説明

熱媒封入金型、及び遠心成形装置

【課題】誘導加熱される周壁部の軸方向、及び周方向の温度分布を均一にできる熱媒封入金型、及び遠心成形装置を提供する。
【解決手段】遠心成形装置1は、熱媒封入金型3と、互いに水平方向に隔たる位置で熱媒封入金型3を支持し熱媒封入金型3に回転力を伝達する一対のローラ109と、一対のローラ109の間に配置され熱媒封入金型3を誘導加熱する電磁誘導コイル113とを備える。熱媒封入金型3は、端部が開放した円筒形の周壁部5を有し、その端部を限界として周壁部5の軸方向に延び、かつ相互に等間隔で周壁部5の周方向に隔たる複数の密封チャンバ9を周壁部5に形成している。気液二相の熱媒が密封チャンバ9に封入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂等を原料とする遠心成形を行うための熱媒封入金型、及び遠心成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、シームレス製品を製造する従来例の遠心成形装置101を示している。遠心成形装置101は、互いに水平に延びる2本の支軸103を筐体105に固定したベアリング107で軸受けし、2本の支軸103に設けた複数のローラ109で円筒金型111を支持したものである。支軸103に接続された回転機が、支軸103と共にローラ109を回転させることにより、円筒金型111に回転力が伝達される。円筒金型111を誘導加熱する電磁誘導コイル113のパッケージが図に表れている。
【0003】
遠心成形装置101を使用して筒状のシームレスベルトを製造する場合、シームレスベルトの直径を所望に仕上げるために、互いに直径を違える複数の円筒金型の中から適切なものが選択される。電磁誘導コイル113は、互いに対向するローラ109の間に配置されているので、円筒金型111が直径を違える別の円筒金型に交換されたときに、電磁誘導コイル113から円筒金型までの距離が大きく変化することがない。このため、円筒金型を交換する毎に電磁誘導コイル113の出力を逐一調整しなくても、電磁誘導コイル113の位置を微調整するだけで、あらゆる直径の円筒金型を略等しく加熱することができる。
【0004】
電磁誘導コイル113を円筒金型111の下方に配置したことで更に次の利点が得られる。即ち、シームレスベルトの材料は電磁誘導コイル113の内側に供給される。シームレスベルトの材料に含まれる溶媒は、円筒金型111の熱を受けてガスとなり、円筒金型111の端部115を経て浮上する。電磁誘導コイル113の温度は、円筒金型111の温度よりも著しく低いが、円筒金型111の下方に配置された電磁誘導コイル113のパッケージに溶媒のガスが直に触れることはないので、溶媒の結露が起らない。また、円筒金型111を載せ換えるときに電磁誘導コイル113が邪魔にならない。
【0005】
シームレス製品の品質を向上させるには、円筒金型111の全体の温度が均一でなければならない。しかしながら、円筒金型111は、その端部115から熱が大気中へ逃げやすく、端部115の温度が胴部117よりも低くなる傾向がある。端部115の加熱を促進するために図に表れていない別の電磁誘導コイルを円筒金型111の端部115の近傍に増設した場合、円筒金型111の全体を一様に加熱できるよう総ての電磁誘導コイルを統括的に制御するのが難しい。また、電磁誘導コイルの増設は、遠心成形装置101に投じる設備費を高騰させる。
【0006】
特許文献1,2に記載の誘導発熱ローラ装置は、ローラ全体の温度分布を均一化するために、ローラの周壁部に熱媒を封入することによりローラの伝導性を向上させている。ローラは、その外周面にフィルム等を接触させるものであり、またローラを直径の異なるものに交換する必要はない。このため、ローラの全周に磁場を印加する電磁誘導コイルをローラの内側に配置することができ、ローラの外側に設置される電源から電磁誘導コイルに供給される電力は、ローラの支軸に接合した通電部を介してローラの内側へ導かれる。
【0007】
一方、遠心成形装置101の円筒金型111は、電磁誘導コイル113に対面する箇所に電磁誘導コイル113の磁場が集中して印加される。この状態で円筒金型111が回転するので、円筒金型111の全周で温度が偏りなく上昇する。しかしながら、円筒金型111の周方向の一点に着目すると、円筒金型111が回転する周期で電磁誘導コイル113による加熱が繰り返し断たれる。この間、円筒金型111の端部115から熱が逃げ続けるので、円筒金型111の伝導性を向上するだけでは、上記の傾向を抑止できるには至らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−43740号公報
【特許文献2】特開2002−93567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の実情に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、誘導加熱される周壁部の軸方向、及び周方向の温度分布を均一にできる熱媒封入金型、及び遠心成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、軸方向の端部が開放した円筒形の周壁部を有し、前記端部を限界として前記軸方向に延び、かつ相互に等間隔で前記周壁部の周方向に隔たる複数の密封チャンバを、前記周壁部に形成し、前記複数の密封チャンバに、気液二相の熱媒を封入したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記密封チャンバが前記周壁部の周方向に旋回する螺旋状であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記熱媒封入金型と、互いに水平方向に隔たる位置で前記熱媒封入金型を支持し前記熱媒封入金型に回転力を伝達する複数のローラと、前記複数のローラの間に配置され前記熱媒封入金型の周壁部を誘導加熱する電磁誘導コイルとを備え、前記複数の密封チャンバの相互の間隔が、前記軸方向に直交する方向の前記電磁誘導コイルの半分の幅よりも狭いことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記電磁誘導コイルが、前記周壁部の端部よりも前記周壁部の軸方向へ延出したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る熱媒封入金型によれば、複数の密封チャンバに気液二相の熱媒を封入しているので、周壁部の総てが金属材料から成る場合に比較して、周壁部に熱の伝導する速度を速くすることができる。このため、当該熱媒封入金型は、周壁部の端部から熱が大気へ逃げる分、それを補う熱を周壁部の端部に向けてその内方から迅速に移動させることができる。しかも、遠心成形装置の電磁誘導コイルの磁場が周壁部に印加されると、熱媒封入金型が周方向に回転されるに従い順次に複数の密封チャンバに封入された熱媒によって上記熱の移動が行われる。これにより、周壁部の全周においてその端部の温度が低くなる傾向を抑止できるので、熱媒封入金型を用いて製造されるシームレス製品の品質を向上させることができる。
【0015】
また、密封チャンバが周壁部の周方向に旋回する螺旋状である場合、個々の密封チャンバに封入された熱媒は、軸方向の熱移動に加え、周壁部の周方向にも熱を移動させることができる。これにより、周壁部の周方向に熱の伝導する速度も積極的に速くできるので、上記の効果が顕著になる。
【0016】
本発明に係る遠心成形装置は、電磁誘導コイルが周壁部の端部よりも軸方向へ延出しているので、周壁部の端部に印加される電磁誘導コイルの磁場の強度は、周壁部の端部の内方に印加される電磁誘導コイルの磁場の強度と略等しくなる。このため、周壁部の電磁誘導コイルに対面する部位を、その軸方向の温度分布が均一になるように、単一の電磁誘導コイルによって誘導加熱できるので、電磁誘導コイルの制御を容易に行うことができる。
【0017】
また、複数の密封チャンバの相互の間隔が軸方向に直交する方向の電磁誘導コイルの半分の幅よりも狭く設定した場合、周壁部の電磁誘導コイルに対面する周壁部の部位を、少なくとも2本の密封チャンバが横切ることになる。このため、上記のように移動する熱量を更に増大できるので、例えば周壁部の直径、又はその肉厚が比較的大きく設定された仕様の熱媒封入金型を用いてシームレス製品を製造する場合、その品質を向上させるのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る遠心成形装置の要部を破断した側面図。
【図2】本発明の実施形態に係る遠心成形装置の要部を示す断面図。
【図3】(a)は本発明の実施形態に係る熱媒封入金型の正面図、(b)はその変形例の一部を破断した正面図。
【図4】(a)は本発明の実施形態に係る熱媒封入金型に適用したインナースリーブの外周面を展開した平面図、(b)はその変形例を示す平面図。
【図5】従来例の遠心成形装置の一部を省略した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る熱媒封入金型、及び遠心成形装置について説明する。従来の技術と共通の要素には、その説明に代えて同じ符号を用いるものとする。
【0020】
図1,2に示すように、遠心成形装置1は、熱媒封入金型3と、互いに水平方向に隔たる位置で熱媒封入金型3を支持し熱媒封入金型3に回転力を伝達する複数のローラ109と、相対向するローラ109の間に配置され熱媒封入金型3を誘導加熱する電磁誘導コイル113とを備える。
【0021】
熱媒封入金型3は、矢印Sで指した軸方向の両方の端部7を開放した円筒形の周壁部5を有し、複数の密封チャンバ9を周壁部5に形成し、複数の密封チャンバ9に気液二相の熱媒11を封入したものである。熱媒11は、水、ナフタレン、又はこれらの混合物を適用しても良い。密封チャンバ9の内部の圧力は、常温から約350℃の範囲で熱媒11が気相13と液相15に分かれる程度に減圧されていれば良い。
【0022】
複数の密封チャンバ9は、軸方向にそれぞれ延び、かつ相互に等間隔で周壁部5の周方向に隔たるよう配置された中空部である。個々の密封チャンバ9は、その軸方向の限界を端部7としている。言い換えると、周壁部5の端部7から密封チャンバ9までの軸方向の肉厚は、その物理的強度を保てることを限度として薄くし、密封チャンバ9の全長を周壁部5の全長に近づけることが好ましい。
【0023】
周壁部5に密封チャンバ9を形成するには、ドリル等を用いて周壁部5を軸方向に貫通する下孔を形成し、この下孔を図3(a)に示す栓17で塞ぎ、周壁部5に栓17を溶接しても良い。上記の下孔にヒートパイプを挿入しても良い。ここで、ヒートパイプとは金属管の内部に気液二相の熱媒を予め封入したものである。或いは、同図(b)に示すように、周壁部5をインナースリーブ19と、これを内側に嵌入させたアウタースリーブ21とから成る二重構造にし、インナースリーブ19の外周面に形成した溝23を密封チャンバとして使用することもできる。
【0024】
このように周壁部5を二重構造にした場合、密封チャンバ9の延びる向きは軸方向に限られず、密封チャンバ9が周方向、又は周方向に対して傾斜する向きに延びるようにしても良い。例えば、密封チャンバ9が周壁部5の周方向に旋回する螺旋状であっても良い。その展開図が図4(a)に例示されている。或いは、同図(b)に示すように、密封チャンバ9をクランク状に屈曲させても良い。
【0025】
以上に述べた熱媒封入金型3によれば、周壁部5の端部7から熱が大気へ逃げる分、それを補う熱を周壁部5が360度回転する周期よりも短い時間内に、周壁部5の端部7に向けてその胴部25(端部7の内方)から迅速に移動させることができる。これは、周壁部5の端部7から熱が大気へ逃げやすいことに起因して周壁部5の端部7と胴部25との温度差が生じると、胴部25の熱で熱媒11の液相15の蒸発が促進される一方、熱媒11の気相13の潜熱によって端部7が加熱されることによる。従って、遠心成形装置1によれば、周壁部5の胴部25よりも端部7の温度が低くなるのを抑止することができる。
【0026】
しかも、電磁誘導コイル113の磁場が周壁部5に印加されると、熱媒封入金型3が周方向に回転されるに従い順次に複数の密封チャンバ9に封入された熱媒11によって上記熱の移動が行われる。これにより、周壁部5の全周においてその両方の端部7の温度が低くなる傾向を抑止できるので、遠心成形装置1により製造されるシームレス製品の品質を向上させることができる。
【0027】
特に、密封チャンバ9を図4(a)に例示の螺旋状とした場合、個々の密封チャンバ9に封入された熱媒11は、軸方向の熱移動に加え、周壁部5の周方向にも熱を移動させることができる。これにより、周壁部5の周方向に熱の伝導する速度も積極的に速くできるので、上記の効果が顕著になる。
【0028】
また、電磁誘導コイル113は、その両端114を周壁部5の両方の端部7よりも軸方向へ延出しているので、周壁部5の端部7に印加される電磁誘導コイル113の磁場の強度は、胴部25に印加される電磁誘導コイル113の磁場の強度と略等しくなる。このため、遠心成形装置1によれば、周壁部5の電磁誘導コイル113に対面する周壁部5の部位を、軸方向の温度分布が均一になるように、単一の電磁誘導コイル113によって誘導加熱することができる。
【0029】
また、複数の密封チャンバ9の相互の間隔は、軸方向に直交する方向の電磁誘導コイル113の幅wの半分よりも狭くなるよう設定されることが好ましい。この場合、周壁部5の電磁誘導コイル113に対面する周壁部5の部位を、少なくとも2本の密封チャンバ9が横切ることになり、上記のように移動する熱量を更に増大することができる。このため、例えば周壁部5の直径、又はその肉厚が比較的大きく設定された仕様の熱媒封入金型を用いてシームレス製品を製造する場合、その品質を向上させるのに有利である。
【0030】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、熱媒封入金型の用途、又は遠心成形の材料に関わらず、あらゆる物品の遠心成形に役立つ技術である。
【符号の説明】
【0032】
1...遠心成形装置、3...熱媒封入金型、5...周壁部、7,115...端部、9...密封チャンバ、11...熱媒、13...気相、15...液相、17...栓、19...インナースリーブ、21...アウタースリーブ、23...溝、25,117...胴部、101...遠心成形装置、103...支軸、105...筐体、107...ベアリング、109...ローラ、111...円筒金型、113...電磁誘導コイル、114...両端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の端部が開放した円筒形の周壁部を有し、前記端部を限界として前記軸方向に延び、かつ相互に等間隔で前記周壁部の周方向に隔たる複数の密封チャンバを、前記周壁部に形成し、前記複数の密封チャンバに、気液二相の熱媒を封入したことを特徴とする熱媒封入金型。
【請求項2】
前記密封チャンバが前記周壁部の周方向に旋回する螺旋状であることを特徴とする請求項2に記載の熱媒封入金型。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の熱媒封入金型と、互いに水平方向に隔たる位置で前記熱媒封入金型を支持し前記熱媒封入金型に回転力を伝達する複数のローラと、前記複数のローラの間に配置され前記熱媒封入金型の周壁部を誘導加熱する電磁誘導コイルとを備え、
前記複数の密封チャンバの相互の間隔が、前記軸方向に直交する方向の前記電磁誘導コイルの半分の幅よりも狭いことを特徴とする遠心成形装置。
【請求項4】
前記電磁誘導コイルが、前記周壁部の端部よりも前記周壁部の軸方向へ延出したことを特徴とする請求項3に記載の遠心成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−213046(P2011−213046A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85170(P2010−85170)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】