説明

熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料

【課題】液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止し、塗工時の生産性を向上することができる熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂を提供する。
【解決手段】熱現像性感光材料に用いるポリビニルアセタール樹脂であって、少なくとも(1)ビニルアルコール単位(2)アセタール化されたビニルアルコール単位および(3)アセトアセチル基を側鎖に有するビニルアルコール単位で表される構造単位を有する熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止し、塗工時の生産性を向上することができる熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀感光材料は、その優れた写真特性から、従来より広範囲かつ高品質な素材として画像形成分野に利用されている。しかし、現像工程や定着工程が複雑であることに加え、現像工程が湿式である場合には、処理が煩雑で、多量の化学廃液を排出することから、作業性や環境面で問題となっていた。これに対して、近年では現像工程を乾式の熱処理で行うことができ、廃液が発生しない熱現像性感光材料が開発され、実用化されている。
【0003】
熱現像性感光材料は、通常、有機銀塩、銀イオン還元剤、感光性ハロゲン化銀等をバインダー樹脂と共に溶剤に溶解、分散させた乳剤を、基材となるPET等のフィルムに塗工し、乾燥させることで、感光層を支持体上に形成することによって得られる。例えば、特許文献1又は特許文献2には、有機銀塩、銀イオン還元剤及び光還元性ハロゲン銀等を、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、酢酸セルローズ、ポリ酢酸ビニル、酢酸プロピオン酸セルローズ、酢酸酪酸セルローズ等からなる造膜性バインダー樹脂中に分散させた乳剤からなる熱現像性塗工層が支持体上に形成された熱現像性感光材料が開示されている。
【0004】
しかしながら、このような熱現像性感光材料は乳剤を基材に塗工する際に、生産性を向上させるために塗工速度を上げると、液だれ、ムラ等の不具合が発生するという問題があった。これに対して、単純に樹脂濃度を高くしたり、バインダー樹脂の重合度を高くしたりすることで、予め粘度を上昇させた溶液を用いることが検討されている。
しかしながら、このような溶液を用いる場合には、バインダー樹脂の溶解に要する時間が長くなったり、溶液のポンプ輸送性が低下したりして生産性が低下するという問題が生じていた。
【特許文献1】特公昭43−4924号公報
【特許文献2】特開昭49−52626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止し、塗工時の生産性を向上することができる熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱現像性感光材料に用いるポリビニルアセタール樹脂であって、少なくとも下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される構造単位を有する熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂である。
【0007】
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、熱現像性感光材料の作製に使用する塗工溶液のバインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を用いる場合に、塗工速度を上げると液だれ、ムラ等の不具合が発生する原因は、高い剪断速度の下で塗工溶液の弾性率が低下するため、形成される塗膜の形状が維持されなくなることであることを見出した。
本発明者らは、更に鋭意検討の結果、塗工溶液のバインダー樹脂として特定の構造単位からなるポリビニルアセタール樹脂を用いることによって、塗工時の高い剪断速度の下でも塗工溶液の弾性率が低下することなく、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂(以下、単にポリビニルアセタール樹脂ともいう)は、少なくとも下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される構造単位からなる。
【0010】
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
【0011】
本発明のポリビニルアセタール樹脂を適当な溶媒に溶解して熱現像性感光材料の感光層を形成するための塗工溶液とした場合、塗工速度を上げた際の高剪断時においても溶液の弾性率が低下することなく、塗工時の液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止することができる。また、本発明のポリビニルアセタール樹脂は、有機溶剤への溶解に長時間を要することはなく、得られる溶液のポンプ輸送性が低下することもない。
【0012】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量の好ましい下限は17モル%、好ましい上限は35モル%である。17モル%未満であると、有機銀塩の分散性が低下し、熱現像性感光材料の感度が悪化することがある。35モル%を超えると、水分を透過しやすくなるため、かぶりが発生して保存安定性が悪くなったり、画像濃度が低下するため、熱現像性感光材料の感度が悪化したりすることがある。
【0013】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(2)で表されるアセタール単位の含有量の好ましい下限は30モル%、好ましい上限は78モル%である。30モル%未満であると、有機溶剤に不溶となり、熱現像性感光材料の作製の支障となる。78モル%を超えると、残存水酸基が少なくなって強靱性が損なわれ、熱現像性感光材料作製時の塗膜強度が低下することがある。
【0014】
上記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位におけるアセトアセチル基は、自己架橋性を有しており、加熱又は酸触媒下での加熱によって、他の分子中のアセトアセチル基や水酸基と架橋構造を形成し、部分的に高分子量成分をつくる。このため、塗工速度を上げた際の高剪断時においても、塗工溶液の弾性率が低下することを防ぐことができる。
【0015】
上記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位を有する分子は、分子間で金属と錯体を形成する。このため、本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ベヘン酸銀、ハロゲン化銀等の有機銀塩と錯体を形成し、有機銀塩を効果的に分散することができるため、優れた画像特性が得られる。
【0016】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位の含有量の好ましい下限は0.5モル%、好ましい上限は15モル%である。0.5モル%未満であると、架橋構造が形成されることによる効果が充分に得られず、高剪断時に弾性率が低下してしまうため、塗工時に液だれ、ムラ等が発生することがある。15モル%を越えると、架橋度が高くなりすぎて有機溶媒に不溶となるため、塗膜性が低下することがある。
【0017】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、残存ハロゲン化物量の好ましい上限は100ppmである。100ppmを超えると、感光性ハロゲン化銀の生成物質となり、塗工溶液の保存性を低下させ、得られる熱現像感光材料の保存性低下、カブリ等の原因になることがある。上記残存ハロゲン化物量の上限を100ppmとする方法としては、例えば、アセタール化に使用する触媒として非ハロゲン性のものを使用する方法や、ハロゲン性の触媒を使用した場合には、水、水/アルコールの混合溶液等による洗浄操作にて精製し、規定量以下まで除去する方法等が挙げられる。より好ましい上限は、50ppmである。
【0018】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、含有水分量の好ましい上限は3.0重量%である。3.0重量%を超えると、得られる熱現像感光材料のポットライフが低下するとともに、熱現像性感光材料の塗膜の強化を目的として添加されるイソシアネート基を有する架橋剤と反応するため、塗膜の強化が不充分となることがある。より好ましい上限は2.5重量%である。
【0019】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、残存アルカリ性物質量の好ましい上限は0.01重量%である。0.01重量%を超えると、塗工溶液のポットライフの低下や、得られる熱現像性感光材料の保存性の低下等を引き起こすことがある。残存アルカリ性物質の含有量の上限を0.01重量%とする方法としては、例えば、アセタール化の際に、中和後の過剰アルカリ分を水又は水/アルコールの混合溶液で洗浄する方法や、揮発性のアルカリを使用し、乾燥によりアルカリを除去して、上限を0.01重量%とする方法等が挙げられる。より好ましい上限は0.005重量%である。
【0020】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、重合度の好ましい下限が200、好ましい上限が3000である。重合度を上記範囲内とすることにより、本発明のポリビニルアセタール樹脂とともに用いられる有機銀塩の分散性、塗膜強度、塗工性に優れるものとすることができる。更に、上記有機銀塩の分散性、塗膜の強度、塗工性等のバランスを考えると、重合度のより好ましい下限は300であり、より好ましい上限は1000である。
【0021】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、アセトアセチル基を側鎖に有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化することにより製造することができる。
【0022】
上記ポリビニルアルコールのケン化度の好ましい下限は75モル%である。75モル%未満であると、ポリビニルアルコールの水溶性が低下するため、アセタール化反応が困難になることがある。また、水酸基量が少ないとアセタール化反応自体が困難になることがある。
【0023】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、酸触媒の存在下でポリビニルアルコールの水溶液、アルコール溶液、水/アルコール混合溶液、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0024】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、上記アルデヒドとしては特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとをそれぞれ単独で用いるか、又は、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとを併用することが好ましい。
【0025】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとして、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとを併用した場合、得られる熱現像性感光材料は、銀塩の分散性が向上し、熱溶融性、冷却硬化性等がシャープとなることから、有機銀塩の核成長を精度よく制御することが可能となり、結果として画像及び階調部の鮮明度が優れたものとなる。
【0026】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度の好ましい下限が40モル%、好ましい上限が78モル%である。40モル%未満であると、有機溶剤に不溶となり熱現像性感光材料の感光層のバインダー樹脂として用いることができないことがある。78モル%を超えると、残存水酸基量が少なくなって得られるポリビニルアセタール樹脂の強靱性が損なわれ塗膜の強度が低下することがある。
なお、本明細書において、アセタール化度の計算方法としては、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を計算する。
【0027】
上記酸触媒としては特に限定されず、有機酸、無機酸のどちらでも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。なかでも、非ハロゲン性の酸触媒が好適である。非ハロゲン性の酸触媒を用いれば、残存ハロゲン化物量を100ppm以下とすることが容易になる。また、ハロゲン性の酸触媒を用いる場合には、得られたポリビニルアセタール樹脂を水や水/アルコールの混合溶液等により充分に洗浄して精製することが好ましい。
【0028】
なお、ポリビニルアルコールとアルデヒドとのアセタール化反応においては、アルデヒドの酸化防止のため、又は、得られるポリビニルアセタール樹脂の酸化防止及び耐熱性向上のために、反応系又は樹脂系にヒンダードフェノール系、ビスフェノール系、リン酸系等の酸化防止剤を添加する方法が知られている。しかし、本発明のポリビニルアセタール樹脂を製造する場合には、上記酸化防止剤を使用しないことが好ましい。酸化防止剤を使用すると、酸化防止剤がポリビニルアセタール樹脂中に残存し、塗工溶液のポットライフの低下、得られる熱現像性感光材料の保存性の低下等を引き起こし、かぶりや画像/階調部の鮮明性を損なうことがある。
【0029】
上記アセタール化の反応を停止するために、アルカリによる中和を行うことが好ましい。上記アルカリとしては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
また、上記中和工程の前後に、水等を用いて得られたポリビニルアセタール樹脂を洗浄することが好ましい。なお、洗浄水中に含まれる不純物の混入を防ぐため、洗浄は純水で行うことがより好ましい。
【0030】
上記変性ポリビニルアルコールを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、アセトアセチル基を側鎖に有する変性ポリ酢酸ビニルを従来公知の方法によりケン化することによって製造することができる。
【0031】
このような製造方法によって上記変性ポリビニルアルコールを製造した場合、本発明のポリビニルアセタール樹脂は、下記一般式(4)で表される構造単位を有していてもよい。
【0032】
【化2】

【0033】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(4)で表されるアセチル単位の含有量の好ましい上限が25モル%である。25モル%を超えると、得られる熱現像性感光材料でブロッキングが生じるとともに、画像が不鮮明となるとなることがある。より好ましい上限は15モル%である。
【0034】
本発明のポリビニルアセタール樹脂、有機銀塩、感光性ハロゲン化銀、銀イオン還元剤、架橋剤、添加剤及び有機溶剤を混合して塗工溶液を調製し、得られた塗工溶液を支持体上に塗工、乾燥させることにより、支持体上に感光層が形成された熱現像感光材料を製造することができる。
このような熱現像性感光材料もまた、本発明の一つである。
【0035】
上記感光層における本発明のポリビニルアセタール樹脂の含有量は、上記有機銀塩に対する重量比(本発明のポリビニルアセタール樹脂:有機銀塩)で、好ましい下限が1:10、好ましい上限が10:1である。1:10未満では、熱現像感光材料を構成する各層間の接着性を向上させることができず、10:1を超えると、画像が不鮮明となることがある。より好ましい下限は1:5、より好ましい上限は5:1である。
【0036】
上記有機銀塩は、光に比較的安定な無色又は白色の銀塩であり、感光性ハロゲン化銀の存在下で80℃以上に加熱されたときに、銀イオン還元剤と反応して銀を生ずるものである。
【0037】
上記有機銀塩としては特に限定されず、例えば、メルカプト基、チオン基又はカルボキシル基を有する有機化合物の銀塩、ベンゾトリアゾール銀等が挙げられる。具体的には、メルカプト基又はチオン基を有する化合物の銀塩、3−メルカプト−4−フェニル1,2,4−トリアゾールの銀塩、2−メルカプト−ベンツイミダゾールの銀塩、2−メルカプト−5−アミノチアゾールの銀塩、1−フェニル−5−メルカプトテトラチアゾールの銀塩、2−メルカプトベンゾチアゾールの銀塩、チオグリコール酸の銀塩、ジチオ酢酸の銀塩のようなジチオカルボン酸の銀塩、チオアミド銀、チオピリジン銀塩ジチオヒドロキシベンゾールの銀塩、メルカプトトリアジンの銀塩、メルカプトオキサジアゾールの銀塩、脂肪族カルボン酸の銀塩:カプリン酸銀、ラウリン酸銀、ミリスチン酸銀、パルミチン酸銀、ステアリン酸銀、ベヘン酸銀、マレイン酸銀、フマル酸銀、酒石酸銀、フロイン酸銀、リノール酸銀、オレイン酸銀、ヒドロキシステアリン酸銀、アジピン酸銀、セバシン酸銀、こはく酸銀、酢酸銀、酪酸銀、樟脳酸銀等、芳香族カルボン酸銀、チオンカルボン酸銀、チオエーテル基を有する脂肪族カルボン酸銀、テトラザインデンの銀塩、S−2−アミノフェニルチオ硫酸銀、含金属アミノアルコール、有機酸金属キレート等が挙げられる。
【0038】
上記有機銀塩の粒子径としては特に限定されないが、好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は10μmである。上記範囲内とすることにより、被覆力を大きく、画像濃度を高くすることができる。より好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は5μmである。
【0039】
上記感光性ハロゲン化銀としては特に限定されず、例えば、臭化銀、沃化銀、塩化銀、塩臭化銀、沃臭化銀、塩沃化銀等が挙げられる。
また、上記感光性ハロゲン化銀は増感剤により化学増感されていることが好ましい。上記感光性ハロゲン化銀を増感剤により化学増感させる方法としては特に限定されず、例えば、硫黄増感法、セレン増感法、テルル増感法等が挙げられる。また、塩化金酸、カリウムクロロオーレート、カリウムオーリチオシアネート、硫化金、金セレナイド等の金化合物、白金、パラジウム、イリジウム化合物等の増感剤を用いる貴金属増感法、アスコルビン酸、二酸化チオ尿素等の増感剤を用いる還元増感法等が挙げられる。
【0040】
上記感光性ハロゲン化銀は、増感色素を併用することにより分光増感されていることが好ましい。上記増感色素を併用することにより、光源の波長域に応じて、上記感光性ハロゲン化銀を所望の吸収波長域に分光増感させることが可能となる。
【0041】
上記感光性ハロゲン化銀の含有量は、上記有機銀塩100重量部に対して、好ましい下限が0.0005重量部、好ましい上限が0.2重量部である。0.0005重量部未満であると、現像後の画像が不鮮明となることがあり、0.2重量部を超えると、現像後の画像が白濁することがある。より好ましい下限は0.01重量部である。
【0042】
上記銀イオン還元剤としては、銀イオンを金属銀に還元することができる任意の物質であれば特に限定されず、例えば、置換フェノール類、ビスフェノール類、ナフトール類、ビスナフトール類、ポリヒドロキシベンゼン類、ジ又はポリヒドロキシナフトール類、ジ又はポリヒドロキシナフタレン類、ハイドロキノン類、ハイドロキノンモノエーテル類、アスコルビン酸又はその誘導体、還元性糖類、芳香族アミノ化合物、ヒドロキシアミン類、ヒドラジン類、フェニドン類、ヒンダードフェノール類等が挙げられる。なかでも、光分解性の銀イオン還元剤が好ましく用いられるが、熱分解性の還元剤も使用することができる。また、光分解を促進する化合物を併用することもでき、ハロゲン化銀と還元剤との反応を阻害するための被覆剤を併用したりすることもできる。
【0043】
上記銀イオン還元剤の含有量は、上記有機銀塩100重量部に対して、好ましい下限が0.0001重量部、好ましい上限が3.0重量部である。上記範囲内とすることにより、上記有機銀塩の還元を適切に行うことができる。より好ましい下限は0.01重量部、より好ましい上限は1.0重量部である。
【0044】
上記架橋剤としては、上記アセトアセチル基と反応するものであれば特に限定されず、多官能性イソシアネートが挙げられる。
【0045】
上記多官能性イソシアネートとしては特に限定されず、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0046】
上記架橋剤の含有量は、上記有機銀塩100重量部に対して、好ましい下限が0.02重量部、好ましい上限が0.5重量部である。0.02重量部未満であると、架橋構造が形成されることによる効果が充分に得られず、高剪断時に弾性率が低下してしまうため、塗工時に液だれ、ムラ等が発生することがある。0.5重量部を越えると、架橋度が高くなりすぎて有機溶媒に不溶となるため、塗膜性が低下することがある。より好ましい下限は0.05重量部、より好ましい上限は0.2重量部である。
【0047】
上記添加剤としては特に限定されず、例えば、色調剤等が挙げられる。
上記色調剤は、上記有機銀塩と還元剤との酸化還元反応に関与して、生ずる銀画像を黒色にする機能を有する。
【0048】
上記色調剤としては特に限定されず、例えば、イミド類、ナフトールイミド類、メルカプタン類、N−(アミノメチル)アリールジカルボキシイミド類、ブロックされたピラゾール類、フタラジノン、フタラジノン誘導体又はこれらの誘導体の金属塩、フタラジン類、フタル酸及び2、3−ナフタレンジカルボン酸又はo−フェニレン酸誘導体及びその無水物、キナゾリンジオン類、ベンズオキサジン、ナルトキサジン誘導体、ベンズオキサジン−2、4−ジオン類、ピリミジン類、テトラアザペンタレン誘導体等が挙げられる。なかでも、フタラジン又はフタラジノンが好ましい。
【0049】
上記有機溶剤としては、本発明のポリビニルアセタール樹脂を溶解することができ、かつ、水分の含有量が少ないものであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類等が好ましい。上記有機溶剤として、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール等を用いる場合には、充分に脱水したものを用いることが好ましい。
【0050】
上記支持体としては特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類;ポリビニルアセタール、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート類のセルロースエステル類;ニトロセルロース、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリプロピレン等からなるプラスチックフィルム、ガラス、紙、アルミニウム等からなる金属板等が挙げられる。これらのなかでは、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0051】
上記支持体上に塗工される銀の量は、支持体1mあたり、好ましい下限が0.1g、好ましい上限が5gである。0.1g未満であると、画像濃度が低くなることがあり、5gを超えた場合であっても、画像濃度の向上はみられない。より好ましい下限は0.3gであり、上限は3gである。
【0052】
本発明の熱現像感光材料を製造する方法としては特に限定されず、例えば、本発明のポリビニルアセタール樹脂、有機銀塩、感光性ハロゲン化銀、銀イオン還元剤、添加剤及び有機溶剤をボールミルで混合、分散し、分散液を作製する。次いで、作製した分散液を、有機銀塩が所定の量となるように支持体上に塗工し、有機溶剤を蒸発させることにより、熱現像感光材料を製造する方法等が挙げられる。
【0053】
なお、上記感光性ハロゲン化銀は、上記有機銀塩に感光性ハロゲン化銀形成成分を作用させて、有機銀塩の一部を感光性ハロゲン化銀にすることにより形成することとしてもよい。
【0054】
上記有機銀塩と上記銀イオン還元剤とは、これらを一括して本発明のポリビニルアセタール樹脂に配合し、支持体上に一層の感光層として形成してもよいし、上記有機銀塩と上記銀イオン還元剤とを別々に本発明のポリビニルアセタール樹脂に配合し、これらを支持体層上に各別に二層に形成してもよい。
また、上記感光層は、上記支持体の片面のみに形成されてもよく、上記支持体の両面に形成されてもよい。
【発明の効果】
【0055】
本発明によれば、熱現像性感光材料に用いた場合に、優れた画像特性が得られ、塗工溶液が着色することなく、かつ、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止し、塗工時の生産性を向上することができる熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
重合度500、ケン化度98モル%、アセトアセチル単位含有量が5モル%である変性ポリビニルアルコール100gを700gの蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに70%硝酸26gを加え、更にブチルアルデヒド16gを添加した。次に、10℃まで冷却し、ブチルアルデヒド70gを加えた。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、硝酸93gを加え35℃に昇温して6時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水洗後のポリビニルブチラール樹脂を脱水した後、60メッシュの篩にかけて通過した粒子のみを蒸留水に分散し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水し、40℃で12時間乾燥した後、60メッシュの篩にかけ、通過した粒子のみを蒸留水で10時間流水洗浄した。洗浄後、脱水、乾燥してポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセチル単位含有量は1.7モル%、残存水酸基量は28モル%、アセトアセチル単位含有量は5モル%であった。
【0058】
(比較例1)
重合度500、ケン化度98モル%であってアセトアセチル単位を含有しないポリビニルアルコールを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂の残存アセチル基量は1.7モル%、残存水酸基量は28モル%であった。
【0059】
(評価)
実施例1及び比較例1で得られたポリビニルアセタール樹脂について、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示した。
【0060】
(1)粘弾性評価
得られたポリビニルアセタール樹脂30gをメチルエチルケトン70gに溶解し、ミックスローターで48時間撹拌し、溶解させた。溶解後、30分間、20℃で静置させた。その後、回転式レオメーター(BM型、トキメック社製)を用いて、剪断応力の高い領域(100〜200Pa)の弾性率(G’)を測定した。
【0061】
(2)着色評価
得られたポリビニルアセタール樹脂5g、ベヘン酸銀5g及びメチルエチルケトン40gをボールミルで24時間混合し、更に、N−ラウリル−1−ヒドロキシ−2−ナフトアミド0.2gを加え、再びボールミルで粉砕して塗工溶液を作製した。得られた塗工溶液を常温で3日間室内の蛍光灯下に置き、以下の基準で塗工溶液の着色の有無を評価した。
○:白色のまま変化が見られなかった。
×:着色が見られた。
【0062】
(3)ムラ評価
(2)で作製した塗工溶液を、ポリエステル基材上に乾燥後の厚みが10μmとなるように塗工して乾燥した。この塗工面上に、N,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン・硫酸塩0.5g、ポリビニルピロリドン2g及びメタノール30mLからなる溶液を乾燥後の厚みが1μmとなるように塗工して乾燥し、感光性フィルムを得た。
得られた感光性フィルムの厚さを測定し、以下の基準でムラの評価を行った。
○:厚さのバラツキが±5%未満であった。
×:厚さのバラツキが±5%以上であった。
【0063】
(4)画像評価
(3)で得られた感光性フィルムに、階調パターンフイルムを通して250ワットの高圧水銀等で20cmの距離で0.3秒間露光後、120℃の熱板を用いて5秒間加熱してシアン色のパターン画像を得た。
得られたパターン画像を白色光に曝して、以下の基準でパターン画像のコントラストの変化を評価した。
◎:変化が見られなかった。
○:ほとんど変化が見られなかった。
×:変化が見られた。
【0064】
【表1】

実施例1で得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた溶液は、弾性率の低下が見られなかった。また、感光性フィルムとしたときの、着色、ムラ及び画像評価でも良好な結果が得られた。
比較例1で得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた溶液は、弾性率の低下が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止し、塗工時の生産性を向上することができる熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱現像性感光材料に用いるポリビニルアセタール樹脂であって、
少なくとも下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される構造単位を有する
ことを特徴とする熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂。
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
【請求項2】
請求項1記載の熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂を用いてなることを特徴とする熱現像性感光材料。


【公開番号】特開2007−112902(P2007−112902A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305849(P2005−305849)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】