説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 生分解性樹脂とゴム強化スチレン系樹脂からなる樹脂組成物の耐衝撃性と耐熱性を犠牲にすることなく難燃性を改良すること。
【解決手段】 生分解性樹脂(A)1〜99重量%およびゴム強化スチレン系樹脂(B)99〜1重量%からなる組成物100重量部に対し、重量平均分子量が327以上である燐酸エステル系難燃剤(C)1〜50重量部およびカルボジイミド化合物(D)0.005〜5重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物に関するものである。詳しくは、耐衝撃性と耐熱性および難燃性に優れた生分解性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球的規模での環境問題として、石油化学製品の使用増加による石油資源の将来性が危ぶまれている。例えば、ポリ乳酸樹脂は植物であるとうもろこしや芋類を原料として得られる乳酸からなる樹脂であり、生分解性を有する一方で上記石油を原料としない環境対応型の樹脂として知られる。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、その生分解性から、特に高湿度環境下において長期使用に耐え得る耐久性が懸念され、またノッチ付き衝撃強度および、耐熱性に劣るといった欠点がある。
一方、ABS樹脂は、優れた物性バランスおよび成形加工性を有しており、広範な分野に利用されている。
特開2006−45485号公報(特許文献1)、特開2006−45486号公報(特許文献2)では、ポリ乳酸と特定のABS樹脂からなる耐衝撃性、耐湿熱性等に優れた樹脂組成物が提案されているが、特にOA機器等において要求される難燃性が不十分であり、耐衝撃性、耐熱性を犠牲にすることなく難燃性に優れた材料が望まれるところである。なお、特開2005−89546号公報(特許文献3)には、ポリ乳酸樹脂と難燃剤からなる樹脂組成物が記載されているが、耐衝撃性や耐熱性が不十分である。
【特許文献1】特開2006−45485号公報
【特許文献2】特開2006−45486号公報
【特許文献3】特開2005−89546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、生分解性樹脂を含む樹脂組成物における上記の品質上の問題点の改良について鋭意検討した結果、生分解性樹脂とゴム強化スチレン系樹脂とからなる組成物に特定の難燃剤およびカルボジイミド化合物を配合することにより、耐衝撃性と耐熱性を犠牲にすることなく、難燃性に優れた樹脂組成物が提供できることを見い出し、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、生分解性樹脂(A)1〜99重量%およびゴム強化スチレン系樹脂(B)99〜1重量%からなる組成物100重量部に対し、重量平均分子量が327以上である燐酸エステル系難燃剤(C)1〜50重量部およびカルボジイミド化合物(D)0.005〜5重量部を配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性と耐熱性を犠牲にすることなく難燃性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物につき詳細に説明する。
本発明における生分解性樹脂(A)としては、ポリエステル系の樹脂であり、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネート、およびポリブチレンサクシネート・カーボネート等のポリアルキレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネートが好ましく、中でもポリ乳酸が最も好ましい。市販されているこれら生分解性樹脂としては、例えば三井化学(株)製 商品名:レイシア、ユニチカ(株)製 商品名:テラマック、昭和高分子(株)製 商品名:ビオノーレ、BASF社製 商品名:エコフレックス、デュポン社製 商品名バイオマックス、(株)日本触媒製 商品名:ルナーレ、三菱瓦斯化学(株)製 商品名:ユーペック等が挙げられる。
【0007】
本発明におけるゴム強化スチレン系樹脂(B)とは、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体の中から選ばれた1種以上の単量体を重合してなるグラフト重合体または該グラフト重合体と芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体の中から選ばれた1種以上の単量体を重合してなる(共)重合体からなる樹脂である。
【0008】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)におけるグラフト重合体を構成するゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、イソプレン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−イソプレン−スチレン共重合体、ポリクロロプレンなどのジエン系ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1−非共役ジエン共重合体、またポリブチルアクリレートなどのアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサン系ゴム、さらにはこれら2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち、特にジエン系ゴムが好ましい。
【0009】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)におけるグラフト重合体または(共)重合体を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等が挙げられ、一種または二種以上用いることができる。シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、一種または二種以上用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられ、一種または二種以上用いることができる。
また、本発明においては、上記芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共に必要に応じて他の共重合可能な単量体、例えばN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸等を使用することも可能である。
【0010】
上記ゴム強化スチレン系樹脂(B)中におけるゴム状重合体の含有量には特に制限はないが、5〜40重量%であることが好ましい。
【0011】
本発明で用いられる燐酸エステル系難燃剤(C)としては、例えば下記一般式化1にて示される重量平均分子量が327以上である化合物が例示され、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0012】
【化1】

【0013】
(R、R、R及びRは、それぞれ互いに独立して、水素原子または1価の有機基を表わすが、R、R、R及びRの中の少なくとも1つは1価の有機基である。Xは2価の有機基であり、k、l、m及びnはそれぞれ互いに独立して0又は1であり、Nは0〜10の整数である)。
上記一般式化1において一価の有機基とは、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、シクロアルキル基が挙げられ、置換されている場合の置換基としては例えばアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基等が挙げられ、またこれら置換基を組み合わせた基(アリールアルコキシアルキル基等)、またはこれらの置換基を酸素、硫黄、窒素原子等により結合して組み合わせた基(アリールスルホニルアリール基等)が置換基であってもよい。また2価の有機基とは、例えばアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、多価フェノール類、多核フェノール類(ビスフェノール類等)から誘導される基が挙げられる。特に2価の有機基として好ましいものはヒドロキノン、レゾルシノール、ジフェニロールメタン、ジフェニロールジメチルメタン、ジヒドロキシジフェニル、p,p’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。これらはぞれぞれ1種または2種以上使用することができる。但し、重量平均分子量が327以上の燐酸エステルであることが必要である。重量平均分子量が327未満では耐熱性が低下するため好ましくない。
【0014】
これら燐酸エステル系難燃剤(C)の具体例としては、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、さらには、各種の縮合リン酸エステルが挙げられる。
【0015】
本発明において用いられるカルボジイミド化合物としては、例えば、ジメチルカルボジイミド、ジエチルカルボジイミド、ジプロピルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジヘキシルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ビス(メチルフェニル)カルボジイミド、ビス(ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、さらには以下の多価イソシアナート化合物の1種または二種以上を用いた(共)重合体であり、多価イソシアネートの具体例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ピリジンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0016】
本発明は、上記の生分解性樹脂(A)1〜99重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)99〜1重量%からなる組成物100重量部に対し、重量平均分子量が327以上である燐酸エステル系難燃剤(C)1〜50重量部およびカルボジイミド化合物(D)0.005〜5重量部を配合してなるものであり、この組成の範囲外では、本発明の目的とする耐衝撃性と耐熱性および難燃性に優れた樹脂組成物が得られないため好ましくない。
【0017】
また、本発明における熱可塑性樹脂組成物には、上記各成分の他に、その物性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂の混合時、成形時等に安定剤、顔料、染料、補強剤(タルク、マイカ、クレー、ガラス繊維等)、着色剤(カーボンブラック、酸化チタン等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の公知の添加剤、さらにはポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の他の熱可塑性樹脂を配合することも可能である。
【0018】
本発明における上記の生分解性樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、重量平均分子量が327以上である燐酸エステル系難燃剤(C)およびカルボジイミド化合物(D)の混合方法としては、バンバリーミキサー、押出機等公知の混練機を用いる方法が挙げられる。また混合順序にも何ら制限はなく、三成分の一括混練はもちろんのこと、予め任意の二成分を混合した後に残る一成分を混合することも可能である。
【0019】
[実施例]
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0020】
生分解性樹脂(A)
A−1:ポリ乳酸(三井化学(株)製 LACEA H−400)
【0021】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)
B−1:容積が15リットルのプラグフロー塔型反応槽(「新ポリマー製造プロセス」(工業調査会、佐伯康治/尾見信三著)185頁、図7.5(b)記載の三井東圧タイプと同種の反応槽で10段に仕切られたC1/C0=0.955を示すもの。)に10リットルの完全混合槽2基を直列に接続した連続的重合装置を用いてゴム強化スチレン系樹脂を製造した。プラグフロー塔型反応槽が粒子形成工程を、第2反応器である1基目の完全混合槽が粒子径調整工程を、第3反応器が後重合工程を構成する。
プラグフロー塔型反応槽にスチレン50.8重量部、アクリロニトリル16.9重量部、エチルベンゼン22.4重量部、日本ゼオン社製Nipol NS310Sを9.9重量部、t−ドデシルメルカプタン0.38重量部、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン0.045重量部からなる原料を調整し、この原料を3段の攪拌式重合槽列反応器に10kg/hで連続的に供給して単量体の重合をおこなった。3段目の槽より重合液を予熱器と減圧室より成る分離回収工程に導いた。
回収工程から出た樹脂は押出工程を経て粒状のペレットとしてゴム強化スチレン系樹脂B−1を得た。
【0022】
B−2:窒素置換した反応器にポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.25μ、ゲル含有量90%)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第2鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を入れ、60℃に加熱後、アクリロニトリル12.5部、スチレン37.5部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。
重合後に得られたグラフト重合体ラテックスに水蒸気を吹き込んで1時間水蒸気蒸留した。この時のラテックスの温度は80℃であった。また水蒸気蒸留後、凝固剤として硫酸1.0重量部を使用して凝固させ、さらにグラフト重合体粒子の2.5倍体積の水を加えて攪拌してから脱水する洗浄操作を3回繰り返し、乾燥し、グラフト重合体を得た。
このグラフト重合体30重量部と別途公知の塊状重合法により得られたスチレン75重量%およびアクリロニトリル25重量%からなる共重合体70重量部を混合してゴム強化スチレン系樹脂B−2を得た。
【0023】
燐酸エステル系難燃剤(C)
C−1:縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製 PX−200 重量平均分子量:686)
C−i:トリフェニルホスフェート(大八化学工業株式会社製 TPP 重量平均分子量:326)
【0024】
カルボジイミド化合物(D)
D−1:ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド(ラインケミー(株)製 スタバクゾールP1)
D−2:ポリカルボジイミド(日清紡績(株)製 カルボジライトLA−1)
【0025】
〔実施例1〜5、比較例1〜5〕
上記の生分解性樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、燐酸エステル系難燃剤(C)およびカルボジイミド化合物(D)を表1に示す配合割合で混合し、30mmニ軸押出機を用いて220℃で溶融混合し、ペレット化した後、射出成形機にて各種試験片を作成し、物性を評価した結果を表1に示す。なお、それぞれの評価方法を以下に示す。
【0026】
○加工性:ISO 1133に基づきメルトインデックス(220℃、10Kg)を測定した。単位:g/10分。
○耐衝撃性:ISO 179に準拠し、ノッチ付きのシャルピー衝撃値を測定した。
○耐熱性:ISO 75に準拠し、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度を測定した。
○耐久性:70℃、95%RHにて湿熱テストを実施し、耐衝撃性の保持率が80%以下になる時間を耐久性能とした。
○難燃性:UL94規格に準じて、1.6mm試験を用い評価した。全てのV試験規格に適合しない場合は、不合格とした。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のとおり、生分解性樹脂とゴム強化スチレン系樹脂からなる組成物に対し、特定の燐酸エステル系難燃剤およびカルボジイミド化合物を配合することにより、耐衝撃性と耐熱性のバランスに優れ、難燃性に優れた樹脂組成物が得られるものであり、OA・家電分野、電気・電子分野、建材分野、サニタリー分野、更には車両分野等に広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂(A)1〜99重量%およびゴム強化スチレン系樹脂(B)99〜1重量%からなる組成物100重量部に対し、重量平均分子量が327以上である燐酸エステル系難燃剤(C)1〜50重量部およびカルボジイミド化合物(D)0.005〜5重量部を配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
生分解性樹脂(A)がポリ乳酸である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)が、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体の中から選ばれた1種以上の単量体を重合してなるグラフト重合体または該グラフト重合体と芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体の中から選ばれた1種以上の単量体を重合してなる(共)重合体からなるゴム強化スチレン系樹脂である請求項1又は2何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−201830(P2008−201830A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36174(P2007−36174)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】