説明

熱処理装置

【課題】余分なスペースや追加の熱源を要さずに雰囲気ガスを予熱して、被処理物に接触するガスの温度を均一化し、熱処理ムラの抑制を実現できる熱処理装置を提供する。
【解決手段】雰囲気ガスを供給するガス供給管19を、ガス噴出口30を有する内側管27と、内側管27の外側に設けられた、ガス噴出口31を有する外側管28とを備え、ガス噴出口30の輪郭を外側管28の内壁面に垂直投影したときの投影図がガス噴出口31と干渉しないように構成することにより、炉体外部から内側管27に導入した雰囲気ガスが、内側管27の内部と、内側管27と外側管28との隙間を通過する間に炉内温度によって予熱される。その結果、均一な温度の雰囲気ガスが被処理物11に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉体内部を搬送される被処理物への雰囲気ガスの供給を伴った熱処理を行う熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被処理物への雰囲気ガスの供給を伴った熱処理は広く行われている。例えば、液晶パネル、プラズマディスプレイパネル、または太陽電池パネル等のガラス基板に、ペーストを塗布して乾燥または焼成させる熱処理、セラミックコンデンサに代表される電子部品等を焼成させる熱処理、あるいは化学反応を伴う合成または粒子の成長等を目的として、金属材料または無機材料で構成される粉体を、焼成させる熱処理などがある。
【0003】
少量の被処理物を実験室規模で熱処理する装置として、バッチ式の小型炉が広く用いられている。一方、大量の被処理物を連続的に熱処理する装置として、連続搬送式の大型炉が広く用いられている。連続搬送式の装置は、被処理物の搬送方法によっていくつかに分類される。
【0004】
被処理物はそのまま搬送媒体に載置されて直接搬送される場合もあり、あるいは板状または箱型の積載部材に積載されて搬送される場合も多い。例えば、被処理物がガラス基板等である場合、基板の割れやキズを防止するためガラスと同程度の硬度を持つ板状の積載部材が広く用いられる。被処理物が粉体である場合、炉の構成部材への粉体の付着を防止しつつ、流動性の高い粉体の積載量(即ち、1度に熱処理される粉体の量)をある程度確保するために、箱型の積載部材が広く用いられる。被処理物および積載部材の搬送媒体としては、油圧プッシャー(プッシャー炉)、セラミックローラのコンベヤ(ローラハース炉)、金属メッシュベルトのコンベヤ(メッシュベルト炉)などが用いられる。
【0005】
被処理物の熱処理を連続的に行う際には、化学反応をはじめとする所望の熱処理に必要な雰囲気ガスを被処理物に連続的に供給する場合が多い。被処理物に雰囲気ガスを供給する上で大きな問題となるのは、被処理物への熱のかかり具合および反応に必要な雰囲気ガスとの接触の具合が場所によって異なり、そのことが場所ごとに熱処理状態の差異、すなわち熱処理ムラを招くことである。一般に、過度の熱処理ムラは、熱処理後の被処理物を用いて製造される各種製品の性能劣化を引き起こすため、熱処理ムラを抑制することが強く求められている。
【0006】
雰囲気ガスは、多くの場合において、炉外では常温の状態であり、炉内に導入される途中経路で炉内温度(即ち、加熱された炉体または炉内に存在する部材・発熱体等から伝熱される熱)によって加熱された後に、被処理物に供給される。したがって、雰囲気ガスが途中経路で充分に加熱されず、低い温度の雰囲気ガスとして被処理物に供給されると、被処理物に温度ムラを生じさせ、このことは大きな熱処理ムラの要因となる。
【0007】
従来の、熱処理ムラの抑制を目的とする雰囲気ガスの供給方法としては、炉の天井から導入したガスを炉内の上部空間に滞留させて予熱してから、穴明き板を介して被処理物に供給する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
図7は前期特許文献1に記載された従来の熱処理装置の構成を示す断面図であり、被処理物1が積載された積載部材2の搬送方向(図7の紙面に対して垂直な方向)に垂直な面で炉体3を切断した断面を示している。被処理物1が積載された積載部材2は、搬送ローラ4によって炉内を搬送されながら熱処理される。
【0009】
図7に示すように、炉体3の内部において搬送ローラ4の上部空間には、多数のガス流通孔が全面にわたり形成された穴明き天井板5が水平に配置されており、搬送ローラ4の上部空間を穴明き天井板5より上方の天井室6と、穴明き天井板5より下方の炉室7とに区画している。炉体3の天井壁を貫通してガス供給管8が設けられており、その下端が天井室6に連通させてある。この構成により、雰囲気ガスは一旦この天井室6に滞留し、炉内温度によって予熱されたうえで、穴明き天井板5のガス流通孔を介して炉室7内に供給される。特許文献1には、予熱により、雰囲気ガスが被処理物1に接触する際の場所ごとの温度ムラを軽減し、熱処理ムラを抑制する効果が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−223563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来の構成においては、炉内にガスを予熱するためのスペースを設ける必要があるため、炉内容積を増大させる必要がある。このことは、炉体3の大型化を招き、ひいては設備コストを増大させる。また、炉内容積が増大すると、それに相当する量の雰囲気ガスが必要となり、雰囲気ガスの購入または雰囲気ガスの生成に要するコスト、および雰囲気ガスを炉内で加熱するためのエネルギーコストも増大する。このように、特許文献1に記載の構成は、経済的な面でなお改善の余地を有している。
【0012】
炉内にガスを予熱するためのスペースを設けずに雰囲気ガスの予熱を行う方法の一つとして、炉内の温度分布を制御するために通常炉内に設けられている熱源とは別の熱源を、炉外に設け、ガスを炉内に導入する前に加熱する方法がある。しかしながら、そのような方法においては、炉外に熱源とその制御装置などを設けるために、追加のスペースと費用とが必要である。また当該熱処理に用いている温度が高ければ高いほど、ガスを炉外で所定の温度まで予熱するのは困難になる上、炉外に追加した熱源から周囲に熱が放散し、結果的にエネルギーコストが大幅に増大してしまう。
【0013】
上記のような問題から、従来の熱処理装置においては、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく雰囲気ガスを予熱することが困難である、という課題がある。
【0014】
本発明は、上記従来の問題に鑑み、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく、雰囲気ガスを予熱してから炉内に噴出して、被処理物に接触するガスの温度を均一化し、熱処理ムラの抑制を実現できる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の熱処理装置は、
炉体を構成する壁に囲まれた空間(以下、「炉体内部」とも呼ぶ)において被処理物への雰囲気ガスの供給を伴う熱処理を実施する熱処理装置であって、
前記炉体内部の温度分布を制御する加熱器と、
第1ガス噴出方向に沿って雰囲気ガスを噴出する第1ガス噴出口が設けられた第1ガス供給管と、
前記第1ガス供給管の外側に、第2ガス噴出方向に沿って雰囲気ガスを噴出する第2ガス噴出口が設けられた第2ガス供給管と
を備え、
前記第1ガス噴出口の輪郭を前記第2ガス供給管の内壁面に垂直投影したときの投影図が前記第2ガス噴出口と干渉せず、
雰囲気ガスは、炉体外部から前記第1ガス供給管の内部へ導入され、前記第1ガス供給管に設けられた第1ガス噴出口を介して前記第2ガス供給管の内部に噴出され、それから前記第2供給管に設けられた第2ガス噴出口から噴出されて、炉体内部の被処理物に供給される、
熱処理装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱処理装置によれば、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく雰囲気ガスを予熱した後、炉体内部に噴出して、被処理物に接触するガスの温度を均一化し、熱処理ムラの抑制を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な概略断面図(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置の搬送方向に平行で、かつ搬送面に垂直な概略断面図
【図2】本発明の実施の形態1における熱処理装置のブロック図
【図3】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の一例を示す側断面図(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管の一例を示す、長手方向に垂直な断面図
【図4】(a)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管を構成する部材の一つである内側管(第1ガス供給管)を示す斜視図(b)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管を構成する部材の一つである外側管(第2ガス供給管)を示す斜視図(c)本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給管を構成する部材の一つであるブッシュを示す斜視図
【図5】本発明の実施の形態1における熱処理装置のガス供給機構の一構成例の概略を示す図
【図6】本発明の実施の形態2における熱処理装置の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な概略断面図
【図7】特許文献1における従来の熱処理装置の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同じ構成には同じ符号を付して、適宜説明を省略している。
【0019】
(実施の形態1)
図1(a)は、本発明の実施の形態1における熱処理装置10の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な概略断面図、図1(b)は、本発明の実施の形態1における熱処理装置10の搬送方向に平行で、かつ搬送面に垂直な概略断面図である。ここで、「搬送方向」とは、被処理物11が進行する方向であり、「搬送面」とは、被処理物(またはこれを積載した積載部材12)が載置されている面である。一般に、「搬送面」は、熱処理装置10の接地面と平行な面である。
【0020】
(装置の全体構成について)
この熱処理装置10は、被処理物11と、積載部材12と、炉体13と、炉体13の上壁として上部断熱壁13aと、炉体13の下壁として下部断熱壁13bと、炉体13の中の被処理物11の搬送面に対して垂直であり、(図1(a)の紙面の左右に)対向するように設置された組の側壁として側部断熱壁13cと、搬送ローラ14と、ゾーン隔壁15と、通過口16と、上部ヒータ17と、下部ヒータ18と、ガス供給管19と、ガス噴出口20と、ガス排気管21と、ガス吸込口22とを含む。
【0021】
なお、図1(a)と(b)中の符号で、Dcは積載部材12の搬送方向、Dgはガス噴出方向、Fvは被処理物11の表層面と同じ高さの仮想面、θは仮想面Fvの垂線とガス噴出方向Dgとがなす角度、hは仮想面Fvとガス噴出口20との間の距離、Hは炉体13の鉛直方向の高さ、Lは炉体13の搬送方向Dcに沿った長さ、Wは炉体13の搬送方向Dcに直交し、かつ搬送面と平行な方向の寸法(横幅)をそれぞれ示しており、これらについては後述する。
【0022】
(装置の動作について)
この熱処理装置10は、粉体状の被処理物11を積載した箱型の積載部材12を炉体13の内部で搬送し、この炉体13の内部空間(この空間を本明細書において「炉体内部」または「炉内」と呼ぶこともある)で被処理物11を熱処理する装置である。本実施の形態1では、図1(b)に示すように、水平方向(図1(b)の紙面左右方向)に沿って複数個設置された搬送ローラ14の回転によって、積載部材12が搬送方向に搬送される。すなわち、並置された複数個の搬送ローラ14の上側の頂点を含む面が積載部材12の搬送面となり、この搬送面において、積載部材12は、図1(b)に矢印で示す搬送方向Dcに沿って(図1(b)では紙面の左から右へ向かって、図1(a)では紙面の手前から奥に向かって)搬送される。
【0023】
積載部材12は図1(b)に示す搬送方向Dcに沿って列をなして並べられており、それらを連続的に搬送することによって、積載部材12に積載されている被処理物11を連続的に熱処理することができる。積載部材12は、積載部材12同士の衝突を避けるために一定の間隔を空けて並べてよく、あるいは隙間なく並べてもよい。
【0024】
(積載部材12の搬送方法について)
図1(a)を用いて、積載部材12の搬送方法について、さらに説明する。積載部材12は図1(a)の紙面手前から奥に向かって搬送され、ここでは、搬送方向と直交する横方向(図1(a)の紙面左右方向)に3個の積載部材12が並置されている場合を示している。このように横方向(搬送方向に垂直で、かつ搬送面と平行な方向)に3個の積載部材12を並置して、それらを同時に搬送することで、横方向に並置された3個の積載部材12に積載されている各被処理物11を同時に熱処理することができる。前述したように、積載部材12は搬送方向に沿っても列をなして並べられているので、ここでは3本の列をなす積載部材12が同時に連続して搬送される。無論、横方向に並置する積載部材12の個数はこれに限定されるものではない。横方向に並置する積載部材12の数が増えるほど生産性が向上するが、装置の設置スペースが増大し、また、搬送の難易度、および横方向に均一な熱処理を行う難易度も高くなる。
【0025】
図1(a)において横方向に3個並置された積載部材12間の隙間は、それぞれ横方向において50[mm]であり、また、積載部材12と炉内壁面との隙間は、左右とも横方向において150[mm]である。無論、隙間の寸法はこれに限定されるものではないが、隙間を大きくするほど、装置の設置スペースが増大するので、適正な隙間を設定することが望ましい。
【0026】
(炉体13の断熱壁について)
続いて、炉体13の断熱壁について説明する。図1(a)に示すように、炉体13の上壁として上部断熱壁13aが、炉体13の下壁として下部断熱壁13bが、炉体13の横方向の寸法を規定する向かい合う側壁として側部断熱壁13cが、それぞれ設けられている。
【0027】
(熱処理装置10のゾーン構成について)
続いて、熱処理装置10のゾーン構成について説明する。熱処理装置10の炉体13においては、その内部空間(即ち、炉内)が、搬送方向Dcに沿って複数の熱処理ゾーン(処理空間)に分割されている。各ゾーンにおいては、熱処理プロセスに応じた熱処理が行われる。図1(b)には、それらのうちの1つのゾーンの断面を示している。各ゾーンはゾーン隔壁15で仕切られており、ゾーン隔壁15には、被処理物11と積載部材12が通過可能な通過口16が設けられている。
【0028】
(炉体13の寸法について)
本実施の形態1では、炉体13の寸法は、搬送面に対して垂直な方向(以下の説明を含む本明細書において、「鉛直方向」とも呼ぶ)の寸法(即ち、高さ)Hを1000[mm]、各ゾーンの搬送方向Dcに沿った長さLをそれぞれ1500[mm]とする。また搬送方向Dcに直交し、かつ搬送面と平行な方向(以下の説明を含む本明細書において、搬送面と平行な方向を「水平方向」とも呼び、搬送方向Dcに直交し、かつ搬送面と平行な方向を「横方向」とも呼ぶ)の寸法、即ち、横幅Wを1800[mm]とする。無論、寸法はこれに限定されるものではなく、被処理物11の処理量に応じて適切に選択される。
【0029】
(積載部材12の形状について)
続いて、積載部材12の形状について説明する。図1(a)および図1(b)に示すように、ここでは、積載部材12として底面が正方形の箱型容器を用いる。無論、積載部材12の形状は特に限定されるものではなく、例えば、底面が円形であり、上部が開いている円筒状の容器、およびフチのない板状のもの等を用いることもできる。但し、流動性の高い粉体の搬送において、フチのない板状の積載部材を用いると、1個の積載部材に積載可能な粉体の量が制限されて生産性が低下するため、フチのある箱型容器を使用することが望ましい。
【0030】
また、本実施の形態1では、粉体状の被処理物11を箱型の積載部材12に積載して熱処理する例を示しているが、無論、被処理物11および積載部材12の形態はこれに限定されるものではない。例えば、被処理物はペーストを塗布したガラス基板で構成されるものであってよく、その場合には、被処理物を例えば板状の積載部材に積載して熱処理を実施する。そのような被処理物を熱処理するための装置にも、本発明は適用され得る。
【0031】
(搬送ローラ14について)
続いて、搬送ローラ14について説明する。搬送ローラ14の材質と太さは、被処理物11を積載した積載部材12の荷重に耐えうる強度を搬送ローラ14が持つように、選定する。また、積載部材12の落下が生じないように、搬送ローラ14は積載部材12の搬送方向Dcの寸法よりも充分に短いピッチで並べる。搬送ローラ14が太すぎる、または搬送ローラ14を並べるピッチが小さすぎると、後述する搬送路より下に位置する下部ヒータ18からの伝熱が搬送ローラ14によって阻害されるため、適正なローラの太さとピッチを選択することが望ましい。無論、搬送方法は搬送ローラ14の回転によって積載部材12を搬送する方法に限定されるものではなく、例えばローラ上の積載部材12を油圧プッシャーで押す方法や、メッシュベルトのコンベヤで搬送する方法などを用いることができる。それらの方法を採用する場合には、その方法に応じた搬送装置または搬送媒体を熱処理装置10内に設ける。
【0032】
(積載部材12と搬送ローラ14の材質について)
続いて、積載部材12と搬送ローラ14の材質について説明する。ここでは、積載部材12と搬送ローラ14の材質に、アルミナ質のセラミックスを用いる。無論、使用温度における耐熱性と強度を満足するものであれば、例えばジルコニア質のセラミックス、ならびにSUSおよびインコネルといった金属製のもの等を用いることもできる。但し、被処理物11の腐食性が高い場合には、積載した被処理物11および飛散した被処理物11によって、積載部材12および搬送ローラ14の表面が腐食して剥離し、被処理物11内に不純物として混入する恐れがある。そのため、積載部材12および搬送ローラ14の材質は耐食性を有することが望ましい。
【0033】
(加熱器について)
続いて、炉体13の内部の温度分布を熱処理プロセスに応じた温度分布に制御する加熱器について説明する。本実施の形態1では、加熱器として、積載部材12の搬送路を挟んで上下方向に、上部ヒータ17および下部ヒータ18をそれぞれ複数個ずつ設けている。詳しくは、図1(b)に示すゾーンにおいては、搬送ローラ14の上方(上部断熱壁13a側)に円筒状の上部ヒータ17が搬送方向Dcに沿って4個配置されており、同様に搬送ローラ14の下方(下部断熱壁13b側)に円筒状の下部ヒータ18が搬送方向Dcに沿って4個配置されている。また、上部ヒータ17および下部ヒータ18は、その長手方向が横方向(図1(a)の紙面左右方向)と平行になるように配置されている。
【0034】
このように、搬送ローラ14の上方と下方にそれぞれヒータを配置することによって、片方にのみヒータを配置する場合に比べて被処理物11および積載部材12の上下方向(表面と裏面)での均熱性を向上することができる。なお、被処理物11および積載部材12の上下方向(表面と裏面)での均熱性をより向上させるには、上部ヒータ17と下部ヒータ18を、それらの各々と積載部材12との間の鉛直方向(図1(b)の紙面上下方向)の距離が等しくなるようにそれぞれ配置するのが好ましい。
【0035】
ここでは、上部ヒータ17および下部ヒータ18として同形状のものを用いたが、上下の温度分布制御が複雑になることを考慮しさえすれば、異なる形状であってもよい。また、上部ヒータ17と下部ヒータ18は、例えば炉体13を構成する上部断熱壁13aおよび下部断熱壁13bに埋め込んでもよい。ヒータを断熱壁に埋め込んだ場合は、熱効率は落ちるが、熱処理装置10を小型化することが可能である。
【0036】
また、ここでは、上部ヒータ17および下部ヒータ18の種類として、円筒状のセラミック自体を発熱体とした電気式のヒータを用いるが、加熱器(上部ヒータ17、下部ヒータ18)の種類はこれに限定されるものではない。例えば、パネル型をした電気式のヒータ、オイル循環式もしくはガス燃焼式のヒータ、またはマイクロ波、電磁波、もしくはレーザー等を用いたヒータなど、種々のヒータを加熱器として用いることができる。
【0037】
(熱処理装置10の制御機構について)
図2は、本発明の実施の形態1における熱処理装置10のブロック図である。
この熱処理装置10の制御機構は、制御装置23と、搬送コントローラ14aと、搬送センサー14bと、上部ヒータ用温度コントローラ17aと、下部ヒータ用温度コントローラ18aと、ガス供給源24と、ガス流量調整部25と、排気流量調整部26とからなる。
【0038】
(加熱器の制御機構について)
加熱器の制御機構について説明する。ここでは、上部ヒータ17と下部ヒータ18はそれぞれ上部ヒータ用温度コントローラ17aと下部ヒータ用温度コントローラ18aに接続されており、それらの温度コントローラは、上部ヒータ17と下部ヒータ18の出力、つまり温度を個別に制御する。
【0039】
(熱処理装置10のガス供給機構について)
続いて、熱処理装置10のガス供給機構について説明する。被処理物11に施す熱処理が化学反応を伴う場合は、所望の化学反応に必要な種類の雰囲気ガスを炉体13の内部に供給する必要がある。また、化学反応を伴わなくても、蒸発ガスの発生を伴う熱処理(例えば、被処理物11が含有する溶媒および水を蒸発させて、被処理物11を乾燥させる処理)の場合は、蒸発ガスを含む炉内雰囲気を炉外に排出するガス排気機構が必要である。その場合、炉内の圧力バランスを保つためには、排気した流量と同程度の流量の雰囲気ガスを炉体13の内部に供給する必要がある。本実施の形態1においては、被処理物11には、化学反応と蒸発ガスの発生の両方を伴う熱処理を施すので、化学反応の促進と、炉内の圧力バランスの確保という2つの目的で雰囲気ガスの供給を行い、雰囲気ガスには酸素(O2)を用いる。
【0040】
この熱処理装置10のガス供給機構は、炉体13の内部へ炉体13の外部から雰囲気ガスを供給する機構であり、具体的には、ガス供給管19と、ガス供給管19へ雰囲気ガスを供給するガス供給源24と、ガス供給源24からガス供給管19へ供給される雰囲気ガスの流量を制御するガス流量調整部25とからなる。ガス流量調整部25には、例えばレギュレータ、ダンパー、ファン、フローメーター、またはマスフローコントローラ等を用いることができる。
【0041】
(ガス供給管19とガスの供給方法について)
続いて、ガス供給管19とガスの供給方法について図1(a)(b)および図2を用いて、さらに説明する。ガス供給管19は、所望の熱処理に必要な雰囲気ガスを炉体13の内部へ供給するガス供給機構の一部であり、このガス供給管19は、円筒状であり、横方向(図1(a)の紙面左右方向)において延び、側部断熱壁13cを貫通する。図2に示すように、このガス供給管19は、ガス供給機構の一部であるガス供給源24に炉体13の外部で接続している。また、ガス供給管19には、炉体13の外部において、ガス供給機構の一部であるガス流量調整部25が介装されている。また、図1(b)に示すように、ガス供給管19の炉体13の内部における位置は、積載部材12の搬送路(搬送ローラ14)の上方である。前述した上部ヒータ17との干渉を避けるために、ガス供給管19は上部ヒータ17と平行に設置するのが望ましい。
【0042】
通常、ガス供給源24からは常温(室温)の雰囲気ガスが供給され、雰囲気ガスは、ガス供給管19の内部を通過している間に、前述した加熱器で制御された炉内温度によって加熱された後、被処理物11および積載部材12が搬送されている炉体13の内部空間に供給される。しかし、雰囲気ガスがガス供給管19の内部を通過している間に、充分に温められず、低温のまま被処理物11に供給されると、被処理物11に温度ムラを生じさせて大きな熱処理ムラの要因となる。これを防止するため、本実施の形態1におけるガス供給管19は以下に説明する構成を備えている。
【0043】
(ガス供給管19が備えるガス予熱のための構成について)
図3(a)と(b)は、本実施の形態1における熱処理装置10のガス供給管19の詳細を示す図である。図3(a)は、ガス供給管19の長手方向に切断した側断面図、図3(b)は、ガス供給管19の長手方向に垂直な断面図をそれぞれ示している。
【0044】
(ガス供給管19の詳細構成について)
ガス供給管19は、第1ガス供給管にあたる内側管27と、内側管27の外側に配置された第2ガス供給管にあたる外側管28と、内側管27と外側管28との隙間に挿入されたブッシュ29と、で構成されている。内側管27には、その側面に第1ガス噴出口である内側管ガス噴出口30a〜eが設けられており、外側管28には、その側面に第2ガス噴出口である外側管ガス噴出口31a〜fが設けられている。なお、図1(a)で示していたガス噴出口20は、図3(a)における外側管ガス噴出口31a〜fに相当する。
また、図3(a)と(b)中の符号で、Diは第1ガス噴出方向である、内側管ガス噴出方向、Doは第2ガス噴出方向である、外側管ガス噴出方向をそれぞれ示しており、これらについては後述する。
【0045】
(ガス供給管19を構成する部材について)
図4(a)〜(c)は、上記のガス供給管19を構成する部材を個別に示した図である。図4(a)は内側管27の斜視図、図4(b)は外側管28の斜視図、図4(c)はブッシュ29の斜視図をそれぞれ示している。
内側管27は、円筒状の管からなり、この管の側面には、内側管ガス噴出口30(詳しくは、複数の内側管ガス噴出口30a〜e)が形成されている。外側管28は、円筒状の管からなり、この管の側面には、外側管ガス噴出口31(詳しくは、複数の外側管ガス噴出口31a〜f)が設けられている。ブッシュ29は、円筒状の部材である。
【0046】
(内側管27と外側管28の管径と肉厚について)
ここでは、内側管27の内径を16[mm]、外側管28の内径を30[mm]とし、それぞれの管の肉厚を3[mm]とした。無論、ガス供給管の径はこれに限定されるものではないが、図3(a)と(b)に示すように内側管27と外側管28を組み合わせた際の、内側管27と外側管28の隙間が少なくとも直径方向に2[mm]以上となるように、それぞれの管の径と肉厚を選択することが望ましい。一般に、隙間は直径方向において、外側管28の内径の5〜20%の距離を有することが好ましい。隙間が小さすぎると、内側管27と外側管28との間のガス流路が狭くなるため、圧力損失および管内の流速が過剰となり、適正なガス供給が行えなくなることがある。また、隙間が大きすぎると、内側管27の内径を相当小さく設定せざるを得なくなり、内側管27内のガスの流路が狭くなるため、同様の問題が発生することがある。
【0047】
(ブッシュ29について)
図3(a)に示すように、内側管27の端部には、内径22[mm]で肉厚4[mm]の円筒状のブッシュ29が内側管27と外側管28との隙間に挿入されており、このブッシュ29によって、内側管27と外側管28との間に形成された隙間の空間は、炉体13の外部から遮断されている。従って、炉体13の外部から供給された雰囲気ガスは、まず内側管27の内部にのみ導入される。
【0048】
(雰囲気ガスが通過する経路について)
図3(a)に示すように、内側管27の炉体13の内部における側面には、複数個の内側管ガス噴出口30が設けられている。内側管ガス噴出口30は、内側管27の内部と外部とを空間的に連通させる、貫通穴である。従って、炉体13の外部から内側管27の内部に導入された雰囲気ガスは、内側管ガス噴出口30を介して内側管ガス噴出方向Diに噴出し、外側管28の内部に導入される。外側管28の炉体13の内部における側面には、複数個の外側管ガス噴出口31が設けられている。外側管ガス噴出口31は、外側管28の内部と外部とを空間的に連通させる、貫通穴である。従って、内側管27の内部から外側管28の内部に導入された雰囲気ガスは、外側管ガス噴出口31を介して外側管ガス噴出方向Doに噴出する。ここでいう外側管ガス噴出方向Doとは、図1(a)に示すガス噴出方向Dgに相当し、図1(a)においてガス噴出方向Dgに噴出した雰囲気ガスは、被処理物11および積載部材12が搬送されている炉体13の内部空間に供給される。
【0049】
実施の形態1において、内側管ガス噴出方向Diと外側管ガス噴出方向Doとは互いに異なる。しかし、DiとDoが同じであっても、後述するように、内側管ガス噴出口30の輪郭を外側管28の内壁面に垂直投影したときの投影図が、外側管ガス噴出口31と干渉しない限りにおいて、本発明の効果(雰囲気ガスの予熱効果)を得ることができる。
【0050】
(雰囲気ガスの予熱による効果について)
上記の構成により、雰囲気ガスは、内側管27の内部および外側管28の内部を通過する間に炉内温度によって加熱される。したがって、この構成のガス供給管19は、その内部または外部にさらなる管を有しない、単管構造のガス供給管に比べ、雰囲気ガスがより加熱された状態で炉体13の内部空間に供給されることを可能にする。特に、この構成のガス供給管19は、炉体13の外部に近い位置(ガスが加熱される経路が短い位置)にある外側管ガス噴出口31において、低温のまま雰囲気ガスが噴出されるのを抑制し、被処理物11の熱処理ムラを抑制することができる。
【0051】
また、この構成のガス供給管19を有する熱処理装置10においては、特許文献1に示すような、炉体13の天井から導入した雰囲気ガスを炉内の上部空間に滞留させて予熱したうえで被処理物11に供給する従来の方法に比べて、炉内にガス予熱のための余分なスペースを設ける必要がないので、炉体13を小型化して設備コストを低減できる。また、炉体13の小型化により炉の表面積が小さくなることによって、炉の外壁面からの放熱を低減し、炉内温度を保つためのエネルギーコストを低減できる。また、炉体13の小型化により炉内容積が小さくなることによって、使用する雰囲気ガスの量も低減できるので、雰囲気ガスの購入または雰囲気ガスの生成にかかるコスト、ならびに雰囲気ガスを炉内で加熱するためのエネルギーコストを低減できる。
【0052】
(被処理物11に対するガス噴出方向について)
続いて、被処理物11に対するガス噴出方向について詳細に説明する。本実施の形態1では、図1(a)および(b)に示すように、雰囲気ガスは、ガス噴出口20から被処理物11へ向けて噴出される。図1(b)にガス噴出方向Dgの一例を矢印で示す。ここでは、被処理物11の表層面と同じ高さの仮想面Fvの垂線とガス噴出方向Dgとがなす角度θが45°となるようにガス噴出方向Dgを設定した。無論、角度θはこれに限定されるものではない。例えばθが0°となるようにガス噴出方向Dgを設定して、被処理物11の表層面に垂直に雰囲気ガスを噴出してもよい。ただし、炉内における雰囲気ガスの流路は搬送方向Dcと角度をなす(即ち、Dcと平行とならない)ことが好ましいので、ガス噴出方向Dgは、0°≦θ<90°の範囲内とし、かつ噴出後の雰囲気ガスが被処理物11にあたる前に上部ヒータ17などの炉内の他の部材にできるだけ衝突しないように設定することが望ましい。なお、このガス噴出方向Dgが、図3(a)における外側管ガス噴出方向Doに相当する。
【0053】
(内側管ガス噴出口30と外側管ガス噴出口31との関係)
内側管ガス噴出口30および外側管ガス噴出口31の形状、寸法およびそれから噴出されるガスの方向、ならびに位置は、内側管ガス噴出口30の輪郭を当該輪郭から外側管ガス供給管28の内壁面に垂直投影したときの投影図が外側管ガス噴出口31と干渉しないように選択される。垂直投影は、内側管ガス噴出口30の輪郭と外側管28の内壁とを結んだ線分とが、当該内壁面に対する垂線となるように(即ち、当該線分と、当該線分と内壁との交点における接線とが直角をなすように)、投影して行う。内側管ガス噴出口30の外側管ガス供給管の内壁面における垂直投影図が、外側管ガス噴出口31と干渉するとは、投影図の輪郭およびその内部が、外側管に設けられたガス噴出口31と重なることをいう。したがって、外側管28の内壁面において、外側管ガス噴出口31が存在しない内壁面の領域に、内側管27のガス噴出口20の輪郭が垂直投影され得る
【0054】
内側管ガス噴出口30の垂直投影図と外側管ガス噴出口31とが干渉すると、内側管ガス噴出口30の一部およびまたは全部が、内側管27と外側管28との間の隙間を介して、外側管ガス噴出口31と向かい合う。その場合、内側管ガス噴出口30から噴出された雰囲気ガスは、内側管27と外側管28との間で、十分に長い経路を通過することなく、外側管ガス噴出口31から噴出される。即ち、雰囲気ガスを予熱する効果が十分に得られない。かかる不都合を避けるため、本発明においては、内側管ガス噴出方向Diと外側管ガス噴出方向Doとが互いに異なるようにするか、または内側管ガス噴出口30の長手方向の座標と外側管ガス噴出口31の長手方向の座標とが互いに異なるようにする。
【0055】
(内側管27と外側管28のガス噴出方向の関係について)
続いて、内側管27と外側管28のガス噴出方向の関係について詳細に説明する。本実施の形態1では、内側管ガス噴出方向Diは、図3(a)および(b)に示すように外側管ガス噴出方向Doと真逆の方向、即ち、内側管ガス噴出方向Diと外側管ガス噴出方向Doとが一直線上にならんで、180度の角度をなすように設定している。これにより、内側管ガス噴出口30から外側管28の内部に噴出した雰囲気ガスは、図3(b)に示すように内側管27の外周を回り込むようにして外側管ガス噴出口31に達する。したがって、雰囲気ガスがより長い経路を通過してから外側管ガス噴出口31から炉内の熱処理ゾーンに供給されるので、ガスを予熱する効果を高めることができる。
【0056】
無論、内側管ガス噴出方向Diは、外側管ガス噴出方向Doと真逆であることに限定されるものではなく、少なくとも外側管ガス噴出方向Doと異なる方向であることが望ましい。例えば、内側管ガス噴出方向Diと外側管ガス噴出方向Doとが、例えば、内側管ガス噴出方向Diと外側管ガス噴出方向Doとが、90〜270度の角度を形成するように、内側管27および外側管28を配置してよい。その範囲の角度であれば、良好なガス予熱効果が得られる。あるいは、内側管ガス噴出口30および外側管ガス噴出口31が、それらの長手方向の座標が互いに異なるように設けられ、それにより内側管ガス噴出口30の輪郭の外側管28の内壁面における垂直投影図と外側管ガス噴出口31とが干渉しない限りにおいて、内側管ガス噴出方向Diは、外側管ガス噴出方向Doと同じであってもよい。
【0057】
(ガス噴出口の配置について)
続いて、ガス噴出口の配置について図3(a)と図4(a)、(b)を用いて詳細に説明する。本実施の形態1では、図4(b)に示すように、円筒状の外側管28の炉体13の内部における側面には、直径12[mm]の6個の円形状の外側管ガス噴出口31a、31b、31c、31d、31e、31fをそれぞれ180[mm]のピッチで設けている。また図4(a)に示すように、円筒状の内側管27の炉体13の内部における側面には、直径12[mm]の5個の円形状の内側管ガス噴出口30a、30b、30c、30d、30eをそれぞれ180[mm]のピッチで設けている。図3(a)に示すように、内側管ガス噴出口30aの中心の、管の長手方向における座標(図3(a)においてy軸の座標)は、外側管ガス噴出口31aの中心および外側管ガス噴出口31bの中心とを結ぶ線分の中点のy座標と一致するように配置されている。他の4つの内側管ガス噴出口30b〜eも同様に、それらの中心のy座標が、隣り合う二つの外側管ガス噴出口31の中心を結ぶ線分の中点のy座標と一致するように配置されている。
【0058】
このように内側管ガス噴出口30と外側管ガス噴出口31を配置することによって、内側管ガス噴出口30から外側管28の内部に噴出される雰囲気ガスが、外側管ガス噴出口31に達するまでの経路を長くできる。したがって、この配置によれば、内側管ガス噴出方向Diと外側管ガス噴出方向Doとが異なっている場合において、内側管ガス噴出口30の中心のy座標と外側管ガス噴出口31の中心のy座標とを一致させるときと比べて、ガスを予熱する効果をより高めることができる。無論、内側管ガス噴出口30の配置はこれに限定されるものではない。内側管ガス噴出口30の輪郭の外側管ガス供給管28の内壁面における垂直投影図が、外側管ガス噴出口31と干渉しない限りにおいて、内側管ガス噴出口30の中心のy座標が、外側管ガス噴出口31の中心のy座標と単に異なるように配置しても、ガスの予熱効果を得ることはできる。これに対し、内側管ガス噴出口30の中心が隣り合う二つの外側管ガス噴出口31の中心を結ぶ線分の中点のy座標と一致しても、内側管ガス噴出口30が大きくて、その輪郭の垂直投影図が外側管ガス噴出口31と干渉する場合には、本発明の効果は得られない。
【0059】
図1(a)において、炉体13の横方向(図1(a)の紙面左右方向)に並置された複数の積載部材12に積載される各被処理物11に対して均等に雰囲気ガスを供給するためには、ガス噴出口20(すなわち外側管ガス噴出口31)は炉体13の横方向で被処理物11が存在する全域に均等に配置することが望ましい。これに対し内側管ガス噴出口30については、必ずしも炉体13の横方向で被処理物11が存在する内側管27の全域に均等に配置する必要はない。例えば、炉体13の横方向の中央付近に、1つのみの内側管ガス噴出口30を配置すること、または複数の内側管ガス噴出口30を集中させて配置することも可能である。この場合、炉体13の外部から導入された雰囲気ガスが、側部断熱壁13cに最も近い内側管ガス噴出口30に到達するまでの経路を長くできるので、ガスを予熱する効果を高めることができる。しかしながら、そのように内側管ガス噴出口30を配置すると、図3(a)における内側管27の内部から外側管28の内部へのガスの噴出が炉体13の横方向の中央付近で集中し、それにより、その後の外側管ガス噴出口31からのガスの噴出も炉体13の横方向の中央付近に集中する。その結果、図1(a)において横方向に並置された複数の積載部材12に積載される各被処理物11に対して均等に雰囲気ガスを供給することができなくなってしまう。従って、本実施の形態1のように、複数の内側管ガス噴出口30が、炉体13の横方向に均等に配置される、すなわち図4(a)のように配置されることが望ましい。
【0060】
上述した雰囲気ガスの充分な予熱と、各被処理物11に対しての均等な量のガス供給とを両立するために、複数の外側管ガス噴出口31のうち、両側の側部断熱壁13cにそれぞれ最も近い位置にある2つの外側管ガス噴出口31aと31fとの間の領域を、ガス供給管19の長手方向に3等分した場合に、内側管ガス噴出口30が、3等分した領域のそれぞれに少なくとも1つ配置されていることが望ましい。
【0061】
(ガス供給管の材質について)
続いて、ガス供給管19の材質について説明する。本実施の形態1では、内側管27および外側管28の材質として、耐熱性を有し、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対する耐食性を有するアルミナ質のセラミックスを用いている。ガス供給管19の材質は、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスの種類に応じて適宜選択され、無論、使用温度における耐熱性を満たし、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対して耐食性を有する限りにおいて、アルミナ質セラミックス以外の材質を用いることもできる。しかしながら、雰囲気ガスが内側管27の内部を通過する間に予熱される効果を高めるためには、ガス供給管19に用いる材料表面の輻射率が重要となる。
【0062】
図1に示すガス供給管19(すなわち外側管28)は、上部ヒータ17により温度制御されている炉内雰囲気からの熱伝達によって、炉内温度に近い状態に保たれている。しかし、ガス供給管19内部にある内側管27が、温度制御された炉内雰囲気に接していないため、常温で導入される雰囲気ガスに熱を奪われることによって供給管自体が冷えた状態になる可能性がある。これを防止するには、外側管28の内面から内側管27の外面への輻射熱によって、内側管27の温度を高く保つのが有効である。そのために内側管27および外側管28の材質として、表面の輻射率が0.5以上である材質を選択することが望ましい。輻射率が0.5より小さいと、外側管28の内面から内側管27の外面への輻射熱が小さくなり、内側管が冷えた状態となって雰囲気ガスを予熱する効果を充分に得られないことがある。本実施の形態1では、内側管27および外側管28の材質として、輻射率が0.8のアルミナ質のセラミックスを用いている。
【0063】
(ガス供給管の構成に関する条件について)
上述したガス供給管の構成に関する条件は、発明者による様々な条件での数値解析により、ガス噴出口30および31の配置と個数、ガス噴出方向、ガス供給管の材質、ガス供給管に導入するガス流量を様々に変更し、複数の外側管ガス噴出口31から噴出される雰囲気ガスの温度と流量の分布を求めることによって見出した条件である。上記の条件を用いることにより、炉体13の外部から導入された雰囲気ガスは、内側管27の内部および外側管28の内部を通過する間に炉内温度によって充分に加熱され、複数の外側管ガス噴出口31から均一な流量で噴出され、各被処理物11に対して均等に、被処理物11において温度ムラを生じさせることなく供給されることが可能になる。
【0064】
(ブッシュ29の形状と役割について)
続いて、ブッシュ29の形状と役割について、さらに説明する。本実施の形態1では、図3(a)に示すようにガス供給管19の端部に、内径22[mm]で肉厚4[mm]である円筒状のブッシュ29が内側管27と外側管28との間の隙間に挿入されている。細長い管が間隔をあけた点で支持され、その間隔が広い場合には、当該間隔において、管の自重により管に鉛直下方向にたわみが発生する。そのようなたわみは、炉体13の内側管27および外側管28において生じる。たわみは、外側管28(すなわち図1(a)におけるガス供給管19)においては、両サイドの側部断熱壁13cの間で生じるのに対して、内側管27においては、図3(a)に示す2つのブッシュ29の間で生じる。また、内側管27は外側管28より管径が小さいのでたわみ量もより大きくなる傾向がある。したがって、炉体13の横方向の寸法が大きくて管も長い場合などに、内側管27のたわみによって、炉体13の横方向の中央付近で内側管27と外側管28との間の隙間が下側(炉床側)にて極めて小さくなることがある。
【0065】
内側管27と外側管28との間の隙間は雰囲気ガスの流路でもある。したがって、炉体13の横方向の中央付近で隙間が小さくなると、炉体13の横方向の中央付近にあって下側(炉床側)に配置されている外側管ガス噴出口31から充分な量の雰囲気ガスが噴出されなくなるという問題が起こる。これを防ぐためには、内側管27を支持するブッシュ29の端部をできる限り炉体13の横方向の中央寄りに配置し、管を支持する2点間の距離を短くしてたわみ量を低減するのが有効である。すなわち、ブッシュ29の長さを、外側管ガス噴出口31に干渉しない範囲で、できる限り長く設定するのが望ましい。本実施の形態1では、ブッシュ29の長さは400[mm]である。
【0066】
(ブッシュ29の材質について)
ブッシュ29の材質は、使用温度における耐熱性を満たし、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対する耐食性を有するものから適宜選択できる。本実施の形態1においては、熱膨張の差により内側管27および外側管28に余計な応力を発生させないように、ブッシュ29の材質として、内側管27および外側管28と同じアルミナ質のセラミックスを用いている。
【0067】
(ガス供給管の設置高さについて)
続いて、ガス供給管の設置高さについて説明する。本実施の形態1では、図1(b)に示す被処理物11の表層面と同じ高さの仮想面Fvとガス噴出口20との間の距離hが90[mm]となるようにガス供給管19の設置高さを設定している。なお、距離hを長く設定するほど、雰囲気ガスがガス噴出口20を噴出してから被処理物11に達するまでの時間も長くなり、その間にも炉内温度によって雰囲気ガスが加熱されるので、被処理物11に供給される際の温度ムラがより軽減する傾向は得られる。しかしながら、距離hを長く設定するほど、炉体13の内部空間が大きくなるため、熱処理に必要な雰囲気ガスの供給量もより増大し、雰囲気ガスの購入または雰囲気ガスの生成にかかるコスト、および雰囲気ガスを炉内で加熱するエネルギーコストがより増大するという不都合が生じる。これを防ぐには、距離hが好ましくは300[mm]以下であり、より好ましくは、200[mm]以下である。距離hが300[mm]以上であると、前述したコストが多大になり、経済的ではない。
【0068】
(多重管について)
本実施の形態1では、ガス供給管の構成として内側管27と外側管28とで構成される2重の管の例を示したが、外側管28の外側にさらに1本以上の管を備えた、3重以上の構成の管を用いてよい。n個(nは3以上の整数である)の管から構成されたガス供給管において、n個の管を内側から順に、第1ガス供給管、・・、第(n−1)ガス供給管、第nガス供給管と呼ぶ場合には、第kガス供給管(kは、2以上n−1以下の整数である)に設けられる第kガス噴出口、および第(k+1)ガス供給管に設けられる第(k+1)ガス噴出口は、第kガス噴出口の輪郭の第(k+1)ガス供給管の内側壁面に垂直投影した投影図が、第(k+1)ガス噴出口と干渉しないように配置される。追加する管の径と肉厚、管の側面に設けるガス噴出口の個数と配置、およびガス噴出方向は、具体的には内側管27と外側管28との関係と同様に設定することが望ましい。ガス供給管を構成する管の数が多くなるほど、ガス供給管の内部で雰囲気ガスを予熱する効果を高めることができるが、必然的に最外周の管の径が太くなるので、ガス供給管を配置するためのスペースが増大し、またガス供給管の製作コストも増大するという不都合が生じることがある。
【0069】
(内側管27および外側管28、ガス噴出口の形状について)
また、本実施の形態1では、内側管27および外側管28の形状を円筒状、内側管ガス噴出口30および外側管ガス噴出口31の形状を円形状としている。それらの形状はそれらに限定されるものではなく、例えば、ガス供給管を角型としてよく、あるいは、ガス噴出口を角型としてもよい。また、ガス噴出口をガス供給管の側面に設けた開口部としたが、ガス噴出口はこれに限られず、例えばガス供給管から分岐する枝管の先端に設けた開口部としてもよい。
【0070】
(ガス供給管19の組み立てについて)
内側管27および外側管28を有する二重管構成のガス供給管19は、外側管28に内側管27を挿入し、それからブッシュ29を内側管27および外側管28の間に嵌め込んで内側管27を固定する手順で組み立てることができる。ガス供給管19が3以上の管を有する場合には、大きい内径の管の内部に、当該内径よりも小さい外径を有する管を挿入し、それらの2つの管の間の隙間にブッシュ29を取り付けることを繰り返して組み立てる。例えば、第1〜第3ガス供給管でガス供給管19を構成する場合、第3ガス供給管の内部に第2ガス供給管を挿入し、ブッシュ29を取り付けてから、第2ガス供給管の内部に第1ガス供給管を挿入して、ブッシュ29を取り付ける。この組み立ての際に、内側管ガス噴出口30および外側管ガス噴出口31の相対位置や相対角度を調節して、先に説明した位置関係が達成されるようにする。ガス供給管19の組み立ては、先に外側管28を熱処理装置10内に配置し、それから、内側管27を挿入し、さらにブッシュ29を取り付ける手順で行ってもよい。
【0071】
(雰囲気ガスの成分混合について)
本実施の形態1では、雰囲気ガスとして1種類のガス成分を用いる場合の例を示している。雰囲気ガスが2種以上のガス成分からなる場合には、各ガス成分を供給する雰囲気ガス供給源ごとにガス流量調整部を設けて、雰囲気ガスの流量とともに、雰囲気ガスの成分混合比も制御できる構成としてもよい。
【0072】
図5はガス成分混合比を制御できる一構成例の概略を示す図であり、2種類のガス成分の混合比を制御できる構成を示している。この構成例は、ガス供給管19と、ガス供給源24a、24bと、ガス流量調整部25a、25bとからなる。
2種類以上のガス成分の混合比を制御する場合には、例えば図5に示すように、雰囲気ガスとしてガスAおよびガスBを個別に貯留するガス供給源24a、24bを設けるとともに、それらのガス供給源24a、24bごとにガス流量調整部25a、25bを設け、分岐させたガス供給管19をガス流量調整部25a、25bを介してガス供給源24a、24bに接続してもよい。ガス流量調整部25a、25bは、ガス供給管19へ供給する雰囲気ガスの流量の調整部として機能するとともに、ガス成分の混合比を調整するガス成分混合比調整部としても機能する。ガス流量調整部25a、25bには、例えばレギュレータ、またはフローメーター等を用いることができる。ガス供給源24a、24bには、例えばガスボンベ、またはガス発生機等を用いることができる。無論、雰囲気ガスは、2種類のガスからなるものに限定されず、3種類以上のガスからなってよい。
【0073】
(熱処理装置10のガス排気機構について)
続いて、熱処理装置10のガス排気機構について説明する。被処理物11の熱処理は、図1(a)に示した上部ヒータ17および下部ヒータ18からの熱の供給、ならびにガス噴出口20から噴出された雰囲気ガスと被処理物11との接触によって進行する。その熱処理中に、被処理物11に含有される成分の蒸発や化学反応によって被処理物11から蒸発ガスが発生することがある。この蒸発ガスが炉体13の内部に滞留すると、被処理物11において、所望の化学反応とは逆の反応が起こる可能性がある。したがって、この蒸発ガスは、雰囲気ガスとともに炉外に排出する必要がある。
【0074】
この熱処理装置10のガス排気機構は、図1(b)に示すように、炉体13の内部に設置されたガス吸込口22に吸込まれたガスを炉体13の外部へ排出する機構である。ここでは、ガス排気機構は、図1(b)に示す、ガス吸込口22が設けられたガス排気管21と、図2に示す、ガス排気管21から炉体13の外部へ排出するガスの流量を調整する排気流量調整部26(排気ファンとその制御部)とからなる。
【0075】
(ガス排気管21とガスの排気方法について)
蒸発ガスを炉体13の内部から外部へ排出するガス排気機構の一部である円筒状のガス排気管21は、炉体13を横方向(図1(a)の紙面左右方向)から貫通する。このガス排気管21は、図2に示すように、ガス排気機構の一部である排気流量調整部26に炉体13の外部で接続している。また、図1(b)に示すように、ガス排気管21の炉体13の内部における位置は、積載部材12の搬送路(搬送ローラ14)の上方である。前述した上部ヒータ17との干渉を避けるために、ガス排気管21は、ガス供給管19と同様に上部ヒータ17と平行に設置するのが望ましい。
【0076】
ガス排気管21の炉体13の内部における側面には、ガス供給管19の側面と同様に複数個のガス吸込口22が設けられている。したがって、図1(b)に示すように、熱処理により被処理物11から発生した蒸発ガスは、周囲の雰囲気ガスとともにガス吸込口22から吸込まれ、ガス排気管21を通じて炉体13の外部へ排出される。
【0077】
(ガス排気管21とガス吸込口22の形状、配置、個数について)
無論、ガス排気機構の構成はこれに限定されるものではなく、ガス排気管21およびガス吸込口22の形状、配置、および個数は、被処理物11に施す熱処理の種類に応じて、また被処理物11および積載部材12の形状、配置、および個数に応じて適宜選択する。
【0078】
(ガス排気管21の材質について)
ガス排気管21の材質として、ここでは、耐熱性を有し、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対する耐食性を有するアルミナ質のセラミックスを用いる。ガス排気管21の材質は、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスの種類に応じて適宜選択され、使用温度における耐熱性を満たし、被処理物11、雰囲気ガス、および蒸発ガスに対する耐食性を有する限りにおいて、アルミナ質のセラミックス以外の材質を用いることもできる。
【0079】
(熱処理装置10のゾーン分割と構成について)
熱処理装置10の炉体13においては、前述したように、その内部空間が搬送方向Dcに沿って熱処理プロセスに応じた複数のゾーン(処理空間)に分割されている。前述したガス供給機構、ガス排気機構、上部ヒータ17および下部ヒータ18は、熱処理プロセスに応じて複数のゾーンの一部または全部に設ける。例えば、前述した蒸発ガスが発生しないゾーンは、ガス排気機構を有しない構成としてもよい。また、被処理物11の急速な冷却を行うゾーンは、上部ヒータ17および下部ヒータ18を有しない構成としてもよい。
【0080】
以上のように、各ゾーンにおいて、その熱処理の種類に応じて、上部ヒータ17および下部ヒータ18、ならびにガス供給機構およびガス排気機構を設ける。それにより、被処理物11の昇温、均熱、および冷却などの各ゾーンで実施する熱供給に合わせた最適な上部ヒータ17および下部ヒータ18の出力制御を行うことが可能となり、また、化学反応を伴う合成および粒子の成長などの各ゾーンで実施する熱処理に合わせた最適な雰囲気ガスの流量制御、および雰囲気ガスの成分混合比の制御を行うことが可能となる。
【0081】
(搬送の検知と出力制御について)
なお、被処理物11の搬送が行われていることを検知する検知手段として、例えば図2に示す搬送センサー14bを設けることが好ましい。搬送センサー14bは、被処理物11の搬送(すなわち搬送ローラ14の回転)が行われていないときに、各ゾーンの上部ヒータ17および下部ヒータ18の出力を制御する上部ヒータ用温度コントローラ17aおよび下部ヒータ用温度コントローラ18aに信号を送る。これらのコントローラはその信号を受信したときに、それぞれのヒータの出力を低減する。また、搬送センサー14bの信号は、ガス流量調整部25にも送られて、搬送の状況に応じて各ゾーンのガス供給管19へ供給する雰囲気ガスの流量が制御される(例えば、搬送が行われていないときには、ガスの流量が低減される)ようにすることが好ましい。搬送状況に応じたヒータ等の制御によって、生産が行われていないときの熱処理装置10の消費エネルギーを低減し、熱処理装置10のランニングコストをさらに低減することが可能となる。
【0082】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2における熱処理装置10の搬送方向に垂直で、かつ搬送面に垂直な面の概略断面図を示している。なお、図6において、実施の形態1で説明した要素と同じ要素は同じ符号で示され、以下においてそれらの要素の説明が省略されることがある。
【0083】
(装置の全体構成について)
本発明の実施の形態2における熱処理装置100は、被処理物11と、積載部材12と、炉体13と、搬送ローラ14と、上部ヒータ17と、下部ヒータ18と、ガス供給管19と、ガス噴出口20と、ガス排気管21(図示せず)と、ガス吸込口22(図示せず)と、炉体13によって囲まれた内部空間を有する熱処理部110を高さ方向(上下方向)に積層した多段炉体32と、各炉体13の外部において各段のガス供給管19を接続した合流ガス供給管33とからなる。本実施の形態2において、積層された熱処理部110はすべて実施の形態1の熱処理装置10と同様に、炉体13内の空間に、内側管27および外側管28からなるガス供給管19から、雰囲気ガスが噴出されるように構成されている。別の形態において、1つまたは複数の熱処理部は、従来のガス供給管を備えたものであってよい。
【0084】
(装置の動作について)
この熱処理装置100は、前述した実施の形態1で説明した熱処理装置10を熱処理部110として、それを画定する炉体13を高さ方向(上下方向)に複数積層した構成となっている。図6には3個の炉体13が積層されてなる多段炉体32を示している。各段の炉体13の内部において、被処理物11を積載した積載部材12は同時に搬送される。したがって、この熱処理装置100の生産性は、1段の構成のものに比べて、3倍に向上する。
【0085】
(ガス供給方法について)
各段の熱処理部110が備えるガス供給管19は、炉体13の外部においてガス供給機構の一部である合流ガス供給管33に接続している。合流ガス供給管33は、図2に示した構成と同様な構成となるように、炉体13の外部においてガス供給源24に接続している。各段のガス供給管19は、前述した実施の形態1と同様に、図3(a)と(b)に示した内側管27と、外側管28と、ブッシュ29とを有する。内側管27および外側管28に設けるガス噴出口30および31の配置および個数、ならびにガス噴出方向などは、実施の形態1で説明した方法によって、全ての段において雰囲気ガスの充分な予熱と、各被処理物11に対しての均等な量のガス供給とを両立できるように選択されている。
【0086】
(熱処理部110の多段積層のメリットについて)
上記の構成によれば、炉体13の外部から内部への雰囲気ガスの導入は、炉体13の横方向に対向する側壁から行う。したがって、実施の形態2の装置においては、特許文献1に示すような、各段の炉体13の上面および下面にはガスを導入する経路を設ける必要がなく、また、特許文献1に示すような、炉内の上部空間にガス予熱のための余分なスペースを設ける必要がないので、装置の設置高さを抑えつつ熱処理部110(即ち、これを画定する炉体13)の高さ方向への多段積層が可能となっている。
【0087】
炉体13を小型化することによる利点は実施の形態1で説明したとおりである。さらに炉体13の高さ方向への多段積層により、下段の炉体13の上面と上段の炉体13の下面とが共有されるので、炉体13を多段積層してない場合に比べて、実施の形態2の装置の炉の外部への放熱面積は小さくなる。このことは、エネルギーコストを大幅に低減できるという利点をもたらす。
【0088】
(熱処理部110を積層する段数について)
熱処理部110を積層する段数は3段に限定されるものではない。熱処理部は、熱処理装置100の設置高さ、および床の耐荷重が許容する範囲内であれば、何段に積層しても構わない。段数が増えるほど生産性が向上し、単位生産量あたりのエネルギーコストも低減できる。一方、段数が増えるほど、搬送の難易度、および各段への均一なガス供給および熱量供給の難易度も高くなる。
【0089】
(加熱器の出力制御について)
各段の熱処理部110に備わる上部ヒータ17と下部ヒータ18には、それぞれ個別に出力を制御する温度コントローラ(出力制御部)を設けるのが望ましい。そのようにすれば、上部ヒータ17および下部ヒータ18の出力をそれぞれ最適に制御することで、多段炉体32の上面および下面から外部への放熱などの影響を回避して、各段における積載部材12および被処理物11の温度ムラを抑制することが可能となる。
【0090】
(実施の形態2の効果について)
本実施の形態2によれば、熱処理部110を高さ方向に多段に積層する熱処理装置100においても、余分なスペースおよび追加の熱源を要することなく、雰囲気ガスを予熱して、被処理物11に接触する際のガスの温度を均一化し、熱処理ムラの抑制を実現できる。その結果、生産性を大幅に向上し、エネルギーコストを大幅に低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の熱処理装置によれば、余分なスペースや追加の熱源を要することなく、雰囲気ガスを予熱して被処理物に接触する際のガスの温度を均一化することができ、それにより、熱処理ムラの抑制を実現できる。したがって、本発明の熱処理装置は、炉体内部で搬送される被処理物への雰囲気ガスの供給を伴う熱処理を製造過程において要する各分野の製品の製造に有用である。
【符号の説明】
【0092】
1、11 被処理物
2、12 積載部材
3、13 炉体
4、14 搬送ローラ
10 熱処理装置
17 上部ヒータ
18 下部ヒータ
19 ガス供給管
20 ガス噴出口
21 ガス排気管
22 ガス吸込口
27 内側管
28 外側管
29 ブッシュ
30 内側管ガス噴出口
31 外側管ガス噴出口
100 熱処理装置
110 熱処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体を構成する壁に囲まれた空間(以下、「炉体内部」とも呼ぶ)において被処理物への雰囲気ガスの供給を伴う熱処理を実施する熱処理装置であって、
前記炉体内部の温度分布を制御する加熱器と、
第1ガス噴出方向に沿って雰囲気ガスを噴出する第1ガス噴出口が設けられた第1ガス供給管と、
前記第1ガス供給管の外側に、第2ガス噴出方向に沿って雰囲気ガスを噴出する第2ガス噴出口が設けられた第2ガス供給管と
を備え、
前記第1ガス噴出口の輪郭を前記第2ガス供給管の内壁面に垂直投影したときの投影図が前記第2ガス噴出口と干渉せず、
雰囲気ガスは、炉体外部から前記第1ガス供給管の内部へ導入され、前記第1ガス供給管に設けられた第1ガス噴出口を介して前記第2ガス供給管の内部に噴出され、それから前記第2供給管に設けられた第2ガス噴出口から噴出されて、炉体内部の被処理物に供給される、
熱処理装置。
【請求項2】
前記第1ガス供給管に設けられたガス噴出口の中心の、第1ガス供給管の長手方向における座標は、
前記第2ガス供給管に設けられたガス噴出口の中心の、第2ガス供給管の長手方向における座標とは異なる
請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記第1ガス噴出方向と前記第2ガス噴出方向とが互いに異なる、請求項1または2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記第1ガス供給管、および前記第2ガス供給管には、それぞれ複数の前記第1ガス噴出口および前記第2ガス噴出口が設けられている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱処理装置。
【請求項5】
前記第2ガス供給管に設けられた複数の第2ガス噴出口のうち、炉体の両側壁にそれぞれ最も近い位置にある2つの第2ガス噴出口の間の領域を第2ガス供給管の長手方向に3等分した場合に、前記第1のガス供給管に設けられた複数の第1ガス噴出口は、3等分した領域のそれぞれに少なくとも1つ配置されている
請求項4に記載の熱処理装置。
【請求項6】
前記第1ガス供給管および前記第2ガス供給管の材質は、表面の輻射率が0.5以上である
請求項1〜5のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項7】
前記第2のガス供給管の外側に、ガス供給管を1つ以上備えていて、第1〜第nガス供給管(nは3以上の整数である)を有し、
第kガス供給管(kは2以上n−1以下の整数である)に設けられた、雰囲気ガスを噴出する第kガス噴出口の輪郭を前記第(k+1)ガス供給管の内壁面に垂直投影したときの投影図が前記第2ガス噴出口と干渉せず、
雰囲気ガスは、炉体外部から前記第1ガス供給管の内部へ導入され、順に前記第1ガス噴出口から第(n−1)噴出口を経由して、順に第2ガス供給管から第nガス供給管の内部に噴出され、それから前記第n供給管に設けられた第nガス噴出口から噴出されて、炉体内部の被処理物に供給される、
請求項1〜6のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項8】
熱処理部が複数個に積層されており、少なくとも1つの熱処理部が請求項1〜7のいずれかに記載の熱処理装置である、多段熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−225620(P2012−225620A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95685(P2011−95685)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】