説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム

【課題】収縮仕上がり性、ボトルとの密着性、ミシン目開封性、溶剤接着強度、初期破断率の全てが優れるラベルに適した熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供する。
【解決手段】ブチレンテレフタレートユニットとエチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを必須的に含むポリエステル樹脂成分Aと、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを主として含むポリエステル樹脂成分Bとを、それぞれ別々の押出機A1およびB1に投入して溶融し、溶融状態のまま樹脂成分Aおよび樹脂成分Bをスタティックミキサに投入した後に、T−ダイから押出し、冷却して形成した未延伸シートを少なくとも一軸に延伸することにより得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、特にペットボトル(ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトル)、ガラスボトル等のボトルのラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱収縮性フィルム、特にボトルの胴部のラベル用の熱収縮性フィルムとしては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等からなるフィルムが主として用いられている。しかし、ポリ塩化ビニルについては、近年、廃棄した塩化ビニル製品の焼却時の塩素系ガスの発生が問題となり、一方、ポリスチレンについては、ポリスチレンフィルム上への印刷が困難である等の問題がある。さらに、ペットボトル(PETボトル)の回収リサイクルにあたっては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の樹脂のラベルは、廃棄時に分別する必要がある。このため、これらの問題の無いポリエステル系の熱収縮性フィルムが注目を集めている。
【0003】
飲料用ボトルの場合、生産性向上のために、ラベル装着及び収縮を飲料充填ライン中で行う場合が増えている。充填ラインは高速であるため、ラベルの装着及び収縮が高速で行われる必要があり、収縮時間が短時間になる方向にある。そのような状況下では、ポリエステル系熱収縮性フィルムをラベルに用いた場合には、ボトルの肩部で、ラベルに収縮後のシワ、飛び上りおよび色ムラなどが発生し、収縮仕上がり性に問題が生じている。また、ボトルとの密着性が悪く、ラベルがボトルをすり抜けたりする等の問題も生じている。
【0004】
一方、分別廃棄の利便のために、ラベルを引き剥がしやすいようラベルにミシン目を設けたり、ボトルのキャップ部までフィルムでラベルする場合には、ラベルに開封用ミシン目を設けたりすることが一般的である。ポリエステルフィルムラベルには、ミシン目の開封性が悪いという問題が生じており、特に、ボトルが飲料用である場合には、冷蔵されるのが通常であり、低温においては、ミシン目の開封不良がより高い頻度で起こっている。
【0005】
ラベルをボトルに装着する際の、収縮仕上がり性および密着性の問題については、フィルムの収縮特性を制御することにより改善することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、特定の収縮特性を有するフィルムによって、収縮仕上がり性および密着性の問題はいくらか改善されたものの、ミシン目開封性は十分なものではなかった。
【0006】
一方、ミシン目開封性を改善したフィルムとしては、製造時に延伸時の温度条件を工夫して得たフィルムがある(例えば特許文献4参照)。しかし、ミシン目開封性は改善されているものの、それでもまだ十分ではなく、また、従来のポリエステル系収縮フィルムの特徴ともいえる速すぎる収縮速度および高すぎる最大収縮率が原因となって、500mLPETボトルへの高速ラベル装着の際、特にボトルの肩部において収縮ムラ、シワまたは色ムラが生じ、収縮仕上がり性にも問題があった。
【0007】
これらの従来技術の問題点を解決するものとして、本願出願人は、樹脂組成の異なる2種類のポリエステルをスタティックミキサを用いて積層した熱収縮性フィルムを見出し、既に出願した(特許文献5)。このフィルムはミシン目開封性が非常に良好である。しかし、チュービングマシーンを用いて高速でラベル化を行うと、溶剤接着性の点で改善の余地があることがわかった。
【特許文献1】特開平6−320621号公報
【特許文献2】特開平8−27285号公報
【特許文献3】特開平8−25477号公報
【特許文献4】特開平11−207818号公報
【特許文献5】特開2006−77253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献5に記載のフィルムは溶剤接着性に改善の余地がある。そこで、本発明は、収縮仕上がり性、ボトルとの密着性、ミシン目開封性に優れると共に、溶剤接着性も優れているボトル用ラベルに適した熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得た本発明は、ブチレンテレフタレートユニットとエチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを必須的に含むポリエステル樹脂成分Aと、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを主として含むポリエステル樹脂成分Bとを、それぞれ別々の押出機A1およびB1に投入して溶融し、溶融状態のまま樹脂成分Aおよび樹脂成分Bをスタティックミキサに投入した後に、T−ダイから押出し、冷却して形成した未延伸シートを少なくとも一軸に延伸することにより得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、下記要件(1)〜(4)を全て満足するところに要旨を有する。
【0010】
(1)ポリエステル樹脂成分Aに含まれるブチレンテレフタレートユニットがTaモル%、ポリエステル樹脂成分Bに含まれるブチレンテレフタレートユニットがTbモル%であるとき、4≦Ta−Tb≦45である
(2)フィルムの結晶融解熱量Hmが4(J/g)〜10(J/g)である
(3)フィルムの一方端に1,3−ジオキソランを5g/m2塗布することによりチューブを作製し、このチューブから試料を切り取って溶剤接着部が引張試験機のチャック同士の中央に位置するように引張試験機にセットし、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件でT型剥離試験を行ったときに測定される溶剤接着強度が3N/15mm以上である
(4)フィルムを、30℃、相対湿度85%の雰囲気下で28日間保管した後、最大収縮方向に直交する方向についての引張り試験を、チャック間距離20mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張り速度200mm/分の条件で行ったとき、破断伸度5%以下の試験片数が全試験片数の30%以下である(以下、この特性を初期破断率という)。
【0011】
上記熱収縮性ポリエステル系フィルムは、そのフィルム中に、フィルム全体の全ポリエステルの構成ユニットを100モル%として、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットが合わせて55〜90モル%、ブチレンテレフタレートユニットが10〜45モル%、その他のユニットが0〜12モル%含まれていることが好ましい。
【0012】
90℃±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した後の最大収縮方向の熱収縮率が35%以上80%以下であると、バランスのよい熱収縮力を発現できるため好ましい。
【0013】
フィルムの最大収縮方向についての熱収縮試験を、90℃の熱空気中、試験片幅20mm、チャック間距離100mmの条件で行ったとき、最大熱収縮応力値が7.0MPa以上であると、初期破断率の低減に効果的であるため好ましい。
【0014】
最大収縮方向に10%熱収縮させた後のフィルムにおける最大収縮方向のエルメンドルフ引き裂き力(ETD)、最大収縮方向に直交する方向のエルメンドルフ引き裂き力(EMD)との比率ETD/EMDが、0.07以上1.0以下であると、ミシン目開封性に優れていると言うことができる。
【0015】
上記の熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いたボトル用ラベルも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、収縮仕上がり性、ボトルとの密着性、ミシン目開封性、溶剤接着性、初期破断率の全てに優れている熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することができた。すなわち本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、チュービングマシーンで高速でチューブ加工を行う場合にも、剥離等の不都合が起こらず、チューブ化することができる。また、本発明のフィルムを用いたラベルは、ボトルへのラベル装着及び収縮を飲料充填ライン中で行う場合、すなわち高速で行われる場合であっても、ラベルの収縮ムラ、シワまたは色ムラの発生が極めて抑制されており、また、低温においてさえ、ラベルに形成されたミシン目の開封性が良好である。従って、PETボトル、ガラスボトル等のボトル用途に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、ブチレンテレフタレートユニットとエチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを必須的に含むポリエステル樹脂成分Aと、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを必須的に含むポリエステル樹脂成分Bとを、それぞれ別々の押出機A1およびB1に投入して溶融し、溶融状態のまま樹脂成分Aおよび樹脂成分Bをスタティックミキサに投入した後に、T−ダイから押出し、冷却して形成した未延伸シートを少なくとも一軸に延伸することにより得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムである。
【0018】
そして、本発明においては、下記要件(1)〜(4)の全てを満足することが必要である。
(1)ポリエステル樹脂成分Aに含まれるブチレンテレフタレートユニットがTaモル%、ポリエステル樹脂成分Bに含まれるブチレンテレフタレートユニットがTbモル%であるとき、4≦Ta−Tb≦45である
(2)フィルムの結晶融解熱量Hmが4(J/g)〜10(J/g)である
(3)フィルムの一方端に1,3−ジオキソランを5g/m2塗布することによりチューブを作製し、このチューブから試料を切り取って溶剤接着部が引張試験機のチャック同士の中央に位置するように引張試験機にセットし、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件でT型剥離試験を行ったときに測定される溶剤接着強度が3N/15mm以上である
(4)フィルムを、30℃、相対湿度85%の雰囲気下で28日間保管した後、最大収縮方向に直交する方向についての引張り試験を、チャック間距離20mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張り速度200mm/分の条件で行ったとき、破断伸度5%以下の試験片数が全試験片数の30%以下である。
【0019】
まず、ポリエステル樹脂成分Aと樹脂成分Bについて説明する。なお、本発明においてポリエステル構成ユニットとは、酸成分とグリコール成分が縮合してできるポリエステルの繰り返し構成単位に相当する、酸成分由来の単位とグリコール成分由来の単位を1つずつ有するユニットのことをいう。
【0020】
本発明において、ブチレンテレフタレートユニットとは、下記式(1)で表されるユニットのことをいい、例えば、ブチレングリコールとテレフタル酸との反応により得られるユニットである。
【0021】
【化1】

【0022】
エチレンテレフタレートユニットとは、下記式(2)で表されるユニットのことをいい、例えば、エチレングリコールとテレフタル酸との反応により得られるユニットである。
【0023】
【化2】

【0024】
ネオペンチルテレフタレートユニットとは、下記式(3)で表されるユニットのことをいい、例えば、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)とテレフタル酸との反応により得られるユニットである。
【0025】
【化3】

【0026】
本発明では、樹脂成分Aは、ブチレンテレフタレートユニットと、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを必須的に含むものである。これらのユニットは、ポリエステルに共重合成分として導入されたものであっても、ブレンドによって導入されたものであってもよい。
【0027】
例えば、ブチレンテレフタレートユニット、エチレンテレフタレートユニット、ネオペンチルテレフタレートユニットという3種類のユニット全てを有する共重合ポリエステルのみからなる場合、2種類のユニットを有する共重合ポリエステルと、もう1種類(あるいは2種以上)のホモポリエステルとのブレンドからなる場合、それぞれのホモポリエステルのブレンドの場合等が挙げられる。中でも好ましいのは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)と、エチレンテレフタレートユニットおよびネオペンチルテレフタレートユニットを有する共重合ポリエステルとのブレンドである。
【0028】
ポリエステル樹脂成分Aにおいては、樹脂成分Aの全ポリエステル構成ユニットを100モル%とした場合に、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを50〜95モル%含むことが好ましい。この範囲で含むと、得られるフィルムの収縮仕上がり性、ボトルとの密着性、ミシン目開封性、溶剤接着性等が優れたものとなるからである。エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとは、60〜90モル%がより好ましく、70〜80モル%がさらに好ましい。
【0029】
なお、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットの比率は、両者の合計を100モル%としたときに、ネオペンチルテレフタレートユニットを10〜50モル%とすることが好ましい。上記諸特性が良好となるからである。より好ましいネオペンチルテレフタレートユニット量は、20〜40モル%である。
【0030】
樹脂成分Aは、樹脂成分Aの全ポリエステル構成ユニットを100モル%とした場合に、ブチレンテレフタレートユニットを5〜50モル%含むことが好ましい。ブチレンテレフタレートユニットをこの範囲で含むと、得られるフィルムの収縮仕上がり性、ボトルとの密着性、ミシン目開封性、溶剤接着性等が優れたものとなるからである。より好ましくは10〜40モル%、さらに好ましくは20〜30モル%である。
【0031】
樹脂成分Aは、本発明の目的に反しない限りであれば、ブチレンテレフタレートユニット、エチレンテレフタレートユニット、ネオペンチルテレフタレートユニット以外のエステルユニットを含んでいてもよい。他のエステルユニットが別の樹脂として含まれる場合には、その例としては、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリペンタメチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)等の結晶性ポリエステルや、これらをベースにして、下記のジカルボン酸成分および/またはグリコール成分を共重合したものであっても良い。例えば、ジカルボン酸成分の例としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。グリコール成分の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、芳香族ジオール等が挙げられる。
【0032】
樹脂成分Aは、ブチレンテレフタレートユニット、エチレンテレフタレートユニットおよびネオペンチルテレフタレートユニットを有する共重合ポリエステルを含む場合には、当該共重合ポリエステルは、これらのユニット以外のユニットを本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよく、当該ユニットとしては、例えば、トリメチレンテレフタレートユニット、ペンタメチレンテレフタレートユニット、ヘキサメチレンテレフタレートユニット、エチレン−2,6−ナフタレートユニット等が挙げられる。また、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、ダイマー酸等のジカルボン酸のいずれかと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、芳香族ジオール等のグリコールのいずれかとからなるユニットであってもよい。
【0033】
当該樹脂成分Aは、DSCで測定されるガラス転移温度が0℃以上120℃以下であって、結晶融解熱量(Hm)が0(J/g)以上20(J/g)以下のポリエステル成分であることが好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂成分Bは、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを必須的に含むポリエステルである。ポリエステル樹脂成分Bがエチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを必須的に含むとは、樹脂成分Bが、エチレンテレフタレートユニットおよびネオペンチルテレフタレートユニットを有する共重合ポリエステルを含む場合、ポリエチレンテレフタレートを含むか、エチレンテレフタレートユニットを有する共重合ポリエステルを含み、かつ、繰り返し単位がネオペンチルテレフタレートユニットのみであるポリエステルを含むか、ネオペンチルテレフタレートユニットを有する共重合ポリエステルを含むことをいう。これらのうち、樹脂成分Bは、エチレンテレフタレートユニットおよびネオペンチルテレフタレートユニットを有する共重合体ポリエステルを含むことが好ましい。
【0035】
樹脂成分Bが、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを主として含むとは、樹脂成分Bの全ポリエステル構成ユニットを100モル%とした場合に、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとの合計で、60モル%以上含むことをいう。樹脂成分Bは、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを70モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましい。エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとの好ましい比率は、樹脂成分Aの場合と同様に、両者の合計を100モル%としたときに、ネオペンチルテレフタレートユニットが10〜50モル%であることが好ましい。より好ましいネオペンチルテレフタレートユニット量は、20〜40モル%である。
【0036】
樹脂成分Bは、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニット以外の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいても良い。エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニット以外の成分としては、前記した樹脂成分Aについて例示したその他の樹脂またはユニットをそのまま用いることができる。
【0037】
要件(1)ポリエステル樹脂成分Aに含まれるブチレンテレフタレートユニットがTaモル%、ポリエステル樹脂成分Bに含まれるブチレンテレフタレートユニットがTbモル%であるとき、4≦Ta−Tb≦45を満足することが重要である。Ta−Tbが45モル%を超えると、樹脂成分AとBとのポリエステル組成が違いすぎて、溶剤接着強度の改善が認められないおそれがあり、Ta−Tbが4モル%より小さいと樹脂成分AとBとのポリエステル組成が近すぎて初期破断率が大きくなり、耐破れ性が悪くなるからである。Ta−Tbは、10〜20がより好ましい。
【0038】
また、樹脂成分Bは、ブチレンテレフタレートユニットを有していなくてもよい(すなわち上記Tbが0モル%)が、樹脂成分Bがブチレンテレフタレートユニットを有している方が好ましい。樹脂成分AとBとのポリエステル組成が近接することで、溶剤接着強度の改善が認められたからである。上記式と、樹脂成分Aにおけるブチレンテレフタレートユニット量を勘案して、樹脂成分Bにおけるブチレンテレフタレートユニット量を適宜決定すればよい。
【0039】
当該樹脂成分Bは、DSCで測定されるガラス転移温度が60℃以上150℃以下であって結晶融解熱量Hmが0(J/g)以上、5(J/g)以下の実質的に非晶質のポリエステル成分であることが好ましい。また、得られるフィルムの結晶融解熱量を、4〜10(J/g)である、という要件(2)を満足するように、樹脂成分Aと樹脂成分Bの組成を決定する。フィルムのHmが10J/gを超えると、溶剤接着強度の低下が見られ、好ましくない。
【0040】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに占める樹脂成分Aおよび樹脂成分Bの割合は、樹脂成分A/樹脂成分B(質量比)として、好ましくは10/90〜50/50、より好ましくは12/88〜40/60、さらに好ましくは15/85〜35/65である。この範囲を外れると、ラベルの装着性および収縮仕上がり性の向上効果が小さい。
【0041】
フィルム全体としてのポリエステル組成としては、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとが合計で55〜90モル%、ブチレンテレフタレートユニットが10〜45モル%、その他のユニット(エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとブチレンテレフタレートユニット以外のユニット)が0〜12モル%であることが好ましい。より好ましくは、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとが合計で75〜85モル%、ブチレンテレフタレートユニットが15〜25モル%、その他のユニット(エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとブチレンテレフタレートユニット以外のユニット)が0〜5モル%であることが好ましい。上記のユニットの含有量の解析は、例えば、1H−NMRを用いて行うことができる。
【0042】
本発明のフィルムは、上記樹脂成分Aと、樹脂成分Bとを、それぞれ別々の押出機A1およびB1に投入して溶融し、溶融状態のまま樹脂成分Aおよび樹脂成分Bをスタティックミキサに投入した後に、T−ダイから押出し、冷却して形成した未延伸シートを少なくとも一軸に延伸して製造して得られる、フィルムの組成および構造を有することに特徴がある。以下、「樹脂成分Aと、樹脂成分Bとを、それぞれ別々の押出機A1およびB1に投入して溶融し、溶融状態のまま樹脂成分Aおよび樹脂成分Bをスタティックミキサに投入した後に、T−ダイから押出し、冷却して形成した未延伸シートを少なくとも一軸に延伸する」ことの具体的説明を含め、本発明のフィルムの製造方法について説明する。
【0043】
本発明に用いるポリエステル原料を、ホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥する。
【0044】
樹脂成分A、樹脂成分Bが、2種以上のポリエステル成分を含む場合には、それぞれそのブレンドは、チップブレンド法でブレンドしてもよく、マスターバッチ法でブレンドしてもよい。なお、2種以上のポリエステル成分をブレンドしても、溶融押出時の熱履歴によってエステル交換し、共重合化する傾向が強いことが知られている。
【0045】
樹脂成分Aおよび樹脂成分Bを、それぞれ異なる押出機A1およびB1に投入し、溶融する。溶融温度は、各樹脂成分にとって劣化や変質を起こさないものであれば構わない。ひとつの指標として、結晶性を示す樹脂成分の場合は、融点+(5℃〜60℃)、非晶性の樹脂成分の場合は軟化温度+(20℃〜150℃)である。
【0046】
溶融した樹脂成分Aおよび樹脂成分Bは、溶融状態のまま、スタティックミキサに導かれ、樹脂成分AからなるA層と樹脂成分BからなるB層の積層体が形成される。溶融した樹脂成分Aおよび樹脂成分Bのスタティックミキサへの投入を容易にするために、スタティックミキサの前にフィードブロックを設置し、フィードブロックで一度樹脂成分Aおよび樹脂成分Bを合流させてから、スタティックミキサに導いてもよい。
【0047】
本発明におけるスタティックミキサとは、配管内に、横長の長方形の板をその短辺同士のなす角(捩り角)が45度〜270度となるように捩じ曲げた形状のエレメントを、隣接するエレメントの短辺同士が交差するように交互に配列させた配管内混合装置のことである。1つのエレメントを溶融樹脂が通過する時、樹脂が2層に分割されると共に、各樹脂層に、エレメントの旋回方向とは逆方向への捩れが生じる。さらに、次のエレメントを通過すると、同様に樹脂の分割と捩れが生じ、4層に分割される。従って、樹脂成分Aと樹脂成分Bとを1層ずつ積層した状態で、スタティックミキサに導入すると、理論上は、最初のエレメントの短辺が積層面に水平であれば、n個のエレメントを通過すると2n層に、最初のエレメントの短辺が積層面に垂直であれば2n+1層になるが、実際には、流路径と長さ、エレメントの捩り角、捩り勾配、樹脂の吐出量、各樹脂の粘度や表面張力などの溶融特性の影響で変化することもある。
【0048】
スタティックミキサのエレメントのL/D(配管長/配管の内径)比は、1.0〜3.0の範囲が好ましく、1.4〜2.0の範囲がより好ましい。L/D比が1.0より小さいと樹脂の分割効率が悪くなり、3.0を超えるとミキサ内を通過する樹脂の滞留時間が長くなるため実用的ではない。
【0049】
スタティックミキサのエレメントの捩り角は、45度以上とする。捩り角が45度未満では樹脂層のねじりが不充分となるからである。捩り角は、90度以上がより好ましく、135度以上がさらに好ましい。捩り角の上限は315度がよい。315度を超えると過度のねじりによって、均一な積層構造が得られない。捩り角は270度以下が好ましく、215度以下がより好ましい。なお、均一な積層構造が得られないというのは、積層した各層が波打った状態となるなど、積層構造が乱れてしまうことをいう。
【0050】
また、スタティックミキサの配管側面を樹脂の進行方向に切断して展開した場合の、配管内壁とエレメントとのつなぎ目をたどる直線と、樹脂の進行方向とがなす角度、つまりエレメントの捩り勾配は、27度以上が好ましい。この捩り勾配が27度未満では樹脂層の捩り効果が少なく、樹脂に充分なねじりを与えるためにはL/D比を大きくしなければならないため、実用的ではない。捩り勾配は38度以上がより好ましく、42度以上がさらに好ましい。一方、捩り勾配が65度を超える場合は、樹脂の乱流が激しくなるため、積層構造が乱れるため好ましくない。捩り勾配は54度以下がより好ましく、50度以下がさらに好ましい。
【0051】
スタティックミキサのエレメントの好ましい形状は、樹脂の吐出量や溶融特性に応じて適宜選択することができ、また、スタティックミキサを通過する樹脂の溶融特性の変化に対応して、形状の異なる複数のエレメントを組み合わせて用いることもできる。最も好ましいエレメントは、L/D=1.5、捩り角180度、捩り勾配46度のものである。
【0052】
スタティックミキサのエレメントの配列は、エレメントの捩れ方向が、右旋回、左旋回、右旋回となるように、交互に方向を変えることが好ましい。均一な積層構造が得られるためである。また、隣接するエレメントを直角に交わるように配列することも、均一な積層構造が得られるためには好ましい。
【0053】
スタティックミキサのエレメント数は、4以上が好ましく、より好ましくは6以上であり、さらに好ましくは8以上である。本発明のフィルムは積層構造を有するものであり、その層数としては後述のように500層以上が特に好ましいものであり、当該エレメント数を8以上とすれば、500層以上の積層構造が確実に得られやすい。一方、当該エレメント数が大きくなりすぎると、積層構造の乱れが生じやすくなるため、当該エレメント数を24以下とすることが好ましく、18以下とすることがより好ましく、14以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
上記で説明したスタティックミキサの構造は1つの典型であり、本発明の目的を逸脱しない範囲で形状や配置を変更したり、また、スタティックミキサの前後や、そのエレメント間に別の装置を配置することも、もちろん可能である。例えば、樹脂配管よりも小径のスタティックミキサを配管内に2列以上並列させてもよい。樹脂成分Aと樹脂成分Bとをスタティックミキサを通過させて積層した積層樹脂に、さらに、別の樹脂を合流させて積層させることもできる。
【0055】
また、フィードブロックを複数用いて、3層以上に積層した積層樹脂を、スタティックミキサに導いてさらに多層化することもできる。この場合には、フィードブロックでの積層数の分だけ、スタティックミキサのエレメント数を少なくすることができるが、スタティックミキサでの積層によって生じるフィルムの特異な効果(ミシン目開封性の向上等)が小さくなるため、フィードブロックによる積層数は100層以内とすることが好ましい。
【0056】
スタティックミキサの温度としては、樹脂成分が結晶性を示す場合には、融点+(5℃〜60℃)、非晶性を示す場合には、軟化温度+(20℃〜150℃)に設定するのがよく、最も好ましくは、溶融温度として採用した温度と同じ温度に設定する。
【0057】
この積層体をT−ダイより押出し、表面温度が10〜40℃の冷却ロールに密着させることにより、積層体の未延伸シートを得る。
【0058】
次に、得られた未延伸シートを、必要により50〜120℃、好ましくは60〜100℃で予熱した後、横方向(押し出し方向に対して直交する方向:フィルムの最大収縮方向となる)にテンター等で3.0倍以上、好ましくは3.5倍以上15倍以下に延伸する。延伸温度は、60℃以上120℃以下、好ましくは70℃以上100℃以下である。60℃未満では、フィルムの塑性変形能が充分に発現しないため白化しやすく、また延伸中にフィルムが破断してしまうことがあるため、好ましくない。120℃を超えると、厚み斑が発生したり、延伸に使用するテンターのクリップやロールへの粘着が発生することがあるため好ましくない。
【0059】
横延伸の前後に縦延伸を行う必要は必ずしもないが、フィルムの強度向上やラベルにした際のミシン目開封性向上の点からは、1.01〜3.0倍程度、より好ましくは1.05〜1.5倍程度の縦延伸を行うことが推奨される。延伸倍率が大きすぎると、縦方向(フィルムの最大収縮方向に直交する方向)の収縮率が大きくなり、ラベル収縮時の仕上がり性が悪くなる。縦延伸する場合の延伸温度も、横延伸と同様の理由で、60℃以上120℃以下、好ましくは70℃以上100℃以下である。
【0060】
横延伸と縦延伸を行う場合の延伸方式としては、パンタグラフ方式による同時二軸延伸、リニアモータ方式による同時または逐次二軸延伸、加熱ロールとテンターの組合せによる逐次二軸延伸等の方式が挙げられる。必要に応じて、縦方向または横方向に再延伸を行ってもよい。
【0061】
さらに、必要により、70〜100℃の温度で熱処理して、熱収縮性ポリエステル系フィルムを得る。当該フィルムは、常法に従い巻き取ることによって、フィルムロールとしてよい。
【0062】
また、フィルムを延伸するに際してフィルムの表面温度の変動幅を小さくする(均温化する)と、フィルム全長に亘って同一温度で延伸や熱処理することができ、厚み分布値や熱収縮挙動を均一化することができる。
【0063】
前記表面温度の変動幅は、任意のポイントにおいてフィルムの表面温度を測定したときの各ポイントの温度が、例えば、フィルムの平均温度±1℃以内程度であることが好ましく、平均温度±0.6℃以内であることがさらに好ましい。
【0064】
フィルムを延伸する際には、延伸前の予備加熱工程、延伸工程、延伸後の熱処理工程、緩和処理、再延伸処理工程などの種々の工程を経てフィルムを延伸するため、これらの工程の一部又は全部で、フィルムの表面温度の変動幅を小さくできる(均質化する)設備を用いるのが好ましい。特に、フィルム全長に亘って厚み分布値を均一化するためには、予備加熱工程及び延伸工程において(さらに、必要に応じて延伸後の熱処理工程において)、フィルムの表面温度の変動幅を小さくできる設備を用いるのが好ましい。なお熱収縮率挙動を均一化する場合には、延伸工程において、フィルムの表面温度の変動幅を小さくできる設備を用いるのが好ましい。
【0065】
前記フィルム表面温度の変動を小さくできる設備としては、例えば、フィルムを加熱するための熱風の供給速度を制御するための風速制御手段(インバーターなど)を備えた設備、空気を安定的に加熱して前記熱風を調製するための加熱手段[500kPa以下(5kgf/cm2以下)の低圧蒸気を熱源とする加熱手段など]を備えた設備などが挙げられる。
【0066】
なお、本発明の目的を達成するには、最大収縮方向としては横方向が実用的であるので、以上では、最大収縮方向が横方向である場合のフィルムの製造方法の例を示したが、最大収縮方向を縦方向とする場合も、上記方法における延伸方向を90度変えるほかは、上記方法の操作に準じてフィルムを製造することができる。
【0067】
上記のようにして得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ブチレンテレフタレートユニットとエチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットを必須的に含むポリエステル樹脂成分Aを含有するA層と、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを主として含むポリエステル樹脂成分Bを含有するB層とが、交互に積層された構造を有する。
【0068】
フィルムがこのような積層構造をとった場合には、樹脂成分Aと樹脂成分Bがそれぞれ独立してフィルム中に存在することになる。従って、各層を構成する樹脂成分が個々の性質を有することになり、そのことが、フィルムをラベル化してボトル装着した際の収縮仕上がり性、ボトルとの密着性、ミシン目開封性、溶剤接着強度、初期破断率の向上に寄与しているものと考えられる。
【0069】
当該積層構造において、最外層は、A層またはB層のいずれであってもよい。積層されるA層およびB層の数としては、A層とB層との合計で500層以上であることが好ましく、より好ましくは1000〜10万層であり、最も好ましくは2000〜2万層である。A層とB層との合計が500層以上の場合には、ミシン目開封性が特に優れたものとなる。
【0070】
フィルムの積層数を測定するには、基本的には、熱収縮後のフィルムのA層とB層を染め分けた後、フィルム断面をTEM観察することにより行う。ただし、A層とB層のポリエステル組成が近接してくるに従って、A層とB層(特にその積層界面)の染め分けが困難になってくるため、理論的には8000層以上(エレメント数=12=n;2n+1=8192層)積層されているフィルムであっても、100層〜数百層程度が積層されているように認識されることがある。
【0071】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、溶剤接着強度に優れるものである。よって、フィルムの一方端に1,3−ジオキソランを5g/m2塗布することによりチューブ状試料を作製し、この試料を切り開いて溶剤接着部が引張試験機のチャック同士の中央に位置するように引張試験機にセットし、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件でT型剥離試験を行ったときに測定される溶剤接着強度が3N/15mm以上である、という要件(3)を満足しなければならない。なお、15mmというのは、試験片の幅である。より具体的に溶剤接着強度の測定方法を説明する。
【0072】
まず、チューブ成形装置を用いて、収縮前の熱収縮性フィルムの片端の片面の端縁の少し内側に1,3−ジオキソランを、塗布量5.0±0.5g/m2となるように塗布し、フィルムの他方の端縁から15mm内側のところを塗布部に重ね合わせて接着し、チューブに加工する。図1の(a)に示したように、接着部の幅が約5mm、接着されずに重なり合った部分が約15mmのチューブ状試料が得られる。なお、円周方向が主収縮方向である。このチューブ状試料を25±1℃の環境下で24時間保管した後、溶剤接着部分が試料の中央近傍に来るように、長さ50〜100mm程度、幅15mmに切り取る(図1の(b),(c))。この切り取った試料を、図1の(d)に示した形状となるように引張試験機(商品名「テンシロン」;東洋精機社製)にセットし、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件でT型剥離試験を行う。なお剥離の際、T型が維持されるように、フィルムの端部(図1(d)の左側)を棒等で持ち上げておくとよい。T型剥離時の最大強度を溶剤接着強度とした。
【0073】
この溶剤接着強度が3N/15mm幅よりも小さいと、チュービング工程で高速加工を行う際に、不良が発生することがある。より好ましい溶剤接着強度は3.1N/15mm以上である。
【0074】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、30℃、相対湿度85%の雰囲気下で28日間保管した後のフィルムの最大収縮方向と直交する方向の初期破断率が30%以下であることが好ましい。この初期破断率とは、上記条件で保管した後、複数のフィルム試験片について、最大収縮方向に直交する方向についての引張り試験を、試験片長さ100mm程度、チャック間距離20mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張り速度200mm/分の条件で行ったとき、破断伸度5%以下の試験片数が、全試験片数のうちどれだけあるかという比率(百分率)のことである。この初期破断率が30%を超えると、フィルムを長期保管後に加工した場合、フィルムの耐破れ性の低下により、破断等のトラブルや不良が発生する。該初期破断率は、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。初期破断率を30%以下とするためには、フィルムの分子配向を高配向とすることが好ましい。フィルムの分子配向の指標としては、最大収縮方向における熱収縮応力値(測定方法は後述する)を好ましくは7MPa以上、より好ましくは8MPa以上とする。熱収縮応力値の上限は好ましくは22MPa以下、より好ましくは21MPa以下、さらに好ましくは20MPa以下である。フィルムの分子配向(熱収縮応力)を制御するには、延伸倍率・延伸温度を適正な条件とし、適正な延伸応力で製膜することが好ましい。
【0075】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、充分な熱収縮率を有している。例えば、10cm×10cmに裁断したフィルム試料を、90℃±0.5℃の温水に無荷重状態で10秒間浸漬し、すぐに25℃の水中に10秒間浸漬して処理した際の熱収縮率が、最大収縮方向において35%以上80%以下であることが好ましい。該熱収縮率が35%未満では、熱収縮力の不足により、ラベルをボトルにうまく装着できない場合がでてくるおそれがある。一方、熱収縮率が80%を超えると、ボトルに被せて加熱収縮させる際に、ラベルの収縮力が大きすぎることによるラベルの飛び上がり現象が起こるおそれがある。また、最大収縮方向に直交する方向においては、上記条件で測定したときの熱収縮率が15%以下であることが好ましい。15%を超えると、タテヒケ(収縮後のラベルの長さが不揃いになることで、ペットボトル等に被覆収縮させた後のラベルの上端縁が下向きに湾曲するラインを描いたり、下端縁が上向きに湾曲ラインを描いたりする外観不良)が起こりやすくなる。
【0076】
ここで熱収縮率とは、浸漬処理前後でフィルムの長さを測定し、((収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ)×100(%)の式により求められる値である。また、最大収縮方向とは、フィルムの縦方向(長手方向)および横方向(幅方向)のうち、熱収縮率の高い方向のことをいう。
【0077】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムはミシン目開封性に優れており、引き裂き伝播抵抗値(エルメンドルフ引き裂き力)が小さい。例えば、フィルムの厚みが40μmの場合は、最大収縮方向に10%熱収縮させた後のフィルムにおける最大収縮方向のエルメンドルフ引き裂き力が50〜300mN程度であり、最大収縮方向に直交する方向のエルメンドルフ引き裂き力が300〜2000mN程度であれば、引き裂き伝播抵抗値が小さいということができる。なお、10%熱収縮させた後の引き裂き力を見るのは、ボトルに被覆させた後は、大体10%程度熱収縮させるからである。
【0078】
エルメンドルフ引き裂き力は以下の方法で測定する。まず、熱収縮前のフィルムを主収縮方向が長手方向になるように切断し、矩形の枠に長手方向の両端部を固定する。このとき、枠の長さより10%長くなるように試料を弛ませて枠に固定する。80±0.5℃の温水中に試料を枠毎、浸漬し、弛んだフィルムが枠内で緊張状態となるまで、約5秒、フィルムを主収縮方向に10%収縮させる。続いて、25℃の水に浸漬した後、取りだしてよく水気を拭き取る。
【0079】
その後、JIS K 7128−2に準じてエルメンドルフ引き裂き力を測定する。上記の収縮させたフィルムから、主収縮方向の長さ63mm、直交方向の長さ(幅)75mmの試料を切り取り、長手方向端縁中央部から、端縁に直交するように20mmのスリット(切込み)を入れ、試験片とした。この試験片を、軽荷重引き裂き器(東洋精機社製)にセットして、主収縮方向のエルメンドルフ引き裂き力(ETD)を測定する。また、主収縮方向の長さ(幅)75mm、直交方向の長さが63mmの試料を切り取り、上記と長さと幅が逆の試験片を作製し、直交方向のエルメンドルフ引き裂き力(EMD)を測定する。そして、ETD/EMDを計算する。ETD/EMDが0.07以上であると、容器装着後のラベルのミシン目開封時に、ミシン目からラベルの胴周方向へ向かって裂けてしまうといった不都合が起こらないため、好ましい。ただし、ETD/EMDが1.0を超えると、収縮率の縦横バランスとミシン目開封性の両立が難しくなる。ETD/EMDは、0.10以上がより好ましく、0.12以上がさらに好ましい。また、ETD/EMDは、0.8以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.3以下が最も好ましい。
【0080】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおけるA層およびB層には、必要に応じ、従来公知の添加剤、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、リン、有機粒子(例、架橋アクリル粒子、架橋スチレン粒子、シリコーン粒子等)、無機粒子(例、シリカ、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛等)、滑剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤、静電防止剤、紫外線吸収剤等が含有されていてもよい。
【0081】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みとしては、5〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
【0082】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、従来公知の方法によりラベル化することができる。一例としては、所望幅に裁断した熱収縮性ポリエステル系フィルムに適当な印刷を施し、溶剤接着等によりフィルムの左右端部を重ね合わせて接合してチューブフィルムを製造する。該チューブフィルムを適切な長さに裁断し、チューブ状ラベルとする。または、さらにこのチューブ状ラベルの一方の開口部を接合して袋状ラベルとする。接着用の溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;フェノール等のフェノール類;テトラヒドロフラン等のフラン類;1,3−ジオキソラン等のオキソラン類等の有機溶剤が用いられ、中でも、安全性の観点から、1,3−ジオキソランを使用することが望ましい。
【0083】
そして、これらのラベルを、従来方法によりミシン目を形成した後、ペットボトルに被せ、当該ペットボトルをベルトコンベアー等にのせて、スチームを吹きつけるタイプの収縮トンネル(スチームトンネル)、または、熱風を吹きつけるタイプの収縮トンネル(熱風トンネル)の内部を通過させる。これらのトンネル通過時にラベルが熱収縮することにより、ラベルがペットボトル等のボトル容器に装着される。
【0084】
当該ラベルは、ボトルへのラベル装着及び収縮を飲料充填ライン中で行う場合、すなわち高速で行われる場合であっても、ラベルの収縮ムラ、シワまたは色ムラの発生が極めて抑制されており、また、低温においてさえ、ラベルに形成されたミシン目の開封性が良好である。例えば、折径109mm、ラベル長さ90mmであり、長さ1mmの孔が1mm間隔で配設されたミシン目を10mm間隔で2本設けたチューブラベルを、80℃、2.5秒の条件で水蒸気により熱収縮させてラベルに装着させたボトルを用意し、ボトルに水を約500mL充填後5℃で12時間冷蔵し、冷蔵庫から取り出した直後のミシン目について指先で引き裂いてその開封性を評価した場合、20%以下の開封不良率を達成することができ、7%以下、さらには2%以下の開封不良率を達成することもできる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら制限されるものではない。まず、実施例および比較例において作成したフィルムの評価方法について説明する。
【0086】
(1)ポリエステルフィルムのNMR解析
各試料を、クロロホルムD(ユーリソップ社製)とトリフルオロ酢酸D1(ユーリソップ社製)を10:1(体積比)で混合した溶媒に溶解させて、試料溶液を調製し、NMR(「GEMINI−200」;Varian社製)を用いて、温度23℃、積算回数64回の測定条件で試料溶液の1H−NMRを測定した。NMR測定では、所定のプロトンのピーク強度を算出して、チップ組成およびフィルム組成をモル%として求めた。
【0087】
(2)熱収縮率
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、90℃±0.5℃の温水中において、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた。フィルムを直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬させた後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記式に従いそれぞれ熱収縮率を求めた。該熱収縮率の大きい方向を最大収縮方向とした。
熱収縮率=((収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ)×100(%)
【0088】
(3)最大熱収縮応力
まず、最大収縮方向の長さが200mm、幅20mmの試料を用意し、熱風式加熱炉を備えた引張試験機(東洋精機製「テンシロン」)の加熱炉内を90℃に加熱する。送風を止め、加熱炉内に試料をセットする。チャック間距離は100mm(一定)とする。加熱炉の扉を速やかに閉めて、送風(90℃、吹き出し速度5m/s)を再開し、熱収縮応力を検出・測定する。チャートから最大値を読み取り、これを最大熱収縮応力値(MPa)とする。
【0089】
(4)結晶融解熱量(Hm)
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のDSC装置(型式:DSC6200)を用い、フィルムの10±1mgを240℃で2分間加熱し、直ちに液体窒素に入れて急冷した後、0℃から300℃まで昇温速度20℃/分で加温し、熱流速曲線(DSC曲線)を測定した。DSC曲線における吸熱ピークの最大値を示す温度を融解温度(Tm)とし、吸熱ピークの積分値を結晶融解熱量(Hm:J/g)とした。
【0090】
(5)エルメンドルフ引き裂き力
まず、熱収縮前のフィルムを主収縮方向が長手方向になるように切断し、矩形の枠に長手方向の両端部を固定する。このとき、枠の長さより10%長くなるように試料を弛ませて枠に固定する。80±0.5℃の温水中に試料を枠ごと浸漬し、弛んだフィルムが枠内で緊張状態となるまで、約5秒、フィルムを主収縮方向に10%収縮させる。続いて、25℃の水に浸漬した後、取りだしてよく水気を拭き取る。
【0091】
その後、収縮させたフィルムから、JIS K 7128−2に準じて、主収縮方向の長さ63mm、主収縮方向に直交する方向の長さ(幅)75mmの試料を切り取り、長手方向端縁中央部から、端縁に直交するように20mmのスリット(切込み)を入れ、試験片とした。この試験片を、軽荷重引き裂き器(東洋精機社製)にセットして、主収縮方向のエルメンドルフ引き裂き力(ETD)を測定する。また、主収縮方向の長さ(幅)75mm、直交方向の長さが63mmの試料を切り取って上記試験片と長さと幅が逆の試験片を作製し、直交方向のエルメンドルフ引き裂き力(EMD)を測定し、ETD/EMDを算出する。
【0092】
(6)溶剤接着性
チューブ成形装置を用いて、収縮前の熱収縮性フィルムの片端の片面の端縁の少し内側に1,3−ジオキソランを塗布量5.0±0.5g/m2となるように塗布し、フィルムの他方の片端から15mm内側のところを塗布部に重ね合わせて接着し、チューブに加工する。図1の(a)に示したように、接着部の幅が約5mm、接着されずに重なり合った部分が約15mmのチューブ状試料が得られる。なお、円周方向が主収縮方向である。このチューブ状試料を25±1℃の環境下で24時間保管した後、溶剤接着部分が試料の中央近傍に来るように、長さ50〜100mm程度、幅15mmに切り取る(図1の(b),(c))。この切り取った試料を、図1の(d)に示した形状となるように引張試験機(商品名「テンシロン」;東洋精機社製)にセットし、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件でT型剥離試験を行う。なお剥離の際、T型が維持されるように、フィルムの端部(図1(d)の左側)を棒で持ち上げた。T型剥離時の最大強度を溶剤接着強度とした。
【0093】
(7)初期破断率
30℃、相対湿度85%の雰囲気下で14日または28日間保管した後のフィルムについて、最大収縮方向に直交する方向についての引張り試験を、試験片長さ200mm、チャック間距離100mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張り速度200mm/分の条件で行う。初期破断率は、破断伸度5%以下の試験片数が、全試験片数のうちどれだけあるかという比率(百分率:%)で表した。試験片数は20とした。
【0094】
(8)収縮仕上り性評価
熱収縮性フィルムに、あらかじめ東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷した。印刷したフィルムを1,3−ジオキソランで両端部を接着することにより、チューブ状のラベルを作成した。ラベルのサイズは、折径109mm、ラベル長さ90mmとした。
【0095】
Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式:SH−1500−L)を用い、通過時間2.5秒、ゾーン温度80℃(表示)で蒸気圧1kgf/cm2(圧力ゲージ表示:98kPa)の水蒸気を吹き付けて該ラベルを熱収縮させることにより、500mLのペットボトル(丸型、胴直径62mm、ネック部の最小直径25mm)に装着した。なお、このとき、直径が約40mmの部分(肩部)がラベルの一方の端になるようにした。評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
シワ、飛び上り、収縮不足の何れも未発生かつ色のムラも見られない : ◎
シワ、飛び上り、又は収縮不足が確認できないが、若干、色のムラが見られる:○
飛び上り、収縮不足の何れも未発生だが、ネック部のムラが見られる: △
シワ、飛び上り、収縮不足が発生:×
【0096】
(9)ミシン目開封性
熱収縮性フィルムに、あらかじめ東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷した。印刷したフィルムを1,3−ジオキソランで両端部を接着することにより、チューブ状のラベルを作成した。ラベルのサイズは、折径109mm、ラベル長さ90mmとした。
【0097】
上記ラベルに、ラベルの最大収縮方向に対し直角方向にミシン目を入れた。2つ折りにしたラベルの下に厚さ1mmのボール紙を2枚重ねて敷き、テストシーラー(西部機械社製)にミシン刃(1mmピッチの刃が1mm間隔で付いている全長100mmの刃)を装着し、ゲージ圧2kgf/cm2でミシン刃をラベルに圧着して、2つ折りにしたラベルの端部より5mmの位置にラベル端部と平行にミシン目を入れた。ラベルには、長さ1mmの孔が1mm間隔で配設されたミシン目がラベル全長にわたり同時に2本設けられ、2本のミシン目の間隔は10mmであった。
【0098】
Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式:SH−1500−L)を用い、通過時間2.5秒、ゾーン温度80℃(表示)で蒸気圧1kgf/cm2(圧力ゲージ表示:98kPa)の水蒸気を吹き付けて該ラベルを熱収縮させることにより、500mLのペットボトル(丸型、胴直径62mm、ネック部の最小直径25mm)に装着した。なお、このとき、直径が約40mmの部分(肩部)がラベルの一方の端になるようにした。
【0099】
その後、このボトルに水を約500mL充填し、5℃で12時間冷蔵し、冷蔵庫から取り出した直後のボトルのラベルのミシン目を指先で引き裂き、縦方向にきれいに裂けてラベルをボトルから外すことができた本数を数えた。全サンプル50本に対するきれいにラベルを裂くことができなかったボトルの割合をミシン目開封不良率(%)として示した。
【0100】
合成例1(ポリエステルの合成)
エステル化反応缶に、57036質量部のテレフタル酸(TPA)、33830質量部のエチレングリコール(EG)、14750質量部のネオペンチルグリコール(NPG)、23.2質量部の三酸化アンチモン(重合触媒)、5.0質量部の酢酸ナトリウム(アルカリ金属化合物)および46.1質量部のトリメチルホスフェート(リン化合物)を仕込み、0.25MPaに調圧し、温度220〜240℃で120分間攪拌することによりエステル化反応を行った。反応缶を常圧に復圧し、3.0質量部の酢酸コバルト・4水塩、及び124.1質量部の酢酸マグネシウム・4水塩(アルカリ土類金属化合物)を加え、温度240℃で10分間攪拌した後、75分間かけて圧力1.33hPaまで減圧すると共に、温度280℃まで昇温した。温度280℃で溶融粘度が4500ポイズになるまで攪拌を継続(約70分間)した後、ストランド状で水中へ吐出した。吐出物をストランドカッターで切断することにより、ポリエステルチップNo.1を得た。ポリエステルチップNo.1の極限粘度は、0.75dl/gであった。
【0101】
合成例2
合成例1と同様の方法により、表1に示すチップ組成のポリエステルチップNo.2を得た。表中、BDは、ブタンジオール、DEGはジエチレングリコールの略記である。ポリエステルチップNo.2の極限粘度は、1.20dl/gであった。
【0102】
【表1】

【0103】
なお、極限粘度は、チップ0.1gを精秤し、25mlのフェノール/テトラクロロエタン=3/2(質量比)の混合溶媒に溶解した後、オストワルド粘度計で30±0.1℃で測定した。極限粘度[η]は、下式(Huggins式)によって求められる。
【0104】
【数1】

【0105】
ここで、ηsp:比粘度、t0:オストワルド粘度計を用いた溶媒の落下時間、t:オストワルド粘度計を用いたチップ溶液の落下時間、C:チップ溶液の濃度である。なお、実際の測定では、Huggins式においてk=0.375とした下記近似式で極限粘度を算出した。
【0106】
【数2】

ここで、ηr:相対粘度である。
【0107】
実施例1
上記合成例で得られたポリエステルチップNo.1と2を別個に予備乾燥した。A層用のポリエステル樹脂成分Aとして、75質量%のポリエステルチップNo.1と、25質量%のポリエステルチップNo.2を、押出機A1に投入し、275℃±2℃で溶融した。一方で、B層用のポリエステル樹脂成分Bとして、83質量%のポリエステルチップNo.1と、17質量%のポリエステルチップNo.2を、押出機B1に投入し、275℃±2℃で溶融した。両押出機で溶融した樹脂を、押出比率がA1/B1=20/80(質量比)となる(A層とB層の比率が20/80となる)ように、275℃±2℃のフィードブロックに導き、さらに、275℃±2℃のスタティックミキサ(ノリタケカンパニー製、12エレメント、内径38.4mm、1エレメントのL/D=1.5、1エレメントの捩り角180度、捩り勾配46度)にて積層化した。次いで275℃±2℃のT−ダイに導き、溶融押出しした。押出しした樹脂は、表面温度20℃±2℃の冷却ロール上に静電密着され、未延伸シートを得た。この未延伸シートのTgは61℃であった。
【0108】
上記未延伸シートを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、90℃に加熱して、ロール間で1.47倍に縦延伸した。続いて、テンター内で83℃で24秒間予熱した後、横方向に78℃で5.6倍に延伸し、続いて96℃で24秒間熱処理を行って、厚み40μmの熱収縮性ポリエステルフィルムを得た。表2にフィルム構成を、表3に延伸条件を、表4に特性評価結果を示した。
【0109】
実施例2〜3
A層用およびB層用のチップの比率と延伸条件を表2および表3に示したように変更した以外は実施例1と同様の方法で、厚み40μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。特性評価結果を表4に示した。
【0110】
比較例1〜2
ポリエステルチップNo.1とポリエステルチップNo.2とを、単一の押出機C1に、樹脂比率がNo.1/No.2=80/20(質量比)となるように投入して溶融し(温度275℃±2℃)、スタティックミキサを使用せずに、T−ダイの温度を275℃±2℃として未延伸シートを得た。表3に示した条件で延伸し、厚み40μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。特性評価結果を表4に示した。
【0111】
比較例3
A層用およびB層用のチップの比率と延伸条件を表2および表3に示したように変更した以外は実施例1と同様の方法で、厚み40μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。特性評価結果を表4に示した。
【0112】
【表2】

【0113】
(表2において、BTはブチレンテレフタレートユニット、NPTはネオペンチルテレフタレート、ETはエチレンテレフタレートユニットを示す。)
【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、PETボトル、ガラスボトル等のボトル用ラベルに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】溶剤接着性評価のための剥離試験の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチレンテレフタレートユニットとエチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを必須的に含むポリエステル樹脂成分Aと、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットとを主として含むポリエステル樹脂成分Bとを、それぞれ別々の押出機A1およびB1に投入して溶融し、溶融状態のまま樹脂成分Aおよび樹脂成分Bをスタティックミキサに投入した後に、T−ダイから押出し、冷却して形成した未延伸シートを少なくとも一軸に延伸することにより得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、下記要件(1)〜(4)を全て満足することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(1)ポリエステル樹脂成分Aに含まれるブチレンテレフタレートユニットがTaモル%、ポリエステル樹脂成分Bに含まれるブチレンテレフタレートユニットがTbモル%であるとき、4≦Ta−Tb≦45である
(2)フィルムの結晶融解熱量Hmが4(J/g)〜10(J/g)である
(3)フィルムの一方端に1,3−ジオキソランを5g/m2塗布することによりチューブを作製し、このチューブから試料を切り取って溶剤接着部が引張試験機のチャック同士の中央に位置するように引張試験機にセットし、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件でT型剥離試験を行ったときに測定される溶剤接着強度が3N/15mm以上である
(4)フィルムを、30℃、相対湿度85%の雰囲気下で28日間保管した後、最大収縮方向に直交する方向についての引張り試験を、チャック間距離20mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張り速度200mm/分の条件で行ったとき、破断伸度5%以下の試験片数が全試験片数の30%以下である。
【請求項2】
フィルム中に、フィルム全体の全ポリエステルの構成ユニットを100モル%として、エチレンテレフタレートユニットとネオペンチルテレフタレートユニットが合わせて55〜90モル%、ブチレンテレフタレートユニットが10〜45モル%、その他のユニットが0〜12モル%含まれている請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
90℃±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した後の最大収縮方向の熱収縮率が35%以上80%以下である請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
フィルムの最大収縮方向についての熱収縮試験を、90℃の熱空気中、試験片幅20mm、チャック間距離100mmの条件で行ったとき、最大熱収縮応力値が7.0MPa以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
最大収縮方向に10%熱収縮させた後のフィルムにおける最大収縮方向のエルメンドルフ引き裂き力(ETD)、最大収縮方向に直交する方向のエルメンドルフ引き裂き力(EMD)との比率ETD/EMDが、0.07以上1.0以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いたボトル用ラベル。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−274174(P2008−274174A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121798(P2007−121798)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】