説明

熱輸送ユニットおよび電子機器

【課題】冷却対象となる発熱体の種類にフレキシブルに対応できると共に、発熱体から奪い取った熱を高速に輸送できる熱輸送ユニットおよび電子機器を提供する。
【解決手段】本発明の熱輸送ユニット1は、上部板2と、上部板2と対向する下部板3と、上部板2と下部板3の接合によって形成され、冷媒を封入可能な内部空間4と、内部空間4を第1方向に沿って区分した複数の通路5と、複数の通路5の各々の内壁の少なくとも一部において、第1方向に形成される溝7と、複数の通路5同士を冷媒が移動可能な連絡路8と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路、LED素子、パワーデバイス、電子部品などの発熱体から受熱した熱を効率的に輸送する熱輸送ユニットおよび電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器、産業機器および自動車などには、半導体集積回路、LED素子、パワーデバイスなどの電子部品が使用されている。これらの電子部品は、内部を流れる電流によって発熱する発熱体になっている。発熱体の発熱が一定温度以上となると、動作保証ができなくなる問題もあり、他の部品や筐体へ悪影響を及ぼし、結果として電子機器や産業機器そのものの性能劣化を引き起こす可能性がある。
【0003】
このような発熱体を冷却するために、封入された冷媒の気化と凝縮による冷却効果を有するヒートパイプを用いた冷却装置が提案されている。
【0004】
ヒートパイプは、内部に封入された冷媒が気化する際に、発熱体から熱を奪って移動する。気化した冷媒は、放熱によって冷却されて凝縮し、凝縮した冷媒は再び還流する。この気化と凝縮の繰り返しによって、ヒートパイプは発熱体を冷却する。
【0005】
ヒートパイプの冷却メカニズムは、発熱体からの熱を奪い取る受熱部材(冷媒が気化する)、奪い取った熱を輸送する熱輸送部材(気化した冷媒が移動すると共に凝縮した冷媒が還流する)、輸送された熱を放散する放熱部材(気化した冷媒を冷却して凝縮させる)を有する。ここで、特許文献1は、ヒートパイプの一例を提案する。特許文献1は、発熱体からの熱で気化した冷媒を、パイプを通じて別体の部材に移動させ、別体の部材においてはヒートシンクなどの二次冷却部材で冷却する技術を開示する。また、特許文献2は、冷却機能を有する電子基板を開示している。
【0006】
近年、冷却対象となる電子部品は、CPU(Central Processing Unit)や専用ICのような比較的大型の半導体集積回路のみでなく、高輝度LED(Light Emitting Device)をはじめとする非常に小型の電子部品であることも多い。このような小型の電子部品は、単体でのサイズが小さいだけでなく、複数の電子部品で1セットとなることも多い。このため、ヒートパイプを用いた冷却装置は、複数の小型の電子部品を冷却する必要があることも多い。
【特許文献1】特開2004−37001号公報
【特許文献2】特開平11−101585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヒートパイプを用いた冷却装置では、熱輸送効率(気化冷媒の拡散と凝縮冷媒の還流の一回あたりの速度と、単位期間でのサイクル数により定まる)を向上させることが、冷却能力向上に重要である。
【0008】
従来技術におけるヒートパイプが有する熱輸送部材は、ウィックを包含するパイプであって、受熱部材から気化した冷媒がこのパイプに入り込むのが困難であったり、放熱部材で凝縮した冷媒が、パイプに入り込むのが困難で合ったりする問題を有する。受熱部材や放熱部材とパイプとの物理的な接続構造の影響を受けるからである。このため、熱輸送部材であるウィックを備えるパイプでの熱輸送の速度は低い。
【0009】
特許文献1のヒートパイプは、平板状の板材の内部空間全体を、熱輸送部材として利用している。このため、内部空間全体が、気化した冷媒の拡散および凝縮した冷媒の還流を行う。冷却対象となる発熱体が、大型の半導体集積回路であれば、このような内部空間全体を熱輸送部材として活用しても、一定の熱輸送効率は得られる。しかしながら、LEDなどの複数かつ小型の発熱体を冷却する場合には、発熱体の発熱面積とヒートパイプの受熱および熱輸送面積とがアンバランスであり、ヒートパイプのサイズや能力に対する熱輸送効率が悪い。発熱体の発熱量に対して、冷媒の量が多くなってしまうので、冷媒の気化の効率が悪くなるからである。還流の効率も同様に悪くなる。
【0010】
特許文献2は、細孔が整列する板型ヒートパイプを開示する。特許文献2に開示される板型ヒートパイプであれば、各々の細孔毎が、気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流を行う。しかしながら、板型ヒートパイプに接する発熱体の個数や発熱量によって、熱輸送の激しい細孔と熱輸送の乏しい細孔とに分かれる。熱輸送効率は、気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流の速度およびサイクル数で決まるが、このとき、発熱量の高い発熱体の冷却においては、より多くの冷媒を必要とする。特許文献2の板型ヒートパイプでは、細孔毎に冷媒が封入されているので、冷媒の不足する細孔や冷媒が過剰である細孔に分かれてしまい、板型ヒートパイプ全体としての熱輸送効率が悪くなる。
【0011】
また、特許文献2の板型ヒートパイプは、細孔が空隙となっているだけなので、気化した冷媒の拡散を行えるが、凝縮した冷媒の還流を効率よく行うことはできない。高い効率の熱輸送は、気化した冷媒の拡散および凝縮した冷媒の還流の双方が高速に行われることで実現されるからである。
【0012】
また、銅やアルミニウムなどの金属板を熱輸送部材として利用することも広く行われているが、金属板は熱伝導率に従った熱輸送しかできないので、熱輸送効率を向上させることには限界がある。
【0013】
以上のように、従来技術のヒートパイプを用いた冷却装置では、種々の発熱体にフレキシブルに対応しつつも、高速に熱を輸送することができなかった。
【0014】
本発明は、冷却対象となる発熱体の種類にフレキシブルに対応できると共に、発熱体から奪い取った熱を高速に輸送できる熱輸送ユニットおよび電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題に鑑み、本発明の熱輸送ユニットは、上部板と、上部板と対向する下部板と、上部板と下部板の接合によって形成され、冷媒を封入可能な内部空間と、内部空間を第1方向に沿って区分した複数の通路と、複数の通路の各々の内壁の少なくとも一部において、第1方向に形成される溝と、複数の通路同士を冷媒が移動可能な連絡路と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱輸送ユニットは、発熱体からの熱を、一定方向である第1方向に高速かつ効率よく輸送できる。特に、発熱体が熱輸送ユニットに比して非常に小さい場合であっても、複数の区画に区分された通路毎に熱が輸送されるので、発熱体の発熱量に合わせた熱輸送が行われる。
【0017】
また、ある通路に封入される冷媒のみでは熱輸送が不十分な場合には、連絡路を介して冷媒のやり取りが行われるので、熱輸送の主体となっている通路での、熱輸送効率がフレキシブルに高まる。
【0018】
また、通路内部に、気化した冷媒を拡散する蒸気拡散路と凝縮した冷媒を還流させる毛細管流路とを備えているので、気化した冷媒の拡散および凝縮した冷媒の還流のいずれもが高速に行われる。凝縮した冷媒の還流が毛細管流路によって高速に行われることで、冷媒の拡散・還流のサイクルも早まり、熱輸送ユニットは、高い効率で熱を輸送できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1の発明に係る熱輸送ユニットは、上部板と、上部板と対向する下部板と、上部板と下部板の接合によって形成され、冷媒を封入可能な内部空間と、内部空間を第1方向に沿って区分した複数の通路と、複数の通路の各々の内壁の少なくとも一部において、第1方向に形成される溝と、複数の通路同士を冷媒が移動可能な連絡路と、を備える。
【0020】
この構成により、熱輸送ユニットは、第1方向に沿って、発熱体から奪い取った熱を、高速かつ高効率に輸送できる。
【0021】
本発明の第2の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1の発明に加えて、複数の通路の少なくとも一部は、気化した冷媒が拡散する蒸気拡散路と、凝縮した冷媒が還流する毛細管流路を備える。
【0022】
この構成により、通路は、より高速かつ容易に気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流を行える。通路は、冷媒を高速に移動できるので、発熱体から奪った熱を、高速に輸送できる。
【0023】
本発明の第3の発明に係る熱輸送ユニットでは、第2の発明に加えて、複数の通路の少なくとも一部は、内部貫通孔を有する単数又は複数の中間板を有し、内部貫通孔は、毛細管流路を形成する。
【0024】
この構成により、熱輸送ユニットは、容易に蒸気拡散路と毛細管流路を形成できる。また、毛細管吸引力の増加により、熱輸送ユニットは斜めに傾斜された場合でも、熱輸送能力の低下が生じにくい。また、気化した冷媒が均一に分散するので、非常な低温での冷媒凍結による構成容器のダメージ変形が少ない。
【0025】
本発明の第4の発明に係る熱輸送ユニットでは、第3の発明に加えて、内部貫通孔は、円形孔、方形孔、多角形孔およびスリット孔の少なくとも一つを含む。
【0026】
この構成により、多様な毛細管流路が形成でき、凝縮した冷媒の高速な還流が実現できる。
【0027】
本発明の第5の発明に係る熱輸送ユニットでは、第3から第4のいずれかの発明に加えて、中間板は複数であって、複数の中間板のそれぞれに設けられた内部貫通孔同士は、それぞれの一部のみが重なって、内部貫通孔の水平方向の断面積よりも小さい断面積を有する毛細管流路が形成される。
【0028】
この構成により、非常に微細な断面積を有する毛細管流路が形成できる。この微細な断面積を有する毛細管流路は、強い毛細管現象を生じさせるので、凝縮した冷媒の還流を促進できる。
【0029】
本発明の第6の発明に係る熱輸送ユニットでは、第3から第5のいずれかの発明に加えて、中間板は、通路を区分する境界に沿って突起部を有し、上部板および下部板に挟まれて中間板が積層されることで、突起部が通路同士を区分する境界を形成する。
【0030】
この構成により、通路同士の隔離が確実に行われる。
【0031】
本発明の第7の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1から第6のいずれかの発明に加えて、複数の通路は、上部板および下部板の一方の端部から他方の端部にかけて形成される。
【0032】
この構成により、熱輸送ユニットの第1方向に沿った端部から端部にかけて、熱輸送ユニットは熱を高速に輸送する。
【0033】
本発明の第8の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1から第7のいずれかの発明に加えて、第1方向は、上部板および下部板の一方の端部から他方の端部への向きを有する。
【0034】
この構成により、熱輸送ユニットの第1方向に沿った端部から端部にかけて、熱輸送ユニットは熱を高速に輸送する。
【0035】
本発明の第9の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1から第8のいずれかの発明に加えて、複数段の複数の通路が、熱輸送ユニットの厚み方向に積層されている。
【0036】
この構成により、熱輸送ユニットの上部板および下部板の両方の面に配置された発熱体からの熱を輸送できる。あるいは熱輸送ユニットは、発熱体からの熱を、より高速に輸送できる。
【0037】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0038】
なお、本明細書におけるヒートパイプとは、内部空間に封入された冷媒が、発熱体からの熱を受けて気化し、気化した冷媒が冷却されて凝縮することを繰り返すことで、発熱体を冷却する機能を実現する部材、部品、装置、デバイスを意味する。また、本明細書における熱輸送ユニットとは、冷媒の移動によって発熱体からの熱を輸送する機能を有する部材、部品、装置、デバイスを意味する。
【0039】
(実施の形態1)
(ヒートパイプの概念説明)
本発明の熱輸送ユニットは、ヒートパイプの機能や動作を利用しているので、まずヒートパイプの概念について説明する。
【0040】
ヒートパイプは、内部に冷媒を封入しており、受熱面となる面を、電子部品をはじめとする発熱体に接している。内部の冷媒は、発熱体からの熱を受けて気化し、気化する際に発熱体の熱を奪う。気化した冷媒は、ヒートパイプの中を移動する。この移動によって発熱体の熱が運搬されることになる。移動した気化した冷媒は、放熱面などにおいて(あるいはヒートシンクや冷却ファンなどの二次冷却部材によって)冷却されて凝縮する。凝縮して液体となった冷媒は、ヒートパイプの内部を還流して再び受熱面に移動する。受熱面に移動した冷媒は、再び気化して発熱体の熱を奪う。
【0041】
このような冷媒の気化と凝縮の繰り返しによって、ヒートパイプは発熱体を冷却する。このため、ヒートパイプは、その内部に気化した冷媒を拡散する蒸気拡散路と、凝縮した冷媒を還流させる毛細管流路を有する必要がある。
【0042】
ヒートパイプには、筒状の形状を有して垂直方向に気化した冷媒を拡散させると共に垂直方向に凝縮した冷媒を還流させる構造を有するものや、発熱体と接する受熱部と冷媒を冷却する冷却部とが別体であってパイプで接続される構造を有するものなどがある。
【0043】
これらの構造を有するヒートパイプは、その体積が大きく(特に垂直方向に体積が大きくなりやすい)、実装する空間が狭小である場合には不適である。このため、平板状で薄型のヒートパイプが望まれることも多い。このため、平板状のヒートパイプも提案されている。
【0044】
ここでヒートパイプは、気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流によって、発熱体から奪った熱を輸送できる。発熱体の冷却には、発熱体から熱を奪う機能、奪った熱を輸送する機能、輸送された熱を放散する機能が必要であり、発熱体から奪い取った熱を効率的に輸送することが求められる。銅やアルミニウムなどの熱伝導率の高い金属板でも熱輸送は可能であるが、これらの輸送効率は高くない。
【0045】
気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流を行うヒートパイプの機能を利用することは、熱輸送効率の向上の前提である。本発明は、更なる工夫により、熱輸送効率を向上させる熱輸送ユニットを提案する。
【0046】
(全体概要)
まず、実施の形態1における熱輸送ユニットの全体概要について説明する。
【0047】
図1は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの斜視図である。図1は、熱輸送ユニット1の端部を切り取って内部を可視とした状態を示している。図2は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの上面図である。
【0048】
熱輸送ユニット1は、上部板2、下部板3、上部板2と下部板3の接合によって形成され冷媒を封入可能な内部空間4、内部空間4を第1方向に沿って区分した複数の通路5、複数の通路の各々の内壁の少なくとも一部において第1方向に形成される溝7と複数の通路5同士を冷媒が移動可能な連絡路8を備える。なお、第1方向は、図1、2に示されるとおり、熱輸送ユニット1の長手方向に沿っている。
【0049】
また、熱輸送ユニット1の形状や大きさは特に限定されるものではないが、方形であって短手方向と長手方向を有するのが使い勝手がよいことが多い。勿論、屈曲していたり、屈折していたりしてもよく、円形、楕円形、多角形などの形状を有していてもよい。更には、熱輸送ユニット1が湾曲していてもよい図1においては、平板状であるが、平板状に限らず、大きな厚みを有していてもよい。
【0050】
上部板2と下部板3は相互に対向し、通路5を形成する境界6と側壁9とを挟んで接合される。この接合により内部空間4が形成されると同時に、第1方向に区分される複数の通路5も形成される。内部空間4は冷媒を封入可能であり、封入された冷媒は複数の通路5のそれぞれに封入される。このため、区分された複数の通路5毎に、気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流が可能となる。言い換えると、区分された複数の通路5のそれぞれが、ヒートパイプとしての機能を有することになる。すなわち、通路5内部の冷媒の気化と凝縮(冷媒の移動)によって、通路5は、発熱体からの熱を輸送する。
【0051】
熱輸送ユニット1は、その内部空間4が区分された複数の通路5を備えることで、熱輸送ユニット1に配置された発熱体の位置に応じて熱輸送を実現できる。熱輸送ユニットのサイズに比べて、発熱体のサイズが小さいことが多い。たとえば、LEDのような発光素子などは、非常に小型である。ある通路5に発熱体が配置されている場合には、その発熱体からの熱輸送は、配置されている位置の通路5を主として行われるので、余分な領域を冷媒が移動する必要が無くなり、冷媒の移動が効率的になる。このため、複数の通路5に区分されないままのヒートパイプに比べて、効率的な熱輸送が実現できる。また、内部空間4全体が通路になっている場合に比較して、冷媒の移動幅が限定されているので、移動幅に略垂直方向である第1方向に沿って冷媒は移動しやすい。この点においても、第1方向における熱輸送の速度が高まる。
【0052】
また、複数の通路5の各々の内壁の少なくとも一部は、溝7を備えているので、溝7は、気化した冷媒の拡散および凝縮した冷媒の還流を促進する。溝7は、第1方向に沿って形成されているので、溝7は、第1方向に沿った冷媒の拡散と還流を促進できる。ここで、冷媒の移動が熱輸送を実現するので、冷媒の移動方向である第1方向に、熱は輸送される。溝7は、特に凝縮した冷媒の還流を促進できる。
【0053】
更に、小型の発熱体が熱輸送ユニット1に配置される場合には、ある通路5における発熱量は大きく、他の通路5においては発熱量が小さいこともある。発熱量の大きな位置にある通路5では、冷媒の気化と凝縮の繰り返しによる発熱体の熱輸送負荷が大きい。このため発熱量の大きな位置の通路5は、より多くの冷媒を必要とする。逆に、発熱量の小さな位置にある通路5では、冷媒の気化と凝縮の繰り返しによる発熱体の熱輸送負荷は小さい。このため発熱量の小さな位置の通路5は、多くの冷媒を必要としない。
【0054】
連絡路8は、通路5間での冷媒の移動を可能とする。このため、多くの冷媒を必要とする通路5と多くの冷媒を必要としない通路5とで、冷媒の量がバランスよく分配される。このため、発熱量の大きな位置の通路5であっても発熱量の小さな位置の通路5であっても、必要な量の冷媒を確保でき、効率の高い熱輸送が、通路5毎に実現できる。あるいは、発熱体の発熱量が時間的に変化するのに冷媒の配分が対応できる。このため、発熱体の発熱量の変化に対して適切に対応した上で、熱輸送が実現できる。
【0055】
また、通路5の少なくとも一部が、気化した冷媒を拡散する蒸気拡散路と凝縮した冷媒を還流する毛細管流路を備えていることで、通路5毎における冷媒移動を更に高速にできる。特に蒸気拡散路や毛細管流路は、溝7と相まって冷媒の移動を促進できる。ここで複数の通路5の少なくとも一部は、内部貫通孔を有する単数又は複数の中間板を有し、内部貫通孔が毛細還流を形成する。
【0056】
このように、実施の形態1における熱輸送ユニット1は、内部空間が複数の通路5に区分されていることで、小型の発熱体からの熱輸送を通路5毎に行うことができるので、効率のよい熱輸送が実現できる。加えて、バランスよく冷媒が通路5に配分されるので、発熱量の違いや変化に応じて、熱輸送ユニット1は、熱輸送を実現できる。
【0057】
次に、各部の詳細について説明する。
【0058】
(上部板)
上部板2について、図1〜図3を用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの斜視図である。図1と異なり、図3に示される通路5は、内部に蒸気拡散路と毛細管流路を有している。図4は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの正面分解図である。図4は、熱輸送ユニット1の端部側から見た状態を示している。
【0059】
上部板2は、所定の形状、面積を有している。図1〜3では、上部板2は平板状であるが、平板状以外でも湾曲、屈曲、屈折していてもよい。
【0060】
上部板2は、金属、樹脂などで形成されるが、銅、アルミニウム、銀、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、ステンレスなどの熱伝導率の高いあるいは防錆性(耐久性)の高い金属で形成されることが好ましい。また、上部板2は、方形、菱形、円形、楕円形、多角形など種々の形を有していてよい。
【0061】
上部板2は、その一方の面であって通路5側において、第1方向に形成される溝7を有していることも好ましい。溝7は、気化した冷媒の第1方向での拡散を促進すると共に凝縮した冷媒の第1方向での還流を促進するからである。例えば、溝7は、毛細管流路11と連通し、上部板2表面で冷却されて凝縮した冷媒が、溝7から毛細管流路11へ伝わりやすくなる。あるいは、溝7は、蒸気拡散路12と連通し、気化した冷媒の拡散を促進できる。加えて、溝7が蒸気拡散路12と連通することで、気化した冷媒が上部板2の表面で広い面積によって接しやすくなり、気化した冷媒の放熱が促進される。
【0062】
上部板2は、便宜上「上部」との呼称となっているが、物理的に上部の位置に存在しなければならないわけではなく、下部板3と特段に区別されるものでもない。また、上部板2が発熱体と接する面となっても、発熱体と対向する面となってもかまわない。
【0063】
また、上部板2は、冷媒の注入口を備えている。上部板2、中間板10、下部板3が積層されて接合されると内部空間4が形成される。この内部空間4は、冷媒を封入する必要があるので、上部板2などの接合後に注入口から冷媒が封入される。注入口は、冷媒が封入されると封止されて内部空間は密封される。
【0064】
なお、冷媒は、積層後に注入口から封入されても良く、上部板2、下部板3、中間板10が積層される際に冷媒が封入されてもよい。また、冷媒の封入は、真空下もしくは減圧下にて行われることが好適である。真空または減圧下で行われることで、第1ヒートパイプ2の内部空間が真空または減圧された状態となって冷媒が封入される。減圧下であると、冷媒の気化・凝縮温度が低くなり、冷媒の気化・凝縮の繰り返しが活発になるメリットがある。
【0065】
上部板2は、中間板10や下部板3との接合に用いられる突起部や接着部を設けていることも好適である。
【0066】
(下部板)
次に下部板3について図1〜図3を用いて説明する。
【0067】
下部板3は、上部板2と対向して単数又は複数の中間板10を挟む。ここで、中間板10は、区分された通路5毎に配置されて上部板2と下部板3との間に積層されてもよく、区分された通路5をまたいだ領域において上部板2と下部板3との間に積層されてもよい。
【0068】
下部板3は、金属、樹脂などで形成されるが、銅、アルミニウム、銀、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、ステンレスなどの熱伝導率の高いあるいは防錆性(耐久性)の高い金属で形成されることが好ましい。また、方形、菱形、円形、楕円形、多角形など種々の形を有していてよいが、上部板2と対向して熱輸送ユニット1を形成するので、上部板2と同一の形状、面積であることが好ましい。
【0069】
下部板3は、その一方の面であって通路5と対向する面に、溝7を有していることも好適である。溝7は、気化した冷媒の第1方向での拡散を促進すると共に凝縮した冷媒の第1方向での還流を促進するからである。例えば、溝7は、毛細管流路11と連通し、上部板2表面で冷却されて凝縮した冷媒が、溝7から毛細管流路11へ伝わりやすくなる。あるいは、溝7は、蒸気拡散路12と連通し、気化した冷媒の拡散を促進できる。加えて、溝7が蒸気拡散路12と連通することで、気化した冷媒が上部板2の表面で広い面積によって接しやすくなり、気化した冷媒の放熱が促進される。これは、上部板2に溝7が設けられることと同様の意義を有する。なお、溝7は、スリット状の溝以外でも、凹部であってもよい。
【0070】
下部板3は、便宜上「下部」との呼称となっているが、物理的に下部の位置に存在しなければならないわけではなく、上部板2と特段に区別されるものでもない。
【0071】
下部板11は、中間板12と接合される突起部や接着部を備えていることも好適である。
【0072】
また、下部板11が、発熱体と接しても接しなくてもよい。
【0073】
下部板3は、中間板10や上部板2との接合に用いられる突起部や接着部を設けていることも好適である。
【0074】
(内部空間)
内部空間4について説明する。
【0075】
上部板2と下部板3の接合によって、内部空間4が形成される。内部空間4は、図1に示されるように、上部板2と下部板3に挟まれた空間である。このとき、上部板2と下部板3の側面が側壁9で囲われることで、封止される内部空間4が形成される。
【0076】
内部空間4は、周囲が封止密閉されているので、冷媒を封入可能である。
【0077】
なお、上部板2や下部板3の一部において冷媒の注入口が設けられ、注入口より内部空間4において冷媒が注入される。
【0078】
内部空間4は、通路5によって仕切られていなければ、熱輸送ユニット1の有する体積に順ずる体積を有するので、冷媒の移動空間が大きい。熱輸送ユニット1が冷却対象とする発熱体が大型の場合には、冷媒の移動空間が大きいことは適当であるが、熱輸送ユニット1が冷却対象とする発熱体が小型の場合には、冷媒の移動空間が大きすぎることは適当ではない。移動空間が大きいことで、冷媒の移動距離も長くなって、熱輸送ユニット1の端部から端部にかけての冷媒の移動速度が遅くなるからである。更には、内部空間4における冷媒の量も多くなるので、発熱体からの熱量に基づく冷媒の気化や凝縮の負荷も大きくなり、冷媒の気化と凝縮(および気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流)のサイクルも長くなりやすい。
【0079】
このため、熱輸送ユニット1は、次の説明の通り、内部空間4を第1方向に沿って複数の通路5に区分する。なお、第1方向は、熱輸送ユニット1の長手方向における端部から他の端部に向く。
【0080】
(通路)
通路5について説明する。
【0081】
図2に示されるとおり、内部空間4は、第1方向に沿って複数の通路5に区分される。
【0082】
通路5は、発熱体からの熱を受けて、通路5内部に封入されている気化した冷媒を、第1方向に沿って拡散する。同様に、通路5は、冷却されて凝縮した冷媒を、第1方向に沿って還流する。すなわち、複数の通路5のそれぞれは、熱輸送ユニット1における実際の熱輸送の機能を担う。
【0083】
複数の通路5は、第1方向に沿って区分されており、境界6によって隣接する通路5と区分される。溝7は、通路5内部に対向して設けられる。また、蒸気拡散路12および毛細管流路11も通路5内部において設けられる。このことからも、複数の通路5のそれぞれが熱輸送の機能を担う。
【0084】
熱輸送ユニット1における通路5の個数はいくつでも良く、製造上の容易性や耐久性などの面から決定されればよい。また、熱輸送ユニット1の内部空間4が複数の通路5に区分されるのは、冷却対象となる発熱体が小型の場合であっても、最適な量の冷媒と最適な冷媒の移動空間を実現するためであるので、発熱体のサイズや個数などによって、通路5の幅や個数が決められればよい。
【0085】
なお図2では、個々の通路5は、熱輸送ユニット1の端部から端部にかけて連続しているが、途中において区分されていたり寸断されていたりしてもよい。すなわち、熱輸送ユニット1の端部から端部にかけての同じ列において、複数の通路5が設けられていてもよい。通路5は、境界に沿って形成される壁部材により区分されればよい。
【0086】
また、溝7は、通路5の内部において設けられればよいので、上部板2および下部板3において設けられるだけでなく(図1に示されるように)、境界6や側壁9の通路5に対向する面において設けられてもよい。
【0087】
このように、通路5内部において、上下左右の面に溝7が設けられることで、冷媒は、より第1方向に沿って移動しやすくなり、第1方向に沿った冷媒の移動(気化した冷媒の拡散および凝縮した冷媒の還流)が、より高速になる。
【0088】
以上のように、内部空間4が複数の通路5に区分されていることで、第1方向に沿った熱輸送の効率が向上する。
【0089】
(中間板)
次に、中間板10について図1〜図3を用いて説明する。
【0090】
中間板10は、単数又は複数の板材である。内部空間4が複数に区分された複数の通路5毎に、単数又は複数の中間板10が積層されてもよい。あるいは、複数の通路5にまたがって単数又は複数の中間板10が積層されてもよい。
【0091】
中間板10は、金属、樹脂などで形成されるが、銅、アルミニウム、銀、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、ステンレスなどの熱伝導率の高いあるいは防錆性(耐久性)の高い金属で形成されることが好ましい。また、方形、菱形、円形、楕円形、多角形など種々の形を有していてよいが、上部板2および下部板3に挟まれて熱輸送ユニット1を形成するので、上部板2および下部板3と同一の形状であることが好ましい。
【0092】
また、中間板10は、上部板2および下部板3と接続される際に用いられる突起や接着部を有していても良い。加えて、中間板10は、内部貫通孔17を有している。この内部貫通孔17は、毛細管流路11を形成する。更に、中間板10は、切り欠き部16を有していてもよい。切り欠き部16は、蒸気拡散路12を形成する。
【0093】
最終的には、上部板2と下部板3の間に中間板10が積層されて接合されることで、熱輸送ユニット1が形成される。中間板10は、単数でも複数でもよい。但し、後述するように、より微小な断面積を有する毛細管流路11を形成するためには、中間板10は、複数であることが好ましい。
【0094】
(中間板と蒸気拡散路および毛細管流路)
次に、蒸気拡散路12および毛細管流路11について説明する。
【0095】
中間板10は、通路5内部において気化した冷媒を拡散する蒸気拡散路12と、通路5内部において凝縮した冷媒を還流させる毛細管流路11を形成する。蒸気拡散路12は、通路5内部を第1方向に沿って気化した冷媒を拡散する。毛細管流路11は、通路5内部を第1方向にそって凝縮した冷媒を還流する。すなわち、複数の通路5のそれぞれは、第1方向に従った熱の移動を行う。
【0096】
中間板10は、切り欠き部16と内部貫通孔17とを有し、中間板10の積層によって、切り欠き部16は、蒸気拡散路12を形成し、内部貫通孔17は、毛細管流路11を形成する。
【0097】
図5に示されるパターンでの蒸気拡散路12について説明する。
【0098】
更に蒸気拡散路12は、複数の通路5のそれぞれにおいて形成されるので、気化した冷媒は、複数の通路5のそれぞれにおいて、第1方向に沿って拡散する。また溝7が第1方向に沿って形成されており、溝7が蒸気拡散路12と連通することで、気化した冷媒は溝7の有する方向付けに従いやすくなって、気化した冷媒は第1方向に沿って高速に拡散しやすくなる。また、溝7によって、気化した冷媒が、熱輸送ユニット1の表面と間接的に接触しやすくなり、気化した冷媒の冷却が促進される。
【0099】
次に毛細管流路11について説明する。
【0100】
毛細管流路11は、中間板10が積層される際に、内部貫通孔17の重なりによって形成される。内部貫通孔17は、方形、円形、楕円形、方形、多角形、スリット状などどのような形状を有していてもよい。
【0101】
内部貫通孔17は、中間板の表と裏を貫く貫通孔であり、凝縮した冷媒が還流する毛細管流路11を形成する。毛細管流路11は、単数の中間板10が有する内部貫通孔17により形成されても良く、積層される複数の中間板10が有する内部貫通孔17により形成されてもよい。単数の中間板10が、通路5に積層される場合には、単数の中間板10が有する内部貫通孔17が、そのまま毛細管流路11を形成する。
【0102】
複数の中間板10が積層されると、複数の中間板10のそれぞれに設けられた内部貫通孔17の一部のみが重なって、内部貫通孔17の平面方向の断面積よりも小さい断面積を有する毛細管流路11が形成される。このように、中間板10が複数である場合には、内部貫通孔17そのものの断面積よりも小さい断面積を有する毛細管流路11が形成されるので、毛細管流路11における凝縮した冷媒の還流をより効果的にできる。毛細管の断面積が小さいことで、毛細管現象による液体の移動が促進されるからである。
【0103】
内部貫通孔17は、掘削、プレス、ウェットエッチング、ドライエッチングなどで形成されれば良い。
【0104】
中間板10が複数の場合には、内部貫通孔17は、複数の中間板10の内で必要な中間板に設けられる。ここで、複数の中間板10は、その内部貫通孔17の一部同士のみがそれぞれ重なるように積層される。毛細管流路11は、複数の中間板10が積層される際に、内部貫通孔17の一部同士が重なり合って、内部貫通孔17の平面方向の断面積よりも小さい断面積を有する。このような内部貫通孔17の断面積よりも小さな断面積を持つ孔が、通路5の厚み方向に積層され、厚み方向の孔同士が接続されて、厚み方向の流路も形成される。また、厚み方向において階段状の孔となるので、厚み方向であると同時に平面方向にも流れうる流路が形成される。この厚み・平面方向に形成される流路は、その断面積が非常に小さく、凝縮した冷媒を、厚み方向もしくは厚み・平面方向に還流させる。
【0105】
また、内部貫通孔17の一部のみが重なるようにして、内部貫通孔17よりも小さな断面積を有する毛細管流路11が形成される場合には、毛細管流路11を直接加工するよりも、容易に製造できるメリットもある。
【0106】
すなわち、通路5内部において、毛細管流路11は、厚み方向および平面方向に向けて凝縮した冷媒を還流させる。特に、内部空間4が複数の通路5に区分されているので、毛細管流路11は、凝縮した冷媒を通路5内部で第1方向に従って還流させやすくなる。加えて溝7が毛細管流路11と連通するので、凝縮した冷媒は、溝7の持つ第1方向への方向付けに従いやすくなる。この結果、第1方向に従って凝縮した冷媒が還流する。なお、毛細管流路11は、凝縮した冷媒を還流するが、気化した冷媒を通すこともありえる。
【0107】
毛細管流路11、溝7の角部、切り欠き部16の角部は、面取りされていたり、Rが設けられていたりすることも好適である。毛細管流路11の断面は、六角形、円形、楕円形、方形、多角形など様々な断面形状を有していて良い。毛細管流路11の断面形状は、内部貫通孔17の形状と、内部貫通孔17同士の重ね合わせ方により定まる。また、断面積も同様に定まる。
【0108】
このように、通路5の内部に設けられる蒸気拡散路12は、通路5内部で気化した冷媒を、第1方向に向けて拡散し、通路5の内部に設けられる毛細管流路11は、通路5内部で凝縮した冷媒を、第1方向に向けて還流させる。
【0109】
ここで、そもそも熱輸送ユニット1の内部空間4が、第1方向に沿って複数の通路5に区分されていることで、第1方向の長手方向が短手方向(幅方向)に対して非常に大きい通路5が形成される。このため、物理的に気化した冷媒と凝縮した冷媒は、通路5の長手方向に沿って移動しやすい。通路5の長手方向に沿って移動しやすいということは、第1方向に沿って移動しやすいということである。更に、通路5内部においては、第1方向に沿って形成される蒸気拡散路12と第1方向に沿って形成される溝7とが連通するので、気化した冷媒は、より第1方向に沿って拡散しやすくなる。同様に、通路5内部においては、第1方向に沿って厚みおよび平面方向に形成される毛細管流路11と第1方向に沿って形成される溝7とが連通するので、凝縮した冷媒は、より第1方向に沿って還流しやすくなる。凝縮した冷媒が還流しやすいと言うことは、通路5の端部から端部にかけての熱輸送速度が速くなるだけでなく、気化した冷媒の拡散から凝縮した冷媒の還流へのサイクル時間も短縮化されて、冷媒の気化と凝縮の単位時間でのサイクル数が向上する。この結果、熱輸送ユニット1は、高い熱輸送効率を実現できる。
【0110】
このように、内部空間を第1方向に沿って区分した通路5、通路5において第1方向に沿って形成される溝7、蒸気拡散路12および毛細管流路11の組み合わせによって、熱輸送ユニット1は、第1方向に沿って高速に熱を輸送できる。
【0111】
(連絡路)
次に連絡路8について説明する。
【0112】
図1に示されるとおり、複数の通路5同士を結んで、冷媒が移動可能な連絡路8を、熱輸送ユニット1は備える。連絡路8は、通路5の境界6に設けられる。
【0113】
連絡路8は、通路5同士において冷媒の移動を可能とする。冷媒は、複数の通路5毎に封入されているが、発熱体の種類や位置によって発熱量の高くなる通路5と発熱量の小さい通路5とが存在しうる。この場合には、発熱量の高くなる通路5と発熱量の小さな通路5とでは、必要となる冷媒の量が相違する。このとき、冷媒が通路5同士で移動できないとすると、通路5のそれぞれにおいて、必要な冷媒が不足したり過剰となったりする。この場合には、熱輸送ユニット1の内部空間4が第1方向に沿って複数の通路5に区分され、複数の通路5のそれぞれが、蒸気拡散路12と毛細管流路11を備えており、通路5は、高い効率で冷媒を移動できたとしても、冷媒の量の過不足によって、熱輸送効率が低減する怖れもある。
【0114】
連絡路8は、通路5同士での冷媒の移動を可能にするので、多くの冷媒を必要とする通路5と少ない冷媒を必要とする通路5とは、それぞれで冷媒をやり取りして、冷媒量のバランスを取ることができる。例えば、発熱量の大きい通路5は多くの冷媒を必要とするので、発熱量の小さい通路5から冷媒を得ることができる(連絡路8を介して)。発熱量の大きい通路5は、十分な冷媒を得ることができれば、大きな発熱量に合わせて冷媒の移動を実現できる。すなわち、発熱量が大きい通路5であっても、熱輸送効率を低減させずに済む。
【0115】
このように、通路5同士で冷媒が移動可能な連絡路8を備えることで、通路5毎に過不足ない冷媒の配分が可能となり、熱輸送ユニット1は、発熱体の個数、サイズ、発熱量、位置にフレキシブルに対応しながら、高い効率で熱輸送を行える。
【0116】
図4は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの内面図である。図4は、熱輸送ユニット1の内部を模式的に表している。
【0117】
熱輸送ユニット1は、複数の通路5を備え、複数の通路5同士で冷媒を移動可能な連絡路8を備えている。連絡路8は、複数の通路5同士を区分する境界6に設けられても良いが、境界6の底部に設けられてもよい。すなわち、上部板2や下部板3に溝7が形成される際に、上部板2および下部板3の少なくとも一部に溝7に直交する方向の溝が形成されれば、境界6と上部板2との間あるいは境界6と下部板3との間に隙間が生じる。この隙間が連絡路8となって、複数の通路5同士を結ぶ。図7に示される連絡路8は、このようにして形成されたものである。
【0118】
図5を用いて、通路5同士での冷媒のやり取りについて説明する。図5は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの動作説明図である。
【0119】
図5に示される熱輸送ユニット1は、複数の通路5a〜5eを備え、通路5bと5eにおいて、発熱体30が配置されている。このため、通路5bと5eとが発熱量の大きな通路であって、他の通路は発熱量の小さな通路である。また熱輸送ユニット1は、通路5同士で冷媒が移動可能な連絡路8を有している。
【0120】
通路5bと5eとは、発熱体30によって、他の通路よりも大きな発熱量を有する。発熱量が大きいので、通路5b、5eは、冷媒の拡散と還流の速度とサイクルを高める必要がある。このとき、気化した冷媒の潜熱によって通路5b、5eは、熱を移動させるので、他の通路よりも多くの冷媒を必要とする。
【0121】
一方で、通路5a、5c、5dは、小さな発熱量しか有さないので、必要とする冷媒量は少ない。連絡路8は、通路5a〜5eを貫いているので、通路5a、5c、5dに封入されている冷媒は、連絡路8を介して、通路5b、5eに移動可能である。この結果、通路5b、5eが有していた冷媒量では不足の場合には、通路5a、5c、5dから移動して供給された冷媒を、通路5b、5eは、用いることができる。この結果、発熱量の大きな通路5b、5eは、十分な量の冷媒を、自己の通路内に有することができ、発熱体30から奪い取った熱を、高い速度と効率で輸送できる。
【0122】
また、図5では、発熱体30が配置される通路5b、5eと配置されない通路5a、5c、5dとでの冷媒のやり取りの場合を説明したが、時間的に発熱量の変化する発熱体が配置された通路5が、他の通路5より冷媒を得る場合でも、連絡路8が有効に作用する。例えば、全ての通路5に発熱体が配置されている場合に、ある通路5の発熱体の温度が急に上昇した場合には、この通路5は、他の通路5より冷媒の供給を受け(連絡路8を介して冷媒が移動することで供給される)熱輸送効率を維持できる。
【0123】
以上のように、内部空間4を複数に区分した通路5同士を冷媒が移動可能な連絡路8によって、熱輸送ユニット1は、発熱体のサイズ、個数、発熱量、位置、発熱量の変化にフレキシブルに応じて、高い熱輸送効率を維持できる。
【0124】
(製造工程)
ここで、熱輸送ユニット1の製造工程について説明する。
【0125】
上部板2、下部板3、中間板10が積層されて接合されることで熱輸送ユニット1が製造される。
【0126】
上部板2、下部板3および複数の中間板10のそれぞれが所定の位置関係に合わせられる。加えて、複数の中間板10は、複数の中間板10のそれぞれに設けられた内部貫通孔17のそれぞれの一部のみが重なるような位置関係にあわせられる。
【0127】
上部板2、下部板3および複数の中間板10の少なくとも一つは、接合突起を有している。
【0128】
上部板2、下部板3、複数の中間板10は、位置あわせされた上で積層され、ヒートプレスによって直接接合されて一体化される。このとき、各部材は、接合突起によって直接接合される。
【0129】
ここで、直接接合とは、接合しようとする2つの部材の面を密着させた状態で加圧しつつ熱処理を加えることであって、面部の間に働く原子間力によって原子同士を強固に接合させることであり、接着剤を用いることなく、2つの部材の面同士を一体化しうる。このとき、接合突起が強固な接合を実現する。すなわち、接合突起がつべれて、接触面積が増加することで、熱的接合を実現するので、接合突起の接合における役割は高い。
【0130】
ヒートプレスにおける直接接合の条件として、プレス圧力は、40kg/cm2〜150kg/cm2の範囲内であり、温度は250〜400℃の範囲内であることが好ましい。
【0131】
次に、上部板2や下部板3の一部に空けられた注入口を通じて、冷媒が注入される。その後、注入口が封止されて熱輸送ユニット1が完成する。なお、冷媒の封入は真空または減圧下で行われる。真空または減圧下で行われることで、熱輸送ユニット1の内部空間が真空または減圧された状態となって冷媒が封入される。減圧下であると、冷媒の気化・凝縮温度が低くなり、冷媒の気化・凝縮の繰り返しが活発になるメリットがある。
【0132】
(熱輸送ユニットの動作説明)
次に、熱輸送ユニットの動作について説明する。
【0133】
図6は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの動作説明図である。
【0134】
図6に示される熱輸送ユニット1は、その内部空間4が区分された複数の通路を有しており、複数の通路のうち、通路5b、5eに発熱体30が配置され、残りの通路には、発熱体30が配置されていない。発熱体30は、例えばLEDのような発光素子であり、そのサイズは小さいが複数個がセットとなって使用されるので、一つの熱輸送ユニット1であっても、図6に示されるように、小さなサイズの複数の発熱体30を冷却する必要が生じる。
【0135】
発熱体30は、例えば上部板2や下部板3の表面に配置される。発熱体30は、熱を発する。上部板2や下部板3は、発熱体30の熱を奪い取る。
【0136】
ここで、発熱体30が配置されている通路5b、5eは、発熱体30の熱を奪いとる。この奪い取った熱により、通路5b、5eに含まれる冷媒は気化する。気化した冷媒は、通路5b、5e内部を、第1方向に形成されている溝7と蒸気拡散路12に従って、第1方向に移動する。熱輸送ユニット1は、冷媒の移動空間を、区分された通路に限定しているので、気化した冷媒は、おのずと通路内部のみを第1方向にそって移動しやすい。加えて、溝7と蒸気拡散路12が第1方向に向けて形成されているので、気化した冷媒は、第1方向に移動しやすい。このように、移動空間が限定されていることと移動方向が特定されやすいことで、気化した冷媒の移動速度は速くなる。
【0137】
このように、通路5b、5eは、発熱体30から奪い取った熱によって気化した冷媒を、第1方向に沿って高速に移動させる。
【0138】
次いで、第1方向に沿って移動した気化した冷媒は、移動途中および移動後に、熱輸送ユニット1の端部や表面において冷却され凝縮する。通路5b、5eは、凝縮した冷媒を還流する。還流においても、凝縮した冷媒の還流する移動空間は、通路単位で限定されている。このため、凝縮した冷媒はおのずと通路内部のみを第1方向に沿って移動しやすくなる。加えて、溝7と毛細管流路11とが第1方向に沿って形成されているので、凝縮した冷媒は、更に第1方向に沿って移動しやすい。このように、移動空間が限定されていることと移動方向が特定されやすいことで、凝縮した冷媒の移動速度は速くなる。
【0139】
加えて、連絡路8によって、より多くの冷媒を必要とする通路5b、5eは、多くの冷媒を必要としない他の通路から冷媒を得ることができるので、発熱量の大きさに必要な冷媒を有することもできる。この結果、発熱量にあわせた冷媒の気化と凝縮が行われるので、気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流のサイクル数も向上する。結果として、気化した冷媒の移動速度、凝縮した冷媒の移動速度および単位時間当たりの冷媒の移動回数が向上する。すなわち、熱輸送効率が高くなる。
【0140】
以上の機能と動作が相まって、熱輸送ユニット1は、高い熱輸送効率を実現できる。
【0141】
以上のように、実施の形態1の熱輸送ユニット1は、種々の構造と機能とが相まって、高い効率で、発熱体の熱を所定方向に輸送できる。
【0142】
なお、第1方向に熱輸送することを説明したが、第1方向とは単一方向をさすのではなく、両側の方向をさしてもいる。また、第1方向は直線であっても、曲線であっても、屈折線であってもよい。
【0143】
また、通路の数や中間板の数などは、特に限定されるものではない。
【0144】
(実施の形態2)
次に実施の形態2について説明する。
【0145】
実施の形態2においては、2段構造を有する熱輸送ユニットについて、図7、図8を用いて説明する。図7、図8は、本発明の実施の形態2における熱輸送ユニットの斜視図である。図7、8において付与されている符号のうち、図1〜6と同じ符号を有する要素は、既に説明したのと同等の要素である。
【0146】
熱輸送ユニット50は、2段構造を有しており、通路5の列が厚み方向に2段構成を有している。熱輸送ユニット50は、上段40と下段41を有し、上段40と下段41のそれぞれの内部空間4が、第1方向に沿って複数の通路5に区分されている。なお、図7、8では、上段40と下段41のそれぞれの内部空間4が、複数の通路5に区分されているが、上段40と下段41のいずれか一方のみが複数の通路5に区分されていてもよいし、あるいは区分の構造が異なっていてもよい。
【0147】
例えば、上段40のみが複数の通路5に区分されていてもよい。あるいは、上段40は、5つの通路5に区分されていて、下段41は、10個の通路5に区分されていてもよい。いずれにしても、2段構造の上段40と下段41とが、仕様に応じてフレキシブルな構造を有していてよい。また、2段構造のみならず、3段以上の構造を有していてもよい。
【0148】
図7は、熱輸送ユニット50であって、通路5が中間板10を有していない熱輸送ユニット50を示し、図8は、熱輸送ユニット50であって、通路5が単数又は複数の中間板10を有している熱輸送ユニット50を示している。実施の形態1で説明したのと同様に、必要に応じて通路5が中間板10を設ければよい。
【0149】
図7、図8では、熱輸送ユニット50は、上段40と下段41の2段構造を有している。上段40と下段41とは、上段40の下部板3と下段41の上部板2とが共通部材で形成されたり、異なる部材で形成された上で積層されたりすることで、分離される。ここで、上段40の下部板3と下段41の上部板2とが共通部材で形成されている場合には、上段40と下段41との間で、直接的な熱の移動が行われる。
【0150】
上段40は、上部板2と下部板3とが接合されて形成される。この上部板2と下部板3との接合によって、上段40に内部空間4が形成される。
【0151】
下段41も、上部板2と下部板3とが接合されて形成される。この上部板2と下部板3との接合によって、下段41に内部空間4が形成される。内部空間4は、図7、8に示されるように、上部板2と下部板3に挟まれた空間である。このとき、上部板2と下部板3の側面が側壁9で囲われることで、封止される内部空間4が形成される。
【0152】
内部空間4を形成する側壁9は、上部板2と下部板3とを接続する柱部材で形成されればよい。また、内部空間4の左右が側壁9で封止される。
【0153】
内部空間4は、このように周囲が封止密閉されているので、冷媒を封入可能である。
【0154】
なお、上部板2や下部板3の一部において冷媒の注入口が設けられ、注入口より内部空間4において冷媒が注入される。内部空間4は、更に第1方向に沿って複数の通路5に区分される。なお、第1方向は、熱輸送ユニット1の長手方向における端部から他の端部に向く。
【0155】
通路5は、発熱体からの熱を受けて、通路5内部に封入されている気化した冷媒を、第1方向に沿って拡散する。同様に、通路5は、冷却されて凝縮した冷媒を、第1方向に沿って還流する。すなわち、複数の通路5のそれぞれは、熱輸送ユニット50における実際の熱輸送の機能を担う。
【0156】
複数の通路5は、第1方向に沿って区分されており、境界6によって隣接する通路5と区分される。溝7は、通路5内部に対向して設けられる。また、蒸気拡散路12および毛細管流路11も通路5内部において設けられる。このことからも、複数の通路5のそれぞれが熱輸送の機能を担う。
【0157】
熱輸送ユニット50における通路5の個数はいくつでも良く、製造上の容易性や耐久性などの面から決定されればよい。また、熱輸送ユニット50の内部空間4が複数の通路5に区分されるのは、冷却対象となる発熱体が小型の場合であっても、最適な量の冷媒と最適な冷媒の移動空間を実現するためであるので、発熱体のサイズや個数などによって、通路5の幅や個数が決められればよい。
【0158】
なお個々の通路5は、熱輸送ユニット50の端部から端部にかけて連続しているのが好適であるが、途中において区分されていたり寸断されていたりしてもよい。すなわち、熱輸送ユニット50の端部から端部にかけての同じ列において、複数の通路5が設けられていてもよい。
【0159】
内部空間4は、上部板2と下部板3との接合によって形成される。この内部空間4の形成時において、通路5を区分する境界線に沿って、突起部が接合されることで、通路5の境界6が形成される。境界6は、そのまま通路5同士を区切る内壁となる。境界6の形成は、側壁9の形成と同様にかつ同時に行われればよい。
【0160】
なお、隣接する通路5同士を区分する境界6は、内部空間4における柱となるので、熱輸送ユニット50の強度や耐久性を向上させる役割も担う。
【0161】
また、溝7は、通路5の内部において設けられればよいので、上部板2および下部板3において設けられるだけでなく、境界6や側壁9の通路5に対向する面において設けられてもよい。
【0162】
このように、通路5内部において、上下左右の面に溝7が設けられることで、冷媒は、より第1方向に沿って移動しやすくなり、第1方向に沿った冷媒の移動(気化した冷媒の拡散および凝縮した冷媒の還流)が、より高速になる。
【0163】
通路5は、図8に示すように、単数または複数の中間板10を備えてもよい。
【0164】
中間板10は、通路5内部において気化した冷媒を拡散する蒸気拡散路12と、通路5内部において凝縮した冷媒を還流させる毛細管流路11を形成する。蒸気拡散路12は、通路5内部を第1方向に沿って気化した冷媒を拡散する。毛細管流路11は、通路5内部を第1方向にそって凝縮した冷媒を還流する。図8から明らかな通り、通路5のそれぞれの内部は、中間板10の積層により形成される第1方向に従う毛細管流路11と蒸気拡散路12とを備える。すなわち、複数の通路5のそれぞれは、第1方向に従った熱の移動を行う。
【0165】
中間板10の積層パターンや中間板10によって形成される蒸気拡散路12と毛細管流路11の構造パターンは、実施の形態1で図を用いて説明した場合と同様である。内部貫通孔、切り欠き部を有する単数又は複数の中間板10が、通路5内部において積層される。このとき、切り欠き部が、蒸気拡散路12を形成し、内部貫通孔が毛細管流路11を形成する。
【0166】
蒸気拡散路12は、複数の通路5のそれぞれにおいて形成されるので、気化した冷媒は、複数の通路5のそれぞれにおいて、第1方向に沿って拡散する。また溝7が第1方向に沿って形成されており、溝7が蒸気拡散路12と連通することで、気化した冷媒は溝7の有する方向付けに従いやすくなって、気化した冷媒は第1方向に沿って高速に拡散しやすくなる。また、溝7によって、気化した冷媒が、熱輸送ユニット50の表面と間接的に接触しやすくなり、気化した冷媒の冷却が促進される。
【0167】
毛細管流路11は、内部貫通孔によってあるいは内部貫通孔同士の重なりによって形成される。内部貫通孔17は、中間板の表と裏を貫く貫通孔であり、円形、楕円形、方形、多角形、スリット状などどのような形状を有していてもよい。内部貫通孔は、凝縮した冷媒が還流する毛細管流路11を形成する。毛細管流路11は、単数の中間板10が有する内部貫通孔により形成されても良く、積層される複数の中間板10が有する内部貫通孔により形成されてもよい。単数の中間板10が、通路5に積層される場合には、単数の中間板10が有する内部貫通孔が、そのまま毛細管流路11を形成する。
【0168】
あるいは、複数の中間板10が積層される場合には、複数の中間板10のそれぞれに設けられた内部貫通孔の一部のみが重なって、内部貫通孔の平面方向の断面積よりも小さい断面積を有する毛細管流路11が形成される。このように、中間板10が複数である場合には、内部貫通孔そのものの断面積よりも小さい断面積を有する毛細管流路11が形成されるので、毛細管流路11における凝縮した冷媒の還流をより効果的にできる。毛細管の断面積が小さいことで、毛細管現象による液体の移動が促進されるからである。内部貫通孔は、掘削、プレス、ウェットエッチング、ドライエッチングなどで形成されれば良い。
【0169】
複数の中間板10が積層されることで形成される毛細管流路11は、厚み方向において階段状の孔となるので、厚み方向であると同時に平面方向にも流れうる流路が形成される。この厚み・平面方向に形成される流路は、その断面積が非常に小さく、凝縮した冷媒を、厚み方向もしくは厚み・平面方向に還流させる。
【0170】
すなわち、通路5内部において、毛細管流路11は、厚み方向および平面方向に向けて凝縮した冷媒を還流させる。特に、内部空間4が複数の通路5に区分されているので、毛細管流路11は、凝縮した冷媒を通路5内部で第1方向に従って還流させやすくなる。加えて溝7が毛細管流路11と連通するので、凝縮した冷媒は、溝7の持つ第1方向への方向付けに従いやすくなる。この結果、第1方向に従って凝縮した冷媒が還流する。なお、毛細管流路11は、凝縮した冷媒を還流するが、気化した冷媒を通すこともありえる。
【0171】
実施の形態2における熱輸送ユニット50は、このような蒸気拡散路12と毛細管流路11を有する複数の通路5を有する上段40と下段41とを備える。このため、上段40と下段41とのそれぞれが、異なる発熱体からの熱を輸送することもできるし、下段41の下部板3の底面に配置される発熱体からの熱を、下段41に加えて上段40も用いて輸送することもできる。
【0172】
このように、実施の形態2における2段構造(あるいは多段構造)を有する熱輸送ユニット50は、フレキシビリティの高い熱輸送を行える。多段構造を有する熱輸送ユニット50は、発熱体の配置をフレキシブルにしたり、発熱体からの熱輸送速度を増加させたりする。あるいは、多段構造を有する熱輸送ユニット50は、水とアルコールのように動作温度の異なる冷媒を格段に別々に封入することで、熱輸送ユニット50そのものの動作温度範囲を広げることも可能である。
【0173】
ここで、熱輸送ユニット50の内部空間4が、第1方向に沿って複数の通路5に区分されていることで、第1方向の長手方向が短手方向(幅方向)に対して非常に大きい通路5が形成される。このため、気化した冷媒と凝縮した冷媒は、通路5の長手方向に沿って移動しやすい。通路5の長手方向に沿って移動しやすいということは、第1方向に沿って移動しやすいということである。更に、通路5内部においては、第1方向に沿って形成される蒸気拡散路12と第1方向に沿って形成される溝7とが連通するので、気化した冷媒は、より第1方向に沿って拡散しやすくなる。同様に、通路5内部においては、第1方向に沿って厚みおよび平面方向に形成される毛細管流路11と第1方向に沿って形成される溝7とが連通するので、凝縮した冷媒は、より第1方向に沿って還流しやすくなる。凝縮した冷媒が還流しやすいと言うことは、通路5の端部から端部にかけての熱輸送速度が速くなるだけでなく、気化した冷媒の拡散から凝縮した冷媒の還流へのサイクル時間も短縮化されて、冷媒の気化と凝縮の単位時間でのサイクル数が向上する。この結果、熱輸送ユニット50は、高い熱輸送効率を実現できる。
【0174】
このように、内部空間を第1方向に沿って区分した通路5、通路5において第1方向に沿って形成される溝7、蒸気拡散路12および毛細管流路11の組み合わせによって、熱輸送ユニット50は、第1方向に沿って高速に熱を輸送できる。
【0175】
また、図7、8には図示していないが、実施の形態1の熱輸送ユニット1と同様に、熱輸送ユニット50は、通路5同士を冷媒が移動可能な連絡路を有している。この連絡路によって、冷媒が通路5同士を移動でき、複数の通路5のそれぞれにおける冷媒の量のバランスが図られる。例えば、発熱量の大きな通路においてはより多くの冷媒を必要とするので、この発熱量の大きな通路は、発熱量の小さな通路で余っている冷媒を得る。このように、連絡路は、通路5同士での冷媒の融通を実現できる。このことによって、複数の通路5における冷媒量の最適化が図られ、通路5のそれぞれでの熱輸送効率が向上する。
【0176】
このように、実施の形態2における熱輸送ユニット50は、発熱体の配置や個数にフレキシブルに対応しながら、第1方向に沿った高速かつ高効率の熱輸送を実現できる。
【0177】
(実施の形態3)
次に実施の形態3について、図9、10を用いて説明する。
【0178】
図9は、本発明の実施の形態3における電子機器の内面図である。電子機器80は、発熱体となる電子部品81が実装される基板と筐体82を有している。また、電子部品81に熱的に接触するように熱輸送ユニット1が実装されている。熱輸送ユニット1の端部には、冷却ファン90が備えられている。熱輸送ユニット1は、電子部品81から奪い取った熱を、実施の形態1〜2で説明した動作によって高速に電子部品81の配置位置と逆側に輸送する。冷却ファン90は、輸送された熱を送風によって冷却できる。このとき電子部品81は、例えばLEDなどの小型の発光素子であり、熱輸送ユニット1は、通路5を基準として、電子部品81からの熱を輸送する。このため、熱輸送ユニット1は、非常に高速で効率よく熱を輸送できる。輸送された熱は、冷却ファン90によって冷却されるので、冷媒は凝縮して還流する。このように、熱輸送ユニット1は、冷媒の拡散と還流によって、電子部品81からの熱を効率よく輸送できる。
【0179】
このように、熱輸送ユニット1が実装された電子機器は、発熱体である電子部品81からの熱を効率よく輸送できるので、電子部品81の過度な発熱や過度な発熱による不具合を防止できる。なお、熱輸送ユニット1は、実施の形態2で説明された他の構造や形態を有する熱輸送ユニット50を含む。
【0180】
電子機器の具体例を図10に示す。図10は、本発明の実施の形態3における電子機器の斜視図である。電子機器80は、カーテレビやパーソナルモニターなどの薄型、小型が要求される電子機器である。
【0181】
電子機器80は、ディスプレイ83、発光素子84、スピーカ85を備えている。この電子機器80の内部に熱輸送ユニット1が格納されており、発熱体の冷却を実現する。
【0182】
このような熱輸送ユニット1が使用されることにより、電子機器の小型化や薄型化を阻害せずに、発熱体の冷却が実現できる。すなわち熱輸送ユニット1は、発熱体からの熱を高速に輸送して冷却でき、発熱体の発熱を抑えることができる。
【0183】
熱輸送ユニット1は、ノートブックパソコン、携帯端末、コンピュータ端末などに実装されている放熱フィンや液冷装置などに置き換えられたり、自動車や産業機器のライト、エンジン、制御コンピュータ部に実装されている放熱フレームや冷却装置などに、好適に置き換えられたりすることが可能である。熱輸送ユニット1は、従来用いられている放熱フィンや放熱フレームよりも高い冷却能力を有するので、当然に小型化できる。更には発熱体へのフレキシブルな対応も可能であって、種々の電子部品を冷却対象にできる。結果として、熱輸送ユニット1は、広い適用範囲を有する。
【0184】
なお、実施の形態1〜3で説明された熱輸送ユニットや電子機器は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。また、熱輸送ユニット1は、平板状であっても、湾曲状であっても、厚みのある立体状であってもよい。形状や外観が特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの斜視図
【図2】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの上面図
【図3】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの斜視図
【図4】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの内面図
【図5】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの動作説明図
【図6】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの動作説明図
【図7】本発明の実施の形態2における熱輸送ユニットの斜視図
【図8】本発明の実施の形態2における熱輸送ユニットの斜視図
【図9】本発明の実施の形態3における電子機器の内面図
【図10】本発明の実施の形態3における電子機器の斜視図
【符号の説明】
【0186】
1、50 熱輸送ユニット
2 上部板
3 下部板
4 内部空間
5 通路
6 境界
7 溝
8 連絡路
9 側壁
10 中間板
11 毛細管流路
12 蒸気拡散路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部板と、
前記上部板と対向する下部板と、
前記上部板と前記下部板の接合によって形成され、冷媒を封入可能な内部空間と、
前記内部空間を第1方向に沿って区分した複数の通路と、
前記複数の通路の各々の内壁の少なくとも一部において、前記第1方向に形成される溝と、
前記複数の通路同士を冷媒が移動可能な連絡路と、を備える熱輸送ユニット。
【請求項2】
前記複数の通路の少なくとも一部は、
気化した冷媒が拡散する蒸気拡散路と、凝縮した冷媒が還流する毛細管流路を備える請求項1記載の熱輸送ユニット。
【請求項3】
前記複数の通路の少なくとも一部は、内部貫通孔を有する単数又は複数の中間板を有し、前記内部貫通孔は、前記毛細管流路を形成する請求項2記載の熱輸送ユニット。
【請求項4】
前記内部貫通孔は、円形孔、方形孔、多角形孔およびスリット孔の少なくとも一つを含む請求項3記載の熱輸送ユニット。
【請求項5】
前記中間板は複数であって、前記複数の中間板のそれぞれに設けられた前記内部貫通孔同士は、それぞれの一部のみが重なって、前記内部貫通孔の水平方向の断面積よりも小さい断面積を有する毛細管流路が形成される請求項3から4のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項6】
前記中間板は、前記通路を区分する境界に沿って突起部を有し、前記上部板および前記下部板に挟まれて前記中間板が積層されることで、前記突起部が前記通路同士を区分する境界を形成する請求項3から5のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項7】
前記複数の通路は、前記上部板および前記下部板の一方の端部から他方の端部にかけて形成される請求項1から6のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項8】
前記第1方向は、前記上部板および前記下部板の一方の端部から他方の端部への向きを有する請求項1から7のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項9】
複数段の前記複数の通路が、前記熱輸送ユニットの厚み方向に積層されている請求項1から8のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか記載の熱輸送ユニットと、
前記熱輸送ユニットの一部に配置される発熱体と、
前記熱輸送ユニットおよび前記発熱体を格納する筐体を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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