説明

熱可塑性樹脂用改質剤マスターバッチ、熱可塑性樹脂組成物及び成形体

【課題】ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤を熱可塑性樹脂に配合し、溶融混合した際に発生するポリテトラフルオロエチレンの凝集体の発生を抑制し、高い外観性を付与できるポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤のマスターバッチを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂(A)、テトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)およびイソブチルメタクリレート単位を主成分とするイソブチルメタクリレート系重合体(C)を含有するテトラフルオロエチレン系熱可塑性樹脂用改質剤マスターバッチ(α)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン系樹脂(A)、テトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)およびイソブチルメタクリレート単位を主成分とするイソブチルメタクリレート系重合体(C)から成るマスターバッチ、当該マスターバッチを含む熱可塑性樹脂組成物、さらに熱可塑性樹脂組成物成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンは高結晶性で分子間力が低いため、僅かな応力で繊維化する性質を有しており、熱可塑性樹脂に配合して混練した場合、ポリテトラフルオロエチレンの繊維化に伴って成形加工性、機械的性質が改良されることが知られている。例えば、特許文献1には、ポリテトラフルオロエチレンを熱可塑性樹脂に配合してなる樹脂組成物が開示されている。しかしながら、上記技術はポリテトラフルオロエチレンを直接熱可塑性樹脂に配合する技術であり、ポリテトラフルオロエチレンの分散性が著しく低位であるため、成形体の成形外観を著しく低下させる問題があった。
【0003】
上記問題を解決するため、特許文献2には、熱可塑性樹脂がポリオレフィンである場合の分散性向上技術として、ポリテトラフルオロエチレンと長鎖アルキル(メタ)アクリレートを必須成分とするアルキル(メタ)アクリレート系ポリマーからなる熱可塑性樹脂を用いることで、ポリテトラフルオロエチレン同士の凝集を抑制し、成形外観を損なわないポリテトラフルオロエチレン系改質剤が提案されている。本技術により、ポリテトラフルオロエチレンを単独で使用した場合に比して、成形外観は飛躍的な向上をみるに至った。しかしながら、成形材料の外観要求は近年ますます高まっており、上記技術では十分に満足できない問題があった。そこで、特許文献3には、特許文献2記載のテトラフルオロエチレン系改質剤と分岐構造を有するアルキルメタクリレート系重合体を併用することによって、ポリテトラフルオロエチレンの分散性を高める技術が提案されている。上記技術はさらに1段上の分散性能を実現したが、未だそのレベルは十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−214184号公報
【特許文献2】特開平11−124478号公報
【特許文献3】特開2011−32454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的はポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤の本来の性能である成形加工性改良効果は維持しつつ、ポリテトラフルオロエチレン成分の分散性を飛躍的に高め、従来にない高い成形外観を得るためのポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤マスターバッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリオレフィン樹脂(A)、テトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)およびイソブチルメタクリレート単位を主成分とするイソブチルメタクリレート系重合体(C)を含有するテトラフルオロエチレン系熱可塑性樹脂用改質剤マスターバッチ(α)に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤の本来の性能である成形加工性改良効果は維持しつつ、ポリテトラフルオロエチレン成分の分散性を飛躍的に高め、従来にない高い成形外観を得るためのポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤マスターバッチを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤のマスターバッチ(以下、マスターバッチ)は、ポリオレフィン系樹脂(A)、ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)及びイソブチルメタクリレートを主成分とするイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)を含有してなるものである。
【0009】
本発明のマスターバッチは、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)の分散性向上の点で、イソブチルメタクリレートを主成分とするイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)を含有する必要がある。イソブチルメタクリレート系ポリマーを分散性向上成分として用いることにより、PTFEの分散性を高めることができる。本発明におけるイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)は、必要に応じてイソブチルメタクリレート以外の単量体を共重合しても良い。これらの単量体として、スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレンなどの芳香族ビニル単量体類、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチル−ヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体類、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体類、酢酸ビニル、絡酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体類、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのオレフィン単量体類等が挙げられる。これらの単量体は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用しても良い。本発明におけるイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)におけるイソブチルメタクリレートの含有量は、全単量体量を100質量部とした時、50質量部以上でることが好ましく、70質量部以上がさらに好ましく、85質量部以上が最も好ましい。イソブチルメタクリレートを85質量部以上とすると高いPTFE分散効果が得られる。
【0010】
本発明のマスターバッチを構成するイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)は、イソブチルメタクリレートを主成分とし、乳化重合、ソープフリー乳化重合、微細懸濁重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合などの公知の重合法を用いて重合できるが、ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤との混合の点で、乳化重合およびソープフリー乳化重合が好ましく、乳化重合が特に好ましい。また、乳化重合法、ソープフリー乳化重合法などの粒子構造体を得ることができる重合法を用いて重合する場合、その粒子構造は単層構造であっても多層構造であっても良いが、多層構造粒子の場合、経済性の点から3層構造以下であることが好ましい。
【0011】
本発明におけるイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)を乳化重合にて重合する際の乳化剤としては、従来知られる各種のアニオン性、又はノニオン性の乳化剤、高分子乳化剤、更に分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤等が挙げられる。乳化剤としては、日本乳化剤社製商品名「ニューコール560SF」、「同562SF」、「同707SF」、「同707SN」、「同714SF」、「同723SF」、「同740SF」、「同2308SF」、「同2320SN」、「同1305SN」、「同271A」、「同271NH」、「同210」、「同220」、「同RA331」、「同RA332」、花王社製商品名「ラテムルB−118E」、「レベノールWZ」、「ネオペレックスG15」、第一工業製薬社製商品名「ハイテノールN08」などの如きアニオン性乳化剤、例えば三洋化成工業社製商品名「ノニポール200」、「ニューポールPE−68」などの如きノニオン性乳化剤等が挙げられる。
【0012】
高分子乳化剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。反応性乳化剤としては、例えば日本乳化剤社製商品名「Antox MS−60」、「同MS−2N」、三洋化成工業社製商品名「エレミノールJS−2」、花王社製「ラテムルS−120」、「同S−180」、「同S−180A」、「同PD−104」、(株)ADEKA製商品名「アデカリアソープSR−10」、「同SE−10」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンKH−05」、「同KH−10」、「同HS−10」等の反応性アニオン乳化剤、例えば(株)ADEKA製商品名「アデカリアソープNE−10」、「同ER−10」、「同NE−20」、「同ER−20」、「同NE−30」、「同ER−30」、「同NE−40」、「同ER−40」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンRN−10」、「同RN−20」、「同RN−30」、「同RN−50」等の反応性ノニオン性乳化剤などが挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0013】
また、本発明におけるイソブチルメタクリレート(C)は、ラジカル性重合開始剤を用いて重合することができる。重合開始剤としては、一般的にラジカル重合に使用されるものが使用可能であり、その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}およびその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)およびその塩類2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)およびその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]およびその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの開始剤は単独でも使用できるほか、2種類以上の混合物としても使用できる。また、乳化重合法にて重合を行う場合には、例えば、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0014】
本発明におけるイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)の重量平均分子量(以下、Mw)は特に規定されないが、5,000〜3,000,000の範囲であることが好ましい。Mwが5,000以上であれば十分なTgが得られるので高い粉体特性を付与できる。一方、Mwが3,000,000以下であれば、PTFEの分散性が良好となる。分散性向上の点でMwとして、5,000〜200,000の範囲がより好ましく、5,000〜50,000の範囲が最も好ましい。Mwを調整する方法は特に規定しないが、開始剤量の調整による方法の他、連鎖移動剤を用いるのも有効な手段である。
【0015】
連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いればよい。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の種類や不飽和単量体の構成比に応じて変化させれば良い。上記連鎖移動剤は、単独、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明におけるイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)の回収方法については、特に規定されず重合方法に合わせて適宜選択できる。例えば、本発明の分散性向上剤を乳化重合法によって得る場合には、凝析法、スプレードライ法、遠心分離法、凍結乾燥法などの方法により回収すれば良い。これらの回収方法の中では、得られる粉体の均一性などの点で凝析法、スプレードライ法のいずれかの方法が好ましい。
【0017】
凝固法にて粉体回収を行う場合には、乳化分散体を30〜90℃で凝析剤に接触させ、攪拌しながら凝析させてスラリーとし、脱水乾燥して粉末回収できる。塩析凝固法における凝析剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸類、蟻酸、酢酸等の有機酸類、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム等の有機塩類等を挙げることができる。また、スプレードライ法により粉体回収を行う場合は、乳化分散体をスプレードライヤーにて、入り口温度:120〜220℃、出口温度:40〜90℃にて噴霧乾燥し、粉末回収することができる。出口温度として40〜80℃が回収2次粒子の1次粒子への解砕性の点で好ましく、40〜70℃が特に好ましい。
【0018】
本発明におけるイソブチルメタクリレート系ポリマーは、同一組成のポリマーを単独で使用しても、組成、分子量、粒子径等の異なるポリマー(C)を2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0019】
本発明におけるイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)は、ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤の熱可塑性樹脂への混合時のPTFE成分の分散を支援する役割を果たす。本発明のマスターバッチ中のイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)の含有量は特に規定されず、PTFEの分散性を考慮して所定の濃度に設定できる。イソブチルメタクリレート系ポリマー(C)の含有量として、0.1〜30質量%であることが好ましい。イソブチルメタクリレート系ポリマー(C)の含有量が0.1質量%よりも高ければ、高いPTFE分散性を得ることができる。イソブチルメタクリレート系ポリマー(C)の含有量が30質量%以下であれば、本発明のマスターバッチを添加した樹脂組成物において、イソブチルメタクリレートの含有量増大に伴う物性変化を抑制できる。イソブチルメタクリレート系ポリマー(C)の含有量として、0.5〜20質量%が好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
【0020】
本発明のマスターバッチは、ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)を含有する。ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂を構成するポリテトラフルオロエチレン樹脂は、テトラフルオロエチレンモノマーを単独重合または共重合したポリマーである。共重合できる単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィン、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。共重合成分の含量は、テトラフルオロエチレンに対して、10質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明におけるポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤はPTFEの含有量、PTFEの分子量、形態などは特に規定されず、主に被添加熱可塑性樹脂の成形加工性向上、燃焼時のドリップ防止能付与などを目的として、添加される改質剤である。
【0022】
上記ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂樹脂用改質としては、例えば、三菱レイヨン社製、商品名「メタブレン A−3000」、「同A−3700」、「同A−3750」、「同A―3800」、ゼネラルエレクトリックスペシャルティーケミカルズ社製、商品名「ブレンデックス869」などを挙げることができる。これらのポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤は、1種を単独で使用できる他、2種以上を併用することができる。
【0023】
本発明のマスターバッチ中のテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)の含有量は特に規定されない。テトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)の含有量としては、マスターバッチの全量を100とした時、PTFEの含有量として1〜20質量%であることが好ましい。PTFEの含有量が1質量%以上であれば、本発明のマスターバッチの添加量に関わらず、十分な性能を付与できる。また、PTFEの含有量が20質量%以下であれば、マスターバッチの押出しにおいて、高い安定性が得られる。PTFE含有量として、2〜20質量%が好ましく、2〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のマスターバッチは、前記ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)、分散性向上剤としてのイソブチルメタクリレート系ポリマー(C)およびポリオレフィン系樹脂(A)を含有する。ポリオレフィン系樹脂(A)としては、オレフィン系単量体の単独重合体又はオレフィン系単量体を主成分とする単量体混合物の共重合体をいう。オレフィン系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。
【0025】
ポリオレフィン系樹脂(A)としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン、これらの混合物が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂(A)は、1種を単独で使用できる他、2種以上を併用できる。本発明のマスターバッチ中のポリオレフィン系樹脂(A)の含有量は特に規定されない。マスターバッチ中のポリオレフィン系樹脂(A)の含有量として、70〜99質量%であることが好ましく、80〜98質量%であることが更に好ましい。
【0026】
本発明のマスターバッチを添加する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などの各種熱可塑性樹脂に適用できるが、中でもポリオレフィン系樹脂において、顕著な成形加工性向上効果と高い分散性による高外観性を得ることができる。
【0027】
本発明のマスターバッチの熱可塑性樹脂への配合は、押出混練、ロール混練などの公知の溶融混練法で実施可能である。
【0028】
また、本発明のマスターバッチの添加量は特に規定されないが、熱可塑性樹脂およびマスターバッチの合計を100質量部とした時、樹脂組成物中に含まれるPTFE量を0.01〜5質量部の範囲で添加することが好ましい。PTFEの量として0.05〜5質量部であることが好ましく、0.1〜3質量部であることが更に好ましい。
【0029】
本発明のマスターバッチは熱可塑性樹脂と共に溶融混練され使用されるが、当該熱可塑性樹脂組成物はさらに必要に応じて、充填剤、難燃剤、各種安定化剤、滑剤、発泡剤などを添加しても良い。
【0030】
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸マグネシウム、マイカ、カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、チタンホワイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの充填剤は1種を単独で使用できる他、2種以上を併用して使用できる。
【0031】
また、難燃剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、アルコキシ置換ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート等のポリホスフェートなどのリン酸エステル化合物、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸メラミン塩などのポリリン酸塩化合物、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキサイド、ヘキサブロモシクロドデカン、オクタブロモジフェニルエーテル、ビストリブロモフェノキシエタン、エチレンビステトラブロモフタイルイミド、トリブロモフェノール、ハロゲン化ビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応によって得られる各種ハロゲン化エポキシオリゴマー、ハロゲン化ビスフェノールAを構成成分とするカーボネートオリゴマー、ハロゲン化ポリスチレン、塩素化ポリオレフィンおよびポリ塩化ビニル等のハロゲン含有化合物、金属水酸化物、金属酸化物、スルファミン酸化合物等がそれぞれ代表例として挙げられる。これらの難燃剤の中でもポリオレフィン用難燃剤としてポリリン酸塩系難燃剤は好適であり、PTFEとの相乗交換に優れる。このため、ポリオレフィン樹脂、ポリリン酸塩系難燃剤および本発明のマスターバッチからなる樹脂組成物は、難燃性に優れる難燃ポリオレフィン樹脂組成物として、シート、フィルム、成形材料などに幅広く使用される。上記難燃剤は1種を単独で使用できる他、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
また、安定化剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系酸化紡糸剤、トリス(モノノニルフェニル)フォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトなどのリン系酸化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネートなどのイオウ系酸化防止剤、「チヌビン−770」(商品名、チバ・ジャパン社製)、「アデカスタブLA−57」(商品名、ADEKA社製)などのヒンダードアミン系光安定剤、「チヌビン1577FF」(商品名、チバ・ジャパン社製)、「アデカスタブLA−32」(商品名、ADEKA社製)などの紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの安定化剤は1種を単独で使用できる他、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
また、滑剤としては、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸またはステアリン酸のナトリウム、カルシウムまたはマグネシウム塩などが挙げられる。これらの滑剤は1種を単独で使用できる他、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
また、発泡剤としては、無機発泡剤、揮発性発泡剤、分解型発泡剤等の公知の発泡剤を用いることができ、無機発泡剤としては、二酸化炭素、空気、窒素等が挙げられ、揮発性発泡剤としてはプロパン、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、ジクロロテトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等が挙げられ、また分解型発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム等を挙げることができる。発泡剤の添加量は発泡剤の種類にもよるが、樹脂組成物100部に対し、0.1〜25質量部であることが好ましい。これらの発泡剤は1種を単独で使用できる他、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
本発明のマスターバッチを添加した熱可塑性樹脂組成物は、押出成形、射出成形、カレンダー成形、ブロー成形、熱成形、発泡成形、溶融紡糸等の公知の加工法にて加工することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
各製造例および実施例、比較例記載の諸物性は以下に記載の方法で評価を実施した。
【0037】
(1)質量平均分子量
アルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量は、アルキルメタクリレート系重合体のテトラヒドロフラン可溶分を試料として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC−8220:東ソー(株)製)、カラム(TSK−GEL SUPER HZM−M:東ソー(株)製)を用いて測定した。
本発明における質量平均分子量は、標準ポリスチレンによる検量線から求めた。
【0038】
(2)溶融張力
成形加工性向上能の指標として、本発明の加工助剤を添加した樹脂組成物の溶融張力を評価した。溶融張力は熱成形性、ブロー成形性、発泡成形性などの加工性を判断する1つの指標であり、溶融張力の向上は成形加工性の向上と見なしえる。
熱可塑性樹脂組成物をキャピラリー式レオメーター(ツインキャピラリーレオメーター RH−7型:ROSAND社製)を用いて、ダイスはφ1mm、L/D=16、温度190℃の条件で、一定量(0.54cm/min)で押出し、ストランドを一定速度(3m/min)で引き取った。
【0039】
(3)外観性評価
成形品の外観評価として、熱可塑性樹脂組成物のフィルム中に存在する異物の数を評価した。評価手順としては、目視でフィルム幅10cm×長さ10mの表面上に見られる凹凸に印を付け、印を付けた凹凸部を実体顕微鏡を用いて観察し、PTFEの凝集物由来の凹凸のみをカウントし、1mあたりの異物の数の平均値を求めた。尚、赤外吸収スペクトル測定により、凹凸がポリテトラフルオロエチレンの凝集物由来であるか確認することができる。
成形体の表面凹凸数は、熱可塑性樹脂中でのPTFEの分散性と成形体の表面外観を判断する指標の1つであり、成形体の表面凹凸数が少ないほど分散性と表面外観に優れる。
【0040】
<アルキルメタクリレート系ポリマーの調製>
(IBMA系ポリマー)
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコにイオン交換水 225部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部および硫酸鉄(II) 0.0002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0006部、アスコルビン酸0.48部を仕込み、容器内を窒素置換した。次いで、内温を73℃まで昇温させ、重合触媒としてクメンハイドロパーオキサイドを0.2部、連鎖移動剤としてノルマルオクチルメルカプタン1.0部を含むイソブチルメタクリレート98部、ノルマルブチルアクリレート2部の単量体混合物を1時間かけて滴下し、さらに同温で1時間保持してイソブチルメタクリレート系重合体ラテックスを得た。このラテックスの質量平均分子量は30,000であった。
【0041】
本ラテックスを室温まで冷却後、酢酸カルシウム5部を含む70℃の温水中に滴下した後、90℃まで昇温させて凝析させた。得られた凝析物を分離洗浄後、60℃で12時間乾燥させてイソブチルメタクリレート系ポリマーを得た。このようにして得たポリマーを「IBMA系分散剤」とした。
【0042】
(MMA系ポリマー)
イソブチルメタクリレートの代わりにメチルメタクリレートを用いた以外は、製造例1と同様の方法で重合体ラテックスおよびポリマーを得た。得られたポリマーを「MMA系分散剤」とした。
【0043】
<マスターバッチの製造>
(製造例1)
ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン樹脂「ノバテック−PP FY−4」(商品名、日本ポリプロ社製)、テトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤として「メタブレンA−3000」(商品名、三菱レイヨン社製)およびアルキルメタクリレート系ポリマーとして上記IBMA系ポリマーを表1記載の比率にて配合し、ハンドブレンドで混合した。その後、φ30mm同方向二軸押出機(L/D=30、プラスチック工学研究所社製)にて、スクリュー回転数:200rpm、シリンダー温度:200℃の条件にて押出し、テトラフルオロエチレン含有改質剤マスターバッチを得た。
【0044】
(製造例2〜4)
ポリオレフィン系樹脂、テトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤およびアルキルメタクリレート系ポリマーの比率を表1に示す組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法でテトラフルオロエチレン含有改質剤マスターバッチを得た。
【0045】
【表1】

【0046】
「FY−4」:日本ポリプロ社製、商品名、ノバテック−PP FY−4
(メルトフローレート:5g/10分)
「A−3000」:三菱レイヨン社製、商品名、メタブレン A−3000
【0047】
(実施例1)
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂「ノバテック−PP FY−4」(商品名、日本ポリプロ社製)を95部、ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤マスターバッチとして上記製造例1記載のマスターバッチ5部を配合した樹脂混合物を得た。この樹脂混合物をハンドブレンドで十分混合し、φ30mm同方向二軸押出機(L/D=30、プラスチック工学研究所社製)にて、スクリュー回転数:200rpm、シリンダー温度:200℃の条件にて押出し、熱可塑性樹脂組成物を得た。このようにして得た熱可塑性樹脂組成物について、上記方法により溶融張力を測定したところ、その溶融張力は0.0311Nであった。また、得られた樹脂組成物を80℃で12時間乾燥させ、Tダイを取り付けた単軸押出機(L/D=30、ジー・エム・エンジニアリング社製)にて、スクリュー回転数:20rpm、シリンダー温度:200℃、Tダイ温度:210℃の条件でフィルム厚:500μm、フィルム幅:10cmになるように製膜した。このようにして得たフィルム中の凹凸数を上記方法にて外観性を評価したところ、
【0048】
(実施例2、比較例1〜2)
ポリオレフィン樹脂とマスターバッチの種類、比率を表2記載の割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で混練、製膜を行い、評価を実施した。評価結果を表2にまとめて記載した。
【0049】
(比較例3)
ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤及びイソブチルメタクリレート系ポリマーをマスターバッチとしてポリレオフィン樹脂に添加せず、粉状試料のまま混合した。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂「ノバテック−PP FY−4」(商品名、日本ポリプロ社製)を98.5部、ポリテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤として、「メタブレン A−3000」(商品名、三菱レイヨン社製)1部、および上述のイソブチルメタクリレート系ポリマー0.5部を配合し、ハンドブレンドにて混合した。以降の溶融混練、製膜については実施例1同様の方法で実施した。評価結果を表2にまとめて示した。
【0050】
【表2】

【0051】
表2記載の実施例1、2はいずれも本発明のマスターバッチを配合したものである。比較例1はイソブチルメタクリレート系重合体の代わりにメチルメタクリレート系重合体を含むマスターバッチ、比較例2はイソブチルメタクリレート系重合体を含まないマスターバッチである。比較例3はテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤およびイソブチルメタクリレート系ポリマーを粉として混合したものであり、マスターバッチ化の過程を経ずに混合した点で範囲から外れるものである。比較例4はマスターバッチ及びテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤いずれも含まないものである。表2記載の実施例はいずれも本発明のマスターバッチを配合して得た樹脂組成物であり、比較例1〜3に比して成形体の外観性が大幅に向上している。一方、比較例4はテトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤を含まないものであり、溶融張力が低い。従って、本発明のマスターバッチは表面外観性に優れた熱可塑性樹脂用改質剤として極めて有用であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂(A)、テトラフルオロエチレン含有熱可塑性樹脂用改質剤(B)およびイソブチルメタクリレート単位を主成分とするイソブチルメタクリレート系重合体(C)を含有するテトラフルオロエチレン系熱可塑性樹脂用改質剤マスターバッチ(α)。
【請求項2】
請求項1記載のマスターバッチを含んでなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる熱可塑性樹脂成形体。

【公開番号】特開2011−252177(P2011−252177A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−205616(P2011−205616)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】