説明

熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体

【課題】広い温度範囲での反発弾性が低く、特に高温および低温で低反発弾性の成形体、ならびに、流動性が高い熱可塑性エラストマー組成物の提供。
【解決手段】少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂中に分散した少なくとも1種の粒子状のゴムとを含有し、前記熱可塑性樹脂と前記ゴムとの割合が85/15〜45/55であり、前記熱可塑性樹脂および前記ゴムのうち、30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂の割合が30質量%以上であり、かつ、−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムの割合が15質量%以上であり、前記熱可塑性エラストマー組成物が軟化した際にメルトインデックスが15g/10min以上となる熱可塑性エラストマー組成物および前記熱可塑性エラストマー組成物を用いてなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く用いられているハードディスクドライブは、パーソナルコンピューターに欠かせないデジタルデバイスのひとつである。
一般的なハードディスクドライブは、ベース上に、多数の磁気ディスク(プラッタ)と、スピンドルモータと、アクチュエーター(位置決め装置)とが配置されている。さらに、ベース裏面側には制御基板が配置されている。
上記の磁気ディスクは、上記スピンドルモータに取り付けられ、高速回転する。
上記のアクチュエーターとしては、例えば、回転軸を中心として揺動するスイング型アクチュエーター等が挙げられる。このスイング型アクチュエーターは、磁気ヘッド(磁気ヘッドは、回転する磁気ディスクに対してデータの読み込みおよび書き込みを行う。)と複数のスイングアームとから構成されるハードディスクアームを有する。そして、前記磁気ヘッドは、積層された複数の前記スイングアームの各先端に支持されている。前記スイングアームは、円盤状の回転ディスクを挟み込むようにして用いられている。前記磁気ヘッドは、回転軸を中心とするハードディスクアームの旋回により、回転ディスクの半径方向に移動される。このようにして磁気ヘッドは、回転ディスク上の任意の位置にある記録トラックに到達し得るようになっている。
さらに、このハードディスクアームを旋回駆動させるために、ハードディスクアームの後部には、コイルと、永久磁石とが配置されている。永久磁石は、当該コイルの周辺に配置される。ハードディスクアームを旋回駆動させるには、まず、永久磁石によって、コイル周辺に適切な磁界を形成する。そして、コイルに対して適切な通電を行えば、フレミングの左手の法則にしたがった駆動力がコイルに働き、ハードディスクアームが旋回駆動する。
【0003】
このような構成からなるハードディスクドライブが作動すると、スピンドルモータが高速回転し、さらに、スイングアームが旋回を繰り返すので、ハードディスクドライブ内は振動が激しく、また異常音を発生しやすい。
そのため、ハードディスクドライブには多くの制振材や防振材が用いられている。例えば、上記スイング型アクチュエーターのハードディスクアーム後部の左右にはストッパーゴムが1つずつ配置されている。そして、ハードディスクアームがストッパーゴムにぶつかって、ハードディスクアームの動きを確実に制止し、かつ、ハードディスクアームがストッパーゴムに衝突したときに生じる振動を抑制するようになっている。
【0004】
ところが、従来のストッパーゴムは、ポリウレタンを素材としていたので、ハードディスクドライブの起動に伴ってハードディスクドライブ内の温度が上昇すると、ストッパーゴムの反発弾性が高くなり、同時に制振性および防振性が低下していた。
このため、ハードディスクアームが移動してストッパーゴムに当たっても、その高反発弾性によりハードディスクアームを反対側に跳ね返してしまい、ハードディスクアームを制止できないという不具合があった。
このような問題を解決するために、特許文献1には、熱硬化性ポリマーに該ポリマーの双極子モーメント量を増加させる活性成分を配合したポリマー組成物から成形させてなるハードディスクドライブ用ストッパーゴム代替物が記載されている。
次に、特許文献2には、円筒に成形されたスチレン−エチレン・ブチレン−スチレン・ブロックコポリマーからなるエラストマー部材と、筒形内に挿入されたケースへの取付用軸部材と、からなる電子機器用防振部材とその製造方法が記載されている。上記特許文献2の電子機器用防振部材とその製造方法は、ゴム材料として、電子機器内への影響がなく、防振機能を長期間保ち、ヘッドスタック・アッセンブリーのストッパーとなり、永久歪み等が極めて少ないゴム材料を使用することを目的としている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−184136号公報
【特許文献2】特開2002−21930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているようなハードディスクドライブ用ストッパーゴム代替物を、自動車に搭載される機器や装置(例えば、CD、MD、DVD等のカーステレオ、カーナビゲーション等)のハードディスクドライブに対して使用する場合、ハードディスクを起動させることによる温度上昇のほか、自動車内の温度が、例えば、約60〜80℃のような高温にまで上昇することによって、当該ストッパーゴム代用物の反発弾性が高くなり、ハードディスクアームを制止できないという問題点がある。
【0007】
次に、上記特許文献2に記載されている電子機器用防振部材は、上記特許文献1と同様に、自動車に搭載される機器、装置等のハードディスクドライブに対して使用される場合、自動車内の温度が上記のような高温となると電子機器用防振部材の反発弾性が高くなり、ハードディスクアームを制止できないという問題点がある。また、当該電子機器用防振部材は、外側が筒形のエラストマー部材で、内側の軸部材が金属であるため、防振性に乏しい。
また、自動車用に使用される防振ゴムは、一般的に、−40〜100℃という広い温度範囲で機能することが要求されており、自動車に搭載される機器、装置等のハードディスクドライブ内のストッパーゴムも、低温から高温までの広い温度範囲での反発弾性が低いものでなければならない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、広い温度範囲で反発弾性が低く、特に、高温および低温での反発弾性が低い成形体を提供すること、ならびに、前記成形体を実現することができ、かつ、流動性が高く、射出成形によって、良好な成形体を容易に成形することができる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、広い温度範囲で反発弾性が低く、特に、高温および低温での反発弾性が低い成形体、ならびに、このような成形体を形成することができる組成物であって、流動性が高く、射出成形によって良好な成形体を容易に成形することができる組成物について鋭意研究した結果、まず、少なくとも1種の熱可塑性樹脂と少なくとも1種のゴムとを含有し、前記熱可塑性樹脂と前記ゴムのうち、30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂と、−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムとを、特定比率で含有する熱可塑性樹脂エラストマー組成物から得られる成形体が、広い温度範囲で反発弾性が低く、特に、高温および低温で低反発弾性であることを見出した。
【0010】
さらに、本発明者は、前記熱硬可塑性樹脂と前記ゴムとを特定の割合で配合し、前記熱可塑性樹脂エラストマー組成物が特定のメルトインデックスを有することによって、前記熱可塑性樹脂が軟化した際に、前記熱可塑性樹脂エラストマー組成物が高い流動性を有すること、また、前記熱可塑性樹脂エラストマー組成物を原料として射出成形することにより、良好な成形体を容易に成形することが可能であることを見出した。
本発明者は、これらの知見から、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(8)提供する。
(1)少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂中に分散した少なくとも1種の粒子状のゴムとを含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記熱可塑性樹脂と前記ゴムとの割合が、85/15〜45/55であり、
前記熱可塑性樹脂および前記ゴムのうち、30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂の割合が30質量%以上であり、かつ、−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムの割合が15質量%以上であり、
前記熱可塑性エラストマー組成物が軟化した際に、メルトインデックスが15g/10min以上となる、熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
(2)前記30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂として、ポリアミド11および/またはポリアミド12を含有する上記(1)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(3)前記ゴムの少なくとも一部が架橋されている上記(1)または(2)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いてなる成形体。
【0013】
(5)前記成形体が、射出成形で成形される上記(4)に記載の成形体。
(6)前記成形体の−20〜80℃における反発弾性率が、70%未満である上記(4)または(5)に記載の成形体。
(7)上記(4)〜(6)のいずれかに記載の成形体からなる防振材。
(8)ハードディスクドライブ用である上記(7)に記載の防振材。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形体は、低温から高温までの広い温度範囲で低い反発弾性を有し、特に、高温および低温での反発弾性が低い。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、高い流動性を有し、成形性に優れ、さらに、射出成形等で良好な成形体を容易に成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の熱可塑性エラストマー組成物について説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、
少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂中に分散した少なくとも1種の粒子状のゴムとを含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記熱可塑性樹脂と前記ゴムとの割合が、85/15〜45/55であり、
前記熱可塑性樹脂および前記ゴムのうち、30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂の割合が30質量%以上であり、かつ、−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムの割合が15質量%以上であり、
前記熱可塑性エラストマー組成物が軟化した際に、メルトインデックスが15g/10min以上となる熱可塑性エラストマー組成物である。
【0016】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有される熱可塑性樹脂について、以下に説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含有する。また、前記熱可塑性樹脂と前記ゴムとの割合が、85/15〜45/55であり、前記熱可塑性樹脂および前記ゴムのうち、30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂の割合が30質量%以上である。
【0017】
30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂は、特に、高温での制振性および/または防振性を考慮すると、ガラス転移温度が40〜60℃であるのがより好ましい。なぜなら、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、その熱可塑性樹脂の吸収エネルギーのピークにおける温度に当たるからである。熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、例えば、約60℃である場合、その熱可塑性樹脂は、約60℃で吸収エネルギーが最大となり、よって、熱可塑性樹脂の反発弾性は、約60℃で最も低くなる。
【0018】
なお、本発明において、ガラス転移温度は、熱可塑性樹脂およびゴムが、ガラス状からゴム状へと移行するときの温度をいう。本発明では、各材料について動的粘弾性試験を行い、20Hzの条件でtanδの温度依存曲線を求め、その曲線がピークを示すときの温度をガラス転移温度として用いた。
【0019】
30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフッ化フッ化ビニリデン、ABSが挙げられる。中でもポリアミド樹脂が好ましい。
【0020】
上記のポリアミド樹脂の具体例としては、ポリアミド6(ナイロン6)、ポリアミド7(ナイロン7)、ポリアミド8(ナイロン8)、ポリアミド11(ナイロン11)、ポリアミド12(ナイロン12)等のポリラクタム;
ポリアミド4(ナイロン4、ポリピロリジノン)等のアミノ酸ホモポリマー;
ポリアミド46(ナイロン46)、ポリアミド66(ナイロン66)、ポリアミド69(ナイロン69)、ポリアミド610(ナイロン610)、ポリアミド612(ナイロン612)等のジカルボン酸とジアミンとのコポリアミド;
【0021】
ポリアミド6I(ナイロン6I)(I:イソフタル酸)、ポリアミド6T(ナイロン6T)(T:テレフタル酸)、ポリアミドMXD6(ナイロンMXD6)(MXD:メタキシリレンジアミン)等の芳香族および部分芳香族ポリアミド;
ポリアミド6/66(ナイロン6/66)の共重合体、ポリアミド6/66/610(ナイロン6/66/610)の共重合体、ポリアミド6/6T(ナイロン6/6T)の共重合体、ポリアミド66/PP(ナイロン66/PP)の共重合体、ポリアミド66/PPS(ナイロン66/PPS)の共重合体、ポリアミドエラストマー等が挙げられる。
【0022】
これらのポリアミド樹脂の中でも、柔軟性に富み、かつ、電子機器などに使用する場合、長期に渡る耐熱や耐水に対する要求から、ポリアミド11、ポリアミド12等が好ましい。
【0023】
30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
そして、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有される熱可塑性樹脂は、このような30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂のみからなることが好適な態様の一つである。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有される熱可塑性樹脂は、必要に応じて、30〜80℃以外のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂を含むことができる。30〜80℃以外のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂は、30℃未満のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂、または、80℃を超えるガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂であれば、特に制限されない。
【0025】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリニトリル樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリビニル樹脂、ポリセルロース樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有されるゴムについて、以下に説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有されるゴムは、前記熱可塑性樹脂中に分散した少なくとも1種の粒子状のゴムである。また、前記熱可塑性樹脂と前記ゴムとの割合が85/15〜45/55であり、前記熱可塑性樹脂および前記ゴムのうち、−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムの割合が15質量%以上である。
【0027】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムを含有することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、電子機器、装置等の運転開始時において、低温で、優れた制振性および/または防振性を発現することができる。通常の電子機器は、−20℃以上の温度範囲で使用されるため、最も良く制振性を発揮できるためには、ゴムのガラス転移温度は−40〜−10℃であり、−25〜−10℃であるのが好ましい。
【0028】
ゴムのガラス転移温度については、各材料について動的粘弾性試験を行い、20Hzの条件でtanδの温度依存曲線を求め、その曲線がピークを示すときの温度をガラス転移温度として用いた。
【0029】
−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムとしては、例えば、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、変性NBR、水添NBR、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)が挙げられる。
【0030】
これらの中で、アクリロニトリルとブタジエンの量比でガラス転移温度をコントロールできるNBRが、材料設計上は好ましい。また、カルボキシ基等で変性されたNBRは、熱可塑性樹脂との相溶性が高く、より好ましい。
【0031】
また、ゴムは、少なくとも一部が架橋されていることが好ましい。これにより、成形体の物性が向上し、熱的に安定させることができるからである。
少なくとも一部が架橋されたゴムとしては、例えば、上記のゴムをあらかじめ架橋して得られる架橋ゴム、動的架橋されたゴム等が挙げられる。中でも動的架橋されたゴムが好ましい。架橋ゴムは、公知の方法によって製造することができる。また、少なくとも一部が動的架橋されたゴムについては後述する。
上記のゴムは、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
そして、本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、ゴムは、粒子状であり、熱可塑性樹脂中に分散している。分散相としての粒子状のゴムは、流動性と物性の点から、直径10μm〜0.1μmであることが好ましく、直径2〜0.5μmであることがより好ましい。
【0033】
粒子状のゴムが、熱可塑性樹脂中に分散していることによって、熱可塑性エラストマー組成物の流動性は低下する。また、粒子状のゴムはその粒径が小さいほど、熱可塑性エラストマー組成物の流動性を悪化させる。しかしながら、ゴム粒径が大きすぎる場合、熱可塑性エラストマーの強度が極端に低下するため、バランスが必要である。
【0034】
熱可塑性エラストマー組成物中に含有される熱可塑性樹脂とゴムとの割合は、85/15〜45/55である。好ましい割合は、80/20〜50/50であり、より好ましくは70/30〜55/45である。このような範囲の場合、熱可塑性エラストマー組成物は、流動性が高く、射出成形性が良好で、得られる成形体はひけ等の不良が少ない。また、このような範囲の場合、熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体の反発弾性を、広範囲の温度で低く維持することができ、特に高温および低温での反発弾性を低くすることができる。
なお、熱可塑性エラストマー組成物中に含有される熱可塑性樹脂とゴムとの割合は、質量比である。
【0035】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、前記熱可塑性樹脂および前記ゴムのうち、30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂の割合は30質量%以上であり、55〜85質量%であるのが好ましい。このような範囲の場合、熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、高温での反発弾性が低い。
【0036】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、前記熱可塑性樹脂および前記ゴムのうち、−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムの割合は15質量%以上であり、30〜45質量%であるのが好ましい。このような範囲の場合、低温側での反発弾性を低くすることができる。
【0037】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性エラストマー組成物が軟化した際、そのメルトインデックスが15g/10min以上となる。熱可塑性エラストマー組成物のメルトインデックスは、好ましくは20〜50g/10minであり、より好ましくは20〜30g/10minである。メルトインデックスが低いものは流動性が低いため量産の妨げとなり、また、高すぎるものは部品が非常にもろいものとなってしまう。上記のような範囲である場合、熱可塑性エラストマー組成物は流動性が高く、成形性が良好で、得られる成形体は、ひけ等の不良が少ない。
【0038】
また、熱可塑性エラストマー組成物が軟化した際の熱可塑性樹脂の温度は、熱可塑性樹脂の溶融温度以上であれば良く、熱可塑性樹脂の種類および配合量によって適宜選択することができる。このような熱可塑性エラストマー組成物が軟化した際の熱可塑性樹脂の温度としては、例えば、熱可塑性樹脂の溶融温度以上、(溶融温度+40℃)以下であることが好ましい態様の一つである。具体的には、熱可塑性樹脂としてポリアミド11を使用する場合は、ポリアミド11の融点が195℃であるため、220〜230℃での成形が好ましい。このような範囲であれば、熱可塑性エラストマー組成物のメルトインデックスを高くすることが可能である。
【0039】
また、熱可塑性エラストマー組成物全体としては、加熱温度は、260℃以下であることが好ましい態様の一つである。このような範囲であれば、熱可塑性樹脂またはゴムのやけを防ぐことができる。
【0040】
なお、メルトインデックス(MI値)は、メルトインデクサーを用いて、試料を特定温度(230℃)で加熱後、21.18N(2.16kgf)の荷重下で一定時間の間にオリフィスを通過した溶融試料の質量を測定し、これを10分当たりのg数に換算した値である。
【0041】
そして、本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、熱可塑性樹脂とゴムとが、式〔φ/φ〕×〔η/η〕<1.0を満たすことが望ましい。式中、φ:ゴムの体積分率、φ:熱可塑性樹脂の体積分率、η:混練時のゴムの溶融粘度、η:混練時の熱可塑性樹脂の溶融粘度をそれぞれ表す。
熱可塑性樹脂とゴムとが混練されて、式〔φ/φ〕×〔η/η〕<1.0を満たすと、熱可塑性樹脂がゴムをくるみ込み、ゴムがドメインを形成するようになる。
【0042】
この場合のモルフォロジーは、熱可塑性樹脂のマトリクス中に、ゴムが微細な粒子状のドメインとして存在している。このようなモルフォロジーは、熱可塑性樹脂とゴムとの溶融粘度によるものである。ここでより物性を高めるためには、ゴムと熱可塑性樹脂との溶融粘度比が、0.8<η/η<1.2であることが望ましい。また、熱可塑性樹脂とゴムとからなる熱可塑性エラストマー組成物と熱可塑性樹脂との溶融粘度比が、0.8<η/η<1.2であることが望ましい。式中、ηは、混練時の熱可塑性エラストマー組成物の溶融粘度を表す。
【0043】
ここで、溶融粘度とは、混練加工時の任意の温度、成分の溶融粘度を言う。ポリマー材料の溶融粘度は、温度、剪断速度(sec−1)および剪断応力に依存性がある。このため、一般に、細管中を流れる溶融状態にある任意の温度、特に、混練時の温度領域でのポリマー材料の応力と剪断速度とを測定し、下記式(1)より溶融粘度ηを算出する。
【0044】
【数1】

【0045】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、上記の熱可塑性樹脂およびゴム以外に、熱可塑性樹脂の流動性や耐熱性、物理的強度、コスト等の改善のため、本発明の目的を損なわない範囲で、補強剤、充填剤、軟化剤、老化防止剤、劣化防止剤、加工助剤等の通常の組成物に添加される配合剤を必要量加えることもできる。さらに、熱可塑性樹脂には、着色等を目的として、無機顔料または有機顔料を加えることもできる。
【0046】
また、熱可塑性エラストマー組成物の調製方法は、特に限定されない。調製方法としては、例えば、あらかじめ熱可塑性樹脂と未加硫のゴムとを、混練機に供給して溶融混練して行う方法等が挙げられる。
【0047】
熱可塑性樹脂または未加硫のゴムへの各種配合剤の添加は、例えば、熱可塑性樹脂と未加硫のゴムとの溶融混練操作中に行う方法、または、熱可塑性樹脂と未加硫のゴムとの溶融混練の前にあらかじめ別々に行う方法等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂と未加硫のゴムとの溶融混練の前にあらかじめ別々に混合しておくことが好ましい。
【0048】
ゴムの少なくとも一部が架橋している場合には、以下のように動的架橋により熱可塑性エラストマー組成物を調製するのが好ましい。
動的架橋による熱可塑性エラストマー組成物の調製方法においては、まず、あらかじめ別々に各種配合物を添加された熱可塑性樹脂と未加硫のゴムとは、例えば、二軸混練機等を用いて溶融混練され、同時に、または、その後に、加硫剤(さらに加硫助剤)が投入され、さらに混練される。ここで、ゴムは、熱可塑性樹脂の存在下で動的架橋される。つまり、ゴムは、混練され熱可塑性樹脂中に分散されて微細な粒子の状態となりつつ架橋が進行する。このような方法で調製された熱可塑性エラストマー組成物は、連続相(マトリックス)をなす熱可塑性樹脂中に、分散相(ドメイン)として少なくとも一部が架橋されたゴムが安定的に分散されている状態である。これによって、熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂が軟化した際に、高い流動性を有するようになる。
【0049】
また、加硫剤の添加のタイミングは、上記のほかにも、例えば、あらかじめゴム中に他の配合剤等とともに混合しておき、熱可塑性樹脂とゴムとの混練中に、架橋を行って、ゴムを動的架橋させることもできる。
【0050】
ゴムの動的架橋に用いられる加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)等は、使用するゴム組成に応じて適宜決定すればよい。
加硫剤としては、一般的なゴム加硫剤(架橋剤)を用いることができる。
ゴム加硫剤(架橋剤)としては、例えば、イオウ系、有機過酸化物系、フェノール樹脂系等の加硫剤が挙げられる。
【0051】
イオウ系加硫剤としては、例えば、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる。
イオウ系加硫剤を用いる場合、その使用量は、例えば、0.5〜4phr(ゴム100質量部当りの質量部、以下、同じ)の割合となる量が好ましい態様の一つである。
【0052】
有機過酸化物系加硫剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
有機過酸化物系加硫剤を用いる場合、その使用量は、例えば、1〜15phrの割合となる量が好ましい態様の一つである。
【0053】
フェノール樹脂系加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール樹脂の臭素化物;
塩化スズ、クロロプレン等のハロゲンドナーとアルキルフェノール樹脂とを含有する混合架橋系等が挙げられる。
フェノール樹脂系加硫剤を用いる場合、その使用量は、例えば、1〜20phrの割合となる量が好ましい態様の一つである。
【0054】
また、加硫助剤として、例えば、酸化マグネシウム、リサージ、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニトロソベンゼン、メチリンジアニリン等を使用することができる。
【0055】
また、ゴムには、必要に応じて、加硫促進剤を添加してもよい。用いられる加硫促進剤としては、例えば、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオ酸塩系、チオウレア系等の一般的な加硫促進剤が挙げられる。このような加硫促進剤の使用量は、例えば、0.5〜2phr程度用いればよい。
【0056】
具体的な加硫促進剤として、例えば、ヘキサメチレンテトラミン等のアルデヒド・アンモニア系加硫促進剤;
ジフェニルグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤;
ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)、2−メルカプトベンゾチアゾールおよびそのZn塩、シクロヘキシルアミン塩等のチアゾール系加硫促進剤;
シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアマイド(CBS)、N−オキシジエチレンベンゾチアジル−2−スルフェンアマイド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアマイド、2−(チモルポリニルジチオ)ベンゾチアゾール等のスルフェンアミド系加硫促進剤;
【0057】
テトラメチルチウラムジサルファイド(TMTD)、テトラエチルチウラムジサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド(TMTM)、ジベンタメチレンチウラムテトラサルファイド等のチウラム系加硫促進剤;
Zn−ジメチルジチオカーバメート、Zn−ジエチルジチオカーバメート、Zn−ジ−n−ブチルジチオカーバメート、Zn−エチルフェニルジチオカーバメート、Tc−ジエチルジチオカーバメート、Cu−ジメチルジチオカーバメート、Fe−ジメチルジチオカーバメート、ピペコリンピペコリルジチオカーバメート等のジチオ酸塩系加硫促進剤;
エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア等のチオウレア系加硫促進剤等が挙げられる。
【0058】
また、上記の加硫促進剤には、一般的な加硫促進助剤を併せて用いることができる。加硫促進助剤としては、例えば、亜鉛華(0.2〜6phr程度)、ステアリン酸やオレイン酸およびこれらのZn塩(0.1〜3phr程度)等を用いることができる。
【0059】
ゴムには、これら以外にも、必要に応じて、例えば、老化防止剤、劣化防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、顔料や染料等の着色剤、カーボンブラックやシリカ等の補強剤等が含まれてもよい。
【0060】
また、動的架橋されたゴムが、熱可塑性樹脂中に、ミクロな粒子状として分散しにくい場合は、例えば、適当な相容化手法を用いて両者を相容化させることが可能である。このような相容化手法としては、例えば、系内に相容化剤を混合する方法が挙げられる。相容化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とゴムとの界面張力が低下し、その結果、分散相を形成しているゴムの粒子径が微細となる。これにより、熱可塑性樹脂とゴムとの両方の特性がより有効に発現される。
【0061】
相容化剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、ゴムの両方または片方の構造を有する共重合体、熱可塑性樹脂またはゴムと反応可能なエポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造を有するもの等が挙げられる。このような相容化剤は、混合される熱可塑性樹脂樹脂とゴムとの種類によって選定することができる。
【0062】
具体的な相容化剤としては、例えば、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系ブロック共重合体(SEBS)およびそのマレイン酸変性物、EPDM、EPMおよびそれらのマレイン酸変性物、EPDM/スチレンまたはEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体およびそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等が挙げられる。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に相容化剤を配合する場合、相容化剤の配合量は、熱可塑性樹脂とゴムの合計100質量部に対して、0.5〜20質量部配合することが好ましい態様の一つである。
【0064】
熱可塑性樹脂とゴムとの混練に使用される混練機は、特に限定されず、例えば、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリーミキサー、2軸混練押出機等が挙げられる。熱可塑性樹脂とゴムとの混練、およびゴムの動的架橋には、2軸混練押出機を用いるのが好ましい態様の一つである。また、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。
【0065】
溶融混練の条件として、温度は、熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であればよく、200〜250℃が好ましい。このような温度範囲である場合、熱可塑性エラストマー組成物の流動性が高く、ゴムが熱可塑性樹脂中に粒子状に分散され、熱可塑性樹脂またはゴムのやけを防ぐことができる。
【0066】
また、混練時の剪断速度は、500〜5000sec-1であることが好ましい。
混練全体の時間は、例えば、30秒〜10分であるのが好適な態様の一つである。また、加硫剤添加後の加硫時間は、例えば、15秒〜5分であるのが好適な態様の一つである。
【0067】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成形方法ついて以下に説明する。
成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、中空成形等が挙げられる。中でも射出成形等が好ましい。
【0068】
成形体を射出成形するために使用される射出成形機としては、例えば、従来公知の射出成形機を用いることができる。成形体を射出成形するための射出成形機としては、例えば、射出成形機を構成する射出装置が、インライン方式またはプリプラ方式のいずれの構造を有するものであってもよい。また、射出成形機を構成する型締め装置が、直圧式またはトグル式のいずれの構造を有するものであってもよい。また、射出装置と型締め装置とが、横形または縦形のいずれの方式で配列されているものであってもよい。さらに、射出装置の駆動方式が、油圧式、電動式またはハイブリッド式のものであってもよい。
【0069】
また、射出成形機における型締め機構としては、射出圧縮、コア圧縮等の手法を用いることができる。
さらに、射出成形機として、金型のキャビティー内を減圧にして成形を行う機構を有するものを用いることもできる。金型のキャビティー内を減圧にして射出成形を行う場合、揮発分や熱加工により劣化して金型内に残留する残留物の量を極度に低減させることができる。従って、金型のキャビティー内を減圧にして射出成形を行う方法は、成形体の品質向上や金型メンテナンス間隔の長期化へ寄与する上で、好ましい態様の一つである。
【0070】
このような射出成形機を用いた成形加工においては、シリンダー径および型締め力は、成形すべき成形体の形状に応じて適宜に決定される。一般的に、成形すべき成形体の投影面積が大きい場合は、型締め力を大きくすることが好ましい。また、成形体の容量が大きい場合は、シリンダー径を大きくすることが好ましい態様の一つである。
【0071】
また、成形加工を行う成形条件としては、用いられる射出成形機の種類、成形すべき成形体の形状等に応じて異なる。一般的に、成形体が薄肉形状の場合には高速低圧成形条件で成形加工が行われ、成形体が厚肉形状の場合には低速高圧成形条件で成形加工が行われる。
【0072】
射出成形機を用いた成形加工における熱可塑性樹脂の温度は、熱可塑性樹脂の軟化温度(融点)をTmとすると、(Tm+20)〜(Tm+50)℃の範囲に設定することが好ましい。
【0073】
射出成形機を用いた成形加工においては、成形体を射出成形機にて安定的に射出成形する手法(すなわち、加工時の熱履歴や剪断による熱可塑性樹脂の劣化を極力低減する手法)として、例えば、シリンダーおよび/またはホッパー内を減圧にするかまたは窒素やアルゴン等の不活性ガスを充満させる等の方法を用いることが好ましい態様の一つである。
【0074】
また、他の有機重合体または無機物等と多層成形、2色成形、インサート成形等を行うことも可能である。
【0075】
次に、射出成形機に取り付けられる射出成形用金型について説明する。
射出成形用金型としては、公知の鋼材よりなるものを使用することができる。また、目的に応じて、金型の表面が、例えば、クロム系、チタン系、ホウ素系、炭素系の材料等でコーティングされてなるものであってもよい。
【0076】
成形すべき成形体の表面に対してパターン等を形成する必要のある場合には、金型の内表面にニッケル等の軟質鋼材層を形成し、その軟質鋼材層を切削することによって目的のパターンに対応するパターン形状を形成する手法、金型の内表面に電気鋳造法により目的のパターンに対応するパターン形状を形成する手法、金型の内表面にエッチング処理を行うことによって目的のパターンに対応するパターン形状を形成する手法、金型の内表面にサンドブラスト等により目的のパターンに対応するパターン形状を形成する手法、スタンパーを使用することによって目的のパターンに対応するパターン形状を形成する手法等を用いることが可能である。
【0077】
金型の組構造としては、成形すべき成形体、ゲート、スプルー、取り数等に応じて、例えば、2枚割れ構造、3枚割れ構造、入れ子構造等が挙げられる。
金型における突き出し機構は、例えば、ピン等を使用する方法、コア全体で突き出す方法、エアー等で浮き上がらせる方法等を用いることができる。また、取り出しを容易にするため、キャビティー端部をスライドコア構造とすることも可能である。また、突き出し用のエジャクターは、バネで自動的に戻る構造にしても良い。また、エジェクターの動作をスムーズにするため、ベアリング構造を採用することも可能である。
【0078】
次に、金型の温調は、例えば、水、高圧水、オイル媒体、電気ヒータ、電磁加熱等を使用して、公知の方法で行うことが可能である。
また、金型におけるゲート形状は、特に限定されず、形成すべき成形体の形状等に応じて、ダイレクトゲート、フィルムゲート、ファンゲート、ピンゲート、サブマリンゲート等から適宜選択することができる。材料の力学的な歪みを低減するためには、フィルムゲートまたはファンゲートの形状を用いることが好ましい態様の一つである。また、歪みを分散させるために、ゲートの途中に絞りを設けた形状を採用することも好ましい態様の一つである。さらに、ホットランナー等公知のランナーを使用することも可能である。
【0079】
以上のような射出成形で成形された成形体に対しては、二次加工を行うことができる。二次加工としては、例えば、反射防止加工、ハードコート加工、アルミ蒸着加工、接着加工、熱融着加工、超音波融着加工、電磁融着加工、コロナ放電加工、切削、表面パターン圧着、表面切削、塗装、パターン印刷が挙げられる。
【0080】
次に、本発明の成形体について説明する。
本発明の成形体は、上記熱可塑性エラストマー組成物を原料として用いてなるものである。
成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、中空成形等が挙げられる。中でも、射出成形が好ましい。射出成形の具体的な方法・条件は、上述のとおりである。
【0081】
また、本発明の成形体の−20〜80℃における反発弾性率は、70%未満であることが好ましく、50%未満であることがより好ましい。このような広い温度範囲において、70%未満の低い反発弾性率を維持することにより、成形体は、低温から高温までの広い温度範囲で、優れた制振性および/または防振性を有することとなる。
【0082】
そして、本発明の成形体は、60〜80℃というような高温における反発弾性を低く抑え、高温での優れた制振性および/または防振性を有する。
【0083】
本発明の成形体は、広い温度範囲で防振性および制振性を有し、特に高温で優れた防振性および制振性を有するものであることから、その特性を活かして、例えば、制振材、防振材等として好適に用いることができる。防振材の具体例としては、例えば、ハードディスクドライブ用防振材等が挙げられる。中でも、自動車に搭載される機器、装置等のハードディスクドライブ用防振材として好適に用いることができる。自動車に搭載される機器、装置としては、例えば、CD、MD、DVD等のカーステレオ、カーナビゲーションが挙げられる。
【0084】
制振材または防振材において、その形状、寸法、前記熱可塑性エラストマー組成物で形成される部位等は、特に限定されず、制振材または防振材の配設個所、所要の制振/防振を発揮する周波数および温度領域、振幅、耐荷重性能等に基づいて適宜選択することができる。
【0085】
制振材または防振材が、自動車に搭載される機器、装置等のハードディスクドライブ用防振材である場合、その形状としては、例えば、円柱、筒型等が挙げられる。
形状が円柱の場合は、その大きさは、例えば、高さ約2mm、直径約1mm程度のものから、高さ約10mm、直径15mm程度のものが挙げられる。
形状が筒型の場合、その大きさは、例えば、高さ約2mm、直径約1mm、内径1mm程度のものから、高さ約10mm、直径15mmのものが挙げられる。
【0086】
本発明の成形体は、このほかにも、自動車等の交通機関に起因する騒音、振動を大幅に抑制することができる。また、自動車内部の低振動、低騒音性という高度な要求を満たすことが可能となる。また、複写機、プリンター等の一般家庭で広く使用されつつある事務機器から発生する騒音、振動の低減が可能となる。さらに、大型化されつつある冷蔵庫、洗濯機、掃除機等の家庭用電気製品から発生する振動の低減、低騒音化による静粛性を図ることができ、これらの自動車関連部材、事務機器、家電製品等の騒音を抑えることができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明が下記の実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0088】
1.NBR系ゴムの調製
第1表に示す熱可塑性エラストマー組成物に使用されたNBR系ゴムの成分および配合量を下記に示す。
・NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム):50質量部(Nipol1043、日本ゼオン社製)
・カルボキシNBR(カルボキシ基含有アクリロニトリルブタジエンゴム):50質量部(Nipol1072、日本ゼオン社製)
・カーボンブラック:5質量部(シーストV、東海カーボン社製)
・亜鉛華:2質量部(軽井沢精錬所製)
・劣化防止剤:1.5質量部(ノクラック224、大内新興化学社製)
・ステアリン酸:1質量部(ビーズステアリン酸、日本油脂社製)
・N,N′−M−フェニレンジマレイミド:1質量部(デュポン社製)
・加硫剤:0.5質量部(粉末硫黄)
【0089】
上記配合をゴム用バンバリーミキサーにて、3分間混合した後、放出し、冷却後、ゴム用ペレタイザーにて、3mm径のペレットに加工した。
ゴムの一部を200℃で5分間プレス成形し、加硫ゴムシートを作製した。得られた加硫ゴムシートについて粘弾性試験を行ったところ、加硫ゴムのガラス転移温度が−30℃であることを確認した。
【0090】
2.熱可塑性エラストマー組成物の調製
次に、第1表に示す配合(質量部)で、2軸混練機に熱可塑性樹脂とNBR系ゴムとを投入し、200℃、せん断速度1000cm-1で約3分間混練した後、水冷し、ペレタイザーでペレット化して、熱可塑性エラストマー組成物とした。
【0091】
第1表に示す各成分の詳細は、以下のとおりである。
・ポリアミド12(低粘度):ウベナイロン3014U(宇部興産社製)
・ポリアミド11(低粘度):リルサンBMF(アトフィナ社製)
・ポリアミド11(高粘度):リルサンBESN O TL(アトフィナ社製)
・ポリアミド6(低粘度):ウベナイロン1011FB(宇部興産社製)
・ポリエステルエラストマー:ぺルプレンP150B(東洋紡績社製)
・NBR系ゴム:上記のように調製されたNBR系ゴム
なお、従来、ストッパーに用いられているポリエステルエラストマー(ぺルプレンP150B)を比較のために従来例(第1表中の比較例1)として取り上げた。
【0092】
3.熱可塑性エラストマー組成物の評価
(1)メルトインデックス(MI値)の測定
JIS K 7210:1999に準じ、メルトインデクサーを用いて、試料を230℃で加熱後、21.18N(2.16kgf)の荷重下で一定時間の間にオリフィスを通過した溶融試料の質量を測定した。これを10分当たりのg数に換算し、メルトインデックスを求めた。結果を第1表に示す。
【0093】
4.試験体の評価
各実施例および比較例の試験体について、下記の条件のもとで、射出成形性、反発弾性率、ストッパ性能および長期耐久性をそれぞれ測定し、各性能を評価した。各評価結果を第1表に示す。
【0094】
(1)射出成形性
射出成形性は、実際にストッパを成形して、評価を行った。ストッパの成形は、まず、型締圧力100tの射出成形機を用いて、第1表に示される各熱可塑性エラストマー組成物を上記の射出成形機のホッパに投入し、シリンダー温度220℃、射出圧力25MPaで金型に充填した。さらに、形状の転写精度を向上させるために、金型内での十分な圧力上昇が得られるまで、充填を続けた。
【0095】
金型として、64個取り用金型を用いた。金型は、金型温度20℃で一定に保持された。熱可塑性エラストマー組成物を充填終了から30秒後に、金型を開き、試験体を金型から取り外し、試験体を得た。
【0096】
射出成形性の評価は、64個すべてが、充填され、ヒケ等がない場合を○とし、64個すべてが充填されているが、一部不具合がある場合を△とし、64個が充填されない場合を×とした。
【0097】
(2)反発弾性
反発弾性については、JIS K 6255:1996に準じ、リュプケ式反発弾性試験装置を用いて、−20℃、0℃、20℃、60℃、80℃の温度での反発弾性を測定した。反発弾性の測定に使用された試験体は、熱可塑性エラストマー組成物を220℃でプレス成形し、厚さ12.7mm、直径30mmの円柱状としたものを使用した。なお、反発弾性の評価結果の数値は、第1表中、反発弾性率として示されており、単位は%である。
【0098】
(3)ストッパ性能
ストッパ性能は、成形したストッパを実際の装置に装着し、60℃の条件で測定した。ストッパ性能の評価は、現行レベルの80%以上120%未満を△とし、現行レベルの80%未満の反発性を○とし、現行レベルの120%以上の反発性を×とした。
【0099】
(4)長期耐久性
長期耐久性は、熱可塑性エラストマー組成物を220℃で厚さ2mmの板状に成形し、それをダンベル3号形状に打ち抜いた。その後95℃の温水に浸漬し、1年後引張試験を実施した。
長期耐久性の評価は、強度保持率が90%以上の場合を○とし、強度保持率が50%以上90%未満の場合を△とし、強度保持率が50%未満の場合を×とした。
【0100】
【表1】

【0101】
第1表から明らかなように、実施例の成形体はいずれも、−20〜80℃での反発弾性率がすべて70%未満であり、広範囲の温度で良好な制振性および/または防振性を有することを示している。反発弾性率が70%未満の場合、制振性および/または防振性に優れるといえる。
比較例1の成形体は、従来、ストッパーとして使用されていたポリエステルエラストマー(ガラス転移温度:−70℃)を含み、かつ、ゴムを含まない組成物から成形されているので、高温(60℃、80℃)での反発弾性率が70%を超え、高温での制振性および/または防振性が低い。
実施例3と比較例4とを比較すると、実施例3に比べてポリアミド11が多くNBR系ゴムが少ない比較例4は、低温での反発弾性率が70%を超えている。実施例3の反発弾性率は70%未満となっている。このことから、熱可塑性樹脂とゴムとの割合は、熱可塑性樹脂が85以下で、ゴムが15以上であるのが、反発弾性の面から好適である。
【0102】
また、実施例の熱可塑性エラストマー組成物はいずれも、溶融温度230℃でのメルトインデックスが15g/10min以上であり、良好な流動性を有することを示している。
実施例1と比較例3とを比較すると、熱可塑性樹脂を40質量部しか含まない比較例3は、メルトインデックスが13g/10minと低く、溶融時の流動性が悪い。これに伴って、比較例3の組成物を射出成形によって成形しても、成形体は、ひけ、ウエルドライン、フローマーク等の成形不良が発生し、射出成形性が不良であった。
比較例5は、使用している熱可塑性樹脂の粘度が高く流動性が低いため、ゴムと混合し、熱可塑性エラストマー組成物を作製しても、熱可塑性エラストマー組成物のメルトインデックスが小さくなり、比較例3同様、射出成形性が不良だった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂中に分散した少なくとも1種の粒子状のゴムとを含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記熱可塑性樹脂と前記ゴムとの割合が、85/15〜45/55であり、
前記熱可塑性樹脂および前記ゴムのうち、30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂の割合が30質量%以上であり、かつ、−40〜−10℃のガラス転移温度を有するゴムの割合が15質量%以上であり、
前記熱可塑性エラストマー組成物が軟化した際に、メルトインデックスが15g/10min以上となる、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記30〜80℃のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂として、ポリアミド11および/またはポリアミド12を含有する請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記ゴムの少なくとも一部が架橋されている請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いてなる成形体。
【請求項5】
前記成形体が、射出成形で成形される請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
前記成形体の−20〜80℃における反発弾性率が、70%未満である請求項4または5に記載の成形体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の成形体からなる防振材。
【請求項8】
ハードディスクドライブ用である請求項7に記載の防振材。

【公開番号】特開2006−206628(P2006−206628A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16574(P2005−16574)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】