説明

熱間鍛造による据込み加工後の形状予測方法

【課題】 多段熱間鍛造において、据込み加工後の加工形状を予測し、次工程における金型内セット不良による材料のまくれ等による折込みキズ、亀裂等の成形不良を防止する方法を提供する。
【解決手段】 有限要素法を用い、素材の直径Dと、重量Wまたは高さHの一方と、据込み加工後の最大径Dまたは端部径Dの一方とを入力して、据込み加工後の端部径Dまたは最大径Dの一方と、高さHと、素材の端部縁の据込み加工後の端部径Dとを含む据込み加工形状を予測し、次工程における金型内セット不良を防止し、また素材の端部縁Aを熱間鍛造後の製品の重要管理部の外部に位置せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造製品の成形不良を防止するための据込み加工後の形状予測に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多段熱間鍛造の工程設計を行なう際には、前工程で据込み加工された加工形状を予測して、次工程における金型を適切な形状に設計するため、または据込み加工品を金型内に適正にセットするために下記の形状予測式(1)(2)を使用して、圧下量(H−H)から据込み加工後の最大径Dまたは逆に据込み加工後の最大径Dから必要な圧下量(H−H)を予測していた。
=W×(1/D)×(1/γ)×(1/K) ・・・(1)
={(W/H)(1/γ)(1/K)}1/2 ・・・(2)
:据込み加工後の高さ(mm)
:据込み加工後の最大径(mm)
K:形状係数(K=0.00073)
γ:素材比重(γ=7.85)
W:素材重量(g)
【0003】
また、下記の特許文献1には、円柱や6角柱などの基本形状の組み合わせによる3次元形状の認識方法を活用した入力手段と、体積や体積一定の原則に基いて求められる中間工程形状の寸法値および加工率などの熱間鍛造成形の工程設計に必要な技術計算を行なう計算手段と、それら技術計算より求められる値をあらかじめ登録された判断基準値と比較して評価する評価手段と、対話形式で製図を行なう製図手段と、作成された工程レイアウト図面を出力する出力手段からなる圧造機による圧造成形の工程設計支援装置であって、設計者が各工程の形状を入力すると、瞬時に体積および加工率が計算され表示されるとともに、これまでの経験値から求められた判断基準値に基き成形が不可能と判断される場合には警報が出されるものが示されている。
【特許文献1】特開平06−344066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の上記の形状予測計算式(1)(2)では、圧下量(H−H)から据込み加工後の最大径Dまたは逆に据込み加工後の最大径Dから必要な圧下量(H−H)を予測できるのみであり、また上記特許文献1に記載されている工程設計支援装置では、瞬時に体積および加工率が計算され表示されるとともに、これまでの経験値から求められた判断基準値に基き成形が不可能と判断されるが、据込み加工後の形状を正確に予測するものではなく、据込み加工後の端部径が分からず、従って次工程で被加工材を金型内にどのようにセットさせるかを正確に知ることができず、セット状態が悪いと材料まくれ等による折込みキズになるがそれを事前に予測できず、また鍛造前の素材の端部縁に切断キズが存在する場合は、その部分がベアリングレースの転動部等の重要管理部に位置するか否かを事前に予測することができず、実際に試作して見ないと分からないという問題があった。
【0005】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、据込み加工において、所定の加工条件を与え据込み加工後の形状を高精度に予測する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するための第1の発明は、丸棒鋼の熱間鍛造による据込み加工形状を有限要素法により予測する方法であって、素材の直径と、重量または高さの一方と、据込み加工後の最大径または端部径の一方とを入力して、据込み加工後の端部径または最大径の一方と、高さとを含む据込み加工形状の予測方法である。
【0007】
第2の発明は、丸棒鋼の熱間鍛造による据込み加工形状を有限要素法により予測する方法であって、素材の直径と、重量または高さの一方と、据込み加工後の最大径または端部径の一方とを入力して、据込み加工後の端部径または最大径の一方と、高さと、素材の端部縁が据込み加工後に位置する端部径とを含む据込み加工形状の予測方法である。
【0008】
第3の発明は、丸棒鋼の熱間鍛造による据込み加工形状を有限要素法により予測する方法であって、素材の直径と、重量または高さの一方と、据込み加工後の最大径または端部径の一方とを入力して、据込み加工後の端部径または最大径の一方と、高さと、素材の端部縁が据込み加工後に位置する端部径とを含む据込み加工形状を予測し、素材の端部縁を熱間鍛造後の製品の重要管理部の外部に位置せしめる据込み加工方法である。
【0009】
第4の発明は、第3の発明において、前記重要管理部がベアリングレースの転動部であることを特徴とする据込み加工方法である。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明は、丸棒鋼の熱間鍛造による据込み加工形状を有限要素法により予測する方法であって、素材の直径と、重量または高さの一方と、据込み加工後の最大径または端部径の一方とを入力して、据込み加工後の端部径または最大径の一方と、高さとを含む据込み加工形状の予測方法であり、第2の発明はさらに素材の端部縁が据込み加工後に位置する端部径を含む据込み加工形状の予測方法であるから、次工程における金型セット時に特に重要な端部径および素材の端部縁が据込み加工後に位置する端部径を精度良く予測でき材料のまくれ等の折込みキズ、亀裂等の成形不良を防止できるという効果がある。
【0011】
第3の発明は、丸棒鋼の熱間鍛造による据込み加工形状を有限要素法により予測する方法であって、素材の直径と、重量または高さの一方と、据込み加工後の最大径または端部径の一方とを入力して、据込み加工後の端部径または最大径の一方と、高さと、素材の端部縁が据込み加工後に位置する端部径とを含む据込み加工形状を予測し、素材の端部縁を熱間鍛造後の製品の重要管理部の外部に位置せしめる据込み加工方法であり、第4の発明は、第3の発明において、前記重要管理部がベアリングレースの転動部であることを特徴とする据込み加工方法であるから、素材の切断時の切断キズ等の発生することのある素材の端部縁をベアリングレースの転動面などの重要管理部から外すことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る素材と据込み成形品の断面図であり、(イ)は素材の断面図、(ロ)は据込み成形品の断面図である。
【0014】
図1(イ)(ロ)においてDは素材の直径、Hは素材の高さ(切断長)を表し、D、D、H、Dはそれぞれ据込み加工後の最大径、端部径、高さおよび素材の端部縁(A点)が据込み成形後に位置する端部径を表している。
【0015】
素材を軸受け鋼SUJ2とし、直径Dを30〜46mm、高さHを直径比(H/D)で表し、0.8〜1.3、圧下率(据込み量/素材高=((H−H)/H)を20〜80%の範囲において、有限要素法によるCAE解析を行ない圧下率10%毎の据込み加工形状についてデータベースを作る。解析ソフトとして汎用有限要素法解析ソフトMARCを使用した。
【0016】
本解析に使用する応力とひずみの関係は、φ6×9mmの棒状の試験片の高さ方向中心外表面に熱電対を溶接し、熱間加工性試験機(装置名:サーメックマスターZ、富士電波工機株式会社製)の試料台に載せ、チャンバー内を真空にし、試験片を1000〜1100℃に誘導加熱し、設定した所定のひずみ速度で圧下してパンチの位置によってひずみを算出し、レーザ変位計で試験片の直径を逐次測定しパンチの荷重と試験片の直径から求められる断面積により、実応力を求め応力−ひずみのグラフとした。また解析に用いる摩擦係数μは実機のメタルフローを見ながら定めた。
【0017】
表1は本実施の形態においてデータベースを作成した素材の直径と高さの関係を一覧表にしたものであり、直径×高さが最小の30×24mmから46×59.8mmまで30個を示している。表2は表1に示した素材を圧下率40%で据込んだときの、高さ比(H/D)、端部径D、最大径D、表面R(R)、端部径(D対応)Dを一覧表にしたものであり、表3、表4は、表1と同一素材について、圧下率をそれぞれ50%、80%にしたときの高さ比(H/D)、端部径D、最大径D、表面R(R)、端部径(D対応)Dを一欄表にしたものであり、本実施の形態において作成したデータベースである圧下率20〜80%のうちの一部を示したものである。
【0018】
1例として、表1の素材径Dが30mm、素材高33mm(高さ比(H/D)=1.1)の素材を圧下率40%で据込み加工すると、表2の高さ比(H/D)=1.1、D=30mmの欄から据込み加工後の高さは19.8mm、端部径Dは35.2mm、最大径Dは40.1mm、表面R(R)は21.2mm、端部径(D対応)Dは32.4mmであることが読み取れる。表に記載されていない寸法の素材を据え込む場合には、内挿または外挿法によって求めることもできるし、または上記CAE解析によって直接求めることもできる。
【0019】
図2は据込み加工の圧下率に対する据込み加工後の最大径D、端部径D、端部径(D対応)D、表面R(R)のそれぞれの関係を素材径Dと高さHが同じく38mmの場合(H/D=1)について示したものである。圧下率が大きくなると最大径D、端部径D、端部径(D対応)Dは急激に大きくなり、逆に表面R(R)は急激に小さくなっていることが分かる。
【0020】
図3は素材径Dに対する据込み加工後の最大径D、端部径D、端部径(D対応)D、表面R(R)のそれぞれの関係を素材径Dと高さHが同じ(H/D=1)で、圧下率50%の場合についてグラフ表示したものである。
【0021】
素材径Dが大きくなればそれにつれて最大径D、端部径D、端部径(D対応)D、表面R(R)のいずれも大きくなっていることが分かる。
【0022】
図4は素材の高さ比(H/D)比に対する据込み加工後の最大径D、端部径D、端部径(D対応)D、表面R(R)の関係を素材径Dが38mmで圧下率が50%の場合についてグラフ表示したものである。
【0023】
高さ比(H/D)が変動しても、最大径D、端部径D、端部径(D対応)Dは殆ど変化がないが、高さ比(H/D)が大きくなると表面R(R)はその分大きくなっていることが分かる。
【実施例1】
【0024】
素材をSUJ2とし、実施の形態で説明した汎用有限要素法の解析ソフト、ひずみと応力の関係グラフ、摩擦係数μ=0.3を使用し、直径Dの30mm、重量Wの205g、据込み加工後の最大径Dの62mmを入力データとして入力し、据込み加工後の端部径Dが54.73mm、高さHが9.79mm、表面R(R)が5.87mm、端部径(D対応)Dが41.24mmの予測形状を得た。一方、実機による据込み加工品の実測値は、端部径Dが54.1mm、高さHが、9.7mm、表面R(R)が5.91mm、端部径(D対応)Dが41.5mmであり、計算値と実機による実測値との差は1%以下であった。なお、素材の高さHの計算値は37.04mm、実測値は37.1mmであった。
【0025】
実施例1の上記素材および据込み加工後の代表寸法を下記の実施例2、3の数値と対比して表5に示した。
【実施例2】
【0026】
素材をSUJ2とし、実施例1と同じく、実施の形態で説明した汎用有限要素法の解析ソフト、ひずみと応力の関係グラフ、摩擦係数μ=0.3を使用し、直径Dの40mm、重量Wの475g、据込み加工後の端部径Dの48mmを入力データとして入力し、据込み加工後の最大径Dが55.26mm、高さHが27.37mm、表面R(R)が30.01mm、端部径(D対応)Dが43.69mmの予測形状を得た。一方、実機による据込み加工品の実測値は、最大径Dが55.1mm、端部径47.9mm、高さHが27.2mm、表面R(R)が30.5mm、端部径(D対応)Dが44.3mmであり、計算値と実機による実測値との差は2%以下であった。なお、素材の高さHの計算値は48.28mm、実測値は48.3mmであった。
【実施例3】
【0027】
素材をSUJ2とし、実施例1と同じく、実施の形態で説明した汎用有限要素法の解析ソフト、ひずみと応力の関係グラフ、摩擦係数μ=0.3を使用し、直径Dの45mm、重量Wの523g、据込み加工後の最大径Dの69mmを入力データとして入力し、据込み加工後の端部径Dが61.49mm、高さHが18.97mm、表面R(R)が14.01mm、端部径(D対応)Dが53.47mmの予測形状を得た。一方、実機による据込み加工品の実測は、端部径Dが62.2mm、高さHが19.1mm、表面R(R)14.1mm、端部径(D対応)Dが54.0mmであり、計算値と実機による実測値との差は2%以下であった。なお、素材の高さHの計算値は42.0mm、実測値は42.0mmであった。
【0028】
また、本実施例に係るベアリングレースの親子鍛造おいて、端部径(D対応)Dが53.47mmであると次工程で内輪転動部に素材の端部縁(A部)が位置することが判明し、素材端部縁(A部)を内輪転動部から排除することができた。
【0029】
なお、製品の仕様は、重量で提示されるのが一般的であり、各工程の成形品も重量で管理されることから、上記実施例1〜3において、入力データに素材の重量Wを用いたが、素材の直径が定まれば、重量を指定することは高さ(切断長)を指定することに他ならないから入力データの重量Wを高さHに置換えることできるのは自明である。表5において、素材の高を参考値として()で示している。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る素材と据込み加工後の成形品の断面図であり、(イ)は素材、(ロ)は据込み品の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る、高さ比(H/D)=1、直径=高=38mmとした場合の圧下率に対する据込み加工後の主要寸法の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態に係る、高さ比(H/D)=1、圧下率50%とした場合の素材径Dに対する据込み加工後の主要寸法の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態に係る、素材径D=38mm、圧下率50%とした場合の高さ比(H/D)に対する据込み加工後の主要寸法の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
10・・・鍛造素材
20・・・加工形状(据込み加工後)
・・・素材高(切断長)
・・・素材径
・・・高さ(据込み加工後)
・・・最大径(据込み加工後)
・・・端部径(据込み加工後)
・・・端部径(D対応)
・・・表面R(据込み加工後)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸棒鋼の熱間鍛造による据込み加工形状を有限要素法により予測する方法であって、素材の直径と、重量または高さの一方と、据込み加工後の最大径または端部径の一方とを入力して、据込み加工後の端部径または最大径の一方と、高さとを含む据込み加工形状の予測方法。
【請求項2】
丸棒鋼の熱間鍛造による据込み加工形状を有限要素法により予測する方法であって、素材の直径と、重量または高さの一方と、据込み加工後の最大径または端部径の一方とを入力して、据込み加工後の端部径または最大径の一方と、高さと、素材の端部縁が据込み加工後に位置する端部径とを含む据込み加工形状の予測方法。
【請求項3】
丸棒鋼の熱間鍛造による据込み加工形状を有限要素法により予測する方法であって、素材の直径と、重量または高さの一方と、据込み加工後の最大径または端部径の一方とを入力して、据込み加工後の端部径または最大径の一方と、高さと、素材の端部縁が据込み加工後に位置する端部径とを含む据込み加工形状を予測し、素材の端部縁を熱間鍛造後の製品の重要管理部の外部に位置せしめる据込み加工方法。
【請求項4】
前記重要管理部が、ベアリングレースの転動部であることを特徴とする請求項3に記載の据込み加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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