説明

熱可塑性樹脂フィルム及び熱可塑性樹脂成形体

【課題】雨垂れ跡などの汚れが付着することを長期に亘って防ぐことができるようにすることを目的とする。
【解決手段】親水基を有する熱可塑性樹脂100質量部に対し、シリコン成分として、シリコーンオイル0.1〜2.0質量部と、シリカ5〜30質量部の少なくとも一方を含有する熱可塑性樹脂組成物から熱可塑性樹脂フィルムを形成する。親水基を有する熱可塑性樹脂にシリコーンオイルやシリカを含有することによって、この熱可塑性樹脂組成物で形成された熱可塑性樹脂フィルムは高い滑水性を有するものである。そしてこの熱可塑性樹脂フィルムを表面に積層することによって、表面に長期に亘って高い滑水性を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家屋の外廻りのエクステリア部材、例えば雨樋などとして使用される熱可塑性樹脂成形体及び、この熱可塑性樹脂成形体の作製に主として用いられる熱可塑性樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
雨樋など、屋外で使用されるエクステリア部材には、雨水の作用でその前面、底面、背面などに雨垂れの跡が付着し、この雨垂れ跡が汚れとして目だって、外観を損ねるおそれがある。特に塩化ビニル樹脂等を成形して作製される成形体には雨垂れ跡が付着し易く、樹脂成形体にこのような雨垂れ跡が付着し難くなるように、防汚性を向上することが強く要望されている。
【0003】
そこで従来より、樹脂成形体の防汚性を向上するために、樹脂成形体の表面にシリコン系やフッ素系の塗装処理を施したりして、樹脂成形体の表面の滑水性を高め、表面に付着した雨水が直ちに滑り落ちて残留しないようにすることで、雨垂れ跡が生じることを防ぐことが行なわれている。
【0004】
しかし、樹脂成形体の表面に塗装処理を施す場合、長期間の使用の間に塗膜が摩滅すると、防汚性がたちまち低下することになり、長期に亘って雨垂れ跡が付着することを防ぐことが難しいという問題があった。
【0005】
また例えば、シリコン系のシリコーンオイルを含有するオレフィン系熱可塑性エラストマーでエクステリア部材としてウェザーストリップを成形することによって、摺動抵抗を長期に亘って低く維持するようにした提案があるが(特許文献1参照)、雨垂れ跡などの汚れが付着することを防ぐことの試みはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−306937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、雨垂れ跡などの汚れが付着することを長期に亘って防ぐことができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムは、親水基を有する熱可塑性樹脂100質量部に対し、シリコン成分として、シリコーンオイル0.1〜2.0質量部と、シリカ5〜30質量部の少なくとも一方を含有する熱可塑性樹脂組成物から形成されたことを特徴とするものである。
【0009】
このように親水基を有する熱可塑性樹脂にシリコーンオイルやシリカを上記の所定量で含有することによって、この熱可塑性樹脂組成物で形成された熱可塑性樹脂フィルムは高い滑水性を有するものであり、またこの滑水性は熱可塑性樹脂フィルムに含有されるシリコーンオイルやシリカの作用によって発現されているものであって、長期に亘って高く維持することができるものである。従ってこの熱可塑性樹脂フィルムを表面に積層することによって、表面に長期に亘って高い滑水性を付与することができるものである。
【0010】
また本発明において、熱可塑性樹脂組成物に含有されるシリコーンオイルは、動粘度が50〜100000mm/s(25℃)であることを特徴とするものである。
【0011】
シリコーンオイルがこのような動粘度を有することによって、長期に亘って高い滑水性を得ることができるものである。
【0012】
また本発明に係る熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂で形成されるコア材の表面に、上記の熱可塑性樹脂フィルムが積層されていることを特徴とするものである。
【0013】
この発明によれば、高い滑水性を有する熱可塑性樹脂フィルムによって、熱可塑性樹脂成形体の表面に長期に亘って高い滑水性を付与することができるものであり、長期に亘って防汚性を維持することができ、雨垂れ跡などの汚れが付着することを長期に亘って防ぐことができるものである。
【0014】
また本発明において、熱可塑性樹脂成形体には上端が上方へ向けて尖った水落しが形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
このように上端が上方へ向けて尖った水落しが形成されていると、水は滞留することなく流れ落ちるものであり、雨垂れ跡などの汚れが生じることを防ぐことができるものである。
【0016】
また本発明において、上記の水落しの上端から内側の面は、0°を超える角度で内方へ向けて下り傾斜することを特徴とするものである。
【0017】
この発明によれば、水落しの頂部より内部の面に付着した水は内側へと流れることになり、熱可塑性樹脂成形体の外面側へ流れたときに発生する、熱可塑性樹脂成形体の外面での雨垂れなどの汚れを防ぐことができるものである。
【0018】
また本発明において、上記の水落しの上端から外側の面は、水の転落角を超える角度で外方へ向けて下り傾斜することを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、水落しの頂部より外側の面に付着した水は、直ちに転落して流れ落ちるものであり、熱可塑性樹脂成形体の外面に雨垂れ跡などの汚れが発生することを防ぐことができるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、親水基を有する熱可塑性樹脂100質量部に対し、シリコン成分として、シリコーンオイル0.1〜2.0質量部と、シリカ5〜30質量部の少なくとも一方を含有する熱可塑性樹脂組成物から形成されたものであるので、このように親水基を有する熱可塑性樹脂にシリコーンオイルやシリカを上記の所定量で含有することによって、高い滑水性を有すると共に、この滑水性は熱可塑性樹脂フィルムに含有されるシリコーンオイルやシリカの作用によって発現されているものであって、長期に亘って高く維持することができるものであり、この熱可塑性樹脂フィルムを表面に積層することによって、表面に長期に亘って高い滑水性を付与することができるものである。
【0021】
また本発明の熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂で形成されるコア材の表面に、上記の熱可塑性樹脂フィルムを積層したものであるので、長期に亘って高い滑水性を有する熱可塑性樹脂フィルムによって、熱可塑性樹脂成形体の表面に長期に亘って高い滑水性を付与することができるものであり、長期に亘って防汚性を維持することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】熱可塑性樹脂成形体が軒樋である例を示すものであり、(a)は斜視図、(b)は従来形状の断面図である。
【図2】熱可塑性樹脂成形体がたて樋である例を示す横断面図である。
【図3】熱可塑性樹脂成形体がたて継ぎ手である例を示す縦断面図である。
【図4】熱可塑性樹脂成形体が止まりである例を示すものであり(a)は斜視図、(b)は横断面図、(c)は縦断面図である。
【図5】同時押出成形の装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物において、主成分である熱可塑性樹脂としては親水基を分子中に有するものが用いられるものである。この親水基としては、例えばエステル(−COO−)、エーテル(−O−)、シアノ(−CN)などを挙げることができるものであり、このような親水基を有する熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリレート)などを用いることができる。
【0025】
このように親水基を有する熱可塑性樹脂を用いることによって、熱可塑性樹脂組成物で成形された本発明の熱可塑性樹脂フィルムの表面に弱いながらも水との親和性を生起させ易くなり、表面の防汚性をより高めることができるものである。
【0026】
上記のアクリル樹脂としては、分子量等は特に制限されるものではないが、メルトフローレート(MFR:測定条件230℃、37.3N)が1〜35g/10minの範囲のものを用いるのが好ましい。このようなアクリル樹脂の市販品を例示すると、住友化学(株)製「LG」及び「LG2」、三菱レイヨン(株)製「MF」及び「VH5」、(株)クラレ製「GF」及び「EH」などがある。
【0027】
このアクリル樹脂にはゴムを添加して用いるのが好ましい。このゴムとしては、特に限定されるものではないが、ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコンゴムなどを使用することができる。またゴムの添加量は特に限定されるものではないが、アクリル樹脂とゴムの合計100質量部に対して10〜60質量部の範囲が好ましい。ゴムを添加することによって、アクリル樹脂の低い弾性を補って耐衝撃性を高めることできるものであり、耐衝撃性を向上することができものである。ゴムの添加量が10質量部未満では、ゴムの添加によるこのような耐衝撃性向上の効果を十分に得られず、逆にゴムの添加量が60質量部を超えると、ゴムの量が過大になって熱可塑性樹脂フィルムの耐候性が低下し、また成形性が悪くなる。
【0028】
またこのゴムは、表面の一部あるいは全面にシリコン系化合物が被覆されているものを用いることが望ましい。このシリコン系化合物としては、シリコン樹脂や、シランカップリング剤などを用いることができる。シリコン樹脂でゴムの表面を被覆する場合、シリコン樹脂はゴムの分子にグラフトして結合していることが好ましい。このようにシリコン系化合物で被覆したゴムを用いることによって、ゴムの耐水性が向上して劣化を抑えることができるものである。
【0029】
本発明は、上記の親水基を有する熱可塑性樹脂にシリコーンオイルやシリカを配合して調製される熱可塑性樹脂組成物を用いるものである。
【0030】
シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルなど、任意のものを用いることができる。なかでもジメチルシリコーンオイルが好ましく、市販品としては、例えば信越化学工業(株)の「KF96シリーズ」を用いることができる。シリコーンオイルは種々の粘度のものが提供されており、例えば「KF96シリーズ」において、「KF96−30cs」は動粘度が30mm/s、「KF96−50cs」は動粘度が50mm/s、「KF96H−1万cs」は動粘度が10000mm/s、「KF96H−10万cs」は動粘度が100000mm/s、「KF96H−30万cs」は動粘度が300000mm/sである。尚、これらの動粘度は25℃での測定値であり、また動粘度はJIS K2283の「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定された値である。
【0031】
そして本発明においてシリコーンオイルは、動粘度が50〜100000mm/s(25℃)の範囲にあるものが好ましい。シリコーンオイルの動粘度が50mm/s未満であると、シリコーンオイルを添加した熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる熱可塑性樹脂フィルムの表面にシリコーンオイルがブリードし易くなり、シリコーンオイルが熱可塑性樹脂フィルムから溶出して滑水性を長期に亘って維持することが難しくなる。逆にシリコーンオイルの動粘度が100000mm/sを超えると、このシリコーンオイルを添加して熱可塑性樹脂組成物を調製するにあたって、分散性が悪くなり、滑水性の付与にばらつきが発生するおそれがある。
【0032】
このシリコーンオイルの配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜2.0質量部の範囲に設定されるものである。シリコーンオイルを配合することによって、後述のように熱可塑性樹脂フィルムの表面の滑水性を高めることができるものであり、シリコーンオイルの配合量が0.1質量部未満であると、滑水性を十分に高めることができない。逆にシリコーンオイルの配合量が2.0質量部を超えると、熱可塑性樹脂フィルムを押出成形等する際に成形材料に滑りが生じて、成形速度が落ちるなど成形性が悪くなる。
【0033】
またシリカとしては、特に限定されるものではないが、粒径が1〜10μm程度の粉末を用いるのが好ましい。このシリカの配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、5〜30質量部の範囲に設定されるものである。シリカを配合することによって、後述のように押出成形等して作製した熱可塑性樹脂フィルムの表面の滑水性を高めることができるものであり、シリカの配合量が5質量部未満であると、滑水性を十分に高めることができない。逆にシリカの配合量が30質量部を超えると、熱可塑性樹脂フィルムの表面にシリカが露出して外観を損ね、製品として使用することができなくなる。
【0034】
尚、本発明において、シリコーンオイルとシリカは、いずれか一方を単独で配合するようにしてもよく、あるいは両者をともに配合するようにしてもよい。
【0035】
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、上記の熱可塑性樹脂、シリコーンオイル、シリカ、さらにゴムの他に、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定剤を配合することができる。このように紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を併用して配合することによって、熱可塑性樹脂フィルムの耐候性を向上することができるものであり、またゴムの添加による耐候性の低下を補うことができるものである。
【0036】
紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではないが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、トリアジン系の紫外線吸収剤を用いることができる。
【0037】
例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN1130」)、イソオクチル−3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN384」)、2−(3−ドデシル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN571」)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−(3'',4'',5'',6''−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN900」)などを例示することができる。
【0038】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ステアリルオキシベンゾフェノンなどを例示することができる。
【0039】
サリシレート系紫外線吸収剤としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどを例示することができる。
【0040】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えばヒドロキシフェニルトリアジン系として、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN400」、「TINUVIN411L」、「TINUVIN1577FF」などがあり、その他には、CYTECINDUSTRIESINC社製「CYASORB UV−1164」などを例示することができる。
【0041】
この紫外線吸収剤の配合量は、熱可塑性樹脂(ゴムを配合する場合にはゴムとの合計量)100質量部に対して0.1〜1.0質量部の範囲が好ましい。紫外線吸収剤の配合量が0.1質量部未満であると、熱可塑性樹脂フィルムの耐候性を向上する効果を十分に得ることができない。逆に1.0質量部を超えると、紫外線吸収剤の量が過剰になって、熱可塑性樹脂フィルムの表面に紫外線吸収剤がブリードし、熱可塑性樹脂フィルムの外観が損なわれることになる。従って、紫外線吸収剤の配合量を上記の範囲に設定することによって、ブリードを防ぎつつ、熱可塑性樹脂フィルムの耐候性を向上することができるものである。
【0042】
またヒンダードアミン系光安定剤としては、高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤と、低分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤とを用いることができる。高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤は分子量が2000以上5000未満のものであり、特に2000〜3000の範囲の分子量のものが好ましい。低分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤は分子量が200以上2000未満のものであり、特に300〜600の範囲の分子量のものが好ましい。尚、分子量は数平均分子量を意味するものであり、ゲル浸透クロマトグラフィー法で測定した値である。
【0043】
高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤としては、ポリ((6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミンと(コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの混合物)の混合物、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチレル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物などを例示することができる。
【0044】
低分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−セバケートの混合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN292」)、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN123」などを例示することができる。
【0045】
ヒンダードアミン系光安定剤の配合量は、熱可塑性樹脂(ゴムを配合する場合にはゴムとの合計量)100質量部に対して、高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤を0〜0.5質量部、低分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤を0.1〜1.0質量部の範囲に設定するものである。ヒンダードアミン系光安定剤の配合による耐候性の向上の効果は主として低分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤によって得ることができるものであり、高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤は必須成分ではないが、熱可塑性樹脂フィルムが長期間暴露されるときに、低分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤が消費されて効果が低下した後にも、高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤が徐々に表面付近に現れて効果を発揮し、低分子量タイプによる効果の低下を補うことができるものである。低分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤の配合量が0.1質量部未満であると、熱可塑性樹脂フィルムの耐候性を十分に高めることができない。逆に低分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤の配合量が1.0質量部を超えて多くなると、熱可塑性樹脂フィルムの表面にブリードして外観を損なうおそれがある。また高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤の配合量が0.5質量部を超えると、同様に熱可塑性樹脂フィルムの表面にブリードするおそれがあり、また却って耐候性が低下するおそれがある。上記のように高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤は必須成分ではないが、低分子量タイプとこの高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤を併用することによって、長期に亘って熱可塑性樹脂フィルムの耐候性を向上することができるので、高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤は0.05〜0.5質量部の範囲で配合するようにするのが、より好ましい。
【0046】
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、さらに着色剤や、必要に応じて、酸化防止剤、滑剤などを配合することもできる。滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、高級アルコール系、金属石鹸系など、任意のものを用いることができる。
【0047】
上記の各成分を配合することによって、熱可塑性樹脂組成物を調製することができるものである。このとき、シリコーンオイルの配合方法は、他の材料のペレットや粉体と共にシリコーンオイルを添加する方法、他の材料を混練している中にサイドフィーダーによりシリコーンオイルを添加する方法などがある。
【0048】
この熱可塑性樹脂組成物は押出成形に適した成形材料であり、熱可塑性樹脂組成物を押出成形したり、さらに押出成形したものを延伸したりして、熱可塑性樹脂フィルムを作製することができる。熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、1μm〜100μm程度が好ましい。
【0049】
このように作製される熱可塑性樹脂フィルムには、シリコン成分としてシリコーンオイルやシリカが含有されている。そしてシリコーンオイルが含有されている場合には、熱可塑性樹脂フィルムの表面はシリコーンオイルの作用で撥水性になり、水が作用するとはじかれて水滴となり、表面を滑り落ち易くなる。またシリカが含有されている場合には、熱可塑性樹脂フィルムの表面はシリカの作用で親水性になり、表面に水が作用すると濡れ広がって、表面を滑り落ち易くなる。このようにシリコーンオイルとシリカのいずれが含有されている場合でも、熱可塑性樹脂フィルムの表面は滑水性が高くなり、水が表面に付着しても直ちに流れ落ちて、水が熱可塑性樹脂フィルムの表面に残留することを防ぐことができるものである。
【0050】
そして本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂で形成されるコア材の表面に積層して使用されるものであり、熱可塑性樹脂のコア材の表面に熱可塑性樹脂フィルムを積層することによって、表面の滑水性が高い熱可塑性樹脂成形体を得ることができるものである。コア材は、熱可塑性樹脂で成形したものを用いることができるものであり、熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートとABSのアロイ樹脂などを用いることができる。またコア材は熱可塑性樹脂フィルムで被覆されるために、これらの樹脂をリサイクルしたリサイクル樹脂で形成したものを用いることもできる。
【0051】
上記のようにコア材の表面に熱可塑性樹脂フィルムを積層して形成される熱可塑性樹脂成形体で、雨水が作用する場所で使用される、家屋の外廻りのエクステリア部材を作製することができる。このように雨水が作用するエクステリア部材として使用される熱可塑性樹脂成形体にあって、表面の滑水性が上記のように高いので、雨水が表面に付着しても直ちに雨水は流れ落ちて、雨水が熱可塑性樹脂成形体の表面に残留することを防ぐことができるものであり、雨垂れ跡が汚れとして熱可塑性樹脂成形体の表面に付くことを防ぐことができるものである。そして滑水性は表面の熱可塑性樹脂フィルムに含有されるシリコーンオイルやシリカの作用によって発現されているものであって、滑水性による防汚性能を長期に亘って高く維持することができるものである。
【0052】
熱可塑性樹脂のコア材1の表面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層した熱可塑性樹脂成形体Aでエクステリア部材を作製する場合、窓枠、エアコンカバー、門柱、ポストなどや、軒樋、軒継手、止まり、たて樋、たて継手、エルボ、集水器、内曲がり、外曲がりなどの雨樋部品などを具体例として挙げることができる。
【0053】
図1は熱可塑性樹脂成形体Aで軒樋Aを作製するようにした例を示すものであり、図1(a)の軒樋Aにあって、上面が開口するコ字形断面に形成される樋本体7の屋外側の上端に補強用の耳部8が設けてある。そしてこの耳部8の上端部は、耳部8の全長に渡って上端が上方へ尖った水落し3として形成してある。コア材1はこの樋本体7、耳部8、水落し3を備えた断面形状に熱可塑性樹脂を押出成形することによって形成されるものであり、コア材1のこの樋本体7、耳部8、水落し3の外面の全面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層することによって、軒樋Aを作製することができるものである。可塑性樹脂フィルム2を積層する箇所は、軒樋Aのうち、雨垂れ跡などの汚れが発生すると目立つ外面だけでよく、内面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層する必要はない。
【0054】
軒樋Aにおいて耳部8は通常、図1(b)に示すように上端部は水平面8aとして形成されている。このため、上記のようにシリコーンオイルやシリカを配合した熱可塑性樹脂フィルム2を積層して軒樋Aの表面の滑水性を高めても、この水平面8aには雨水が流れずに滞留し易く、水平面8aに滞留した雨水が軒樋Aの屋外側の外面を垂れることによって、軒樋Aの外面に雨垂れ跡が生じ易い。そこで上記の図1(a)のものでは、耳部8の上端部を上方へ尖った水落し3として形成することによって、水平面8aが耳部8の上面に形成されないようにしたものである。このため、雨水は耳部8の上面に滞留するようなことがなくなり、滞留した雨水が垂れ落ちることによって生じる雨垂れ跡が軒樋Aの外面に付着するようなことがなくなるものである。
【0055】
ここで上記のように軒樋Aの耳部8の上端部に水落し3を形成するにあたって、水落し3の上端の頂部から内側(屋内側)の面は、0°を超える角度で内方へ向けて下り傾斜するように形成してある。このように水落し3の上端から内側の面を内方へ向けて下り傾斜する面3aに形成することによって、水落し3の頂部より内側の上に降りかかった雨水は、軒樋Aの外側(屋外側)へと流れることなく、この傾斜する面3aによって総てが内側へ流れ、軒樋Aの内部に流れ込むものであり、軒樋Aの屋外側の外面に雨垂れ跡が付着することを防ぐことができるものである。この面3aの傾斜角度θは0°を超える角度であればよいが、傾斜角度θは大きいほうが好ましく、実用的には傾斜角度θが20〜130°の範囲であることがより好ましい。
【0056】
また、水落し3の上端から外側(屋外側)の面は、水の転落角を超える角度で外方へ向けて下り傾斜するよう形成してある。ここで水の転落角は、イオン交換水の50μリットルの水滴を水平な表面に滴下した後に徐々に傾斜させたとき、水滴が滑落し始める角度をいう。このように水落し3の頂部より外側の面を水の転落角を超える角度で傾斜する面3bに形成することによって、水落し3の頂部より外側の上に降りかかった雨水は、雨垂れとなることなく直ちに転落して下方へ流れ落ちることになり、雨垂れ跡が軒樋Aの屋外側の外面に生じることを防ぐことができるものである。上記の軒樋Aの表面はシリコーンオイルやシリカを含有する熱可塑性樹脂フィルム2で形成されており、表面の滑水性が高いので、水の転落角も40°以下程度に小さくなっている。従って、上記の水の転落角を超える角度で傾斜する面3bの傾斜角度θは40°程度以上であればよい。この傾斜角度θは大きい程好ましく、面3bが鉛直面となるθ=90°が最も好ましい。
【0057】
尚、上記の実施の形態では、軒樋Aの耳部8の上端部に水落し3を形成する例を示したが、勿論、これのみに限定されるものではなく、屋外側に面する任意の部位の上端部に水落し3を形成することによって、屋外側を向く外面に雨垂れ跡の汚れが生じ難くすることができるものである。
【0058】
図2は熱可塑性樹脂成形体Aでたて樋Aを作製するようにした例を示すものであり、熱可塑性樹脂を押出成形して円筒状にコア材1を形成すると共に、コア材1の全外周面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層することによって、たて樋Aを作製することができるものである。たて樋Aの形状はこのような円筒形に限られないものであり、角筒など任意の形状に形成することができる。
【0059】
図3はたて樋を接続するために用いられるたて継手Aを示すものであり、熱可塑性樹脂を射出成形して筒状のコア材1を形成すると共に、コア材1の外周面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層することによって、たて継手Aを作製することができるものである。熱可塑性樹脂フィルム2を積層する箇所は、たて継手Aの表面のうち、雨垂れ跡などの汚れが付着し易い外周面だけでよい。図3のたて継手Aにあって、下部外周に水切り10が設けてある。水切り10は継手本体5の外周面から離れた位置において下端が鋭角に下方へ突出するように形成されるものである。このように水切り10を形成すると、雨水は水切り10の下端から水切り落下して、水切り10より下側のたて継手Aの外周面に雨水は付着しないので、熱可塑性樹脂フィルム2は水切り10より上側のみに積層するようにすればよい。
【0060】
図4は軒樋の端部の開口を塞ぐために軒樋の端部に取付けられる止まりAを示すものであり、熱可塑性樹脂組成物を射出成形してコア材1を形成すると共に、コア材1の外面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層することによって、止まりAを作製することができるものである。熱可塑性樹脂フィルム2を積層する箇所は、止まりAのうち、雨垂れ跡などの汚れが発生すると目立つ外面だけでよく、内面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層する必要はない。またこの止まりAには、その外側端部の上端部に既述と同様な水落し3が形成してあり、止まりAの外側の面に雨垂れ跡の汚れが生じ難くなるようにしてある。
【0061】
上記のように熱可塑性樹脂で形成されるコア材1の表面に、熱可塑性樹脂フィルム2を積層して熱可塑性樹脂成形体Aを作製するにあたって、熱可塑性樹脂フィルム2の積層は、コア材1を熱可塑性樹脂で成形した後、コア材1の表面に熱可塑性樹脂フィルム2を接着してラミネートすることによって行なうことができる。熱可塑性樹脂フィルム2を接着する方法は、接着剤を用いてコア材1の表面に熱可塑性樹脂フィルム2を貼り付ける方法や、コア材1の表面に熱可塑性樹脂フィルム2を熱溶着する方法などを採用することができる。
【0062】
コア材1を熱可塑性樹脂の射出成形で形成する場合は、主として上記のようにコア材1の表面に熱可塑性樹脂フィルム2を接着してラミネートする方法が採用されるが、図1の軒樋Aやたて樋Aのように、コア材1を熱可塑性樹脂の押出成形で作製する場合には、このコア材1を押出成形する際に同時に、熱可塑性樹脂フィルム2をコア材1の表面に押出成形することによって、コア材1の表面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層することができる。
【0063】
図5はこの同時押出成形の装置を示すものであり、押出金型12に上記のシリコーンオイルやシリカを含有する熱可塑性樹脂組成物を押し出す押出機13と、コア材用の熱可塑性樹脂を押し出す押出機14とが接続してある。そして、押出機14から押出金型12に押し出される熱可塑性樹脂でコア材1を成形しながら、押出機13から押出金型12に上記の熱可塑性樹脂組成物をフィルム状に押し出すことによって、成形されたコア材1の表面に熱可塑性樹脂フィルム2を押出成形し、コア材1の表面に熱可塑性樹脂フィルム2を積層一体化した熱可塑性樹脂成形体Aを作製することができるものである。
【実施例】
【0064】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0065】
(実施例1〜7)
アクリル樹脂(住友化学(株)製メタクリル樹脂「LG」(MFR10g/10min))を70質量部、シリコン樹脂被覆アクリルゴム(三菱レイヨン(株)製アクリルゴム「S2001」(シリコン樹脂が表面にグラフトしている))を30質量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN234」)を0.5質量部、ヒンダードアミン系光安定剤(高分子量タイプ:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「CHIMASSORB944FDL」(分子量約2000〜3100))を0.3質量部、ヒンダードアミン系光安定剤(低分子量タイプ:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「TINUVIN765」(分子量約500))を0.3質量部、無機顔料(酸化鉄)を1質量部、そしてさらに表1の動粘度のシリコーンオイルを、表1の配合量で配合し、これを混合・混練することによって、アクリル樹脂組成物を調製した。
【0066】
尚、シリコーンオイルにおいて、動粘度が30mm/sのものは「KF96−30cs」、動粘度が50mm/sのものは「KF96−50cs」、動粘度が1万mm/sのものは「KF96H−1万cs」、動粘度が10万mm/sのものは「KF96H−10万cs」、動粘度が300000mm/sのものは「KF96H−30万cs」(いずれも信越化学工業株式会社製)を用いた。
【0067】
そして上記のように調製したアクリル樹脂組成物をフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。尚、押出成形は、押出金型の温度220℃の条件で行なった。
【0068】
(実施例8〜10)
シリコーンオイルの代わりに、シリカ(エボニックデグサジャパン株式会社製「ACEMATT HK125」:白色微粒子、平均粒径4.0μm(粒度分布計により測定))を表1の配合量で配合するようにした他は、上記実施例1〜7と同様にしてアクリル樹脂組成物を調製した。そしてこのアクリル樹脂組成物をフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0069】
(比較例1)
シリコーンオイル及びシリカを配合しないようにした他は、上記実施例1〜7と同様にしてアクリル樹脂組成物を調製した。そしてこのアクリル樹脂組成物をフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0070】
(比較例2〜5)
シリコーンオイルやシリカを表1のように配合するようにした他は、上記実施例1〜7と同様にしてアクリル樹脂組成物を調製した。そしてこのアクリル樹脂組成物をフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0071】
(実施例11)
表2のように、ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製「L−1250Z」)100質量部に、動粘度が1万mm/sのシリコーンオイル1質量部を配合し、混合・混練することによって、ポリカーボネート樹脂組成物を調製した。
【0072】
そしてこのポリカーボネート樹脂組成物をフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0073】
(実施例12)
表2のように、ASA樹脂(UMGABS(株)製「S310C」)100質量部に、動粘度が1万mm/sのシリコーンオイル1質量部を配合し、混合・混練することによって、ASA樹脂組成物を調製した。
【0074】
そしてこのASA樹脂組成物をフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0075】
(実施例13)
表2のように、ABS樹脂(テクノポリマー(株)製「TFX450」)100質量部に、動粘度が1万mm/sのシリコーンオイル1質量部を配合し、混合・混練することによって、ABS樹脂組成物を調製した。
【0076】
そしてこのABS樹脂組成物をフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0077】
(比較例6)
シリコーンオイルを配合しないポリカーボネート樹脂を用いるようにした他は、実施例11と同様にしてフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0078】
(比較例7)
シリコーンオイルを配合しないASA樹脂を用いるようにした他は、実施例12と同様にしてフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0079】
(比較例8)
シリコーンオイルを配合しないABS樹脂を用いるようにした他は、実施例13と同様にしてフィルム押出成形することによって、厚み50μmの熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0080】
上記のように熱可塑性樹脂フィルムを押出成形するにあたって、成形性を評価した。成形性の評価は、押出成形時に充填不良があるかどうかで判断し、問題なく成形できる場合を「◎」、一部にわずかな成形不良があるが製品として問題ない場合を「○」、成形不良があって製品として問題がある場合を「×」と評価した。
【0081】
そして、上記の各実施例及び比較例で作製した熱可塑性樹脂フィルムを、厚み2mmのポリ塩化ビニル板からなるコア材の表面に重ね、180℃で3秒間加圧することによって、コア材の表面に熱可塑性樹脂フィルムを積層一体化して、熱可塑性樹脂成形体を作製した。
【0082】
このようにして作製した熱可塑性樹脂成形体の表面の熱可塑性樹脂フィルムの表面について、滑落角と90°滑落水量を測定することによって、表面の滑水性を評価した。
【0083】
滑落角の測定は、熱可塑性樹脂成形体を水平に配置し、イオン交換水の50μリットルの水滴を熱可塑性樹脂フィルムの水平な上面に滴下した後、熱可塑性樹脂成形体を徐々に傾斜させ、水滴が滑落し始める角度を計測することによって行なった。
【0084】
またこの滑落角の測定は、熱可塑性樹脂成形体を50℃のイオン交換水中に10日間浸漬して溶出処理をした後にも、同様にして行なった。
【0085】
90°滑落水量の測定は、熱可塑性樹脂成形体の表面が90°の鉛直角度になるように立て、熱可塑性樹脂フィルムの表面に所定量の水滴を滴下して残水なく水が流れ落ちることを確認し、そして水を流す量を徐々に増やして、表面に残水なく水が流れ落ちるときの最大水滴量を計測することによって行なった。
【0086】
またこの90°滑落水量の測定は、熱可塑性樹脂成形体を50℃のイオン交換水中に10日間浸漬して溶出処理をした後にも、同様にして行なった。
【0087】
そして滑水性の評価判断は、シリコーンオイルやシリカを配合しない樹脂を用いた比較例1、比較例6〜8と比較して、滑落角や90°滑落水量が、溶出処理前においても溶出処理後においても、向上するものを「○」、あまり変らないものを「△」、悪くなっているものを「×」とした。
【0088】
また、熱可塑性樹脂成形体を屋外に1年間暴露することによって、屋外暴露防汚性を評価した。評価は、表面の雨垂れ汚れを観察して、汚れの状態で判定し、汚れが目立たないものを「○」、汚れがやや発生するものを「△」、汚れが目立つものを「×」とした。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

表1及び表2の各実施例にみられるように、熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂、ポリカーボネート、ASA、ABSのように親水基を有する熱可塑性樹脂を用い、この熱可塑性樹脂100質量部に対して、シリコーンオイルを0.1〜2.0質量部の範囲で、シリカを5〜30質量部の範囲でそれぞれ配合することによって、熱可塑性樹脂フィルムの滑水性を高めて、防汚性を向上できることが確認される。
【符号の説明】
【0091】
1 コア材
2 熱可塑性樹脂フィルム
3 水落し
A 熱可塑性樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水基を有する熱可塑性樹脂100質量部に対し、シリコン成分として、シリコーンオイル0.1〜2.0質量部と、シリカ5〜30質量部の少なくとも一方を含有する熱可塑性樹脂組成物から形成されたことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物に含有されるシリコーンオイルは、動粘度が50〜100000mm/s(25℃)であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂で形成されるコア材の表面に、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂フィルムが積層されていることを特徴とする熱可塑性樹脂成形体。
【請求項4】
上端が上方へ向けて尖った水落しが形成されていることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項5】
水落しの上端から内側の面は、0°を超える角度で内方へ向けて下り傾斜することを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項6】
水落しの上端から外側の面は、水の転落角を超える角度で外方へ向けて下り傾斜することを特徴とする請求項4又は5に記載の熱可塑性樹成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−222543(P2010−222543A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74636(P2009−74636)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】