説明

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法および当該製造方法に用いる押出成形用Tダイ

【課題】熱可塑性樹脂フィルムのエッジビード現象を抑制すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、ダイ本体2内にインナーディッケル3等を配置し、インナーディッケル3の端面3a等によって流路2cを画定させる準備ステップと、熱可塑性樹脂を溶融する溶融ステップと、溶融された熱可塑性樹脂を押出成形用Tダイ1に供給する供給ステップと、押出成形用Tダイ1において熱可塑性樹脂をインナーディッケル3等によって所定幅を有する樹脂フィルムFに成形する成形ステップとを備えている。この製造方法では、インナーディッケル3の端面3a部分が、断面視において、曲率半径が異なる2つの円弧C1,C2を含む弧線状になるように構成され、出口2b側に位置する第1の円弧C1の曲率半径R1が、入口2a側に位置する第2の円弧C2の曲率半径R2よりも大きくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法および当該製造方法に用いる押出成形用Tダイに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法として、押出機本体にて溶融混練した熱可塑性樹脂を、押出機本体の先端に取り付けた押出成形用Tダイより押し出して成形する方法が知られている。このような方法で熱可塑性樹脂フィルムを製造する場合、Tダイより押し出した溶融状フィルムに、ネックイン現象やエッジビード現象といった現象が発生することがある。「ネックイン現象」とは、Tダイより押し出された溶融状フィルムが、その押出速度よりも高速で回転するロールで引き取られるために、フィルムの幅が狭くなる現象である。「エッジビード現象」とは、ネックイン現象によりフィルムの幅が低下した分、幅方向の端部の厚さが増加する現象である。
【0003】
一般に、フィルムは、幅と厚さのアスペクト比が高いため、上述したネックイン現象やエッジビード現象がフィルムの幅方向の端部のみで発生することが多い。このため、これらネックイン現象やエッジビード現象の発生により、製品として使用可能なフィルムの幅が狭くなってしまうという問題があった。そこで、ネックイン現象やエッジビード現象を抑制する方法として、インナーディッケルおよびロッドが設置されている押出成形用Tダイを用いて、熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1や特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−79924号公報
【特許文献2】特開2001−26045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載された押出成形用Tダイを用いて熱可塑性樹脂フィルムを製造した場合であっても、製造されたフィルムにおけるエッジビード現象の抑制が十分とまではいえず、エッジビード現象を更に抑えた製造方法が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、エッジビード現象を抑制して熱可塑性樹脂フィルムを製造することができる製造方法及び当該製造方法に用いられる押出成形用Tダイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、エッジビード現象を抑制するには、Tダイに設定されるインナーディッケルの形状や位置またはロッドの位置の影響が大きいことを見出した。
【0008】
そこで、本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、押出機本体と押出成形用Tダイとを備えた押出機を用いて熱可塑性樹脂フィルムを製造する製造方法であって、押出成形用Tダイのダイ本体内に第1のインナーディッケルを配置し、ダイ本体の内側面と第1のインナーディッケルの内部側の端面とによって、溶融された熱可塑性樹脂の流路を画定させる第1の準備ステップと、押出成形用Tダイにおいて、第1のインナーディッケルよりも流路の出口側に第1のインナーディッケルの長手方向と平行になるようにロッドを配置する第2の準備ステップと、熱可塑性樹脂を押出機本体において溶融する溶融ステップと、溶融ステップで溶融された熱可塑性樹脂を、第1及び第2の準備ステップで準備された押出成形用Tダイに押し出し供給する供給ステップと、押出成形用Tダイにおいて、供給ステップで供給された熱可塑性樹脂を第1のインナーディッケル及びロッドによって所定幅を有する樹脂フィルムに成形する成形ステップと、を備えている。
【0009】
そして、本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、第1のインナーディッケルの内部側の端面部分が、流路の入口から出口に向かう方向に沿った断面視において、互いに曲率半径が異なり且つ内部側に凸となる少なくとも2つの円弧を含む弧線状になるように構成されており、出口側に位置する第1の円弧の曲率半径R1が、入口側に位置する第2の円弧の曲率半径R2よりも大きいことを特徴としている。
【0010】
このように、本発明に係るフィルム製造方法では、第1のインナーディッケルの端面部分が、断面視において、曲率半径が異なる2つの円弧を含む弧線状になるように構成され、出口側に位置する円弧の曲率半径R1が、入口側に位置する円弧の曲率半径R2よりも大きくなっている。この場合、第1のインナーディッケル等によって画定された流路を溶融樹脂が押し出し成形される際、流路の出口付近において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ低下させることができる。溶融樹脂の流速が低下することにより、幅方向端部において、その分フィルム成形に供される樹脂量を減らすことができ、成形された樹脂フィルムの幅方向端部における厚みを低減させることができる。つまり、本発明によれば、エッジビード現象を好適に抑制することができる。
【0011】
なお、Tダイの流路出口から押し出される熱可塑性樹脂フィルムでは、Tダイの出口における速度よりも高速で回転するロールでの引き取りにより、ネックイン現象やエッジビード現象が発生し、これらの現象は、フィルムの端部のみで発生する場合が多い。つまり、エッジビード現象は、ロールの引き取りによりフィルムの端部が中央側へ引き寄せられることにより発生する。このようなエッジビードの抑制には、フィルム端部における流速の低減が効果的であり、上述したような形状を有する第1のインナーディッケルを用いて樹脂フィルムを製造することにより、Tダイの出口の幅方向の端部において、熱可塑性樹脂の流速を低減させることができ、これにより、好適にエッジビードを低減させることができる。
【0012】
また、本発明に係るフィルム製造方法では、エッジビードを低減させることができるので、製造されたフィルムの端部をトリミングして樹脂等のロスを増やすといった問題を解決することもでき、端部をトリミングすることなく、フィルムを巻き取ることも可能である。また、本発明に係るフィルム製造方法では、エッジビードを低減させることができるので、フィルムを巻き取った状態で一定時間保存して物性の経時変化を調整した場合であっても、フィルムの巻き取り状態が略均一となり、経時変化後の製品物性のばらつきの発生を抑えることもできる。
【0013】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、流路の入口から出口に向かう方向に沿った断面視において、第1のインナーディッケルの出口側に位置する下面部分において最も内部側に位置する点βと、ロッドの最も内部側に位置する先端の点γとの距離L1が、押出成形用Tダイの流路の出口の厚みをDとしたときに、
1≦L1/D≦50 ・・・(1)
となるように、第2の準備ステップにおいてロッドを配置するようにしてもよい。この場合、第1のインナーディッケル等によって画定された流路を溶融樹脂が押し出し成形される際、流路の出口付近において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ更に低下させることができ、エッジビード現象を一層抑制することが可能となる。
【0014】
なお、点βと点γとの距離L1は、
10≦L1/D≦50 ・・・(2)
を満たすことが好適であり、
20≦L1/D≦50 ・・・(3)
を満たすことが更に好適である。
【0015】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、押出成形用Tダイのダイ本体内に第1のインナーディッケルよりも流路の入口側に第1のインナーディッケルの長手方向とその長手方向が平行になるように第2のインナーディッケルを配置し、第2のインナーディッケルの内部側の端面によって、流路を更に画定させる第3の準備ステップを更に備え、流路の入口から出口に向かう方向に沿った断面視において、第2のインナーディッケルの出口側に位置する下面部分において最も内部側に位置する点δと、第1のインナーディッケルの端面部分において最も内部側に位置する点αとの流路出口の幅方向に沿った距離L2が、流路出口の厚みをDとしたときに、
1≦L2/D≦50 ・・・(4)
となるように、第3の準備ステップにおいて第2のインナーディッケルを配置するようにしてもよい。
【0016】
この場合、第1及び第2のインナーディッケル等によって画定された流路を溶融樹脂が押し出し成形される際、流路の途中において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ低下させることができ、エッジビード現象を更に抑制することができる。なお、点σと点αとの幅方向に沿った距離L2は、
10≦L2/D≦50 ・・・(5)
を満たすことが好適であり、
20≦L2/D≦50 ・・・(6)
を満たすことが更に好適である。
【0017】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、第1のインナーディッケルの内部側の端面部分は、断面視において、更に直線部分を含む弧線状になるように構成されていてもよい。
【0018】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、第1の円弧の曲率半径R1と第2の円弧の曲率半径R2とが、長さ単位をミリメートルとしたときに、
R1>R2+10 ・・・(7)
の関係を満たすようであってもよい。
なお、第1の円弧の曲率半径R1と第2の円弧の曲率半径R2とは、
R1>R2+20 ・・・(8)
を満たすことが好適であり、
R1>R2+40 ・・・(9)
を満たすことが更に好適である。
【0019】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る熱可塑性樹脂の押出成形用Tダイは、溶融された熱可塑性樹脂が供給される入口及びフィルム状に成形された熱可塑性樹脂が排出される出口を有し、入口及び出口に連通する所定の空隙を内部に有するダイ本体と、ダイ本体内に配置され、溶融された熱可塑性樹脂の流路をダイ本体の内側面と共に画定させる端面をダイ本体の内部側に有するインナーディッケルと、インナーディッケルよりも流路の出口側にインナーディッケルの長手方向と平行になるように配置されるロッドと、を備えている。そして、インナーディッケルの内部側の端面部分が、流路の入口から出口に向かう方向に沿った断面視において、互いに曲率半径が異なり且つ内部側に凸となる少なくとも2つの円弧を含む弧線状になるように構成されており、出口側に位置する第1の円弧の曲率半径R1が、入口側に位置する第2の円弧の曲率半径R2よりも大きいことを特徴としている。
【0020】
本発明に係る押出成形用Tダイでは、上述した製造方法と同様に、インナーディッケルの端面部分が、断面視において、曲率半径が異なる2つの円弧を含む弧線状になるように構成され、出口側に位置する円弧の曲率半径R1が、入口側に位置する円弧の曲率半径R2よりも大きくなっている。この場合、インナーディッケル等によって画定された流路を溶融樹脂が押し出し成形される際、流路の出口付近において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ低下させることができ、エッジビード現象を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法及び押出成形用Tダイによれば、エッジビード現象を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るTダイの断面図である。
【図2】(a)は、図1に示すTダイのII(a)-II(a)線に沿った断面図であり、(b)は、図1に示すTダイのII(b)-II(b)線に沿った断面図である。
【図3】図1に示すTダイの下面図である。
【図4】図1に示すTダイ内に配置されるインナーディッケル及びロッドの概略斜視図である。
【図5】図1に示すTダイ内に配置されるインナーディッケル及びロッドの配置関係を示す模式的な側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態におけるTダイ内に配置されるインナーディッケル及びロッドの配置関係を示す模式的な断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態におけるTダイ内に配置されるインナーディッケル及びロッドの配置関係を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態におけるTダイ内に配置されるインナーディッケル及びロッドの配置関係を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の変形例におけるTダイ内に配置されるインナーディッケル及びロッドの配置関係を示す模式的な断面図である。
【図10】熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を示すフローチャートである。
【図11】実施例におけるエッジビートの計算方法を示すフローチャートである。
【図12】図11のフローチャートにおけるTダイ内の流動解析処理の詳細を示すフローチャートである。
【図13】実施例においてTダイ内の流動解析に用いる有限要素モデルを示す図であり、(a)は有限要素モデルの図であり、(b)は各境界条件を個別に示した図である。
【図14】実施例においてTダイ内の流動解析に用いるせん断粘度である。
【図15】実施例において算出されたTダイ出口における速度の幅方向分布である。
【図16】図11のフローチャートにおけるフィルムの流動解析処理の詳細を示すフローチャートである。
【図17】実施例においてフィルムの計算に用いる有限要素モデルであり、(a)は解析開始時の図であり、(b)は解析終了時の図である。
【図18】実施例においてフィルムの計算に用いる樹脂の粘弾性である。
【図19】実施例1〜4におけるインナーディッケルの形状等を示す図である。
【図20】実施例5〜8におけるインナーディッケルの形状等を示す図である。
【図21】実施例9,10におけるインナーディッケルの形状等を示す図である。
【図22】比較例1〜3におけるインナーディッケルの形状等を示す図である。
【図23】比較例4〜6におけるインナーディッケルの形状等を示す図である。
【図24】比較例7〜9におけるインナーディッケルの形状等を示す図である。
【図25】比較例10、11におけるインナーディッケルの形状等を示す図である。
【図26】比較例12におけるインナーディッケルの形状等を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
[第1実施形態]
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法及びこの製造方法に用いられる押出成形用Tダイに関するものである。まず、本実施形態で用いられる熱可塑性樹脂について説明する。
【0025】
本実施形態で用いられる熱可塑性樹脂の種類としては、結晶性樹脂として、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、アイオノマー樹脂等を例示できる。また、非結晶性樹脂として、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、メチルメタクリレート・スチレン共重合体、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エチレン・ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体等を例示することができる。
【0026】
中でもポリエチレンとポリプロピレンが好ましい。ポリエチレンとは、エチレンを重合して得られる樹脂であってポリエチレン結晶構造を有する熱可塑性樹脂を意味し、好ましくは、エチレンの単独重合体、エチレンの誘導体を繰り返し単位として50重量%以上含有するエチレンと炭素原子数3〜18のα−オレフィンとの共重合体、又はエチレンと少なくとも1種の他のモノマーとの共重合体である。該α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1,4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1を例示することができる。該他のモノマーとしては、例えば、共役ジエン(例えばブタジエン、イソプレン)、非共役ジエン(例えば1,4ペンタジエン)、アクリル酸、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル)及び酢酸ビニルが挙げられる。
【0027】
ポリエチレンとしては、例えば超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−デセン−1共重合体等のエチレンと炭素原子数3〜18のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと共役ジエン(例えばブタジエン又はイソプレン)との共重合体、エチレンと非共役ジエン(例えば1,4ペンタジエン)との共重合体、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸又は酢酸ビニル等との共重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂を、例えばα、β−不飽和カルボン酸、その誘導体(例えばアクリル酸、アクリル酸メチル)、脂環族カルボン酸又はその誘導体(例えば無水マレイン酸)等によって変性(例えばグラフト変性)させた樹脂等が挙げられる。
【0028】
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレンが好ましい。低密度ポリエチレンとしては、例えば、有機過酸化物、酸素等の遊離基発生剤を使用してエチレンを高圧下でラジカル重合することによって得られる低密度ポリエチレンが挙げられる。低密度ポリエチレンの剛性を向上するために、高密度ポリエチレンを配合することも好ましい。低密度ポリエチレ100重両部に対する、高密度ポリエチレンの好ましい配合比は、0〜90重量部である。
【0029】
本実施形態に係る製造方法において押出成形する低密度ポリエチレンのメルトフローレート(以下、「MFR」と記す場合がある)は、1〜30g/10分であり、好ましくは2〜20g/10分であり、特に好ましくは4〜15g/10分である。MFRは、JIS K7210−1995に規定された方法において、温度190℃および荷重21.18Nの条件で測定される。
【0030】
本実施形態に係る製造方法において押出成形する低密度ポリエチレンの密度は、910〜930kg/mであり、好ましくは912〜928kg/mである。密度は、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った後、JIS K7112−1980のうち、A法に規定された方法に従って測定される。
【0031】
本実施形態に係る製造方法において押出成形する低密度ポリエチレンの分子量分布は、3〜12であり、好ましくは5〜10である。分子量分布(M/M)は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法を用いて、以下の条件により、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)を測定することで求められる。
<測定条件>
・装置:Water製Waters150C
・分離カラム:TOSOH TSKgelGMH−HT
・測定温度:145℃
・キャリア:オルトジクロロベンゼン
・流量:1.0mL/分
・注入量:500μL
・検出器:示差屈折
【0032】
本実施形態に係る製造方法において押出成形する低密度ポリエチレンに配合して用いられる高密度ポリエチレンのMFRは、1〜50g/10分であり、好ましくは2〜20g/10分である。また、高密度ポリエチレンの密度は、935〜965kg/mであり、好ましくは945〜960kg/mである。
【0033】
ポリプロピレンとは、プロピレンを重合して得られる樹脂であって、アイソタクチックポリプロピレン結晶構造を有する熱可塑性樹脂を意味し、プロピレンの単独重合体、またはプロピレンと結晶性を失わない程度の量のエチレンおよび/または炭素原子数4〜12のα−オレフィン等のコモノマーとの共重合体が好ましい。α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。結晶性を失わない程度の量とはコモノマーの種類により異なるが、例えばエチレンの場合、共重合体中のエチレンから誘導される繰り返し単位の量は通常10重量%以下、1−ブテン等の他のα−オレフィンの場合、共重合体中のα−オレフィンから誘導される繰り返し単位の量は通常30重量%以下である。
【0034】
好ましいポリプロピレンとしては、エチレンから誘導される繰り返し単位の量が0〜10重量%であるプロピレンとエチレンとのブロック共重合体が用いられる。また、好ましいポリプロピレンとしては、エチレンから誘導される繰り返し単位の量が0〜10重量%、1−ブテンから誘導される繰り返し単位の量が0〜30重量%であるプロピレンとエチレンおよび1−ブテンとのランダム共重合体である。
【0035】
上記プロピレンとエチレンとのブロック共重合体とは、下記の第一工程と第二工程とで得られる共重合体を意味する。
第一工程:エチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が0〜3重量%である重合体部分(a)が全共重合体量の70〜90重量%となるまで、プロピレンを単独重合、またはプロピレンとエチレンとを共重合させる工程。
第二工程:第一工程で得られた重合体部分(a)の存在下に、エチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が10〜50重量%である重合体部分(b)を、プロピレンとエチレンとを共重合させて製造する工程。
【0036】
上記ポリプロピレンは、公知の種々の触媒を使用して製造されるが、かかる触媒としてはチタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られるマルチサイト触媒や、メタロセン錯体等を用いて得られるシングルサイト触媒が挙げられる。上記ポリプロピレンは、好ましくは、チタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られるマルチサイト触媒を使用して製造される。
【0037】
本実施形態で用いられるポリプロピレンの230℃におけるMFRは、0.3〜100g/10分であり、好ましくは、1〜50g/10分であり、さらに好ましくは、2〜30g/10分であり、特に好ましくは、5〜15g/10分である。MFRは、JIS K7210−1995に規定された方法において、温度230℃および荷重21.18Nの条件で測定される。
【0038】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、例えば、中和剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、核剤、可塑剤、防曇剤、気泡防止剤、分散剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、塩酸吸収剤等の公知の添加剤、染料、顔料等の着色剤、酸化チタン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等の他の成分と組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂を製造する方法としては、例えば、各成分を公知の混練機で溶融混練して樹脂組成物を製造する方法が挙げられる。混練機としては、例えば単軸混練押出機、多軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等が挙げられる。溶融混練条件は、混練時に発生する応力、加熱温度、流動による発熱等によって樹脂の劣化が起こらない限り、特に制限されない。
【0040】
次に、図1〜図4を参照して、本実施形態で用いられる押出成形用Tダイの構成について説明する。図1は、本実施形態に係るTダイの断面図及び押出成形されたフィルムFの断面図である。図2(a)は、図1に示すTダイのII(a)-II(a)線に沿った断面図であり、図2(b)は、図1に示すTダイのII(b)-II(b)線に沿った断面図である。図3は、図1に示すTダイの下面図である。図4は、図1に示すTダイ内に配置されたインナーディッケル及びロッドの概略斜視図である。なお、押出成形方法としては、例えば、Tダイキャストフィルム成形方法や押出ラミネート加工方法が挙げられる。
【0041】
押出成形用Tダイ1は、ダイ本体2と、一対の第1のインナーディッケル3と、一対の第2のインナーディッケル4と、一対のロッド5とを備えて構成されている。押出成形用Tダイ1は、押出成形の際に熱可塑性樹脂を溶融混練する押出機本体(不図示)の先端に取り付けられ、押出機本体内において溶融させられた樹脂が供給されると、供給された溶融樹脂を押し出して、所定幅の樹脂フィルムFへと成形する。本実施形態では、第1及び第2のインナーディッケル3,4とロッド5の各対はそれぞれ、Tダイ1の長手方向における中心線を軸として対称に設置されている。
【0042】
ダイ本体2には、押出機本体から熱可塑性樹脂が供給される入口2aと、押出成形用Tダイ1においてフィルム状に成形された熱可塑性樹脂が排出される厚さDのスリット状の出口2b(図3参照)とが設けられている。ダイ本体2は、その内部に、入口2a及び出口2bに連通する空隙を有しており、この空隙が、ダイ本体2の内側面と第1及び第2のインナーディッケル3,4の内部側の端面3a,4aとによって、溶融された熱可塑性樹脂が流れる為の流路2cとして画定される。なお、ダイ本体2の空隙は、供給された溶融樹脂が幅方向に円滑に広がるように、入口2a側が断面略円形状となっている(図2(b)参照)。
【0043】
第1のインナーディッケル3は、溶融された熱可塑性樹脂の流路2cをその端面3aによって画定するプレート状の部材であり、ダイ本体2の流路2cの後段において、樹脂フィルムFの幅を設定するものである。第1のインナーディッケル3は、ダイ本体2の端部であって且つ流路2cの出口2b側に、ダイ本体2の長手方向に沿って移動自在となるように配置される。第1のインナーディッケル3の内部側の端面3a部分は、流路2cの入口2aから出口2bに向かう平面方向に沿った断面視(図1参照)において、弧線状になるように構成されている。なお、端面3aの詳細な形状については後述する。
【0044】
第2のインナーディッケル4は、溶融された熱可塑性樹脂の流路2cをその端面4aによって画定するプレート状の部材であり、ダイ本体2の流路2cの前段において、樹脂フィルムFの幅を設定するものである。第2のインナーディッケル4は、ダイ本体2の端部であって且つ流路2cの入口2a側に、第1のインナーディッケル3の上面と接するように、ダイ本体2の長手方向に沿って移動自在となるように配置される。第2のインナーディッケル4の内部側の端面4aの部分は、流路2cの入口2aから出口2bに向かう平面方向に沿った断面視(図1参照)において、入口2a側において内側から外側に傾斜する斜線となっており、その後、ダイ本体2の長手方向に直行する方向に伸びる直線となるように構成されている。
【0045】
なお、第2のインナーディッケル4の端面4aの断面形状は直線でもよいし、単一の曲率の曲線でもよいし、複数の曲率が複合した形状であってもよい。また、第2のインナーディッケル4は、流路2cに対して、その端面4aの断面形状が窪んだ形状であっても構わない。
【0046】
ロッド5は、棒状の部材であり、ダイ本体2の流路出口2bにおいて、樹脂フィルムFの幅を最終的に決定するものである。ロッド5は、ダイ本体2の端部であって、且つ、第1のインナーディッケル3よりも更に出口2b側となるように配置されている。ロッド5は、第1及び第2のインナーディッケル4,5と同様に、ダイ本体2の長手方向に沿って移動自在となっている。なお、Tダイ1において、第1及び第2のインナーディッケル3,4の間に、さらに1枚以上のインナーディッケルを備えるようにしてもよい。また、第1及び第2のインナーディッケル3,4は、Tダイ1内に別体で構成された板状の部材を挿入するものであってもよいし、Tダイ1のダイ本体2の内壁部と一体で構成されたものであってもよい。
【0047】
本実施形態では、上記構成を備えたTダイ1を用い、該Tダイ1に備えられたインナーディッケル3、4およびロッド5が特定の条件を満たすように保持された状態で、熱可塑性樹脂を押し出するものである。以下、その特定の条件について詳細に説明する。
【0048】
本実施形態に係る押出成形用Tダイ1は、特に、第1のインナーディッケル3において、流路2cに接する端面3aの形状を特徴とするものである。図5に第1及び第2のインナーディッケル3,4及びロッド5の断面形状を模式的に表した図を示す。図5に示されるように、第1のインナーディッケル3は、その内部側の端面3aの部分が、断面視した場合に、互いに曲率半径が異なり且つ内部側に凸となる2つの円弧C1,C2を含む弧線状になるように構成されている。そして、出口2b側(図示下側)に位置する第1の円弧C1の曲率半径R1が、入口2a側(図示上側)に位置する第2の円弧C2の曲率半径R2よりも大きくなるようになっている。
【0049】
これを言い換えると、第1のインナーディッケル3の入口2a側の一辺における最もTダイ1の中心線に近い点を点α、ダイ出口2b側の一辺の直線部における最もTダイ1の中心線に近い点を点βとしたとき、点α及び点βの間のインナーディッケル3の形状が2種類の円弧から構成されることになる。そして、第1のインナーディッケル3において、点β側の円弧をC1としたときのC1の曲率半径をR1、点α側の円弧をC2としたときのC2の曲率半径をR2とし、長さ単位をミリメートルとしたときに、
R1>R2+10 ・・・(7)
の関係を満たすようにすることが好ましい。
【0050】
また、第1の円弧C1の曲率半径R1と第2の円弧C2の曲率半径R2とは、
R1>R2+20 ・・・(8)
を満たすことが好適であり、
R1>R2+40 ・・・(9)
を満たすことが更に好適である。
なお、点α及び点βの間のインナーディッケル3の断面形状が2種類よりも多くの円弧から構成されていてもよく、その場合には、円弧C1の次に点βに近い円弧をC2としたときのC2の曲率半径をR2とし、円弧C2の次に点βに近い円弧をC3…と順に設定した際に、
R1>R2>…>Rn ・・・(10)
の関係を満たすことが好ましく、その場合には、
R1>Rn+10 ・・・(11)
を満たすことが更に好ましい(nは、1から始まる整数を表す)。
【0051】
第1のインナーディッケル3の点α及びβの間の形状を構成する各円弧C1,C2…Cnの長さの比に特に制限はないが、好ましくは、最短の円弧の長さS1に対する最長の円弧の長さS2の比であるS1/S2が0.01以上であることが好ましく、S1/S2が0.05以上であることがより好ましく、0.1以上であることが特に好ましい。
【0052】
次に、本実施形態に係る熱可塑性樹脂の製造方法について、図10を参照して説明する。本実施形態に係る製造方法は、上述した押出成形用Tダイ1と押出機本体とを備えた押出機を用いて行う。
【0053】
まず、押出成形用Tダイ1を準備する(ステップS1)。ステップS1では、押出成形用Tダイ1のダイ本体2内に第1及び第2のインナーディッケル3,4を配置し、ダイ本体2の内側面と第1及び第2のインナーディッケル3,4の内部側の端面3a,4aとによって、図1に示されるように、溶融された熱可塑性樹脂の流路を画定させる。第1のインナーディッケル3は、図5に示されるように、その内部側の端面3aの部分が、断面視した場合に、互いに曲率半径が異なり且つ内部側に凸となる2つの円弧C1,C2を含む弧線状になるように構成されている。そして、出口2b側に位置する第1の円弧C1の曲率半径R1が、入口2a側に位置する第2の円弧C2の曲率半径R2よりも大きくなるようになっている。
【0054】
また、ステップS1では、押出成形用Tダイ1において、第1のインナーディッケル3よりも流路2cの出口2b側に第1のインナーディッケル3の長手方向と平行になるようにロッド5を配置する。この際、断面視した場合に、ロッド5の先端が第1のインナーディッケル3の下面3bの内側の点βに一致するように、ロッド5を配置する。
【0055】
続いて、ポリプロピレンやポリエチレンといった熱可塑性樹脂を押出機本体において溶融混練する(ステップS2)。溶融条件等は、例えば、温度は結晶性樹脂の場合は溶融温度Tmに対して、Tm+20度以上、Tm+200度以下の範囲に設定し、非晶性樹脂の場合はガラス転移温度Tcに対して、Tc+40度以上、Tc+200度以下の範囲に設定する。押出機の温度がTmやTcに近い場合、樹脂が十分に溶融しなかったり、押出機に発生する圧力が高くなりすぎるため好ましくない。また、押出機の温度がTmやTcより200度を超えると樹脂が劣化するため好ましくない。ただし、スクリュの熱可塑性樹脂の供給側はTmやTc以下に設定する場合もある。また、押出機内に配置されたスクリュの回転数は、所定の押出量が得られるように適宜調整する必要がある。
【0056】
続いて、ステップS2で溶融混練された熱可塑性樹脂を、ステップS1で準備された押出成形用Tダイ1に押し出して供給する(ステップS3)。この溶融樹脂の供給は、押出成形用Tダイ1の入口2aから行われる。
【0057】
続いて、押出成形用Tダイ1において、ステップS3で供給された熱可塑性樹脂を第1及び第2のインナーディッケル3,4及びロッド5によって所定幅W1を有する樹脂フィルムFに成形して、押出成形用Tダイ1から押し出し、排出する(ステップS4)。
【0058】
続いて、押出成形用Tダイ1から押し出された樹脂フィルムFを、不図示の巻き取りローラによって巻き取り、樹脂フィルムFの冷却等を行う。押出成形用Tダイ1より押し出された溶融状フィルムFは、その押出速度よりも高速で回転するロールによって引き取られるために、図1に示されるように、フィルムFの幅がW1からW2へと狭くなる。このようなネックイン現象によりフィルムFの幅が低下した分、幅方向の端部の厚さD2が中央部の厚さD1よりも増加するが、本実施形態では、第1のインナーディッケル3の端面3aの形状等により、その増加幅が抑制されることになる。
【0059】
以上、本実施形態に係るフィルム製造方法では、第1のインナーディッケル3の端面3a部分が、断面視において、曲率半径が異なる2つの円弧C1,C2を含む弧線状になるように構成され、出口2b側に位置する円弧C1の曲率半径R1が、入口2a側に位置する円弧C2の曲率半径R2よりも大きくなっている。このため、第1のインナーディッケル3等によって画定された流路2cを溶融樹脂が押し出し成形される際、流路2cの出口2b付近において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ低下させることができる。溶融樹脂の流速が低下することにより、幅方向端部において、その分フィルム成形に供される樹脂量を減らすことができ、成形された樹脂フィルムFの幅方向端部における厚みを低減させることができる。つまり、本実施形態の製造方法によれば、エッジビード現象を好適に抑制することができる。
【0060】
なお、Tダイ1の流路出口2bから押し出される熱可塑性樹脂フィルムFでは、Tダイ1の出口における速度よりも高速で回転するロールでの引き取りにより、ネックイン現象やエッジビード現象が発生し、これらの現象は、フィルムFの端部のみで発生する場合が多い。つまり、エッジビード現象は、ロールの引き取りによりフィルムFの端部が中央側へ引き寄せられることにより発生する。このようなエッジビードの抑制には、フィルムF端部における流速の低減が効果的であり、上述したような形状を有する第1のインナーディッケル3を用いて樹脂フィルムFを製造することにより、Tダイ1の出口2bの幅方向の端部において、熱可塑性樹脂の流速を低減させることができ、これにより、好適にエッジビードを低減させることができる。
【0061】
また、本実施形態に係るフィルム製造方法では、エッジビードを低減させることができるので、製造されたフィルムFの端部をトリミングして樹脂等のロスを増やすといった問題を解決することもでき、端部をトリミングすることなく、フィルムを巻き取ることも可能である。また、本実施形態に係るフィルム製造方法では、エッジビードを低減させることができるので、フィルムFを巻き取った状態で一定時間保存して物性の経時変化を調整した場合であっても、フィルムFの巻き取り状態が略均一となり、経時変化後の製品物性のばらつきの発生を抑えることもできる。
【0062】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図6を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なり、ロッド5の先端が、第1のインナーディッケル3の弧線状の端面3aの下端βよりも距離L1ほど更に外側になるように配置されている。
【0063】
つまり、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、流路2cの入口2aから出口2bに向かう方向に沿った断面視において、第1のインナーディッケル3の出口2b側に位置する下面3b部分(図4参照)において最も内部側に位置する点βと、ロッド5の最も内部側に位置する先端の点γとの距離L1が、押出成形用Tダイ1の流路2cの出口2bの厚みをDとしたときに、
1≦L1/D≦50 ・・・(1)
の範囲となるようになっている。そして、本実施形態に係る製造方法では、このような構成を備えた押出成形用Tダイ1を用いて、樹脂フィルムFの製造を行っている。他の条件は第1実施形態と同様である。このため、本実施形態によれば、第1のインナーディッケル3等によって画定された流路2cを溶融樹脂が押し出し成形される際、流路2cの出口2b付近において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ更に低下させることができ、エッジビード現象を一層抑制することが可能となる。
【0064】
なお、上述した点βと点γとの距離L1は、
10≦L1/D≦50 ・・・(2)
を満たすことが好適であり、
20≦L1/D≦50 ・・・(3)
を満たすことが更に好適である。このようにロッド5を更に外側に配置することにより、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ一層低下させることができ、エッジビード現象も抑制することができる。
【0065】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について、図7を参照して説明する。本実施形態では、第2実施形態と異なり、第2のインナーディッケル4が、第1のインナーディッケル3の弧線状の端面3aの上端αよりも距離L2ほど内側になるように配置されている。
【0066】
つまり、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、流路2cの入口2aから出口2bに向かう方向に沿った断面視において、第2のインナーディッケル4の出口2b側に位置する下面部分において最も内部側に位置する点δと、第1のインナーディッケル3の端面3a部分において最も内部側に位置する点αとの流路出口2bの幅方向に沿った距離L2が、流路出口2bの厚みをDとしたときに、
1≦L2/D≦50 ・・・(4)
の範囲となるようになっている。そして、本実施形態に係る製造方法では、このような構成を備えた押出成形用Tダイ1を用いて、樹脂フィルムFの製造を行っている。他の条件は第1実施形態等と同様である。このため、本実施形態によれば、第1及び第2のインナーディッケル3,4等によって画定された流路2cを溶融樹脂が押し出し成形される際、流路2cの途中において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ更に低下させることができ、エッジビード現象を一層抑制することが可能となる。
【0067】
なお、点σと点αとの幅方向に沿った距離L2は、
10≦L2/D≦50 ・・・(5)
を満たすことが好適であり、
20≦L2/D≦50 ・・・(6)
を満たすことが更に好適である。このように第2のインナーディッケル4をより内側に配置することにより、流路2cの途中において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ一層低下させることができ、エッジビード現象も抑制することができる。
【0068】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について、図8を参照して説明する。本実施形態では、第3実施形態と異なり、第3のインナーディッケル6が、第1及び第2のインナーディッケル3,4の間にその長手方向が平行になるように配置されている。
【0069】
つまり、本実施形態では、第3のインナーディッケル6が配置されているものの、第2のインナーディッケル4の出口2b側の一片の直線部における最もTダイ1の中央線に近い点を点δ、第1のインナーディッケル3の入口2a側の一辺における最もTダイ1の中心線に近い点を点α、インナーディッケル3の入口2a側の一辺の延長線と前記δからの垂線との交点を点εとした時に、点εと点αとの距離L2が、第3実施形態と同様に、
1≦L2/D≦50 ・・・(4)
の範囲となるようになっている。なお、この範囲を第3実施形態と同様に好適化させてももちろんよい。
【0070】
本実施形態に係る製造方法では、このような構成を備えた押出成形用Tダイ1を用いて、樹脂フィルムFの製造を行っている。他の条件は第1実施形態等と同様である。このため、本実施形態によれば、第1、第2及び第3のインナーディッケル3,4,6等によって画定された流路2cを溶融樹脂が押し出し成形される際、流路2cの途中において、幅方向端部での溶融樹脂の流速を幅方向中央部での流速に比べ一層、低下させることができ、エッジビード現象を一層抑制することが可能となる。
【0071】
本実施形態では、第1のインナーディッケル3の端面3aの部分が、断面視した場合に、直線部分T1を入口2a側に更に含む弧線状から構成されている。このような直線部分T1を端面3aに含ませることにより、溶融樹脂の流速を調整してもよい。また、図9に示されるように、直線部分T2が出口2b側に更に含む弧線状から構成されていてもよい。第1のインナーディッケル3の端面3aにおいて、2つ以上の円弧が直線部分によって連結されていてもよい。なお、図9に示されるインナーディッケル7では、その端面が内側から外側へ斜線となっている。
【0072】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本実施形態に係る押出成形用Tダイ1が共押出用である場合、複数の押出機本体を用いて多層フィルムを製造することもできる。この場合、押出機本体とTダイ1は、フィードブロックなどの部品により連結される。また、各押出機本体には異なる上記の熱可塑性樹脂を用いることができる。この場合であっても、第1のインナーディッケル3とロッド5等が上記の要件を満たしていればよい。
【0073】
また、本実施形態に係るTダイ1によって製造されるフィルムは、食品、医薬・医療品、化粧品、農業資材、産業資材、工業資材等の包装用途に用いられ得る。また、例えばアルミニウム箔、蒸着フィルム、コーティングフィルム、チューブ、パイプ等への押出ラミネートにも用いられ得る。本実施形態の製造方法によって得られるフィルムは、そのまま種々の用途に使用してもよいし、他のフィルムや部材と積層、または貼合して使用することができる。
【0074】
本実施形態に係るTダイ1より得られるフィルムFは、端部のエッジビードが小さいため、熱可塑性樹脂を押出して、基材B(図1参照)と押出ラミネーションするのに好適である。以下、本実施形態に係るTダイ1を押出ラミネーションに適用する場合について、詳細に説明する。
【0075】
基材Bを構成する原料としては、樹脂、紙、金属などが挙げられる。該樹脂としては、例えばポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリブテン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、アセチルセルロースなどがあげられる。
【0076】
基材Bは、フィルムなどの形状で用いられ、単層であっても、多層であってもよい。該基材Bの厚さは押出ラミネーション加工が可能であればよく、好ましくは5〜300μm、より好ましくは8〜250μm、さらに好ましくは12〜200μmである。
【0077】
樹脂性フィルムFを製造する場合、Tダイ1から押し出された直後の樹脂温度は、生産性の観点から、また、加工安定性の観点から180度以上とすることが好ましい。また、樹脂の劣化を抑制する観点、発煙成分による冷却ロールの汚染を低減する観点から300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0078】
基材Bとの積層体を製造する場合、Tダイ1から押出された直後の樹脂温度は、基材Bと溶融状フィルムFとの接着性を高める観点から250℃以上とすることが好ましく、280℃以上とすることがより好ましい。また、樹脂の劣化を抑制する観点、発煙成分による冷却ロール汚染を低減する観点から350℃以下とすることが好ましく、340℃以下とすることがより好ましい。
【0079】
押出成形する際の加工速度は、生産性の観点から40m/min以上であることが好ましい。
【0080】
基材Bと溶融状フィルムFとの接着性を高めるために、基材Bにアンカーコート処理、電子線照射処理、プラズマ処理、コロナ放電処理または火炎処理等の公知の表面処理を行ってもよい。
【0081】
Tダイ1から押出した溶融状フィルムFは、基材Bとともにチルロールとニップロール(図示せず)によって押圧される。Tダイ出口2bと、チルロールとニップロールの接点との距離であるエアギャップは、基材Bと溶融状フィルムFとの接着性を得る観点から、50mm以上とすることが好ましい。また、ネックイン現象とエッジビード現象を抑制する観点から、250mm以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【0083】
まず、物性を次の方法に従って測定した。
【0084】
(1)密度(単位:kg/m3)
JIS K7112−1980のうち、A法に規定された方法に従って測定した。なお、試料には、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った。
【0085】
(2)メルトフローレート(MFR、単位:g/10min)
JIS K7210−1995に規定された方法に従い、荷重21.18N、温度190℃の条件で、A法により測定した。
【0086】
(3)分子量分布(Mw/Mn)
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法を用いて、下記の条件により、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)を測定し、分子量分布(M/M)を求めた。
<測定条件>
・装置:Water製Waters150C
・分離カラム:TOSOH TSKgelGMH−HT
・測定温度:145℃
・キャリア:オルトジクロロベンゼン
・流量:1.0mL/min
・注入量:500μL
・検出器:示差屈折
【0087】
(4)エッジビードEB
以下に説明する流動解析により得られた、フィルムの幅方向の厚さ分布において、端部側の最も厚い位置でのフィルム厚さを、エッジビードEB(−)とした。
【0088】
(5)端部のロス率LR
以下に説明する流動解析により得られたフィルムの幅方向の厚さ分布において、中央部の厚さに対して115%以上の厚さである部分の面積の、フィルム断面の全面積に対する比率をロス率LR(%)として算出した。
[実施例1]
【0089】
押出ラミネート加工のTダイ内およびフィルムの熱流動状態を計算し、エッジビードEBを得た。以下の3つの条件の全て又は一部を満たすインナーディッケル3,4及びロッド5を有する押出成形用Tダイ1を用い、
・第1の円弧C1の曲率半径R1>第2の円弧C2の曲率半径R2
・1≦L1/D≦50 ・・・(1)
・1≦L2/D≦50 ・・・(4)
それぞれの位置の条件を、図19(a)及び表2に示すように、R1=130mm、R2=5mm、D=0.8mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=36mm、L4=25mm、L5=2.6mmとした。
【0090】
ここで用いるL3は、図5に示されるように、第1のインナーディッケル3の端面3aの一方の点αと他方の点βとの幅方向における距離である。また、L4は、第1のインナーディッケル3の、長手方向に直交する方向における幅である。また、L5は、ロッド5の外径である。以下の実施例等においても同様である。
【0091】
図11を用いて、本実施例における計算の手順について説明する。図11は、本実施例にて行ったエッジビードの計算方法を示すフローチャートである。本発明に係る、熱可塑性樹脂のTダイを用いた押出成形方法に関して、まず、Tダイ内の流動解析を行った(ステップS10)。計算には有限要素法に基づいた熱流動解析ソフトウェアANSYS Polyflow バージョン12.0(販売元:アンシス・ジャパン株式会社)を用いた。具体的には、Tダイの有限要素モデルおよび計算用データを作成し、Tダイ内部の熱流動状態をPolyflowにより計算し、ダイ出口における速度分布を得た。
【0092】
次に、フィルムの熱流動解析を行った(ステップS20)。具体的には、フィルムの有限要素モデルを作成した。次にステップS10で得られたダイ出口の速度分布を、フィルムの熱流動解析における入口境界条件として用いて、計算用データを作成した。そして、フィルムの熱流動状態をPolyflowにより計算し、エッジビードEBを得た。
【0093】
図12を用いてステップS10における計算の詳細について説明する。まず、Tダイの流路の有限要素モデルを作成した(ステップS11)。モデルの作成には、例えば、モデリングソフトウェアGambit バージョン2.4.6(ANSYS Inc.社製)が用いられる。幅方向および厚さ方向への対称性を考慮して、幅方向および厚さ方向における構成がそれぞれ半分となった1/4モデルとすることが好ましい。なお、この1/4モデルとしては、例えば、図13(a)に示されるような有限要素モデルである。図13(a)に示す1/4モデルでは、Tダイの入口断面は、幅が50mm、高さが10mmであり、Tダイ出口は幅が400mm、ギャップが0.8mmである。
【0094】
ステップS11で有限要素モデルを作成した後に、Tダイ内の熱流動解析用のデータファイルを作成した(ステップS12)。データファイルの作成には、例えば、有限要素法に基づいた熱流動解析ソフトウェアANSYS Polyflow バージョン12.0(ANSYS Inc.社製)が用いられる。図13(b)に各境界を示した。分かりやすくするために、各境界を個別に示した。データファイルでは、以下の境界条件が設定される。
・境界1:加工機の入口に相当する。樹脂の押出量25kg/hに相当する流量として、2269mm/sを与えた。温度は330℃とした。
・境界2:ダイ出口に相当する。本境界では樹脂が完全発達流れの条件が与えられる。
・境界3:壁面に相当する。この境界では速度として0m/sの条件を与えた。温度は330℃とした。
・境界4:幅方向の対称面に相当する。この境界では法線方向速度として0m/sを、接線方向応力として0Paを与え、断熱条件とした。
・境界5:厚さ方向の対称面に相当する。この境界では法線方向速度として0m/sを、接線方向応力として0Paを与え、断熱条件とした。
【0095】
本発明の押出成形方法の計算には、高圧法低密度ポリエチレン(住友化学(株)製スミカセンCE4009、MFR=7.0g/10min、密度=920kg/m3、分子量分布=9.1、以下「LDPE」という)を用いた。Tダイ内の熱流動解析では粘性流体として扱い、流体モデルとして、Carreau−Yasudaモデル(以下、「CYモデル」という。)を用いた。CYモデルを式(12)に示す。
【数1】


ここで、ηはゼロせん断粘度を、λは特性時間を、上にドットが付いたγはせん断速度を,aおよびnはモデルパラメータをそれぞれ表す。ηには11705Pa・s、λには0.219376s、aには0.283337、nには0.168713をそれぞれ設定した。
【0096】
また、CYモデルの温度依存性モデルとして、式(13)に示すArrhenius approximate shear stressモデルを用いた。
【数2】


ここで、Tは温度を、Tαは基準温度を、αは温度依存パラメータをそれぞれ表す。αには0.0318177、Tαには197℃をそれぞれ与えた。このような、式(12)、(13)によって特定される低密度ポリエチレンの320℃におけるCYモデルのせん断粘度データを図14に示す。
【0097】
そして、最後に、上述したANSYS Polyflow バージョン12.0を用いて、Tダイ内の熱流動解析が行われる(ステップS13)。Tダイ内熱流動解析(ステップ10)における計算には、図13に示す有限要素モデルを用いた。境界条件として上記境界1〜4の条件を与えた。また、流体モデルとして式(12)に示すCYモデルを用いた。樹脂粘度の温度依存性としては、式(13)に示すArrhenius approximate shear stressモデルを用いた。これらの条件の下に、従来技術と同様の方法を用いて計算を行った。そして、この計算によって得られるTダイ出口における速度場から、幅方向への速度分布v(x)のデータを得た。図15に、このようにして算出された速度分布v(x)のデータを示す。速度分布v(x)のデータにおけるxは幅方向への座標を表し、ダイ中心をxの原点とする。これにより、ステップS10におけるTダイ出口における速度分布v(x)のデータの算出が終了し、ステップS20に進む。
【0098】
図16を用いて、ステップS20における計算の詳細について説明する。まず、フィルムの有限要素モデルを作成した(ステップS21)。モデルの作成には、例えば、モデリングソフトウェアGambit バージョン2.4.6(ANSYS Inc.社製)が用いられる。フィルムの厚さ方向への物理量の変化を平均化した擬3次元モデルが用いられる。また、幅方向への対称性を考慮して、幅方向における構成が半分となった1/2モデルを用いる。以上の有限要素モデルを後述の境界条件とともに図17(a)に示す。Tダイの出口幅は400mm、Tダイのギャップは0.8mm、エアギャップは110mmに設定した。解析方法は後述するが、有限要素モデルは繰り返し計算を行い、図17(b)に示すモデルへと変形させる。なお、図17(a)には、計算初期状態の有限要素モデルが示され、図17(b)には、変形後の有限要素モデルが示されており、両図における原点A(x=0,y=0)は、Tダイの出口の中央に相当する。
【0099】
続いて、フィルムの熱流動解析用のデータファイルを作成した(ステップS22)。計算には、有限要素法に基づいた熱流動解析ソフトウェアANSYS Polyflow バージョン12.0(ANSYS Inc.社製)を用いた。フィルムの熱流動解析用のデータファイルには、以下の境界条件を設定した。
・境界1:ダイの出口(x=0であるy軸に平行な線、Inlet)に相当する。引取方向速度として、前記ステップS10で得られたTダイ出口における速度分布v(x)を、幅方向速度Vとして0m/sを、ダイ出口厚さとして0.8mmを、樹脂温度として330℃をそれぞれ与えた。
・境界2:フィルムの端部(Free Surface)に相当する。自由表面として扱い、法線方向速度Vとして0m/sが、法線方向応力Fnとして0Paが、また、断熱条件をそれぞれ与えた。
・境界3:フィルムをチルロールで引き取る位置(Outlet)に相当する。引取方向速度Vとして1.6667m/sを、幅方向応力Fとして0Paを、また、断熱条件をそれぞれ与えた。
・境界4:フィルムの幅方向の対称線(Axis of symmetry)に相当する。幅方向速度Vとして0m/sを、引取方向応力Fとして0Paを、また、断熱条件をそれぞれ与えた。また、フィルム表面全体において、熱流速f=20W/(m2)を与えた。
【0100】
ステップS20における計算では、LDPEを粘弾性流体として扱った。粘弾性モデルとして、Phan−Thien/Tannerモデル(以下、「PTTモデル」という。)を用いた。PTTモデルは、例えば、Phan−Thien、JournalofRheology、22巻、259〜283頁(1978年)に記載されている。PTTモデルを式(14)に示す。
【数3】


ここで、ηは粘度を、τは異方性応力テンソルを、Dは変形速度テンソルを、λは緩和時間を、ξ及びεは非線形パラメータを表す。△はlower−convected時間微分を、▽はupper−convected時間微分をそれぞれ表す。本実施形態で用いたPTTモデルのパラメータを表1に示す。
【表1】

【0101】
また、PTTモデルの温度依存性モデルとして、式(15)に示すArrheniusモデルを用いた。
【数4】


ここで、Tは温度を、Tは摂氏温度の絶対温度への換算値を、Tαは基準温度を、αは温度依存パラメータをそれぞれ表す。本実施形態では、Tαとして130℃を、αとして6000をそれぞれ与えた。ステップS22の計算において、式(14)に示したh(T)は、式(13)に示したPTTモデルの粘度ηおよび緩和時間λに乗じて、温度依存性が考慮される。本ステップS20で得た、130℃におけるPTTモデルの粘弾性データを図18に示す。実線がPTTモデル、シンボルが測定値を表す。LDPEの物性値として、密度d=735kg/m、熱伝導度k=0.18W/m・K、比熱Cp=3000J/(kg・℃)に設定した。
【0102】
LDPEの粘弾性の測定には、回転型レオメータ(TA Instruments社、ARES)を用いて、複素粘度η*、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’を測定した。試料のフィクスチャーとして、直径が25mmの平行円盤を用いた。粘弾性は温度が130〜190℃、角周波数が0.01〜100rad/sの範囲で測定した。得られた粘弾性は、Cox−Merzの経験則に従い、角周波数をせん断速度に単位換算して用いた。一軸伸長粘度の測定にはキャピラリー型レオメータ(Bohlin社、Flowmaster RH7)を用いた。図18には、このような測定によって求められた、LDPEの130℃における粘弾性データをシンボルで示した。
【0103】
続いて、ステップS21で作成した有限要素モデルと、ステップS22で作成したデータを用いて、有限要素法を用いて解析し、該解析によってフィルムのエッジビードEBを算出した(ステップS23)。具体的には、上述したANSYS Polyflow バージョン12.0により、図17に示す有限要素モデルを用いて計算を行った。境界条件としては、ステップS22における境界1〜4の条件を与えた。また、流体モデルとしては、式(14)に示すPTTモデルを用いた。PTTモデルのパラメータとして、表1に示す値を与えた。LDPEの温度依存性モデルとしては、式(15)に示すArrheniusモデルを用いた。また、LDPEの物性値として、上記物性値を与えた。
【0104】
これらの有限要素モデル、流体モデル、温度依存性モデルおよび物性値を用いて、与えられた境界条件の下に、従来同様の解析方法によって有限要素計算を行った。計算初期は、境界3における引取速度Vnとして、境界1と同一の値を与え、境界3の引取速度Vnの値を大きくしながら繰り返し計算を行った。有限要素モデルは、計算を繰り返すごとに境界条件を満足するように変形させ、図17(b)に示されるような最終的なフィルムの形状が得られるようにした。このような解析の実行により、フィルムにおける速度、応力、温度、厚さを得た。また、フィルム端部のロールとの接点からエッジビードEBを算出した。以上の計算で得られた、実施例1のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
【0105】
以上、本実施形態によれば、ディッケル形状によるダイ出口での速度分布への影響を考慮したフィルムの熱流動解析を行った。このため、エッジビードを精度よく計算できた。そして、「第1の円弧C1の曲率半径R1>第2の円弧C2の曲率半径R2」といった要件を満たすような押出成形方法を行うことにより、エッジビードEBおよびロス率LRを低減することが可能であった。
〔実施例2〕
【0106】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図19(b)に示されるように、R1=130mm、R2=5mm、L1=15mm、L2=0mm、L3=36mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例2のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔実施例3〕
【0107】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図19(c)に示されるように、R1=90mm、R2=10mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=30mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例3のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔実施例4〕
【0108】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図19(d)に示されるように、R1=90mm、R2=10mm、L1=15mm、L2=0mm、L3=30mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例4のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔実施例5〕
【0109】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図20(a)に示されるように、R1=70mm、R2=15mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=30mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例5のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔実施例6〕
【0110】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図20(b)に示されるように、R1=70mm、R2=15mm、L1=15mm、L2=0mm、L3=30mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例6のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔実施例7〕
【0111】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図20(c)に示されるように、R1=80mm、R2=20mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=45mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例7のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔実施例8〕
【0112】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図20(d)に示されるように、R1=80mm、R2=20mm、L1=15mm、L2=0mm、L3=45mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例8のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔実施例9〕
【0113】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図21(a)に示されるように、R1=130mm、R2=5mm、L1=0mm、L2=10mm、L3=36mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例9のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔実施例10〕
【0114】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図21(b)に示されるように、R1=130mm、R2=5mm、L1=0mm、L2=20mm、L3=36mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、実施例10のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例1〕
【0115】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図22(a)に示されるように、R1=5mm、R2=0mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=5mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例1のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例2〕
【0116】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図22(b)に示されるように、R1=5mm、R2=0mm、L1=10mm、L2=0mm、L3=5mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例2のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例3〕
【0117】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図22(c)に示されるように、R1=5mm、R=0mm、L1=20mm、L2=0mm、L3=5mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例3のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例4〕
【0118】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図23(a)に示されるように、R1=10mm、R2=0mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=10mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例4のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例5〕
【0119】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図23(b)に示されるように、R1=10mm、R2=0mm、L1=10mm、L2=0mm、L3=10mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例5のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例6〕
【0120】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図23(c)に示されるように、R1=10mm、R2=0mm、L1=20mm、L2=0mm、L3=10mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例6のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例7〕
【0121】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図24(a)に示されるように、R1=20mm、R2=0mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=20mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例7のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例8〕
【0122】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図24(b)に示されるように、R1=20mm、R2=0mm、L1=10mm、L2=0mm、L3=20mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例8のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例9〕
【0123】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図24(c)に示されるように、R1=20mm、R2=0mm、L1=20mm、L2=0mm、L3=20mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例9のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例10〕
【0124】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図25(a)に示されるように、R1=15mm、R2=70mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=15.8mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例10のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例11〕
【0125】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図25(b)に示されるように、R1=10mm、R2=90mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=11.3mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例11のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
〔比較例12〕
【0126】
実施例1におけるインナーディッケルおよびロッドの形状、位置の条件を、図26に示されるように、R1=20mm、R2=0mm、L1=0mm、L2=0mm、L3=20mm、L4=25mm、L5=2.6mmに変えて実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例12のエッジビードEBおよびロス率LRを表2に示す。
【0127】
表2に、実施例1〜10及び比較例1〜12のR1、R2、L1〜L5、EB、LRをそれぞれ示す。
【表2】

【0128】
表2に示すとおり、実施例1〜10におけるエッジビードは23〜44μmであり、ロス率は10〜15%である。これに対し、比較例1〜12におけるエッジビードは34〜93μmであり、ロス率は13〜22%である。比較例のうち、エッジビードおよびロス率がともに実施例の最大値を下回ることはなかった。このように、本発明によれば、エッジビードEBおよび端部のロス率を低減させ、エッジビード現象を好適に抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明に係る熱可塑性樹脂の押出成形用Tダイはエッジビードを低減することができるため、本発明による製造方法及びTダイは、キャストフィルム成形や押出ラミネート加工等に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0130】
1…押出成形用Tダイ、2…ダイ本体、2a…入口、2b…出口、2c…流路、3…第1のインナーディッケル、3a…端面、4…第2のインナーディッケル、5…ロッド、F…樹脂フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機本体と押出成形用Tダイとを備えた押出機を用いて熱可塑性樹脂フィルムを製造する製造方法であって、
前記押出成形用Tダイのダイ本体内に第1のインナーディッケルを配置し、前記ダイ本体の内側面と前記第1のインナーディッケルの内部側の端面とによって、溶融された熱可塑性樹脂の流路を画定させる第1の準備ステップと、
前記押出成形用Tダイにおいて、前記第1のインナーディッケルよりも前記流路の出口側に前記第1のインナーディッケルの長手方向と平行になるようにロッドを配置する第2の準備ステップと、
前記熱可塑性樹脂を前記押出機本体において溶融する溶融ステップと、
前記溶融ステップで溶融された前記熱可塑性樹脂を、前記第1及び第2の準備ステップで準備された前記押出成形用Tダイに押し出し供給する供給ステップと、
前記押出成形用Tダイにおいて、前記供給ステップで供給された前記熱可塑性樹脂を前記第1のインナーディッケル及び前記ロッドによって所定幅を有する樹脂フィルムに成形する成形ステップと、を備え、
前記第1のインナーディッケルの内部側の端面部分は、前記流路の入口から出口に向かう方向に沿った断面視において、互いに曲率半径が異なり且つ前記内部側に凸となる少なくとも2つの円弧を含む弧線状になるように構成されており、前記出口側に位置する第1の円弧の曲率半径R1が、前記入口側に位置する第2の円弧の曲率半径R2よりも大きいことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記流路の入口から出口に向かう方向に沿った断面視において、前記第1のインナーディッケルの前記出口側に位置する下面部分において最も内部側に位置する点βと、前記ロッドの最も内部側に位置する先端の点γとの距離L1が、前記押出成形用Tダイの流路の出口の厚みをDとしたときに、
1≦L1/D≦50 ・・・(1)
となるように、前記第2の準備ステップにおいて前記ロッドを配置することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記押出成形用Tダイの前記ダイ本体内に前記第1のインナーディッケルよりも前記流路の入口側に前記第1のインナーディッケルの長手方向とその長手方向が平行になるように第2のインナーディッケルを配置し、前記第2のインナーディッケルの内部側の端面によって、前記流路を更に画定させる第3の準備ステップを更に備え、
前記流路の入口から出口に向かう方向に沿った断面視において、前記第2のインナーディッケルの前記出口側に位置する下面部分において最も内部側に位置する点δと、前記第1のインナーディッケルの前記端面部分において最も内部側に位置する点αとの前記流路出口の幅方向に沿った距離L2が、前記流路出口の厚みをDとしたときに、
1≦L2/D≦50 ・・・(2)
となるように、前記第3の準備ステップにおいて前記第2のインナーディッケルを配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第1のインナーディッケルの内部側の端面部分は、前記断面視において、更に直線部分を含む弧線状になるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第1の円弧の曲率半径R1と前記第2の円弧の曲率半径R2とが、長さ単位をミリメートルとしたときに、
R1>R2+10 ・・・(3)
の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂の押出成形用Tダイであって、
溶融された熱可塑性樹脂が供給される入口及びフィルム状に成形された前記熱可塑性樹脂が排出される出口を有し、前記入口及び出口に連通する所定の空隙を内部に有するダイ本体と、
前記ダイ本体内に配置され、溶融された前記熱可塑性樹脂の流路を前記ダイ本体の内側面と共に画定させる端面を前記ダイ本体の内部側に有するインナーディッケルと、
前記インナーディッケルよりも前記流路の出口側に前記インナーディッケルの長手方向と平行になるように配置されるロッドと、を備え、
前記インナーディッケルの内部側の端面部分は、前記流路の入口から出口に向かう方向に沿った断面視において、互いに曲率半径が異なり且つ前記内部側に凸となる少なくとも2つの円弧を含む弧線状になるように構成されており、前記出口側に位置する第1の円弧の曲率半径R1が、前記入口側に位置する第2の円弧の曲率半径R2よりも大きいことを特徴とする押出成形用Tダイ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−39703(P2013−39703A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177089(P2011−177089)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】