説明

熱型赤外線固体撮像素子及びその製造方法

【課題】受光部を形作るスリットを設けても犠牲層が残存し、レジストマスクパターンの精度悪化も起こらない参照素子を備え、当該参照素子の遮光効果及び伝熱効果が高く、ドリフト抑制精度が高い熱型赤外線固体撮像素子及びその製造方法の提供。
【解決手段】内部に熱電変換素子を包含する絶縁膜に受光素子を形作るスリットが犠牲層に達するまで開口された参照素子において、受光部及びスリットを覆う導電性材料膜とその上に保護膜が設けられ、導電性材料膜及び保護膜は、スリットの側壁に沿ってスリット内部に入り込みスリット内部に空隙が残存している。これにより、絶縁膜の残留応力が受光素子と参照素子とで揃った状態が保たれ、焦点ズレによるレジストマスクパターン精度悪化は起こらず、入射赤外線に対する遮光効果や熱を効率良く逃がす伝熱効果も向上し、ドリフト抑制精度を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱型赤外線固体撮像素子及びその製造方法に関し、特に赤外画像を検出する撮像部と環境温度等に基づく基準信号を出力する参照部とを具備する熱型赤外線固体撮像素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱型赤外線固体撮像素子は複数配列された受光素子を有し、その受光素子の各々は物体から放射される赤外線をマイクロブリッジ構造の受光部(ダイアフラム)で吸収して熱に変換し、その熱による温度上昇を受光部(ダイアフラム)内部に包含したボロメータ等の熱電変換素子によって電気信号として出力する。熱型赤外線固体撮像素子はこれら複数の受光素子からの出力を読出回路によって時系列信号として外部に出力する。このようにして得られた複数の受光素子からの電気信号分布によって、物体表面の温度分布を計測するものである。
【0003】
ボロメータ等の熱電変換素子の温度変化によって赤外線を検出するものであるため、環境温度等が変動すると、それに起因して熱型赤外線固体撮像素子の出力にドリフトが生じ、物体温度を正確に検出できなくなる。このような環境温度等の変動による熱型赤外線固体撮像素子のドリフトを抑制するには、温度制御器で熱型赤外線固体撮像素子の温度を制御すれば良いが、その方法では温度制御器を別途設けなければならず、装置を複雑且つ高価にしてしまう。そこで温度制御器を使用せずに熱型赤外線固体撮像素子出力のドリフトを抑制する方法として、熱型赤外線固体撮像素子に入射赤外線の影響を受けること無く環境温度等に基づく基準信号を出力する参照素子を設け、その基準信号を利用した信号処理によってドリフトを除去する方法が考え出されている。このような温度制御器を用いずにドリフト抑制ができる熱型赤外線固体撮像素子の参照素子構造が特開2009-192350号公報に記載されている。
【0004】
特開2009-192350号公報記載の従来例について図6を参照して説明する。図6(a)は入射赤外線を検出する受光素子(第1素子20a)の断面図、同図(b)は受光素子を補正するための参照素子(第2素子20b)の断面図である。回路基板21はSiウエハ等から成り、その内部に読出回路21aが造り込まれている。回路基板21上には赤外線反射膜22が形成され、その上層に保護膜(図示せず)が形成されている。受光部(温度検出部33)は、波長8〜12μm付近の赤外線を吸収する第1保護膜25,第2保護膜27,第3保護膜29,これらの保護膜で取り囲まれたボロメータ薄膜26,及び電極配線28で構成されている。また、支持部32は、第1保護膜25,第2保護膜27,第3保護膜29,及びこれらの保護膜で取り囲まれた電極配線28で構成され、受光素子(第1素子20a)においては回路基板21から空洞部34を介して受光部(温度検出部33)を宙に浮かせるように支持し、熱分離構造を実現している。
【0005】
受光素子(第1素子20a)の空洞部34は、デバイス製造の初期の工程ではパターニングされた第1犠牲層24(この例ではDLC:ダイアモンド・ライク・カーボン)で埋められており、デバイス製造の終盤の工程でドライエッチングにより除去される。一方、参照素子(第2素子20b)はパターニングされた第1犠牲層24がそのまま残存しており、受光部(温度検出部33)とヒートシンクである回路基板21とが熱的に接続された状態を形成している。
【0006】
受光素子(第1素子20a)には、更に波長8〜12μm付近の赤外線を吸収する庇31が受光部(温度検出部33)の端部から外側へ向って伸びている。この庇31により吸収された赤外線も熱に変換されて受光部(温度検出部33)に流入するため、支持部32のスペースも赤外線検出に有効利用することができ、開口率を向上させることができる。一方、参照素子(第2素子20b)では庇31を最外層に残存させている。この構成を採ることにより、受光部(温度検出部33)及び支持部32を形作る第1スリット35及び第2スリット36を形成しても、第1犠牲層24及び第2犠牲層30を残存させることができている。
【0007】
ドリフト抑制の精度を高めるためには、同じ温度条件下でのボロメータ薄膜26の抵抗及び抵抗温度係数が、受光素子(第1素子20a)と参照素子(第2素子20b)とで揃っていることが望まれる。抵抗材料には少なからずピエゾ抵抗効果があるため、受光部(温度検出部33)を構成する材料の残留応力も揃えられないと、ピエゾ抵抗効果による抵抗差異及び抵抗温度係数差異が生じ、ドリフト抑制精度が低下してしまう。第1スリット35及び第2スリット36を参照素子(第2素子20b)にも設けることは、その残留応力を揃えられる効果があるため、第1スリット35及び第2スリット36を参照素子(第2素子20b)に設けない構成より優れている。
【0008】
ところで、熱型赤外線固体撮像素子も他の半導体デバイスと同様に、小型化の技術開発が進められている。熱型赤外線固体撮像素子の小型化は、それを構成する受光素子等の小型化によってもたらされる。前述の従来例のように、受光部(温度検出部)と支持部とを同階層に具備する受光素子では、受光部(温度検出部)の面積を広くすると支持部に割り振れる面積が減り、逆に支持部が占める面積を拡げると受光部(温度検出部)面積を減少させてしまうので、小型化に不利である。庇の効果により、受光面積そのものは広く取れるが、受光部(温度検出部)面積減少はボロメータ薄膜体積を減少させ、1/fノイズの増加を招くので、S/N比低下が起きる。従って、受光部(温度検出部)と支持部とを別階層に具備する受光素子の方が小型化に有利である。このような受光部(温度検出部)と支持部とを別階層に具備する受光素子から成る熱型赤外線固体撮像素子が特開2010-101756号公報に記載されている。
【0009】
特開2010-101756号公報記載の熱型赤外線固体撮像素子について図7及び図8を参照して説明する。図7は該熱型赤外線固体撮像素子における受光素子の構造を示す平面図である。また、図8は図7の受光素子の構造を示す断面図であり、(a)は一方の支持部から受光部(ダイアフラム)を経由して他方の支持部に至る経路の一素子(画素)の構造を示している。但し、ボロメータ薄膜の分割及びボロメータ薄膜間を接続する金属配線(第3配線)は省略している。また、同図(b)は図7において水平方向に受光部(ダイアフラム)長プラス受光部(ダイアフラム)間ギャップのピッチで並んだ複数素子(画素)の構造を示す図であり、各素子(画素)はA-A’線に沿って切った断面を示している。
【0010】
図7及び図8に示すように、該熱型赤外線固体撮像素子における受光素子は、入射赤外線を吸収する受光部(ダイアフラム38)と、受光部(ダイアフラム38)を読出回路付Si基板45(読出回路は非表示)から浮かせた状態で支持する一対の支持部とで構成される。受光部(ダイアフラム38)内には、温度変化検出機構として三つの部分に分かれたボロメータ薄膜52が形成されており、下層側の第3絶縁膜(保護膜)51と、上層側の第4絶縁膜(保護膜)53及び第5絶縁膜(保護膜)55とに覆われている。このボロメータ薄膜52は、膜厚が30〜200nm程度の酸化バナジウム(V2O3,VOXなど)や酸化チタン(TiOX)などから成る。また、第3絶縁膜(保護膜)51,第4絶縁膜(保護膜)53,及び第5絶縁膜(保護膜)55は、Si酸化膜(SiO,SiO2),Si窒化膜(SiN,Si3N4),あるいはSi酸窒化膜(SiON)などから成り、膜厚はそれぞれ50〜500nm程度,50〜200nm程度,及び50〜500nm程度である。
【0011】
分割したボロメータ薄膜52間は第3配線54によって直列に接続されている。第3配線54は、膜厚が10〜200nm程度のアルミニウム,銅,金,チタン,タングステン,モリブデン,あるいはチタン・アルミニウム・バナジウムなどの合金、もしくは高濃度に不純物添加したSiなどの半導体から成る。第3配線54は、下層側の第3絶縁膜(保護膜)51及び第4絶縁膜(保護膜)53と、上層側の第5絶縁膜(保護膜)55とに覆われており、直列に接続されたボロメータ薄膜52の端部から、スリット44で狭められた領域を通過して第1コンタクト部42まで引き出され、第3絶縁膜(保護膜)51,第4絶縁膜(保護膜)53,及び第5絶縁膜(保護膜)55と共に第1支持部39を形成している。
【0012】
上記第1コンタクト部42には、第1絶縁膜(保護膜)47上に第1配線48及び第2配線49が形成されており、第2絶縁膜(保護膜)50,第3絶縁膜(保護膜)51及び第4絶縁膜(保護膜)53に設けたコンタクトホールにより第3配線54に接続されている。第1配線48及び第2配線49は、アルミニウム,銅,金,チタン,タングステン,モリブデン,あるいはチタン・アルミニウム・バナジウムなどの合金、もしくは高濃度に不純物添加したSiなどの半導体から成り、膜厚はそれぞれ50〜200nm程度及び10〜200nm程度である。また、第1絶縁膜(保護膜)47及び第2絶縁膜(保護膜)50は、共に膜厚が50〜500nm程度のSi酸化膜(SiO,SiO2),Si窒化膜(SiN,Si3N4),あるいはSi酸窒化膜(SiON)などから成る。
【0013】
そして、第2配線49は、下層側の第1絶縁膜(保護膜)47と上層側の第2絶縁膜(保護膜)50とに覆われており、複雑に屈曲した梁41を通って、読出回路付Si基板45上に設けた接続電極46まで引き出され、第1絶縁膜(保護膜)47に設けたコンタクトホールに形成した第1配線48を介して接続電極46に接続されている。第1絶縁膜(保護膜)47,第1配線48,第2配線49,及び第2絶縁膜(保護膜)50は、第1コンタクト部42,梁41,及び第2コンタクト部43の部位から成る第2支持部40を形成している。なお、第1配線48は、第1コンタクト部42のコンタクトホール形成時の突き抜けや、第2コンタクト部43の段差部における段切れなどの問題を解決するために設けている。第2配線49が、突き抜けや段切れなどの心配が無い厚さの場合は、第1配線48を設けなくても良い。
【0014】
特開2010-101756号公報記載の熱型赤外線固体撮像素子では、上述のように受光部(ダイアフラム38)と熱分離性能を決定付ける支持部中の梁41とが別階層に設けられているため、梁41の占める面積を拡げたところで受光部(ダイアフラム38)面積に何等影響を与えず、減少させてしまうことは無いので、小型化に有利な構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009-192350号公報
【特許文献2】特開2010-101756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述した特開2009-192350号公報記載の従来例では、受光部及び支持部が下の階層に設けられ、その上の階層として庇があるため、参照素子に受光部及び支持部を形作るスリットを設けても、犠牲層を残存させることができていた。しかしながら、受光部と支持部とが同階層にあるため、小型化には不利であった。そこで、小型化に有利な特開2010-101756号公報記載の熱型赤外線固体撮像素子の構成を採ろうとした場合、参照素子に受光部及び第1支持部を形作るスリットを設けると、受光部及び第1支持部が上の階層であるため、犠牲層を残存させることができないと云う問題が生じる。
【0017】
犠牲層を残存させるためにスリットを設けなければ、前述のように残留応力起因のピエゾ抵抗効果による抵抗差異及び抵抗温度係数差異が生じ、ドリフト抑制精度が低下してしまうと云う問題が起こる。スリットを設け、且つ、犠牲層も残存させられるよう、参照素子の受光部及び第1支持部上に、さらに一段、第3犠牲層及び庇相当の保護膜を設ける構成が考えられるが、この構成ではデバイス表面上の段差が非常に大きくなり、縮小投影露光機でレジストマスクを作成する際の焦点ズレによるレジストマスクパターンの精度悪化と云う新たな問題が生じる。
【0018】
本発明の目的は、上述したように受光部と支持部とを別階層に具備する受光素子から成る熱型赤外線固体撮像素子において、受光部及び支持部を形作るスリットを設けても犠牲層が残存し、なお且つ、レジストマスクパターンの精度悪化も起こらない参照素子を備え、加えて当該参照素子の遮光効果及び伝熱効果が高く、それらによりドリフト抑制精度が高い熱型赤外線固体撮像素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述の課題を解決するために、本発明は、入射赤外線を検出する受光素子が複数配列された撮像部と、入射赤外線に影響されること無く基準信号を出力する参照素子が少なくとも一個以上配列された参照部と、が基板上に設けられ、前記受光素子及び前記参照素子は、熱電変換素子を内包する受光部と、当該受光部を前記基板から隔離して支持する支持部と、を含み、前記支持部は、前記基板と前記受光部との間の階層に設けられた構造体の両端が前記基板と前記受光部とに接続されてなる熱型赤外線固体撮像素子において、前記受光素子の受光部は、犠牲層を除去して形成された空洞部により前記基板から熱的に分離され、前記参照素子の受光部は、除去されずに存在する前記犠牲層によって前記基板と熱的に接続され、前記参照素子では、当該参照素子の受光部を形作るスリットが、前記熱電変換素子を挟み込む絶縁膜を貫通して前記犠牲層に達するように形成され、少なくとも前記受光部及び前記スリット上に少なくとも一層以上の導電性材料膜が設けられ、さらに前記導電性材料膜上の少なくとも前記スリット上方に保護膜が設けられ、前記導電性材料膜及び前記保護膜が前記スリットの側壁及び底部を覆い、かつ、前記スリット内に空隙が残存した構成となっており、前記受光素子では、当該受光素子の受光部を形作るスリットが、前記絶縁膜、又は、前記絶縁膜及び前記保護膜を貫通するように形成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、前記導電性材料膜が、ステップカバレッジが相対的に良い材料膜と、ステップカバレッジが相対的に悪い材料膜と、の積層膜であることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては、前記保護膜が、前記受光部上乃至当該受光部と同階層の前記支持部上の所定の領域で除去されていることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明は、入射赤外線を検出する受光素子が複数配列された撮像部と、入射赤外線に影響されること無く基準信号を出力する参照素子が少なくとも一個以上配列された参照部と、が基板上に設けられ、前記受光素子及び前記参照素子は、熱電変換素子を内包する受光部と、当該受光部を前記基板から隔離して支持する支持部と、を含み、前記支持部は、前記基板と前記受光部との間の階層に設けられた構造体と、前記構造体の一端と前記基板とを接続する第1接続部と、前記構造体の他端と前記受光部とを接続する第2接続部と、で構成される熱型赤外線固体撮像素子の製造方法において、信号読出回路が形成された前記基板上に、前記支持部の前記第1接続部が接続される前記信号読出回路の端子電極上を除いて、第1犠牲層を形成する工程と、前記支持部の前記第1接続部及び前記構造体となる領域に、第1絶縁膜と下層金属配線と第2絶縁膜とを形成する工程と、前記受光部となる領域に、第2犠牲層を形成する工程と、前記支持部の前記第2接続部となる領域に、第3絶縁膜と前記下層金属配線に接続される上層金属配線と第4絶縁膜と第5絶縁膜とを形成すると共に、前記受光部となる領域に、前記第3絶縁膜と前記熱電変換素子と前記第4絶縁膜と前記熱電変換素子の端部に接続される上層金属配線と前記第5絶縁膜とを形成、若しくは、前記第3絶縁膜と前記上層金属配線と前記第4絶縁膜と前記熱電変換素子と前記第5絶縁膜とを形成する工程と、前記参照部においては、前記第3乃至第5絶縁膜を貫通する第1スリットを形成して前記参照部の受光部を形作り、少なくとも前記参照部の前記受光部及び前記第1スリット上に導電性材料膜を形成した後、少なくとも前記第1スリット上に保護膜を形成することにより、前記導電性材料膜及び前記保護膜が前記第1スリットの側壁及び底部を覆い、かつ、前記第1スリット内に空隙が残存した構造を形成する工程と、前記撮像部においては、前記第3乃至第5絶縁膜、又は、当該第3乃至第5絶縁膜及び前記保護膜を貫通する第2スリットを形成して前記撮像部の受光部を形作り、前記第2スリットを介して、前記撮像部の前記第1犠牲層及び前記第2犠牲層を除去する工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱型赤外線固体撮像素子では、参照素子は、内部に熱電変換素子を包含する絶縁膜(保護膜)に受光部を形作るスリットが犠牲層に達するまで開口され、少なくとも受光部及びスリット部を覆う少なくとも一層以上の導電性材料膜が設けられ、さらに導電性材料膜上の少なくともスリット部上方位置に保護膜が設けられているので、受光素子の犠牲層を除去して空洞部を形成する際のエッチング中も参照素子の犠牲層が保護され残存する構成を実現することができる。参照素子のスリット部には、スリットの無い導電性材料膜及びその上の保護膜があるが、それらはスリットの側壁に沿ってスリット内に入り込み、スリット内に空隙が残存した構成となっているので、スリットを設けた効果がそのまま維持される。導電性材料膜は、内部に熱電変換素子を包含する絶縁膜(保護膜)と導電性材料膜上の保護膜との間にあって、両保護膜間の緩衝材となるため、保護膜同士の直接接触よりも残留応力解消効果を高くできる。さらに、導電性材料膜によって、入射赤外線に対する遮光効果や熱を効率良く逃がす伝熱効果も向上する。
【0024】
この導電性材料膜を、ステップカバレッジが相対的に良い材料膜とステップカバレッジが相対的に悪い材料膜との積層膜にすれば、ステップカバレッジが相対的に良い材料膜によって、導電性材料膜全体に一定電位を与えて電気的安定化を図ることが確実にでき、ステップカバレッジが相対的に悪い材料膜によって、それを厚く形成して遮光効果を高めても、スリット内に空隙を残存させた構成を実現することができる。
【0025】
また、導電性材料膜上の保護膜が、受光部上乃至受光部と同階層の支持部上の所定の領域で除去された構成にすれば、導電性材料膜上の保護膜自身の残留応力を減衰させることができる。
【0026】
さらに、本発明の熱型赤外線固体撮像素子の製造方法では、従来方法で受光素子及び参照素子の受光部を形作るスリット形成前まで製造した後、内部に熱電変換素子を包含する絶縁膜(保護膜)を貫通するスリットを参照部のみに形成する工程と、導電性材料膜を形成し、少なくとも参照部及びスリット上を除いて導電性材料膜を除去した後、保護膜を形成する工程と、内部に熱電変換素子を包含する絶縁膜(保護膜)を貫通するスリットを撮像部のみに形成する工程と、撮像部のスリットを介して撮像部の犠牲層を除去する工程と、を少なくとも有することにより、上述した構成の本発明の熱型赤外線固体撮像素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る熱型赤外線固体撮像素子の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る熱型赤外線固体撮像素子の製造方法における製造工程を示す断面図であって、従来方法で受光素子及び参照素子の受光部を形作るスリット形成前まで製造した後、内部に熱電変換素子を包含する保護膜を貫通するスリットを参照部のみに形成する工程まで完了した状態(但しフォトレジストマスク除去前)を示している。
【図3】本発明の一実施の形態に係る熱型赤外線固体撮像素子の製造方法における製造工程を示す断面図であって、図2の工程の後、導電性材料膜を形成し、少なくとも参照部を除いて導電性材料膜を除去した後、保護膜を形成する工程まで完了した状態を示している。
【図4】本発明の一実施の形態に係る熱型赤外線固体撮像素子の製造方法における製造工程を示す断面図であって、図3の工程の後、内部に熱電変換素子を包含する絶縁膜を貫通するスリットを撮像部のみに形成する工程まで完了した状態(但しフォトレジストマスク除去前)を示している。
【図5】本発明の一実施の形態に係る熱型赤外線固体撮像素子の製造方法における製造工程を示す断面図であって、図4の工程の後、撮像部のスリットを介して撮像部の犠牲層を除去する工程まで完了した状態を示している。
【図6】従来例(特開2009-192350号公報)の構造を示す断面図であり、(a)は入射赤外線を検出する受光素子(第1素子)、(b)は受光素子を補正するための参照素子(第2素子)である。
【図7】他の従来例(特開2010-101756号公報)の構造を示す平面図である。
【図8】他の従来例(特開2010-101756号公報)の構造を示す断面図であり、(a)は一画素に着目した図、(b)は隣接画素との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施の形態に係る熱型赤外線固体撮像素子の構造を示す断面図である。図1に示すように、本実施の形態の熱型赤外線固体撮像素子では、読出回路付Si基板1(読出回路は非表示)上に、複数の受光素子(単位画素)13が配列された撮像部と、少なくとも一個以上の参照素子(単位画素)14が配列された参照部と、が設けられている。読出回路付Si基板1上には、読出回路と電気的に接続される接続電極2及び赤外反射膜(図示せず)が設けられ、その上層に保護膜(図示せず)が形成されている。
【0030】
受光素子(単位画素)13は、図7及び図8に示す特開2010-101756号公報記載の受光素子と基本的に同構造である。すなわち、受光素子(単位画素)13は、入射赤外線を吸収する受光部(ダイアフラム)4と、受光部(ダイアフラム)4を読出回路付Si基板1から浮かせた状態で支持する一対の支持部3(図7のA-A’線に沿って切った断面と同様のため片方は見えていない)で構成される。受光部(ダイアフラム)4及び支持部3を構成するボロメータ薄膜5,各層絶縁膜(保護膜),及び各層配線を形成する材料,膜厚条件等も特開2010-101756号公報と同様である。但し、受光部(ダイアフラム)4及び支持部3の受光部(ダイアフラム)4と同階層に位置する部位(第1支持部)の上層に、特開2010-101756号公報には無い遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12が形成されている。各層絶縁膜(保護膜)の膜厚は、遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12の膜厚を加えて受光部(ダイアフラム)4全体が所望の厚さになるように調整する。
【0031】
一方、参照素子(単位画素)14を構成する受光部(ダイアフラム)4及び支持部3も特開2010-101756号公報記載の受光素子と基本的に同構造であり、ボロメータ薄膜5,各層絶縁膜(保護膜),及び各層配線を形成する材料,膜厚条件等も同様である。但し、受光部(ダイアフラム)4及び支持部3の受光部(ダイアフラム)4と同階層に位置する部位(第1支持部)の厚さは、直上に遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12が無い分、受光素子(単位画素)13より薄くなっている。受光部(ダイアフラム)4下層に犠牲層7が残存しており、受光部(ダイアフラム)4と読出回路付Si基板1とが熱的に接続された状態を形成している。犠牲層7は、参照部と撮像部との間の過渡領域の途中まで残存している。
【0032】
受光部(ダイアフラム)4及び支持部3の受光部(ダイアフラム)4と同階層に位置する部位(第1支持部)上に、遮光Ti膜10及び遮光Al膜11の二層膜から成る導電性材料膜が形成されている。遮光Ti膜10の導電性材料膜として、ステップカバレッジが相対的に良いチタンの他に、タングステン,あるいはチタン・タングステン,チタン・アルミニウム・バナジウム,窒化チタンなどの合金、もしくは高濃度に不純物添加したSiなどの半導体を用いることができる。また、遮光Al膜11の導電性材料膜として、ステップカバレッジが相対的に悪いアルミニウムの他に、銅,金などを用いることができる。さらに、導電性材料膜は、単層もしくは三層以上の多層としても良い。導電性材料膜は、参照部端部の参照素子14を完全に覆うところまで参照部全体に一繋がりで形成されており、例えばGNDへ接続して電気的に安定化される。導電性材料膜上を遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12が覆っており、その遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12が引続き導電性材料膜の無い過渡領域の最上層、さらには撮像部の受光素子(単位画素)13最上層に残存している。遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12として、SiNの他に、Si酸化膜(SiO,SiO2),あるいはSi酸窒化膜(SiON)などを用いることができる。
【0033】
参照部スリット9では、拡大図に示すように、導電性材料膜(遮光Ti膜10及び遮光Al膜11)及び遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12がスリットの側壁に沿ってスリット内に入り込み、スリット内に空隙が残存した構成となっている。このような構成となるように、スリット幅に対応して遮光Ti膜10,遮光Al膜11,及び遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12の膜厚を設定する。使用する装置の特性にもよるが、ステップカバレッジが相対的良い膜(遮光Ti膜10及び遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12)は、スリット側壁に表面層と同程度の膜厚で形成され、ステップカバレッジが相対的悪い膜(遮光Al膜11)は、スリット側壁に表面層の約1/10程度の膜厚で形成される。例えば、スリット幅0.5μm,遮光Ti膜厚50nm,遮光Al膜厚250nm,遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜厚50nmと設定すると、スリットの両側壁合せて0.25μm厚の膜が形成されるため、スリット内に0.25μm幅の空隙が残存する。増加する段差は、遮光Ti膜厚と遮光Al膜厚の合計300nmなので、通常使われる数μm厚の犠牲層の段差に比べて格段に小さく、焦点ズレによるレジストマスクパターン精度悪化が起こるようなことは無い。
【0034】
以上述べた構成により、内部に熱電変換素子を内包する保護膜の残留応力を受光素子と参照素子とで揃えられ、加えて当該参照素子の遮光効果及び伝熱効果が高く、ドリフト抑制精度が高い熱型赤外線撮像素子を得ることができる。
【0035】
次に、本実施の形態に係る熱型赤外線撮像素子の製造方法について詳細に説明する。
【0036】
まず、特開2010-101756号公報に記載された製造方法で、受光素子及び参照素子の受光部を形作るスリット形成前まで製造する。この従来の製造方法について、図7及び図8を参照して説明する。
【0037】
まず、通常のSi集積回路製造工程により、信号読出回路(図示せず)、金属反射膜(図示せず)、及び、信号読出回路の端子電極である接続電極46を複数具備した読出回路付Si基板45を形成する。
【0038】
次に、第2支持部40と接続電極46とを接続する第2コンタクト部43を除いて、読出回路付Si基板45上に、第2支持部40と読出回路付Si基板45との間に空隙を形成するための第1犠牲層を形成する。この第1犠牲層は、例えば、感光性ポリイミドを塗布し、露光・現像によってパターニングした後、熱処理を施して形成する。第1犠牲層の厚さは例えば0.5〜3μm程度である。
【0039】
次に、第1犠牲層を覆うように第1絶縁膜47をプラズマCVD法等で形成する。この第1絶縁膜47は、膜厚50〜500nm程度のSi酸化膜(SiO、SiO2)、Si窒化膜(SiN、Si3N4)、あるいはSi酸化窒化膜(SiON)などから成る。
【0040】
次に、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて形成したレジストパターンをマスクとして、接続電極46上の第1絶縁膜47に、接続電極46と第1配線48とを接続するためのコンタクトを開口し、第1配線48を構成する金属薄膜をスパッタ法等で形成する。この第1配線48は、膜厚が50〜200nm程度のアルミニウム、銅、金、チタン、タングステン、モリブデン、あるいはチタン・アルミニウム・バナジウムなどから成る。なお、この第1配線48は設けなくても良い。
【0041】
次に、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて形成したレジストパターンをマスクとして、第2コンタクト部43のコンタクトホール内、及び、第1コンタクト部42に対応する位置に金属薄膜が残るように、第1配線48のパターニングを行なう。
【0042】
次に、第2配線49を構成する金属薄膜をスパッタ法等で形成する。この第2配線49は、膜厚が10〜200nm程度のアルミニウム、銅、金、チタン、タングステン、モリブデン、あるいはチタン・アルミニウム・バナジウムなどから成る。この第2配線49は、第2支持部40における信号伝達経路となる。
【0043】
次に、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて形成したレジストパターンをマスクとして、第1コンタクト部42から第2コンタクト部43に至る経路上に第2配線49が残るように、第2配線49のパターニングを行なう。
【0044】
次に、第2配線49を覆うように第2絶縁膜50をプラズマCVD法等で形成する。この第2絶縁膜50も、膜厚50〜500nm程度のSi酸化膜(SiO、SiO2)、Si窒化膜(SiN、Si3N4)、あるいはSi酸化窒化膜(SiON)などから成る。
【0045】
次に、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて形成したレジストパターンをマスクとして、第2支持部40を形作るようにダイアフラム38の下方の第1絶縁膜47及び第2絶縁膜50を除去する。この第2支持部40のパターニングには、同時に第1犠牲層のポリイミドを部分的に露出させる効果もある。
【0046】
次に、第1コンタクト部42を除いて、ダイアフラム38と読出回路付Si基板45との間に空隙を形成するための第2犠牲層を形成する。この第2犠牲層は、例えば、感光性ポリイミドを塗布し、露光・現像によってパターニングした後、熱処理を施して形成する。第2犠牲層の厚さは0.5〜3μm程度である。なお、第1犠牲層と第2犠牲層とは同じ材料で形成してもよいし、異なる材料で形成してもよい。
【0047】
次に、第1コンタクト部42及び第2犠牲層を覆うように、第3絶縁膜51をプラズマCVD法等で形成する。この第3絶縁膜51は、膜厚50〜500nm程度のSi酸化膜(SiO、SiO2)、Si窒化膜(SiN、Si3N4)、あるいはSi酸化窒化膜(SiON)などから成る。
【0048】
次に、ボロメータ薄膜52を構成する材料膜をスパッタ法等で形成し、ダイアフラム38に対応する位置に材料膜が残るように、ボロメータ薄膜52のパターニングを行なう。このボロメータ薄膜52は、膜厚が30〜200nm程度の酸化バナジウム(V2O3、VOXなど)や酸化チタン(TiOX)などから成る。
【0049】
次に、ボロメータ薄膜52を覆うように、第4絶縁膜53をプラズマCVD法等で形成する。この第4絶縁膜53は、膜厚50〜200nm程度のSi酸化膜(SiO、SiO2)、Si窒化膜(SiN、Si3N4)、あるいはSi酸化窒化膜(SiON)などから成る。
【0050】
次に、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて形成したレジストパターンをマスクとして、第4絶縁膜53に、ボロメータ薄膜52とその上層に形成する第3配線54とのコンタクト、及び、第1コンタクト部42の第2配線49とその上層に形成する第3配線54とのコンタクトを形成するコンタクトホールを開口する。
【0051】
次に、第3配線54を構成する金属薄膜をスパッタ法等で形成する。この第3配線54は、膜厚が10〜200nm程度のアルミニウム、銅、金、チタン、タングステン、モリブデン、あるいはチタン・アルミニウム・バナジウムなどから成る。
【0052】
次に、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて形成したレジストパターンをマスクとして、ボロメータ薄膜52の端部から第1支持部39に至る経路に第3配線54が残るように、第3配線54のパターニングを行なう。これにより、ボロメータ薄膜52は第3配線54、第2配線49及び第1配線48を介して、接続電極46に接続される。なお、図7及び図8は、スリット44を横切る経路の断面構造であるため、ボロメータ薄膜52の外側において第3配線54が途切れているが、第3配線54はスリット44を避けてボロメータ薄膜52から第1コンタクト部42まで連続して形成されている。
【0053】
次に、さらにそれらの上を覆うようにプラズマCVD法等で第5絶縁膜55を形成する。この第5絶縁膜55は、膜厚50〜500nm程度のSi酸化膜(SiO、SiO2)、Si窒化膜(SiN、Si3N4)、あるいはSi酸化窒化膜(SiON)などから成る。
【0054】
その後、図2〜図5に示すように、本実施の形態の特有の工程を実施する。なお、図2〜図5は、本実施の形態の熱型赤外線撮像素子の製造方法における主要工程を示す断面図である。
【0055】
まず、図2において、参照部スリットパターン17を備えたフォトレジストマスク16を用いて、ボロメータ薄膜を挟み込む絶縁膜(特開2010-101756号公報の製造方法における第3絶縁膜51、第4絶縁膜53及び第5絶縁膜55)を除去し、参照部のみに犠牲層7(特開2010-101756号公報の製造方法における第2犠牲層)まで達する参照部スリットを形成する。参照部スリット幅は、例えば0.3〜2μm程度である。また、フォトレジストマスクの他に、アルミニウムなどから成るメタルマスクを用いても良い。
【0056】
次に、図3において、遮光Ti膜10及び遮光Al膜11をスパッタ法等を用いて形成して少なくとも参照部上を残してエッチング除去し、その上に遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12をプラズマCVD法等で成膜する。遮光Ti膜厚は例えば30〜200nm程度、遮光Al膜厚は例えば100〜1000nm程度、遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜厚は例えば30〜200nm程度であるが、前述のように参照部スリット幅に対応し、スリット内に空隙が残存するように設定する。なお、遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12は、受光部上乃至受光部と同階層の支持部上の所定の領域で除去してもよく、このような構成にすれば、保護膜自身の残留応力を減衰させることができる。
【0057】
次に、図4において、撮像部スリットパターン19を備えたフォトレジストマスク18を用いて、ボロメータ薄膜を挟み込む絶縁膜(特開2010-101756号公報の製造方法における第3絶縁膜51、第4絶縁膜53、第5絶縁膜55、及び本願の遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜12)を除去し、撮像部のみに犠牲層7(特開2010-101756号公報の製造方法における第2犠牲層)まで達する撮像部スリットを形成する。撮像部スリット幅は、参照部スリット幅と揃えることが好ましい。また、フォトレジストマスクの他に、アルミニウムなどから成るメタルマスクを用いても良い。
【0058】
次に、図5において、犠牲層7(特開2010-101756号公報の製造方法における第1犠牲層及び第2犠牲層)を、撮像部スリットを介してエッチング除去することによって、本実施形態の熱型赤外線固体撮像素子が完成する。このとき、犠牲層7のエッチングは、参照部と撮像部との間の過渡領域内で終了させるようにする。
【0059】
このように、本実施形態では、従来方法で受光素子及び参照素子の受光部を形作るスリット形成前まで製造した後、参照部のみ、ボロメータ薄膜を挟み込む絶縁膜を貫通するスリットを形成して導電性材料膜を形成し、参照部及び撮像部に保護膜を形成した後、撮像部のみ、ボロメータ薄膜を挟み込む絶縁膜、又は、絶縁膜及び保護膜を貫通するスリットを形成し、そのスリットを介して撮像部の犠牲層を除去することにより、受光部(ダイアフラム)と熱分離性能を決定付ける支持部中の梁とが別階層に設けられている構造において、残留応力起因のピエゾ抵抗効果による抵抗差異及び抵抗温度係数差異を抑制するために参照部にスリットを形成しても、参照素子の犠牲層を残存させることができ、ドリフト抑制精度が高い熱型赤外線固体撮像素子を製造することができる。
【0060】
なお、上記製造方法は一例であり、本実施形態の構造が得られる限りにおいて、各構成要素の材料や厚さ、組み合わせ、除去や形成の順序などは適宜変更可能である。例えば、上記説明では、ボロメータ薄膜52を形成した後に第3配線54を形成したが、形成順序を逆にして、第3配線54を形成した後にボロメータ薄膜52を形成することもできる。
【実施例】
【0061】
撮像部に有効640×480受光素子を有し、撮像部上下に8行ずつの参照素子を備えた参照部を配した熱型赤外線固体撮像素子を試作した。撮像部及び参照部のスリット幅は0.5μmである。遮光Ti膜厚50nm,遮光Al膜厚250nm,遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜厚50nmとした。これらの結果、参照部スリット内には約0.25μm幅の空隙が残存した。また、受光素子の受光部保護膜厚は、遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜厚が加わった結果、350nmとなった。性能評価したところ、受光素子と参照素子との間におけるピエゾ抵抗効果起因の抵抗差異及び抵抗温度係数差異は測定限界以下であった。また、導電性材料膜の遮光及び伝熱効果が功を奏し、従来僅かながらに偽信号が見られた強烈な赤外光源を参照部に入射させても、偽信号は検出限界以下となった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の活用例として、暗視装置(赤外線カメラ)やサーモグラフィに使用される熱型赤外線固体撮像素子及びその製造方法が挙げられる。
【符号の説明】
【0063】
1 読出回路付Si基板
2 接続電極
3 支持部
4 受光部(ダイアフラム)
5 ボロメータ薄膜
6 空洞部
7 犠牲層
8 撮像部スリット
9 参照部スリット
10 遮光Ti膜
11 遮光Al膜
12 遮光導電性材料膜乃至犠牲層保護SiN膜
13 受光素子(単位画素)
14 参照素子(単位画素)
15 受光部構成用SiN膜
16 フォトレジストマスク
17 参照部スリットパターン
18 フォトレジストマスク
19 撮像部スリットパターン
20a 第1素子
20b 第2素子
21 回路基板
21a 読出回路
22 反射膜
23 コンタクト
24 第1犠牲層(DLC)
25 第1保護膜
26 ボロメータ薄膜
27 第2保護膜
28 電極配線
29 第3保護膜
30 第2犠牲層
31 庇
32 支持部
33 温度検出部
34 空洞部
35 第1スリット
36 第2スリット
37 第3スリット
38 ダイアフラム
39 第1支持部
40 第2支持部
41 梁
42 第1コンタクト部
43 第2コンタクト部
44 スリット
45 読出回路付Si基板
46 接続電極
47 第1絶縁膜
48 第1配線
49 第2配線
50 第2絶縁膜
51 第3絶縁膜
52 ボロメータ薄膜
53 第4絶縁膜
54 第3配線
55 第5絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射赤外線を検出する受光素子が複数配列された撮像部と、入射赤外線に影響されること無く基準信号を出力する参照素子が少なくとも一個以上配列された参照部と、が基板上に設けられ、前記受光素子及び前記参照素子は、熱電変換素子を内包する受光部と、当該受光部を前記基板から隔離して支持する支持部と、を含み、前記支持部は、前記基板と前記受光部との間の階層に設けられた構造体の両端が前記基板と前記受光部とに接続されてなる熱型赤外線固体撮像素子において、
前記受光素子の受光部は、犠牲層を除去して形成された空洞部により前記基板から熱的に分離され、
前記参照素子の受光部は、除去されずに存在する前記犠牲層によって前記基板と熱的に接続され、
前記参照素子では、当該参照素子の受光部を形作るスリットが、前記熱電変換素子を挟み込む絶縁膜を貫通して前記犠牲層に達するように形成され、少なくとも前記受光部及び前記スリット上に少なくとも一層以上の導電性材料膜が設けられ、さらに前記導電性材料膜上の少なくとも前記スリット上方に保護膜が設けられ、前記導電性材料膜及び前記保護膜が前記スリットの側壁及び底部を覆い、かつ、前記スリット内に空隙が残存した構成となっており、
前記受光素子では、当該受光素子の受光部を形作るスリットが、前記絶縁膜、又は、前記絶縁膜及び前記保護膜を貫通するように形成されていることを特徴とする熱型赤外線固体撮像素子。
【請求項2】
前記導電性材料膜が、ステップカバレッジが相対的に良い材料膜と、ステップカバレッジが相対的に悪い材料膜と、の積層膜であることを特徴とする請求項1に記載の熱型赤外線固体撮像素子。
【請求項3】
前記保護膜が、前記受光部上乃至当該受光部と同階層の前記支持部上の所定の領域で除去されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱型赤外線固体撮像素子。
【請求項4】
入射赤外線を検出する受光素子が複数配列された撮像部と、入射赤外線に影響されること無く基準信号を出力する参照素子が少なくとも一個以上配列された参照部と、が基板上に設けられ、前記受光素子及び前記参照素子は、熱電変換素子を内包する受光部と、当該受光部を前記基板から隔離して支持する支持部と、を含み、前記支持部は、前記基板と前記受光部との間の階層に設けられた構造体と、前記構造体の一端と前記基板とを接続する第1接続部と、前記構造体の他端と前記受光部とを接続する第2接続部と、で構成される熱型赤外線固体撮像素子の製造方法において、
信号読出回路が形成された前記基板上に、前記支持部の前記第1接続部が接続される前記信号読出回路の端子電極上を除いて、第1犠牲層を形成する工程と、
前記支持部の前記第1接続部及び前記構造体となる領域に、第1絶縁膜と下層金属配線と第2絶縁膜とを形成する工程と、
前記受光部となる領域に、第2犠牲層を形成する工程と、
前記支持部の前記第2接続部となる領域に、第3絶縁膜と前記下層金属配線に接続される上層金属配線と第4絶縁膜と第5絶縁膜とを形成すると共に、前記受光部となる領域に、前記第3絶縁膜と前記熱電変換素子と前記第4絶縁膜と前記熱電変換素子の端部に接続される上層金属配線と前記第5絶縁膜とを形成、若しくは、前記第3絶縁膜と前記上層金属配線と前記第4絶縁膜と前記熱電変換素子と前記第5絶縁膜とを形成する工程と、
前記参照部においては、前記第3乃至第5絶縁膜を貫通する第1スリットを形成して前記参照部の受光部を形作り、少なくとも前記参照部の前記受光部及び前記第1スリット上に導電性材料膜を形成した後、少なくとも前記第1スリット上に保護膜を形成することにより、前記導電性材料膜及び前記保護膜が前記第1スリットの側壁及び底部を覆い、かつ、前記第1スリット内に空隙が残存した構造を形成する工程と、
前記撮像部においては、前記第3乃至第5絶縁膜、又は、当該第3乃至第5絶縁膜及び前記保護膜を貫通する第2スリットを形成して前記撮像部の受光部を形作り、前記第2スリットを介して、前記撮像部の前記第1犠牲層及び前記第2犠牲層を除去する工程と、
を少なくとも有することを特徴とする熱型赤外線固体撮像素子の製造方法。
【請求項5】
前記導電性材料膜として、ステップカバレッジが相対的に良い材料膜と、ステップカバレッジが相対的に悪い材料膜と、を積層することを特徴とする請求項4に記載の熱型赤外線固体撮像素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−202826(P2012−202826A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67719(P2011−67719)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】