説明

燃料噴射弁

【課題】噴口の設定自由度を大きく、耐デポジット性を維持できる燃料噴射弁の提供。
【解決手段】燃料噴射弁の第1噴口と底壁を持つ第2噴口とは中心軸が平行であるが、バルブシート中心軸と第2噴口中心軸とを含む垂直平面が第2噴口の内壁と交わる長辺線の最大長さM1が、垂直平面が第2噴口の内壁と交わる短辺線の最小長さM2より大きいとき、第1噴口の内壁から第2噴口の長辺線までの垂直平面内の距離W1が、第1噴口の内壁から第2噴口の短辺線までの垂直平面内の距離W2より大きくなる(M1>M2のときW1>W2)ように偏心eしている。
【効果】噴霧燃料が干渉せず第2噴口を深くでき、第1噴口の自由度を高め、耐デポジット性に有利な形状にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関に用いられる燃料噴射弁に関し、特に直噴式エンジンに用いるのに好適な燃料噴射弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている燃料噴射弁は、第1噴口の下流側出口に、第1噴口よりも大径の第2噴口を同軸に設けた構造であり、この構造においては、第2噴口の深さを変えることによって第1噴口の長さを調整することができる。これにより、第1噴口の長さLと直径Dの比L/Dを調整することができるので、噴霧形状の自由度を向上させることが可能である。また、第1噴口の開口端が直接バルブシート端面に開口していないので、カーボン等のデポジットが第1噴口に付着することを抑制することができる。
【0003】
【特許文献1】特開平9−273458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、第1噴口軸の同軸上に第2噴口軸を配置する場合、第1噴口の傾斜角度によっては、第2噴口内壁長さに長い部分(長辺)と短い部分(短辺)が生じ、第1噴口から噴射された噴霧が第2噴口内壁の長辺側に干渉しやすくなる。噴霧との干渉を避けるためには、第2噴口の深さを浅く広く設定しなくてはならないが、それにより第1噴口のL/Dの設定自由度が小さくなり、また噴口の傾斜角度によっては、第2噴口内壁長さが全周にわたって確保できず、短辺側の長さがゼロとなり、耐デポジット性が悪化する等の問題がある。
【0005】
従ってこの発明の目的は、第1噴口のL/Dの設定自由度を大きくでき、耐デポジット性を維持できる燃料噴射弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、燃料噴射弁は、電磁ソレノイド装置と、この電磁ソレノイド装置により作動されて、バルブシートの弁座に対して離接して、バルブシートの端面に対して傾斜した軸心を持つ噴口からの燃料の噴射を制御する弁体を有する弁本体とを備え、上記噴口が、上記弁座の下流側に設けられた第1噴口と、上記第1噴口よりも下流側に設けられ、上記第1噴口よりも大径の第2噴口とを備えた燃料噴射弁において、上記第1噴口の中心軸と上記第2噴口の中心軸とは平行であり、上記第2噴口の底壁は上記第1噴口の中心軸に対して直交しており、上記バルブシートの中心軸と上記第2噴口の中心軸とを含む垂直平面が上記第2噴口の内壁と交わる長辺線の最大長さをM1とし、上記垂直平面が上記第2噴口の内壁と交わる短辺線の最小長さをM2とし、上記垂直平面内で測った上記第1噴口の内壁から上記第2噴口の長辺線までの距離をW1とし、上記垂直平面内で測った上記第1噴口の内壁から上記第2噴口の短辺線までの距離をW2として、M1>M2のときW1>W2となるように第2噴口の中心軸を第1噴口の中心軸に対して偏心させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
燃料噴霧パターンと第2噴口内壁との間の距離を広げることができるので、噴霧燃料が干渉することなく第2噴口の深さをより深く設定することができ、第1噴口の自由度を向上させると共に、耐デポジット性に有利な形状とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1はこの発明の燃料噴射弁の一実施の形態を示す断面図であり、図2は図1の円Aで囲んだ部分の拡大断面図であり、図3は図2の噴口の部分の拡大断面図であり、図4は図3の線IV−IVに沿って見た噴口の位置関係を示す図である。
【0009】
これらの図において、燃料噴射弁1は、電磁力を発生させるソレノイド部2と、弁本体3とを備えている。ソレノイド部2には、固定鉄心であるコア4、非磁性部材で構成されるリング5、ホルダ6およびハウジング7から磁気回路が構成されており、ハウジング7内にはターミナル8に接合されたコイル9が収納されている。弁本体3は、弁座11bと、少なくとも一つ以上の噴口10を有するバルブシート11とガイド12が固定されたボディ13と、可動鉄心であるアマチュア14を有し、ボディ13とガイド12に摺動可能に挿入され開閉動作するニードルである弁体15とを備えている。弁本体3とバルブシート11の弁座11bとの間のシール力は、コア4内部に設置されていてロッド17の長さにより所定のスプリング力に設定されるスプリング16のスプリング力と、シート径18(図2)により定められるシート面積に燃圧が印加されることによって生じる流体圧力とによって決定される。
【0010】
図示しない制御コントローラからの開弁信号によりコイル9が励磁されると、可動鉄心であるアマチュア14が固定鉄心であるコア4に吸引され、スプリング力と燃圧により発生した流体力の合計であるシール力を吸引力が上回った時点で開弁する。その際、シート部の開口面積は弁体15がストッパ19に当接することで規制されるリフト量により決定される。閉弁時は制御コントローラからの閉弁信号によりコイル9の励磁が無くなり、スプリング力によって閉弁されることになる。
【0011】
燃料の流れについては、図示しない燃料ポンプより高圧に印加された燃料が、図示しないデリバリーパイプを経由して燃料噴射弁1まで高圧燃料が供給される。閉弁時は燃料噴射弁1内部の弁体15とバルブシート11の弁座11bまで高圧燃料で満たされることになる。図示しない制御コントローラからの開弁信号により弁体15が開弁し、まずシート部下流のキャビティ20に高圧燃料が流入する。キャビティ20が高圧燃料で満たされた後、噴口10から燃焼室内にそれぞれ所定の方向に向かって噴射される。
【0012】
噴口10の構成について説明する。噴口10は第1噴口21と、第1噴口21に接続されたより大径の第2噴口22とを備え、第1噴口21の入口はキャビティ20に開口しており、第2噴口22は第1噴口21の下流側に連通して設けられ、第2噴口22の出口はバルブシート11の燃焼室側のバルブシート端面11aに傾斜して開口している。
【0013】
第1噴口21の長さをL、直径をD、第2噴口22の深さをM、直径をEとすると、M>Dの関係である。また、第2噴口22の深さMを変えることにより第1噴口21の長さLを調整することができるので、第1噴口のL/Dを任意に設定することができる。L/Dによって噴霧形状をコントロールすることが可能であり、一般的にL/Dが小さいと噴霧角度αが大きくなり、L/Dが大きいと噴霧角度αは小さくなることが知られている。なお、L/Dの設定は各噴口それぞれに異なった設定で適用できる。
【0014】
また、特に直噴エンジンにおいては、噴口にカーボン等のデポジットが堆積することによって噴口面積が減少し、流量が小さくなる問題があるが、本構造においては、流量を決定する第1噴口21が直接バルブシート端面11aに開口していないため、燃焼の火炎が第1噴口21に接触しにくくなり、第1噴口21の温度の上昇を緩和できる。そのため、デポジットの堆積を抑制することができる。さらに、第1噴口21の中心軸21aと第2噴口22の中心軸22aは平行であり、第2噴口22の底壁22bは、第1噴口21の中心軸21aに直交している。これにより、第1噴口21の、底壁22bへの開口淵の形状が円となり、開口淵から噴霧が均一に噴射されるため、噴霧形状の安定化が図れる。
【0015】
図3および4において、噴口10は、弁座11b(図2)の下流側でキャビティ20に連通して設けられた円筒形の第1噴口21と、この第1噴口21よりも下流側に接続されて、第1噴口21よりも大径の円筒形の第2噴口22とを備えている。また、第1噴口21の中心軸21aと第2噴口22の中心軸22aとは互いに平行で、バルブシート11の燃焼室に面したバルブシート端面11aに対して角度θだけ傾斜している。また、第2噴口22が第1噴口21に接続された端部、すなわち第2噴口22の底壁22bは、平坦な端面となっていて、第1噴口21の中心軸21aに対して直交している。
【0016】
第2噴口22の内壁は円筒面であって、傾斜したバルブシート11のバルブシート端面11aに交わっているため、内壁の軸方向長さがその周方向位置に応じて相違していて、最大長さ(内壁長辺の長さ)M1と、最小長さ(内壁短辺の長さ)M2とが形成される。図3および4に示すように、最大長さM1および最小長さM2は、第2噴口22の中心軸22aとバルブシート11の中心軸11bを含む垂直平面22cが第2噴口22の内壁の円筒面に交わる長辺線m1および短辺線m2の長さとして現れる。この例では、垂直平面22cは平面であるバルブシート11のバルブシート端面11aに垂直な面となる。
【0017】
図示の燃料噴射弁においては、垂直平面22c上の第1噴口21の内壁の位置から第2噴口22の長辺線m1までの中心軸22aに垂直な方向の距離をW1、垂直平面22c上の第1噴口21の内壁の位置から第2噴口22の短辺線m2までの垂直な方向の距離をW2とすると、M1>M2のとき、W1>W2となるように第2噴口22の中心軸22aを第1噴口21の中心軸21aに対して偏心eさせてある。換言すれば、第2噴口22の第1噴口21に対する偏心eは垂直平面22c内で長辺線m1の方向に(W1−W2)/2の大きさである。
【0018】
このような中心軸21aと22aとの間の偏心eにより、第1噴口21から噴射される燃料の噴霧パターン24の外郭表面と、長辺線m1と短辺線m2との間のそれぞれのバルブシート端面11aに沿った距離N1およびN2を確保することができ、噴霧パターン24との干渉に対する余裕ができるので、第2噴口の深さMをさらに深く設定することが可能となり、噴口のL/Dの設定範囲を広げることができる。このようにして、第1噴口21と第2噴口22とが軸整列した従来のものに比較してN1が大きくなりN2が小さくなっている。
【0019】
ここで、第2噴口22は図5に示すように、第2噴口22の深さMを調整するだけであれば、必ずしも全周にわたって円筒形の内壁を有する必要がなく、短辺線m2が無く、最小長さM2<0となってもよい。しかしこの場合、M2<0となる箇所から燃焼時の火炎が第2噴口内に進入しやすくなるため、第1噴口21の温度が上昇し、耐デポジット性が悪化する。耐デポジット性の悪化を防止するためには、第2噴口22の内壁の最小長さM2>0として、全周にわたり円筒形の内壁を有する形状とすればよい。
【0020】
また、図2に示すように、第2噴口22の形状を円柱状とすることにより、同一加工ツールで第2噴口22の直径Eを変えずに深さMのみを容易に変えることができるので、加工性の面で有利である。
【0021】
なお、噴霧パターン24の角度をαとした場合、噴霧パターン24と第2噴口22との干渉を回避するためには、第2噴口22の長辺線m1の長さはtan−1(W1/M1)>α/2、かつ短辺線m2の長さはtan−1(W2/M2)>α/2である必要があり、噴霧干渉を防ぐための最適な寸法は図6に示すとおり、tan−1(W1/M1)=tan−1(W2/M2)すなわちW1/M1=W2/M2の場合である。よって、第1噴口21と第2噴口22の偏心eは、W1/M1=W2/M2となるよう設定することが望ましい。この場合、噴霧干渉がおこる噴霧角度α未満の噴霧パターン24の角度に設定すれば、噴霧パターン24と第2噴口22との干渉を回避できる。換言すれば、図6に示すものは、燃料噴霧パターンの外郭部と噴口の開口部とがほぼ一致した場合であり、第2噴口22の深さMを最も深く設定できる形態である。
【0022】
実施の形態2.
図7には、この発明の燃料噴射弁の第2の実施形態を示す。この例では、バルブシート11のバルブシート端面11aは平面でなく、円錐形の凸形状になっていて、円錐面である。この場合も同様に、W1>W2となる方向(最大長さM2の長辺線m1から最短長さM1の短辺線m2の方向)に、第2噴口22の中心軸22aを偏心量eだけ偏心させることにより、噴霧パターン24の干渉を避けることができるので、第2噴口22の深さMをより深く設定できるようになる。この場合も、バルブシート11のバルブシート端面11aが平面ではないが、このバルブシート端面11aの中心軸11cと第2噴口22の中心軸22aとを通る垂直平面22cと第2噴口22の円筒形の内壁面とが交わる線が長辺線m1および短辺線m2となる。
【0023】
実施の形態3.
図8にはこの発明の燃料噴射弁の第3の実施形態を示す。この例では、第2噴口22の底壁22bと円筒形内壁22dとの間にテーパ壁22eが接続されていて、第2噴口22と噴霧パターン24との間にできるデッドボリューム23を小さくすることができる。このように、第2噴口22は、少なくとも一部が円柱形状であるようにすることも、少なくとも一部が出口側に向かって末広がりとなるテーパ形状であるようにすることもできる。
【0024】
このような構成により第2噴口22の容積が小さくできるので、噴射後に第2噴口22内に残留する燃料量を少なくできる。残留燃料はデポジットの生成材料であるため、本実施形態により第2噴口22内に堆積するデポジットの量を減らすことができる。第2噴口内のデポジット堆積量を減らした方がよい理由は、第2噴口22の内壁にデポジットが堆積すると、デポジットの厚み分だけ噴霧パターン24が干渉されやすくなるためである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の燃料噴射弁の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1の円Aで囲んだ部分の拡大断面図である。
【図3】図2の噴口部分の拡大断面図である。
【図4】図3の線IV−IVに沿った断面図である。
【図5】最小長さM2<0とした場合の噴口を示す拡大断面図である。
【図6】燃料噴霧パターンの外郭部と噴口の開口部とがほぼ一致した場合を示す拡大断面図である。
【図7】この発明の燃料噴射弁の別の実施の形態においてバルブシート端面が円錐形である場合の噴口部分の拡大断面図である。
【図8】この発明の燃料噴射弁の更に別の実施の形態において第2噴口がテーパ壁を持つ場合の噴口部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 燃料噴射弁、2 電磁ソレノイド装置、3 弁本体、10 噴口、11 バルブシート、11b 弁座、11c 中心軸、15 弁体、21 第1噴口、21a 中心軸、22 第2噴口、22a 中心軸、22b 底壁、22c 垂直平面、22e 内壁、e 偏心、m1 長辺線、m2 短辺線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁ソレノイド装置と、この電磁ソレノイド装置により作動されて、バルブシートの弁座に対して離接して、バルブシートの端面に対して傾斜した軸心を持つ噴口からの燃料の噴射を制御する弁体を有する弁本体とを備え、
上記噴口が、上記弁座の下流側に設けられた第1噴口と、上記第1噴口よりも下流側に設けられ、上記第1噴口よりも大径の第2噴口とを備えた燃料噴射弁において、
上記第1噴口の中心軸と上記第2噴口の中心軸とは平行であり、
上記第2噴口の底壁は上記第1噴口の中心軸に対して直交しており、
上記バルブシートの中心軸と上記第2噴口の中心軸とを含む垂直平面が上記第2噴口の内壁と交わる長辺線の最大長さをM1とし、上記垂直平面が上記第2噴口の内壁と交わる短辺線の最小長さをM2とし、上記垂直平面内で測った上記第1噴口の内壁から上記第2噴口の長辺線までの距離をW1とし、上記垂直平面内で測った上記第1噴口の内壁から上記第2噴口の短辺線までの距離をW2として、M1>M2のときW1>W2となるように第2噴口の中心軸を第1噴口の中心軸に対して偏心させたことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
上記第2噴口は上記第1噴口に対して上記垂直平面内で長辺線の方向に(W1−W2)/2だけ偏心していることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
W1/M1=W2/M2の関係としたことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
M2>0としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
上記第2噴口は、少なくと一部が円柱形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項6】
上記第2噴口は、少なくとも一部が出口側に末広がりとなるテーパ形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−270448(P2009−270448A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119559(P2008−119559)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】