説明

燃料噴射制御装置

【課題】車両のスロットル弁の短時間の開閉動作に対する応答性を向上させる。
【解決手段】スロットル弁の上流と下流のそれぞれに燃料噴射弁10,11を有する車両において、燃料噴射制御装置41は、噴射量算出部57において上流燃料噴射弁10の燃料噴射量と、下流燃料噴射弁11の燃料噴射量を算出する。車両が加速状態にあるときは、付加噴射量算出部54で下流燃料噴射弁11から付加的に噴射する。その一方、車両が減速状態にあるときは、減速補正算出部56において、下流燃料噴射弁11からの噴射量を減少させたり、付加噴射を禁止させたりする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車などの車両には、内燃機関であるエンジンが搭載されている。エンジンは、吸気管を有し、吸気管に設けられたスロットル弁によってエンジンの燃焼室に吸入させる空気の量が調整可能になっている。さらに、吸気管のスロットル弁の下流側には、燃焼室に供給する燃料を噴射する燃料噴射弁が設けられている。燃料噴射弁は、燃料噴射制御装置によって動作が制御されており、燃料噴射制御装置は、エンジン回転数やスロットル弁の開度に応じて燃料の噴射量を制御して、エンジン出力を調整する。例えば、燃料噴射制御装置は、スロットル弁が閉じる方向に回動したら、燃料噴射量を定常の値から減少させる補正を行う。
【0003】
さらに、従来のエンジンには、エンジン出力の向上と燃料の輸送遅れを解消する観点から、スロットル弁の上流側と下流側のそれぞれに燃料噴射弁を1つずつ設けたものがある。上流側の燃料噴射弁から燃料を噴射すると、燃焼が気化するときに空気から熱を奪う。これにより、体積効率が向上してエンジン出力を向上させることができる。一方、下流側の燃料噴射弁から燃料を噴射すると、燃料が短時間で燃焼室に供給されるので、エンジン出力の変化に対する応答性を向上させることができる。
【0004】
ここで、車両の減速時にスロットル弁が急速に閉じられたときには、上流側の燃料噴射弁から噴射された燃料はスロットル弁の上流側に滞留する。そして、再びスロットル弁が開いたときには、燃焼室に供給される燃料の量が、スロットル弁の上流側に滞留していた燃料の分だけ多くなる。このような場合には、エンジン出力が、必要とされる出力より大きくなってしまうことがある。そこで、従来の燃料噴射制御装置は、車両の減速を検知した時には上流側の燃料噴射制御弁の噴射を停止させていた。これにより、再びスロットル弁が開いたときに燃焼室に供給される燃料が少なくなるので、エンジン出力が大きくなり過ぎることが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−100602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両が減速した後、直ぐに加速に切り替わったときには、従来の燃料噴射制御ではエンジンの燃焼室に供給される燃料が少ないため、エンジン出力を速やかに増大させることができなかった。このように、従来の燃料噴射制御装置では、車両が減速や加速を短時間の間に繰り返した場合、燃料噴射量の増量や減量が対応しきれず、運転者の操作に対してエンジン出力の応答性が低下し易かった。
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、車両のスロットル弁の短時間の開閉動作に対する応答性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の一観点によれば、車両の内燃機関の吸気管に取り付けられているスロットル弁の上流側と下流側のそれぞれに設けられた燃料噴射弁の噴射量を制御する燃料噴射制御装置において、前記スロットル弁の上流側に設けられた上流燃料噴射弁の燃料噴射量と、前記
スロットル弁の下流側に設けられた下流燃料噴射弁の燃料噴射量とのそれぞれを算出する噴射量算出部と、車両の減速を検知する減速検知部と、車両の減速を検知したときに、前記下流燃料噴射弁の燃料噴射量のみを減少させる減速補正算出部と、を含む燃料噴射制御装置が提供される。
【0008】
また、本発明の別の観点によれば、前記内燃機関の吸気行程で車両の加速を検出したときに、前記下流燃料噴射弁から燃料を付加噴射するための付加噴射量を算出する付加噴射量算出部を有し、前記減速検知部が吸気行程で車両の加速を検出してから前記下流燃料噴射弁から燃料を付加噴射するまでの間に、車両の減速を検知したら、前記減速補正算出部が前記付加噴射量算出部による付加噴射を停止させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スロットル弁の開閉動作に応じて燃料噴射量を適切に変化させることが可能になるので、運転者の操作に対するエンジン出力の応答性が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るエンジン及び燃料噴射制御装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、燃料噴射制御装置のブロック図である。
【図3】図3は、燃料噴射制御のフローチャートである。
【図4】図4は、(a)同期噴射における燃料噴射弁の噴射制御を説明するタイミングチャートと、(b)非同期噴射における燃料噴射弁の噴射制御を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態について以下に詳細に説明する。
最初に、図1を参照して、車両の内燃機関であるエンジンと、車両用電子制御装置について説明する。
内燃機関であるエンジン1は、ECU(Electronic Control Unit)である車両用電子制御装置2に接続されている。エンジン1は、空気を吸い込む吸気管3を有し、吸気管3の上流側には吸気温センサ4が設けられている。吸気管3は、スロットル弁5で流路面積を調整可能になっており、スロットル弁5の開度はスロットル開度センサ6によりモニタされている。スロットル弁5の下流には、吸気圧センサ7が設けられている。さらに、吸気管3には、スロットル弁5の上流側に上流燃料噴射弁10が設けられており、スロットル弁5の下流側に下流燃料噴射弁11が設けられている。2つの燃料噴射弁10,11は、燃料タンク12に接続されている。燃料タンク12には、燃料ポンプ13が設けられており、燃料タンク12内の燃料をそれぞれの燃料噴射弁10,11に供給可能になっている。
【0012】
吸気管3は、シリンダヘッド15とシリンダブロック16で形成される燃焼室17に接続されている。さらに、吸気管3と燃焼室17の境界部分には、吸気バルブ18が管路を開閉自在に挿入されている。
【0013】
シリンダブロック16には、ピストン19が摺動自在に挿入されている。ピストン19は、クランクアーム20を介してクランク軸21に連結されており、ピストン20の直線的な往復運動を出力軸であるクランク軸21の回転運動に変換することができる。クランク軸21は、シリンダブロック16に回転自在に支持されており、その回転数を検出するためのタイミングロータ22が固定されている。タイミングロータ22の近傍には、回転
数センサ23が配置されている。さらに、シリンダブロック16には、冷却水を循環させるための流路24が形成されると共に、エンジン1の温度を測定するための水温センサ25も取り付けられている。
【0014】
シリンダヘッド15には、吸気管3の他に、点火プラグ26と、排気管27が取り付けられている。点火プラグ26は、点火コイル28に電気的に接続され、高電圧を印加することができる。また、排気管27の燃焼室17に連なる開口部には、排気バルブ29が排気管27への流路を開閉自在に取り付けられている。
【0015】
ここで、エンジン1の制御を行う車両用電子制御装置2には、燃料噴射制御装置41が含まれている。図2のブロック図を参照して、燃料噴射制御装置41の構成について説明する。
【0016】
燃料噴射制御装置41は、補正係数算出部51と、燃料比率算出部52と、総燃料算出部53と、付加噴射量算出部54と、減速検知部55と、減速補正算出部56と、噴射量算出部57とに機能分割される。
【0017】
補正係数算出部51は、吸気温センサ4と水温センサ25と吸気圧センサ7からの信号が入力され、外気の温度変化に応じて燃料噴射量の補正係数を算出する。補正係数のデータは、噴射量算出部57に出力される。
燃料比率算出部52は、回転数センサ23と、スロットル開度センサ6からの信号が入力され、上流燃料噴射弁10から噴射する燃料と、下流燃料噴射弁11から噴射する燃料の比率(燃料比率)を算出する。燃料比率は、例えば、空気の吸入量及びスロットル開度と燃料の比率を予め決定したテーブルを検索することで算出される。燃料比率のデータは、噴射量算出部57に出力される。
総燃料算出部53は、吸気圧センサ7と、回転数センサ23と、スロットル開度センサ6からの信号が入力され、2つの燃料噴射弁10,11を使って噴射すべき燃料の総量、すなわち総燃料量を算出する。総燃料量のデータは、噴射量算出部57に出力される。
【0018】
付加噴射量算出部54は、吸気圧センサ7と、水温センサ25と、回転数センサ23と、スロットル開度センサ6からの信号が入力され、総燃料量にさらに付加して噴射する燃料の量(付加噴射量)を算出する。付加噴射量は、スロットル弁5の開度が開方向に変化したときの変化量に応じて、予め定められた数式やテーブルを用いて算出され、さらに、エンジン1の水温や吸気圧、回転数によって補正される。このようして算出された付加噴射量のデータは、下流燃料噴射弁11に出力される。
【0019】
減速検知部55は、スロットル開度センサ6からの信号が入力され、スロットル弁5が閉方向に動作したことを検出したら、減速検知信号を作成して減速補正算出部56に出力する。
【0020】
減速補正算出部56は、減速検知信号が入力されたら、付加噴射量算出部54に、付加噴射量の算出を行わないよう指令する停止信号を出力する。さらに、下流燃料噴射弁11の減量補正量として予め定められた値を決定し、噴射量算出部57に出力する。なお、減量補正量は、車両の減速時に減少させる燃料量として予め定められた値を用いることが好ましいが、エンジン回転数などに応じて変化させても良い。さらに、減少させる燃料量の代わりに、下流燃料噴射弁11から噴射させる燃料を減少させる割合を示す数値でも良い。
【0021】
噴射量算出部57は、上流燃料噴射量算出部58と、下流燃料噴射量算出部59とを有する。上流燃料噴射量算出部58は、総燃料量に、補正係数と、燃料比率を掛け算して上
流燃料噴射弁10の燃料噴射量を算出し、上流燃料噴射弁10に出力する。下流燃料噴射量算出部59は、総燃料量に、補正係数と、燃料比率を掛け算し、さらに所定の条件において減少補正量を減じることで、下流燃料噴射弁11の燃料噴射量を算出し、下流燃料噴射弁11に出力する。
【0022】
次に、図3のフローチャートを参照して、燃料噴射制御装置41による燃料噴射制御について説明する。
ステップS101で、燃料噴射制御装置41は、燃料噴射の定常噴射タイミングであるか調べる。回転数センサ23でモニタするクランク軸21の回転角度が所定の角度、例えば、膨張行程の下死点に達したら、燃料噴射制御装置41は定常噴射タイミングであると判定し、ステップS102に進む。
【0023】
ステップS102では、減速検知部55が、車両が減速しているか否かを調べる。車両の減速は、スロットル弁5の開度の変化によって判定することができる。すなわち、減速検知部55は、スロットル開度センサ6の出力からスロットル弁5が閉方向に移動していることを検知したら、車両が減速していると判定する。
【0024】
車両の減速が検知されない場合(ステップS102でNo)は、ステップS103に進んで、定常噴射量を噴射する。定常噴射量の算出にあたっては、吸気圧と、エンジン1の回転数と、スロットル開度から2つの燃料噴射弁10,11から噴射させる総燃料を算出し、補正係数を吸気圧と水温と回転数とから算出する。また、燃料比率を回転数とスロットル開度から算出する。そして、総燃料と、補正係数と、燃料比率とから、上流燃料噴射弁10から噴射する燃料と、下流燃料噴射弁11から噴射する燃料とを算出する。そして、2つの燃料噴射弁10,11のそれぞれの燃料噴射量が定常噴射量になる。
【0025】
これに対し、ステップS102で、車両の減速が検知された場合には、ステップS104に進み、減速補正算出部56が定常噴射量を減量補正する。減量補正は、下流燃料噴射弁11の燃料噴射量を減ずることにより行われる。その結果、下流燃料噴射弁11は、減速状態にないときの定常噴射から、所定量だけ減量させた量の燃料が噴射される。これに対し、上流燃料噴射弁10は、定常噴射と同じ量の燃料噴射量が噴射される。
【0026】
一方、ステップS101で、定常噴射タイミングでないと判定されたときには、ステップS105に進む。ステップS105では、燃料噴射制御装置41が、付加噴射期間中であるか調べる。付加噴射期間とは、回転数センサ23でモニタするクランク軸21の回転角度が所定の角度、例えば、吸気行程の開始から所定の回転角度までの間とする。付加噴射期間であれば、ステップS106に進み、付加噴射量算出部54で車両が加速状態にあるか調べる。具体的には、付加噴射量算出部54は、スロットル開度センサ6の出力からスロットル弁5が開方向に移動していることを検知したら、車両が加速していると判定する。車両の加速が検知されれば、ステップS107に進んで、付加噴射が開始済みであるか調べる。付加噴射量算出部54が、未だ付加噴射の燃料量を算出していない場合には、付加噴射が開始されていないとみなし、付加噴射量を算出する。
【0027】
さらに、ステップS108で、減速検知部55が車両の減速を検出したら、ステップS109で減速補正算出部56が付加噴射を禁止する。ここで、ステップS108の減速検知は、ステップS105及びステップS106の判定処理を経ていることから、付加噴射期間に加速検知した後で、車両の減速を検知したことを意味する。これに対し、ステップS108で減速検知部55が車両の減速を検出しないときは、ステップS110で付加噴射量算出部54が算出した付加噴射量で下流燃料噴射弁11から燃料を噴射させる。これにより、定常噴射タイミングに加えて、吸気行程中に燃料噴射が付加される。
【0028】
なお、ステップS105で、付加噴射期間でない場合は、ここでの処理を終了する。同様に、ステップS106で車両が加速状態にない場合と、ステップS107で付加噴射開始済みであった場合は、ここでの処理を終了する。
【0029】
ここでの処理の具体例について、図4のタイミングチャートを参照して説明する。なお、横軸は、時間の経過と、エンジンの各行程を示す。縦軸は、上から順番にスロットル開度、下流燃料噴射弁11の燃料噴射、上流燃料噴射弁10の燃料噴射を示す。スロットル開度のH(ハイレベル)とL(ローレベル)は、スロットル弁5の動作を示し、L→Hが開方向の駆動、H→Lが閉方向の駆動をそれぞれ示す。また、燃料噴射は、信号がハイレベルのときに各燃料噴射弁10,11が開、すなわち燃料を噴射しており、信号がローレベルのときに各燃料噴射弁10,11が閉、すなわち燃料を噴射していないことを示す。
【0030】
図4(a)に示すように、時間t1で、定常噴射のタイミングになったら、燃料噴射制御装置41が定常噴射量を計算する。ここで、時間t1ではスロットル開度が閉方向に変化していないので、時間t2において上流燃料噴射弁10と下流燃料噴射弁11のそれぞれが、定常噴射量に相当する燃料を同時に噴射し始める。
ここで、上流燃料噴射弁10が時間t3に噴射を終了し、下流燃料噴射弁11は時間t4に噴射を終了する。噴射時の条件によって、2つの燃料噴射弁10,11が同時に噴射を終了することもあるし、下流燃料噴射弁11が上流燃料噴射弁10より早く噴射をすることもある。なお、この動作は、図3のステップS101からステップS103の処理に相当する。
【0031】
これに対し、時間t5の定常噴射タイミングでは、スロットル開度が閉方向に変化しているので、減速補正算出部56の指令に基づいて下流燃料噴射弁11の噴射量が減量補正される。減量補正は、減速補正算出部56の指令に基づいて行われ、下流燃料噴射量算出部59で算出される燃料噴射量が定常噴射量より少なくなる。この場合、時間t6の噴射開始時には、2つの燃料噴射弁10,11のそれぞれが同時に燃料を噴射し始める。上流燃料噴射弁10は、定常噴射量に相当する燃料を噴射し、時間t8で燃料噴射を終了する。これに対し、下流燃料噴射弁11は、時間t7に燃料噴射を終了する。この終了タイミングは、減量補正がない場合の噴射終了タイミングである時間t9より減量補正分だけ早い。つまり、図4(a)の編み掛けの部分が減量補正量になる。なお、この動作は、図3のステップS101,S102及びステップS104の処理に相当する。
【0032】
時間t5以降の場合では、減速検知時に下流燃料噴射弁11の燃料噴射を減少させてエンジン1に供給される燃料の総量を減少させたので、運転者の操作に応じてエンジン1の出力を下げることができる。なお、この後、スロットル弁5が開いたときには、スロットル弁5の上流側に滞留している燃料が空気と共に燃焼室17に供給される。予めスロットル弁5に付着又は付近に滞留している燃料は、上流燃料噴射弁10から新たに噴射される燃料より短い時間で燃焼室17に到達するので、再加速時には速やかにエンジン出力を増大させるように働く。この結果、減速や加速を行うときの応答性が良好になる。
【0033】
また、図4(b)に、付加噴射を行う場合のタイミングチャートを示す。時間t11の定常噴射のタイミングでは、燃料噴射制御装置41が定常噴射量を計算する。ここで、時間t11ではスロットル開度が閉方向に変化していないので、時間t12において上流燃料噴射弁10と下流燃料噴射弁11が同期噴射を行う。上流燃料噴射弁10は時間t13に噴射を終了し、下流燃料噴射弁11は時間t14に噴射を終了する。
【0034】
図4(b)中に四角で示す吸気行程中の付加噴射期間において、車両の加速を検出したら、時間t15で付加噴射を行う。付加噴射では、付加噴射量算出部54によって算出された量の燃料を下流燃料噴射弁11から噴射させる。付加噴射は時間t16に終了する。
上流燃料噴射弁10からは燃料を噴射させない。このように1回の燃焼サイクルにおいて、定常噴射量を供給した後に燃料供給を行なうことを非同期噴射と呼ぶ。吸気行程でスロットル弁5が開かれると、燃焼室17に供給される空気量が増加するが、付加噴射によって燃焼室17に供給される燃料量も増加する。このため、運転者の操作に合わせたエンジン1の出力増加ができる。なお、この動作は、図3のステップS101、ステップS105からステップS108、及びステップS110の処理に相当する。
【0035】
続いて、時間t21の定常噴射のタイミングでは、時間t22に2つの燃料噴射弁10,11から噴射を行い、時間t23と時間t24に、それぞれ上流燃料噴射弁10と下流燃料噴射弁11の噴射が終了する。図4(b)中に四角で示す吸気行程中の付加噴射期間において、車両の加速を検出したら、付加噴射量算出部54が下流燃料噴射弁11を用いた付加噴射の噴出量を算出する。ところが、時間t25で付加噴射を開始するまでのタイミングで、減速が検知されているので、減速補正算出部56の指令に基づいて下流燃料噴射弁11からの付加噴射を取りやめる。吸気行程でスロットル弁5が一時的に開かれたものの、再びスロットル弁5が閉じられた場合には、付加噴射を行うと燃料供給量が多くなり過ぎるが、このように付加噴射を停止することで、運転者の操作に合わせたエンジン出力が得られる。なお、この動作は、図3のステップS101、ステップS105からステップS109の処理に相当する。
【0036】
以上、説明したように、この実施の形態では、定常噴射タイミングでは減速検知時に下流燃料噴射弁11の噴射量を減少させるようにした。これにより、燃焼室17に供給される燃料を減らしてエンジン出力を下げることができる。この場合、上流燃料噴射弁10の噴射量を減少させないので、スロットル弁5の上流側の燃料量がリッチになる。このため、次にスロットル弁5が開いたときに、エンジン出力を速やかに増加させることができる。
【0037】
また、定常噴射タイミング後に付加噴射期間を設け、下流燃料噴射弁11から付加的な燃料噴射を可能にしたので、定常噴射後に車両を加速させる場合に、スロットル弁5の回動に応じて燃焼室17への燃料供給量を増大させることができる。これにより、エンジン出力を速やかに増加させることができる。さらに、付加噴射を行うケースでも、吸気行程で車両の加速を検出してから、付加噴射を行うまでの間にスロットル弁5が閉方向に操作された場合には、付加噴射を禁止するようにしたので、車両の急な減速時などに不要な燃料を噴射することが防止される。これらのことから、運転者のスロットル操作に対するエンジン主力の応答性を向上させることができる。
【0038】
なお、このような燃料噴射制御装置41は、二輪車や四輪車のような車両に用いられることが好ましい。また、この燃焼噴射制御装置41は、単気筒エンジンを搭載する二輪車コンペティションモデルのように、短期間にスロットル操作が繰り返されることが多く、かつ1サイクルの期間が長いために同期噴射時に空気量の確保が難しい車両に好適である。
また、本発明は、実施の形態に限定されずに広く応用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
5 スロットル弁
10 上流燃料噴射弁
11 下流燃料噴射弁
41 燃料噴射制御装置
54 付加噴射量算出部
55 減速検知部
56 減速補正算出部
57 噴射量算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関の吸気管に取り付けられているスロットル弁の上流側と下流側のそれぞれに設けられた燃料噴射弁の噴射量を制御する燃料噴射制御装置において、
前記スロットル弁の上流側に設けられた上流燃料噴射弁の燃料噴射量と、前記スロットル弁の下流側に設けられた下流燃料噴射弁の燃料噴射量とのそれぞれを算出する噴射量算出部と、
車両の減速を検知する減速検知部と、
車両の減速を検知したときに、前記下流燃料噴射弁の燃料噴射量のみを減少させる減速補正算出部と、
を含む燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の吸気行程で車両の加速を検出したときに、前記下流燃料噴射弁から燃料を付加噴射するための付加噴射量を算出する付加噴射量算出部を有し、
前記減速検知部が吸気行程で車両の加速を検出してから前記下流燃料噴射弁から燃料を付加噴射するまでの間に、車両の減速を検知したら、前記減速補正算出部が前記付加噴射量算出部による付加噴射を停止させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154274(P2012−154274A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15250(P2011−15250)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】