説明

熱処理装置

【課題】余分なスペースや追加の熱源を要さずに雰囲気ガスを予熱して、被処理物に接触するガスの温度と流量分布を均一化し、熱処理ムラの抑制を実現できる熱処理装置を提供する。
【解決手段】雰囲気ガスを供給するガス供給管20を、ガス供給管20の内部空間を複数の領域に空間的に分離する分離板23と、複数のガス通過領域の間を連通する連通口26と、ガスを炉内に噴出する噴出口28とを備えるように構成することにより、炉体外部からガス供給管内部に導入した雰囲気ガスが、各ガス通過領域を通過する間に炉内温度によって予熱され、かつ均一な流量で炉内に噴出される。その結果、均一な温度の雰囲気ガスが均等に被処理物11に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉体内部を搬送される被処理物への雰囲気ガスの供給を伴った熱処理を行う熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被処理物への雰囲気ガスの供給を伴った熱処理は広く行われている。例えば、液晶パネル、プラズマディスプレイパネル、または太陽電池パネル等のガラス基板に、ペーストを塗布して乾燥または焼成させる熱処理、セラミックコンデンサに代表される電子部品等を焼成させる熱処理、あるいは化学反応を伴う合成または粒子の成長等を目的として、金属材料または無機材料で構成される粉体を、焼成させる熱処理などがある。
【0003】
少量の被処理物を実験室規模で熱処理する装置として、バッチ式の小型炉が広く用いられている。一方、大量の被処理物を連続的に熱処理する装置として、連続搬送式の大型炉が広く用いられている。連続搬送式の装置は、被処理物の搬送方法によっていくつかに分類される。
【0004】
被処理物はそのまま搬送媒体に載置されて直接搬送される場合もあり、あるいは板状または箱型の積載部材に積載されて搬送される場合も多い。例えば、被処理物がガラス基板等である場合、基板の割れやキズを防止するためガラスと同程度の硬度を持つ板状の積載部材が広く用いられる。被処理物が粉体である場合、炉の構成部材への粉体の付着を防止しつつ、流動性の高い粉体の積載量(即ち、1度に熱処理される粉体の量)をある程度確保するために、箱型の積載部材が広く用いられる。被処理物および積載部材の搬送媒体としては、油圧プッシャー(プッシャー炉)、セラミックローラのコンベヤ(ローラハース炉)、金属メッシュベルトのコンベヤ(メッシュベルト炉)などが用いられる。
【0005】
被処理物の熱処理を連続的に行う際には、化学反応をはじめとする所望の熱処理に必要な雰囲気ガスを被処理物に連続的に供給する場合が多い。被処理物に雰囲気ガスを供給する上で大きな問題となるのは、被処理物への熱のかかり具合および反応に必要な雰囲気ガスとの接触の具合が場所によって異なり、そのことが場所ごとに熱処理状態の差異、すなわち熱処理ムラを招くことである。一般に、過度の熱処理ムラは、熱処理後の被処理物を用いて製造される各種製品の性能劣化を引き起こすため、熱処理ムラを抑制することが強く求められている。
【0006】
雰囲気ガスは、多くの場合において、炉外では常温の状態であり、炉内に導入される途中経路で炉内温度(即ち、加熱された炉体または炉内に存在する部材・発熱体等から伝熱される熱)によって加熱された後に、被処理物に供給される。したがって、雰囲気ガスが途中経路で充分に加熱されず、低い温度の雰囲気ガスとして被処理物に供給されると、被処理物に温度ムラを生じさせ、このことは大きな熱処理ムラの要因となる。
【0007】
従来の、熱処理ムラの抑制を目的とする雰囲気ガスの供給方法としては、炉の天井から導入したガスを炉内の上部空間に滞留させて予熱してから、穴明き板を介して被処理物に供給する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
図11は前記特許文献1に記載された従来の熱処理装置の構成を示す断面図であり、被処理物1が積載された積載部材2の搬送方向(図11の紙面に対して垂直な方向)に垂直な面で炉体3を切断した断面を示している。被処理物1が積載された積載部材2は、搬送ローラ4によって炉内を搬送されながら熱処理される。
【0009】
図11に示すように、炉体3の内部において搬送ローラ4の上部空間には、多数のガス流通孔が全面にわたり形成された穴明き天井板5が水平に配置されており、搬送ローラ4の上部空間を穴明き天井板5より上方の天井室6と、穴明き天井板5より下方の炉室7とに区画している。炉体3の天井壁を貫通してガス供給管8が設けられており、その下端が天井室6に連通させてある。この構成により、雰囲気ガスは一旦この天井室6に滞留し、炉内温度によって予熱されたうえで、穴明き天井板5のガス流通孔を介して炉室7内に供給される。特許文献1には、予熱により、雰囲気ガスが被処理物1に接触する際の場所ごとの温度ムラを軽減し、熱処理ムラを抑制する効果が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−223563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来の構成においては、炉内にガスを予熱するためのスペースを設ける必要があるため、炉内容積を増大させる必要がある。このことは、炉体の大型化を招き、ひいては設備コストを増大させる。また、炉内容積が増大すると、それに相当する量の雰囲気ガスが必要となり、雰囲気ガスの購入または雰囲気ガスの生成に要するコスト、および雰囲気ガスを炉内で加熱するためのエネルギーコストも増大する。このように、特許文献1に記載の構成は、経済的な面でなお改善の余地を有している。
【0012】
炉内にガスを予熱するためのスペースを設けずに雰囲気ガスの予熱を行う方法の一つとして、炉内の温度分布を制御するために通常炉内に設けられている熱源とは別の熱源を、炉外に設け、ガスを炉内に導入する前に加熱する方法がある。しかしながら、そのような方法においては、炉外に熱源とその制御装置などを設けるために、追加のスペースと費用とが必要である。また当該熱処理に用いている温度が高ければ高いほど、ガスを炉外で所定の温度まで予熱するのは困難になる上、炉外に追加した熱源から周囲に熱が放散し、結果的にエネルギーコストが大幅に増大してしまう。
【0013】
上記のような問題から、従来の熱処理装置においては、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく雰囲気ガスを予熱することが困難である、ならびに炉内に雰囲気ガスを均一供給する手段が考慮されていない、という課題がある。
【0014】
本発明は、上記従来の問題に鑑み、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく、雰囲気ガスを予熱してから炉体内部に均一に噴出して、被処理物に接触するガスの温度を均一化し、熱処理ムラの抑制を実現できる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の第1の要旨に係る熱処理装置は、
炉体を構成する壁に囲まれた空間(以下、「炉体内部」とも呼ぶ)において被処理物へ雰囲気ガスを供給するための、炉体外部に設けられたガス供給装置に接続されたガス供給管、および炉体内部の温度を制御するための加熱器を有する熱処理装置であって、
ガス供給管は、
雰囲気ガスが通過するためのガス供給管の内部空間を、複数のガス通過領域に分離するための1または複数の分離板、および
雰囲気ガスが直接供給されず、かつ複数の分離板によって囲まれていないガス通過領域と空間的に連通している、雰囲気ガスを炉体内部に噴出するための噴出口
を有し、
分離板は、それが隔てているガス通過領域を空間的に連通させる連通口を有し、
分離板は、その主表面が噴出口から噴出されるガスの流れと角度を形成するように配置されている
熱処理装置である。
【0016】
本発明の第2の要旨に係る熱処理装置は、
炉体を構成する壁に囲まれた空間(以下、「炉体内部」とも呼ぶ)において被処理物へ雰囲気ガスを供給するための、炉体外部に設けられたガス供給装置に接続されたガス供給管、および炉体内部の温度を制御するための加熱器を有する熱処理装置であって、
ガス供給管は、
雰囲気ガスが通過するためのガス供給管の内部空間を、n個のガス通過領域に分離するための(n−1)個の分離板、および
雰囲気ガスが直接供給されず、かつ複数の分離板によって囲まれていないガス通過領域と空間的に連通している、雰囲気ガスを炉体内部に噴出するための噴出口
を有し、
分離板のうち、雰囲気ガスが直接供給されるガス通過領域を規定している分離板は、炉体内部の領域において全体が多孔質構造を有し、他の分離板は、それが隔てているガス通過領域を空間的に連通させる連通口を有しており、
分離板はすべて、その主表面が噴出口から噴出されるガスの流れと角度を形成するように配置されている、
熱処理装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱処理装置によれば、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく雰囲気ガスを予熱した後、炉内の熱処理ゾーン内に均一に噴出して、被処理物に接触するガスの温度を均一化し、熱処理ムラの抑制を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な概略断面図(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置の搬送方向に平行で、かつ搬送面に垂直な概略断面図
【図2】本発明の実施の形態1における熱処理装置のブロック図
【図3】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の一例を示す側断面図(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の一例を示す断面概念図(c)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の図3(a)のA−A’断面図(d)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の図3(a)のB−B’断面図(e)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の図3(a)のC−C’断面図(f)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管内に設置された分離板23一例の平面概念図
【図4】本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給機構の一構成例の概略を示す図
【図5】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置の温度測定結果を示すグラフ(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置の温度均一化検証結果を示すグラフ
【図6】本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス噴出速度測定結果を示すグラフ
【図7】本発明の実施の形態2における熱処理装置の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な概略断面図
【図8】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管内に配置される分離板の別の一例を示す平面概念図(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管内に配置される分離板のさらに別の一例を示す平面概念図
【図9】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の別の一例を示す断面概念図(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の別の一例を示す断面概念図
【図10】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管のさらに別の一例を示す側断面図(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管のさらに別の一例を示す断面概念図
【図11】特許文献1における従来の熱処理装置の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同じ構成には同じ符号を付して、適宜説明を省略している。
【0020】
(実施の形態1)
図1(a)は、本発明の実施の形態1における熱処理装置10の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な概略断面図、図1(b)は、本発明の実施の形態1における熱処理装置10の搬送方向に平行で、かつ搬送面に垂直な概略断面図である。ここで、「搬送方向」とは、被処理物が進行する方向であり、「搬送面」とは、被処理物(またはこれを積載した積載部材)が載置されている面である。一般に、「搬送面」は、熱処理装置の接地面と平行な面である。
【0021】
(装置の全体構成について)
この熱処理装置10は、被処理物11と、積載部材12と、炉体13と、炉体13の上壁として上部断熱壁13aと、炉体13の下壁として下部断熱壁13bと、炉体13の中の被処理物11の搬送面に対して垂直であり、(図1(a)の紙面の左右に)対向するように設置された組の側壁として側部断熱壁13cと、搬送ローラ14と、ゾーン隔壁16と、通過口17と、上部ヒータ18と、下部ヒータ19と、ガス供給管20と、ガス供給管噴出口28と、排気管42と、ガス吸込口41とを含む。
【0022】
なお、図1(a)と(b)中の符号で、Dcは積載部材12の搬送方向、Dgはガス噴出方向、Fvは被処理物11の表層面と同じ高さの仮想面、θは仮想面Fvの垂線とガス噴出方向Dgとがなす角度、hは仮想面Fvとガス噴出口28との間の距離、Hは炉体13の鉛直方向の高さ、Lは炉体13の搬送方向Dcに沿った長さ、Wは炉体13の搬送方向Dcに直交し、かつ搬送面と平行な方向の寸法(横幅)、Diはガス供給管20に導入されるガス導入通過方向をそれぞれ示している。
【0023】
(装置の動作について)
この熱処理装置10は、粉体状の被処理物11を積載した箱型の積載部材12を炉体13の内部で搬送し、この炉体13の内部空間(この空間を本明細書において「炉体内部」または「炉内」と呼ぶこともある)で被処理物11を熱処理する装置である。本実施の形態1では、図1(b)に示すように、搬送方向(図1(b)の紙面左右方向)に沿って複数個設置された搬送ローラ14の回転によって、積載部材12が搬送方向に搬送される。すなわち、並置された複数個の搬送ローラ14の上側の頂点を含む面が積載部材12の搬送面となり、この搬送面に積載部材12の搬送路が形成され、積載部材12は、図1(b)に矢印で示す搬送方向Dcに沿って、紙面上左から右の方向へ向かって搬送される。
【0024】
積載部材12は図1(b)に示す搬送方向Dcに沿って列をなして並べられており、それらを連続的に搬送することによって、積載部材12に積載されている被処理物11を連続的に熱処理することができる。積載部材12は、積載部材同士の衝突を避けるために一定の間隔を空けて並べてよく、あるいは隙間なく並べてもよい。
【0025】
(積載部材の12の搬送方法について)
図1(a)を用いて、積載部材12の搬送方法について、さらに説明する。積載部材12は図1(a)の紙面手前から奥に向かって搬送され、ここでは、搬送方向と直交する横方向(図1(a)の紙面左右方向)に3個の積載部材12が並置されている場合を示している。このように横方向(搬送方向に垂直で、かつ搬送面と平行な方向)に3個の積載部材12を並置して、それらを同時に搬送することで、横方向に並置された3個の積載部材12に積載されている各被処理物11を同時に熱処理することができる。前述したように、積載部材12は搬送方向に沿っても列をなして並べられているので、ここでは3本の列をなす積載部材12が同時に連続して搬送される。無論、横方向に並置する積載部材12の個数はこれに限定されるものではない。横方向に並置する積載部材12の数が増えるほど生産性が向上するが、装置の設置スペースが増大し、また、搬送の難易度、および横方向に均一な熱処理を行う難易度も高くなる。
【0026】
図1(a)において横方向に3個並置された積載部材12間の隙間は、それぞれ横方向において50[mm]であり、また、積載部材12と炉内壁面との隙間は、左右とも横方向において150[mm]である。無論、隙間の寸法はこれに限定されるものではないが、隙間を大きくするほど、装置の設置スペースが増大するので、適正な隙間を設定することが望ましい。
【0027】
(炉体13の断熱壁について)
続いて、炉体13の断熱壁について説明する。図1(a)に示すように、炉体13の上壁として上部断熱壁13aが、炉体13の下壁として下部断熱壁13bが、炉体13の横方向の寸法を規定する向かい合う側壁として側部断熱壁13cが、それぞれ設けられている。
【0028】
(熱処理装置10のゾーン構成について)
続いて、熱処理装置10のゾーン構成について説明する。熱処理装置10の炉体13においては、その内部空間(即ち、炉内)が、搬送方向Dcに沿って複数の熱処理ゾーン(処理空間)に分割されている。各ゾーンにおいては、熱処理プロセスに応じた熱処理が行われる。図1(b)には、それらのうちの1つのゾーンの断面を示している。各ゾーンはゾーン隔壁16で仕切られており、ゾーン隔壁16には、被処理物11と積載部材12が通過可能な通過口17が設けられている。
【0029】
(炉体13の寸法について)
本実施の形態1では、炉体13の寸法は、搬送面に対して垂直な方向(以下の説明を含む本明細書において、「鉛直方向」とも呼ぶ)の寸法(即ち、高さ)Hを1000[mm]、各ゾーンの搬送方向Dcに沿った長さLをそれぞれ1500[mm]とする。また搬送方向Dcに直交し、かつ搬送面と平行な方向(以下の説明を含む本明細書において、搬送面と平行な方向を「水平方向」とも呼び、搬送方向Dcに直交し、かつ搬送面と平行な方向を「横方向」とも呼ぶ)の寸法、即ち、横幅Wを1800[mm]とする。無論、寸法はこれに限定されるものではなく、被処理物11の処理量に応じて適切に選択される。
【0030】
(積載部材12の形状について)
続いて、積載部材12の形状について説明する。図1(a)および図1(b)に示すように、ここでは、積載部材12として底面が正方形の箱型容器を用いる。無論、積載部材12の形状は特に限定されるものではなく、例えば、底面が円形であり、上部が開いている円筒状の容器、およびフチのない板状のもの等を用いることもできる。但し、流動性の高い粉体の搬送において、フチのない板状の積載部材を用いると、1個の積載部材に積載可能な粉体の量が制限されて生産性が低下するため、フチのある箱型容器を使用することが望ましい。
【0031】
また、本実施の形態1では、粉体状の被処理物11を箱型の積載部材12に積載して熱処理する例を示しているが、無論、被処理物11および積載部材12の形態はこれに限定されるものではない。例えば、被処理物はペーストを塗布したガラス基板で構成されるものであってよく、その場合には、被処理物を例えば板状の積載部材に積載して熱処理を実施する。そのような被処理物を熱処理するための装置にも、本発明は適用され得る。
【0032】
(搬送ローラ14について)
続いて、搬送ローラ14について説明する。搬送ローラ14の材質と太さは、被処理物11を積載した積載部材12の荷重に耐えうる強度を搬送ローラ14が持つように、選定する。また、積載部材12の落下が生じないように、搬送ローラ14は積載部材12の搬送方向Dcの寸法よりも充分に短いピッチで並べる。搬送ローラ14が太すぎる、または搬送ローラ14を並べるピッチが小さすぎると、後述する搬送路より下に位置する下部ヒータ19からの伝熱が搬送ローラ14によって阻害されるため、適正なローラの太さとピッチを選択することが望ましい。無論、搬送方法は搬送ローラ14の回転によって積載部材12を搬送する方法に限定されるものではなく、例えばローラ上の積載部材を油圧プッシャーで押す方法や、メッシュベルトのコンベヤで搬送する方法などを用いることができる。それらの方法を採用する場合には、その方法に応じた搬送装置または搬送媒体を熱処理装置内に設ける。
【0033】
(積載部材12と搬送ローラ14の材質について)
続いて、積載部材12と搬送ローラ14の材質について説明する。ここでは、積載部材12と搬送ローラ14の材質に、アルミナ質のセラミックスを用いる。無論、使用温度における耐熱性と強度を満足するものであれば、例えばジルコニア質のセラミックス、ならびにSUSおよびインコネルといった金属製のもの等を用いることもできる。但し、被処理物11の腐食性が高い場合には、積載した被処理物11および飛散した被処理物11によって、積載部材12および搬送ローラ14の表面が腐食して剥離し、被処理物11内に不純物として混入する恐れがある。そのため、積載部材12および搬送ローラ14の材質は耐食性を有することが望ましい。
【0034】
(加熱器について)
続いて、炉体13の内部の温度分布を熱処理プロセスに応じた温度分布に制御する加熱器について説明する。本実施の形態1では、加熱器として、積載部材12の搬送路を挟んで上下方向に、上部ヒータ18および下部ヒータ19をそれぞれ複数個ずつ設けている。詳しくは、図1(b)に示すゾーンにおいては、搬送ローラ14の上方(上部断熱壁13a側)に円筒状の上部ヒータ18が搬送方向Dcに沿って4個配置されており、同様に搬送ローラ14の下方(下部断熱壁13b側)に円筒状の下部ヒータ19が搬送方向Dcに沿って4個配置されている。また、上部ヒータ18および下部ヒータ19は、その長手方向が横方向(図1(a)の紙面左右方向)と平行になるように配置されている。
【0035】
このように、搬送ローラ14の上方と下方にそれぞれヒータを配置することによって、片方にのみヒータを配置する場合に比べて被処理物11および積載部材12の上下方向(表面と裏面)での均熱性を向上することができる。なお、被処理物11および積載部材12の上下方向(表面と裏面)での均熱性をより向上させるには、上部ヒータ18と下部ヒータ19を、それらの各々と積載部材12との間の鉛直方向(図1(b)の紙面上下方向)の距離が等しくなるようにそれぞれ配置するのが好ましい。
【0036】
ここでは、上部ヒータ18および下部ヒータ19として同形状のものを用いたが、上下の温度分布制御が複雑になることを考慮しさえすれば、異なる形状であってもよい。また、上部ヒータ18と下部ヒータ19は、例えば炉体13を構成する上部断熱壁13aおよび下部断熱壁13bに埋め込んでもよい。ヒータを断熱壁に埋め込んだ場合は、熱効率は落ちるが、熱処理装置10を小型化することが可能である。
【0037】
また、ここでは、上部ヒータ18および下部ヒータ19の種類として、円筒状のセラミック自体を発熱体とした電気式のヒータを用いるが、加熱器(上部ヒータ18、下部ヒータ19)の種類はこれに限定されるものではない。例えば、パネル型の電気式のヒータ、オイル循環式もしくはガス燃焼式のヒータ、またはマイクロ波、電磁波、もしくはレーザー等を用いたヒータなど、種々のヒータを加熱器として用いることができる。
【0038】
(熱処理装置10の制御機構について)
図2は、本発明の実施の形態1における熱処理装置10のブロック図である。
この熱処理装置10の制御機構は、制御装置45と、搬送コントローラ44と、搬送センサー34と、上部ヒータ用温度コントローラ18aと、下部ヒータ用温度コントローラ19aと、ガス供給源22と、ガス流量調整部24と、排気流量調整部43とからなる。
【0039】
(加熱器の制御機構について)
加熱器の制御機構について説明する。ここでは、上部ヒータ18と下部ヒータ19はそれぞれ上部ヒータ用温度コントローラ18aと下部ヒータ用温度コントローラ19aに接続されており、それらの温度コントローラは、上部ヒータ18と下部ヒータ19の出力、つまり温度を個別に制御する。
【0040】
(熱処理装置10のガス供給機構について)
続いて、熱処理装置10のガス供給機構について説明する。被処理物11に施す熱処理が化学反応を伴う場合は、所望の化学反応に必要な種類の雰囲気ガスを炉体13の内部に供給する必要がある。また、化学反応を伴わなくても、蒸発ガスの発生を伴う熱処理(例えば、被処理物11が含有する溶媒および水を蒸発させて、被処理物11を乾燥させる処理)の場合は、蒸発ガスを含む炉内雰囲気を炉外に排出するガス排気機構が必要である。その場合、炉内の圧力バランスを保つためには、排気した流量と同程度の流量の雰囲気ガスを炉体13の内部に供給する必要がある。本実施の形態1においては、被処理物11には、化学反応と蒸発ガスの発生の両方を伴う熱処理を施すので、化学反応の促進と、炉内の圧力バランスの確保という2つの目的で雰囲気ガスの供給を行い、雰囲気ガスには酸素(O2)を用いる。
【0041】
この熱処理装置10のガス供給機構は、炉体13の内部へ炉体13の外部から雰囲気ガスを供給する機構であり、具体的には、ガス供給管20と、ガス供給管20へ雰囲気ガスを供給するガス供給源22と、ガス供給源22からガス供給管20へ供給される雰囲気ガスの流量を制御するガス流量調整部24とからなる。ガス流量調整部24には、例えばレギュレータ、ダンパー、ファン、フローメーター、またはマスフローコントローラ等を用いることができる。
【0042】
(ガス供給管20とガスの供給方法について)
続いて、ガス供給管20とガスの供給方法について、図1(a)(b)を用いて、さらに説明する。ガス供給管20は、所望の熱処理に必要な雰囲気ガスを炉体13の内部へ供給するガス供給機構の一部であり、このガス供給管20は、円筒状であり、横方向(図1(a)の紙面左右方向)において延び、側部断熱壁13cを貫通する。図1(a)に示すように、このガス供給管20は、ガス供給機構の一部であるガス供給源22に炉体13の外部で接続している。また、ガス供給管20には、炉体13の外部において、ガス供給機構の一部であるガス流量調整部22が介装されている。また、図1(b)に示すように、ガス供給管20の炉体13の内部における位置は、積載部材12の搬送路(搬送ローラ14)の上方である。前述した上部ヒータ18との干渉を避けるために、ガス供給管20は上部ヒータ18と平行に設置するのが望ましい。
【0043】
通常、ガス供給源22からは常温(室温)の雰囲気ガスが供給され、雰囲気ガスは、ガス供給管20の内部を通過している間に、前述した加熱器で制御された炉内温度によって加熱された後、被処理物11および積載部材12が搬送されている炉体13の内部空間に供給される。しかし、雰囲気ガスがガス供給管20の内部を通過している間に、充分に温められず、低温のまま被処理物11に供給されると、被処理物11に温度ムラを生じさせて大きな熱処理ムラの要因となる。これを防止するため、本実施の形態1におけるガス供給管20は以下に説明する構成を備えている。
【0044】
(ガス供給管20の詳細構成と具体実施内容について)
図3(a)は、本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の詳細を、また図3(b)は、本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の断面概念図を示す。
【0045】
図3(a)に示すように、ガス供給管20は、雰囲気ガスが通過するためのガス供給管の内部空間を、複数のガス通過領域に分離するための分離板23、および噴出口28を有している。より詳細には、分離板23は、ガス供給管20の内部空間を、第1ガス通過領域31と第2ガス通過領域32に分離し、これらの領域を空間的に連通させて、ガスの通過を可能にする連通口26を有する。雰囲気ガス供給源の雰囲気ガスは、ガス供給管20の両端部から導入方向Diに沿って導入され、第1ガス通過領域31にまず導入される。第2ガス通過領域32は、雰囲気ガス供給源から直接的に雰囲気ガスが導入される領域ではない。噴出口28は、雰囲気ガスを炉内の熱処理ゾーン内に噴出するためのものであり、第2ガス通過領域32と空間的に連通している。
【0046】
なお、図3(a)および図3(b)は、ガス供給管20の長手方向に沿って切断した側断面およびガス供給管20の端面のみをそれぞれ示している。ガス供給管20は、詳細には配管の長手方向の場所により異なる断面構造を有するため、主な断面部分を以下に示す。図3(c)、(d)、(e)は、それぞれ図3(a)におけるガス供給管20のA−A’、B−B’、およびC−C’に沿って切断して得られる切断面を示している。また、図3(f)は、ガス供給管20内に設置された分離板23の概念図を示す。
【0047】
この実施の形態においては、ガス供給管20の外径を43〔mm〕、内径を35〔mm〕(したがって肉厚は8〔mm〕)、分離板23の板厚を2〔mm〕とした。無論、ガス供給管の径、分離板の板厚等の各寸法はこれに限定されるものではなく、熱処理装置の炉内外寸法、処理温度、および供給ガス流量等を勘案し、適切に選択することが望ましい。
【0048】
ガス供給管20の端部において、炉外から雰囲気ガスが直接的に導入される第1ガス通過領域31の端部は開放されており、第2ガス通過領域32の端部は、空間遮断材25によって閉じられている。この空間遮断材25によって、炉体13の外部から導入された雰囲気ガスは、まず第1ガス通過領域31にのみ供給される。
【0049】
この実施の形態において、ガス供給管20の内部空間を複数のガス通過領域に分離する分離板23には、複数の連通口26(以下、分離板に設けられた連通口を「分離板連通口」とも呼ぶ)が設けられており、分離板23の連通口26以外の部分はガスが通過できないようになっている。即ち、分離板23は、それが隔てる2つのガス通過領域を、部分的に連通させている。より具体的には、図3(f)に示すように、円形の分離板連通口26が、長手方向に沿って1列に形成されている。第1ガス通過領域31に供給されたガスは、この分離板連通口26をDaの方向に流れて通過して、第2ガス通過領域32に供給される。そして、第2ガス通過領域32に供給されたガスは、ガス供給管20と炉内を空間的に連通するガス供給管噴出口28より、Dgの方向に噴出され、最終的に被処理物11および積載部材12が搬送されている炉内空間に供給される。
【0050】
(本構成実施の効果について)
上記の構成により、雰囲気ガスは、ガス供給管20の内部空間に設けられた複数のガス通過領域を通過する間に、炉内温度によって加熱される。したがって、この構成のガス供給管20は、その内部に複数の区分けされた領域を有しない構成の通常の管(単純な単管構造の管)に比べ、雰囲気ガスがより加熱された状態で炉体13の内部空間に供給されることを可能にする。特に、この構成のガス供給管20は、炉体13の外部に近い位置(ガスが加熱される経路が短い位置)にあるガス供給管噴出口28において、低温のまま雰囲気ガスが炉内に噴出されるのを抑制し、被処理物11の熱処理ムラを抑制することができる。
【0051】
併せて、この構成のガス供給管20は、先に説明した構成の通常の管(単純な単管構造の管)に比べ、第1ガス通過領域31と、分離板23に分離板連通口26を設けることにより、ガス通過経路のコンダクタンス(conductance)をガスの使用流量に応じて適切に選択することを可能にする。このことは、最終的にガス供給管噴出口28より炉内に噴出されるガスの流量が、炉内端部と炉内中央部で異なることを抑制して、ガスの流量を均一にし得る。噴出口28の場所によらず、ガスの流量を均一にすることによって、化学反応および雰囲気依存の影響に敏感な場合等の被処理物11の熱処理ムラを抑制できる。
【0052】
また、この構成のガス供給管20を有する熱処理装置10においては、特許文献1に示すような、炉体13の天井から導入した雰囲気ガスを炉内の上部空間に滞留させて予熱したうえで被処理物11に供給する従来の方法に比べて、炉内にガス予熱のための余分なスペースを設ける必要がないので、炉体13を小型化して設備コストを低減できる。また、炉体13の小型化により炉の表面積が小さくなることによって、炉の外壁面からの放熱を低減し、炉内温度を保つためのエネルギーコストを低減できる。また、炉体13の小型化により炉内容積が小さくなることによって、使用する雰囲気ガスの量も低減できるので、雰囲気ガスの購入または雰囲気ガスの生成にかかるコスト、ならびに雰囲気ガスを炉内で加熱するためのエネルギーコストを低減できる。
【0053】
(被処理物11に対するガス噴出方向について)
続いて、被処理物11に対するガス噴出方向について詳細に説明する。本実施の形態1では、図1(a)および(b)に示すように、雰囲気ガスは、ガス供給管20の噴出口28から被処理物11へ向けて噴出される。図1(b)にガス供給管20から噴出されるガスの方向Dg(以下の説明を含む本明細書において、この方向を「ガス噴出方向」とも呼ぶ)の一例を矢印で示す。ここでは、被処理物11の表層面と同じ高さの仮想面30の垂線とガス噴出方向Dgとがなす角度θが45°となるように、ガス噴出方向Dgを設定した。無論、角度θはこれに限定されるものではない。例えばθが0°となるようにガス噴出方向Dgを設定して、被処理物11の表層面に垂直に雰囲気ガスを噴出してもよい。ただし、炉内における雰囲気ガスの流路はDcと角度をなす(即ち、Dcと平行とならない)ことが好ましいので、ガス噴出方向Dgは、0°≦θ<90°の範囲内とし、かつ噴出後の雰囲気ガスが被処理物11にあたる前に上部ヒータ18などの炉内の他の部材にできるだけ衝突しないように設定することが望ましい。
【0054】
(ガス供給管20と分離板23の具体的実施形態)
続いて、ガス供給管噴出口28と分離板連通口26の配置について、図3(a)を用いて説明する。本実施の形態1では、板状の分離板23の炉体13の内部に位置する領域における主表面(板面)には、直径10〔mm〕の5個の円形状の分離板連通口26a、26b、26c、26d、26eをそれぞれ160〔mm〕のピッチで設けている。分離板23の分離板連通口26aの中心の、管の長手方向における座標(図3(a)においてy軸の座標)は、ガス供給管噴出口28aの中心およびガス供給管噴出口28bの中心を結ぶ線分の中点のy座標と一致するように配置されている。他の4つの分離板連通口26b〜26eも同様に、それらの中心のy座標が、隣り合う二つのガス供給管噴出口28の中心を結ぶ線分の中点のy座標と一致するように、配置されている。
【0055】
このようにガス供給管噴出口28と分離板連通口26を配置することによって、分離板連通口26から第2ガス通過領域32の内部に噴出される雰囲気ガスが、ガス供給管噴出口28に達するまでの経路を長くできる。したがって、この配置によれば、分離板連通口26の中心のy座標とガス供給管噴出口28の中心のy座標とを一致させる場合と比較して、雰囲気ガスを予熱する効果をより高めることができる。無論、分離板連通口26の配置はこれに限定されるものではないが、少なくとも分離板連通口26の中心のy座標が、ガス供給管噴出口28の中心のy座標とは異なるように、分離板連通口26を配置することが望ましい。加えて、鉛直方向(図3(a)のz方向)から見て、分離板連通口26とガス供給管噴出口28とが重ならないように、分離板連通口26およびガス供給管噴出口28の形状、寸法および位置を選択することが好ましい。
【0056】
実施の形態1において、分離板23は、ガス供給管20の内径に略等しい幅を有しているため、これが内部空間に配置されることにより、内部空間が等分されて、略同じ容積の2つのガス通過領域を形成している。分離板の形状および寸法によっては、一方のガス通過領域が他方のガス通過領域より大きくなることもある。
【0057】
(分離板の様々な形態について)
本実施の形態1では、分離板23に連通口26として、円形の1つの貫通穴を形成しているが、分離板連通口26の形状(分離板23の主表面における形状)は円形である必要はない。各分離板連通口26は、第1ガス通過領域31と第2ガス通過領域32との間で、雰囲気ガスの移動を可能にする構造を有している限りにおいて、その形状は円形に限られず、また単一の貫通穴に限られない。例えば、図8(a)および(b)に示すように、分離板23に設けられた分離板連通口26を、多孔構造としてよい。多孔構造の連通口26’は、例えば、貫通穴を形成し、この貫通穴に多孔質材料を設置して形成する。多孔質材料は、例えば、多孔質セラミック、多孔質金属、多孔質カーボン等である。多孔構造の分離板連通口26に代えて、網目構造等のものを用いることも可能である。網目構造の分離板連通口は、例えば、格子状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状であってよい。多孔構造および網目構造の連通口は、1つの貫通穴である連通口と比較して、ガスの流れに対して一定の抵抗を生じさせたりするため、流量分布を確保し易く、また、クリーン度が要求される場合、異物の侵入を防ぐことが可能である。
【0058】
(ガス供給管20と分離板23の設置と形態について)
本実施の形態1では、分離板23はその主表面とガス噴出方向Dgとが直角(即ち、90°)をなすように配置されている。また、分離板連通口26を通過するガスの方向Daとガス噴出方向Dgとは互いに平行となっている。このように分離板23を配置することによって、ガス供給管噴射口128から噴射されるガスの流量をより均一にすることができる。前述のように、必要に応じて、ガス供給管20全体をθ方向に回転させる場合、分離板23とガス通過方向Daとガス供給管噴出口28の位置関係が、保たれることが望ましい。勿論、装置の仕様および設計上等の制約により、上記のような位置関係が不可能な場合は、これに限らない。分離板23の主表面とガス噴出方向Dgとがなす角度が0°でない限りにおいて、複数のガス通過領域を設けることによる雰囲気ガスの予熱効果を得ることができる。
【0059】
図1(a)において、炉体13の横方向(図1(a)の紙面左右方向)に並置された複数の積載部材12に積載される各被処理物11に対して均等に雰囲気ガスを供給するためには、複数のガス供給管噴出口28は炉体13の横方向で被処理物11が存在する全域に均等に配置することが望ましい。これに対し、複数の分離板連通口26を、炉体13の横方向で被処理物11が存在する分離板23の全域に均等に配置する必要はない。例えば、炉体13の横方向の中央に、1つのみの分離板連通口を配置すること、または複数の分離板連通口を集中させて配置することも可能である。この場合、炉体13の外部から導入された雰囲気ガスが最初の分離板連通口26に到達するまでの経路を長くできるので、ガスを予熱する効果を高めることができる。しかしながら、そのように分離板連通口を配置すると、図3(a)における第1ガス通過領域31から第2ガス通過領域32へのガスの噴出が炉体13の横方向の中央付近で集中し、それにより、その後のガス供給管噴出口28からのガスの噴出も炉体13の横方向の中央付近に集中する。その結果、図1(a)において横方向に並置された複数の積載部材12に積載される各被処理物11に対して均等に雰囲気ガスを供給することができなくなってしまう。従って、本実施の形態1のように、複数の分離板連通口26が、炉体13の横方向に均等に配置されることが望ましい。
【0060】
また、上述した雰囲気ガスの充分な予熱と、各被処理物11に対しての均等な量のガス供給とを両立するために、複数のガス供給管噴出口28のうち、両側の側部断熱壁13cにそれぞれ最も近い位置にある2つのガス供給管噴出口28aと28fとの間の領域をガス供給管20の長手方向に3等分した場合に、分離板連通口26が、3等分した領域のそれぞれに少なくとも1つ配置されていることが望ましい。
【0061】
本実施の形態1においては、1つの分離板23がガス供給管20の内部空間に配置されている。分離板の数は1つに限定されない。複数の分離板をガス供給管の内部空間に配置して、ガス通過領域を規定して、雰囲気ガスの予熱をより促進するとともに、雰囲気ガスの流量をより均一にさせてよい。
【0062】
(ガス供給管と分離板の材質について)
続いて、ガス供給管20の材質について説明する。本実施の形態1では、分離板23およびガス供給管20の材質として、耐熱性を有し、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対する耐食性を有するアルミナ質のセラミックスを用いている。ガス供給管20の材質は、被処理物、雰囲気ガス、および蒸発ガスの種類に応じて適宜選択され、無論、使用温度における耐熱性を満たし、被処理物、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対して耐食性を有する限りにおいて、アルミナ質セラミックス以外の材質を用いることもできる。しかしながら、雰囲気ガスが第1ガス通過領域31の内部を通過する間に予熱される効果を高めるためには、ガス供給管に用いる材料表面の輻射率が重要となる。
【0063】
図1(a)に示すガス供給管20は、上部ヒータ18により温度制御されている炉内雰囲気からの熱伝達によって、炉内温度に近い状態に保たれている。しかし、ガス供給管20内部にある分離板23が、温度制御された炉内雰囲気に接していないため、常温で導入される雰囲気ガスに熱を奪われることによって供給管自体が冷えた状態になる可能性がある。これを防止するには、ガス供給管20の内面から分離板23の板面への輻射熱によって、分離板23の温度を高く保つのが有効である。そのために分離板管23およびガス供給管20の材質として、表面の輻射率が0.5以上である材質を選択することが望ましい。輻射率が0.5より小さいと、ガス供給管20の内面から分離板23の外面への輻射熱が小さくなり、分離板23が冷えた状態となって雰囲気ガスを予熱する効果を充分に得られないことがある。本実施の形態1では、分離板23およびガス供給管20の材質として、輻射率が0.8のアルミナ質のセラミックスを用いている。
【0064】
(ガス供給管の構成に関する条件について)
上述したガス供給管の構成に関する条件は、発明者による様々な条件での数値解析により、ガス供給管噴出口の配置と個数、ガス噴出方向、ガス供給管の材質、ガス供給管に導入するガス流量を様々に変更し、複数のガス供給管噴出口28から噴出される雰囲気ガスの温度と流量の分布を求めることによって見出した条件である。上記の条件を用いることにより、炉体13の外部から導入された雰囲気ガスは、第1ガス通過領域31と第2ガス通過領域32の内部を通過する間に炉内温度によって充分に加熱され、複数のガス供給管噴出口28から均一な流量で噴出され、各被処理物11に対して均等に、被処理物11において温度ムラを生じさせることなく供給されることが可能になる。
【0065】
(空間遮断材25について)
次に、空間遮断材25について説明する。本実施の形態1では、図3(a)に示すように第2ガス通過領域32の端部に、半円筒状の空間遮断材25がガス供給管20の内壁および分離板23に接して設置されている。この空間遮断材25があることにより、ガス導入通過方向Diに沿ってガス供給管20に導入される雰囲気ガスが、確実に第1ガス通過領域31に流れ、逆に、炉外雰囲気温度に近い雰囲気ガスが第2ガス通過領域32に流れ込むことを防ぐことができる。
【0066】
(空間遮断材25の材質について)
空間遮断材25の材質は、使用温度における耐熱性を満たし、被処理物、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対する耐食性を有するものから適宜選択できる。本実施の形態1においては、熱膨張の差により分離板23およびガス供給管20に余計な応力を発生させないように、空間遮断材25の材質として、分離板23およびガス供給管20と同じアルミナ質のセラミックスを用いている。
【0067】
(ガス供給管20の設置高さについて)
続いて、ガス供給管の設置高さについて説明する。本実施の形態1では、図1(b)に示す被処理物11の表層面と同じ高さの仮想面Fvとガス供給管噴出口28との間の距離hが90[mm]となるようにガス供給管20の設置高さを設定している。なお、距離hを長く設定するほど、雰囲気ガスがガス供給管噴出口28を噴出してから被処理物11に達するまでの時間も長くなり、その間にも炉内温度によって雰囲気ガスが加熱されるので、被処理物11に供給される際の温度ムラがより軽減する傾向は得られる。しかしながら、距離hを長く設定するほど、炉体13の内部空間が大きくなるため、熱処理に必要な雰囲気ガスの供給量もより増大し、雰囲気ガスの購入または生成にかかるコスト、および雰囲気ガスを炉内で加熱するエネルギーコストがより増大するという不都合が生じる。これを防ぐには、距離hは好ましくは300[mm]以下であり、より好ましくは、200[mm]以下である。距離hが300[mm]以上であると、前述したコストが多大になり、経済的ではない。
【0068】
(分離板の数について)
本実施の形態1では、一枚の分離板23とガス供給管20とから構成される2つのガス通過領域31とガス通過領域32を設けたガス供給管20の例を示した。本実施の形態1の変形例において、ガス供給管20の内部に2枚以上の分離板を設置し、3つ以上のガス通過領域を構成することも可能である。この場合の分離板に設ける分離板連通口の形状、寸法および個数、ガス供給管の管径および肉厚、ならびにガス供給管噴出口28の個数および配置、およびガス噴出方向については、先に説明した分離板23とガス供給管20との関係と同様に設定することが望ましい。ガス供給管20内部のガス通過領域の数が多くなるほど、ガス供給管20内部で雰囲気ガスを予熱する効果を高めることができるが、必然的にガス供給管20の管の径が太くなるので、供給管を設置するためのスペースと共に製作コストも増大するという不都合が生じることがある。
【0069】
以下に分離板が2以上設けられたガス供給管を、図面を参照して説明する。
図9(a)は2つの分離板がガス供給管の内部空間に配置されたガス供給管の別の例を示す、長手方向に沿って切断した面の断面図であり、図9(b)は、図9(a)の線A−A’に沿って切断した面の断面図である。図9(a)に示すガス供給管20は、その内部空間に第1分離板123aおよび第2分離板123bが配置されて、内部空間が、第1ガス通過領域131、第2ガス通過領域132、および第3ガス通過領域133に分離されたものである。雰囲気ガスは、ガス供給管20の両端部から、第1ガス通過領域131に直接的に供給される。ガス供給管20の両端部において、第2ガス通過領域132および第3ガス通過領域133はそれぞれ、空間遮断材125aおよび125bによって閉じられている。
【0070】
第1分離板123aには、分離板連通口126a〜126dが形成されて、これらの連通口により第1ガス通過領域131と第2ガス通過領域132とが空間的に連通している。第2分離板123bには、分離板連通口127a〜127eが形成され、これらの連通口により第2ガス通過領域132と第3ガス通過領域133とが空間的に連通している。第1、第2および第3ガス通過領域131、132、133を通過した雰囲気ガスは、ガス供給管噴出口128a〜128fから、炉内に噴出される。
【0071】
図9に示すガス供給管20において、分離板連通口126aの中心の長手方向の座標(即ち、y座標)は、分離板連通口127aおよび127bの中心を結ぶ線分の中点のy座標と一致するように配置されている。他の3つの分離板連通口126b〜126dも同様に、その中心のy座標が隣り合う二つの分離板連通口127の中心を結ぶ線分の中点のy座標と一致するように配置されている。分離板連通口127は、その中心のy座標が隣り合う二つのガス供給管噴出口128の中心を結ぶ中点のy座標と一致するように配置されている。このように連通口126および127、ならびに噴出口128が配置されることにより、雰囲気ガスをより効果的に予熱することができる。
【0072】
また、分離板連通口126を通過するガスの方向Da1と、分離板連通口127を通過するガスの方向Da2と、ガス供給管噴射口128から噴出されるガスの方向Dgは、互いに平行となっている。このようなガスの流れを確立することにより、ガス供給管噴射口128から噴射されるガスの流量をより均一にすることができる。
【0073】
図10(a)は2つの分離板がガス供給管の内部空間に配置されたガス供給管の別の例を示す、長手方向に沿って切断した面の断面図であり、図10(b)は、図10(a)の線A−A’に沿って切断した面の断面図である。図10(a)に示すガス供給管20は、その内部空間に第1分離板223aおよび第2分離板223bが配置されて、内部空間が、第1ガス通過領域231、第2ガス通過領域232、および第3ガス通過領域233に分離されたものである。雰囲気ガスは、ガス供給管20の両端部から、第1ガス通過領域231に直接的に供給される。ガス供給管20の両端部において、第2ガス通過領域232および第3ガス通過領域233はそれぞれ、空間遮断材225aおよび225bによって閉じられている。
【0074】
図10に示すガス供給管20が図9に示すガス供給管20と異なる点は、第1分離板223aに形成される連通口226が1つだけであり、その長手方向の略中央に設けられている点、第2分離板223bに6つの連通口227a〜227fが形成されている点、ガス供給管20に8個の噴出口228a〜228eが形成されている点、隣り合う連通口227の中心を結ぶ線分の中点のy座標とガス噴出口228の中心のy座標とが一致するように、ガス供給管噴出口228が設けられている点である。このガス供給管20は、第1分離板223aが1つだけの連通口226を有しているために、図9に示すガス供給管20と比較して、ガスをより効果的に予熱するが、噴出口228からのガスの流量の均一性は劣る。
【0075】
図9および図10に示すガス供給管20のいずれにおいても、第1分離板(123a、223a)および第2分離板(223b、223b)はそれぞれ、図8に示すような形態のものであってよい。あるいは、第1分離板(123a、223b)は少なくとも炉体13の横方向で被処理物11が存在する領域(即ち、炉内に位置する領域)全体が多孔構造または網目構造を有するものであってよく、全体が多孔構造または網目構造を有するものであってよい。即ち、第1分離板は、小さな連通口が多数形成されたものであってよく、連通口と連通口以外の部分とが明確に区分けされたものでなくてよい。雰囲気ガスが直接的に供給される第1ガス通過領域を規定する第1分離板の炉内に位置する領域が多孔構造または網目構造であると、第1分離板の当該領域をガスが均等に通過して、第1ガス通過領域から第2ガス通過領域に流れるので、第2分離板に設けられた複数の連通口におけるガスの流量はより均一になる。したがって、ガス供給管噴出口からより均一な流量でガスが噴射される。
【0076】
(分離板連通口26およびガス供給管噴出口28の形状について)
本実施の形態1では、ガス供給管20の形状を円筒状、分離板連通口26およびガス供給管噴出口28の形状を円形状としている。先にも述べたように、それらの形状はそれらに限定されるものではなく、例えば、ガス供給管を角型としてよく、あるいは分離板連通口およびガス供給管噴出口を角型としてもよい。
【0077】
(ガス供給管20の組み立てについて)
分離板23を有するガス供給管20は、ガス供給管20に分離板23(分離板を2以上有する場合には2以上の分離板)を挿入し、それから空間遮断材25を嵌め込んで組み立てることができる。この組み立ての際に、分離板連通口26およびガス供給管噴出口28の配置を調節して、先に説明した位置関係が達成されるようにする。ガス供給管20の組み立ては、先にガス供給管20を熱処理装置10内に配置し、それから、分離板23を挿入し、さらに空間遮断材25を取り付ける手順で実施してもよい。
【0078】
(雰囲気ガスの成分混合について)
本実施の形態1では、雰囲気ガスとして1種類のガス成分を用いる場合の例を示している。雰囲気ガスが2種以上のガス成分からなる場合には、各ガス成分を供給する雰囲気ガス供給源ごとにガス流量調整部を設けて、雰囲気ガスの流量とともに、雰囲気ガスの成分混合比も制御できる構成としてもよい。
【0079】
図4はガス成分混合比を制御できる一構成例の概略を示す図であり、2種類のガス成分の混合比を制御できる構成を示している。2種類以上のガス成分の混合比を制御する場合には、例えば図4に示すように、雰囲気ガスとしてガスAおよびガスBを個別に貯留する雰囲気ガス供給源22a、22bを設けるとともに、それらの雰囲気ガス供給源22a、22bごとにガス流量調整部24a、24bを設け、分岐させたガス供給管20をガス流量調整部24a、24bを介して雰囲気ガス供給源22a、22bに接続してもよい。ガス流量調整部24a、24bは、ガス供給管20へ供給する雰囲気ガスの流量の調整部として機能するとともに、ガス成分の混合比を調整するガス成分混合比調整部としても機能する。ガス流量調整部24a、24bには、例えばレギュレータ等を用いることができる。雰囲気ガス供給源22a、22bには、例えばガスボンベ、またはガス発生機等を用いることができる。無論、雰囲気ガスは、2種類のガスからなるものに限定されず、3種類以上のガスからなってよい。
【0080】
(熱処理装置10のガス排気機構について)
続いて、熱処理装置10のガス排気機構について説明する。被処理物11の熱処理は、図1(a)に示した上部ヒータ18および下部ヒータ19からの熱の供給、ならびにガス供給管噴出口28から噴出された雰囲気ガスと被処理物11との接触によって進行する。その熱処理中に、被処理物11に含有される成分の蒸発または化学反応によって被処理物11から蒸発ガスが発生することがある。この蒸発ガスが炉体13の内部に滞留すると、被処理物11において、所望の化学反応とは逆の反応が起こる可能性がある。したがって、この蒸発ガスは、雰囲気ガスとともに炉外に排出する必要がある。
【0081】
この熱処理装置10のガス排気機構は、図1(b)に示すように炉体13の内部に設置されたガス吸込口41に吸込まれたガスを炉体13の外部へ排出する機構である。ここでは、ガス排気機構は、図1(b)に示すガス吸込口41が設けられたガス排気管42と、図2に示すガス排気管42から炉体13の外部へ排出するガスの流量を調整する排気流量調整部43(排気ファンとその制御部)とからなる。
【0082】
(ガス排気管42とガスの排気方法について)
蒸発ガスを炉体13の内部から外部へ排出するガス排気機構の一部である円筒状のガス排気管42は、炉体13を横方向(図1(a)の紙面左右方向)から貫通する。このガス排気管42は、図2に示すように、ガス排気機構の一部である排気流量調整部43に炉体13の外部で接続している。また、図1(b)に示すように、ガス排気管42の炉体13の内部における位置は、積載部材12の搬送路(搬送ローラ14)の上方である。前述した上部ヒータ18との干渉を避けるために、ガス排気管42は、ガス供給管20と同様に上部ヒータ18と平行に設置するのが望ましい。
【0083】
ガス排気管42の炉体13の内部における側面には、ガス供給管20の側面と同様に複数個の開口部が設けられ、これはガス吸込口41として機能する。したがって、図1(b)に示すように、熱処理により被処理物11から発生した蒸発ガスは、周囲の雰囲気ガスとともにガス吸込口41から吸込まれ、ガス排気管42を通じて炉体13の外部へ排出される。
【0084】
(ガス排気管42とガス吸込口22の形状、配置、個数について)
無論、ガス排気機構の構成はこれに限定されるものではなく、ガス吸込口41およびガス排気管42の形状、配置、および個数は、被処理物11に施す熱処理の種類に応じて、また被処理物11および積載部材12の形状、配置、および個数に応じて適宜選択する。
【0085】
(ガス排気管42の材質について)
ガス排気管42の材質として、ここでは、耐熱性を有し、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対する耐食性を有するアルミナ質のセラミックスを用いる。ガス排気管42の材質は、被処理物、雰囲気ガス、および蒸発ガスの種類に応じて適宜選択され、使用温度における耐熱性を満たし、被処理物、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対する耐食性を有する限りにおいて、アルミナ質のセラミックス以外の材質を用いることもできる。
【0086】
(熱処理装置10のゾーン分割と構成について)
熱処理装置10の炉体13においては、前述したように、その内部空間が搬送方向Dcに沿って熱処理プロセスに応じた複数のゾーン(処理空間)に分割されている。前述したガス供給機構、ガス排気機構、上部ヒータ18および下部ヒータ19は、熱処理プロセスに応じて複数のゾーンの一部または全部に設ける。例えば、前述した蒸発ガスが発生しないゾーンは、ガス排気機構を有しない構成としてもよい。また、被処理物11の急速な冷却を行うゾーンは、上部ヒータ18および下部ヒータ19を有しない構成としてもよい。
【0087】
以上のように、各ゾーンにおいて、その熱処理の種類に応じて、上部ヒータ18および下部ヒータ19、ならびにガス供給機構およびガス排気機構を設ける。それにより、被処理物11の昇温、均熱、および冷却などの各ゾーンで実施する熱供給に合わせた最適な上部ヒータ18および下部ヒータ19の出力制御を行うことが可能となり、また、化学反応を伴う合成および粒子の成長などの各ゾーンで実施する熱処理に合わせた最適な雰囲気ガスの流量制御、および雰囲気ガスの成分混合比の制御を行うことが可能となる。
【0088】
(搬送の検知と出力制御について)
被処理物11の搬送が行われていることを検知する検知手段として、例えば搬送センサー34を設けることが好ましい。搬送センサー34は、被処理物11の搬送(すなわち搬送ローラ14が回転)が行われていないときに、各ゾーンの上部ヒータ18および下部ヒータ19の出力を制御する上部ヒータ用温度コントローラ18aおよび下部ヒータ用温度コントローラ19aに信号を送る。これらのコントローラはその信号を受信したときに、それぞれのヒータの出力を低減する。また、搬送センサー34の信号は、ガス流量調整部24にも送られて、搬送の状況に応じて各ゾーンのガス供給管20へ供給する雰囲気ガスのガス流量が制御される(例えば、搬送が行われていないときには、ガスの流量が低減される)ようにすることが好ましい。搬送状況に応じたヒータ等の制御によって、生産が行われていないときの熱処理装置の消費エネルギーを低減し、熱処理装置のランニングコストをさらに低減することが可能となる。
【0089】
(実施の形態1における具体的検証について)
次に本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給温度とガス噴出速度の均一化の効果の検証結果について、図5および図6を用いて説明する。ここでは、炉体13が高さ方向に2段に積層される多段炉のうち、一方の段の炉体13に、分離板を配置したガス供給管20を設けて、本発明の効果を検証した。
【0090】
炉体13内部の幅とガス供給管20の炉内領域における幅方向の長さは概ね1400〔mm〕である。また、ガス供給管20の内径および外径はそれぞれ、約35〔mm〕および約43〔mm〕である。このガス供給管20には、ガス供給管噴出口28が設けられ、直径約15〔mm〕の噴出口を、一方の側部断熱壁13cを基準とした位置より、幅方向に沿って、100〔mm〕から1300〔mm〕の領域に80〔mm〕ピッチで、16個設けた。
【0091】
ガス供給管20の内部空間には、ガス供給管の内部空間を2つに分離し、2つのガス通過領域を形成するための分離板23が設置され、分離板23の板厚は、2〔mm〕である。この分離板23には、直径15〔mm〕の分離板連通口26を、一方の側部断熱壁13cを基準とした位置より、幅方向に沿って140〔mm〕から1260〔mm〕の領域に160〔mm〕ピッチで、8個設けた。
ガス供給管20本体、ガス供給管20の内部空間に設置した分離板23は共に、ムライト材料を用いて形成した。
【0092】
ガス供給管20の噴出口28には、温度測定用に熱電対を設置し、実際に炉内の温度を約580℃まで昇温させた状態で、ガスを噴出口28から流して、本発明の効果を検証した。具体的には、16個のガス供給管噴出口28のうち、側部断熱壁13cを基準に幅方向にそって100、260、500、660、740、900、1140、1300〔mm〕の位置にある8箇所(図5(a)で、黒く塗りつぶした部分の噴出口)に熱電対を設置して、ガスの温度を測定した。流したガスは、空気(Air)である。ガスは、流量を4〔m3/min〕として、左右の炉壁両側より、ガス導入通過方向Diに沿って、それぞれ均等に2〔m3/min〕ずつフローメーターを用いて流量を制御しながら導入した。さらに、本発明によるガス噴出温度均一化の効果を検証するために、従来から一般的に用いられている単純管(分離板を有しない)を、ガス供給管20の代わりに用いて、同様の温度測定を実施した。以下にその結果を説明する。
【0093】
図5(a)に、本発明の実施の形態1における熱処理装置の温度測定結果を示す。
従来の単純管からガスを噴出させた場合(比較)には、炉体13の炉壁に近い端により近い噴出口からのガスの温度が低くなり、両端の噴射口では設定された炉内温度580℃に対し、400℃以下となってしまった。一方、分離板23を有するガス供給管20からガスを噴出させた場合(本発明)には、すべての噴出口のガスの温度はほぼ500℃以上であった。
【0094】
図5(b)は、上記の本発明の実施の形態1における熱処理装置の温度均一化検証結果を示す。従来の単純管において、8個の噴出口から噴出されるガスの温度ばらつきが約250℃程度であったのに対し、分離板を有するガス供給管において、8個の噴出口から噴出されるガスの温度ばらつきは約60℃程度であり、大幅な改善効果が確認された。
【0095】
図6は、本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス噴出速度測定結果を示す。ガス噴出速度測定は、温度測定で用いた構成のガス供給管20を使用して、ガス供給管噴出口近傍における風速を測定して実施した。風速測定は、ハンディタイプのプローブ式風速計を用いて実施した。風速の測定は、炉内温度を加熱せず、室温にて実施した。また、風速は、側部断熱壁13cを基準に幅方向に沿って、100、260、500、740、900、1140、1300〔mm〕の位置にある7個のガス供給管噴出口28(図6で、黒く塗りつぶした部分の噴出口)にて測定した。その結果、測定された風速は、0.5〔m/s〕〜0.7〔m/s〕の範囲となり、均一であることが確認された。
【0096】
これらの検証結果により、本発明の熱処理装置を用いることにより、炉内へ供給する雰囲気ガスの温度と併せてガスの流量も均一になることが分かり、本発明の効果が実証された。
【0097】
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2における熱処理装置10の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な面の概略断面図を示している。なお、図5において、実施の形態1で説明した要素と同じ要素は同じ符号で示され、以下においてそれらの要素の説明が省略されることがある。
【0098】
(装置の全体構成について)
本発明の実施の形態2における熱処理装置100は、被処理物11と、積載部材12と、炉体13と、搬送ローラ14と、上部ヒータ18と、下部ヒータ19と、ガス供給管20と、ガス供給管噴出口28と、ガス排気排管42(図示せず)と、ガス吸込口41(図示せず)とを含み、炉体13によって囲まれた内部空間を有する熱処理部110を高さ方向(上下方向)に積層した多段炉体35と、各炉体13の外部において各段のガス供給管20を接続した合流ガス供給管36とからなる。本実施の形態2において、積層された熱処理部110はすべて実施の形態1の熱処理装置10と同様に、炉体13内の空間に、分離板23を有するガス供給管20から、雰囲気ガスが噴出されるように構成されている。別の形態において、1つまたは複数の熱処理部は、従来のガス供給管を備えたものであってよい。
【0099】
(装置の動作について)
この熱処理装置100は、前述した実施の形態1で説明した熱処理装置10を熱処理部110として、それを画定する炉体13を高さ方向(上下方向)に複数積層した構成となっている。図7には3個の炉体13が積層されてなる多段炉体35を示している。各段の炉体13の内部において、被処理物11を積載した積載部材12は同時に搬送される。したがって、この熱処理装置100の生産性は、1段の構成のものに比べて、3倍に向上する。
【0100】
(ガス供給方法について)
各段の熱処理部110が備えるガス供給管20は、炉体13の外部においてガス供給機構の一部である合流ガス供給管36に接続している。合流ガス供給管36は、図2に示した構成と同様の構成となるように、炉体13の外部において雰囲気ガス供給源22に接続している。各段のガス供給管20は、前述した実施の形態1と同様に、図3(a)に示すような構成を有し、具体的にはガス供給管噴出口28と、ガス供給管20の内部空間に設置された分離板23と、分離板連通口26と、空間遮断材25とを有する。分離板連通口26およびガス供給管噴出口28の配置および個数、ならびにガス噴出方向などは、実施の形態1で説明した方法によって、全ての段において雰囲気ガスの充分な予熱と、各被処理物11に対しての均等な量のガス供給とを両立できるように選択されている。
【0101】
(熱処理部110の多段積層のメリットについて)
上記の構成によれば、炉体13の外部から内部への雰囲気ガスの導入は、炉体13の横方向に対向する側壁から行う。したがって、実施の形態2の装置においては、特許文献1に示すような、各段の炉体13の上面および下面にガスを導入する経路を設ける必要がなく、また、特許文献1に示すような、炉内の上部空間にガス予熱のための余分なスペースを設ける必要がないので、装置の設置高さを抑えつつ、熱処理部110(即ち、これを画定する炉体13)の高さ方向への多段積層が可能となっている。
【0102】
炉体13を小型化することによる利点は実施の形態1で説明したとおりである。さらに炉体13の高さ方向への多段積層により、下段の炉体13の上面と上段の炉体13の下面とが共有されるので、炉体を多段積層してない場合に比べて、実施の形態2の装置の炉の外部への放熱面積は小さくなる。このことは、エネルギーコストを大幅に低減できるという利点をもたらす。
【0103】
(熱処理部110を積層する段数について)
熱処理部110を積層する段数は3段に限定されるものではない。熱処理部は、熱処理装置の設置高さ、および床の耐荷重が許容する範囲内であれば、何段に積層しても構わない。段数が増えるほど生産性が向上し、単位生産量あたりのエネルギーコストも低減できる。一方、段数が増えるほど、搬送の難易度、および各段への均一なガス供給および熱量供給の難易度も高くなる。
【0104】
(加熱器の出力制御について)
各段の熱処理部110に備わる上部ヒータ18と下部ヒータ19には、それぞれ個別に出力を制御する温度コントローラ(出力制御部)を設けるのが望ましい。そのようにすれば、上部ヒータ18および下部ヒータ19の出力をそれぞれ最適に制御することで、多段炉体34の上面および下面から外部への放熱などの影響を回避して、各段における積載部材12および被処理物11の温度ムラを抑制することが可能となる。
【0105】
(実施の形態2の効果について)
本実施の形態2によれば、熱処理部110を高さ方向に多段に積層する熱処理装置においても、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく、雰囲気ガスを予熱して、被処理物に接触するガスの温度を均一化し、もって熱処理ムラの抑制を実現できる。その結果、生産性が大幅に向上し、エネルギーコストを大幅に低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の熱処理装置によれば、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく、雰囲気ガスを予熱して被処理物に接触するガスの温度を均一化することができ、また、ガスの流量を均一化することができ、それにより、被処理物における熱処理ムラの抑制を実現できる。したがって、本発明の熱処理装置は、炉体内部で搬送される被処理物への雰囲気ガスの供給を伴う熱処理を製造過程において要する各分野の製品の製造に有用である。
【符号の説明】
【0107】
1、11 被処理物
2、12 積載部材
3、13 炉体
4、14 搬送ローラ
10 熱処理装置
13 炉体
18 上部ヒータ
18a 上部ヒータ用温度コントローラ
19 下部ヒータ
19a 下部ヒータ温用度コントローラ
20 ガス供給管
22 ガス供給源
23 分離板
24 ガス流量調整部
25 空間遮断材
26 分離板連通口
28 ガス供給管噴出口
31 第1ガス通過領域
32 第2ガス通過領域
34 搬送センサー
35 多段炉体
36 合流ガス供給管
41 ガス吸込口
42 排気管
43 排気ガス流量調整部
44 搬送コントローラ
45 制御装置
100 熱処理装置
110 熱処理部
123a、223a 第1分離板
123b、223b 第2分離板
125a、125b、225a、225b 空間遮断材
126、127、226、227 分離板連通口
128、228 ガス供給管噴出口
131、232 第1ガス通過領域
132、232 第2ガス通過領域
133、233 第3ガス通過領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体を構成する壁に囲まれた空間(以下、「炉体内部」とも呼ぶ)において被処理物へ雰囲気ガスを供給するための、炉体外部に設けられたガス供給装置に接続されたガス供給管、および炉体内部の温度を制御するための加熱器を有する熱処理装置であって、
ガス供給管は、
雰囲気ガスが通過するためのガス供給管の内部空間を、複数のガス通過領域に分離するための1または複数の分離板、および
雰囲気ガスが直接供給されず、かつ複数の分離板によって囲まれていないガス通過領域と空間的に連通している、雰囲気ガスを炉体内部に噴出するための噴出口
を有し、
分離板は、それが隔てているガス通過領域を空間的に連通させる連通口を有し、
分離板は、その主表面が噴出口から噴出されるガスの流れと角度を形成するように配置されている、
熱処理装置。
【請求項2】
前記分離板に設けられた連通口の中心のガス供給管の長手方向における座標は、前記噴出口の中心のガス供給管の長手方向における座標とは異なる請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記連通口が複数個設けられ、かつ前記噴出口が複数個設けられている請求項1または2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記分離板は、その主表面が前記噴出口を通過するガスの流れとガス噴出方向と直角をなすように配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項5】
前記連通口の一部または全部が、多孔構造又は網目構造である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項6】
前記分離板の材質は、その表面の輻射率が0.5以上である請求項1〜5のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項7】
炉体を構成する壁に囲まれた空間(以下、「炉体内部」とも呼ぶ)において被処理物へ雰囲気ガスを供給するための、炉体外部に設けられたガス供給装置に接続されたガス供給管、および炉体内部の温度を制御するための加熱器を有する熱処理装置であって、
ガス供給管は、
雰囲気ガスが通過するためのガス供給管の内部空間を、n個のガス通過領域に分離するための(n−1)個の分離板、および
雰囲気ガスが直接供給されず、かつ複数の分離板によって囲まれていないガス通過領域と空間的に連通している、雰囲気ガスを炉体内部に噴出するための噴出口
を有し、
分離板のうち、雰囲気ガスが直接供給されるガス通過領域を規定している分離板は、炉体内部の領域において全体が多孔質構造を有し、他の分離板は、それが隔てているガス通過領域を空間的に連通させる連通口を有しており、
分離板はすべて、その主表面が噴出口から噴出されるガスの流れと角度を形成するように配置されている、
熱処理装置。
【請求項8】
熱処理部が複数個積層されており、少なくとも1つの熱処理部が請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱処理装置である、多段熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−225557(P2012−225557A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92923(P2011−92923)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】