説明

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法および熱可塑性樹脂フィルム

【課題】高い厚み精度を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法および熱可塑性樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、ダイ2から押出されるシート状の溶融熱可塑性樹脂材料3を、2本の冷却ロール4,5の間に挟み込んで成形する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、前記2本の冷却ロール4,5のうち、少なくとも一方の冷却ロールの両端部の外周面には、ロール中央部の外径よりも小さい外径を有する段差部10がそれぞれ周状に形成されており、前記溶融熱可塑性樹脂材料3が2本の冷却ロール4,5の間に挟み込まれるときに、前記段差部10と他方の冷却ロールとの間にも挟み込まれ、前記溶融熱可塑性樹脂材料3が前記段差部10と他方の冷却ロールとの間で受ける線圧が実質的に0kgf/cmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法および熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置やプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイにおいて、熱可塑性樹脂からなるフィルムは、光学フィルムとして使用されている。
例えば、液晶表示装置に組み込まれている液晶パネルにおいて使用される偏光板は、通常、ポリビニルアルコール系偏光フィルムの少なくとも一方の面に、保護フィルムとして、透明性に優れ、光学的異方性の低いトリアセチルセルロースからなる光学フィルムが積層された状態で用いられる。
【0003】
トリアセチルセルロースフィルムは、通常、流延キャスト法により製造され、厚み精度に優れ、光学フィルムとしての使用に適しているものの、該フィルムの製造には、塩化メチレンやメタノールなどの有機溶剤を使用する必要があり、環境負荷が大きい。そこで、厚み精度に優れ、かつ、環境負荷の小さい光学フィルムが要望されている。
【0004】
熱可塑性樹脂フィルムの製造方法として、インフレーション法、カレンダー法、Tダイ法等がある。
Tダイ法は、スリット状のリップを有するダイから、溶融熱可塑性樹脂をシート状あるいはフィルム状に押出し、押し出された溶融熱可塑性樹脂を2本の金属ロールの間に挟み込んで冷却固化させると同時に引取ることで樹脂フィルムを製造する方法である(特許文献1など参照)。このようなTダイ法は、他の樹脂フィルムの製造方法と比較して、厚み精度の良好な樹脂フィルムを製造することができ、さらに有機溶剤の使用が不要であり環境負荷が小さいことから、樹脂フィルムの製造方法として広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−089027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Tダイ法は、非常に狭いスリットから溶融熱可塑性樹脂を押し出す為、ダイ内部の樹脂圧力によりマニホールド部、デルタ部でのダイ端部側への溶融熱可塑性樹脂の回り込みが不安定になり易く、この為ダイ中央部付近とダイ端部付近との間で樹脂流動速度に差が生じ、押し出されたシート状あるいはフィルム状の溶融熱可塑性樹脂は、端部側より中央部側の方が厚くなりやすく、一般的にドローレゾナンス現象と呼ばれる耳揺れ(edge oscillation)が発生し、得られる樹脂フィルムの厚み精度を大きく低下させる大きな要因となる。
【0007】
更に、溶融熱可塑性樹脂がダイのリップ(スリット)を通じて押し出されてから金属ロール間に挟み込まれるまでの距離(エアーギャップ)が比較的長く、引取り量も大きい為に、溶融熱可塑性樹脂にネックイン(neck-in)現象と呼ばれる現象が生じる。ネックイン現象とは、押し出された溶融熱可塑性樹脂の搬送方向(流れ方向)に溶融熱可塑性樹脂が引取られ(延伸され)、所定厚みに成形される際の、流れ方向と直交する方向(幅方向)の収縮現象である。このネックイン現象は、製品として採用(または両端部の切除により採取)し得る幅を狭くする為、樹脂フィルムの生産効率を低下させるほか、樹脂フィルムの端部と中央部との間で収縮率の差異を引き起こし、中央部が端部側よりも厚くなる原因となる。
【0008】
これら現象によって、Tダイ押出法で得られた樹脂フィルムは、他の成形方法で得られた樹脂フィルムと比較して厚み精度が良好であるとはいえ、その厚み精度は、光学フィルムとしての使用には十分とはいえない。
【0009】
従って、本発明の目的は、高い厚み精度を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法および熱可塑性樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を包含する。
(1)ダイから押出されるシート状の溶融熱可塑性樹脂材料を、2本の冷却ロールの間に挟み込んで成形する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、前記2本の冷却ロールのうち、少なくとも一方の冷却ロールの両端部の外周面には、ロール中央部の外径よりも小さい外径を有する段差部がそれぞれ周状に形成されており、前記溶融熱可塑性樹脂材料が2本の冷却ロールの間に挟み込まれるときに、前記段差部と他方の冷却ロールとの間にも挟み込まれ、前記溶融熱可塑性樹脂材料が前記段差部と他方の冷却ロールとの間で受ける線圧が実質的に0kgf/cmであることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(2)前記熱可塑性樹脂材料は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂およびメチルメタクリレート−スチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む前記(1)に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(3)前記段差部が、0.01〜0.2mmの段差を有する前記(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(4)前記2本の冷却ロールのうち、少なくとも一方の冷却ロールは、外周面に金属製薄膜を備えた弾性ロールである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(5)前記熱可塑性樹脂材料は、ゴム粒子を含有するものである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によって製造され得るまたは製造された熱可塑性樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2本の冷却ロールのうち、少なくとも一方の冷却ロールの両端部に段差部を有し、溶融熱可塑性樹脂材料が段差部と他方の冷却ロールとの間で受ける線圧が実質的に0kgf/cmであるので、端部と中央部との間の厚み差が小さくなり、高い厚み精度を有する熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。さらに、塩化メチレンやメタノールなどの有機溶剤を使用しないので、環境にかかる負荷が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造方法の一実施形態を示す概略説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるロール構成を示す概略断面説明図である。
【図3】本発明の一実施形態で用いることのできる段差部が形成された冷却ロールを示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、ダイから押出されたシート状の溶融熱可塑性樹脂材料(即ち、溶融状態の熱可塑性樹脂材料または組成物)を、2本の所定の冷却ロールの間に挟み込んで成形し、高い厚み精度を有する熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法である。なお、本発明では、熱可塑性樹脂材料は、熱可塑性樹脂を主成分として含むものであればよい。主成分とは、該材料中の含有割合が50%を越える成分を意味する。
【0014】
(熱可塑性樹脂材料)
熱可塑性樹脂材料中に主成分として含まれる熱可塑性樹脂としては、溶融加工可能な樹脂であれば特に制限はなく、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、メチルメタクリレート−スチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)系樹脂など挙げられ、なかでも、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂およびメチルメタクリレート−スチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0015】
<アクリル系樹脂>
アクリル系樹脂としては、例えば、メタクリル樹脂などが用いられる。メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルを主体とする重合体であり、メタクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。ここで、メタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸のアルキルエステルが用いられる。
【0016】
メタクリル樹脂の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、メタクリル酸アルキルが50〜100重量%、アクリル酸アルキルが0〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49重量%であり、より好ましくは、メタクリル酸アルキルが50〜99.9重量%、アクリル酸アルキルが0.1〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49重量%である。ただし、単量体の合計は100重量%を超えない。
【0017】
メタクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0018】
アクリル酸アルキルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0019】
メタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単量体としては、例えば、単官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を1個有する化合物であってもよいし、多官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物であってもよく、なかでも単官能単量体が好ましく用いられる。
この単官能単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化アルケニル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなどが挙げられる。
また、多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルなどの不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの多塩基酸のポリアルケニルエステル;ジビニルベンゼンなどの芳香族ポリアルケニル化合物などが挙げられる。
【0020】
なお、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、及びこれら以外の単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0021】
メタクリル樹脂は、耐熱性の観点から、その熱変形温度(ガラス転移温度)が70℃以上であることが好ましく、80℃以上であるのがより好ましく、更には90℃以上であることが好ましい。このガラス転移温度は、単量体の種類やその割合を調整することにより、適宜設定することができる。
【0022】
メタクリル樹脂は、単量体成分を、懸濁重合、乳化重合、塊状重合などの方法により重合させることにより、調製することができる。その際、好適なガラス転移温度を得るため、又は好適な積層体への成形性を示す溶融粘度を得るためなどに、重合時に適当な連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の添加量は、単量体の種類やその割合などに応じて、適宜決定すればよい。
【0023】
<ポリカーボネート系樹脂>
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、耐熱性、機械的強度、透明性などに優れた芳香族ポリカーボネート系樹脂が好適に用いられる。
芳香族ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法、溶融エステル交換法で反応させて得られる樹脂;カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法により重合させて得られる樹脂;環状カーボネート化合物の開環重合法により重合させて得られる樹脂などが挙げられる。
【0024】
二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステルなどが挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
なかでも、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれる二価フェノールを単独で又は2種以上用いるのが好ましく、特に、ビスフェノールAの単独使用や、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンと、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン及びα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれる1種以上の二価フェノールとの併用が好ましい。
【0026】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0027】
<スチレン系樹脂>
スチレン系樹脂としては、その構成単位としてスチレン単位を50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有する重合体であり、スチレン単位を50質量%以上含有する限りその一部がスチレンと共重合可能な単官能の不飽和単量体単位で置き換えられた共重合体であってもよい。
【0028】
スチレン単位としては、例えば、スチレンのほか、クロロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン類;ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどのアルキルスチレン類などの置換スチレンなどの、スチレン骨格を有し、ラジカル重合可能な二重結合を分子内に1個有する化合物である。
【0029】
スチレンと共重合可能な単官能の不飽和単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸、アクリル酸などの不飽和酸類;α−メチルスチレン、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。また、この共重合体は、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位をさらに含んでいても良い。
【0030】
<メチルメタクリレート−スチレン系樹脂>
メチルメタクリレート−スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン単位含有量20〜95質量%とメチルメタクリレート単位含有量80〜5質量%との共重合体、好ましくはスチレン単位含有量70質量%以上とメチルメタクリレート単位含有量30質量%以下との共重合体などが挙げられる。スチレン単位としては、上記スチレン系樹脂において記載したスチレン単位を使用することができる。
【0031】
<環状オレフィン系樹脂>
環状オレフィン系樹脂としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物をはじめとする各種環状オレフィンポリマー、ジシクロペンタジエンまたはテトラシクロドデセンとエチレンとの共重合体をはじめとする各種環状オレフィンコポリマーおよびその水素化物、ノルボルネン系重合体などから選ばれた1種以上であって、例えば、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーなどの、環状オレフィンからなるモノマーのユニットを有する熱可塑性の樹脂であり、上記環状オレフィンの開環重合体や2種以上の環状オレフィンを用いた開環共重合体の水素添加物であってもよし、環状オレフィンと鎖状オレフィンやビニル基を有する芳香族化合物との付加共重合体であってもよい。また、極性基が導入されていてもよい。
環状オレフィンと鎖状オレフィンやビニル基を有する芳香族化合物との共重合体とする場合、鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレンやプロピレンなどが挙げられ、またビニル基を有する芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。このような共重合体において、環状オレフィンからなるモノマーのユニットは、50モル%以下、例えば、15〜50モル%程度であってもよい。特に、環状オレフィンと鎖状オレフィンとビニル基を有する芳香族化合物との三元共重合体とする場合、環状オレフィンからなるモノマーのユニットは、このように比較的少ない量であることができる。かかる三元共重合体において、鎖状オレフィンからなるモノマーのユニットは、通常、5〜80モル%、ビニル基を有する芳香族化合物からなるモノマーのユニットは、通常、5〜80モル%である。
市販の熱可塑性環状オレフィン系樹脂としては、Ticona社製の「Topas」、JSR(株)製の「アートン」、日本ゼオン(株)製の「ゼオノア(ZEONOR)」及び「ゼオネックス(ZEONEX)」、三井化学(株)製の「アペル」など(いずれも商品名)が挙げられる。
なお、環状オレフィン系樹脂としては、ガラス転移点が100℃以上、好ましくは130℃以上が好ましい。
【0032】
<ポリエステル系樹脂>
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体、結晶性ポリエステル、非晶性ポリエステル等が挙げられる。
このようなポリエステル系樹脂は、例えば、二塩基酸と多価アルコールとを重縮合して得られる。
二塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
また、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロへキサンジメタノール、ペンタエチレングリコール、2,2−ジメチルトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等のジオールが挙げられる。
二塩基酸と多価アルコールは、任意の組み合わせにより用いられる。具体的には、テレフタル酸/エチレングリコール共重合体やテレフタル酸/エチレングリコール/1,4−シクロへキサンジメタノール三元共重合体、2,6−ナフタレンジカルボン酸/エチレングリコール共重合体、テルフタル酸/1,4−ブタンジオール共重合体などが挙げられる。
市販の結晶性ポリエステルとしては、例えば、東洋紡績(株)製の「バイロン」などが挙げられ、市販の非晶性ポリエステルとしては、例えば、非晶性ポリエチレンテレフタレート(いわゆるAPET)や、テレフタル酸/エチレングリコール/1,4−シクロへキサンジメタノール三元共重合体(イーストマンケミカル(株)製「PETG」など)などが挙げられる。
【0033】
<AS系樹脂>
AS系樹脂としては、例えば、アクリロニトリルから誘導されるモノマー単位とスチレンから誘導されるモノマー単位とがランダムに共重合した共重合体等が挙げられる。アクリロニトリルから誘導されるモノマー単位の含有量は、通常2〜50重量%(すなわち、スチレンから誘導されるモノマー単位の含有量は、通常98〜50重量%)であり、好ましくは20〜30重量%(すなわち、スチレンから誘導されるモノマー単位の含有量は、好ましくは80〜70重量%)である。ただし、AS系樹脂に含有されるモノマー単位の合計を100重量%とする。
【0034】
<ABS系樹脂>
ABS系樹脂としては、例えば、前述したAS系樹脂にオレフィン系ゴム(例えば、ポリブタジエンゴム)を40重量%以下程度にグラフト重合した共重合体等が挙げられる。
また、後述するゴム粒子を含有する場合、良好な透明性を得るために、ゴム成分の屈折率の値に樹脂成分の屈折率の値を近づける観点から、樹脂成分としてスチレンとメチルメタクリレートおよび他の共重合可能な単量体の共重合体とするいわゆる透明ABSが好ましい。
ABS系樹脂を形成する際に用いられる他の共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリルが挙げられる。また、透明ABS系樹脂については、例えば、特開2006−265406号公報に開示されたものが挙げられる。
【0035】
熱可塑性樹脂材料には、目的に応じて、例えば、ゴム粒子、光拡散剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、耐衝撃剤、高分子型帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤、染料、顔料などの添加剤を1種または2種以上を任意に組み合わせて含んでいてもよい。
【0036】
<ゴム粒子>
熱可塑性樹脂材料はゴム粒子(または弾性重合体を少なくとも含んで成る粒子)を含有するのが好ましい。これにより、得られる熱可塑性樹脂フィルムに耐衝撃性を付与することができる。
ここで、ゴム粒子としては、例えば、アクリル系ゴム粒子、ブタジエン系ゴム粒子、スチレン−ブタジエン系ゴム粒子などを用いることができるが、中でも、耐候性、耐久性の点から、アクリルゴム系粒子が好ましい。
【0037】
アクリル系ゴム粒子は、アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体からなる層(弾性重合体層)を有するものであり、弾性重合体のみからなる単層の粒子であってもよいし、弾性重合体層と硬質重合体からなる層(硬質重合体層)とから構成される多層構造の粒子であってもよく、1種または2種以上のアクリル系ゴム粒子を混合して用いてもよい。
【0038】
アクリル系ゴム粒子が多層構造を有する場合には、その層構成としては、例えば、内層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる2層構造、内層(硬質重合体層)/外層(弾性重合体層)からなる2層構造、最内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/最外層(硬質重合体層)からなる3層構造、最内層(弾性重合体層)/中間層(硬質重合体層)/最外層(弾性重合体層)からなる3層構造、最内層(弾性重合体層)/内層側中間層(硬質重合体層)/外層側中間層(弾性重合体層)/最外層(硬質重合体層)からなる4層構造などが挙げられる。また、これら層構造のうち最も外側が硬質重合体層である構造において、さらにその外側が異なる組成の硬質重合体層で覆われた構造、具体的には、最内層(弾性重合体層)/中間層(硬質重合体層)/最外層(硬質重合体層)からなる3層構造、最内層(硬質重合体層)/内層側中間層(弾性重合体層)/外層側中間層(硬質重合体層)/最外層(硬質重合体層)からなる4層構造等であってもよい。
【0039】
アクリル系ゴム粒子における弾性重合体部は、少なくとも弾性重合体を含む部分であり、アクリル系ゴム粒子が弾性重合体の単層構造からなる場合には、アクリル系ゴム粒子の全てを意味し、アクリル系ゴム粒子が多層構造からなる場合には、アクリル系ゴム粒子を構成する層のうち最も外側にある弾性重合体層と弾性重合体層に覆われるその内部の弾性重合体層とを意味する。
【0040】
アクリル系ゴム粒子を構成する弾性重合体層は、アクリル酸アルキルと多官能単量体とを含み、必要に応じてメタクリル酸アルキルや他の単官能単量体をも含む単量体成分を重合させてなる弾性重合体で形成されることが好ましい。
【0041】
弾性重合体層を形成する際に用いられるアクリル酸アルキルとしては、通常、アルキル基の炭素数が1〜8、好ましくは1〜4であり、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
弾性重合体層を形成する際に用いられる多官能単量体は、分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する化合物であり、具体的には、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,2−プロピレングリコールジアクリレート、1,3−プロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルなどの不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの多塩基酸のポリアルケニルエステル;ジビニルベンゼンなどの芳香族ポリアルケニル化合物などが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
弾性重合体層を形成する際に任意に用いられるメタクリル酸アルキルとしては、通常、アルキル基の炭素数が1〜8、好ましくは1〜4であり、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
弾性重合体層を形成する際に任意に用いられる他の単官能単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族アルケニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのアルケニルシアン化合物;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
アクリル系ゴム粒子における弾性重合体層を形成する単量体成分の好ましい組成は、例えば、アクリル酸アルキル、多官能単量体、メタクリル酸アルキル、および他の単官能単量体の総量に対して、アクリル酸アルキルが50〜99.9重量%、多官能単量体が0.1〜10重量%、メタクリル酸アルキルが0〜49.9重量%、他の単官能単量体が0〜49.9重量%の割合である。ただし、単量体成分の合計は100重量%を超えない。
【0046】
アクリル系ゴム粒子を構成する硬質重合体層は、通常、メタクリル酸アルキルを含み、必要に応じて、アクリル酸アルキル、他の単官能単量体や多官能単量体を含む単量体成分を重合させてなる硬質重合体で形成されることが好ましい。
【0047】
硬質重合体層を形成する際に用いられるメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、他の単官能単量体および多官能単量体としては、弾性重合体層を構成するメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、他の単官能単量体および多官能単量体として前述したものと同様のものが挙げられる。
【0048】
アクリル系ゴム粒子における硬質重合体層を形成する単量体成分の好ましい組成は、例えば、硬質重合体層が弾性重合体部の外側に存在する場合には、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、他の単官能単量体、および多官能単量体の総量に対して、メタクリル酸アルキルが50〜100重量%、アクリル酸アルキルが0〜50重量%、他の単官能単量体が0〜50重量%、多官能単量体が0〜10重量%であり、硬質重合体層が弾性重合体部の内側に存在する場合(すなわち、弾性重合体部が硬質重合体層を含有する場合)には、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、他の単官能単量体、および多官能単量体の総量に対して、メタクリル酸アルキルが70〜100重量%、アクリル酸アルキルが0〜30重量%、他の単官能単量体が0〜30重量%、多官能単量体が0〜10重量%の割合である。ただし、単量体成分の合計は100重量%を超えない。
【0049】
アクリル系ゴム粒子が多層構造である場合の弾性重合体層と硬質重合体層との重量割合は、特に制限されず、例えば、隣り合って存在する弾性重合体層と硬質重合体層との割合は、弾性重合体100重量部に対して、硬質重合体が通常10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部であるのがよい。
【0050】
アクリル系ゴム粒子は、弾性重合体を形成する単量体成分を乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させて調製することができる。
例えば、最内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/最外層(硬質重合体層)からなる3層構造のアクリル系ゴム粒子を調製する場合は、まず、この最内層となる硬質重合体層を形成する単量体成分を乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合して硬質重合体を得、該硬質重合体の存在下で、弾性重合体を形成する単量体成分を乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させて、硬質重合体にグラフトさせる。次いで、得られる弾性重合体層の存在下で、硬質重合体を形成する単量体成分を乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、弾性重合体にグラフトさせればよい。なお、各層の重合を、それぞれ2段以上で行う場合、いずれも、各段の単量体組成ではなく、全体としての単量体組成が所定の範囲内にあればよい。
【0051】
アクリル系ゴム粒子の粒径については、ゴム粒子中のアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層の平均粒子径が、0.01〜0.4μmであるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.3μm、さらに好ましくは0.07〜0.25μmである。
【0052】
なお、平均粒子径は、アクリル系ゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、その断面において酸化ルテニウムによる弾性重合体の層の染色を施し、電子顕微鏡で観察して、染色された部分の直径から求めることができる。
すなわち、アクリル系ゴム粒子をメタクリル樹脂に混合し、その断面を酸化ルテニウムで染色すると、母相のメタクリル樹脂は染色されず、弾性重合体層の外側に硬質重合体層が存在する場合は、この硬質重合体層も染色されず、弾性重合体層のみが染色されるので、電子顕微鏡により、こうして染色された弾性重合体層のほぼ円形状に観察される部分の直径から、粒子径を求めることができる。弾性重合体層の内側に硬質重合体層が存在する場合は、この硬質重合体も染色されず、その外側の弾性重合体層が染色された2層構造の状態で観察されることになるが、この場合は、2層構造の外側、すなわち弾性重合体の層の外径で考えればよい。
【0053】
熱可塑性樹脂材料中のゴム粒子の含有割合は、熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が所望のものとなるように適宜調整すればよいが、ゴム粒子が多層構造からなる場合、通常、熱可塑性樹脂材料の総量に対して40重量%以下であり、好ましくは30重量%以下であり、また、好ましくは5重量%以上であり、より好ましくは10重量%以上であり、ゴム粒子が単層構造からなる場合、通常、熱可塑性樹脂材料の総量に対して80重量%以下であり、好ましくは70重量%以下であり、また好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上である。
【0054】
(熱可塑性樹脂フィルムの製造方法)
以下、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本発明の製造方法の一実施形態を示す概略説明図である。図2は、本発明の一実施形態にかかるロール構成を示す概略断面説明図である。図3は、本発明の一実施形態で用いることのできる段差部が形成された冷却ロールを示す概略正面図である。
【0055】
本発明では、まず、上述した熱可塑性樹脂材料を押出機1に投入して溶融混錬し、図1に示すように、T型ダイ2の先端(リップ)からシート状の溶融熱可塑性樹脂材料3を押し出す。
【0056】
押出機1としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機等が挙げられる。また、2層以上からなる多層の熱可塑性樹脂フィルムを製造する場合には、複数の押出機を用いてもよい。例えば、3層の熱可塑性樹脂フィルムを製造する場合には、3基または2基の押出機を用いて、それぞれの熱可塑性樹脂材料を溶融混錬し、溶融した熱可塑性樹脂材料を3種3層分配型または2種3層分配型フィードブロック(図示せず)で分配し、単層T型ダイに流入させて共押出してもよいし、それぞれの溶融した熱可塑性樹脂材料をマルチマニホールドダイに別々に流入させてリップ手前で3層構成に分配して共押出してもよい。
【0057】
押出機1には、適宜、熱可塑性樹脂材料中の比較的大きな異物等をろ過、除去する為のスクリーンメッシュ;熱可塑性樹脂材料中の比較的小さな異物、ゲル等をろ過、除去する為のポリマーフィルター;押し出す樹脂量を安定定量化する為のギアポンプなどを設けても良い。
【0058】
T型ダイ2は、スリット状のリップを有するダイであり、例えば、フィードブロックダイ、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイ、スクリューダイ等が挙げられる。多層の熱可塑性樹脂フィルムを製造する場合には、マルチマニホールドダイなどを用いてもよい。
また、T型ダイ2のリップの幅方向の長さは、特に制限は無いが、製品幅に対して1.2〜1.5倍であることが好ましい。リップの開度は、所望する製品の厚みにより適宜調整すればよいが、通常、所望する製品の厚みの1.01〜10倍、好ましくは1.1〜5倍である。リップの開度の調整は、T型ダイ2の幅方向に並んだボルトで調整するのが好ましい。リップ開度は幅方向に一定でなくてもよく、例えば、端部のリップ開度を中央部のリップ開度より狭く調整することでドローレゾナンス現象を抑制することができる。
【0059】
次いで、押し出されたシート状の溶融熱可塑性樹脂材料3を、2本の冷却ロール4,5との間に挟み込んで成形する。
【0060】
<冷却ロール>
2本の冷却ロール4,5は、互いに金属ロールであってもよいし、互いに弾性ロールであってもよいし、一方が金属ロールであり、他方が弾性ロールであってもよく、なかでも、得られる樹脂フィルムに高い厚み精度を付与できることから、一方が金属ロールであり、他方が弾性ロールであるのが好ましい。
【0061】
金属ロールとしては、高剛性であれば特に限定されず、例えば、ドリルドロール、スパイラルロール等が挙げられる。金属ロールの表面状態は、特に限定されず、例えば、鏡面であってもよく、模様や凹凸等があってもよい。
【0062】
弾性ロールとしては、例えば、ゴムロールや、外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロール(以下、金属弾性ロールという場合がある。)などが挙げられ、なかでも、金属弾性ロールであることが好ましい。
【0063】
金属弾性ロールは、図2に示すように、略円柱状の回転自在に設けられた軸ロール7と、この軸ロール7の外周面を覆うように配置され、溶融熱可塑性樹脂材料3に接触する円筒形の金属製薄膜8と、これら軸ロール7および金属製薄膜8の間に封入された流体9とからなり、金属弾性ロールは流体9により弾性を示す。
軸ロール7は、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼等からなる。
金属製薄膜8は、例えば、ステンレス鋼などからなり、その厚みは2〜5mm程度であるのが好ましい。金属製薄膜8は、屈曲性や可撓性等を有しているのが好ましく、溶接継ぎ部のないシームレス構造であるのが好ましい。このような金属製薄膜8を備えた金属弾性ロールは、耐久性に優れると共に、金属製薄膜8を鏡面化すれば通常の鏡面ロールと同様の取り扱いができ、金属製薄膜8に模様や凹凸を付与すればその形状を転写できるロールになるので、使い勝手がよい。
【0064】
流体9としては、流体であれば特に限定はなく、例えば、水、オイルなどが挙げられる。水の場合は、100℃以下のロール温度設定の際に好適に用いられ、更に、例えば圧力を加え加圧水とすることで100℃以上のロール温度にも適応できる。また、更に高温のロール温度に設定する場合は、オイルの方が好適に用いられる。
【0065】
一般的には、冷却ロールの幅はシート状の溶融熱可塑性樹脂材料3の幅より長いため、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3は幅方向の全幅にわたって力を受けるが、本発明では、冷却ロール4,5のうち、少なくとも一方の冷却ロールの両端部の外周面には、段差部がそれぞれ周状に形成されている。また、本発明では、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3が2本の冷却ロール4,5の間に挟み込まれるときに、前記段差部と他方の冷却ロールとの間にも挟み込まれ得る。すなわち、両方の冷却ロール4,5の両端部の外周面に段差部をそれぞれ有するか、あるいは、一方のみの冷却ロールの両端部の外周面に段差部をそれぞれ有していてもよい。なかでも、後者であるのが好ましく、特に、段差部が形成されない冷却ロールが金属弾性ロールであり、段差部を有する冷却ロールが金属ロールであるのが好ましい。前述の通り、金属弾性ロールは外周が円周状の金属製薄膜からなるので、段差部を形成しにくく、段差部を形成する場合には金属製薄膜の強度が不均一になることから、段差部は、金属弾性ロールではなく、金属ロールに施すことが好ましい。
【0066】
本発明において、冷却ロール4または5の両端部の外周面に設けられる段差部の「外径」は、ロール中央部の外径よりも小さく、図3に示す通り、ロールの両端部に段差(深さ)Sを設けた場合、段差部の外径Qは、(ロールの中央部の外径R−2S)で表される。段差Sは、製造する熱可塑性樹脂フィルムの厚みに応じて、適宜設定され、0.01〜0.2mmであることが好ましい。段差Sは、さらに好ましくは、0.02〜0.18mmである。段差Sは、0.2mmより大きいと、フィルム端部が波状にうねりやすく、フィルム表面への影響が大きくなり、しいてはフィルムの破断などを起こしやすくなる。さらに、段差Sは、熱可塑性樹脂フィルムの平均の厚み(T)に対して、0.1T<S<2.0Tの関係が成り立つ範囲であれば、より好ましい。また、段差Sは、熱可塑性樹脂フィルムの厚み(T)に対して、0.1T以下の場合、端部のフィルム厚みのフレ(バラツキ)を吸収できず、線圧がかかり、しいてはフィルム全体の厚み精度が低下する結果となりやすい。また、段差Sは、熱可塑性樹脂フィルムの厚み(T)に対して、2.0T以上の場合、フィルム端部が波状にうねりやすくなり、フィルム表面への影響が大きくなり、しいてはフィルムの破断などを起こしやすくなる。なお、段差部の外周面にも鏡面加工が施されていてもよい。
【0067】
段差部を有する冷却ロールは、図3に示すように、冷却ロールの段差部10における幅a1(すなわち、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3と重ね合わさる部分)が10〜200mm、好ましくは20〜100mmであるのがよく、冷却ロールの段差部10を除く中央部11の外径Rは200〜500mmであるのが好ましい。冷却ロールの段差部10を除く中央部11における幅a2は、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3の幅と、冷却ロールの段差部10における幅a1とから、適宜調整すればよいが、このとき、幅a1が上記範囲内であることが好ましい。
【0068】
段差部10の形状としては、特に限定されず、例えば、図3に示すように、冷却ロールの段差部10の外径Qが一定である形状、中央部11側から端部にかけて傾斜状に形成された傾斜形状などが挙げられ、なかでも、ロールの加工の容易性の観点から、冷却ロールの段差部10の外径Qが一定である形状であるのが好ましい。
【0069】
段差部10における段差(または深さ)Sは、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3が2本の冷却ロール4,5で挟み込まれた際、溶融熱可塑性樹脂材料3が段差部10と他方の冷却ロールとの間で受ける後述する線圧が実質的に0kgf/cmであれば特に限定されず、所望の熱可塑性樹脂フィルムの厚みにもよるが、段差Sは0.005〜0.5mmであるのが好ましく、0.01〜0.2mmであるのがより好ましく、0.02〜0.1mmであるのがさらに好ましい。段差Sが0.5mmを超える場合、冷却ロールを切削する加工時間、費用がかかるだけで、加工時間や費用に見合ったさらなる効果の向上が見られないおそれがある。一方、0.005mm未満であると、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3が2本の冷却ロールに挟み込まれた際、該樹脂材料3の端部に設けた段差部へも線圧がかかることになり、厚み精度の向上が困難になるおそれがある。段差部が、0.01〜0.2mmの段差(深さ)Sを有する場合、フィルム端部のうねりを防止することができ、フィルム表面を良好なものとすることができ、ひいてはフィルムの破断を防止することができ、さらに、フィルム全体の厚み精度を高めることができるなどの効果が得られる。
【0070】
冷却ロール4,5の表面温度(Tr)は、上述および後述する熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)に対して、例えば、(Th−55℃)≦Tr≦(Th+55℃)、好ましくは(Th−20℃)≦Tr≦(Th+20℃)、より好ましくは(Th−15℃)≦Tr≦(Th+10℃)、さらにより好ましくは(Th−10℃)≦Tr≦(Th+5℃)の範囲とすることが望ましい。表面温度(Tr)が(Th−55℃)よりも低いと、熱可塑性樹脂の熱収縮性が大きくなり、高い厚み精度の樹脂フィルムが得られないおそれがあり、表面温度(Tr)が(Th+55℃)よりも高いと、冷却ロールからの剥離マークが目立ちやすくなるおそれがある。
なお、熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)としては、熱可塑性樹脂の組成によって定まり、通常、60〜200℃程度である。熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)は、ASTM D−648に準拠して測定される温度である。
また、多層の熱可塑性樹脂フィルムを製造する場合には、表面温度(Tr)については、熱変形温度(Th)が最も高い樹脂を基準とする。
【0071】
2本の冷却ロール間の隙間(ロールギャップ)は、所望の製品厚みにより適宜調整され、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3の両面が、それぞれ冷却ロール4,5の中央部11の表面に接する様にロールギャップが設定される。そのため、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3は、2本の冷却ロールで挟み込まれると、冷却ロール4,5の中央部11から一定の圧力を受けて熱可塑性樹脂フィルムに成形される。
【0072】
この圧力は、冷却ロール4,5が金属ロールである場合、冷却ロールの中央部11とシート状の溶融熱可塑性樹脂材料3は(幅方向に)線で接触するため、冷却ロールに加えられる力を、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料の実際に圧力を受けている部分の幅(例えば図3の幅a2)で割った値として定められ、線圧(kgf/cm)で表わされる。冷却ロールに加えられる力は、通常、第1冷却ロール4と第2冷却ロール5のうち、少なくとも一方の冷却ロールの両端面にそれぞれ連結されているエアシリンダー(図示しない。)により加えられる。冷却ロールに力を加えるのは、エアシリンダーに限ったものではなく、油圧シリンダー等であってもよい。なお、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料の実際に圧力を受けている部分の幅とは、両方の冷却ロールの両端部に段差部をそれぞれ有する場合は、冷却ロールの中央部11の幅a2(図3参照)が短い方の冷却ロールの中央部11の幅を指し、一方のみの冷却ロールの両端部に段差部をそれぞれ有する場合は、両端部に段差部をそれぞれ有する該冷却ロールの中央部11の幅a2を指す。また、両方の冷却ロールの両端部に段差部をそれぞれ有する場合であって、なおかつ、冷却ロールの中央部11の幅a2(図3参照)が同じ長さである場合は、冷却ロールの中央部11の幅a2が、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料の実際に圧力を受けている部分の幅となる。
一方、例えば、図2に示すように、一方の冷却ロールが弾性ロールである場合や、両方の冷却ロールが弾性ロールである場合は、弾性ロールの表面(図2に示す金属弾性ロールである場合は、金属製薄膜8)が圧力により凹み、弾性ロールとシート状の溶融熱可塑性樹脂材料3は面で接触するが、この場合でも、冷却ロールに加えられる力を、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料の形式的に接触する部分の幅で割り数値化する線圧の定義を用いて考えることとする。
なお、シート状の溶融熱可塑性樹脂材料の形式的に接触する部分の幅とは、上述したシート状の溶融熱可塑性樹脂材料の実際に圧力を受けている部分の幅a1と同様である。
【0073】
シート状の溶融熱可塑性樹脂材料3が2本の冷却ロールの中央部11から受ける線圧は、通常、1〜25kgf/cmであり、2〜22kgf/cmであるのが好ましく、5〜20kgf/cmであるのがより好ましい。線圧が1kgf/cmより小さいと、溶融熱可塑性樹脂材料3の表面を押さえ、良好な面を形成するのに不十分な圧力となり、厚み精度の高い綺麗な面の熱可塑性樹脂フィルムが得られないおそれがある。一方、線圧が25kgf/cmより大きいと、溶融熱可塑性樹脂材料3にかかるせん断力が大きくなることから、溶融熱可塑性樹脂材料3の配向性が高まり、得られる熱可塑性樹脂フィルムの複屈折率が高くなるおそれがある。
【0074】
また、本発明において、溶融熱可塑性樹脂材料3の両端部が受ける線圧、すなわち溶融熱可塑性樹脂材料3が段差部10と他方の冷却ロールとの間で受ける線圧は実質的に0(ゼロ)である。また、一方の冷却ロールの両端部に段差部10があり、なおかつ他方の冷却ロールの両端部にも段差部10を設けた場合にも、段差部10において溶融熱可塑性樹脂材料3の両端部が受ける線圧は実質的に0(ゼロ)である。
ここで、線圧が実質的に0(ゼロ)であるとは、溶融熱可塑性樹脂材料3が冷却ロール4,5の間に挟み込まれたときに、溶融熱可塑性樹脂材料3が段差部10に接触するが、段差部10に接触する溶融熱可塑性樹脂材料3の表面に、段差部10の表面形状が転写されていないことをいう。
【0075】
また、図2に示すように、一方の冷却ロール4が金属弾性ロールであり、他方の冷却ロール5が金属ロールである場合、金属弾性ロールと金属ロールとの間に溶融熱可塑性樹脂材料3を挟み込むと、溶融熱可塑性樹脂材料3を幅方向に均一に加圧することができる。すなわち、金属弾性ロールが溶融熱可塑性樹脂材料3を介して金属ロールの外周面に沿って凹状に弾性変形し、金属弾性ロールと金属ロールとが溶融熱可塑性樹脂材料3を介して所定の接触長さLで接触する(なお、長さLは、実際にはロールの湾曲に沿う曲線の長さであるが、便宜上、図2に示す通り、溶融熱可塑性樹脂材料3が、ロールとロールの間に挟み込まれる点と、ロールから離脱する点との直線距離で表す)。これにより、金属弾性ロールおよび金属ロールは、溶融熱可塑性樹脂材料3に対して面接触で圧着するようになり、これらロール間に挟み込まれた溶融熱可塑性樹脂材料は面状に均一加圧されながらフィルム化される。このようにしてフィルム化すると、得られる樹脂フィルムに高い厚み精度を付与することができ、さらに樹脂フィルム内に歪が残留するのを抑制することができる。
【0076】
接触長さLとしては、得られる溶融熱可塑性樹脂材料3を幅方向に均一に加圧することができる長さであればよい。したがって、金属弾性ロールは、該金属弾性ロールが弾性変形した際にこのような接触長さLを形成することができる程度の弾性を備えていればよい。
接触長さLとしては、1〜20mm、好ましくは1〜10mm、より好ましくは1〜7mmであるのがよい。接触長さLを所定の値にするには、例えば、金属製薄膜8の厚み、流体9の封入量等を調整することによって任意に行うことができる。
【0077】
このようにして得られた熱可塑性樹脂フィルムは、フィルム両端部の厚み精度が、フィルム中央部の厚み精度よりも低いため、熱可塑性樹脂フィルムの両端部12、12を切断してもよい。
該切断方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂フィルムの上下面から丸刃のカッターを押しあてるロータリーシェアカッターを用いる方法が、熱可塑性樹脂フィルムの破断を防止する観点から好ましい。
【0078】
熱可塑性樹脂フィルムの構造は、特に限定されず、単層構造であっても、複数の層構造であってもよい。複数の層構造である場合には、例えば、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂などの同一または異なる熱可塑性樹脂材料の2層、3層または4層以上の構造であってもよい。
【0079】
樹脂フィルムの厚みは、ダイ2から押し出される溶融熱可塑性樹脂材料3の厚み、2本の冷却ロール4、5のロールギャップ等により調整することができる。本発明によって製造することのできる樹脂フィルムの厚みは、例えば、0.5〜0.02mm、好ましくは0.25〜0.03mm、より好ましくは0.1〜0.04mmである。
【0080】
熱可塑性樹脂フィルムは、液晶表示装置やプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイにおける光学フィルムなどに好適に用いることができ、特に、基材フィルム表面にハードコート処理やアンチグレア処理等の表面処理を施して形成される光学フィルムにおける該基材フィルムとしてより好適に用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。
【0082】
各実施例における端部の線圧の測定方法は下記のとおりである。
ダイから押出されたシート状の溶融熱可塑性樹脂組成物を第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込んだときの、第2冷却ロールの両端面にそれぞれ連結されているエアシリンダーの圧力値と該シリンダーの断面積とを掛けた値の合計値を、第2冷却ロールに加えられている力とし、この力を第2冷却ロールに接触するシート状の溶融熱可塑性樹脂組成物の幅で割った値を端部の線圧(kgf/cm)として算出した。なお、第2冷却ロールの両端部に段差部があり、シート状の溶融熱可塑性樹脂組成物が段差部(より詳細には段差部の底部)に接触しない場合、または該組成物が段差部に接触するが、段差部に接触する該組成物の表面に、段差部の表面形状が転写されていない場合は、端部の線圧を0kgf/cmとした。
【0083】
熱可塑性樹脂フィルムの厚み精度の評価は、下記条件で行った。
<樹脂フィルムの流れ方向(MD)の厚み精度>
得られた樹脂フィルム(流れ方向の長さ×幅方向の長さ=1500mm×900mm)を、幅方向に9等分し、その3列目を測定サンプル(流れ方向の長さ×幅方向の長さ=1500mm×100mm)とした。測定サンプルをマイクロメーターを用いて、厚みを流れ方向に30mm間隔で50点測定し、測定した厚みの最大値および最小値、並びに測定した50点の平均厚みから、厚みの振れ量、厚み精度を下記式より算出した。
厚みの振れ量(μm)=最大厚み−最小厚み
厚み精度(%)=(厚みの振れ量/平均厚み)×100
<樹脂フィルムの流れ方向に直交する方向(TD)の厚み精度>
得られた樹脂フィルム(流れ方向の長さ×幅方向の長さ=1500mm×900mm)を、流れ方向に50mm幅の短冊状サンプル(流れ方向の長さ×幅方向の長さ=50mm×900mm)を幅方向に切り出した。短冊状サンプルをマイクロメーターを用いて、厚みを幅方向に30mm間隔で30点測定し、測定値の厚みの最大値および最小値、並びに測定した15点の平均厚みから、厚みの振れ量、厚み精度を下記式より算出した。
厚みの振れ量(μm)=最大厚み−最小厚み
厚み精度(%)=(厚みの振れ量/平均厚み)×100
【0084】
以下の実施例および比較例で使用した冷却ロールは、以下のとおりである。
冷却ロールA:ステンレス鋼からなる軸ロールの外周部を覆うように、片面が鏡面化された厚さ2mmのステンレス鋼製薄膜を鏡面仕上げ面がロール外面になる様に配置し、軸ロールと金属性薄膜との間に熱媒油からなる流体を封入した、外径が350mm、幅が1600mmである金属弾性ロール(表面温度:87℃)。
冷却ロールB:表面を鏡面仕上げしたステンレス鋼からなり、外径が350mm、幅が1600mmであるスパイラル金属ロール(内部にスパイラル状の流体通路を有する)(表面温度:87℃)。
冷却ロールC:図3に示すように、中央部11の外径Rが350mm、中央部11の幅a2が1400mmであり、両端部外周面に段差Sが50μmである、表面を鏡面仕上げしたステンレス鋼からなるスパイラル金属ロール(内部にスパイラル状の流体通路を有する)(表面温度:87℃)。なお、幅a1は約100mmであった。
【0085】
以下の実施例および比較例では、以下に示すポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂およびゴム粒子を使用した。
<ポリカーボネート樹脂>
ポリカーボネート系樹脂として、住友ダウ(株)製の「カリバー 300−15」(熱変形温度:140℃)を用いた。
<アクリル系樹脂>
アクリル系樹脂として、メタクリル酸メチル97.8%とアクリル酸メチル2.2%とからなる単量体のバルク重合により得られた熱可塑性重合体(熱変形温度104℃)のペレットを用いた。なお、この熱変形温度は、ガラス転移温度として、JIS K7121:1987に従い、示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で求めた補外ガラス転移開始温度である。
<ゴム粒子>
ゴム粒子として、最内層がメタクリル酸メチル93.8%とアクリル酸メチル6.0%とメタクリル酸アリル0.2%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、中間層がアクリル酸ブチル81%とスチレン17%とメタクリル酸アリル2%とからなる単量体の重合により得られた弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチル94%とアクリル酸メチル6%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、最内層/中間層/最外層の重量割合が35/45/20であり、中間層の弾性重合体の層の平均粒子径が0.22μmである、乳化重合法による球形3層構造のゴム粒子を用いた。
なお、ゴム粒子の平均粒子径は、ゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、その断面において酸化ルテニウムにより弾性重合体(中間層)を染色し、電子顕微鏡で観察して、染色された部分の直径から求めた。
【0086】
<実施例1〜3、比較例1〜3>
(単層の樹脂フィルムの作製)
まず、以下のようにして、熱可塑性樹脂組成物を調製した。すなわち、アクリル系樹脂70部とゴム粒子30部とを、スーパーミキサーで混合し、二軸押出機にて溶融混錬して、アクリル系樹脂とゴム粒子からなる熱可塑性樹脂組成物をペレットとして得た。
次いで、第1冷却ロールおよび第2冷却ロールの構成を、表1に示すロール構成とした。そして、上記で得た熱可塑性樹脂組成物を120mmφ一軸押出機〔Hitz産機テクノ(株)製〕で溶融させ、リップ幅1650mm、リップ開度0.6mmのT型ダイ〔Hitz産機テクノ(株)製〕を介してシート状の溶融熱可塑性樹脂組成物を押出した。
押出されたシート状の溶融熱可塑性樹脂組成物を、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込んで成形・冷却して、表1に示す厚みの樹脂フィルムを得た。シート状の溶融熱可塑性樹脂組成物が第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込まれたときに、冷却ロールの両端部において受ける線圧を表1に示した。また、得られた樹脂フィルムの厚み精度を測定し、その結果を表1に示した。
【0087】
<実施例4、比較例4>
(三層構成の樹脂フィルムの作製)
まず、<実施例1〜3、比較例1〜3>と同様にして、アクリル系樹脂70部とゴム粒子30部とを、スーパーミキサーで混合し、二軸押出機にて溶融混錬して、アクリル系樹脂とゴム粒子からなる熱可塑性樹脂組成物をペレットとして得た。
次いで、第1冷却ロールおよび第2冷却ロールの構成を、表1に示すロール構成とした。そして、ポリカーボネート樹脂を120mmφ一軸押出機〔Hitz産機テクノ(株)製〕で、上記で得た熱可塑性樹脂組成物を50mmφ一軸押出機〔Hitz産機テクノ(株)製〕で溶融させ、これらを2種3層分配型のフィードブロック〔Hitz産機テクノ(株)製〕を介して、ポリカーボネート樹脂の両面に熱可塑性樹脂組成物を積層し、リップ幅1650mm、リップ開度0.6mmのT型ダイ〔Hitz産機テクノ(株)製〕を介して、3層からなるシート状の溶融熱可塑性樹脂組成物を押出した。
押出されたシート状の溶融熱可塑性樹脂組成物を、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込んで成形・冷却して、表1に示す厚みの樹脂フィルムを得た。シート状の溶融熱可塑性樹脂組成物が第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込まれたときに、冷却ロールの両端部において受ける線圧を表1に示した。また、得られた樹脂フィルムの厚み精度を測定し、その結果を表1に示した。
【0088】
【表1】

【0089】
実施例では、2本の冷却ロールのうち、一方の冷却ロールの両端部に段差部がそれぞれ形成されており、シート状の溶融熱可塑性樹脂組成物が2本の冷却ロールの間に挟み込まれたときに、該熱可塑性樹脂組成物は該段差部(底部)に接触しておらず、該熱可塑性樹脂組成物が受ける端部の線圧は0kgf/cmであった。実施例では、2本の冷却ロールのうち、一方の冷却ロールの両端部に段差部がそれぞれ形成されており、かつ、シート状の熱可塑性樹脂組成物が受ける端部の線圧が0kgf/cmであったので、各実施例で得られた熱可塑性樹脂フィルムのMDの厚み精度は1.1〜2.6%であり、TDの厚み精度は0.4〜1.6%であり、高い厚み精度であった。
一方、比較例では、両方の冷却ロールの両端部に段差部が形成されておらず、シート状の熱可塑性樹脂組成物の受ける端部の線圧が実質的に0kgf/cmではなかったので、各比較例で得られた熱可塑性樹脂フィルムのMDの厚み精度は3.0〜9.9%であり、TDの厚み精度は1.6〜6.6%であり、厚み精度が低かった。
【符号の説明】
【0090】
1 押出機
2 ダイ
3 溶融熱可塑性樹脂材料(または組成物)
4、5 冷却ロール
7 軸ロール
8 金属製薄膜
9 流体
10 段差部
11 中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイから押出されるシート状の溶融熱可塑性樹脂材料を、2本の冷却ロールの間に挟み込んで成形する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記2本の冷却ロールのうち、少なくとも一方の冷却ロールの両端部の外周面には、ロール中央部の外径よりも小さい外径を有する段差部がそれぞれ周状に形成されており、
前記溶融熱可塑性樹脂材料が2本の冷却ロールの間に挟み込まれるときに、前記段差部と他方の冷却ロールとの間にも挟み込まれ、前記溶融熱可塑性樹脂材料が前記段差部と他方の冷却ロールとの間で受ける線圧が実質的に0kgf/cmであることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂材料は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂およびメチルメタクリレート−スチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記段差部が、0.01〜0.2mmの段差を有する請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記2本の冷却ロールのうち、少なくとも一方の冷却ロールは、外周面に金属製薄膜を備えた弾性ロールである請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂材料は、ゴム粒子を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によって製造され得るまたは製造された熱可塑性樹脂フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−14136(P2013−14136A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−131310(P2012−131310)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(507403263)エスカーボシート株式会社 (22)
【Fターム(参考)】