説明

熱的化学反応の高い生産速度を得るための方法および装置

【課題】熱的化学反応に対し大きい反応速度を提供することができる方法および装置を提供する。
【解決手段】触媒を含む少なくとも一つの反応チャンバーと、熱的に接している少なくとも一つの熱交換器を含む、酸化が深く進行するのを排除しながら、熱的化学反応で少なくとも一つの反応物を触媒転化するための反応器であって、該熱交換器は100μm〜10mmの範囲の最小寸法を有しており、該反応チャンバーの高さは5cm(2インチ)またはそれより低く、そして、熱伝達工程は定常状態での運転中に、総反応器容積(cc)当たり少なくとも0.6Wの熱が、伝達され得るような構造をしている反応器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱的化学反応のための方法および装置に関する。この方法および装置は、熱的化学反応に対し大きい反応速度を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
熱的化学反応とは、熱を生成する(発熱)または熱を消費する(吸熱)化学反応である。熱的化学反応の例に含まれるのは、水蒸気改質、水性ガス・シフト反応および燃焼のような炭化水素転化反応である。これらの良く知られた反応は、通常、触媒の存在下、約1300℃までの温度で行われる。熱的化学反応の固有速度は、その反応容器と、熱溜め(thermal sink)、熱源または熱的環境との間の熱伝達速度より遥かに速いことがあるので、現実の生成物生成速度(観測される速度)は、その反応の固有速度より遅い。固有速度とは、生成物が、触媒表面で理論的に生成され得る速度を意味する。
【0003】
生成速度が制約されるのは、通常の熱的化学反応容器中では、普通、数秒から数分である長い滞留時間の結果である可能性がある。普通定義されているように、滞留時間は、その反応ゾーンの容積を、その反応系の温度と圧力における反応物の入口での体積流速で割った値に等しい。この反応ゾーンとは、反応物と生成物がその中を流れる触媒と周囲の領域の総体積である。
【0004】
このような制約された生成速度の一例は、固定層反応器中で普通行われる水性ガス・シフト反応で見られる。この水性ガス・シフト反応では、一酸化炭素と水が二酸化炭素と水素に転化される。通常、この反応は、固定層反応器中で行われた場合、マルチ秒の滞留時間を要する[速度論的障害(kinetic impediment)]。理論的速度論は、理論的には、ミリ秒の桁の滞留時間を得ることが可能であることを示唆する。常用の反応器では、二つの速度論的遅延態様が存在する。第1は、触媒を担持する多孔性ペレット中へ、およびペレットから、反応物が拡散する時の拡散制約であり、第2は、触媒担体の熱伝達パラメータ(熱伝導率および長さ)と、反応器の全体としての幾何学的特徴(形状、サイズ、および外部熱交換器までの距離)との組合せである熱伝達制約である。水性ガス・シフト反応は、燃料電池を使用することにより、分配エネルギーの生産を支えるマルチ‐反応器型燃料加工系にとって基本的に重要であるから、より小さくて、より速い水性ガス・シフト反応器に対する需要が存在する。
【0005】
熱的化学反応のもう一つの例は、Adris,A.,Pruden,B.,Lim,C.,J.GraceによりCanadian Journal of Chemical Engineering,74,177-186(1996)“On the reported attempts to radically improve the performance of the steam methane reforming reactor”(“水蒸気メタン改質用反応器の実用性能を基本的に改善するために報告された試み”)に報告されているような、平均滞留時間が数秒で、触媒有効係数が0.01〜0.05で、合成ガスを生産する常用のメタン水蒸気改質反応器中での反応である。典型的な工業的操業では、コークスの生成を避けるために、メタン:水蒸気比は3:1で運転される。この吸熱反応用反応容器と熱源との間の熱伝達を改善するための努力は、製品生産速度を、僅かに向上させただけであった。
【0006】
熱反応は、通常、1億ドル以上の非常に大きい資本投下を必要とする生産規模の莫大な量で長い間行われて来たし、また続けて行われている。驚くことではないが、これら反応の速度と効率を改善することを狙って、長期間にわたって広範囲な努力がなされている。これらの試みにも拘らず、この反応容器と熱溜めまたは熱源との間での熱伝達速度を大きくし、それによって、反応および生産の理論的固有反応速度に近づける方法および装置に対する需要は残ったままである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Adris,A.,Pruden,B.,Lim,C.,J.Grace, Canadian Journal of Chemical Engineering,74,177-186(1996) “On the reported attempts to radically improve the performance of the steam methane reforming reactor”
【発明の概要】
【0008】
本発明は、入口と出口を有する熱的化学反応用の反応チャンバーの反応チャンバー容積当たりの生産速度を向上させるための方法および装置を提供し、この場合、その熱的化学反応での、向上した反応チャンバー容積当たりの生産速度/在来の反応チャンバー容積当たりの生産速度比が、少なくとも2である。例えば、普通の水蒸気改質反応では、滞留時間は秒の桁であるが、本発明では、滞留時間は2ファクターまで小さく、ミリ秒から数10または数100ミリ秒の桁である。一つの態様では、本発明は次の:
(a)その反応チャンバー容積内の多孔性挿入体であって、その中で、反応物は、実質的に完全に、その多孔性挿入体の中を通って流れ、その多孔性挿入体を有する反応チャンバー容積の平均多孔度は1未満で、反応物の触媒部位までの質量輸送距離が、3mmより大きくない、ところの多孔性挿入体;
(b)バルク反応物流に平行な長さが6インチに等しいかまたはそれ以下であり、そして高さ[熱溜めから熱源までの熱的距離(thermal distance)]が2インチに等しいかまたはそれ以下であり、それにより、向上した熱伝達速度で、多孔性挿入体を通して反応熱を伝達する、ところの反応チャンバー容積;および
(c)その反応チャンバー容積と熱的に接触している、熱溜めまたは熱源として役立つ熱伝達チャンバーであって、その熱伝達チャンバーは、該向上した熱伝達速度で、その熱伝達チャンバーと反応チャンバーの間の壁を通して熱を伝達し、それにより、その熱的化学反応での、反応チャンバー容積当たりの、向上した生産速度/在来の反応チャンバー容積当たりの生産速度、比が、少なくとも2である、その熱的化学反応での、反応チャンバー容積当たりの向上した生産速度を得る、ところの熱伝達チャンバー;
を含んでいる。
【0009】
これらの特徴は、その反応速度論の実質的阻害を避けるのに十分な速度で熱を伝達するという点で、この反応速度論と協力して役立つことが見いだされた。これらの特徴は、触媒的および無触媒的な熱的化学反応の両方に有効である。触媒化学反応の場合には、薄い触媒層(<150ミクロン、μm、より望ましくは50μm未満)を、その多孔性挿入体上に付加すると、常用の系におけるセラミック・ペレット(>1mm)中でのような、より厳しい反応物の拡散制限がある場合に比べて、触媒部位への反応物の拡散経路が実質的に短くなる。かくして、本発明の方法に従えば、触媒熱的化学反応の場合、両方の速度論的阻害要因が実質的に減り、理論的または理論的に近い反応速度論の実現が可能になる。より特定的に説明すれば、本発明の方法に従って造られる水性ガス・シフト反応器の大きさは、同じ生産量の従来の加工装置の1/10から1/100である。
【0010】
本発明はさらに、触媒熱的化学反応の局所的熱伝達の要求に実質的に適合するところの、反応チャンバーから壁を通して熱伝達チャンバー(発熱反応)への熱伝達速度を提供するための、または熱伝達チャンバーから壁を通して反応チャンバー(吸熱反応)への熱を提供するための、方法および装置(容器)を提供する。本発明の一つの重要な面は、熱伝達チャンバー、反応チャンバーおよび両チャンバー間の壁を含む容器を通る横断面で規定される熱的距離(thermal distance)である。この横断面は、反応物流のバルク・フロー(bulk flow)の方向に垂直であり、そしてその熱的距離とは、その横断面上の最も冷たい位置と最も熱い位置の間の距離である。この熱的距離は、反応チャンバーから熱伝達チャンバー(熱交換器)へ(または、熱伝達チャンバー(熱交換器)から反応チャンバーへ)の熱伝達速度が、局所的熱伝達速度に実質的に適合する長さである。
【0011】
本発明は、熱的化学反応で、少なくとも一つの反応物を触媒的に転化する方法を含み、その場合、少なくとも一つの反応物を、少なくとも一つの反応チャンバーに通し;熱が、その反応チャンバーへ、または、から、少なくとも一つの熱交換器に伝達され;そして少なくとも一つの生成物が得られる。この反応チャンバーは、その一種または複数の反応物の反応に触媒作用を及ぼす触媒を含んでいる。推奨される実施態様で、本発明の方法は、一つまたはそれ以上の次のような特徴を有する:定常状態で、少なくとも0.6W/(総反応器容積のcc)の熱が伝達され、ここで、総反応器容積とは、その反応チャンバー(一つまたは複数)および熱交換チャンバー(一つまたは複数)の容積(チャンバー壁の容積を含む)の和として定義される;その触媒と反応物の接触時間は、約0.3秒より短い;そしてその反応チャンバーを通る時の圧力低下は、約15psigより小さい。
【0012】
本発明の方法と反応器を用いて行われる熱的化学反応の一つの例は、炭化水素の水蒸気改質反応である。本方法では、炭化水素ガスと水蒸気を含む供給ストリームが、炭化水素ガスと水蒸気の反応に触媒作用を及ぼして少なくとも一酸化炭素と水素ガスを含むガス状混合物を生成する触媒を含む反応チャンバーに通される。この方法は、総反応器容積のcm3当たり、0.01SLPMより多い水素ガスを生産することができる。
【0013】
本発明はまた、熱的化学反応で少なくとも一つの反応物を触媒転化するための、多孔性触媒挿入体を含む少なくとも一つの反応チャンバー、およびその反応チャンバーと熱的に接している少なくとも一つの熱交換器を含む反応器をも提供する。この反応チャンバーの長さは、6インチまたはそれより短く、高さは2インチまたはそれより低い。この多孔性触媒挿入体は、約20ppi〜約3000ppiの範囲の開放セルを有する多孔性金属発泡体を含む。
【0014】
本発明はまた、その反応チャンバーが、2インチまたはそれより低い高さを有し、そしてその中で、少なくとも一つの熱交換器と少なくとも一つの反応チャンバーが、定常状態での操業中に、総反応器容積のcc当たり少なくとも0.6Wの熱が、その熱交換器と反応チャンバーの間で伝達され得るような構造をしている反応器をも含んでいる。
【0015】
本発明はまた、熱的化学反応で少なくとも一つの反応物を触媒転化するための方法をも含んでおり、その場合、少なくとも一つの反応物が、その少なくとも一つの反応物の反応に触媒作用を及ぼす触媒を含んでいる少なくとも一つの反応チャンバーに通され;熱を、該少なくとも一つの反応チャンバーへ(または、から)、該少なくとも一つの熱交換器から(または、へ)伝達し;そしてその反応チャンバーから少なくとも一つの生成物を得るが;熱を伝達するその工程は,定常状態で、総反応器容積のcc当たり少なくとも0.6Wの熱を伝達し、定常状態で、その触媒は、少なくとも一種の望ましくない化学反応生成物の生成を抑える温度範囲内に維持されている。或いはまた、この望ましくない化学反応生成物(一種または複数)の生成は、約0.3秒より短い接触時間を使用することで減らすことが可能で、それにより、望ましくない化学反応生成物を生成する可能性のある遅い反応を抑えることができる。望ましくない化学生成物は、二次反応または遅い平行して進行する反応に由来し得る。水性ガス・シフト反応では、望ましい生成物は二酸化炭素と水を含んでおり、そして望ましくない生成物はメタンである。炭化水素の水蒸気改質反応では、望ましい生成物は、水素と一酸化炭素および/または二酸化炭素を含み、そして望ましくない生成物はコークスである。
【0016】
本発明の主要命題は、本明細書の結語の部分に特に指摘されそして明確に権利請求される。しかし、操作の構成と方法の両方は、そのさらなる利点および目的と共に、添付した図面と関連付けて記述される以下の説明を参照することにより最も良く理解されるであろう:図面中、類似の参照記号は、類似の部材を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1aは、熱交換チャンバーを有する積層反応チャンバーの断面図である。図1bは、熱交換チャンバーを有するネスト構造(nested)反応チャンバーの等角投影図である。
【図2】図2aは、粉末触媒多孔性挿入体での接触時間の長い水性ガスシフト反応における滞留時間に対する選択性パーセントのグラフである。図2bは、粉末触媒多孔性挿入体での接触時間の短い水性ガスシフト反応における滞留時間に対する選択性パーセントのグラフである。
【図3】図3は、被覆金属発泡体多孔性挿入体で、様々な接触時間での水性ガスシフト反応における温度に対する選択性パーセントのグラフである。
【図4】図4は、水蒸気:メタン比2.5:1の場合の、様々な接触時間での温度に対するメタン転化率のグラフである。
【図5a】図5aは、多孔性触媒挿入体の場合の、n-ブタン‐水蒸気改質での、時間に対する転化率および選択性のグラフである。
【図5b】図5bは、再生多孔性触媒挿入体の場合の、n-ブタン‐水蒸気改質での、時間に対する転化率および選択性のグラフである。
【図6】図6は、多重反応チャンバーおよび熱交換器を有するマイクロチャネル反応器の設計上の特徴を例示している。
【図7】図7は、反応チャンバー内に多孔性触媒挿入体を有する反応器設計の前面(上面)および側面(底面)図を例示している。
【図8】図8は、円筒状反応チャンバーおよび熱交換器を有する反応器設計の横断面図を例示している。
【図9】図9は、イソオクタン‐水蒸気改質プロセスの流出液中での、転化率%、H2選択性および%H2を示す図である。
【図10】図10は、水蒸気/炭素比を変えた場合の、イソオクタン‐水蒸気改質プロセスの流出液中での転化率%、H2選択性および%H2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
二つのチャンバー102および104の間に壁106を有する熱的化学反応用の容器100を図示する図1aと1bを参照して説明する。これら二つのチャンバー102と104のどちらが反応チャンバーであってもよい。この反応チャンバー102内での反応物のバルク・フロー(bulk flow)は、横断面108に対し実質的に垂直である。この容器100は、図1aに示したような積層チャンバーでも、図1bに示したようなネスト構造のチャンバーでもよい。この反応チャンバー中での反応は、吸熱反応でも発熱反応でもよい。
【0019】
熱的化学反応では、定常状態での生成速度(速度論的反応速度)は、その反応部位への(吸熱反応)または反応部位からの(発熱反応)熱伝達の速度により制約される。発熱反応の場合には、熱の除去速度が小さいと望ましくない副反応を促進することがあり、または、その反応器内での熱的ホットスポットの発生または熱的暴走の原因になる。工業的な発熱反応器は、ホットスポットおよび熱的暴走を避けるために、ワンパス当たり(per pass)低い転化率で操業されることが多い。熱除去性が向上すると、単位反応器設備の容積当たりの生産速度をより大きくして安全に操業することが可能であろう。向上した熱伝達速度と、それにより向上した生産速度を得るために、この反応チャンバーは、反応チャンバー容積中に多孔性の挿入体(示されていない)を含んでいるのが望ましく、その場合、反応チャンバー容積中の多孔性の挿入体の平均多孔度は1より小さく、触媒部位までの反応物(一種または複数)の輸送距離は3mmより大きくなく、そして高さ(熱源から熱溜めまでの熱的伝達距離)は2インチより大きくなく、それによりその多孔性の挿入体を通して、向上した熱伝達速度で反応熱が伝達される。
【0020】
この多孔性の挿入体は、粉末、多孔性モノリス(金属またはセラミック発泡体、フェルト、ハニカム構造体、チューブバンク(tube bank)、積層マイクロチャネル集合体およびそれらの組合せ、を含むがそれらに限定はされない)、繊維、ワッド(wad)(例えば、スチール・ウール)または、それらの組合せであってもよい。触媒反応器用の、使用済み触媒の取換えコストの観点から、この多孔性挿入体は、その反応チャンバーから除去できることが望ましい。この多孔性挿入体は、その反応チャンバー容積を通しての反応物のために単一またはマルチ・フロー通路を提供するように配置されてもよい。
【0021】
望ましくは、この反応チャンバーの容積は、バルク反応物の流れに平行に、6インチまたはそれ以下の長さを有し、そして高さ:熱溜めから熱源までの熱的距離、は2インチまたはそれ以下の高さを有する。このように限定された長さと高さは、より速い熱伝達を可能にする短い距離を提供する。さらに、この短い長さが、その反応チャンバーを通しての総圧力低下を低減する。
【0022】
この熱伝達チャンバー(熱交換器)は、反応チャンバーの容積と熱的に接触しており、この熱伝達チャンバーは、その熱伝達チャンバーと反応チャンバーの間の壁106を横断して、その向上した熱伝達速度で熱を伝達し、それにより、この熱的化学反応用の反応チャンバーの容積当たりで向上した生産速度が得られることになる。
【0023】
熱的触媒化学反応の場合、望ましい触媒は、多孔性支持体、その上に溶液沈着された界面層および、その界面層上の触媒物質を有する。より望ましい触媒は、多孔性支持体、緩衝層、界面層および触媒物質を有する。どの層も、連続層でもよく、または、スポットあるいはドットの形状または間隙や孔を有する層の形状をした非連続層でもよい。
【0024】
この多孔性支持体は、多孔性セラミックまたは金属発泡体でもよい。本発明で使用するのに適した他の多孔性支持体に含まれるのは、炭化物、窒化物および複合材料である。層を沈着させる前で、この多孔性支持体は、水銀ポロシメトリーで測定した多孔度が少なくとも5%で、そして光学および走査型電子顕微鏡で測定した平均孔径(孔径の和/孔の数)は、1μm〜1000μmである。この多孔性支持体は、約30%〜約99%の多孔度、より望ましくは約60%〜約98%の多孔度を有するのが望ましい。多孔性支持体の望ましい形状は、発泡体、フェルト、ワッドおよびそれらの組合せである。発泡体は、その構造体を通り抜ける孔を規定する連続壁を有する構造体である。フェルトは、繊維間に間隙空間を有する繊維の構造体である。ワッドは、スチール・ウールのような絡み合ったストランドの構造体である。あまり望ましくはないが、多孔性支持体は、ペレットおよびハニカムのような他の多孔性媒体を含んでいてもよいが、それらは上述の多孔度および孔径特性を有することを前提とする。金属発泡体のオープンセルは、インチ当たり約20個(ppi:pores per inch)から約3000ppiそしてより望ましくは約20〜約1000ppiさらにより望ましくは約40〜約120ppiである。ppiは、インチ当たりの孔の最大数として定義される(等方性の材料では、測定の方向は重要でないが、異方性の材料では、孔の数が最大になる方向で測定される)。本発明では、ppiは走査型電子顕微鏡で測定される。本発明での多孔性支持体は、小さい圧力低下、常用のセラミック・ペレット支持体より改善された熱伝導性、および化学反応器中への装填/取出しの容易さを含む幾つかの利点を提供することが見いだされた。
【0025】
緩衝層(もし存在するなら)は、支持体層および界面層の両方と異なる組成および/または密度を有し、そして望ましくは多孔性支持体層と界面層の熱膨張係数の中間の熱膨張係数を有する。この緩衝層は金属酸化物また金属炭化物であるのが望ましい。本出願者達は、この緩衝層は、蒸着した層が、数回の熱的サイクルの後でも、より良好な接着と剥離抵抗性を示すという理由で優れていることを見いだした。より望ましくは、この緩衝層はAl23、TiO2、SiO2およびZrO2またはそれらの組合せである。さらに特定すれば、このAl23はα‐Al23、γ‐Al23およびそれらの組合せである。その酸素拡散に対する素晴らしい抵抗性のために、α‐Al23がより望ましい。それ故、高温酸化に対する抵抗性は、その多孔性支持体の上にコートされたアルミナにより改善され得ることが予想される。緩衝層は二層またはそれ以上の組成の異なるサブ層から形成されていてもよい。この多孔性支持体が金属、例えばステンレス鋼発泡体の場合、推奨される態様では、二つの組成的に異なる二つのサブ層(示されていない)から形成されている緩衝層を有している。第1サブ層(多孔性支持体に接している)は、その多孔性支持体に対し良好な接着性を示すという理由で、TiO2であるのが望ましい。第2サブ層は、そのTiO2の上に乗せられるα‐Al23が望ましい。推奨される一つの態様で、このα‐Al23は、緻密な層であり、下に横たわる金属表面の素晴らしい保護を果たす。次いで、アルミナのような、あまり緻密でない大きい表面積の界面層が、触媒活性層用の支持体として沈着される場合もある。
【0026】
普通、この多孔性支持体は、界面層の熱膨張係数と異なる熱膨張係数を有する。従って、高温触媒(T>150℃)の場合、この二つの熱膨張係数の間での転移のために緩衝層が必要である。この緩衝層の熱膨張係数は、多孔性支持体および界面層の熱膨張係数に適合した熱膨張係数を得るために、注文に応じて、組成を制御することによって調整されることができる。この緩衝層のもう一つの利点は、それが、裸の金属発泡体表面により誘き起こされるコークス化やクラッキングのような副反応に対する抵抗性を提供することである。触媒燃焼のような大きい表面積の支持体を必要としない化学反応では、この緩衝層は、強い金属‐金属酸化物間相互作用によりその触媒金属を安定化する。大きい表面積の支持体を必要とする化学反応では、この緩衝層は、その大きい表面積の界面層に対するより強い結合を提供する。この緩衝層は、開口およびピンホールを含んでいないのが望ましく、これは、下に横たわる支持体に素晴らしい保護を提供する。この緩衝層は、ポーラスでないことがより望ましい。この緩衝層は、多孔性支持体の平均孔径の1/2より小さい厚さを有している。望ましくは、この緩衝層の厚さは約0.05と約10μmの間であり、5μmより薄いのがより望ましい。この緩衝層は、高い温度で熱的および化学的安定性を発揮すべきである。
【0027】
本発明の幾つかの態様では、緩衝層なしで、十分な接着性と化学的安定性が得られ、従って、緩衝層を省略することが可能で、かくて、コストを節約でき、追加的容積を与え、更に、触媒からの熱伝達を向上させる。
【0028】
この界面層は、窒化物、炭化物、硫化物、ハロゲン化物、金属酸化物、炭素およびそれらの組合せから構成されることができる。この界面層は、大きい表面積を提供し、及び/または担持触媒用に望ましい触媒‐支持体相互作用を提供する。この界面層は、触媒支持体として普通用いられている任意の物質を含んでいてもよい。望ましくは、この界面層は金属酸化物である。金属酸化物の例に含まれるのは、γ‐Al23、SiO2、ZrO2、TiO2、酸化タングステン、酸化マグネシウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化スズ、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、ランタン系列酸化物(一種または複数)、ゼオライト(一種または複数)、およびそれらの組合せであるが、これらに限定はされない。この界面層は、その上に、さらに何等かの触媒活性のある物質を沈着することなしに触媒活性層として寄与してもよい。しかし普通、この界面層は、触媒活性層と組合せて用いられる。この界面層は、二種またはそれ以上の組成の異なるサブ層から形成されてもよい。この界面層は、多孔性支持体の平均孔径の1/2より薄い厚さを有している。望ましくは、この界面層は、約0.5と約100μmの範囲の厚さ、より望ましくは約1〜約50μmの厚さである。この界面層は、結晶性でも非晶性でもよく、そして望ましくは、少なくとも1m2/gのBET表面積を有している。
【0029】
触媒活性な物質(存在する場合には)は、界面層の上に沈着されることができる。或いはまた、触媒活性な物質は、その界面層と共に同時に沈着されることができる。この触媒活性層(存在する場合には)は、典型的には、界面層の上に直接に沈着される。この触媒活性層が界面層上に“配置”(“disposed on”)または“沈着”(“deposited on”)されるということには、支持体層(即ち、界面層)表面上に、その支持体層中の割れ目中に、およびその支持体層中の開放孔中に、ミクロな触媒活性粒子が分散されるという通常の理解が含まれている。この触媒活性層は、非限定的に、貴金属、遷移金属およびそれらの組合せを含む触媒金属;非限定的に、アルカリ元素、アルカリ土類元素、ホウ素、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、テルル、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、スズ、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、ランタン系列元素(一種または複数)、およびそれらの組合せを含む金属の酸化物;複合材料;ゼオライト(一種または複数);窒化物;炭化物;硫化物;ハロゲン化物;ホスフェート;および上述の任意の物の組合せを含んでもよい。
【0030】
この触媒構造物の物質伝達阻害を緩和するために、触媒含浸法は、50μm未満、望ましくは20μm未満の深さを有する多孔性界面層を形成するのが望ましい。従って、この拡散経路長は標準の触媒粒子の場合より少なくとも5ファクター短い。このより薄い含浸触媒構造は、より短い熱伝達経路に因り、熱伝達性も高める。
【0031】
この触媒構造物は、任意の幾何学的構造をしていてもよい。望ましくは、この触媒は、発泡体、フェルト、ワッドおよびそれらの組合せのような多孔性構造である。この触媒(その支持体と触媒材料を含めて)は、反応チャンバー内に適合する大きさであるのが望ましい。この触媒は、多孔性の繋がった物質の単一ピースであってもよく、または物理的に接触している多数のピースであってもよい。この触媒は、繋がった物質で、その触媒を通して分子が拡散できるように繋がった多くの孔を有しているのが望ましい。この望ましい態様では、その触媒は、気体がその触媒の回りを通るより、その触媒(単一または多くのピース)を実質的に通り抜けて流れるように反応チャンバー中に設置され得る。一つの推奨される態様では、その触媒の横断面積は、その反応チャンバーの横断面積の少なくとも80%、より望ましくは、少なくとも95%を占める。推奨される態様で、その触媒として活性な金属は、その触媒を通り抜ける反応物が、その触媒を通り抜ける通路に沿った如何なる場所でも反応し得るように、触媒全体の表面に分布しており;これが、使用されない大きい体積を有するペレットタイプの触媒または、そのペレットタイプ内部で使用されていない大容積の空間または、触媒として非効率に使用されている空間を有する触媒より優れている有意な利点である。また、充填された粉末は深刻な圧力低下の原因になるので、この多孔性の触媒は、粉末の触媒よりも優れている。この触媒は、BETの方法で測定した約0.5m2/gより大きい、より望ましくは約2.0m2/gより大きい表面積を有するのが望ましい。
【0032】
本発明の触媒は、それらが発揮する諸性質によっても特性化できる。これらの諸性質を有効に働らかせるために制御できる因子に含まれるのは、多孔性支持体、緩衝層、界面層および触媒活性層の選択:熱膨張係数の勾配付け(grdation)、結晶度、金属‐支持体相互作用、触媒の大きさ、支持体の熱伝導率、多孔度、反応チャンバーからの熱伝導、沈着技術および本明細書の説明の見解から明らかである他の因子、である。本発明の触媒の特定の推奨される態様は、一種またはそれ以上の次の諸性質を発揮する:空気中熱サイクル三回後の接着性、即ち、この触媒は、SEM(走査型電子顕微鏡)解析により薄片化が2%(面積で)より小さいことを示す;酸化抵抗性、反応物(一種または複数)の転化率、接触/滞留時間、製品選択性、圧力低下および生産速度;である。
【0033】
本発明の触媒を製造するために推奨される方法は、多孔性支持体を選ぶ工程、その多孔性支持体上に緩衝層を沈着させる工程および、その上に界面層を沈着させる工程を有する。場合により、触媒層は、界面層に沈着させてもよく、またはこの界面層と触媒層の両方を、その緩衝層の上に同時に沈着させてもよい。
【0034】
金属は、非ポーラスで平滑なウエブ表面を有しているから、緩衝層の沈着が阻害される可能性がある。この問題を緩和する一つの方法は、化学的エッチングによりその金属の表面を粗くすることである。表面積の大きいγ‐アルミナに担持された金属触媒の金属発泡体への接着は、鉱酸溶液:例えば0.1〜1M-HClを用いる化学的エッチングによりその金属発泡体の表面を粗くすることにより有意に改善される。粗面化したウエブ表面は、熱サイクル時の触媒層の剥離に対しても改善された抵抗性を示す。金属発泡体が多孔性支持体として用いられる推奨される一つの態様では、その金属発泡体は、緩衝層を蒸着する前にエッチングされる。エッチングには、酸、例えばHClを用いるのが望ましい。
【0035】
緩衝層の沈着は、化学蒸着、物理的蒸着および、それらの組合せ(これらに限定はされない)を含む蒸着によるのが望ましい。驚くべきことに、普通、高温で行われる蒸着が、その多孔性支持体の表面への緩衝層の良好な接着を提供する多結晶性または非晶性の相を生じることが見いだされた。この方法は、金属多孔性支持体に金属酸化物緩衝層を接着させるために特に便利である。或いはまた、この緩衝層は、溶液コーテイング法によっても得られる。例えば、この溶液コーテイング法は、その金属表面を水蒸気に曝して表面ヒドロキシル基を生成させ、金属表面を官能性化する工程を含み、次いで表面反応とアルコキシドの加水分解により金属酸化物のコーテイングが得られる。この溶液コーテイング法は、緩衝層を沈着させる、より低コストの方法として推奨される。
【0036】
界面層は、これら技術用に知られている前駆体を使用する蒸着または溶液沈着により形成されるのが望ましい。適した前駆体に含まれるのは、有機金属化合物、ハロゲン化物、カルボニル類、アセトネート類、アセテート類、金属、金属酸化物のコロイド状分散物、硝酸塩、スラリー類などである。例えば、多孔性アルミナ界面層は、PQアルミナ(Nyacol Products,Ashland,MA)コロイド状分散物で洗浄‐コートされ、次いで、真空オーブン中で一晩乾燥され、そして500℃で2時間か焼される。
【0037】
触媒活性物質は、任意の適切な方法で沈着される。例えば、触媒前駆体が、コロイド状金属粒子上に沈着され、そして、緩衝液をコートした多孔性支持体の上にスラリー・コーテイングされ、次いで乾燥され、そして還元される。
【0038】
本発明の特定の態様は、滞留時間または接触時間という用語により特性化できる。これらの用語は、この技術分野で十分よく規定された意味を有する。接触時間とは、触媒チャンバーの総容積を、入口反応物の総流速(F-Totalと定義される)で割った値であり、この場合反応物は、標準状態に較正された理想気体であると仮定される[即ち、触媒チャンバーの容積/STPにおけるF-Total(ここでSTPは273K,1atm)]。触媒チャンバーの容積とは、触媒ゾーンの直近および取囲んでいる体積を含む。一例として、そのチャネルの1/4を粉末で充填すると、その触媒チャンバーの容積とは、ガスが流れることができ、そして、それが触媒と接触し得る領域だけを含むことになる;即ち、総チャネルの1/4だけが、この計算に含まれることになる。デッド・スペースの容積、即ち、入口の上部の隙間(header)、下部の隙間(footer)などは、この計算では考慮さない。滞留時間(平均滞留時間を意味する)は、触媒チャンバーの総容積を、その反応器中でのその反応物の実際の温度と圧力に較正された入口反応物の総流速で割った値(即ち、触媒チャンバーの容積/実際の条件に較正したF-Total)である。STPにおけるF-Totalは、反応物(全ての反応物および、存在するなら稀釈剤)の総体積流速である。入ってくるガスは、普通、標準条件にセットされた質量流量制御装置で測量される。即ち、利用者は、希望のSTP流速をプリセットする。実際の条件に較正したF-TotalはF-Total-STP×(Kで示した絶対温度)/273×1気圧/(atmで示した実際のP)である:この値が、滞留時間または反応器内部での“実時間”を計算するために用いられる。大半の実務者は、接触時間を使用する方を好むが、これは、反応温度などを10℃段階で高くしながら、時間変数を固定して維持するのが便利な方法だからである。
【0039】
本発明はさらに、本発明の触媒を含む反応チャンバーに少なくとも一つの反応物を通す工程、該少なくとも一つの反応物を少なくとも一つの生成物に転化させる工程、そしてその生成物をその反応チャンバーの外に通過させる工程、を含む触媒接触法を提供する。推奨される態様では、この触媒接触法は、マイクロチャネルを有する装置中で行われる。マイクロチャネルは、少なくとも一方の寸法が約1mmまたはそれ以下である。適したマイクロチャネル装置および様々な工程関連ファクタ−の実例が、米国特許第5,611,214、5,811,062、5,534,328号明細書、および米国特許出願第08/883,643、08/938,228、09/375,610、09/123,781号、同時出願されている、米国特許出願第09/492,950(代理人ドケット番号E-1666A-CIP)、09/375,614(1999年8月17日出願)および09/265,227(1999年3月8日出願)に説明されており、これら全ては、十分に再現できるように、以下に引用参照されている。もう一つの推奨される態様では、この触媒は、反応チャンバーへの挿入と取出しが容易なモノリス:単一の繋がっているが多孔性の触媒ピース;または、一緒に積重ねられている数個の繋がっているピース(充填された粉末の層またはペレットまたはマイクロチャネルの壁上のコーティング、ではない)である。このピースまたは複数の触媒ピースのスタックは、幅が0.1mm〜約2cmであるのが望ましく、厚さが、望ましくは1cm未満、より望ましくは、約1〜約3mmである。本発明の触媒は、化学的安定性、繰返し熱サイクリングに対する安定性、触媒の効率的な装填と取出し、大きい熱伝達および質量伝達速度、および望ましい触媒活性の維持などの多くの利点を、触媒接触工程に提供する。
【0040】
望ましい態様の熱交換器の組立てには、高い熱効率と短い接触時間を得るために、薄いシートまたはチューブが用いられる。反応チャネルと熱交換チャネルの間のウエブの厚さは、変えることができるが、約0.01インチと約0.25インチの間であるのが望ましい。熱交換チャネルに推奨される厚さ(熱伝達チャネルの最小寸法の厚さを意味する)は、100ミクロン〜10ミリメートルの範囲であるのが望ましい。いくつかの推奨される態様では、この最小寸法は、チャネル幅である場合もあり、他の態様では、チャネル高さである場合もある。その望ましい厚さは250ミクロン〜3ミリメートルである。熱伝達流体の流れは、反応物の流れの方向に対して、向流(counter-current)、横流(cross-current)または並流(co-current)のいずれでもよい。望ましい熱伝達流体に含まれるのは、燃焼ストリーム(吸熱反応の場合)、オイル(低温反応)および水蒸気である。
【0041】
マイクロチャネル装置内の金属表面は、緩衝層および界面層のいずれか、または両者でコートされてもよい。これは、本明細書で説明された方法のいずれか、望ましくは蒸着法を用いて行われる。望ましいコーティング材料は、チタニヤおよび5-10%SiO2/Al23を含む。反応チャンバーの内表面、熱交換器およびマイクロチャネル装置の他の表面がコーティングされる場合もある。いくつかの態様では、反応チャンバーの壁は、場合により緩衝層、界面層および触媒活性材料でコーティングされてもよく、標準的にはその触媒活性材料と界面層が一緒になって担持触媒を形成している。コーティングはまた、マイクロチャネル装置へ(又は内へ)の連結管を形成しているチューブおよびパイプの金属壁またはマイクロチャネル装置内部に適用されることもある。
【0042】
本発明の方法は、触媒の厚さが約2cmまたはそれ以下で、そして反応チャンバー壁に接しているか、または近接(約1mm以内)している反応チャンバー内で行われるのが望ましく、その反応チャンバー壁は、熱交換器と熱的に接触している。反応チャンバーからの(または、への)熱伝達は、それを通って熱が伝達される少なくとも一つのチャンバー壁の上に、望ましくは、その反応チャンバーの、触媒構造体に向かい合った側の壁の上に、マイクロチャネルを付けることにより、向上されるのが望ましい。この触媒は、大きい圧力低下を避けるために、発泡体の中におけるような、繋がっていて、そして比較的大きい孔を有するの望ましい。望ましくは、この触媒中の大きい孔の孔径は、約10μmと約300μmの間である。
【0043】
本発明の触媒接触法に含まれるのは、アセチル化反応、付加反応、アルキル化反応、脱アルキル化反応、水素化脱アルキル化反応、還元的アルキル化反応、アミノ化反応、芳香族化反応、アリール化反応、自熱改質反応、カルボニル化反応、脱カルボニル化反応、還元的カルボニル化反応、カルボキシル化反応、還元的カルボキシル化反応、還元的カップリング反応、縮合反応、クラッキング反応、ハイドロクラッキング反応、環化反応、環状オリゴマ化反応、脱ハロゲン化反応、二量化反応、エポキシ化反応、エステル化反応、交換反応、フィッシャー‐トロプシュ反応、ハロゲン化反応、水素化ハロゲン化反応、ホモログ化反応、水和反応、脱水反応、水素化反応、脱水素反応、水素化カルボキシル化反応、ヒドロホルミル化反応、加水素分解反応、ヒドロ金属化反応、ヒドロシリル化反応、加水分解反応、水素処理反応、水素化脱硫反応/水素化脱窒素反応(HDS/HDN)、異性化反応、メタン化反応、メタノール合成反応、メチル化反応、脱メチル化反応、複分解反応、ニトロ化反応、酸化反応、部分酸化反応、重合反応、還元反応、水蒸気/二酸化炭素改質反応、スルホン化反応、テロメリゼーション、エステル交換反応、三量化反応、水性ガスシフト反応(WGS)、および逆水性ガス・シフト反応(RWGS)である。
【0044】
本発明の一つまたは複数の工程は、数十、数百、数千または数百万の小さい反応チャンバーで、各チャンバーは、内径が約2インチより小さく、望ましくは約2cmより小さく、より望ましくは約1mm〜約5mmの範囲であるチャンバーで平行して行なうことができる。この一つまたは複数の工程はまた、シリーズで(直列的に)運転することもできる。例えば、一つの反応チャンバーからの複数の生成物が、同一のまたは異なる一つの触媒を有するもう一つの他の反応チャンバーに供給されることもある。直列の複数の反応器はまた、その同じ反応チャンバーの内部に一連の異なる触媒を入れて運転することもできる。反応生成物は、捕集され、そして、例えば、タンク内に貯蔵してもよく、後続の反応で直接使用することもできる。
【0045】
本発明の反応器と方法は、それらが発揮する様々な性質により特性化され得る。熱流束(heat flux)は、本発明での特に重要な特性である。チャンバー壁の体積を含めての、反応チャンバー(一つまたは複数)と熱交換器(一つまたは複数)の体積の和に対して、本発明は、定常状態での運転中に、少なくとも約0.6W/ccの、より望ましくは約1W/ccより上の、さらにより望ましくは約5〜約250W/ccの範囲の、そしてもう一つの望ましい範囲としては、約10〜約100W/ccの範囲の、熱流束を示すのが望ましい。これらの熱流束は、短い接触時間と、反応チャンバーを通しての小さい圧力低下で得られる。この接触時間は、望ましくは約0.3秒より短く、より望ましくは約0.1秒より短く、さらにより望ましくは約0.05秒より短く、そしてなお一層望ましくは約0.01秒より短い。反応チャンバーを通しての圧力低下は、望ましくは約15psig(ポンド/(インチ)2ゲージ)より小さく、より望ましくは約10psigより小さく、さらにより望ましくは約5psigより小さく、そしてなお一層望ましくは約1psigより小さい。本発明の装置と方法では、これらの高い熱流束は、非常に多様な触媒反応で得られ、そして強い発熱性の、高速酸化(deep oxidation)(燃焼)反応に限定されるわけではない。
【0046】
驚くべきことに、上述の短い接触時間と高い熱流束が、定常状態の触媒熱反応で得られることが見出だされた。より短い接触時間とより高い熱流束のために貢献し得る因子に含まれるのは、速い固有反応速度を有する触媒、多孔性触媒、熱伝導性支持体、マイクロチャネル装置の利用、反応チャンバーおよび/または熱交換器中での短い熱伝達距離、反応チャンバーにおける短い質量伝達距離および熱伝達流体(一種または複数)の選択である。この十分高い熱流束の伝達が、本発明の一つの重要な面である。様々な工程ファクターの選択は、当該の熱的化学反応の特殊性に依存するし、全てのファクターを正確に制御することはどの場合にも必要でない。本明細書での説明を指針として、この技術分野の習熟者なら、予行実験をしなくても、希望の水準の熱流束を得るためにこれらのファクターを調節することができる。
【0047】
本発明の反応器と方法は、反応器の単位容積当たりの生産速度が大きいことによっても特性化できる。例えば、気体状または液状の炭化水素の水蒸気改質での定常状態において、本発明の方法は、反応器ハードウエア[チャンバー壁の体積を含めての、反応チャンバー(一つまたは複数)と熱交換器(一つまたは複数)の体積の和]の立方センチ(cc)当たり、0.01標準リットル/分(standard liter per minte:SLPM)より多い水素ガスを、より望ましくは、反応器ハードウエアのcc当たり、0.1SLPMの水素ガスを生産するのが望ましい。標準的には、水素の場合の生産速度は、反応器ハードウエアのcc当たり、約0.5SLPMまで、またはそれ以上の範囲の水素ガス、が可能である。より一般的な場合では、本発明の反応器と方法は、反応器ハードウエアのcc当たり、約0.01SLPMより多い反応物ガスを処理することができる。多重式反応チャンバーと、平行して操業される熱交換器を造ることにより、本発明の反応器と方法は、一日当たり、数千または数百万リットルまたはそれ以上の製品を生産することができる。
【0048】
本発明はまた、望ましくない化学反応、特にコークス生成反応を抑制する方法も提供する。本発明の反応器と方法は、速度論的に、よりゆっくり生成する化学生成物、または温度制御の水準がより低い反応器中で、より生成し易い化学生成物を、の生成を抑制する能力を特徴とする。例えば、水性ガスシフト反応器での定常状態法では、メタン化反応は、一酸化炭素の二酸化炭素への転化反応にとって、当該の反応と同様には迅速に進まない普通の副反応である。同様に、コークスは、水蒸気改質反応で、よりゆっくり生成する副生成物であり、この反応の進行は触媒表面の温度の関数でもある。これらのケースで、本発明の反応器と方法は、当該の一次反応(例えば、水性ガスシフトおよび水蒸気改質反応)を支援し、一方では、特定の望ましくない二次生成物(例えば、メタンおよびコークス)を避けるかまたは、抑える能力を高める。より一般的に言えば、本発明の反応器と方法は、他の望ましくない副生成物を抑制するために用いることが可能で、その場合、それらの生成は、短い接触時間および/または強化された温度制御によって避けることができる。
【実施例】
【0049】
実施例1
水性ガスシフト反応を用いて、本発明の方法による化学的熱反応器を明確に説明するために実験が行われた。
【0050】
第1多孔性挿入体は、Degussa Corporation社から得られた前還元して安定化した5-wt%Ru/ZrO2触媒(1/8-inchの押出し成形物)の触媒原料で調製された。この触媒原料を粉砕し、そして65〜100メッシュに篩った。
【0051】
第2多孔性挿入体は、0.5から2.5cmの範囲の長さの、内径7mmの石英チューブに適合するように機械的に加工された80孔/inch(ppi)のNi金属発泡体で調製された。この金属発泡体を超音波洗浄機中で、アセトン、クロロホルムおよび水で10分間隔で順次洗浄した。それはまた、1MHClの溶液中、60℃で30分エッチングされた。このエッチングした金属発泡体を、ジルコニウム・n-プロポキシド/1-プロパノール溶液(Aldrich)で飽和し、次いで周囲の温度で、水の蒸気で72時間加水分解し、次に450℃で4時間か焼して界面層を調製した。このZrO2でコートした金属発泡体を、RuCl3希薄水溶液(RuCl3水和物:Aldrich)で飽和した。この飽和工程を、希望のRu装荷量に達するまで数回繰返した。このコートした金属発泡体担持Ru触媒を、最後に、真空下、100℃で一晩乾燥し、次いで350℃で1時間か焼した。試験する前に、この触媒を、10%H2/He混合物で、少なくとも1時間350℃で活性化した。
【0052】
両方の多孔性挿入体を試験するために、触媒プラグ流れ反応器(PFR)系を使用した。このPFRは、熱伝達チャンバーとして、単一ゾーン炉に合わせて配置された。この反応器系は、その反応器の入口のすぐ前に置かれた水蒸気発生機、その炉の中に設置されたPFRおよび反応器の出口に置かれたコンデンサーを含んでいる。多孔性挿入体は、中心を絞った内径7mmの石英管の中に充填された。供給水はCole Parmerのシリンジ・ポンプを用いて水蒸気発生機に供給された。マテソン(Matheson)質量流量制御器を用いて、この系に一酸化炭素と窒素(稀釈剤)を供給した。この混合供給ストリームは、ダウンフロー方式で、PFRに入る前に、この水蒸気発生機を通って流れる。この生成ガスは、コンデンサーに向かい、オンラインのガスクロマトグラフィーに送られ、その生成物流が分析された。
【0053】
この触媒PFR系の中に二つの熱電対を設置した。一つの熱電対は、多孔性体の挿入体の上部に設置された。第2の熱電対は、炉の温度を測定するために、この多孔性体の挿入体に隣接して石英管の外側に設置された。反応器の入口でのゲージ圧を用いて、多孔性体挿入体を横断する差圧を測定した。
【0054】
この生成ガスは、その反応器からの出口で、Microsensor Technology Inc.(MTI)M200ガスクロマトグラフを用いて直ちに分析された。並列の10-mの分子篩カラム(アルゴンキャリアー・ガス、100℃、34.1psig)と8-mのPoraplotUカラム(ヘリウムキャリアー・ガス、65℃、26.9psig)を用い、このGCは、75秒で、水素、窒素、酸素、メタン、一酸化炭素、空気、二酸化炭素、エタンおよびエチレンを分析する。このM200は真空ポンプを用い、パージ時間40秒そして射出時間100ミリ秒で、生成物流から少量の試料を吸引した。このガス流からの水分は、M200に入る前に除去された。
【0055】
一酸化炭素転化率は、方程式1に示したように、この入口および出口ガス流中での物質のモル数をベースとして計算された。二酸化炭素(および水素)またはメタン選択性は、それぞれ、方程式2と3で計算された。
【0056】
CO=100*(nCO-in−nCO-out)/nCO-in (1)
C02=100*CO2/(nCO2+nCH4) (2)
CH4=100−SC02 (3)
第1多孔性挿入体、微細触媒粉末(65〜100メッシュ)を用いて、固有反応速度を、大体測定した。接触時間を10ミリ秒〜1秒の間で変えた。図2aおよび2bは、長い接触時間および短い接触時間での挙動を示している。300℃、水蒸気:炭素比3:1で、一酸化炭素の98%以上を二酸化炭素と水素に転化するために、Ruベースの触媒で25ミリ秒で十分であった。50ミリ秒で、希望の生成物(CO2およびH2)への選択性100%で、99.8%のCO転化率が得られた。300℃、水蒸気:炭素比3:1でのCOの平衡転化率は99.93%であった。
【0057】
より長い接触時間(>100ミリ秒)での試験では、22.82%の平衡選択率でのメタンの生成が見られた。二酸化炭素と水素の平衡選択率のラインが図2aに示されている。接触時間が増すと、メタンの生成も増す。全ての平衡率計算には、ソフトヱア・パッケージ、FACT(登録商標)が用いられた。
【0058】
第2多孔性挿入体(コートした金属発泡体)での結果が図3に示されている。300℃でのCO転化率は10%より低かった。しかし500℃、水蒸気:炭素比3:1では、一酸化炭素転化率の測定値は、接触時間、50ミリ秒で94%に達した。このような条件での平衡転化率は94.53%であった。10ミリ秒のような短い接触時間で、一酸化炭素転化率は、90%を超え、そして二酸化炭素と水素への100%の選択率が観測された。CO2平衡選択率は500℃で93.52%であった。
【0059】
接触時間、10、50および100ミリ秒で、選択率の測定値は、GCでの検出限界以下のメタンを含めて、100%近くに保たれた。これらの観測結果は、このコートした金属発泡体中で、望ましい非平衡化学が、展開されたことを示した。望ましくない一連の反応、およびメタンの生成のような遅い平行して進行する反応が、有効に締め出された。
【0060】
このコートした金属発泡体の第2多孔性挿入体は、二つの理由で、触媒粉末の第1の多孔性挿入体より高い活性化温度を有する。先ず、この洗浄コート(washcoat)した触媒は、粉末触媒より僅かに異なった組成と構造を有している。同じ洗浄コートから調製した粉末での独立の触媒試験で、より高い活性化温度が必要であることを確かめた。この二つの多孔性挿入体の間の他の相違点は、このコート金属発泡体上では、活性な触媒の重量(大体10%)が少ないことである。
【0061】
実施例2
本発明の方法による炭化水素‐水蒸気改質反応を明確に説明するために実験が行われた。
【0062】
実施例1に示したような第1多孔性挿入体(粉末)を用いるメタン水蒸気改質反応で、5%Rh/γ‐Al23触媒(図4)上、850℃、25ミリ秒で、100%の転化率が達成された。実施例1におけるような、80ppiステンレス鋼発泡体上に5%Rh/Al23触媒/界面層を有する第2多孔性挿入体(コートした金属発泡体)を用いると、750℃での同じ性能を達成するための操業温度が100℃低下した。
【0063】
より低い水蒸気:メタン比(2.5:1)で、ミリ秒滞留時間の実験ではいずれの場合もコークスの生成は観測されなかった。
他の炭化水素での結果は、表E2-1に示されており、その中の“時間”は滞留時間のことである。ブタン、ガソリンおよびケロセンでのデータは,粉末触媒を用いて得られ、一方イソオクタンでのデータは、発泡体触媒を用いて得られた。
【0064】
【表1】

【0065】
n-ブタンの水蒸気改質実験でのさらなるデータが図5aに示されている。多孔性挿入体は、アルミナの界面層とロジウムの触媒材料を有する80ppiのステンレス鋼からなる(17.1重量%アルミナ上に15.6重量%のRh、バランス・ステンレス鋼発泡体、界面層なし)。条件は、水蒸気:炭素比=3.58:1、滞留時間95ミリ秒で、650℃であった。圧力低下は、無視できる程度から、クラッキングと界面層および触媒層の剥離に起因する7psigを超える値まで増加した。この触媒は沈着した炭素を除去するために空気中で再生された。図5bは、より劣った性能を示している。圧力低下は、二日で、運転時間5時間だけで、7psigを超える値にまで増加した。
【0066】
実施例3:
本発明の推奨できると考えられる実施態様が図6に示されている。その熱源から熱溜めまでの距離は約1cmまたはそれ以下である。この距離は、熱効率(heatduty)、熱伝達流体(一種または複数)の選択、およびその多孔性触媒挿入体の有効熱伝導率に依存する。この多孔性触媒挿入体は、95%より大きい多孔度を有する場合があり、その多孔性支持体を形成している純粋な金属または合金より大体二桁小さい有効熱伝導率を有する。
【0067】
高い熱効率と短い接触時間を得るために、薄いシートまたはチューブが用いられる。反応チャネルと熱交換チャネルの間のウエブの厚さは変えることができるが、約0.01インチ〜約0.25インチの間であるのが望ましい。熱交換チャネルの望ましい厚さは100μmから10mmの範囲である。その望ましい厚さは250μmから3mmの範囲である。熱伝達流体の流れは、反応物の流れの方向に対して、向流(counter-current)、横流(cross-current)または並流(co-current)のいずれでもよい。
【0068】
触媒の厚さは、望ましくは100μmから10mmの範囲である。その推奨される厚さは、望ましくは250μm〜1mmである。この触媒は単一の繋がっている多孔性のモノリス触媒であっても、またはお互いに隣接した多数の多孔性モノリスを、お互いに隣接して配置して創られていてもよい。この多孔性モノリスが、その多孔性モノリス触媒の間に隙間を残して挿入されていてもよく、または、より大きいモノリスに接している、そして/または、その間に存在する(図7に示されているような)より小さいモノリスを有していてもよい。一つまたは数個の同じ大きさのモノリスが、お互いに隣接しているのが望ましく、この設計を選択すれば、反応物と触媒表面の接触に好都合であろう。
【0069】
高い熱効率を容易に得ることができるデバイス内で、短い接触時間を用いれば、その体積熱流束は、容易に0.6w/ccを超えるに違いない。1〜10w/ccの範囲の熱効率は、この触媒と反応器の範囲内で十分対応できることが示された。接触時間が25ミリ秒より短く、そして熱源と熱溜めの間の距離が1mmのオーダー(約0.5〜約5mm)ならば、100w/ccまでのより高い熱効率も達成可能である。
【0070】
実施例4:
イソオクタンの水蒸気改質を例にして、大体10w/cc〜16w/ccを伝達するコンパクトな反応器を明確に説明する。この水蒸気改質反応は、炭化水素をCOとH2に転化するために水蒸気を利用する。イソオクタンの水蒸気改質の場合の反応の化学量論式は以下の通りであり、
iso-C818+8H2O→8CO+17H2
そして、この反応の標準熱は、強い吸熱(△Hr0=+1275kJ/moleイソオクタン)である。イソオクタンは、それがガソリンの炭化水素混合物の中間領域の分子量を代表しているので、ガソリンをモデル化するために選ばれた。この水蒸気改質反応は、コークスの生成を避け、そして転化率を改善するために、上に示した反応の化学量論組成より大きい水蒸気濃度で運転することが多い。この水蒸気濃度は、普通、水蒸気:炭素比(S:C)即ち、供給反応物中の炭素原子当たりの水蒸気分子の比の形で与えられる。1より大きい比は、化学量論組成比より大きい水蒸気濃度を示し、そしてこのような条件では、この水性ガスシフト反応も、二次反応(secondary reaction)として進行する。
【0071】
総容積が約30cm3のマイクロチャネル・イソオクタン水蒸気改質装置が造られた。この反応器は、この強い吸熱反応に必要な熱を加えるために、内蔵熱交換器(integrated heat exchange)を備えている。この反応器ゾーンを加熱するために用いられる熱交換用流体は、750℃に設定された燃焼ガスであり、そして総流量は、大体100SLPMであった。この設計は、PEM燃料電池で、1.0キロワットの等価電力(kWe)を生成するのに十分大きい水素ガス・ストリームを加工するように造られている。この反応器の構造は、図6に示されている。13個の熱交換チャネルの間に挟み込まれた12個の反応物チャネルが存在する。この反応チャネルの厚みは大体0.03インチ、長さは1.1インチ、そして一つのチャネルの高さは1インチである。これらの熱交換チャネルは、同じ長さと高さを有する。この熱交換チャネルの厚みは大体0.02インチであった。反応チャネルと熱交換チャネルの間のウエブの厚さは、大体0.19インチであった。
【0072】
触媒は、多孔性ステンレス鋼発泡体上にコートしたスピネルを含むアルミニウム上の15wt%Rh23であった。この触媒に特有の調製法は次の通りである。γ‐アルミナ支持体(Strem)を500℃で5時間か焼した。初発湿潤法(incipient wetness method)を用いて、このアルミナ支持体に硝酸マグネシウム溶液を含浸して5wt%MgOを達成した。この修飾支持体を、真空中、110℃で4時間乾燥し、次いで900℃で2時間か焼して、アルミニウム含有スピネル支持体を調製した。このスピネル支持体を、初発湿潤法を用いて、硝酸ロジウム溶液(Engelhard)を含浸して、希望のRh23載荷量を達成した。真空中、110℃で4時間乾燥後、このRh担持粉末触媒を500℃で3時間か焼した。この粉末触媒を、一晩ボールミルにかけ、そして80ppi(Astromet Cincinnati,Ohio)ステンレス鋼発泡体上にスラリー浸漬コートした。この浸漬コーティングに先立ち、このステンレス鋼発泡体はCVDを用いて、チタニアおよびアルミナ緩衝層でコートされた。
【0073】
このマイクロチャネル・イソオクタン水蒸気改質装置の運転の最初の1時間に得られたデータが図9に示されている。液体イソオクタンの入口での流速は2.54mL/minであった。この反応器ゾーンは650℃、1気圧で運転された。この反応物の水蒸気:炭素比は6:1で、全反応チャネルでの和として、大体22ミリ秒の総接触時間が達成された。この反応器は86.5%〜95%の範囲のイソオクタン転化率に達することが可能であり、かくして、約300Wの熱エネルギーを必要とする。水素選択率は85〜90%の範囲であった。これらの結果は、このマイクロチャネル・イソオクタン水蒸気改質装置が、単位反応器容積当たり大きい加工速度で、この反応速度を維持するために必要な熱を供給し得ることを示している。このデバイスを通しての、反応物側の圧力低下は、大体6.9kPa(1.0p.s.i)であった。これら条件下での、期待される燃料電池出力は、PEM燃料電池からの0.5-kWeの電気出力を生成するのに十分であった。この例証実験は、さらに1時間続けられそして停止された。この反応器の体積熱流束は、約10W/ccであった。
【0074】
このデバイスを用い、四回の熱サイクルを通してこのデバイスを設置して、さらに三回の例証実験を行なった。これらの四回の熱サイクルは、オンライン・サービスで、全部で12時間に亘ってこのデバイスを設置した。最後の三回の熱サイクルの結果を図10にバー・チャート(棒グラフ)の形で示している。図10の全ての結果は、1気圧、温度範囲630〜670℃、そして接触時間は全反応チャネルの和として22ミリ秒、での結果である。これら試験での、等価0.5-kWe電気出力および、水蒸気:炭素比、6:1での結果は、図9に示した値と矛盾しない。水蒸気:炭素比が、6:1から5.7:1、5:1、4.06:1、そして最後に2.98:1まで低下すると、イソオクタン転化率は減少するが、水素選択率は定常状態を保つ。滞留時間を一定にすれば、水蒸気:炭素比の低減の効果は、イソオクタンの流量を増やすのと同じである。従って、水蒸気:炭素比が低下すると共に転化率パーセントが減少する一方で、転化されるイソオクタンの量が増加し、水素が発生する実際の速度は差引き増加する結果となる。これは、これらの結果と共に列記されているより大きい等価電気出力に見られる。図10の一番右側の最後の組の棒グラフ・データは、水蒸気:炭素比が、5.7:1で、そして元の接触時間の大体半分の時間で得られた結果であって、1.0-kWeの等価電気出力が得られる。これらの条件下では、5.04mL/minに設定された入口でのイソオクタン・ストリームの大体75%を転化するために、500Wに近い熱エネルギーが必要であった。このデバイスの体積熱流束は、16W/ccより大きいことを実証した。
【0075】
本発明の推奨される実施態様が示され、そして説明されたが、この技術分野の習熟者には、そのより広い意味で、本発明から逸脱することなしに多くの変更と修飾がなされ得ることは明らかであろう。それ故、付記された請求の範囲は、本発明の真の精神と範囲内に入るところの全ての変更と修飾を包含することを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化が深く進行するのを排除しながら、熱的化学反応で少なくとも一つの反応物を触媒転化する方法であって、
少なくとも一つの反応物を、該少なくとも一つの反応物の反応に触媒作用を及ぼす触媒を含み、高さが5cm(2インチ)またはそれより低い少なくとも一つの反応チャンバーに通す工程;
該少なくとも一つの反応チャンバーに又は該反応チャンバーから少なくとも一つの熱交換器に熱を伝達する工程、ここで該熱交換器は100μm〜10mmの範囲の最小寸法を有している;および、
該反応チャンバーから、少なくとも一つの生成物を得る工程;
を含み、
熱を伝達する該工程は、定常状態で、総反応器容積(cc)当たり少なくとも0.6Wの熱を伝達し、ここで、総反応器容積とは、チャンバー壁の容積を含む、一つまたは複数の反応チャンバーの容積と一つまたは複数の熱交換チャンバーの容積の和として定義され;そして、
該触媒と該反応物の接触時間は、100ミリ秒より短い;
方法。
【請求項2】
該触媒は、該反応チャンバーの横断面積の少なくとも80%を占める、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該熱交換器は、250μm〜3mmの範囲の最小寸法を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
炭化水素ガスと水蒸気とを含む供給ストリームを反応チャンバーに通す工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法であって、
該反応チャンバーは、該炭化水素ガスと水性ガスとの反応に触媒作用を及ぼして、少なくとも一酸化炭素と水素ガスとを含むガス状混合物を生成する触媒を含み;
ここで該方法は、チャンバー壁の容積を含む、一つまたは複数の反応チャンバーの容積と一つまたは複数の熱交換チャンバーの容積の和として定義される反応器容積のcm当たり0.01SLPMより多い水素ガスを生産する;
方法。
【請求項5】
該熱交換器と該反応チャンバーとが積層チャンバーであり、該熱交換器と該反応チャンバーが、0.025cm(0.01インチ)〜0.63cm(0.25インチ)の間の厚さを有するウェブにより隔てられている、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
該触媒は、1μm〜1000μmの孔径を有する多孔性支持体を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
熱を伝達する該工程が、定常状態で、総反応器容積(cc)当たり10〜100Wの熱を伝達し、ここで総反応器容積は、チャンバー壁の容積を含む、一つまたは複数の反応チャンバーの容積と一つまたは複数の熱交換チャンバーの容積の和として定義される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
触媒を含む少なくとも一つの反応チャンバー;
該反応チャンバーと熱的に接している少なくとも一つの熱交換器;
を含む、酸化が深く進行するのを排除しながら、熱的化学反応で少なくとも一つの反応物を触媒転化するための反応器であって;
該熱交換器は100μm〜10mmの範囲の最小寸法を有しており、
該反応チャンバーの高さは5cm(2インチ)またはそれより低く;そして、
該少なくとも一つの熱交換器および該少なくとも一つの反応チャンバーは、定常状態での運転中に、総反応器容積(cc)当たり少なくとも0.6Wの熱が、該少なくとも一つの熱交換器と該少なくとも一つの反応チャンバーの間で伝達され得るような構造をしている;
反応器。
【請求項9】
該熱交換器は、250μm〜3mmの範囲の最小寸法を有する、請求項8に記載の反応器。
【請求項10】
該熱交換器と該反応チャンバーとが積層チャンバーであり、該熱交換器と該反応チャンバーが、0.025cm(0.01インチ)〜0.63cm(0.25インチ)の間の厚さを有するウェブにより隔てられている、請求項8〜9のいずれかに記載の反応器。
【請求項11】
連結管を形成する、金属壁を有するチューブまたはパイプを含み、ここで該連結管は、該金属壁上に被覆された緩衝層を含み、該緩衝層はAl、TiO、SiO、ZrO、またはこれらの組み合わせを含む、請求項8〜10のいずれかに記載の反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−131595(P2010−131595A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−271910(P2009−271910)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【分割の表示】特願2001−554783(P2001−554783)の分割
【原出願日】平成13年1月24日(2001.1.24)
【出願人】(500037481)バッテル・メモリアル・インスティチュート (18)
【Fターム(参考)】