説明

燃料電池、燃料電池用膜−電極接合体、およびそれらの製造方法

【課題】電池性能の低下を抑えつつ、低温条件下からの燃料電池の起動の信頼性を高める。
【解決手段】燃料電池は、電解質膜20と、電解質膜20のそれぞれの面上において、内部に細孔を有する多孔質体として形成された一対の電極と、を備える。ここで、一対の電極21,22のうち、発電に伴って水が生じる一方の電極22における細孔容積は、燃料電池の起動を保証する温度の最低値である起動保証最低温度から、電極内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと、燃料電池の起動時の出力状態として予め定めた起動時出力状態で燃料電池が発電しながら昇温する際に、上記一方の電極22で生成される水の体積に対応する値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池、燃料電池用膜−電極接合体、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般に、発電に伴って電極において水が生成する。そのため、氷点下の温度条件で燃料電池を起動する場合には、電極で生じた生成水が凍結し、電極内におけるガス流路が氷によって閉塞されて、起動の動作に支障を来たす可能性があった。このような低温起動時の凍結に対する対策の一つとして、従来、電解質膜のカソード側に細孔容積の大きな水分散層を設ける構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。水分散層を設けることにより、カソード側の触媒層で生じた水を水分散層へと分散させ、触媒層内のガス流路における生成水の凍結を抑えている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−174768
【特許文献2】特開2005−19222
【特許文献3】特開2006−526271
【特許文献4】特開2005−44668
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電解質膜のカソード側に水分散層を設ける場合には、その水分散層における細孔容積が大きすぎると、電極において触媒に対するガス拡散性が低下して、ガスの利用率(酸素の利用率)が低下する場合があった。電極におけるガスの利用率の低下は、電池性能の低下を引き起こす可能性がある。また、水分散層を設けても、水分散層に分散する水の量が不十分であれば、触媒層内における凍結を抑制する効果が不十分になる可能性があり、凍結を防止する信頼性のさらなる向上が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、電池性能の低下を抑えつつ、低温条件下からの燃料電池の起動の信頼性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池であって、電解質膜と、前記電解質膜のそれぞれの面上において、内部に細孔を有する多孔質体として形成された一対の電極と、を備え、
前記一対の電極のうち、発電に伴って水が生じる一方の電極における細孔容積は、前記燃料電池の起動を保証する温度の最低値である起動保証最低温度から、前記電極内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと、前記燃料電池の起動時の出力状態として予め定めた起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、前記一方の電極で生成される水の体積に対応する値である燃料電池。
【0008】
適用例1に記載の燃料電池では、起動保証最低温度から、電極内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと、起動時出力状態で燃料電池が発電しながら昇温する際に、発電に伴って水が生じる一方の電極で生成される水の体積に対応する値となるように、上記一方の電極の細孔容積が設定されている。したがって、起動保証最低温度から起動するときであっても、上記温度条件を満たす温度以上に燃料電池が昇温するまでは、生成水は電極の細孔内に保持されるため、生成水の凍結を抑えて支障なく燃料電池を起動することが可能になる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池であって、前記一方の電極における細孔容積は、前記起動保証最低温度から、前記温度条件を満たす最低温度へと、前記起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、前記一方の電極で生成される水の体積以上の値である燃料電池。適用例2の燃料電池によれば、上記一方の電極における細孔容積を充分に確保することによって、凍結することなく燃料電池を起動させる信頼性を高めることができる。
【0010】
[適用例3]
適用例1または2記載の燃料電池であって、前記一方の電極における細孔容積は、前記起動保証最低温度から氷点へと、前記起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、前記一方の電極で生成される水の体積より小さい値である燃料電池。適用例3の燃料電池によれば、上記一方の電極の細孔容積が大きすぎることに起因する燃料電池の電池性能の低下、特に、燃料電池が定常状態であるときの電池性能(常温性能)の低下を、抑制することができる。
【0011】
[適用例4]
適用例2記載の燃料電池であって、前記最低温度は、−15℃〜−20℃の範囲の温度である燃料電池。適用例4の燃料電池によれば、発電に伴って水が生じる一方の電極の細孔容積を、上記温度に基づいて定められる体積に対応する値とすることで、起動保証最低温度から燃料電池が起動する際の生成水の凍結を抑制することができる。
【0012】
[適用例5]
適用例1ないし4いずれか記載の燃料電池であって、前記一方の電極は、触媒を担持した複数の導電性粒子を備え、前記細孔容積は、前記複数の導電性粒子間に形成される空隙の容積の合計である燃料電池。適用例5の燃料電池によれば、生成水を、上記複数の導電性粒子間に形成される空隙内に保持することによって、氷点下の温度条件で燃料電池を起動する場合であっても、生成水の凍結を抑制することができる。
【0013】
[適用例6]
適用例1ないし5いずれか記載の燃料電池であって、前記起動時出力状態は、前記燃料電池に供給される燃料の有するエネルギの80%以上が熱に変換される出力状態である燃料電池。適用例6の燃料電池によれば、燃料の有するエネルギの80%以上が熱に変換される出力状態を起動時出力状態とすることにより、低温条件下で燃料電池を起動する際に、速やかに燃料電池を昇温させることができる。その際、燃料の有するエネルギのうち、熱に変換される割合を高めることにより、燃料電池の起動時に電極で生成される水の量が抑えられ、発電に伴い水が生じる電極の細孔容積をより小さくすることができる。そのため、起動時出力状態で生成すると考えられる水の量に基づいて電極の細孔容積を確保することにより生成水の凍結を抑制する場合であっても、細孔容積を大きくすることに起因する燃料電池の電池性能の低下を抑えることができる。
【0014】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池用膜−電極接合体、燃料電池の製造方法、燃料電池用膜−電極接合体の製造方法、あるいは燃料電池の設計方法などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
A.燃料電池の構成:
図1は、本発明の好適な一実施例としての燃料電池を構成する単セル10の概略構成を表わす断面模式図である。単セル10は、電解質膜20と、電解質膜20の各々の面上に形成された電極であるアノード21およびカソード22と、電極を形成した上記電解質膜20を両側から挟持するガス拡散層23,24と、ガス拡散層23,24のさらに外側に配設されたガスセパレータ25,26と、を備えている。
【0016】
本実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池であり、電解質膜20は、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸を備えるフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜とすることができ、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード21およびカソード22は、触媒として、例えば白金、あるいは白金合金を備えている。より具体的には、アノード21およびカソード22は、上記触媒を担持したカーボン粒子と、電解質膜20を構成する高分子電解質と同様の電解質と、を備えている。本実施例の燃料電池は、カソード22が備える細孔容積に特徴があり、カソード22の詳しい構成については後に説明する。電解質膜20と、アノード21およびカソード22とは、MEA(膜−電極接合体、Membrane Electrode Assembly)30を構成している。
【0017】
ガス拡散層23,24は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロス、あるいは金属メッシュや発泡金属によって形成することができる。本実施例のガス拡散層23,24は、いずれも、平坦な板状部材として形成されている。このようなガス拡散層24は、電気化学反応に供されるガスの流路になると共に、集電を行なう。本実施例では、ガス拡散層23,24は、電極と接する側の表面に、撥水層を備えている。撥水層は、カーボン粒子と、フッ素樹脂などの撥水性物質とを溶媒中に分散させた分散液を、上記導電性部材の表面に塗布し、乾燥・焼成を行なうことによって形成される。
【0018】
ガスセパレータ25,26は、ガス不透過な導電性部材、例えば圧縮カーボンやステンレス鋼から成る部材によって形成される。ガスセパレータ25,26は、それぞれ所定の凹凸形状を有している。この凹凸形状によって、ガスセパレータ25とガス拡散層23との間には、水素を含有する燃料ガスが流れる単セル内燃料ガス流路47が形成される。また、上記凹凸形状によって、ガスセパレータ26とガス拡散層24との間には、酸素を含有する酸化ガスが流れる単セル内酸化ガス流路48が形成される。
【0019】
さらに、単セル10の外周部には、単セル内燃料ガス流路47および単セル内酸化ガス流路48におけるガスシール性を確保するために、ガスケット等のシール部材が配置されている(図示せず)。また、燃料電池が、上記した単セル10を複数積層したスタック構造を有する場合には、このスタック構造の外周部には、単セル10の積層方向と平行であって燃料ガスあるいは酸化ガスが流通する複数のガスマニホールドが設けられる(図示せず)。これら複数のガスマニホールドのうちの燃料ガス供給マニホールドを流れる燃料ガスは、各単セル10に分配され、電気化学反応に供されつつ各単セル内燃料ガス流路47内を通過し、その後、燃料ガス排出マニホールドに集合する。同様に、酸化ガス供給マニホールドを流れる酸化ガスは、各単セル10に分配され、電気化学反応に供されつつ各単セル内酸化ガス流路48内を通過し、その後、酸化ガス排出マニホールドに集合する。
【0020】
B.電極の製造工程:
図2は、本実施例の燃料電池における電極(アノード21およびカソード22)の製造工程を表わす説明図である。電極を作製する際には、まず、カーボン粒子(カーボン粉末)を用意する(ステップS100)。ここでは、種々のカーボン粒子を選択可能であり、例えば、カーボンブラックやグラファイトを用いることができる。
【0021】
次に、ステップS100で用意したカーボン粒子上に、触媒金属(ここでは白金(Pt))を液中で担持させる(ステップS110)。Ptを担持させるには、上記カーボン粒子を、Pt化合物の溶液中に分散させて、含浸法や共沈法、あるいはイオン交換法を行なえばよい。Pt化合物の溶液としては、例えば、テトラアンミン白金塩溶液やジニトロジアンミン白金溶液や白金硝酸塩溶液、あるいは塩化白金酸溶液などを用いることができる。このとき、カーボン粒子重量に対する担持された触媒金属の重量の割合、すなわち、触媒担持率は、例えば、60〜80wt%とすることができる。
【0022】
ステップS110において、Pt化合物溶液中にカーボン粒子を分散させてカーボン粒子にPtを担持させると、次にこれを乾燥・焼成する(ステップS120)。これによって、Pt微粒子を分散担持するカーボン粒子が得られる。例えば、含浸法による場合には、カーボン粒子を、上記した量のPtを含有する溶液中に分散させた後に、溶媒を蒸発させて乾燥し、還元処理(還元雰囲気下での焼成)を行なえばよい。
【0023】
その後、ステップS120で得たPt担持カーボン粒子を、適当な水及び有機溶剤中に分散させると共に、既述したプロトン伝導性を有する電解質を含有する電解質溶液(例えば、Aldrich Chemical社、Nafion Solution)をさらに混合して、電極ペーストを作製する(ステップS130)。そして、上記電極ペーストを電解質膜20上に塗布する(ステップS140)。
【0024】
電極ペーストの電解質膜20上への塗布は、例えば、ドクターブレード法により行なうことができる。また、電極ペーストを用いた電解質膜20上へのスクリーン印刷により行なうこととしてもよい。あるいは、スプレー印刷法や、インクジェット法により行なうこともできる。さらに、電極ペーストを塗布する他の方法として、電極ペーストを他の基材(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る基材)上に塗布した後に、この塗布した電極ペーストを電解質膜20に熱圧転写し、その後基材を剥離して除去する方法も可能である。また、ガス拡散層24上に電極ペーストを塗布後、このガス拡散層24と電解質膜20とを熱圧接合しても良い。
【0025】
その後、電解質膜20上に塗布した電極ペーストを乾燥させることで(ステップS150)、内部に微細な細孔を有する多孔質なアノード21およびカソード22が完成する。
【0026】
C.起動時の凍結の様子
本実施例の燃料電池は、低温起動時における生成水の凍結を抑制可能に設定されたカソード22における細孔容積に特徴があるが、このような細孔容積の説明に先立って、以下に、低温起動時におけるカソード内での生成水の凍結の様子を説明する。図3は、燃料電池におけるカソード22の断面の様子を拡大して模式的に示す説明図である。
【0027】
図3(A)は、燃料電池の起動時において燃料電池が発電を開始する前のカソード22の様子を表わしている。本実施例の燃料電池は、発電の終了時には、ガス流路に所定流量の空気を送り込む掃気を行なっているため、燃料電池の起動時には、ガスの流路内にほとんど水が残留していない状態になっている。
【0028】
図3(B)は、燃料電池が起動されて、いくらか発電を行なったときのカソード22の様子を表わしている。発電に伴ってカソード22が備える触媒では水が生じ、このような生成水量は、カソード22内の細孔(カソード22が備える触媒担持カーボンおよび高分子電解質の間に形成されている微細な空間)内で次第に増加する。図3(B)では、触媒担持カーボン粒子と混在して、触媒担持カーボン粒子の表面の一部を覆う高分子電解質は省略して表わしている。また、図3(B)では、カソード22の細孔内で生成水量が増加する様子を、矢印で示している。このとき、カソード22における細孔径は非常に小さいため(例えば、数nm〜数十nm程度)、燃料電池の起動時の温度が氷点下であっても、生じた水は細孔内で直ちに凍結することなく、過冷却水として細孔内に存在する。
【0029】
図3(C)は、燃料電池の起動後、さらに燃料電池が発電を継続して、生成水量が増加したときの様子を表わしている。既述したように、起動時の温度が氷点下のときには、生じた生成水は、0℃以下であっても凍結しない過冷却水の状態で存在している。このような過冷却水は、一般に、何らかの刺激を与えることにより凍結する。例えば、ある程度径の大きな孔(例えば、数μm程度)に移動させたときや、移動の際の抵抗が大きくなったとき、あるいは、氷に接触するときに、過冷却水は凍結する。図3(C)に示すように生成水量が次第に増加して、カソード22内の細孔が一杯になると、生成水は、ガス拡散層側へと移動しようとする。しかしながら、ガス拡散層の表面には既述したように撥水層が形成されており、水を弾く撥水層は液水の内部への侵入を抑制するため、カソード22からあふれた生成水量が少量であるうちは、生成水のガス拡散層側への移動が抑えられる。そのため、生成水は、カソード22とガス拡散層24との界面において界面に沿って移動する。ここで、カソード22とガス拡散層との界面に形成される空間は、カソード22内の細孔よりも流路径が大きいため、上記界面に排出された生成水は、上記界面において凍結する。このように過冷却水の一部が凍結して氷核が生じると、生成水全体の凍結が引き起こされる。
【0030】
D.起動時の温度と起動特性
本実施例の燃料電池では、カソード22における細孔容積は、燃料電池の起動時にカソード22で生じる生成水の凍結を抑制可能となるように設定されている。具体的には、既述したように低温条件下では、過冷却水として存在する生成水は、カソード22内の細孔から溢れ出すことにより凍結し得ると考えられるため、カソード22内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと燃料電池が昇温するまでの間に、カソード22で生じる生成水をカソード22内に保持可能となるように、カソード22の細孔容積が設定されている。
【0031】
ここで、燃料電池の温度が0℃以下であっても、カソード22から溢れ出した過冷却状態の生成水が必ず直ちに凍結するというものではない。0℃以下であってもある程度以上の温度であれば、生成水の凍結を抑えつつガス拡散層側へと排水することができ、燃料電池の発電を継続して、支障なく燃料電池を起動することが可能になる。このような、低温条件下における燃料電池の起動特性を調べた結果を以下に示す。
【0032】
図4は、燃料電池を一定の低温条件下において、出力電圧を一定値に設定しつつ起動したときの、出力電流値の変化の様子を表わす説明図である。燃料電池では、一般に、所望の電力量に応じて出力電流値を制御しているが、本実施例では、低温であるために所望の電力を得難い起動時には、出力電圧値(セル電圧)を、予め定めた充分に小さい一定値に制御している。ここで、燃料電池の温度は、燃料電池内に循環させる冷却水の温度を調節することによって、所望の一定値に保っている。
【0033】
燃料電池内から生成水が継続して排水されて、発電が支障なく行なわれる場合には、燃料電池の出力電流値は、図4中に破線で示すように、次第に上昇してやがて安定した値を示すようになる。これに対して、燃料電池の温度を、より低い一定の低温に保つ場合には、しばらくの間発電が行なわれた後に、生じた生成水が燃料電池内で凍結して触媒へのガス供給が不能になるため、出力電流値は急激に低下して、発電が停止される。このような出力電流値の変化の様子を、図4中に実線で示す。ここで、燃料電池内で生じた生成水量は、発電量に基づいて求めることができる。すなわち、燃料電池における発電の反応は、以下の(1)および(2)式で表わすことができ、発電量と生成水量との間にはこのような一定の関係が成立するため、この関係と積算電流値とに基づいて、燃料電池内で発生した生成水の総量を算出することができる。燃料電池内で生成水が凍結して発電が停止されるまでの積算電流値は、図4中に実線で示したグラフにおいて、凍結による発電停止までの間の出力電流値を時間で積分して求めることができる。なお、以下の(1)式は、アノードにおける反応を表わし、(2)式は、カソードにおける反応を表わす。
【0034】
2 → 2H+ + 2e- …(1)
2H+ + 2e- + (1/2)O2 → H2O …(2)
【0035】
燃料電池の温度条件として、氷点下の種々の温度を設定すると共に、出力電圧を一定値に設定しつつ起動し、凍結による発電停止までの積算電流値および生成水の総量を、上記のようにして求めた。図5は、低温条件の一例として、−30℃と、−20℃と、−10℃とを選ぶと共に、出力電圧を0.1Vに設定して、それぞれの温度について、凍結による発電停止までに発生した生成水の総量を求めた結果をプロットし、滑らかな曲線で繋いだグラフを表わす説明図である。図5に示すように、温度が低いほど、より早く電流降下し、凍結までに生じる生成水の総量が少なくなる。このような凍結までに生じる生成水の総量は、温度条件が−20℃から−10℃の間で著しく増加しており、図5より、特に約−15℃以上の温度条件下で、生成水の総量が特に急激に増加するという結果が得られた。凍結までに発生する生成水量が大きく増加したということは、図3に示したようにカソード22から溢れた生成水が直ちに凍結したわけではなく、ある程度の量の生成水が、凍結することなくガス拡散層側へと排出されるようになったことを示している。ここで、さらにカソード22の細孔容積を増加させて(細孔容積の測定方法は後述する)、凍結による発電停止までに生成する水の総量を同様にして求めると、−20℃の温度条件において上記水の総量が増加すると共に、−20℃からー10℃の間で上記水の総量が著しく増加する同様の傾向がみられた。この結果からも、−20℃以上、さらに好ましくは−15℃以上の温度条件下では、凍結までにある程度の量の生成水がガス拡散層側へと排水したといえる。
【0036】
以上のように、本実施例の燃料電池では、−20℃〜−15℃を境にして、燃料電池内における生成水の凍結しやすさが急激に変化し、上記温度以上では、カソード22内の細孔から溢れ出した生成水が、凍結せずに存在し得るようになると考えられる。すなわち、生成水が、カソード22の細孔という径の細かい流路から、カソード22とガス拡散層24との界面というより径の大きな流路へと移動しても、凍結せず液体として存在し得るようになると考えられる。実際の起動時には、燃料電池の温度は一定値に保たれるのではなく、発熱により徐々に昇温する。そのため、燃料電池の低温起動時には、生成水が急激に凍結し難くなる−20℃〜−15℃程度にまで燃料電池を昇温させることができれば、その後は連続的に排水を行なって凍結を起こすことなく発電を継続することが可能になると考えられる。このように、燃料電池では、燃料電池を一定の低温に保って発電を行なったときに、凍結までに生成された水の総量が、カソード22の細孔容積と同等以上になる温度として、燃料電池内で水が凍結せずに発電を継続可能になる温度である昇温目標温度を設定することができる。
【0037】
E.カソード側の細孔容積:
既述したように、本実施例の燃料電池では、カソード内22の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと起動時に燃料電池が昇温するまでの間に、カソード22で生じる生成水をカソード22内部に保持可能となるように、カソード22の細孔容積が設定されていることを特徴としている。具体的には、燃料電池の起動可能温度として保証する起動保証最低温度から、上記温度条件を満たす温度へと、発電に伴う発熱によって燃料電池が昇温する際にカソード22で生じる生成水量を保持可能となるように、カソード22の細孔容積が設定されている。本実施例の燃料電池で定められているこのようなカソード22の細孔容積Vの範囲は、以下の(3)式で表わすことができる。
【0038】
ΔTa×A×K < V < ΔT×A×K …(3)
【0039】
ここで、ΔTa:起動保証最低温度と、上記温度条件を満たす温度の下限である昇温目標温度との差(K)、ΔT:起動保証最低温度と氷点(0℃)との差(K)、K:比例定数、A:単セルの熱容量(J/K)、である。上記(3)式に表わされた細孔容積Vの下限値(不等式における左辺)は、起動保証最低温度から、上記温度条件を満たす温度の下限の温度(昇温目標温度)にまで、発電に伴う発熱によって燃料電池を昇温させたときに、燃料電池内で生じる生成水の体積を表わしている。また、(3)式に表わされた細孔容積Vの上限値(不等式における右辺)は、起動保証最低温度から氷点(0℃)へと、発電に伴う発熱によって燃料電池を昇温させたときに、燃料電池内で生じる生成水の体積を表わしている。このように、起動時に所定の温度に燃料電池が昇温するまでの間に燃料電池で生じる生成水の体積は、起動開始時の温度と昇温後の温度との温度差と、燃料電池の熱容量と、に対して、所定の比例定数を乗じた値として表わすことができる。
【0040】
本実施例では、起動保証最低温度は、−30℃としている。また、上記温度条件を満たす温度の下限(昇温目標温度)は、−15℃としている。したがって、本実施例では、上記(3)式におけるΔTaは、15(K)であり、ΔTは、30(K)である。単セルの熱容量A(J/K)は、予め実験的に測定しても良く、また、単セルを構成する各材料の比熱と各材料の構成割合とに基づいて算出しても良い。起動保証最低温度と昇温させるべき温度との差(K)と、単セルの熱容量A(J/K)とを乗じることにより、起動保証最低温度から、昇温させるべき温度へと単セルを昇温させるために要する熱量を求めることができる。すなわち、ΔTa×Aは、起動保証最低温度から昇温目標温度へと単セルを昇温させるために要する熱量を表わす。また、ΔT×Aは、起動保証最低温度から氷点へと単セルを昇温させるために要する熱量を表わす。
【0041】
比例定数Kは、燃料電池に供給される燃料が有するエネルギ量(熱量)と、燃料電池における変換効率ηCELL(入熱量と電気出力の比)と、に基づいて定まる値である。ここで、燃料電池に供給される燃料、すなわち、水素の有するエネルギ量としての発熱量(HHV)は、285.83kJ/molである。また、燃料電池における変換効率ηCELLは、以下の(4)式に示すように、セル電圧E(V)に基づいて定まることが知られている(例えば、固体高分子型燃料電池(PEFC)−基礎から実用まで−燃料電池講習会テキスト1999、燃料電池情報開発センター 企画委員会編、36ページを参照)。
【0042】
ηCELL=0.675 × E (HHV) …(4)
【0043】
(4)式に示すように、変換効率ηCELLは、セル電圧Vが高いほど高くなるため、セル電圧が高いほど、水素の有するエネルギのうち、電気ではなく熱に変換されて放出されるエネルギの割合が小さくなるといえる。燃料電池の低温起動時には、燃料電池が低温であるために充分な量の電力を発電させることは困難であると共に、早急に燃料電池を昇温させる必要がある。そのため、本実施例の燃料電池では、起動時には、出力電圧を抑えることによって変換効率ηCELLの値を抑えて、できるだけ多くの熱を発生させて燃料電池の昇温の促進を図っている。具体的には、水素の有するエネルギのうち、熱に変換される割合は、例えば80%以上、さらに好ましくは90%以上とすれば良い。本実施例では、上記のように熱への変換割合が高くなる起動時出力状態として、セル電圧Eが0.1Vである出力状態を設定している。
【0044】
以下に、具体例に基づき、カソード22の細孔容積Vの範囲の計算についてさらに説明する。細孔容積Vの範囲は、既述したように、起動保証最低温度から所定の温度へと燃料電池を昇温させる際にカソード22で生じる生成水量に基づいて定められる。図6は、カソード22で発生する生成水量の算出工程を表わすフローチャートである。カソード22で発生する生成水量を算出する際には、まず、燃料電池の起動条件下における変換効率ηCELLを求める(ステップS200)。燃料電池の起動時におけるセル電圧Eとして、0.1Vを(4)式に代入すると、変換効率ηCELLは、0.0675となる。
【0045】
求めた変換効率ηCELLの値を1から減算することにより、燃料が有するエネルギのうち熱として放出されるエネルギの割合である、熱変換効率が求められる(ステップS210)。本実施例では、熱変換効率は、0.9325となる。次に、求めた熱変換効率の値と、既述した水素の発熱量(HHV)とを積算することによって、セル電圧0.1Vのときの水素1モル当たりの燃料電池における発熱量を求める(ステップS220)。本実施例では、燃料である水素1モル当たりの発熱量は、266.5kJ/molとなる。
【0046】
次に、起動保証最低温度から所定の温度へと単セルを昇温させるために要する熱量を求める(ステップS230)。例えば、ΔTa(K)と単セルの熱容量A(J/K)とを積算することにより、単セルを、起動保証最低温度(−30℃)から昇温目標温度(−15℃)へと、15(K)昇温させるために必要な所要熱量を求めることができる。
【0047】
次に、ステップS230で求めた所要熱量を、ステップS220で求めた水素1モル当たりの発熱量で除することにより、上記所要熱量を発電により発生させる際に必要な水素量である所要水素量(mol)を求める(ステップS240)。ステップS230で、ΔTa(K)と単セルの熱容量A(J/K)とを積算した場合には、起動保証最低温度(−30℃)から昇温目標温度(−15℃)へと、発電に伴う発熱によって15(K)昇温させるために必要な所要水素量(mol)が求められる。
【0048】
ここで、既述した(1)式および(2)式より、電気化学反応に寄与した水素のモル数と、電気化学反応に伴って生成した水のモル数とは等しいといえる。そのため、ステップS240において所要水素量(mol)が求められると、この所要水素量と等しい値として、生成水量(mol)が求められる(ステップS250)。ステップS230で、ΔTa(K)と単セルの熱容量A(J/K)とを積算した場合には、起動保証最低温度(−30℃)から昇温目標温度(−15℃)へと、発電に伴う発熱によって15(K)昇温させたときに生じる生成水量(mol)が求められる。
【0049】
このように生成水量(mol)が求められると、この生成水量(mol)の水の体積を求める(ステップS260)。ステップS130で、ΔTa(K)と単セルの熱容量A(J/K)とを積算した場合には、起動保証最低温度(−30℃)から昇温目標温度(−15℃)へと、発電に伴う発熱によって15(K)昇温させたときに生じる生成水の体積が求められる。このようにして求めた生成水の体積は、(3)式における左辺に対応し、カソード22の細孔容積Vの範囲の下限値となる。
【0050】
同様にして、ステップS230で、ΔT(K)と単セルの熱容量A(J/K)とを積算して、ステップS240以下の計算を行なう場合には、起動保証最低温度(−30℃)から氷点(0℃)へと、発電に伴う発熱によって30(K)昇温させたときに生じる生成水の体積が求められる。このようにして求めた生成水の体積は、(3)式における右辺に対応し、カソード22の細孔容積Vの範囲の上限値となる。
【0051】
本実施例の燃料電池では、上記のようにして、カソード22の細孔容積Vが設定されている。製造された燃料電池におけるカソード22の細孔容積Vは、例えば、カソード22が形成された電解質膜20を水に浸漬して煮沸し、カソード22の細孔内に水を入り込ませ、処理の前後における重量増加量から求められるカソード22における吸水量に基づいて測定することができる。このとき、電解質膜20における吸水量は、電解質膜20単独で同様の処理をして測定すればよく、全体の吸水量から電解質膜20における吸水量を減算することにより、カソード22における吸水量を求めることができる。あるいは、カソード22の細孔容積Vは、カソード22が備えるカーボン粒子のかさ密度と、カソード22の重量と、カソード22の面積および厚みとに基づいて、算出しても良い。すなわち、カーボン粒子のかさ密度とカソード22の重量とから、カソード22におけるカーボン粒子の占める体積を求めることができる。また、カソード22の面積および厚みから、カソード22全体の体積を求めることができる。したがって、カソード22全体の体積から、カーボン粒子の占める体積を減算することにより、カソード22の実際の細孔容積Vを算出することができる。
【0052】
なお、上記した説明では、燃料電池を単セルとしているが、通常は、燃料電池は複数の単セルを積層したスタック構造を有している。積層体としての燃料電池を構成する個々の単セルにおけるカソード22の細孔容積Vを設定する際には、ステップS230において、スタック全体の熱容量に基づいて、スタック全体を昇温させるために要する所要熱量を求める。そして、このような所要熱量に対応して、所要水素量を求めると共に(ステップS240)生成水量を求め(ステップS250)、生成水体積を求める(ステップS260)。求めた生成水体積を、積層する単セル数で除することにより、個々の単セルにおけるカソード22の細孔容積Vの範囲の上限あるいは下限を設定することができる。
【0053】
カソード22の細孔容積Vが、(3)式に示す不等式に基づいて設定した範囲の値となるような燃料電池を作製するための方法の一つとして、例えば、カソード22の厚みを調節する方法を挙げることができる。カソード22を形成するための、触媒担持カーボン粒子と高分子電解質とを含有する電極ペーストの組成を決定したならば、この電極ペーストを電解質膜20上に塗布してカソード22を形成する際に、塗布する電極ペーストの厚みによって、細孔容積Vを所望の値に調節することが可能になる。
【0054】
このように、カソード22の厚みによって、内部に形成される細孔の容積Vを調節する場合であって、カソード22における単位面積当たりの触媒量を、カソード22の厚みに関わらず所定の値にしたい場合には、電極ペーストを構成する触媒担持カーボン粒子における触媒担持量をさらに調節すれば良い。例えば、電極ペーストの塗布量を増やしてカソード22を厚く形成し、細孔容積Vをより大きくする場合であっても、触媒担持カーボン粒子における触媒担持量を適宜減少させることにより、カソード22における単位面積当たりの触媒量の変動を抑えることができる。
【0055】
あるいは、カソード22の厚みを調節する場合であって、カソード22における単位面積当たりの触媒量を、カソード22の厚みに関わらず所定の値にしたい場合には、触媒担持カーボン粒子が担持する触媒量の分布を、カソード22内の部位によって異ならせても良い。例えば、カソード22において、電解質膜20側の層と、ガス拡散層24側の層とで、触媒担持カーボンが担持する触媒量を異ならせることができる。この場合には、特に、電解質膜20側の層の方が、ガス拡散層24側の層よりも、触媒担持カーボンが担持する触媒(Pt)量を多くすることが望ましい。さらに、このとき、カソード22において、ガス拡散層24側には、触媒を担持しないカーボンを備える層を設けても良い。
【0056】
また、カソード22を形成するための電極ペーストにおいて、触媒担持カーボン粒子と高分子電解質との比率を調節することによって、細孔容積Vを所望の値に調節しても良い。カーボン粒子と高分子電解質との比率は、高分子電解質のガス透過率やプロトンの伝達効率を考慮して定められるが、さらに、所望の細孔容積Vを考慮して、上記比率を設定すれば良い。ここで、高分子電解質の量が多いと、高分子電解質によってカーボン粒子間の細孔が塞がれる量が多くなる。そのため、例えば、カーボン粒子の比率を高める場合には、電極ペーストを塗布する厚み、あるいは、単位面積当たりの触媒量を変化させなくても、細孔容積Vを大きくすることができる。
【0057】
以上のように構成された本実施例の燃料電池によれば、起動保証最低温度から、カソード22内の細孔から溢れ出した生成水が存在し得る温度条件を満たす温度へと、燃料電池が所定の起動時出力状態で発電しながら昇温する際にカソードで生成される水の体積に対応する値となるように、カソード22の細孔容積Vが設定されている。したがって、起動保証最低温度から起動するときであっても、上記温度条件を満たす温度に燃料電池が昇温するまでは、カソード22の細孔に内に生成水を保持することができ、生成水の凍結を抑えて燃料電池の発電を継続し、支障なく燃料電池を起動することが可能になる。
【0058】
特に、カソード22の細孔容積Vが、起動保証最低温度から、上記温度条件を満たす温度の下限である昇温目標温度へと、燃料電池が所定の起動時出力状態で発電しながら昇温する際にカソードで生成される水の体積以上の値に設定されているため、凍結することなく燃料電池を起動させる信頼性が充分に高められている。また、カソード22の細孔容積Vが、起動保証最低温度から氷点へと起動時出力状態で燃料電池が発電しながら昇温する際に、カソードで生成される水の体積より小さい値に抑えられているため、カソード22の細孔容積Vが大きすぎることに起因する定常状態における電池性能(常温性能)の低下を抑制することができる。具体的には、カソード22の細孔容積Vが大きすぎることに起因するカソード22におけるガス利用率の低下を抑制することができる。
【0059】
また、本実施例の燃料電池では、低温起動時には、水素の有するエネルギの80%以上、さらに好ましくは90%以上が熱に変換される出力状態、具体的には出力電圧が設定されている。そのため、低温起動時には速やかに燃料電池を昇温させることができる。また、水素の有するエネルギのうち熱に変換される割合を高めることで、上記温度条件を満たす温度へと燃料電池が昇温するまでにカソード22で生じる水の量を削減することができ、カソード22から生成水が溢れて凍結する可能性を抑えることができる。さらに、上記温度条件を満たす温度へと燃料電池が昇温するまでにカソード22で生じる水の量を削減することができることで、カソード22における細孔容積Vをより小さくすることができ、細孔容積Vが大きすぎることに起因する電池性能の低下を抑制可能になる。
【0060】
なお、本実施例の燃料電池において、カソード22の細孔容積Vは、カソード22の内部に形成された空隙のうち、液水が入り込むことができる大きさの空隙の容積の合計を表わしている。具体的には、カソード22において、高分子電解質と混在する触媒担持カーボン粒子間に形成される空隙の容積の合計を表わしている。カーボン粒子は、一般に、少なくとも表面近傍は多孔質であり、カーボン粒子内にも空隙は存在するが、このようなカーボン粒子内の空隙は極めて微細であり、通常は液水が浸入することはできない。したがって、本実施例におけるカソード22の細孔容積Vは、このような液水が浸入不能であるカーボン粒子内に形成される細孔の容積は含んでいない。
【0061】
F.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0062】
F1.変形例1:
実施例では、カソード22内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度を、図5に示すように、氷点下の複数の温度について、それぞれの温度に保持した燃料電池において凍結するまで(発電できなくなるまで)に生じた生成水量を調べ、その結果に基づいて判断しているが、異なる構成としても良い。例えば、図5における縦軸を、凍結するまでに生じた生成水量に代えて、それぞれの温度に保持した燃料電池において凍結するまでの積算発電量としても良い。カソード22内の細孔から溢れ出すと生成水が凍結していた状態から、ある温度を超えると、カソード22内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得るようになる温度を判定可能であれば、いかなる方法であっても良い。
【0063】
F2.変形例2:
実施例の燃料電池では、カソード22の細孔容積Vを、起動保証最低温度から、既述した温度条件を満たす温度へと、所定の起動時出力状態で燃料電池が発電する際に発生する熱のみによって燃料電池が昇温する際に、カソードで生成される水の体積に対応する値として設定しているが、異なる構成としても良い。例えば、燃料電池を備える燃料電池システムにおいて、燃料電池を加熱する加熱装置をさらに設け、加熱装置から与えられる熱によっても、燃料電池を昇温可能にしても良い。この場合には、図6のステップS230で求めた所要熱量に基づいてステップS240で所要水素量を求める際に、低温起動時における加熱装置による加熱量を上記所要熱量から減じて所要水素量を求め、生成水量を求めればよい。
【0064】
F3.変形例3:
また、カソード22の細孔容積Vを設定する際には、低温起動時における燃料電池からの放熱の影響をさらに考慮しても良い。この場合には、図6のステップS230において、燃料電池を所定の温度に昇温させるために要する所要熱量を求める際に、さらに、燃料電池からの放熱効率を考慮すれば良い。
【0065】
F4.変形例4:
実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池としたが、異なる種類の燃料電池であっても良い。発電に伴って一方の電極で水が生じ、低温起動時に生成水の凍結の問題が生じうる燃料電池であれば、上記一方の電極について本願発明を適用することで、同様の効果が得られる。例えば、氷点下の温度条件からの起動の要求がある場合には、固体電解質型燃料電池において、本発明を適用することとしても良い。このとき、用いる電解質の種類によって、発電に伴って水が生じる電極がアノードである場合には、アノードの差以降容積について、本発明を適用すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】単セル10の概略構成を表わす断面模式図である。
【図2】電極の製造工程を表わす説明図である。
【図3】カソード22の断面の様子を拡大して模式的に示す説明図である。
【図4】低温条件下で出力電圧を一定値に設定しつつ燃料電池を起動したときの、出力電流値の変化の様子を表わす説明図である。
【図5】凍結による発電停止までに発生した生成水の総量を表わす説明図である。
【図6】カソード22で発生する生成水量の算出工程を表わすフローチャートである。
【符号の説明】
【0067】
10…単セル
20…電解質膜
21…アノード
22…カソード
23,24…ガス拡散層
25,26…ガスセパレータ
47…単セル内燃料ガス流路
48…単セル内酸化ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜と、
前記電解質膜のそれぞれの面上において、内部に細孔を有する多孔質体として形成された一対の電極と、
を備え、
前記一対の電極のうち、発電に伴って水が生じる一方の電極における細孔容積は、前記燃料電池の起動を保証する温度の最低値である起動保証最低温度から、前記電極内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと、前記燃料電池の起動時の出力状態として予め定めた起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、前記一方の電極で生成される水の体積に対応する値である
燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記一方の電極における細孔容積は、前記起動保証最低温度から、前記温度条件を満たす最低温度へと、前記起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、前記一方の電極で生成される水の体積以上の値である
燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料電池であって、
前記一方の電極における細孔容積は、前記起動保証最低温度から氷点へと、前記起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、前記一方の電極で生成される水の体積より小さい値である
燃料電池。
【請求項4】
請求項2記載の燃料電池であって、
前記最低温度は、−15℃〜−20℃の範囲の温度である
燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の燃料電池であって、
前記一方の電極は、触媒を担持した複数の導電性粒子を備え、
前記細孔容積は、前記複数の導電性粒子間に形成される空隙の容積の合計である
燃料電池。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか記載の燃料電池であって、
前記起動時出力状態は、前記燃料電池に供給される燃料の有するエネルギの80%以上が熱に変換される出力状態である
燃料電池。
【請求項7】
燃料電池用膜−電極接合体であって、
電解質膜と、
前記電解質膜のそれぞれの面上において、内部に細孔を有する多孔質体として形成された一対の電極と、
を備え、
前記一対の電極のうちの一方の電極における細孔容積は、前記燃料電池の起動を保証する温度の最低値である起動保証最低温度から、前記電極内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと、前記燃料電池の起動時の出力状態として予め定めた起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、発電に伴って水が生じる側の電極で生成される水の体積に対応する値である
燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項8】
燃料電池の製造方法であって、
電解質膜を用意する第1の工程と、
前記電解質膜のそれぞれの面上に、内部に細孔を有する多孔質体として形成された一対の電極を形成する第2の工程と、
を備え、
前記第2の工程は、前記燃料電池の起動を保証する温度の最低値である起動保証最低温度から、前記電極内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと、前記燃料電池の起動時の出力状態として予め定めた起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、発電に伴って水が生じる側の電極で生成される水の体積に対応する細孔容積を有する電極を、前記一対の電極のうちの一方の電極として作製する工程を備える
燃料電池の製造方法。
【請求項9】
燃料電池用膜−電極接合体の製造方法であって、
電解質膜を用意する第1の工程と、
前記電解質膜のそれぞれの面上に、内部に細孔を有する多孔質体として形成された一対の電極を形成する第2の工程と、
を備え、
前記第2の工程は、前記燃料電池の起動を保証する温度の最低値である起動保証最低温度から、前記電極内の細孔から溢れ出した生成水が凍結せずに存在し得る温度条件を満たす温度へと、前記燃料電池の起動時の出力状態として予め定めた起動時出力状態で前記燃料電池が発電しながら昇温する際に、発電に伴って水が生じる側の電極で生成される水の体積に対応する細孔容積を有する電極を、前記一対の電極のうちの一方の電極として作製する工程を備える
燃料電池用膜−電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−283244(P2009−283244A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133127(P2008−133127)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】