された状態で当該被測定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に検出された当該被測定片の温度分布を格納する記憶部と、前記被測定片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第1の熱伝導抵抗と前記被測定片の表面から当該被測定片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第1の熱伝達抵抗との比である第1の熱抵抗比と、前記記憶部に格納される演算用熱伝達率と、前記記憶部に格納される前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める被測定片熱伝導率導出部と、を備える。そして、前記演算用熱伝達率は、熱伝導率が既知の板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った板状部材温度分布に基づいている。
【0027】
本発明の熱伝導率測定装置によれば、熱伝導率が既知の板状の部材の一端から他端に向かう方向に沿った板状部材温度分布に基づく演算用熱伝達率を利用することによって、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片の熱伝達率を算出しなくても、被測定片の熱伝導率を求めることができる。これにより、被測定片を垂直配置しなくても当該被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0028】
しかも、熱伝達率(演算用熱伝達率)を用いて被測定片の熱伝導率を求めているため、演算結果には被測定片から周囲の空間への放熱の影響が含まれており、これにより、被測定片を真空中に配置して真空断熱状態としなくても被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0029】
具体的に、前記演算用熱伝達率は、前記板状部材温度分布の関数として前記記憶部に格納されてもよい。このような温度分布の関数として記憶部に格納される演算用熱伝達率を利用すれば、被測定片の温度分布が当該熱伝導率演算装置に入力されるだけで、被測定片の熱伝導率が求まる。
【0030】
また、前記記憶部は、熱伝導率が既知の板状の部材である比較片の当該熱伝達率と、前記比較片の一端部が加熱された状態で当該比較片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に検出された当該比較片の温度分布と、を格納し、前記演算部は、前記比較片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第2の熱伝導抵抗と前記比較片の表面から当該比較片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第2の熱伝達抵抗との比である第2の熱抵抗比と、前記記憶部に格納される比較片の熱伝導率と、前記記憶部に格納される比較片の温度分布と、から当該比較片の熱伝達率を求める比較片熱伝達率導出部を有し、前記比較片熱伝達率導出部は、当該比較片熱伝達率導出部において求められた比較片の熱伝達率を前記演算用熱伝達率として前記記憶部に格納させてもよい。
【0031】
このように、熱伝導率が既知の比較片を実際に加熱してその温度分布から求めた熱伝達率を当該熱伝導率演算装置に入力し、これを演算用熱伝達率として利用することによっても、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片の熱伝達率を算出しなくても、被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0032】
また、上記課題を解決すべく、本発明は、板状の被測定片の熱伝導率を算出するための熱伝導率算出プログラムであって、前記被測定片の一端部が加熱された状態で、当該被測定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に検出された被測定片の温度分布と、板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った第1の温度分布に基づく演算用熱伝達率と、をコンピュータが受け取ることで、このコンピュータを、前記被測定片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第1の熱伝導抵抗と前記被測定片の表面から当該被測定片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第1の熱伝達抵抗との比である第1の熱抵抗比と、前記演算用熱伝達率と、前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める被測定片熱伝導率導出手段として機能させる。
【0033】
このようなプログラムをコンピュータに読み込ませることにより、被測定片の温度分布と熱伝導率が既知の板状の部材の温度分布に基づく演算用熱伝達率とをコンピュータに入力すれば、当該コンピュータが被測定片の熱伝導率を算出する。
【0034】
また、このプログラムでは、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片の熱伝達率を算出しなくても、被測定片の熱伝導率を求めることができる。そのため、コンピュータに入力される被測定片の温度分布は、垂直配置した被測定片の温度分布でなく他の姿勢(例えば、水平配置等)で配置した被測定片の温度分布でもよい。さらに、このプログラムでは、熱伝達率(演算用熱伝達率)を用いて被測定片の熱伝導率を求めているので、演算結果には被測定片から周囲の空間への放熱の影響が含まれているため、コンピュータに入力される被測定片の温度分布は、真空中でなく空気中に配置した被測定片の温度分布でもよい。
【0035】
また、上記課題を解決すべく、本発明は、板状の被測定片の熱伝導率を導出するための熱伝導率測定方法であって、前記被測定片の一端部を加熱し、この被測定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続又は断続した当該被測定片の温度分布を検出する被測定片温度分布検出工程と、前記被測定片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第1の熱伝導抵抗と前記被測定片の表面から当該被測定片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第1の熱伝達抵抗との比である第1の熱抵抗比と、板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った板状部材温度分布に基づく演算用熱伝達率と、前記被測定片温度分布検出工程で検出された前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める被測定片熱伝導率導出工程と、を備える。
【0036】
本発明の熱伝導率測定方法によれば、被測定片の温度分布を検出し、熱伝導率が既知の板状の部材の一端から他端に向かう方向に沿った板状部材温度分布に基づく演算用熱伝達率を利用することによって、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片の熱伝達率を算出しなくても、被測定片の熱伝導率を求めることができる。これにより、被測定片を垂直配置しなくても当該被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0037】
しかも、熱伝達率(演算用熱伝達率)を用いて被測定片の熱伝導率を求めているため、演算結果には被測定片から周囲の空間への放熱の影響が含まれており、これにより、被測定片を真空中に配置して真空断熱状態としなくても被測定片の熱伝導率を求めることができる。
【0038】
尚、演算用熱伝達率は、前記板状部材温度分布の関数として予め求められていてもよく、また、熱伝導率が既知の板状部材(比較片)を実際に加熱してその温度分布から求めてもよい。
【0039】
比較片を実際に加熱して得られた温度分布から演算用熱伝達率を求める場合、熱伝導率が既知の板状の比較片の一端部を加熱し、この比較片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続又は断続した当該比較片の温度分布を検出する比較片温度分布検出工程と、前記比較片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第2の熱伝導抵抗と前記比較片の表面から当該比較片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第2の熱伝達抵抗との比である第2の熱抵抗比と、前記比較片の熱伝導率と、前記比較片温度分布検出工程で検出された前記比較片の温度分布と、から当該比較片の熱伝達率を求める比較片熱伝達率導出工程と、をさらに備え、前記被測定片熱伝導率導出工程は、前記比較片熱伝達率導出工程で求められる前記比較片の熱伝達率を前記演算用熱伝達率として前記被測定片の熱伝導率を求めるようにしてもよい。
【0040】
この場合、前記比較片温度分布検出工程の前に、互いに同一又は異なる熱伝導率の複数の比較薄片を積層することにより前記比較片を形成する比較片形成工程を備え、前記比較片形成工程では、前記比較片温度分布検出工程で検出される温度分布が前記被測定片温度分布検出工程で検出される被測定片の温度分布に近くなるように、前記互いに同一又は異なる熱伝導率の複数の比較薄片が組み合わされて前記比較片が形成されることが好ましい。
【0041】
かかる構成によれば、比較片の温度分布(温度勾配)が被測定片の温度分布(温度勾配)と近似するように複数の比較薄片を組み合わせて比較片を形成することにより、比較片の熱伝導率と被測定片の熱伝導率とが近似するため、この比較片の熱伝達率を用いて求めた被測定片の熱伝導率の精度がより向上する。
【0042】
前記被測定片温度分布検出工程の前に、複数の被測定薄片を積層することにより前記被測定片を形成する被測定片作成工程を備えてもよい。
【0043】
かかる構成によれば、薄く又は熱伝導率の小さな試験薄片でも、これら試験薄片を複数積層して被測定片とすることにより、試験薄片の熱伝導率を求めることができる。即ち、同じ材質の板状部材であれば一枚で求めた熱伝導率も複数枚重ねて求めた熱伝導率も同じ値となることを利用し、複数の試験薄片を積層して被測定片を作成することによって、一端部から他端部に向う熱流の通過する断面積を大きくして一端部から他端部に向かって流れる熱の温度勾配を演算に適した大きさとし、これにより、薄く熱伝導率が小さな試験薄片の熱伝導率も求めることが可能となる。
【0044】
また、前記被測定片温度分布検出工程の前に、被測定薄片と熱伝導率が既知で且つ板状の1又は複数の厚さ調整薄片とを積層することにより前記被測定片を形成する被測定片形成工程と、前記被測定片熱伝導率導出工程で求められた前記被測定片の熱伝導率と当該被測定片の厚さと前記被測定薄片の厚さと前記厚さ調整薄片の熱伝導率と当該厚さ調整薄片の厚さとから、前記被測定薄片の熱伝導率を求める被測定薄片熱伝導率導出工程と、を備えてもよい。
【0045】
かかる構成によれば、被測定薄片と厚さ調整薄片とを積層して被測定片を作成することにより、一端部から他端部に向う熱流の通過する断面積を大きくして一端部から他端部まで流れる熱の温度勾配を演算に適した大きさとすることができ、これにより、薄く又は熱伝導率が小さな被測定片の熱伝導率も求めることができる。また、厚さ調整薄片を用いて被測定片を作成するため、被測定薄片が少なく被測定薄片のみを積層しても十分な厚さの被測定片を作成できない場合でも、この被測定薄片の熱伝導率を求めることができる。
【発明の効果】
【0046】
以上より、本発明によれば、板状の被測定片を垂直配置や真空中に配置しなくても、当該被測定片の熱伝導率を求めることができる熱伝導率測定装置、熱伝導率演算装置、熱伝導率算出プログラム、及び熱伝導率測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態に係る熱伝導率測定装置に被測定片及び比較片を設置した状態の構造を概略的に示した平面図である。
【図2】図1の熱伝導率測定装置の構造を概略的に示した正面図である。
【図3】被測定片本体と厚さ調整薄片とを積層した被測定片の構成を説明するための図である。
【図4】比較薄片を積層した比較片の構成を説明するための図である。
【図5】比較薄片を積層した比較片における比較薄片の組み合わせ毎の等価熱伝導率を示す図である。
【図6】被測定片及び比較片の内部に温度センサを配置した構成を説明するための図である。
【図7】被測定片及び比較片における各符号を説明するための図である。
【図8】第2実施形態に係る熱伝導率測定装置に被測定片及び比較片を設置した状態の構造を概略的に示した平面図である。
【図9】図8の熱伝導率測定装置の構造を概略的に示した正面図である。
【図10】図10(A)は、第3実施形態に係る熱伝導率測定装置に被測定片及び比較片を設置した状態の構造を概略的に示した正面図であり、図10(B)は、図10(A)の熱伝導率測定装置の測定部に断熱部材を設置した状態を示した図である。
【図11】図10(B)のXI−XI断面図である。
【図12】第3実施形態の熱伝導率測定装置における温度センサ部の構造を概略的に示した平面図である。
【図13】他実施形態の温度検出部の構造を概略的に示した正面図である。
【図14】他実施形態の温度検出部の構造を概略的に示した正面図である。
【図15】他実施形態の測定部における取付部材を説明するための図であって、図15(A)は被測定片を設置する前の状態を示し、図15(B)は取付部材に被測定片を設置した状態を示す図である。
【図16】他実施形態に係る熱伝導率測定装置に被測定片(又は比較片)を配置した状態の構造を概略的に示した平面図である。
【図17】他実施形態に係る熱伝導率測定装置に被測定片を配置した状態の構造を概略的に示した平面図である。
【図18】軟質材料の熱伝導率を測定するときの被測定片の構造を説明するための図である。
【図19】軟質材料の熱伝導率とこれを挟み込む厚さ調整薄片の厚さに対する被測定片の有効熱伝導率との関係を示す図である。
【図20】従来の熱伝導率測定方法を説明するための図である。
【図21】従来の熱伝導率測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0049】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態による熱伝導率測定装置に被測定片及び比較片を設置した状態の構造を概略的に示した平面図であり、図2は、図1に示した熱伝導率測定装置の構造を概略的に示した正面図である。
【0050】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態による熱伝導率測定装置10の構成について説明する。
【0051】
本実施形態の熱伝導率測定装置10は、板状の被測定片12の主面部12aに沿った方向の熱伝導率kを測定するものであり、図1及び図2に示すように、被測定片12と比較片16とを設置可能な測定部20と、被測定片12の熱伝導率kを算出する演算装置(熱伝導率演算装置)40と、を備える。
【0052】
測定部20に設置される被測定片12は、プリント基板や高熱伝導率のグラファイト板等の板状の部材である。被測定片12は、一方向に直線状に延びる細長い形状である。この被測定片12は、図1及び図2に示すように一端部13aが保持された状態で熱伝導率測定装置10に設置され、その長手方向の熱伝導率kが測定される。被測定片12は、単一の部材で構成される場合と、図3に示すように、被測定片本体(被測定薄片)14と、1又は複数の厚さ調整薄片15とを積層することにより構成される場合とがある。本実施形態の被測定片12は、図1において左右に長い矩形状を有し、例えば、長さが10mm〜1m、幅が5mm〜100mm、厚さが0.1mm〜10mmである。
【0053】
厚さ調整薄片15は、被測定片本体14が薄くて当該熱伝導率k1aが測定できない場合又は被測定片本体14の熱伝導率k1aが小さ過ぎて当該熱伝導率k1aが測定できない場合に、この被測定片本体14と積層して被測定片本体14よりも熱伝導率kの大きな被測定片12を構成することにより、被測定片本体14の熱伝導率k1aの測定を可能にするためのものである。この厚さ調整薄片15は、熱伝導率kが既知の材質で形成されている。このため、被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層した被測定片12の熱伝導率kを求めることができれば、この熱伝導率kから被測定片本体14の熱伝導率k1aを演算によって求めることができる。
【0054】
本実施形態では、例えば、被測定片本体14は、長さが10mm〜1m、幅が5mm〜100mm、厚さが0.1mm〜10mmであり、厚さ調整薄片15は、長さが10mm〜1m、幅が5mm〜100mm、厚さが0.1mm〜10mmである。但し、被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層した被測定片12が、上記のように、長さが10mm〜1m、幅が5mm〜100mm、厚さが0.1mm〜10mmとなるように、被測定片本体14と厚さ調整薄片15との長さ、幅、及び厚さがそれぞれ設定される。
【0055】
本実施形態の被測定片12では、被測定片本体14と厚さ調整薄片15とが両面テープ18により接着されているが、これに限定されず、接着剤等で接着されてもよい。
【0056】
測定部20に設置される比較片16は、熱伝導率kが既知の板状部材であり、熱伝達率hを求めるために用いられる。即ち、本実施形態の熱伝導率測定装置10は、熱伝導率kが既知の比較片16から求めた当該比較片16の熱伝達率hを被測定片12の熱伝達率hと擬制し、この熱伝達率hを用いることで被測定片12の熱伝導率kを求める。これら熱伝達率hや熱伝導率kは部材の形状により変化するため、比較片16の形状は、被測定片12の形状と近似している(被測定片12と同じ形状を含む)ことが好ましい。
【0057】
比較片16は、図4(A)乃至図4(C)に示すように、熱伝導率kを調整することができるように複数(本実施形態では2枚)の比較薄片16a,16b,16c,…を積層することにより構成される。各比較薄片16a,16b,16c,…は、互いに熱伝導率k2a,k2b,k2c,…や厚さが異なる。このように互いに熱伝導率k2a,k2b,k2c,…や厚さの異なる比較薄片16a,16b,16c,…を組み合わせ可能とすることによって、後述する加熱時における比較片16の温度分布(温度勾配)を被測定片12の温度分布(温度勾配)に近づけることができる。これにより、比較片16の熱伝導率kと被測定片12の熱伝導率kとを近づけることができ、この熱伝導率kが既知の比較片16から求めた当該比較片16の熱伝達率hを利用して被測定片12の熱伝導率kを求めたときに、この被測定片12の熱伝導率kの精度を向上させることができる。
【0058】
各比較薄片16a,16b,16c,…は、それぞれ熱伝導率k2a,k2b,k2c,…が既知の板状の部材である。これらの比較薄片16a,16b,16c,…は、互いに熱伝導率kや厚さが異なるように形成されている。本実施形態では、比較薄片として、銅板16aとアルミ板16bとSUS板16cとが用いられる。各比較薄片16a,16b,16cは、長さが15cm、幅が2cmであり、材質毎に1mmと0.5mmと0.2mmとの3種類の厚さのものが用意されている。
【0059】
尚、本実施形態の熱伝導率測定装置10では、被測定片12の熱伝導率kを測定するときに比較片16の熱伝導率kが必要となるため、各比較薄片16a,16b,16cの組み合わせ毎に比較片16の等価熱伝導率kが予め求められている。本実施形態において各比較薄片16a,16b,16cを組み合わせたときの等価熱伝導率kは、図5及び以下の表1に示すような値となる。
【0060】
【表1】

【0061】
本実施形態では、被測定片本体14と厚さ調整薄片15との接着と同様に、各比較薄片同士(例えば、16a,16b)が両面テープ18により接着されている。
【0062】
測定部20は、被測定片12及び比較片16を保持する固定部22と、被測定片12及び比較片16の温度分布を検出する温度検出部(温度分布検出部)30と、固定部22に保持された被測定片12及び比較片16に送風するための送風手段37と、送風手段37から固定部22に保持された状態の被測定片12及び比較片16に向う空気の流れを均一にする整流板38と、を備える。
【0063】
固定部22は、被測定片12の長手方向の一端部(第1端部)13aを保持することにより当該被測定片12を固定する。また固定部22は、比較片16の長手方向の一端部(第3端部)17aを保持することにより当該比較片16を固定する。即ち、本実施形態の固定部22は、被測定片12と比較片16とを同時に保持することができる。具体的に、固定部22は、被測定片12と比較片16とが互いに平行で且つ主面部12a,16aが水平な姿勢となるように、被測定片12の第1端部13aと比較片16の第3端部17aとを上下方向から挟持することで当該被測定片12及び比較片16を固定する。このように、固定部22が被測定片12と比較片16とを並べて保持することにより、当該被測定片12及び比較片16の雰囲気条件が制御し易くなる。尚、本実施形態において、雰囲気条件とは被測定片12の周囲及び比較片16の周囲の風速や風向、温度等のことをいう。
【0064】
固定部22は、支持部23と押え部24とを有する。この固定部22では、支持部23の上端面23aに被測定片12の第1端部13a及び比較片16の第3端部17aを置いた状態で押え部24がこれら第1端部13a及び第3端部17aを上側から支持部23に対して押え付け、その状態で押え部24が支持部23に固定されることにより、被測定片12の第1端部13a及び比較片16の第3端部17aが挟持される。
【0065】
支持部23は、台の上に載置され、又は、固定体に固定されている。本実施形態の支持部23は、断熱部材により形成されている。
【0066】
本実施形態の押え部24は、伝熱性を有する素材(例えば、金属等)で形成される押え部本体25と、通電等によって発熱する発熱体26と、を有する。押え部本体25は、図1において上下方向に長い直方体形状を有し、発熱体26は、柱形状を有する。そして、押え部本体25の中心部を長手方向に貫通する穴25aに発熱体26が嵌め込まれることで押え部24が構成される。これにより、固定部22が被測定片12の第1端部13a及び比較片16の第3端部17aを挟持(保持)した状態で発熱体26が発熱することにより、その熱が第1端部13a及び第3端部17aに伝わる。即ち、本実施形態の固定部22は、被測定片12の第1端部13a及び比較片16の第3端部17aを加熱する加熱部も兼ねている。この押え部24の四隅には、固定用ネジ27が配設されており、この固定用ネジ27によって押え部24が支持部23に対して着脱される。
【0067】
温度検出部30は、被測定片12の温度分布を検出する第1検出部(被測定片温度分布検出部)32と、比較片16の温度分布を検出する第2検出部(比較片温度分布検出部)34と、を備える。
【0068】
第1検出部32は、被測定片12の第1端部13aから当該第1端部13aと反対側の端部(他端部)である第2端部13bに向う方向に沿って当該被測定片12の温度分布を検出し、第2検出部34は、比較片16の第3端部17aから当該第3端部17aと反対側の端部(他端部)である第4端部17bに向う方向に沿って当該比較片16の温度分布を検出する。
【0069】
これら第1検出部32及び第2検出部34は、複数(本実施形態では5つ)の温度センサ36をそれぞれ有する。各温度センサ36は、被測定片12又は比較片16における当該温度センサ36の取り付けられた部位の温度を検出し、この温度に応じた信号を出力する。本実施形態の第1検出部32の各温度センサ36は、被測定片12に対して当該被測定片12の第1端部13aから第2端部13bに向かって間隔をおいて一列に並ぶように配置され、第2検出部34の各温度センサ36は、比較片16に対して当該比較片16の第3端部17aから第4端部17bに向って間隔をおいて一列に並ぶように配置される。これにより、本実施形態の第1検出部32は、被測定片12において、第1端部13aから第2端部13bに向って断続的な温度分布を検出する。同様に、本実施形態の第2検出部34は、比較片16において、第3端部17aから第4端部17bに向かって断続的な温度分布を検出する。
【0070】
これら各温度センサ36は、被測定片12又は比較片16の表面(主面部)12a,16aに接着等によって取り付けられるが、これに限定されず、図6に示すように、被測定片本体14と厚さ調整薄片15との間や、比較薄片(例えば16a,16b)同士の間に挟み込まれてもよい。このように温度センサ36が被測定片12や比較片16の内部に配設されると外乱の影響が抑えられ、これにより、被測定片12や比較片16の温度の検出精度が向上する。その結果、求める被測定片12の熱伝導率kの精度がより向上する。
【0071】
本実施形態では、温度センサ36として熱電対が用いられているが、これに限定されず、他の構成のセンサが用いられてもよい。また、本実施形態の温度センサ36は、接触式のセンサであるが、放射温度計等の非接触式のセンサであってもよい。
【0072】
送風手段37は、被測定片12及び比較片16の雰囲気条件を制御するものである。本実施形態では、送風手段37として送風ファンが用いられる。この送風ファン37は、風速を調整可能に構成され、固定部22に保持された状態の被測定片12及び比較片16の下方位置に配置される。具体的に、送風ファン37は、被測定片12及び比較片16の主面(下面)に対向するように配置、即ち、被測定片12及び比較片16の下面に向けて送風できるように配置されている。このため、送風ファン37が駆動することにより、被測定片12及び比較片16に対して下から上に向けて風が供給される。具体的に、送風ファン37は、被測定片12及び比較片16の固定部22に保持された部位以外の部位に対して下側から風を供給することにより、被測定片12及び比較片16の周囲の風速や風向き等を制御する。本実施形態の送風ファン37は、演算装置40に接続され、当該装置40の送風手段制御部48によって制御される。
【0073】
整流板38は、送風ファン37から被測定片12の下面の各部位に供給される風、及び比較片16の下面の各部位に供給される風が一様となるようにするものであり、送風ファン37と共に被測定片12及び比較片16の雰囲気条件を制御するための雰囲気条件制御手段を構成する。
【0074】
この整流板38は、送風ファン37と固定部22に保持された状態の被測定片12及び比較片16との間に配置される。詳しくは、整流板38は、送風ファン37と固定部22に保持された状態の被測定片12及び比較片16との中間位置において、送風ファン37と被測定片12及び比較片16との間を遮るように配置される。本実施形態では、整流板38として金網が用いられ、この整流板38は、送風ファン37と被測定片12及び比較片16との間で水平方向に沿って配置される。整流板38と送風ファン37との間に空間が形成されるように、整流板38と送風ファン37とは、互いに間隔をおいて配置される。この空間は、バッファー空間として機能する。即ち、バッファー空間が設けられることにより、整流板38を通過して被測定片12及び比較片16に供給される送風ファン37からの風がより均一になる。
【0075】
演算装置40は、測定部20で検出された被測定片12(又は、被測定片本体14)と比較片16との各温度分布から被測定片12(及び被測定片本体14)の熱伝導率k(及びk1a)を求める部位であり、記憶部42と、所定の演算を行う演算部50と、各種情報を入力するための入力部44と、演算部50での演算結果を表示する表示部46と、送風ファン37を制御するための送風手段制御部48と、を備える。
【0076】
記憶部42は、各種情報が格納される部位であり、ハードディスク等で構成される。この記憶部42は、被測定片12の情報が格納される被測定片情報部42aと、比較片16の情報が格納される比較片情報部42bと、を有する。
【0077】
被測定片情報部42aは、被測定片12の形状に関する各値(以下、単に「被測定片12の形状」とも称する。)や物性値(例えば、被測定片12の厚さtや被測定片12の長さL等の後述する演算に必要な各値、また、被測定片12が被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層したものである場合には、被測定片本体14の厚さt1aや被測定片本体14の長さL等の被測定片本体14の形状に関する各値、及び、各厚さ調整薄片15の物性値(熱伝導率k)や各厚さ調整薄片15の厚さt等の形状に関する各値)の情報が格納される。尚、被測定片12が被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層したものである場合には、被測定片本体14と厚さ調整薄片15との各形状から求めることができる被測定片12の形状(例えば、被測定片12の厚さtや被測定片12の長さL等)は、入力部44から入力された被測定片本体14の形状と厚さ調整薄片15の形状とから演算部50において計算され、その演算結果が被測定片情報部42aに格納される。
【0078】
比較片情報部42bは、比較片16の形状に関する各値(以下、単に「比較片16の形状」とも称する。)や物性値(例えば、比較片の熱伝導率(等価熱伝導率)kや比較片16の厚さt等の各値、及び、比較片16を構成する各比較薄片16a,16b,16c,…の物性値や形状等)の情報が格納される。尚、各比較薄片16a,16b,16c,…の形状から求めることができる比較片16の形状(例えば、比較片16の厚さtや比較片16の長さL等)は、入力部44から入力された各比較薄片16a,16b,16c,…の形状に関する各値から演算部50において計算され、その演算結果が比較片情報部42bに格納される。
【0079】
演算部50は、種々の情報を処理可能ないわゆるコンピュータである。この演算部50には、所定のプログラムが組み込まれ、このプログラムの実行によって機能的に第1演算部(比較片熱伝達率導出部)52と、第2演算部(被測定片熱伝導率導出部)54と、出力部57と、が構成される。
【0080】
第1演算部52は、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比(第1の熱抵抗比)mと、記憶部42(詳しくは比較片情報部42b)に格納されている比較片16の熱伝導率(等価熱伝導率)k等の物性値及び比較片16の形状と、第2検出部34により検出された比較片16の温度分布と、から当該比較片16の熱伝達率hを求める。
【0081】
具体的に、第1演算部52は、第2検出部34で検出された比較片16の長手方向の各位置における雰囲気温度(加熱していない状態の温度)からの上昇温度を測定して得られた上昇温度の温度分布と近似した曲線T(x)を最小二乗法により求め、以下の式(1)によって比較片16のフィン効率φexpを求める。
【数1】

ここで、Tは比較片16の固定部22側の根元温度であり、Lは、比較片16の長さである。
【0082】
そして、第1演算部52は、この求められたフィン効率φexpと以下の式(2)とを比較することにより、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mを求める。
【数2】

ここで、Tは、比較片16の先端(第4の端部17b)の温度である。また、比較片16の熱抵抗比mは、比較片16の熱伝導抵抗(第2の熱伝導抵抗)Rcd2と、比較片16の熱伝達抵抗(第2の熱伝達抵抗)Rcv2との比に基づく値である。尚、図7に示すように、熱伝導抵抗(第2の熱伝導抵抗)Rcd2は、第3端部17aから第4端部17bに向って熱が流れるときの抵抗であり、熱伝達抵抗(第2の熱伝達抵抗)Rcv2は比較片16の表面から当該比較片16の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である。これら、熱伝導抵抗Rcd2と熱伝達抵抗Rcv2とは、以下の式(3)及び式(4)から求めることができる。
【数3】

【数4】

ここで、図7に示すように、Aは比較片16の断面積であり、Sは比較片16の表面積であり、Pは比較片16の周囲長さ(=S/L)である。
【0083】
第1演算部52は、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mが求まると、この単位長さ当たりの熱抵抗比mと、比較片情報部42bに格納されている比較片16の熱伝導率(等価熱伝導率)kと形状と、から以下の式(5)により比較片16の熱伝達率hを算出する。
【数5】

【0084】
第2演算部54は、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mと、第1演算部52で求められた比較片16の熱伝達率(演算用熱伝達率)hと、第1検出部32により検出された被測定片12の温度分布(詳しくは、第1検出部32で検出された被測定片12の長さ方向の各位置における雰囲気温度(加熱していない状態の温度)からの上昇温度を測定して得られた上昇温度の温度分布)と、から当該被測定片12の熱伝導率kを求める。
【0085】
具体的に、この第2演算部54は、第1導出部55と、第2導出部56と、を備える。ここで被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mは、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mと同様の以下の式(6)により定義される。
【数6】

ここで、図7に示すように、Lは被測定片12の長さであり、Aは被測定片12の断面積であり、Sは被測定片12の表面積であり、Pは被測定片12の周囲長さ(=S/L)である。また、被測定片12の熱抵抗比mは、被測定片12の熱伝導抵抗(第1の熱伝導抵抗)Rcd1と、被測定片12の熱伝達抵抗(第1の熱伝達抵抗)Rcv1との比に基づく値である。尚、熱伝導抵抗Rcd1は、第1端部13aから第2端部13bに向って熱が流れるときの抵抗であり、熱伝達抵抗Rcv1は被測定片12の表面から当該被測定片12の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である。これら熱伝導抵抗Rcd1と熱伝達抵抗Rcv1とは、式(3)及び式(4)と同様の式から求められる。
【0086】
第1導出部55は、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mと、第1演算部52で求められた比較片16の熱伝達率hと、第1検出部32で検出された被測定片12の温度分布と、から当該被測定片12の熱伝導率kを求める。詳しくは、第1導出部55は、第1検出部32で検出された被測定片12の温度分布から式(1)により被測定片12のフィン効率φexpを求める。そして、第1導出部55は、第1演算部52と同様に、求めたフィン効率φexpと式(2)とを比較することにより、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mを求める。
【0087】
第1導出部55は、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mが求まると、この単位長さ当たりの熱抵抗比mと、第1演算部52で求めた比較片16の熱伝達率(演算用熱伝達率)hと、被測定片情報部42aに格納されている被測定片12の形状とから、以下の式(7)により被測定片12の熱伝導率kを算出する。
【数7】

【0088】
第2導出部56は、被測定片12が被測定片本体14と1又は複数の厚さ調整薄片15とを積層することにより構成されている場合、即ち、被測定片本体14に関する情報(形状)や厚さ調整薄片15に関する情報(物性値及び形状)が記憶部42入力されている場合に、第1導出部55で求められた被測定片12の熱伝導率kに基づいて、被測定片本体14の熱伝導率k1aを求める。
【0089】
具体的に、第2導出部56は、記憶部42(被測定片情報部42a)に被測定片本体14の形状や厚さ調整薄片15の物性値及び形状が格納されていると判断した場合には、第1導出部55で求められた被測定片12の熱伝導率kと、被測定片情報部42aに格納されている被測定片12の厚さtと、被測定片本体14の厚さt1aと、厚さ調整薄片15の熱伝導率kと、厚さ調整薄片15の厚さtとから以下の式(8)により被測定片本体14の熱伝導率k1aを算出する。
【数8】

【0090】
尚、本実施形態では、第2演算部54(詳しくは第2導出部56)が記憶部42に被測定片本体14の形状等が格納されているか否かにより、被測定片12が単一の部材で形成されているか、被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層したものかを判断しているが、切り換えスイッチ等を設け、これを切り換えることにより被測定片12が単一の部材か積層体かを熱伝導率測定装置10が判断するように構成されてもよい。
【0091】
出力部57は、第1導出部55における演算結果又は第2導出部56における演算結果を表示部46に出力する。具体的に、出力部57は、入力部44から入力されて記憶部42に格納されている被測定片12の情報に基づき、被測定片12が単一の部材で形成されている場合には、第1導出部55の演算結果を表示部46に出力する一方、被測定片12が被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層したものである場合には、第2導出部56の演算結果を表示部46に出力する。尚、出力部57は、被測定片12が被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層したものである場合に、第2導出部56の演算結果と共に第1導出部55の演算結果を表示部46に出力してもよい。
【0092】
入力部44は、キーボードやタッチパネル等で構成され、被測定片12及び比較片16に関する情報等を入力する部位である。具体的に、入力部44は、被測定片12や比較片16の形状や物性値等の情報を入力し、これら情報を記憶部42に格納させる。本実施形態では、入力部44は、被測定片12の厚さt、被測定片本体14の厚さt1a、厚さ調整薄片15の熱伝導率k、厚さ調整薄片15の厚さt、比較片16の熱伝導率(等価熱伝導率)k、比較片16の厚さt等を入力する。
【0093】
表示部46は、演算装置40(演算部50)での演算結果を受けて被測定片12(及び被測定片本体14)の熱伝導率k(及びk1a)を出力(表示)する。本実施形態の表示部46は、演算結果を画面に表示するが、印字等によって出力(表示)するように構成されてもよい。
【0094】
送風手段制御部48は、被測定片12及び比較片16に所定の風速で風が供給されるように送風ファン37を制御する。本実施形態の送風手段制御部48は、演算装置40に設けられているが、これに限定されず、他の装置等に設けられてもよい。
【0095】
このように構成される熱伝導率測定装置10では、以下のようにして被測定片12(及び被測定片本体14)の熱伝導率k(及びk1a)が測定される。
【0096】
先ず、比較片16を構成する比較薄片16a,16b,…の組み合わせを決定する。
【0097】
具体的に、被測定片12と、比較薄片16a,16b,…を任意に組み合わせた比較片16とが用意され、これら被測定片12と比較片16との温度を測定する各部位に温度センサ36がそれぞれ貼り付けられる。詳しくは、温度センサ36が被測定片12及び比較片16の主面部12a,16aにおいて一端部13a,17aから他端部13b,17bに向けて等間隔で一列に並ぶように貼り付けられる。各温度センサ36が貼り付けられた被測定片12及び比較片16は、被測定片12の第1端部13aと比較片16の第3端部17aとを固定部22に保持させ、これにより測定部20に設置される。この状態で、固定部22の発熱体26を発熱させることにより、被測定片12の第1端部13aと比較片16の第3端部17aとが加熱される。
【0098】
演算装置40の送風手段制御部48は、被測定片12と比較片16との加熱が始まると、送風ファン37を駆動させて被測定片12及び比較片16に送風する。これにより、被測定片12と比較片16とにおける固定部22に保持された部位以外の部位、即ち、露出した部分には、水平方向において均一な風が供給され、同じ雰囲気条件下で被測定片12と比較片16とが加熱される。
【0099】
この状態で、温度検出部30の第1検出部32が被測定片12の第1端部13aから第2端部13bまでの温度分布を検出すると共に、第2検出部34が比較片16の第3端部17aから第4端部17bまでの温度分布を検出する。詳しくは、第1検出部32の各温度センサ36が測定部位における雰囲気温度(加熱していない状態の温度)から上昇した分の温度(上昇温度)を検出することにより、第1検出部32は、被測定片12の第1端部13aから第2端部13bまでの上昇温度の温度分布を検出する。同様に、第2検出部34の各温度センサ36が測定部位における雰囲気温度(加熱していない状態の温度)から上昇した分の温度(上昇温度)を検出することにより、第2検出部34は、比較片16の第3端部17aから第4端部17bまでの上昇温度の温度分布を検出する。
【0100】
このとき、被測定片12の温度分布の熱勾配と比較片16の温度分布の熱勾配とが大きく異なると、求める被測定片12の熱伝導率kの誤差が大きくなるため、比較片16を構成する比較薄片16a,16b,…の組み合わせが変更される。具体的には、上述のように予め求めておいた種々の組み合わせにおける等価熱伝導率(図5及び表1参照)から、温度分布が被測定片12の温度分布と近くなるような(詳しくは、長手方向の各位置における被測定片12と比較片16との温度差が所定の値以下となるような)組み合わせが選択され、比較片16を構成する比較薄片の組み合わせが決定される。
【0101】
尚、比較片16を構成する比較薄片16a,16b,…の組み合わせを変更するときには、測定部20から比較片16が取り外され、この比較片16から当該比較片16に取り付けられている各温度センサ36が取り外される。そして、組み合わせを変更した後の比較片16の各温度測定位置に温度センサ36がそれぞれ取り付けられたあと、比較片16が測定部20に設置される。
【0102】
一方、被測定片12に関する情報と比較片16に関する情報とが入力部44から演算装置40に入力される。具体的に、被測定片12の形状(例えば、被測定片12の長さLと、被測定片12の断面積Aと、被測定片12の周囲の長さP(=S/L)等)が入力部44から入力され、記憶部42の被測定片情報部42aに格納される。
【0103】
被測定片12が被測定片本体14と厚さ調整薄片15との積層体の場合は、被測定片本体14の形状と厚さ調整薄片15の物性値及び形状とが入力部44からそれぞれ入力され、被測定片情報部42aに格納される。このとき、これら被測定片本体14と厚さ調整薄片15との形状から計算により求めることができる被測定片12の形状(例えば、被測定片12の厚さt等)は、前記入力された被測定片本体14の形状と厚さ調整薄片15の形状とから計算されて被測定片情報部42aに格納される。
【0104】
また、比較片16の熱伝導率(等価熱伝導率)k、比較片16の長さLと、比較片16の断面積Aと、比較片16の周囲の長さP(=S/L)と、が入力部44から入力され、記憶部42の比較片情報部42bに格納される。
【0105】
次に、比較片16の組み合わせが決定され、この比較片16と被測定片12とが測定部20に設置されると、固定部22により、被測定片12の第1端部13a及び比較片16の第3端部17aが加熱される。このとき、前記同様、送風手段制御部48が送風ファン37を制御して被測定片12及び比較片16に送風を行う。そして、温度検出部30により被測定片12の温度分布と比較片16の温度分布とが検出される。
【0106】
このように、被測定片12及び比較片16の形状及び物性値が記憶部42に格納された状態で、被測定片12及び比較片16の温度分布が検出されると、第1演算部52は、第2検出部34が検出した比較片16の温度分布と式(1)とから比較片16のフィン効率φexpを求め、このフィン効率φexpと式(2)とから比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mを求める。そして、第1演算部52は、この求めた単位長さ当たりの熱抵抗比mと記憶部42に格納されている比較片16の熱伝導率kとに基づいて式(5)から比較片16の熱伝達率hを算出する。
【0107】
第1演算部52が比較片16の熱伝達率hを求めると、第2演算部54の第1導出部55は、第1検出部32が検出した被測定片12の温度分布と式(1)とから被測定片12のフィン効率φexpを求め、このフィン効率φexpと式(2)とから被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mを求める。第1導出部55は、この被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mが求まると、この単位長さ当たりの熱抵抗比mと第1演算部52が求めた比較片16の熱伝達率hとを用いて式(7)から被測定片12の熱伝導率kを算出する。
【0108】
被測定片12が単一の部材で構成されている場合には、第1導出部55が被測定片12の熱伝導率kを求めると、出力部57がこの演算結果を表示部46に出力する。そして、表示部46は、この出力部57から送られてきた演算結果を表示する。
【0109】
一方、被測定片12が被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層することにより構成されている場合には、第2導出部56がさらに演算を行って被測定片本体14の熱伝導率k1aを導出する。具体的に、第2導出部56は、記憶部42の被測定片情報部42aに格納されている情報に基づいて被測定片12が被測定片本体14と厚さ調整薄片15とにより構成されていると判断すると、第1導出部55が求めた被測定片12の熱伝導率kと、被測定片情報部42aに格納されている被測定片12の厚さtと、被測定片本体14の厚さt1aと、厚さ調整薄片15の熱伝導率k及び厚さtとを用いて式(8)から被測定片本体14の熱伝導率k1aを算出する。
【0110】
出力部57は、第2導出部56で演算が行われた場合には、第2導出部56の演算結果(被測定片本体14の熱伝導率k1a)を表示部46に出力する。このとき、出力部57が第2導出部56の演算結果(被測定片本体14の熱伝導率k1a)と共に第1導出部55の演算結果(被測定片12の熱伝導率k)を表示部46に出力するように構成されてもよい。そして、表示部46は、この出力部57から送られてきた演算結果(被測定片本体14の熱伝導率k1a、被測定片12の熱伝導率k)等を表示する。
【0111】
以上説明したように、第1実施形態の熱伝導率測定装置10によれば、熱伝導率kが既知の比較片16を利用して求めた当該比較片16の熱伝達率hを演算用熱伝達率として利用することにより、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片12の熱伝達率hを算出しなくても、被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。
【0112】
具体的に、被測定片12の熱伝達率hと、被測定片12の温度分布から求められる被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mとが分れば、これらを利用して被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。そこで、熱伝導率kが既知の比較片16を用いて、この比較片16の熱伝導率kと温度分布とから当該比較片16の熱伝達率hを求め、この熱伝達率(演算用熱伝達率)hを被測定片12の熱伝達率hと擬制することにより、この熱伝達率hと被測定片12の温度分布とから被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。
【0113】
このように、本実施形態の熱伝導率測定装置10によれば、熱伝導率kが既知の比較片16から求めた当該比較片16の熱伝達率hを被測定片12の熱伝達率hと擬制することにより、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式を用いた演算を行わなくても被測定片12の熱伝導率kを導出することができる。即ち、熱伝導率測定装置10によれば、被測定片12を垂直配置しなくても当該被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。
【0114】
しかも、被測定片12と当該被測定片12の周囲の空間との間の熱移動を扱うための係数である被測定片12の熱伝達率h(詳しくは、被測定片12の熱伝達率hとして擬制した比較片16の熱伝達率h)を用いて被測定片12の熱伝導率kを求めているため、演算結果には被測定片12から周囲の空間への放熱の影響が含まれており、これにより、被測定片12を真空中に配置して真空断熱状態としなくても被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。
【0115】
また、第1実施形態による熱伝導率測定装置10では、被測定片12の周囲の雰囲気条件及び比較片16の周囲の雰囲気条件を雰囲気制御手段(本実施例では、送風ファン37及び整流板38)によって制御することにより、同じ雰囲気条件下で被測定片12の温度分布と比較片16の温度分布とをそれぞれ検出することができる。これにより、比較片16の熱伝達率hを用いて求めた被測定片12の熱伝導率kから、被測定片12及び比較片16の温度分布を測定したときの雰囲気条件の差異に基づく影響を排除することができる。即ち、比較片16の熱伝達率hを用いて被測定片12の熱伝導率kを算出するときの演算において雰囲気条件の差異に基づく影響が排除され、被測定片12の熱伝導率kがより精度よく求まる。
【0116】
また、第1実施形態による熱伝導率測定装置10では、送風ファン(送風手段)37によって被測定片12及び比較片16への風速を調整して当該被測定片12及び当該比較片16の周囲の風速(周囲風速)をそれぞれ同じにすることで、同じ雰囲気条件下で被測定片12及び比較片16の温度分布を検出することができる。
【0117】
しかも、熱伝導率kの大きな被測定片12や比較片16の温度分布を検出する場合には、被測定片12や比較片16の周囲風速を大きくすることによって、一端部13a,17aから他端部13b,17bに向って流れる熱の温度勾配を大きくすることができ、これにより、被測定片12の熱伝導率kを精度よく求めることができる。即ち、被測定片12や比較片16の熱伝導率k,kが大きく一端部13a,17aから他端部13b,17bに向う方向への温度分布の温度勾配が小さいと被測定片12や比較片16の温度分布を用いて演算したときに演算結果の誤差が大きくなるため、求めた被測定片12の熱伝導率kの誤差が大きくなる。そのため、送風ファン37によって被測定片12や比較片16の周囲風速を大きくして一端部13a,17aから他端部13b,17bに向う方向の温度分布の温度勾配を大きくしてこの温度分布を計算に適した(即ち、前記演算結果の誤差が大きくならない程度の)温度勾配とすることにより、前記誤差を抑えることができる。
【0118】
また、第1実施形態による熱伝導率測定装置10では、整流板38によって送風ファン37からの被測定片12及び比較片16の各部位に対する風速を一様にすることができ、これにより被測定片12及び比較片16において部分的に熱伝達率h,hが変化するのを防ぐことができる。その結果、被測定片12の熱伝導率kをより精度よく求めることができる。
【0119】
また、第1実施形態による熱伝導率測定装置10では、第2演算部54が第1導出部55と第2導出部56とを有することによって、薄い被測定片本体14又は熱伝導率k1aの小さな被測定片本体14であっても、被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層して被測定片12とすることにより、被測定片本体14の熱伝導率k1aを求めることができる。即ち、被測定片本体14と厚さ調整薄片15とを積層して、一端部13aから他端部13bに向う熱流の通過する断面積を大きくすることにより一端部13aから他端部13bに向って流れる熱の温度勾配を演算に適した大きさとすることができ、これにより、薄い又は熱伝導率が小さな被測定片本体14の熱伝導率k1aを求めることが可能となる。
【0120】
また、厚さ調整薄片15を用いることにより、被測定片本体14が1つあれば、この被測定片本体14の熱伝導率k1aを求めることができる。
【0121】
また、第1実施形態による熱伝導率測定装置10では、被測定片12を固定する固定部と比較片16を固定する固定部とが共通の固定部材(支持部23と押え部24)で構成されることにより、被測定片12の固定部と比較片16の固定部とが別々に構成される場合に比べて熱伝導率測定装置10の構成を簡略化することができる。しかも、被測定片12と比較片16とを並べて固定することにより、これら被測定片12及び比較片16の雰囲気条件の制御が容易になると共に、被測定片12と比較片16との温度分布を同時に測定することが可能となる。
【0122】
<第2実施形態>
図8は、本発明の第2実施形態による熱伝導率測定装置に被測定片及び比較片を設置した状態の構造を概略的に示した平面図であり、図9は、図8に示した熱伝導率測定装置の構造を概略的に示した正面図である。
【0123】
次に、図8及び図9を参照して、本発明の第2実施形態による熱伝導率測定装置10aの構成について説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ詳細に説明する。
【0124】
この第2実施形態に係る熱伝導率測定装置10aは、上記第1実施形態による熱伝導率測定装置10と異なり、被測定片12の第2端部側端面における境界条件と比較片16の第4端部側端面における境界条件とを断熱条件にするための断熱部60を備えている。
【0125】
具体的に、本実施形態による熱伝導率測定装置10aは、測定部20と演算装置40とを備える。測定部20は、固定部22と断熱部60と温度検出部30と送風ファン37と整流板38とを備える。
【0126】
断熱部60は、断熱性を有する素材により形成され、被測定片12と比較片16とを固定部22に保持させたときに、この被測定片12の第2端部13b側の端面(第2端部側端面)と比較片16の第4端部17b側の端面(第4端部側端面)とに当接する部材である。このように被測定片12の第2端部側端面及び比較片16の第4端部側端面に当接することにより、断熱部60は、これら第2端部側端面の境界条件と第4端部側端面の境界条件とを断熱条件にする。
【0127】
演算装置40は、記憶部42と演算部50と入力部44と表示部46と送風手段制御部48と、を備え、演算部50は、第1演算部52aと第2演算部54と出力部57とを備える。
【0128】
第1演算部52aは、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mと、比較片情報部42bに格納されている比較片16の熱伝導率(等価熱伝導率)kと、第2検出部34により検出された比較片16の温度分布と、比較片情報部42bに格納されている比較片16の形状と、から当該比較片16の熱伝達率hを求める。
【0129】
具体的に、本実施形態の第1演算部52aは、第1実施形態と異なり、第4端部側端面の境界条件が断熱条件となっている状態で第2検出部34により検出された比較片16の温度分布と式(1)とから比較片16のフィン効率φexpを求める。そして、第1演算部52aは、このフィン効率φexpと以下の式(9)とを比較することにより、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mを求める。
【数9】

【0130】
第1演算部52aは、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mが求まると、第1実施形態と同様に、この単位長さ当たりの熱抵抗比mと、比較片情報部42bに格納されている比較片16の熱伝導率(等価熱伝導率)k及び形状とを用いて式(5)から比較片16の熱伝達率hを算出する。
【0131】
第2演算部54は、第1導出部55aと第2導出部56とを有する。第1導出部55aは、第1検出部32で検出された被測定片12の温度分布から式(1)により被測定片12のフィン効率φexpを求め、第1演算部52aと同様に、このフィン効率φexpと式(9)とを比較することにより、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mを求める。
【0132】
そして、第1導出部55aは、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mが求まると、この単位長さ当たりの熱抵抗比mと、第1演算部52aで求めた比較片16の熱伝達率hと、被測定片情報部42aに格納されている被測定片12の形状とから、式(7)により被測定片12の熱伝導率kを算出する。
【0133】
このように構成される熱伝導率測定装置10aでは、第1演算部52aにおいて単位長さ当たりの比較片16の熱抵抗比mを求めるときに式(2)の代わりに式(9)が用いられ、且つ第1導出部55aにおいて単位長さ当たりの被測定片12の熱抵抗比mを求めるときに式(2)の代わりに式(9)が用いられる以外は、第1実施形態の熱伝導率測定装置10と同様にして被測定片12(被測定片本体14)の熱伝導率k(k1a)が求められる。
【0134】
以上説明したように、第2実施形態の熱伝導率測定装置10aによっても、第1実施形態と同様に、熱伝導率kが既知の比較片16を利用して求めた当該比較片16の熱伝達率hを利用することにより、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片の熱伝達率を算出しなくても、被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。しかも、被測定片12と当該被測定片12の周囲の空間との間の熱移動を扱うための係数である被測定片12の熱伝達率h(詳しくは、被測定片12の熱伝達率hとして擬制した比較片16の熱伝達率h)を用いて被測定片12の熱伝導率kを求めているため、演算結果には被測定片12から周囲の空間への放熱の影響が含まれており、これにより、被測定片12を真空中に配置して真空断熱状態としなくても被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。
【0135】
<第3実施形態>
図10(A)は、本発明の第3実施形態による熱伝導率測定装置に被測定片及び比較片を設置し、断熱部材を取り除いた状態の構造を概略的に示した正面図であり、図10(B)は、図10(A)の熱伝導率測定装置に断熱部材を設置した状態の図であり、図11は、図10(B)のXI―XI断面図であり、図12は、第3実施形態の熱伝導率測定装置における温度センサ部の構造を概略的に示した平面図である。
【0136】
次に、図10(A)乃至図12を参照して、本発明の第3実施形態による熱伝導率測定装置10bの構成について説明するが、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ詳細に説明する。
【0137】
この第3実施形態による熱伝導率測定装置10bは、測定部20aと演算装置40とを備える。ここで、本実施形態の演算装置40は、第2実施形態の演算装置40と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0138】
測定部20aは、固定部22aと、断熱部60と、温度検出部30aと、温度検出部30aを支持する温度センサ支持部70と、被測定片12及び比較片16の雰囲気条件を断熱条件にするための断熱部材72と、送風ファン37と、整流板38とを備える。固定部22aは、第1実施形態及び第2実施形態と異なり、被測定片12及び比較片16を保持したときに上側に支持部23が位置すると共に下側に押え部24が位置するように構成される。即ち、固定部22aにおいて、第1実施形態及び第2実施形態の固定部22に対して支持部23と押え部24とが上下反対に配置されている。
【0139】
温度検出部30aは、第1検出部32aと、第2検出部34aと、を備える。これら第1検出部32a及び第2検出部34aは、第1実施形態及び第2実施形態と異なり、被測定片12及び比較片16の各温度測定部位に対して一度に温度センサ36を設置できるように構成される。具体的に、第1検出部32a及び第2検出部34aは、複数(本実施形態では5つ)の温度センサ36と、これら複数の温度センサ36が配置される配置用板材35とをそれぞれ有する(図12参照)。
【0140】
配置用板材35は、板状の部材であり、主面部35aに間隔をおいて一列に並ぶように複数の温度センサ36が配置されている。この主面部35aにおける温度センサ36の配置は、温度分布を検出するために第1検出部32a(第2検出部34a)の配置用板材35を被測定片12(比較片16)に重ねたときに、当該被測定片12(当該比較片16)の各温度測定部位に対応している。この配置用板材35は、熱伝導率kの小さな樹脂により形成されている。配置用板材35がこのような樹脂で形成されることにより、被測定片12及び比較片16の温度分布を測定するときに、この配置用板材35からの熱流による影響を抑えることができる。
【0141】
このように構成される第1検出部32a(第2検出部34a)が被測定片12(比較片16)に取り付けられることで、被測定片12の各温度測定部位に対して温度センサ36がそれぞれ配置された状態となる。具体的に、第1検出部32a(第2検出部34a)は、当該第1検出部32a(第2検出部34a)の配置用板材35と被測定片12(比較片16)との間に主面部35aに配置された各温度センサ36が挟み込まれるように配置用板材35と被測定片12(比較片16)とが重ね合わされる。このとき、第1検出部32a(第2検出部34a)と被測定片12(比較片16)とは両面テープ等によって接着される。このように第1検出部32a(第2検出部34a)が被測定片12(比較片16)に取り付けられることで、被測定片12(比較片16)の温度測定位置に複数の温度センサ36が一度に配置される。
【0142】
温度センサ支持部70は、第1検出部32a及び第2検出部34aを下方側から支持する部材であり、断熱素材で形成されている。この温度センサ支持部70は、固定部22aに保持された状態の被測定片12(比較片16)に、第1検出部32a(第2検出部34a)の配置用板材35の各温度センサ36が密着するように下側から配置用板材35を支持する。
【0143】
断熱部材72は、被測定片12及び比較片16を断熱状態とするためにその周囲を覆うものであり、被測定片12及び比較片16に対して着脱可能である。この断熱部材72は、通常、測定部20aから取り外されている(図10(A)参照)。そして、被測定片12の熱伝導率kが小さく、そのままの状態で温度分布を検出すると温度勾配が大きくなり過ぎ、この温度分布を用いて演算すると演算結果の誤差が大きくなるような被測定片12の場合に、断熱部材72は、被測定片12及び比較片16に対して取り付けられ(図10(B)参照)、被測定片12及び比較片16を断熱状態にする。このように断熱部材72によって被測定片12及び比較片16が断熱状態とされると、被測定片12及び比較片16から外部に熱が逃げなくなって温度勾配が小さくなるため、被測定片12及び比較片16から検出される温度分布が演算に適した温度勾配となる。
【0144】
本実施形態の断熱部材72は、固定部22aに保持された状態の被測定片12及び比較片16において雰囲気中に露出している上面側を覆うように取り付けることで、被測定片12及び比較片16を断熱状態にする。尚、本実施形態の断熱部材72は、被測定片12及び比較片16の下側に第1検出部32a及び第2検出部34a並びに温度センサ支持部70が配置されているため、雰囲気中に露出した被測定片12及び比較片16の上面側を覆う形状を有しているが、第1実施形態や第2実施形態のように、被測定片12及び比較片16の固定部22に保持された部位以外の部位が雰囲気中に露出している場合には、この露出した部位全体を覆うような形状を有するように構成される。
【0145】
送風ファン37は、第1実施形態及び第2実施形態と異なり、固定部22aに保持された状態の被測定片12及び比較片16の上方位置に配置される。これにより、送風ファン37は、被測定片12及び比較片16に対して上方から下方に向けて風を供給する。
【0146】
整流板38は、送風ファン37から被測定片12の上面の各部位に供給される風、及び比較片16の上面の各部位に供給される風が一様となるようにするものである。この整流板38は、送風ファン37と固定部22aに保持された状態の被測定片12及び比較片16との間に配置される。
【0147】
このように構成される熱伝導率測定装置10bでは、第1検出部32a及び第2検出部34aの配置用板材35が被測定片12及び比較片16に貼り付けられ、この貼り付けられた被測定片12及び比較片16が固定部22aに保持されると共に温度センサ支持部70上に配置される(図10(A)参照)。このように、被測定片12及び比較片16が測定部20aに設置されると、固定部22aにより被測定片12の第1端部13aと比較片16の第3端部17aとが加熱されると共に送風ファン37が被測定片12と比較片16とに送風を開始する。そして、演算装置40が第2実施形態と同様にして被測定片12(被測定片本体14)の熱伝導率k(k1a)を求める。
【0148】
一方、被測定片12の熱伝導率kが小さく、そのままの状態で温度分布を検出すると温度勾配が大きくなり過ぎ、この温度分布を用いて演算すると演算結果の誤差が大きくなるような被測定片12の場合には、送風ファン37を駆動させずに、被測定片12及び比較片16に対して断熱部材72が取り付けられる(図10(B)に示す状態)。具体的には、温度センサ支持部70の上に第1検出部32a及び第2検出部34aが貼り付けられた被測定片12及び比較片16が配置された状態で、その上側から被測定片12及び比較片16を覆うように断熱部材72が被せられる。この状態で固定部22aによって被測定片12及び比較片16が加熱され、第2実施形態と同様にして、被測定片12の熱伝導率kが測定される。このように断熱部材72によって被測定片12及び比較片16を断熱状態とすることで、外部に熱が逃げなくなって温度勾配が小さくなり、被測定片12及び比較片16から検出される温度分布を演算に適した温度勾配とすることができる。
【0149】
尚、本発明の熱伝導率測定装置、熱伝導率演算装置、熱伝導率算出プログラム、及び熱伝導率測定方法は、上記第1実施形態乃至第3実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0150】
被測定片12(比較片16)の温度分布から単位長さ当たりの熱抵抗比m(m)を求める具体的構成は限定されない。上記第1実施形態の第1導出部55(第1演算部52)では、被測定片12(比較片16)の温度分布から式(1)によりフィン効率φexpが求められ、このフィン効率φexpと式(2)とから単位長さ当たりの熱抵抗比m(m)が求められ、上記第2実施形態の第1導出部55a(第1演算部52a)では、被測定片12(比較片16)の温度分布から式(1)によりフィン効率φexpが求められ、このフィン効率φexpと式(9)とから単位長さ当たりの熱抵抗比m(m)が求められるが、例えば、以下の方法等によって単位長さ当たりの熱抵抗比m(m)が求められてもよい。
【0151】
この方法において、被測定片12(比較片16)の両端温度を用いる場合(両端温度固定条件)には、以下の式(10−1)(式(10−2))で表されるフィン温度分布解析式から求められる。具体的に、式(10−1)(式(10−2))における各温度測定部位の温度と温度検出部30により実測(検出)された被測定片12(比較片16)の各温度測定部位の温度との標準偏差σを最小とする単位長さ当たりの熱抵抗比m(m)が求められる。
【数10】

ここで、Tは被測定片12(比較片16)の根元(第1端部13a(第3端部17a))温度であり、Tは先端(第2端部13b(第4端部17b))の温度であり、xは根元からの距離である。
【0152】
また、標準偏差σは、以下の式(11)により定義される。
【数11】

ここで、nは測定点の数であり、iは各測定点(即ち、各温度測定部位)に被測定片12(比較片16)の根元側から先端に向かって順に番号をふったときの測定点の位置を示す番号である。
【0153】
尚、上記の方法は、第1実施形態のように被測定片12(比較片16)の加熱側と反対の端面が断熱条件でない場合の方法であって、第2実施形態のように被測定片12(比較片16)の加熱側と反対の端面が断熱条件の場合には、次のようにして単位長さ当たりの熱抵抗比m(m)が求められる。この場合、上記の方法と異なり、被測定片12及(比較片16)の各温度測定部位の温度が以下の式(12−1)(式(12−2))で表されるフィン温度分布解析式により求められる。そして、上記の方法と同様に、標準偏差σを最小とするような単位長さ当たりの熱抵抗比m(m)が求められる。
【数12】

【0154】
上記第1実施形態乃至第3実施形態の第1検出部32,32a(第2検出部34,34a)は、被測定片12(比較片16)の第1端部13a(第3端部17a)から第2端部13b(第4端部17b)までの温度を断続的に検出するが、これに限定されず、連続的に温度を検出するように構成されてもよい。
【0155】
例えば、温度検出部は、赤外線センサ等の温度センサを移動させつつ被測定片12(比較片16)の温度を測定するように構成されてもよい。具体的に、図13に示すように、温度検出部130は、被測定片12(比較片16)の温度を検出する温度センサ136と、この温度センサ136を被測定片12(比較片16)の第1端部13a(第3端部17a)から第2端部13b(第4端部17b)に向う方向に沿って移動させる移動手段62とを備える。
【0156】
図13において温度センサ136は赤外線センサ等の放射温度計であるが、これに限定されず、被測定片12(比較片16)の温度を検出可能で且つ被測定片12(比較片16)に沿って移動させることが可能であれば、接触式の温度センサであってもよく、放射温度計以外の非接触式の温度センサであってもよい。
【0157】
移動手段62は、被測定片12(比較片16)の第1端部13a(第3端部17a)から第2端部13b(第4端部17b)に向かう方向に沿って温度センサ136を案内する案内部材63と、温度センサ136を案内部材63に沿って往復移動させる駆動部64とを有する。案内部材63は、固定部22に保持された被測定片12(比較片16)の第1端部13a(第3端部17a)から第2端部13b(第4端部17b)に向う方向に沿って延び、温度センサ136がこの方向に往復移動自在に取り付けられている。
【0158】
このような温度検出部130によれば、上記第1実施形態や第2実施形態のように複数の熱電対36を被測定片12や比較片16に装着する手間がなくなる。また、この温度検出部130によれば、被測定片12及び比較片16における連続的な温度分布を検出することができるため、断続的な温度分布を検出する場合に比べ、熱伝導率測定装置における被測定片12の熱伝導率kの測定精度を向上させることができる。
【0159】
尚、これら温度センサ136と移動手段62とで構成される温度検出部130は、被測定片12(比較片16)の第1端部13a(第3端部17a)から第2端部13b(第4端部17b)までの温度を連続的に検出するだけでなく、断続的に(例えば、図13におけるx=0、x1、x2、Lの位置等)検出してもよい。
【0160】
また、温度検出部は、図14に示すように、例えば、赤外線カメラのような、被測定片12(比較片16)における加熱される部位から第2端部13b(第4端部17b)までの全体の温度を同時に測定できる構成であってもよい。この温度検出部130aを用いた場合でも、上記第1実施形態や第2実施形態のように複数の温度センサ36を被測定片12や比較片16に貼り付ける手間がなくなる。また、被測定片12及び比較片16における連続的な温度分布が検出できるため、被測定片12の熱伝導率kの測定精度を向上させることができる。
【0161】
被測定片12及び比較片16の表面を塗装等によって黒色にしてもよい。この場合、図13及び図14に示すように、放射率と熱伝導率kとが既知の黒色テープ74が被測定片12及び比較片16の表面に貼り付けられてもよい。これにより、塗装によって表面を黒色にする場合に比べ、被測定片12及び比較片16の表面を黒色にすることが容易になる。尚、黒色テープ74を貼り付けた被測定片12が用いられると、求まった熱伝導率kが被測定片12と黒色テープ74との等価熱伝導率となるが、黒色テープ74の放射率と、熱伝導率kと、厚さtとが既知であるため、以下の式(13)から被測定片12の熱伝導率kが求まる。
【数13】

ここで、tallは、被測定片12の厚さtと、この被測定片12の両面にそれぞれ貼り付けられた黒色テープの厚さtとを合わせた厚さである。即ち、tall=t+2tである。
【0162】
上記第1実施形態乃至第3実施形態では、被測定片12及び比較片16における第1端部13a及び第3端部17aが固定部22,22aに保持(挟持)されているが、図13及び図14に示すように、第1端部13a及び第3端部17aよりも第2端部13b及び第4端部17b側の部位が保持される、即ち、固定部22,22aから第1端部13a及び第3端部17aが突出した状態で被測定片12及び比較片16が測定部20に設置されてもよい。この場合、温度検出部130(130a,30)は、被測定片12及び比較片16の固定部22,22aに保持された部位(加熱される部位)から第2端部13b及び第4端部17bまでの温度分布を検出する。
【0163】
上記第1実施形態乃至第3実施形態では、固定部22,22aに被測定片12の一部を保持させることにより測定部20に被測定片12が設置されるが、被測定片12の設置方法はこれに限定されない。例えば、図15(A)及び図15(B)に示すように、熱伝導率k及び厚さtが既知の板状部材で形成された取付部材76に被測定片12が取り付けられることで、当該被測定片12が測定部20に設置されるように構成されてもよい。
【0164】
具体的に、取付部材76は、一方向(図15(A)において左右方向)に延びる矩形状の板状部材であり、一方の面上において取付部材76の一端部76aから他端部76bに向けて間隔をおいて一列に並ぶように複数の温度センサ36が配設されている。この取付部材76に配置された複数の温度センサ36が第1検出部32を構成する。本実施形態では、7つの温度センサ36が等間隔に並んでいる。この取付部材76の一端部76aは固定部22に保持されている。そして、この複数の温度センサ36が配設された面に接するように被測定片12が重ねられる。このとき、被測定片12と取付部材76とは、両面テープによって接着され、被測定片12は、第1端部13a側の端面が固定部22に接するように固定部22側に寄せて取り付けられる(図15(B)参照)。
【0165】
この場合、取付部材76と被測定片12とが重なっている部分の温度分布が演算に用いられ、演算装置40の第2演算部54の第1導出部55は、被測定片12と取付部材76とを合わせた等価熱伝導率kを求める。そして、第2導出部56は、第1導出部55が求めた被測定片12と取付部材76との等価熱伝導率kと、被測定片情報部42aに格納されている被測定片12の厚さt、取付部材76の熱伝導率k、及び取付部材76の厚さtと、を用いて以下の式(14)から被測定片12の熱伝導率kを算出する。これにより、取付部材の長さよりも短ければ、種々の長さの被測定片12の熱伝導率kを容易に測定することができる。
【数14】

ここで、tは被測定片12の厚さtと取付部材76の厚さtとを合わせた厚さである。
【0166】
上記第1実施形態乃至第3実施形態では、被測定片12と比較片16とが共通の固定部22,22aに保持されているが、これに限定されず、被測定片12が保持される固定部と比較片16が保持される固定部とが別々の部材により構成されてもよい。また、固定部22,22aは、互いに平行に並ぶように被測定片12と比較片16とを保持しているが、これに限定されない。
【0167】
上記第1実施形態乃至第3実施形態の測定部20,20aでは、被測定片12と比較片16との加熱及び温度分布の検出が同時に行われているが、これに限定されない。比較片16(被測定片12)の加熱及び温度分布の検出が行われたあと、被測定片12(比較片16)の加熱及び温度分布の検出が行われるように熱伝導率測定装置10,10a,10bが構成されてもよい。
【0168】
具体的に、熱伝導率測定装置は、図16に示されるように、測定部20を備え、この測定部20は、固定部22aと温度検出部30bとを備える。固定部22aは、被測定片12及び比較片16のいずれか一方を保持し、温度検出部30bは、固定部22aに保持された状態の被測定片12又は比較片16の長手方向の温度分布を検出する。
【0169】
演算装置40は、第1演算部52と第2演算部54とを有する演算部50と、記憶部42と、送風手段制御部48と、表示部46とを備える。記憶部42は、第1演算部52で求められた比較片16の熱伝達率hを格納する熱伝達率記憶部42cを有する。
【0170】
この熱伝導率測定装置10cでは、先ず、比較片16が固定部22aに固定された状態で加熱され、温度検出部30bにより比較片16の温度分布が検出される。演算装置40の第1演算部52(52a)は、この比較片16の温度分布と式(1)とからフィン効率φexpを求め、このフィン効率φexpと式(2)(第2実施形態のように比較片16の第4端部側端面が断熱条件のときは式(9))とを比較することにより、比較片16の単位長さあたりの熱抵抗比mを求める。第1演算部52(52a)は、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mが求まると、この単位長さ当たりの熱抵抗比mと、比較片情報部42bに格納されている比較片16の熱伝導率k及び形状とを用いて式(5)から比較片16の熱伝達率hを算出する。そして、第1演算部52(52a)は、この比較片16の熱伝達率hを出力して記憶部42の熱伝達率記憶部42cに格納させる。
【0171】
次に、固定部22aに固定された比較片16が取り外され、被測定片12が固定部22aに固定される。そして、被測定片12が固定部22aに固定された状態で加熱され、温度検出部30bにより被測定片12の温度分布が検出される。演算装置40の第2演算部54(詳しくは、第1導出部55(55a))は、温度検出部30bで検出された被測定片12の温度分布と式(1)とから被測定片12のフィン効率φexpを求め、このフィン効率φexpと式(2)(第2実施形態のように被測定片12の第2端部側端面が断熱条件のときは式(9))とを比較することにより、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mを求める。第1導出部55(55a)は、第1演算部52で求められて記憶部42の熱伝達率記憶部42cに格納されている比較片16の熱伝達率hを引き出し、この熱伝達率hと、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mと、被測定片情報部42aに格納されている被測定片12の形状とを用いて式(7)から被測定片12の熱伝導率kを算出する。
【0172】
このように、比較片16と被測定片12とに対して、順に加熱及び温度分布検出が行われても、熱伝導率kが既知の比較片16を実際に加熱してその温度分布から求めた熱伝達率hを演算用熱伝達率として利用することによって、垂直配置の板状の被測定片に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片12の熱伝達率hを算出しなくても、被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。
【0173】
尚、被測定片12と比較片16とに対する加熱及び温度分布の検出が行われるときの当該被測定片12における雰囲気条件と比較片16における雰囲気条件とを同じにすることで、求める熱伝導率kの測定制度がより向上する。
【0174】
熱伝導率測定装置は、比較片16の加熱及び温度分布検出を行わずに、被測定片12の加熱及び温度分布検出を行うだけで、被測定片12の熱伝導率kを求めるように構成されてもよい。
【0175】
例えば、上記第1実施形態の演算装置(例えば、コンピュータ等)40には、以下の熱伝導率算出プログラムが組み込まれている。
【0176】
被測定片12の一端部13aが加熱された状態で、当該被測定片12の一端部13aから他端部13bに向う方向に沿って連続的又は断続的に検出された被測定片12の温度分布と、熱伝導率kが既知の板状の比較片16の一端部17aが加熱された状態で、当該比較片16の一端部17aから他端部17bに向う方向に沿って連続又は断続に検出された比較片16の温度分布と、比較片16の熱伝導率kと、を演算装置40が受け取ることで、この演算装置40を、比較片16の単位長さ当たりの熱抵抗比mと、比較片16の熱伝導率kと、比較片16の温度分布と、から当該比較片16の熱伝達率hを求める第1演算部(比較片熱伝達率導出手段)52と、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mと、第1演算部52で導出された比較片16の熱伝達率hと、被測定片12の温度分布と、から当該被測定片12の熱伝導率kを求める第2演算部54の第1導出部(被測定片熱伝導率導出手段)55と、して機能させる。
【0177】
これに対し、演算装置(例えば、コンピュータ等)に、以下の熱伝導率算出プログラムが組み込まれてもよい。
【0178】
被測定片12の一端部13aが加熱された状態で、当該被測定片12の一端部13aから他端部13bに向う方向に沿って連続的又は断続的に検出された被測定片12の温度分布と、板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った温度分布に基づく演算用熱伝達率h2aと、を演算装置が受け取ることで、この演算装置を、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mと、演算用熱伝達率h2aと、被測定片12の温度分布と、から当該被測定片12の熱伝導率kを求める第2演算部54aの第1導出部(被測定片熱伝導率導出手段)55として機能させる。
【0179】
具体的に、上記の熱伝導率算出プログラムが演算装置に組み込まれた熱伝導率測定装置は、図17に示されるように、測定部20と演算装置40とを備える。測定部20は、被測定片12を固定する固定部22aと、この固定部22aに固定された被測定片12の長手方向の温度分布を検出する温度検出部30bと、を有する。演算装置40は、第2演算部54aと、記憶部42と、送風手段制御部48と、表示部46とを備える。記憶部42は、演算用熱伝達率h2aを格納する熱伝達率記憶部142cを有する。演算用熱伝達率h2aは、熱伝導率kが既知の板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った板状部材の温度分布に基づくものであり、実験又はコンピュータ等での演算によって求められる。この演算用熱伝達率h2aは、入力部44等から予め記憶部42の熱伝達率記憶部142cに格納されている。具体的に、演算用熱伝達率h2aは、板状の部材の長手方向に沿った温度分布に対応する値であり、温度分布(温度分布を関数で近似したときにこの関数によって表される曲線の形状)が変化するとこれに対応して変化する。即ち、演算用熱伝達率h2aは、板状部材の温度分布の関数である。例えば、演算用熱伝達率h2aは、板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った板状部材の温度分布を関数f(x)で表した(又は近似した)ときにこの関数f(x)を変関数とする汎関数F(f(x))として表される。尚、熱伝達率記憶部142cに格納される演算用熱伝達率h2aは、板状部材の温度分布の関数に限定されない。例えば、異なる数千の板状部材における温度分布と、各温度分布が得られた板状部材の熱伝達率hとを関連付けて熱伝達率記憶部142cに格納させ、これら格納された温度分布から、検出した被測定片12の温度分布に近い温度分布を選択し、この選択した温度分布に対応する熱伝達率hを演算用熱伝達率h2aとして用いるように構成されてもよい。
【0180】
この熱伝導率測定装置10dでは、固定部22aに被測定片12が固定される。そして、被測定片12が固定部22aに固定された状態で加熱され、温度検出部30bによりその温度分布が検出される。演算装置40の第2演算部54a(詳しくは、第1導出部55)は、温度検出部30bで検出された被測定片12の温度分布と式(1)とから被測定片12のフィン効率φexpを求め、このフィン効率φexpと式(2)とを比較することにより、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mを求める。第1導出部55は、記憶部42の熱伝達率記憶部142cに予め格納されている演算用熱伝達率h2aを引き出し、この演算用熱伝達率h2aと、被測定片12の単位長さ当たりの熱抵抗比mと、被測定片情報部42aに格納されている被測定片12の形状とを用いて式(7)から被測定片12の熱伝導率kを算出する。
【0181】
この熱伝導率測定装置10dのように、温度分布の関数として記憶部42(詳しくは、熱伝達率記憶部142c)に格納される演算用熱伝達率h2aを利用しても、垂直配置の板状の被測定片12に対する自然対流式や放射式といった計算式を用いた演算によって被測定片12の熱伝達率hを算出しなくても、被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。
【0182】
また、温度分布の関数として記憶部に予め格納しておいた演算用熱伝達率h2aを用いることで、比較片(熱伝導率kが既知の板状の部材)16の温度分布を測定して比較片16の熱伝達率hを求める必要がないため、被測定片12の温度分布を測定するだけで、演算により被測定片12の熱伝導率kを求めることができる。これにより、装置構成の簡略化を図ることができる。
【0183】
上記第1実施形態乃至第3実施形態では、固定部22,22aが第1端部13a及び第3端部17aを加熱する加熱部を兼ねているが、これに限定されず、被測定片12(比較片16)を保持する固定部と、被測定片12(比較片16)の第1端部13a(第3端部17a)を加熱する加熱部とがそれぞれ設けられてもよい。
【0184】
上記第1実施形態乃至第3実施形態では、熱伝導率kが測定される被測定物(被測定片12)は、定形性を有する素材であるが、これに限定されない。即ち、熱伝導率測定装置は、樹脂やグリース等の軟質材料の熱伝導率kを測定することも可能である。
【0185】
具体的には、この場合、被測定片12が、図18に示すように、一対の厚さ調整薄片15,15の間に軟質材料19を挟み込むことにより構成される。
【0186】
そして、入力部44から記憶部42の被測定片情報部42aに、軟質材料19の厚さ(即ち、一対の厚さ調整薄片15,15の間隔)tと、被測定片12の厚さt(=t+2t)と、が入力され、第2演算部54の第2導出部56が、第1導出部55が求めた被測定片12(軟質材料19を一対の厚さ調整薄片15,15で挟み込んだ被測定片12)の熱伝導率kに基づいて、軟質材料19の熱伝導率kを求める。具体的に、第2導出部56は、第1導出部55で求められた被測定片12の熱伝導率kと、被測定片12の厚さt(=t+2t)と、被測定片情報部42aに格納されている軟質材料19の厚さ(即ち、一対の厚さ調整薄片15,15の間隔)tと、被測定片情報部42aに格納されている厚さ調整薄片15の熱伝導率k及び厚さ調整薄片15の厚さtとから以下の式(15)により軟質材料19の熱伝導率kを算出する。
【数15】

【0187】
このように測定することで、被測定片12における軟質材料19と厚さ調整薄片15との間の界面熱抵抗が影響しないため軟質材料19そのものの熱伝導率が得られる。即ち、従来の一方向熱流定常比較法では、得られる熱伝導率に界面熱抵抗成分の影響が大きく現れるが、上記のようにして得られた熱伝導率kに含まれている界面熱抵抗成分は、他の熱抵抗成分に比べて無視できるため軟質材料19の熱伝導率kがより高精度に得られる。
【0188】
尚、軟質材料19の熱伝導率kを測定するための被測定片12では、厚さ調整薄片15の厚さが薄く且つ軟質材料19の厚さtが厚いほど、得られる熱伝導率kの精度が高くなる。詳しくは、以下の理由による。
【0189】
軟質材料(例えば、グリース)19の熱伝導率kとこれを挟む厚さ調整薄片(例えば、SUSで形成された板)15の厚さtに対する被測定片12の有効熱伝導率を求め、その結果を図19(A)及び図19(B)に示す。これらの図において、グラフにおける曲線の右上がり勾配が大きくなるほど軟質材料19の熱伝導率kを感度よく測定することができる。図19(A)及び図19(B)によれば、厚さが1mmの厚さ調整薄片15を表す曲線よりも厚さが0.1mmの厚さ調整薄片15を表す曲線の方が、曲線の右上がりの勾配が大きくなっていることがわかる。また、厚さが0.1mmの軟質材料19を表す曲線よりも厚さが0.5mmのグラフの方がグラフの右側が立ち上がり、この0.5mmのグラフよりも1mmの軟質材料19を表す曲線の方がさらに右上がりの勾配が大きくなっていることがわかる。従って、被測定片12を形成するときに、厚さ調整薄片15の厚さtをより薄くし且つ軟質材料19の厚さtをより厚くすることにより、得られる軟質材料19の熱伝導率kの精度がより向上する。
【0190】
上記第1実施形態乃至第3実施形態では、熱伝導率の被測定物(被測定片本体)14の厚さが小さいときには、厚さ調整薄片15と積層して被測定片12を構成することにより、熱が流れる断面積を大きくして被測定物14の熱伝導率を測定しているが、複数の被測定物を積層して被測定片12を構成することにより熱が流れる断面積を大きくしてもよい。即ち、同じ材質の板状部材であれば一枚で求めた熱伝導率も複数枚重ねて求めた熱伝導率も同じ値となるため、複数の被測定物を積層して被測定片12を構成することによって、一端部13aから他端部13bに向う熱流の通過する断面積を大きくして一端部13aから他端部13bに向けて流れる熱の温度勾配を演算に適した大きさとし、これにより、薄い又は熱伝導率が小さな被測定物の熱伝導率を求めることが可能となる。
【符号の説明】
【0191】
10,10a,10b 熱伝導率測定装置
12 被測定片
13a 第1端部(被測定片の一端部)
13b 第2端部(被測定片の他端部)
14 被測定片本体
15 厚さ調整薄片
16 比較片
16a,16b,16c 比較薄片
17a 第3端部(比較片の一端部)
17b 第4端部(比較片の他端部)
22,22a 固定部
32,32a 第1検出部(被測定片温度分布検出部)
34,34a 第2検出部(比較片温度分布検出部)
36,136 温度センサ
37 送風ファン(送風手段)
38 整流板
40 演算装置
42 記憶部
44 入力部
52,52a 第1演算部(比較片熱伝達率導出部)
54,54a 第2演算部(被測定片熱伝導率導出部)
55,55a 第1導出部
56 第2導出部
被測定片の熱伝達率
比較片の熱伝達率
被測定片の熱伝導率
比較片の熱伝導率(等価熱伝導率)
厚さ調整薄片の熱伝導率
単位長さ当たりの被測定片の熱抵抗比
単位長さ当たりの比較片の熱抵抗比
cd1 被測定片の熱伝導抵抗
cd2 比較片の熱伝導抵抗
cv1 被測定片の熱伝達抵抗
cv2 比較片の熱伝達抵抗
φexp フィン効率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被測定片の熱伝導率を導出するための熱伝導率測定装置であって、
前記被測定片の一端部を加熱する加熱部と、
前記被側定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に当該被測定片の温度分布を検出する温度分布検出部と、
前記被測定片の熱伝導率を算出する演算装置と、を備え、
前記演算装置は、演算用熱伝達率を格納する記憶部と、前記被測定片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第1の熱伝導抵抗と前記被測定片の表面から当該被測定片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第1の熱伝達抵抗との比である第1の熱抵抗比と、前記記憶部に格納される演算用熱伝達率と、前記温度分布検出部により検出された前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める被測定片熱伝導率導出部と、を有し、
前記演算用熱伝達率は、熱伝導率が既知の板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った板状部材温度分布に基づいている熱伝導率測定装置。
【請求項2】
前記演算用熱伝達率は、前記板状部材温度分布の関数として前記記憶部に格納される請求項1に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項3】
前記加熱部は、熱伝導率が既知の板状の部材である比較片の一端部を加熱可能であり、
前記温度分布検出部は、前記比較片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に当該比較片の温度分布を検出可能であり、
前記演算装置は、前記比較片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第2の熱伝導抵抗と前記比較片の表面から当該比較片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第2の熱伝達抵抗との比である第2の熱抵抗比と、前記比較片の熱伝導率と、前記温度分布検出部により検出された前記比較片の温度分布と、から当該比較片の熱伝達率を求める比較片熱伝達率導出部を有し、
前記記憶部は、前記比較片熱伝達率導出部で求めた比較片の熱伝達率を前記演算用熱伝達率として格納する請求項1又は2に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記被測定片の一端部を加熱する被測定片加熱部と、熱伝導率が既知の板状の比較片の一端部を加熱する比較片加熱部とを有し、
前記温度分布検出部は、被側定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に当該被測定片の温度分布を検出する被測定片温度分布検出部と、前記比較片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に当該比較片の温度分布を検出する比較片温度分布検出部と、を有し、
前記被測定片熱伝導率導出部は、前記第1の熱抵抗比と、前記記憶部に格納される演算用熱伝達率と、前記被測定片温度分布検出部により検出された前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める請求項3に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項5】
前記被測定片の周囲と前記比較片の周囲とを同じ雰囲気条件に制御するための雰囲気制御手段を備える請求項4に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項6】
前記被測定片熱伝導率導出部は、前記第1の熱抵抗比と前記比較片熱伝達率導出部で求められた比較片の熱伝達率と前記被測定片温度分布検出部で検出された被測定片の温度分布とから当該被測定片の熱伝導率を求める第1導出部と、
前記被測定片が被測定薄片と熱伝導率が既知で且つ板状の1又は複数の厚さ調整薄片とを積層することにより構成されている場合に、前記第1導出部で求められた被測定片の熱伝導率と当該被測定片の厚さと前記被測定薄片の厚さと前記厚さ調整薄片の熱伝導率と当該厚さ調整薄片の厚さとから、前記被測定薄片の熱伝導率を求める第2導出部と、を有する請求項3乃至5のいずれか1項に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項7】
互いに同一又は異なる熱伝導率の複数の比較薄片を積層することにより構成される比較片を備える請求項3乃至6のいずれか1項に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項8】
板状の被測定片の熱伝導率を算出するための熱伝導率演算装置であって、
演算用熱伝達率を格納すると共に、前記被測定片の一端部が加熱された状態で当該被測定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に検出された当該被測定片の温度分布を格納する記憶部と、
前記被測定片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第1の熱伝導抵抗と前記被測定片の表面から当該被測定片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第1の熱伝達抵抗との比である第1の熱抵抗比と、前記記憶部に格納される演算用熱伝達率と、前記記憶部に格納される前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める被測定片熱伝導率導出部と、を備え、
前記演算用熱伝達率は、熱伝導率が既知の板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った板状部材温度分布に基づいている熱伝導率演算装置。
【請求項9】
前記演算用熱伝達率は、前記板状部材温度分布を変数とする関数として前記記憶部に格納される請求項8に記載の熱伝導率演算装置。
【請求項10】
前記記憶部は、熱伝導率が既知の板状の部材である比較片の当該熱伝達率と、前記比較片の一端部が加熱された状態で当該比較片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に検出された当該比較片の温度分布と、を格納し、
前記演算部は、前記比較片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第2の熱伝導抵抗と前記比較片の表面から当該比較片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第2の熱伝達抵抗との比である第2の熱抵抗比と、前記記憶部に格納される比較片の熱伝導率と、前記記憶部に格納される比較片の温度分布と、から当該比較片の熱伝達率を求める比較片熱伝達率導出部を有し、
前記比較片熱伝達率導出部は、当該比較片熱伝達率導出部において求められた比較片の熱伝達率を前記演算用熱伝達率として前記記憶部に格納させる請求項8又は9に記載の熱伝導率演算装置。
【請求項11】
板状の被測定片の熱伝導率を算出するための熱伝導率算出プログラムであって、
前記被測定片の一端部が加熱された状態で、当該被測定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続的又は断続的に検出された被測定片の温度分布と、板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った第1の温度分布に基づく演算用熱伝達率と、をコンピュータが受け取ることで、
このコンピュータを、
前記被測定片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第1の熱伝導抵抗と前記被測定片の表面から当該被測定片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第1の熱伝達抵抗との比である第1の熱抵抗比と、前記演算用熱伝達率と、前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める被測定片熱伝導率導出手段として機能させるための熱伝導率算出プログラム。
【請求項12】
板状の被測定片の熱伝導率を導出するための熱伝導率測定方法であって、
前記被測定片の一端部を加熱し、この被測定片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続又は断続した当該被測定片の温度分布を検出する被測定片温度分布検出工程と、
前記被測定片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第1の熱伝導抵抗と前記被測定片の表面から当該被測定片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第1の熱伝達抵抗との比である第1の熱抵抗比と、板状の部材の一端部を加熱したときの当該部材における一端部から他端部に向かう方向に沿った板状部材温度分布に基づく演算用熱伝達率と、前記被測定片温度分布検出工程で検出された前記被測定片の温度分布と、から当該被測定片の熱伝導率を求める被測定片熱伝導率導出工程と、を備える熱伝導率測定方法。
【請求項13】
前記演算用熱伝達率は、前記板状部材温度分布を変数とする関数として予め求められている請求項12に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項14】
熱伝導率が既知の板状の部材である比較片の一端部を加熱し、この比較片の一端部から他端部に向う方向に沿って連続又は断続した当該比較片の温度分布を検出する比較片温度分布検出工程と、
前記比較片の内部を一端部から他端部に向って熱が流れるときの抵抗である第2の熱伝導抵抗と前記比較片の表面から当該比較片の周囲の空間に熱が出るときの抵抗である第2の熱伝達抵抗との比である第2の熱抵抗比と、前記比較片の熱伝導率と、前記比較片温度分布検出工程で検出された前記比較片の温度分布と、から当該比較片の熱伝達率を求める比較片熱伝達率導出工程と、を備え、
前記被測定片熱伝導率導出工程は、前記比較片熱伝達率導出工程で求められる前記比較片の熱伝達率を前記演算用熱伝達率として前記被測定片の熱伝導率を求める請求項16又は13に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項15】
前記比較片温度分布検出工程の前に、互いに同一又は異なる熱伝導率の複数の比較薄片を積層することにより前記比較片を形成する比較片形成工程を備え、
前記比較片形成工程では、前記比較片温度分布検出工程で検出される温度分布が前記被測定片温度分布検出工程で検出される被測定片の温度分布に近くなるように、前記互いに同一又は異なる熱伝導率の複数の比較薄片が組み合わされて前記比較片が形成される請求項14に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項16】
前記被測定片温度分布検出工程の前に、複数の被測定薄片を積層することにより前記被測定片を形成する被測定片作成工程を備える請求項12乃至15のいずれか1項に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項17】
前記被測定片温度分布検出工程の前に、被測定薄片と熱伝導率が既知で且つ板状の1又は複数の厚さ調整薄片とを積層することにより前記被測定片を形成する被測定片形成工程と、
前記被測定片熱伝導率導出工程で求められた前記被測定片の熱伝導率と当該被測定片の厚さと前記被測定薄片の厚さと前記厚さ調整薄片の熱伝導率と当該厚さ調整薄片の厚さとから、前記被測定薄片の熱伝導率を求める被測定薄片熱伝導率導出工程と、を備える請求項12乃至15のいずれか1項に記載の熱伝導率測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−117939(P2012−117939A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268649(P2010−268649)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】