説明

熱電変換素子包装体

【課題】熱電変換材料を長期にわたって安定的に用いることを可能とするため、耐湿度性や耐酸素性を有し、空気中の水蒸気や酸素から保護するための包材で保護した熱電変換素子包装体の提供をする。
【解決手段】p型熱電変換材料1、n型熱電変換材料2、めっき部3、加熱部4、冷却部5とを少なくとも備える熱電変換素子を、少なくとも外層、バリア層、ヒートシール層をこの順に積層してなる積層フィルムであって、該バリア層はアルミ箔、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−ビニルアルコール共重合体から選ばれるいずれか一つからなる積層フィルム6を用いて、前記ヒートシール層を前記熱電変換素子側にして包装することを特徴とする熱電変換素子包装体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子を長期間維持させる為の包材、及び、この包材により保護した熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱を電気に変換させるゼーベック効果と呼ばれる技術が知られている。これは、工場、発電所、自動車、パソコンなどの廃熱を利用することが可能であり、COの排出もなく、クリーンなエネルギーとして近年注目されている。
【0003】
高い熱電変換効率を示す物質として、p型熱電材料であるNaCoO(非特許文献1参照)やSrTiO(非特許文献2参照)などの酸化物、n型熱電材料であるBi−Te系などの金属などが知られている。これらを交互に組み合わせることで、図1に示すような熱電変換素子が知られている。このように、熱電材料の両端に温度差を付けることにより、電子移動が生じ、発電される。
【0004】
特に、Bi−Te系の材料は低温での発電が可能であり、常温付近で発電することが容易に出来るため、実用化もされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】I.Terasaki,Y.Sasago and K.Uchinokura,Phys.Rev.B,56.R12685(1997)
【非特許文献2】S.Ohta,H.Ohta and K.Koumoto,J.Ceramics,Soc.Jpn,114,102(2006)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3278140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した熱電変換効率を示す物質は耐湿度性、耐酸素性に乏しいため、空気中で使用することで、熱電変換効率が下がることが知られている。そのため、特殊な環境下である宇宙などでしか用いられていない。
【0008】
NaCoOでは、結晶構造中のCoO平面の層内に存在するNaイオンの拡散が良いことで、高い電気伝導性が示される。この層内に水が吸着しやすく、Naイオンの電気伝導性を阻害する可能性がある。また、層内に酸素が入ることで、結晶構造中の酸素数が変化し、キャリア数が低下する。
【0009】
金属化合物であるBiTeでは、表面に酸化皮膜が形成されることでの、電気伝導性の劣化が生じる。また、酸素と反応をすることでキャリア数が低下する為、熱電変換効率が低下する。
【0010】
以上のような理由から、本発明は熱電変換材料を長期にわたって安定的に用いることを可能とするため、耐湿度性や耐酸素性を有し、空気中の水蒸気や酸素から保護するための包材で保護した熱電変換素子包装体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、
p型熱電変換材料と、n型熱電変換材料と、
一対の前記p型熱電変換材料およびn型熱電変換材料に電気的に接続するめっき部と、
p型熱電変換材料およびn型熱電変換材料の一端が前記めっき部を介して接続される加熱部と、
p型熱電変換材料およびn型熱電変換材料の他の一端が前記めっき部を介して接続される冷却部とを少なくとも備える熱電変換素子を、
少なくとも外層、バリア層、ヒートシール層をこの順に積層してなる積層フィルムであって、該バリア層はアルミ箔、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−ビニルアルコール共重合体から選ばれるいずれか一つからなる積層フィルムを用いて、
前記ヒートシール層を前記熱電変換素子側にして包装することを特徴とする熱電変換素子包装体である。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記外層と前記バリア層との間にラミネート層を備えることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子包装体である。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記バリア層と前記ヒートシール層との間にバリア層保護層を設けることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子包装体である。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、1または複数の前記積層フィルムのヒートシール層同士を熱溶着して前記熱電変換素子を包装することを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子包装体である。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記積層フィルムを用いて前記熱電変換素子を包装する際、熱電変換素子包装体内部を不活性ガスで置換することを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子包装体である。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、前記熱電変換素子包装体は、前記熱電変換素子全体を前記積層フィルムを用いて熱収縮させたスキンパック包装であることを特徴とすることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱電変換素子包装体である。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、前記熱電変換素子包装体は、前記熱電変換素子全体を深絞り加工を施した前記積層フィルムで包装していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱電変換素子包装体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱電変換素子包装体は、空気中の水蒸気や酸素から保護するための包材で熱電変換材料を保護することにより、熱電変換材料の劣化を抑え、長期にわたって安定的に用いることを可能とするものである。熱電変換材料が直接外気と接しない為、宇宙などの特殊環境下以外での熱電変換素子の使用が可能となる。また、雨などの天候に変動されることがなく、熱電変換素子を屋外で使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】熱電変換素子の一例を示す模式図
【図2】本発明の熱電変換素子包装体における積層フィルムの層構成の一例を示す模式図
【図3】本発明の熱電変換素子包装体における積層フィルムの層構成の一例を示す模式図
【図4】本発明の熱電変換素子包装体の一例を示す図
【図5】本発明の熱電変換素子包装体の一例を示す図
【図6】本発明の熱電変換素子包装体の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に示す例は好ましい実施形態の一例であって、本発明は以下に示す例に限定されるものではない。
図1は、熱電変換素子の一例を示す模式図である。p型熱電変換材料1と、n型熱電変換材料2と、一対のp型熱電変換材料およびn型熱電変換材料に電気的に接続するめっき部3と、p型熱電変換材料およびn型熱電変換材料の一端がめっき部を介して接続される加熱部4と、p型熱電変換材料およびn型熱電変換材料の他の一端がめっき部を介して接続される冷却部5とを少なくとも備える熱電変換素子である。p型熱電変換材料1と、n型熱電変換材料2とは、一対でも、また複数を交互に組み合わせることも可能であり、公知の熱電変換素子を用いることができる。
【0021】
熱電変換素子を包装する積層フィルムは、少なくとも外層、バリア層、ヒートシール層をこの順に積層してなる。また、外層とバリア層との間にラミネート層を設けてもよく、またバリア層とヒートシール層との間にバリア層を保護するためのバリア層保護層を設けてもよい。図2および図3には、外層/ラミネート層/バリア層/バリア層保護層/ヒートシール層の順に積層された積層フィルムの一例の積層構成を示す。
【0022】
外層にはバリア層のピンホールを防ぐ為に、延伸ポリプロピレン(OPP)を用いる。厚みが約20μmのポリプロピレンを用いることにより、積層フィルムに柔軟性を持たせることが可能となる。また、図6に示す、熱収縮を用いて熱電変換素子を保護する形態では、外層に用いる延伸ナイロン(ONY)に塩化ビニリデンをコーティングされているものが望ましい。
【0023】
ラミネート層にはポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを用いる。これは、ポリエチレンテレフタラートフィルムは、フィルム特性として、ナイロンフィルムやポリエチレンフィルムに比較し、耐摩擦係数が優れ、耐ピンホール性に優れる特性を有しているため、製造ラインにおけるフィルムとの摩擦によるピンホールの発生を抑えることができる。
【0024】
バリア層にはアルミ箔を用いることで、酸素および水蒸気を透過させない積層フィルムとすることができる。例えば、図4に示すような、2枚の積層フィルムを真空にしながら熱溶着させ熱電変換素子を保護する形態では、外層/ラミネート層/バリア層/バリア層保護層/ヒートシール層の5層構成の積層フィルムの場合、アルミ箔の厚みは7μm程度の厚みでよい。
【0025】
また、図6に示すような、深絞り加工をして熱電変換素子を保護する形態では、バリア層のアルミ箔の厚みを50μm以上にし、クラックによる影響をなくすことが望ましい。
【0026】
また、図5に示すような、熱収縮を用いて熱電変換素子を保護する形態では、バリア層にはエチレンビニル共重合体(EVOH)を用い、さらに、外層に用いる延伸ナイロン(ONY)に塩化ビニリデンをコーティングされていることが望ましい。
【0027】
またバリア層には、耐酸素性や耐水蒸気性に優れており、かつ、低コストである、ポリ塩化ビニリデンを用いることも可能である。
【0028】
バリア層保護層には延伸ナイロンを用いる。これにより、バリア層のアルミ箔を保護し、柔軟性かつ腰を持たせることで、積層フィルムに立体保持性を持たせることができる。例えば、厚み約15μmの延伸ナイロン(ONY)を用いる。
【0029】
ヒートシール層にはポリオレフィン系であるポリプロピレン(PP)や低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることができ、適宜選択することができる。ポロプロピレンは、低密度ポリエチレンよりも融点が高いという特徴がある。ポリプロピレンの融点は150℃程度であるのに対し、低密度ポリエチレンは120℃程度である。また、ポリプロピレンはバリア性にも優れており、測定条件 酸素透過度:20℃ 80%RH、透湿度:40℃ 90%RHで、PP(20μ) 酸素透過度 1700(CC/m・atm・day),透湿度 9(g/m・day)、LLDPE(20μ) 酸素透過度 7500(CC/m・atm・day),透湿度 25(g/m・day)である。シーラント部分のエッジから空気の進入を防ぐため、ポリプロピレンの方がより好ましい。一方、直鎖型低密度ポリエチレンの方がポリプロピレンよりも柔軟性に優れるため、図5に示すようなスキンパックタイプの包装体とする場合は低密度ポリエチレンを用いる。
【0030】
図5には熱電変換素子の包装体の一例として、熱電変換素子全体を積層フィルム2枚で熱収縮させながら減圧を行うことによって、熱電変換素子全体に密着した形状にしたスキンパック包装の包装体を示す。このときの積層構成として、外層/バリア層/ヒートシール層とし、それぞれ、ポリ塩化ビニリデンを表面にコーティングさせた延伸ナイロン(K−ONY)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)又は、ポリ塩化ビニリデン/低密度ポリエチレン(LLDPE)が挙げられる。
スキンパック包装の包装体は、熱電変換素子全体に積層フィルム2枚を熱収縮させた後、2枚の積層フィルム同士を周囲3箇所で熱溶着させる。その後、残りの開いている1箇所から包装体内を脱気しながら、水分を含まない不活性ガス(窒素、アルゴン)で置換し、この積層フィルム2枚を熱溶着することにより得られる。図5に示す熱電変換素子包装体とすることにより、熱電変換材料が酸素や水蒸気と反応することを防ぐことが可能となる。
【0031】
図6には熱電変換素子包装体の一例として、熱電変換素子全体を深絞り加工を施した積層フィルムで包装した熱電変換素子包装体を示す。2種類2枚の積層フィルムのフタと容器から構成され、そのときの積層フィルムの層構成の例としては、フタ材が外層/バリア層/バリア保護層/ヒートシール層とし、それぞれPET/Al/ONY/PPとなるようにする。このとき、バリア層にあるAlの厚みは50μm以上とし、深絞りでのクラックが生じないようにする。容器材としては、外層/バリア層/ヒートシール層とし、それぞれPP/Al/PPとなるようにする。これは、容器材のみ事前に金型を用いて射出成型を行い、熱電変換素子とほぼ同じ形状になるようにする。そのPPの部分とフタ材のPPの部分を熱溶着させながら、包装体内を、脱気及び、水分を含まない不活性ガス(窒素、アルゴン)で置換させ、この積層フィルム2枚を熱溶着させることによって、熱電変換材料が酸素や水蒸気と反応することを防ぐことが可能となる。
【0032】
以上のように、本発明の熱電変換素子包装体に用いる積層フィルムは、耐ピンホール性に非常に優れているため熱電変換素子の外被材に適しており、包装される熱電変換素子が長期、安定的に発電することを可能とする。そのため、本発明の熱電変換素子包装体は、パソコンや冷蔵庫、テレビ、ビデオ等の家電や、半導体製造装置等、発電所、ごみ焼却場等、様々な環境に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1・・・p型熱電変換材料
2・・・n型熱電変換材料
3・・・めっき部
4・・・加熱部
5・・・冷却部
6・・・積層フィルム
7・・・ヒートシール部
8・・・容器
9・・・フタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型熱電変換材料と、n型熱電変換材料と、
一対の前記p型熱電変換材料およびn型熱電変換材料に電気的に接続するめっき部と、
p型熱電変換材料およびn型熱電変換材料の一端が前記めっき部を介して接続される加熱部と、
p型熱電変換材料およびn型熱電変換材料の他の一端が前記めっき部を介して接続される冷却部とを少なくとも備える熱電変換素子を、
少なくとも外層、バリア層、ヒートシール層をこの順に積層してなる積層フィルムであって、該バリア層はアルミ箔、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−ビニルアルコール共重合体から選ばれるいずれか一つからなる積層フィルムを用いて、
前記ヒートシール層を前記熱電変換素子側にして包装することを特徴とする熱電変換素子包装体。
【請求項2】
前記外層と前記バリア層との間にラミネート層を備えることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子包装体。
【請求項3】
前記バリア層と前記ヒートシール層との間にバリア層保護層を設けることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子包装体。
【請求項4】
1または複数の前記積層フィルムのヒートシール層同士を熱溶着して前記熱電変換素子を包装することを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子包装体。
【請求項5】
前記積層フィルムを用いて前記熱電変換素子を包装する際、熱電変換素子包装体内部を不活性ガスで置換することを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子包装体。
【請求項6】
前記熱電変換素子包装体は、前記熱電変換素子全体を前記積層フィルムを用いて熱収縮させたシュリンク包装であることを特徴とすることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱電変換素子包装体。
【請求項7】
前記熱電変換素子包装体は、前記熱電変換素子全体を深絞り加工を施した前記積層フィルムで包装していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱電変換素子包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−204755(P2012−204755A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70091(P2011−70091)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】