説明

熱間バルジ成形用ポートホール押出材、及びその製造方法

【課題】Al−Mg−Si系アルミニウム合金の中空押出材を熱間バルジ加工する際に、溶着部近傍の強度を増大させて拡管率を増大させることが可能であり、くびれを抑制して均一な板厚分布の加工材を得ることが可能なAl−Mg−Si系アルミニウム合金の中空押出材を提供する。
【解決手段】Al−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材の押出方向に垂直な面上で、溶着線中心にして、前記溶着線と垂直な方向の両側に2mm、前記溶着線と平行な方向における前記中空押出材表面から前記中空押出材の板厚tのt/10〜9t/10の範囲で画定される領域から、結晶粒が40個以上含まれる一辺が500μmの正方形の領域を選択した際に、Cube方位の結晶粒の面積率の最小値を10%〜50%とし、Cube方位の結晶粒の面積率の最大値と最小値との差を60%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間バルジ成形用アルミニウム押出材、特に、熱間バルジ成形により加工される自動車車体用のアルミニウム構造部材の素材として好適なAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール押出材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年自動車その他の車両用構造材(フレーム)には、エネルギー消費の削減を目的とした軽量化のためアルミ合金等の使用が試みられている。この種の構造部材は設計上複雑な構造を有するので、金属中空材を熱間バルジ成形又はハイドロフォーミング(冷間で行われる液圧ないし静水圧バルジ成形)により、拡管ないし変形させることにより所定の設計形態に加工される。
【0003】
バルジ加工等に供されるアルミ合金等の中空材の成形方法には、マンドレルを用いたマンドレル押出法と、ブリッジにより分割された複数のポートホールの先端中心部にマンドレル部を有する雄型、並びにダイス部及びその周りにチャンバーを有する雌型を組み合わせたポートホールダイスを用いたポートホール押出法がある。
【0004】
マンドレル押出法によれば、中空ビレット内にマンドレルを通して金属材料を押し出すので、長さ方向に沿う継ぎ目(溶着部)のない中空材が製造される。したがって、当該中空材には継ぎ目がなく金属組織がより均一であるため、バルジ成形時の限界拡管率(変形量を含む。以下同じ。)を大きくすることができる。その反面、マンドレル押出法では金属材料の押出し時にマンドレルが振れ易いため、偏肉を生じ易く、しかも、多段階の引抜き及び焼鈍工程が必要であるなど、製造コストがかさむという問題がある。
【0005】
一方、ポートホール押出法によれば、ビレットは押出中に雄型のポートホールによって押出方向に沿って一旦分断され、雄型のマンドレル部と雌型のダイス部との隙間から押出された直後に溶着一体化される。そして、押出時における雌型のチャンバー内での金属材料は、押出方向に沿いかつ周方向から押出間隙に向かって押出中心方向へ直進的に流れるため、押出材の各溶着部界面は、押出材の中心線から放射方向にほぼ沿った状態で形成される。さらに、各溶着部界面では、金属組織が均一でなくなる。
【0006】
したがって、バルジ成形時に押出材における中空部中心から周方向に向けて流体圧力(内圧)が加わると、溶着部界面あるいはその近傍で裂け目が生じ易く、拡管率等を相対的に小さくしなければならないという問題があった。また、特に熱間バルジ成形の場合は、限界拡管率が目標値に到達したとしても不均一な組織によって、くびれが発生して、熱間バルジ成形後の板厚分布が不均一となる問題がある。
【0007】
このような問題を解決すべく、特許文献1には、ポートホール押出法において、押出材の母材部と溶着部との平均結晶粒径をいずれも100μm以下とし、母材部の平均結晶粒径と溶着部の平均結晶粒径との差を15μm以下とすることが開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、単なるバルジ成形用の押出材の形成技術に関するものであって、当該技術によっては、上述した熱間バルジ成形に伴う問題を解決することは困難である。
【0008】
また、特許文献2には、Al−Mg−Si系のアルミニウム合金からなるポートホール押出材において、中心部における結晶粒を、平均結晶粒径を100μm以下とするとともに、平均アスペクト比が5.0以下の微細等軸粒とし、溶着部とその他の部分の平均硬度差を10HV以下とすることが開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の技術は、特に電磁成形用の押出材に関する技術であって、当該技術によっては、上述した熱間バルジ成形に伴う問題を解決することは困難である。
【0009】
さらに、特許文献3には、Al−Mg−Si系のアルミニウム合金から、例えばポートホール押出法で押出材を形成する場合において、再結晶組織を生ぜしめるとともに、その平均粒径を200μm以下とし、アスペクト比が5以上のAl−Fe−Si系晶出物の分布密度を20個/100、000μm以下とすることが開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の技術も、電磁成形用の押出材を形成する技術に関するものであって、当該技術によっては、上述した熱間バルジ成形に伴う問題を解決することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−154407号
【特許文献2】特開2007−231408号
【特許文献3】特開2007−254833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の中空押出材を熱間バルジ加工する際に、溶着部近傍の強度を増大させて拡管率を増大させることが可能であり、くびれを抑制して均一な板厚分布の加工材を得ることが可能なAl−Mg−Si系アルミニウム合金の中空押出材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ポートホール押出後の断面組織と熱間バルジ成形時の板厚不均一との関係を見出した。
【0013】
すなわち、請求項1記載の発明は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材の押出方向に垂直な面上で、溶着線を中心にして、前記溶着線と垂直な方向の両側に2mm、前記溶着線と平行な方向における前記中空押出材表面から前記中空押出材の板厚tのt/10〜9t/10の範囲で画定される領域から、結晶粒が40個以上含まれる一辺が500μmの正方形の領域を選択した際に、Cube方位の結晶粒の面積率の最小値が10%〜50%であり、Cube方位の結晶粒の面積率の最大値と最小値との差が60%以下であることを特徴とする、熱間バルジ成形性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材に関する。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の熱間バルジ成形性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材において、前記正方形領域における、Goss方位の結晶粒の面積率の最大値が40%以下、Brass方位の結晶粒の面積率の最大値が40%以下であることに関する。なお、上記目的を考慮した場合、理想的には、Goss方位の結晶粒の面積率及びBrass方位の結晶粒の面積率はゼロであることが好ましい。
【0015】
請求項3記載の発明は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金を510〜540℃の押出温度、15〜30m/minの押出速度でポートホール押出を行うことを特徴とする、熱間バルジ成形性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の中空押出材を熱間バルジ加工する際に、溶着部近傍の強度を増大させて拡管率を増大させることが可能であり、くびれを抑制して均一な板厚分布の加工材を得ることが可能なAl−Mg−Si系アルミニウム合金の中空押出材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ポートホール押出材の押出方向に垂直な面の一部を拡大して示す図である。
【図2】溶着部近傍における不均一な組織の例を示す図である。
【図3】溶着部近傍での不均一な組織を改善した組織の例を示す図である。
【図4】実施例におけるEBSP分析のサンプリング位置の詳細を示す図である。
【図5】実施例における押出管断面のEBSP分析結果の解析方法の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
熱間バルジ成形時の溶着部近傍での脆弱性及びくびれは、当該近傍の不均一な組織に起因する。本発明においては、Al−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材の組織評価を、この中空押出材の押出方向(以下、「RD方向」という場合がある)に垂直な面上で、溶着線と垂直な方向(以下、「TD方向」という場合がある)の両側に2mm、溶着線と平行な方向における(以下、「ND方向」という場合がある)中空押出材表面から中空押出材の板厚tのt/10〜9t/10の範囲で画定される領域内における、一辺が500μmの正方形領域としている。また、評価領域中に含まれる結晶粒の数を40個以上としている。
【0020】
評価領域の大きさを上述のような範囲に規定することによって、以下に示すような組織の面積率の評価を正確に行うことができる。評価領域が上記範囲を超えるような場合、あるいは上記範囲を下回るような場合においては、溶着部近傍における組織の面積率の差異を十分に認識することができない。なお、このような評価領域は、理論的に導きだされたものではなく、本発明者らの膨大な実験及び研究の結果として得たものである。
【0021】
なお、上述した評価領域の概観図を図1に示す。図1は、ポートホール押出材の押出方向(ND方向及びTD方向に垂直な方向、すなわち紙面に対して垂直な方向)に垂直な面の一部を拡大して示す図である。本発明では、上述のように、評価領域を溶着線と垂直な方向(以下、「TD方向」という場合がある)の両側に2mm、溶着線と平行な方向における(以下、「ND方向」という場合がある)中空押出材表面から中空押出材の板厚tのt/10〜9t/10の範囲で画定しているので、図1に示す概観図における上記評価領域は、図1に示すような領域となる。
【0022】
一方、熱間バルジ成形前における押出材の集合組織は、熱間バルジ成形後においてもその分布が継承される。例えば図2のように、上記評価領域における不均一な組織は熱間バルジ成形後まで残存することとなる。また、図2からも明らかなように、不均一組織は、溶着線の近傍で顕著に発生するようになる。なお、図2では、Cube方位の結晶粒の部分を灰色で示しており、Brass方位、Goss方位およびその他の方位の結晶粒の部分を白色で示している。
【0023】
熱間バルジ成形中における変形抵抗は結晶方位によって異なり、Brass方位、Goss方位よりもCube方位の変形抵抗は小さい。このため、図2に示すように、組織の不均一性である溶着線近傍において、Cube方位の結晶粒の面積率が大きく、Brass方位、Goss方位の結晶粒の面積率が小さい部分とCube方位の結晶粒の面積率が小さく、Brass方位、Goss方位の結晶粒の面積率が大きい部分とが存在する場合、変形抵抗の違いによる応力集中が起こる。したがって、溶着線近傍の強度が低下し、脆弱となる。
【0024】
また、Cube方位の結晶粒の面積率が大きく、Brass方位、Goss方位の結晶粒の面積率が小さい部分の変形抵抗が小さいため、このような領域で優先的に変形が進みくびれが生じるようになる。
【0025】
この結果、本発明では、上記評価領域において、変形抵抗の大小及びくびれの発生に影響を与えるCube方位の結晶粒の面積率の最小値を10%〜50%とし、Cube方位の結晶粒の面積率の最大値と最小値との差が60%以下とし、当該評価領域におけるCube方位の結晶粒の面積率の均一化を図っている。したがって、上述のような溶着線近傍での強度低下及びくびれの発生を抑制することができる。なお、上記最大値と最小値との差は、理想的にはゼロであることが好ましい。
【0026】
なお、図2では、溶着線部近傍ではCube方位の結晶粒の面積率が少なくなっており、Goss方位及びBrass方位の結晶粒の面積率が高くなっている。また、Cube方位の結晶粒は偏析しており、溶着線から離隔した部分において、その面積率が多い部分が存在している。
【0027】
また、上記評価領域におけるGoss方位の結晶粒の面積率の最大値が40%以下、Brass方位の結晶粒の面積率の最大値が40%以下であることが好ましい。これによって、溶着線近傍での組織の均一性がより向上するので、上述のような溶着線近傍での強度低下及びくびれの発生をより効果的に抑制することができる。なお、上述したように、理想的には、Goss方位の結晶粒の面積率及びBrass方位の結晶粒の面積率はゼロであることが好ましい。
【0028】
図3は、本発明の要件を満足する上記評価領域における組織の状態を示す図である。図3から明らかなように、本発明の要件を満足することにより、溶着線近傍におけるCube方位、Goss方位、及びBrass方位の結晶粒が均一に存在するようになることが分かる。したがって、上述のような溶着線近傍での強度低下及びくびれの発生を抑制することができることが分かる。
【0029】
なお、図3でも、Cube方位の結晶粒の部分を灰色で示しており、Brass方位、Goss方位およびその他の方位の結晶粒の部分を白色で示している。
【0030】
ここで、Cube方位は{001}<100>を代表方位とし、Brass方位は{011}<211>を代表方位とし、Goss方位は{011}<100>を代表方位とするものである。
【0031】
本発明の熱間バルジ成形の素材となるポートホール押出による中空押出材は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金である。このAl−Mg−Si系アルミニウム合金の成分組成は特には限定しないが、押出性や製品としての強度を考慮し、次により好ましい成分範囲を例示する。
【0032】
好ましい成分範囲のAl−Mg−Si系アルミニウム合金は、例えば、Mg:0.2〜1.2質量%、Si:0.2〜2.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金である。また、Mg、Si以外の元素の含有は、本発明において支障はなく、AA規格あるいはJIS規格に沿ったレベルでの含有量(許容量)を含みうる。
【0033】
また、上述のような要件を満足するAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材は、例えば、上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金(のビレット)に対し、所定のポートホールダイスを用い、押出温度510℃〜540℃、押出速度15m/min〜30m/minの範囲で押出加工を行うことによって得ることができる。なお、上記温度範囲よりも高温、または上記押出速度よりも高速で押出すると局部融解が生じるおそれがあり、上記温度範囲よりも低温、または上記押出速度よりも低速で押出すると、不均一な集合組織となるおそれがある。
【0034】
但し、上記要件を満足するAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材を得ることができれば、押出方法は上記の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例に基づき説明する。
JIS A6N01合金を用い、全長500mm、外径60mm、肉厚3mmであって、押出温度510〜540℃、押出速度15〜30m/minとなる実施例のポートホール押出材と、比較例として400〜540℃、1〜30m/minポートホール押出材を製造した。各例の押出材の溶着部近傍でのCube方位の面積率の最小値、Cube方位の面積率の最大値と最小値の差、Goss方位の面積率の最大値、Brass方位の面積率の最大値を調査した。
【0036】
Cube方位、Brass方位、Goss方位の結晶粒の面積率測定には、押出管の押出方向に垂直な断面において、SEM−EBSP(Scannin Electron Micoroscopy−Electron Back Scattered Pattern)によって測定、解析した。SEM装置として、日本電子社製SEM(JEOLJSM5310)、EBSP測定・解析システムとしてEBSP:TSL社製(OIM)をそれぞれ用いた。
【0037】
測定に用いる試料は、まず押出管の押出方向に垂直な面で切り出し、マクロ組織観察で溶着部を特定し、その溶着部を含むように試料を切り出して用いた(図4)。マクロ組織観察は、例えば王水(硝酸:塩酸=1:3)を用いて観察面をエッチングして実施した。
【0038】
試料のサイズは、上記SEM装置の試料ホルダーに収容可能な大きさであればよいが、上述した本発明の測定領域を含むような大きさとする。本実施例で試料の大きさは、10mm×10mm×3mmとした。また試料は、SEM−EBSPによる測定可能範囲の中心に溶着部が位置するように試料ホルダー内に設置する。試料は、機械研磨及びバフ研磨を行った後、電解研磨して表面を調整した上で分析に供した。
【0039】
試料の測定条件は、本発明に従い、溶着線を中心にして、TD方向に沿って、両側に2mmであり、ND方向に中空押出材表面から中空押出材の板厚tのt/10〜9t/10の範囲で特定される領域と定めた。該測定領域を2000μm×1500μmの矩形の視野に分割して測定した。前記測定領域内で、該視野を、その一辺がND方向に平行となるとともに、測定漏れがないように隣接する視野同士が上下左右に50μmずつ重なるように移動させながら測定を行った。各視野内の測定点は5μm間隔に設けた。すなわち、前記視野内からは120000点の測定データが採取されることになる。
【0040】
前記測定結果を合わせることで溶着部を含む広範囲の測定領域のCube方位、Brass方位、Goss方位の結晶粒の面積率を評価することが出来る。具体的には、一辺が500μmの正方形の評価領域を考え、該評価領域に含まれる10000点のデータから評価領域毎に各方位の結晶粒の面積率を求めた。該視野内には結晶粒が40個以上含まるようにすることが望ましい。図5に示すように該評価領域の1辺をND方向に平行にし、ND方向、TD方向に50μmずつ移動させながら測定領域内の分析を行う。各評価領域における各方位の面積率の中で最大値、最小値をそれぞれ求め、評価結果とした。
【0041】
また、通常は上記方位を中心に一定角度を持つ方位分散が存在するため、この発明では、上記方位廻りの15°の回転範囲内にある方位を上記方位に含めて評価した。
【0042】
さらに、各例の押出材に対して熱間バルジ成形を行い、それぞれについて表面の性状(肌荒れ等の有無)、及び成形品の最大の板厚減少率を調べた。該板厚減少率は、マイクロメーターを用い成形前後の板厚を測定し、算出した。
【0043】
肌荒れが殆ど無いものを○、ややあるものを△、肌荒れが目立つものを×とした。また、板厚減少率の結果と合わせて総合評価を行った。板厚減少率が小さく、肌荒れのないものを○、板厚減少率が小さくても肌荒れが△あるいは×の場合、総合評価も△あるいは×とした。一方、肌荒れが無くても、板厚減少率が大きいものは総合評価を×とした。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、発明例1〜8では、510〜540℃の押出温度、15〜30m/min の押出速度で押出することでCube方位、Brass方位、Goss方位の結晶粒に関する要件を規定した値の範囲に収めることができ、板厚減少を抑えることができた。
【0046】
比較例1は、Goss方位、Brass方位の結晶粒の面積率が本発明で規定する最大値よりも大きいため板厚減少が大きく、比較例2では、Cube方位の面積率の最小値が本発明で規定する最小値よりも小さく、また、Cube方位の面積率の最大値と最小値の差も本発明で規定する差より大きいため、板厚減少が大きい。
【0047】
比較例3〜5では、Cube方位の面積率の最小値が本発明で規定する最小値よりも小さく、板厚減少が大きい。
【0048】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材の押出方向に垂直な面上で、溶着線中心にして、前記溶着線と垂直な方向の両側に2mm、前記溶着線と平行な方向における前記中空押出材表面から前記中空押出材の板厚tのt/10〜9t/10の範囲で画定される領域から、結晶粒が40個以上含まれる一辺が500μmの正方形の領域を選択した際に、Cube方位の結晶粒の面積率の最小値が10%〜50%であり、Cube方位の結晶粒の面積率の最大値と最小値との差が60%以下であることを特徴とする、熱間バルジ成形性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材。
【請求項2】
前記正方形領域における、Goss方位の結晶粒の面積率の最大値が40%以下、Brass方位の結晶粒の面積率の最大値が40%以下、であることを特徴とする、請求項1に記載の熱間バルジ成形性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材。
【請求項3】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金を510〜540℃の押出温度、15〜30m/minの押出速度でポートホール押出を行うことを特徴とする、熱間バルジ成形性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金のポートホール中空押出材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−20326(P2012−20326A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161482(P2010−161482)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】