説明

熱分解処理システム

【課題】 付着等の加熱阻害要因が発生しても、廃棄物の処理能力を最大限に発揮することのできる熱分解システムを提供すること。
【解決手段】 被処理物1を熱分解炉3内で加熱して熱分解ガス6と熱分解残渣7とに熱分解する熱分解システムであって、前記熱分解炉に対する加熱源の熱量を加熱源の熱量計量手段で計量し、熱分解炉3を加熱した後排気される排熱量を排熱量計量手段12で計量する。そして、これら加熱源の熱量と排熱量との差を制御装置13で求め、この差分から被処理物に対する正味加熱量を求め、この正味加熱量に対応して前記加熱炉3への被処理物の処理量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を熱分解炉内にて加熱して熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
未分別かつ未処理であって様々な汚染物質を含んでいる廃棄物(被処理物)を使用可能物質に変質させる廃棄物処理システムとして、廃棄物を熱分解処理する熱分解処理システムが従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この熱分解処理システムは、有機物を含む廃棄物を還元雰囲気下で数百℃に加熱し、熱分解ガスと固体残渣物に分解処理するシステムである。このような熱分解処理システムとしては、回転ドラムを外部から加熱する外部加熱方式を採用した外熱式の回転炉(キルン)を適用することができる。外熱式キルンはセメント焼成などに長年の使用実績があり、未分解で未分別の廃棄物の処理装置としては構造が簡素で信頼性の高いものとして、一般に広く普及している。
【0004】
この熱分解処理システムでは、廃棄物は、計量機能を有する投入装置により回転ドラム(回転炉)の内部に投入される。この回転ドラムの外部には燃焼室が形成され、その内部で、バーナー等により燃料が燃焼され、回転ドラムを介して廃棄物が加熱されるようになっている。加熱された回転ドラム内の廃棄物は熱分解ガスと固体の熱分解残渣とに熱分解され、それぞれの出口から個別に排出される。また、燃焼室からの燃焼排気ガスは、排気ダクトを介して系外に排出される。廃棄物から生じた熱分解ガスおよび固体残渣は、熱分解処理システムの後工程の各種処理装置に送られて無害化処理が施された後に、エネルギー源として再利用されたりする。
【0005】
上述のような熱分解処理システムでは、廃棄物等の被処理物の熱分解処理が安定的かつ長期的に継続して行われることが望ましい。しかし、熱分解炉の回転ドラム内において被処理物の熱分解処理を長時間に渡って継続的に行った場合には、回転ドラムの内壁に熱分解残渣が付着して、処理能力が低下するという課題がある。すなわち、回転ドラムの内壁に付着した熱分解残渣は、回転ドラムの外部から内部に伝えられる熱を遮断してしまうため、回転ドラム内の被処理物を回転ドラムの外部から加熱する方式では、当該加熱による熱が回転ドラムの内部へ十分に伝わらなくなる。この結果、熱伝達効率が悪化してしまい、回転ドラム内の被処理物を効率良く熱分解させることが難しくなり、被処理物を所定の熱分解温度まで加熱することができず、処理量を低下させざるを得なくなるからである。
【0006】
このような課題を解決するために、ドラムの内壁への付着物を、処理運転を継続しながら機械的に掻き落とすための装置などが提案されている。この場合も、付着物の堆積を完全に防ぐことは困難であり、外熱式の回転ドラムを熱分解に適用する場合には、付着による性能の低下という課題は不可避的に発生するものといえる。
【0007】
一般的には被処理物の加熱状況はドラム内部あるいは外部の温度監視、あるいは出口の被処理物の温度により管理されている。付着物により熱の伝わりが悪くなり、ドラム内部や出口の温度が低下する場合、一般的には加熱量を増加させるか、あるいは処理量を低下するかの手段がとられる。
【0008】
ここで、加熱量を増加させることは装置の耐熱性や、加熱装置の容量からおのずと上限値があり、この上限に達した後は処理量の低下しか選択肢がなくなる。一方で、付着物が堆積した状態ではドラム内部の温度の正確な測定が困難となり、熱分解処理に適切な加熱が行われているか判断が難しく、熱分解炉の能力上限いっぱいまで性能を引き出すことは困難となる。このため、低い処理量で操業せざるを得なくなる。
【特許文献1】特開2000−202419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、熱分解炉内壁に堆積物が生じたりすると、熱分解炉内の被処理物に加わる熱量を正確に把握するのが困難であり、熱分解炉の能力上限いっぱいまで性能を引き出して効率的な処理を行うことが困難であった。
【0010】
本発明の目的は、付着等の加熱阻害要因が発生しても、廃棄物の処理能力を最大限に発揮することのできる熱分解処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の熱分解処理システムは、被処理物を熱分解炉内で熱して熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解処理システムであって、前記熱分解炉に対する加熱源の熱量を計量する加熱源の熱量計量手段及びこの熱分解炉を加熱した後排気される排熱量を計量する排熱量計量手段と、これら計量手段により計量された加熱源の熱量と排熱量との差分から被処理物に対する正味加熱量を求め、この正味加熱量に対応して前記加熱炉への被処理物の処理量を調整する制御装置とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、加熱源の熱量計量手段として加熱源への燃料流量計を設け、この燃料流量計により測定される燃料消費量と予め求められている燃料の発熱量とから、加熱源の熱量を求めている。
【0013】
また、本発明では、排熱量計量手段として、排気ガス温度計を設け、この排気ガス温度計により測定された排気ガス温度と、燃料消費量及び予め設定された空気比から求められる排気ガス流量とを用い、これらから排熱量を求めている。
【0014】
さらに、本発明では、熱分解炉として、外燃式の回転炉を用いている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、処理経過に伴う付着等の加熱阻害要因が発生しても、ドラム(熱分解炉)内部の正味の加熱量をほぼ正確に知ることができるので、ドラムの状態に応じた最適な処理量を選択し、投入量を制御することが可能であり、廃棄物の処理能力を最大限に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による熱分解処理システムの一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1はこの実施の形態の全体構成を示している。熱分解処理システムは、前述のように、有機物を含む廃棄物を還元雰囲気下で数百℃に加熱し、熱分解ガスと固体残渣物に分離する。熱分解炉としては、回転ドラムを外部から加熱する外部加熱方式を採用した外熱式の回転炉(キルン)を用いる。
【0018】
図1において、廃棄物1は計量機能を有する投入装置2により回転ドラム3の内部に投入され、回転ドラム3の外部に設けられた燃焼室4により加熱される。すなわち、燃焼室4内では、バーナー5により燃料10が燃焼されており、回転ドラム3内の廃棄物は、その燃焼熱により回転ドラム3を介して加熱されるようになっている。加熱された回転ドラム3内の廃棄物は熱分解ガス6と固体の熱分解残渣7とに熱分解され、出口から排出される。また、燃焼室4からの燃焼排気ガス8は、排気ダクト9を介して系外に排出される。廃棄物から生じた熱分解ガス6および固体残渣7は、熱分解処理システムの後工程の各種処理装置に送られて無害化処理が施された後に、エネルギー源として再利用されたりする。
【0019】
この実施の形態では、熱分解炉として、回転ドラム3を有する外燃式の回転炉を用いている。この回転ドラム(熱分解炉)3に対する加熱源は、前述のように燃焼室4のバーナー5であり、その熱量を計量する加熱源の熱量計量手段として、バーナー5への燃料供給路に燃料流量計11を設け、燃料10の消費量を計量している。また、回転ドラム3を加熱した後の排熱量を計量するための排熱量計量手段として、排気ガス8の排気経路に排気ガス温度計12を設け、排気温度を計量している。
【0020】
さらに、これらの熱分解炉運転状態量を入力として演算を行い、廃棄物1の投入量を投入装置2にて調整可能とする制御装置13を設けている。
【0021】
制御装置13は、燃料流量計11により計量された燃料消費量から、熱分解炉へのトータル入熱量を求めると共に、排気ガスの流量を演算し、この排気ガス流量と排気ガス温度計12から、熱分解炉系外への排熱量を演算する。
【0022】
すなわち、先ず、燃料流量計11により測定される燃料消費量と予め求められている燃料10の発熱量とから、加熱源である燃焼室4への入熱量(熱分解炉へのトータル入熱量)を下式により求める。
【0023】
(熱分解炉へのトータル入熱量)=(燃料消費量)×(燃料の発熱量)
ここで、燃料の発熱量は、その燃料の組成からもともと既知である。
【0024】
次に、排気ガス温度計12により測定された排気ガス温度と、前記燃料流量計11で測定された燃料消費量及び予め設定されたバーナー5の空気比から排気ガス流量を求め、これらから排熱量を求める。
【0025】
排気ガス流量の演算は複雑であるが、燃料消費量と、「空気比」という、バーナーの調節によりあらかじめ設定された値を用いることにより計算できる。なお、空気比は通常はプラント試運転時に設定された一定の値である。
【0026】
以下に詳細を示す。この関係式は、液体・ガスによらす燃料の燃焼による加熱システムではごく一般的なものである。
【0027】
排気ガス流量G:燃料1kgまたは1Nm3あたりの実際排ガス量Nm3/kg
G=G+(m−1)A+G+G’ [Nm3/kg] or [Nm3/Nm3]
ここで、
m:空気比 [−]
:理論乾き排ガス量 [Nm3/kg] or [Nm3/Nm3]
:理論空気燃焼量 [Nm3/kg] or [Nm3/Nm3]
:燃焼によって生じる水蒸気及び燃料中の水分による排ガス中の水蒸気の量
[Nm3/kg] or [Nm3/Nm3]
w’:燃焼用空気の温度による排ガス中の水蒸気の量 [Nm3/kg] or [Nm3/Nm3]
’ =1.61zmA[Nm3/kg] or [Nm3/Nm3]
z:外気の絶対湿度 [kg/(kg乾き空気)]であるが、略算においてはZ=0としても差し支えない。
【0028】
理論空気燃焼量Aoおよび水蒸気を含む理論排ガス量G1=Go+Gwの値を推算するには、燃料の低位発熱量Hlを用いて、次の経験式から求める。
【0029】
気体燃料で高発熱量(Hl > 14.65×106 J/Nm3)の場合
=1.105H/4.1868×10+0.2 [Nm3/Nm3]
=1.19H/4.1868×10+0.5 [Nm3/Nm3]
回転ドラム3内部の廃棄物への正味入熱量は、前記トータル入熱量から排熱量を差し引いたものとして求める。また、投入量制御装置13では、このように求めた廃棄物への正味入熱量から最適な投入量を演算して、投入装置2の制御を行う。
【0030】
ここで、正味入熱量を求めるのは、回転ドラム3内における廃棄物の温度が正確にわからない場合の最適運用法であり、所定の熱分解温度(例えば、550℃)まで十分に廃棄物が加熱されるように、次式により最適な投入量をもとめる。
【0031】
(正味入熱量) = (廃棄物の投入量)×(廃棄物の比熱)×(所定の熱分解温度−投入前の廃棄物温度(=常温))
これより、最適な投入量は下式のとおりとなる。
【0032】
(最適な投入量)=(正味入熱量)/{(廃棄物の比熱)×(所定の熱分解温度−投入前の廃棄物温度(=常温))}
このように、本実施の形態では、廃棄物の処理経過に伴って回転ドラム3の内部に付着物等の伝熱阻害要因が発生して、回転ドラム3内部の正味加熱量が低下したとしても、制御装置13において、実際の加熱状態をほぼ正確に診断可能であり、加熱状態に応じた最適な処理量に制御することが可能となる。
【0033】
すなわち、処理経過に伴う付着等の加熱阻害要因が発生しても、ドラム内部の正味の加熱量をほぼ正確に知ることができるので、ドラムの状態に応じた最適な処理量を選択し、投入量を制御することが可能であり、廃棄物の処理能力を最大限に発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による熱分解システムの一実施の形態を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1 廃棄物(被処理物)
3 熱分解炉(回転ドラム)
5 加熱源(バーナー)
6 熱分解ガス
7 熱分解残渣
8 排気ガス
10 燃料
11 加熱源の熱量計量手段(燃料流量計)
12 排熱量計量手段(排気ガス温度計)
13 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を熱分解炉内にて加熱して熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解処理システムであって、
前記熱分解炉に対する加熱源の熱量を計量する加熱源の熱量計量手段及びこの熱分解炉を加熱した後排気される排熱量を計量する排熱量計量手段と、
これら計量手段により計量された加熱源の熱量と排熱量との差分から被処理物に対する正味加熱量を求め、この正味加熱量に対応して前記加熱炉への被処理物の処理量を調整する制御装置と、
を備えたことを特徴とする熱分解処理システム。
【請求項2】
加熱源の熱量計量手段として加熱源への燃料流量計を設け、この燃料流量計により測定される燃料消費量と予め求められている燃料の発熱量とから、加熱源の熱量を求めることを特徴とする請求項1に記載の熱分解処理システム。
【請求項3】
排熱量計量手段として、排気ガス温度計を設け、この排気ガス温度計により測定された排気ガス温度と、燃料消費量及び予め設定された空気比から求められる排気ガス流量とを用い、これらから排熱量を求めることを特徴とする請求項2に記載の熱分解処理システム。
【請求項4】
熱分解炉として、外燃式の回転炉を用いたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の熱分解処理システム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−98026(P2006−98026A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287579(P2004−287579)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】