説明

熱可塑性樹脂組成物、および該熱可塑性樹脂組成物からなる成形体

【課題】柔軟性、耐衝撃性、耐熱性、耐久性に優れ、石油系製品への依存度の低い熱可塑性樹脂組成物、およびその熱可塑性樹脂組成物を用いてなる成形体を提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、重量平均分子量が150000以上のポリ乳酸系樹脂と、スチレン系樹脂とを含有し、ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂との質量比率が、ポリ乳酸樹脂/スチレン系樹脂=90/10〜10/90であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、曲げ特性、耐熱性、耐久性に優れ、石油系製品への依存度の低い熱可塑性樹脂組成物、およびその熱可塑性樹脂組成物を用いてなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、成形用の原料としては、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の樹脂が使用されている。
【0003】
このような樹脂から製造された成形体は、成形性、機械的強度に優れているため、様々な用途に用いられている。しかしながら、廃棄する際、ゴミの量を増すうえに、自然環境下で殆ど分解されないために、埋設処理しても、半永久的に地中に残留するという問題がある。さらに、これらの樹脂は一般に地下中の石油資源を原料としているため、焼却した場合に、二酸化炭素として、地下の炭素を、地表・大気中に運び出すことになり、地球温暖化問題や資源の枯渇問題につながり、環境負荷が高い。
【0004】
一方、近年、環境保全の見地から、ポリ乳酸系樹脂をはじめとする植物由来の原料を用いた樹脂が注目されている。これらのうちで、ポリ乳酸樹脂は最も耐熱性が高い樹脂の1つであり、大量生産可能なためコストも安く、また自然環境下で容易に分解するので、有用性が高い。また、ポリ乳酸系樹脂はトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として製造することが可能であり、これらの原料植物は大気中の炭素を固定化しているので、ポリ乳酸系樹脂を焼却処理した場合でも、大気中の炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、石油由来樹脂に比べ環境負荷は低い。
【0005】
しかし、植物由来の原料から製造された樹脂の中で耐熱性が高いポリ乳酸系樹脂であっても、ポリスチレン樹脂やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等と比べると、実使用に耐え得る十分な耐熱性を有しているとは言えない場合がある。また、ポリ乳酸系樹脂は、衝撃強度も低く、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂と比較すると、得られた製品を落下させた場合の強度が低いため、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂や耐衝撃性ポリスチレン樹脂の代替として使用することは難しかった。
【0006】
このようなポリ乳酸系樹脂の欠点を改良するために、機械物性に優れる石油由来樹脂を混合したり、アロイとしたりすることが提案されている。このような混合物やアロイであっても、石油樹脂由来原料だけの樹脂と比較すれば、枯渇資源の節約となり、また、焼却による二酸化炭素排出量の収支も減ずることができる。
【0007】
例えば特許文献1には、ポリ乳酸系樹脂とポリカーボネート樹脂とのアロイが記載されている。しかしながら、特許文献1の場合は、ポリカーボネート樹脂の製造に大量のエネルギーを要するものである。従って、ポリ乳酸系樹脂や、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂および耐衝撃性ポリスチレン樹脂などと比べると、石油エネルギーの使用率が高くなる場合があり、環境に配慮した材料とはいえない場合があった。
【0008】
また特許文献2には、ポリ乳酸系樹脂と耐衝撃性ポリスチレンとのアロイが記載されている。さらに特許文献3には、ポリ乳酸系樹脂と、ポリ乳酸系樹脂よりガラス転移温度が高い樹脂(例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリルスチレンアクリレート、スチレン系エラストマーなど)とのアロイがそれぞれ開示されている。しかしながら、特許文献2、3に開示されたアロイにおいては、ポリ乳酸系樹脂の含有量が多い場合には、十分な耐衝撃性や強度、耐熱性を有していない場合があった。
【0009】
また、特許文献4では、スチレン変性ポリ乳酸樹脂とスチレン系樹脂とのアロイが開示されている。しかしながら、特許文献4においても、耐熱性が不十分な場合があった。さらに、耐衝撃性については、ポリ乳酸系樹脂の含有比率を低くしなければ向上することが困難であり、環境への負荷が大きくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−56246号公報
【特許文献2】特開2005−264086号公報
【特許文献3】特開2005−060637号公報
【特許文献4】特開2009−079196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、ポリ乳酸系樹脂の含有量が多くても、耐衝撃性、曲げ特性、耐熱性および耐久性に優れ、環境に配慮した熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、該熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の重量平均分子量を有するポリ乳酸系樹脂とポリスチレン樹脂を含有する樹脂組成物は、耐衝撃性や曲げ特性に優れるという事実を見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)重量平均分子量が150000以上のポリ乳酸系樹脂およびスチレン系樹脂を含有し、ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂との質量比率が、ポリ乳酸系樹脂/スチレン系樹脂=95/5〜40/60であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(2)ポリ乳酸系樹脂が、架橋ポリ乳酸系樹脂であることを特徴とする(1)の熱可塑性樹脂組成物。
(3)架橋ポリ乳酸系樹脂が、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、過酸化物0.01〜10質量部と、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはアルコキシ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基から選ばれる官能基を2個以上有するシラン化合物0.01〜5質量部とを配合して得られたものであることを特徴とする(2)の熱可塑性樹脂組成物。
(4)スチレン系樹脂が、アクリロニトリル・スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかの熱可塑性樹脂組成物。
(5)ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂の合計量100質量部に対して、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物およびオキサゾリン化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を0.1〜10質量部を含有することを特徴とする(1)〜(4)いずれかの熱可塑性樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)いずれかの熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、重量平均分子量が特定値以上のポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂を含有するものであるため、ポリ乳酸系樹脂の含有量が多くても、優れた耐衝撃性、曲げ特性(曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ破断歪)を有する。さらに、ポリ乳酸系樹脂を架橋ポリ乳酸系樹脂とすることにより、優れた耐熱性を有するものとなる。さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物およびオキサゾリン化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有することにより、耐久性も向上するものとなる。
【0015】
このように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、石油系製品への依存度が低く、優れた特性を有し、各種の用途に好適に用いることができるものである。そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形することにより、電気電子機器部品や雑貨用成形品などの成形体を得ることが出来る。本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体は、天然物由来の樹脂を多く利用しているので、石油等の枯渇資源の節約に貢献できるなど、産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)は、重量平均分子量が150000以上のポリ乳酸系樹脂と、スチレン系樹脂とを含有するものである。
【0017】
本発明に使用されるポリ乳酸系樹脂は、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、またはこれらの混合物や共重合体などのポリ乳酸系樹脂を主成分とする。さらに、他の成分として、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート等を混合してもよい。石油資源節約という観点からは、植物由来原料がよく、なかでも耐熱性、成形性の面からポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、および、これらの混合物または共重合体を用いることが望ましい。生分解性の観点からは、ポリ(L−乳酸)を主体とすることが好ましい。
【0018】
ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸の融点は、D−乳酸成分の比率によって異なるが、本発明においては、得られる成形体の機械的特性や耐熱性を考慮すると、融点を160℃以上とすることが好ましい。ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸において、融点を160℃以上とするためには、D−乳酸成分の割合を3モル%未満とすることが好適であり、1モル%未満とすることがより好ましい。
【0019】
ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、150000以上であることが必要であり、中でも160000以上であることが好ましい。重量平均分子量が150000未満であると、耐衝撃性、曲げ特性の向上という本発明の効果が発現しない。なお、本発明においては、重量平均分子量は、示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)装置を用い、テトラヒドロフランを溶出液として、40℃において標準ポリスチレン換算で求める値である。なお、テトラヒドロフランにサンプルが溶けにくい場合は少量のクロロホルムに溶解後、テトラヒドロフランを加えてサンプル調整する。
【0020】
なお、ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量の上限値は特に限定するものではないが、成形時の流動性の点から、300000未満とすることが好ましい。
単にポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を高くしただけでは、耐衝撃性や曲げ特性は向上しない。これは、後述する比較例1や比較例4に示すデータからも明らかである。つまり、スチレン樹脂を用いずに、重量平均分子量が150000以上のポリ乳酸系樹脂のみを用いた場合では、耐衝撃性や曲げ特性は向上しない。本発明は、重量平均分子量が150000以上のポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂を含有する樹脂組成とすることにより、はじめて、耐衝撃性と曲げ特性が向上した樹脂組成物となることを見出したものである。
【0021】
なお、本発明において曲げ特性に優れるということは、曲げ破断歪の値が大きいことをいい、曲げ強度と曲げ弾性率は、必ずしも数値が高ければよいというものではなく、曲げ破断歪の値が大きくなるような数値をとることが好ましいものである。
【0022】
さらに、本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート(JIS K−7210(試験条件4)による値)が、0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.2〜20g/10分であることがさらに好ましく、0.5〜10g/10分であることがより好ましい。メルトフローレートが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形体の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。一方、メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は成形加工時の負荷が高くなりすぎ、操業性が低下する場合があり、ともに好ましくない場合がある。
【0023】
ポリ乳酸系樹脂は通常公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造される。また、ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートを所定の範囲に調節する方法として、メルトフローレートが大きすぎる場合は、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が使用できる。逆に、メルトフローレートが小さすぎる場合はメルトフローレートの大きなポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が使用できる。
【0024】
また、本発明においては、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進し、耐熱性を向上させるために、ポリ乳酸系樹脂を架橋させて、架橋ポリ乳酸系樹脂とすることが好ましい。
ポリ乳酸系樹脂を架橋させる方法としては、ポリ乳酸系樹脂に、過酸化物と、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはアルコキシ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基から選ばれる官能基を2個以上有するシラン化合物(以下、単に「シラン化合物」と称する場合がある)とを配合する方法が好ましい。つまり、ポリ乳酸系樹脂を架橋させる好ましい方法として、過酸化物と(メタ)アクリル酸エステル化合物を用いる場合、過酸化物とシラン化合物を用いる場合、過酸化物と(メタ)アクリル酸エステル化合物とシラン化合物を用いる場合とがある。
【0025】
過酸化物、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物以外の架橋剤を用いた場合は、ポリ乳酸系樹脂の架橋効率が不十分であるため、耐熱性の向上効果を十分に発現することができない場合がある。
【0026】
過酸化物は、ポリ乳酸系樹脂を架橋することにより結晶化を促進し、耐熱性を向上させることを目的として配合されるものである。さらに、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物と組み合わせて用いられることで、ポリ乳酸系樹脂の架橋を促進し、耐熱性をよりいっそう向上させることができる。
【0027】
過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。なかでも、架橋効率の観点から、ジブチルパーオキサイドが好ましい。
【0028】
過酸化物の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、さらに好ましくは0.05〜5質量部である。10質量部を超えても使用できるが、架橋効果が飽和するばかりか、経済的でない場合がある。一方、0.01質量部未満であると、架橋効果に乏しい場合がある。なお、過酸化物は、ポリ乳酸系樹脂との混合の際に分解して消費されるため、たとえ配合されても、得られた樹脂組成物中には残存しない場合がある。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル化合物は、過酸化物と併用して使用することにより、ポリ乳酸系樹脂の架橋および樹脂組成物の結晶化を促進し、耐熱性の改善に寄与するものである。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル化合物は、ポリ乳酸系樹脂との反応性が高く、モノマーが残りにくく、かつ、毒性が少なく、樹脂の着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または、1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシ(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジアクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジアクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジメタクリレート、または、これらのアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体、ブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられる。なかでも、結晶化促進効果と耐熱性の観点から、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレートが好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステル化合物の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜3質量部、さらに好ましくは0.05〜1質量部である。配合量が0.01質量部未満では、架橋を促進する効果に乏しくなる。一方、配合量が5質量部を超えると、混練時の操業性が低下する場合がある。
【0033】
シラン化合物は、過酸化物と併用されることにより、ポリ乳酸系樹脂の架橋を促進し、耐熱性の改善に寄与するものである。
シラン化合物は、下記の式(I)で表されるものである。
【0034】
【化1】

式(1)中、R1〜R4の少なくとも2つ以上は、アルコキシ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基から選ばれる官能基、あるいはこれらの官能基を有する置換基を表す。残りは、アルコキシ基、ビニル基、アクリル基以外を表し、例えば水素、アルキル基、エポキシ基が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。ビニル基を有する置換基としては、例えばビニル基、p−スチリル基が挙げられる。アクリル基を有する置換基としては、例えば3−メタクリロキシプロピル基、3−アクリロキシプロピル基などが挙げられる。アルキル基としては例えばメチル基、エチル基が挙げられる。エポキシ基を有する置換基としては、例えば3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4―エポキシシクロヘキシル)基などが挙げられる。
【0035】
このようなシラン化合物の詳細な例および商品名の例としては、テトラメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8114、信越化学工業社製KBM−04)、テトラエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8124,信越化学工業社製KBE−04)、メチルトリメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8113、信越化学工業社製KBM−13)、メチルトリエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8123、信越化学工業社製KBE−13)、ジメチルジメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8112)、ジメチルジエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8122、信越化学工業社製KBE−22)、メチルジメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8117)、メチルジエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8127)、フェニルトリメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8173)、フェニルトリエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8178、信越化学工業社製KBE−103)、ジフェニルジメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8172)、ジフェニルジエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8177)、ヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−3063)、デシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−3103C)、3−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン(GE東芝シリコーン社製TSL−8355)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL−8350、信越化学工業社製KBM−403)、ジメチルビニルメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8317)、メチルビニルジメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8315)、メチルビニルジエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8316)、ジメチルビニルエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8318)、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−1003)、ビニルトリエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8311、信越化学工業社製KBE−1003)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−303)、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業社製KBE−402)、p−スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−1403)、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8375、信越化学工業社製KBM−502)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8370、信越化学工業社製KBM−503)、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業社製KBE−502)、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE−503)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−5103)、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−5102)等が挙げられる。
【0036】
中でも、アクリル基、メタクリル基、ビニル基から選ばれる官能基を1つ有し、アルコキシ基を3つ有するシラン化合物が、結晶化速度の向上の点で好ましい。このようなシラン化合物の具体例および商品名の例としては、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−1003)、ビニルトリエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8311、信越化学工業社製KBE−1003)、p−スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−1403)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8370、信越化学工業社製KBM−503)、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE−503)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−5103)等が挙げられる。
【0037】
シラン化合物の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜3質量部、さらに好ましくは0.05〜1質量部である。5質量部を超えても使用できるが、架橋効果が飽和するばかりか、経済的でない場合がある。一方、0.01質量部未満では、架橋を促進する効果に乏しく、添加の効果が認められない場合がある。
【0038】
なお、本発明においては、ポリ乳酸系樹脂を架橋させるために、過酸化物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、シラン化合物の三種を組み合わせて用いてもよい。このような場合には、(メタ)アクリル酸エステル化合物とシラン化合物の配合量の合計が、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.02〜3質量部がより好ましく、0.05〜1質量部であることがさらに好ましい。三種の合計が5質量部を超える場合は、架橋効果が飽和するばかりか、経済的でない場合がある。一方、三種の合計が0.01質量部未満では、架橋を促進する効果に乏しく、添加の効果が認められない場合がある。
【0039】
架橋ポリ乳酸系樹脂を調製する方法としては、ポリ乳酸系樹脂に、過酸化物と、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物とを配合して、一般的な押出機を用いて溶融混練する方法を挙げることができる。混練状態をよくする意味で、二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は(ポリ乳酸系樹脂の融点+5)℃〜(ポリ乳酸系樹脂の融点+100)℃の範囲が、また、混練時間は20秒〜30分が好ましい。この範囲より低温や短時間であると、混練や反応が不充分となり、また高温や長時間であると樹脂の分解や着色が起きることがある。配合に際しては、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物が固体状の場合は、ドライブレンドや粉体フィーダーを用いて供給する方法が好ましく、液体状の場合は、加圧ポンプを用いて、押出機のバレルに直接注入する方法が好ましい。
【0040】
過酸化物、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物を押出機に注入する際には、過酸化物と、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物とを媒体に溶解又は分散して混練機に注入する方法が好ましい。この方法によれば、操業性を格段に改良することができる。例えば、ポリ乳酸系樹脂と過酸化物との溶融混練中に、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物の溶解液または分散液を注入したり、ポリ乳酸系樹脂を溶融混練中に、過酸化物と、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物の溶解液または分散液を注入したりして溶融混練することができる。
【0041】
または、ポリ乳酸系樹脂に、(メタ)アクリル酸エステルおよび/またはシラン化合物を配合する場合は、ポリ乳酸系樹脂および後述のスチレン系樹脂とともに、トップフィーダから添加してもよいし、ポリ乳酸系樹脂に、(メタ)アクリル酸エステルおよび/またはシラン化合物を配合させた後、さらにスチレン系樹脂を加えてもよい。
【0042】
過酸化物と媒体との質量比率は、架橋効率の観点から、過酸化物:媒体=1:3〜10が好ましく、1:5がより好ましい。
過酸化物と、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはシラン化合物とを溶解または分散させる媒体としては、一般的なものが用いられ、特に限定されないが、ポリ乳酸系樹脂との相溶性に優れた可塑剤が好ましい。可塑剤としては、例えば、脂肪族多価カルボン酸エステル誘導体、脂肪族多価アルコールエステル誘導体、脂肪族オキシエステル誘導体、脂肪族ポリエーテル誘導体、脂肪族ポリエーテル多価カルボン酸エステル誘導体などが挙げられる。
【0043】
可塑剤としては、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプレート、ポリグリセリン酢酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(メチルジグリコール)アジペートなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0044】
可塑剤は市販品を好適に用いることができ、その具体的な商品名を例示すると、理研ビタミン社製の、PL−012、PL−019、PL−320、PL−710、アクターシリーズ(M−1、M−2、M−3、M−4、M−107FR);田岡化学社製の、ATBC;大八化学社製のBXA、MXA;太陽化学社製のチラバゾールVR−01、VR−05、VR−10P、VR−10P改1、VR−623などが挙げられる。
【0045】
可塑剤を用いる場合には、その配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対し30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20質量部である。30質量部を超えると、耐熱性が低下したり、ブリードアウトが発生したりする場合がある。架橋剤の反応性が低い場合、可塑剤を使用しなくてもよいが、反応性が高い場合には0.1質量部以上用いると、ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進となり好ましい。なお、この媒体は、樹脂との混合時に揮発することがあるため、たとえ製造時に使用しても、得られた熱可塑性樹脂組成物中にはこの媒体が含まれていない場合がある。
【0046】
本発明に使用されるスチレン系樹脂は、スチレン系単量体と、共重合可能な他のビニル単量体および/またはゴム質重合体より選ばれる1種以上とを重合して得られる樹脂である。そして、スチレン系樹脂は、重量平均分子量が150000以上のポリ乳酸系樹脂とともに用いることにより、耐衝撃性や曲げ特性(特に曲げ破断歪)が向上した樹脂組成物とすることが可能となるものである。
【0047】
前記スチレン系樹脂の成分に用いられるスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体が挙げられる。なかでも、耐熱性の観点から、特にスチレンが好ましい。これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
前記スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、アクリロニトリル 、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸のアリールエステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。なかでも、成形品としたときの外観に優れる観点から、アクリロニトリルが好ましい。
【0049】
前記スチレン系単量体と共重合可能なゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体;アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルおよびブタジエンの共重合体;ブタジエン・イソプレン共重合体等のジエン系共重合体;エチレン・プロピレンランダム共重合体およびブロック共重合体;エチレン・ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体等のエチレンとα−オレフィンとの共重合体;エチレン・メタクリレート共重合体;エチレン・ブチルアクリレート共重合体等のエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体等のエチレンと脂肪族ビニルとの共重合体;エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー;ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム;ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム(以下、IPN型ゴムと称する場合がある)等が挙げられる。なかでも、曲げ特性に優れる観点から、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体が好ましい。
【0050】
このようなスチレン系樹脂の具体例としては、例えば、ポリスチレン、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、水添スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(水添SBS)、水添スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SEPS)、耐衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES)、スチレン・IPN型ゴム共重合体等の樹脂が挙げられる。中でも、耐衝撃性、曲げ特性、耐熱性の点から、AS、ABSが望ましい。これらのスチレン系樹脂は、単独でまたは組み合わせて用いられる。
【0051】
スチレン系樹脂は、公知の重合法で製造したものを用いてもよいし、また、市販品を用いてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂の質量比率(ポリ乳酸系樹脂/スチレン系樹脂)は、95/5〜40/60であることが必要であり、90/10〜60/40であることが好ましく、さらには90/10〜75/25であることが好ましい。スチレン系樹脂の割合が上記範囲よりも少ないと、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が不十分となる。一方、スチレン系樹脂の割合が上記範囲よりも多すぎると、ポリ乳酸系樹脂の割合が少なくなるため、環境負荷の低減効果が小さい熱可塑性樹脂組成物となる。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中には、結晶化をさらに促進することを目的として、結晶核剤を含有していることが好ましい。結晶核剤としては、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩などが挙げることができる。
【0053】
有機アミド化合物や有機ヒドラジド化合物としては、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスアクリル酸アミド、エチレンビスアクリル酸アミド、ヘキサメチレンビス-9、10−ジヒドロキシステアリン酸ビスアミド、p−キシリレンビス−9、10ジヒドロキシステアリン酸アミド、デカンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、ヘキサンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアニリド、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアニリド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、N,N′−ジベンゾイル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、N,N′−ジシクロヘキサンカルボニル−1,5−ジアミノナフタレン、エチレンビスステアリン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジドなどが挙げられる。中でも、樹脂中への分散性および耐熱性の面から、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジドが好ましい。
【0054】
有機スルホン酸塩としては、スルホイソフタル酸塩など、種々のものを用いることができる。中でも、結晶化促進効果の点から、5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩が好ましい。さらに、5−スルホイソフタル酸ジメチルのバリウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、ナトリウム塩などが好ましく、特に、5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウムおよび5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウムが好ましい。
【0055】
フタロシアニン系化合物としては、種々のものを用いることができる。なかでも、結晶化促進効果の点から、遷移金属錯体を用いることが好ましく、銅フタロシアニンが特に好ましい。メラミン系化合物としては、種々のものを用いることができるが、結晶化促進効果の点から、メラミンシアヌレートを用いることが好ましい。有機ホスホン酸化合物としては、フェニルホスホン酸塩が、結晶化促進効果の点から好ましい。そのうち、結晶化促進効果の点から、特にフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。
【0056】
結晶核剤としては、これらのものを単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることができる。また、このような有機系の結晶核剤に対して、無機系の各種結晶核剤を併用しても構わない。
【0057】
結晶核剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂の合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。0.1質量部未満であると、結晶化促進効果が乏しい場合がある。一方、10質量部を超えると、結晶核剤としての効果が飽和し、経済的に不利であるだけでなく、耐熱性も低下し、また、生分解後の残渣分が増大するため環境面でも好ましくない場合がある。
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、ポリ乳酸系樹脂を架橋させる場合に添加する(メタ)アクリル酸エステル化合物以外に、ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂の相溶性を高めて耐衝撃性を向上させることを目的として、上記の(メタ)アクリル酸エステル化合物以外のアクリル樹脂を配合することが好ましい。このようなアクリル樹脂としては、(メタ)アクリル系共重合体、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル系モノマーの共重合体、等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル系共重合体が、相溶性を格段に向上させ、機械物性と耐熱性を向上させることができるので好ましい。
【0059】
(メタ)アクリル系共重合体とは、(メタ)アクリル系モノマーを単独で重合したもの、または2種以上の(メタ)アクリル系モノマーを共重合したものである。(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等のアルキル基(シクロアルキル基を含む)の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー、メタクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル系モノマー、メタクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル系モノマー等が挙げられる。なかでも、メタクリル酸エチルとアクリル酸メチルが好ましい。
【0060】
スチレン系モノマーと(メタ)アクリルモノマーの共重合体とは、スチレン系モノマーと前記(メタ)アクリル系共重合体を構成するモノマーを共重合したものである。スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレンのスチレン誘導体が挙げられる。中でも、スチレン、α―メチルスチレン等が好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
このようなアクリル樹脂の熱可塑性樹脂中の含有量としては、ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂の合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。0.1質量部未満であると、耐衝撃性向上効果が乏しい場合がある。一方、10質量部を超えると、逆に耐衝撃性が低下する場合がある。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、耐久性を向上させ、耐熱性を長期間安定的に維持することを目的として、反応性を有する化合物(以下、「反応性化合物」と称する場合がある)を含有することが好ましい。本発明において、反応性を有する化合物は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物およびオキサゾリン化合物から選ばれた少なくとも1種である。
【0063】
カルボジイミド化合物としては、種々のものを用いることができ、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するものであれば特に限定されない。カルボジイミド化合物としては、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族モノカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドなどが挙げられる。さらに、分子内に各種複素環、あるいは、各種官能基を持つものであっても構わない。
【0064】
カルボジイミド化合物としては、イソシアネート基を分子内に有するカルボジイミド化合物、およびイソシアネート基を分子内に有していないカルボジイミド化合物のどちらも区別無く用いることができる。
【0065】
カルボジイミド化合物のカルボジイミド骨格としては、N,N’−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N’−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N、N’−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、4,4’−ジシクロへキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N’−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなど、多くのカルボジイミド骨格が挙げられる。
【0066】
カルボジイミド化合物の具体例としては、多くのものが挙げられるが、例えば、脂環族モノカルボジイミドとしては、ジシクロへキシルカルボジイミドなどが挙げられる。脂環族ポリカルボジイミドとしては、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられる。芳香族モノカルボジイミドとしては、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。芳香族ポリカルボジイミドとしては、フェニレン−p−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド、1,3,5−トリイソプロピル−フェニレン−2,4−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられる。なかでも、耐久性の観点から、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドや、1,3,5−トリイソプロピル−フェニレン−2,4−ジイソシアネートや、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)が好ましい。上記のカルボジイミド化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0067】
なお、ポリカルボジイミドにおいては、その分子の両端あるいは分子中の任意の部分が、イソシアネート基等の官能基を有していてもよいし、または、分子鎖が分岐しているなど他の部位と異なる分子構造となっていてもよい。
【0068】
カルボジイミド化合物を製造する方法としては、特に限定されず、イソシアネート化合物を原料に製造する方法など、多くの方法が挙げられる。
エポキシ化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどを含有するエポキシ化合物が好ましい。
【0069】
オキサゾリン化合物としては、特に限定されないが、例えば、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンを含有するオキサゾリン化合物が最も好ましい。
このような反応性化合物の熱可塑性樹脂中の含有量としては、ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂の合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。含有量が0.1質量部未満であると、目的とする耐久性(耐湿熱性)の向上効果に乏しくなる場合がある。一方、含有量が10質量部を超えると、経済的に好ましくなく、耐熱性が低下したり、さらに色調が大きく損なわれたりする場合がある。
【0070】
ポリ乳酸系樹脂、スチレン系樹脂を含有する樹脂組成物に、さらに、反応性化合物を混合する手段は、特に限定されないが、例えば、一軸あるいは二軸の押出機を用いて溶融混練する方法を挙げることができる。混練状態を良くする意味で、二軸の押出機を用いることが好ましい。混練温度は{[ポリ乳酸系樹脂の融点]+5}℃〜{[ポリ乳酸系樹脂の融点]+100}℃であることが好ましい。この範囲より低温であると混練や反応が不十分となり、一方、この範囲より高温であると樹脂の分解や着色が起きる場合がある。また、混練時間は、20秒〜30分が好ましい。この時間より短いと混練や反応が不十分となり、一方、この時間より長いと樹脂の分解や着色が起きる場合がある。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その特性を損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、無機充填材、植物繊維、強化繊維、耐候剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、上記の結晶核剤以外の耐衝撃剤、相溶化剤等の添加剤を含有させることができる。
【0072】
顔料としては、チタン、カーボンブラックなどを挙げることができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。
【0073】
無機充填材としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、アルミナ、マグネシア、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維、層状珪酸塩などが例示される。層状珪酸塩を配合することにより、樹脂組成物のガスバリア性を向上させることができる。
【0074】
植物繊維としては、例えば、ケナフ繊維、竹繊維、ジュート繊維、その他のセルロース系繊維などが例示される。強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリマー繊維などの有機強化繊維などが挙げられる。耐候剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズオキサジノンなどが挙げられる。
【0075】
滑剤としては、各種カルボン酸系化合物を用いることができ、なかでも、各種脂肪酸金属塩、特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどが好ましい。離型剤としては、各種カルボン酸系化合物、中でも、各種脂肪酸エステル、各種脂肪酸アミドなどが好適に用いられる。
【0076】
耐衝撃剤としては、特に限定されず、コアシェル型構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系耐衝撃剤など、種々のものを用いることができる。耐衝撃剤は市販品も好適に用いることができ、例えば、三菱レイヨン社製「メタブレンシリーズ」などが挙げられる。
【0077】
相溶化剤としては、特に限定されないが、例えば、オレフィン系共重合樹脂を主鎖に有するグラフト共重合体が挙げられる。具体的には、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−ポリメチルメタクリレートグラフト共重合体、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−ポリ(アクリロニトリル/スチレン)グラフト共重合体などが挙げられる。相溶化剤としては、市販品も好適に使用でき、例えば、日本油脂社製「モディパーシリーズ」などが挙げられる。なお、本発明の樹脂組成物に、上記の添加剤を混合する方法としては特に限定されない。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を使用する場合には、ポリ乳酸系樹脂およびスチレン系樹脂以外の樹脂をさらに配合した樹脂組成物として用いてもよい。このような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ(メチル)メタアクリレート、ポリ(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールなどが挙げられる。
【0079】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6Tなどが挙げられる。
【0080】
ポリエステルとしては、各種芳香族ポリエステル、各種脂肪族ポリエステルを始め、多くのものが挙げられる。芳香族ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシ酪酸等が挙げられる。
【0081】
この他のポリエステル系化合物としては、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリブチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/シクロへキシレンジメチレンテレフタレート、シクロへキシレンジメチレンイソフタレートコテレフタレート、p−ヒドロキシ安息香酸残基とエチレンテレフタレート残基からなるコポリエステル、植物由来の原料である1,3−プロパンジオールからなるポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物に、これらの樹脂を配合(混合)する方法は特に限定されない。
【0082】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。該製造方法としては、例えば、各原料をヘンシェルミキサーで混合して、それを押し出し機に供給し、溶融混練して、ペレット化する方法が挙げられる。なお、粉末とペレットを一括で混合する場合、ヘンシェルミキサー内で均一に分散しにくい場合がある。そのような場合に、粘性のある液状の添加剤をブレンドオイルとして、微量添加することによって、均一に分散させる方法もある。このような液状の添加剤としては、本発明の熱可塑性樹脂組成物の特性を損なわない範囲で何を使用してもよいが、環境面からは、バイオマス由来の添加剤が好ましい。例えば、バイオマス由来のグリセリン脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルなどが望ましい。
【0083】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、インジェクションブロー成形、発泡シート成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂を成形してなる成形体としては、射出成形してなる成形体、あるいは、押出成形してなるフィルム、シート、およびこれらのフィルムやシートを加工してなる成形体、あるいはブロー成形してなる中空体、および、この中空体から加工してなる成形体などが挙げられる。上記のなかでも、とりわけ、射出成形法を採用することが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。
【0084】
本発明の成形体を得るための射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、例えば、170〜250℃とすることが好ましく、170〜230℃とすることがより好ましい。また、金型温度は(樹脂組成物の融点−40)℃以下とすることが適当である。成形温度が上記のシリンダ温度や金型温度の範囲より低すぎると、成形品にショートが発生するなどして操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすくなったりする場合がある。逆に、成形温度が上記のシリンダ温度や金型温度の範囲を超えて高すぎると、熱可塑性樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色したりする等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。
【0085】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形の際に結晶化を促進させることにより、耐熱性をさらに高めることができる。結晶化を促進させる方法としては、例えば、射出成形時に金型内で結晶化を促進させる方法があり、その場合には、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度以上、(熱可塑性樹脂組成物の融点−40)℃以下に保たれた金型内で、一定時間成形体を保持した後、金型より取り出す方法が好適である。また、このような方法をとらずに金型から取り出された成形体であっても、該成形体を、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度以上、(熱可塑性樹脂組成物の融点−40)℃以下で熱処理することにより、結晶化を促進することができる。
【0086】
本発明の成形体の具体例としては、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品をはじめ、コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文具用樹脂部品等が挙げられる。
【実施例】
【0087】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例および比較例の樹脂組成物の評価に用いた測定法は次の通りである。
(1)MFR
JIS K 7210(試験条件D)に従い、190℃、荷重21.1Nで測定した。
(2)曲げ特性
・曲げ強度
得られた試験片を用い、ISO178に従って曲げ強度を測定した。本発明においては、曲げ強度が70MPa以上であるものを実用に耐えうるものとした。
・曲げ弾性率
得られた試験片を用い、ISO178に従って曲げ弾性率を測定した。本発明においては、曲げ弾性率が3.0GPa以上であるものを実用に耐えうるものとした。
・曲げ破断歪
得られた試験片を用い、ISO178に従って曲げ破断歪を測定した。本発明においては、曲げ破断歪が5.0%以上であるものを実用に耐えうるものとした。
(3)耐衝撃性
得られた試験片を用い、ISO 179−1に従って測定したシャルピー衝撃強度を用いた。本発明においては、シャルピー衝撃強度が5.0kJ/m以上であるものを実用に耐えうるものとした。
(4)耐熱性
得られた試験片を用い、ISO75−1に従って、荷重0.45MPaで測定した荷重たわみ温度を用いた。本発明においては、荷重たわみ温度が90℃以上であるものを実用に耐えうるものとした。
(5)耐久性(曲げ強度保持率)
得られた試験片を2本用意し、1本は上記(2)と同様の方法で曲げ強度(湿熱処理前の曲げ強度)を測定した。もう1本は温度60℃、湿度95℃RHの環境下で500時間曝して湿熱処理を施し、その後、上記(2)と同様の方法で曲げ強度(湿熱処理後の曲げ強度)を測定した。以下の式により、曲げ強度保持率を算出した。
(曲げ強度保持率)(%)=〔(湿熱処理後の曲げ強度)/(湿熱処理前の曲げ強度)〕×100
そして、以下の基準で評価した。
◎:曲げ強度保持率が95%以上である。
○:曲げ強度保持率が85%以上95%未満である。
△:曲げ強度保持率が60%以上85%未満である。
×:曲げ強度保持率が60%未満である。
本発明においては、曲げ強度保持率が85%以上であるものを実用に耐えうるものであるとした。
【0088】
また、実施例および比較例に用いた各種原料は次の通りである。
(1)ポリ乳酸系樹脂(A)
・(A−1)
カーギルダウ社製、商品名「Nature Works 4032D」(重量平均分子量160000、MFR:3g/10分、融点:168℃、D体含有率:1.4モル%)
・(A−2)
カーギルダウ社製、商品名「Nature Works 3001D」(重量平均分子量100000、MFR:10g/10分、融点:168℃、D体含有率:1.4モル%)
・(A−3)
カーギルダウ社製、商品名「Nature Works 4042D」(重量平均分子量165000、MFR:3g/10分、融点:168℃、D体含有率:4.0モル%)
(2)スチレン系樹脂(B)
・(B−1)
ABS樹脂(UMG ABS社製、商品名「バルクサムTM30」)
・(B−2)
ABS樹脂(ダイセルポリマー社製、商品名「セビアン466MD」)
(3)過酸化物(C)
・(C−1)
ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パーブチルD」)
(4)(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)
・(D−1)
エチレングリコールジメタクリレート(日本油脂社製、商品名「ブレンマーPDE−50」)
(5)シラン化合物(E)
・(E−1)
ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBM−1003」)
(6)アクリル樹脂(F)
・(F−1)
メタクリル酸エチルとアクリル酸メチルの共重合体(三菱レイヨン社製、商品名「アクリペットVH−001」)
・(F−2)
メタクリル酸エチルとアクリル酸メチルの共重合体(三菱レイヨン社製、商品名「アクリペットMD−001」)
(7)結晶核剤(G)
・(G−1)
5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウム(竹本油脂社製、商品名「LAK−403」)
・(G−2)
5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウム(竹本油脂社製、商品名「LAK−301」)
(8)反応性化合物(H)
・(H−1)
カルボジイミド化合物(N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)(松本油脂社製、商品名「EN−160」)
・(H−2)
カルボジイミド化合物〔ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)〕(日清紡社製、商品名「LA−1」
(9)可塑剤
・ポリグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学社製、商品名「チラバゾールVR−01」)(以下、「VR−01」と称する場合がある)
・中鎖脂肪酸トリグリセライド(理研ビタミン社製、商品名「アクターM−1」)(以下、「M−1」と称する場合がある)
(架橋ポリ乳酸系樹脂の調製)
二軸押出機(東芝機械社製 商品名「TEM37BS型」)を用い、押出機の根元供給口から表1に示す割合で(A−1)を供給し、また、混練途中から表1に示す割合で(C−1)、(D−1)、(E−1)、(M−1)を混合した溶液を注入し、バレル温度190℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら溶融押出を実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水を満たしたバットを通過させて冷却した後、ペレット状にカッティングして、架橋ポリ乳酸系樹脂(A−4)〜(A−11)のペレットを得た。
【0089】
【表1】

(実施例1)
二軸押出機(東芝機械社製 商品名「TEM37BS型」)を用い、ポリ乳酸系樹脂として、85質量部の(A−1)、スチレン系樹脂として、15質量部の(B−1)、可塑剤として0.5質量部のVR−01をドライブレンドして、押出機の根元供給口から供給し、バレル温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら溶融押出を実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水を満たしたバットを通過させて冷却した後、ペレット状にカッティングして、樹脂組成物のペレットを得た。
【0090】
得られたペレットを、70℃にて24時間真空乾燥した。その後、射出成形機(東芝機械社製 商品名「EC−100型」)を用いて、金型表面温度を90℃に調整しながら、成形サイクル50秒でISO準拠の試験片を作製した。
【0091】
(実施例2〜22)、
ポリ乳酸系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル樹脂、結晶核剤、および反応性化合物の種類と配合量を、表2および表3に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0092】
そして、得られたペレットを実施例1と同様に射出成形して試験片を作製した。
(実施例23〜31)
ポリ乳酸系樹脂として、(A−1)に代えて表3に示すように架橋ポリ乳酸系樹脂(A−4)〜(A〜11)を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
そして、得られたペレットを実施例1と同様に射出成形して試験片を作製した。
比較例1〜12
ポリ乳酸系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル樹脂、結晶核剤、および反応性化合物の種類と配合量を、表4に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0093】
そして、得られたペレットを実施例1と同様に射出成形して試験片を作製した。
実施例1〜31、比較例1〜12で得られた樹脂組成物からなる試験片の評価結果を表2〜4に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

表2〜3より明らかなように、実施例1〜34で得られた熱可塑性樹脂組成物は、曲げ破断歪が10%を超えるものであって、曲げ特性に優れ、耐衝撃性、耐熱性、耐久性にも優れるものであった。
【0097】
架橋ポリ乳酸系樹脂を用いた、実施例23〜31の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性に優れるものであった。
結晶核剤を用いた実施例1〜22、31の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性に優れるものであった。
【0098】
中でも、架橋ポリ乳酸系樹脂が用いられ、かつ結晶核剤が用いられた実施例31の熱可塑性樹脂組成物は、特に耐熱性に優れる結果となった。
反応性化合物を用いた実施例2〜31の熱可塑性樹脂組成物は、反応性化合物が用いられていない実施例1と比較すると、特に耐久性に優れるものであった。
【0099】
アクリル樹脂を用いた実施例3〜31の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル樹脂が含有されていない実施例2の熱可塑性樹脂組成物と比較すると、特に耐衝撃性に優れるものであった。
【0100】
比較例1、3、4の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂としては本発明に規定する範囲の重量平均分子量を有するものを用いたが、スチレン系樹脂を用いなかった。そのため、得られた熱可塑性樹脂組成物は曲げ破断歪が低く、曲げ特性に劣るものであり、耐衝撃性にも劣っていた。
【0101】
比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂として重量平均分子量が100000という本発明に規定する範囲よりも低分子量のものを用い、スチレン系樹脂を用いなかった。そのため、曲げ破断歪が低く、曲げ特性に劣るものであり、耐衝撃性にも劣っていた。
【0102】
比較例5および7の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂としては本発明に規定する範囲の重量平均分子量を有するものを用いたが、スチレン系樹脂を用いなかった。そのため、得られた熱可塑性樹脂組成物は曲げ破断歪が低く、曲げ特性に劣るものであり、アクリル樹脂を用いたが耐衝撃性にも劣っていた。
【0103】
比較例6の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂として重量平均分子量が100000という本発明に規定する範囲よりも低分子量のものを用い、かつスチレン系樹脂を用いなかった。そのため、曲げ破断歪が低く、曲げ特性に劣るものであり、アクリル樹脂を用いたが耐衝撃性にも劣っていた。
【0104】
比較例8の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂としては本発明に規定する範囲の重量平均分子量を有するものを用いたが、スチレン系樹脂の含有量が過少であった。そのため、曲げ破断歪が低く、曲げ特性に劣るものであり、アクリル樹脂を用いたが耐衝撃性にも劣っていた。
【0105】
比較例9の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂の含有量が過少であった。そのため、曲げ強度、曲げ弾性率の値が低く、耐熱性にも劣り、さらに環境に対する負荷が大きいものであった。
【0106】
比較例10の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂を用いず、スチレン系樹脂のみを用いた。そのため、曲げ強度、曲げ弾性率の値が低く、耐熱性にも劣り、さらに環境に対する負荷が大きいものであった。
【0107】
比較例11および12の熱可塑性樹脂組成物は、本発明に規定する重量平均分子量よりも分子量が過小であるポリ乳酸系樹脂を用いた。そのため、曲げ破断歪が低く、曲げ特性に劣るものであり、アクリル樹脂を用いたが耐衝撃性にも劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が150000以上のポリ乳酸系樹脂およびスチレン系樹脂を含有し、ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂との質量比率が、ポリ乳酸系樹脂/スチレン系樹脂=95/5〜40/60であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸系樹脂が、架橋ポリ乳酸系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
架橋ポリ乳酸系樹脂が、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、過酸化物0.01〜10質量部と、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/またはアルコキシ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基から選ばれる官能基を2個以上有するシラン化合物0.01〜5質量部とを配合して得られたものであることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
スチレン系樹脂が、アクリロニトリル・スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリ乳酸系樹脂とスチレン系樹脂の合計量100質量部に対して、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物およびオキサゾリン化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を0.1〜10質量部を含有することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。


【公開番号】特開2012−131905(P2012−131905A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285224(P2010−285224)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】