説明

燃料噴射弁

【課題】 燃料の微粒化を図るにあたり、低燃圧時から高燃圧時にかけて適量のキャビテーション気泡を発生させることが可能な燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】 燃料噴射弁1Aは、噴孔2aが形成されたボディ2と、ボディ2内を摺動することで、噴孔2aを開閉する内側ニードル3と、ボディ2内、且つ内側ニードル3の外側に設けられるとともに、噴孔2aの入口にボディ2および内側ニードル3とともに拡大室5を形成し、ボディ2内を摺動することによって容積変化する拡大室5を、ボディ2とともに段階的な態様で拡大することが可能な形状に形成された外側ニードル4と、摺動方向においてボディ2と外側ニードル4との間に設けられ、拡大室5の体積を温度に応じて可変にするワックス6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料噴射弁し、特に燃料の微粒化を図るための燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料噴射弁は内燃機関などで用いられている。内燃機関では、燃料噴射弁から噴射された燃料の微粒化を図ることで、燃料の気化や燃焼を促進することができる。この点、燃料の微粒化を図る技術である点で本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献1、2で開示されている。
このほか、燃料噴射弁の噴孔断面積を可変にする技術が例えば特許文献3、4で、温度に応じて燃料噴射量を可変にする技術が例えば特許文献5で、電子制御の可変機構を有する技術が例えば特許文献6でそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−19481号公報
【特許文献2】特開2007−309236号公報
【特許文献3】特開2003−214298号公報
【特許文献4】特開2000−27738号公報
【特許文献5】特開2006−266145号公報
【特許文献6】特開2006−316668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料噴射弁の燃料流路の一部に澱み場を設けた場合、澱み場では燃料流通時に渦流が発生する。そして、中心圧力が飽和蒸気圧以下に低下した渦流では、キャビテーション気泡が発生する。キャビテーション気泡は、噴孔から燃料が噴射された後、急激に成長して崩壊する。そしてこれにより、燃料の微粒化を図ることができる。
この点、例えば特許文献1が開示する技術では、噴孔を第1噴孔部とその下流側に位置する第2噴孔部とで構成するとともに、第2噴孔部に燃料噴流の一部を収容する収容部を設けている。そしてかかる構成により、燃料噴流の外周表面近傍にキャビテーション気泡を発生させ、燃料の微粒化に利用している。
【0005】
ところが、キャビテーション気泡の発生にあたっては以下に示す問題がある。
図11(a)に示すように、高燃圧時(燃料流速高速時)には、燃料主流Fが澱み場Sで剥離するとともに、澱み場Sに渦流Rが発生する。そしてこの場合には燃料の流速が高いことから、渦流Rの中心圧力が十分低下し、より多くのキャビテーション気泡を発生させることができる。このためこの場合には、キャビテーション気泡の崩壊Cによって燃料の微粒化を促進することができる。
【0006】
一方、図11(b)に示すように、低燃圧時(燃料流速低速時)には、燃料主流Fが剥離し難く、澱み場Sに渦流Rが発生しても燃料主流Fの流速が遅くなっている。このためこの場合には、渦流Rの回転速度が相対的に低くなり、渦流Rの中心圧力の低下が不十分となる。そしてこの場合には、発生するキャビテーション気泡の量が減少し、燃料微粒化の促進度合いも低下する。
【0007】
これに対して特許文献1の開示技術では、低燃圧時と高燃圧時とを通じて、第2の噴孔部に設けられた収容部の大きさは一定となっている。このため、当該開示技術では、キャビテーション気泡を発生させるにあたり、例えば収容部の大きさが高燃圧時には適切となる一方で、低燃圧時には相対的に大きくなり過ぎるといった不都合が生じることが考えられる。そしてこの場合には、低燃圧時から高燃圧時にかけて必ずしも適量のキャビテーション気泡を発生させることができない虞があると考えられる点で問題があった。
【0008】
そこで本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、燃料の微粒化を図るにあたり、低燃圧時から高燃圧時にかけて適量のキャビテーション気泡を発生させることが可能な燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、噴孔が形成されたボディと、前記ボディ内を摺動することで、前記噴孔を開閉する内側ニードルと、前記ボディ内、且つ前記内側ニードルの外側に設けられるとともに、前記噴孔の入口に前記ボディおよび前記内側ニードルとともに拡大室を形成し、前記ボディ内を摺動することによって容積変化する前記拡大室を、前記ボディとともに段階的な態様で拡大することが可能な形状に形成された外側ニードルと、摺動方向において前記ボディと前記外側ニードルとの間に設けられ、前記拡大室の体積を温度に応じて可変にする熱膨張体と、を備えた燃料噴射弁である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料の微粒化を図るにあたり、低燃圧時から高燃圧時にかけて、適量のキャビテーション気泡を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】内燃機関50の要部をECU30とともに模式的に示す図である。
【図2】燃料噴射弁1Aの要部を模式的に示す図である。
【図3】図2に示すA部の拡大図である。具体的には、(a)は外側ニードル4の先端部4aがボディ2の底部2bに当接している状態を示しており、(b)は先端部4aが底部2bと離間している状態を示している。
【図4】外側ニードル4の位置を燃圧に応じて規定したマップデータを模式的に示す図である。
【図5】ECU30の動作をフローチャートで示す図である。
【図6】燃料噴射弁1Aを流通する燃料の流動態様を模式的に示す図である。具体的には、(a)は低燃圧時の流動態様を示しており、(b)は高燃圧時の流動態様を示している。
【図7】燃料噴射弁1Bの要部を模式的に示す図である。
【図8】燃料噴射弁1Cの要部を模式的に示す図である。
【図9】燃料噴射弁1C´を流通する燃料の流動態様を模式的に示す図である。
【図10】燃料噴射弁1Cを流通する燃料の流動態様を模式的に示す図である。具体的には、(a)は機関冷間始動時(低燃圧時)の流動態様を示しており、(b)は温度上昇時(高燃圧時)の流動態様を示している。
【図11】キャビテーション気泡の発生に関連する燃料の流動態様を模式的に示す図である。具体的には、(a)では高燃圧時の流動態様を示しており、(b)では低燃圧時の流動態様を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
燃料噴射弁1Aおよび関連する構成について図1および図2を用いて説明する。図1に示すように、燃料噴射弁1Aは内燃機関50に設けられている。内燃機関50は燃料噴射弁1Aのほか、シリンダブロック51と、シリンダヘッド52と、ピストン53と、吸気弁55と、排気弁56と、点火プラグ57とを備えている。シリンダブロック51にはシリンダ51aが形成されている。シリンダ51a内にはピストン53が収容されている。シリンダブロック51の上面にはシリンダヘッド52が固定されている。燃焼室54はシリンダブロック51、シリンダヘッド52及びピストン53に囲まれた空間として形成されている。
【0014】
シリンダヘッド52には吸気ポート52aと排気ポート52bとが形成されている。吸気ポート52aは燃焼室54に吸気を導き、排気ポート52bは燃焼室54のガスを排気する。シリンダヘッド52にはこれら吸排気ポート52a及び52bを開閉するための吸排気弁55、56が設けられている。またシリンダヘッド52には、燃焼室54の上部略中央に電極を突出させた状態で点火プラグ57が設けられている。さらにシリンダヘッド52のうち、吸気ポート52aの下方の部分には、燃料噴射弁1Aが設けられている。燃料噴射弁1Aは筒内に燃料を直接噴射できるようになっている。なお、燃料噴射弁1Aの配置はこれに限られない。
【0015】
図2に示すように、燃料噴射弁1Aはボディ2と、内側ニードル3と、外側ニードル4とを備えている。ボディ2は概ね有底円筒状の部材である。ボディ2の先端には噴孔2aが形成されている。噴孔2aの後端側は円筒部2aaとなっており、先端側は円筒部2aaから先端に向かって次第に拡径するテーパ部2abとなっている。噴孔2aは、その中心がボディ2の中心軸線と一致するように設けられている。噴孔2aの後端側はボディ2の底部2bに開口している。底部2bには、凹部2baが形成されている。凹部2baは、底部2bのうち、径方向内側の部分が径方向外側の部分よりも円柱状に凹むように設けられており、その中心はボディ2の中心軸線と概ね一致している。したがって、噴孔2aは具体的には凹部2baの略中央に開口している。
【0016】
内側ニードル3は概ね円柱状の部材であり、その中心軸線がボディ2の中心軸線と一致するようにボディ2内に設けられている。内側ニードル3は円柱部3aと先端部3bとを備えている。先端部3bの形状は円柱部3aよりも膨らんだ形状となっている。この先端部3bはテーパ部2abに当接するように形成されており、具体的には断面五角形状の軸対称の形状に形成されている。内側ニードル3はボディ2内を摺動することで、噴孔2aを開閉する。具体的には内側ニードル3は先端側に向かって摺動することで噴孔2aを開き、後端側に向かって摺動することで噴孔2aを閉じる。すなわち、燃料噴射弁1Aは外開弁式の燃料噴射弁となっている。また先端部3bがテーパ部2abに当接するように形成された内側ニードル3によって噴孔2aを開閉することで、燃料噴射弁1Aはホロコーン状の燃料噴霧を形成するようになっている。
【0017】
外側ニードル4は概ね円筒状の部材であり、その中心軸線がボディ2の中心軸線と一致するようにボディ2内、且つ内側ニードル3の外側に設けられている。外側ニードル4はボディ2および内側ニードル3に対して摺動自在に設けられており、内側ニードル3は外側ニードル4に対して摺動自在に設けられている。
【0018】
外側ニードル4の先端部4aには、凸部4aaが形成されている。凸部4aaは、先端部4aのうち、径方向内側の部分が径方向外側の部分よりも円柱状に突出するように設けられており、その中心軸線は外側ニードル4の中心軸線と概ね一致している。外側ニードル4の凸部4aaとボディ2の凹部2baとは、その径および軸方向の長さが互いに同等になっている。そしてこれにより、外側ニードル4の先端部4aは、ボディ2の底部2bに当接できるようになっている。外側ニードル4には燃料流路4bが設けられている。燃料流路4bは円周方向に沿って略均等に複数設けられている。外側ニードル4は、ボディ2および内側ニードル3とともに噴孔2aの入口に拡大室5を形成する。そして各燃料流路4bは、拡大室5に連通するように開口している。
【0019】
図3(a)に示すように、外側ニードル4の先端部4aがボディ2の底部2bに当接している状態において、拡大室5は具体的にはボディ2の円筒部2aaと、内側ニードル3と、外側ニードル4の先端部4a(さらに具体的には凸部4aa)とによって形成されている。
一方、図3(b)に示すように、外側ニードル4の先端部4aがボディ2の底部2bと離間している状態において、拡大室5は具体的にはボディ2の円筒部2aaおよび凹部2baと、内側ニードル3と、外側ニードル4の先端部4a(さらに具体的には凸部4aa)とによって形成されている。
【0020】
このように、外側ニードル4はボディ2内を摺動することによって容積変化する拡大室5を、ボディ2とともに段階的な態様で(換言すれば不連続的な態様で)拡大することが可能な形状に形成されている。そしてかかる形状は、本実施例では具体的にはボディ2の凹部2baと外側ニードル4の凸部4aaとによって実現されている。
【0021】
図1に戻り、ECU30は図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータと入出力回路と駆動回路とを備えている。ECU30には、燃圧を検知する燃圧センサ71などの各種のセンサが電気的に接続されている。またECU30には、燃料噴射弁1Aが制御対象として電気的に接続されている。この点、具体的には燃料噴射弁1Aは図示しないアクチュエータを備えており、当該アクチュエータがECU30からの入力に応じて外側ニードル4を適宜の位置に駆動するようになっている。
【0022】
ROMはCPUが実行する種々の処理が記述されたプログラムやマップデータなどを格納するための構成である。CPUがROMに格納されたプログラムに基づき、必要に応じてRAMの一時記憶領域を利用しつつ処理を実行することで、ECU30では各種の制御手段や判定手段や検出手段や算出手段などが機能的に実現される。
【0023】
この点、ECU30では具体的には例えば燃圧に応じて外側ニードル4の位置を制御する制御手段が機能的に実現される。この制御手段は、具体的には図4に示すマップデータを参照するとともに、燃圧に応じた外側ニードル4の位置を読み込むことで、外側ニードル4の位置を制御するように実現される。この点、外側ニードル4は、燃圧が低い場合(所定値αよりも低い場合)には、底部2bに当接するようにその位置が制御され、燃圧が高い場合(所定値α以上である場合)には、底部2bから離間するようにその位置が制御される。さらに燃圧が高い場合には、外側ニードル4は燃圧が高いほど底部2bからより離れた位置に(より高い位置に)その位置が制御される。
【0024】
次にECU30の動作を図5に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本フローチャートは内燃機関50運転中、ごく短い時間間隔で繰り返し実行される。ECU30は燃圧を検出する(ステップS1)。続いてECU30は、検出した燃圧に応じて外側ニードル4の位置を制御する(ステップS2)。これにより、燃圧に応じた所望の位置に外側ニードル4を駆動することができる。
【0025】
次に燃料噴射弁1Aの作用効果について図6を用いて説明する。ここで、低燃圧時には燃料噴射弁1Aを流通する燃料の流速が低くなる。そして、燃料の流速が低いにも関わらずキャビテーション発生領域である澱み場の容積が不相応に大きい場合には、キャビテーション気泡を十分発生させることが困難になる。
これに対して燃料噴射弁1Aでは、図6(a)に示すように、低燃圧時に外側ニードル4が底部2bと当接した状態となる。そしてこのときには、外側ニードル4が底部2bと離間した状態である場合と比較して拡大室5の大きさを小さくすることができる。そしてこれにより、澱み場の容積を燃料の流速が低流速である場合に見合った適切な大きさにすることができる。このため燃料噴射弁1Aでは燃料の流速が低い低燃圧時でも、拡大室5で発生する渦流の中心圧力を十分低下させることができる。したがって、燃料噴射弁1Aでは燃料の流速が低い低燃圧時でも、キャビテーション気泡を好適に発生させることができる。
【0026】
一方、高燃圧時には燃料の流速が高くなる。そして、燃料の流速が高いにも関わらず澱み場の容積が不相応に小さい場合には、澱み場の容積不足によりキャビテーション気泡を十分発生させることが困難になる。
これに対して燃料噴射弁1Aでは、図6(b)に示すように、高燃圧時に外側ニードル4が離間状態となる。そしてこのときには、拡大室5の容積が当接状態から段階的な態様で拡大される。このため、燃料噴射弁1Aでは高燃圧時に澱み場の容積変化度合いを大きくすることができる。そして燃料噴射弁1Aでは、高燃圧時に燃圧に応じて澱み場の容積を変化させることで、高燃圧時の流速変化に応じた素早い容積変化を可能にすることができる。そしてこれにより、高燃圧時に澱み場の容積を流速に見合った適切な大きさにすることができる。このため燃料噴射弁1Aでは低燃圧時から高燃圧時にかけて、適量のキャビテーション気泡を発生させることができる。
【実施例2】
【0027】
本実施例に係る燃料噴射弁1Bについて図7を用いて説明する。燃料噴射弁1Bは、外側ニードル4駆動用のアクチュエータを特段備えていない点と、その代わりにワックス6を備えている点以外、燃料噴射弁1Aと実質的に同一のものとなっている。なお、燃料噴射弁1Bは、例えば燃料噴射弁1Aの代わりに内燃機関50に適用することができる。
ワックス6は摺動方向においてボディ2と外側ニードル4との間に設けられている。具体的にはワックス6は、ボディ2の底部2bと、外側ニードル4の先端部4aとの間、且つ径方向においてボディ2と外側ニードル4の凸部4aaとの間の部分に設けられている。ワックス6は拡大室5の体積を温度に応じて可変にする熱膨張体となっている。なお、ワックス6の膨張開始温度や、温度変化に対する膨張度合い(傾き)や、最大膨張量など特性は調整が可能である。
【0028】
次に燃料噴射弁1Bの作用効果について説明する。ここで、燃料は内燃機関50の動力で駆動する図示しない燃料ポンプによって圧送されるようになっている。そしてこの場合には、一般に機関冷間始動時の低温時の燃圧上昇が遅いことから、燃圧が低燃圧となる。このため機関冷間始動時の低温時には、燃料噴射弁1Bを流通する燃料の流速も低くなる。
これに対して燃料噴射弁1Bでは、機関冷間時にワックス6が収縮することで拡大室5の容積を相対的に小さくすることができる。そしてこれにより、澱み場の容積を燃料の流速が低流速である場合に見合った適切な大きさにすることができる。このため燃料噴射弁1Bでは機関冷間時の低温時でも、拡大室5で発生する渦流の中心圧力を十分低下させることができ、キャビテーション気泡を好適に発生させることができる。
【0029】
一方、温度上昇時には、燃圧が高まるとともに燃料の流速が高くなる。
これに対して燃料噴射弁1Bでは、温度上昇に応じてワックス6が膨張することで、段階的な態様で拡大されている拡大室5の容積を外側ニードル4がさらに拡大する。このため燃料噴射弁1Bでは、澱み場の容積を変化させるにあたり、より大きな変化度合いが要求される高燃圧時であっても、流速変化に応じた素早い容積変化を可能にすることができる。そしてこれにより、高燃圧時であっても澱み場の容積を流速に見合った適切な大きさにすることができる。このため燃料噴射弁1Bでは低燃圧時から高燃圧時にかけて、適量のキャビテーション気泡を発生させることができる。さらに燃料噴射弁1Bは、外側ニードル4駆動用のアクチュエータや駆動回路や制御プログラムを必要としない分、燃料噴射弁1Aと比較してコスト的に有利な構成とすることができる。
【実施例3】
【0030】
本実施例に係る燃料噴射弁1Cについて図8を用いて説明する。燃料噴射弁1Cはノズルボディ11とノズルニードル12とを備えている。ノズルボディ11は概ね有底円筒状の部材であり、底部11aに噴孔11bを備えている。この点、燃料噴射弁1Cはマルチホールタイプの燃料噴射弁となっており、噴孔11bは周方向に沿って略等間隔で複数設けられている。噴孔11bは先端側に向かってテーパ状に拡径しており、且つ噴孔11bの中心軸線はノズルボディ11の中心軸線との間の距離が先端側に向かって次第に大きくなるように傾斜している。この結果、噴孔11bのうち、径方向外側に位置する壁面11baは、径方向内側に位置する壁面11bbよりもノズルボディ11の中心軸線に対する傾斜の度合いが大きくなっている。
【0031】
噴孔11b(より具体的には壁面11ba)の中間部には、収納部11bcが設けられている。収納部11bcは噴孔11bから径方向に沿って延伸している。収納部11bcは略一定の高さおよび幅を有している。収納部11bcの幅は、対応する噴孔11bの中間部の幅に合わせて設定されている。
収納部11bcには、可動式の隔壁13とスプリング14とが設けられている。隔壁13は収納部11bcと同等の高さ(厚み)および幅を有しており、収納部11bcに摺動自在に設けられている。また、隔壁13の先端は収納部11bcに完全に収納された状態で、壁面11baと面一の面を形成するよう、壁面11baに沿った形状に形成されている。スプリング14は収納部11bcのうち、隔壁13よりも径方向外側の部分に設けられている。
【0032】
ノズルボディ11のうち、収納部11bcの径方向外側の部分にはシリンダ部11cが設けられている。シリンダ部11cは収納部11bcと径方向同一軸線上に設けられており、収納部11bcの延伸方向に沿って円筒状に延伸している。
シリンダ部11cにはピストン部材15とワックス6とが設けられている。ピストン部材15は円柱状の部材であり、シリンダ部11cに摺動自在に設けられている。ワックス6はシリンダ部11cのうち、ピストン部材15よりも径方向内側の部分に設けられている。
隔壁13とピストン部材15とはロッド16で連結されている。収納部11bcとシリンダ部11cとはロッド16を摺動自在にするかたちで連通している。
【0033】
ノズルニードル12は概ね円柱状の部材であり、その中心軸線がノズルボディ11の中心軸線と一致するようにしてノズルボディ11内に設けられている。ノズルニードル12はノズルボディ11内を摺動することで、噴孔11bを開閉する。具体的にはノズルニードル12は後端側に向かって摺動することで噴孔11bを開き、先端側に向かって摺動することで噴孔11bを閉じる。すなわち、燃料噴射弁1Cは内開弁式の燃料噴射弁となっている。
【0034】
次に燃料噴射弁1Cの作用効果について説明する前に、まず隔壁13等を備えていない点以外、燃料噴射弁1Cと実質的に同一である燃料噴射弁1C´の場合について図9を用いて説明する。図9に示すように、燃料はノズルボディ11´およびノズルニードル12間を流通し、その後、噴孔11bに到達する。そしてこのとき燃料は噴孔11bに対して鋭角に流入する。このため、燃料は壁面11bbに強く押し付けられるとともに、噴孔11b内を壁面11bbに沿って流通しようとする。そしてこれにより、燃料の薄膜化が促進される。また燃料が噴孔11bに流入する際、噴孔11bの入口、且つ壁面11ba側の部分では燃料の剥離が発生する。このため、噴孔11b内、且つ壁面11ba側の部分が澱み場となる。
【0035】
かかる燃料の流動態様において、低燃圧である場合(燃料の流速が低い場合)には、澱み場で生成される渦流の回転速度が、流速が高い場合と比較して相対的に低くなる。したがってこの場合には、渦流の中心圧力の低下度合いが相対的に減少し、この結果、キャビテーション気泡の発生量が減少することになる。またこの場合には燃料の薄膜化も困難となり、この結果、燃料微粒化の促進効果が減少してしまうことになる。
【0036】
これに対して燃料噴射弁1Cでは、図10(a)に示すように機関冷間時の低温時にワックス6が収縮する。そしてこの結果、燃料噴射弁1Cでは隔壁13の先端がスプリング14の付勢力によって収納部11bcから突出した状態となる。そしてこれにより、澱み場の容積を縮小できることから、発生する渦流の回転速度を高めることができ、以って燃料噴射弁1C´と比較してより多くのキャビテーション気泡を発生させることができる。またこの場合には、噴孔11b内、且つ隔壁13よりも下流側(先端側)の部分に筒内からの空気の逆流が発生する。このためこの場合には、薄膜化された燃料の液膜厚さを維持することができ、以って薄膜化が阻害されることによる燃料微粒化の悪化も抑制できる。
【0037】
一方、温度上昇時にはワックス6が膨張するとともに隔壁13が後退し、最終的には図10(b)に示すように、隔壁13が収納部11bcに収納された状態となる。一方、温度上昇時には機関冷間時の低温時と比較して燃圧および燃料の流速が高まることから、より大きな澱み場を確保することで十分な量のキャビテーション気泡を発生させることができる。またキャビテーション気泡の発生量が十分なため、燃料の薄膜化も図ることができ、この結果、燃料微粒化を好適に促進することができる。
【0038】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
例えば上述した実施例1、2では、燃料噴射弁がホロコーン状の燃料噴霧を形成する外開弁式の燃料噴射弁1A、1Bである場合について説明した。これは、本発明の適用がかかる燃料噴射弁に対して構造上容易であることや、かかる燃料噴射弁は筒内直接燃料噴射に有利な構造を備えるが故に筒内直接燃料噴射用として用いられることが多く、この結果、より一層の燃料の微粒化が望まれることなどによるものである。しかしながら本発明においては必ずしもこれに限られず、燃料噴射弁はその他の適宜の燃料噴射弁であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 燃料噴射弁
2 ボディ
2a 噴孔
2b 底部
2ba 凹部
3 内側ニードル
4 外側ニードル
4a 先端部
4aa 凸部
5 拡大室
6 ワックス
11 ノズルボディ
12 ノズルニードル
13 隔壁
14 スプリング
15 ピストン部材
30 ECU
50 内燃機関

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴孔が形成されたボディと、
前記ボディ内を摺動することで、前記噴孔を開閉する内側ニードルと、
前記ボディ内、且つ前記内側ニードルの外側に設けられるとともに、前記噴孔の入口に前記ボディおよび前記内側ニードルとともに拡大室を形成し、前記ボディ内を摺動することによって容積変化する前記拡大室を、前記ボディとともに段階的な態様で拡大することが可能な形状に形成された外側ニードルと、
摺動方向において前記ボディと前記外側ニードルとの間に設けられ、前記拡大室の体積を温度に応じて可変にする熱膨張体と、を備えた燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−106321(P2011−106321A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261310(P2009−261310)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】