説明

熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法および縦延伸装置

【課題】長スパン型の縦延伸方法であっても、延伸後のフィルムにスジバリが発現することのない熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法及び装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルム2を一対のローラ16、16a、17、17aの周速差で引っ張ることにより長手方向に延伸する熱可塑性樹脂フィルム2の縦延伸方法において、一対のローラ16、16a、17、17a間を、フィルム2を、気体を吐出するノズル19を有する複数の円筒状ロール18と非接触で支持し、曲率半径25mm以上150mm以下で、湾曲させながら円筒状ローラ18を通過させ、フィルム2をノズル19から吐出する熱風により長手方向に延伸する延伸工程と、長手方向に延伸したフィルム2を、ノズル19から吐出する冷風により冷却・固化する冷却・固化工程と、を有することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法および装置に係り、特に、液晶表示装置などの光学用途に使用される熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムの製造は大きく分けて、溶液製膜法と溶融製膜法とに分類される。溶液製膜法は熱可塑性樹脂を溶剤に溶解したドープをダイから支持体、例えば冷却ドラム上に流延してフィルム状にする方法である。また、溶融製膜法は熱可塑性樹脂を押出機で溶融した後、ダイから支持体、例えば冷却ドラム上に押し出してフィルム状にする方法である。これらの方法により製膜された熱可塑性樹脂フィルムは、通常、縦(長手)方向、横(幅)方向に延伸することによって、面内レターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させ、液晶表示素子の位相差膜として使用し、視野角拡大を図ることが実施されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特表平6−501040号公報
【特許文献2】特開2001−42130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、溶液製膜法及び溶融製膜法のいずれの場合においても、縦延伸は、フィルムを局所ヒーターで加熱しながら、一対のローラの周速差によりフィルムを一瞬(通常、0.5秒程度)のうちにフィルム長手方向に引っ張ることでレターデーションを発現させる。しかし、フィルムを一瞬のうちに引っ張ると、幅方向に厚み分布やレターデーション分布が生じたり、且つローラとの摩擦で傷が発生し易くなるという問題がある。
【0004】
このことから、出願人は、一対のローラの間に加熱炉を設けて延伸距離を長スパン化し、これにより所定時間をゆっくりと延伸する長スパン延伸方法を提案している。
【0005】
しかしながら、この長スパン延伸方法は、上記のメリットがある反面、長スパンの間でフィルムを長手方向に引っ張ることで、フィルムの長手方向に形成された複数の皺(以下、「スジバリ」ともいう)が固定化されてしまい、延伸後のフィルム形状が波型のトタン形状になってしまうという問題がある。トタン形状に変形することにより、光学特性が変化してしまうため、光学材料として使用することができない、という問題点があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、フィルムを幅方向に拘束せず、長スパン型の縦延伸方法であっても、延伸後のフィルムにスジバリが発現することのない熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、熱可塑性樹脂フィルムを一対のローラの周速差で引っ張ることにより長手方向に延伸する熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法において、前記一対のローラ間を、前記フィルムを、気体を吐出するノズルを有する複数の円筒状ロールと非接触で支持し、曲率半径25mm以上150mm以下で、湾曲させながら前記円筒状ローラを通過させ、前記フィルムを前記ノズルから吐出する熱風により長手方向に延伸する延伸工程と、前記長手方向に延伸したフィルムを、前記ノズルから吐出する冷風により冷却・固化する冷却・固化工程と、を有することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法を提供する。
【0008】
請求項1によれば、曲率半径が25mm以上150mm以下の円筒状のロール間に、フィルムを通過させながら長手方向に延伸している。したがって、フィルムを円筒状ロールに沿って長手方向に湾曲させることができ、フィルムを幅方向に伸ばすことができる。したがって、フィルムには、長手方向への延伸による幅方向への収縮と、湾曲させることによる幅方向へ延びようとする力が加わるため、皺の発生を防止することができるため、スジバリの発現を防止することができる。
【0009】
またフィルムを円筒状ロールと非接触で通過させているため、円筒状ロールとフィルムの接触による面状欠陥を防止することができ、良好なフィルムを形成することができる。
【0010】
なお、円筒状ロールの曲率半径は25mm以上150mm以下である。円筒状ロールの曲率半径が大きいとフィルムが長手方向に湾曲しないため、幅方向にフィルムが伸びず、スジバリ発現防止の効果が得られない。また、曲率半径が小さいと、装置上の構成が難しく、好ましくない。
【0011】
また、縦延伸工程を行った後、冷風を吹き付けることにより、フィルムの冷却・固化を行っている。したがって、縦延伸が終了した時点で、フィルムを固化させることができるので、縦延伸が終了した時点でのフィルムを幅方向への収縮を維持することができ、所望のレターデーションを有するフィルムを製造することができる。
【0012】
請求項2は請求項1において、前記円筒状ロールと前記フィルムの距離が10mm以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項2によれば、円筒状ロールとフィルムの距離、つまり、フィルムの浮上量が10mm以下であるため、ノズルから吐出された熱風の熱をフィルムに伝えることができる。円筒状ロールとフィルムの距離が離れていると、この距離が安定しないため、好ましくない。
【0014】
請求項3は請求項1または2において、前記熱風の温度が前記フィルムの(Tg+5)℃以上(Tg+120)℃であることを特徴とする。
【0015】
請求項3によれば、フィルムのガラス転移温度をTgとしたとき、熱風の温度を上記範囲内とすることにより、フィルムを適度に柔らかい状態で延伸することができる。熱風の温度が(Tg+5)℃より低いとフィルムの塑性変形性が得られず、好ましくない。また、熱風の温度が(Tg+120)℃より高いと、フィルムが柔らかくなりすぎ、所望の延伸倍率に調節することが難しくなる。
【0016】
請求項4は請求項1から3いずれかにおいて、前記円筒状ロール間の距離が2mm以上100mm以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項4によれば、それぞれの円筒状ロール間の距離を上記範囲とすることにより、一方のロールから他方のロールにフィルムが移る際に、フィルムが湾曲せず、直線的に搬送される距離を適正な範囲とすることができる。
【0018】
各円筒状ロール間の距離が2mmより短いと、装置の構成が難しくなる。また、100mmより長いと円筒状ロールから円筒状ロールに移動する際、フィルムが湾曲せず、幅方向に伸ばす力が作用しないため、スジバリが発生し易くなる。
【0019】
請求項5は請求項1から4いずれかにおいて、前記円筒状ロールの前記フィルムに覆われている部分の角度(ラップ角)が120°以上であることを特徴とする。
【0020】
請求項5は、ラップ角度を規定したものであり、ラップ角度を上記範囲とすることにより、ロール上で幅方向に伸ばす力を大きくすることができるので、スジバリの発生を防止することができる。
【0021】
請求項6は請求項1から5いずれかにおいて、下記式(1)で表されるReが50nm以上300nm以下であり、(2)で表されるRthが−50nm以上150nm以下であることを特徴とする。
【0022】
【数1】

【0023】
請求項6は、面内レターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)の値を規定したものである。
【0024】
請求項7は請求項1から6いずれかにおいて、前記フィルムの素材がセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする。
【0025】
セルロースアシレートフィルムは、加熱により自己収縮し、幅が縮みやすいためスジバリが発生し易い。本発明の縦延伸方法は、このような性質を持ったセルロースアシレートフィルムに対して、特に効果的に用いることができる。
【0026】
本発明の請求項8は、前記目的を達成するために、熱可塑性樹脂フィルムを一対のローラの周速差で引っ張ることにより長手方向に延伸する熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸装置であって、前記一対のローラ間は、気体を吐出する複数の円筒状ロールを備え、前記円筒状のロールは、曲率半径が25mm以上150mm以下であり、前記円筒状ロールから吐出する気体が、複数の円筒状ロールの前半が、熱風であり、後半が冷風であることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸装置を提供する。
【0027】
請求項9は請求項8において、前記円筒状ロール同士の距離が2mm以上100mm以下であることを特徴とする。
【0028】
請求項10は請求項8または9において、前記円筒状フィルムの前記フィルムに覆われている部分の角度が120°以上であることを特徴とする。
【0029】
請求項8から10は、請求項か1から7の熱可塑樹脂フィルムの縦延伸方法を、熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸装置として展開したものである。請求項8から10によれば、請求項1から7と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、長手方向に延伸する際、円筒状のロールに沿ってフィルムを搬送しているため、フィルムを長手方向に沿って湾曲状に形成することができるので、フィルムが
幅方向に引っ張られることにより、スジバリの発生を防止することができる。また、フィルムの搬送を、この円筒状のロールから吐出される熱風により、円筒状ロールから浮上した状態で搬送されるため、フィルムが円筒状ロールと接触することにより、フィルムに面状欠陥が発生することなく、フィルムを縦延伸することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、添付図面により本発明の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法の好ましい実施の形態について詳説する。なお、本実施の形態では、セルロースアシレートフィルムを製造する例を示すが、本発明はこれに限定するものではなく、セルロースアシレートフィルム以外の熱可塑性樹脂の製造にも適用することができる。
【0032】
図1は、セルロースアシレートフィルムの製造装置の概略構成の一例を示したものであり、縦・横延伸セルロースアシレートフィルムを溶融製膜法により製造する場合である。
【0033】
図1に示すように、製造装置1は、主として、延伸前のセルロースアシレートフィルム2を製造する製膜工程部3と、製膜工程部3で製造された延伸前のセルロースアシレートフィルム2を縦延伸する縦延伸工程部4と、縦延伸された縦延伸フィルム2aを横延伸する横延伸工程部5と、縦・横延伸されたセルロースアシレートフィルム2bを巻き取る巻取工程部6とで構成される。なお、本実施の形態では、縦延伸工程部4を製造装置1の工程中に組み込まれた場合で説明するが、例えば、巻取工程部6で一旦巻き取った後に別の縦延伸ラインで縦延伸を行ってもよい。
【0034】
製膜工程部3では、押出機7で溶融させたセルロースアシレート樹脂がダイ8からシート状に押し出され、回転するドラム9上にキャストされる。そして、ドラム9の方面で溶融樹脂が冷却固化されてセルロースアシレートフィルム2が得られる。このセルロースアシレートフィルム2はドラム9から剥離された後、縦延伸工程部4、横延伸工程部5に順に送られて延伸され、巻取工程部6でロール状に巻き取られる。これにより、縦・横延伸セルロースアシレートフィルム2bが製造される。
【0035】
次に、本実施の形態に係る縦延伸工程部4について説明する。
【0036】
縦延伸工程部4において行われるセルロースアシレートフィルム2の延伸はセルロースアシレートフィルム2中の分子を配向させ、面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させるために行われる。ここで、レターデーションRe、Rthは以下の式(1)、(2)で求めることができる。
【0037】
【数2】

【0038】
縦延伸工程部4においては、図2に示すように、セルロースアシレートフィルム2は、ニップローラ方式の低速ローラ16、16aとニップローラ方式の高速ローラ17、17aとの周速差により縦方向に引き伸ばされる。
【0039】
低速ローラ16、16aと高速ローラ17、17aとの間には、複数の円筒状ロール18が設けられている。
【0040】
この円筒状ロール18は、気体を吐出するノズル19を備える。このノズル19から熱風を吐出することにより、セルロースアシレートフィルム2を適度に柔らかくし、縦延伸を行うことができる。また、複数設けられている円筒状ロール18の後半においては、ノズル19から冷風を供給し、冷却・固化を行い、縦延伸セルロースアシレートフィルム2aの固化を行う。これにより、縦延伸終了後のレターデーションの値を固定することができる。
【0041】
縦延伸工程は、セルロースアシレートフィルム2を、熱風により、円筒状ロール18に非接触で、円筒状ロール18から浮上した状態で搬送し、長手方向に延伸する。このとき、円筒状ロール18に沿って、セルロースアシレートフィルム2が長手方向に湾曲し、幅方向に引っ張られるため、長手方向に発生するスジバリを抑制することができる。したがって、円筒状ロール18は、曲率半径が25mm以上150mm以下とする。曲率半径が25mmより小さいと、装置上の構成が困難であり、曲率半径が150mmを超える場合は、フィルムの湾曲が抑えられるため、フィルムのスジバリの発生が抑制されない。
【0042】
また、円筒状ロール間の距離は2mm以上100mm以下であることが好ましい。円筒状ロール間の距離を上記範囲内とすることにより、セルロースアシレートフィルム2が一方の円筒状ロール18から他方の円筒状ロール18に移動する際に、セルロースアシレートフィルム2が直線になる長さを短くすることができるので、スジバリが発生することを防止することができる。円筒状ロール間の距離が2mm以下であると、装置の構成上、また、フィルム2を、円筒状ロール間を通過させるのが難しく、好ましくない。また、100mmを超える場合は、円筒状ロール18間に距離があるため、円筒状ロール18を移動する際、フィルム2が直線で延伸されるため、スジバリが発生しやすくなる。
【0043】
低速ローラ16、16aと高速ローラ17、17aとの間に設けられた円筒状ロールの並べ方は、図2は、同一のサイズのロール18を直線に並べたが、円筒状ロール18はそれぞれのサイズが異なっていてもよく、また、フィルム2幅方向に湾曲しながら搬送することができれば、ロール18が鉛直方向にずれていてもよい。
【0044】
また、ロール18の数は特に限定されず、用いることができるが、低速ローラ16、16aと高速ローラ17、17aとの距離は、フィルム2の幅の2.5倍以上とすることが好ましい。なお、低速ローラ16、16aと高速ローラ17、17aの距離とは、フィルム2がロール18の間を通る実際の距離のことをいう。
【0045】
各ロール18には、気体を吐出するノズル19を備える。このノズル19から熱風またが冷風を吐出しながら、フィルム2を搬送させることによりフィルム2をロール18から浮上させた状態で延伸、冷却を行うことが可能となる。ロール18から浮上させることにより、フィルム2をロール18と、非接触で搬送することができるため、フィルムの面状欠陥を防止することができる。
【0046】
気体はフィルムを浮上させることができれば、特に流速、流量、ノズルの数は限定せず用いることができるが、ロール18とフィルム2の距離、つまり、気体によるフィルムの浮上量を10mm以下とすることが好ましい。フィルムの浮上量が10mmより小さいと、ロール18の円弧に沿って、フィルムを搬送することができ、フィルムを長手方向に湾曲させることが出来るため、スジバリの発生を抑制することができる。
【0047】
ノズル19から吐出される熱風の温度はフィルムのガラス転移温度をTgとすると、熱風の温度は(Tg+5)℃以上(Tg+120)℃以下とすることが好ましい。熱風の温度が(Tg+5)℃より低いと、フィルム2が充分に柔らかくないため、延伸が充分に行えない。また、(Tg+120)℃より高いと、逆にフィルム2が柔らかくなりすぎて、好ましくない。熱風の温度はより好ましくは(Tg+10)℃以上(Tg+120)℃以下、さらに好ましくは(Tg+20)℃以上(Tg+120)℃以下である。
【0048】
また、ロール18に対するセルロースアシレートフィルム2が覆われている部分の角度(ラップ角)は、120°以上であることが好ましく、より好ましくは135°以上、さらに好ましくは150°以上である。ラップ角を上記範囲とすることにより、ロール18上で幅方向に伸ばす力を大きくすることができるので、スジバリの発生を防止することができる。
【0049】
フィルム2を熱風により加熱しながら縦延伸した後は、ロール18から熱風より低い温度の風を供給し、冷却を行う。加熱後に冷却を行うことにより、フィルムを幅方向に収縮させることができる。幅方向への収縮量としては、延伸前の幅と比較し、約40%収縮させることが好ましい。
【0050】
冷却する際の風の温度は、熱風により加熱が終了してから、除々に冷却していくことが好ましく、具体的には、加熱終了後を(Tg−10)℃から室温まで、除々に冷却することが好ましい。加熱終了後すぐに室温の風を吐出し冷却を行うと、フィルムが急冷されるため好ましくない。
【0051】
なお、加熱用の風を供給するロール18と冷却用の風を供給するロール18の数は、特に限定されず、設けることが可能である。
【0052】
以上説明した本実施の形態に係るセルロースアシレートフィルムの縦延伸方法によれば、ロール18から吐出される熱風によりフィルム2が浮上しながら、ロール18に沿ってフィルム2が湾曲しながら搬送され縦延伸されるので、フィルムがロール18と接触することがないため、フィルムの面状は良好であり、また、フィルム2は湾曲しているため、幅方向に引っ張られるため、スジバリの発生を抑制し、面状欠陥の少ない縦延伸方法を提供することができる。
【0053】
また、本発明の縦延伸方法により延伸された樹脂フィルムの面内レターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)は、Reが50nm以上300nm以下であり、Rthが−50nm以上150nm以下の範囲とすることができる。
【0054】
以下に、本発明に適したセルロースアシレート樹脂、セルロースアシレートフィルムの加工方法などについて手順に沿って詳細に説明する。
(1)可塑剤
本発明におけるセルロースアシレートフィルムを製造するための樹脂には、多価アルコール系可塑剤を添加するのが好ましい。このような可塑剤は弾性率を低下させるだけではなく、表裏の結晶量の差を低減させる効果も有する。
【0055】
多価アルコール系可塑剤の含有量は、セルロースアシレートに対し2〜20重量%が好ましい。多価アルコール系可塑剤の含有量を2〜20重量%が好ましく、より好ましくは3〜18重量%、さらに好ましくは4〜15重量%である。
【0056】
多価アルコール系可塑剤の含有量が2重量%未満の場合、上記効果が十分達成されず、一方、20重量%より多い場合、泣き出し(可塑剤の表面析出)が発生する。
【0057】
本発明で具体的に用いることができる多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。
【0058】
具体的なグリセリンエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0059】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0060】
ジグリセリンエステルの具体的な例としては、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0061】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0062】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0063】
ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンアセテート、ポリオキシエチレンプロピオネート、ポリオキシエチレンブチレート、ポリオキシエチレンバリレート、ポリオキシエチレンカプロエート、ポリオキシエチレンヘプタノエート、ポリオキシエチレンオクタノエート、ポリオキシエチレンノナネート、ポリオキシエチレンカプレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンミリスチレート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシエチレンリノレート、ポリオキシプロピレンアセテート、ポリオキシプロピレンプロピオネート、ポリオキシプロピレンブチレート、ポリオキシプロピレンバリレート、ポリオキシプロピレンカプロエート、ポリオキシプロピレンヘプタノエート、ポリオキシプロピレンオクタノエート、ポリオキシプロピレンノナネート、ポリオキシプロピレンカプレート、ポリオキシプロピレンラウレート、ポリオキシプロピレンミリスチレート、ポリオキシプロピレンパルミテート、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシプロピレンオレート、ポリオキシプロピレンリノレートなどが挙げられるがこられに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0064】
さらにこれらの多価アルコールの上記効果を十分に発現させるためには、下記条件でセルロースアシレートを溶融製膜することが好ましい。即ちセルロースアシレートと多価アルコールを混合したペレットを押出機で溶融しTダイから押し出して製膜するが、押出機入口温度(T1)より押出機出口温度(T2)を高くするのが好ましく、さらに好ましくはダイ温度(T3)をT2より高くするのが好ましい。即ち、溶融が進むにつれ温度を上昇してゆくことが好ましい。これは入口から急激に昇温すると、多価アルコールが先に溶解し液化する。この中でセルロースアシレートは浮遊したようになり、十分な剪断力をスクリューから受けることができず、不溶解物が発生する。このような十分混合の進んでいないものは、上記のような可塑剤の効果を発現できず、溶融押出し後のメルトフィルムの表裏差を抑制する効果が得られない。さらにこのような溶解不良物は製膜後にフィッシュアイ状の異物となる。このような異物は偏光板で観察しても輝点とならず、むしろフィルム背面から光を投射しスクリーン状で観察することで視認できる。さらにフィッシュアイはダイ出口で尾引きを引き起こし、ダイラインも増加させる。
【0065】
T1は150〜200°Cが好ましく、より好ましくは160〜195°C、さらに好ましくは165°C以上190°C以下である。T2は190〜240°Cの範囲が好ましく、より好ましくは200〜230°C、さらに好ましくは200〜225°Cである。このような溶融温度T1,T2は240°C以下であることが肝要である。この温度を超えると製膜フィルムの弾性率が高くなり易い。これは高温で溶融したためにセルロースアシレートに分解が起こり、これが架橋を引き起こし弾性率を上昇させるためと思われる。ダイ温度T3は200〜235°C未満が好ましく、より好ましくは205〜230°C、さらに好ましくは205°C以上225°C以下である。
(2)安定剤
本発明では、安定剤としてホスファイト系化合物、亜リン酸エステル系化合物のいずれか、もしくは両方を用いることが好ましい。これにより、経時劣化を抑制できる上、ダイラインも改善できる。これは、これらの化合物がレベリング剤として働き、ダイの凹凸により形成されたダイラインを解消するためである。
【0066】
これらの安定剤の配合量は、0.005〜0.5重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜0.4重量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.3重量%である。
【0067】
(i)ホスファイト系安定剤
具体的なホスファイト系着色防止剤は、特に限定されないが、化1〜3で示されるホスファイト系着色防止剤が好ましい。
【0068】
【化1】

【0069】
【化2】

【0070】
【化3】

【0071】
(ここで、R1、R2,R3、R4、R5、R6、R’1、R’2、R’3・・・R’p、R’p+1は水素又は炭素数4〜23のアルキル、アリール、アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、アルコキシアリール、アリールアルキル、アルキルアリール、ポリアリールオキシアルキル、ポリアルコキシアルキル及びポリアルコキシアリール基から成る群から選択された基を示す。但し、一般式(2)(3)(4)の各同一式中で全てが水素になることはない。一般式(3)中で示されるホスファイト系着色防止剤中のXは脂肪族鎖、芳香核を側鎖に有する脂肪族鎖、芳香核を鎖中に有する脂肪族鎖及び上記鎖中に2個以上連続しない酸素原子を包含する鎖から成る群から選択された基を示す。また、k、qは1以上の整数、pは3以上の整数を示す。)
これらのホスファイト系着色防止剤のk、qの数は好ましくは1〜10である。k、qの数が1以上にすることで加熱時の揮発性が小さくなり、10以下にすることでセルロースアセテートプロピオネートとの相溶性が向上するため好ましい。また、pの値は3〜10が好ましい。3以上のすることで加熱時の揮発性が小さくなり、10以下にすることでセルロースアセテートプロピオネートとの相溶性が向上するため好ましい。
【0072】
下記一般式(2)で表されるホスファイト系着色防止剤の具体例としては、下記式(5)〜(8)で表されるものが好ましい。
【0073】
【化4】

【0074】
【化5】

【0075】
【化6】

【0076】
【化7】

【0077】
【化8】

【0078】
また、下記一般式(3)で表されるホスファイト系着色防止剤の具体例としては、下記式(9)(10)(11)で表されるものが好ましい。
【0079】
【化9】

【0080】
【化10】

【0081】
【化11】

【0082】
【化12】

【0083】
(ii)亜リン酸エステル系安定剤
亜リン酸エステル系安定剤は、例えばサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0084】
(iii)その他の安定剤
弱有機酸、チオエーテル系化合物、エポキシ化合物等を安定剤として配合しても良い。
【0085】
弱有機酸とは、pKaが1以上のものであり、本発明の作用を妨害せず、着色防止性、物性劣化防止性を有するものであれば特に限定されない。例えば酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いても良い。
【0086】
チオエーテル系化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、パルミチルステアリルチオジプロピオネートが挙げられ、これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いても良い。
【0087】
エポキシ化合物としては、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールAより誘導されるものが挙げられ、エピクロルヒドリンとグリセリンからの誘導体やビニルシクロヘキセンジオキサイドや3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレートの如き環状のものも用いることができる。又、エポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油や長鎖−α−オレフィンオキサイド類なども用いることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いても良い。
【0088】
(3)セルロースアシレート
《セルロースアシレート樹脂》
(組成・置換度)
本発明で用いるセルロースアシレートは下記式(1)〜(3)で表される要件すべてを満たすセルロースアシレートが好ましい。
【0089】
2.0≦X+Y≦3.0 式(1)
0≦X≦2.0 式(2)
1.2≦Y≦2.9 式(3)
(上記式(1)〜(3)中、Xはアセテート基の置換度を示し、Yはプロピオネート基、ブチレート基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を示す。)
より好ましくは、
2.4≦X+Y≦3.0 式(4)
0.05≦X≦1.8 式(5)
1.3≦Y≦2.9 式(6)
さらに好ましくは、
2.5≦X+Y≦2.95 式(7)
0.1≦X≦1.6 式(8)
1.4≦Y≦2.9 式(9)
このようにセルロースアシレート中にプロピオネート基、ブチレート基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基を導入することが特徴である。このような範囲にすることで融解温度を低下でき、溶融製膜に伴う熱分解を抑制でき好ましい。一方、この範囲から出ると弾性率が本発明の範囲外となり、好ましくない。
【0090】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。
【0091】
次に、本発明のセルロースアシレートの製造方法について詳細に説明する。本発明のセルロースアシレートの、原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の7頁ないし12頁にも詳細に記載されている。
【0092】
(原料および前処理)
セルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%以上99.9質量%以下の高純度のものを用いることが好ましい。
【0093】
セルロース原料がフィルム状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、セルロースの形態はフラッフ状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0094】
(活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いた場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりするといった工程を含むことが好ましい。活性化剤はいかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法としては噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。
【0095】
活性化剤として好ましいカルボン酸は、炭素数2以上7以下のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸など)であり、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、又は酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。
【0096】
活性化の際は、必要に応じて更に硫酸などのアシル化の触媒を加えることもできる。しかし、硫酸のような強酸を添加すると、解重合が促進されることがあるため、その添加量はセルロースに対して0.1質量%〜10質量%程度に留めることが好ましい。また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2以上7以下のカルボン酸の酸無水物を添加したりしてもよい。
【0097】
活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。活性化剤の量が該下限値以上であれば、セルロースの活性化の程度が低下するなどの不具合が生じないので好ましい。活性化剤の添加量の上限は生産性を低下させない限りにおいて特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。活性化剤をセルロースに対して大過剰加えて活性化を行い、その後、ろ過、送風乾燥、加熱乾燥、減圧留去、溶媒置換などの操作を行って活性剤の量を減少させてもよい。
【0098】
活性化の時間は20分以上であることが好ましく、上限については生産性に影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はないが、好ましくは72時間以下、更に好ましくは24時間以下、特に好ましくは12時間以下である。また、活性化の温度は0°C以上90°C以下が好ましく、15°C以上80°C以下が更に好ましく、20°C以上60°C以下が特に好ましい。セルロースの活性化の工程は加圧または減圧条件下で行うこともできる。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。
【0099】
(アシル化)
本発明におけるセルロースアシレートを製造する方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。
【0100】
セルロース混合アシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基を更にアシル化する方法などを用いることができる。
【0101】
(酸無水物)
カルボン酸の酸無水物として、好ましくはカルボン酸としての炭素数が2以上7以下であり、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができる。より好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物などの無水物であり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。
【0102】
混合エステルを調製する目的で、これらの酸無水物を併用して使用することが好ましく行われる。その混合比は目的とする混合エステルの置換比に応じて決定することが好ましい。酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量添加する。すなわち、セルロースの水酸基に対して1.2〜50当量添加することが好ましく、1.5〜30当量添加することがより好ましく、2〜10当量添加することが特に好ましい。
【0103】
(触媒)
本発明におけるセルロースアシレートの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。好ましいルイス酸の例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。
【0104】
触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0105】
(溶媒)
アシル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることもできるが、好ましくはカルボン酸であり、例えば、炭素数2以上7以下のカルボン酸{例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸}などを挙げることができる。更に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを挙げることができる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0106】
(アシル化の条件)
アシル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、又は、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調整してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。冷却温度としては、−50°C〜20°Cが好ましく、−35°C〜10°Cがより好ましく、−25°C〜5°Cが特に好ましい。アシル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、又はブロック状の固体として添加してもよい。
【0107】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。アシル化剤を分割して添加する場合は、同一組成のアシル化剤を用いても、複数の組成の異なるアシル化剤を用いても良い。好ましい例として、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する、などを挙げることができる。
【0108】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明のセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化の際の最高到達温度が50°C以下であることが好ましい。反応温度がこの温度以下であれば、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースアシレートを得難くなるなどの不都合が生じないため好ましい。アシル化の際の最高到達温度は、好ましくは45°C以下であり、より好ましくは40°C以下であり、特に好ましくは35°C以下である。反応温度は温度調節装置を用いて制御しても、アシル化剤の初期温度で制御してもよい。反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。アシル化の際の発熱は反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。アシル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察などの手段により決定することができる。
【0109】
反応の最低温度は−50°C以上が好ましく、−30°C以上がより好ましく、−20°C以上が特に好ましい。好ましいアシル化時間は0.5時間以上24時間以下であり、1時間以上12時間以下がより好ましく、1.5時間以上6時間以下が特に好ましい。0.5時間以下では通常の反応条件では反応が十分に進行せず、24時間を越えると、工業的な製造のために好ましくない。
【0110】
(反応停止剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。
【0111】
反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものでもよく、好ましい例として、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)又はこれらを含有する組成物などを挙げることができる。また、反応停止剤には、後述の中和剤を含んでいても良い。反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースアシレートの重合度を低下させる原因となったり、セルロースアシレートが望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。カルボン酸と水の組成比は任意の割合で用いることができるが、水の含有量が5質量%〜80質量%、さらには10質量%〜60質量%、特には15質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0112】
反応停止剤は、アシル化の反応容器に添加しても、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。反応停止剤は3分〜3時間かけて添加することが好ましい。反応停止剤の添加時間が3分以上であれば、発熱が大きくなりすぎて重合度低下の原因となったり、酸無水物の加水分解が不十分になったり、セルロースアシレートの安定性を低下させたりするなどの不都合が生じないので好ましい。また反応停止剤の添加時間が3時間以下であれば、工業的な生産性の低下などの問題も生じないので好ましい。反応停止剤の添加時間として、好ましくは4分以上2時間以下であり、より好ましくは5分以上1時間以下であり、特に好ましくは10分以上45分以下である。反応停止剤を添加する際には反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0113】
(中和剤)
アシル化の反応停止工程あるいはアシル化の反応停止工程後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸及びエステル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム又は亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物又は酸化物)またはその溶液を添加してもよい。中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、およびこれらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0114】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90°Cに数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートのアシル置換度を所望の程度まで減少させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
【0115】
所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0116】
(ろ過)
セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、反応混合物(ドープ)のろ過を行うことが好ましい。ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0117】
(再沈殿)
このようにして得られたセルロースアシレート溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースアシレート溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースアシレートを再沈殿させ、洗浄及び安定化処理により目的のセルロースアシレートを得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースアシレート溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースアシレートの置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースアシレートの形態や分子量分布を制御することも好ましい。
【0118】
(洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理することが好ましい。洗浄溶媒はセルロースアシレートの溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものでも良いが、通常は水または温水が用いられる。洗浄水の温度は、好ましくは25°Cないし100°Cであり、更に好ましくは30°Cないし90°Cであり、特に好ましくは40°Cないし80°Cである。洗浄処理はろ過と洗浄液の交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行っても、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。
【0119】
洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行ってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。
【0120】
このような処理により、セルロースアシレート中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム又は亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物又は酸化物など)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができ、このことはセルロースアシレートの安定性を高めるために有効である。
【0121】
(安定化)
温水処理による洗浄後のセルロースアシレートは、安定性を更に向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理することも好ましい。
【0122】
残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。本発明においては、残留硫酸根量(硫黄原子の含有量として)が0〜500ppmになるようにアシル化、部分加水分解および洗浄の条件を設定する。
【0123】
(乾燥)
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200°Cであり、さらに好ましくは40〜180°Cであり、特に好ましくは50〜160°Cである。本発明のセルロースアシレートは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0.7質量%以下であることが特には好ましい。
【0124】
(形態)
本発明のセルロースアシレートは粒子状、粉末状、繊維状、塊状など種々の形状を取ることができるが、フィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましいことから、乾燥後のセルロースアシレートは、粒径の均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行っても良い。セルロースアシレートが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子径を有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。また、本発明のセルロースアシレート粒子は、見かけ密度が好ましくは0.5ないし1.3、更に好ましくは0.7ないし1.2、特に好ましくは0.8ないし1.15である。見かけ密度の測定法に関しては、JIS K−7365に規定されている。
【0125】
本発明のセルロースアシレート粒子は安息角が10ないし70度であることが好ましく、15ないし60度であることが更に好ましく、20ないし50度であることが特に好ましい。
【0126】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、平均重合度100〜300、好ましくは120〜250、更に好ましくは130〜200である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。更に特開平9−95538に詳細に記載されている。
【0127】
本発明においては、セルロースアシレートのGPCによる重量平均重合度/数平均重合度が1.6ないし3.6であることが好ましく、1.7ないし3.3であることが更に好ましく、1.8ないし3.2であることが特に好ましい。
【0128】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上である。
【0129】
[セルロースアシレート合成例]
以下に本発明に使用されるセルロースアシレートの合成例について、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・合成例1(セルロースアセテートプロピオネートの合成)
セルロース(広葉樹パルプ)150g、酢酸75gを、反応容器である還流装置を付けた5Lセパラブルフラスコに取り、60°Cに調節したオイルバスにて加熱しながら、2時間激しく攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、フラッフ状を呈した。反応容器を2°Cの氷水浴に30分間置き冷却した。
【0130】
別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545g、硫酸10.5gの混合物を作製し、−30°Cに冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を徐々に上昇させ、アシル化剤の添加から2時間経過後に内温が25°Cになるように調節した。反応容器を5°Cの氷水浴にて冷却し、アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10°C、2時間後に内温が23°Cになるように調節し、内温を23°Cに保ってさらに3時間攪拌した。反応容器を5°Cの氷水浴にて冷却し、5°Cに冷却した25質量%含水酢酸120gを1時間かけて添加した。内温を40°Cに上昇させ、1.5時間攪拌した。次いで反応容器に、50質量%含水酢酸に酢酸マグネシウム4水和物を硫酸の2倍モル溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸1L、33質量%含水酢酸500mL、50質量%含水酢酸1L、水1Lをこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートの沈殿は温水にて洗浄を行った。このときの洗浄条件を変化させることで、残硫酸根量を変化させたセルロースアセテートプロピオネートを得た。洗浄後、20°Cの0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、洗浄液のpHが7になるまで、さらに水で洗浄を行った後、70°Cで真空乾燥させた。
【0131】
1H−NMR及び、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル化度0.30、プロピオニル化度2.63、重合度320であった。硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96により測定した。
・合成例2(セルロースアセテートブチレートの合成)
セルロース(広葉樹パルプ)100g、酢酸135gを、反応容器である還流装置を付けた5Lセパラブルフラスコに取り、60°Cに調節したオイルバスにて加熱しながら、1時間放置した。その後、60°Cに調節したオイルバスにて加熱しながら、1時間激しく攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、フラッフ状を呈した。反応容器を5°Cの氷水浴に1時間置き、セルロースを十分に冷却した。
【0132】
別途、アシル化剤として酪酸無水物1080g、硫酸10.0gの混合物を作製し、−20°Cに冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を20°Cまで上昇させ、5時間反応させた。反応容器を5°Cの氷水浴にて冷却し、約5°Cに冷却した12.5質量%含水酢酸2400gを1時間かけて添加した。内温を30°Cに上昇させ、1時間攪拌した。次いで反応容器に、酢酸マグネシウム4水和物の50質量%水溶液を100g添加し、30分間攪拌した。酢酸1000g、50質量%含水酢酸2500gを徐々に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて洗浄を行った。このときの洗浄条件を変化させることで、残硫酸根量を変化させたセルロースアセテートブチレートを得た。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、さらに、洗浄液のpHが7になるまで水で洗浄を行った後、70°Cで乾燥させた。得られたセルロースアセテートブチレートはアセチル化度0.84、ブチリル化度2.12、重合度268であった。
(4)その他の添加剤
(i)マット剤
マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度を低くでき好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0133】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0134】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0135】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0136】
(ii)その他添加剤
上記以外に種々の添加剤、例えば紫外線防止剤(例えば、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物等)、赤外線吸収剤、光学調整剤、界面活性剤および臭気トラップ剤(アミン等)など)を加えることができる。これらの詳細は、発明協会公開技法公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会),p.17−22に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0137】
赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報のものが使用でき、紫外線吸収剤としては例えば特開平2001−151901号公報に記載のものが使用でき、それぞれセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。
【0138】
光学調整剤としてはレターデーション調整剤を挙げることができ、例えば特開2001−166144、特開2003−344655、特開2003−248117、特開2003−66230記載のものを使用することができ、これにより面内のレターデーション(Re),厚み方向のレターデーション(Rth)を制御できる。好ましい添加量は0〜10wt%であり、より好ましくは0〜8wt%、さらに好ましくは0〜6wt%である。
(5)セルロースアシレート混合物の物性
上記のセルロースアシレート混合物(セルロースアシレート、可塑剤、安定剤、その他の添加剤を混合したもの)は、以下の物性を満たすことが好ましい。
【0139】
(i)重量減
本発明の熱可塑性セルロースアセテートプロピオネート組成物は、220°Cにおける加熱減量率が5重量%以下である。ここで、加熱減量率とは窒素ガス雰囲気下において室温から10°C/分の昇温度速度で試料を昇温した時の、220°Cにおける重量減少率をいう。上記セルロースアシレート混合物にすることで、加熱減量率を5重量%以下にすることができる。より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。このようにすることにより、製膜中に発生する故障(気泡の発生)を抑制できる。
【0140】
(ii)溶融粘度
本発明の熱可塑性セルロースアセテートプロピオネート組成物は、220°C、1sec-1における溶融粘度が100〜1000Pa・secが好ましく、より好ましくは200〜800Pa・sec、さらに好ましくは300〜700Pa・secである。このような高めの溶融粘度にすることで、ダイ出口の張力で伸びる(延伸される)ことがなく、延伸配向に起因する光学異方性(レターデーション)の増加を防止できる。このような粘度の調整はどのような手法で達成しても良いが、例えばセルロースアシレートの重合度や可塑剤等の添加剤の量により達成できる。
【実施例】
【0141】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0142】
フィルムはフジタック(富士フイルム(株)製)を用いた。延伸前の厚みは80μmであり、ガラス転移温度Tgは140℃、縦延伸倍率が1.5倍となるように、延伸を行った。
【0143】
実施例1〜10および比較例1においては、図2に示す縦延伸工程部を用い、ロール上を浮上させてロールに非接触で縦延伸を行った。比較例2は、フィルムを支持せず延伸を行い、比較例3は、円筒状ロールを用いたが、ロールに支持(接触)させて延伸を行った。試験条件、結果を表1に示す。
【0144】
なお、表1中の面状の評価であるスジバリ、擦り傷は以下の基準により行った。
【0145】
<スジバリ>
机上にフィルムを広げたときのフィルムの波状の変形高さにより評価を行った。
◎ フィルムの波状の変形高さが1mm以下
○ フィルムの波状の変形高さが2mm以下
△ フィルムの波状の変形高さが5mm以下
× フィルムの波状の変形高さが8mm以下
×× フィルムの波状の変形高さが8mm超
<擦り傷>
フィルム1m×1mの面積中に観察される1mm以上の傷の総長さにより評価を行った。
◎ 総長さが0mm
○ 総長さが5mm以下
△ 総長さが10mm以下
× 総長さが10mm超
【0146】
【表1】

【0147】
比較例1は、ロール半径が大きいため、長手方向に生じるフィルムの湾曲が抑えられ、幅方向への収縮が強くなり、スジバリが発生しやすくなっていた。また、ロール表面に若干触れることもあり、擦り傷も若干悪化していた。また、ロールを支持せず延伸を行った比較例2においては、フィルムに傷は無かったがスジバリの発生が見られた。逆に円筒状ロールを用い、円筒状ロールとフィルムを接触させて延伸を行った比較例3は、スジバリの発生は無かったが、フィルムに擦り傷が発生していた。
【0148】
フィルムの浮上量が10mmより大きい実施例10ではスジバリが発生し易かった。また、熱風温度が(Tg+120)℃より高い実施例8では、温度が高くなると収縮量が増えるため、スジバリが発生し易くなっていた。逆に、熱風温度が(Tg+5)℃より低い実施例9では、延伸応力が大きくなるため、スジバリが発生しやすくなっていた。さらに、実施例8、9ともロール表面に触れることがあり、擦り傷も悪化していた。また、ロール間の距離を延ばした実施例6、7は、ロールを移動する際、フィルムが湾曲しないため、ロール間でスジバリが発生し易くなっていた。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】本実施の形態に係るフィルム製造装置を示した構成図である。
【図2】本実施の形態に係る縦延伸工程部を示す概略図である。
【符号の説明】
【0150】
1…フィルム製造装置、2…セルロースアシレートフィルム、2a…縦延伸セルロースアシレートフィルム、2b…縦・横延伸セルロースアシレートフィルム、3…製膜工程部、4…縦延伸工程部、5…横延伸工程部、6…巻取工程部、7…押出機、8…ダイ、9…ドラム、16、16a…低速ローラ、17、17a…高速ローラ、18・・・円筒状ロール、19…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムを一対のローラの周速差で引っ張ることにより長手方向に延伸する熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法において、
前記一対のローラ間を、前記フィルムを、気体を吐出するノズルを有する複数の円筒状ロールと非接触で支持し、曲率半径25mm以上150mm以下で、湾曲させながら前記円筒状ローラを通過させ、前記フィルムを前記ノズルから吐出する熱風により長手方向に延伸する延伸工程と、
前記長手方向に延伸したフィルムを、前記ノズルから吐出する冷風により冷却・固化する冷却・固化工程と、を有することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法。
【請求項2】
前記円筒状ロールと前記フィルムの距離が10mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法。
【請求項3】
前記熱風の温度が前記フィルムの(Tg+5)℃以上(Tg+120)℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法。
【請求項4】
前記円筒状ロール間の距離が2mm以上100mm以下であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法。
【請求項5】
前記円筒状ロールの前記フィルムに覆われている部分の角度が120°以上であることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法。
【請求項6】
下記式(1)で表されるReが50nm以上300nm以下であり、(2)で表されるRthが−50nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法。
【数1】

【請求項7】
前記フィルムの素材がセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂フィルムを一対のローラの周速差で引っ張ることにより長手方向に延伸する熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸装置であって、
前記一対のローラ間は、気体を吐出する複数の円筒状ロールを備え、前記円筒状のロールは、曲率半径が25mm以上150mm以下であり、
前記円筒状ロールから吐出する気体が、複数の円筒状ロールの前半が、熱風であり、後半が冷風であることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸装置。
【請求項9】
前記円筒状ロール同士の距離が2mm以上100mm以下であることを特徴とする請求項8に記載の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸装置。
【請求項10】
前記円筒状フィルムの前記フィルムに覆われている部分の角度が120°以上であることを特徴とする請求項8または9に記載の熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−190320(P2009−190320A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34765(P2008−34765)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】