説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】ポリアミド樹脂の低温耐久性を改善するために、ポリアミド樹脂マトリックス中
に変性ゴムを分散充填した熱可塑性エラストマー組成物において、低温耐久性を維持しながら、フィルムに押出成形する際の押出負荷の低減を図る。
【解決手段】ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)を溶融ブレンドして得られる変性ポリアミド樹脂(C)に酸無水物基もしくはエポキシ基を有する変性ゴム(D)が分散してなる熱可塑性エラストマー組成物(E)および、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)を含んでなる熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂と変性ゴムとからなる熱可塑性樹脂組成物に関する。特に本発明は、熱可塑性樹脂組成物を連続混合する際の長時間連続混合性およびフィルムに押出成形する際の押出負荷が小さい、ポリアミド樹脂マトリクス中に変性ゴムを分散させた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の熱可塑性樹脂マトリックス中に特定のゴムエラストマー成分を不連続相として分散させてなる、耐空気透過性と柔軟性とのバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物は知られている(特許文献1)。
【0003】
また、当該熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性樹脂成分の溶融粘度(ηm)とゴムエラストマー成分の溶融粘度(ηd)および当該エラストマー成分と熱可塑性樹脂成分の溶解性パラメーターの差(ΔSP)を特定の関係式を満たすようにすることで高エラストマー成分比率を達成し、それによって一層柔軟性に富み、耐気体透過性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られること、そしてそれを気体透過防止層に使用した空気入りタイヤも知られている(特許文献2)。
【0004】
さらに、熱可塑性樹脂を連続層とし、ゴム組成物を分散相とする熱可塑性エラストマー中に、扁平状に分散してなる相構造を有するバリヤ樹脂組成物を存在させることで、耐ガス透過性が大幅に向上して、しかも、柔軟性、耐油性、耐寒性を有するような熱可塑性エラストマー組成物も知られている(特許文献3)。
【0005】
さらに、層状珪酸塩で変性した脂肪族ポリアミド樹脂に酸無水物変性エチレン系改質ポリマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−258471号公報
【特許文献2】特開平10−25375号公報
【特許文献3】特開平10−114840号公報
【特許文献4】特開2000−160024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
未変性のポリアミド樹脂や層状珪酸塩で変性したポリアミド樹脂と、酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴムとをブレンドした組成物は、低温耐久性(低温時の繰り返し疲労性)に優れる。しかしポリアミド樹脂と酸無水物基またはエポキシ基が反応するため、変性ゴムを高配合すると溶融時の流動性が大きく低下し、フィルム製膜性が悪化し、低温耐久性にも影響を与える問題があった。
本発明は、ポリアミド樹脂の低温耐久性(低温時の繰り返し疲労性)を改善するために、ポリアミド樹脂マトリックス中に低温耐久性に優れる変性ゴムを分散充填した熱可塑性樹脂組成物において、低温耐久性を維持しながら溶融混合時の連続混合性とフィルム性膜時の押出負荷の低減を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)を溶融ブレンドして得られる変性ポリアミド樹脂(C)に酸無水物基もしくはエポキシ基を有する変性ゴム(D)が分散してなる熱可塑性エラストマー組成物(E)および、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)を含んでなる熱可塑性エラストマー組成物であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明において、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)は、好ましくは、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ヒドロキシステアリン酸カルシウムの群より少なくとも一つ以上選ばれる化合物である。
また、本発明において、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)が、変性ゴム(D)100重量部に対して、0.01〜10重量部であり、好ましくは、0.1〜7重量部であり、より好ましくは、2〜5重量部である。
【0010】
また、本発明において、ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)は、好ましくは、単官能エポキシ化合物である。
【0011】
また、本発明において、ポリアミド樹脂(A)は、好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666である。
【0012】
また、本発明において、酸無水物基もしくはエポキシ基を有する変性ゴム(D)を構成するゴムは、好ましくは、エチレン−α−オレフィン共重合体またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体である。
また、本発明において、変性ゴム(D)は、好ましくは、変性ポリアミド樹脂(C)100重量部に対して、70〜180重量部である。
【0013】
また、本発明において、変性ポリアミド樹脂(C)は、好ましくは、ポリアミド樹脂(A)100重量部およびポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)0.05〜5重量部を溶融ブレンドして得られるものである。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、さらにエチレン−ビニルアルコール共重合体(H)を含む。
変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(H)の重量比は、好ましくは、10/90〜90/10であり、変性ゴム(D)が、変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール樹脂(H)の合計100重量部に対して、70〜180重量部である。
【0015】
本発明は、また、前期熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤである。
本発明は、また、前期熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをガスバリア層に用いたホースである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の変性ポリアミド樹脂に変性ゴムが分散してなる熱可塑性樹脂組成物において、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩を添加することにより、低温耐久性を悪化させることなく、溶融混合時の連続混合性とフィルム性膜時の押出負荷の低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、変性ポリアミド樹脂(C)および、酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(D)および、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)からなる。
【0018】
本発明において使用する変性ポリアミド樹脂(C)は、ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)を溶融ブレンドして得られるものである。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)は、限定するものではないが、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666、ナイロン612、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン66612、および芳香族ナイロンが単独でまたは混合物として使用できる。なかでも、ナイロン6、ナイロン66、およびナイロン666が耐疲労性とガスバリヤー性の両立という点で好ましい。
【0020】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)としては、単官能エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、酸無水物基含有化合物、ハロゲン化アルキル基含有化合物などが挙げられるが、ポリアミド樹脂の末端アミノ基との反応性という観点で、好ましくは、単官能エポキシ化合物である。
【0021】
単官能エポキシ化合物としては、エチレンオキシド、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−
エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘプタン、5−メチル−1,2−エポキシへプタン、6−メチル−1,2−エポキシヘプタン、3−エチル−1,2−エポキシヘプタン、3−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、3−ブチル−1,2−エポキシヘプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、5−エチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−2,3−エポキシヘプタン、4−エチル−2,3−エポキシへプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、2−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−メチル−3,4−エポキシヘプタン、6−エチル−3,4−エポキシヘプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシへプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシへプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−エポキシプロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシブタン、4−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−ヘプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール、3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−エチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノ−ル、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−へプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−3−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−5−ノナノ−ル、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロドデカン、3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデセン、1−ブトキシ−2,3−エポキシプロパン、1−アリルオキシ−2,3−エポキシプロパン、ポリエチレングリコールブチルグリシジルエーテル、2−エチルへキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル等が挙げられ、ポリアミド樹脂の相溶性の観点から、炭素数が3〜20、好ましくは3〜13であり、エーテルおよび/または水酸基を有するエポキシ化合物が特に好ましい。
【0022】
ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)を溶融ブレンドする方法は、特に限定されないが、たとえば、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)を2軸混練機に投入し、ポリアミド樹脂(A)の融点以上、好ましくは融点より20℃以上高い温度で、たとえば240℃で溶融ブレンドする。溶融ブレンドする時間は、たとえば、1〜10分、好ましくは2〜5分である。
【0023】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)として単官能エポキシ化合物を溶融ブレンドした場合は、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基に単官能エポキシ化合物

が反応し、たとえば末端アミノ基は次のように変化する。

この反応により、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基は消滅または減少するので、酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(D)を高充填しても流動性を維持し、フィルムに押出成形する際の押出負荷が低減できる。
【0024】
ポリアミド樹脂(A)の変性に用いるポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)の量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05〜5質量部であり、好ましくは1〜3質量部である。ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)の量が少なすぎると、フィルムに押出成形する際の押出負荷の低減効果が小さいため好ましくない。逆に、多すぎると、ポリアミド樹脂の低温耐久性を悪化させるので好ましくない。
【0025】
本発明に用いる変性ゴム(D)は、酸無水物基またはエポキシ基を有する。ポリアミド樹脂との相溶性という観点から、特に好ましくは、変性ゴム(D)は酸無水物基を有する。
変性ゴム(D)を構成するゴムとしては、エチレン−α−オレフィン共重合体、またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体などが挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などが挙げられる。エチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体としては、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。
【0026】
酸無水物基を有する変性ゴムは、たとえば、酸無水物とペルオキシドをゴムに反応させることにより製造することができる。また、酸無水物基を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP0620)、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(タフマー(登録商標)MH7020)などがある。
エポキシ基を有する変性ゴムは、たとえば、グリシジルメタクリレートをゴムに共重合させることにより製造することができる。また、エポキシ基を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、住友化学株式会社製エポキシ変性エチレンアクリル酸メチル共重合体(エスプレン(登録商標)EMA2752)などがある。
特に好ましい変性ゴム(D)は、酸無水物基でグラフト変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体であり、その例としては、前述の三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP0620)がある。
【0027】
高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)の高級脂肪酸としては、オレイン酸やリノレン酸等の不飽和高級脂肪酸、ドデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸等の飽和高級脂肪酸が挙げられる。なお、アルカリ土類金属とは、周期表第2族であるベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選ばれるものである。
加工助剤(F)としては特に溶融混合時の連続混合性とフィルム性膜時の押出負荷の低減の効果の観点から、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ヒドロキシステアリン酸カルシウムの群から選ばれる少なくとも1種類以上の化合物であることがより好ましい。
【0028】
高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)が、変性ゴム(D)100重量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜7重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)が変性ゴム(D)100重量部に対して、0.01重量部未満であると、溶融混合時の連続混合性とフィルム性膜時の押出負荷の低減の効果を得ることができない、また、10重量部より大きいと溶融混合時の連続混合性とフィルム性膜時の押出負荷の低減の効果を得ることはできるが、大幅な低温耐久性の低下を招くおそれがある。
【0029】
熱可塑性エラストマー組成物中の変性ポリアミド樹脂(C)と変性ゴム(D)の比率は、変性ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して、好ましくは、変性ゴム(D)が70〜180質量部であり、より好ましくは75〜160質量部である。変性ゴム(D)の比率が少なすぎると、低温耐久性に劣り、逆に多すぎると、フィルムに押出成形する際の押出負荷が増大する。本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、変性ポリアミド樹脂(C)が連続相を形成し、変性ゴム(D)が分散相を形成している。
【0030】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、エチレン−ビニルアルコール共重合体(H)を含むことが好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合体を配合することにより、熱可塑性エラストマー組成物のガスバリヤー性を向上させることができる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位(−CHCH−)とビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)とからなる共重合体であるが、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構成単位を含有していてもよい。本発明において使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体は、好ましくはエチレン単位の含量が20〜60モル%、より好ましくは20〜50モル%のものを使用する。エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位の含量が20モル%より小さいとエチレン−ビニルアルコール共重合体が熱分解しやすくなり、50モル%より大きいとエチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリヤー性が低下する。エチレン−ビニルアルコール共重合体はエチレン-酢酸ビニル共重合体のけん化物であるが、そのけん化度は、特に限定されないが、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である。エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度が小さすぎるとエチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリヤー性が低下する。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、市販されており、たとえば、日本合成化学株式会社製ソアノールH4815(構造単位(1):48モル%)、日本合成化学株式会社製ソアノールH4412(構造単位(1):44モル%)、日本合成化学株式会社製ソアノールE3808(構造単位(1):38モル%)、日本合成化学株式会社製ソアノールD2908(構造単位(1):29モル%)、株式会社クラレ製EVAL−G156B(構造単位(1):48モル%)、株式会社クラレ製EVAL−E171B(構造単位(1):44モル%)、株式会社クラレ製EVAL−H171B(構造単位(1):38モル%)、株式会社クラレ製EVAL−F171B(構造単位(1):32モル%)、株式会社クラレ製EVAL−L171B(構造単位(1):27モル%)などがある。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がエチレン−ビニルアルコール共重合体(H)を含む場合は、変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(H)の質量比は90/10〜10/90であることが好ましく、より好ましくは80/20〜20/80である。エチレン−ビニルアルコール共重合体(H)が少ないとガスバリヤー性の向上がほとんど見られず、逆に多いと低温耐久性が極端に悪化するため好ましくない。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がエチレン−ビニルアルコール共重合体(H)を含む場合は、変性ゴム(D)の配合量は、変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(H)の合計量100質量部に対して70〜180質量部であることが好ましく、より好ましくは75〜160質量部である。変性ゴム(D)の配合量が少なすぎると、低温耐久性に劣り、逆に多すぎると、熱可塑性エラストマー組成物をフィルムに押出成形する際の押出負荷が増大する。
【0033】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、変性ポリアミド樹脂(C)、変性ゴム(D)、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(H)を、溶融ブレンドすることによって製造することができる。
【0034】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、また、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)、変性ゴム(D)、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(H)を、溶融ブレンドすることによっても製造することができる。ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)の添加の時期は、ポリアミド樹脂(A)と化合物(B)と変性ゴム(D)を同時に溶融ブレンドしてもよいが、あらかじめポリアミド樹脂(A)と化合物(B)を溶融ブレンドして変性ポリアミド樹脂(C)を調製し、調製した変性ポリアミド樹脂(C)に変性ゴム(D)を添加して溶融ブレンドするのが好ましい。
【0035】
高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)の添加の時期は、変性ポリアミド樹脂(C)と変性ゴム(D)の溶融ブレンドと同時でもよいし、変性ポリアミド樹脂(C)と変性ゴム(D)の溶融ブレンドの後でもよい。すなわち、変性ポリアミド樹脂(C)、変性ゴム(D)ならびに高級脂肪酸の金属塩からなる加工助剤(F)を同時に溶融ブレンドしてもよいし、変性ポリアミド樹脂(C)と変性ゴム(D)を溶融ブレンドし、変性ゴム(D)が十分に分散したところで化合物(F)を加え、さらに溶融ブレンドしてもよい。好ましくは、変性ポリアミド樹脂(C)と変性ゴム(D)を溶融ブレンドし、変性ゴム(D)が十分に分散したところで高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤(F)を加え、さらに溶融ブレンドする。
溶融ブレンドの温度は、変性ポリアミド樹脂の融点以上の温度であるが、好ましくは変性ポリアミド樹脂の融点より20℃高い温度、たとえば220〜250℃である。溶融ブレンドの時間は、通常、1〜10分、好ましくは2〜5分である。
【0036】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がエチレン−ビニルアルコール共重合体(H)を含む場合は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(H)は、好ましくは、ポリアミド樹脂(A)または変性ポリアミド樹脂(C)と同時に配合する。
可塑剤を添加する場合において、可塑剤を添加する時期は、特に限定されないが、好ましくは、あらかじめポリアミド樹脂(A)または変性ポリアミド樹脂(C)に添加し混練しておく。
【0037】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の典型的な製造方法は、たとえば、次のとおりである。
まず、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)および可塑剤を、2軸混練機で設定温度220〜250℃で1〜10分間混練して変性ポリアミド樹脂(C)を調製し、次に調製した変性ポリアミド樹脂(C)と変性ゴム(D)を設定温度220〜250℃の2軸混練機に投入し、変性ゴム(D)が分散したところで最後にその他の配合剤を加える。
【0038】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がエチレン−ビニルアルコール共重合体(H)を含む場合は、たとえば、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)および可塑剤を、2軸混練機で設定温度220〜250℃で1〜10分間混練して変性ポリアミド樹脂(C)を調製し、次に調製した変性ポリアミド樹脂(C)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(H)および変性ゴム(D)を設定温度220〜250℃の2軸混練機に投入し、変性ゴム(D)が分散したところで最後にその他の配合剤を加える。
【0039】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、前記した成分に加えて、酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基およびアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基を有する水素結合性化合物を含むことができる。
【0040】
酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基およびアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基を有する水素結合性化合物としては、酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基として、アミノ基、水酸基、カルボキシル基またはメルカプト基を有し、かつアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基として、スルホン基、カルボニル基、エーテル結合、水酸基または含窒素複素環を有する化合物が挙げられるが、なかでも酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基としてアミノ基および/または水酸基を有し、かつアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基としてスルホン基、カルボニル基および/または含窒素複素環を有する化合物が好ましい。酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基としてアミノ基および/または水酸基を有し、かつアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基としてスルホン基、カルボニル基および/または含窒素複素環を有する化合物としては、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、(4−(4−アミノべンゾイル)オキシフェニル)4−アミノベンゾエート、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられるが、なかでも3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールが、コスト、安全性、低温耐久性の向上の観点で好ましい。
【0041】
水素結合性化合物としてアミノ基を2個以上有する化合物を用いた場合は、その化合物は架橋剤としても機能し、変性ゴムと該化合物を溶融ブレンドすることによって、変性ゴムが動的架橋され、変性ゴム相の粘度が樹脂相に対してさらに増大するため、変性ゴム相の島相化を促進し、熱可塑性組成物中の変性ゴムの分散状態を固定する効果もあると考えられる。その結果、変性ゴムの微分散が維持され、変性ゴムを高充填しても流動性を維持し、フィルム製膜が可能であり、かつ低温耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基およびアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基を有する水素結合性化合物の量は、変性ゴム100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3質量部である。水素結合性化合物の量が少なすぎると、水素結合によるマトリックス樹脂と分散ゴムとの界面補強性が不十分となり、変性ゴムの微分散を維持できず、耐久性、ガスバリヤ性が低下する。逆に、水素結合性化合物の量が多すぎても、耐久性が低下するため、好ましくない。
添加の時期は、変性ポリアミド樹脂と変性ゴムの溶融ブレンドと同時でもよいし、変性ポリアミド樹脂と変性ゴムの溶融ブレンドの後でもよい。すなわち、変性ポリアミド樹脂、変性ゴムならびに高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤を同時に溶融ブレンドしてもよいし、変性ポリアミド樹脂と変性ゴムを溶融ブレンドし、変性ゴムが十分に分散したところで化合物を加え、さらに溶融ブレンドしてもよい。好ましくは、変性ポリアミド樹脂と変性ゴムを溶融ブレンドし、変性ゴムが十分に分散したところで高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤を加え、さらに溶融ブレンドする。
【0043】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫または架橋剤、加硫又は架橋促進剤、可塑剤、各種オイル、老化防止剤などの、ゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0044】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、T型ダイス付きの押出機や、インフレーション成形機などでフィルムとすることができる。
本発明の空気入りタイヤは、前記熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤである。タイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を所定の幅と厚さのフィルム状に押し出し、それをタイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつける。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【0045】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ホースを作製するのにも用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いてホースを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、次のようにしてホースを製造することができる。
まず、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のペレットを使用し、予め離型剤を塗布したマンドレル上に、樹脂押出機によりクロスヘッド押出方式で、熱可塑性エラストマー組成物を押し出し、内管を形成する。さらに内管上に他の本発明の熱可塑性エラストマー組成物または一般の熱可塑性ゴム組成物を押し出し内管外層を形成してもよい。次に、内管上に必要に応じ、接着剤を塗布、スプレー等により施す。さらに、内管上に、編組機を使用して、補強糸または補強鋼線を編組する。必要に応じ補強層上に、外管との接着のために接着剤を塗布した後、本発明の熱可塑性エラストマー組成物または他の一般的な熱可塑性ゴム組成物と同様にクロスヘッドの樹脂用押出機により押し出し、外管を形成する。最後にマンドレルを引き抜くと、ホースが得られる。内管上、または補強層上に塗布する接着剤としては、イソシアネート系、ウレタン系、フェノール樹脂系、レゾルシン系、塩化ゴム系、HRH系等が挙げられるが、イソシアネート系、ウレタン系が特に好ましい。
【実施例】
【0046】
(1)原材料
ポリアミド樹脂(A)として、ナイロン6(宇部興産株式会社製「UBEナイロン」1022B)を用いた。
ポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)として、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル(日油株式会社製エピオール(登録商標)SB)を用いた。
変性ゴム(D)として、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(三井化学株式会社製タフマー(登録商標)MH7020。以下「Mah−EB」ともいう。)を用いた。
少なくとも1つのジスルフィド結合および少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(F)として、2,2′−ジアミノジフェニルジスルフィド(東京化成工業株式会社製D1246)を用いた。
高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤(F)としてステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リリチウム(川村化成工業株式会社製金属石鹸)を用いた。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(H)として、日本合成化学工業株式会社製H4815を用いた。
【0047】
(2)熱可塑性エラストマー組成物の調製
ナイロン6、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテルを、表1に示す質量比率で、2軸混練機(日本製鋼所製TEX44)に投入し、混練機温度230℃で溶融ブレンドし、変性ポリアミド樹脂を調製した。
【0048】
【表1】

【0049】
上記のように調製した変性ポリアミド樹脂77.7質量部および無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体100.0質量部を、2軸混練機に投入し、混練機温度220℃で溶融ブレンドし、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体が分散したところで、表2〜3に示す量の高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤(F)を投入し溶融ブレンドした後、押出機から連続してストランド状に排出し、水冷後カッターで切断することによりペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。
また、上記のように調製した変性ポリアミド樹脂31.4質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体46.3質量部、および無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体100.0質量部を、2軸混練機に投入し、混練機温度230℃で溶融ブレンドし、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体が分散したところで、表4〜5に示す量の高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤(F)を投入し溶融ブレンドした後、押出機から連続してストランド状に排出し、水冷後カッターで切断することによりペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0050】
(3)熱可塑性エラストマー組成物の評価方法
得られた熱可塑性エラストマー組成物について、混合安定性、押出負荷、低温耐久性を次の方法により評価した。
【0051】
[混合安定性]
混合安定性は、二軸押出機により連続して押し出されたストランドの表面状態および一定速度で引き取りを行いストランドが切れ始めるまでの時間を総合的に判断し、10点法で表記した。本評価法では、10点に近い方がより混合安定性が良い。
【0052】
[押出負荷]
ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、熱可塑性エラストマーの融点より20℃高い温度設定とした一定の条件で押出したときに、先端の樹脂圧計で測定した。比較例1の樹脂圧力を100として指数で表す。
【0053】
[低温耐久性]
ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、熱可塑性エラストマーの融点より20℃高い温度設定とした一定の条件で押し出し、平均厚み1mmのシートに成形した。次いでJIS 3号ダンベルで切断し、−35℃下で40%の繰り返し変形を与えた。5回の測定を行い、破断した回数の平均値を算出し、平均破断回数が、1万回以上であったものを合格とし、1万回未満であったものを不合格とした。
【0054】
熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表2〜5に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
比較例1は、ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)を溶融ブレンドして得られる変性ポリアミド樹脂(C)に酸無水物基もしくはエポキシ基を有する変性ゴム(D)が分散してなる熱可塑性エラストマー組成物(E)に、高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤(F)が添加されていないものである。
【0060】
実施例1〜9は、変性ポリアミド樹脂(C)に高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤(F)のうち、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩であるステアリン酸バリウムが添加されているものであり、比較例1に比べ、混合安定性が向上し、押出負荷が低減されていることが分かる。
【0061】
実施例10〜17は変性ポリアミド樹脂(C)に、ラウリン酸バリウム、実施例18〜24はステアリン酸マグネシウム、実施例25〜26はステアリン酸カルシウム、実施例27〜28はヒドロキシステアリン酸カルシウムが添加されたものでああり、いずれも比較例1に比べ、混合安定性が向上し、押出負荷が低減されていることが分かる。
【0062】
比較例2〜5は、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムが添加されたものであるが、比較例1に比べ、混合安定性は向上するもの、押出負荷が低減されないことがわかる。
【0063】
比較例6は、ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)を溶融ブレンドして得られる変性ポリアミド樹脂(C)とエチレンビニルアルコール共重合樹脂(H)のブレンド物に酸無水物基もしくはエポキシ基を有する変性ゴム(D)が分散してなる熱可塑性エラストマー組成物(E)に、高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤(F)が添加されていないものである。
【0064】
実施例29〜37は、変性ポリアミド樹脂(C)に高級脂肪酸の金属塩を主成分とする加工助剤(F)のうち、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩であるスステアリン酸バリウムが添加されているものであり、比較例6に比べ、混合安定性が向上し、押出負荷が低減されていることが分かる。
【0065】
実施例38〜45はラウリン酸バリウム、実施例46〜52はステアリン酸マグネシウム、実施例53〜54はステアリン酸カルシウム、実施例55〜56はヒドロキシステアリン酸カルシウム添加されたものでああり、いずれも比較例6に比べ、混合安定性が向上し、押出負荷が低減されていることが分かる。

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、タイヤ、特に空気入りタイヤを製造するのに用いることができる。特に空気入りタイヤのインナーライナーを作製するのに好適に用いられる。その他、ホースなどガスバリヤー性が求められる用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂の末端アミノ基と反応し得る化合物(B)を溶融ブレンドして得られる変性ポリアミド樹脂(C)に酸無水物基もしくはエポキシ基を有する変性ゴム(D)が分散してなる熱可塑性エラストマー組成物(E)および、高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤(F)を含んでなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩が、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ヒドロキシステアリン酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
高級脂肪酸の金属塩を主成分とするからなる加工助剤(F)が、変性ゴム(D)100重量部に対して、0.01〜10重量部である請求項1〜2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
末端アミノ基と反応し得る化合物(B)が、単官能エポキシ化合物であることを特徴とする請求項1〜3記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド樹脂(A)が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上であることを特徴とする請求項1〜4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
酸無水物基もしくはエポキシ基を有する変性ゴム(D)が、エチレン−α−オレフィン共重合体またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体であることを特徴とする請求項1〜5記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
変性ゴム(D)が、変性ポリアミド樹脂(C)100重量部に対して、70〜180重量部であることを特徴とする請求項1〜6記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(H)を含む、請求項1〜7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール樹脂(H)の配合比が、10/90〜90/10である熱可塑性樹脂組成物のうち、変性ゴム(D)が、変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール樹脂の合計100重量部に対して、70〜180重量部であることを特徴とする請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤ。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをガスバリア層に用いたホース。


【公開番号】特開2011−231166(P2011−231166A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100750(P2010−100750)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】