説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】製造工程を複雑にすることなく難燃性を付与することができる熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂及び植物性繊維を含有し、熱可塑性樹脂と植物性繊維との合計を100質量%とした場合に、植物性繊維は25〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、原料植物性繊維C1と固体難燃剤C2とを共に押し固めて、原料植物性繊維C1及び固体難燃剤C2が含まれた繊維ペレットC3を形成する工程と、熱可塑性樹脂C4と繊維ペレットC3とを混合して混合物C5とする工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。更に詳しくは、製造工程を複雑にすることなく難燃性を付与することができる熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点からカーボンオフセットの手法が注目されている。このカーボンオフセットの手法の一つとして、天然由来の植物材料等を配合した熱可塑性樹脂組成物を、従来の合成成分からなる熱可塑性樹脂組成物に代用しようとする研究が進められている(下記特許文献3参照)。そして、このような熱可塑性樹脂組成物の実使用にあたっては、難燃性の付与を要する場合がある。
【0003】
このような難燃性付与については、下記特許文献1において、ケナフ繊維の難燃性向上のための表面処理として、各種成分を含む水溶液にケナフ繊維を浸漬して、繊維表面に難燃性のリン酸塩層を形成させる方法や、繊維表面に難燃性の金属酸化物または他の金属化合物を形成させる方法などが開示されている(特許文献1[0042])。
また、下記特許文献2において、植物繊維にホウ酸及びホウ酸化合物を含ませて難燃化処理する方法が開示されている(特許文献2[請求項1])。具体的には、ホウ酸又は無水ホウ酸の水溶液にケナフ繊維を浸漬した後、80℃に設定された熱風乾燥機で6時間乾燥させてケナフ繊維を難燃化するというものである。
その他、熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体及びその製造方法(特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−105245号公報
【特許文献2】特開2007−130868号公報
【特許文献3】特開2010−144056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2は、いずれも水溶液等に液状化した難燃剤を植物繊維等に吸収させた後、これを乾燥する工程を要する。即ち、難燃剤を浸漬処理するための浸漬設備と、その後の乾燥を行う乾燥設備と、2つの設備及びこれらの工程を要することとなり、煩雑であるという問題がある。
加えて、これらの水溶化して利用できる難燃剤は一般に分解温度が低く、難燃剤の分解温度よりも融点の高いマトリックス樹脂を混合(混練)した場合に、難燃剤の分解をまねくという問題がある。マトリックス樹脂との混合で難燃剤が分解された組成物では、難燃効果は得られるものの、難燃剤が分解されていない組成物に比べて機械的物性が低い傾向にあったり、変色により外観品質等に影響を及ぼしたりする場合がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、煩雑な工程を要することなく、固体状の難燃剤を配合できる熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂及び植物性繊維を含有し、前記熱可塑性樹脂と前記植物性繊維との合計を100質量%とした場合に、前記植物性繊維は25〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
原料植物性繊維と固体難燃剤とを共に押し固めて、前記原料植物性繊維及び前記固体難燃剤が含まれた繊維ペレットを形成する繊維ペレット形成工程と、
熱可塑性樹脂と前記繊維ペレットとを混合して混合物とする混合工程と、を備えることを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、請求項1において、前記固体難燃剤が、リン系難燃剤であることを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、請求項1又は2において、前記繊維ペレット形成工程は、
一面と他面との間に貫通された貫通孔を有するダイと、
前記ダイの前記一面側に接して回転される押込ローラーと、を備えたローラー式ペレット成形機を用いるとともに、
前記押込ローラーにより、前記原料植物性繊維及び前記固体難燃剤を、前記ダイの前記一面側から圧入しつつ、前記他面側から押し出して、前記繊維ペレットを得る工程であることを要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、請求項1乃至3のうちのいずれかにおいて、前記熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレン系樹脂を含むことを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、請求項1乃至4のうちのいずれかにおいて、前記植物性繊維が、ケナフ繊維であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法によれば、煩雑な工程を要することなく、固体状の難燃剤(固体難燃剤)を配合した熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。即ち、原料植物性繊維と固体難燃剤とを共に押し固めることで繊維ペレットを形成することできる。従って、液状化した難燃剤に原料植物性材料を浸漬し、これを乾燥するといった煩雑な工程及びこれらを行うための設備を要することなく、固体難燃剤を配合した熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0013】
繊維ペレット形成工程が、一面と他面との間に貫通された貫通孔を有するダイと、ダイの一面側に接して回転される押込ローラーと、を備えたローラー式ペレット成形機を用いるとともに、押込ローラーにより、原料植物性繊維及び固体難燃剤を、ダイの一面側から圧入しつつ、他面側から押し出して、繊維ペレットを得る工程である場合には、特に簡便に繊維ペレットを得ることができる。また、このようなローラー式ペレット成形機を用いることで、連続的に作業を行うことができ、繊維ペレットをより効率的に形成できる。
【0014】
熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレン系樹脂を含む場合は、より優れた機械的物性を有する成形体を得る熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0015】
植物性繊維が、ケナフ繊維である場合には、成長速度が極めて大きい一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するケナフを用いることにより、大気中の二酸化炭素量の削減、及び植物資源の有効利用等に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び装置を説明する模式的な説明図である。
【図2】ペレット化装置の要部を説明する模式的な説明図である。
【図3】混合装置を説明する模式的な説明図である。
【図4】混合装置に配設された混合羽根を説明する模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物
本製造方法においていう熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と植物性繊維との合計を100質量%とした場合に、植物性繊維を25〜95質量%含有する組成物である。
【0018】
(1)熱可塑性樹脂
上記「熱可塑性樹脂」は、混合工程で繊維ペレットと混合される樹脂である。この熱可塑性樹脂は特に限定されず、各種の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール及びABS樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等を用いることもできる。これらのうちでは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、特にエチレン−プロピレンブロック共重合体がより好ましい。熱可塑性樹脂は2種以上を併用してもよいが、1種のみ用いられることが多い。
【0019】
また、特に熱可塑性樹脂としてポリオレフィンを用いる場合、酸変性ポリオレフィンを併用することが好ましい。酸変性ポリオレフィンを用いることにより、熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した成形体の機械的特性をより向上させることができる。酸変性ポリオレフィンのベース樹脂としては、前述の各種のポリオレフィンを用いることができる。更に、熱可塑性樹脂組成物に含有される非変性ポリオレフィンと、酸変性に用いるベース樹脂とは同種の樹脂であることが好ましい。また、同種の樹脂である場合、各々の樹脂の平均分子量、密度等の差が小さいことがより好ましく、共重合体であるときは、各々の単量体単位の割合の差が小さいことがより好ましい。
【0020】
酸変性ポリオレフィンに酸基を導入する方法も特に限定されないが、通常、ポリオレフィンに酸基を有する化合物を反応させて導入する、所謂、グラフト重合により導入することができる。酸基を有する化合物も特に限定されず、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、酸無水物が用いられることが多く、特に無水マレイン酸及び無水イタコン酸が多用される。
【0021】
酸変性ポリオレフィンにおける酸基の導入量は特に限定されないが、酸価が5以上となる導入量であることが好ましい。酸変性ポリオレフィンの酸価が5以上となる導入量であれば、酸変性ポリオレフィンを多量に配合することなく、成形体の機械的特性を十分に向上させることができる。この酸価は、10〜80、特に15〜70、更に20〜60であることがより好ましい。
尚、酸価はJIS K0070により測定することができる。
【0022】
更に、酸変性ポリオレフィンの平均分子量も特に限定されないが、重量平均分子量が10000〜200000であることが好ましい。即ち、比較的低分子量の酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。このような酸変性ポリオレフィンを用いることにより、優れた機械的特性を有する成形体とすることができる。この重量平均分子量は、15000〜150000、特に25000〜120000、更に35000〜100000であることがより好ましい。
尚、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定することができる。
【0023】
また、酸変性ポリオレフィンを併用する場合、熱可塑性樹脂全体を100質量%としたときに、酸変性ポリオレフィンは1〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%、特に1〜20質量%、更に1.5〜10質量%であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィンの配合量が1〜30質量%であれば、射出成形等の成形時の熱可塑性樹脂組成物の流動性を飛躍的に向上させることができるとともに、成形体の機械的特性を向上させることができる。更に、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、例えば、ポリプロピレン及び/又はエチレン−プロピレン共重合体、特にエチレン−プロピレンブロック共重合体と、これらを酸変性した樹脂とを併用することがより好ましい。これによって、射出成形等の成形時の熱可塑性樹脂組成物の流動性、及び成形体の機械的特性を十分に向上させることができる。
【0024】
(2)植物性繊維
上記「原料植物性繊維」は、植物に由来する繊維であり、熱可塑性樹脂と混合されて熱可塑性樹脂組成物を構成する。この原料植物性繊維は、通常、得られる熱可塑性樹脂組成物内に含まれる植物性繊維と実質的に同じであるが、熱可塑性樹脂組成物の製造過程において、剪断力が加わる等、機械的な作用により当初の形態及び大きさが変化したり、或いは、加熱及び/加圧等により成分が変化したものであってもよい。本発明では、以下では、特に記載しない限り、原料植物性繊維と植物性繊維とをまとめて植物性繊維として説明する。
【0025】
この植物性繊維としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、針葉樹(杉、檜等)、広葉樹及び綿花などの各種の植物が有する繊維が挙げられる。この植物性繊維は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有し、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献することができるケナフが好ましく、更には、ケナフが有する繊維がより好ましい。また、植物のうちの用いる部位は特に限定されず、非木質部、木質部、葉部、茎部及び根部等の植物を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよいし、2箇所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0026】
ケナフは木質茎を有する早育性の一年草であり、アオイ科に分類される植物である。このケナフとしては、学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等、並びに通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が挙げられる。植物性繊維としてケナフが有する繊維を用いる場合、強靱な繊維を有する靭皮と称される外層部分を用いることができる。
【0027】
本方法により得られる熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と植物性繊維との合計を100質量%とした場合に、植物性繊維を25〜95質量%含有する。即ち、植物性繊維の含有割合が多量に含まれた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。この植物性繊維の含有量は特に限定されないもの、例えば、熱可塑性樹脂と植物性繊維との合計を100質量%とした場合に、植物性繊維は28〜75質量%とすることができ、更には30〜55とすることができる。
【0028】
更に、本方法で得られる熱可塑性樹脂組成物には、固体難燃剤が含まれる。固体難燃剤は、難燃剤のうち室温(温度25℃)において固体である難燃剤を意味する。
難燃剤の種類は特に限定されず、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤(金属元素を含む無機系難燃剤)等が挙げられる。これらの難燃剤は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記のうちリン系難燃剤としては、窒素含有リン酸塩化合物系難燃剤、及び、リン酸エステル系難燃剤などが挙げられる。
更に、上記窒素含有リン酸塩化合物系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、カルバミルポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン、リン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレム、ポリリン酸メロン、リン酸エステルアミド、リン酸グアニジン等が挙げられる。
一方、上記リン酸エステル系難燃剤としては、脂肪族リン酸エステル、芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ハロゲンリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステルなどが挙げられる。
【0030】
更に、上記リン酸エステル系難燃剤のうち、脂肪族リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
また、上記リン酸エステル系難燃剤のうち、芳香族リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピル化フェニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、リン酸トリアリールイソプロピル化物等が挙げられる。
【0031】
更に、上記リン酸エステル系難燃剤のうち、芳香族縮合リン酸エステルとしては、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等が挙げられる。
また、上記リン酸エステル系難燃剤のうち、ハロゲンリン酸エステルとしては、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリ(β−クロロエチル)ホスフェート、トリ(ジブロモプロピル)ホスフェート、2,3−ジブロモプロピル−2,3−クロロプロピルホスフエート等が挙げられる。
【0032】
ハロゲン系難燃剤としては、有機ハロゲン化芳香族化合物が好ましい。この有機ハロゲン化芳香族化合物としては、デカブロモジフェニルエーテル(Deca−BDE)等のハロゲン化ジフェニル化合物;テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、TBBAカーボネート・オリゴマー、TBBAエポキシ・オリゴマー、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)等のハロゲン化ビスフェノール系化合物;エーテル化テトラブロモビスフェノールA、エーテル化テトラブロモビスフェノールS等のハロゲン化ビスフェノールビス(アルキルエーテル)系化合物;ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン等のハロゲン化フタルイミド系化合物;ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、臭素化ポリスチレン、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン(HBB)等のその他の有機ハロゲン化芳香族化合物;などが挙げられる。
【0033】
窒素系難燃剤としては、グアニジン及びその誘導体、トリアジン及びその誘導体、メラミン及びその誘導体などが挙げられる。より具体的には、メラミン、メラミンオリゴマー、ジシアンジアミド、アセトグアニジン、窒化グアニジン、シアヌル酸、シアヌル酸メラミンなどが挙げられる。
【0034】
無機系難燃剤としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤;水酸化マグネシュウム等の金属水酸化物系難燃剤;などが挙げられる。その他、ホウ素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、硫黄系難燃剤、赤リン系難燃剤などのその他の難燃剤が挙げられる。
【0035】
これらのなかでは、リン系難燃剤が好ましい。リン系難燃剤は、その他の難燃剤に比べて、植物性繊維に対する難燃性付与効果に優れるとともに、原料植物性繊維をペレット化したときの形状安定性を向上させるという点において、本方法で用いることが好適である。
これらのリン系難燃剤のなかでも、分解温度が200℃以上であるリン系難燃剤が好ましい。このような分解温度が200℃以上であるリン系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム及び芳香族縮合リン酸エステル等が挙げられる。これらは分解温度が高いために、室温(25℃)における粉末形態での取り扱いが容易であり、原料植物性繊維と固体難燃剤とを共に押し固めてペレット化し易いからである。
【0036】
これらのなかでも、分解温度が250℃以上であるポリリン酸アンモニウム、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等が好ましい。分解温度が250℃以上であるリン系固体難燃剤は、繊維ペレット形成工程において好適に押し固めることができるとともに、後述する混合工程において難燃剤が分解されることが抑制され、本発明の方法を用いることによる効果をとりわけよく享受できるからである。
尚、上記分解温度の測定方法は、通常行われている熱分析−示差熱熱量同時測定方法に基づくものである。
【0037】
得られる熱可塑性樹脂組成物中における固体難燃剤の配合割合は特に限定されないが、本方法によれば、前述したような、液状の難燃剤を浸漬含有させる方法とは異なり、多量の難燃剤を配合できる。加えて、固形状の難燃剤を用いるために、配合量のコントロールが容易である。即ち、繊維ペレット形成工程において原料植物性繊維に対して配合する固体難燃剤(通常、粉末として配合)の割合を変化させることで制御できる。更に、所定量の固体難燃剤が含まれた繊維ペレットの、熱可塑性樹脂に対する配合割合を変化させることで、得られる熱可塑性樹脂組成物に含まれる固体難燃剤の量を調節することができる。
【0038】
上記固体難燃剤の配合割合は、用いる固体難燃剤の種類等により適宜の割合とすることが好ましいが、通常、原料植物性繊維全体を100質量部とした場合に、15〜35質量部である。この配合割合は、更に15〜30質量部とすることができ、特に20〜25質量部とすることができる。
【0039】
熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂、原料植物性繊維及び固体難燃剤を除く他の成分を含有させることができる。この他の成分は特に限定されないが、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、抗菌剤、着色剤等の各種の添加剤が挙げられる。これらの添加剤は各々1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの他の成分を配合する工程は特に限定されないが、通常、後述する繊維ペレット形成工程又は混合工程において配合し、含有させることができる。
【0040】
[2]熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂及び植物性繊維を含有し、熱可塑性樹脂と植物性繊維との合計を100質量%とした場合に、植物性繊維は25〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物は、
原料植物性繊維と固体難燃剤とを共に押し固めて、原料植物性繊維及び固体難燃剤が含まれた繊維ペレットを形成する繊維ペレット形成工程と、
熱可塑性樹脂と繊維ペレットとを混合して混合物とする混合工程と、を備えることにより製造することができる。
【0041】
〈1〉繊維ペレット形成工程
上記「繊維ペレット形成工程」は、原料植物性繊維と固体難燃剤とを共に押し固めて、原料植物性繊維及び固体難燃剤が含まれた繊維ペレットを形成する工程である。この工程において、原料植物性繊維と固体難燃剤とをペレット化することにより、前述した液状の難燃剤等に原料植物性繊維を浸漬した後、乾燥させなどの煩雑なウェットプロセスを要することなく、しかも、固形状である固体難燃剤を熱可塑性樹脂組成物内に配合することができる。固体難燃剤を配合できることにより、難燃剤の分解が抑制されて、得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的特性の低下を顕著に抑制できる。加えて、難燃剤の分解が抑制されて、得られる製品外観を損ねることも抑制され、製品外観を得るための着色剤等の添加を要しない。
【0042】
この繊維ペレット形成工程では、原料植物性繊維と固体難燃剤とを押し固めてペレット化するものであり、通常、ペレット化の際に水分の添加を要さず、更には、外部からの加熱も要することなく、ペレット化を行うことができる。このペレット化をより効率よく行うために、用いる原料植物性繊維は、適した形態及び大きさに切断又は破砕等されていることが好ましい。
【0043】
繊維ペレット化工程で利用する原料植物性繊維の繊維長及び繊維径は特に限定されないが、繊維長(L)と繊維径(t)との比(L/t)が5〜600であることが好ましく、5〜80であることがより好ましく、5〜30が特に好ましい。
また、原料植物性繊維の繊維長は、通常、0.5〜6mmであり、0.5〜4mmが好ましく、0.5〜2mmがより好ましい。また、繊維径は、通常、10〜150μmであり、50〜100μmが好ましい。上記範囲では、容易に固体難燃剤とともにペレット化することができるとともに、得られる繊維ペレットの取り扱い中においてもペレットの崩壊を十分に抑制でき、作業性の向上に寄与する。この効果は、上記好ましい範囲においてより顕著である。
【0044】
上記原料植物性繊維に関する繊維長は、JIS L1015における直接法に準拠し、無作為に取り出した1本の原料植物性繊維を伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で測定した繊維長である。一方、その繊維径は、繊維長を測定した原料植物性繊維について、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて測定した値である。
【0045】
更に、原料植物性繊維の平均繊維長及び平均繊維径も特に限定されないが、平均繊維長は6mm以下(通常、0.5mm以上)であることが好ましく、0.5〜4mmがより好ましく、0.5〜2mmが特に好ましい。また、平均繊維径は、通常、100μm以下(通常、15μm以上)であり、50〜100μmが好ましい。上記範囲では、容易に固体難燃剤とともにペレット化することができるとともに、得られる繊維ペレットの取り扱い中においてもペレットの崩壊を十分に抑制でき、作業性の向上に寄与する。この効果は、上記好ましい範囲においてより顕著である。
【0046】
上記原料植物性繊維の平均繊維長は、JIS L1015における直接法に準拠し、無作為に取り出した1本の原料植物性繊維を伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で測定した200本の原料植物性繊維の繊維長の平均値である。一方、その平均繊維径は、繊維長を測定した200本の原料植物性繊維について、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて測定した値の平均値である。
【0047】
また、繊維ペレット形成工程において、繊維ペレットを形成する際の、原料植物性繊維と固体難燃剤との配合割合は、得られる熱可塑性樹脂組成物において、原料植物性繊維が上記の通り25〜95質量%となればよいため、特に限定されないが、前述のように、植物性繊維全体を100質量部とした場合に、通常、15〜35質量部である。この配合割合は、前述のように、15〜30質量部とすることができ、更には20〜25質量部とすることができる。
【0048】
一方、固体難燃剤については、前述の通りのものを用いることが好ましい。また、この工程で用いる固体難燃剤の形状については特に限定されないが、通常、粉末(通常の粉末、及び、顆粒状の粉末などを含む)である。また、固体難燃剤を粉末として用いる場合には、得られる繊維ペレットの崩壊を抑制する観点から、メジアン径(D50)は10〜1500μmであることが好ましい。このメジアン径は、更に、10〜1250μmであることがより好ましく、20〜1000μmであることが特に好ましい。
尚、固体難燃剤のメジアン径については、粒度分布測定装置(例えば、シスメックス株式会社製、形式「マスターカイザー2000」)によって測定された粒度分布におけるD50(メジアン径)として測定できる。
【0049】
また、繊維ペレット形成工程では、原料植物性繊維及び固体難燃剤以外にも他の成分をこれらとともに、押し固めて繊維ペレット内に配合することができる。他の成分としては、例えば、その他の液状の難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、抗菌剤等の各種粉末もしくは液体添加剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0050】
この繊維ペレット形成工程は、原料植物性繊維と固体難燃剤とを押し固めてペレット化するものであればよく、どのような装置及び手段を用いてもよいが、各種圧縮成形法によるペレット化であることが特に好ましい。この圧縮成形法としては、例えば、ローラー式成形法及びエクストルーダ式成形法等が挙げられる。これらのうち、ローラー式成形法は、ローラー式ペレット成形機を用いる方法である。
【0051】
上記ローラー式ペレット成形機は、一面91aと他面91bとの間に貫通された貫通孔911を有するダイ91と、このダイ91の一面側91aに接して回転される押込ローラー92と、を備えたローラー式ペレット成形機90を用いるとともに、押込ローラー92により、繊維ペレット原料(原料植物性繊維と固体難燃剤)を、ダイ91の一面91a側から圧入しつつ、他面91b側から押し出して、繊維ペレットとしてペレット化できる。
【0052】
このローラー式成形機としては、ディスクダイ式(ローラーディスクダイ式成形機)とリングダイ式(ローラーリングダイ式成形機)が挙げられ、これらはダイの形状が異なる。一方、エクストルーダ式成形法は、エクストルーダ式成形機を用いる方法であり、スクリューオーガの回転により粉砕物がダイ内に圧入され、その後、ダイから押し出されてペレット化される。これらの圧縮成形法のうちでは、圧縮効率が高いローラーディスクダイ式成形機(図2参照)を用いた方法がより好ましい。
【0053】
上記のローラーディスクダイ式成形機90{要部を記載した図2(斜視図)参照}は、更には、複数の貫通孔911が穿設されたディスクダイ91と、ディスクダイ91上で転動し、貫通孔911内に繊維ペレット原料(原料植物性繊維と固体難燃剤)を押し込む押込ローラー92と、押込ローラー92を駆動する主回転軸93とを備えるローラーディスクダイ式成形機を用いることが特に好ましい。この成形機では、ディスクダイ91は、貫通孔911と同方向に貫通する主回転軸挿通孔912を有し、主回転軸93は、主回転軸挿通孔912に挿通され、且つ主回転軸93に垂直に設けられた押込ローラー固定軸94を有する。また、押込ローラー92は、押込ローラー固定軸94に回転可能に軸支され、主回転軸93の回転に伴ってディスクダイ91上を転動する。
このローラーディスクダイ式成形機90では、上記の構成に加え、押込ローラー92の表面に凹凸921が設けられていることがより好ましい。また、主回転軸93の回転に伴って回転される切断用ブレード95を備えていることがより好ましい。
【0054】
ローラーディスクダイ式成形機90では、例えば、図2において、主回転軸93の上方から投入された繊維ペレット原料(原料植物性繊維と固体難燃剤)を押込ローラー92が備える凹凸921が捉えて、一面91a側から貫通孔911内に押し込み、ディスクダイ91の他面91b側から紐状になって押し出される。この紐状となった繊維ペレット原料は、回転する切断用ブレード95により適宜の長さに切断されてペレット化され、下方に落下して回収される。また、得られる繊維ペレットの形状及び寸法は特に限定されないが、円柱状等の柱状形状であることが好ましい。更に、その最大寸法は1mm以上(通常、20mm以下)であることが好ましく、1〜10mm、特に2〜7mmであることがより好ましい。
【0055】
上記「混合工程」は、熱可塑性樹脂と、繊維ペレットとを混合して混合物とする工程である。この混合工程では、どのような混合方法を用いてもよいが、特に後述する図3及び図4に例示された混合装置を用いて混合することが好ましい。この混合装置を用いた場合、より高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物をより容易に得ることができる。尚、この混合装置には、押出タイプの混練機、押出タイプの混合機は含まれない。
【0056】
混合装置[以下、図3(図3は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレットの図1を引用)及び図4(図4は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレットの図2を引用)参照]としては、国際公開04/076044号パンフレットに記載の混合装置1が好ましい。即ち、混合装置1は、材料供給室13と、材料供給室13に連設された混合室3と、材料供給室13と混合室3とを貫通して回転自在に設けられた回転軸5と、材料供給室13内の回転軸5に配設され、且つ材料供給室13に供給された材料を混合室3へ搬送するためのスクリュー羽根12と、混合室3内の回転軸5に配設され、且つ混合材料を混合する混合羽根10a〜10fと、を備えることが好ましい。
【0057】
この混合装置1を使用し、材料を材料供給室13に投入し、スクリュー羽根12により混合室3へ搬送し、混合羽根10a〜10fを回転させることで、材料が、混合室3の内壁へ向かって押し付けられ、内壁を打撃し、且つ混合羽根10a〜10fの回転方向に押し進められ、材料同士の衝突により発生する熱により短時間で熱可塑性樹脂が軟化し、溶融して、材料同士が混練され、混合される。このようにして製造される混合物(熱可塑性樹脂組成物)には、例えば、射出成形が可能な優れた流動性が付与される。
【0058】
尚、通常、材料供給室13に供給される材料である熱可塑性樹脂(通常、熱可塑性樹脂ペレット)及び繊維ペレットは、予め混合装置1の外で混合してから投入するか、又は、混合装置1にこれらの材料を混合する手段を備えることにより材料供給室13に供給できる。
更に、熱可塑性樹脂と、繊維ペレットと、原料植物性繊維と、を必要に応じて材料供給室13に材料として供給してもよい。即ち、熱可塑性樹脂と繊維ペレットだけでなく、原料植物性繊維のみを押し固めた原料植物性繊維のペレットを用いて、熱可塑性樹脂と、植物性繊維と、固体難燃剤と、の配合割合を調整することができる。
【0059】
また、混合工程は、繊維ペレット形成工程で配合した固体難燃剤とは異なる固体難燃剤を配合することができる。特に、繊維ペレット形成工程において、リン系難燃剤を配合した場合には、前述の各種固体難燃剤のうちのリン系難燃剤を除いた固体難燃剤を配合でき、なかでも、ハロゲン系難燃剤を配合できる。即ち、この混合工程は、熱可塑性樹脂と繊維ペレットと前記繊維ペレットに含まれた固体難燃剤を除く他の固体難燃剤と、を混合して混合物とする混合工程とすることができる。更に、この混合工程で用いる固体難燃剤は、ハロゲン系難燃剤であることが好ましく、特に有機ハロゲン系難燃剤であることがより好ましく、とりわけ臭素系難燃剤であることが好ましい。
【0060】
上記臭素系難燃剤としては、デカブロモジフェニルエーテル(Deca−BDE)等の臭素化ジフェニル化合物;テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、TBBAカーボネート・オリゴマー、TBBAエポキシ・オリゴマー、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)等の臭素化ビスフェノール系化合物;エーテル化テトラブロモビスフェノールA、エーテル化テトラブロモビスフェノールS等の臭素化ビスフェノールビス(アルキルエーテル)系化合物;ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン等の臭素化フタルイミド系化合物;ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、臭素化ポリスチレン、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン(HBB)等の臭素化芳香族化合物;などが挙げられる。
【0061】
また、上記混合羽根10a〜10fは、回転軸5の周方向に一定の角度で間隔をおいた位置において軸方向に対向するとともに、回転方向において互いの対向間隔が狭くなるような取付角で回転軸5に配設され、少なくとも2枚の混合羽根(10a〜10f)によって構成される。混合羽根10a〜10fの回転軸5に対する取付角は、回転軸5に取り付けられる混合羽根10a〜10fの根元部から径方向外方の先端部まで同一であることが好ましい。また、混合羽根10a〜10fの平面形状は矩形であることが好ましい。更に、混合室3は、その構成壁に冷却媒体を循環させることができる混合室冷却手段を備えることがより好ましい。このような構成とすることにより、混合室内が過度に昇温することを抑えることができ、熱可塑性樹脂の熱劣化を防止、又は少なくとも抑えることができる。
【0062】
混合工程における各種条件は特に限定されないが、例えば、混合時の温度は、混合室の外壁面の温度を200℃以下、特に150℃以下、更に120℃以下に制御することが好ましく、且つ50℃以上、特に60℃以上、更に80℃以上に制御することがより好ましい。また、この温度に到達させる時間は、10分以内、特に5分以内であることが好ましい。短時間で所定温度に到達させることで、急激に水分を蒸散させるとともに、混合することができ、熱可塑性樹脂の劣化をより効果的に抑えることができる。更に、前述の温度範囲を維持する時間も、15分以内、特に10分以内とすることが好ましい。また、この温度は、混合装置の混合羽根の回転速度により制御することが好ましい。より具体的には、混合羽根の先端の周速度を5〜50m/秒となるように制御することが好ましい。この範囲の周速度に制御することにより、効率よく熱可塑性樹脂を軟化させ、溶融させつつ、植物性材料とより均一に混合することができる。
【0063】
更に、この混合の終点は特に限定されないが、回転軸に負荷されるトルクの変化により決定することができる。即ち、回転軸に負荷されるトルクを測定し、そのトルクが最大値となった後に混合を停止することが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と植物性繊維とを相互に十分に分散させることができる。また、トルクが最大値となった後、低下し始めてから混合を停止させることがより好ましい。更に、最大トルクに対して40%以上、特に50〜80%のトルク範囲となった時点で混合を停止することが特に好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と植物性繊維とを相互により十分に分散させることができるとともに、混合室内から混合物(熱可塑性樹脂組成物)を160℃以上の温度で取り出すことができ、混合室内に熱可塑性樹脂組成物が付着して残存されることをより確実に防止することができる。
【0064】
(3)他の工程
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、繊維ペレット形成工程及び混合工程以外に、他の工程を備えることができる。他の工程としては、混合工程において得られた熱可塑性樹脂組成物を圧延する圧延工程、混合工程において得られた熱可塑性樹脂組成物、又は、圧延工程で得られた圧延物等を粉砕して粉砕物とする粉砕工程、更には得られた粉砕物をペレット化するペレット化工程(粉砕物ペレット化工程)等が挙げられる。
【0065】
上記圧延工程は、混合工程において得られた混合物(熱可塑性樹脂組成物)を、圧延装置を用いて圧延する工程である。混合工程において得られた混合物を圧延することにより放熱性を向上させて熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑制することができる。圧延により得られる圧延物の厚さは特に限定されないが、例えば、1〜10mm、特に2〜8mmとすることができる。
【0066】
上記粉砕工程は、混合工程で得られた混合物(熱可塑性樹脂組成物)、又は、上記圧延工程を行う場合には得られた圧延物、を粉砕する工程である。粉砕工程において熱可塑性樹脂組成物(混合物又は圧延物)を粉砕することで、熱可塑性樹脂組成物をペレット等に成形し易い形態にすることができる。この際に用いる粉砕装置は特に限定されないが、例えば、株式会社ホーライ製のZシリーズの粉砕機等を用いることができる。また、粉砕物の粒子の形状及び粒径も特に限定されないが、例えば、粒径(最大寸法)は1〜10mm、特に3〜8mmとすることができる。
【0067】
上記粉砕物ペレット化工程は、粉砕工程により得られた粉砕物をペレット化する工程である。粉砕物をペレット化することにより射出形成等の成形がより容易になる。ペレット化の方法は特に限定されないが、前述の繊維ペレット形成工程におけると同様に、加熱を行うことなくペレット化できる方法を採用することが好ましい。即ち、粉砕物を押し固めてペレット化できる方法が好ましい。従って、上記繊維ペレット形成工程と同様に、各種圧縮成形法によるペレット化が好ましく、圧縮成形法のなかでもローラー式ペレット成形機を用いることがより好ましい。ローラー式ペレット成形機については、前述の通りであり、繊維ペレット原料を用いるのに換えて粉砕物を用い、繊維ペレットを得るのに換えて熱可塑性樹脂組成物ペレットを得ることができる。
【0068】
[3]成形体の製造方法
本発明の方法により製造された熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形等の各種の成形方法により、成形体とすることができる。この熱可塑性樹脂組成物は、固体難燃剤を含有して、優れた難燃性を発揮できる。また、加えて、多量の植物性材料を含有しているにもかかわらず、優れた流動性を有することができ、高い流動性を要する射出成形に用いることができる。この射出成形時、熱可塑性樹脂組成物がペレット化されておれば、計量時間及び射出時間等を短縮することができ、その結果、成形サイクルが短縮されて成形効率を向上させることができる。また、射出成形等の各種の成形に用いる装置及び成形条件等は特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類、及び成形体の形状、用途等により適宜選択し、設定すればよい。
【0069】
成形体の形状及び寸法等は特に限定されず、その用途も特に限定されない。この成形体としては、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。これらのうち、自動車用途としては、内装材、インストルメントパネル、外装材等が挙げられ、具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、ダッシュボード、インストルメントパネル、デッキトリム、バンパ、スポイラ及びカウリング等が挙げられる。更に、前述の自動車等を除く他の用途としては、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。例えば、建築物のドア表装材、ドア構造材、机、椅子、棚、箪笥等の各種家具の表装材、構造材等が挙げられる。更に他の例として、包装体、トレイ等の収容体、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の製造
実施例1
〈1〉繊維ペレット形成工程
(1)実施例1に用いる繊維ペレットの形成(図1参照)
ケナフ繊維(原糸)を裁断機(有限会社 吉工製、型式「RC250」)により裁断するとともに、2mmメッシュの篩を通して原料植物性繊維C1を得た。得られた原料植物性繊維C1は、繊維長が2mm以下であり、平均繊維長が1.5mmであり、平均繊維径が53.8μmである。
一方、固体難燃剤C2としてポリリン酸アンモニウム(丸菱油化工業株式会社製、品名「ノンネン R104−4」、メジアン径;30μm、融点;なし、減量開始温度;230℃、分解温度;300℃)を用意した。この固体難燃剤C2は、室温(25℃)において粉末状(固体)である。
【0071】
上記の原料植物性繊維C1と固体難燃剤C2との合計が120質量部となるように、原料植物性繊維C1を100質量部と、固体難燃剤C2を20質量部と、を袋に入れて軽く混合した。その後、混合された混合物を、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90(菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径6.2mm、厚さ28mmのダイを使用)に投入し、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90において、直径約6mm、且つ長さ約10mmの円柱状の繊維ペレットC3に成形した。
【0072】
(2)参考例1に用いる繊維ペレットの形成
上記(1)において固体難燃剤を配合しない以外は同様にして、原料植物性繊維のみからなる繊維ペレットを形成した。
【0073】
(3)参考例2に用いる繊維ペレットの形成
ケナフ繊維(原糸)を、液状難燃剤(丸菱油化工業株式会社製、品名「ノンネン W2−50」)に60分間浸漬させた後、液状難燃剤から浸漬したケナフ繊維を取出し60℃で1.5時間乾燥させて、難燃処理を行ったケナフ繊維を得た(原料植物性繊維と難燃剤との合計を100質量部とした場合に、24質量部の難燃剤がケナフ繊維に付着された状態といえる)。
尚、上記液状難燃剤は、カルバミルポリリン酸アンモニウムを有効成分とし、固形分濃度(液媒は水)が50質量%、融点は約85℃であり、減量開始温度は約100℃であり、分解温度は約140℃である。
【0074】
その後、得られた難燃処理されたケナフ繊維を裁断機(有限会社 吉工製、型式「RC250」)により裁断するとともに、2mmメッシュの篩を通して原料植物性繊維を得た。得られた原料植物性繊維は、繊維長が2mm以下であり、平均繊維長が1.5mmであり、平均繊維径が53.8μmである。
この原料植物性繊維を、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90(菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径6.2mm、厚さ28mmのダイを使用)に投入し、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90において、直径約6mm、且つ長さ約10mmの円柱状の繊維ペレットに成形した。
【0075】
〈2〉混合工程(図1及び図3参照)
上記〈1〉繊維ペレット形成工程で得られた(1)−(3)の各繊維ペレット(繊維ペレットC3)を各々300gと、ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、商品名「ノバティックNBC03HR」)を285gと、酸変性ポリプロピレン(三菱化学株式会社製、商品名「モディックP908」)を15gと、臭素系難燃剤{丸菱油化工業株式会社製、品名「DP50」、1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)エタンを有効成分とする}を45gと、難燃助剤(丸菱油化工業株式会社製、三酸化アンチモン)を15gと、を図1及び図3の混合装置1(WO2004−076044号に記載された装置)の材料供給室13に投入し、その後、容量5リットルの混合室3に移送し、混合羽根(図4の10a〜10f)を、32kwモーターに対して指令周波数30Hzにて駆動させて混合した。
その後、混合羽根にかかる負荷(トルク)が上昇してトルクピークに達した時点から6秒経過後に混合を停止するとともに、混合物を混合装置1から排出した。
【0076】
得られた塊状物C5は、混合装置1から排出された後、圧延装置30において圧延されて厚さ約6mmの圧延物C6にされる。その後、1分間に1.5mの速度で移動される長さ2.5mのベルトコンベア40で放冷される。
次いで、圧延物C6を、粉砕装置50(TRIA社製、型式「42−20JM」)に投入し、目開き5mmの篩に通過されたて粉砕物とされる。その後、粉砕物は、搬送用ダクトホース60内を搬送されて、ジェットローダー(松井製作所製、型式「JL4−VC」)によりサイクロン70内に吸引され、エア分離されて、ロータリーバルブ80にて、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90’(菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径3.2mm、厚さ30mmのダイを使用)に投入される。
【0077】
この粉砕物は、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90’内で、上記ローラーディスクダイ式ペレット化装置90におけると同様に、直径約3mm、且つ長さ約5mmの円柱状のペレットに成形される。その後、ペレットをオーブンにて100℃で24時間乾燥させて、本発明の熱可塑性樹脂組成物をペレットとして得た。
【0078】
〈3〉熱可塑性樹脂組成物の成形
上記〈2〉までに得られた、上記〈1〉(1)の繊維ペレットを含む熱可塑性樹脂組成物(ペレット)、上記〈1〉(2)の繊維ペレットを含む熱可塑性樹脂組成物(ペレット)、上記〈1〉(3)の繊維ペレットを含む熱可塑性樹脂組成物(ペレット)、の3種類を、各々射出成形機(住友重機械工業社製、形式「SE100DU」)により、シリンダー温度190℃、型温度40℃の条件で射出成形し、長さ110mm、幅10mm、厚さ4mmの3種類の試験片(実施例1、参考例1、及び参考例2)を作製した。
【0079】
〈4〉試験片の評価
(1)曲げ弾性率の測定
上記〈3〉までに得られた3種類の試験片について、ISO178に準拠して曲げ試験を実施して、曲げ弾性率を算出し、表1に示した。尚、この曲げ試験においては、各試験片を支点間距離(L)64mmとした2つの支点(曲率半径3mm)で支持しつつ、支点間中心に配置した作用点(曲率半径3mm)から速度2mm/分にて荷重の負荷を行い測定した。
【0080】
(2)シャルピー衝撃強度の測定
また、上記〈3〉までに得られた3種類の試験片について、ISO 179に準拠(ノッチ無し)してシャルピー衝撃強度を測定し、表1に併記した。尚、このシャルピー衝撃強度においては、衝撃エネルギーが4Jのハンマヘッドを用いて、ハンマの空振り時の角度と測定時の角度から吸収エネルギーを算出した。
【0081】
(3)自己消化率の測定
更に、上記〈3〉までに得られた3種類の試験片について、UL94に準拠して自己消化率を測定し、表1に併記した。尚、この自己消化率の測定においては、垂直に保持した5個の試験片の下端に10秒間火炎を接炎させた後、30秒以内に自己消化(火元がなくなり自ら鎮火)する試験片数を観察し、この自己消化する試験片数の全数5個に対する割合として算出した。
【0082】
(4)変色の程度の評価
また、上記〈3〉までに得られた3種類の試験片について、以下の基準に基づいて変色の程度を評価し、表1に併記した。
「○」;粉体添加による淡色化以外の色の変化が認められない。
「×」;炭化が原因と考えられる変色が認められる。
【0083】
【表1】

尚、表1において、固体難燃剤とは、固形状の難燃剤であり繊維ペレット形成工程において用いた難燃剤である。また、液状難燃剤とは、ケナフ繊維を液状難燃剤に含浸させることによって配合した難燃剤である。更に、臭素系難燃剤とは、混合工程で配合した難燃剤である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の熱可塑性組成物の製造方法は、自動車関連分野及び建築関連分野等の広範な用途おいて利用することができ、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等の技術分野でより有用であり、特に、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等の自動車関連の製品分野で好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1;混合装置、3;混合室、5;回転軸、10及び10a〜10f;混合羽根、12;らせん状羽根、13;材料供給室、
30;圧延装置、
40;搬送用コンベア、
50;粉砕装置、
60;搬送用ダクトホース、
70;サイクロン、
80;ロータリーバルブ、
90、90’;ローラーディスクダイ式成形機、91;ディスクダイ、91a;一面、91b;他面、911;貫通孔、912;主回転軸挿通孔、92;押込ローラー、921;凹凸部、93;主回転軸、94;押込ローラー固定軸、95;切断用ブレード、
C1;原料植物性繊維、C2;固体難燃剤、C3;繊維ペレット、C4;熱可塑性樹脂、C5;混合物(塊状物)、C6;圧縮物、C7;熱可塑性樹脂組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及び植物性繊維を含有し、前記熱可塑性樹脂と前記植物性繊維との合計を100質量%とした場合に、前記植物性繊維は25〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
原料植物性繊維と固体難燃剤とを共に押し固めて、前記原料植物性繊維及び前記固体難燃剤が含まれた繊維ペレットを形成する繊維ペレット形成工程と、
熱可塑性樹脂と前記繊維ペレットとを混合して混合物とする混合工程と、を備えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記固体難燃剤は、リン系難燃剤である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記繊維ペレット形成工程は、
一面と他面との間に貫通された貫通孔を有するダイと、
前記ダイの前記一面側に接して回転される押込ローラーと、を備えたローラー式ペレット成形機を用いるとともに、
前記押込ローラーにより、前記原料植物性繊維及び前記固体難燃剤を、前記ダイの前記一面側から圧入しつつ、前記他面側から押し出して、前記繊維ペレットを得る工程である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、酸変性ポリプロピレン系樹脂を含む請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記植物性繊維は、ケナフ繊維である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−162681(P2012−162681A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25428(P2011−25428)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】