説明

熱可塑性ポリエステル樹脂組成物

【課題】PBNの耐衝撃特性の向上、特に低温における耐衝撃特性の向上に関して鋭意検討した結果、PBNに複合ゴム含有グラフト共重合体を配合した樹脂組成物は耐衝撃特性、特に低温における耐衝撃特性に優れるポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)固有粘度が0.60〜1.30dL/gであり、末端カルボキシル基濃度が30.0eq/10kg以下であるポリブチレンナフタレート樹脂99〜50質量部、(B)ガラス転移温度の異なる2種類以上のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムからなる複合ゴムに、1種または2種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなる複合ゴム含有グラフト共重合体1〜50質量部からなる樹脂組成物100質量部に対して、(C)充填剤5〜50質量部、(D)難燃剤1〜50質量部および(E)滴下防止剤0〜3質量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物によって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関し、更に詳しくは耐衝撃特性、特に低温耐衝撃特性を改善するとともに、良好な熱安定性が得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および当該熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBTと称する)などに代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は一般的に機械的性質、物理的性質に優れており、自動車部品、電気・電子部品、機構部品等に幅広く利用されている。更に中でもポリブチレンナフタレート樹脂(以下、PBNもしくはポリブチレンナフタレート樹脂と称する)は、他の熱可塑性ポリエステル樹脂と同様に機械的性質、物理的性質に優れた特性を有しており、特にPBTと比較して耐湿熱性、耐薬品性、ガスバリア性、耐加水分解性等に優れるという特性と有している。
【0003】
しかしながら、PBNは他の熱可塑性ポリエステル樹脂と同様、耐衝撃特性に劣っているために、部品の小型化や軽量化に伴う薄肉化の普及に伴って、PBNもPBT等と同様に耐衝撃特性の不足が指摘されており、その改良が求められている。
【0004】
具体的にはPBNの耐衝撃特性の改良技術として、PBNにグリシジルメタクリレート/酸無水物/α−オレフィンを配合する方法(例えば、特許文献1参照。)、PBNにn−ブチルアクリレートゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体を配合する方法(例えば、特許文献2参照。)、PBNにグリシジルメタクリレート/アルキルアクリレート/α−オレフィンを配合する方法(例えば、特許文献3参照。)、PBNにPBNエラストマーを配合する方法(例えば、特許文献4参照。)、PBNにスチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体を配合する方法(例えば、特許文献5参照。)、PBNにグリシジルメタクリレート/α―オレフィン/酢酸ビニル共重合体を配合する方法(例えば、特許文献6参照。)、PBNにオレフィン系エラストマーを配合する方法(例えば、特許文献7参照。)等は比較的優れた方法である。
【0005】
【特許文献1】特開平5−339478号公報
【特許文献2】特開平6−145484号公報
【特許文献3】特開平6−157882号公報
【特許文献4】特開平6−172626号公報
【特許文献5】特開平6−240119号公報
【特許文献6】特開平9−104807号公報
【特許文献7】特開2006−152062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記に記載した数々の方法によると、室温付近での耐衝撃特性は優れているものの、0℃以下の低温における耐衝撃特性の向上が充分であるとは言い難い。
本発明者は上述した従来技術のような背景に基づき、PBNの耐衝撃特性の向上、特に低温における耐衝撃特性の向上に関して鋭意検討した結果、PBNに複合ゴム系グラフト共重合体を配合した樹脂組成物は耐衝撃特性、特に低温における耐衝撃特性に優れることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、(A)固有粘度が0.60〜1.30dL/gであり、末端カルボキシル基濃度が30.0eq/10kg以下であるポリブチレンナフタレート樹脂99〜50質量部、(B)ガラス転移温度の異なる2種類以上のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムからなる複合ゴムに、1種または2種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなる複合ゴム含有グラフト共重合体1〜50質量部からなる樹脂組成物100質量部に対して、(C)充填剤5〜50質量部、(D)難燃剤1〜50質量部および(E)滴下防止剤0〜3質量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、および当該熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなる射出成形品であり、当該発明によって上記課題を解決することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は耐衝撃特性および熱安定性が良好であり、当該樹脂組成物より得られる成形品は高低温環境下に耐えることができ、自動車部品、機構部品等に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する(A)PBN樹脂の製造には、ナフタレンジカルボン酸および/またはナフタレンジカルボン酸のエステル形成性誘導体を主とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とするグリコール成分を用いて得ることができる。
【0010】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に用いられる(A)PBNを構成するジカルボン酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸を主成分とするが、PBNの特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸を併用することができる。例えばテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。PBNの特性を損なわない範囲とは、全ジカルボン酸成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0011】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に用いられる(A)PBNを構成するジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,7−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを主成分とするが、PBNの特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体を併用することができる。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。PBNの特性を損なわない範囲とは、全ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0012】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に用いられる(A)PBNを構成するジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、他のジカルボン酸の低級ジアルキルエステルも好ましく挙げられる。そのジカルボン酸の低級ジアルキルエステルとしてはジメチルエステルが主成分であることが好ましいが、PBNの特性を損なわない範囲であれば、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル等の1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。PBNの特性を損なわない範囲とは、全ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル形成性誘導体成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0013】
また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0014】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する(A)PBNに用いられるグリコール成分としては1,4−ブタンジオールを主成分とするが、PBNの特性を損なわない範囲で他のグリコール成分を併用することができる。例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリ(オキシ)テトラメチレングリコール、ポリ(オキシ)メチレングリコール等のアルキレングリコールの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。PBNの特性を損なわない範囲とは、全グリコール成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0015】
かかるグリコール成分の使用量は、前記ジカルボン酸もしくはジカルボン酸のエステル形成性誘導体に対して1.1モル倍以上1.4モル倍以下であることが好ましい。グリコール成分の使用量が1.1モル倍に満たない場合にはエステル化あるいはエステル交換反応が十分に進行せず好ましくない。また、1.4モル倍以上を超える場合にも、理由は定かではないが反応速度が遅くなり、過剰のグリコール成分からテトラヒドロフラン等の副生物の発生量が大となり好ましくない。
【0016】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する(A)PBNにおいて重合触媒成分として用いられるチタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的にはテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−sec−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラ−n−ヘキシルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネートなどが挙げられ、これらの混合チタネートとして用いても良い。これらのチタン化合物のうち、特にテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートが好ましく、最も好ましいのはテトラ−n−ブチルチタネートである。
【0017】
チタン化合物の添加量は生成PBN中のチタン原子含有量として、10ppm以上60ppm以下であることが好ましく、より好ましくは15ppm以上30ppm以下である。生成PBN中のチタン原子含有量が60ppmを超える場合は、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の色調および熱安定性が低下するために好ましくない。一方チタン原子含有量が10ppm以下の場合には、良好な重合活性を得ることができず、充分な高い固有粘度のPBNを得ることができず好ましくない。
【0018】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する(A)PBNの特性を損なわない範囲において、例えば、オクタアルキルトリチタネートもしくはヘキサアルキルジチタネートなどのテトラアルキルチタネート以外のアルキルチタネート、酢酸チタンやシュウ酸チタンなどのチタンの弱酸塩、酸化チタンなどのチタン酸化物、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイドなどの有機スズ化合物を用いても良い。更に塩化カリウム、カリウムミョウバン、ギ酸カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸二水素カリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、酪酸カリウム、シュウ酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、ステアリン酸カリウム、フタル酸カリウム、フタル酸水素カリウム、メタリン酸カリウム、リンゴ酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、亜硝酸カリウム、安息香酸カリウム、酒石酸水素カリウム、重蓚酸カリウム、重フタル酸カリウム、重酒石酸カリウム、重硫酸カリウム、硝酸カリウム、酢酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カリウムナトリウム、炭酸水素カリウム、乳酸カリウム、硫酸カリウム硫酸水素カリウム、塩化ナトリウム、ギ酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、シュウ三二ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸水素ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、重シュウ酸ナトリウム、重フタル酸ナトリウム、重酒石酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、塩化リチウム、ギ酸リチウム、クエン酸三リチウム、クエン酸水素二リチウム、クエン酸二水素リチウム、グルコン酸リチウム、コハク酸リチウム、酪酸リチウム、シュウ酸二リチウム、シュウ酸水素リチウム、ステアリン酸リチウム、フタル酸リチウム、フタル酸水素リチウム、メタリン酸リチウム、リンゴ酸リチウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、亜硝酸リチウム、安息香酸リチウム、酒石酸水素リチウム、重シュウ酸リチウム、重フタル酸リチウム、重酒石酸リチウム、重硫酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、乳酸リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウムなどのアルカリ金属塩、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酪酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化マグネシウム、ギ酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酪酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の1種もしくは2種以上をチタン化合物と組み合わせても良い。
【0019】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する(A)PBNは、ナフタレンジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を主とするジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主とするグリコール成分とをチタン化合物の存在下にてエステル化あるいはエステル交換反応工程と、それに続く重縮合反応工程とを経由して製造されるが、エステル化あるいはエステル交換反応終了の際に180℃以上220℃以下の範囲にある事が好ましく、180℃以上210℃以下であることがより好ましい。当該エステル化反応又はエステル交換反応終了の際の温度が220℃を超える場合には反応速度は大きくなるが、テトラヒドロフラン等の副生物が多くなり好ましくない。また、180℃未満では反応が進行しなくなる。
【0020】
エステル化あるいはエステル交換反応により得られた反応生成物(ビスグリコールエーテルおよび/またはその低重合体)は当該反応生成物をPBNの融点以上270℃以下の温度において0.4kPa(3Torr)以下の減圧下で重縮合させることが好ましい。重縮合反応温度が270℃を超える場合にはむしろ反応速度が低下して、着色も大となるので好ましくない。
【0021】
重縮合反応において、重合触媒として通常用いられている触媒を前記チタン化合物と併用することも可能であるが、前記チタン化合物をエステル化あるいはエステル交換反応および重縮合反応の共通触媒として用いることが好ましい。他の触媒を併用するとPBNの着色が大となり、ひいては熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の色調も低下するので好ましくない。また、重縮合反応速度も前記チタン化合物を単独にて使用した場合と比較して大差が無く、併用効果が得られない。
【0022】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する(A)PBN中の末端カルボキシル基濃度は30.0eq/10kg以下であり、好ましくは0.1eq/10kg以上、25.0eq/10kgである。末端カルボキシル基濃度が30.0eq/10kgを超える場合には熱安定性や加水分解性が低下し、ひいては熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の熱安定性や加水分解性も低下するので好ましくない。
【0023】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する(A)PBNの固有粘度は機械的強度、成形性の点から0.60〜1.30dL/gが好ましい。固有粘度が0.60dL/g未満では機械的強度に劣り、1.30dL/gを超える場合には流動性が低下して成形加工性に劣るので好ましくない。
【0024】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する(A)PBNは重縮合反応を経て、固相重合反応を行うこともできる。固相重合反応は公知の方法を用いて行うことができる。固相重合反応温度は180℃〜230℃が好ましく、190℃〜220℃がより好ましい。固相重合反応温度が180℃未満では固相重合反応速度が遅く、固相重合反応性に劣る。また、230℃を超える場合には固相重合反応性は向上するが、固相重合反応後のPBNの色調が低下する恐れがあるので好ましくない。
【0025】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に用いられる(B)複合ゴム含有グラフト共重合体は、ガラス転移温度の異なる2種類以上のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムからなる複合ゴムに、1種また2種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなるものである。ここで各ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム成分は、1種類以上のアルキル(メタ)アクリレートを含む単量体を重合して得られるものである。
【0026】
上記複合ゴムの代わりにガラス転移温度が単一のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムのいずれか1種類もしくはこれらの混合物をゴム源として使用しても本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の有する特徴は得られず、ガラス転移温度の異なる2種類以上のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムからなる複合ゴムを用いた複合ゴム系グラフト共重合体を用いることによって、はじめて優れた耐衝撃特性、特に低温における耐衝撃特性を有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
(B)複合ゴム含有グラフト共重合体を構成するポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムに用いられるアルキル(メタ)アクリレート単量体としては、特に制限は無く、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。これらのアルキル(メタ)アクリレートは1種もしくは2種以上を併用して用いられる。
【0028】
その1種以上のアルキル(メタ)アクリレートを含む単量体には、分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体が0質量%を超え20質量%以下の範囲、好ましくは0.1〜18.0質量%以下の範囲で含まれていてもよい。分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体は、架橋剤またはグラフト交叉剤としての役割を有するものであり、架橋剤としては例えば、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル変性シリコーン等のシリコーン等が挙げられる。また、グラフト交叉剤としては、例えばアリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。アリルメタクリレートは架橋剤として用いることもできる。これら架橋剤およびグラフト交叉剤は1種もしくは2種以上併用して用いられる。このような架橋剤が含まれている事で、アルキル(メタ)アクリレートを含む単量体を重合した重合体はゴム(エラストマー)としての性能を発現できるようになる。
【0029】
さらに、この単量体にはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;メタクリル変性シリコーン、フッ素含有ビニル化合物等の各種ビニル系単量体が30質量%以下の範囲で共重合成分として含まれていてもよい。
【0030】
ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムは上述のアクリルゴム成分を2種以上含むものであり、これらのアクリルゴム成分としてはそれぞれ互いにガラス転移温度の異なるものが使用される。即ち、ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムは、10℃以下にガラス転移温度を2つ以上有することが好ましく、また、少なくとも1つのガラス転移温度がn−ブチルアクリレート単独重合体のガラス転移温度よりも低いことが好ましい。ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムのガラス転移温度がこのような場合、得られる複合ゴム含有グラフト共重合体はより耐衝撃特性を付与できるものとなり好ましい。
【0031】
ここで、ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムのガラス転移温度は、動的機械的特性解析装置(以下、DMAと称する)で測定されるTanδの転移点として測定される。一般に、単量体から得られた重合体は、固有のガラス転移温度を持ち、単独(単一成分または複数成分のランダム共重合体)では一つの転移点が観測されるが、複数成分の混合物もしくは複合化された重合体では、それぞれに固有の転移点が観測される。例えば、2成分からなる場合、測定により2つの転移点が観測される。DMAにより観測されるTanδ曲線では2つのピークが観測されるが、組成比に偏りがある場合や転移温度が近い場合には、それぞれのピークが接近する場合があり、ショルダー部分を持つピークとして観測される場合がある。これは、単独成分の場合に見られる単純な1ピークの曲線とは異なり判別可能である。
【0032】
ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムは、ガラス転移温度が異なる2種以上のアクリルゴム成分を含むものであれば、特に制限は無いが、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルメタクリレート及びステアリルメタクリレートからなる群の少なくとも1種を構成成分として含むアクリルゴム成分(a)と、n−ブチルアクリレートを構成成分として含むアクリルゴム成分(b)とからなるものは、優れた耐衝撃特性を持つので好ましく、さらにはアクリルゴム成分(a)が2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレートのうち少なくとも1種を構成成分として含むと耐衝撃特性、特に低温における耐衝撃特性に優れるのでより好ましい。
【0033】
さらに、この場合、ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムのアクリルゴム成分(a)由来のガラス転移温度(Tg(a))が、アクリルゴム成分(b)由来のガラス転移温度(Tg(b))よりも低いと低温における耐衝撃特性に優れるので好ましい。
【0034】
ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムの製造方法としては、特開2005−112907号公報等に記載されている方法、例えば、2種のアクリルゴム成分から製造される場合には、まず1種の以上のアルキル(メタ)アクリレートを含む単量体を重合して、アクリルゴム成分(a)のラテックスを得る。次いで当該アクリルゴム成分ラテックス中に、アクリルゴム成分(b)を構成する単量体を添加、含浸させた後、ラジカル重合開始剤の存在下にて重合させる方法等が挙げられる。重合の進行に伴い、異なる2種類のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムによる架橋網目が形成され、実質上、2種のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム成分が相互に分離不可能に絡み合って一体化したポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムが得られる。その他、アクリルゴム成分(b)をアクリルゴム成分(a)の存在下で滴下重合を行ったり、あるいは複合化したゴムを酸あるいは塩等で肥大化する等の方法を用いて製造することができる。
【0035】
さらに、具体的には2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレートからなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体を構成成分として含むアクリルゴム成分(a)の存在下にて、アクリルゴム成分(b)を構成するn−ブチルアクリレートを含む単量体を乳化重合して、ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムを得ることが好ましい。ここで、重合方法は特に限定されないが、通常、乳化重合、必要とあれば強制乳化重合によっても良く、特にアクリルゴム成分(a)として好ましく用いられる上述の単量体の重合には強制乳化重合が好ましく用いられる。また、アクリルゴム成分(a)を構成する単量体として、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレートを使用する場合、これらは水溶性に乏しいため、強制乳化重合法でアクリルゴム成分(a)を製造することが好ましい。
【0036】
ここで乳化剤、分散安定剤としては、アニオン性、非イオン性あるいはカチオン性等の公知で任意の界面活性剤を使用することができる。また、必要に応じて、その混合物を用いることができるが、その場合はミセル形成能の大きい乳化剤と、小さい乳化剤を組み合わせて使用することが好ましい。
【0037】
上記のようにして得られたアクリルゴム成分(a)とアクリルゴム成分(b)とが相互に分離不可能に絡み合って一体化した複合ゴムは、アクリルゴム成分(a)1〜99質量%とアクリルゴム成分(b)99〜1質量%から構成されることが好ましい。
【0038】
ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムの平均粒子径は、80nm〜1500nmが好ましく、かかるゴムの平均粒子径の分布は単一の分布であるもの、および2山以上の複数の山を有するもののいずれのものでも使用可能である。
【0039】
ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムにグラフト重合させるビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、グリシジルイタコネート等のエポキシ基含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらは1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
また、ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムにグラフト重合させるビニル系単量体には必要に応じて、分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル変性シリコーン等のシリコーン等の架橋剤や、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のグラフト交叉剤を20質量%以下の範囲で添加して使用してもよい。
【0041】
ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴム含有グラフト共重合体における上記ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムと上記ビニル系単量体との割合は、好ましくはポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムが60.0〜99.9質量%、ビニル系単量体が40.0〜0.1質量%であり、さらに好ましくはポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムが70.0〜99.9質量%、ビニル系単量体が30.0〜0.1質量%であり、より好ましくはポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムが80.0〜99.9質量%、ビニル系単量体が20.0〜0.1質量%であり、また、より好ましくはポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムが85.0〜95.0質量%、ビニル系単量体が15.0〜5.0質量%である。
【0042】
(B)ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴム含有グラフト共重合体は、ビニル系単量体をポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムのラテックスに加え、ラジカル重合によって一段もしくは多段で重合させて得られる。このようにして得られたポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴム含有グラフト共重合体は、このグラフト共重合体ラテックスを硫酸、塩酸等の酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、または硫酸マグネシウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、凝固し分離、回収することにより粒子として得られる。この時、炭酸ナトリウムや硫酸ナトリウム等の塩類を併用してもよい。また、噴霧乾燥等の直接乾燥法等でも得られる。
【0043】
また、(B)複合ゴム系グラフト共重合体にはスルホン酸基もしくは硫酸基を含有し、かつベンゼン環骨格を1分子中に2個以上有する化合物またはその塩が含まれることが、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の熱安定性を向上させる点からも好ましい。ここで、スルホン酸基もしくは硫酸基を含有し、かつベンゼン環骨格を有する化合物またはその塩としては、アルキルフェニル型、アルキルフェニルエーテル型等であってもよく、分子中にノニオンであるポリオキシエチレン鎖を含んでいてもよい。
【0044】
このような化合物の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の直鎖もしくは分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウムのようなポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸およびその塩;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(アルキルフェノキシベンゼンスルホン酸ナトリウム)等のジフェニルエーテルジスルホン酸およびその塩等が挙げられるが、特にアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩である。上述の化合物は1種もしくは2種以上を併用してもよい。
【0045】
上述の化合物またはその塩は、(B)複合ゴム含有グラフト共重合体中に0.1〜100000ppmの範囲で存在するように配合されることが好ましい。また、上述の化合物を乳化剤として使用する場合、上述の化合物またはその塩が(B)複合ゴム含有グラフト共重合体中に0.1〜100000ppmの範囲で存在するように重合生成物である(B)複合ゴム含有グラフト共重合体を、そのラテックスから凝固回収する際に、これを適宜洗浄したり、既知の凝析剤を用いて凝固、洗浄したりして、(B)複合ゴム含有グラフト共重合体中の化合物またはその塩の存在比率を調製することが好ましい。
【0046】
上記のような要件を満たしている(B)複合ゴム含有グラフト共重合体としては、例えば、三菱レイヨン(株)社製のメタブレンW−450A(商品名)等が挙げることができる。
【0047】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における(A)PBNと(B)複合ゴム含有グラフト共重合体との含有量は、(A)と(B)の合計100質量部を基準として、(A)PBNの含有量が99〜50質量部、(B)複合ゴム含有グラフト共重合体の含有量が1〜50質量部であることが好ましい。(B)複合ゴム含有グラフト共重合体の含有量が1質量部未満では耐衝撃特性が得られない。50質量部を超えると成形加工性や成形外観が低下する。
【0048】
更に本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に用いられる(C)充填剤としては、金属、酸化物、水酸化物、珪酸もしくは珪酸塩、炭酸塩、炭化珪素、合成繊維、動物性繊維または植物性繊維などが挙げられ、これらの具体的な代表例としては、アルミニウム粉、銅粉、鉄粉、アルミナ、天然木材、紙、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、マイカ、カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカ、クレー、ゼオライト、タルク、ウォラストナイト、アセテート粉、絹粉、アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、カーボンブラック、グラファイトまたはガラスビーズなどが挙げられる。これらの(C)充填剤は必要に応じて1種類を使用したり、または2種類以上を併用してもよい。より具体的には、ガラス繊維として旭ファイバーグラス(株)社製のCS03JAFT792(商品名)を、炭素繊維として東邦テナックス(株)社製のHTA−C6−SR(商品名)を挙げることができる。
【0049】
さらに(C)充填剤として再生充填剤材料も使用できる。再生充填剤材料としては、籾殻、フスマ、米糠、とうもろこし屑、芋ガラ、脱脂大豆、胡桃殻、ココナッツヤシ殻、スソコ、バガスなどの農産廃棄物、焼酎などの蒸留酒の蒸留粕、ビール麦芽粕、ワインブドウ粕、酒粕、醤油粕、茶滓、コーヒー滓、柑橘絞り滓などの飲料工場からの各種滓、オカラ、クロレラなどの食品加工廃棄物、牡蠣殻などの貝殻、海老や蟹の甲羅などの水産廃棄物、おが屑、廃ほだ木、樹皮、伐採竹、製剤所での木材切削や、木造家屋の解体などで発生する廃木材などの木質系廃棄物、古紙や製紙業から発生する廃パルプ、紙片などの廃棄物が挙げられる。
【0050】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物への分散性を改良するため、予め無水マレイン酸などの多塩基酸無水物、ジクミルペルオキシドなどの有機過酸化物、酸変性された変性ポリオレフィン、ポリエステルなどのワックス、ステアリン酸亜鉛などの脂肪酸金属塩、酸化チタンや酸化カルシウムなどの金属酸化物などの微粒子などで表面処理された(C)充填剤も使用することができる。
【0051】
これらの(C)充填剤は単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。通常、(A)PBNおよび(B)複合ゴム含有グラフト共重合体とからなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物100質量部に対して5〜50質量部の範囲で配合される。(C)充填剤が5質量部未満では機械的強度が不足し、50質量部を超えると成形加工性や成形外観が悪化する恐れがある。
【0052】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、さらに(D)難燃剤を含むことが好ましい。
その(D)難燃剤としては、例えば、ヘキサブロモブロモベンゼン、デカブロモジフェニルオキサイドなどの芳香族ハロゲン化合物、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂などのハロゲン化エポキシ化合物、ハロゲン化ポリカーボネート樹脂、ブロム化ポリスチレン樹脂、ブロム化ビスフェノールシアヌレート樹脂、ブロム化ポリフェニレンオキサイド、デカブロモジフェニルオキサイドビスフェノール縮合物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムなどのアンチモン化合物、メラミン、シアヌル酸、シアヌル酸メラミンなどのトリアジン化合物、トリクレジルホスフェート、トリアリルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリ(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェートなどのリン酸エステル、フェニレンビス(フェニルグリシジルホスフェート)などの縮合リン酸エステル、赤燐、ポリリン酸アンモニウム/ペンタエリスリトール複合系などのリン化合物、ホスフェート型ポリオール、含ハロゲンポリオール、含リンポリオールなどのポリオール、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アルミン酸カルシウム、ハイドロタルサイトなどの金属水酸化物、その他カオリンクレー、ドーソナイト、炭酸カルシウムホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、フェロセン、錫化合物、無機錯塩などが挙げられる。より具体的には、ハロゲン化エポキシオリゴマーとして、Bromine Compounds Ltd.製のF2400(商品名)を、三酸化アンチモンとして日本精鉱(株)社製のパトックスM(商品名)を挙げることができる。
【0053】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の効果を損なわない範囲において、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩も(D)難燃剤として用いることができる。例えば、有機スルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、硫酸エステルのアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、有機スルホンアミドのアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0054】
具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、メチルブチルスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸等のアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、もしくはかかるアルキル基の水素の一部がフッ素原子で置換されたフッ素化アルカンスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロメチルブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、もしくはパーフルオロオクタンスルホン酸等のパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、ジフェニルサルファイド−4、4′−ジスルホン酸、ジフェニルサルファイド−4、4′−ジスルホン酸等のモノマー状もしくはポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、5−スルホイソフタル酸共重合のポリエチレンテレフタレートのアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、ポリスルホン酸等の芳香族カルボン酸およびエステルのスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、1−メトキシナフタレン−4−スルホン酸、4−ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸、ポリ(1,3−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸、ポリ(1,4−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸もしくはポリ(2−フルオロ−6−ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸等のモノマー状もしくはポリマー状の芳香族エーテルのスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、ベンゼンスルホネートのスルホン酸等の芳香族スルホネートのスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、ベンゼンスルホン酸、p−ベンゼンジスルホン酸、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸、ビフェニル−3,3′−ジスルホン酸等のモノマー状もしくはポリマー状の芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸、ジフェニルスルホン−3,4′−ジスルホン酸等のモノマー状もしくはポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、α,α,α−トリフルオロアセトフェノン−4−スルホン酸、ベンゾフェノン−3,3′−ジスルホン酸等の芳香族ケトンのスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、チオフェノン−2,5−ジスルホン酸、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウムなどの複素環式スルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、ジフェニルスルホキサイド−4−スルホン酸等芳香族スルホキサイドのスルホン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、ナフタレンスルホン酸、アントラセンスルホン酸等の芳香族スルホン酸等のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩のメチレン型結合による縮合体、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリもしくはテトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、ステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステル等の一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、サッカリン、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミド、N−(N′−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、N−(フェニルカルボキシル)スルファニルイミド等の芳香族スルホンアミドのアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0055】
これらの(D)難燃剤は単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。通常、(A)PBNおよび(B)複合ゴム含有グラフト共重合体とからなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物100質量部に対して1〜50質量部の範囲で配合される。(D)難燃剤が1質量部未満では難燃性が不足し、50質量部を超えると、機械的強度や熱安定性が低下する恐れがある。
【0056】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、さらに(E)滴下防止剤を含むことが好ましい。
かかる滴下防止剤を上記難燃剤と併用することによって、より良好な難燃性を有することができる。かかる滴下防止剤としては、フィブリル形成能を有する含フッ素系ポリマーを挙げることができ、かかるポリマーとしてはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えばテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂等を挙げることができるが、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと称する)である。
【0057】
フィブリル形成能を有するPTFE(フィブリル化PTFE)は極めて高い分子量を有し、剪断力等の外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その数平均分子量は、150万〜数千万の範囲である。かかる加減はより好ましくは300万である。かかる数平均分子量は、特開平6−145520号公報に開示されている通り、380℃におけるPTFEの溶融粘度に基づき算出される。即ち、フィブリル化PTFEは、かかる公報に記載された方法で測定される380℃における溶融粘度が10〜1013poiseの範囲であり、好ましくは10〜1012poiseの範囲である。
【0058】
かかるPTFEは、固体形状の他に、水性分散液形態のものも使用可能である。また、かかるフィブリル化PTFEは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。また、特開平6−145520号公報に開示されている通り、かかるフィブリル化PTFEを芯とし、低分子量のPTFEを殻とした構造を有するものも好ましく利用される。
【0059】
フィブリル化PTFEの市販品としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル(株)社製のテフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業(株)社製のポリフロンMPA FA500、F201L等が挙げられる。フィブリル化PTFEの水性分散液の市販品としては、旭硝子(株)社製のフルオンAD−1、AD−936、AD−938、ダイキン(株)社製のフルオンD−1、D−2、三井・デュポンフロロケミカル(株)社製のテフロン(登録商標)30J等が挙げられる。
【0060】
このような他の樹脂との混合形態のフィブリル化PTFEとしては、(1)特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報等に記載されているフィブリル化PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合して共沈殿を行って共凝集混合物を得る方法、(2)特開平4−272957号公報に記載されたフィブリル化PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法、(3)特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報等に記載されているフィブリル化PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法、(4)特開平9−95583号公報に記載されているフィブリル化PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法、(5)特開平11−29679号公報に記載されているPTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、さらに当該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法により得られたものが使用できる。
【0061】
これらの他の樹脂との混合形態のフィブリル化PTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)社製のメタブレンA3800、A3700、A3000、またはGEスペシャリティーケミカルズ社製のBLENDEX B449、Pacific Interchem Corporation社製のPOLY TS AD001(以上、商品名)等が挙げられる。
【0062】
(E)滴下防止剤は、(A)PBNおよび(B)複合ゴム含有グラフト共重合体とからなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物100質量部に対して0〜3質量部の範囲で配合される。3質量部を超えると成形外観が低下する。
【0063】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には必要に応じて可塑剤を添加することもできる。可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジノルマルオクチルフタレート、2−エチルヘキシルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジノニルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジデシルフタレート、ジイソデジルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、オクチルベンジルフタレート、ノルマルヘキシルノルマルデシルフタレート、ノルマルオクチルノルマルデシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;トリクレジルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、2−エチルへキシルジフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;ジ−2−エチルへキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ノルマルオクチル−ノルマルデシルアジペート、ノルマルヘプチル−ノルマルノニルアジペート、ジイソオクチルアジペート、ジイソノルマルオクチルアジペート、ジノルマルオクチルアジペート、ジデシルアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;ジブチルセバケート、ジ−2−エチルへキシルセバケート、ジイソオクチルセバケート、ブチルベンジルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤;ジ−2−エチルへキシルアゼレート、ジヘキシルアゼレート、ジイソオクチルアゼレートなどのアゼライン酸エステル系可塑剤;クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリス(2−エチルヘキシル)等のクエン酸エステル系可塑剤;メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のグリコール酸系可塑剤;トリブチルトリメリテート、トリス(ノルマルヘキシル)トリメリテート、トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリス(ノルマルオクチル)トリメリテート、トリス(イソオクチル)トリメリテート、トリス(イソデシル)トリメリテート等のトリメリット酸系エステル可塑剤;ジ−2−エチルヘキシルイソフタレート、ジ−2−エチルヘキシルテレフタレート等のフタル酸異性体エステル系可塑剤;メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート等のリシリノール酸系エステル可塑剤;ポリプロピレンアジペート、ポリプロピレンセバケートおよびこれらの変型ポリエステル等のポリエステル系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシブチルステアレート、エポキシ(2−エチルヘキシル)ステアレート、エポキシ化あまに油、2−エチルヘキシルエポキシトーレート等のエポキシ系可塑剤などが挙げられる。これらは必要に応じて1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には必要に応じて安定剤を添加することもできる。安定剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜流酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛系安定剤;カリウム、マグネシウム、バル有無、亜鉛、カドミウム鉛等の金属と2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ベヘニン酸等の脂肪酸とから誘導される金属石鹸系安定剤;アルキル基、エステル基と脂肪酸塩、マレイン酸塩、含硫化物から誘導される有機錫系安定剤;Ba−Zn系、Ca−Zn系、Ba−Ca系、Ca−Mg−Sn系、Ca−Zn−Sn系、Pb−Sn系、Pb−Ba−Ca系等の複合金属石鹸系安定剤;バリウム、亜鉛等の金属と、2−エチルヘキサン酸イソデカン酸、トリアルキル酢酸等の分岐脂肪酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、ナフテン酸等の脂肪環族酸、石炭酸、安息香酸、サリチル酸、それらの置換誘導体等の芳香族酸といった通常2種以上有機酸とから誘導される金属塩系安定剤;これらの安定剤を、石油系炭化水素、アルコール、グリセリン誘導体等の有機溶媒に溶解し、さらに亜リン酸エステル、エポキシ化合物、発色防止剤、透明性改良剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤等の安定化助剤を配合してなる金属塩液状安定剤等の金属系安定剤;エポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化植物油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等のエポキシ化合物、リンがアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシル基等で置換され、かつプロピレングリコールなどの2価アルコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の芳香族化合物を有する有機亜リン酸エステル、BHTや硫黄やメチレン基などで二量体化したビスフェノールなどのヒンダードフェノール、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダードアミンまたはニッケル錯塩の光安定剤、カーボンブラック、ルチル型酸化チタン等の紫外線遮蔽剤、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール等の多価アルコール、β−アミノクロトン酸エステル2−フェニルインドール、ジフェニルチオ尿素、ジシアンジアミドなどの含窒素化合物、ジアルキルチオプロピオン酸エステル等の含硫黄化合物、アセト酢酸エステル、デヒドロ酢酸、β−ジケトン等のケト化合物、有機珪素化合物、ほう酸エステルなどといった非金属系安定剤が挙げられる。これらは1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない限りにおいて必要に応じて(B)複合ゴム含有グラフト共重合体以外のゴム含有グラフト共重合体や共重合体ゴムを併用することもできる。複合ゴム系グラフト共重合体以外のゴム含有グラフト共重合体や共重合体ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン系共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン系共重合体、ブタジエンゴム含有メタクリル酸メチル−スチレン系グラフト共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体、ブタジエンゴム含有アクリロニトリル−スチレン系グラフト共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体ゴム、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、アクリルゴム含有メタクリル酸メチルグラフト共重合体、アクリルゴム含有メタクリル酸メチル−スチレン系グラフト共重合体、アクリルゴム含有アクリロニトリル−スチレン系共重合体、シリコーン含有アクリル系ゴム含有メタクリル酸メチルグラフト共重合体、シリコーン含有アクリル系ゴム含有メタクリル酸メチル−スチレン系グラフト共重合体、シリコーン含有アクリル系ゴム含有アクリロニトリル−スチレン系グラフト共重合体、シリコーン系ゴム含有メタクリル酸メチルグラフト共重合体、シリコーン系ゴム含有アクリロニトリル−スチレン系グラフト共重合体等が挙げられる。エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)のジエンとしては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、プロペニルノルボルネン等が使用される。これらのゴム含有グラフト共重合体や共重合体ゴムは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて滑剤を添加することもできる。滑剤としては例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン、低分子量ポリエチレン等の純炭化水素系;ハロゲン化炭化水素系;高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等の脂肪酸系;脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド系;脂肪酸の低級アルコールエステル、グリセリド等の脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸のポリグリコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)、等のエステル系;金属石鹸、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、脂肪酸とポリグリコール、ポリグリセロールの部分エステル系の滑剤を挙げることができる。
【0067】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて加工助剤を添加することもできる。加工助剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン−α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−マレイミド共重合体等が挙げられる。
【0068】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、その特性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて上記の添加剤の他に、または上記の添加剤と一緒に顔料、防曇剤、抗菌剤、帯電防止剤、導電性付与剤、界面活性剤、結晶核剤、耐熱性向上剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0069】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる有用な成形品としては、例えば、射出成形による中空成形体、射出成形体等が挙げられる。その具体例としては、電気・電子部品、家電照明部品、自動車用部品、機構部品等が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各記載中、「部」は質量部を、「%」は質量%を示す。また、諸物性の測定は以下の方法により実施した。
【0071】
(1)固有粘度(IV)測定
常法に従って、溶媒であるオルトクロロフェノール中、35℃で測定した。
【0072】
(2)チタン原子含有量測定
生成PBN中のチタン原子含有量は理学電機社製蛍光X線測定機ZSX100e型を用いて定量した。
【0073】
(3)末端カルボキシル基濃度測定
PBNをベンジルアルコールに溶解して、0.1N−NaOHにて滴定した値であり、1×10g当たりの末端カルボキシル基の当量濃度である。
【0074】
(4)Izod衝撃強度測定
ノッチ付き試験片を用いて、ASTM D256に準拠して測定した。
【0075】
(5)延性脆性転移温度測定
予備乾燥された熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機により、溶融温度280℃の条件下、射出成形を行い、アイゾット衝撃用試験片(1/8インチ厚み)を作成する。得られた試験片に0.25Rのノッチを付け、これを低温恒温槽を用いて、30℃〜−50℃の間にて5℃間隔で2時間状態調整を行い、状態調整後、ASTM D256に準じてアイゾット衝撃強度を測定する。測定データーをセクションペーパーにプロットし、強度が延性状態から脆性へと転移する温度を求めた。
【0076】
(6)引張強度測定
ASTM D638に準拠して測定した。測定用試験片は成形直後(乾熱処理前と称する)、および150℃で300時間の乾熱劣化試験後(乾熱処理後)の2種類を使用した。
【0077】
(7)押出成形性測定
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物配合を押出成形によりペレット化する際に、容易にペレット化可能なものを○、やや困難であったものを△、ペレット化が不可能であったものを×と判定した。
【0078】
(8)成形外観測定
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物成形品の外観を目視にて観察し、充填剤であるガラス繊維の浮きの無いものを○、ガラス繊維の浮きが認められるものを×と判定した。
【0079】
(9)燃焼試験測定
UL94規格に準拠して、垂直型燃焼試験を実施した。試験片は1.6mm厚のものを用いた。バーナーの炎の高さを19mmに調整し、垂直に保持した試験片中央下端を炎に10秒間さらした後、炎から離し燃焼時間を記録した。消炎後は、ただちにバーナー炎を更に10秒間当てて炎から離し燃焼時間を計測した。有炎滴下物(ドリップ)がなく、1回目、2回目とも消火までの時間が10秒以内、かつ5本の試験片に10回接炎した後の燃焼時間の合計が50秒以内ならばV−0と、燃焼時間が30秒以内かつ5本の試験片に10回接炎した後の燃焼時間の合計が250秒以内であればV−1と判定した。また、V−1と同じ燃焼時間でも有炎滴下物がある場合はV−2、燃焼時間がそれより長い場合、あるいは試験片保持部まで燃焼した場合はV−outと判定した。
(A)ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)
【0080】
<製造例1:PBN−1>
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル315.0部、1,4−ブタンジオール200.0部にテトラ−n−ブチルチタネート0.062部をエステル交換反応槽に入れ、エステル交換反応槽が210℃となるように昇温しながら150分間エステル交換反応を行った。ついで得られた反応生成物を重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。
【0081】
重縮合反応は常圧から0.13kPa(1Torr)以下まで40分かけて徐々に重縮合反応槽内を減圧し、同時に所定の反応温度260℃まで昇温し、以降は所定の重縮合反応温度、圧力が0.13kPa(1Torr)の状態を維持して140分間重縮合反応を行った。140分が経過した時点で重縮合反応を終了してPBNをストランド状に抜き出し、水冷しながらカッターを用いてチップ状に切断した。得られたPBNの固有粘度、色調、末端カルボキシル基濃度を測定し、その結果を表1に示した。また、得られたPBNを温度213℃、圧力0.13kPa(1Torr)以下の条件にて8時間固相重合を行った。得られたPBNについて、固有粘度、末端カルボキシル基濃度、PBN中のチタン原子含有量の測定を行った。その結果を表1に示した。
【0082】
<製造例2:PBN−2>
固相重合を実施しなかった以外は、製造例1と同様にエステル交換反応および重縮合反応を実施して、PBN(PBN−2)を得た。得られたPBNについて固有粘度、末端カルボキシル基濃度、PBN中のチタン原子含有量の測定を行った。その結果を表1に示した。
【0083】
<製造例3:PBN−3>
重縮合反応の時間を140分間から60分間に変更した以外は、製造例1と同様にエステル交換反応および重縮合反応を実施して、PBN(PBN−3)を得た。得られたPBNについて固有粘度、末端カルボキシル基濃度、PBN中のチタン原子含有量の測定を行った。その結果を表1に示した。
【0084】
<製造例4:PBN−4>
テトラ−n−ブチルチタネートの添加量を0.242部とした以外は、製造例1と同様にエステル交換反応および重縮合反応を実施して、PBN(PBN−4)を得た。得られたPBNについて固有粘度、末端カルボキシル基濃度、生成PBN中のチタン原子含有量の測定を行った。その結果を表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
(実施例1〜8および比較例1〜7)
表2〜3に示す組成比(質量基準)の(A)〜(E)成分を、シリンダー温度280℃に設定した押出機にて溶融混練してペレット化した後、種々の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得た。また、シリンダー温度280℃、金型温度80℃に設定した射出成形機によって、1/8インチアイゾット試験片、および引張試験片を得た。これらを用いて評価した結果を表2および表3に示した。
【0087】
尚、使用した各成分の詳細は以下の通りである。
・(A)ポリブチレンナフタレート樹脂
<A−1>ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN−1:製造例1)
<A−2>ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN−2:製造例2)
<A−3>ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN−3:製造例3)
<A−4>ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN−4:製造例4)
・(B)複合ゴム含有グラフト共重合体
<B−1>三菱レイヨン(株)社製、商品名:メタブレンW−450A
・(C)充填剤
<C−1>ガラス繊維 旭ファイバーグラス(株)社製、商品名:CS03JAFT792
<C−2>炭素繊維 東邦テナックス(株)社製、商品名:HTA−C6−SR
・(D)難燃剤
<D−1>ハロゲン化エポキシオリゴマー Bromine Compounds Ltd.製、商品名:F2400
<D−2>三酸化アンチモン 日本精鉱(株)社製、商品名:パトックスM
・(E)滴下防止剤
<E−1>ポリテトラフルオロエチレン ダイキン化学工業(株)社製、商品名:F201L
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
表2に記載の結果から、Tgの異なる2種類のポリアルキル(メタ)アクリレートゴムよりなる複合ゴムを用いた複合ゴム含有グラフト共重合体の配合により、耐衝撃特性、特に低温における耐衝撃特性の向上が認められる。また、生成PBN中のチタン原子含有量および末端カルボキシル基濃度が適正な範囲に存在するPBNを用いることにより良好な熱安定性が得られることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は耐衝撃特性および熱安定性が良好であり、当該樹脂組成物より得られる成形品は高低温環境下に耐えることができ、自動車部品、機構部品等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)固有粘度が0.60〜1.30dL/gであり、末端カルボキシル基濃度が30.0eq/10kg以下であるポリブチレンナフタレート樹脂99〜50質量部、(B)ガラス転移温度の異なる2種類以上のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムからなる複合ゴムに、1種または2種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなる複合ゴム含有グラフト共重合体1〜50質量部からなる樹脂組成物100質量部に対して、(C)充填剤5〜50質量部、(D)難燃剤1〜50質量部および(E)滴下防止剤0〜3質量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリブチレンナフタレート樹脂中のチタン原子含有量が10ppm以上60ppm以下である請求項1記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
(E)滴下防止剤がポリテトラフルオロエチレンである請求項1または2のいずれか1項記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなる成形品。

【公開番号】特開2009−292887(P2009−292887A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145679(P2008−145679)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】