説明

熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法および熱延金属帯の製造方法

【課題】熱間圧延ラインにおける仕上圧延機にて金属片(被圧延材)を圧延するに際し、上下ワークロールをクロスさせるような大がかりな機構やアクチュエータを必要とすることなく、簡単に、ロールシフトの動作を速めることのできる、熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法および熱延金属帯の製造方法を提供する。
【解決手段】前の被圧延材の尾端が抜けてから、次の被圧延材の先端が噛み込むまでの時間の間に、ワークロールまたは中間ロールを胴長方向にシフトさせるに際し、該ワークロールまたは中間ロールの周速を一時的に速める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法および熱延金属帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、熱間圧延ラインの一例である。図3中、100は熱間圧延ライン全体を示し、10は加熱炉、12は粗圧延機、18は仕上圧延機であり、加熱炉10内で千数百℃に加熱された厚み150〜300mmの金属片(被圧延材)8は、粗圧延機12により厚み20〜60mmまで延ばされ、仕上圧延機18(F1〜F7の7つの圧延機で構成)により更に薄く延ばされて、0.9〜25mmの厚みの金属板に圧延され、コイラー24にて巻き取られる。
【0003】
これらのほか、9は幅プレス、14はクロップシャー、16はデスケーリング装置、15は仕上入側温度計、21は仕上出側温度計、22は仕上出側板厚計、23はランナウトテーブル、25はコイラー入側温度計、などをそれぞれ示し、50は制御装置、70はプロセスコンピュータ、90はビジネスコンピュータであり、熱間圧延ライン100の全体をコントロールしている。
【0004】
ところで、熱間圧延ライン100には、仕上圧延機18の各スタンド間を除いて、その他の圧延機(スタンド)間には、図示しない多数のテーブルローラ(全部で百以上)が設置されており、被圧延材8を搬送するようになっている。
【0005】
図3の例では、仕上圧延機18を構成するF1〜F7の7つの圧延機のうち、F1〜F4の4つの圧延機が、図4に示すような4重圧延機、F5〜F7の3つの圧延機が、図5に示すような6重圧延機で構成されている。図4、図5とも、(a)がロールシフト(ロールが胴長方向にシフトすること)していない状態、(b)がロールシフトした状態を表す。19はワークロール、19Aは中間ロール、20はバックアップロールである。図4に示した4重圧延機では、ワークロール19が、そして、図5に示した6重圧延機では、中間ロール19Aが、それぞれロールシフトするのがわかる。
【0006】
ロールシフトの動作は、ある被圧延材8を圧延後、次の被圧延材8を圧延するまでの時間(インターバル)の間に、油圧シリンダなどのアクチュエータにより行われている。
【0007】
熱間圧延ライン100の生産能率を上げるには、仕上圧延機18のインターバルを短縮するのが好ましいため、ロールシフトの動作も、可能な限り速く行えるのが好ましい。
【0008】
特許文献1では、図6に示すごとく、被圧延材を圧延中に上下ワークロールをクロスさせ、ロールシフトする方向にロールを押し出そうとする力を発生させて、ロールシフトをしやすくすることを提案している。
【特許文献1】特公昭63−065404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上下ワークロールをクロスさせるためには、図7に示すごとく、大がかりな機構やアクチュエータが別途必要になり、1つの圧延機あたり数億円もの改造費用を必要とし、設備費が嵩む問題がある。
【0010】
本発明は、従来技術のかような問題を解決するべくなされたものであり、熱間圧延ラインにおける仕上圧延機にて金属片(被圧延材)を圧延するに際し、上下ワークロールをクロスさせるような大規模な機構やアクチュエータを必要とすることなく、簡単に、ロールシフトの動作を速めることのできる、熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法および熱延金属帯の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.熱間圧延ラインの仕上圧延機にて、前の被圧延材の尾端が抜けてから、次の被圧延材の先端が噛み込むまでの時間の間に、ワークロールまたは中間ロールを胴長方向にシフトさせるに際し、該ワークロールまたは中間ロールの周速を一時的に速めることを特徴とする熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法。
2.1.の熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法を用いた熱延金属帯の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱間圧延ラインにおける仕上圧延機にて金属片(被圧延材)を圧延するに際し、上下ワークロールをクロスさせるような大がかりな機構やアクチュエータを必要とすることなく、簡単に、ロールシフトの動作を速めることのできる、熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法および熱延金属帯の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一つの実施の形態について、以下、説明する。本実施の形態では、図5に示した6重圧延機を用いた場合を例にとる。
【0014】
前の被圧延材8の尾端が抜けてから、次の被圧延材8の先端が噛み込むまでの時間(インターバル)の間に、中間ロール19Aについて、ロールシフトの動作を行うのに必要な力を測定してみると、880kNであった。これだけの力が必要になる理由は、6重圧延機の一部を拡大して示した図8中、191、191Aで示したバランスシリンダ(ベンダも兼ねる)にて、中間ロール19Aをバックアップロール20に押し付けるような力を付与しているからである。
【0015】
この力は、そもそも、各ロール同士のスリップを防止しつつ、上中間ロール19Aが上バックアップロール20から離れたり、上ワークロール19が上中間ロール19Aから離れて下ワークロール19に乗ったりしてしまって、上下ワークロール19の間隙を所望の値に調整できなくなるような事態を防止し、上ワークロール19、上中間ロール19Aを持ち上げておくのに、原初的に必要なものである。
【0016】
さて、図2は、前の被圧延材8の尾端が抜けてから、次の被圧延材8の先端が噛み込むまでの時間(インターバル)の間に、中間ロール19Aの周速を種々変更したときに、ロールシフトの動作がどれだけになるかを実際に測定してみた結果である。中間ロール19Aの周速を上げると、ロールシフトの動作の速度も上がることがわかる。
【0017】
中間ロール19Aが回転する周方向に対し、ロールシフトの動作の方向はそれと直交する方向である。中間ロール19Aは、その胴長方向全長にわたって、ワークロール19およびバックアップロール20と接触しているため、各ロールの回転が停止した状態では、その接触部分の摩擦力に抗して、中間ロール19Aにロールシフトの動作を行わせることは、非常に大きな力を必要とし、容易ではない。
【0018】
しかしながら、中間ロール19Aを、ワークロール19やバックアップロール20とともに回転させると、微視的に考えてみた場合、接触部分が時々刻々に次々と変わっていくため、そのことに助けられ、中間ロール19Aが回転する周方向に対し、それと直交するロールシフトの動作の方向の摩擦力は軽減され、比較的弱い力でロールシフトの動作を行わせることができる。
【0019】
しかも、そのような軽減された摩擦力に抗してロールシフトの動作によって移動できる移動長は、中間ロール19Aが回転する周方向の移動長に対し正の相関があることは、微視的な理論を構築して証明することは難しいものの、感覚的にはよく理解できる。
【0020】
よって、いずれにせよ、中間ロール19Aの周速を上げると、ロールシフトの動作の速度も上がるのである。
【0021】
本発明は、以上の結果に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、前の被圧延材の尾端が抜けてから、次の被圧延材の先端が噛み込むまでの時間の間に、ワークロールまたは中間ロールを胴長方向にシフトさせるに際し、該ワークロールまたは中間ロールの周速を一時的に速めることを特徴とする。
【実施例】
【0022】
(第1の発明の実施例)
図1は、熱間圧延ライン100の仕上圧延機18のうちのF5を対象とした、本発明の実施例の一例を示したものである。
【0023】
前の被圧延材8の尾端がF5を抜けるまでは、中間ロール19Aの周速は300mpmであったが、前の被圧延材8の尾端がF5を抜けた直後に3.5秒間で700mpmまで加速し、5秒間同700mpmに維持した後、次の被圧延材8の噛み込みに向けて、5秒間で200mpmまで減速している。
【0024】
250mmのロールシフトの動作が10秒で済んでいる。本発明を実施しない従来は13秒かかっていた。3秒の短縮である。
【0025】
ところで、前の被圧延材8の尾端がF5を抜ける前の中間ロール19Aの周速は、300mpmに一義的に決まっているものではなく、前の被圧延材8の仕上圧延後の板厚と搬送速度によって、50mpmないし600mpmの間で変動する。また、次の被圧延材8がF5に噛み込む際の中間ロール19Aの周速は、200mpmに一義的に決まっているものではなく、次の被圧延材8の仕上圧延後の板厚と搬送速度によって、30mpmないし400mpmの間で変動する。
【0026】
これらにあわせ、本発明に従い、中間ロール19Aの周速を一時的に速めるにあたって、中間ロール19Aの周速を一時的にどこまで速めるか、については、400mpmないし1000mpmの間で適宜調整するのが好ましい。
【0027】
400mpm未満にすると、ロールシフトの動作の速度が十分に上がらず、また、1000mpmを越えると、次の被圧延材8の先端が噛み込む際の中間ロール19Aの周速まで減速するのに時間を余分に要し、仕上圧延機18のインターバルを短縮する目的を十分に果たせなくなるからである。
【0028】
例えば、700mpmのような値に一義的に固定してしまうのも一つの方法であるし、前の被圧延材8の尾端が抜けるときの中間ロール19Aの周速や、次の被圧延材8の先端が噛み込む際の中間ロール19Aの周速によって変動するようにしてもよい。
【0029】
なお、以上はF5の例であるが、仕上圧延機19を構成するF1〜F7全ての圧延機で、700mpmのような値に一義的に固定してしまうのも一つの方法であるし、前の被圧延材8の尾端が抜けるときの中間ロール19Aの周速や、次の被圧延材8の先端が噛み込む際の中間ロール19Aの周速は、前の被圧延材8や次の被圧延材8の仕上圧延後の板厚と搬送速度によって変動するため、それらに合わせて変動させるようにしてもよい。
【0030】
なお、以上の説明のように中間ロール19Aの周速を制御するにあたっては、先述の図3に示した制御装置50にて、前の被圧延材8の尾端が抜けたことを、圧延荷重がある一定の値、例えば、5000kNを下回ったことを以て検出し、以降、制御装置50からの指令により、ある一定の加速率である一定の周速まで加速し、ある一定の時間同周速に維持した後、ある一定の減速率で次の被圧延材8の先端が噛み込む際の周速まで減速するように制御するのが最も簡単であるが、これに限るものではない。
【0031】
中間ロール19Aの周速を一時的に速めるにあたって、中間ロール19Aの周速を一時的にどこまで速めるか、については、前の被圧延材8の尾端が抜けるときの中間ロール19Aの周速や、次の被圧延材8の先端が噛み込む際の中間ロール19Aの周速は、前の被圧延材8や次の被圧延材8の仕上圧延後の板厚と搬送速度によって変動するため、それらに合わせて変動させるようにしてもよいことは先にも述べたが、その場合は、ビジネスコンピュータ90から送られてくる各被圧延材8の仕上圧延後の板厚と搬送速度(搬送速度は、前の被圧延材8の尾端が抜けるときと次の被圧延材8の先端が噛み込む際の両方)のデータをもとに、プロセスコンピュータ70内での計算により、どこまで速めるかを決定するのが好ましいが、これに限るものではない。
(第2の発明の実施例)
前記第1の発明の実施例の結果、前の被圧延材の尾端が抜けてから、次の被圧延材の先端が噛み込むまでの時間(インターバル)を3秒縮めることができた。その結果、熱間圧延ライン100の生産能率が、平均して1時間あたり15ton上がり、月間では10000tonの増産効果につながった。
【0032】
以上の通りであるが、本発明は、以上説明した実施の形態や実施例の内容に限られるものではない。例えば、図5に示したような6重圧延機のみならず、図4に示したような4重圧延機のほか、図6に示したような上下ワークロールをクロスさせる圧延機にも適用できる。
【0033】
また、熱間圧延ライン100のみならず、粗圧延機12や仕上圧延機18を構成する圧延機の数などの形式が異なる、別の熱間圧延ラインにも適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一つの実施例について説明するための線図
【図2】本発明の一つの実施の形態について説明するための線図
【図3】本発明を適用して好適な熱間圧延ラインについて説明するための線図
【図4】4重圧延機について説明するための線図
【図5】6重圧延機について説明するための線図
【図6】上下ワークロールをクロスさせる圧延機について説明するための線図
【図7】上下ワークロールをクロスさせる圧延機について説明するための線図
【図8】6重圧延機について説明するための線図
【符号の説明】
【0035】
8 被圧延材
9 幅プレス
10 加熱炉
12 粗圧延機
135 エッジャーロール
14 クロップシャー
15 仕上入側温度計
16 デスケーリング装置
18 仕上圧延機
19 ワークロール
19A 中間ロール
191,191A バランスシリンダ
20 バックアップロール
21 仕上出側温度計
22 仕上出側板厚計
23 ランナウトテーブル
24 コイラー
25 コイラー入側温度計
50 制御装置
70 プロセスコンピュータ
90 ビジネスコンピュータ
100 熱間圧延ライン
A 搬送方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延ラインの仕上圧延機にて、前の被圧延材の尾端が抜けてから、次の被圧延材の先端が噛み込むまでの時間の間に、ワークロールまたは中間ロールを胴長方向にシフトさせるに際し、該ワークロールまたは中間ロールの周速を一時的に速めることを特徴とする熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法。
【請求項2】
請求項1の熱間圧延における仕上圧延機のロールシフト方法を用いた熱延金属帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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