熱成形用加飾シート及び加飾成形体の製造方法
【課題】真空成形同時加飾法等の熱成形において、エンボス等の物理的な方法を必要とせずに、加飾後の加飾表面に凹凸を有する加飾成形体を再現よく得る方法を提供する。
【解決手段】結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート3上に赤外線吸収インキ4、5又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなり、電磁波による加熱方式を用いた熱成形により凹凸が発現する熱成形用加飾シート、及び、前記熱成形用加飾シートを、保持した状態で、赤外線2照射により前記熱収縮性を有する樹脂シート3を非晶化する温度以上で加飾熱成形することにより加飾表面に凹凸を有する加飾成形体の製造方法。
【解決手段】結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート3上に赤外線吸収インキ4、5又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなり、電磁波による加熱方式を用いた熱成形により凹凸が発現する熱成形用加飾シート、及び、前記熱成形用加飾シートを、保持した状態で、赤外線2照射により前記熱収縮性を有する樹脂シート3を非晶化する温度以上で加飾熱成形することにより加飾表面に凹凸を有する加飾成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形同時加飾法等の熱成形に使用する加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形体等の樹脂成形体への加飾方法として、従来、樹脂中に顔料等の着色剤を練り込み、樹脂自体を着色して射出成形する方法や、射出成形後の成形体の表面層にクリアー塗料あるいは着色塗料をスプレー塗装する方法が行われている。しかし近年の化学物質の排出に対する作業環境保護や外部環境保護の観点より敬遠される傾向にあり、塗装法に代わる手段が求められている。
これに対し、アクリル樹脂やポリスチレン樹脂、ABS樹脂等を主成分とする基材シートの表面に、架橋硬化型のアクリル樹脂からなる表面保護層が形成されてなるシートの反対面に接着剤層を設けて、熱成形により三次元形状に成形すると同時に樹脂成形体に貼り付けて一体化する方法、即ち真空成形同時加飾法の提案がされている(例えば特許文献1参照)。この方法であれば、無溶剤で、射出成形体等の樹脂成形体に印刷調意匠の装飾を行うことが可能である。
【0003】
一方、前記方法において、加飾層表面に凹凸感を与えることで特殊な美観や触感を与える意匠の提案も多くなされ、例えば、賦型シートやエンボス加工あるいはシュライナー加工等の加熱した彫刻ロールの接圧により物理的に予めシート表面に凹凸を施した賦型シートを射出成形用金型内に装着し、射出成形後剥離して凹凸を賦型する方法等が知られている。これはシート製造工程においてエンボス装置や特殊印刷工程を必要とするため高コストになるという問題や、ロール状で保管されている使用前のシートに既に凹凸が生じており巻きズレ不良が起こりやすいことや凸部分の重ね合わせによるゲージバンド不良が発生し易いこと等取り扱いの点で問題が生じることや、射出成形時の高い樹脂温度に曝露されたエンボス加工部が配向戻りによる塑性変形を起こし、所望の凹凸が得られないといった問題があった。
【0004】
これに対し、エンボス等の物理的な方法でシートに凹凸を施すことなく加熱後に所望の凹凸が得られる方法も過去に検討されている。例えば、基材上に設けられた低温で溶融可能な高分子化合物に任意の感熱性模様を付与した複合体に赤外線を照射することにより感熱性模様部分を凹部または粗面化する方法や(例えば特許文献2参照)、熱収縮性樹脂シートと基材と少なくとも熱線吸収性着色剤を含む画像層とを重ね合わせた積層体を製造し、次に該積層体の基材側に別の基板を重ね合わせて複合体を形成した後、積層体側から熱線を照射して熱吸収性画像区域に相当する区域の該熱収縮性樹脂シートに凹部または開口部を形成することを特徴とする化粧材の製造方法が知られている。(例えば特許文献3、4参照)。赤外線吸収剤等の熱発生物質は近赤外光や赤外光を吸収して熱を発生する。特許文献2〜4はこの現象を利用し該熱発生物質と接する高分子化合物を可塑化させて凹部あるいは開口部を設けている。
【0005】
しかしながら前記文献に記載の方法は再現性に乏しく、近年所望される意匠に耐えうるだけの大きな凹凸を再現よく得ることが困難であった。また前記文献に記載の化粧材を熱成形シートに応用した場合、即ち該化粧材の裏面に接着剤層を設けて、熱成形により三次元形状に成形すると同時に樹脂成形体に貼り付けて一体化した場合、凹凸を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−153587号公報
【特許文献2】特開昭49−31757号公報
【特許文献3】特開昭50−59448号公報
【特許文献4】特開昭50−61455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、真空成形同時加飾法等の熱成形において、エンボス等の物理的な方法を必要とせずに、加飾後の加飾表面に凹凸を有する加飾成形体を再現よく得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、熱固定により結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート上に赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなる加飾シートを、熱成形用の加飾シートとして使用することで、上記課題を解決した。
【0009】
熱収縮性を有する樹脂シートは、加熱することでシートが延伸前の状態に復元しようとし収縮する。このとき示される力(配向戻り強度)は、加熱温度により変化する。本発明者らは、結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シートが、電磁波、特に赤外線照射によるエネルギーを吸収し結晶の融解現象が急激に進行する結果、該収縮現象がより大きく発現できることを見出し、結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート上に、赤外線に反応するインキである赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなる加飾シートを保持した状態で、電磁波による加熱方式、例えば赤外線照射をすることで、前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで印刷された部位と印刷されない部位や印刷濃度やインキ濃度が異なる部位とで、収縮挙動が異なる結果、各々の部位に膜厚差を生じることを見出した。本発明はこのシートの温度差を利用することで、膜厚差即ち凹凸を故意的に生じさせることに成功した。
【0010】
即ち本発明は、結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート上に赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなり、電磁波による加熱方式を用いた熱成形により凹凸が発現する熱成形用加飾シートを提供する。
【0011】
また本発明は、前記熱成形用加飾シートを、保持した状態で、赤外線照射により前記熱収縮性を有する樹脂シートを非晶化する温度以上で加飾熱成形する、加飾表面に凹凸を有する加飾成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、真空成形同時加飾法等の熱成形において、エンボス等の物理的な方法を必要とせずに、加飾後の加飾表面に凹凸を有する加飾成形体を再現よく得ることができる。
本発明の加飾シートにおいて、凹凸が出現するのは赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位である。インキはグラビア印刷等の汎用の印刷方法で絵柄印刷でき、凹凸を付与するための物理的な方法を必要としないため、シート製造工程において過剰の装置を必要とすることなくコストが押さえられる。
【0013】
またシートを保持した状態で、赤外線照射により前記シートを非晶化する温度以上で加飾熱成形するので、シートの両面に均等に凹凸が生じシート膜厚差を生じさせた状態で真空成形法により被着体に貼り付けることができ、高い延展倍率を必要とするような深絞り形状を有する被着体であっても再現よく鮮鋭な凹凸を得ることができる。
【0014】
またシートを、熱伝導のない真空下で保持した状態で赤外線を照射すれば、シートにかかる温度差をより明確に生じさせることができ、より鮮鋭な凹凸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、赤外線吸収インキは赤外線吸収剤等を含有するインキであり、照射された赤外線を吸収し発熱する。即ち赤外線吸収インキで印刷された樹脂シートに電磁波による加熱方式、例えば赤外線を照射すると、前記赤外線吸収インキで印刷された部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わる。
一方、赤外線反射インキは赤外線反射物質を含有するインキであり、照射された赤外線を反射する。赤外線反射インキで印刷された樹脂シートに該樹脂シート側(即ち樹脂シートの印刷面とは反対側の面)から電磁波による加熱方式、例えば赤外線を照射すると、該樹脂シートを通過した赤外線が該赤外線反射インキで反射されることにより、赤外線透過部位と反射部位とが重なる印刷部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わる(これは具体的には、絵柄を設けない部位と比較し、絵柄を設けた部位はより効率よくシートへ熱を供給できる結果、と推定している)。
即ち、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキを印刷した部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるため、該部位の表面温度を高くすることができ、結果、樹脂シートの、赤外線吸収インキで印刷された部位と印刷されない部位とに温度差を生じさせることができる。
【0016】
本発明は前述の通り、前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで印刷された部位と印刷されない部位や印刷濃度やインキ濃度が異なる部位とで、収縮挙動が異なる結果、各々の部位に膜厚差を生じることを見出し、これを利用しているが、これには以下の(1)〜(3)の態様が挙げられる。
(なお、以下、相対的に表面温度の高い部位を部位A、相対的に表面温度の低い部位を部位Bとする。また赤外線照射をした場合を例とする。)
【0017】
(1)熱収縮性を有する樹脂シート上に、前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位Aと絵柄を設けない部位Bを有する。
真空成形同時成形を行う際には、前記部位Aと前記部位Bとが異なる表面温度となるように赤外線照射する。前記部位Aのみに赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるので、前記部位Aの表面温度は印刷されない部位Bよりも高くなり、凹凸が生じ、該シートを樹脂成形体に貼り付けて一体化させることで凹凸を有する加飾成形体が得られる。
【0018】
(2)熱収縮性を有する樹脂シート上に、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで前記インキ濃度の高い部位Aと前記インキ濃度の低い部位Bとを有するように絵柄を設ける。
真空成形同時成形を行う際には、前記インキ濃度の高い部位Aと前記インキ濃度の低い部分Bとが異なる表面温度となるように赤外線照射する。
この場合、部位A及び部位Bともに赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるが、部位Aは部位Bよりインキ濃度が高い結果、より熱が加わる。従って、部位Aのほうが相対的に部位Bよりも表面温度が高くなり、凹凸が生じ、該シートを樹脂成形体に貼り付けて一体化させることで凹凸を有する加飾成形体が得られる。
【0019】
(3)熱収縮性を有する樹脂シート上に、赤外線吸収率または反射率の異なる複数種の赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設ける。
真空成形同時成形を行う際には、前記赤外線吸収または反射率の高いインキで絵柄を設けた部位Aと前記赤外線吸収または反射率の低いインキで絵柄を設けた部分Bとが異なる表面温度となるようにする。
この場合、部位A及び部位Bともに赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるが、部位Aは部位Bよりも赤外線吸収または反射率の高いインキを設けた結果、より熱が加わる。従って、部位Aのほうが相対的に部位Bよりも表面温度が高くなり、凹凸が生じ、該シートを樹脂成形体に貼り付けて一体化させることで凹凸を有する加飾成形体が得られる。
【0020】
本願においては、熱収縮性を有する樹脂シートとして、結晶化処理させたシートを使用するので該収縮現象がより大きく発現でき、シートの両面に均等に凹凸が生じている。従って真空成形同時成形により被着体に貼り付けることで、高い延展倍率を必要とするような深絞り形状を有する被着体であっても再現よく鮮鋭な凹凸を得ることができる。
【0021】
(凹凸の定義)
本発明において凹凸の形成は、前述の通り、熱収縮性を有する樹脂シートを保持した状態で、該樹脂シートの同一面内にある隣り合う部位Aと部位Bとが異なる表面温度となることで生じる。本発明においては、相対的に表面温度の高い部位を部位A、相対的に表面温度の低い部位を部位Bと定義する。この時部位Aは相対的に凹部となり部位Bは相対的に凸部となる。
【0022】
部位Aは、熱収縮性を有する樹脂シートを赤外線照射時に樹脂が可塑化し樹脂シートの配向戻りが始まった時点で、自己収縮挙動による中心部薄膜化が発生すると考えられる。
この自己収縮挙動による厚み変化は、樹脂シートをなんら保持しない状態では、起点を持たず全体的に収縮が起こり全体的に厚くなる傾向があるが、樹脂シートをクランプ等で該シート外周の一部のみもしくは外周全部を保持した状態(以下単に「保持した状態」と称する場合がある)では、温度の低いクランプ部分等を起点に収縮が発生する傾向がありこの結果部位Aの薄膜化が発生すると考えられる。従って、部位Aは赤外線照射前、即ち収縮前の樹脂シートの膜厚よりも薄くなる場合が多い。
【0023】
一方部位Bは、部位Aと隣り合う部位であり部位Aと表面温度が異なり部位Aよりも表面温度が相対的に低い部位であるが、該部位Bは前記部位Aの中心部薄膜化が生じることにより部位Aに存在する樹脂成分が移動して生じた、あるいは自己収縮により収縮したと考えられ、相対的に部位Aよりも膜厚は厚くなる。殆どの場合において部位Bは赤外線照射前、即ち収縮前の樹脂シートの膜厚よりも厚くなる場合が多い。また部位Aと部位Bとの境目は、より膜厚が厚くなることが観察される(図3参照)。これにより、より強い凹凸感を得ることができる。
【0024】
工業的には樹脂シートを単発式真空成形機等で用いられるような固定クランプや連続式成形機等に付属しているクリップ等で固定し、周囲部を保持した状態とし、クランプ部分を起点に伸縮挙動を起こさせることで、容易に凹凸を起こさせることができるため、既存の成形機を好ましく用いることができる。
【0025】
前記凹凸が形成される一例を図1〜3に示す。図1は、高濃度の赤外線吸収インキ、低濃度の赤外線吸収インキ、及び(赤外線を吸収しない)色インキの3種を使用して絵柄印刷された熱収縮性を有する樹脂シートに、赤外線ヒーターを使用して赤外線を照射する状態を示した具体的一態様を示す図であり、図2は、図1において前記樹脂シートを保持した状態で赤外線を照射した後の前記樹脂シートの状態を示した図であり、図3は、図2における前記樹脂シートを真空成形法により被着体に貼り付けて一体化させた状態を示した図である。
図1のように前記樹脂シートに赤外線を照射することにより、図2の通り、高濃度の赤外線吸収インキの印刷部4即ち部位Aが最も薄膜化が生じ即ち凹部となり、低濃度の赤外線吸収インキ5が、前記印刷部4よりは厚膜となるが)色インキ印刷部6よりは薄膜となり前記印刷部4からみると凸部となる。さらに色インキ印刷部6が最も厚膜となるために最も高い凸部となる。
前記色インキ印刷部6を使用せずに非印刷部を有する樹脂シートの場合は、高濃度の赤外線吸収インキ印刷部が凹部となり、低濃度の赤外線吸収インキ印刷部が低い凸部、非印刷部が最も高い凸部となる。(図不示)
このように相対的に薄膜化と厚膜化が生じるため、凹凸が生じる。
【0026】
該凹凸の形成は、図2に示すように樹脂シートの両面に均等に発生する。従って該樹脂シートの被着体と接する面も凹凸が生じることになる。しかしながらこの状態で真空成形により被着体に貼り付けると、被着体の加飾面に浮き等が生じることもなく、綺麗に密着した凹凸を有する加飾成形体を得ることができる(図3参照)。さらに部位Aと部位Bとのシート表面の高低差は、図2に示す状態即ち真空成形前よりもより生じることが確認されている。これは恐らく真空成形法では樹脂シートが可塑化された状態(即ち加熱した状態)で成形するために、膜厚の薄いA部位も可塑化された状態で圧力をかけて被着体と接触するので、部位Aも被着面に密着し、相対的に膜厚の厚いB部位とのシート表面の高低がより大きく再現されるものと推定される。
【0027】
前記凹凸の高低差は表面荒さ計や膜厚計にて測定でき、加飾後の表面凹凸の最も高い部分と最も低い部分の差(以下膜厚差という)が10μm程度であれば凹凸発現として認識できる。明瞭な凹凸を発現させるためには膜厚差が15μm程度であることが好ましく、更に好ましくは20μm以上である。一方膜厚差は展開倍率に比例し小さくなるため深い成形品程凹凸の膜厚差は下がる傾向にある。また、展開倍率が高い程凹凸各々の幅も広がる傾向にある。
【0028】
本発明において凹凸で表現される柄は特に限定はなく、模様や文字等の模様状を表現する描画の太さ、大きさ、形等にも特に限定はない。即ち本発明は、前記(1)〜(3)の手段であれば印刷や手書き等、前記(4)の手段であればレーザー照射により凹凸を表現できるので、版を起こせるあるいは印字できる模様や文字であればどのような凹凸も可能である。
柄の例としては、点描や線描(具体的には絵画や文字の輪郭、木目、ストライプ、ヘアライン模様等が挙げられる)で表現された描画や、ドットや幾何学模様、文字やマークそのものを浮き出したい場合にはその模様の面積が小さい物の方がより好ましい。勿論本発明においてはこの限りではなく、模様や文字等、模様状の全ての柄を表現することが可能である。
図4〜図7に、本発明において凹凸で表現される柄模様の例を示す。黒部分が赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄印刷された部分である。図4はストライプ、図5はドット、図6は幾何学模様、図7は木目を表す。
【0029】
(表面温度)
本発明における凹凸は、前述の通り樹脂シートの前記部位Aと部位Bとの表面だけではなく内部まで均等に温度がかかった状態で生じるものと推定される。しかしながら内部温度を測定する手段はないために、本発明においては表面温度の差で確認した。本発明において表面温度はNEC/Avio社製「サーモトレーサー9100」を使用した。
【0030】
(結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート)
本発明で使用する結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート(以下樹脂シートSと略す)は、熱固定等の方法により結晶化処理され、且つ、加熱により展延性を示しフィルム化可能な樹脂であり、更に配向戻り強度変曲点を有する樹脂シートである。更に真空成形時の展延性の容易さから熱可塑性樹脂シートであることが好ましい。
【0031】
本発明における配向戻り強度変曲点温度とは、フィルムに外部から熱が加えられた時のフィルム温度であって、フィルム自体がこの温度になると延伸された分子が収縮し始めることにより、フィルム全体が収縮する温度であり、本発明においては、下記方法において配向戻り強度変曲点温度Tを定義している。
【0032】
即ち本発明において用いる配向戻り強度はASTM D−1504に準拠し測定されるものである。配向戻り強度とは、延伸されて得られたシートを加熱したときに、シートが延伸前の状態に復元しようとして示す力のことであり、各々の測定温度における最大応力をシートの断面積で割った値として求められ、延伸されたシートの分子配向程度を示す指標となるものとなる。
本発明においては前記熱収縮応力測定法を利用して、配向戻り強度と加熱温度との関係を示す右上がりグラフの凸となる変曲点の温度Tを求めた。凸となる変曲点が複数ある場合は、最も高い温度域の変曲点の温度を配向戻り強度変曲点温度Tとした。
具体的には、日理工業株式会社製D.N式ストレステスターを用い、電圧調整メモリを6とし、ヒーター温度を5℃刻みで昇温し、各測定温度での配向戻り応力を測定し、収縮応力が発現した後、配向戻り強度と加熱温度との関係を示すグラフの変曲点温度Tを求めた。図16に例を示した。図16は、東洋紡績株式会社製の二軸延伸PETシート「ソフトシャインX1130(膜厚125μm)」(実施例におけるシートS1)を測定したときのグラフである。該グラフの最も高い温度域の凸となる変曲点の温度T188℃を、シートS1の配向戻り強度変曲点温度Tとした。
【0033】
また樹脂は、延伸可能な樹脂であれば特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂やポリスチレン樹脂、ナイロンやビニロン等を使用することができる。中でも芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコール及び、分岐状脂肪族グリコール及び/又は脂環族グリコールを含むグリコール成分とから構成される共重合ポリエステル等の軟質成分を原料成分の一部とした軟質タイプのポリエステル樹脂が成形性の観点から好ましい。
前述の通り配向戻り強度変曲点を有する樹脂シートは一般に延伸処理を施してあるが、該延伸処理方法としては、押出成膜法等で樹脂を溶融押出してシート状にした後、同時二軸延伸あるいは逐次二軸延伸を行うことが一般的である。逐次二軸延伸の場合は、はじめに縦延伸処理を行い、次に横延伸を行うことが一般的である。具体的にはロール間の速度差を利用した縦延伸とテンターを用いた横延伸を組み合わせる方法が多く用いられる。
【0034】
テンター法は広幅な製品がとれ、生産性が高いことがメリットである。樹脂塑性や目的とする物性や成形性に応じ延伸条件等は異なることから特に制限されるものではないが、通常面倍率で1.2〜18倍、より好ましくは2.0〜15倍である。逐次延伸の場合の流れ方向の延伸倍率は1.2〜5倍で、好ましくは1.5〜4.0倍であり、流れ方向に対しクロス方向の延伸倍率は1.1〜5倍で好ましくは1.5〜4.5倍である。同時2軸延伸の各方向の延伸倍率は、1.1〜3.5倍、好ましくは1.2〜4.2倍である。
【0035】
具体的には、一軸延伸シートや二軸延伸シート等の延伸シートが使用できるが、二軸延伸シートが本発明の効果を最大限に発揮でき好ましい。また同時二軸延伸シートであれば面内の収縮率が均等であるので歪みのない凹凸意匠が得られるが、一方歪みを予め計算して一軸延伸や2段逐次二軸延伸シートを使用する場合もある。
【0036】
結晶化処理は一般的に、前記延伸処理後の熱固定で行われる。通常はテンター等のオーブン中で行われ、特に限定はしないがポリエステル樹脂の場合は150〜240℃の条件下5〜60秒程度で好ましく行われる。
特に本発明で好ましく使用する軟質成分であるグリコール成分を含有するポリエステル樹脂は、熱固定をしないと凹凸発現が起こる温度より以前からシートのドローダウンの発生が始まり、成形領域で充分な凹凸を持つ加飾成形体を得ることが出来ないおそれがある。
【0037】
充分な熱固定をされた結晶化処理された樹脂シートはより大きな凹凸を発現させることが出来るので好ましい。これは前述の通り、結晶の融解現象が急激に進行するため、結晶化を施したシートは部位Aと部位Bの配向戻り強度変曲点温度Tで発生する強度差がより明確になるためと推測している。つまり、電磁波、特に赤外線照射によるエネルギーを効果的に凹凸発現に利用できるためと推測している。
【0038】
前記樹脂シートSの膜厚は、赤外線加熱と放熱のバランスが良いことから、真空成形に通常使用される熱成形用シートの膜厚0.04mm以上が好ましい。印刷適性の観点も含めると0.04mm〜1.0mmが好ましく、グラビア印刷が可能となるロール形状に出来る事から、0.04mm〜0.5mmがより好ましく、更に好ましくは0.1mm〜0.3mmである。
【0039】
(赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキ)
本発明で使用する赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキについて説明する。
赤外線吸収インキとは赤外線吸収剤を含むインキであり、赤外線反射インキは赤外線反射物質を含有するインキであり、いずれもセキュリティインキ等に利用されているインキである。
前述の通り、赤外線吸収インキは照射された電磁波、特に赤外線を吸収し発熱する。即ち赤外線吸収インキで印刷された樹脂シートに赤外線を照射すると、前記赤外線吸収インキで印刷された部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わる。一方、赤外線反射インキは赤外線反射物質を含有するインキであり、照射された赤外線を反射する。赤外線反射インキで印刷された樹脂シートに該樹脂シート側(即ち樹脂シートの印刷面とは反対側の面)から赤外線を照射すると、該樹脂シートを通過した赤外線が該赤外線反射インキで反射されることにより、赤外線透過部位と反射部位とが重なる印刷部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わる。即ち、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキを印刷した部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるため、該部位の表面温度を高くすることができ、結果、樹脂シートの、赤外線吸収インキで印刷された部位と印刷されない部位とに温度差を生じさせることができる。
【0040】
真空成形法は、真空成形する樹脂シートを電磁波による加熱方式、主に赤外線照射等の方法により加熱をして、該樹脂シートを熱成形に適した弾性領域とした上で成形する方法である。本発明においても、電磁波による加熱方式によって樹脂シートS自体の温度を上昇させて熱成形に適した弾性領域とする。このとき、樹脂シートS上に赤外線吸収インキまたは赤外線反射インキが設けられた部位が存在すると更に熱が加わるために凹凸が発生するが、このときの部位A(相対的に表面温度の高い部位)が、樹脂シートSの配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となればよい。更に部位Aと部位Bとの温度差は、7℃以上が好ましく、より深い凹凸が付与できることから9℃以上がより好ましく、更に好ましくは13℃以上である。
部位Aのみが配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となるように赤外線照射してもよく、また、部位Aと部位Bの両方が配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となるように赤外線照射してもよい。この場合、後者のほうがより深い凹凸を得ることができる。
【0041】
赤外線吸収インキは、一般に赤外線吸収剤として市販されている物質、あるいは、赤色から近赤外、赤外レーザー光の波長域の波長を吸収して発熱する機能を有する公知の種々の赤外線吸収性顔料や染料等を含むインキが好適に挙げられる。赤外線吸収剤としては具体的には例えば、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、カーボンブラック、チタンブラック、酸化チタン、Cu−Cr系複合酸化物、フタロシアニン、ナフタロシアニン、シアニン等の顔料や染料、ポリメチン系顔料や染料、スクワリリウム色素などの赤色吸収剤、近赤外吸収剤、赤外線吸収剤が挙げられる。
【0042】
赤外線反射インキが含有する赤外線反射物質は、アルミニウム、金、銀、銅、真鍮、チタン、クロム、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等の金属やFe−Cr系複合酸化物、三酸化アンチモン、ジクロム酸アンチモン等が挙げられる。
【0043】
前記赤外線吸収剤や赤外線反射物質の粒径は特に限定はなく、通常のインキとして使用される範囲であれば特に問題なく使用することができる。
一方、前記インキ濃度は、濃度が高い程部位Aにかかる熱量が大きくなる。従って所望する凹凸の程度により適宜含有量を変えることが好ましい。一方濃度が低すぎると赤外線照射により発生する熱量や赤外線反射量が少なすぎて凹部とならず、濃度が高すぎると発生する熱量や赤外線反射量が大きくなりすぎて、破れや穴あき等の原因となるので、後述の通り成形時の弾性率が0.5MPa以下にならない様に適宜調整をする必要がある。
【0044】
また、インキワニスも特に限定なく公知のワニス用樹脂等を使用することができる。ワニス用樹脂は、例えば、アクリル樹脂系、ポリウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系、ビニル樹脂系(塩ビ、酢ビ、塩ビ−酢ビ共重合樹脂)、塩素化オレフィン樹脂系、エチレン−アクリル樹脂系、石油系樹脂系、セルロース誘導体樹脂系などの公知のインキを用いることができる。
【0045】
また、所望する意匠性に応じて、前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキに汎用の色材等を含有してもよい。このとき、前記赤外線吸収剤や赤外線反射物質として透明性の高いものを使用すれば、汎用の色材を生かすことができ好ましい。また版を変えて汎用の色材を含有したインキで別途絵柄層を設けてもよい。この場合に使用する色材は特に限定はないが、熱吸収性を有する色材は該印刷部分に凹凸を生じさせることも可能なため、目的に応じ適宜配合割合を変える事が好ましい。
【0046】
前記(1)〜(3)の手段において、樹脂シートSに赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設ける方法は、手書きやコーティング、印刷等が挙げられるが、工業的には印刷が好ましい。方法については特に限定はなく、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、刷毛塗り、ロールコーティング、コンマコーティング、ロッドグラビアコーティング、マイクログラビアコーティングなどの方法が挙げられる。中でもグラビア印刷法が好ましい。
絵柄は、通常は、前記樹脂シートSを被着体に貼り付けた際に、前記樹脂シートSと被着体との間となるように設けると、樹脂シートSにより絵柄が保護されることや、美観が付与されることから好ましい。通常は、図1のように、赤外線が樹脂シートを透過して赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキ層に到達するように照射する。特に赤外線反射インキを使用した場合には、このような照射方法としないと、逆に赤外線反射インキが樹脂シートを透過する前に赤外線を反射してしまい、即ち樹脂シートの印刷部に赤外線が透過せずに可塑化されない可能性がある。従って例えば使用する真空成形装置の赤外線照射装置が、成形用シートの保持(クランプ)部と被着体との間に設置されている場合、即ち成形用シートを加熱する際に該シートの被着体との密着面から加熱するように設計されている真空成形装置を使用する場合は、得られた加飾成形体の加飾部分は、赤外線から得た熱を反射させる物質を含有するインキ層/樹脂シートS/被着体の順となるように成形するのが好ましい。
【0047】
前記(1)の手段においては、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位Aは、赤外線等の照射量以上の熱が加わるので相対的に表面温度が高くなり、凹部となる。一方、絵柄を設けない部位Bは、赤外線照射量の熱のみが加わるため、相対的に部位Aよりも表面温度が低くなり、凸部となる。
【0048】
前記(2)の手段においては、部位A及び部位Bともに赤外線等の照射量以上の熱が加わるが、部位Aは部位Bよりインキ濃度が高い結果、部位Aは部位Bよりもより熱が加わる。従って部位Aのほうが相対的に部位Bよりも表面温度が高くなり、部位Aが凹部となり部位Bが凸部となる。
前記(2)の手段は、具体的には、インキ濃度の異なるインキを使用して部位A及び部位Bを設ける、あるいは、インキは1種であるがそのインキ盛り量を部位Aにより多くするなどの方法により、インキ濃度を調整することが可能である。
また、部位Aは1つである必要はなく、例えば、インキ濃度の異なる3種のインキを使用した場合、濃度の最も低いインキを使用した部位は部位Bとなり凸部となり、濃度の最も高いインキを使用した部位は最も深い凹部である部位A”となる。またインキ盛り量で調節することも勿論可能である。
【0049】
前記(3)の手段においては、部位A及び部位Bともに赤外線等の照射量以上の熱が加わるが、部位Aは部位Bよりも赤外線吸収または反射率の高いインキを設けた結果、部位Aは部位Bよりもより熱量が加わる。従って、部位Aのほうが相対的に部位Bよりも表面温度が高くなり、部位Aが凹部となり部位Bが凸部となる。
前記赤外線吸収インキの吸収率、あるいは赤外線反射インキの反射率は一概には比較できないが、大まかな目安としては、アルミニウムを使用した赤外線反射インキとカーボンブラックを使用した赤外線吸収インキを併用した場合には、アルミニウムを使用したインキが凹部となりカーボンブラックを使用したインキは凸部となる。またカーボンブラックを使用した赤外線吸収インキと酸化チタンを使用した赤外線吸収インキとを併用した場合には、カーボンブラックを使用したインキが凹部となり酸化チタンを使用したインキは凸部となる。
従って、具体的には、部位Aをアルミニウムを含むインキで印刷し、部位Bをカーボンブラックを含むインキで印刷すれば、部位Aは凹部となり部位Bが凸部となる。また、部位Aをカーボンブラックを含むインキで印刷し、部位Bを酸化チタンを含むインキで印刷すれば、部位Aは凹部となり部位Bが凸部となる。このように、熱発生物質は、所望する凹凸意匠と視認性を有する絵柄意匠とを加味して適宜選択することが可能である。
【0050】
前記(1)〜(3)の手段を取り混ぜて行うことも可能である。例えば、樹脂シートSに、赤外線吸収インキで、1版刷りの部位と複数版刷りの部位とが生じるように印刷を行い、且つ非印刷部を設けた場合は、複数版刷りの部位が最も深い凹部であり、一般刷りの部位が、複数刷りの部位からみると凸部であり非印刷部からみると凹部であり、且つ非印刷部が凸部であるような凹凸を与えることができる。
また赤外線吸収インキであって濃度の低いインキと濃度の高いインキとを使用して印刷を行い、且つ非印刷部を設けた場合は、濃度の高いインキの刷り部位が最も深い凹部であり、濃度の低いインキを使用の刷り部位が前記濃度の高いインキの刷りの部位からみると凸部であり非印刷部からみると凹部であり、且つ非印刷部が凸部であるような凹凸を与えることができる。
【0051】
(その他の任意の層 接着層)
また、前記樹脂シートSの他に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の層を有していても良い。本発明においては、加熱することで配向戻り強度変曲点を有し熱収縮性を示すシートを使用するため、該収縮性を阻害せず、樹脂シートSよりも低温で可塑性を示す樹脂層を加えることが可能である。また樹脂シートSよりも高い温度で可塑性を示す樹脂層であっても、前記部位Aと部位Bとの膜厚差にある程度追従できる柔軟性を備えていれば加えることが可能である。このような観点から、可塑性を示す樹脂層からなる接着剤や粘着剤等の接着層を付与することは、被着体と接着力をより高めることから好ましい。前記接着層は樹脂シートSと被着体とに接着する材質のものを適宜選択することが可能である。
接着層は、前記樹脂シートSの被着体と密着すべき面に設けることが好ましい。多くの場合樹脂シートSは加飾後の加飾面を保護する目的も兼ね備えていることから、熱発生物質を含むインキが設けてある場合は、
樹脂シートS/熱発生物質を含むインキ/接着層
の順に積層されていることが好ましい。
【0052】
例えば接着剤としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、天然ゴム、SBR、NBR、シリコーンゴム等の合成ゴムなどがあげられ、溶剤型又は無溶剤型のものが使用出来る。
【0053】
また、粘着剤としては、熱成形する温度でタック性を有するものであれば良く、例えば、アクリル樹脂、イソブチレンゴム樹脂、スチレン−ブタジエンゴム樹脂、イソプレンゴム樹脂、天然ゴム樹脂、シリコーン樹脂などの溶剤型粘着剤や、アクリルエマルジョン樹脂、スチレンブタジエンラテックス樹脂、天然ゴムラテックス樹脂、スチレン−イソプレン共重合体樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテルなどの無溶剤型粘着剤などがあげられる。
【0054】
特に好ましいものとしては、接着剤としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂(例えば、DIC(株)社製:タイホース、クリスポン、日本ポリウレタン社製:ニッポラン)があげられる。また粘着剤としては、透明性や耐候性の点から溶剤型アクリル樹脂の粘着剤(例えば、DIC(株)社製:クイックマスター、ファインタック、綜研化学社製:SKダイン)があげられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。
【0055】
また前記粘着剤においては、粘着強度を調整するために粘着付与剤(タッキファイヤー)を添加してもよい。粘着付与剤は特に限定されず、例えばロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族共重合系石油樹脂、脂環族系炭化水素樹脂、及びこれらの変性品、誘導体、水素添加品等があげられる。
粘着付与剤の配合量は特に限定されず、全樹脂固形分100質量部に対して100質量部以下、好ましくは50質量部以下とすることが好ましい。
【0056】
また、樹脂シートSよりも高い温度で可塑性を示す架橋型の樹脂層であっても、前記部位Aと部位Bとの膜厚差にある程度追従できる柔軟性を備えていれば加えることが可能である。このような観点から、耐摩擦性、耐摩傷性、耐候性、耐汚染性、耐水性、耐薬品性、耐熱性等の特性を付与する目的で、延展性を妨げない程度に一部架橋してなる表面保護層を有していても良い。架橋形態は特に限定はなく、イソシアネートと水酸基との熱硬化反応、エポキシ基と水酸基との熱硬化反応、(メタ)アクリロイル基のラジカル重合反応を利用したUVあるいは熱硬化反応、シラノール基や加水分解性シリル基の加水分解縮合反応等既存の反応を利用すればよいが、イソシアネートと水酸基との熱硬化反応が熱成形時にかかる熱を利用して架橋反応を促進することができるため好ましい。
【0057】
本発明で使用する樹脂シートSは、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキ層、あるいは他の層を加えた全体としての膜厚が真空成形に使用される熱成形用シートに通常使用される膜厚であれば特に限定はない。
【0058】
(製法)
本発明の加飾表面に凹凸を有する加飾成形体の製造方法は、具体的には、
本発明の熱成形用加飾シートを、保持した状態で、
該樹脂シートの同一面内にある隣り合う部位Aと部位Bとが、前記部位Aと前記部位Bとの表面温度が異なり、且つ、少なくとも部位Aの表面温度が前記樹脂シートの配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となるように、赤外線照射して、前記部位Aと部位Bとに膜厚差を生じさせる工程(1)と
前記樹脂シートを真空成形法により被着体に貼り付けて一体化する工程(2)により得ることができる。
【0059】
具体的には、真空成形法、圧空真空成形法等に用いる既存の熱成形機を使用する。本発明においては、前記工程(1)と前記工程(2)とは連続して行うことから、赤外線照射手段を有する熱成形機が好ましい。
【0060】
(工程1 保持)
前記工程1において、保持した状態とは、該樹脂シートS外周の一部のみもしくは外周全部を固定した状態、即ち、該シートSの被着体に貼り付ける面は基板等でなんら支持されない状態を指す。具体的には、樹脂シートSの一部分を挟持等で固定する方法や樹脂シートSの全周囲を枠状クランプで挟持させ固定する方法等が挙げられるが、樹脂シートSの張力を適正化(均一化)することができるためシートの全周囲を枠状クランプで挟持させ固定する方法が好ましい。
なおここで固定とは、枠状クランプ等のジグを使用して挟持する方法の他、樹脂シートSの可塑化や収縮を防止することによっても可能である。具体的には、樹脂シートSの被着体に貼り付ける面以外の部分、好ましくはシート外周部位のシート温度をガラス転移温度(以下Tgと称する場合がある)以下に保ち可塑化を防ぐことによっても、固定が可能である。
【0061】
(工程1 電磁波による加熱方式 赤外線)
前記樹脂シートSを保持した状態で、少なくとも部位Aの表面温度が前記樹脂シートの配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となるように電磁波、好ましくは赤外線照射することで、前記部位Aと前記部位Bとが異なる表面温度となって加温され、結果、前記部位Aと部位Bとに膜厚差が生じる。この場合の加温は波長を持つエネルギーである電磁波による輻射加熱により行われる。原理としては電磁波がフィルム及び赤外線吸収インキ等に照射され、その電磁波の波長に共鳴する物質のみがエネルギーを共振吸収し、分子レベルでの振動が起こりその摩擦熱により加温されるというものである。
本発明に使用する電磁波としては、プラスチックを効率的に加温できる赤外線を好ましく用いることが出来る。特に、赤外線に共鳴する赤外線吸収インキを組み合わせることで、フィルム全体の加温に加えインキ部分を選択的に加熱することができ、更にインキ濃度や種類等により異なる吸収率を実現できるため、無数のパターンの温度分布をフィルム上に発現させる事が出来るのである。また、赤外線反射インキをフィルム裏面に配することにより一度フィルムを透過した赤外線を反射させ更にフィルムを加温することで効率良くその部分のみの温度を上げることも可能となる。
このとき照射する赤外線は、赤色から近赤外、赤外レーザー光の波長域であれば特に限定はなく使用できる。赤外線照射量の上限は、特に制限はないが、あまり高い熱量がかかると樹脂シートSの剛性が落ち、可塑化が進み破れ発生等、成形に支障をきたすおそれがあるため、使用する樹脂シートSの最も高い部分の温度が、JIS K7244−1法で求められる動的粘弾性測定の貯蔵弾性率(E’)の値として0.5MPa以上となる様にすることが真空成形法、好ましく、より好ましくは1MPa以上となるように照射量を設定することが好ましい。
多くの場合、具体的に圧空真空成形法等に用いる既存の間接加熱型熱成形機を利用可能である。シートの加熱を行う赤外線照射装置は熱発生物質のみが吸収可能な波長を照射する必要があるため、中赤外から近赤外の領域に強い波長ピークをもつハロゲンヒーター、短波長ヒーター、カーボンヒーター、中赤外線ヒーター等を使用することが好ましい。これら赤外線照射装置のメイン波長のピークは1.0〜3.5μm内にあることが好ましく、効率よい膜厚さを生じさせることが出来、吸熱性物質とその他の部分の温度差が付きすぎず効率の良い生産が可能な事から1.5〜3.0μmの範囲が更に好ましい。
【0062】
加熱手段として設置されている赤外線照射装置は多くの場合、温度制御となっていることが多い。従って本発明においては、赤外線照射量は、照射量そのものではなく赤外線を照射した結果の樹脂シートSの部位Aと部位Bの表面温度から評価した。
赤外線照射の最低量は、樹脂シートSの少なくとも部位Aの表面温度が前記樹脂シートの配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度であり、且つ非晶化する温度以上となるように設定することが大きな凹凸を発生できることから好ましい。これは非晶化が始まる温度を境に、つまり結晶の融解が始まる温度になると、動的粘弾性測定で測定されるE’で確認できるようにシートの弾性率が急激に低下するため、この温度付近が最も部位Aと部位Bの配向緩和応力の影響を受けやすくなるからであると推測している。一方、部位Aの温度は、あまり高い温度となると部位Aの可塑化が進み穴あき等の不良が発生するおそれがあることから、部位Aの動的粘弾性測定で測定されるE’が0.5MPa以上とするように、赤外線照射の最高量を設定することが好ましく、より好ましくは1.0MPa以下である。
【0063】
また、前記赤外線照射は、大気圧下で行っても特に問題はないが、効率よく凹凸の発現が可能なことから真空下で行うことが好ましい。通常の真空成形は大気圧下での赤外線照射による加熱を行うが、本発明では、真空状態で赤外線照射を行うことにより同じ温度においてもより大きな膜厚差を効果的に発現させることを見出した。これは大気の熱伝導の影響を受けることなく、赤外線の波長が効率よく樹脂シートSやインキに到達するためと推定している。これは逆にいえば、周囲の加温された空気が殆ど存在しないため、余分な熱が部位Aや部位Bに伝わりにくいと推定している。
【0064】
この後必要に応じ不要部分を必要に応じトリミング加工してもよい。トリミング加工方法についても特に限定はなく、はさみやカッター等でカットする方法、ダイカット法、レーザーカット法、ウォータージェット法、抜き刃プレス法により加工することができる。
【0065】
(被着体)
本発明で使用する被着体としては、特に限定されず、透明または不透明で表面意匠性を有していればよい。具体的には、樹脂、金属、ガラス、木、紙、カーボンなどの各種形状物を用いることができ、前記形状物は、塗装、メッキ、スクラッチ等の常用加飾法により加飾されていてもよい。
【0066】
被着体が透明または半透明である樹脂成形体であると、前記樹脂シートSを通して透けて見え、色調に深みを付与することができる。半透明または不透明の樹脂成形体は、通常、着色剤を配合した成形樹脂を成形して得られる。着色剤としては特に限定されず、目的とする意匠に合わせて、一般の熱可塑性樹脂の着色に使用される慣用の無機顔料、有機顔料および染料などが使用できる。例えば、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄、複合酸化物系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、バナジウム酸ビスマス、カーボンブラック、アイボリーブラック、ピーチブラック、ランプブラック、ビチューム、グラファイト、鉄黒、チタンブラック、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク等の無機顔料;アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、アンスラキノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、チオインジゴ系顔料及びジケトピロロピロール系顔料等の有機顔料;金属錯体顔料などが挙げられる。また染料としては主として油溶性染料のグループから選ばれる1種または2種を使用することが好ましい。
【0067】
また使用する樹脂も特に限定されず、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレートなどのアクリル樹系脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂、アクリロニトリル−エチレンゴム−スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレン樹脂などのスチレン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリルニトリル、ナイロンなどのポリアミド樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−アクリル酸樹脂、エチレン−エチルアクリレート樹脂、エチレン−ビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの塩素樹脂、ポリフッ化ビニルやポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、メチルペンテン樹脂、セルロース樹脂等、ならびにオレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマー等を用いることができる。また、前記例示の樹脂を2種類以上を混合若しくは多層化して用いても良い。さらに、無機フィラー等の補強剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤等の常用の添加剤を添加してもよく、これらの添加剤は単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により説明する。特に断わりのない限り「部」、「%」は質量基準である。
【0069】
(樹脂シートS)
シートS1:東洋紡績株式会社製の二軸延伸PETシート「ソフトシャインX1130」(膜厚125μm)
【0070】
(配向戻り強度変曲点温度T測定方法)
前記樹脂シートSの配向戻り強度変曲点温度Tは、以下のように行った。
日理工業株式会社製D.N式ストレステスターを用い、電圧調整メモリを6とし、ヒーター温度を5℃刻みで昇温し、各測定温度での配向戻り応力を測定し、配向戻り強度変曲点温度Tを読み取った。結果、
シートS1の配向戻り強度変曲点温度T: 188℃
である。
【0071】
(赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキ)
赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキは、及び色インキは以下のインキを使用した。
インキP1:三菱鉛筆社製「ペイントマーカー」黒色 赤外線吸収インキとして使用。
インキP2:三菱鉛筆社製「ペイントマーカー」銀色 赤外線反射インキとして使用。
インキP3:三菱鉛筆社製「ペイントマーカー」青色 色インキとして使用。
インキG1:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」黒色 カーボンブラックを含み赤外線吸収インキとして使用。
インキG2:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」銀色 アルミペーストを含み赤外線反射インキとして使用。
インキGH1:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」赤色 色インキとして使用。
インキGH2:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」青色 色インキとして使用
インキGH3:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」黄色 色インキとして使用
インキGH4:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」パール色 色インキとして使用
なお、前記インキG1とインキG2では、G2のほうが表面温度が高くなる。
【0072】
(絵柄印刷方法)
前記樹脂シートSに、前記インキG1〜G4、GH1〜GH4を使用して、グラビア4色印刷機にて厚さ3μmの絵柄を印刷した。
また前記樹脂シートSに、前記インキP1〜P3を使用して、手書きにて直線を描いた。
【0073】
(工程(1)における膜厚差発現の確認)
樹脂シートSとしてシートS1を使用し、流れ方向(MD)及びクロス方向(CD)に、前記インキP1〜P3を使用して幅2mmの直線を描いた。これを後述の布施真空株式会社製「NGF−0709成形機」を使用し、真空下、シート周囲を完全にクランプで固定した状態で、ヒーターとしてヘリウス社製中赤外線ヒーターを使用し前記樹脂シートSを前記直線を描いた面とは反対側から間接加熱した。
キーエンス社製FT−H30放射温度計にて、樹脂シートSの表面温度がヒーター設定温度まで上昇したことを確認した後、常温まで冷却しクランプをはずして試料とした。
インキが描かれている部位Aとインキが描かれていない部位Bの表面温度は、NEC/Avio社製サーモトレーサーTH9100を使用して、前記部位Aが、使用する樹脂シートSの配向戻り強度変曲点温度Tとなった時の、前記部位Aと前記部位Bの温度差/℃と、使用する樹脂シートSの表面温度がヒーター設定温度まで上昇した時(該温度は、通常、熱成形が可能となったことを判断する温度である)の、前記部位Aと前記部位Bの温度を測定した。
また、前記部位Aと前記部位Bの膜厚の測定は、アンリツ社製K351C、高低差測定は東京精密社製サーフコムver1.71表面粗さ系を使用し、前記部位Aと前記部位Bとの最大膜厚差を測定した。
この結果、参考例1は、良好な凹凸を発現することができた。
【0074】
【表1】
【0075】
(真空成形同時貼り付け方法)
布施真空株式会社製「NGF−0709成形機」を使用し、熱成形を行った。
グラビア4色印刷機にて厚さ3μmの絵柄を印刷した樹脂シートSの周囲を完全にクランプ後、成形機の上下ボックスを閉じ、ボックス内をほぼ完全真空状態にした後、ヒーターとしてヘリウス社製中赤外線ヒーターを使用し前記樹脂シートSを上面より間接加熱し、前記樹脂シートSの表面温度が設定温度まで上昇した後に、被着体を乗せたテーブルを上昇させ、上ボックス中に0.2MPaの圧空を吹き込み、前記樹脂シートSを被着体に貼り付けて一体成形させた。
真空成形時における樹脂シートSの表面温度分布測定は真空状態で出来ないため、成形機下ボックスに開口を空け、NEC/Avio社製サーモトレーサーTH9100を用いて表面温度分布測定を行った。ヒーターは成形前に昇温を開始するシステムとなっているが、ヒーターの最終温度は約900〜930℃であった。
また、樹脂シートSの表面温度が設定温度に達したかどうかの測定は、キーエンス社製FT−H30放射温度計により行った。
なお、ヒーターと樹脂シートSとの距離は250mm程度、被着体は膜厚差を測定できる様に、縦80mm×横150mm×厚さ2mmの平板を使用した。
【0076】
(実施例1〜4 熱成形用加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
樹脂シートSとしてシートS1を使用した。インキG1、G2、GH1〜GH4のいずれかを使用してグラビア印刷にて所定の絵柄印刷を行い、加飾シート(1)〜(4)を得た。(絵柄印刷版は、実施例1:図8参照、実施例2:図10参照、実施例3:図12参照、実施例4:図14参照)
【0077】
(加飾成形体の製造方法)
前記熱成形用加飾シート(1)〜(4)を使用し、前記真空成形同時貼り付け方法により平板への加飾成形を行った。得られた加飾成形体の凹凸差の最大値を測定した。結果を表2及び表3に示す。
何れも、インキG1及びインキG2を使用した模様部分に明瞭な凹凸の発現が認められる加飾成形体を得た。
【0078】
シートS1にインキG1とインキGH2の2版で印刷した熱成形用加飾シート(1)(これは前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位Aと絵柄を設けない部位Bとを有する例である)は、熱発生物質T1であるカーボンブラックを含んだインキG1の印刷部のみが凹となった。
【0079】
また、インキG2を2版使用して印刷した熱成形用加飾シート(2)(これは前記インキ濃度の高い部位Aと前記インキ濃度の低い部位Bとを有する例であり、各々の版の重なり部分が部位Aに相当し、1版で刷られた部分が部位Bに相当する)、は、各々の版の重なり部分である部位Aに凹が生じた。
【0080】
またシートS1にインキG1,GH1、GH2、GH4の4版で印刷した熱成形用加飾シート(3)(これは前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位Aと絵柄を設けない部位Bとを有する例である)は、インキG1の印刷部のみが凹となった。
【0081】
またインキG1,GH1,GH2,GH3の4版で印刷した熱成形用加飾シート(4)(これは前記インキ濃度の高い部位Aと前記インキ濃度の低い部位Bとを有する例であり、図14に示したように、インキG1の一部は重ね刷りされている(図14中8−2)。重ね刷りされた図14中8−2が部位Aに相当し、1版で刷られた図14中8が部位Bに相当する)は、インキG1の印刷部のみが凹となり、且つインキG1を重ね刷りした部位(図14中8−2)はより深い凹みとなった。
【0082】
前記熱成形用加飾シート(1)〜(4)の、熱成形後のシートのDSC測定を行った所、熱成形前のシートとは異なり132℃付近に再結晶化起因によるピークが認められ、非晶化していることが確認された。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
(実施例1−2,1−3 展開倍率を変化させた加飾成形品の製造方法)
実施例1で得た加飾シート(1)を使用し、展開倍率を変えて前記真空成形同時貼り付け方法により平板へ加飾成形を行った。得られた加飾成形体の、凹凸差の最大値を測定した。結果を表4に示す。何れも、明瞭な凹凸を有する加飾成形体を得た。
尚、展開倍率は、メス型箱形状の金型の中に被着体を設置し、その深さを変えることで、展開倍率が100%(未延伸)、160%、290%となるようにした。
【0086】
【表4】
【0087】
(実施例5 表面保護層を付与した加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
表面保護層を塗布したシートS1の該表面保護層(以下TPと称す)とは反対側の面にインキG1またはインキGH2を使用してグラビア印刷にて所定の絵柄印刷を行い、加飾シート(5)を得た。
【0088】
前記加飾シート(5)を、前記真空成形同時貼り付け方法により平板へ加飾成形を行った。結果を表5に示す。
【0089】
(表面保護層)
前記表面保護層は、水酸基含有共重合体とポリイソシアネート化合物を1:1の割合で混合したものを使用した。
【0090】
(水酸基含有共重合体)
酢酸ブチル850部とパーブチルZ(商品名、日本油脂社製、t−ブチルパーオキシベンゾエート)1部の混合溶液中を110℃に加熱し、メチルメタクリレート660部、t−ブチルメタクリレート150部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート190部の混合溶液、及び、酢酸イソブチル200部、パーブチルO(商品名、日本油脂社製、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)9部、パーブチルZ(商品名、日本油脂社製、t−ブチルパーオキシベンゾエート)2部の混合溶液を、窒素雰囲気下で約5時間かけて滴下混合した後、15時間攪拌し、固形分含有率60%の水酸基含有共重合体を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は100,000、固形分の水酸基価は79KOHmg/g、ガラス転移温度Tgは95℃であった。ここで、重量平均分子量はGPC測定のポリスチレン換算値、水酸基価はモノマー仕込み組成よりKOH中和量としての算出値、ポリマーTgはDSCによる測定値である。
【0091】
(ポリイソシアネート化合物)
ポリイソシアネート化合物として、イソシアヌレート環含有ポリイソシアネート「BURNOCK DN−981」(商品名、DIC株式会社製、数平均分子量約1000、不揮発分75%(溶剤:酢酸エチル)、官能基数3、NCO濃度13〜14%)を用いた。
【0092】
【表5】
【0093】
(実施例6 接着層を付与した加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
前記加飾シート(1)に接着層として粘着剤厚み25μmのDIC株式会社製の両面テープ「DAITAC ZB7011W」をラミネートし、加飾シート(6)を得た。尚、ラミネート条件は、MCK社製ハルダーを用い、ニップ圧0.3MPa、速度4m/minで行った。
前記加飾シート(6)を、前記真空成形同時貼り付け方法により厚み3mmの平板へ加飾成形を行った。結果を表6に示す。尚、粘着剤を付与しているため膜厚測定は平板及び離型フィルム込みの厚みで行った。
【0094】
【表6】
【0095】
(比較例1〜3 加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
シートS1に前記インキGH1〜GH4を使用してグラビア印刷にて所定の絵柄印刷を行い、加飾シート(H1)〜(H3)を得た(比較例1:図8参照、比較例2:図10参照、比較例3:図12参照)。
【0096】
【表7】
【0097】
前記加飾シート(H1)〜(H3)を使用した以外は、実施例1と同様にして加飾成形体を得た。その結果、凹凸のある成形体を得ることができなかった。
【0098】
【表8】
【0099】
(比較例4 加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
加飾シート(1)の周囲を金枠で固定し、保持後185℃の恒温槽中に5分放置し、非晶化処理を行った加飾シート(H4)を得た。(比較例4:図14参照)
【0100】
【表9】
【0101】
前記加飾シート(H4)を使用した以外は、実施例1と同様にして成形を行った。この結果、ドローダウンが発生し破れが生じて、加飾成形体を得る事が出来なかった。
また、成形開始設定温度を下げ170℃として加飾成形を行ったところ、成形は可能であったが、凹凸のある成形体を得ることができなかった(比較例5)。
【0102】
【表10】
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】:赤外線吸収インキで絵柄印刷された熱収縮性を有する樹脂シートに、赤外線ヒーターを使用して赤外線を照射する状態を示した具体的1態様を示す図である。
【図2】:前記樹脂シートを保持した状態で赤外線を照射した後の樹脂シートの状態を示した図である。
【図3】:図2の樹脂シートを真空成形法により被着体に貼り付けて一体化させた状態を示した図である。
【図4】:本発明で使用される柄印刷層の一例である。黒部分が該印刷層である。(ストライプ)
【図5】:本発明で使用される柄印刷層の一例である。黒部分が該印刷層である。(ドット)
【図6】:本発明で使用される柄印刷層の一例である。黒部分が該印刷層である。(幾何学模様)
【図7】:本発明で使用される柄印刷層の一例である。黒部分が該印刷層である。(木目)
【図8】:実施例1の加飾シート(1)の模式図である。上部が平面図、下部が前記平面図の黒枠の断面図である。
【図9】:実施例1の加飾シート(1)を使用した加飾成形体の断面図の模式図である(実施例1)。
【図10】:実施例1の加飾シート(2)の模式図である。上部が平面図、下部が前記平面図の黒枠の断面図である。
【図11】:実施例2の加飾シート(2)を使用した加飾成形体の断面図の模式図である(実施例2)。
【図12】:実施例3の加飾シート(3)の模式図である。上部が平面図、下部が前記平面図の黒枠の断面図である。
【図13】:実施例3の加飾シート(3)を使用した加飾成形体の断面図の模式図である(実施例3)。
【図14】:実施例4の加飾シート(4)の模式図である。上部が平面図、下部が前記平面図の黒枠の断面図である。
【図15】: 実施例4の加飾シート(4)を使用した加飾成形体の断面図の模式図である(実施例4)。
【図16】:東洋紡績株式会社製の二軸延伸PETシート「ソフトシャインX1130(膜厚125μm)」(実施例におけるシートS1)をASTM D−1504に準拠し測定した、配向戻り強度と温度とのグラフである。
【符号の説明】
【0104】
1:赤外線ヒーター
2:赤外線
3:熱収縮性を有する樹脂シート
4:高濃度の赤外線吸収インキ印刷部
5:低濃度の赤外線吸収インキ印刷部
6:(赤外線を吸収しない)色インキ印刷部
7:被着体
8:インキG1
8−2:インキG1の重ね刷り箇所
9:インキG2
10:インキGH1
11:インキGH2
12:インキGH3
13:インキGH4
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形同時加飾法等の熱成形に使用する加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形体等の樹脂成形体への加飾方法として、従来、樹脂中に顔料等の着色剤を練り込み、樹脂自体を着色して射出成形する方法や、射出成形後の成形体の表面層にクリアー塗料あるいは着色塗料をスプレー塗装する方法が行われている。しかし近年の化学物質の排出に対する作業環境保護や外部環境保護の観点より敬遠される傾向にあり、塗装法に代わる手段が求められている。
これに対し、アクリル樹脂やポリスチレン樹脂、ABS樹脂等を主成分とする基材シートの表面に、架橋硬化型のアクリル樹脂からなる表面保護層が形成されてなるシートの反対面に接着剤層を設けて、熱成形により三次元形状に成形すると同時に樹脂成形体に貼り付けて一体化する方法、即ち真空成形同時加飾法の提案がされている(例えば特許文献1参照)。この方法であれば、無溶剤で、射出成形体等の樹脂成形体に印刷調意匠の装飾を行うことが可能である。
【0003】
一方、前記方法において、加飾層表面に凹凸感を与えることで特殊な美観や触感を与える意匠の提案も多くなされ、例えば、賦型シートやエンボス加工あるいはシュライナー加工等の加熱した彫刻ロールの接圧により物理的に予めシート表面に凹凸を施した賦型シートを射出成形用金型内に装着し、射出成形後剥離して凹凸を賦型する方法等が知られている。これはシート製造工程においてエンボス装置や特殊印刷工程を必要とするため高コストになるという問題や、ロール状で保管されている使用前のシートに既に凹凸が生じており巻きズレ不良が起こりやすいことや凸部分の重ね合わせによるゲージバンド不良が発生し易いこと等取り扱いの点で問題が生じることや、射出成形時の高い樹脂温度に曝露されたエンボス加工部が配向戻りによる塑性変形を起こし、所望の凹凸が得られないといった問題があった。
【0004】
これに対し、エンボス等の物理的な方法でシートに凹凸を施すことなく加熱後に所望の凹凸が得られる方法も過去に検討されている。例えば、基材上に設けられた低温で溶融可能な高分子化合物に任意の感熱性模様を付与した複合体に赤外線を照射することにより感熱性模様部分を凹部または粗面化する方法や(例えば特許文献2参照)、熱収縮性樹脂シートと基材と少なくとも熱線吸収性着色剤を含む画像層とを重ね合わせた積層体を製造し、次に該積層体の基材側に別の基板を重ね合わせて複合体を形成した後、積層体側から熱線を照射して熱吸収性画像区域に相当する区域の該熱収縮性樹脂シートに凹部または開口部を形成することを特徴とする化粧材の製造方法が知られている。(例えば特許文献3、4参照)。赤外線吸収剤等の熱発生物質は近赤外光や赤外光を吸収して熱を発生する。特許文献2〜4はこの現象を利用し該熱発生物質と接する高分子化合物を可塑化させて凹部あるいは開口部を設けている。
【0005】
しかしながら前記文献に記載の方法は再現性に乏しく、近年所望される意匠に耐えうるだけの大きな凹凸を再現よく得ることが困難であった。また前記文献に記載の化粧材を熱成形シートに応用した場合、即ち該化粧材の裏面に接着剤層を設けて、熱成形により三次元形状に成形すると同時に樹脂成形体に貼り付けて一体化した場合、凹凸を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−153587号公報
【特許文献2】特開昭49−31757号公報
【特許文献3】特開昭50−59448号公報
【特許文献4】特開昭50−61455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、真空成形同時加飾法等の熱成形において、エンボス等の物理的な方法を必要とせずに、加飾後の加飾表面に凹凸を有する加飾成形体を再現よく得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、熱固定により結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート上に赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなる加飾シートを、熱成形用の加飾シートとして使用することで、上記課題を解決した。
【0009】
熱収縮性を有する樹脂シートは、加熱することでシートが延伸前の状態に復元しようとし収縮する。このとき示される力(配向戻り強度)は、加熱温度により変化する。本発明者らは、結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シートが、電磁波、特に赤外線照射によるエネルギーを吸収し結晶の融解現象が急激に進行する結果、該収縮現象がより大きく発現できることを見出し、結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート上に、赤外線に反応するインキである赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなる加飾シートを保持した状態で、電磁波による加熱方式、例えば赤外線照射をすることで、前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで印刷された部位と印刷されない部位や印刷濃度やインキ濃度が異なる部位とで、収縮挙動が異なる結果、各々の部位に膜厚差を生じることを見出した。本発明はこのシートの温度差を利用することで、膜厚差即ち凹凸を故意的に生じさせることに成功した。
【0010】
即ち本発明は、結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート上に赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなり、電磁波による加熱方式を用いた熱成形により凹凸が発現する熱成形用加飾シートを提供する。
【0011】
また本発明は、前記熱成形用加飾シートを、保持した状態で、赤外線照射により前記熱収縮性を有する樹脂シートを非晶化する温度以上で加飾熱成形する、加飾表面に凹凸を有する加飾成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、真空成形同時加飾法等の熱成形において、エンボス等の物理的な方法を必要とせずに、加飾後の加飾表面に凹凸を有する加飾成形体を再現よく得ることができる。
本発明の加飾シートにおいて、凹凸が出現するのは赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位である。インキはグラビア印刷等の汎用の印刷方法で絵柄印刷でき、凹凸を付与するための物理的な方法を必要としないため、シート製造工程において過剰の装置を必要とすることなくコストが押さえられる。
【0013】
またシートを保持した状態で、赤外線照射により前記シートを非晶化する温度以上で加飾熱成形するので、シートの両面に均等に凹凸が生じシート膜厚差を生じさせた状態で真空成形法により被着体に貼り付けることができ、高い延展倍率を必要とするような深絞り形状を有する被着体であっても再現よく鮮鋭な凹凸を得ることができる。
【0014】
またシートを、熱伝導のない真空下で保持した状態で赤外線を照射すれば、シートにかかる温度差をより明確に生じさせることができ、より鮮鋭な凹凸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、赤外線吸収インキは赤外線吸収剤等を含有するインキであり、照射された赤外線を吸収し発熱する。即ち赤外線吸収インキで印刷された樹脂シートに電磁波による加熱方式、例えば赤外線を照射すると、前記赤外線吸収インキで印刷された部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わる。
一方、赤外線反射インキは赤外線反射物質を含有するインキであり、照射された赤外線を反射する。赤外線反射インキで印刷された樹脂シートに該樹脂シート側(即ち樹脂シートの印刷面とは反対側の面)から電磁波による加熱方式、例えば赤外線を照射すると、該樹脂シートを通過した赤外線が該赤外線反射インキで反射されることにより、赤外線透過部位と反射部位とが重なる印刷部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わる(これは具体的には、絵柄を設けない部位と比較し、絵柄を設けた部位はより効率よくシートへ熱を供給できる結果、と推定している)。
即ち、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキを印刷した部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるため、該部位の表面温度を高くすることができ、結果、樹脂シートの、赤外線吸収インキで印刷された部位と印刷されない部位とに温度差を生じさせることができる。
【0016】
本発明は前述の通り、前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで印刷された部位と印刷されない部位や印刷濃度やインキ濃度が異なる部位とで、収縮挙動が異なる結果、各々の部位に膜厚差を生じることを見出し、これを利用しているが、これには以下の(1)〜(3)の態様が挙げられる。
(なお、以下、相対的に表面温度の高い部位を部位A、相対的に表面温度の低い部位を部位Bとする。また赤外線照射をした場合を例とする。)
【0017】
(1)熱収縮性を有する樹脂シート上に、前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位Aと絵柄を設けない部位Bを有する。
真空成形同時成形を行う際には、前記部位Aと前記部位Bとが異なる表面温度となるように赤外線照射する。前記部位Aのみに赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるので、前記部位Aの表面温度は印刷されない部位Bよりも高くなり、凹凸が生じ、該シートを樹脂成形体に貼り付けて一体化させることで凹凸を有する加飾成形体が得られる。
【0018】
(2)熱収縮性を有する樹脂シート上に、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで前記インキ濃度の高い部位Aと前記インキ濃度の低い部位Bとを有するように絵柄を設ける。
真空成形同時成形を行う際には、前記インキ濃度の高い部位Aと前記インキ濃度の低い部分Bとが異なる表面温度となるように赤外線照射する。
この場合、部位A及び部位Bともに赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるが、部位Aは部位Bよりインキ濃度が高い結果、より熱が加わる。従って、部位Aのほうが相対的に部位Bよりも表面温度が高くなり、凹凸が生じ、該シートを樹脂成形体に貼り付けて一体化させることで凹凸を有する加飾成形体が得られる。
【0019】
(3)熱収縮性を有する樹脂シート上に、赤外線吸収率または反射率の異なる複数種の赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設ける。
真空成形同時成形を行う際には、前記赤外線吸収または反射率の高いインキで絵柄を設けた部位Aと前記赤外線吸収または反射率の低いインキで絵柄を設けた部分Bとが異なる表面温度となるようにする。
この場合、部位A及び部位Bともに赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるが、部位Aは部位Bよりも赤外線吸収または反射率の高いインキを設けた結果、より熱が加わる。従って、部位Aのほうが相対的に部位Bよりも表面温度が高くなり、凹凸が生じ、該シートを樹脂成形体に貼り付けて一体化させることで凹凸を有する加飾成形体が得られる。
【0020】
本願においては、熱収縮性を有する樹脂シートとして、結晶化処理させたシートを使用するので該収縮現象がより大きく発現でき、シートの両面に均等に凹凸が生じている。従って真空成形同時成形により被着体に貼り付けることで、高い延展倍率を必要とするような深絞り形状を有する被着体であっても再現よく鮮鋭な凹凸を得ることができる。
【0021】
(凹凸の定義)
本発明において凹凸の形成は、前述の通り、熱収縮性を有する樹脂シートを保持した状態で、該樹脂シートの同一面内にある隣り合う部位Aと部位Bとが異なる表面温度となることで生じる。本発明においては、相対的に表面温度の高い部位を部位A、相対的に表面温度の低い部位を部位Bと定義する。この時部位Aは相対的に凹部となり部位Bは相対的に凸部となる。
【0022】
部位Aは、熱収縮性を有する樹脂シートを赤外線照射時に樹脂が可塑化し樹脂シートの配向戻りが始まった時点で、自己収縮挙動による中心部薄膜化が発生すると考えられる。
この自己収縮挙動による厚み変化は、樹脂シートをなんら保持しない状態では、起点を持たず全体的に収縮が起こり全体的に厚くなる傾向があるが、樹脂シートをクランプ等で該シート外周の一部のみもしくは外周全部を保持した状態(以下単に「保持した状態」と称する場合がある)では、温度の低いクランプ部分等を起点に収縮が発生する傾向がありこの結果部位Aの薄膜化が発生すると考えられる。従って、部位Aは赤外線照射前、即ち収縮前の樹脂シートの膜厚よりも薄くなる場合が多い。
【0023】
一方部位Bは、部位Aと隣り合う部位であり部位Aと表面温度が異なり部位Aよりも表面温度が相対的に低い部位であるが、該部位Bは前記部位Aの中心部薄膜化が生じることにより部位Aに存在する樹脂成分が移動して生じた、あるいは自己収縮により収縮したと考えられ、相対的に部位Aよりも膜厚は厚くなる。殆どの場合において部位Bは赤外線照射前、即ち収縮前の樹脂シートの膜厚よりも厚くなる場合が多い。また部位Aと部位Bとの境目は、より膜厚が厚くなることが観察される(図3参照)。これにより、より強い凹凸感を得ることができる。
【0024】
工業的には樹脂シートを単発式真空成形機等で用いられるような固定クランプや連続式成形機等に付属しているクリップ等で固定し、周囲部を保持した状態とし、クランプ部分を起点に伸縮挙動を起こさせることで、容易に凹凸を起こさせることができるため、既存の成形機を好ましく用いることができる。
【0025】
前記凹凸が形成される一例を図1〜3に示す。図1は、高濃度の赤外線吸収インキ、低濃度の赤外線吸収インキ、及び(赤外線を吸収しない)色インキの3種を使用して絵柄印刷された熱収縮性を有する樹脂シートに、赤外線ヒーターを使用して赤外線を照射する状態を示した具体的一態様を示す図であり、図2は、図1において前記樹脂シートを保持した状態で赤外線を照射した後の前記樹脂シートの状態を示した図であり、図3は、図2における前記樹脂シートを真空成形法により被着体に貼り付けて一体化させた状態を示した図である。
図1のように前記樹脂シートに赤外線を照射することにより、図2の通り、高濃度の赤外線吸収インキの印刷部4即ち部位Aが最も薄膜化が生じ即ち凹部となり、低濃度の赤外線吸収インキ5が、前記印刷部4よりは厚膜となるが)色インキ印刷部6よりは薄膜となり前記印刷部4からみると凸部となる。さらに色インキ印刷部6が最も厚膜となるために最も高い凸部となる。
前記色インキ印刷部6を使用せずに非印刷部を有する樹脂シートの場合は、高濃度の赤外線吸収インキ印刷部が凹部となり、低濃度の赤外線吸収インキ印刷部が低い凸部、非印刷部が最も高い凸部となる。(図不示)
このように相対的に薄膜化と厚膜化が生じるため、凹凸が生じる。
【0026】
該凹凸の形成は、図2に示すように樹脂シートの両面に均等に発生する。従って該樹脂シートの被着体と接する面も凹凸が生じることになる。しかしながらこの状態で真空成形により被着体に貼り付けると、被着体の加飾面に浮き等が生じることもなく、綺麗に密着した凹凸を有する加飾成形体を得ることができる(図3参照)。さらに部位Aと部位Bとのシート表面の高低差は、図2に示す状態即ち真空成形前よりもより生じることが確認されている。これは恐らく真空成形法では樹脂シートが可塑化された状態(即ち加熱した状態)で成形するために、膜厚の薄いA部位も可塑化された状態で圧力をかけて被着体と接触するので、部位Aも被着面に密着し、相対的に膜厚の厚いB部位とのシート表面の高低がより大きく再現されるものと推定される。
【0027】
前記凹凸の高低差は表面荒さ計や膜厚計にて測定でき、加飾後の表面凹凸の最も高い部分と最も低い部分の差(以下膜厚差という)が10μm程度であれば凹凸発現として認識できる。明瞭な凹凸を発現させるためには膜厚差が15μm程度であることが好ましく、更に好ましくは20μm以上である。一方膜厚差は展開倍率に比例し小さくなるため深い成形品程凹凸の膜厚差は下がる傾向にある。また、展開倍率が高い程凹凸各々の幅も広がる傾向にある。
【0028】
本発明において凹凸で表現される柄は特に限定はなく、模様や文字等の模様状を表現する描画の太さ、大きさ、形等にも特に限定はない。即ち本発明は、前記(1)〜(3)の手段であれば印刷や手書き等、前記(4)の手段であればレーザー照射により凹凸を表現できるので、版を起こせるあるいは印字できる模様や文字であればどのような凹凸も可能である。
柄の例としては、点描や線描(具体的には絵画や文字の輪郭、木目、ストライプ、ヘアライン模様等が挙げられる)で表現された描画や、ドットや幾何学模様、文字やマークそのものを浮き出したい場合にはその模様の面積が小さい物の方がより好ましい。勿論本発明においてはこの限りではなく、模様や文字等、模様状の全ての柄を表現することが可能である。
図4〜図7に、本発明において凹凸で表現される柄模様の例を示す。黒部分が赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄印刷された部分である。図4はストライプ、図5はドット、図6は幾何学模様、図7は木目を表す。
【0029】
(表面温度)
本発明における凹凸は、前述の通り樹脂シートの前記部位Aと部位Bとの表面だけではなく内部まで均等に温度がかかった状態で生じるものと推定される。しかしながら内部温度を測定する手段はないために、本発明においては表面温度の差で確認した。本発明において表面温度はNEC/Avio社製「サーモトレーサー9100」を使用した。
【0030】
(結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート)
本発明で使用する結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート(以下樹脂シートSと略す)は、熱固定等の方法により結晶化処理され、且つ、加熱により展延性を示しフィルム化可能な樹脂であり、更に配向戻り強度変曲点を有する樹脂シートである。更に真空成形時の展延性の容易さから熱可塑性樹脂シートであることが好ましい。
【0031】
本発明における配向戻り強度変曲点温度とは、フィルムに外部から熱が加えられた時のフィルム温度であって、フィルム自体がこの温度になると延伸された分子が収縮し始めることにより、フィルム全体が収縮する温度であり、本発明においては、下記方法において配向戻り強度変曲点温度Tを定義している。
【0032】
即ち本発明において用いる配向戻り強度はASTM D−1504に準拠し測定されるものである。配向戻り強度とは、延伸されて得られたシートを加熱したときに、シートが延伸前の状態に復元しようとして示す力のことであり、各々の測定温度における最大応力をシートの断面積で割った値として求められ、延伸されたシートの分子配向程度を示す指標となるものとなる。
本発明においては前記熱収縮応力測定法を利用して、配向戻り強度と加熱温度との関係を示す右上がりグラフの凸となる変曲点の温度Tを求めた。凸となる変曲点が複数ある場合は、最も高い温度域の変曲点の温度を配向戻り強度変曲点温度Tとした。
具体的には、日理工業株式会社製D.N式ストレステスターを用い、電圧調整メモリを6とし、ヒーター温度を5℃刻みで昇温し、各測定温度での配向戻り応力を測定し、収縮応力が発現した後、配向戻り強度と加熱温度との関係を示すグラフの変曲点温度Tを求めた。図16に例を示した。図16は、東洋紡績株式会社製の二軸延伸PETシート「ソフトシャインX1130(膜厚125μm)」(実施例におけるシートS1)を測定したときのグラフである。該グラフの最も高い温度域の凸となる変曲点の温度T188℃を、シートS1の配向戻り強度変曲点温度Tとした。
【0033】
また樹脂は、延伸可能な樹脂であれば特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂やポリスチレン樹脂、ナイロンやビニロン等を使用することができる。中でも芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコール及び、分岐状脂肪族グリコール及び/又は脂環族グリコールを含むグリコール成分とから構成される共重合ポリエステル等の軟質成分を原料成分の一部とした軟質タイプのポリエステル樹脂が成形性の観点から好ましい。
前述の通り配向戻り強度変曲点を有する樹脂シートは一般に延伸処理を施してあるが、該延伸処理方法としては、押出成膜法等で樹脂を溶融押出してシート状にした後、同時二軸延伸あるいは逐次二軸延伸を行うことが一般的である。逐次二軸延伸の場合は、はじめに縦延伸処理を行い、次に横延伸を行うことが一般的である。具体的にはロール間の速度差を利用した縦延伸とテンターを用いた横延伸を組み合わせる方法が多く用いられる。
【0034】
テンター法は広幅な製品がとれ、生産性が高いことがメリットである。樹脂塑性や目的とする物性や成形性に応じ延伸条件等は異なることから特に制限されるものではないが、通常面倍率で1.2〜18倍、より好ましくは2.0〜15倍である。逐次延伸の場合の流れ方向の延伸倍率は1.2〜5倍で、好ましくは1.5〜4.0倍であり、流れ方向に対しクロス方向の延伸倍率は1.1〜5倍で好ましくは1.5〜4.5倍である。同時2軸延伸の各方向の延伸倍率は、1.1〜3.5倍、好ましくは1.2〜4.2倍である。
【0035】
具体的には、一軸延伸シートや二軸延伸シート等の延伸シートが使用できるが、二軸延伸シートが本発明の効果を最大限に発揮でき好ましい。また同時二軸延伸シートであれば面内の収縮率が均等であるので歪みのない凹凸意匠が得られるが、一方歪みを予め計算して一軸延伸や2段逐次二軸延伸シートを使用する場合もある。
【0036】
結晶化処理は一般的に、前記延伸処理後の熱固定で行われる。通常はテンター等のオーブン中で行われ、特に限定はしないがポリエステル樹脂の場合は150〜240℃の条件下5〜60秒程度で好ましく行われる。
特に本発明で好ましく使用する軟質成分であるグリコール成分を含有するポリエステル樹脂は、熱固定をしないと凹凸発現が起こる温度より以前からシートのドローダウンの発生が始まり、成形領域で充分な凹凸を持つ加飾成形体を得ることが出来ないおそれがある。
【0037】
充分な熱固定をされた結晶化処理された樹脂シートはより大きな凹凸を発現させることが出来るので好ましい。これは前述の通り、結晶の融解現象が急激に進行するため、結晶化を施したシートは部位Aと部位Bの配向戻り強度変曲点温度Tで発生する強度差がより明確になるためと推測している。つまり、電磁波、特に赤外線照射によるエネルギーを効果的に凹凸発現に利用できるためと推測している。
【0038】
前記樹脂シートSの膜厚は、赤外線加熱と放熱のバランスが良いことから、真空成形に通常使用される熱成形用シートの膜厚0.04mm以上が好ましい。印刷適性の観点も含めると0.04mm〜1.0mmが好ましく、グラビア印刷が可能となるロール形状に出来る事から、0.04mm〜0.5mmがより好ましく、更に好ましくは0.1mm〜0.3mmである。
【0039】
(赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキ)
本発明で使用する赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキについて説明する。
赤外線吸収インキとは赤外線吸収剤を含むインキであり、赤外線反射インキは赤外線反射物質を含有するインキであり、いずれもセキュリティインキ等に利用されているインキである。
前述の通り、赤外線吸収インキは照射された電磁波、特に赤外線を吸収し発熱する。即ち赤外線吸収インキで印刷された樹脂シートに赤外線を照射すると、前記赤外線吸収インキで印刷された部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わる。一方、赤外線反射インキは赤外線反射物質を含有するインキであり、照射された赤外線を反射する。赤外線反射インキで印刷された樹脂シートに該樹脂シート側(即ち樹脂シートの印刷面とは反対側の面)から赤外線を照射すると、該樹脂シートを通過した赤外線が該赤外線反射インキで反射されることにより、赤外線透過部位と反射部位とが重なる印刷部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わる。即ち、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキを印刷した部位のみに、赤外線照射で付与される熱量以上の熱量が加わるため、該部位の表面温度を高くすることができ、結果、樹脂シートの、赤外線吸収インキで印刷された部位と印刷されない部位とに温度差を生じさせることができる。
【0040】
真空成形法は、真空成形する樹脂シートを電磁波による加熱方式、主に赤外線照射等の方法により加熱をして、該樹脂シートを熱成形に適した弾性領域とした上で成形する方法である。本発明においても、電磁波による加熱方式によって樹脂シートS自体の温度を上昇させて熱成形に適した弾性領域とする。このとき、樹脂シートS上に赤外線吸収インキまたは赤外線反射インキが設けられた部位が存在すると更に熱が加わるために凹凸が発生するが、このときの部位A(相対的に表面温度の高い部位)が、樹脂シートSの配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となればよい。更に部位Aと部位Bとの温度差は、7℃以上が好ましく、より深い凹凸が付与できることから9℃以上がより好ましく、更に好ましくは13℃以上である。
部位Aのみが配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となるように赤外線照射してもよく、また、部位Aと部位Bの両方が配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となるように赤外線照射してもよい。この場合、後者のほうがより深い凹凸を得ることができる。
【0041】
赤外線吸収インキは、一般に赤外線吸収剤として市販されている物質、あるいは、赤色から近赤外、赤外レーザー光の波長域の波長を吸収して発熱する機能を有する公知の種々の赤外線吸収性顔料や染料等を含むインキが好適に挙げられる。赤外線吸収剤としては具体的には例えば、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、カーボンブラック、チタンブラック、酸化チタン、Cu−Cr系複合酸化物、フタロシアニン、ナフタロシアニン、シアニン等の顔料や染料、ポリメチン系顔料や染料、スクワリリウム色素などの赤色吸収剤、近赤外吸収剤、赤外線吸収剤が挙げられる。
【0042】
赤外線反射インキが含有する赤外線反射物質は、アルミニウム、金、銀、銅、真鍮、チタン、クロム、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等の金属やFe−Cr系複合酸化物、三酸化アンチモン、ジクロム酸アンチモン等が挙げられる。
【0043】
前記赤外線吸収剤や赤外線反射物質の粒径は特に限定はなく、通常のインキとして使用される範囲であれば特に問題なく使用することができる。
一方、前記インキ濃度は、濃度が高い程部位Aにかかる熱量が大きくなる。従って所望する凹凸の程度により適宜含有量を変えることが好ましい。一方濃度が低すぎると赤外線照射により発生する熱量や赤外線反射量が少なすぎて凹部とならず、濃度が高すぎると発生する熱量や赤外線反射量が大きくなりすぎて、破れや穴あき等の原因となるので、後述の通り成形時の弾性率が0.5MPa以下にならない様に適宜調整をする必要がある。
【0044】
また、インキワニスも特に限定なく公知のワニス用樹脂等を使用することができる。ワニス用樹脂は、例えば、アクリル樹脂系、ポリウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系、ビニル樹脂系(塩ビ、酢ビ、塩ビ−酢ビ共重合樹脂)、塩素化オレフィン樹脂系、エチレン−アクリル樹脂系、石油系樹脂系、セルロース誘導体樹脂系などの公知のインキを用いることができる。
【0045】
また、所望する意匠性に応じて、前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキに汎用の色材等を含有してもよい。このとき、前記赤外線吸収剤や赤外線反射物質として透明性の高いものを使用すれば、汎用の色材を生かすことができ好ましい。また版を変えて汎用の色材を含有したインキで別途絵柄層を設けてもよい。この場合に使用する色材は特に限定はないが、熱吸収性を有する色材は該印刷部分に凹凸を生じさせることも可能なため、目的に応じ適宜配合割合を変える事が好ましい。
【0046】
前記(1)〜(3)の手段において、樹脂シートSに赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設ける方法は、手書きやコーティング、印刷等が挙げられるが、工業的には印刷が好ましい。方法については特に限定はなく、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、刷毛塗り、ロールコーティング、コンマコーティング、ロッドグラビアコーティング、マイクログラビアコーティングなどの方法が挙げられる。中でもグラビア印刷法が好ましい。
絵柄は、通常は、前記樹脂シートSを被着体に貼り付けた際に、前記樹脂シートSと被着体との間となるように設けると、樹脂シートSにより絵柄が保護されることや、美観が付与されることから好ましい。通常は、図1のように、赤外線が樹脂シートを透過して赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキ層に到達するように照射する。特に赤外線反射インキを使用した場合には、このような照射方法としないと、逆に赤外線反射インキが樹脂シートを透過する前に赤外線を反射してしまい、即ち樹脂シートの印刷部に赤外線が透過せずに可塑化されない可能性がある。従って例えば使用する真空成形装置の赤外線照射装置が、成形用シートの保持(クランプ)部と被着体との間に設置されている場合、即ち成形用シートを加熱する際に該シートの被着体との密着面から加熱するように設計されている真空成形装置を使用する場合は、得られた加飾成形体の加飾部分は、赤外線から得た熱を反射させる物質を含有するインキ層/樹脂シートS/被着体の順となるように成形するのが好ましい。
【0047】
前記(1)の手段においては、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位Aは、赤外線等の照射量以上の熱が加わるので相対的に表面温度が高くなり、凹部となる。一方、絵柄を設けない部位Bは、赤外線照射量の熱のみが加わるため、相対的に部位Aよりも表面温度が低くなり、凸部となる。
【0048】
前記(2)の手段においては、部位A及び部位Bともに赤外線等の照射量以上の熱が加わるが、部位Aは部位Bよりインキ濃度が高い結果、部位Aは部位Bよりもより熱が加わる。従って部位Aのほうが相対的に部位Bよりも表面温度が高くなり、部位Aが凹部となり部位Bが凸部となる。
前記(2)の手段は、具体的には、インキ濃度の異なるインキを使用して部位A及び部位Bを設ける、あるいは、インキは1種であるがそのインキ盛り量を部位Aにより多くするなどの方法により、インキ濃度を調整することが可能である。
また、部位Aは1つである必要はなく、例えば、インキ濃度の異なる3種のインキを使用した場合、濃度の最も低いインキを使用した部位は部位Bとなり凸部となり、濃度の最も高いインキを使用した部位は最も深い凹部である部位A”となる。またインキ盛り量で調節することも勿論可能である。
【0049】
前記(3)の手段においては、部位A及び部位Bともに赤外線等の照射量以上の熱が加わるが、部位Aは部位Bよりも赤外線吸収または反射率の高いインキを設けた結果、部位Aは部位Bよりもより熱量が加わる。従って、部位Aのほうが相対的に部位Bよりも表面温度が高くなり、部位Aが凹部となり部位Bが凸部となる。
前記赤外線吸収インキの吸収率、あるいは赤外線反射インキの反射率は一概には比較できないが、大まかな目安としては、アルミニウムを使用した赤外線反射インキとカーボンブラックを使用した赤外線吸収インキを併用した場合には、アルミニウムを使用したインキが凹部となりカーボンブラックを使用したインキは凸部となる。またカーボンブラックを使用した赤外線吸収インキと酸化チタンを使用した赤外線吸収インキとを併用した場合には、カーボンブラックを使用したインキが凹部となり酸化チタンを使用したインキは凸部となる。
従って、具体的には、部位Aをアルミニウムを含むインキで印刷し、部位Bをカーボンブラックを含むインキで印刷すれば、部位Aは凹部となり部位Bが凸部となる。また、部位Aをカーボンブラックを含むインキで印刷し、部位Bを酸化チタンを含むインキで印刷すれば、部位Aは凹部となり部位Bが凸部となる。このように、熱発生物質は、所望する凹凸意匠と視認性を有する絵柄意匠とを加味して適宜選択することが可能である。
【0050】
前記(1)〜(3)の手段を取り混ぜて行うことも可能である。例えば、樹脂シートSに、赤外線吸収インキで、1版刷りの部位と複数版刷りの部位とが生じるように印刷を行い、且つ非印刷部を設けた場合は、複数版刷りの部位が最も深い凹部であり、一般刷りの部位が、複数刷りの部位からみると凸部であり非印刷部からみると凹部であり、且つ非印刷部が凸部であるような凹凸を与えることができる。
また赤外線吸収インキであって濃度の低いインキと濃度の高いインキとを使用して印刷を行い、且つ非印刷部を設けた場合は、濃度の高いインキの刷り部位が最も深い凹部であり、濃度の低いインキを使用の刷り部位が前記濃度の高いインキの刷りの部位からみると凸部であり非印刷部からみると凹部であり、且つ非印刷部が凸部であるような凹凸を与えることができる。
【0051】
(その他の任意の層 接着層)
また、前記樹脂シートSの他に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の層を有していても良い。本発明においては、加熱することで配向戻り強度変曲点を有し熱収縮性を示すシートを使用するため、該収縮性を阻害せず、樹脂シートSよりも低温で可塑性を示す樹脂層を加えることが可能である。また樹脂シートSよりも高い温度で可塑性を示す樹脂層であっても、前記部位Aと部位Bとの膜厚差にある程度追従できる柔軟性を備えていれば加えることが可能である。このような観点から、可塑性を示す樹脂層からなる接着剤や粘着剤等の接着層を付与することは、被着体と接着力をより高めることから好ましい。前記接着層は樹脂シートSと被着体とに接着する材質のものを適宜選択することが可能である。
接着層は、前記樹脂シートSの被着体と密着すべき面に設けることが好ましい。多くの場合樹脂シートSは加飾後の加飾面を保護する目的も兼ね備えていることから、熱発生物質を含むインキが設けてある場合は、
樹脂シートS/熱発生物質を含むインキ/接着層
の順に積層されていることが好ましい。
【0052】
例えば接着剤としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、天然ゴム、SBR、NBR、シリコーンゴム等の合成ゴムなどがあげられ、溶剤型又は無溶剤型のものが使用出来る。
【0053】
また、粘着剤としては、熱成形する温度でタック性を有するものであれば良く、例えば、アクリル樹脂、イソブチレンゴム樹脂、スチレン−ブタジエンゴム樹脂、イソプレンゴム樹脂、天然ゴム樹脂、シリコーン樹脂などの溶剤型粘着剤や、アクリルエマルジョン樹脂、スチレンブタジエンラテックス樹脂、天然ゴムラテックス樹脂、スチレン−イソプレン共重合体樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテルなどの無溶剤型粘着剤などがあげられる。
【0054】
特に好ましいものとしては、接着剤としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂(例えば、DIC(株)社製:タイホース、クリスポン、日本ポリウレタン社製:ニッポラン)があげられる。また粘着剤としては、透明性や耐候性の点から溶剤型アクリル樹脂の粘着剤(例えば、DIC(株)社製:クイックマスター、ファインタック、綜研化学社製:SKダイン)があげられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。
【0055】
また前記粘着剤においては、粘着強度を調整するために粘着付与剤(タッキファイヤー)を添加してもよい。粘着付与剤は特に限定されず、例えばロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族共重合系石油樹脂、脂環族系炭化水素樹脂、及びこれらの変性品、誘導体、水素添加品等があげられる。
粘着付与剤の配合量は特に限定されず、全樹脂固形分100質量部に対して100質量部以下、好ましくは50質量部以下とすることが好ましい。
【0056】
また、樹脂シートSよりも高い温度で可塑性を示す架橋型の樹脂層であっても、前記部位Aと部位Bとの膜厚差にある程度追従できる柔軟性を備えていれば加えることが可能である。このような観点から、耐摩擦性、耐摩傷性、耐候性、耐汚染性、耐水性、耐薬品性、耐熱性等の特性を付与する目的で、延展性を妨げない程度に一部架橋してなる表面保護層を有していても良い。架橋形態は特に限定はなく、イソシアネートと水酸基との熱硬化反応、エポキシ基と水酸基との熱硬化反応、(メタ)アクリロイル基のラジカル重合反応を利用したUVあるいは熱硬化反応、シラノール基や加水分解性シリル基の加水分解縮合反応等既存の反応を利用すればよいが、イソシアネートと水酸基との熱硬化反応が熱成形時にかかる熱を利用して架橋反応を促進することができるため好ましい。
【0057】
本発明で使用する樹脂シートSは、赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキ層、あるいは他の層を加えた全体としての膜厚が真空成形に使用される熱成形用シートに通常使用される膜厚であれば特に限定はない。
【0058】
(製法)
本発明の加飾表面に凹凸を有する加飾成形体の製造方法は、具体的には、
本発明の熱成形用加飾シートを、保持した状態で、
該樹脂シートの同一面内にある隣り合う部位Aと部位Bとが、前記部位Aと前記部位Bとの表面温度が異なり、且つ、少なくとも部位Aの表面温度が前記樹脂シートの配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となるように、赤外線照射して、前記部位Aと部位Bとに膜厚差を生じさせる工程(1)と
前記樹脂シートを真空成形法により被着体に貼り付けて一体化する工程(2)により得ることができる。
【0059】
具体的には、真空成形法、圧空真空成形法等に用いる既存の熱成形機を使用する。本発明においては、前記工程(1)と前記工程(2)とは連続して行うことから、赤外線照射手段を有する熱成形機が好ましい。
【0060】
(工程1 保持)
前記工程1において、保持した状態とは、該樹脂シートS外周の一部のみもしくは外周全部を固定した状態、即ち、該シートSの被着体に貼り付ける面は基板等でなんら支持されない状態を指す。具体的には、樹脂シートSの一部分を挟持等で固定する方法や樹脂シートSの全周囲を枠状クランプで挟持させ固定する方法等が挙げられるが、樹脂シートSの張力を適正化(均一化)することができるためシートの全周囲を枠状クランプで挟持させ固定する方法が好ましい。
なおここで固定とは、枠状クランプ等のジグを使用して挟持する方法の他、樹脂シートSの可塑化や収縮を防止することによっても可能である。具体的には、樹脂シートSの被着体に貼り付ける面以外の部分、好ましくはシート外周部位のシート温度をガラス転移温度(以下Tgと称する場合がある)以下に保ち可塑化を防ぐことによっても、固定が可能である。
【0061】
(工程1 電磁波による加熱方式 赤外線)
前記樹脂シートSを保持した状態で、少なくとも部位Aの表面温度が前記樹脂シートの配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度となるように電磁波、好ましくは赤外線照射することで、前記部位Aと前記部位Bとが異なる表面温度となって加温され、結果、前記部位Aと部位Bとに膜厚差が生じる。この場合の加温は波長を持つエネルギーである電磁波による輻射加熱により行われる。原理としては電磁波がフィルム及び赤外線吸収インキ等に照射され、その電磁波の波長に共鳴する物質のみがエネルギーを共振吸収し、分子レベルでの振動が起こりその摩擦熱により加温されるというものである。
本発明に使用する電磁波としては、プラスチックを効率的に加温できる赤外線を好ましく用いることが出来る。特に、赤外線に共鳴する赤外線吸収インキを組み合わせることで、フィルム全体の加温に加えインキ部分を選択的に加熱することができ、更にインキ濃度や種類等により異なる吸収率を実現できるため、無数のパターンの温度分布をフィルム上に発現させる事が出来るのである。また、赤外線反射インキをフィルム裏面に配することにより一度フィルムを透過した赤外線を反射させ更にフィルムを加温することで効率良くその部分のみの温度を上げることも可能となる。
このとき照射する赤外線は、赤色から近赤外、赤外レーザー光の波長域であれば特に限定はなく使用できる。赤外線照射量の上限は、特に制限はないが、あまり高い熱量がかかると樹脂シートSの剛性が落ち、可塑化が進み破れ発生等、成形に支障をきたすおそれがあるため、使用する樹脂シートSの最も高い部分の温度が、JIS K7244−1法で求められる動的粘弾性測定の貯蔵弾性率(E’)の値として0.5MPa以上となる様にすることが真空成形法、好ましく、より好ましくは1MPa以上となるように照射量を設定することが好ましい。
多くの場合、具体的に圧空真空成形法等に用いる既存の間接加熱型熱成形機を利用可能である。シートの加熱を行う赤外線照射装置は熱発生物質のみが吸収可能な波長を照射する必要があるため、中赤外から近赤外の領域に強い波長ピークをもつハロゲンヒーター、短波長ヒーター、カーボンヒーター、中赤外線ヒーター等を使用することが好ましい。これら赤外線照射装置のメイン波長のピークは1.0〜3.5μm内にあることが好ましく、効率よい膜厚さを生じさせることが出来、吸熱性物質とその他の部分の温度差が付きすぎず効率の良い生産が可能な事から1.5〜3.0μmの範囲が更に好ましい。
【0062】
加熱手段として設置されている赤外線照射装置は多くの場合、温度制御となっていることが多い。従って本発明においては、赤外線照射量は、照射量そのものではなく赤外線を照射した結果の樹脂シートSの部位Aと部位Bの表面温度から評価した。
赤外線照射の最低量は、樹脂シートSの少なくとも部位Aの表面温度が前記樹脂シートの配向戻り強度変曲点温度T以上の表面温度であり、且つ非晶化する温度以上となるように設定することが大きな凹凸を発生できることから好ましい。これは非晶化が始まる温度を境に、つまり結晶の融解が始まる温度になると、動的粘弾性測定で測定されるE’で確認できるようにシートの弾性率が急激に低下するため、この温度付近が最も部位Aと部位Bの配向緩和応力の影響を受けやすくなるからであると推測している。一方、部位Aの温度は、あまり高い温度となると部位Aの可塑化が進み穴あき等の不良が発生するおそれがあることから、部位Aの動的粘弾性測定で測定されるE’が0.5MPa以上とするように、赤外線照射の最高量を設定することが好ましく、より好ましくは1.0MPa以下である。
【0063】
また、前記赤外線照射は、大気圧下で行っても特に問題はないが、効率よく凹凸の発現が可能なことから真空下で行うことが好ましい。通常の真空成形は大気圧下での赤外線照射による加熱を行うが、本発明では、真空状態で赤外線照射を行うことにより同じ温度においてもより大きな膜厚差を効果的に発現させることを見出した。これは大気の熱伝導の影響を受けることなく、赤外線の波長が効率よく樹脂シートSやインキに到達するためと推定している。これは逆にいえば、周囲の加温された空気が殆ど存在しないため、余分な熱が部位Aや部位Bに伝わりにくいと推定している。
【0064】
この後必要に応じ不要部分を必要に応じトリミング加工してもよい。トリミング加工方法についても特に限定はなく、はさみやカッター等でカットする方法、ダイカット法、レーザーカット法、ウォータージェット法、抜き刃プレス法により加工することができる。
【0065】
(被着体)
本発明で使用する被着体としては、特に限定されず、透明または不透明で表面意匠性を有していればよい。具体的には、樹脂、金属、ガラス、木、紙、カーボンなどの各種形状物を用いることができ、前記形状物は、塗装、メッキ、スクラッチ等の常用加飾法により加飾されていてもよい。
【0066】
被着体が透明または半透明である樹脂成形体であると、前記樹脂シートSを通して透けて見え、色調に深みを付与することができる。半透明または不透明の樹脂成形体は、通常、着色剤を配合した成形樹脂を成形して得られる。着色剤としては特に限定されず、目的とする意匠に合わせて、一般の熱可塑性樹脂の着色に使用される慣用の無機顔料、有機顔料および染料などが使用できる。例えば、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄、複合酸化物系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、バナジウム酸ビスマス、カーボンブラック、アイボリーブラック、ピーチブラック、ランプブラック、ビチューム、グラファイト、鉄黒、チタンブラック、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク等の無機顔料;アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、アンスラキノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、チオインジゴ系顔料及びジケトピロロピロール系顔料等の有機顔料;金属錯体顔料などが挙げられる。また染料としては主として油溶性染料のグループから選ばれる1種または2種を使用することが好ましい。
【0067】
また使用する樹脂も特に限定されず、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレートなどのアクリル樹系脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂、アクリロニトリル−エチレンゴム−スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレン樹脂などのスチレン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリルニトリル、ナイロンなどのポリアミド樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−アクリル酸樹脂、エチレン−エチルアクリレート樹脂、エチレン−ビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの塩素樹脂、ポリフッ化ビニルやポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、メチルペンテン樹脂、セルロース樹脂等、ならびにオレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマー等を用いることができる。また、前記例示の樹脂を2種類以上を混合若しくは多層化して用いても良い。さらに、無機フィラー等の補強剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤等の常用の添加剤を添加してもよく、これらの添加剤は単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により説明する。特に断わりのない限り「部」、「%」は質量基準である。
【0069】
(樹脂シートS)
シートS1:東洋紡績株式会社製の二軸延伸PETシート「ソフトシャインX1130」(膜厚125μm)
【0070】
(配向戻り強度変曲点温度T測定方法)
前記樹脂シートSの配向戻り強度変曲点温度Tは、以下のように行った。
日理工業株式会社製D.N式ストレステスターを用い、電圧調整メモリを6とし、ヒーター温度を5℃刻みで昇温し、各測定温度での配向戻り応力を測定し、配向戻り強度変曲点温度Tを読み取った。結果、
シートS1の配向戻り強度変曲点温度T: 188℃
である。
【0071】
(赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキ)
赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキは、及び色インキは以下のインキを使用した。
インキP1:三菱鉛筆社製「ペイントマーカー」黒色 赤外線吸収インキとして使用。
インキP2:三菱鉛筆社製「ペイントマーカー」銀色 赤外線反射インキとして使用。
インキP3:三菱鉛筆社製「ペイントマーカー」青色 色インキとして使用。
インキG1:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」黒色 カーボンブラックを含み赤外線吸収インキとして使用。
インキG2:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」銀色 アルミペーストを含み赤外線反射インキとして使用。
インキGH1:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」赤色 色インキとして使用。
インキGH2:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」青色 色インキとして使用
インキGH3:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」黄色 色インキとして使用
インキGH4:DIC社製グラビア印刷用インキ「XS−756」パール色 色インキとして使用
なお、前記インキG1とインキG2では、G2のほうが表面温度が高くなる。
【0072】
(絵柄印刷方法)
前記樹脂シートSに、前記インキG1〜G4、GH1〜GH4を使用して、グラビア4色印刷機にて厚さ3μmの絵柄を印刷した。
また前記樹脂シートSに、前記インキP1〜P3を使用して、手書きにて直線を描いた。
【0073】
(工程(1)における膜厚差発現の確認)
樹脂シートSとしてシートS1を使用し、流れ方向(MD)及びクロス方向(CD)に、前記インキP1〜P3を使用して幅2mmの直線を描いた。これを後述の布施真空株式会社製「NGF−0709成形機」を使用し、真空下、シート周囲を完全にクランプで固定した状態で、ヒーターとしてヘリウス社製中赤外線ヒーターを使用し前記樹脂シートSを前記直線を描いた面とは反対側から間接加熱した。
キーエンス社製FT−H30放射温度計にて、樹脂シートSの表面温度がヒーター設定温度まで上昇したことを確認した後、常温まで冷却しクランプをはずして試料とした。
インキが描かれている部位Aとインキが描かれていない部位Bの表面温度は、NEC/Avio社製サーモトレーサーTH9100を使用して、前記部位Aが、使用する樹脂シートSの配向戻り強度変曲点温度Tとなった時の、前記部位Aと前記部位Bの温度差/℃と、使用する樹脂シートSの表面温度がヒーター設定温度まで上昇した時(該温度は、通常、熱成形が可能となったことを判断する温度である)の、前記部位Aと前記部位Bの温度を測定した。
また、前記部位Aと前記部位Bの膜厚の測定は、アンリツ社製K351C、高低差測定は東京精密社製サーフコムver1.71表面粗さ系を使用し、前記部位Aと前記部位Bとの最大膜厚差を測定した。
この結果、参考例1は、良好な凹凸を発現することができた。
【0074】
【表1】
【0075】
(真空成形同時貼り付け方法)
布施真空株式会社製「NGF−0709成形機」を使用し、熱成形を行った。
グラビア4色印刷機にて厚さ3μmの絵柄を印刷した樹脂シートSの周囲を完全にクランプ後、成形機の上下ボックスを閉じ、ボックス内をほぼ完全真空状態にした後、ヒーターとしてヘリウス社製中赤外線ヒーターを使用し前記樹脂シートSを上面より間接加熱し、前記樹脂シートSの表面温度が設定温度まで上昇した後に、被着体を乗せたテーブルを上昇させ、上ボックス中に0.2MPaの圧空を吹き込み、前記樹脂シートSを被着体に貼り付けて一体成形させた。
真空成形時における樹脂シートSの表面温度分布測定は真空状態で出来ないため、成形機下ボックスに開口を空け、NEC/Avio社製サーモトレーサーTH9100を用いて表面温度分布測定を行った。ヒーターは成形前に昇温を開始するシステムとなっているが、ヒーターの最終温度は約900〜930℃であった。
また、樹脂シートSの表面温度が設定温度に達したかどうかの測定は、キーエンス社製FT−H30放射温度計により行った。
なお、ヒーターと樹脂シートSとの距離は250mm程度、被着体は膜厚差を測定できる様に、縦80mm×横150mm×厚さ2mmの平板を使用した。
【0076】
(実施例1〜4 熱成形用加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
樹脂シートSとしてシートS1を使用した。インキG1、G2、GH1〜GH4のいずれかを使用してグラビア印刷にて所定の絵柄印刷を行い、加飾シート(1)〜(4)を得た。(絵柄印刷版は、実施例1:図8参照、実施例2:図10参照、実施例3:図12参照、実施例4:図14参照)
【0077】
(加飾成形体の製造方法)
前記熱成形用加飾シート(1)〜(4)を使用し、前記真空成形同時貼り付け方法により平板への加飾成形を行った。得られた加飾成形体の凹凸差の最大値を測定した。結果を表2及び表3に示す。
何れも、インキG1及びインキG2を使用した模様部分に明瞭な凹凸の発現が認められる加飾成形体を得た。
【0078】
シートS1にインキG1とインキGH2の2版で印刷した熱成形用加飾シート(1)(これは前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位Aと絵柄を設けない部位Bとを有する例である)は、熱発生物質T1であるカーボンブラックを含んだインキG1の印刷部のみが凹となった。
【0079】
また、インキG2を2版使用して印刷した熱成形用加飾シート(2)(これは前記インキ濃度の高い部位Aと前記インキ濃度の低い部位Bとを有する例であり、各々の版の重なり部分が部位Aに相当し、1版で刷られた部分が部位Bに相当する)、は、各々の版の重なり部分である部位Aに凹が生じた。
【0080】
またシートS1にインキG1,GH1、GH2、GH4の4版で印刷した熱成形用加飾シート(3)(これは前記赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けた部位Aと絵柄を設けない部位Bとを有する例である)は、インキG1の印刷部のみが凹となった。
【0081】
またインキG1,GH1,GH2,GH3の4版で印刷した熱成形用加飾シート(4)(これは前記インキ濃度の高い部位Aと前記インキ濃度の低い部位Bとを有する例であり、図14に示したように、インキG1の一部は重ね刷りされている(図14中8−2)。重ね刷りされた図14中8−2が部位Aに相当し、1版で刷られた図14中8が部位Bに相当する)は、インキG1の印刷部のみが凹となり、且つインキG1を重ね刷りした部位(図14中8−2)はより深い凹みとなった。
【0082】
前記熱成形用加飾シート(1)〜(4)の、熱成形後のシートのDSC測定を行った所、熱成形前のシートとは異なり132℃付近に再結晶化起因によるピークが認められ、非晶化していることが確認された。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
(実施例1−2,1−3 展開倍率を変化させた加飾成形品の製造方法)
実施例1で得た加飾シート(1)を使用し、展開倍率を変えて前記真空成形同時貼り付け方法により平板へ加飾成形を行った。得られた加飾成形体の、凹凸差の最大値を測定した。結果を表4に示す。何れも、明瞭な凹凸を有する加飾成形体を得た。
尚、展開倍率は、メス型箱形状の金型の中に被着体を設置し、その深さを変えることで、展開倍率が100%(未延伸)、160%、290%となるようにした。
【0086】
【表4】
【0087】
(実施例5 表面保護層を付与した加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
表面保護層を塗布したシートS1の該表面保護層(以下TPと称す)とは反対側の面にインキG1またはインキGH2を使用してグラビア印刷にて所定の絵柄印刷を行い、加飾シート(5)を得た。
【0088】
前記加飾シート(5)を、前記真空成形同時貼り付け方法により平板へ加飾成形を行った。結果を表5に示す。
【0089】
(表面保護層)
前記表面保護層は、水酸基含有共重合体とポリイソシアネート化合物を1:1の割合で混合したものを使用した。
【0090】
(水酸基含有共重合体)
酢酸ブチル850部とパーブチルZ(商品名、日本油脂社製、t−ブチルパーオキシベンゾエート)1部の混合溶液中を110℃に加熱し、メチルメタクリレート660部、t−ブチルメタクリレート150部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート190部の混合溶液、及び、酢酸イソブチル200部、パーブチルO(商品名、日本油脂社製、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)9部、パーブチルZ(商品名、日本油脂社製、t−ブチルパーオキシベンゾエート)2部の混合溶液を、窒素雰囲気下で約5時間かけて滴下混合した後、15時間攪拌し、固形分含有率60%の水酸基含有共重合体を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は100,000、固形分の水酸基価は79KOHmg/g、ガラス転移温度Tgは95℃であった。ここで、重量平均分子量はGPC測定のポリスチレン換算値、水酸基価はモノマー仕込み組成よりKOH中和量としての算出値、ポリマーTgはDSCによる測定値である。
【0091】
(ポリイソシアネート化合物)
ポリイソシアネート化合物として、イソシアヌレート環含有ポリイソシアネート「BURNOCK DN−981」(商品名、DIC株式会社製、数平均分子量約1000、不揮発分75%(溶剤:酢酸エチル)、官能基数3、NCO濃度13〜14%)を用いた。
【0092】
【表5】
【0093】
(実施例6 接着層を付与した加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
前記加飾シート(1)に接着層として粘着剤厚み25μmのDIC株式会社製の両面テープ「DAITAC ZB7011W」をラミネートし、加飾シート(6)を得た。尚、ラミネート条件は、MCK社製ハルダーを用い、ニップ圧0.3MPa、速度4m/minで行った。
前記加飾シート(6)を、前記真空成形同時貼り付け方法により厚み3mmの平板へ加飾成形を行った。結果を表6に示す。尚、粘着剤を付与しているため膜厚測定は平板及び離型フィルム込みの厚みで行った。
【0094】
【表6】
【0095】
(比較例1〜3 加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
シートS1に前記インキGH1〜GH4を使用してグラビア印刷にて所定の絵柄印刷を行い、加飾シート(H1)〜(H3)を得た(比較例1:図8参照、比較例2:図10参照、比較例3:図12参照)。
【0096】
【表7】
【0097】
前記加飾シート(H1)〜(H3)を使用した以外は、実施例1と同様にして加飾成形体を得た。その結果、凹凸のある成形体を得ることができなかった。
【0098】
【表8】
【0099】
(比較例4 加飾シート及び加飾成形体の製造方法)
加飾シート(1)の周囲を金枠で固定し、保持後185℃の恒温槽中に5分放置し、非晶化処理を行った加飾シート(H4)を得た。(比較例4:図14参照)
【0100】
【表9】
【0101】
前記加飾シート(H4)を使用した以外は、実施例1と同様にして成形を行った。この結果、ドローダウンが発生し破れが生じて、加飾成形体を得る事が出来なかった。
また、成形開始設定温度を下げ170℃として加飾成形を行ったところ、成形は可能であったが、凹凸のある成形体を得ることができなかった(比較例5)。
【0102】
【表10】
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】:赤外線吸収インキで絵柄印刷された熱収縮性を有する樹脂シートに、赤外線ヒーターを使用して赤外線を照射する状態を示した具体的1態様を示す図である。
【図2】:前記樹脂シートを保持した状態で赤外線を照射した後の樹脂シートの状態を示した図である。
【図3】:図2の樹脂シートを真空成形法により被着体に貼り付けて一体化させた状態を示した図である。
【図4】:本発明で使用される柄印刷層の一例である。黒部分が該印刷層である。(ストライプ)
【図5】:本発明で使用される柄印刷層の一例である。黒部分が該印刷層である。(ドット)
【図6】:本発明で使用される柄印刷層の一例である。黒部分が該印刷層である。(幾何学模様)
【図7】:本発明で使用される柄印刷層の一例である。黒部分が該印刷層である。(木目)
【図8】:実施例1の加飾シート(1)の模式図である。上部が平面図、下部が前記平面図の黒枠の断面図である。
【図9】:実施例1の加飾シート(1)を使用した加飾成形体の断面図の模式図である(実施例1)。
【図10】:実施例1の加飾シート(2)の模式図である。上部が平面図、下部が前記平面図の黒枠の断面図である。
【図11】:実施例2の加飾シート(2)を使用した加飾成形体の断面図の模式図である(実施例2)。
【図12】:実施例3の加飾シート(3)の模式図である。上部が平面図、下部が前記平面図の黒枠の断面図である。
【図13】:実施例3の加飾シート(3)を使用した加飾成形体の断面図の模式図である(実施例3)。
【図14】:実施例4の加飾シート(4)の模式図である。上部が平面図、下部が前記平面図の黒枠の断面図である。
【図15】: 実施例4の加飾シート(4)を使用した加飾成形体の断面図の模式図である(実施例4)。
【図16】:東洋紡績株式会社製の二軸延伸PETシート「ソフトシャインX1130(膜厚125μm)」(実施例におけるシートS1)をASTM D−1504に準拠し測定した、配向戻り強度と温度とのグラフである。
【符号の説明】
【0104】
1:赤外線ヒーター
2:赤外線
3:熱収縮性を有する樹脂シート
4:高濃度の赤外線吸収インキ印刷部
5:低濃度の赤外線吸収インキ印刷部
6:(赤外線を吸収しない)色インキ印刷部
7:被着体
8:インキG1
8−2:インキG1の重ね刷り箇所
9:インキG2
10:インキGH1
11:インキGH2
12:インキGH3
13:インキGH4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート上に赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなり、電磁波による加熱方式を用いた熱成形により凹凸が発現する事を特徴とする熱成形用加飾シート。
【請求項2】
前記熱収縮性を有する樹脂シートが二軸延伸処理されている請求項1に記載の熱成形用加飾シート。
【請求項3】
前記熱収縮性を有する樹脂シートがグリコール成分を含有するポリエステルシートである請求項1又は2に記載の熱成形用加飾シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱成形用加飾シートを、保持した状態で、赤外線照射により前記熱収縮性を有する樹脂シートを非晶化する温度以上で加飾熱成形することを特徴とする、加飾表面に凹凸を有する加飾成形体の製造方法。
【請求項1】
結晶化処理された熱収縮性を有する樹脂シート上に赤外線吸収インキ又は赤外線反射インキで絵柄を設けてなり、電磁波による加熱方式を用いた熱成形により凹凸が発現する事を特徴とする熱成形用加飾シート。
【請求項2】
前記熱収縮性を有する樹脂シートが二軸延伸処理されている請求項1に記載の熱成形用加飾シート。
【請求項3】
前記熱収縮性を有する樹脂シートがグリコール成分を含有するポリエステルシートである請求項1又は2に記載の熱成形用加飾シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱成形用加飾シートを、保持した状態で、赤外線照射により前記熱収縮性を有する樹脂シートを非晶化する温度以上で加飾熱成形することを特徴とする、加飾表面に凹凸を有する加飾成形体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−189556(P2011−189556A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55848(P2010−55848)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】
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