説明

熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法

【課題】レーザ光を熱源として、金属と熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の異種材同士を強固に接合し、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体がレーザ光を透過しない場合であっても、形状の自由度が大きく、信頼性の高い複合体を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と12(B)金属11を重ね合わせ、前記(B)金属側からレーザ光9を照射し、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の少なくとも一部を軟化および/または溶融することによって接合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属をレーザ光(レーザ、レーザ光線とも言う)を用いて接合(溶着とも言う)することを特徴とする複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物は、優れた成形加工性と形状の自由度が大きく、また、高い意匠性などを有するため、自動車や電機電子および一般産業用途に広く用いられている。なかでも、ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)樹脂、ポリアミド樹脂(以下PAと略す)、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略す)は更に優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、機械的強度、弾性率などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用を中心として各種自動車部品、電気・電子部品および機械部品などに使用されている。
【0003】
近年、産業の高度化に伴って、PPS樹脂、PA樹脂、PBT樹脂に要求される諸物性も一層向上し、かつ多様化している。
【0004】
熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の接合によって一体化や複合化する要求は以前から大きく、近年、レーザ光を用いた接合による複合化が知られるようになってきた。
【0005】

例えば特許文献1には加熱源としてレーザ光を用いた2つの異種部材の接合方法が記載されている。この方法は、レーザ光を透過する樹脂部材ともう一方の部材を重ね合わせ、レーザ光透過樹脂側からレーザ光を照射し、接合面の何れか一方に凹凸を設けてレーザ光を吸収させ、2つの部材の一方、または両方を溶融あるいは軟化することにより両者を接合する技術である。
【0006】
また、特許文献2、3は熱可塑性樹脂部材と金属部材を接合する方法であって、厚み方向に連通孔を有する発泡体、細線焼結体および貫通孔を有する金属部材と樹脂部材を重ね合わせ、レーザ光を透過する樹脂側からレーザ光を照射し、金属の発熱および樹脂側合わせ面の黒色化によって樹脂溶融を行い、溶融樹脂を連通孔に含浸、また貫通孔から押し出すことにより接合する方法である。
【0007】
特許文献4は2種類の樹脂材料を重ね合わせて一方から加熱源としてレーザ光を照射し、接着面の樹脂を溶融して接合する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−15405号公報(請求項)
【特許文献2】特開2005−297288号公報(請求項)
【特許文献3】特開昭61−258730号公報(請求項)
【特許文献4】特開2005−329669号公報(請求項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜4は何れもレーザ光を加熱源として利用した接合方法であるが、その方法はレーザ光を透過する樹脂部材とレーザ光を吸収するもう一方の部材を重ね合わせて、レーザ光を透過する樹脂部材側からレーザ光を照射し、レーザ光は接合面で吸収されることによって発熱し、この熱によって樹脂が軟化、溶融することで接合するものである。従って、接合部材はレーザ光を透過する性質を持つ部材と、レーザ光を吸収する部材との組み合わせである必要である。
【0010】
このように、レーザ光を加熱源として利用する従来の技術は、レーザ光を透過する熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の側からレーザ光を照射する技術であり、レーザ光を用いて熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属を接合しようとする際に、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体のレーザ透過性が不十分であったり、複合体の形状によって熱可塑性樹脂組成物からなる成形体側からレーザ光を照射することができない場合などは、接合ができなかったり、接合の強度が不十分であるなどの問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法において、上記の課題を解決すべく検討した結果、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属を重ね合わせ、レーザ光を加熱源として金属側から照射して熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の少なくとも一部を軟化および/または溶融させることにより、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体のレーザ光透過性の影響を受けることなく両者が強固に接合することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)(A)熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と(B)金属を重ね合わせ、前記(B)金属側からレーザ光を照射し、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の少なくとも一部を軟化および/または溶融することによって接合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
(2)(A)熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の線膨張係数が、23〜80℃の温度範囲で2.0〜4.5×10−5/℃である(1)記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
(3)前記(A)熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂100重量部に対して(C)無機充填剤を17.6〜100重量部配合してなる組成物である(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
(4)前記(A)熱可塑性樹脂組成物が、(A1)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(A2)ポリアミド樹脂、(A3)ポリブチレンテレフタレート樹脂から選ばれる少なくとも1種を配合してなる組成物である(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
(5)前記(B)金属のレーザ照射側の表面に、波長800〜1100nmのレーザ光を照射したときの金属表面反射率が80%以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
(6)前記(B)金属の、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と複合化される面が表面処理されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
(7)前記(B)金属の表面が、トリアジンチオール誘導体で表面処理されたものであることを特徴とする(6)に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
(8)前記(B)金属の表面が、アンモニア、ヒドラジンおよび水溶性アミン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物により表面処理されたものであることを特徴とする(6)に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
(9)前記(B)金属の表面が、陽極酸化処理されたものであることを特徴とする(6)に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の接合は、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体のレーザ光透過性の影響を受けることなく強固な接合強度の発現が可能となり、自動車部品、電気・電子部品、一般産業機器部品などで熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属を有する複合体の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】線膨張係数測定試料、レーザ光線透過率測定試料、レーザ溶着樹脂試料の切削前試験片の形状を示す図である。
【図2】線膨張係数のMD、TD切削位置を示す図である。
【図3】線膨張係数測定試験片の形状を示す図である。
【図4】レーザ光線透過率測定試験片(樹脂)、レーザ光線反射率測定試験片(金属)、レーザ溶着用試験片(樹脂、金属)の形状を示す図である。
【図5】レーザ溶着方法を示す図である。
【図6】レーザ溶着強度測定用試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0017】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属を重ね合わせ、金属側からレーザ光を照射することが重要である。レーザ光を加熱源として金属側から照射することにより金属表面を加熱し、この熱によって接合界面の熱可塑性樹脂組成物が軟化および/または溶融することで樹脂成形体と金属が接合する。従って、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体のレーザ光透過性の影響を受けることなく両者が強固に接合した複合体を得ることが出来る。
【0018】
本発明で用いる(A)熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、線膨張係数が23〜80℃の温度範囲で2.0〜4.5×10−5/℃であることが好ましい。また、(B)金属は特定の表面処理をしたものが好ましい。
【0019】
熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の線膨張係数は以下の方法で測定した値である。熱可塑性樹脂組成物からなる成形体から、成形時の樹脂流れ方向(以下MDと略す)および樹脂流れ方向に対して直角方向(以下TDと略す)に、幅Wが5mm、長さLが10mm、厚みDが3mmの成形体を切削加工によって作製した試験片を用い、セイコー電子工業(株)製TMA−100を用いて、負荷荷重2g、−40℃〜80℃の温度領域を5℃/分の速度で昇温し、23〜80℃の温度範囲における(MD線膨張係数+TD線膨張係数)/2の数値を線膨張係数とする。
【0020】
本発明において、樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、レーザ光の透過性についての制限はなく、全くレーザ光を透過しないものであっても良い。熱可塑性樹脂としては、PPS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。特にレーザ光の透過性が十分でないPPS樹脂などを含む熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属を接合する際に、本発明は有効である。
【0021】
ここで、成形品を構成する熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂には制限はなく、特にPPS樹脂、PA樹脂、PBT樹脂から選ばれる少なくとも1種が好ましく使用される。これらの樹脂は耐薬品性、耐熱性、機械的強度、電気絶縁性、バリア性がエンジニアリングプラスチックとして高位にバランスが取れており、かつ、加工性にも良好である点で好ましい。これらPPS樹脂、PA樹脂、PBT樹脂は単独であっても良いし、PPSとPPS共重合体、PAとPA共重合体、PBTとPBT共重合体との併用であっても良い。
【0022】
(A1)PPS樹脂
本発明で用いられる(A1)PPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0023】
【化1】

【0024】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0025】
【化2】

【0026】
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
【0027】
本発明で用いられるPPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた機械的強度を得る意味から、例えば5Pa・s(310℃、剪断速度1000/s)以上が好ましく、10Pa・s以上がさらに好ましい。上限については溶融流動性保持の点から600Pa・s以下であることが好ましい。
【0028】
なお、本発明における溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した値である。
【0029】
以下に、本発明に用いるPPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造のPPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
【0030】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0031】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0032】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0033】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0034】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0035】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0036】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0037】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0038】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0039】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0040】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0041】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0042】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
【0043】
[分子量調節剤]
生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0044】
[重合助剤]
比較的高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0045】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0046】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0047】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
【0048】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
【0049】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0050】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0051】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0052】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0053】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが添加が容易である点からより好ましい。
【0054】
次に、本発明に用いるPPS樹脂の製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
【0055】
[前工程]
PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0056】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0057】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0058】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。
【0059】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0060】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0061】
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0062】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選ばれる。
【0063】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0064】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
【0065】
[回収工程]
PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。PPS樹脂は、公知の如何なる回収方法を採用しても良い。
【0066】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0067】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選ばれる。
【0068】
[後処理工程]
PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施されたものであってもよい。
【0069】
酸処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0070】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4〜8程度となっても良い。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0071】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0072】
熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0073】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0074】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0075】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0076】
PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0077】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0078】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0079】
本発明で用い得るPPS樹脂としては、東レ(株)製M2588、M2888、M2088、M3088、T1881、L2120、L2480、L2520、L4230、M2100、M2900、M3910、E2280、E2180、E2080、(株)クレハ製W203A、W205Aなどが挙げられ、中でもM2588、M2888、M2088、M3088、T1881、L2480、L4230、M2100、M3910、E2280、E2180、E2080、W203A、W205Aなどが好適に用いられる。
【0080】
(熱可塑性樹脂組成物に配合する配合剤)
本発明において配合剤は、金属との優れた接合強度および樹脂成形体の強度、成形性、靱性、耐熱性などを付与するため熱可塑性樹脂組成物に配合することが好ましい。
【0081】
(エラストマー)
本発明の(A1)PPS樹脂を配合した熱可塑性樹脂組成物には、靱性を付与する意味において、エポキシ基を有するオレフィン共重合体などを配合することができる。かかるエポキシ基を有するオレフィン共重合体(エポキシ基含有オレフィン共重合体)としては、オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体が挙げられる。また、主鎖中に二重結合を有するオレフィン系重合体の二重結合部分をエポキシ化した共重合体も使用することができる。
【0082】
オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
【0083】
これらエポキシ基含有成分を導入する方法は特に制限なく、α−オレフィンなどとともに共重合せしめたり、オレフィン(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
【0084】
エポキシ基を含有する単量体成分の導入量はエポキシ基含有オレフィン系共重合体の原料となる単量体全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
【0085】
本発明で特に有用なエポキシ基含有オレフィン共重合体としては、α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合成分とするオレフィン系共重合体が好ましく挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル等を共重合することも可能である。
【0086】
またかかるオレフィン共重合体はランダム、交互、ブロック、グラフトいずれの共重合様式でも良い。
【0087】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合してなるオレフィン共重合体は、中でも、α−オレフィン60〜99重量%とα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜40重量%を共重合してなるオレフィン共重合体が特に好ましい。
【0088】
上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとしては、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
【0089】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−ポリスチレン、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−アクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−PMMA、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。
【0090】
エポキシ基を含有しないエラストマーを用いることもできる。かかるエラストマーとしては、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、エチレン/オクテン共重合体などが挙げられる。かかるエポキシ基を含有しないエラストマーを用いる際は、エポキシ基を有するオレフィン共重合体と併用することが好ましい。
【0091】
かかるエポキシ基を有するオレフィン共重合体、エポキシ基を含有しないエラストマー
の配合量としては、目的とするアイテムの要求特性に左右されるが、通常熱可塑性樹脂100重量部に対し3〜100重量部の範囲が好ましい。
【0092】
さらに、その他の配合剤として、PPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、PPS樹脂などの主要成分となる樹脂の他に他の熱可塑性樹脂を配合しても良い。その具体例としては、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0093】
(酸化防止剤)
また、本発明においては樹脂成形体の酸化着色による色調変化を抑制するためにPPS樹脂組成物に酸化防止剤を配合することが可能である。酸化防止剤の具体例としては、次亜リン酸カルシウム、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジン)イソシアヌレート等のフェノール系化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系化合物などが挙げられるが、なかでも次亜リン酸カルシウムが好ましい。酸化防止剤の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して通常、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0094】
また、上記酸化防止剤は酸化着色による色調変化を抑制するために2種以上を併用して使用することもできる。
【0095】
また配合剤として、PPS脂組成物の改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えると熱可塑性樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
【0096】
また、本発明の(A1)PPS樹脂を配合した熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性などの向上を目的に、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランを添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0097】
かかるシラン化合物の好適な添加量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、0.05〜5重量部の範囲が選択される。
【0098】
(A2)PA樹脂
本発明で用いられる(A2)PA樹脂は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とする樹脂である。その原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、(2,2,4−または2,4,4−)トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーもしくはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0099】
本発明において、とくに好適に用いられる(A1)ポリアミド樹脂は、200℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2ーメチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/610/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6T/12/66)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/12/6I)、およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
【0100】
とりわけ好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマーおよびナイロン66/6I/6コポリマー、ならびにナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/6コポリマー、ナイロン6T/12コポリマー、ナイロン6T/12/66コポリマー、ナイロン6T/12/6Iコポリマーなどのヘキサメチンレテレフタラミド単位を有する共重合体から選ばれる少なくとも一種のポリアミドである。これらのポリアミド樹脂は成形性、耐熱性、靱性、表面性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。ここで用いられるポリアミドの重合度についてはとくに限定されないが、JIS−K6920に従って98%硫酸中濃度1%、25℃で測定する相対粘度(ηr)が1.9〜4.0の範囲のものが好ましく、2.0〜3.5の範囲のものがとくに好ましい。相対粘度がこの範囲に有ると成形性、機械特性に優れ、本発明に好適である。
【0101】
(A3)PBT樹脂
本発明で熱可塑性樹脂として使用する(A3)PBT樹脂(以下(A3)成分とも言う)は、テレフタル酸(あるいはそのジメチルテレフタレート等エステル形成性誘導体)と1,4−ブタンジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)を主たる原料とし、重縮合反応して得られる重合体である。
【0102】
また、上記PBTと併用して用いることができるPBT共重合体としては、テレフタル酸(あるいはそのジメチルテレフタレート等エステル形成性誘導体)と1,4−ブタンジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)および、これらと共重合可能なその他のジカルボン酸(あるいはそのエステル形成性誘導体)あるいはその他のジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)を共重合したものが挙げられる。
【0103】
上記その他のジカルボン酸(あるいはそのエステル形成性誘導体)としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。
【0104】
これらの(A3)成分に(D)ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ポリフェニレンオキシド、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下D成分とも言う)の中から選ばれる少なくとも1種を混合物として用いることも成形性、靭性、成形体低反り性などの必要特性から実用上好適である。
【0105】
(A3)成分としてPBT共重合体のみを使用した場合に、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の中から選ばれる少なくとも1種を添加すると成形性が低下する場合があり、好ましくない。
【0106】
(A3)成分の粘度は溶融混練が可能であれば特に制限は無いが、通常、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度は0.36〜1.60であることが好ましい。また、(A3)成分がポリブチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート共重合体からなる場合には、その物理的あるいは溶融混合物を粉砕後もしくはペレット状のまま用いてo−クロロフェノールに溶解し、o−クロロフェノール溶液を調整し、粘度測定した結果が前記粘度条件内にあればよい。
【0107】
本発明においては(A3)成分に対し、さらにエラストマーを配合することにより耐衝撃性、耐冷熱性を付与することができる。エラストマーは、レーザ光の透過をさまたげるエラストマーであっても配合することが可能であり、かかるエラストマーとしては、エチレン系、スチレン系などが挙げられる。ここでの耐冷熱性とは、ポリブチレンテレフタレート樹脂などと大きく線膨張係数の異なる、例えば金属などを内部にインサート成形してなる樹脂成形体において、低温、高温の繰り返し環境下における割れに対する耐性を言う。
【0108】
エラストマーを配合する場合の添加量としては、(A3)成分100重量部に対し、流動性、離型性等の成形性から1〜50重量部が好ましい。エラストマーは単独であっても2種以上の併用であってもかまわない。
【0109】
(A)熱可塑性樹脂組成物
本発明で用いられる(A)熱可塑性樹脂組成物にはさらに、炭素数12以上の高級脂肪酸、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、エステル、アミド化合物からなる郡から選ばれる少なくとも1種を配合することができる。
【0110】
炭素数12以上の高級脂肪酸、酸性化合物とアルミニウム、バリウム、カルシウムなどからなるアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、エステル、アミド化合物とは、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、亜硫酸、亜硝酸、燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、モンタン酸などが挙げられるが、(A1)PPS樹脂、(A2)PA樹脂、(A3)PBT樹脂との親和性や機械物性、特に射出成形時の離型性面からラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の脂肪酸が好適である。これらの脂肪酸は単一化合物であっても2種以上の混合物であってもかまわない。
【0111】
本発明で用いられる炭素数12以上の高級脂肪酸およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、エステル、アミド化合物の配合量は、(A1)PPS樹脂、(A2)PA樹脂、(A3)PBT樹脂などの熱可塑性樹脂100重量部に対し、0.005〜1重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部である。0.005重量部以上配合することで、離型性向上効果が得られ、2重量部以下の配合量とすることで、物性低下や発生ガスによる金型汚れを防ぐことができるので好ましい。
【0112】
さらに、本発明の(A)熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分、例えば耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、滑剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、リレン、ぺリレン、ナフタトシアニン、キナクリドン、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、アゾ系、モノアゾ系、金属錯塩等)、染料(アジン系、アゾ系、ぺリレン、アンスラキノン等)、結晶核剤(タルク、ポリエーテルエーテルケトン等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、着色防止剤(次亜リン酸塩等)、発泡剤、他の重合体などを含有することができる。
【0113】
結晶核剤の添加は、結晶化速度(固化速度)が速くなり成形サイクルを短くすることが可能となる。また、顔料および、染料の添加は、成形品の意匠性向上が可能となる。
これらの添加剤は、レーザ光の透過をさまたげるものであってもかまわない。また、2種類以上を組み合わせることによって相乗的な効果が得られることがあるので、併用であってもかまわない。
【0114】
(無機充填剤)
本発明で使用する(A)熱可塑性樹脂組成物には、配合剤として(C)無機充填剤を1種以上配合したものが金属との強固な接合強度を発現するために好ましい。かかる無機充填剤成分としては繊維状、粒状、板状、中空などのものが使用できる。具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、バサルト繊維、ミルドガラス繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、なかでもガラス繊維、炭素繊維、ミルドガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレークが機械的強度、成形体低反り性の点で好ましく、さらにガラス繊維、炭素繊維は、線膨張低減の点から特に好ましい。
【0115】
また、これらの(C)無機充填剤は2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
【0116】
また、本発明においては、レーザ光の透過をさまたげる無機充填材も使用することができ、樹脂成形体に要求される性能を満たすのに必要な無機充填材を配合することが可能である。
【0117】
かかる無機充填剤の配合量は、(A1)PPS樹脂、(A2)PA樹脂、(A3)PBT樹脂などの熱可塑性樹脂100重量部に対し、17.6〜100重量部の範囲が好ましく、17.6〜66.7重量部の範囲が強度、剛性、成形性から好ましい。無機充填材の含有量は、強度と剛性、その他特性のバランスから用途により適宜変えることが可能である。
【0118】
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、線膨張係数が23〜80℃の温度範囲で2.0〜4.5×10−5/℃であることが好ましく、線膨張係数をこの範囲にするために、無機充填剤を配合することが好ましい。
【0119】
(混練加工方法)
本発明の樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物は上記の各配合剤などを公知の方法で溶融混練することで得ることができる。溶融混練機は、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給して熱可塑性樹脂の融解ピーク温度+5〜100℃の加工温度の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
【0120】
本発明で金属と接合する成形体の成形方法としては、射出成形やフィルム、シート、繊維、ブロー成形、チューブ・パイプ成形などの押出成形いずれによって得られた成形品にも適用可能であるが、特に射出成形によって得られた成形品が好適に用いられる。
【0121】
熱可塑性樹脂組成物として(A1)PPS樹脂、(A2)PA樹脂、(A3)PBT樹脂を用いる場合は、通常結晶化した樹脂射出成形体を得るために、射出成形の際の金型温度をPPS樹脂は130〜180℃。また、PA樹脂、PBT樹脂は60〜100℃とする。寸法安定性、成形サイクルからより好ましくはPPS樹脂は130〜150℃。また、PA樹脂、PBT樹脂は60〜80℃の金型温度がより好ましい。
【0122】
(金属)
本発明の(B)金属は熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と複合化される面および/またはレーザ光照射面が表面処理されていることが好ましい。
樹脂組成物からなる成形体との接合面を表面処理することで、接着強度の向上が期待できる。また、レーザ光照射面を表面処理することで、金属表面のレーザ光反射率を低減させる効果が期待できる。
【0123】
(B)金属としては、鉄,銅,ニッケル,金,銀,プラチナ,パラジウム,コバルト,亜鉛,鉛,スズ,チタン,クロム,アルミニウム,マグネシウム,マンガン及びこれらの合金(ステンレス,真鍮,リン青銅など)などを挙げることができる。また、金属被膜(金属のメッキ,蒸着膜,塗膜等)も対象となる。中でもアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金が特に好適である。
【0124】
本発明における(B)金属は、樹脂成形体と接合する面をサンドブラスト処理やヤスリ等により、表面酸化層の除去とともに表面粗面化が、より高い溶着強度を得る意味で好ましい。
【0125】
更に、(B)金属の樹脂成形体と接合する表面がトリアジンチオール誘導体、あるいはアンモニア、ヒドラジン、および水溶性アミン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物で表面処理、また、陽極酸化処理、ベーマイト処理、クロメート処理されていることが優れた溶着強度を得る上で好ましい。
【0126】
かかるトリアジンチオール誘導体による表面処理とは、多官能性トリアジンジチオール誘導体の水、有機溶剤またはこれらの混合物を溶媒にした電解液を作成し、この電解液を用いて、電気化学的な方法によって(B)金属の表面処理を行ない、(B)金属の表面に多官能性トリアジンジチオール誘導体被膜を作製する方法である。
【0127】
本発明に用いる多官能性トリアジンジチオール誘導体としては、
一般式
【0128】
【化3】

【0129】
(上式において、Rは−OR,−OOR,−SmR,−NR(R);R,RはH,水酸基,カルボニル基,エーテル基,エステル基,アミド基,アミノ基,フェニル基,シクロアルキル基,アルキル基,あるいは、アルキン,アルケンの様な不飽和基を含む置換基であり、m は1から8までの整数を意味し、MはH,もしくは、Na,Li,K,Ba,Ca,アンモニウム塩などのアルカリ)が好ましい。
【0130】
(金属の電気化学的処理方法)
この方法は、電解質物質を必要に応じて含む多官能性トリアジンジチオール誘導体の水または有機溶剤を電解液として、処理する(B)金属を陽極として、また白金,チタン,カーボン,アルミニウムやステンレス板を陰極として、サイクリック法,定電流法,定電位法,パルス定電位法,パルス定電流法等の電気化学的表面処理法によって多官能性トリアジンジチオール誘導体を分子配向した状態で1次結合させながら金属等の導電性物体表面に接着反応性の高い被膜を生成させるものである。
【0131】
電解質物質は、溶剤に溶解し、通電性を示しかつ安定であればよく、一般に、NaOH,NaCO,NaSO,KSO,NaSO,KCO,NaNO,KNO,NaNO,NaClO,CHCOONa,Na,NaBO,NaHPO,(NaPO,NaMnO,NaSiO等及びこれらの混合物を挙げることができる。これらの濃度は一般的に、0.001N〜飽和濃度、望ましくは0.01〜0.1Nの範囲である。溶剤は電解質物質と多官能性トリアジンジチオール誘導体を同時に溶解するものが望ましく、その組み合わせは限定できないので特定できないが、例えば水,メタノール,エタノール,カルビトール,セルソルブ,ジメチルホルムアミド,メチルピロリドン,アクリロニトリル,エチレンカーボネイト及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0132】
多官能性トリアジンジチオール誘導体の濃度は複合化する樹脂成形体と関係するので一義的に特定できないが、例えば0.000001〜10mol/L、望ましくは0.00001〜1mol/Lが好ましい。電解液の温度は溶剤の凝固点または沸点と関係するので一義的に特定できないが、例えば電解液として水溶液を用いる場合は1〜99℃、好ましくは20〜80℃である。
【0133】
対極(陰極)材料は電解液と反応したり、導電性の著しく低いものでなければよい。一般的には白金,チタン,カーボン,アルミニウムやステンレス板などが使用される。サイクリック法の電位幅は溶剤の分解しない範囲で行なわれる。この範囲は溶剤や電解質物質の種類等の影響を受けるので一義的に特定できない。走査速度は0.001〜100mV/sec、好ましくは0.01〜50mV/secである。0.001mV/sec以下では処理に時間がかかりすぎ、金属の変質が起こる。また、100mV/sec以上では速すぎて、多官能性トリアジンジチオール誘導体分子の整った配向被膜を得ることができない。定電位法の電位は0.01〜100V、好ましくは自然電位から酸化電位の範囲である。自然電位以下では全く被膜が成長せず、酸化電位以上では溶剤の分解が起こるため被膜が破壊される。
【0134】
定電流法の電流密度は0.00005〜50mA/cm、好ましくは0.001〜10mA/cmが適当である。0.001mA/cmより小さい値では被膜成長が遅く、金属の変質が起こる。また、10mA/cmより大きいと被膜に亀裂が成長したり、金属の溶出が起こり好ましくない。パルス法における電解電位及び電解電流密度は上記の通りであるが、時間幅は0.01〜10分間、好ましくは0.1〜2分間である。0.1分間より短いと被膜が形成されず、パルス法の効果が得られない。金属の前処理は有機物などの異物が付着している場合はこれを除去しなければならない。金属の酸化物などは表面の導電性を著しく低下させたり、溶着性を低下させる原因となるので、金属面が露出するまで前処理を行なうことが望ましい。上記の範囲はいずれも一つの目安であり、それぞれの条件因子及びその組み合わせが変化することによって変わる。
【0135】
また、(B)金属の表面がアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物による表面処理されたアルミニウム、またはアルミニウム合金を用いるのも優れた溶着強度を得る上で有用な方法である。
【0136】
かかる処理方法は、アルミニウム合金形状物の形成、前処理、本処理、後処理である。
以下、これらの各工程について詳細を説明する。
【0137】
〔アルミニウム合金形状物の形成〕
アルミニウム合金は、日本工業規格の1000〜7000番系のもの、又ダイカスト用アルミニウム合金のAC1〜9、ADC1〜12等である。アルミニウム合金は、素材から、切断、穴あけ、切削、圧縮、曲げ、絞り、研磨等の、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、鍛造、プレス加工、研削加工、研磨加工、等の加工により、必要な形状に仕上げられる。最後はサンドブラスト等によって求められる面状態に加工されることもある。必要形状に加工されたアルミニウム合金形状物は、その表面に汚れがなく、厚く酸化や水酸化された被膜がないことが必要である。
【0138】
仕上げされたアルミニウム合金形状物であっても、長期間の放置等で表面に錆の存在があると思われるものは研磨して取り除くことが必要である。又、ADC12等の鋳造用合金を使用し鋳造で形状化したものは表面層の組成が内部組成と異なっている上、表面層の組成が均一でない。従って、研磨等で表層を除去しておく必要がある。何れにせよ、最終的には表面酸化物、付着汚れ等を取り除き、後工程に支障のないようにサンドブラスト、切削等による表面研磨をしておく。
【0139】
〔前処理工程(脱脂・洗浄)〕
この工程は、サンドブラスト、切削等の表面加工後、アルミニウム合金の表面に残存している加工油、指脂、切粉を除去するために前処理として脱脂、洗浄を行う。
この脱脂洗浄工程は必要条件ではなく、機械油や指油、その他の汚れが付着していない状態であれば不要である。アルミニウム合金形状物は、形成後すぐ溶着されるわけでなく、保管、運搬等、悪環境下で長期間放置されることもある。油剤の付着量が大きい場合は脱脂工程を2段階で処理するのが好ましい。
【0140】
市販のアルミニウム合金用脱脂剤を使用した水溶液に水洗を挟んで2回脱脂する方法でもよい。市販のアルミニウム合金用脱脂剤を使う場合、これを水に溶解し指定の温度と時間、即ち多くは60〜80℃で5分前後アルミニウム合金形状物をこのアルミニウム合金用脱脂剤水溶液に浸漬する。更に、アルミニウム表面を化学的に削り取って清浄な表面を得るためには、塩基性、酸性、又はその双方の水溶液に浸漬する。塩基性液としては、0.5〜3.0%濃度の水酸化アルカリ金属水溶液、特に水酸化ナトリウム水溶液を35〜40℃に温度制御して使うことが好ましい。酸性液としては、0.5〜5.0%濃度のハロゲン水素酸、弗化水素酸誘導体、硝酸が使用でき、特に塩酸、硝酸、又は1水素2弗化アンモニウムの水溶液を35〜40℃に温度制御して使うことが好ましい。これらの使い分けは各種合金が含む少量金属の組成によるので、個々には実際に試験をして最適の条件の水溶液を選ぶ。浸漬時に超音波を使用すればより再現性が向上することがある。何れにせよ、塩基性液、酸性液に数分浸漬しておおまかにエッチングして表層被膜を化学的に除去し、以降の本処理に適するようにするのが脱脂、洗浄の目的である。水洗してアルミニウム合金形状物を次工程に廻す。
【0141】
〔本処理〕
前処理を終了したアルミニウム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン化合物の水溶液に浸漬する。これが本発明でいう本処理である。前工程で得たアルミニウム合金形状物の表面を微細エッチングし同時にこれらアミン系化合物を吸着させるのがこの工程の目的である。使用するのは広い意味のアミン化合物であり、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、アリルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アニリン、その他のアミン類が含まれる。
【0142】
これらの内、特にヒドラジンが好ましい。理由は臭気が小さいこと、低濃度で有効なこと、安価なこと、等による。浸漬は、40〜80℃、特に好ましくは50〜70℃で行い、濃度は使用する化合物によって異なるが、ヒドラジンの場合は1水和ヒドラジン(N・HO)として2〜10%濃度、特に3〜5%の水溶液が好ましく、浸漬時間は30〜90秒が好ましい。この浸漬後、水洗し、40〜90℃で熱風乾燥する。
【0143】
また、(B)金属の表面が陽極酸化法により表面処理されたアルミニウム合金を用いるのも優れた溶着強度を得る上で有用な方法である。
【0144】
かかるアルミニウム合金の陽極酸化法は80年近い歴史のある成熟した技術であり公知の方法が用いられる。
【0145】
即ち、前述のアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物による表面処理方法に記載したアルミニウム合金形状物の形成、表面研磨、脱脂、洗浄と同様の処理により表面酸化物、機械加工油、油脂を除去した後、本処理である陽極酸化処理を行う。
【0146】
この陽極酸化処理方法は燐酸または水酸化ナトリウムの電解浴にアルミニウム合金形状物を浸漬し、直流電気分解によりアルミニウム合金表面に微細なエッチングを行うとともに酸化アルミ層を形成させる。電解浴に燐酸を用いる場合は液温10〜30℃、燐酸水溶液濃度15〜40%、アルミニウム合金形状物を陽極、陰極をアルミニウム板または鉛板とし、電圧20〜100V、電流密度0.5〜2A/dmで5〜25分直流電気分解を行うことが好ましい。また、電解浴に水酸化ナトリウムを用いる場合は液温10〜30℃、0.05〜0.3モルの水酸化ナトリウム水溶液からなる浴中で、アルミニウム合金形状物を陽極、陰極をアルミニウム板または鉛板とし、電圧15〜45V、電流密度0.5〜3A/dmで5〜25分直流電気分解を行うことが好ましい。
【0147】
また、純水の沸騰水中にアルミニウム合金を1〜3時間放置することによりベーマイト化されたアルミニウム合金を用いるのも優れた溶着強度を得る上で有用な方法である。
【0148】
(金属表面のレーザ光反射率)
本発明で用いる(B)金属は、レーザ入射側表面の反射率が、80%以下であることによって、レーザ光の金属表面での反射が抑制され、金属表面の発熱量が大きくなり好ましい。
【0149】
ここでレーザ反射率は、(株)島津製作所製の紫外・可視・近赤外分光光度計(UV−3150)と検出器には(株)島津製作所製φ60積分球(ISR−3100)を用い、幅25mm、長さ65mm、厚み1.0mmに切削した試験片に、レーザ光入射角は8度、レーザ光線反射率は反射光量と入射光量の比を百分率で表し、近赤外線800〜1100nmの波長領域を50nm毎に測定した。最小値と最大値のいずれも80%以下であることが好ましい。
【0150】
(複合体の製造)
本発明では、前記(A)熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と(B)金属を重ね合わせ、(B)金属側からレーザ光を照射し、成形体の少なくとも一部を軟化および/または溶融することによって、樹脂成形体と金属を接合する。本発明の方法は、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体のレーザ透過性が不十分な場合や、成形体の形状などにより樹脂成形体側からレーザを照射することができない場合などにも有効である。
【0151】
本発明の方法において使用するレーザは800〜1200nmの波長のレーザが使用可能であり、好ましいレーザのタイプは、YAGまたはダイオードレーザである。
【0152】
このようにして得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属を接合した複合体は、その具体的用途として、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、リチウム電池の電解液注入封止口、リチウム電池の電極シール、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品。VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品。オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライター、自転車ホイールなどに代表される機械関連部品。顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品。水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品。バルブ、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークパイプ、インテークマニホールド、インタークーラタンク、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、ラジエータタンク、LLCリザーブタンク、スロットルボディー、スロットルバタフライバルブ、可変吸気バ、ルブ、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、シリンダヘッドカバー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー・ハウジング、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー、エンジンコントロールユニットケース、エンジンドライバーユニットケース、コンデンサーケース、電磁バルブ、モーター絶縁材料、ハイブリッドカーの制御系部品ケース、アクセルベダル、パーキングブレーキペダル、フロントエンドモジュール、ドアモジュール、コクピットモジュール、シートフレーム、ステリングメンバーなどの自動車・車両関連部品。その他の各種用途が例示できる。
【実施例】
【0153】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例、比較例中に示した添加剤配合は全て重量部である。なお、各評価については、次に述べる方法に従って測定した。
【0154】
(1)一般機械特性、成形性
以下の標準方法に従って測定した。なお、下記の引張試験、曲げ試験等における試験片は日精樹脂工業(株)製射出成形機NEX−1000−9Eで作製した。(シリンダ温度:320℃(PPS)、280℃(PA66)、260℃(PA6、PA66/PA6I/PA6共重合、PBT))、金型温度130℃(PPS)、80℃(PA6、PA66、PA66/PA6I/PA6共重合、PBT)、射出圧力は成形下限圧力+12.8MPa、射出時間15sec、冷却時間15secとした。
【0155】
・成形性
試験片金型を用いて上記の温度、圧力、射出時間、冷却時間で樹脂を充填、冷却した後、突き出しピンによって金型から樹脂試験片を突き出した場合に樹脂試験片が大きく変形したり、突き出し箇所が大きく座屈するものを「×」、変形のないものを「○」と記載した。
【0156】
・引張強度
ASTM D638に準拠して行った。1号ダンベル型試験片(試験片厚み:1/8インチ(3.2mm))を用い、試験速度10mm/minで23℃にて試験を行った。
【0157】
・曲げ弾性率
ASTM D790に準拠して行った。曲げ試験片(試験片厚み:1/4インチ(6.4mm))を用い、試験速度3mm/minで23℃にて試験を行った。
【0158】
・Izod衝撃強度
ASTM D256に準拠して行った。衝撃試験片(試験片厚み:1/8インチ(3.2mm)、カットノッチ)を用いて23℃にて試験を行った。
【0159】
・荷重たわみ温度
ASTM D648に準拠して行った。荷重たわみ試験片(試験片厚み:1/4インチ(6.4mm))を用い、負荷応力は1.82MPaで試験を行った。
【0160】
(2)線膨張係数
熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数評価は、図1に示すLが80mmの正方形で、厚みDが3mmの試験片4を、図2に示す位置から、樹脂流れ方向(以下MDと略す)5、および樹脂流れ方向に対して直角方向(以下TDと略す)6を図3に示す幅Wが5mm、長さLが10mm、厚みDが3mmの成形体を切削加工によって作製した試験片5、6を用いた。その射出成形は日精樹脂工業(株)製射出成形機NEX−1000−9Eを用い、シリンダ温度:320℃(PPS)、280℃(PA66)、260℃(PA6、PA66/PA6I/PA6共重合、PBT)、金型温度130℃(PPS)、80℃(PA6、PA66、PA66/PA6I/PA6共重合、PBT)、射出圧力:成形下限圧力+12.8MPa、射出時間:15sec、冷却時間:15secの条件で射出成形によって作製した。
【0161】
図1(a)は上記線膨張試験片の切削加工用平板の平面図であり、(b)は同試験片の側面図である。この線膨張試験片の切削加工用平板4はスプル1、ランナー2、ゲート3からなり、図2の位置から図3に示す形状に切削加工して作製する。図3(a)は線膨張試験片の平面図であり(b)は側面図である。
【0162】
線膨張係数はセイコー電子工業(株)製TMA−100を用いて、負荷荷重2g、−40℃〜80℃の温度領域を5℃/分の速度で昇温し、23℃〜80℃の温度範囲における(MD線膨張係数+TD線膨張係数)/2の数値で表した。
【0163】
(3)レーザ透過率
熱可塑性樹脂のレーザ透過率評価の試験片は図1に示すLが80mmの正方形で、厚みDが1mmの試験片4用いた。射出成形条件は上記の線膨張係数試験片と同一の条件で作成し、ゲート3を切断し、レーザ光線透過率評価試験片とした。
【0164】
レーザ光線透過率は、(株)島津製作所製の紫外・可視・近赤外分光光度計(UV−3150)と検出器には(株)島津製作所製φ60積分球(ISR−3100)を用いた。レーザ光入射角は0度。レーザ光線透過率は透過光量と入射光量の比を百分率で表す。
【0165】
レーザ光線透過率は、厚さ1mmの試料を用いて近赤外線800〜1100nmの波長領域を50nm毎に測定し、表中には最小値と最大値を記載した。
【0166】
(4)レーザ反射率
金属のレーザ反射率評価用試験片は、図4に示す幅Wが25mm、長さLが65mm、厚みDが1mmに切削した試験片7を用いた。図4(a)はその平面図、(b)が側面図である。
【0167】
レーザ光線反射率測定は、(株)島津製作所製の紫外・可視・近赤外分光光度計(UV−3150)と検出器には(株)島津製作所製φ60積分球(ISR−3100)を用いた。レーザ光入射角は8度。レーザ光線反射率は反射光量と入射光量の比を百分率で表す。
【0168】
レーザ光線反射率は、厚さ1mmの試料を用いて近赤外線800〜1100nmの波長領域を50nm毎に測定し、表中には最小値と最大値を記載した。
【0169】
(5)レーザ溶着性
熱可塑性樹脂試験片は、線膨張係数試験片と同一の条件で成形し、図1のレーザ光線透過率評価試験片4と同一形状のものから、図4に示す幅Wが25mm、長さLが65mm、厚みDが1mmの成形品をそれぞれ切削加工して得られるレーザ溶着用試験片7を用いた。金属試験片は切削により図4に示す幅Wが25mm、長さLが65mm、厚みDは1mmの試験片7を用いた。図4(a)は切削加工後の試験片の平面図であり、b)はその側面図である。
【0170】
レーザ溶着機は、レーザライン社製LDL−80を用いた。この溶着機は半導体レーザを使用した機器であり、レーザ光の波長は940nmの近赤外線であり、最大出力が1000Wである。
【0171】
図5はレーザ溶着方法を示す概略図である。
レーザ溶着方法は図5に示すように、溶着用の金属試験片11を上部に、下部には溶着用の熱可塑性樹脂試験片12を置き、両試験片を重ね合わせ、金属上部よりレーザ光線9を照射する。レーザ光の照射は、レーザ溶着軌道10に沿って行い、レーザ溶着条件は、出力500〜800Wの範囲および、レーザ走査速度5〜50mm/secの範囲で最も良好な溶着強度が得られる条件で行った。
【0172】
図6(a)は、上記方法でレーザ溶着したレーザ溶着強度測定用試験片の平面図であり、(b)は同試験片の側面図である。レーザ溶着強度測定用試験片13は図4に示したレーザ溶着試験片である金属試験片11と熱可塑性樹脂試験片12を、Lを30mmに重ね合わせた。溶着距離Yは20mmとして、重ね合わせた金属試験片と熱可塑性樹脂試験片の溶着部14をレーザ溶着したものである。
【0173】
溶着強度測定には一般的な引張試験機((株)島津製作所製AG−500B)を用い、当該試験片の両端をチャックで固定し、溶着部位には引張剪断応力が発生するように引張試験を行った。溶着強度は溶着部位が破断したときの応力とした。強度測定条件は引張速度が1mm/min、スパンは40mmである。
【0174】
尚、レーザ溶着用の試験片は表面処理金属と熱可塑性樹脂を用いてレーザ溶着性を評価した。
【0175】
(6)[参考例1]PPS樹脂の重合
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム861.00g(10.5モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0176】
次に、p−ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0177】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS樹脂は、溶融粘度が60Pa・s(310℃、剪断速度1000/s)であった。
【0178】
(7)[参考例2] PA樹脂
・PA66樹脂(PA−1とも言う) 相対粘度(ηr)2.75
・PA6樹脂(PA−2とも言う) 相対粘度(ηr)2.75
・PA66/PA6I/PA6共重合体(PA−3とも言う) 相対粘度(ηr)2.00
組成PA66/PA6I/PA6:77/17/6重量%
【0179】
(8)[参考例3]PBT樹脂
固有粘度(オルトクロロフェノール溶液を用いて25℃で測定)0.85
【0180】
(9)[参考例4]トリアジンジチオール誘導体処理
多官能性トリアジンジチオール誘導体のモノナトリウム塩を5×10−3mol/Lの濃度で、またNa CO を1Nの蒸留水に溶解し、電解溶液とする。これを電解セルに入れ、陰極に白金板を用い、陽極に厚み1mmの各種レーザ溶着用金属を用い、0.1mA/cm の電流密度、60℃で10分間通電し、陽極板上に多官能性トリアジンジチオール誘導体被膜を作成し、その後、メタノールで洗浄して付着不純物を取り除き乾燥した。この多官能性トリアジンジチオール誘導体によって処理し、レーザ溶着用金属試験片11とした。
【0181】
(10)[参考例5]ヒドラジンの表面処理
市販の1mm厚のA5052アルミニウム合金板を購入し、25mm×65mmの長方形片に切断してアルミニウム合金形状物とした。市販のアルミニウム合金脱脂剤「NE−6(メルテックス(株)製)」を15%濃度で水に溶かし75℃とした。この水溶液が入った脱脂槽に5分間浸漬し水洗した。続いて、40℃の1%塩酸水溶液が入った槽に1分浸漬し水洗した。続いて40℃の1%水酸化ナトリウム水溶液が入った槽に2分浸漬し水洗した。
【0182】
次いで40℃の1%塩酸水溶液が入った槽に1分浸漬し水洗した。続いて60℃の3.5%濃度の1水和ヒドラジン水溶液(N・HO)を入れた第1処理槽に1分浸漬し、40℃の0.5%濃度の1水和ヒドラジン水溶液(N・HO)を入れた第2処理槽に0.5分浸漬し水洗した。これを40℃で15分、60℃で5分間、温風乾燥し乾燥空気下に保存し、レーザ溶着用アルミニウム合金試験片11とした。
【0183】
(11)[参考例6]陽極酸化処理
市販の1mm厚のA5052アルミ合金板を購入し、25mm×65mmの長方形片に切断してアルミニウム合金形状物とした。市販のアルミニウム合金脱脂剤「NE−6(メルテックス(株)製)」を15%濃度で水に溶かし75℃とした。この水溶液が入った脱脂槽に1分間浸漬し水洗した。続いて、90℃の60%硝酸水溶液が入った槽に15秒浸漬し水洗した。続いて20℃の5%硫酸水溶液が入った槽を用意し、前記アルミニウム合金に(株)中央製作所製の直流電源装置「ASR3SD−150−500」の陽極を結線し槽に入れた。陰極は鉛板に結線し同じ槽入れた。これに電流密度5A/dmの定電流制御によって陽極酸化し、レーザ溶着アルミニウム合金試験片11とした。
【0184】
(12)[参考例7]ガラス繊維
ガラス繊維:PPS樹脂T−717(繊維状フィラー、日本電気ガラス(株)製Eガラス、単繊維径13μm、屈折率(n)1.55)、PA樹脂T−289(繊維状フィラー、日本電気ガラス(株)製Eガラス、単繊維径13μm、屈折率(n)1.55)、PBT樹脂T−187((繊維状フィラー、日本電気ガラス(株)製Eガラス、単繊維径13μm、屈折率(n)1.55)を供した。
【0185】
(13)[参考例8]カーボンブラック
カーボンブラック:#30(着色用カーボンブラック、三菱化学(株)製)を供した。
【0186】
実施例1〜13、比較例1〜4
実施例1〜13、比較例1〜4に記載した樹脂材料の製造方法は次の通りである。即ち、(株)日本製鋼所製2軸押出機TEX30α型(スクリュウL/D=45.5)を用い、参考例1のPPS樹脂、並びに添加剤、参考例8のカーボンブラックを元込め部から、また、参考例7のガラス繊維はサイドフィーダーから供給し、スクリュウ回転数は300rpmでダイスから吐出される樹脂温度が330℃となるようにシリンダ温度を設定し、溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0187】
得られた各材料は、130℃の熱風乾燥機で3時間乾燥した後、前記の評価方法を用いて成形し評価を行った。
【0188】
実施例1〜13および比較例1〜4の樹脂配合処方と特性、また、金属種類と表面処理方法とその特性、並びに溶着特性を表1、2に示す。
【0189】
実施例1〜13の本発明で得られたガラス繊維強化PPS樹脂とトリアジンチオール誘導体、ヒドラジン、陽極酸化による表面処理を行った銅、アルミニウム、アルミニウム合金を組み合わせ、加熱源としてレーザ光線を金属側から照射して、金属とPPS樹脂を重ね合わせた接触界面にあるPPS樹脂が軟化および/または溶融することで、接合部の引張り剪断強度は17〜25MPaを発現する。ガラス繊維を配合しない樹脂からなる成形体の場合も、金属側からレーザ光を照射することで、接合部の引張り剪断強度は3〜8MPaを発現する。
【0190】
一方、比較例1〜4は何れも接合部引張り剪断強度は0MPaであり、レーザ光照射側のPPS樹脂表面が燃焼して接合が出来なかった。
【0191】
【表1】

【0192】
【表2】

【0193】
実施例14〜26、比較例5〜8
実施例14〜26、比較例5〜8に記載した樹脂材料の製造方法は次の通りである。即ち、(株)日本製鋼所製2軸押出機TEX30α型(スクリュウL/D=45.5)を用い、参考例2のPA樹脂、並びに添加剤は元込め部から、参考例7のガラス繊維はサイドフィーダーから供給し、スクリュウ回転数は300rpmでダイスから吐出される樹脂温度が310℃(PA66樹脂)、280℃(PA6、PA66/6I/PA6共重合樹脂)となるようにシリンダ温度を設定して、溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターによりペレット化した。
得られた各材料は、80℃の真空乾燥機で24時間乾燥した後、前記の評価方法を用いて成形し評価を行った。
【0194】
実施例14〜26および比較例5〜8の樹脂配合処方と特性、また、金属種類と表面処理方法とその特性、並びに接合特性を表3、4に示す。
【0195】
実施例14〜26の本発明で得られたガラス繊維強化PA樹脂とトリアジンチオール誘導体、ヒドラジン、陽極酸化による表面処理を行った銅、アルミニウム、アルミニウム合金を組み合わせ、加熱源としてレーザ光線を金属側から照射して、金属とPA樹脂を重ね合わせた接触界面にあるPA樹脂が軟化および/または溶融するとこで、接合部の引張り剪断強度は15〜25MPaを発現する。ガラス繊維を配合しない樹脂からなる成形体の場合も、金属側からレーザ光を照射することで、接合部の引張り剪断強度は3〜8を発現する。
【0196】
一方、比較例5〜8は何れも接合部引張り剪断強度は0MPaであり、レーザ光照射側のPA樹脂表面が燃焼して接合が出来なかった。
【0197】
【表3】

【0198】
【表4】

【0199】
実施例27〜38、比較例9〜12
実施例27〜38、比較例9〜12に記載した樹脂材料の製造方法は次の通りである。即ち、(株)日本製鋼所製2軸押出機TEX30α型(スクリュウL/D=45.5)を用い、参考例3のPBT樹脂、並びに添加剤は元込め部から、参考例7のガラス繊維はサイドフィーダーから供給し、スクリュウ回転数は300rpmでダイスから吐出される樹脂温度が290℃となるようにシリンダ温度を設定して、溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターによりペレット化した。
得られた各材料は、130℃の熱風乾燥機で3時間乾燥した後、前記の評価方法を用いて成形し評価を行った。
【0200】
実施例27〜38および比較例9〜12の樹脂配合処方と特性、また、金属種類と表面処理方法とその特性、並びに接合特性を表5、6に示す。
【0201】
実施例27〜38の本発明で得られたガラス繊維強化PBT樹脂とトリアジンチオール誘導体、ヒドラジン、陽極酸化による表面処理を行った銅、アルミニウム、アルミニウム合金を組み合わせ、加熱源としてレーザ光線を金属側から照射して、金属とPBT樹脂を重ね合わせた接触界面にあるPBT樹脂が軟化および/または溶融することで、接合部の引張り剪断強度は13〜21MPaを発現する。ガラス繊維を配合しない樹脂からなる成形体の場合も、金属側からレーザ光を照射することで、接合部の引張り剪断強度は3〜6を発現する。
【0202】
一方、比較例9〜12は何れも接合部引張り剪断強度は0MPaであり、レーザ光照射側のPBT樹脂表面が燃焼して接合が出来なかった。
【0203】
【表5】

【0204】
【表6】

【符号の説明】
【0205】
1 スプル
2 ランナー
3 ゲート
4 線膨張係数測定試料、レーザ透過率測定試料、レーザ溶着樹脂試料の切削前試験片の形状
5 線膨張係数試験片(MD)
6 線膨張係数試験片(TD)
7 レーザ光線反射率測定試験片(金属)、レーザ光線透過率測定試験片(樹脂)、レーザ溶着試験片(樹脂試験片、金属試験片)形状
8 レーザ光線照射部
9 レーザ光線
10 レーザ光線の軌道
11 レーザ溶着金属試験片
12 レーザ溶着熱可塑性樹脂試験片
13 レーザ溶着強度測定用試験片
14 レーザ溶着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と(B)金属を重ね合わせ、前記(B)金属側からレーザ光を照射し、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の少なくとも一部を軟化および/または溶融することによって接合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【請求項2】
(A)熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の線膨張係数が、23〜80℃の温度範囲で2.0〜4.5×10−5/℃である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【請求項3】
前記(A)熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂100重量部に対して(C)無機充填剤を17.6〜100重量部配合してなる組成物である請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記(A)熱可塑性樹脂組成物が、(A1)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(A2)ポリアミド樹脂、(A3)ポリブチレンテレフタレート樹脂から選ばれる少なくとも1種を配合してなる組成物である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【請求項5】
前記(B)金属のレーザ照射側の表面に、波長800〜1100nmのレーザ光を照射したときの金属表面の反射率が80%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【請求項6】
前記(B)金属の、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と複合化される面が表面処理されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【請求項7】
前記(B)金属の表面が、トリアジンチオール誘導体で表面処理されたものであることを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【請求項8】
前記(B)金属の表面が、アンモニア、ヒドラジンおよび水溶性アミン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物により表面処理されたものであることを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。
【請求項9】
前記(B)金属の表面が、陽極酸化処理されたものであることを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体と金属の複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−76437(P2010−76437A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192675(P2009−192675)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】