説明

熱電変換素子の製造方法

【課題】微小で複雑形状のケイ化鉄系の熱電変換素子をも低コストで製造することができる製造工程を提供する。
【解決手段】ケイ化鉄の粉末をカチオン系高分子界面活性剤分散剤を用いて固体体積割合が50%以上になるように水に分散させたスラリーを作製し、このスラリーを、熱電変換素子成形用の所定形状に加工された型に流し入れて脱水成形し、然る後に、焼結と焼鈍を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は廃熱発電等に用いる熱電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ化鉄(β-FeSi2)は高い熱電変換特性を持ち、地殻上に豊富に存在する元素から作られることから、廃熱発電用の熱電変換素子を構成する物質として広く用いられている。しかし、従来のケイ化鉄系熱電変換素子は、粉末を金型で加圧成形した成形体を焼結および焼鈍するという手法で製造されていたため、その素子形状は単純なものであった。そのため、光学部品の精密温度制御などに使用する目的で微小で複雑形状のケイ化鉄系熱電変換素子を必要とする場合には、上記手法により製造された単純形状のケイ化鉄系熱電変換素子を要望に応じた微小で複雑形状に加工しなければならなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平8−78734号公報
【特許文献2】特開平9−116199号公報
【非特許文献1】金属材料研究所研究報告,第8巻第4号,p.35−54
【非特許文献2】Materials and Design,vol.20,p.223−228(1999)
【非特許文献3】Materials Science and Engineering A,vol.307,p.129−133(2001)
【非特許文献4】日本セラミックス協会学術論文誌,vol.109,p.71−73(2001)
【非特許文献5】日本セラミックス協会学術論文誌,vol.109,p.265−269(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、微小で複雑形状のケイ化鉄系熱電変換素子を必要とする場合には焼鈍後に加工が必要であり、その加工は煩雑であったために加工コストが高かった。
【0005】
そこで、そのケイ化鉄系熱電変換素子の加工コストを抑えるために、成形の時点で最終製品に近い形状に原料粉末を成形し、それを焼結および焼鈍することが考えられており、そのための技術の確立の必要性が認識されている。
【0006】
微小で複雑形状のケイ化鉄系熱電変換素子を得るための粉末成形の技術を確立するためには、古くから陶磁器産業で用いられてきた、泥漿鋳込み成形等の湿式成形の技術を転用することが考えられる。しかしながら、熱電変換素子の原料は、陶磁器で用いられる酸化物とは異なり、ケイ化物やテルル化物であるために、上記陶磁器産業で用いられてきた湿式成形の技術をそのまま転用することはできず、熱電変換素子に特化した湿式成形の技術の検討が別途必要になる。
【0007】
熱電変換素子の湿式成形に関しては、ケイ化コバルトに関し、非特許文献1(西田勲夫ら、「サーモエレメントの製造方法」(金属材料研究所研究報告、第8巻第4号、p.35−54))が、また、テルル化物に関しては、特許文献1(特開平8−78734号公報)、特許文献2(特開平9−116199号公報)が、さらに、ケイ化鉄熱電変換材料に関しては、非特許文献2(Materials and Design,vol.20,p.223−228(1999))、非特許文献3(Materials Science and Engineering A,vol.307,p.129−133(2001))、非特許文献4(日本セラミックス協会学術論文誌,vol.109,p.71−73(2001))、非特許文献5(日本セラミックス協会学術論文誌,vol.109,p.265−269(2001))の報告がある。しかし、これらの報告では、成形に用いるスラリー(固体粉末を液体に分散させたもの)中の固体体積割合が40%程度であるか又は明記されていない。
【0008】
一般に、湿式成形を行うにあたっては、スラリー中の固体体積割合を50%以上にしないと、成形体の密度が低いままに留まるか、もしくは成形時の乾燥収縮と変形が大きくなるために、実用には適さない。そこで、湿式成形を行うために原料のスラリーを得る場合、スラリー中の固体体積割合を50%以上にするために、対象物(成形の原料)を通常3μm以下の微粉末に粉砕する。なおかつ粒子同士の凝集を防ぐために、適当な分散剤を粉末粒子に吸着させる手立てを講じなくてはならない。
【0009】
その際に、分散剤と、成形の原料粉末との化学的相互作用の程度が、原料粒子の分散に直接影響を及ぼすので、使用する分散剤は原料粉末の種類に応じて適切に選択しなくてはならないが、実用的な熱電変換素子を製造することができるスラリーを得るためのケイ化鉄に適宜な分散剤は未だ報告されていない。
【0010】
そこで、この発明では、ケイ化鉄の固体体積割合が50%以上のスラリーを作製して実用的な熱電変換素子を製造することができて低コストのケイ化鉄系の熱電変換素子を得ることができる熱電変換素子の製造方法を提供することを目的している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、ケイ化鉄の粉末をカチオン系高分子界面活性剤分散剤を用いて固体体積割合が50%以上になるように水に分散させたスラリーを作製し、このスラリーを、熱電変換素子成形用の所定形状に加工された型に流し入れて脱水成形し、然る後に、焼結と焼鈍を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ケイ化鉄の粉末に、当該ケイ化鉄の粉末の粒子同士の凝集を回避するための分散剤としてカチオン系高分子界面活性剤を混合させてスラリーを作製するので、ケイ化鉄の固体体積割合が50%以上のスラリーであってもケイ化鉄の粒子が良好に分散したスラリーを得ることができる。このため、そのケイ化鉄の固体体積割合が50%以上のスラリーを用いた湿式成形によって、実用的な熱電変換素子を得ることができる。また、本発明では、ケイ化鉄粉末をスラリー化し、当該スラリーを熱電変換素子成形用の型に流し込んで成形するので、製造対象の熱電変換素子が微小で複雑形状を持つものであっても当該微小でしかも複雑形状の熱電変換素子の成形体を容易に得ることができることとなる。このため、その成形体を焼結・焼鈍するだけで、焼鈍後の切断や研磨等の加工を行うことなく、あるいは、ごく僅かな加工だけで、微小で複雑形状の熱電変換素子を得ることができるようになる。これにより、焼鈍後の加工に要するコストを削減することができるので、熱電変換素子の製造コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、この発明に係る実施形態例を説明する。
【0014】
この実施形態例における熱電変換素子の製造工程は次の4つの工程1〜4を有し、これを要約すると、熱電変換素子の原料であるケイ化鉄をスラリー化し、これを焼結・焼鈍を行うことを特徴としている。
工程1.ケイ化鉄(必要に応じて、熱電特性等の特性を制御するための物質をドーピングしたもの)をその平均粒径が直径3μm以下の粉末になるまで粉砕する工程
工程2.上記工程により得られたケイ化鉄の粉末に分散剤であるカチオン系高分子界面活性剤を加えたものを水に分散して、スラリーを作る工程
工程3.上記スラリーを熱電変換素子成形用の所望の形状の型に流し込んで脱水固化して成形体を得る成形工程
工程4.上記工程により得られた成形体を焼結および焼鈍する工程
【0015】
以下では、上記各工程での詳細について説明する。
【0016】
まず、ケイ化鉄(必要に応じて、例えばコバルトやマンガンのような熱電特性を制御するためのドーパントが添加される)を粉砕して平均直径3μm以下の粉末にする。この場合、粉末の直径が3μmよりも大きいと、次の工程で粉末を水に分散させようとする場合に、良好な分散が起こらなくなってしまう。
【0017】
その後、上記の粉末を水に分散させてスラリーを作り出す。このとき、成形時の寸法精度を高めるためには、粉末の濃度が高いほど好都合であり、ここでは、水50体積部に対して粉末50体積部以上になるようにする。しかし、そのように粉末の体積割合が高くなると、粉末粒子同士の接触の機会が増えるために粒子同士が凝集しやすくなる。粒子同士の凝集を避けるために、粉末100重量部に対して0.1乃至3重量部の分散剤を添加する。
【0018】
分散剤は、粉末の表面に吸着し、なおかつ水の電離に伴って電荷をもつようになり、これにより、粉末粒子同士の直接の接触を妨げて、粒子同士の凝集を防止するためのものである。
【0019】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ケイ化鉄粉末の場合には、分散剤として、カチオン系高分子界面活性剤が有効であることを見出した。
【0020】
上記のようにして作られたスラリーを、熱電変換素子成形用の所望形状の型に流し込む。このときの型は、石膏のような吸水性のある多孔質型でもよいし、プラスチックのような吸水性のない型でもよい。スラリーを型に流し込んでから適当な時間(つまり、熱電変換素子の成形に必要な適宜な時間)放置すると、型による吸水もしくは蒸発によってスラリー中の水が取り除かれ、粉末同士が接触して脱水固化がおこる。
【0021】
このとき、固化体(成形体)の強度を高めるための適当なバインダーを使用してもよい。
【0022】
上記のようにして得られた成形体は、然る後に、焼結・焼鈍される。その焼結・焼鈍工程では、例えば、上記成形体を1150℃〜1250℃の温度で2〜24時間程度焼結し、その後、熱電変換特性が最も高い結晶相に変換させるために、750℃〜850℃で24〜240時間焼鈍する。
【0023】
上記のような製造工程を経て、ケイ化鉄系の熱電変換素子を得ることができる。このような製造工程でもってケイ化鉄系の熱電変換素子を製造することにより、焼鈍後の形状と寸法を予測して型を設計することによって、焼鈍後に切断や研磨等の加工をする必要が全くないか、あるいはごくわずかな加工で、所望形状のケイ化鉄系の熱電変換素子を得ることができる。
【0024】
次に、この発明に係る、より詳細な実施例を説明する。
【実施例1】
【0025】
まず、Fe0.9Mn0.1Si2の組成を持つケイ化鉄のインゴットを粉砕して平均粒径約1.0μmの微粉末を作製した。この微粉末49.49gと、分散剤としてのサンノプコ製SNディスパーサント7347C(カチオン系高分子界面活性剤)0.742gと、水10.0mLとを混合し、ボールミルで24時間混合してスラリーを作製した。得られたスラリーは、水50体積部とケイ化鉄50体積部を含むものであった。このスラリーを2.0cm×5.0mm×1.0mmの大きさのポリテトラフロロエチレン製の型に流し込み、一昼夜自然乾燥させて固化させた。
【0026】
固化した成形体を、アルゴン雰囲気の電気炉内で、1200℃で2時間焼結し、その後、800℃で24時間焼鈍した。焼鈍後の試料は若干の焼結収縮をしたものの、固化体と相似形を保っていた。
【実施例2】
【0027】
この実施例2では、ケイ化鉄の粉末に混合する分散剤が実施例1と異なる以外は実施例1と同様である。つまり、この実施例2では、実施例1と同様に作製したケイ化鉄の粉末49.49gと、分散剤としてのポリエチレンイミド0.742gと、水10.0mLとを混合し、ボールミルで24時間混合してスラリーを作製し、これを実施例1と同様にして成形・焼結・焼鈍した。
【0028】
(比較例1)
比較のために、実施例1,2と同様に作製したケイ化鉄の粉末を直径20mmの金型に入れて、2000kg/cmの圧力で一軸加圧成形して成形体を作製し、この成形体を実施例1,2と同様の焼結・焼鈍の処理を行った。その後、ダイヤモンドカッターを用いて、直方体の熱電変換素子を切り出した。
【0029】
実施例1,2および比較例1に示したそれぞれの製造手法でもって製造された各熱電変換素子(サンプルA,B,C)にそれぞれ熱電特性測定用の電極端子を取り付け、大気中において、室温から800℃までの範囲内における熱起電力と電気伝導度を測定すると共に、出力因子を求めた。その結果が図1〜図3のグラフに示されている。つまり、図1に熱起電力の温度変化の測定結果を示し、図2に電気伝導度の温度変化の測定結果を示し、図3に出力因子の温度変化の実験結果を示す。それら図1〜図3中において、▲および実線Aが実施例1におけるサンプルAに関するものであり、◆および実線Bが実施例2におけるサンプルBに関するものであり、◇および実線Cが比較例1におけるサンプルCに関するものである。図1〜図3のグラフに示される実験結果によれば、サンプルA,B(実施例1,2における熱電変換素子)は、いずれもサンプルC(比較例1における熱電変換素子)よりも高い熱起電力を示し、また、電気伝導度はサンプルCよりも若干低いものの、結果的に出力因子はサンプルCよりも高くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る実施例に示した製造手法でもって作製された試料(サンプルA,B)と、それと比較するために従来の製造手法でもって作製された試料(サンプルC)との、本発明者の実験により得られた熱電起電力の温度特性を表したグラフである。
【図2】上記サンプルA,B,Cの、本発明者の実験により得られた電気伝導度の温度特性を表したグラフである。
【図3】上記サンプルA,B,Cの、本発明者の実験により得られた出力因子の温度特性を表したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ化鉄の粉末をカチオン系高分子界面活性剤分散剤を用いて固体体積割合が50%以上になるように水に分散させたスラリーを作製し、このスラリーを、熱電変換素子成形用の所定形状に加工された型に流し入れて脱水成形し、然る後に、焼結と焼鈍を行うことを特徴とする熱電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−176945(P2009−176945A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13922(P2008−13922)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:平成19年度日本セラミックス協会 東北北海道支部研究発表会 第27回基礎科学部会東北北海道地区懇話会 主催者名:日本セラミックス協会 東北北海道支部・同基礎科学部会 開催日:平成19年11月1日(木)・2日(金)
【出願人】(391025730)岡野電線株式会社 (55)
【Fターム(参考)】