説明

熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物、ポリアミドイミド樹脂硬化物、絶縁電線および成型ベルト

【課題】 ポリアミドイミド樹脂の本来の性能である柔軟性や伸張性を維持し、しかも機械的強度が一層向上した硬化物を収得しうるポリアミドイミド樹脂組成物およびこれらを用いて作製した絶縁電線、成型ベルトを提供すること。
【解決手段】 カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂(1)、ならびに、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂(2)、とを含有することを特徴とする熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物、を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂(以下、まとめてポリアミドイミド樹脂(1)という)と、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂(以下、まとめてポリアミドイミド樹脂(2)という)とを含有する熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物、該組成物を用いた硬化物、絶縁電線および成型ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミド系重合体は耐熱性や電気的性質が優れ、しかも柔軟性があるため、耐熱性材料や絶縁性材料として、成形物、フィルム、コーティング剤等の各種形態で幅広く用いられている。ポリイミド系重合体の中でも、特にポリアミドイミド樹脂は、ポリイミド樹脂など他の耐熱性材料に比べて柔軟性に富み、伸張率が高いことが知られている。
【0003】
一般に、ポリアミドイミド樹脂は、芳香族トリカルボン酸とジイソシアネートを、または芳香族トリカルボン酸とジアミンを原料とし、これらを縮合反応させて得られる。ポリアミドイミド樹脂は分子量が増大するにつれ、伸張率、弾性率が増大して柔軟性、耐熱性などが向上するが、一方では溶剤への溶解性が低下したり、溶液が高粘度化するなどの不利がある。
【0004】
このようなポリアミドイミド樹脂などを含め、一般的にポリイミド系重合体に対して一層優れた耐熱性と機械的強度を付与する目的で、充填材などが適宜に添加されることがあるが(例えば、特許文献1)、これら組成物では耐熱性、弾性率が若干向上するものの十分ではなく、却って柔軟性や伸張率が低下し、得られる皮膜は脆くなってしまう。
【0005】
【特許文献1】特開平7−331070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂の本来の性能である柔軟性や伸張性を維持し、しかも機械的強度が一層向上した硬化物を収得しうる、熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物、該組成物を熱硬化させてなるポリアミドイミド樹脂硬化物、該組成物を用いて作製した絶縁電線、および成型ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、「カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂」と、「イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂」との混合物を、加熱下に脱炭酸縮合反応させて得られる特定の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物が、柔軟性や伸張性を維持し、しかも機械的強度が一層向上した硬化物を提供しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂、ならびに、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂(2)とを含有することを特徴とする熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物;該熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を加熱下に脱炭酸縮合反応させてなることを特徴とするポリアミドイミド樹脂硬化物;該熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を導体に直接にまたは他の絶縁物を介して塗布し、焼き付けてなることを特徴とする絶縁電線;該熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を金型に流延し、熱硬化させてなることを特徴とする成型ベルトに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られる熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物によれば、強度、耐熱性、柔軟性に優れた硬化物を得ることができる。そのため、該熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を被覆して得られる絶縁電線、および該熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を金型に流延し熱硬化させることで得られる成型ベルトは、いずれも強度、耐熱性、柔軟性に優れるという特有の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において使用される、「カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂」は、ジイソシアネート類とトリカルボン酸類とを原料として、これらを縮合反応して得られるものであり、該樹脂分子中にアミド結合とイミド結合を有し、かつ、該樹脂分子末端がカルボキシル基および/または酸無水物基になるように調製されたものである。なお、前記カルボキシル基および/または酸無水物基は、式:−CO−O−CO−で示す原子団を有する官能基をいう。
【0011】
本発明において使用される、「イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂」は、ジイソシアネート類とトリカルボン酸類とを原料として、これらを縮合反応して得られるものであり、該樹脂分子中にアミド結合とイミド結合を有し、かつ、該樹脂分子末端がイソシアネート基になるように調製されたものである。
【0012】
前記各ポリアミドイミド樹脂の構成成分であるトリカルボン酸類としては、特に限定されず各種公知のものを使用でき、例えばトリメリット酸無水物、ナフタレン−1,2,4-トリカルボン酸無水物などの芳香族トリカルボン酸類が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、これらの中でも、本発明に係る熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物の、可とう性と耐熱性のバランスの観点より、前記トリメリット酸無水物が好ましい。
【0013】
また当該構成成分であるジイソシアネート類についても、特に限定されず各種公知のものを使用できる。
具体的には、例えば、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート、4,4,ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、これらの中でも、本発明に係る熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物の、可とう性と耐熱性のバランスの観点より、前記ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートが好ましい。
【0014】
カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂を合成する際の前記構成成分の反応割合は、当該樹脂の分子末端が実質的にカルボキシルおよび/または酸無水物基となる限り、特に限定されない。
空気中や溶剤中の水分によるジイソシアネート類の失活を考慮して、(ジイソシアネート類のモル数/トリカルボン酸類のモル数)は、通常0.8〜1.0程度、好ましくは0.90〜0.98とするのが好ましい。
該モル比が0.8未満であれば、当該ポリアミドイミド樹脂の高分子量化が困難となる場合があるため、当該樹脂皮膜の伸張率が低くなり、柔軟性が不十分となる傾向がある。
また該モル比が1.0を超えると、当該ポリアミドイミド樹脂の分子末端がカルボキシル基および/または酸無水物基とならない傾向がある。
【0015】
イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂を合成する際の前記構成成分の反応割合は、当該樹脂の分子末端が実質的にイソシアネート基となる限り、特に限定されない。
なお、ジイソシアネート類の失活を考慮して、(ジイソシアネート類のモル数/トリカルボン酸類のモル数)は通常1.03〜1.30程度、好ましくは1.03〜1.15とすることが好ましい。
該モル比が1.05未満であると当該ポリアミドイミド樹脂の分子末端がイソシアネート基とならない傾向がある。
また、1.30を超えると、当該ポリアミドイミド樹脂の溶液の粘度安定性が低下する傾向があり、しかも、本発明に係る熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を加熱(乾燥/熱硬化成型過程)した際に、脱炭酸縮合反応により硬化物中に気泡が生じる傾向がある。
【0016】
なお、両ポリアミドイミド樹脂の構成原料としては、前記トリカルボン酸類以外にジカルボン酸類やテトラカルボン酸類を任意で使用しても差し支えなく、これらの任意に使用しうる酸類の使用量は通常はトリカルボン酸類の10モル%以下とされる。
該ジカルボン酸類としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ビメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、やそれらの酸無水物などの脂肪族ジカルボン酸類;イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸やそれらの酸無水物などの芳香族ジカルボン酸類が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、該ジカルボン酸類の使用量が過大となる場合は、得られる熱硬化性樹脂組成物やその硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。
また、該テトラカルボン酸類としては、ジフェニルエーテル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸やそれらの酸無水物などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、該テトラカルボン酸類は、一般にトリカルボン酸と対比して高価であるため、使用量が過大となる場合は材料コストが増加する傾向がある。
【0017】
また、本発明に係る、「カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂」とは、前記カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基の一部を、各種公知の末端封止剤で封止することにより、保存安定性(粘度安定性)を向上させたものである。
(以下、「カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂」と、「カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂」を、まとめてポリアミドイミド樹脂(1)という)
【0018】
当該末端封止剤とは、具体的には、カルボキシル基および/または酸無水物基と反応し、常温ではカルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂と解離しないが、硬化温度(約200〜300℃)付近において解離するものである。
該末端封止剤としては、カルボキシル基および/または酸無水物基と反応し、硬化温度で解離することができる官能基を有する化合物であれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
具体的には、アルコール類(メタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコール等)、カプロラクタム、アンモニア、ビニル化合物(2−メチルプロペン等、ビニルエーテル、ビニルチオエーテル等)が挙げられ、これらは組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、取扱い易さや反応の容易さという観点よりアルコール類が好ましい。
また、当該末端封止剤は、通常、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の分子末端官能基の70モル%未満、好ましくは1〜50モル%程度となる範囲の量で用いるのがよい。70モル%を超えると、本発明に係る熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物の柔軟性が劣る傾向にある。
なお、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂と当該末端封止剤との反応手段は特に限定されず、各種公知のエステル化反応、アミド化反応、付加反応を採用できる(例えば、特開2001−40282号を参照)。
【0019】
また、本発明に係る、「イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂」とは、前記イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基の一部または全部を、各種公知の末端封止剤で封止することにより、保存安定性(粘度安定性)を向上させたものである。
(以下、「イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂」と「イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂」を、まとめてポリアミドイミド樹脂(2)という)。
【0020】
当該末端封止剤とは、具体的には、イソシアネート基と反応し、常温ではイソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂と解離しないが、後述する硬化温度(約200〜300℃)付近おいて解離するものである。
該末端封止剤としては、イソシアネート基と反応し、硬化温度で解離することができる官能基を有する化合物であれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
具体的には、前記アルコール類の他、各種フェノール類(フェノール、クレゾール、オクチルフェノール等)、ラクタム類(ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム等)、オキシム類(メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等)が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、これらの中でも、未反応の末端封止剤の除去が容易であるという観点より、前記アルコール類やフェノール類が好ましい。
また、当該末端封止剤は、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の分子末端官能基の通常50モル%以上100モル%未満程度、好ましくは70モル%以上100モル%未満となる範囲の量で用いるのがよい。
なお、使用量が100モル%の場合には、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂は、イソシアネート基を分子末端に潜在的に有するといえる。
なお、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂と該末端封止剤との反応手段は特に限定されず、各種公知のウレタン化反応を利用できる(例えば、特開2004−339251号参照)。
【0021】
ポリアミドイミド樹脂(1)とポリアミドイミド樹脂(2)の数平均分子量は、いずれも通常3000〜30000程度であり、好ましくは10000〜30000である。
数平均分子量が3000未満であると、本発明に係る熱硬化性ポリアミドイミド樹脂硬化物の伸張率が低く、柔軟性が不十分となる傾向があり、
また30000を超えると、ポリアミドイミド樹脂(1)とのポリアミドイミド樹脂(2)の溶液が高粘度となるため取扱い作業性が劣る傾向がある。
【0022】
また、ポリアミドイミド樹脂(1)やポリアミドイミド樹脂(2)の製造は、発熱制御や高粘度化防止のため、溶剤の存在下で行うことが好ましい。
溶剤としては、ポリアミドイミド樹脂(1)やポリアミドイミド樹脂(2)を溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。このような有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの良溶媒が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの良溶媒には、前記ポリアミドイミド樹脂(1)成分や前記ポリアミドイミド樹脂(2)成分を析出しない範囲であれば、キシレンやトルエン等の貧溶媒を、有機溶媒全体の30重量%以下の範囲で使用してもよい。
【0023】
また、前記ポリアミドイミド樹脂(1)や前記ポリアミドイミド樹脂(2)の各製造に際しては、反応を促進するために触媒を添加することができる。
具体的には、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、該触媒は、前記ポリアミドイミド樹脂(1)とポリアミドイミド樹脂(2)のいずれにおいても、ポリアミドイミド樹脂成分の100重量部(固形分重量)に対し、通常0.1〜5重量部程度の割合で使用するのが好ましい。
【0024】
本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物は、前記ポリアミドイミド樹脂(1)とポリアミドイミド樹脂(2)とを各種公知の手段で混合して調製できる。
また、混合比率は格別限定されないが、前記ポリアミドイミド樹脂(1)/前記ポリアミドイミド樹脂(2)が通常0.2〜5.0程度(各固形分の重量比)、好ましくは0.33〜3.0であるのがよい。なお、混合比率が0.2未満であるか、5.0を超えると、本発明の効果が、十分に発現しなくなる傾向がある。
【0025】
また、本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を調製する際には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、充填剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、粘度調節剤、可塑剤、抗菌剤、防黴剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、安定剤、カップリング剤等を適宜に配合することができる。
なお、本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物における、ポリアミドイミド樹脂成分の含有率は特に限定されないが、通常は50重量%以上、好ましくは70重量%〜99重量%程度である。
【0026】
また、本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物には、後述のポリアミドイミド樹脂硬化物に絶縁性や耐傷つき性、導電性、磁性、低熱膨張性などの機能性を付与するために、更にフィラー等を含有させることができる。
このようなフィラーとしては、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニア、二硫化モリブテンなどの各種公知のフィラーが挙げられる。
本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物におけるフィラーの含有率は特に限定されないが、通常は50重量%以下、好ましくは1重量%〜30重量%程度である。
【0027】
本発明のポリアミドイミド樹脂硬化物は、前記各熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を、加熱下に脱炭酸縮合反応させてなるものである。
加熱の条件は特に限定されないが、例えばフィルム状の硬化物を得る場合には、通常200〜300℃程度で通常20〜60分程度、好ましくは230〜280℃で30〜50分で硬化させればよい。なお、硬化は2段階以上の工程で行ってもよい。これらの条件は、本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を適用する用途に応じて、適宜変更できる。
【0028】
本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物は、主として絶縁電線(特にエナメル線)用ワニスとして使用した場合に、優れた効果を発揮するが、それ以外の用途、例えば、マイカ、ガラスクロス等との基材と組み合わせるシート用ワニスや、電気絶縁用含侵ワニス、注型ワニス、MCL積層板用ワニス、摩擦材料用ワニス等として使用することもできる。
絶縁電線を製造するには、例えば、特開平11−60670号公報に記載の方法を採用すればよい。具体的には、例えば、前記各熱硬化性ポリアミドイミド樹脂を、導体(例えばエナメル線)に直接にまたは他のポリアミドイミド樹脂等を介して塗布し、焼き付けることにより得られる。製造条件としては、塗装回数をダイス5〜10回程度(8回程度が好ましい)とし、焼付炉として熱風式堅炉〔(炉長:5m程度、炉温:入口/出口=300〜350℃程度(より好ましくはは320℃程度)/400〜450℃程度(より好ましくは430℃程度))〕を用い、また線速を10〜20(より好ましくは16)m/分程度とすればよい。
【0029】
また、本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物は、金型に流延し、熱硬化させることで、成型ベルトとして使用することもできる。この場合には、該樹脂組成物に帯電防止剤を配合するのが好ましい。該帯電防止剤としては、特に限定されないが、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、グラファイトなどのカーボン類;アニオン系、 カチオン系、非イオン性及び両性の界面活性剤;ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン等の電子伝導性ポリマーなどが用いられる。
【0030】
帯電防止剤の配合は、デイゾルバー、3本ロールミル、サンドミル、プラネタリウムミキサー、アトライター、など通常の分散機を用いて行うことができる。この際、成型ベルトの特性(耐熱性、電気的性質、柔軟性、強度等)を損なわない範囲であれば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタンなどの他の樹脂や、着色剤、分散剤、無機フィラー、レベリング剤、消泡剤、シリコーン系離型剤、架橋剤などの添加剤を配合できる。該架橋剤としては2官能以上のエポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0031】
本発明の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を用いて成型ベルトを成型するには、押し出し成型、ブロー成型、射出成型、コーティング、遠心成型など各種公知の方法を採用できる。具体的には、例えば、特開2003−147199号公報に記載の方法を採用すればよく、本発明の熱硬化性ポリアミド樹脂を、直径150mmの円筒状金型に流し込み、これを100〜300(好ましくは200程度)回転/分で回転させながら、80〜120℃(好ましくは100℃程度)で10分〜1時間程度(好ましくは30分程度)加熱し、次いで220℃で5時間程度乾燥させればよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、各例中、%は特記しない限り重量基準である。
【0033】
製造例1(ポリアミドイミド樹脂(1)の製造)
攪拌機、冷却管、温度計を備えた反応装置に、N−メチルピロリドン354.4g、無水トリメリット酸192.1g(1.00モル)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート250.2g(1.00モル)を入れ、窒素気流下80℃で4時間反応させた。
次いで、窒素気流を止め、N−メチルピロリドン472.5gを加え、1時間かけて140℃まで温度を上昇させた後、4時間反応を継続した。
その後、冷却し、N-メチルピロリドンで希釈し、不揮発分35%のポリアミドイミド樹脂(1−1)の溶液を得た。
なお、当該ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算値)は8000であった。
なお、GPC測定において、測定装置としては東ソー(株)製「HLC−82020」を用いた。
また、リファレンス側のカラムとしては東ソー(株)製「TSKgel 2500」と「TSKgel 3000」を組み合わせて用い、サンプル側のカラムには東ソー(株)製「TSKgel GMHHR−M」を2本組み合わせて用いた。
【0034】
製造例2(ポリアミドイミド樹脂(2)溶液の製造)
攪拌機、冷却管、温度計を備えた反応装置に、N−メチルピロリドン372.4g、無水トリメリット酸192.1g(1.00モル)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート278.1g(1.11モル)を入れ、窒素気流下80℃で4時間反応させた。
次いで、窒素気流を止め、N−メチルピロリドン496.5gを加え、1時間かけて120℃まで温度を上昇させた後、2時間反応を継続した。
その後、冷却し、N-メチルピロリドンで希釈し、不揮発分30%のポリアミドイミド樹脂(2−1)の溶液を得た。このものの数平均分子量は12000(GPC測定によるポリスチレン換算値)であった。
【0035】
製造例3(ポリアミドイミド樹脂(1)の製造)
攪拌機、冷却管、温度計を備えた反応装置に、N−メチルピロリドン354.4g、無水トリメリット酸201.7g(1.05モル)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート250.2g(1.00モル)を入れ、窒素気流下80℃で4時間反応させた。
次いで、窒素気流を止め、N−メチルピロリドン472.5gを加え、1時間かけて140℃まで温度を上昇させた後、4時間反応を継続した。
その後、窒素気流下で90℃まで冷却し、n−ブタノール2.22g(0.03モル)を加え、1時間エステル化反応させた。
その後、反応系をN-メチルピロリドンで希釈し、不揮発分36%のポリアミドイミド樹脂(1−2)の溶液を得た。
このものの数平均分子量は8000(GPC測定によるポリスチレン換算値)であった。
【0036】
製造例4(ポリアミドイミド樹脂(2)の製造)
攪拌機、冷却管、温度計を備えた反応装置に、N−メチルピロリドン372.4g、無水トリメリット酸192.1g(1.00モル)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート278.1g(1.11モル)を入れ、窒素気流下80℃で4時間反応させた。
次いで、窒素気流を止め、N−メチルピロリドン496.5gを加え、1時間かけて120℃まで温度を上昇させた後、2時間反応を継続した。その後、窒素気流下90℃まで冷却し、フェノール10.4g(0.11モル)を加え、1時間反応させた。
次いで、N-メチルピロリドンで希釈し、不揮発分30%のポリアミドイミド樹脂(2−2)の溶液を得た。
このものの数平均分子量は12000(GPC測定によるポリスチレン換算値)であった。
【0037】
製造例5(ポリアミドイミド樹脂の製造)
攪拌機、冷却管、温度計を備えた反応装置に、N−メチルピロリドン830g、無水トリメリット酸192.1g(1.00モル)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート252.8g(1.01モル)を入れ、窒素気流下80℃で4時間反応させた。
次いで、窒素気流を止め、N−メチルピロリドン593.9gを加え、1時間かけて170℃まで温度を上昇させた後、4時間反応を継続した。
その後、冷却し、N-メチルピロリドンで希釈し、不揮発分16%のポリアミドイミド樹脂溶液(ア)を得た。
当該ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量(GPC測定によるスチレン換算値)は75000であった。
【0038】
製造例6(ポリアミドイミド樹脂溶液の製造)
攪拌機、冷却管、温度計を備えた反応装置に、N−メチルピロリドン520g、無水トリメリット酸192.1g(1.00モル)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート238.3g(0.95モル)を入れ、窒素気流下80℃で4時間反応させた。
次いで、窒素気流を止め、N−メチルピロリドン384gを加え、1時間かけて160℃まで温度を上昇させた後、4時間反応を継続した。
その後、冷却し、不揮発分28%のポリアミドイミド樹脂溶液(イ)を得た。
当該ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量(GPC測定によるスチレン換算値)は15000であった。
【0039】
実施例、比較例
〔熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物の調製〕
実施例1
製造例1で得たポリアミドイミド樹脂(1−1)の溶液100gと、製造例2で得たポリアミドイミド樹脂(2−1)の溶液350gを混合し、31.1%の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を調製した。
【0040】
実施例2〜6
実施例1に従い、表1で示す組み合わせで、熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物をそれぞれ調製した。
【0041】
比較例1、2
製造例5、6で得たポリアミドイミド樹脂溶液をそのまま(表1では“○”と表記する)、熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物として用いた。なお、表1中、NVとは該樹脂組成物の不揮発分を意味する。
【0042】
【表1】

【0043】
〔ポリアミドイミド樹脂硬化物〕
(硬化物の調製)
実施例1の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂溶液をガラス板上にアプリケーター(ウエット200μm)でコートし、これを乾燥器に入れ、120℃で10分、200℃で10分、250℃で30分と段階的に乾燥、硬化させた後、室温まで空冷することにより、硬化フィルム(フィルム厚25μm)を得た。
実施例2〜6、比較例1〜2の各熱硬化性ポリアミドイミド樹脂溶液についても同様にして、硬化フィルム(フィルム厚25μm)を得た。
【0044】
(引っ張り試験)
テンシロン試験機(オリエンテック(株)製,商品名UCT−500)を用いて、25℃の雰囲気下に、5mm/分の引っ張り速度で、前記各硬化フィルムを延伸し、線形弾性率(GPa)と、破断するまでのフィルム伸び(最大伸張率(%))と、破断時応力(破断強度(MPa))とを測定した。表2に、3回の測定の平均値を示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から明らかなように、ポリアミドイミド樹脂(1)溶液とポリアミドイミド樹脂(2)溶液を混合した樹脂組成物によれば、線形弾性率やフィルム伸び、破断時応力に優れた硬化フィルムが得られることが分かる。

【0047】
〔絶縁電線〕
実施例1〜6および比較例1〜2で得た両ポリアミドイミド樹脂組成物溶液(以下、ワニスという)を、特開平11−60670号公報に記載の手法に倣い、エナメル線に焼き付けて、絶縁電線を作製した。なお、エナメル線の焼付けは線径1mm、1種仕上げダイス8回塗装の条件で行った。結果、当該絶縁エナメル線は、高温高速での焼付け時にも発泡が生じず、得られたエナメル線の特性が低下しないことがわかった。
【0048】
〔成型ベルト〕
実施例1〜6および比較例1〜2で得た各ワニスを用い、特開2003−147199号公報に記載の方法に倣い、ケッチェンブラックEC(高導電性カーボンブラックの商品名:ライオン(株)製)を固形分比で5%配合して3本ロールミルに二回通して分散させた。次いで、各分散液を直径150mmの円筒状金型に流し込み、200回転/分の条件において、100℃で30分間、次いで220℃で5時間加熱乾燥させた後、硬化被膜を金型から取り出してから、厚みが約0.1mmの成型ベルトを作成した。得られた成型ベルトは、電子写真複写機やレーザープリンター用ベルトに好適であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂(1)、ならびに、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂、または、イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂(2)、とを含有することを特徴とする熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂が、ジイソシアネート類とトリカルボン酸類とを、ジイソシアネート類のモル数/トリカルボン酸類のモル数が0.8〜1.0の割合となるように反応させてなるものである、請求項1記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂が、ジイソシアネート類とトリカルボン酸類とを、ジイソシアネート類のモル数/トリカルボン酸類のモル数が1.03〜1.30の割合となるように反応させてなるものである、請求項1または2記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミドイミド樹脂(1)/前記ポリアミドイミド樹脂(2)が0.2〜5.0(各固形分の重量比)の範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記カルボキシル基および/または酸無水物基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂の、分子末端基の70モル%未満が末端封止剤で封止されている、請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記イソシアネート基を分子末端に有するポリアミドイミド樹脂の当該分子末端基が末端封止剤で封止されていてもよいポリアミドイミド樹脂の、分子末端基の50〜100モル%が末端封止剤で封止されている、請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアミドイミド樹脂(1)と前記ポリアミドイミド樹脂(2)の数平均分子量がいずれも3000〜30000である、請求項1〜6のいずれかに記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を加熱下に脱炭酸縮合反応させてなることを特徴とするポリアミドイミド樹脂硬化物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を導体に直接にまたは他の絶縁物を介して塗布し、焼き付けてなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱硬化性ポリアミドイミド樹脂組成物を金型に流延し、熱硬化させてなることを特徴とする成型ベルト。

【公開番号】特開2007−100079(P2007−100079A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241974(P2006−241974)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】