説明

熱物性解析方法

【課題】不透明な基板上に形成された薄い被測定物であっても、当該被測定物に対する熱物性についての解析の精度を維持することができる熱物性解析方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る熱物性解析方法は、被測定物30の表面に金属膜fiを形成する成膜工程と、この金属膜fiの形成後、当該金属膜fiに表面側から加熱用パルス光B1aと検出光B2aとを照射する光照射工程と、金属膜fi表面で反射された検出光B2aを受光してその受光強度の変化から当該金属膜fi表面の温度変化を検出する温度変化検出工程と、前記検出した温度変化のうち加熱用パルス光B1aの照射による熱が金属膜fiの内部でのみ拡散している時間が経過した後の温度変化に基づいて被測定物30の熱物性を解析する解析工程と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の測定部位に加熱光を照射して加熱し、この測定部位に検出光を反射させてこの反射光を受光し、その受光強度の変化から前記測定部位の温度変化を検出して熱物性についての解析を行う熱物性解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薄い被測定物、例えば薄膜試料の熱物性についての解析評価のための測定方法として、特許文献1に記載された方法が知られている。この方法は、共通の短パルスレーザが加熱光(加熱用パルス光)と検出光(検出用パルス光)とに分岐され、これら加熱光と検出光とが透明基板上に形成された薄膜試料における測定部位の表裏各面に照射されることにより熱拡散測定が行われるいわゆるサーモリフレクタンス法である。
【0003】
具体的には、前記サーモリフレクタンス法では、短パルスレーザの分岐光のうち一方の加熱光が変調手段によって変調されると共に光学遅延手段によって遅延されつつ前記測定部位の一方の面に照射され、他方の検出光が前記測定部位の他方の面に照射される。そして、前記測定部位の他方の面で反射された検出射光(反射検出光)が検出され、その検出信号(強度信号)における前記加熱光の変調成分が検出される。
【0004】
この状態で、前記光学遅延手段によって前記加熱光の遅延状態が変化すれば、前記測定部位の過渡的な温度変化(光学的反射率の変化)が測定され、その過渡的な温度変化(過渡温度応答)が解析されることによって前記測定部位(被測定物)の熱物性値が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−83113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のサーモリフレクタンス法では、前記薄膜試料の裏面側(検出光が照射される面の反対側)に配置された基板(部材)が加熱光を透過する素材でなければ、前記加熱光が前記薄膜試料の裏面に到達することができず、当該薄膜試料を加熱することができない。即ち、不透明な基板の表面に形成された薄膜試料の熱物性についての解析のための測定ができないという問題が生じていた。
【0007】
そこで、前記加熱光と検出光とを前記薄膜試料の表面、即ち、同一面に照射し、その反射検出光から前記測定部位の温度変化を検出することが考えられた。このように前記加熱光と検出光とが共に薄膜試料の表面に照射されることで、薄膜試料の裏面側に配置された基板が不透明な素材で構成されていても当該薄膜試料が前記加熱光によって加熱される。
【0008】
しかし、このように前記薄膜試料の同一面に前記加熱光と検出光とが照射される場合、当該薄膜試料が非常に薄いと前記加熱光の一部が当該薄膜試料を透過して裏面側に配置された前記基板に到達し、当該基板が加熱される場合がある。この場合、前記基板からの熱の影響を受け、前記薄膜試料自身の温度変化が正確に評価できなくなり、薄膜試料の熱物性についての解析(熱物性解析)の精度が低下するといった問題が懸念された。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、不透明な基板上に形成された薄い被測定物であっても、当該被測定物に対する熱物性についての解析の精度を維持することができる熱物性解析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明に係る熱物性解析方法は、被測定物の測定部位に光を照射し、その反射光に基づいて前記被測定物の熱物性についての解析を行う熱物性解析方法であって、前記被測定物の表面に金属膜を形成する成膜工程と、この金属膜の形成後、当該金属膜に表面側から加熱用パルス光と検出光とを照射する光照射工程と、前記金属膜表面で反射された前記検出光を受光してその受光強度の変化から当該金属膜表面の温度変化を検出する温度変化検出工程と、前記検出した温度変化のうち前記加熱用パルス光の照射による熱が前記金属膜の内部でのみ拡散している時間が経過した後の温度変化に基づいて被測定物の熱物性を解析する解析工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、前記金属膜が照射された加熱光によって加熱され、この熱が前記被測定物に拡散するため、当該被測定物には表面側(金属膜)のみから熱が伝わる。そのため、前記被測定物において、裏面側からの加熱用パルス光に基づく熱の影響を抑制した状態で、前記検出光の受光強度の変化から熱の拡散による前記金属表面の温度変化、即ち、前記加熱用パルス光の加熱に対する過渡温度応答を測定することができる。
【0012】
この過渡温度応答のうち前記金属膜表面から被測定物に熱が拡散するまでは、前記金属膜の熱物性によって決定されている。そのため、前記熱がこの金属膜内部でのみ拡散している時間経過以降の前記過渡温度応答を解析することで、被測定物の熱物性についての解析を精度よく行うことができる。
【0013】
さらに、前記被測定物の表面に前記金属膜を形成することで、前記検出光を反射しない素材で形成された被測定物であっても前記過渡温度応答の測定を行うことが可能となる。
【0014】
本発明に係る熱物性解析方法においては、前記成膜工程では、あらかじめ前記金属膜が前記加熱用パルス光の照射により加熱されて温度上昇した後に当該金属膜における原子温度と格子温度とが平衡になるまでの緩和時間を算出し、さらにこの緩和時間の間に熱が前記金属膜表面から裏面へ到達することができる厚みを最小膜厚として算出しておき、この最小膜厚以上の厚みとなるように前記金属膜を前記被測定物に形成する構成が好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、前記加熱された金属膜において当該金属膜の電子温度と格子温度とが平衡状態となった後、この熱が前記被測定物に拡散し、この熱の拡散を前記過渡温度応答として測定することができる。そのため、前記被測定物の熱物性についての解析を例えば通常の熱伝導方程式(フーリエの法則)を適用することで容易に行うことができる。
【0016】
具体的には、前記加熱用パルス光によって加熱された物質は、当該加熱用パルス光による光励起直後のごく短い時間で観測すると電子温度と格子温度とが非平衡状態となっている。仮に、前記被測定物がこのような電子温度と格子温度との非平衡状態で熱物性の解析が行われたとすると、連立熱伝導方程式(2温度モデル)を適用して算出しなければならない。このとき不定パラメーターである物性値未定の被測定物の電子格子相互作用定数が必要となるため前記被測定物の熱物性の解析が困難、即ち、熱物性値の定量化が困難となる。
【0017】
これに対し、前記緩和時間の間に熱が前記金属膜表面から裏面へ到達することができる厚みを最小膜厚として算出しておき、この最小膜厚以上の厚みとなるように前記金属膜が前記被測定物に形成されることで、前記金属膜表面から裏面に熱が拡散するまでに前記緩和時間が経過するため、前記金属膜内部で電子温度と格子温度とが平衡状態となった後、前記被測定物に熱が拡散する。従って、当該方法を用いて測定した前記過渡温度応答から被測定物の熱物性についての解析を行うことで、前記連立熱伝導方程式を用いることなく通常の熱伝導方程式のみで計算することができる。
【0018】
その結果、前記過渡温度応答に基づく熱物性についての解析が容易になる。即ち、前記被測定物において、電子温度と格子温度とが非平衡状態での解析を回避することができ、平衡状態での解析が可能となる。
【0019】
尚、前記構成の場合、前記成膜工程では、前記金属膜は、電子格子相互作用定数が既知の金属によって形成され、前記緩和時間は、前記加熱用パルス光によって加熱された前記金属膜の原子温度と格子温度との以下の式(1)、(2)による連立熱伝導方程式から算出されることが好ましい。
【数1】

【数2】


ここで、Tは電子の温度,Tは格子の温度、C(T)は電子の比熱容量,C(T)は格子の比熱容量、λは電子の熱伝導率、Gは電子格子相互作用定数、Sは熱源である。
【0020】
このようにすることで、前記金属膜の電子格子相互作用定数が既知であるため、前記緩和時間の算出において、上記の式(1)及び式(2)による連立熱伝導方程式(2温度モデル)を適用して前記緩和時間が容易に算出される。
【0021】
また、前記構成の場合、前記成膜工程では、前記加熱用パルス光の照射後の前記金属膜の電子温度と格子温度とが平衡状態になるまで当該金属膜表面での温度応答減衰が続く十分な膜厚の前記金属膜に対して前記加熱用パルス光を照射したときに得られる温度応答波形を基準応答波形とし、膜厚を前記十分な膜厚から徐々に薄くした場合の各膜厚での前記加熱用パルス光の照射により得られる温度応答波形をそれぞれ計算し、この各膜厚での温度応答波形と前記基準応答波形とをそれぞれ対比し、前記緩和時間において前記基準応答波形から波形が乖離する温度応答波形に対応する膜厚を前記最小膜厚とすることが好ましい。
【0022】
このようにすることで、前記加熱用パルス光による熱が前記金属膜から被測定物に拡散するまでに当該金属膜内部で電子温度と格子温度とが平衡状態になる最小の前記金属膜の膜厚を容易に得ることができる。そのため、前記被測定物内部で電子温度と格子温度との非平衡状態が起こらず、物性値未定の被測定物の電子格子相互作用定数を用いることなく前記被測定物の熱物性についての解析を行うことができる。
【0023】
また、前記光照射工程では、前記加熱用パルス光と検出光とは、共通の基幹パルス光が2つのパルス光に分岐されることで形成されてもよい。
【0024】
かかる構成によれば、前記加熱用パルス光と検出光とのパルス繰り返し周波数を高精度に一致、即ち、同調させることができる。そのため、前記繰り返し周波数の一致誤差に起因する測定精度の悪化が抑制できる。
【0025】
また、前記光照射工程では、前記金属膜への照射前に前記加熱用パルス光を第1の周波数で強度変調すると共に前記検出光を第2の周波数で強度変調し、これら強度変調された加熱用パルス光と検出光とは、互いに光軸が一致した状態で前記金属膜表面に到達するようにそれぞれ案内され、前記温度検出工程では、前記金属膜表面で反射された前記検出光のうち、前記第1の周波数と第2の周波数との和若しくは差の周波数成分を検出する構成であってもよい。
【0026】
かかる構成によれば、前記金属薄膜表面で反射された前記検出光のうち、前記第1の周波数と第2の周波数との和若しくは差の周波数成分を検出することで、前記検出光に含まれた前記加熱用パルス光の前記金属膜での反射によるノイズを除去することができる。そのため、前記加熱用パルス光の照射による前記過渡温度応答を高精度に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
以上より、本発明によれば、不透明な基板上に形成された薄い被測定物であっても、当該被測定物に対する熱物性についての解析の精度を維持することができる熱物性解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態に係る熱物性解析装置の概略構成図である。
【図2】同実施形態に係る熱物性解析装置における(a)は加熱用パルス光の強度変化を模式的に表し、(b)は検出用パルス光の強度変化を模式的に表した図である。
【図3】金属膜(Cr膜)における電子温度と格子温度との過渡温度応答波形を示す図である。
【図4】各膜厚での金属膜(Cr膜)における過渡温度応答波形を示す。
【図5】(a)はAu薄膜表面にCr膜を形成した場合の電子温度と格子温度との過渡温度応答波形を示し、(b)はSiO薄膜表面にCr膜を形成した場合の電子温度と格子温度との過渡温度応答波形を示す図である。
【図6】Cr膜を表面に形成したAu薄膜とSiO薄膜との電子温度における過渡温度応答波形を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の第1実施形態について、添付図面を参照しつつ説明するが、まず、本実施形態に係る熱物性解析方法で用いる熱物性解析装置(以下、単に「解析装置」とも称する。)について図1に基づいて説明する。
【0030】
この解析装置10は、1つのパルスレーザ(光源)11から周期的に出射される基幹パルスレーザ(基幹パルス光)B0を2分岐させて、その一方を加熱用パルス光(以下、単に「加熱光」とも称する。)B1a、他方を検出用パルス光(以下、単に「検出光」とも称する。)B2aとしている。そして、加熱光B1aを薄膜試料(被測定物)30の測定部位30aに照射すると共にその測定部位30aに検出光B2aを照射し、当該測定部位30aで反射した検出光B2aを受光してその受光強度を検出することにより、前記測定部位30aの温度変化(過渡温度応答)を測定するサーモリフレクタンス法に基づく熱物性解析を行う装置である。
【0031】
尚、解析装置10の測定対象となる薄膜試料30としては、例えば、プリント基板上の配線パターンや、電子回路の配線膜、各種合金材料、炭素系コーティング膜の他、銅や金、アルミ等の金属の膜(特に、100nmオーダーの膜)等である。また、本実施形態に係る薄膜試料は、基板(図示せず)上(基板の表面)に成膜されている。
【0032】
解析装置10は、具体的には、パルスレーザ(光源)11、ビームスプリッタ(光分岐手段)12,15及び20、第1変調器13、第2変調器19、ミラー14,17、レンズ16、光路長調節機構18、第1発振器21、第2発振器22、混合器23、光検出器24、検波器25、計算機26及びステージ27を備えている。
【0033】
パルスレーザ11は、所定周期で断続する数ピコ秒〜十ピコ秒程度の幅の単位パルス光PLで構成される基幹パルス光(基幹パルスビーム)B0を出力(照射)する光源である。例えば、本実施形態に係るパルスレーザ11は、波長が532nm、パルス幅が12psecのパルス光(パルス状のビーム)B0を繰り返し周波数が80MHzで出力する。
【0034】
ビームスプリッタ12は、パルスレーザ11から出力される基幹パルス光B0を分岐させるもので、本実施形態においては第1の分岐光B1及び第2の分岐光B2に2分岐させる。この第1の分岐光B1は後述する加熱光B1aとして、第2の分岐光B2は後述する検出光B2aとして薄膜試料30の測定部位30aに照射される。
【0035】
第1の分岐光B1(加熱光B1a)は、ミラー14、ビームスプリッタ15及びレンズ16により、薄膜試料30の測定部位30aに案内される。また、第2の分岐光B2(検出光B2a)は、ミラー17、光路長調節機構18、ビームスプリッタ20,15及びレンズ16により薄膜試料30の測定部位30aに案内される。このように案内される加熱光B1aと検出光B2aとは、薄膜試料30の測定部位30a近傍に設置されたビームスプリッタ15までは、それぞれ異なる光学系によって案内される。
【0036】
ビームスプリッタ15及びレンズ16によって、加熱光B1aと検出光B2aとは、薄膜試料30の測定部位30aに対して垂直(若しくはほぼ垂直)な方向から互いに光軸が一致(若しくはほぼ一致)するように照射される。このように2つの光(加熱光及び検出光)B1a,B2aを薄膜試料30の測定部位30aに対して垂直方向(法線方向)から照射することによって両光B1a,B2aのスポット径をより小さくすることができる。その結果、薄膜試料30における微小領域の測定が容易となる。
【0037】
尚、偏光板等により、ビームスプリッタ15の位置に到達する加熱光B1a及び検出光B2aの偏光方向が異なるようにし、ビームスプリッタ15を偏光ビームスプリッタに置き換えることで、加熱光B1a及び検出光B2aのエネルギーロスを低減できる。
【0038】
第1変調器(加熱光変調手段)13は、第1発振器21から出力される所定の周波数(第1の周波数)F1の発振信号に基づいて、第1の分岐光B1をビームスプリッタ12から薄膜試料30の測定部位30aまでの中間位置で第1の周波数F1で強度変調するものである。以下では、第1変調器13によって変調される前(上流側)の光を第1の分岐光B1とも称し、第1の変調器13によって変調された後(下流側)の光を加熱光B1aとも称する。
【0039】
第2変調器(検出光変調手段)19は、第2発振器22から出力される所定の周波数(第2の周波数)F2の発振信号に基づいて、第2の分岐光B2をビームスプリッタ12から薄膜試料30の測定部位30aまでの中間位置で第2の周波数F2で強度変調するものである。以下では、第2変調器19によって変調される前(上流側)の光を第2の分岐光B2とも称し、第2変調器19によって変調された後(下流側)の光を検出光B2aとも称する。
【0040】
ここで、第1の周波数F1及び第2の周波数F2は、基幹パルス光B0における単位パルス光PLの繰り返し周波数F0(断続周波数)よりも十分に小さい。また、第1の周波数F1と第2の周波数F2とは、異なる周波数であり、例えば、本実施形態においては、F0=80MHzに対し、F1=200kHz、F2=230kHzである。
【0041】
尚、本実施形態において、第1変調器13は、ビームスプリッタ12とミラー14との間に配置されているが、この位置に限定されず、ビームスプリッタ12から薄膜試料30の測定部位30aに至るまでの光路における他の位置に配置されてもよい。同様に、第2変調器19は、光路長調節機構18とビームスプリッタ20との間に配置されているが、この位置に限定されず、ビームスプリッタ12から薄膜試料30の測定部位30aに至るまでの光路における他の位置に配置されてもよい。
【0042】
光路長調節機構18は、加熱光B1aと検出光B2aとの間で薄膜試料30の測定部位30aにおけるパルス光到達の時間差Δtpを生じさせるものであり、その時間差Δtpを例えばナノ秒オーダー以下の精度で調節可能(可変)とする光学機器及びその移動機構で構成されている装置(光路長調節手段)である。
【0043】
本実施形態においては、光路長調節機構18は、第2の分岐光B2(検出光B2a)の光路長を調節するための装置である。具体的には、光路長調節機構18は、第2の分岐光B2の光路中に配置され、一対のミラー18a,18aと、この一対のミラー18a,18aを第2の分岐光B2の光軸方向に移動させる移動ステージ18b、及びこの移動ステージ18bの動作を計算機26からの制御指令に従って制御する制御回路(図示せず)等を備えている。
【0044】
尚、本実施形態においては、光路長調節機構18は、第2の分岐光B2(強度変調前の検出光B2a)の光路中に配置されているが、この位置に限定されず、強度変調後の検出光B2aの光路中に配置されてもよく、また、第1の分岐光B1(強度変調前の加熱光B1a)又は強度変調後の加熱光B1aの光路中に配置されてもよい。
【0045】
図2(a)及び図2(b)は、それぞれ解析装置10における強度変調後の加熱光B1a及び検出光B2aの強度変化を模式的に表した図である。尚、図2(a)及び図2(b)において、強度変調後の加熱光B1aの強度をH(t)、強度変調後の検出光B2aの強度をP(t)とする。また、図2(a)及び図2(b)において、破線で表されるsin波形は、強度変調の周波数成分を表す波形である。
【0046】
加熱光B1a及び検出光B2aは、一定の強度の単位パルス光PLの列であった基幹パルス光B0(図1参照)の分岐光B1,B2がそれぞれ異なる周波数F1及びF2で強度変調された光である。また、光路長調節機構18の作用により、薄膜試料30の測定部位30aにおいて、加熱光B1aの単位パルス光に対して検出光B2aの単位パルス光が時間差Δtpだけ遅れて到達する。
【0047】
図1に戻り、薄膜試料30の測定部位30aで反射した検出光B2a(以下、単に「反射検出光B2b」とも称する。)は、レンズ16及びビームスプリッタ15を通過し、さらにビームスプリッタ20で反射した後、光検出器(光強度検出手段)24によって受光される。この光検出器24は、薄膜試料30の測定部位30aで反射した検出光B2a(反射検出光B2b)を受光してその受光強度を検出する。
【0048】
尚、偏光板等により、ビームスプリッタ20の位置に到達する検出光B2a及び反射検出光B2bの偏光方向が異なるようにし、ビームスプリッタ20を偏光ビームスプリッタに置き換えることで、検出光B2a及び反射検出光B2bのエネルギーロスを低減することができる。
【0049】
検波器25は、光検出器24による反射検出光B2bの受光強度の検出信号Sigに基づいて、その検出信号Sigにおける第1の周波数F1と第2の周波数F2との和(F1+F2)又は差(F1−F2)の周波数成分を検出する。そして、この検出された検出値Pf(以下、単に「検波値」とも称する。)を計算機26に対して出力する。この検波器25は、本実施形態においては、ロックインアンプで構成されている。
【0050】
混合器23は、第1発振器21及び第2発振器22のそれぞれの出力信号(周波数F1及びF2の発振信号)を混合し、この混合信号を検波器25に対して出力する。そして、検波器25は、混合器23から得た混合信号に基づいて、反射検出光B2bの受光強度の検出信号Sigから(F1+F2)又は(F1−F2)の周波数成分を検出する。
【0051】
ステージ27は、薄膜試料30が成膜された基板を支持すると共に計算機26からの制御指令に従って、薄膜試料30の位置を2次元方向(加熱光B1aおよび検出光B2aの照射方向に対して垂直若しくはほぼ垂直な面の方向)に移動可能ないわゆるX−Yステージである。
【0052】
計算機26は、ステージ27を制御することによって薄膜試料30の位置決めを行う、即ち、所望の測定部位30aの位置を加熱光B1a及び検出光B2aの照射位置に合わせる。また、計算機26は、検波器25により検出された検波値Pf(反射検出光B2bの強度の検出信号Sigにおける(F1+F2)又は(F1−F2)の周波数成分のレベル値)を薄膜試料30の測定部位30aごとに当該計算機26の記憶部(ハードディスク等)に記憶させる。
【0053】
さらに計算機26は、その記憶部に記憶させた検波値Pfに基づいて、あらかじめ定められた後述の解析規則に従って薄膜試料30の熱物性を解析すると共にその解析結果を出力(記憶部への書き込みや表示部への表示、他装置への送信等)する。
【0054】
次に、前記の解析装置10を用いて行う薄膜試料(被測定物)30の熱物性の解析方法(熱物性解析方法)について説明する。
【0055】
本実施形態に係る熱物性解析方法(以下、単に「解析方法」とも称する。)は、薄膜試料30の測定部位30aに光B1a,B2aを照射し、その反射に基づいて薄膜試料30の熱物性についての解析を行うための方法であり、成膜工程と、光照射工程と、温度変化検出工程と、解析工程と、を備える。
【0056】
被測定物である薄膜試料30は、基板上に形成(成膜)された熱物性値未定の非常に薄い薄膜である。具体的には、100nmオーダーの膜を主な対象とする熱物性解析方法である。しかし、この範囲に限定される必要はなく、当該解析方法は、10nm程度以上の厚みの薄膜試料についての熱物性解析を行うことができる。
【0057】
「成膜工程」
本実施形態に係る熱物性解析方法では、まず、薄膜試料30の表面に金属膜fiが形成される。本実施形態においては、前記金属膜fiにはモリブデン(Mo)が用いられる。
【0058】
このように薄膜試料30の表面に金属膜fiが形成されることで、加熱光B1aが金属膜表面の測定部位30aに照射されたときに、まず前記金属膜fiが加熱され、この熱が薄膜試料30に拡散するため、薄膜試料30には表面側(金属膜fi)のみから熱が伝わる。そのため、薄膜試料30において、裏面側(基板)に透過した加熱光B1aに基づく熱の影響を抑制した状態で、反射検出光B2bの受光強度の変化から熱の拡散による金属膜表面の温度変化、即ち、加熱光B1aに対する過渡温度応答を測定することができるようになる。
【0059】
さらに、薄膜試料30表面に金属膜fiを形成することで、検出光B2aを反射しない素材で形成された薄膜試料30であっても過渡温度応答の測定が可能となる。
【0060】
前記の金属膜fiの形成において、具体的には、その膜厚を決定するためにあらかじめ金属膜fiが加熱光B1aの照射により加熱されて温度上昇した後に当該金属膜fiにおける原子温度と格子温度とが平衡になるまでの緩和時間を算出しておく。ここで、本実施形態における緩和時間とは、例えば、電子温度と格子温度とが単位パルス光により加熱されて各温度がピーク値を取った後に緩和していき、両者の差が5%以内に収まった時間とする(図3参照)。
【0061】
この緩和時間は、加熱光B1aによって加熱された金属膜fiの原子温度と格子温度との以下の2式(式(11)及び式(12))による連立熱伝導方程式(2温度モデル)から算出される。
【数3】


【数4】


ここで、Tは電子の温度,Tは格子の温度、C(T)は電子の比熱容量,C(T)は格子の比熱容量、λは電子の熱伝導率、Gは電子格子相互作用定数、Sは熱源である。
【0062】
尚、クロムについての電子格子相互作用定数Gは、従来から文献値等による既知の値である。そのため、緩和時間の算出において、式(11)及び式(12)による連立熱伝導方程式からの算出が容易となる。
【0063】
次に、この算出された緩和時間の間に熱が金属膜表面から裏面へ到達することができる厚みを金属膜fiの最小膜厚として算出する。
【0064】
この最小膜厚の算出では、まず、基準応答波形を算出する。詳細には、加熱光B1aの照射後の金属膜fiの電子温度と格子温度とが平衡になるまで当該金属膜表面での温度応答減衰が続く十分な膜厚の金属膜に対して加熱光B1aを照射したときに得られる温度応答波形である基準応答波形が前記連立熱伝導方程式から計算される。次に、金属膜fiの膜厚を前記十分な膜厚から徐々に薄くした場合の各膜厚での加熱光B1aの照射により得られる温度応答波形が前記同様に連立熱伝導方程式からそれぞれ算出される。これら各膜厚での温度応答波形と基準応答波形とをそれぞれ比較し、緩和時間において基準応答波形から波形が乖離する温度応答波形に対応する膜厚を求める(図4参照)。このように求めた膜厚を最小膜厚とする。この最小膜厚以上の厚みとなるように金属膜fiを薄膜試料30の表面に形成する。
【0065】
このように最小膜厚以上の厚みの金属膜fiを薄膜試料30の表面に形成すれば、加熱された金属膜fiにおいて当該金属膜fiの電子温度と格子温度とが平衡状態となった後、この熱が薄膜試料30に拡散し、この熱の拡散を過渡温度応答として測定することができる。そのため、薄膜試料30の熱物性についての解析を例えば通常の熱伝導方程式(フーリエの法則)を適用することで容易に行うことができる。
【0066】
具体的には、加熱光B1aによって加熱された物質は、当該加熱光B1aによる光励起直後のごく短い時間で観測すると電子温度と格子温度とが非平衡状態となっている。仮に、薄膜試料30がこのような電子温度と格子温度との非平衡状態で熱物性の解析が行われたとすると、式(11)及び式(12)からなる連立熱伝導方程式(2温度モデル)を適用して算出しなければならない。このとき不定パラメーターである物性値未定の薄膜試料30の電子格子相互作用定数Gが必要となるため薄膜試料30の熱物性の解析が困難、即ち、熱物性値の定量化が困難となる。
【0067】
これに対し、緩和時間の間に熱が金属膜表面から裏面へ到達することができる厚みを最小膜厚として算出しておき、この最小膜厚以上の厚みとなるように金属膜fiが薄膜試料30に形成されることで、金属膜表面から裏面に熱が拡散するまでに緩和時間が経過するため、金属膜内部で電子温度と格子温度とが平衡状態となった後、薄膜試料30に熱が拡散する。従って、当該方法を用いて測定した過渡温度応答から薄膜試料30の熱物性について、連立熱伝導方程式を用いることなく通常の熱伝導方程式のみで解析することができる。
【0068】
その結果、過渡温度応答に基づく熱物性についての解析が容易になる。即ち、薄膜試料30において、電子温度と格子温度とが非平衡状態での解析を回避することができ、平衡状態での解析が可能となる。
【0069】
「光照射工程」
金属膜fiの形成後、薄膜試料30を前記の解析装置10のステージ27に配置し、金属膜fiに表面側から加熱光B1aと検出光B2aとを照射する。この加熱光B1aと検出光B2aとは、前記のように共通の基幹パルス光B0が2つのパルス光に分岐されることで形成されている。また、加熱光B1aと検出光B2aとは、加熱光B1aが第1の周波数F1に強度変調されており、検出光B2aが第2の周波数F2に強度変調されており、互いに光軸が一致した状態で金属膜表面に照射される。
【0070】
このように共通のパルス光を分岐して用いることで、加熱光B1aと検出光B2aとのパルス繰り返し周波数を高精度に一致(同調)させることができる。そのため、繰り返し周波数の一致誤差に起因する測定精度の悪化が抑制できる。
【0071】
「温度変化検出工程」
前記光照射工程において金属膜fiに照射した検出光B2aは金属膜表面で反射される。そして、この金属膜表面で反射された検出光B2a(反射検出光B2b)を受光してその受光強度の変化から当該金属膜表面の温度変化を検出する。このとき、反射検出光B2bのうち、第1の周波数F1と第2の周波数F2との和(F1+F2)若しくは差(F1−F2)の周波数成分を検出する。
【0072】
この周波数成分を検出することで、前記温度変化の検出において、反射検出光B2bに含まれた加熱光B1aの金属膜表面での反射によるノイズを除去することができる。そのため、加熱光B1aの照射による過渡温度応答を高精度に測定(検出)することが可能となる。
【0073】
「解析工程」
解析工程では、温度変化検出工程で検出した温度変化(過渡温度応答)のうち加熱光B1aの照射による熱が金属膜fiの内部でのみ拡散している時間が経過した後の温度変化に基づいて薄膜試料30の熱物性を解析する。
【0074】
これは、前記熱が金属膜fiの内部でのみ拡散している間の過渡温度応答は、金属膜fiの熱物性によって決定(支配)されている。そのため、熱がこの金属膜fiの内部でのみ拡散している時間が経過した後の過渡温度応答だけを解析することで、薄膜試料30の熱物性についての解析を精度よく行うことができる。
【0075】
尚、成膜工程において金属膜fiの膜厚が最小膜厚に形成されると、前記熱が金属膜fiの内部でのみ拡散している時間は、成膜工程において算出した緩和時間と等しくなる。
【0076】
ここで、得られた温度過渡応答から薄膜試料30の熱物性を得るための具体的な解析についての詳細を説明する。
【0077】
フーリエ則に基づく熱伝導方程式により、温度過渡応答を計算し、薄膜試料30の熱物性を求める。金属膜と薄膜試料30とからなる試料をパルス加熱したときの温度過渡応答は、下記の式(13)〜式(17)を計算することにより得られる。尚、加熱パルス光はガウス分布を仮定する。また、計算は、熱が基板まで伝わらない時間領域において行う。
1)熱伝導方程式
【数5】


2)加熱条件
【数6】


【数7】


3)熱物性値
【数8】


【数9】


ここで、Cは単位体積当たりの熱容量、λは熱伝導率、wは加熱レーザ光半径、dは加熱レーザ光浸透長、aは金属膜の厚み、mは金属膜、fは薄膜材料である。
【0078】
薄膜試料30の熱物性値を未知数として前記の計算を行い、測定から得た温度過渡応答に、計算から求めた温度過渡応答が合致したときの熱物性値を薄膜材料30の熱物性値として採用する。より精度よく評価するために、加熱レーザ光半径wを複数条件を変えて温度過渡応答を測定し、解析してもよい。
【0079】
本実施形態においては、このように得られた温度過渡応答から薄膜試料30の熱物性を解析しているが、これに限定されず、標準試料を利用した検量線から熱物性値を評価してもよい。具体的に、薄膜試料30と同じ組成・厚み・膜質の金属膜を成膜した標準試料を準備する。この標準試料は、例えば、石英ガラスと純Cuなどの熱伝導性の低い試料と高い試料との2種以上の組み合わせを用いる。加熱と検出とを同じ試料面で行うことから、標準試料は、薄膜である必要はなく、レーザフラッシュ法等で予め熱物性値の同定が可能な形状の試料が用いられる。前記検量線は、例えば、次のように作成する。それぞれの標準試料の温度過渡応答から、減衰率を評価し、減衰率・熱物性値の検量線を作成する。減衰率は、金属膜において電子温度と格子温度とが平衡状態になってから一定時間(例えば、50psec等)経過する間に、温度応答信号が何%に減衰したかにより評価する。このように標準試料と同様に薄膜試料30の減衰率を求め、検量線から熱物性値を評価する。
【0080】
尚、本実施形態において、検出光B2aをP偏光にして金属膜fiに照射してもよい。また、円偏光や楕円偏光の光を金属膜fiに照射し、受光段階でP偏光成分を偏光板等で抽出してもよい。また、このときS偏光成分も同時に抽出することで、金属膜表面の反射率やレーザパワー変動等を検知することができる。これらを測定結果に対する補正信号として利用してもよい。
【実施例1】
【0081】
第1実施形態の解析装置10を用い、薄膜試料30(Au膜及びSiO膜)の表面にクロム(Cr))で金属膜fiを形成して第1実施形態に係る熱物性解析を行った。
【0082】
クロムについては、電子格子相互作用定数Gの文献値があり、この値を用いて2温度モデル(連立熱伝導方程式)による解析を行った。パルスの時間幅10psec(ピコ秒)の加熱を行った場合の前記解析の結果を図3に示す。この図から解るように、パルスの時間幅10psecの加熱を行った場合、電子温度と格子温度とが平衡になるまでにおよそ100psecかかる。即ち、緩和時間が100psecとなる。
【0083】
図4に、前記金属膜の厚みを10〜1000nmまで変更して2温度モデルによる解析を行った結果を示す。厚み1000nmでは、時刻1000psecまで温度応答波形が減衰(温度応答減衰)を続けており、温度応答波形に金属膜裏面側の基板からの熱の影響を受けない十分な膜厚であることが解る。
【0084】
前記で求めた電子温度と格子温度とが非平衡な状態で熱(熱エネルギー)が伝わる時間、即ち、緩和時間100psecの間に、前記十分な厚み1000nmの前記金属膜fiの波形と乖離しない最小の膜厚は、100nmとわかる。この厚みを最小膜厚としてこの厚み以上の前記金属膜fiを薄膜試料30表面に形成することで、薄膜試料30には前記平衡状態で金属膜fiから熱が伝わる。従って、薄膜試料30内部では、電子温度と格子温度との非平衡状態が生じず、薄膜試料30の電子格子相互作用定数Gを用いることなく、通常の熱伝導方程式により解析を行うことができる。
【0085】
このようにして得た最小膜厚100nmの金属膜(Cr)fiを薄膜試料(厚み100nmのAu薄膜、及び厚み100nmのSiO薄膜)30の表面に形成し、パルス光で加熱した場合の過渡温度応答を図5(a)及び図5(b)にそれぞれ示す。これらの図からわかるように、100psec(緩和時間)以降は、電子温度と格子温度とが平衡状態となっている。
【0086】
また、図5(a)及び図5(b)における電子温度を比較したものを図6に示す。この図からわかるように、緩和時間以降の過渡温度応答に明確な波形の違いが表れている。この波形の違いが熱物性値の違いであり、これを前記のように解析することで熱物性値の評価をすることができる。
【0087】
尚、本発明の熱物性解析方法は、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0088】
例えば、第1及び第2実施形態では、検波器25によって、反射検出光B2bの強度の検出信号Sigにおける第1の周波数F1と第2の周波数F2との和(F1+F2)又は差(F1−F2)の周波数成分を検出することで、過渡温度応答を検出している。しかし、これに限定される必要はなく、金属膜表面での反射光から反射検出光B2bを光学フィルタ等によって抽出して過渡温度応答を検出してもよい。
【0089】
また、加熱光B1aと検出光B2aとの両パルス光の繰り返し周波数を高精度で一致させることができれば、光源(パルスレーザ)が1つである必要はなく、それぞれ異なる光源を用いてもよい。
【0090】
また、加熱光B1aがパルス光であれば、検出光B2aはパルス光である必要はない。この場合、加熱光B1aに対応した極めて短い時間での薄膜試料30(金属膜fi)表面の温度変化を検出できればよい。
【符号の説明】
【0091】
30 薄膜試料(被測定物)
B1a 加熱光(加熱用パルス光)
B2a 検出光(検出用パルス光)
fi 金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の測定部位に光を照射し、その反射光に基づいて前記被測定物の熱物性についての解析を行う熱物性解析方法であって、
前記被測定物の表面に金属膜を形成する成膜工程と、
この金属膜の形成後、当該金属膜に表面側から加熱用パルス光と検出光とを照射する光照射工程と、
前記金属膜表面で反射された前記検出光を受光してその受光強度の変化から当該金属膜表面の温度変化を検出する温度変化検出工程と、
前記検出した温度変化のうち前記加熱用パルス光の照射による熱が前記金属膜の内部でのみ拡散している時間が経過した後の温度変化に基づいて被測定物の熱物性を解析する解析工程と、を備えることを特徴とする熱物性解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱物性解析方法において、
前記成膜工程では、あらかじめ前記金属膜が前記加熱用パルス光の照射により加熱されて温度上昇した後に当該金属膜における原子温度と格子温度とが平衡になるまでの緩和時間を算出し、さらにこの緩和時間の間に熱が前記金属膜表面から裏面へ到達することができる厚みを最小膜厚として算出しておき、
この最小膜厚以上の厚みとなるように前記金属膜を前記被測定物に形成することを特徴とする熱物性解析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の熱物性解析方法において、
前記成膜工程では、前記金属膜は、電子格子相互作用定数が既知の金属によって形成され、
前記緩和時間は、前記加熱用パルス光によって加熱された前記金属膜の原子温度と格子温度との以下の式(1)、(2)による連立熱伝導方程式から算出されることを特徴とする熱物性解析方法。
【数10】


【数11】


ここで、Tは電子の温度,Tは格子の温度、C(T)は電子の比熱容量,C(T)は格子の比熱容量、λは電子の熱伝導率、Gは電子格子相互作用定数、Sは熱源である。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の熱物性解析方法において、
前記成膜工程では、前記加熱用パルス光の照射後の前記金属膜の電子温度と格子温度とが平衡状態になるまで当該金属膜表面での温度応答減衰が続く十分な膜厚の前記金属膜に対して前記加熱用パルス光を照射したときに得られる温度応答波形を基準応答波形とし、
膜厚を前記十分な膜厚から徐々に薄くした場合の各膜厚での前記加熱用パルス光の照射により得られる温度応答波形をそれぞれ計算し、
この各膜厚での温度応答波形と前記基準応答波形とをそれぞれ対比し、
前記緩和時間において前記基準応答波形から波形が乖離する温度応答波形に対応する膜厚を前記最小膜厚とすることを特徴とすることを特徴とする熱物性解析方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱物性解析方法において、
前記光照射工程では、前記加熱用パルス光と検出光とは、共通の基幹パルス光が2つのパルス光に分岐されることで形成されることを特徴とする熱物性解析方法。
【請求項6】
請求項5に記載の熱物性解析方法において、
前記光照射工程では、前記金属膜への照射前に前記加熱用パルス光を第1の周波数で強度変調すると共に前記検出光を第2の周波数で強度変調し、
これら強度変調された加熱用パルス光と検出光とは、互いに光軸が一致した状態で前記金属膜表面に到達するようにそれぞれ案内され、
前記温度変化検出工程では、前記金属膜表面で反射された前記検出光のうち、前記第1の周波数と第2の周波数との和若しくは差の周波数成分を検出することを特徴とする熱物性解析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−236895(P2010−236895A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82469(P2009−82469)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】