説明

熱可塑性樹脂シートの製造装置および製造方法

【課題】 表面性や転写性を確保しつつ、フラット性に優れた熱可塑性樹脂シートを製造する。
【解決手段】 本発明による熱可塑性樹脂シートの製造装置は、軸支点が固定された固定ロール2と、軸支点が可動な2本の可動ロール51,52に巻き掛けられかつダイ1から押し出された溶融状態の熱可塑性樹脂Mを固定ロールの表面に押し付ける金属製の賦形用ベルト3と、軸支点が可動な2本の可動ロール61,62に巻き掛けられかつ固定ロールと賦形用ベルトとによってシート状に賦形された熱可塑性樹脂を更に固定ロールの表面に押し付ける金属製の冷却用ベルト4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂シートの製造装置および製造方法に関し、特に、光学シート等として用いられるエンボスシートを製造するのに好適である製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融押出法による熱可塑性樹脂シートの一般的な製造方式としては、ダイから押し出された溶融樹脂を固定ロールと圧着ロールとで挟圧することによりシートを成形する2ロール方式や、溶融樹脂を高速高圧のエア流により固定ロールの表面に貼り付けて冷却固化させることによりシートを成形するエアチャンバ方式がある。また、シートの賦形効果および冷却効率を高めるため、例えば下記特許文献1に記載のように、溶融樹脂を、固定ロールと金属製ベルトとで挟圧することによりシートを成形するベルト方式も知られている。但し、特許文献1記載の装置の場合、固定ロールの構造が特殊で汎用性がなく、スタンパロールが剛直性に欠け賦形効果が満足できるものでなく、また、1本のベルトによって、溶融樹脂の冷却固化およびシートの表面形性と剥離に耐えうる冷却を行うため、十分な冷却を行うことができなかった。
【0003】
上述した各方式の製造装置を使用した場合、固定ロールの温度ムラや溶融樹脂の温度ムラにより、固定ロールの表面からシートが剥離するポイントが幅方向で不揃いとなって、シートに歪みが発生し、それによってシートのフラット性が損なわれることがあった。
【0004】
シートのフラット性が良くないと、それに起因して、シートの成形工程、貼り合わせ工程、その他の加工工程において様々な問題が生じる。即ち、フラット性の悪いシートを使用すると、ライン上で蛇行したり、規定長で裁断打抜きした際の寸法不良が発生することがある。また、光学シートの場合は、フラット性の不良により、光学性能の不均一性を招くことになる。
【0005】
シートのフラット性を改善する手段としては、成形時の樹脂温度や固定ロールの温度を下げることによって、シートを固定ロール上で十分に冷却固化することが考えられるが、その場合、シートの表面性が損なわれ、また、固定ロールの表面に凹凸形状が施されているときには、その転写性が低下してしまう。また、上記の手段によって溶融樹脂を急冷させると、シート内部の残留応力が大きくなってシート成形後にカールが発生したり、内部位相差が大きくなって光学シートとして使用できないといった問題が生じる。
【特許文献1】特開平10−235733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであって、表面性や転写性を確保しつつ、フラット性に優れた熱可塑性樹脂シートを提供することを目的としている。
【0007】
本発明による熱可塑性樹脂シートの製造装置は、軸支点が固定された固定ロールと、軸支点が可動な2本以上のロールに渡されかつダイから押し出された溶融状態の熱可塑性樹脂を固定ロールの表面に押し付ける金属製の賦形用ベルトと、軸支点が可動な2本以上のロールに渡されかつ固定ロールと賦形用ベルトとによってシート状に賦形された熱可塑性樹脂を更に固定ロールの表面に押し付ける金属製の冷却用ベルトとを備えているものである。
【0008】
本発明による熱可塑性樹脂シートの製造装置において、固定ロールの表面にエンボス加工用の凹凸形状が施されている場合がある。
【0009】
また、本発明による熱可塑性樹脂シートの製造方法は、ダイから押し出された溶融状態の熱可塑性樹脂を、軸支点が固定された固定ロールの表面に、軸支点が可動な2本以上のロールに渡された金属製の賦形用ベルトによって押し付けることによりシート状に賦形した後、更に、固定ロールの表面に、軸支点が可動な2本以上のロールに渡された金属製の冷却用ベルトによって押し付けることにより冷却するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による熱可塑性樹脂シートの製造装置および製造方法は、圧着ロールやエアと比較して接触面積が大きく冷却効果に優れている金属製のベルトを、同一の固定ロール上に2つ配置したものであって、前段の賦形用ベルトによって、シートの表面性が確保され、また、固定ロールの表面に凹凸形状が施されている場合にはその転写性が確保される一方、後段の冷却用ベルトによって、シートが固定ロールの表面から剥離するポイントを幅方向で均一に保つのに十分な冷却が与えられる。したがって、本発明による熱可塑性樹脂シートの製造装置および製造方法によれば、表面性や転写性を確保しつつ、フラット性に優れた熱可塑性樹脂シートを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、図1を参照して本発明の実施形態を説明する。この実施形態は、本発明を光学シート等として用いられるエンボスシートの製造に適用したものである。
図1に示すエンボスシートの製造装置は、軸支点が固定された固定ロール(2)と、軸支点が可動な2本のロール(51)(52)に渡されかつTダイ(1)から押し出された溶融状態の熱可塑性樹脂(M)を固定ロール(2)の表面に押し付ける金属製の賦形用ベルト(3)と、軸支点が可動な2本のロール(61)(62)に渡されかつ固定ロール(2)と賦形用ベルト(4)とによってシート状に賦形された熱可塑性樹脂(M)を更に固定ロール(2)の表面に押し付ける金属製の冷却用ベルト(4)とを備えている。
【0012】
Tダイ(1)からは、溶融状態の熱可塑性樹脂が膜状に押し出される。シート材料を構成する熱可塑性樹脂としては、例えばポリカーボネート樹脂、ノルボルネン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0013】
固定ロール(2)は、金属製であって、その表面にはエンボス加工用の凹凸形状(図示略)が施されている。固定ロール(2)の内部には中空部が形成されており、該中空部に必要に応じて冷却媒体を流通させることにより、固定ロール(2)の温度調整が行われる。
【0014】
賦形用ベルト(3)は、金属製の無端状のものであって、ダイ(1)から押し出された溶融状態の熱可塑性樹脂(M)を介して固定ロール(2)の表面に圧着されることにより、熱可塑性樹脂(M)を冷却固化してシート状に賦形するとともに、熱可塑性樹脂(M)の表面に固定ロール(2)表面の凹凸形状を転写する役割を果たす。
【0015】
冷却用ベルト(4)も、金属製の無端状のものであって、固定ロール(2)と賦形用ベルト(3)との間を通過してシート状に賦形された熱可塑性樹脂(M)を介して、固定ロール(2)の表面に圧着されることにより、熱可塑性樹脂(M)を更に冷却させて固定ロール(2)の表面から剥離するポイントを幅方向で均一に保つ役割を果たす。
【0016】
各ベルト(3)(4)の表面は、通常、鏡面となされており、この鏡面部分によって、熱可塑性樹脂(M)の裏面に艶付け加工が施される。また、各ベルト(3)(4)の温度は、例えば、これらが渡される2本のロール(51)(52),(61)(62)のうちいずれか1本を固定ロール(2)と同様の冷却構造を有するものとすることによって調節される。
【0017】
上記の製造装置を使用してエンボスシートを製造する場合、固定ロール(2)、賦形用ベルト(3)および冷却用ベルト(4)を回転させた状態で、これらを冷却手段によって所要温度に保持しつつ、Tダイ(1)から溶融状態の熱可塑性樹脂(M)を膜状に押し出す。そうすると、押し出された熱可塑性樹脂(M)が、まず、固定ロール(2)と賦形用ベルト(3)とで挟圧されて、シート状に賦形されるとともに、その表面に固定ロール(2)表面の凹凸形状が転写される。固定ロール(2)と賦形用ベルト(3)との間を通過してシート状に賦形された熱可塑性樹脂(M)は、次いで、固定ロール(2)と冷却用ベルト(4)とで挟圧されることにより、更に冷却された後、固定ロール(2)の表面から剥離される。この際、シート状に成形された熱可塑性樹脂(M)は、冷却用ベルト(4)による固定ロール(2)表面への圧着によって十分に冷却されているため、剥離ポイントが幅方向で均一に保たれる。成形されたシートは、その後、ガイドロール(7)を経てアニールロール(図示略)に送られ、ここで応力を除去され、さらに必要に応じて所要の処理が施された後、巻取機によって巻き取られる。
【実施例】
【0018】
以下の表1に示すシート製造装置によってエンボスシートを成形し、各シートについて固定ロールの表面からの凹凸形状の転写率およびフラット性を比較した。なお、実施例1および比較例1〜5において、シート材料にはポリカーボネート樹脂を使用し、成形するシートの厚みは200μmとした。固定ロールの表面には、平面より見て底辺100μmの正方形で高さが50μmである四角錐の凹状形状を施した。転写率の評価は、固定ロール表面に施された凹状形状の高さに対するシートに転写した凹状形状の高さの割合で示した。また、フラット性は、目視判定とした。
【0019】
【表1】

【0020】
表1の結果から明らかなように、実施例1では、転写率、フラット性のいずれについても、比較例1〜5と比べて良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態を示すものであって、エンボスシート製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0022】
(1):Tダイ
(2):固定ロール
(3):賦形用ベルト
(4):冷却用ベルト
(51)(52)(61)(62):ロール
(M):熱可塑性樹脂


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸支点が固定された固定ロールと、軸支点が可動な2本以上のロールに渡されかつダイから押し出された溶融状態の熱可塑性樹脂を固定ロールの表面に押し付ける金属製の賦形用ベルトと、軸支点が可動な2本以上のロールに渡されかつ固定ロールと賦形用ベルトとによってシート状に賦形された熱可塑性樹脂を更に固定ロールの表面に押し付ける金属製の冷却用ベルトとを備えていることを特徴とする、熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項2】
固定ロールの表面にエンボス加工用の凹凸形状が施されている、請求項1記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
ダイから押し出された溶融状態の熱可塑性樹脂を、軸支点が固定された固定ロールの表面に、軸支点が可動な2本以上のロールに渡された金属製の賦形用ベルトによって押し付けることによりシート状に賦形した後、更に、固定ロールの表面に、軸支点が可動な2本以上のロールに渡された金属製の冷却用ベルトによって押し付けることにより冷却することを特徴とする、熱可塑性樹脂シートの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−216626(P2007−216626A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42479(P2006−42479)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】