説明

燃料噴射装置

【課題】制御ピストン部材とノズル弁部材との間に形成される中間室への燃料のリークを抑制するとともに、燃料噴射の制御性を向上する燃料噴射装置の提供。
【解決手段】燃料噴射装置100は導入ポート25、排出ポート33及び噴孔14が形成される本体部10とノズルニードル50とコマンドピストン60とを備える。本体部10には、ノズルニードル50とコマンドピストン60との間にスプリング室18が形成され、コマンドピストン60のスプリング室18の反対側に制御室20が形成される。制御室20と排出ポート33との排出通路34には当該通路34と当該ポート33との連通、遮断を行う弁体86が設けられる。供給通路28には入口絞り30が設けられ、導入側通路32には入口絞り30に比べ通路面積が小さい導入側絞り32aが形成される。弁体86が開弁から閉弁状態に移行したとき、スプリング室18の圧力上昇が制御室20の圧力上昇よりも遅い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を噴射する燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料噴射装置の本体部に形成されるノズル室から内燃機関の燃焼室内に噴射する噴孔への燃料の供給を、軸方向に移動することにより断続するノズル弁部材と、ノズル弁部材の軸方向への移動を制御する制御ピストン部材とを有する燃料噴射装置が知られている(特許文献1参照)。ノズル弁部材と制御ピストン部材とが軸方向に並んで配置されている燃料噴射装置において、制御ピストン部材の噴孔とは反対側には制御室が形成され、制御ピストン部材とノズル弁部材との間には中間室が形成される。さらに、この燃料噴射装置は、制御室と排出口との連絡通路に設置され、開弁時に制御室と排出口とを連通し、閉弁時に制御室と排出口との連通を遮断する弁体を有する。この燃料噴射装置では、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、制御室から燃料を連絡通路を介して排出口から排出することで、制御室内の燃料圧力を低下させ、制御ピストン部材をノズル弁部材とは反対方向に移動させ、それによりノズル弁部材を噴孔が開放する方向(開弁方向)に移動させる。また、この燃料噴射装置では、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、制御室に供給される燃料によって制御室内の燃料圧力を上昇させ、制御ピストン部材をノズル弁部材方向に移動させ、それによりノズル弁部材を噴孔が閉塞する方向(閉弁方向)に移動させる。
【0003】
こういった燃料噴射装置では、弁体が閉弁状態となっているとき、制御ピストン部材と本体部との隙間より、制御室に供給された燃料が中間室へリークするという問題が発生する。この燃料噴射装置では、制御室だけでなく、中間室へも導入口を介して導入された燃料を供給するようにしている。これにより、弁体が閉弁状態にあるときに制御室及び中間室のそれぞれの圧力をほぼ同じとすることができるので、制御室から中間室への燃料リークを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−32681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような中間室への燃料リークを抑制する燃料噴射装置では、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、制御室の燃料だけが主に排出口より排出される。このため、制御室と中間室との圧力差により、制御ピストン部材には、開弁方向の推進力が発生し、ノズル弁部材の開弁方向への移動が促進され、比較的早くノズル弁部材が開弁方向に移動し始める。ところが、ノズル弁部材が、弁体による連絡通路の開弁が完了する前に開弁方向への移動を開始してしまうと、ノズル弁部材の開弁期間が弁体への噴射指令信号の長さ、つまり弁体の開弁期間に対応したものとならなくなるおそれがあり、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。このことを詳細に説明する。ここで、弁体は、噴射指令信号に応じて連絡通路を開閉するようになっている。しかし、噴射指令信号による閉弁指令が、開弁指令から短時間のうちに生じる場合がある。例えば、弁体が完全に開ききる前に閉弁指令が生じる場合と、弁体が完全に開ききってから閉弁指令が生じる場合がある。弁体が完全に開ききる前に閉弁指令が生じる場合では、閉弁指令が生じても弁体の慣性力により閉弁指令直後に閉弁方向には移動しない。一方、弁体が完全に開ききってから閉弁指令が生じる場合では、弁体は閉弁指令直後に閉弁方向に移動する。このように弁体が動作すると、閉弁指令が、弁体が完全に開ききる前に生じる場合の方が、弁体が完全に開ききってから生じる場合よりも、弁体の開弁期間が長くなる場合がある。つまり、弁体の開弁期間が噴射指令信号の長さに対応しなくなる。そうすると、弁体の開弁動作によって開放される連絡通路の開放時間が、噴射指令信号の長さに対応しなくなるので、制御室の圧力の低下期間も噴射指令信号の長さに対応しなくなる。以上により、ノズル弁部材の開弁期間、つまり燃料噴射量が、噴射指令信号の長さに対応しなくなり、燃料噴射の制御性が低下することとなる。
【0006】
また、上述した燃料噴射装置では、導入口に導入された燃料が中間室に供給されるようになっているため、ノズル弁部材が噴孔を開放しているとき、中間室の圧力は制御室よりも高い状態で維持される。よって、制御ピストン部材には開弁方向の推進力が発生するので、ノズル弁部材の閉弁方向への移動が妨げられることとなり、ノズル弁部材の閉弁方向への移動が遅れてしまうおそれがある。これでは、噴孔の閉塞後、直ぐに再び噴孔を開放させる場合、前の噴射における噴孔の閉塞完了時期と、次の噴射における噴孔の開放時期とが前後してしまい、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、制御ピストン部材とノズル弁部材との間に形成される中間室への燃料のリークを抑制するとともに、燃料噴射の制御性を向上する燃料噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、供給された燃料を噴孔から内燃機関の燃焼室に噴射する燃料噴射装置であって、
供給された燃料を導入する導入口、導入口に導入された燃料の一部を排出する排出口、及び噴孔が形成された本体部と、
本体部内に軸方向に移動可能に配置され、その軸方向の移動により噴孔を開閉するノズル弁部材と、
本体部内において、軸方向に沿ってノズル弁部材と並んで移動可能に配置され、ノズル弁部材の移動を制御する制御ピストン部材と、を備え、
本体部内には、ノズル弁部材と制御ピストン部材との間に中間室が形成され、制御ピストン部材の中間室と反対側には制御室が形成され、これら中間室及び制御室には、導入口を介して導入された燃料が供給され、
さらに、制御室と排出口との連絡通路に設置され、開弁時に制御室と排出口とを連通し、閉弁時に制御室と排出口との連通を遮断する弁体を有し、
弁体が、開弁状態から閉弁状態に移行したとき、制御室に供給される燃料によって制御室内の燃料圧力が上昇することに起因して、制御ピストン部材がノズル弁部材方向に移動し、それにより、ノズル弁部材が噴孔を閉塞するものであって、
導入口から制御室への燃料供給通路には、入口絞りが形成され、導入口から中間室への燃料供給通路には、入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が小さい供給絞りが形成され、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、中間室の圧力上昇が、制御室の圧力上昇よりも遅れることを特徴としている。
【0009】
本発明の燃料噴射装置によると、制御室及び中間室には導入口に導入された燃料が供給される。したがって、ノズル弁部材が噴孔を閉塞し、弁体が閉弁状態となっている場合、中間室及び制御室の圧力は、ほぼ同じとなるので、制御室から中間室への燃料のリークが抑制される。
【0010】
ここで、上述したように従来の燃料噴射装置では、噴孔が閉塞されており、弁体が閉弁状態となっている場合、制御室からの中間室への燃料のリークは抑制される。しかし、従来の燃料噴射装置では、ノズル弁部材が噴孔を開放しているとき、中間室の圧力は制御室よりも高い状態で維持されるので、制御ピストン部材にはノズル弁部材を開弁方向に引き上げる推進力(開弁方向の推進力)が発生する。この制御ピストン部材の開弁方向の推進力によると、ノズル弁部材の閉弁方向への移動が妨げられることとなるため、ノズル弁部材の閉弁方向への移動が遅れてしまうおそれがある。これでは、噴孔の閉塞後、直ぐに再び噴孔を開放させる場合、前の噴射における噴孔の閉塞完了時期と、次の噴射における噴孔の開放時期がとが前後してしまい、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。
【0011】
これに対し、本発明の燃料噴射装置によると、導入口から制御室への燃料供給通路には、入口絞りが形成され、導入口から中間室への燃料供給通路には、入口絞りよりも通路面積の小さい供給絞りが形成されている。このため、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、導入口から中間室に流入する燃料量を導入口から制御室に流入する燃料量よりも少なくすることができるので、中間室の圧力上昇が制御室の圧力上昇よりも遅れる。この両室の圧力上昇の違いにより、中間室の圧力が制御室の圧力よりも低下し、制御ピストン部材に閉弁方向の推進力が発生する。この制御ピストン部材の閉弁方向の推進力により、ノズル弁部材の閉弁方向への移動が促進される。このことにより、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したときから、ノズル弁部材による噴孔閉塞までの時間(ノズル弁部材の閉弁時間)を従来の燃料噴射装置に比べ短くすることができる。このため、前の噴射における噴孔の閉塞時期と、次の噴射における噴孔の開放時期とが前後することを抑制でき、燃料噴射の制御性が向上する。
【0012】
以上により、本発明によれば、制御ピストン部材とノズル弁部材との間に形成される中間室への燃料のリークを抑制するとともに、燃料噴射の制御性を向上することができる。
【0013】
請求項2の発明では、導入口から制御室への燃料供給通路において、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、導入口から排出口に向かって流れる燃料が入口絞りを通過する際、入口絞りによって燃料の流速が増加する部位から中間室へと分岐する分岐通路が、導入口から中間室への燃料供給通路として形成され、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、入口絞りを通過する燃料により発生するエジェクタ効果により、分岐通路を介して中間室内の燃料を吸い出すことを特徴としている。
【0014】
また、請求項5の発明では、制御室と排出口との連絡通路において弁体よりも制御室側には、入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が大きい出口絞りが形成され、連絡通路において、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、導入口から排出口へ向かって流れる燃料が出口絞りを通過する際、出口絞りによって燃料の流速が増加する部位から中間室へと分岐する分岐通路が、導入口から中間室への燃料供給通路として形成され、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、出口絞りを通過する燃料により発生するエジェクタ効果により、分岐通路を介して中間室内の燃料を吸い出すことを特徴としている。
【0015】
さらに、請求項8の発明では、制御室と排出口との連絡通路において弁体よりも制御室側には、入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が大きい出口絞りが形成され、導入口から制御室への燃料供給通路において、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、導入口から排出口に向かって流れる燃料が入口絞りを通過する際、入口絞りによって燃料の流速が増加する部位から中間室へと分岐する第1の分岐通路、及び連絡通路において、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、導入口から排出口へ向かって流れる燃料が出口絞りを通過する際、出口絞りによって燃料の流速が増加する部位から中間室へと分岐する第2の分岐通路が、導入口から中間室への燃料供給通路として形成され、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、入口絞り及び出口絞りを通過する燃料により発生するエジェクタ効果により、第1,2の分岐通路を介して中間室内の燃料を吸い出すことを特徴としている。
【0016】
ここで、上述したように従来の燃料噴射装置では、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、制御室の燃料だけが主に排出口より排出されるため、中間室の圧力は制御室の圧力よりも高い状態となる。このため、制御ピストン部材には、開弁方向の推進力が発生し、ノズル弁部材の開弁方向への移動が促進され、比較的早くノズル弁部材が開弁方向に移動し始める。ところが、ノズル弁部材が、弁体による連絡通路の開弁完了前に開弁方向への移動を開始してしまうと、ノズル弁部材の開弁期間、つまり噴孔から噴射される燃料噴射量が、燃料を噴射させるための噴射指令信号の長さに対応したものとならなくなるおそれがある。その結果、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。
【0017】
請求項2,5,8の燃料噴射装置では、弁体が閉弁状態から閉弁状態から開弁状態に移行したとき、導入口から排出口に向かって流れる燃料が入口絞り(請求項2,5)、及び出口絞り(請求項5,8)を通過する際、入口絞り及び出口絞りによって燃料の流速が増加する部位にエジェクタ効果が発生する。そして、これら請求項2,5,8の燃料噴射装置では、導入口から制御室への燃料供給通路、又は制御室から排出口への連絡通路において、入口絞り、又は出口絞りによって燃料の流速が増加する部位から中間室へと分岐する分岐通路(請求項8においては、第1,2の分岐通路)が形成されている。これらのことにより、中間室内の燃料が、入口絞り、又は出口絞りにより発生するエジェクタ効果により分岐通路を介して吸い出され、中間室の圧力が制御室よりも低下する。
【0018】
以上のようにして、弁体が開弁状態に移行したとき、中間室の圧力が制御室の圧力よりも低下するので、制御ピストン部材に、閉弁方向の推進力が発生することとなり、ノズル弁部材の開弁方向への移動が妨げられる。このことにより、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したときから、ノズル弁部材による噴孔の開放開始までの時間(ノズル弁部材の開弁時間)を従来の燃料噴射装置に比べ長くすることができる。これにより、弁体による開弁が完了する前にノズル弁部材が開弁方向へ移動するのを抑制することができる。その結果、燃料噴射量を噴射指令信号の長さに対応したものとすることができ、燃料噴射の制御性が向上する。
【0019】
特に、請求項8の燃料噴射装置では、入口絞り及び出口絞りにより発生するエジェクタ効果により、中間室内の燃料が二つの分岐通路を介して吸い出されるので、先の請求項2,5の燃料噴射装置よりも、中間室の圧力を低くすることができる。したがって、制御ピストン部材に発生する閉弁方向の推進力を、請求項2,5のものに比べ大きくすることができる。よって、ノズル弁部材の開弁時間を、請求項2,5のものに比べ長くすることができる。
【0020】
特に、請求項3の発明では、分岐通路は、入口絞りの形成部位から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。また、請求項6の発明では、分岐通路は、出口絞りの形成部位から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。さらに、請求項9の発明では、第1の分岐通路は、入口絞りの形成部位から中間室へと分岐する通路であり、第2の分岐通路は、出口絞りの形成部位から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。
【0021】
これらの発明に共通するのは、分岐通路が、入口絞り、又は出口絞りの形成部位から分岐している点である。入口絞り、又は出口絞りの形成部位では、当該絞りを燃料が通過することにより、燃料の流速が最も速くなる。したがって、発生するエジェクタ効果も最も大きくなる。入口絞り、又は出口絞りの形成部位から分岐通路を分岐するように構成することによれば、中間室内の燃料の吸出し効果を大きくすることができる。
【0022】
請求項4の発明では、制御室への燃料供給通路において入口絞りにおける制御室側の端部には、通路面積が入口絞りの通路面積よりも大きく、入口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される入口側拡大部が設けられ、分岐通路は、入口側拡大部の側面から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。
【0023】
また、請求項7の発明では、連絡通路において出口絞りにおける弁体側の端部には、通路面積が出口絞りの通路面積よりも大きく、出口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される出口側拡大部が設けられ、分岐通路は、出口側拡大部の側面から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。
【0024】
さらに、請求項10の発明では、制御室への燃料供給通路において入口絞りにおける制御室側の端部には、通路面積が入口絞りの通路面積よりも大きく、入口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される入口側拡大部が設けられ、連絡通路において出口絞りにおける弁体側の端部には、通路面積が出口絞りの通路面積よりも大きく、出口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される出口側拡大部が設けられ、第1の分岐通路は、入口側拡大部の側面から中間室へと分岐する通路であり、第2の分岐通路は、出口側拡大部の側面から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。
【0025】
これらの発明に共通するのは、分岐通路が、入口側拡大部の側面、又は出口側拡大部の側面から分岐している点である。入口側拡大部及び出口側拡大部のそれぞれの通路面積は、それぞれ入口絞りの通路面積よりも大きく、出口絞りの通路面積よりも大きくなっている。このため、入口側拡大部及び出口側拡大部の各径方向の長さは、それぞれ入口絞りの径方向及び出口絞りの径方向の長さよりも長くなる。ゆえに、分岐通路の接続可能領域が、入口絞り及び出口絞りの分岐通路の接続可能領域よりも大きくなる。したがって、制御室への燃料供給通路又は連絡通路に対する分岐通路の接続が、分岐通路を入口絞り形成部位又は出口絞り形成部位に接続するよりも容易となる。
【0026】
また、請求項8〜10の発明では、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、第1,2の分岐通路の両通路から燃料が中間室に供給されることとなるため、中間室の圧力が制御室よりも低い状態を長期間維持することができないおそれがある。これでは、ノズル弁部材の閉弁時間の短縮が困難となる可能性がある。
【0027】
これに対し、請求項11の発明では、第1の分岐通路に、中間室に向かう燃料流れを禁止するとともに、制御室への燃料供給通路に向かう燃料流れを許容する逆止弁が設置されることを特徴としている。
【0028】
また、請求項12の発明では、第2の分岐通路に、中間室に向かう燃料流れを禁止するとともに、制御室と排出口との連絡通路に向かう燃料流れを許容する逆止弁が設置されることを特徴としている。
【0029】
これらの発明によれば、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、第1,2の分岐通路のうち、逆止弁が設けられていない通路のみから、燃料が、中間室に供給されることとなる。これにより、請求項8〜10の発明のように第1,2の分岐通路を設けた燃料噴射装置であっても、中間室の圧力が制御室よりも低い状態を極力長く維持することができるとともに、ノズル弁部材の閉弁時間を従来の燃料噴射装置に比べ短くすることができる。
【0030】
請求項1〜12の発明の燃料噴射装置によると、弁部材が開弁状態から閉弁状態に移行するとき、及び閉弁状態から開弁状態に移行するとき、制御ピストン部材にはノズル弁部材に向かう推進力が発生するので、制御ピストン部材はノズル弁部材に押し付けられ、これらは一体に移動することとなる。しかし、弁体が閉弁状態に移行し、ノズル弁部材が噴孔を閉塞すると、制御室と中間室の圧力はほぼ同じとなるので、制御ピストン部材に発生する推進力が弱まる。そうすると、制御ピストン部材とノズル弁部材とが離れてしまうおそれがある。この状態で、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行すると、ノズル弁部材の移動が不安定となり、噴孔からの燃料噴射特性がばらつき、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。
【0031】
これに対し、請求項13の発明では、制御ピストン部材をノズル弁部材に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴としている。これにより、制御ピストン部材はノズル弁部材に押し付けられることとなる。この付勢手段の押し付け作用によれば、弁体が閉弁状態に移行し、ノズル弁部材が噴孔を閉塞した後であっても、制御ピストン部材とノズル弁部材との当接を維持することができる。その結果、ノズル弁部材の移動を安定させることができるので、噴孔からの燃料噴射特性のばらつきを抑制することができ、燃料噴射の制御性が向上する。
【0032】
請求項14の発明では、供給された燃料を噴孔から内燃機関の燃焼室に噴射する燃料噴射装置であって、
供給された燃料を導入する導入口、導入口に導入された燃料の一部を排出する排出口、及び噴孔が形成された本体部と、
本体部内に軸方向に移動可能に配置され、その軸方向の移動により噴孔を開閉するノズル弁部材と、
本体部内において、軸方向に沿ってノズル弁部材と並んで移動可能に配置され、ノズル弁部材の移動を制御する制御ピストン部材と、を備え、
本体部内には、ノズル弁部材と制御ピストン部材との間に中間室が形成され、制御ピストン部材の中間室と反対側には制御室が形成され、これら中間室及び制御室には、導入口を介して導入された燃料が供給され、
さらに、制御室と排出口との連絡通路に設置され、開弁時に制御室と排出口とを連通し、閉弁時に制御室と排出口との連通を遮断する弁体を有し、
弁体が、閉弁状態から開弁状態に移行したとき、制御室が排出口に連通することによって制御室内の燃料圧力が低下することに起因して、制御ピストン部材が制御室の方向に移動し、それにより、ノズル弁部材が噴孔を開放するものであって、
導入口から制御室への燃料供給通路、及び制御室と排出口との連絡通路において弁体よりも制御室側の少なくとも一方には、絞り部が形成されており、
導入口から制御室への燃料供給通路、及び連絡通路のうち、絞り部が形成された通路において、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、導入口から排出口に向かって流れる燃料が絞り部を通過する際、絞り部によって燃料の流速が増加する部位から中間室へと分岐する分岐通路が、導入口から中間室への燃料供給通路として本体部に形成され、
弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、絞り部を通過する燃料により発生するエジェクタ効果により、中間室内の燃料を吸い出すことを特徴としている。
【0033】
請求項14の発明の燃料噴射装置によると、弁体が閉弁状態となっている場合、制御室及び中間室には導入口に導入された燃料が供給されるので、ノズル弁部材が噴孔を閉弁する。また、この場合、中間室及び制御室の圧力は、ほぼ同じとなる。よって、制御室から中間室への燃料のリークは抑制される。
【0034】
ここで、上述したように従来の燃料噴射装置では、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、制御室の燃料だけが主に排出口より排出されるため、中間室の圧力は制御室の圧力よりも高い状態となる。このため、制御ピストン部材には、開弁方向の推進力が発生し、ノズル弁部材の開弁方向への移動が促進され、比較的早くノズル弁部材が開弁方向に移動し始める。ところが、ノズル弁部材が、弁体による連絡通路の開弁完了前に開弁方向への移動を開始してしまうと、ノズル弁部材の開弁期間、つまり噴孔から噴射される燃料噴射量が、燃料を噴射させるための噴射指令信号の長さに対応したものとならなくなるおそれがある。その結果、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。
【0035】
これに対し、請求項14の燃料噴射装置では、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、導入口から排出口に向かって流れる燃料が絞り部を通過する際、当該絞り部によって燃料の流速が増加する部位にエジェクタ効果が発生する。そして、本発明の燃料噴射装置では、導入口から制御室への燃料供給通路、及び制御室から排出口への連絡通路のうち、絞り部が形成された通路において、絞り部によって燃料の流速が増加する部位から中間室へと分岐する分岐通路が本体部に形成されている。これらのことにより、中間室内の燃料が絞り部により発生するエジェクタ効果により吸い出され、中間室の圧力が制御室よりも低下する。
【0036】
以上のようにして、弁体が開弁状態に移行したとき、中間室の圧力が制御室の圧力よりも低下するので、制御ピストン部材に、閉弁方向の推進力が発生することとなり、ノズル弁部材の開弁方向への移動が妨げられる。このことにより、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したときから、ノズル弁部材による噴孔の開放開始までの時間(ノズル弁部材の開弁時間)を従来の燃料噴射装置に比べ長くすることができる。これにより、弁体による開弁が完了する前にノズル弁部材が開弁方向へ移動するのを抑制することができる。その結果、燃料噴射量を噴射指令信号の長さに対応したものとすることができ、燃料噴射の制御性が向上する。
【0037】
したがって、請求項14の発明によれば、弁体が閉弁状態となっている場合の中間室への燃料のリークを抑制するとともに、燃料噴射による制御性を向上することができる。
【0038】
特に、請求項15の発明では、絞り部は、導入口から制御室への燃料供給通路に形成される入口絞りであり、分岐通路は、入口絞りの形成部位から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。また、請求項18の発明では、絞り部は、制御室と排出口との連絡通路において弁体よりも制御室側に形成される出口絞りであって、分岐通路は、出口絞りの形成部位から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。さらに、請求項21の発明では、絞り部は、導入口から制御室への燃料供給通路に形成される入口絞り、及び制御室と排出口との連絡通路において弁体よりも制御室側に形成され、入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が大きい出口絞りであり、分岐通路は、入口絞りの形成部位から中間室へと分岐する第1の分岐通路、及び出口絞りの形成部位から中間室へと分岐する第2の分岐通路であることを特徴としている。
【0039】
これらの発明に共通するのは、分岐通路が、入口絞り、又は出口絞りの形成部位から分岐している点である。入口絞り、又は出口絞りの形成部位では、当該絞りを燃料が通過することにより、燃料の流速が最も速くなる。したがって、発生するエジェクタ効果も最も大きくなる。入口絞り、又は出口絞りの形成部位から分岐通路を分岐するように構成することによれば、中間室内の燃料の吸出し効果を大きくすることができる。
【0040】
請求項16の発明では、絞り部は、導入口から制御室への燃料供給通路に形成される入口絞りであり、導入口から制御室への燃料供給通路において入口絞りにおける制御室側の端部には、通路面積が入口絞りの通路面積よりも大きく、入口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される入口側拡大部が設けられ、分岐通路は、入口側拡大部の側面から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。
【0041】
また、請求項19の発明では、絞り部は、制御室と排出口との連絡通路において弁体よりも制御室側に形成される出口絞りであって、連絡通路において出口絞りにおける弁体側の端部には、通路面積が出口絞りの通路面積よりも大きく、出口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される出口側拡大部が設けられ、分岐通路は、出口側拡大部の側面から中間室へと分岐する通路であることを特徴としている。
【0042】
さらに、請求項22の発明では、絞り部は、導入口から制御室への燃料供給通路に形成される入口絞り、及び制御室と排出口との連絡通路において弁体よりも制御室側に形成され、入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が大きい出口絞りであり、導入口から制御室への燃料供給通路において入口絞りにおける制御室側の端部には、通路面積が入口絞りの通路面積よりも大きく、入口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される入口側拡大部が設けられるとともに、連絡通路において出口絞りにおける弁体側の端部には、通路面積が出口絞りの通路面積よりも大きく、出口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される出口側拡大部が設けられ、分岐通路は、入口側拡大部の側面から中間室へと分岐する第1の分岐通路、及び出口側拡大部の側面から中間室へと分岐する第2の分岐通路であることを特徴としている。
【0043】
これらの発明に共通するのは、分岐通路が、入口側拡大部の側面、又は出口側拡大部の側面から分岐している点である。入口側拡大部及び出口側拡大部のそれぞれの通路面積は、それぞれ入口絞りの通路面積よりも大きく、出口絞りの通路面積よりも大きくなっている。このため、入口側拡大部及び出口側拡大部の各径方向の長さは、それぞれ入口絞りの径方向及び出口絞りの径方向の長さよりも長くなる。ゆえに、分岐通路の接続可能領域が、入口絞り及び出口絞りの分岐通路の接続可能領域よりも大きくなる。したがって、制御室への燃料供給通路又は連絡通路に対する分岐通路の接続が、分岐通路を入口絞り形成部位又は出口絞り形成部位に接続するよりも容易となる。
【0044】
また、請求項21,22の燃料噴射装置では、入口絞り及び出口絞りにより発生するエジェクタ効果により、中間室内の燃料が二つの分岐通路を介して吸い出されるので、先の請求項15,16,18,19の燃料噴射装置よりも、中間室の圧力を低くすることができる。したがって、制御ピストン部材に発生する閉弁方向の推進力を、請求項15,16,18,19のものに比べ大きくすることができる。よって、ノズル弁部材の開弁時間を、請求項15,16,18,19のものに比べ長くすることができる。
【0045】
ここで、上述したように従来の燃料噴射装置では、ノズル弁部材が噴孔を開放しているとき、中間室の圧力は制御室よりも高い状態で維持されるので、制御ピストン部材には開弁方向の推進力が発生する。この制御ピストン部材の開弁方向の推進力によると、ノズル弁部材の閉弁方向への移動が妨げられることとなるため、ノズル弁部材の閉弁方向への移動が遅れてしまうおそれがある。これでは、噴孔の閉塞後、直ぐに再び噴孔を開放させる場合、前の噴射における噴孔の閉塞完了時期と、次の噴射における噴孔の開放時期とが前後してしまい、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。
【0046】
これに対し、請求項17の燃料噴射装置によると、入口絞りの形成部位、又は入口側拡大部の側面から分岐する分岐通路には、入口絞りに比較して、絞り部分の面積が小さい供給絞りが形成されている。また、請求項20の燃料噴射装置によると、出口絞りの形成部位、又は出口側拡大部の側面から分岐する分岐通路には、入口絞りに比較して、絞り部分の面積が小さい供給絞りが形成されている。さらに、請求項23の燃料噴射装置によると、入口絞りの形成部位、又は入口側拡大部の側面から分岐する第1の分岐通路、及び出口絞りの形成部位、又は出口側拡大部の側面から分岐する第2の分岐通路のそれぞれには、入口絞りに比較して、絞り部分の面積が小さい供給絞りが形成されている。
【0047】
これらのことによれば、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、導入口から中間室に流入する燃料量を導入口から制御室に流入する燃料量よりも少なくすることができるので、中間室の圧力上昇が制御室の圧力上昇よりも遅れる。この両室の圧力上昇の違いにより、中間室の圧力が制御室の圧力よりも低下し、制御ピストン部材には閉弁方向の推進力が発生する。この制御ピストン部材の閉弁方向の推進力により、ノズル弁部材の閉弁方向への移動が促進される。このことにより、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したときから、ノズル弁部材による噴孔閉塞までの時間(ノズル弁部材の閉弁時間)を従来の燃料噴射装置に比べ短くすることができる。このため、前の噴射における噴孔の閉塞時期と、次の噴射における噴孔の開放時期とが前後することを抑制でき、燃料噴射の制御性が向上する。
【0048】
特に、請求項21,22の発明では、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、第1,2の分岐通路の両通路から燃料が中間室に供給されることとなるため、中間室の圧力が制御室よりも低い状態を長期間維持することができないおそれがある。これでは、ノズル弁部材の閉弁時間の短縮が困難となる可能性がある。
【0049】
これに対し、請求項24の発明では、第1の分岐通路に、中間室に向かう燃料流れを禁止するとともに、制御室への燃料供給通路に向かう燃料流れを許容する逆止弁が設置されることを特徴としている。
【0050】
また、請求項25の発明では、第2の分岐通路に、中間室に向かう燃料流れを禁止するとともに、制御室と排出口との連絡通路に向かう燃料流れを許容する逆止弁が設置されることを特徴としている。
【0051】
これらの発明によれば、弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、第1,2の分岐通路のうち、逆止弁が設けられていない通路のみから、燃料が、中間室に供給されることとなる。これにより、請求項21,22の発明のように第1,2の分岐通路を設けた燃料噴射装置であっても、中間室の圧力が制御室よりも低い状態を極力長く維持することができ、ノズル弁部材の閉弁時間を従来の燃料噴射装置に比べ短くすることができる。
【0052】
請求項14〜25の発明の燃料噴射装置によると、弁部材が開弁状態から閉弁状態に移行するとき、及び閉弁状態から開弁状態に移行するとき、制御ピストン部材にはノズル弁部材に向かう推進力が発生するので、制御ピストン部材はノズル弁部材に押し付けられ、これらは一体に移動することとなる。しかし、弁体が閉弁状態に移行し、ノズル弁部材が噴孔を閉塞すると、制御室と中間室の圧力はほぼ同じとなるので、制御ピストン部材に発生する推進力が弱まる。そうすると、制御ピストン部材とノズル弁部材とが離れてしまうおそれがある。この状態で、弁体が閉弁状態から開弁状態に移行すると、ノズル弁部材の移動が不安定となり、噴孔からの燃料噴射特性がばらつき、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。
【0053】
これに対し、請求項26の発明では、制御ピストン部材をノズル弁部材に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴としている。これにより、制御ピストン部材はノズル弁部材に押し付けられることとなる。この付勢手段の押し付け作用によれば、弁体が閉弁状態に移行し、ノズル弁部材が噴孔を閉塞した後であっても、制御ピストン部材とノズル弁部材との当接を維持することができる。その結果、ノズル弁部材の移動を安定させることができるので、噴孔からの燃料噴射特性のばらつきを抑制することができ、燃料噴射の制御性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態による燃料噴射装置において、噴孔が閉塞されている状態を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による燃料噴射装置において、噴孔が開放されている状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による燃料噴射装置において、供給通路と入口絞り側通路内の圧力変化及び燃料流速の様子を説明する説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態による燃料噴射装置の制御弁、コマンドピストン、及びノズルニードルの作動の様子、並びに制御室、ノズル室、及びスプリング室の圧力の様子を説明する説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態の変形例による燃料噴射弁の一部を拡大した断面を示す部分断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態による燃料噴射装置において、噴孔が閉塞されている状態を示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態による燃料噴射装置において、排出通路と出口絞り側通路内の圧力変化及び燃料流速の様子を説明する説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態の変形例による燃料噴射弁の一部を拡大した断面を示す部分断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態による燃料噴射装置において、噴孔が閉塞されている状態を示す断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態の変形例による燃料噴射装置において、噴孔が閉塞されている状態を示す断面図である。
【図11】本発明の第3実施形態による変形例による燃料噴射弁において、入口絞り付近及び出口絞り付近を拡大した断面を示す部分断面図である。
【図12】比較例による燃料噴射装置において、噴孔が閉塞されている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0056】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1〜図4、及び図12を用いて説明する。図1は、第1実施形態による燃料噴射装置100において、噴孔14が閉塞している状態を示す断面図である。
【0057】
燃料噴射装置100は、液化ガスの一種であるDME(ジメチルエーテル)を燃料とした内燃機関(図示せず)の燃焼室に当該燃料を噴射する装置である。燃料噴射装置100は、内燃機関の燃焼室を形成する気筒ごとに装着されている。燃料噴射装置100は、電子制御装置(図示せず)からの噴射指令信号に基づいて燃料噴射を制御する。
【0058】
ここで、DMEについて説明する。DMEは、天然ガスや石炭層ガス、石炭、バイオマスを原料に合成されたものであり、炭素同士を酸素によって結合するエーテル結合を有する。DMEは、軽油に比べセタン価が高く、軽油と異なり、燃焼しても粒子状物質(PM)発生が少ない。DMEは、常温・常圧で気体となるものであるため、内燃機関に燃料として供給するときにはある程度圧力を高めた上で使用する。しかし、DMEは、軽油に比べ粘度が低いという特性を有しているので、燃料噴射装置内での燃料のリーク量が軽油に比べ比較的多い。また、DMEは、単位体積当たりの発熱量が軽油に比べ低いため、燃料として軽油と同等の出力を内燃機関に発生させる場合には、燃料噴射量を多くする必要がある。
【0059】
燃料噴射装置100は、本体部10、ノズルニードル50、コマンドピストン60、スプリング70、制御弁80等から構成されている。
【0060】
本体部10は、ノズルニードル50、コマンドピストン60、スプリング70及び制御弁80を内部に収容し、燃料噴射装置100の外殻を形成する。本体部10は、燃料噴射装置100の内部に燃料を導入する導入ポート25及び導入ポート25から導入された燃料の一部を燃料噴射装置100から排出する排出ポート33を備える。導入ポート25には、例えばコモンレール等の高圧燃料源に蓄積された燃料が供給される。高圧燃料源には、高圧ポンプによって高圧化した燃料が供給される様になっている。排出ポート33には燃料タンクへ通じる燃料配管が接続されており、排出ポート33から排出された燃料はこの燃料配管と通じて燃料タンクに戻る。図1に示すように、本体部10に形成される軸方向に延びる収容孔12は、ノズルニードル50及びコマンドピストン60を軸方向に並んで支持する。これにより、ノズルニードル50及びコマンドピストン60のそれぞれは、軸方向に移動が可能となる。さらに、本体部10には、ノズルニードル50側の端部に内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する噴孔14が形成されている。
【0061】
本体部10には、ノズルニードル50の噴孔14側に、導入ポート25に導入された燃料をノズルニードル50の端部50aに作用させるノズル室16が形成される。また、本体部10には、ノズルニードル50とコマンドピストン60との間に、ノズルニードル50におけるコマンドピストン60側の端部50b及びコマンドピストン60におけるノズルニードル50側の端部60aに導入ポート25に導入された燃料を作用させるスプリング室18が形成される。さらに、本体部10には、コマンドピストン60のノズルニードル50とは反対側に、導入ポート25に導入された燃料をコマンドピストン60におけるノズルニードル50とは反対側の端部60bに作用させる制御室20が形成される。
【0062】
本体部10は、導入ポート25の燃料をノズル室16に供給するための高圧燃料通路26、導入ポート25の燃料をスプリング室18に供給するための導入側通路32、導入ポート25の燃料を制御室20に供給するための供給通路28を有する。これにより、導入ポート25に導入された燃料は、各通路26,28,32を通じて、ノズル室16、スプリング室18、制御室20に供給される。なお、導入側通路32は、供給通路28から分岐した通路であり、供給通路28に形成される入口絞り30の内壁に開口する部位に、導入側絞り32aを有する。入口絞り30の通路面積は、供給通路28における入口絞り30以外の部位の通路面積よりも小さい。また、導入側絞り32aの通路面積は、入口絞り30の通路面積よりも小さい。また、ノズルニードル50が軸方向に移動して、収容孔12の内壁に設けられた弁座部42に対してノズルニードル50の先端が離接することにより、ノズル室16と噴孔14との連通、非連通が制御される。また、供給通路28は、入口絞り30を有する。
【0063】
スプリング室18には、供給通路28から分岐した導入側通路32を介して導入ポート25に導入された燃料が供給される。
【0064】
制御室20には、供給通路28を介して導入ポート25に導入された燃料が供給される。また、制御室20には、当該制御室20の燃料を排出ポート33から排出するための排出通路34が接続されている。排出通路34の排出ポート33側の端部には弁室22が接続され、その弁室22には、リターン通路40が接続されている。これにより、制御室20から排出通路34を通じて排出された燃料は、弁室22,リターン通路40を通じて排出ポート33から排出される。また、排出通路34は、供給通路28と同様に、出口絞り36を有する。出口絞り36の通路面積は、排出通路34における出口絞り36以外の部位の通路面積よりも小さく、かつ、入口絞り30の通路面積よりも大きい。これにより、排出通路34の出口38が開放されるとき、出口絞り36を通過する燃料の流量が入口絞り30を通過する燃料の流量よりも多くなる。このように、入口絞り30及び出口絞り36の通路面積が設定されているので、排出通路34の出口38が開放されると、制御室20は、供給される燃料の圧力よりも低い圧力まで低下して入口絞り30と出口絞り36を通過する燃料流量は同じとなり制御室の圧力は安定することとなる。コマンドピストン60の端部60bには、制御室20の燃料の圧力に応じた圧力が作用することとなる。
【0065】
ノズルニードル50は、軸方向へ移動することにより噴孔14を開閉することで噴孔14からの燃料噴射を制御するものであり、ノズル室16側に配置される弁部52と、スプリング室18側に配置される摺動軸部56とを有する。弁部52は先端に向かうほど径が小さくなる部位を有しており、その弁部52の当該部位には、弁座部42と離接するシート部54が形成されている。摺動軸部56を支持する収容孔12の内壁と、摺動軸部56の外壁との間には、微小な隙間が形成される。これにより、ノズルニードル50は、収容孔12内で軸方向に移動することが可能となる。摺動軸部56の直径は、弁部52の直径よりも大きい。また、摺動軸部56の端部50bは、スプリング室18に収容されるスプリング70の一方の端部を支持する。
【0066】
ノズルニードル50が閉弁方向に移動することにより、シート部54が弁座部42に当接すると、ノズル室16と噴孔14とが非連通状態となる。このため、噴孔14が閉塞され、噴孔14からの燃料噴射が停止される。ノズルニードル50が開弁方向に移動し、シート部54が弁座部42から離れると、ノズル室16と噴孔14とが連通状態となる。このため、噴孔14が開放され、噴孔14から燃料が噴射される。
【0067】
スプリング室18に収容されるスプリング70は、コイルスプリングである。スプリング70の一方の端部は、ノズルニードル50に支持され、他方の端部は、スプリング室18に形成された段差部44に支持される。スプリング70は、圧縮された状態でスプリング室18に収容されているので、常にノズルニードル50を所定の付勢力で閉弁方向、即ち弁部52のシート部54が弁座部42に当接することにより噴孔14を閉塞させる方向に付勢する。
【0068】
コマンドピストン60は、ノズルニードル50の軸方向の移動を制御するものであり、スプリング室18側に配置される連結部62と、制御室20側に配置されるピストン部64とを有する。連結部62の直径は、ピストン部64の直径に比べ小さい。連結部62は、スプリング70を貫くように配置され、先端がノズルニードル50に当接可能となっている。ピストン部64を支持する収容孔12の内壁と、ピストン部64の外壁との間には、微小な隙間が形成される。これにより、コマンドピストン60は、収容孔12内で軸方向に移動することが可能となる。なお、本実施形態では、連結部62とノズルニードル50の摺動軸部56とは機械的に連結されてはいない。したがって、コマンドピストン60とノズルニードル50とはそれぞれ原理的には分離して軸方向に移動することが可能である。また、連結部62のノズルニードル50側の端部、及びピストン部64のノズルニードル50側の端部には、スプリング室18の燃料の圧力が作用する。これら連結部62のノズルニードル50側の端部、及びピストン部64のノズルニードル50側の端部によってコマンドピストン60の端部60aが形成される。また、ピストン部64の制御室20側の端部60bには、制御室20の燃料の圧力が作用する。
【0069】
制御弁80は、排出通路34に対して制御室20とは反対側に配置され、電子制御装置からの噴射指令信号に基づき、排出通路34の出口38を開放及び閉塞することにより、制御室20の圧力を制御する。具体的には、図4に示すように、噴射指令信号がオンすることにより、制御弁80の弁体86は、排出通路34の出口38を開放し、制御室20と排出ポート33とを連通する。また、噴射指令信号がオフすることにより、弁体86は、出口38を閉塞し、制御室20と排出ポート33との連通を遮断する。制御弁80は、本体部10に内蔵され、ソレノイドコイル82、アーマチャ84、スプリング88等から構成されている。
【0070】
ソレノイドコイル82は、上記噴射指令信号がオンすることにより通電されて磁気吸引力を発生する。アーマチャ84は、ソレノイドコイル82に発生した磁気吸引力により、排出通路34の出口38を開放する方向に吸引される。アーマチャ84の先端には、排出通路34の出口38を開放及び閉塞する弁体86が設けられている。弁体86は、本体部10に形成される弁室22に収容されており、軸方向に移動する。ソレノイドコイル82に磁気吸引力が発生すると、アーマチャ84は吸引される。アーマチャ84は、ソレノイドコイル82に当接するまで軸方向に移動する。弁室22は、燃料噴射装置100の排出ポート33に通じるリターン通路40に接続されている。弁体86が出口38とは反対側に向かって軸方向に移動すると、出口38が開放され(閉弁状態から開弁状態への移行)、制御室20の燃料は排出通路34を通じて弁室22に排出される。その燃料は、リターン通路40を介し排出ポート33から排出される。出口絞り36の通路面積は、入口絞り30の通路面積よりも大きいため、供給通路28を通じて導入ポート25からの燃料が制御室20に供給されても、制御室20から排出される燃料量の方が多くなる。制御室20の圧力は、出口38が弁体86により閉塞されている状態の制御室20の圧力よりも低下することとなる。弁体86が出口38に向かって移動することにより、出口38が閉塞されると(開弁状態から閉弁状態への移行)、制御室20から排出通路34を介して弁室22への燃料の排出が停止される。これにより、供給通路28を介して制御室20に流入した燃料は制御室20に蓄積されることとなる。その結果、制御室20の圧力は、高圧燃料源の圧力とほぼ同じ圧力にまで回復する。スプリング88は、アーマチャ84において弁体86とは反対側に配置され、出口38を閉塞する方向にアーマチャ84を付勢する。これによれば、ソレノイドコイル82への通電が停止され磁気吸引力が発生していないとき、弁体86は出口38を閉塞する。
【0071】
以上、本実施形態の燃料噴射装置100の構造について説明した。次に、この燃料噴射装置100の作動について図1に加え、図2〜図4、及び下記の式(1),(2)を用いて説明する。図2は、燃料噴射装置100において、噴孔14が開放している状態を示す断面図である。図3は、燃料噴射装置100において、供給通路28と導入側通路32内の圧力変化及び燃料流速の様子を説明する説明図である。図4は、燃料噴射装置100の制御弁80、コマンドピストン60及びノズルニードル50の作動の様子、並びに制御室20、ノズル室16、及びスプリング室18の圧力の様子を説明する説明図である。
【0072】
燃料噴射装置100の作動を説明する前に、各室16、18、20の圧力と、ノズルニードル50、及びコマンドピストン60において各室16、18、20の圧力が作用する部位の受圧面積とを以下のように定義する。制御室20の圧力を制御室圧Pcc(>0)、スプリング室18の圧力をスプリング室圧Psp(>0)、ノズル室16の圧力をノズル室圧Pd(>0)とする。そして、ノズルニードル50において、シート部54が弁座部42に当接しているときにノズル室16の圧力が作用せず、シート部54が弁座部42から離れているときにノズル室16の圧力が作用する部位の面積を受圧面積Aseat(>0)とする。また、ノズルニードル50において、スプリング室圧Pspが作用する部位の面積を受圧面積Ag(>0)とする。受圧面積Aseatは、受圧面積Agと比較して小さい値となっている。これは、シート部54が、摺動軸部56の径よりも小さい弁部52に形成されているからである。また、コマンドピストン60において、スプリング室圧Pspが作用する部位の面積、及びコマンドピストン60において、制御室圧Pccが作用する部位の面積を受圧面積Ap(>0)とする。また、スプリング70がノズルニードル50を付勢するときの力を付勢力Fk(>0)とする。さらに、本実施形態では、Ag<Apが成り立つように、ノズルニードル50の摺動軸部56の径よりもコマンドピストン60のピストン部64の径を大きく設定する。
【0073】
まず、ノズルニードル50及びコマンドピストン60に発生する推進力等について説明する。ノズルニードル50の開弁方向への移動、及び閉弁方向への移動は、下記の式(1),(2)の左辺と右辺の大小により決定される。
【0074】
式(1)は、ノズルニードル50が噴孔14を閉塞している状態から開弁方向に移動する状態に移行するときの条件を示しており、式(2)は、ノズルニードル50が噴孔14を開放している状態から閉弁方向に移動する状態に移行するときの条件を示している。
【0075】
Ap(Pcc−Psp)+Fk<(Ag−Aseat)Pd−AgPsp・・・(1)
上記式(1)が成立すると、ノズルニードル50は開弁方向に移動し始める。この式(1)の左辺は、コマンドピストン60に発生する推進力と、スプリング70の付勢力との合力である。式(1)の右辺は、燃料の圧力が作用することによりノズルニードル50に発生する推進力である。式(1)において、左辺よりも右辺が大きくなると、ノズルニードル50は閉弁状態から開弁方向に移動し始める。また、Ap(Pcc−Psp)が、正となっていればコマンドピストン60には閉弁方向の推進力が発生しており、負となっていればコマンドピストン60には開弁方向の推進力が発生していることを意味する。また、(Ag−Aseat)Pd−AgPspが、正となっていればノズルニードル50には開弁方向の推進力が発生しており、負となっていればノズルニードル50には閉弁方向の推進力が発生していることを意味する。
【0076】
Ap(Pcc−Psp)+Fk>AgPd−AgPsp・・・(2)
上記式(2)が成立すると、ノズルニードル50は閉弁方向に移動し始める。この式(2)の左辺は、コマンドピストン60に発生する推進力と、スプリング70の付勢力との合力である。式(2)の右辺は、燃料の圧力が作用することによりノズルニードル50に発生する推進力である。式(2)において、右辺よりも左辺が大きくなると、ノズルニードル50は開弁状態から閉弁方向に移動し始める。また、AgPd−AgPspが、正となっていればノズルニードル50には開弁方向の推進力が発生しており、負となっていればノズルニードル50には閉弁方向の推進力が発生していることを意味する。
【0077】
ここで、従来技術に相当する比較例による燃料噴射装置400の構造及び作動について図12及び図4を用いて説明する。図12に示すように、この比較例の燃料噴射装置400は、本実施形態の燃料噴射装置100の導入側通路32を有しておらず、高圧燃料通路26から分岐した分岐通路410を有している。分岐通路410は、高圧燃料通路26の燃料をスプリング室18に供給する通路である。この分岐通路410により、スプリング室18には、常に、高圧燃料源からの燃料が供給されることとなる。また、この燃料噴射装置400において、コマンドピストン60の連結部62はノズルニードル50とコネクタ等により機械的に接続されている。燃料噴射装置400において、本実施形態の燃料噴射装置100の符号と同じ部位は、本実施形態の燃料噴射装置100の部位と同じものとする。
【0078】
電子制御装置から噴射指令信号が制御弁80に入力されていない状態では、ソレノイドコイル82は非通電の状態となっているので、ソレノイドコイル82に磁気吸引力は発生していない。よって、弁体86は、閉弁状態となっており、排出通路34の出口38を閉塞する。
【0079】
このとき、供給通路28には、コモンレール等の高圧燃料源から燃料が流入しているので、ノズル室圧Pd、スプリング室圧Psp及び制御室圧Pccは、高圧燃料源の圧力Pcとほぼ同じとなる(Pc=Pd=Psp=Pcc)。このとき、式(1)の左辺のうち、Ap(Pcc−Psp)はほぼ0となり、コマンドピストン60にはほとんど推進力が発生しない。一方、式(1)の右辺は、−AseatPd(<0)となる。したがって、式(1)の左辺は、右辺よりも大きくなるため、ノズルニードル50は開弁方向に移動せず、シート部54の弁座部42への当接状態が維持される。よって、噴孔14の閉塞状態が維持され、燃料は噴孔14から噴射されない。
【0080】
その後、図4に示すように、電子制御装置から噴射指令信号が制御弁80に入力され、ソレノイドコイル82が通電されると、ソレノイドコイル82に発生した磁気吸引力によりアーマチャ84が吸引され、弁体86が排出通路34の出口38を開放する。これにより、制御室20の燃料が排出通路34、弁室22、リターン通路40を介して排出ポート33から排出される。このとき、供給通路28を介して制御室20に燃料が流入する。しかし、入口絞り30の通路面積は、出口絞り36の通路面積よりも小さいため、制御室20の制御室圧Pccは低下し始める。制御室圧Pccは、入口絞り30の通路面積Aio及び出口絞り36の通路面積Aooとの差、高圧燃料源の圧力Pc、及びリターン通路40のリターン燃料圧Pbによって決定される(図4参照)。なお、このような状態にあっても、ノズル室16及びスプリング室18へはそれぞれ、高圧燃料通路26及び分岐通路410を通じて高圧燃料源の燃料が供給される。
【0081】
排出通路34が開放され、制御室圧Pccが低下すると、式(1)の左辺のうち、Ap(Pcc−Psp)が負に転じ、コマンドピストン60に開弁方向の推進力が発生する。制御室圧Pccの値がさらに低くなり、式(1)の左辺の値が、右辺の−AseatPdの値よりも小さくなったとき、式(1)が成立し、ノズルニードル50は開弁方向に移動し始める(図4の破線を参照)。その結果、噴孔14が開放され、燃料が噴孔14から噴射される。なお、図4に示すように、この例では、弁体86の閉弁状態から開弁状態に移行したときから、ノズルニードル50の開弁方向への移動開始までの時間(開弁時間)をToとしている。なお、開弁状態への移行とは、弁体86が出口38を開放し始めたときとする。
【0082】
噴孔14が開放され燃料が噴射されている間、図4に示すように、制御室圧Pccは、ノズル室圧Pd及びスプリング室圧Pspよりも小さい値を維持し、ノズル室圧Pd及びスプリング室圧Pspは、ほぼ同じ値を維持する。
【0083】
その後、電子制御装置からの噴射指令信号がオフとなり、ソレノイドコイル82が非通電状態となると、ソレノイドコイル82に発生していた磁気吸引力が消滅するので、弁体86は開弁状態から閉弁状態に移行し、排出通路34の出口38は弁体86により閉塞される。すると、制御室圧Pccは、図4の実線で示すように、再び上昇する。この場合、ノズルニードル50の移動は、式(2)によって支配される。制御室圧Pccが上昇し始めたとき、制御室圧Pccはスプリング室圧Pspよりも低いため、コマンドピストン60には、開弁方向の推進力が発生する。その後、制御室圧Pccは徐々にスプリング室圧Pspに近づくため、コマンドピストン60の開弁方向の推進力は徐々に低下する。そして、式(2)の左辺のうち、(Pcc−Psp)Apが−Fk以上となり、式(2)が成立すると、ノズルニードル50は閉弁方向に移動し始める(図4の破線を参照)。ノズルニードル50が閉弁方向に移動して、ノズルニードル50のシート部54が弁座部42に当接すると、噴孔14が閉塞され、その結果、燃料の噴孔14からの噴射が停止する。なお、図4に示すように、この例では、弁体86の開弁状態から閉弁状態に移行したときから、ノズルニードル50の閉弁完了までの時間(閉弁時間)をTcとしている。なお、閉弁状態への移行とは、弁体86が出口38に向かって移動し始めたときとする。
【0084】
次に、本実施形態による燃料噴射装置100のノズルニードル50の作動について、上述した比較例による燃料噴射装置400と比較しながら説明する。なお、下記の説明において、受圧面積Aseat、Ag、Ap、スプリング70の付勢力Fk、高圧燃料源の圧力Pc、及び制御室圧Pccの変化は、上述の比較例のものと同じであるとする。最初に、図1に示す噴孔14が閉塞している状態から説明する。
【0085】
この状態のとき、ソレノイドコイル82には、噴射指令信号が入力されておらず、ソレノイドコイル82は非通電の状態となっているので、ソレノイドコイル82には磁気吸引力が発生していない。よって、弁体86は、閉弁状態となっており、排出通路34の出口38を閉塞する。
【0086】
このとき、供給通路28には、コモンレール等の高圧燃料源からの燃料が流入しているので、ノズル室圧Pd、スプリング室圧Psp及び制御室圧Pccは、高圧燃料源の圧力Pcとほぼ同じとなる(Pc=Pd=Psp=Pcc)。このとき、式(1)の左辺のうち、Ap(Pcc−Psp)は、ほぼ0となり、コマンドピストン60には圧力が作用することによる推進力がほとんど発生しない。一方、式(1)の右辺は、−AseatPd(<0)となる。したがって、式(1)の左辺は、右辺よりも大きくなるため、ノズルニードル50は開弁方向に移動せず、シート部54の弁座部42への当接状態が維持される。よって、噴孔14の閉塞状態が維持され、燃料は噴孔14から噴射されない。また、この状態の時、スプリング室18にも高圧燃料源からの燃料が流入し、ノズル室圧Pd、スプリング室圧Psp、及び制御室圧Pcはほぼ同じとなっているため、スプリング室18へのノズル室16及び制御室20からの燃料リークが抑制される。
【0087】
その後、図4に示すように、電子制御装置から噴射指令信号が制御弁80に入力され、ソレノイドコイル82が通電されると、ソレノイドコイル82に発生した磁気吸引力によりアーマチャ84が吸引され、弁体86が排出通路34の出口38を開放する。これにより、制御室20の燃料が排出通路34、弁室22、リターン通路40を介して排出ポート33から排出される。このとき、供給通路28を介して制御室20に燃料が流入する。しかし、入口絞り30の通路面積は、出口絞り36の通路面積よりも小さいため、制御室20の制御室圧Pccは低下し始める。制御室圧Pccは、入口絞り30の通路面積Aio及び出口絞り36の通路面積Aooとの差、高圧燃料源の圧力Pc、及びリターン通路40の圧力Pbによって決定される(図4参照)。
【0088】
このとき、供給通路28には燃料の流れが発生することとなる。供給通路28を流れる燃料が入口絞り30を通過すると、入口絞り30部分の流速が速くなり、供給通路28内の圧力が制御室Pccの圧力よりも低下する。以下、このことを図3を用いて詳細に説明する。
【0089】
図3に示すように、入口絞り30の通路面積Aioは、供給通路28において入口絞り30以外の通路面積よりも小さい。これにより、供給通路28に燃料流れが発生すると、入口絞り30部分の流速が速くなり、入口絞り30における圧力が低下し、入口絞り30に周知のエジェクタ効果が発生する。入口絞り30における圧力は、高圧燃料源の圧力Pc、排出通路34が開放された状態の制御室圧Pcc、及び高圧燃料源の圧力Pcが供給された状態のスプリング室圧Pspよりも低くなる。なお、このときの圧力をエジェクタ効果圧Pejという。
【0090】
また、導入側通路32は、この入口絞り30の内壁に開口している。このため、入口絞り30にエジェクタ効果圧Pejが発生することにより、スプリング室18の燃料が導入側通路32を介して吸い出される。これにより、スプリング室圧Pspは、エジェクタ効果圧Pejまで低下することとなる(図4を参照)。スプリング室18から吸い出された燃料は、入口絞り30で供給通路28を流れる燃料と合流し、制御室20に流入する。なお、スプリング室18から吸い出され、入口絞り30で供給通路28の燃料と合流した燃料の圧力は、制御室圧Pccにまで上昇する。また、合流した後の燃料の流速は、入口絞り30における流速よりも遅くなる。なお、本実施形態では、入口絞り30内で流速が最も速くなる、即ち、圧力が最も低下する位置に、導入側通路32を接続するようにしている。そうすれば、スプリング室圧Pspと制御室圧Pccとの差圧を大きくすることができる。
【0091】
以上のように、排出通路34が開放され、制御室20の制御室圧Pccが低下すると、スプリング室18のスプリング室圧Pspは、制御室圧Pccよりもさらに低下する。このため、コマンドピストン60には、式(1)に示すように、Ap(Pcc−Psp)に応じた閉弁方向の推進力が発生する。
【0092】
したがって、ノズルニードル50の開弁時の動作につき、比較例による燃料噴射装置400及び本実施形態による燃料噴射装置100において、受圧面積Aseat、Ag、Ap、付勢力Fk、高圧燃料源の圧力Pc、及び制御室圧Pccの変化を同じとし、さらにノズル室圧Pd、スプリング室圧Pspの関係を上述したものとし、比較例及び本実施形態のそれぞれにおいて式(1)を比較すると、本実施形態の方が式(1)の成立が比較例に比べ、遅くなる。これは、本実施形態の燃料噴射装置100において、制御弁80の排出通路34が開放され制御室圧Pcc及びスプリング室圧Pspが共に低下した直後から発生するコマンドピストン60の閉弁方向の推進力が、ノズルニードル50の開弁方向への移動を妨げるためである。
【0093】
つまり、本実施形態の燃料噴射装置100によれば、比較例による燃料噴射装置400とは異なり、噴孔14を開放させるため、制御弁80により排出通路34の開放が行われるとき、スプリング室18の燃料を吸い出す。これにより、スプリング室圧Pspは、制御室圧Pccよりも低下するため、コマンドピストン60に閉弁方向の推進力が発生し、ノズルニードル50の開弁方向への移動を妨げることができる。その結果、ノズルニードル50の開弁時間(To)を上述した比較例のものよりも長くすることができる(図4参照)。このことによれば、制御弁80の弁体86による排出通路34の開放完了前におけるノズルニードル50の移動を抑制することができるので、噴孔14から噴射される燃料噴射量が、弁体86へ入力される燃料を噴射するための噴射指令信号の長さに対応したものとすることができ、燃料噴射の制御性が向上する。以上により、本実施形態の燃料噴射装置100によれば、スプリング室18へのノズル室16及び制御室20からの燃料リークを抑制するとともに、ノズルニードル50の開弁時間を長くすることにより燃料噴射の制御性を向上することができる。なお、受圧面積Ag及びApの大小関係はそのままに、これらの面積差を調整することにより、ノズルニードル50の開弁時間を調整することができる。これらの面積差を大きくすればするほど、コマンドピストン60の閉弁方向の推進力が大きくなるので、ノズルニードル50の開弁時間(To)を長くすることができる。
【0094】
また、本実施形態では、供給通路28に燃料が流れたときに、入口絞り30に発生する圧力低下現象による吸引作用を利用して、スプリング室18の燃料を吸引し、スプリング室圧Pspを低下させているので、容易にスプリング室圧Pspの低下を実現することができる。また、本実施形態では、一方がスプリング室18に接続される導入側通路32をこの入口絞り30に接続するという構造を採用している。よって、燃料噴射装置100に通路を追加するという簡単な構造によりスプリング室圧Pspを制御室圧Pccよりも低下させることができる。
【0095】
また、本実施形態の燃料噴射装置100では、噴孔14を開放させる際、コマンドピストン60には閉弁方向の推進力が発生するので、比較例及び従来技術の特許文献1の構成と異なり、コマンドピストン60とノズルニードル50とを機械的に接続するコネクタ等の部品が必要ない。
【0096】
次に、ノズルニードル50の閉弁時の動作について説明する。最初に、上述した比較例による燃料噴射装置400の噴孔14の開放時と、本実施形態による燃料噴射装置100の噴孔14の開放時との状態を比較する。上述したように比較例による燃料噴射装置400では、噴孔14の開放時であっても燃料は絶えずノズル室16及びスプリング室18に流入するので、図4において一点鎖線及び二点鎖線で示すようにノズル室圧Pd及びスプリング室圧Pspは制御室圧Pccよりも高い。一点鎖線は、スプリング室圧Pspの変化を表し、二点差線は、ノズル室圧Pdを表している。一方、本実施形態による燃料噴射装置100では、ノズル室圧Pdは比較例によるものとほぼ同じであり、制御室圧Pccよりも高いが、スプリング室圧Pspは、入口絞り30でのエジェクタ効果により制御室圧Pccよりも低下している(図4の実線参照)。また、このスプリング室圧Pspは、比較例による燃料噴射装置400での式(2)の左辺と右辺との数値の差よりも、本実施形態による燃料噴射装置100での式(2)の左辺と右辺との数値の差が小さくなるように設定されている。スプリング室圧Pspは、入口絞り30に発生するエジェクタ効果圧Pejに依存するので、例えば入口絞り30の通路面積を適宜設定することにより、変更が可能となる。
【0097】
その後、図4に示すように、電子制御装置からの噴射指令信号がオフとなり、ソレノイドコイル82が非通電状態となると、ソレノイドコイル82に発生していた磁気吸引力が消滅するので、弁体86は排出通路34の出口38を閉塞する。すると、制御室圧Pccは、図4の実線で示すように、再び上昇する。このとき、導入側通路32を通じて高圧燃料源の燃料がスプリング室18に流入するので、図4の実線で示すように、スプリング室圧Pspも再び上昇する。このように、制御室圧Pcc及びスプリング室圧Pspは共に上昇するが、スプリング室圧Pspは制御室圧Pccよりも低い状態を維持したまま上昇する。これは、入口絞り30の通路面積Aioよりも小さい通路面積Aej1を有する導入側絞り32aを導入側通路32が有しているからである。このような導入側絞り32aによれば、導入ポート25からの燃料の導入側通路32への流入が抑えられるため、スプリング室圧Pspは制御室圧Pccよりも低い状態を維持したまま上昇するのである。スプリング室圧Pspは制御室圧Pccよりも低い状態となっているので、コマンドピストン60には、式(2)に示すように、Ap(Pcc−Psp)に応じた閉弁方向の推進力が発生する。
【0098】
以上説明したように、ノズルニードル50の閉弁時の動作につき、比較例による燃料噴射装置400及び本実施形態による燃料噴射装置100において、受圧面積Aseat、Ag、Ap、付勢力Fk、高圧燃料源の圧力Pc、及び制御室圧Pccの変化を同じとし、さらにノズル室圧Pd、スプリング室圧Pspの関係を上述したものとし、比較例及び本実施形態のそれぞれにおいて式(2)を比較すると、本実施形態の方が式(2)の成立が比較例に比べ、早くなる。これは、本実施形態の燃料噴射装置100において、制御弁80の排出通路34が閉塞され制御室圧Pcc及びスプリング室圧Pspが共に上昇した直後から発生するコマンドピストン60の閉弁方向の推進力が、ノズルニードル50の閉弁方向への移動を促進するためである。
【0099】
つまり、本実施形態の燃料噴射装置100によれば、比較例による燃料噴射装置400とは異なり、噴孔14を閉塞させるため、制御弁80により排出通路34の閉塞が行われるとき、スプリング室18の燃料が吸い出されている。これにより、スプリング室圧Pspは、制御室圧Pccよりも低下しているため、コマンドピストン60に閉弁方向の推進力が発生し、ノズルニードル50の閉弁方向への移動が促進される。また、導入側通路32が有する導入側絞り32aにより、スプリング室18への燃料の流入が抑えられるので、スプリング室圧Pspの圧力上昇が制御室圧Pccよりも遅れる。この両室18,20の圧力上昇の違いにより、スプリング室圧Pspよりも制御室圧Pccの方が高い状態となり、コマンドピストン60に閉弁方向の推進力が発生する。これにより、ノズルニードル50の閉弁方向への移動を促進することができる。以上により、ノズルニードル50の閉弁時間(Tc)を上述した比較例のものよりも短くすることができる(図4参照)。このことによれば、前の噴射における噴孔14の閉塞完了時期と次の噴射における噴孔14の開放時期とが前後することを抑制することができ、燃料噴射の制御性が向上する。以上により、本実施形態の燃料噴射装置100によれば、スプリング室18へのノズル室16及び制御室20からの燃料リークを抑制するとともに、ノズルニードル50の閉弁時間を短くすることにより燃料噴射の制御性を向上することができる。なお、受圧面積Ag及びApの大小関係はそのままに、これらの面積差を調整することにより、ノズルニードル50の閉弁時間を調整することができる。これらの面積差を大きくすればするほど、コマンドピストン60の閉弁方向の推進力が大きくなるので、ノズルニードル50の閉弁時間(Tc)を短くすることができる。
【0100】
また、本実施形態の燃料噴射装置100では、噴孔14を閉塞させる際、コマンドピストン60には閉弁方向の推進力が発生するので、比較例及び従来技術の特許文献1の構成と異なり、コマンドピストン60とノズルニードル50とを機械的に接続するコネクタ等の部品が必要ない。
【0101】
上述したようにDMEは、粘度が軽油に比べ低いため、ノズル室16及び制御室20からスプリング室18への燃料リークが発生し易い。これに対し、本実施形態の燃料噴射装置100では、スプリング室18へ高圧燃料源の燃料を供給するようにしているため、スプリング室18への燃料リークを効果的に抑制することができる。また、このDMEは、単位体積当たりの発熱量が軽油に比べ低いため、燃料としてDMEを使用する場合、内燃機関の出力を軽油を燃料として使用するものと同等にするには、燃料噴射量を多くする必要がある。例えば、ノズルニードル50のリフト量を増大させたり、噴孔14の面積を大きくすることで燃料噴射量を多くする。このように、燃料リークを抑制するためにスプリング室18へ高圧燃料源の燃料を供給した上に、内燃機関の出力確保の目的でリフト量を増大させると、燃料噴射の制御性がさらに低下するおそれがある。例えば、ノズルニードル50のリフト量が増大すると、制御室20の容量を大きくしなければならない。このため、噴孔14を開放させるために制御室Pccの圧力を低下させるのに、排出通路34からの排出量を増大させなければならない。排出通路34からの排出量を確保するには、弁体86のリフト量をある程度確保しなければならない。そうすると、アーマチャ84がソレノイドコイル82に当接するまでの時間が長くなるので、それまでの間にノズルニードル50が移動を開始する可能性が高くなり、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。また、ノズルニードル50のリフト量が増大されると、ノズルニードル50のシート部54が弁座部42に当接するまでの時間が長くなり、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。本実施形態の燃料噴射装置100によれば、上述したように燃料噴射装置内の燃料リークを抑制するとともに、燃料噴射の制御性を向上させることができるので、特に燃料としてDMEを使用する場合に有効である。
【0102】
なお、本実施形態において、導入ポート25が特許請求の範囲に記載の「導入口」に相当し、排出ポート33が特許請求の範囲に記載の「排出口」に相当する。また、ノズルニードル50が特許請求の範囲に記載の「ノズル弁部材」に相当し、コマンドピストン60が特許請求の範囲に記載の「制御ピストン部材」に相当し、スプリング室18が特許請求の範囲に記載の「中間室」に相当する。また、供給通路28が特許請求の範囲に記載の「制御室への燃料供給通路」に相当し、導入側通路32が特許請求の範囲に記載の「導入口から中間室への燃料供給通路」に相当し、排出通路34が特許請求の範囲に記載の「連絡通路」に相当し、導入側絞り32aが特許請求の範囲に記載の「供給絞り」に相当する。
【0103】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態において導入側通路32は、図1及び図2に示すように、入口絞り30の形成部位から分岐しているが、図5に示すように、入口絞り30の制御室20側の端部に設けられた入口側拡大部28aから分岐していても良い。
【0104】
入口側拡大部28aは、供給通路28において、入口絞り30の制御室20側の端部に接続するように設けられ、入口絞り30からの燃料が通過するようになっている。入口側拡大部28aの通路面積Aimは、供給通路28において、入口側拡大部28aと制御室20との間の通路面積As、及び入口絞り30の通路面積Aioよりも大きい。このため、入口側拡大部28aの径方向の長さは、入口絞り30の径方向の長さよりも長くなる。なお、入口側拡大部28aの内部空間の形状は、軸線が入口絞り30の軸線と同軸上に配置される円筒形状であっても良いし、軸線が入口絞り30の軸線と交差するように配置される円筒形状であっても良い。
【0105】
さらに、入口側拡大部28aは、入口絞り30と、入口側拡大部28aと制御室20との間の供給通路28とを結ぶことによって形成され、かつ下記の条件を満たす仮想の円錐台Miが入口側拡大部28aの内部空間に内在可能となるように形状が決定される。その条件は、円錐台Miの側面積をAimxとしたとき、Aio+Aimx<3Asを満たし、通路面積Asに対する通路面積Aioの比率が1以下となる条件である。これによれば、入口側拡大部28aを燃料が通過することにより、エジェクタ効果が得られる。好ましくは、Aio+Aimx<Asを満たすようにすると良い。また、通路面積Asに対する通路面積Aioの比率は、0.2〜0.5が好ましい。これらのことによれば、エジェクタ効果を高くすることができる。
【0106】
導入側通路32は、第1実施形態とは異なり、入口側拡大部28aの径方向に形成される側面28bから分岐している。導入側通路32の導入側絞り32aは、側面28bに開口している。導入側絞り32aの通路面積Aej1は、第1実施形態と同様、通路面積Aio及び通路面積Asよりも小さい。また、通路面積Asは、通路面積Aioよりも大きく設定されている。
【0107】
このように構成された、導入側通路32によると、弁体86が閉弁状態から開弁状態に移行すると、供給通路28に燃料流れが発生する。供給通路28を流れる燃料は入口絞り30を通り、入口側拡大部28aに排出される。入口側拡大部28aに排出された燃料は、入口側拡大部28aを通過して、制御室20に向かって流れる。このとき、入口側拡大部28aの燃料の流速は、導入ポート25での流速よりも速くなっているので、入口側拡大部28aに周知のエジェクタ効果が発生する。このようにして発生したエジェクタ効果により、スプリング室18の燃料が導入側通路32を介して吸い出される。その結果、スプリング室18のスプリング室Pspは、制御室圧Pccよりもさらに低下することとなる。
【0108】
また、弁体86が開弁状態から閉弁状態に移行すると、制御室圧Pccは、再び上昇する。このとき、導入側通路32を通じて高圧燃料源の燃料がスプリング室18に流入し、スプリング室圧Pspも再び上昇する。導入側絞り32aの通路面積Aej1は、入口絞り30の通路面積Aioよりも小さいため、スプリング室圧Pspは制御室圧Pccよりも低い状態を維持したまま上昇する。
【0109】
以上説明したように、この変形例においても、スプリング室圧Pspは、第1実施形態と同様に変化するので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0110】
ここで、供給通路28及び導入側通路32を本体部10に形成する場合を考える。第1実施形態では、導入側通路32は供給通路28の入口絞り30の形成部位から分岐している。このような位置に導入側通路32が配置される場合、入口絞り30を孔加工等で形成した後、導入側通路32としての孔が入口絞り30に接続するように孔加工を施す。しかし、入口絞り30は通路面積Aioが通路面積Asに比べ小さいため、導入側通路32を形成すべく入口絞り30に向かって孔加工を施すのは、手間がかかる。
【0111】
そこで、この変形例では、第1実施形態のように入口絞り30の形成部位から導入側通路を分岐させるのではなく、通路面積が入口絞り30よりも大きい入口側拡大部28aの側面28bから導入側通路32を分岐させている。このように、導入側通路32の形成位置を変更することによれば、導入側通路32の供給通路28への接続が、入口絞り30の形成部位に導入側通路32を接続するよりも容易となる。以下そのことを説明する。
【0112】
上述したように、入口側拡大部28aの通路面積Aimは、入口絞り30の通路面積Aioよりも大きいため、入口側拡大部28aの径方向の長さは、入口絞り30の径方向の長さより長い。ゆえに、導入側通路32の接続可能領域が、入口絞り30における導入側通路32の接続可能領域よりも大きくなる。したがって、導入側通路32の供給通路28への接続は、入口絞り30の形成部位に導入側通路32を接続するよりも容易となる。
【0113】
なお、この変形例において導入側通路32を形成する場合、下記の方法によって形成しても良い。例えば、本体部10を構成する第1の部材に、入口絞り30を含む供給通路28をドリル等で形成し、その後、入口絞り30の制御室20側の端部に入口側拡大部28aを形成すべく、第1の部材の端部からドリル等で孔を開ける。その一方、本体部10を構成する第2の部材に導入側通路32となる孔をドリル等で開けておく。このようにして入口側拡大部28a及び導入側通路32がそれぞれ形成された第1の部材及び第2の部材をあわせることにより、入口側拡大部28aと導入側通路32とを接続するようにしても良い。この場合も、入口側拡大部28aの側面28bにおいて導入側通路32との接続可能領域は、入口絞り30の側面における接続可能領域よりも大きいため、第1,第2の部材を合わせるときに組み付け誤差が発生していても、入口側拡大部28aと導入側通路32とを接続することができる。
【0114】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態による燃料噴射装置200において、噴孔14が閉塞されている状態を示す断面図である。この実施形態では、第1実施形態の燃料噴射装置100の導入側通路32の代わりに、排出側通路46を有している点が第1実施形態と異なる点である。排出側通路46は、排出通路34とスプリング室18とを接続する通路である。排出側通路46の排出通路34側の端部は、出口絞り36に開口している。また、排出側通路46は、出口絞り36の内壁に開口する部位に、排出側絞り46aを有する。排出側絞り46aの通路面積Aej2は、出口絞り36の通路面積Aooよりも小さく、また、入口絞り30の通路面積Aioよりも小さい。
【0115】
以上のような構成によっても、第1実施形態と同様、制御弁80の弁体86が排出通路34を開放したときに出口絞り36において発生する圧力の低下の作用を利用し、スプリング室18の燃料を外部に排出することができる。以下、このことを図7を用いて詳細に説明する。
【0116】
図7に示すように、出口絞り36の通路面積Aooは、排出通路34において出口絞り36以外の通路面積よりも小さい。これにより、排出通路34に燃料流れが発生すると、出口絞り36部分の流速が速くなり、出口絞り36における圧力が低下し、出口絞り36に周知のエジェクタ効果が発生する。出口絞り36における圧力は、高圧燃料源の圧力Pc、排出通路34が開放された状態の制御室圧Pcc、及び高圧燃料源の圧力Pcが供給された状態のスプリング室圧Pspよりも低くなる。なお、このときの圧力をエジェクタ効果圧Pejという。
【0117】
また、排出側通路46は、この出口絞り36の内壁に開口している。このため、出口絞り36にエジェクタ効果圧Pejが発生することにより、スプリング室18の燃料が排出側通路46を介して吸い出される。これにより、スプリング室圧Pspは、エジェクタ効果圧Pejまで低下することとなる(図7を参照)。スプリング室18から吸い出された燃料は、出口絞り36で排出通路34を流れる燃料と合流し、弁室22、リターン通路40を介して排出ポート33から排出される。なお、スプリング室18から吸い出され、出口絞り36で排出通路34の燃料と合流した燃料の圧力は、排出ポート33においてリターン燃料圧Pbにまで上昇する。また、合流した後の燃料の流速は、出口絞り36における流速よりも遅くなる。なお、本実施形態では、出口絞り36内で流速が最も速くなる、即ち、圧力が最も低下する位置に、排出側通路46を接続するようにしている。そうすれば、スプリング室圧Pspと制御室圧Pccとの差圧を大きくすることができる。
【0118】
このように、出口絞り36に排出側通路46を接続するようにしても、スプリング室圧Pspを制御室圧Pccよりも低下させることが可能となる。よって、この実施形態においても、先の実施形態と同様の効果が得られる。
【0119】
特に、本実施形態による燃料噴射装置200は、ノズルニードル50の閉弁時においてノズルニードル50の閉弁時間(Tc)を第1実施形態の燃料噴射装置100より短くすることができる。これは、制御弁80により排出通路34が閉塞されたとき、高圧燃料源の燃料のスプリング室18への流入が、第1実施形態の燃料噴射装置100に比べ遅れるからである。この燃料流入の遅れによれば、スプリング室圧Pspの上昇が遅れる。ここで、図4に示すように、コマンドピストン60に発生する閉弁方向の推進力は、制御室圧Pccとスプリング室圧Pspとの圧力差で決定される。この推進力は、排出通路34が閉塞された直後が最も大きく、制御室圧Pccが上昇するにつれ、小さくなる。この実施形態では、スプリング室圧Pspの上昇が、制御室圧Pccの上昇よりも遅れて上昇するため、排出通路34の閉塞直後のスプリング室圧Pspと制御室圧Pccとの圧力差を比較的長く維持することができ、コマンドピストン60の閉弁方向の推進力の比較的大きな期間が、導入側通路32を介してスプリング室18に燃料が流入する場合に比べ、長くなる。この比較的大きな推進力の発生期間の長期化により、ノズルニードル50の閉弁方向への移動の促進期間が長くなるので、ノズルニードル50の閉弁時間(Tc)を第1実施形態のものよりも短くすることができる。
【0120】
なお、本実施形態において、排出側通路46が特許請求の範囲に記載の「導入口から中間室への燃料供給通路」に相当し、排出側絞り46aが特許請求の範囲に記載の「供給絞り」に相当する。
【0121】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態において排出側通路46は、図6に示すように、出口絞り36の形成部位から分岐しているが、図8に示すように、出口絞り36の弁体86側の端部に設けられた出口側拡大部34aから分岐していても良い。
【0122】
出口側拡大部34aは、排出通路34において、出口絞り36の弁体86側の端部に接続するように設けられ、出口絞り36からの燃料が通過するようになっている。出口側拡大部34aの通路面積Aomは、排出通路34において、出口側拡大部34aと出口38との間の通路面積Ae、及び出口絞り36の通路面積Aooよりも大きい。このため、出口側拡大部34aの径方向の長さは、出口絞り36の径方向の長さよりも長くなる。なお、出口側拡大部34aの内部空間の形状は、軸線が出口絞り36の軸線と同軸上に配置される円筒形状であっても良いし、軸線が出口絞り36の軸線と交差するように配置される円筒形状であっても良い。
【0123】
さらに、出口側拡大部34aは、出口絞り36と、出口側拡大部34aと出口38との間の排出通路34とを結ぶことによって形成され、かつ下記の条件を満たす仮想の円錐台Moが出口側拡大部34aの内部空間に内在可能となるように形状が決定される。その条件は、円錐台Moの側面積をAomxとしたとき、Aoo+Aomx<3Aeを満たし、通路面積Aeに対する通路面積Aooの比率が1以下となる条件である。これによれば、出口側拡大部34aを燃料が通過することにより、エジェクタ効果が得られる。好ましくは、Aoo+Aomx<Aeを満たすようにすると良い。また、通路面積Aeに対する通路面積Aooの比率は、0.2〜0.5が好ましい。これらのことによれば、エジェクタ効果を高くすることができる。
【0124】
排出側通路46は、第2実施形態とは異なり、出口側拡大部34aの径方向に形成される側面34bから分岐している。排出側通路46の排出側絞り46aは、側面34bに開口している。排出側絞り46aの通路面積Aej2は、第2実施形態と同様、通路面積Aoo及び通路面積Aeよりも小さい。また、通路面積Aeは、通路面積Aooよりも大きく設定されている。
【0125】
このように構成された、排出側通路46によると、弁体86が閉弁状態から開弁状態に移行すると、排出通路34に燃料流れが発生する。排出通路34を流れる燃料は出口絞り36を通り、出口側拡大部34aに排出される。出口側拡大部34aに排出された燃料は、出口側拡大部34aを通過して、出口38に向かって流れる。このとき、出口側拡大部34aの燃料の流速は、排出通路34における制御室20側の端部での流速よりも速くなっているので、出口側拡大部34aに周知のエジェクタ効果が発生する。このようにして発生したエジェクタ効果により、スプリング室18の燃料が排出側通路46を介して吸い出される。その結果、スプリング室18のスプリング室Pspは、制御室圧Pccよりもさらに低下することとなる。
【0126】
また、弁体86が開弁状態から閉弁状態に移行すると、制御室圧Pccは、再び上昇する。このとき、排出側通路46を通じて高圧燃料源の燃料がスプリング室18に流入し、スプリング室圧Pspも再び上昇する。排出側絞り46aの通路面積Aej2は、出口絞り36の通路面積Aooよりも小さいため、スプリング室圧Pspは制御室圧Pccよりも低い状態を維持したまま上昇する。
【0127】
以上説明したように、この変形例においても、スプリング室圧Pspは、第2実施形態と同様に変化するので、第2実施形態と同様の効果を奏する。
【0128】
ここで、排出通路34及び排出側通路46を本体部10に形成する場合を考える。第2実施形態では、排出側通路46は排出通路34の出口絞り36の形成部位から分岐している。このような位置に排出側通路46が配置される場合、出口絞り36を孔加工等で形成した後、排出側通路46としての孔が出口絞り36に接続するように孔加工を施す。しかし、出口絞り36は通路面積Aooが通路面積Aeに比べ小さいため、排出側通路46を形成すべく出口絞り36に向かって孔加工を施すのは、手間がかかる。
【0129】
そこで、この変形例では、第2実施形態のように出口絞り36の形成部位から排出側通路を分岐させるのではなく、通路面積が出口絞り36よりも大きい出口側拡大部34aの側面34bから排出側通路46を分岐させている。このように、排出側通路46の形成位置を変更することによれば、排出側通路46の排出通路34への接続が、出口絞り36の形成部位に排出側通路46を接続するよりも容易となる。以下そのことを説明する。
【0130】
上述したように、出口側拡大部34aの通路面積Aomは、出口絞り36の通路面積Aooよりも大きいため、出口側拡大部34aの径方向の長さは、出口絞り36の径方向の長さより長い。ゆえに、排出側通路46の接続可能領域が、出口絞り36における排出側通路46の接続可能領域よりも大きくなる。したがって、排出側通路46の排出通路34への接続は、出口絞り36の形成部位に排出側通路46を接続するよりも容易となる。
【0131】
なお、この変形例において排出側通路46を形成する場合、下記の方法によって形成しても良い。例えば、本体部10を構成する第1の部材に、出口絞り36を含む排出通路34をドリル等で形成し、その後、出口絞り36の出口38側の端部に出口側拡大部34aを形成すべく、第1の部材の端部からドリル等で孔を開ける。その一方、本体部10を構成する第2の部材に排出側通路46となる孔をドリル等で開けておく。このようにして出口側拡大部34a及び排出側通路46がそれぞれ形成された第1の部材及び第2の部材をあわせることにより、出口側拡大部34aと排出側通路46とを接続するようにしても良い。この場合も、出口側拡大部34aの側面34bにおいて排出側通路46との接続可能領域は、出口絞り36の側面における接続可能領域よりも大きいため、第1,第2の部材を合わせるときに組み付け誤差が発生していても、出口側拡大部34aと排出側通路46とを接続することができる。
【0132】
(第3実施形態)
図9は、本発明の第3実施形態による燃料噴射装置300において、噴孔14が閉塞されている状態を示す断面図である。この実施形態では、先の第1実施形態の燃料噴射装置100に対して、第2実施形態の燃料噴射装置200の排出側通路46を加え、さらに、導入側通路32の途中に、逆止弁48を設けている。この逆止弁48は、スプリング室18から供給通路28へ向かう燃料の流通は許容するが、供給通路28からスプリング室18へ向かう燃料の流通を禁止するものである。
【0133】
このような構成であっても、排出通路34が開放されたとき、導入側通路32及び排出側通路46の両通路からスプリング室18の燃料が排出されるので、スプリング室圧Pspを、ノズルニードル50の開弁時及び閉弁時において低くすることができ、ノズルニードル50の開弁時間(To)を長くするとともに、閉弁時間(Tc)を短くすることができる。
【0134】
特に、本実施形態では、ノズルニードル50の開弁時、導入側通路32及び排出側通路46の両通路からスプリング室18の燃料が排出されるので、スプリング室圧Pspを、先の実施形態のものよりもさらに低くすることが可能となる。これによれば、コマンドピストン60に発生する閉弁方向の推進力を、先の実施形態のものよりも大きくすることができるため、ノズルニードル50の開弁時間(To)をさらに長くすることができる。
【0135】
また、ノズルニードル50の閉弁時、導入側通路32の逆止弁48により、スプリング室18へは、排出側通路46のみからしか高圧燃料源からの燃料は流入しない。高圧燃料源の燃料は、導入側通路32を介してスプリング室18へ流入することはない。よって、第2実施形態で説明したように、スプリング室圧Pspの上昇を遅らせることができるので、導入側通路32を設けるような本実施形態の燃料噴射装置300であっても、第2実施形態の燃料噴射装置200と同様のノズルニードル50の閉弁時間(Tc)とすることが可能となる。
【0136】
なお、この実施形態では、導入側通路32に、逆止弁48を設けているが、図10に示すように、排出側通路46のみに、スプリング室18から排出通路34へ向かう燃料の流通は許容するが、排出通路34からスプリング室18へ向かう燃料の流通を禁止するような逆止弁49を設けてもよい。
【0137】
さらに、本実施形態の燃料噴射装置300では、制御室20内にコマンドピストン60を閉弁方向に付勢するスプリング90を設けている。ここで、開弁時及び閉弁時においてスプリング室圧Pspを制御室圧Pccよりも低下させることによれば、コマンドピストン60には、閉弁方向の推進力が発生するので、コマンドピストン60とノズルニードル50とを機械的に接続する必要が無いと第1実施形態で説明した。しかし、制御弁80による排出通路34が閉塞され、ノズル室圧Pd、スプリング室圧Psp、及び制御室圧Pccがほぼ高圧燃料源の圧力Pcとなっているとき、ノズルニードル50及びコマンドピストン60に発生する推進力が弱くなる。このため、振動等によりノズルニードル50とコマンドピストン60とが離れてしまう場合があり、この状態で、再び制御弁80により排出通路34が開放されると、ノズルニードル50の移動が不安定となる。その結果、噴孔14からの燃料噴射特性がばらつき、燃料噴射の制御性が低下するおそれがある。
【0138】
この実施形態では、コマンドピストン60を閉弁方向に付勢するスプリング90を制御室20に設けているので、上述した状態であっても、常にコマンドピストン60とノズルニードル50との当接を維持することができる。その結果、ノズルニードル50の移動の不安定を回避することができるので、噴孔14からの燃料噴射特性のばらつきを抑制することができ、燃料噴射の制御性が向上する。なお、このスプリング90は、先の二つの実施形態の燃料噴射装置100,200の制御室20内に設けても上述した効果を得ることができる。
【0139】
なお、本実施形態において、導入側通路32が特許請求の範囲に記載の「第1の分岐通路」に相当し、排出側通路46が特許請求の範囲に記載の「第2の分岐通路」に相当し、導入側絞り32a及び排出側絞り46aが特許請求の範囲に記載の「供給絞り」に相当する。さらに、スプリング90は、特許請求の範囲に記載の「付勢手段」に相当する。
【0140】
(第3実施形態の変形例)
また、導入側通路32及び排出側通路46の分岐位置を図11に示すように変更してもより。導入側通路32は、第1実施形態の変形例のように、供給通路28に設けられた入口側拡大部28aから分岐されるように形成され、排出側通路46は、第2実施形態の変形例のように、排出通路34に設けられた出口側拡大部34aから分岐されるように形成されていても良い(図5及び図8を参照)。
【0141】
なお、入口側拡大部28aの通路面積Aimと、供給通路28の通路面積As及び入口絞り30の通路面積Aioの大小関係は、第1実施形態の変形例と同じである。また、入口側拡大部28a内の円錐台Miの側面積Aimx、通路面積As、及び通路面積Aioの大小関係も、第1実施形態の変形例と同じである。
【0142】
さらに、出口側拡大部34aの通路面積Aomと、排出通路34の通路面積Ae及び出口絞り46の通路M戦記Aooの大小関係は、第2実施形態の変形例と同じである。また、出口側拡大部34a内の円錐台Moの側面積Aomx、通路面積Ae、及び通路面積Aooの大小関係も、第2実施形態の変形例と同じである。
【0143】
また、この変形例においても、図9と同様に導入側通路32に逆止弁48を設けるようにしても良いし、図10と同様に排出側通路46に逆止弁49を設けるようにしても良い。
【0144】
(その他の実施形態)
上述した先の実施形態では、噴孔14の開弁時及び閉弁時において、スプリング室圧Pspを制御室圧Pccよりも低下させることについて説明しているが、開弁時だけスプリング室圧Pspを制御室圧Pccよりも低下させる、又は閉弁時だけスプリング室圧Pspを制御室圧Pccよりも低下させるようにしてもよい。
【0145】
開弁時だけスプリング室圧Pspを制御室圧Pccを低下させる場合では、供給通路28の入口絞り30に、導入側絞り32aが形成されていない導入側通路32を接続する、又は排出通路34の出口絞り36に、排出側絞り46aが形成されていない排出側通路46を接続する構造を採用すればよい。
【0146】
一方、閉弁時だけスプリング室圧Pspを制御室圧Pccを低下させる場合では、供給通路28の入口絞り30以外の部位に、導入側絞り323aが形成されている導入側通路32を接続する、又は排出通路34の出口絞り36以外の部位に、排出側絞り46aが形成されている排出側通路46を接続する構造を採用すればよい。
【符号の説明】
【0147】
10 本体部、12 収容孔、14 噴孔、16 ノズル室、18 スプリング室(中間室)、20 制御室、22 弁室、25 導入ポート、26 高圧燃料通路、28 供給通路、30 入口絞り、32 導入側通路、32a 導入側絞り(供給絞り)、33 排出ポート、34 排出通路、36 出口絞り、38 出口、40 リターン通路、42 弁座部、46 排出側通路、46a 排出側絞り(供給絞り)、48 逆止弁、50 ノズルニードル(ノズル弁部材)、52 弁部、54 シート部、56 摺動軸部、60 コマンドピストン(制御ピストン部材)、62 連結部、64 ピストン部、70 スプリング、80 制御弁(制御手段)、82 ソレノイドコイル、84 アーマチャ、86 弁体、88 スプリング、90 スプリング、100 燃料噴射装置、200 燃料噴射装置、300 燃料噴射装置、400 燃料噴射装置、410 分岐通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された燃料を噴孔から内燃機関の燃焼室に噴射する燃料噴射装置であって、
供給された燃料を導入する導入口、前記導入口に導入された燃料の一部を排出する排出口、及び前記噴孔が形成された本体部と、
前記本体部内に軸方向に移動可能に配置され、その軸方向の移動により前記噴孔を開閉するノズル弁部材と、
前記本体部内において、軸方向に沿って前記ノズル弁部材と並んで移動可能に配置され、前記ノズル弁部材の移動を制御する制御ピストン部材と、を備え、
前記本体部内には、前記ノズル弁部材と前記制御ピストン部材との間に中間室が形成され、前記制御ピストン部材の前記中間室と反対側には制御室が形成され、これら中間室及び制御室には、前記導入口を介して導入された燃料が供給され、
さらに、前記制御室と前記排出口との連絡通路に設置され、開弁時に前記制御室と前記排出口とを連通し、閉弁時に前記制御室と前記排出口との連通を遮断する弁体を有し、
前記弁体が、開弁状態から閉弁状態に移行したとき、前記制御室に供給される燃料によって前記制御室内の燃料圧力が上昇することに起因して、前記制御ピストン部材が前記ノズル弁部材方向に移動し、それにより、前記ノズル弁部材が前記噴孔を閉塞するものであって、
前記導入口から前記制御室への燃料供給通路には、入口絞りが形成され、前記導入口から前記中間室への燃料供給通路には、前記入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が小さい供給絞りが形成され、前記弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、前記中間室の圧力上昇が、前記制御室の圧力上昇よりも遅れることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
前記導入口から前記制御室への燃料供給通路において、前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、前記導入口から前記排出口に向かって流れる燃料が前記入口絞りを通過する際、前記入口絞りによって燃料の流速が増加する部位から前記中間室へと分岐する分岐通路が、前記導入口から前記中間室への燃料供給通路として形成され、
前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、前記入口絞りを通過する燃料により発生するエジェクタ効果により、前記分岐通路を介して前記中間室内の燃料を吸い出すことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記分岐通路は、前記入口絞りの形成部位から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記制御室への燃料供給通路において前記入口絞りにおける前記制御室側の端部には、通路面積が前記入口絞りの通路面積よりも大きく、前記入口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される入口側拡大部が設けられ、
前記分岐通路は、前記入口側拡大部の側面から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記制御室と前記排出口との前記連絡通路において前記弁体よりも前記制御室側には、前記入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が大きい出口絞りが形成され、
前記連絡通路において、前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、前記導入口から前記排出口へ向かって流れる燃料が前記出口絞りを通過する際、前記出口絞りによって燃料の流速が増加する部位から前記中間室へと分岐する分岐通路が、前記導入口から前記中間室への燃料供給通路として形成され、
前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、前記出口絞りを通過する燃料により発生するエジェクタ効果により、前記分岐通路を介して前記中間室内の燃料を吸い出すことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記分岐通路は、前記出口絞りの形成部位から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項5に記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記連絡通路において前記出口絞りにおける前記弁体側の端部には、通路面積が前記出口絞りの通路面積よりも大きく、前記出口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される出口側拡大部が設けられ、
前記分岐通路は、前記出口側拡大部の側面から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項5に記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
前記制御室と前記排出口との前記連絡通路において前記弁体よりも前記制御室側には、前記入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が大きい出口絞りが形成され、
前記導入口から前記制御室への燃料供給通路において、前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、前記導入口から前記排出口に向かって流れる燃料が前記入口絞りを通過する際、前記入口絞りによって燃料の流速が増加する部位から前記中間室へと分岐する第1の分岐通路、及び前記連絡通路において、前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、前記導入口から前記排出口へ向かって流れる燃料が前記出口絞りを通過する際、前記出口絞りによって燃料の流速が増加する部位から前記中間室へと分岐する第2の分岐通路が、前記導入口から前記中間室への燃料供給通路として形成され、
前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、前記入口絞り及び前記出口絞りを通過する燃料により発生するエジェクタ効果により、前記第1,2の分岐通路を介して前記中間室内の燃料を吸い出すことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項9】
前記第1の分岐通路は、前記入口絞りの形成部位から前記中間室へと分岐する通路であり、前記第2の分岐通路は、前記出口絞りの形成部位から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項8に記載の燃料噴射装置。
【請求項10】
前記制御室への燃料供給通路において前記入口絞りにおける前記制御室側の端部には、通路面積が前記入口絞りの通路面積よりも大きく、前記入口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される入口側拡大部が設けられ、
前記連絡通路において前記出口絞りにおける前記弁体側の端部には、通路面積が前記出口絞りの通路面積よりも大きく、前記出口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される出口側拡大部が設けられ、
前記第1の分岐通路は、前記入口側拡大部の側面から前記中間室へと分岐する通路であり、前記第2の分岐通路は、前記出口側拡大部の側面から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項8に記載の燃料噴射装置。
【請求項11】
前記第1の分岐通路には、前記中間室に向かう燃料流れを禁止するとともに、前記制御室への燃料供給通路に向かう燃料流れを許容する逆止弁が設置されることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項12】
前記第2の分岐通路には、前記中間室に向かう燃料流れを禁止するとともに、前記制御室と前記排出口との前記連絡通路に向かう燃料流れを許容する逆止弁が設定されることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項13】
前記制御ピストン部材を前記ノズル弁部材に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項14】
供給された燃料を噴孔から内燃機関の燃焼室に噴射する燃料噴射装置であって、
供給された燃料を導入する導入口、前記導入口に導入された燃料の一部を排出する排出口、及び前記噴孔が形成された本体部と、
前記本体部内に軸方向に移動可能に配置され、その軸方向の移動により前記噴孔を開閉するノズル弁部材と、
前記本体部内において、軸方向に沿って前記ノズル弁部材と並んで移動可能に配置され、前記ノズル弁部材の移動を制御する制御ピストン部材と、を備え、
前記本体部内には、前記ノズル弁部材と前記制御ピストン部材との間に中間室が形成され、前記制御ピストン部材の前記中間室と反対側には制御室が形成され、これら中間室及び制御室には、前記導入口を介して導入された燃料が供給され、
さらに、前記制御室と前記排出口との連絡通路に設置され、開弁時に前記制御室と前記排出口とを連通し、閉弁時に前記制御室と前記排出口との連通を遮断する弁体を有し、
前記弁体が、閉弁状態から開弁状態に移行したとき、前記制御室が前記排出口に連通することによって前記制御室内の燃料圧力が低下することに起因して、前記制御ピストン部材が前記制御室の方向に移動し、それにより、前記ノズル弁部材が前記噴孔を開放するものであって、
前記導入口から前記制御室への燃料供給通路、及び前記制御室と前記排出口との前記連絡通路において前記弁体よりも前記制御室側の少なくとも一方には、絞り部が形成されており、
前記導入口から前記制御室への燃料供給通路、及び前記連絡通路のうち、前記絞り部が形成された通路において、前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行し、前記導入口から前記排出口に向かって流れる燃料が前記絞り部を通過する際、前記絞り部によって燃料の流速が増加する部位から前記中間室へと分岐する分岐通路が、前記導入口から前記中間室への燃料供給通路として前記本体部に形成され、
前記弁体が閉弁状態から開弁状態に移行したとき、前記絞り部を通過する燃料により発生するエジェクタ効果により、前記中間室内の燃料を吸い出すことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項15】
前記絞り部は、前記導入口から前記制御室への燃料供給通路に形成される入口絞りであり、
前記分岐通路は、前記入口絞りの形成部位から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項14に記載の燃料噴射装置。
【請求項16】
前記絞り部は、前記導入口から前記制御室への燃料供給通路に形成される入口絞りであり、
前記導入口から前記制御室への燃料供給通路において前記入口絞りにおける前記制御室側の端部には、通路面積が前記入口絞りの通路面積よりも大きく、前記入口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される入口側拡大部が設けられ、
前記分岐通路は、前記入口側拡大部の側面から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項14に記載の燃料噴射装置。
【請求項17】
前記分岐通路には、前記入口絞りに比較して、絞り部分の面積が小さい供給絞りが形成され、
前記弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、前記中間室の圧力上昇が、前記制御室の圧力上昇よりも遅れることを特徴とする請求項15又は16に記載の燃料噴射装置。
【請求項18】
前記絞り部は、前記制御室と前記排出口との前記連絡通路において前記弁体よりも前記制御室側に形成される出口絞りであって、
前記分岐通路は、前記出口絞りの形成部位から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項14に記載の燃料噴射装置。
【請求項19】
前記絞り部は、前記制御室と前記排出口との前記連絡通路において前記弁体よりも前記制御室側に形成される出口絞りであって、
前記連絡通路において前記出口絞りにおける前記弁体側の端部には、通路面積が前記出口絞りの通路面積よりも大きく、前記出口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される出口側拡大部が設けられ、
前記分岐通路は、前記出口側拡大部の側面から前記中間室へと分岐する通路であることを特徴とする請求項14に記載の燃料噴射装置。
【請求項20】
前記絞り部は、前記導入口から前記制御室への燃料供給通路に形成される入口絞りをさらに有しており、
前記分岐通路には、前記入口絞りに比較して、絞り部分の面積が小さい供給絞りが形成され、
前記弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、前記中間室の圧力上昇が、前記制御室の圧力上昇よりも遅れることを特徴とする請求項18又は19に記載の燃料噴射装置。
【請求項21】
前記絞り部は、前記導入口から前記制御室への燃料供給通路に形成される入口絞り、及び前記制御室と前記排出口との前記連絡通路において前記弁体よりも前記制御室側に形成され、前記入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が大きい出口絞りであり、
前記分岐通路は、前記入口絞りの形成部位から前記中間室へと分岐する第1の分岐通路、及び前記出口絞りの形成部位から前記中間室へと分岐する第2の分岐通路であることを特徴とする請求項14に記載の燃料噴射装置。
【請求項22】
前記絞り部は、前記導入口から前記制御室への燃料供給通路に形成される入口絞り、及び前記制御室と前記排出口との前記連絡通路において前記弁体よりも前記制御室側に形成され、前記入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が大きい出口絞りであり、
前記導入口から前記制御室への燃料供給通路において前記入口絞りにおける前記制御室側の端部には、通路面積が前記入口絞りの通路面積よりも大きく、前記入口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される入口側拡大部が設けられるとともに、前記連絡通路において前記出口絞りにおける前記弁体側の端部には、通路面積が前記出口絞りの通路面積よりも大きく、前記出口絞りを燃料が通過することによって、燃料の流速が増加される出口側拡大部が設けられ、
前記分岐通路は、前記入口側拡大部の側面から前記中間室へと分岐する第1の分岐通路、及び前記出口側拡大部の側面から前記中間室へと分岐する第2の分岐通路であることを特徴とする請求項14に記載の燃料噴射装置。
【請求項23】
前記第1,2の分岐通路のそれぞれには、前記入口絞りに比較して、絞り部分の通路面積が小さい供給絞りが形成され、
前記弁体が開弁状態から閉弁状態に移行したとき、前記中間室の圧力上昇が、前記制御室の圧力上昇よりも遅れることを特徴とする請求項21又は22に記載の燃料噴射装置。
【請求項24】
前記第1の分岐通路には、前記中間室に向かう燃料流れを禁止するとともに、前記制御室への燃料供給通路に向かう燃料流れを許容する逆止弁が設置されることを特徴とする請求項21〜23のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項25】
前記第2の分岐通路には、前記中間室に向かう燃料流れを禁止するとともに、前記制御室と前記排出口との前記連絡通路に向かう燃料流れを許容する逆止弁が設定されることを特徴とする請求項21〜23のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項26】
前記制御ピストン部材を前記ノズル弁部材に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴とする請求項14から25のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−19408(P2013−19408A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221167(P2011−221167)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】