説明

熱延巻き取り後のコイル冷却方法

【課題】熱延後の圧延材を巻き取ったコイルの変形を抑制し、生産性や歩留りの向上を図る。
【解決手段】熱間圧延機の後段に水冷手段1Aとダウンコイラ2とを配置した熱間圧延ライン1において、圧延材を水冷手段1Aで所定の温度で冷却してダウンコイラ2でコイル3に巻き取った後、熱延コイル置場5で室温までコイルを冷却する方法であって、比率耐荷重の許容範囲が0.5以上(より好ましくは0.6以上)に対応する、コイル3の外周部における平均冷却速度が40℃/hr以下の冷却速度(より好ましくは33℃/hr以下の冷却速度)でコイル3を徐冷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延鋼板の如き圧延材が圧延ラインから出てリール状に巻取られた後に発生する、鋼の変態に起因する異常変形を有効に防止することのできるコイル冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
帯状の圧延材をダウンコイラなどの巻き取り機によって巻き取る際、通常、帯板の長手方向に巻き取り張力を付与しながら巻き取る。この巻き取り張力はコイル内では半径方向の面圧として作用し、板間に摩擦力を発生させることで板のすべりを抑制し、コイルを巻き取った形状に保持することが可能である。
この際、巻き取り張力の設定が不適切であると、種々のコイル変形を引き起こす。例えば、巻き取り張力が低く摩擦力が十分に作用しないと、圧延材が滑ってコイルがつぶれる場合がある。逆に、巻き取り張力が課題であると、面圧を積算することで与えられるコイルの巻き締め力がコイル内周部において高くなり、コイルの内周部が円周方向に座屈変形いわゆるテレスコープといわれる変形を引き起こす。このようなコイルの変形を抑制するための巻き取り張力の設定方法が従来から考案されている。
【0003】
例えば、特開平6−071337号公報(特許文献1)は、長手方向で巻き取り張力を変化させることで、コイル内周部に発生しやすいキンク現象を低減できる圧延材の巻取り方法を開示する。
また、特開平6−277753号公報(特許文献2)は、板厚、板幅、コイル内径、コイル外径に応じて巻き取り張力を設定することで、自重や段積みによるコイルの変形を防止できるコイル巻取り方法を開示する。
【特許文献1】特開平6−071337号公報
【特許文献2】特開平6−277753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献に開示された巻取り方法を適用することにより、通常の熱延、冷延あるいは調質圧延後のコイルの巻き取りであれば、コイルの変形を起こすことなく巻き取ることが可能である。しかしながら、近年、ユーザから求めに応じて強度の高い材料の開発が盛んに進められる中で、強度の高い材料を熱間圧延後に冷却してコイルに巻き取る場合に、上述した特許文献に開示された巻取り方法を適用しても、抑制できないコイルの変形が顕在化してきた。
この変形は、特に、高炭素鋼又はC、Si、Mnを多く含む材料を巻き取る際に顕著に見られ、内周部が楕円状に変形するため、次工程でコイルをマンドレルに挿入する際に時間を要したり、再巻き取りラインを通販して巻き替える必要が生じたり、あるいは変形がひどい場合にはスクラップにせざるを得ない、という問題が発生している。
【0005】
一方、同じ材料であっても、常温で処理される後続の工程においては、上述したような問題は発生していない。従って、高炭素鋼又はC、Si、Mnを多く含む材料を熱延ラインで巻き取る際に顕在化するコイル変形の問題については、上述した特許文献に開示された巻取り方法では考慮されていない変形メカニズムによって生じているものであり、このメカニズムに立脚した対策を講じない限り、変形の防止は難しい。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、熱延ラインで巻き取る際に生じているコイルの変形を抑制し、生産性や歩留りの向上を図ることができる熱延巻き取り後のコイル冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる熱延巻き取り後のコイル冷却方法は、熱間圧延された圧延材を巻回したコイルを冷却する方法であって、前記圧延材の変態が未完了の場合に、前記コイルの外周部における平均冷却速度が40℃/hr以下の冷却速度で前記コイルを冷却することを特徴とする。
このコイル冷却方法に従って、コイルの外周部における平均冷却速度が40℃/hr以下の冷却速度(より好ましくは33℃/hr以下の冷却速度)でコイルを冷却すると、比率耐荷重を0.5以上(より好ましくは0.6以上)にできる。このように、比率耐荷重を0.5以上であると、コイルの変形を許容範囲内で抑えることができる。
【0007】
また、本発明にかかる熱延巻き取り後のコイル冷却方法は、熱間圧延された圧延材を巻回したコイルを冷却する方法であって、前記圧延材の変態が未完了の場合に、前記コイルの半径方向の温度差が70℃以内となるようにコイルを冷却することを特徴とする。
好ましくは、前記コイルの半径方向の温度差を、前記コイルの最外周部の板幅中央部における温度と、前記コイルの最内周から外周に向かって巻き厚の1/3の位置の板幅中央部における温度との差で規定するとよい。
このコイル冷却方法に従って、コイル内の半径方向の温度差が70℃以内(より好ましくは50℃以内)でコイルを冷却すると、比率耐荷重を0.5以上(より好ましくは0.6以上)にできる。このように、比率耐荷重を0.5以上であると、コイルの変形を許容範囲内で抑えることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱延巻き取り後のコイル冷却方法によると、熱延ラインにおけるコイルの変形を抑制し、生産性や歩留りの向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1に、本発明の実施形態に係る冷却方法が行なわれる熱間圧延ラインの概略を示す。この図に示すように、連続圧延機や水冷手段1Aを備えた熱間圧延ライン1で圧延された熱延コイル3は、通常400〜700℃程度の温度においてダウンコイラ2(巻き取り機)で巻き取られた後、熱延コイル搬送コンベア4(搬送手段)によりコイル置場5に搬送されて、そこで室温まで冷却される。この間、熱延コイル3内部の温度分布は変化し、これによって熱延コイル3内の面圧は変化していく。
【0010】
ここで、熱延コイル3の内半径をr1、外半径をr2、巻き取り張力をσTとすると、巻き取った時点でのコイルの面圧p(r)は、式(1)で与えられることが知られている。
【0011】
【数1】

【0012】
また、式(1)の面圧分布による熱延コイル3の耐荷重Wは、式(2)で与えられることが知られている。なお、耐荷重とは、自重あるいは段積みによって熱延コイル3に外力が作用したときに、熱延コイル3が変形することなく初期の形状を保つことのできる荷重のことである。
【0013】
【数2】

【0014】
熱延コイル3が巻き取られた以降の温度推移を伝熱解析によって計算し、さらにコイル3内の温度分布の変化によって生じる熱ひずみΔεTHによる面圧の変化ΔσTHrを計算して式(1)を修正すると、式(3)のようになる。
【0015】
【数3】

【0016】
式(3)のp(r)を、式(2)に代入することで、熱延コイル3の冷却過程での耐荷重の変化を計算できる。
図2に、このようにして計算される温度推移および耐荷重の変化を示す。なお、通常は水冷手段1Aでの冷却によって変態が完了しているとし、ここでは、冷却中のひずみはすべて熱ひずみであると考え、変態ひずみは考慮しないで計算を行なっている。
図2(A)に示すように、巻き取り直後からコイル内に温度分布が形成され、熱ひずみによる体積変化により、面圧が変化する。熱ひずみによる面圧の変化は、コイル冷却開始の初期から耐荷重を上昇させ、コイル内の温度分布が最大になる時間付近で耐荷重もピークを迎え、その後、室温に近づくにつれて初期の耐荷重に戻っていく(図2(C))。
【0017】
一方、高炭素鋼や強度クラスの高いハイテン鋼の開発が進む中で、水冷手段1A(ランアウトテーブル)での冷却ではほとんど変態が進まず(変態が未完了で)、むしろ、熱延コイル3に巻き取られて以降の冷却過程で変態が進む場合が頻繁に起こるようになった。熱延コイル3に巻き取られた時点でほとんど変態が進んでいない場合、温度が下がるに従って、変態による体積膨張が起こる。熱延コイル3は外周側から冷えていくため、外周側から変態が進む。すると、外周側で体積膨張が起こるため、熱延コイル3の面圧が下がりコイル3の巻き状態が緩むことになる。
【0018】
図3に、熱延コイル3の冷却曲線と変態の進行の関係、及び耐荷重の変化を計算した結果を示す。
また、図4に半径方向の温度分布を計算した結果を示す。図4には、特に着目すべき、中心から巻き厚1/3の位置を記載している。この図からわかるように、内周から巻き厚1/3の位置が、コイル3における略最高温度を示すものとなっている。
水冷手段1Aでの冷却で変態が完了した場合と異なり、熱延コイル3の冷却過程における比較的初期の段階で、まず熱延コイル3の外周側で変態が開始するとともに、熱延コイル3の耐荷重が急激に減少していく(図3(C)の0.1hr辺り)。このように耐荷重が低下した熱延コイル3は、極端な場合には自重によって変形してしまう。いったん変形した熱延コイル3は室温まで冷えた後も元に戻らず、次工程でマンドレルに挿入できないなどのトラブルにつながる。
【0019】
そこで、この耐荷重の変化に着目し、耐荷重が十分下がらない範囲で熱延コイル3を冷却する方法を検討した。極端な場合として、変態が完了するまで一定温度で保持し、熱延コイル3の各部で完全に変態が完了してから冷却を開始すれば、熱延コイル3の緩みは発生しない。しかし、熱延コイル3を恒温保持するには均熱炉などの設備を必要とする上に、生産性の観点から推奨されるものではない。そこで、熱延コイル3の耐荷重の許容範囲を見極め、この範囲内となる熱延コイル3の冷却速度(徐冷速度)を上述の解析方法で求めた。
【0020】
巻き取り直後から4時間後までに間の熱延コイル3の外周部における平均冷却速度を3〜60℃/hr程度の範囲で変化させて、熱延コイル3の比率耐荷重の最小値を求めた。比率耐荷重とは、巻き取り時点での熱延コイル3の耐荷重に対する、当該時間の熱延コイル3の耐荷重の比のことである。
この結果、図5に示すように、冷却速度を小さくするに従い(徐冷するに従い)、比率耐荷重の最小値が大きくなり、コイルつぶれ(コイル変形)が起こりにくくなることが確認された。同様に、コイル3の半径方向の温度差と比率耐荷重の最小値の関係を調べると、図6に示されるように、温度差が小さくなるほど比率耐荷重の最小値が絶対値が大きくなり、コイルつぶれが起こりにくくなることが確認された。ここで、コイル3の半径方向の温度差=コイル3の最内周から外周に向かって巻き厚の1/3の位置の板幅中央部における温度−コイル3の最外周部の板幅中央部における温度で定義している。これは、図4からわかるように、コイルにおける最大温度ー最低温度の値とほぼ同じとなる。
【0021】
実際の熱延コイル3において、冷却速度を変更して熱延コイル3の変形量を調べた。熱延コイル3の徐冷については、ダウンコイラ2から抜き出した熱延コイル3を、内面を放射率の低い金属(例えばアルミニウムなど)の箱で覆うことで、輻射による冷却を大幅に縮小することで実現した。また、熱延コイル3の冷却速度を早くするには、熱延コイル3の両側面に大型のファンを設置し、両側面から熱延コイル3を冷却することで実現した。
その結果、熱延コイル3の外周部の平均冷却速度が30℃/hrの場合には熱延コイル3の変形が認められず(これを「本発明(1)」とする)、熱延コイル3の外周部の平均冷却速度が40℃/hrの場合には熱延コイル3の変形が許容範囲内であった(これを「本発明(2)」とする)。さらに、熱延コイル3の外周部の平均冷却速度が55℃/hrの場合には熱延コイル3の変形が許容範囲を超えて認められた(これを「比較例」とする)。なお、許容範囲とは、次工程でコイル3がマンドレルに装着可能でき、次工程の作業に支障をきたさない状況をいう。
【0022】
この結果から、本発明(2)に対応する、熱延コイル3の比率耐荷重の最小値が0.5程度であれば熱延コイル3の変形は許容範囲内で抑えられる。好ましくは本発明(1)に対応する、熱延コイル3の比率耐荷重の最小値が0.6程度であれば熱延コイル3はほとんど変形しない。そこで、0.5以上好ましくは0.6以上を比率耐荷重の許容範囲とし、熱延コイル3の許容冷却速度又はコイルの半径方向の許容温度差を、図5及び図6から求めると、
・熱延コイル3の外周の平均冷却速度(最初の4時間で算出)は、40℃/hr以下であって、より好ましくは33℃/hr以下、
・熱延コイル3の半径方向温度差(外周と巻き厚1/3の位置との温度差)の最大値は、70℃以内であって、より好ましくは50℃以内、
となる。
【0023】
図7,図8には、本発明(1)、本発明(2)と比較例とにおける熱延コイル3の冷却曲線と比率耐荷重の変化の関係を示す。比率耐荷重が最も小さくなるのは、熱延コイル3の冷却開始のごく早いタイミング(10〜20分前後)であることが分かる。従って、熱延コイル3をダウンコイラで巻き取った直後から熱延コイル搬送コンベア4で搬送し、コイル置場5に置く間も含めて、熱延コイル3を徐冷する必要がある。
さらに、成分が、C:0.1%〜0.2%、Si:1.0%〜3.0%、Mn:1.0%〜3.0%の熱延コイル3、又は、C:0.2%〜0.8%、Mn:1.0%〜2.0%の熱延コイル3、つまり、高炭素鋼又はC、Si、Mnを多く含む材料について、加工フォーマスタ試験機により、加工を加えた後のTTT曲線を測定して、水冷手段1Aでの冷却時の変態の進行を予測した。
【0024】
この結果、これらの鋼種については、水冷手段1Aでの10〜20秒程度の冷却中では、ほとんど変態が進まず、熱延コイル3を巻き取った後に変態が進むことが分った。そこで、これらの鋼種について本技術を適用することで、熱延コイル3の巻き取り以降の過程で生じる熱延コイル3のつぶれを抑制できることが確認できた。
以上のようにして、本実施形態に係る熱延巻き取り後のコイル冷却方法によると、高炭素鋼又はC、Si、Mnを多く含む材料を熱延ラインで巻き取る際に生じているコイルの変形を抑制し、生産性や歩留りの向上を図ることができる。
【0025】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る冷却方法が行なわれる熱間圧延ラインの概略を示す図である。
【図2】コイル内の温度履歴、変態率及びコイルの耐荷重の時間変化を示す図である(巻き取り開始時点で変態が完了している場合)。
【図3】コイル内の温度履歴、変態率及びコイルの耐荷重の時間変化を示す図である(巻き取り開始時点で変態が未完了の場合)。
【図4】コイル半径方向の温度分布を示す図である。
【図5】巻き取り開始直後から4時間の間におけるコイル外周部の平均温度冷却速度と比率耐荷重の最小値との関係を示す図である。
【図6】コイル内変形方向の温度差と比率耐荷重の最小値との関係を示す図である。
【図7】コイル外周部の冷却曲線を示す図である。
【図8】コイルの比率耐荷重の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 熱間圧延ライン
1A 水冷手段
2 ダウンコイラ(巻き取り機)
3 熱延コイル
4 熱延コイル搬送コンベア(搬送手段)
5 熱延コイル置場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延された圧延材を巻回したコイルを冷却する方法であって、
前記圧延材の変態が未完了の場合に、前記コイルの外周部における平均冷却速度が40℃/hr以下の冷却速度で前記コイルを冷却することを特徴とする熱延巻き取り後のコイル冷却方法。
【請求項2】
熱間圧延された圧延材を巻回したコイルを冷却する方法であって、
前記圧延材の変態が未完了の場合に、前記コイルの半径方向の温度差が70℃以内となるように前記コイルを冷却することを特徴とする熱延巻き取り後のコイル冷却方法。
【請求項3】
前記コイルの半径方向の温度差を、前記コイルの最外周部の板幅中央部における温度と、前記コイルの最内周から外周に向かって巻き厚の1/3の位置の板幅中央部における温度との差で規定することを特徴とする請求項2に記載の熱延巻き取り後のコイル冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−89107(P2010−89107A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259868(P2008−259868)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】