説明

燃料電池の劣化を低減する方法

【課題】膜電極接合体燃料電池のカソードにおける触媒溶出を低減する方法を提供する。
【解決手段】本発明の膜電極接合体燃料電池のカソードにおける触媒溶出を低減する方法は、(a)アノードと、カソードと、アノードとカソードの間に介在している高分子電解質膜とを含む、膜電極接合体を用意する工程と;(b)膜電極接合体を用いて燃料電池を組み立てる工程と;(c)酸化剤を含む流体を膜電極接合体のカソードに適用する工程と;(d)燃料を含む流体を膜電極接合体のアノードに適用する工程と;(e)カソードの平均開放回路電圧を約0.98V未満に維持するのに十分な量の還元剤をカソードに供給する工程と含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の劣化を低減して、燃料電池の耐久性及び寿命を改善する方法に関し、従って、燃料電池の有用性に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料、例えば水素、及び酸化種、例えば酸素又は空気を含む流体流を、電気、熱及び反応生成物に変換するデバイスである。そのようなデバイスは、燃料が供給されるアノード;酸化種が供給されるカソード;及びそれら2つを分離する電解質を含む。燃料及び/又は酸化種は、一般に液体又は気体材料である。電解質は、燃料及び酸化種を分離する電子絶縁体である。電解質は、燃料の反応によってイオンが生成するアノードとそれらイオンが使用されて生成物を生成するカソードとの間をイオンが移動するための、イオン性経路を提供する。イオンの形成中に生成した電子は、外部回路で使用されて電力を作り出す。本明細書で使用する「燃料電池」には、1つのアノード、1つのカソード及びそれらの間に介在している電解質のみを含む単セル、又はスタックに組み立てられた複数のセルが含まれてもよい。後者の場合、アノード領域及びカソード領域のそれぞれが電解質で分離されている、複数の分離したアノード領域及びカソード領域が存在する。そのようなスタックにおける個々のアノード領域及びカソード領域には、それぞれ燃料及び酸化剤が個別に供給される。個々のアノード領域及びカソード領域を、直列又は並列の外部接続の任意に組み合わせで接続して電力を提供してもよい。単セル又は燃料電池スタックにおける追加の構成要素として、必要に応じて、反応物質をアノード及びカソード全体に分配する手段、例えば以下に限られないが、多孔質ガス拡散媒体及び/又は反応物質を分配するための流路を備えた板であるいわゆるバイポーラープレートが含まれてもよい。さらに必要に応じて、例えば、冷却流体が流れることのできる分離した流路を用いた、熱をセルから除去する手段があってもよい。
【0003】
高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)は、電解質が高分子電解質である種類の燃料電池である。他の種類の燃料電池として、固体酸化物燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)、リン酸燃料電池(PAFC)などが挙げられる。流体の反応物質を用いて動作する電気化学デバイスと同様に、高い性能及び長い動作時間の両方を達成するための独特の課題が存在する。高性能を達成するためには、デバイス内部の構成要素の電気抵抗及びイオン抵抗を低減する必要がある。高分子電解質膜における最近の進歩により、PEMFCの電力密度の顕著な改善が可能になっている。Pt充填量の削減、膜寿命の延長及び様々な動作条件での高性能の実現を含む様々な側面で、確実な進歩が見られる。しかしながら、多くの技術的課題がまだこの先に待ち受けている。その課題の1つは、膜電極接合体(MEA)を様々な潜在的用途に要求される寿命に適合させることである。要求される寿命は、持ち運び用途での数百時間から、自動車用途での5000時間以上、さらには定置用途での40000時間以上といった範囲に及ぶ。全ての場合において、膜の破損があってはならず、かつ重大な電極劣化があってはならない。
【0004】
本技術分野で知られているように、高分子電解質膜の厚さを減らすと、膜のイオン抵抗を減少させることができ、こうして燃料電池の電力密度を増大することができる。本願における電力密度は、外部回路における電圧と電流の積を、カソードの有効面積の幾何学的面積で割ったものとして定義される。有効面積とは、カソード電極において触媒が酸化剤と接触できるカソード内の面積である。
【0005】
しかしながら、膜の物理的厚さを減らすと、デバイスの他の構成要素から損傷を受ける可能性が高まって、セル寿命が短くなることにつながる場合がある。この問題を軽減するために様々な改善がなされてきた。例えば、Baharらの米国再発行特許第37307号には、完全に含浸した微多孔質膜を用いて強化した高分子電解質膜が優れた機械特性を有することが示されている。この方法はセル性能の改善及び寿命の延長に成功しているものの、さらに長寿命であることが望ましい。
【0006】
燃料電池又はスタックの通常の動作中、動作時間が増えるにつれ、電力密度は一般に減少する。様々な実施者により、電圧減衰、燃料電池の耐久性、又は燃料電池の安定性として説明されているこの減少は、使用中のセルが劣化するにつれて、得られる有用な仕事が少なくなることから望ましくない。最終的には、セル又はスタックは、もはや有用でないほどの少ない電力を生成することに至る。経時でのこの電力損失の原因は、完全に理解されていないが、燃料電池に存在する材料が様々な形態で劣化するために起こると考えられている。例えば電極特性の劣化を考えてみる。そのような電極劣化機構には、以下に限られないが、粒子の焼結又は凝集から生じる有効面積の減少による触媒活性の減少;電極中の、触媒、触媒支持体、又はイオン伝導要素の物理的損失;電極と隣接する構成要素との界面の劣化;又は電極内部に存在する複数相内部での界面の劣化が含まれる可能性がある。
【0007】
これらの機構の1つである、電極からの触媒の物理的損失が本願に特に関係する。燃料電池においてある条件下では、Pt金属は熱力学的に不安定で、電極中で腐食する。(Van Muylder, J., DeZoubov, N., & Pourbaix, M.; Platinum, in Atlas of Electrochemical Equilibria, 1974 edn, M. Pourbaix, ed., National Association of Corrosion Engineers, Houston, TX, pp. 378−383を参照。)腐食の程度は、様々な因子、例えば以下に限られないが、セル中のPt近傍の局色的状況、溶出反応速度及び温度に左右される。Ptが燃料電池中で腐食しうるという事実は、以前から本技術分野で知られているものの、そのように腐食が生じる程度、並びにそのような腐食を軽減する方法及び技術は、これまではっきりと示されてこなかった。
【0008】
燃料電池の動作における他の重要な変数は、セルの動作温度である。この温度はシステムの種類によって様々であるが、PEMFCについては、動作温度は約150℃未満である。40〜80℃の範囲では、出力が許容できるほど高く、経時での電圧減衰が許容できるほど低いため、PEMFCはより一般的には40〜80℃で動作する。より高温では減衰速度が増加する傾向があり、そのためセルの耐久性が低下する。しかしながら、例えば約90〜150℃といったより高温で動作することが非常に望ましいと思われる。そのように動作させることにより、潜在毒、例えば一酸化炭素の影響を低減できると思われる。さらに、100℃より高温では、水によるフラッディング及び他の悪影響がそれほど問題にならない。しかし、現在の材料及び動作条件では、このような高温での寿命は許容できないほど短い。
【0009】
燃料電池が広範に受け入れられることを現在制約しているさらに別の因子は、燃料電池のコストである。一つには、電極中に比較的大量の貴金属触媒、すなわちPtが存在していることが原因である。歴史的に、最新技術の燃料電池における電極中のPt濃度は、30年前のPt充填量〜5〜10mg/cm2から今日では〜1mg/cm2まで減少している。しかし、大容量の輸送用途向けの厳しいコスト目標に合致させるために、充填量をさらに一桁減少させる必要がある。そのような低充填量では、現在の充填量の水準で存在するような、電極中に存在する「予備の」Ptがないため、セル動作中の電極劣化が非常に低くなければならない。例えば、電極中のPtの初期充填量が0.4mg/cm2であるセルにおいて、燃料電池の動作中の劣化が原因で、0.1mg/cm2が不活性になる、又は失われる場合、依然として0.3mg/cm2の「活性な」Pt触媒が利用できる。一方、〜0.1mg/cm2で開始したセルにおいて同量のPtの活性が失われた場合、反応を触媒するために利用可能なPtがほとんどないか全くなくなるため、完全なセル故障につながることになる。このように、Ptを触媒的不活性にする、燃料電池中の電極劣化機構を低減する、又はなくすことがますます重要になっている。
【0010】
燃料電池の寿命を改善する試みにおいて、数多くの改良が燃料電池になされてきたが、大半は改良した材料を用いることに注目している。燃料電池の寿命又は耐久性を最大にするよう作用しうる、燃料電池の特定の動作方法又は動作手段に注目したものはほとんどない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、膜電極接合体燃料電池のカソードにおける触媒溶出を低減する方法であって、その方法は、(a)アノードと、カソードと、該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜とを含む、膜電極接合体を用意する工程と;(b)該膜電極接合体を用いて燃料電池を組み立てる工程と;(c)酸化剤を含む流体を該膜電極接合体の該カソードに適用する工程と;(d)燃料を含む流体を該膜電極接合体の該アノードに適用する工程と;(e)該カソードの平均開放開路電圧を約0.98V未満に維持するのに十分な量の還元剤を該カソードに供給する工程とを含む。本発明の代替実施態様では、その開放開路電圧は約0.95V未満、又は約0.90V未満に保持される。
【0012】
本発明の他の実施態様では、燃料電池の動作温度を約85〜約150℃、又は約90℃、約100℃、約110℃もしくは約120℃として、上述の方法を使用してもよい。
【0013】
本発明の他の実施態様は、カソードに供給される十分な量の還元剤が水素ガスを含む、上述の方法である。代わりに、カソードに供給される十分な量の還元剤が、酸化剤を含む流体に供給される;外部源から供給される;又は内部源から供給される。内部源が、アノードに供給される燃料を含む流体からクロスオーバーするガスを含んでもよい。
【0014】
本発明の他の実施態様は、高分子電解質膜が、パーフルオロスルホン酸、及び必要に応じて延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、上述の方法である。
【0015】
本発明のさらに別の実施態様は、アノードと、カソードと、該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜と、酸化剤を含む流体を該カソードに適用する手段と、燃料を含む流体を該アノードに適用する手段と、該カソードの平均開放開路電圧を約0.98V未満に維持するのに十分な量の還元剤を、酸化剤を含む該流体に供給する手段とを含む、燃料電池である。高分子電解質膜の厚さは約12μm未満、又は約8μm未満である。さらに、高分子電解質膜は、パーフルオロスルホン酸、及び必要に応じて延伸ポリテトラフルオロエチレンをさらに含む。この実施態様におけるカソードは、白金触媒を含んでもよく、充填量が約0.1mg/cm2未満の白金触媒を含んでもよい。
【0016】
本発明のさらなる実施態様は、カソードに供給される還元剤が、標準酸化電位がPtより低くかつ水素より高い固体を含む、上述の方法である。この実施態様における固体を、貴金属からなる群から選択してもよく、あるいはCu、Ag、Pd、Os、Ru及びIrからなる群から選択してもよい。
【0017】
本発明のさらなる実施態様は、燃料電池の動作方法であって、その方法は、(a)アノードと、カソードと、該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜とを含む、膜電極接合体を用意する工程と;(b)該膜電極接合体を用いて燃料電池を組み立てる工程と;(c)酸化剤を含む流体を、該膜電極接合体の該カソードに適用する工程と;(d)燃料を含む流体を、該膜電極接合体の該アノードに適用する工程と;(e)該カソードの平均開放開路電圧を約0.98V未満に維持するのに十分な量の還元剤を該カソードに供給する工程とを含む。本発明の代替実施態様では、その開放開路電圧は約0.95V未満、又は約0.90V未満に保持される。
【0018】
本発明の他の実施態様では、燃料電池の動作温度を約85〜約150℃として、上述の燃料電池の動作方法を使用してもよい。本発明の他の実施態様は、カソードに供給される十分な量の還元剤が水素ガスを含む、上述の方法である。代わりに、カソードに供給される十分な量の還元剤が、酸化剤を含む流体に供給される;外部源から供給される;又は内部源から供給される。内部源が、アノードに供給される燃料を含む流体からクロスオーバーするガスを含んでもよい。
【0019】
本発明のさらに別の実施態様では、燃料電池の電極におけるPt溶出を観察する方法が見出され、その方法は、(a)膜電極接合体を溶媒中に5分未満の時間浸漬する工程と;(b)該溶媒中で、該膜電極接合体を静かに動かし、かつ必要に応じて静かに擦って、該膜電極接合体の電解質から電極を除去する工程と;(c)該溶媒から該電解質を除去して乾燥する工程と;(d)得られた乾燥膜中のPtの存在を決定する工程とを含む。この方法における溶媒はアルコールであってよく、例えばエタノールであるが、これに限られない。必要に応じて、この方法が、乾燥前に電解質を水中ですすぐ追加工程を含んでもよい。得られた乾燥膜中のPtの存在を決定する方法が、以下に限られないが、目視観察、X線蛍光法、及びエネルギー分散分光法を含んでもよい。
【0020】
本発明のさらに別の実施態様は、膜電極接合体から電極を除去する方法であって、その方法は、(a)該膜電極接合体を溶媒中に5分未満の時間浸漬する工程と;(b)該溶媒中で、該膜電極接合体を静かに動かし、かつ必要に応じて静かに擦って、該膜電極接合体の電解質から電極を除去する工程と;(c)該溶媒から該電解質を除去して乾燥する工程とを含む。必要に応じて、この方法が、乾燥前に電解質を水中ですすぐ追加工程を含んでもよい。この方法における溶媒はアルコールであってよく、例えばエタノールであるが、これに限られない。
【0021】
本発明の追加実施態様の1つは、膜電極接合体から1つの電極を除去する方法であって、その方法は、(a)溶媒を該膜電極接合体の1つの電極に5分未満の時間静かに適用する工程と;(b)該電極を静かに擦って、膜から該電極を除去する工程と;(c)残っている膜/電極複合体を乾燥する工程とを含む。必要に応じて、この方法が、乾燥前に電解質を水中ですすぐ追加工程を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】燃料電池単セルの横断面の概略図である。
【図2】本発明を用いた例と比較して、比較例C−1及びC−2、C−3を示す、燃料電池試験後に除去した膜の写真である。
【図3】燃料電池試験後に除去した、比較例1で使用した膜電極接合体の横断面図を示す、走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】燃料電池試験後に除去した、例1で使用した膜電極接合体の横断面図を示す、走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、燃料電池の動作におけるPt溶出を低減する方法である。本方法の燃料電池は任意の種類であってよく、例えば、溶融炭酸塩燃料電池、リン酸燃料電池、固体酸化物燃料電池、又は最も好ましくは高分子電解質膜(PEM)燃料電池である。図1に示すように、そのようなPEM燃料電池20は膜電極接合体を含み、その膜電極接合体は、アノード24、カソード26及びそれらの間に挟まれた高分子電解質25を含む。PEM燃料電池は、必要に応じて、アノード側及びカソード側にそれぞれガス拡散層10’及び10を含んでもよい。これらのGDMは、燃料及び酸化剤をより効率的に拡散するよう機能する。図1において、燃料は、アノード室13’を通って流れ、アノードガス供給口14’を通って入り、アノードガス排出口15’を通って出る。それと対応して、酸化剤は、カソード室13を通って流れ、カソードガス供給口14を通って入り、カソードガス排出口15を通って出る。カソード室及びアノード室は、必要に応じて、これらの室内でガスをより効率的に分配するための溝又は他の手段を含む板(図1に不図示)を備えていてもよい。ガス拡散層10及び10’は、必要に応じて、マクロ多孔質拡散層12及び12’に加えて、ミクロ多孔質拡散層11及び11’を含んでもよい。本技術分野で知られるミクロ多孔質拡散層として、カーボン及び必要に応じてPTFEを含むコーティングに加えて、カーボン及びePTFEを含む自立ミクロ多孔質層、例えば、W.L. Gore & Associatesから入手可能なCARBEL(登録商標)MPガス拡散媒体が挙げられる。本願では、カソードの任意の部分が、酸化剤として使用される流体と接触できる場合、カソードはカソード室と接する少なくとも1つの表面を有していると見なされる。それと対応して、アノードの任意の部分が、燃料として使用される流体と接触できる場合、アノードはアノード室と接する少なくとも1つの表面を有していると見なされる。燃料及び酸化剤として使用される流体は、ガス又は液体のいずれかを含んでもよい。ガス状の燃料および酸化剤が好ましく、特に好ましい燃料は水素を含む。特に好ましい酸化剤は酸素を含む。
【0024】
アノード電極及びカソード電極は、それぞれ燃料(例えば水素)の酸化及び酸化剤(例えば酸素又は空気)の還元を促進する、適切な触媒を含む。例えば、PEM燃料電池の場合、アノード触媒及びカソード触媒として、以下に限られないが、純粋な貴金属、例えばPt、Pd又はAuに加えて;貴金属と、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ag、Cd、In、Sn、Sb、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Tl、Pb及びBi、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の遷移金属とを含む、二元、三元又はより複雑な合金を挙げることができる。本明細書に記載する本発明は、純粋なPtと同様に溶出する上述したような合金を対象とする。純粋なPtは、燃料として純粋な水素を使用する場合、アノードに特に好ましい。Pt−Ru合金は、燃料として改質ガスを使用する場合に好ましい触媒である。純粋なPtは、PEMFCのカソードに好ましい触媒である。非貴金属合金触媒もまた使用され、特に非PEMFCにおいて、及び動作温度が増加する場合に使用される。また、アノード及びカソードは、必要に応じて、燃料電池の動作を高める追加の構成要素を含んでもよい。これらの構成要素として、以下に限られないが、電子伝導体、例えばカーボン、及びイオン伝導体、例えばパーフルオロスルホン酸系ポリマー又は他の適当なイオン交換樹脂が挙げられる。さらに、電極は一般に多孔質でもあって、構造体中に存在する触媒へガスが接触することを可能にする。
【0025】
燃料電極における触媒充填量は、生じる反応を触媒するのに十分でなければならず、電極の詳細な組成、例えば触媒の種類、存在する電子伝導性相及びイオン伝導性相の量、並びに存在する空孔の量に左右される。触媒量もまた、セルに所望する寿命及び性能水準にある程度左右される。量が多いほど一般に性能は良好であって寿命が長いが、特に触媒が貴金属を含む場合より高価になる。パーフルオロスルホン酸系イオノマーを使用するPt系触媒の場合、各電極に使用される充填量は一般に1mg/cm2未満であるが、性能又は寿命の要求が許す場合、より少量が好ましい。本方法は、動作中に失われる触媒量を低減する又はなくすため、本発明によれば、所定水準の性能及び/又は寿命について、より少量の充填量が使用可能になる場合がある。触媒損失を低減することにより、セルはより長時間良好な性能を有することが可能になる。
【0026】
PEM燃料電池の電解質25は、本技術分野で知られる任意のイオン交換膜であってよい。これらのイオン交換膜として、以下に限られないが、フェノールスルホン酸;ポリスチレンスルホン酸;フッ素化スチレンスルホン酸;パーフルオロスルホン酸;スルホン化ポリ(アリールエーテルケトン);フタラジノン及びフェノール基、並びに少なくとも1種のスルホン化芳香族化合物を含むポリマー;(複数の)イオン性の酸性官能基がポリマー骨格に結合している、芳香族エーテル、イミド、芳香族イミド、炭化水素又はパーフルオロポリマーを含む膜が挙げられる。そのようなイオン性の酸性官能基として、以下に限られないが、スルホン酸基、スルホンイミド酸基、又はホスホン酸基を挙げることができる。さらに必要に応じて、電解質25は強化材をさらに含んで複合膜を形成してもよい。強化材はポリマー材料であることが好ましい。ポリマーは、ポリマーフィブリル及び必要に応じてノードからなる多孔質微細構造を有する微多孔質膜であることが好ましい。そのようなポリマーは、延伸ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましいが、その代わりにポリオレフィンを含んでもよく、以下に限られないが、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。イオン交換材料は膜全体に含浸されており、そこでは、Baharらの再発行特許第37307号に実質的に記載されているように、そのイオン交換材料が微多孔質膜を実質的に含浸して膜の内部体積を実質的に閉塞し、このようにして複合膜を形成している。
【0027】
本発明の方法は、Ptの腐食が減少する、又はなくなる値に、燃料電池のカソードの電気化学電位を維持するための様々な方法を含む。電気化学電位は、相対的な意味に限って測定可能であるため、本願を通じて、電気化学電位(又は本明細書では同義で単に電位とも呼ぶ)は、セル温度の水素に対して測定される。従って、単位活量の水素が室温で適当な触媒を横切って流れた場合、電極電位は0ボルト(V)であり、一方、同じ温度で酸性条件下、単位活量の酸素の電極電位は〜1.23Vになる。熱力学によって、及び水素を参照電極として規定することによって、これらの値は決まる。実験で実際に測定される値は、実際の動作条件によって異なる場合がある。従って、水素−空気燃料電池の電圧は、熱力学的因子、例えば、温度、圧力、並びにアノード電極における水素ガス及びカソード電極における酸素ガスの活量に加えて、動力学的因子、例えば、電位が理論的な熱力学値に到達するのを妨げる場合がある、いわゆる電極過電圧に左右される。その上、有限な有効面積内部で燃料電池の電位を測定する場合、実験で測定される電位は、平均電気化学電位、すなわち有効面積の表面全体を接触させることによって電極間で測定される電界である。この電位は、電極の有効面積全体で起こる全ての局所的反応から生じた平均電位である。局所的な電気化学電位は、セルの有効面積内部の様々な微視的位置で、より高いこともあるし、より低いこともある。これらの局所的な電位は、実験的には簡単に測定できないため、本願ではこれらの局所的な電位をこれ以上考慮しない。本明細書で使用する「平均開放開路電圧」は、高インピーダンス電圧測定装置以外の外部負荷が存在しない場合の、セルの平均電気化学電位である。平均開放開路電圧を測定するための詳細な方法は後程説明する。
【0028】
燃料電池の平均開放回路電位は、アノード及びカソードで使用する反応物質、典型的には水素(又は水素含有)ガス及び(一般に空気からの)酸素ガスによって主に決まる。水素−空気の反応(〜−1.2V)によって設定される電位で酸化可能な反応物質がカソードに存在すると、それらの反応物質はそのように酸化する傾向がある。実際のところ、本技術分野で周知であるように、大半のPEM燃料電池に使用される触媒であるPtは、これらの電位で熱力学的に安定ではない。熱力学的にはPtは酸化又は腐食して、様々な溶出したPt種を形成する。Ptが溶出するかどうか、及び/又はPtが溶出する程度は、様々な動力学的因子、例えば、Pt表面のパッシベーション層の存在、溶出についての過電圧、局所的なpH条件などに左右される。Ptが溶出した場合、セルの他の位置へ移行するか、潜在的にセルの外へ追い出される可能性がある。Ptが溶出して電極外側の位置に移行すると、そのPtは燃料電池反応の触媒としてこれ以上作用せず、そのため燃料電池の動作が潜在的に劣化する可能性がある。
【0029】
驚くべきことに本発明者らは、動作方法によって、あるいは電極及び/又はMEAの構成又は組成を詳細に制御することによって、このPtの溶出を低減する、そしてさらには防ぐことが可能であることを見出した。本発明は様々な態様を有するが、全てが共通の主題、すなわち、1つ以上の様々な異なる方法を用いて、カソードにおける平均開放開路電圧を触媒が溶出する電位未満の値に保持すること、を共有している。水素−空気燃料電池におけるPt触媒の場合、本発明者らは、電位を約0.98V未満に保持することによって、Ptの溶出が非常に低減される、又はなくなることを見出した。このことを達成する様々な手段については後程より詳しく説明する。以下の記載では、本発明を説明するために水素−空気燃料電池でPt触媒を使用するが、当業者であれば本方法が普遍的であることを理解するであろう。上述したような他の触媒、並びに他の燃料又は酸化剤、PEMFC以外の燃料電池(例えばSOFC、MCFC、PAFCなど)及び様々なセル動作温度を用いて、本方法を使用することができる。
【0030】
本発明の一実施態様は、膜電極接合体燃料電池のカソードにおける触媒溶出を低減する方法である。この方法は、(a)アノードと、カソードと、該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜とを含む、膜電極接合体を用意する工程と;(b)該膜電極接合体を用いて燃料電池を組み立てる工程と;(c)酸化剤を含む流体を該膜電極接合体の該カソードに適用する工程と;(d)燃料を含む流体を該膜電極接合体の該アノードに適用する工程と;(e)該カソードの平均開放開路電圧を約0.98V未満に維持するのに十分な量の還元剤を該カソードに供給する工程とを含む。本明細書で使用する「還元剤」は、電子を供与する傾向を有する、又は反応中に他の種が電子を獲得することを引き起こす傾向を有する種である。代わりに、前記平均開放開路電圧を0.95V未満又は0.90V未満に保持してもよい。
【0031】
本方法は、燃料電池が機能しうる全ての温度において効果的に機能する。温度が上昇するにつれて触媒溶出速度が増加する傾向があるため、本発明はより高い燃料電池動作温度において特に有用である。Pt含有触媒を用いたPEM燃料電池について、本発明は全ての動作温度において機能するが、85℃〜150℃、詳細には約90℃、約100℃、約110℃、又は約120℃において特に有用である。
【0032】
カソードに供給される還元剤は、本技術分野で化学的に還元剤として知られる多数の種のいずれかを含んでもよい。還元剤は、触媒溶出を低減する又は防ぐために平均開放開路電圧を十分低く保持するが、出力に大きく影響しないように平均開放開路電圧を十分高く保持するものでなければならない。さらに、還元剤自体が、燃料電池が効率的に動作する能力に影響を与えてもいけない。例えば、還元剤は触媒性能に影響してはならない。本発明のこの実施態様における好ましい還元剤の1つは水素ガスである。水素ガスはアノードの燃料として一般的に使用され、一般に容易に入手できるため、この方法に特に都合がよい。本発明の一実施態様では、還元剤、例えば水素ガスが、燃料電池に入る前の酸化ガス(例えば空気)に外部から供給される。カソードの開放開路電圧を所望電位である0.98未満又はそれより低く維持するのに十分な還元剤を、空気流の中に混合する。本明細書では、「外部から」の還元剤の供給を、還元剤がMEA又は燃料電池の外側から供給される状況、例えば、セルに入る前のアノード又はカソードのいずれかのガス流への還元剤の添加として記載する。
【0033】
本発明の他の実施態様では、還元剤は、燃料電池の内部から内部的にカソードに供給される。本明細書において、「内部から」の還元剤の供給とは、上記定義した「外部から」ではなく還元剤を供給する任意の方法を意味する。内部からの還元剤の供給は、様々な方法によって実現可能である。還元剤は、アノード流体の一部として、及びアノード室からカソード室内へと電解質膜を通る漏えい、拡散又はクロスオーバーを可能にする適切な電解質膜を用いることによって、存在していてもよい。例えば、水素ガス含有燃料を用いるセルにおいて、水素がアノードからカソードへとクロスオーバー可能になるよう、又はその水素量を増加するように、MEAを設計することができる。水素のクロスオーバーは、燃料電池の文献において周知の現象である。水素のクロスオーバー量は、膜の組成、例えば、膜の水和状態;温度;水素圧;及び膜厚の関数である。一般に本技術分野では、クロスオーバーする燃料は発電に使用できない、すなわち水素のクロスオーバーは燃料効率に悪影響を与えるため、水素のクロスオーバーは悪影響であると考えられている。驚くべきことに本発明者らは、少量のクロスオーバーはカソード電位を低下させて、触媒の溶出を低減する又はなくすために、そのようなクロスオーバーにプラスの効果があることを見出した。このことを実現するために必要な量は、燃料効率をわずかに低下させるに過ぎないほど十分に低い。
【0034】
本発明のある特定実施態様では、非常に薄い高分子膜を用いることによって、水素を内部からカソードに供給する。膜をより薄くすることによって、より多くの水素がクロスオーバーして、カソード電位を低下させる。本発明者らは、パーフルオロスルホン酸、及び必要に応じて延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む薄膜を用いることによって、Pt溶出を低減する、さらにはなくすことが可能であることを見出した。上述したもののような、別の高分子組成物の膜を使用することによっても同じ効果が得られるが、必要とされる正確な厚さは、様々な高分子組成物のそれぞれについて異なる場合がある。薄膜は機械的にあまり安定でない傾向があるが、Baharらの記載するような強化材を使用すると、この潜在的な欠点が仲介(mediate)される。水素−空気燃料電池におけるPt溶出を低減するために、パーフルオロスルホン酸ポリマーを含む膜について好ましい厚さは12μm未満であり、さらにより好ましくは8μm未満である。
【0035】
触媒溶出を低減する又はなくすために水素をカソードへクロスオーバーさせる薄膜を使用することは、本発明の実現するための特に簡単な方法の1つであるものの、当業者であれば、同じ結果を実現するための数多くの他の手段を認識している。小さくて制御された量の空孔を有する膜を使用すると、同じ厚さの緻密な膜と比較してクロスオーバーが増大するため、カソードにおける還元剤(アノードからの水素)の内部生成も可能になる。他の方法は、一連の非常に小さい(マイクロ又はナノ)穴を膜中に規則的な間隔で意図的に配置することである。膜を通るクロスオーバーが特に高い還元剤が、燃料よりも高い速度でクロスオーバーして、より容易にカソードの開放開路電圧を低下させるように、その還元剤をアノードに供給する流体中に配置してもよい。これらの各手段は、平均開放開路電圧を低下させて触媒溶出を低減する、カソードにおける還元剤の内部生成を可能にする。
【0036】
本発明の代替実施態様は、燃料電池動作条件においてPtが溶出する臨界値未満の平均開放開路電圧を維持するように作用する固体を、カソードに供給することである。そのような固体は、Ptより前に優先的に酸化する又は溶出して、その際に所望の触媒、例えばPtが溶出しないようにカソード電位を十分低く維持する犠牲種として作用しうる。固体が依然として固体状態、例えば固体酸化物又は水酸化物へと酸化される前者の場合、それら固体を燃料電池の動作中に酸化されていない状態へ還元して戻すことができる。そのような「往復(shuttle)」反応における固体は、高電位、例えば開放回路状態で酸化し、そして燃料電池がより低電位で動作しているときに、元の状態へと還元して戻ると思われる。このように振る舞う固体は酸化中に除去されないため、セルの寿命全体の間、保護機能を維持するであろう。言い換えれば、それらの固体は、開放回路での酸化状態と動作条件での還元状態との間を単に往復すると言える。このように働くと予想される固体の1つはIrであり、金属IrとIrO2の間を往復すると考えられる。
【0037】
代わりに、Ptが溶出する臨界電位未満に開放回路電位を維持するためにカソードに添加される固体自体が溶出してイオン種になってもよい。この場合、固体は燃料電池の動作中にセルから外に追い出されるか、あるいは固体が効果を発揮しない、電極から離れた位置で還元されることがある。この状況では、固体が存在する限りにおいて、Pt溶出に対する保護が提供されるに過ぎない。固体が完全に溶出するともはや保護が提供されない。そうは言っても、セルの予想される寿命に応じて、十分な時間触媒を保護するのに足りる固体を添加して、この方法を実効的なものにできる。このように作用すると予想される金属の例はAgである。
【0038】
そのような固体は、電極製造時に電極に簡単に添加でき、金属、非金属又は有機物質のいずれかであってよい。それらの固体は、純粋な種として、支持された種として、すなわち導電性支持体上、例えばカーボン上の小さい金属粒子として、あるいは後の処理で、例えば加熱又は化学処理によって種形成が可能な種の前駆体として、電極に添加してもよい。そのような固体は、燃料電池条件で容易に溶出しなければならない。また、出力に大きく影響しないように比較的高電位で、しかしPtが溶出する電位より低い電位で溶出しなければならない。溶出の際に、それらの固体は、例えば触媒を汚染する又は被毒させることによって、燃料電池の性能に悪影響を及ぼしてはならない。
【0039】
この実施態様で使用する特定の固体は、標準的な電気化学系列から選択することができる。そのような固体のうち、容易に入手できて、溶出時に触媒活性に影響しない傾向を有することから、貴金属が特に望ましい。本明細書で使用する「貴金属」とは、反応を酸化反応、すなわちM→M++e-(Mは化学種)として表現したときに、水素に対して正の電気化学平衡電位を有する金属である。これらの電位化学平衡電位の値は、本技術分野では一般に標準酸化電位と呼ばれる。固体は0.0V(水素の標準酸化電位)より高い標準酸化電位を有しているが、Ptを溶出から保護するために、金属Ptの標準酸化電位より低くなければならない。条件を満たした貴金属として、以下に限られないが、Cu、Ag、Pd、Os、Ru及びIrを挙げることができる。これらの中でも、Ptが通常溶出する値よりも電極電位が低いが、依然として比較的高い(約0.8Vより高い)ことから、Ir及びAgが特に好ましい。
【0040】
本発明の他の態様は、燃料電池の試験後に電解質膜を目視観察及び/又は他の観察によって、燃料電池試験中のPt溶出量を容易に決定する方法である。この方法を行うためには、裸の膜を観察するため電極を除去しなければならない。そのように電極を除去する方法が見出されており、その方法は、(a)MEAを溶媒中に5分未満の時間浸漬する工程と;(b)該溶媒中で、該MEAを静かに動かし、かつ必要に応じて静かに擦って、該MEAの電解質から電極を除去する工程と;(c)該溶媒から該電解質を除去して乾燥する工程とを含む。必要に応じて、乾燥前に膜を水中、好ましくは脱イオン水中ですすいでもよい。この方法は、電解質に使用されるイオノマーを溶出するのに本技術分野で知られている任意の溶媒を使用でき、例えば、アルコール、詳細にはエタノール、メタノール又はイソプロピルアルコールが挙げられるが、これらに限られない。電極の除去後、電極からのPtの存在を、本技術分野で知られる任意の手法を用いて乾燥した裸の膜から決定でき、そのような方法として、Ptが通常は透明な膜の中に薄い灰色から暗褐色の着色として観察される目視観察;X線蛍光法;エネルギー分散分光法;赤外分光法;本技術分野で知られる様々な手法を用いた化学分析;X線回折法などが挙げられるが、これらに限られない。さらに、必要であれば、溶媒中に残存する電極を収集し、乾燥して分析してもよい。
【0041】
MEAから1つの電極のみを除去する追加の方法もまた見出されている。この方法では、MEAを溶媒中に浸漬する代わりに、溶媒を膜電極接合体の1つの電極に5分未満の時間静かに適用し、任意の鋭くない道具か手で電極を静かに擦る。除去したら、残っている膜/1つの電極の接合体を、直接、又は好ましくは水中ですすいだ後、乾燥してもよい。必要であれば、残存する電極を収集し、乾燥して分析してもよい。
【実施例】
【0042】
試験方法
膜電極接合体:様々な種類のMEAを使用して、本願の本発明を評価した。本明細書で使用するMEA中の高分子電解質膜は、ePTFEで強化したパーフルオロスルホン酸イオノマーのGORE−SELECT(登録商標)複合膜(W.L. Gore & Associates, Inc., Newark, DE)、又は強化していないパーフルオロスルホン酸膜である、NAFION(登録商標)112イオノマー膜(E.I. DuPont de Nemours Company, Wilmington, DE)のいずれかからなっていた。以下の例でより詳細に説明するように、厚さが様々に異なる厚さのGORE−SELECT(登録商標)複合膜を使用した。NAFION(登録商標)膜の厚さは50μmであった。
【0043】
全ての場合において、Pt充填量が0.4mg/cm2であるPRIMEA(登録商標)Series 5510電極(W.L. Gore & Associates, Inc., Newark, DE)をアノード及びカソードの両方として使用した。これらの電極を、本技術分野で知られる標準的な手順を用いて膜上に積層した。詳細には、膜を2つのPRIMEA(登録商標)5510電極の間に配置し、加熱した定盤を用いて、油圧プレス(PHI Inc.,Model B−257H−3−MI−X20)の定盤の間に配置した。上部定盤を180℃に加熱した。0.25インチ厚のGR(登録商標)シート(W.L. Gore & Associates, Elkton, MDから入手可能)の小片を、各定盤と電極との間に配置した。その系に15トンの圧力を3分間与えて電極を膜に接着した。これらのMEAを以下説明するように燃料電池に組み立てて、以下に説明するように試験した。
【0044】
セルハードウェア及び組み立て:全ての例について、膜電極接合体(MEA)の性能評価のために、標準的な有効面積25cm2のハードウェアを使用した。以降、このハードウェアを本願の残りの部分で「標準ハードウェア」と呼ぶ。標準ハードウェアは、アノード側とカソード側の両方に3流路サーペンタイン(serpentine)型流れ場を備えたグラファイトブロックからなっていた。経路長は5cmであり、溝の寸法は幅0.70mm、深さ0.84mmである。使用したガス拡散媒体(GDM)は、Carbel(登録商標)CL(W.L. Gore & Associates)のマクロ層と組み合わせた、W.L. Gore & Associatesから入手したCarbel(登録商標)MP30Zの微多孔質層であった。5.0cm×5.0cmの正方形窓を備えた10ミル(0.25mm)シリコーンガスケットと、1.0ミル(0.025mm)ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(Tekra Corp., Charlotte, NCから入手可能)ガスケット(以下サブガスケットと呼ぶ)とを用いてセルを組み立てた。サブガスケットは、アノード側とカソード側の両方に4.8×4.8cmの開口窓を備えているため、MEAの有効面積は23.04cm2であった。セルの組み立て手順は以下の通りである。
1.25cm2の3流路サーペンタイン型設計の流れ場(Fuel Cell Technologies, Inc., Albuquerque, NMが販売)を、作業台の上に配置した。
2.25cm2のGDMが内側に適合するような大きさにされた、10ミル(0.25mm)厚の窓型CHR(Furon)コエラスティック(cohrelastic)シリコーン被覆布帛ガスケット(Tate Engineering Systems, Inc., Baltimore, MDが販売)を流れ場の上に配置した。
3.MP−30Z層が上を向くように、ガスケットの内側に一片のGDMを配置した。
4.全ての辺でGDMと若干重なるような大きさにされた、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(Tekra Corp., Charlotte, NCから入手可能)の窓型サブガスケットをGDMの上に配置した。
5.アノード/膜/カソードシステムを、アノード側を下にしてサブガスケットの上に配置した。
6.カソード室を形成するために、工程(2)〜(4)を反対の順序で繰り返した。カソード側に使用したガスケットは、アノード側に使用したものと同じであった。
7.セルを万力に配置して、8本の保持ボルトを45インチポンドまで締め付けた。
【0045】
燃料電池テストステーションの説明:組み立てたセルを、Teledyne燃料電池ガスユニットMEDUSA RD−890B−1050/500125と、Scribner負荷ユニット890Bを用いて、燃料電池テストステーションで試験した。試験中の湿度は、加湿ボトル温度を維持し、かつ配管中の凝縮を防ぐために、ステーションとセルの間の全ての供給配管をボトル温度より4℃高く加熱することによって、注意深く制御した。
【0046】
試験測定の説明:上に概要を示した手順を用いてセルを組み立てて、そのセルをテストステーションに接続した後、以下に概要を示す試験温度及び圧力下でセルを始動した。
【0047】
最初にセルを、セル温度を80℃、アノード及びカソードの両方の供給ガスの相対湿度を100パーセントとして、燃料電池にてコンディショニングした。アノードに適用したガスは、セルの電流によって決定した場合の、セルの水素変換率を維持するのに必要な量の1.3倍(すなわち化学量論量の1.3倍)の流量で供給された実験グレードの水素であった。濾過し、圧縮しかつ乾燥した空気を、化学量論量の2倍の流量でカソードに供給した。
【0048】
セルは2時間コンディショニングした。コンディショニング処理には、完全に加湿した水素及び空気を用いて80℃にしたセルを、設定電位600mVで1分、300mVで1分、開放回路条件で0.5分としたサイクルを2時間繰り返すことが含まれる。アノード側及びカソード側の両方における排出口圧力を200kPaに維持した。その後、適用電位を最初に600mVに制御し、次に増分を50mVとして400mVまで電位を段階的に下げ、その後増分を50mVとして900mVまで電位を再度段階的に上げて、各段階で定常状態電流を記録することにより、分極曲線を作製した。開放開路電圧(OCV)は、600mVへの電位段階と650mVへの電位段階の間で記録した。
【0049】
上記処理後、セルに対して電位サイクルを含むさらなる試験を行った。触媒溶出を加速するために、各電位で1分間その電位を保持しながら、開放開路電圧(OCV)と600mVの間でセルを繰り返し循環させた。平均開放開路電圧を、サイクルのOCV部分の間、試験全体を通して15秒毎に記録した開放開路電圧の直線的な数値平均によって計算した。合計で12000サイクル(すなわち時間にして400時間)を各セルに適用した。この試験中、アノード室及びカソード室についてOCVでの最小流量をそれぞれ50及び100cc/分に設定した。アノード及びカソードについて、0.6Vでのガスの化学量論量を、それぞれ1.3倍及び2.0倍に設定した。以下の測定手法を試験中及び/又は試験の完了後に使用した。
【0050】
膜の一体性:試験前後の膜の一体性を、物理的ピンホール試験を用いて評価し、物理的ピンホール試験は次のように行った。
1.セルを負荷から外し、セル温度及び供給口における相対湿度(RH)条件を維持しながら開放回路条件に設定した。次にセルのガス圧力を、アノード側及びカソード側の両方において周囲圧力まで減少した。
2.カソードのガス供給口を、カソードのガス供給源から外してきつくふたをした。次に、カソードの排出口を流量計(Agilent(登録商標)Optiflow 420, Shimadzu Scientific Instruments, Inc.)に接続した。アノード供給口はH2供給源と接続したままにし、アノード排出口は換気口と接続したままにした。
3.アノードガス流量を800cc/分に増加し、アノード排出口圧力を周囲圧力より2psi高く上げた。
4.流量計を用いて、カソード排出口を通るガス流量を測定した。
5.膜が破損したか否かは、流量計で測定された流量の大きさから決定した。破損の基準は、標準条件でH2クロスオーバー速度が水素2.5cm3/分(有効面積が23.04cm2のセルにおいて、クロスオーバー電流密度15mA/cm2と等価である)より高い場合の漏れ速度とした。
【0051】
走査型電子顕微鏡法(SEM):サイクル試験後、MEAをセル組立体から取り出した。MEAの小さい領域を鋭い刃を用いてMEAから切り出して、SEM(Hitachi S4700)を用いてMEAの横断面を観察するために置いた。代表的な領域の顕微鏡写真を二次電子モードで記録し、必要であれば、他の試験、例えばエネルギー分散分光法(EDS)も行った。詳細には、膜中の触媒(すなわちPt)の存在を記録し、もし存在するならば、EDSを用いてその組成を確認した。
【0052】
裸の膜の目視観察:SEMを行った後、両方の電極を膜から除去するために、全てのMEAサンプルに対して「アルコール浸漬」処理を行った。この処理は、室内条件で次のように行った。
1.MEAの全体の有効面積を、試薬グレードのアルコール(EMD Chemicals Inc.)の中に、膜と電極の間の結合を緩めるのに十分な時間、典型的には数秒浸漬した。
2.MEAを取り出して、即座に脱イオン水浴に浸漬し、電極が膜から剥れるまで静かに撹拌した。いくつかの場合、柔らかいプラスチックのスパチュラを使用して、電極の除去を静かに補助した。
3.一部の電極が完全に除去されていない場合、必要に応じて工程(1)〜(2)を繰り返した。
4.その後、裸の膜を、例えばペーパークリップ又は他の軽い重りを用いて静かに拘束して吊し、室内条件で数時間乾燥した。
5.次に、変色、膜のやせ、又は他の膜の欠陥の徴候について、乾燥した膜を目視で調べた。
6.最後に、Pt含量を単位mg(Pt)/cm2(表面積)で表示するように予め校正した、卓上型X線蛍光ユニット(SPECTRO TITAN, Kleve, Germanyから入手したXRF)を用いて、裸の膜のPt量を測定した。
【0053】
比較例C1〜C3:表1に示す条件を用いてセルを組み立てて試験した。比較例C−1及びC−3では35μmGORE−SELECT(登録商標)膜を使用し、比較例C−2では50μmNAFION(登録商標)膜を使用した。これらの膜、及びこれらの膜から作製された対応するMEAは本技術分野で周知である。比較例C−1及びC−3の違いはカソードの湿度であり、C−1では0%であったのをC−3では50%に増やした。結果(表2)では、3つ全ての場合において、電極からかなりの量のPtが失われて、膜中に移行したことが示されている。膜中のPtの存在は、目視観察(図2)、X線蛍光測定(表2)及びSEM顕微鏡写真(図3)によって確認した。Ptはカソード近くの単一帯31として現れ(図3)、Ptに関するその単一帯の組成を、SEMでX線マッピングを用いて確認した。
【0054】
例1〜2:本発明を確認するために、2つのセルを組み立てて試験した。例1では、還元剤、この場合は水素を、酸化剤としてカソードに供給される空気に対して、標準条件で水素2.5cm3/分で流れる水素ガスを添加することによって、外部からセルに供給した。試験手順全体を通して水素はこの流量で添加した。例2では、還元剤、この場合は水素を、非常に薄いGORE−SELECT(登録商標)膜を使用して水素クロスオーバーを増加させる膜の操作によって、内部から供給した。セルの動作条件は、比較例C−3で使用したものと同一であった。結果(表2)では、同じ動作条件を使用した比較例C−3より、例1のPt溶出量がはるかに少ないことが示されている。膜中のPtの減少又は不存在は、目視観察(図2)、X線蛍光測定(表2)及びSEM観察によって確認した。例2の場合、Pt溶出は完全になくなっていた。すなわち、いずれの試験でも膜中にPtが見られなかった(図2、図4及び表2)。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
本明細書では、本発明の特定実施態様を詳細に記載したが、本発明はそのような記載に限定されるものではない。当然のことながら、以下の特許請求の範囲内で、変更及び変形を本発明の一部として組み込んで具現化してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.アノードと、カソードと、該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜とを含む、膜電極接合体を用意する工程と;
b.該膜電極接合体を用いて燃料電池を組み立てる工程と;
c.酸化剤を含む流体を該膜電極接合体の該カソードに適用する工程と;
d.燃料を含む流体を該膜電極接合体の該アノードに適用する工程と;
e.該カソードの平均開放開路電圧を約0.98V未満に維持するのに十分な量の還元剤を該カソードに供給する工程と
を含む、膜電極接合体燃料電池のカソードにおける触媒溶出を低減する方法。
【請求項2】
前記カソードの平均開放開路電圧が約0.95V未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カソードの平均開放開路電圧が約0.90V未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記燃料電池の動作温度が、約85〜約150℃の間である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記温度が約90℃である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記温度が約100℃である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記温度が約110℃である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記温度が約120℃である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記カソードに供給される前記十分な量の還元剤が、酸化剤を含む前記流体に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
酸化剤を含む前記流体に供給される前記十分な量の還元剤が、外部源から供給される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記カソードに供給される前記十分な量の還元剤が水素ガスを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
酸化剤を含む前記流体に供給される前記十分な量の還元剤が、内部源から供給される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記内部源が、前記アノードに供給される燃料を含む前記流体からクロスオーバーするガスを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記高分子電解質膜が、パーフルオロスルホン酸、及び必要に応じて延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
アノードと、カソードと、該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜と、酸化剤を含む流体を該カソードに適用する手段と、燃料を含む流体を該アノードに適用する手段と、該カソードの平均開放開路電圧を約0.98V未満に維持するのに十分な量の還元剤を、酸化剤を含む該流体に供給する手段とを含む、燃料電池。
【請求項16】
前記高分子電解質膜の厚さが約12μm未満である、請求項15に記載の燃料電池。
【請求項17】
前記高分子電解質膜の厚さが約8μm未満である、請求項15に記載の燃料電池。
【請求項18】
前記カソードが白金触媒を含む、請求項15に記載の燃料電池。
【請求項19】
前記白金触媒の充填量が約0.1mg/cm2未満である、請求項15に記載の燃料電池。
【請求項20】
前記高分子電解質膜が、パーフルオロスルホン酸、及び必要に応じて延伸ポリテトラフルオロエチレンをさらに含む、請求項15に記載の燃料電池。
【請求項21】
前記カソードに供給される前記還元剤が、標準酸化電位がPtより低くかつ水素より高い固体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記固体が、貴金属からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記固体が、Cu、Ag、Pd、Os、Ru、及びIrからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
a.アノードと、カソードと、該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜とを含む、膜電極接合体を用意する工程と;
b.該膜電極接合体を用いて燃料電池を組み立てる工程と;
c.酸化剤を含む流体を、該膜電極接合体の該カソードに適用する工程と;
d.燃料を含む流体を、該膜電極接合体の該アノードに適用する工程と;
e.該カソードの平均開放開路電圧を約0.98V未満に維持するのに十分な量の還元剤を該カソードに供給する工程と
を含む、燃料電池の動作方法。
【請求項25】
前記カソードの平均開放開路電圧が約0.95V未満である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記カソードの平均開放開路電圧が約0.90V未満である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記燃料電池の動作温度が、約85〜約150℃の間である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記カソードに供給される前記十分な量の還元剤が、酸化剤を含む前記流体に供給される、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
酸化剤を含む前記流体に供給される前記十分な量の還元剤が、外部源から供給される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記カソードに供給される前記十分な量の還元剤が水素ガスを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
酸化剤を含む前記流体に供給される前記十分な量の還元剤が、内部源から供給される、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記内部源が、前記アノードに供給される燃料を含む前記流体からクロスオーバーするガスを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記高分子電解質膜が、パーフルオロスルホン酸、及び必要に応じて延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
a.膜電極接合体を溶媒中に5分未満の時間浸漬する工程と;
b.該溶媒中で、該膜電極接合体を静かに動かし、かつ必要に応じて静かに擦って、該膜電極接合体の電解質から電極を除去する工程と;
c.該溶媒から該電解質を除去して乾燥する工程と
を含む、膜電極接合体から電極を除去する方法。
【請求項35】
前記溶媒がアルコールである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記溶媒がエタノールである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
乾燥前に、前記電解質を水中ですすぐ追加工程を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記電極を前記溶媒から収集する追加工程を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
a.溶媒を膜電極接合体の1つの電極に5分未満の時間静かに適用する工程と;
b.該電極を静かに擦って、膜から該電極を除去する工程と;
c.残っている膜/電極複合体を乾燥する工程と
を含む、膜電極接合体から1つの電極を除去する方法。
【請求項40】
乾燥前に、前記膜を水中ですすぐ追加工程を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
a.膜電極接合体を溶媒中に5分未満の時間浸漬する工程と;
b.該溶媒中で、該膜電極接合体を静かに動かし、かつ必要に応じて静かに擦って、該膜電極接合体の電解質から電極を除去する工程と;
c.該溶媒から該電解質を除去して乾燥する工程と;
d.得られた乾燥膜中のPtの存在を決定する工程と
を含む、膜電極接合体の電極からのPt溶出を観察する方法。
【請求項42】
前記溶媒がアルコールである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記溶媒がエタノールである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
乾燥前に、前記電解質を水中ですすぐ追加工程を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
目視観察を用いて前記乾燥膜中のPtの存在を決定する、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
X線蛍光法を用いて前記乾燥膜中のPtの存在を決定する、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
エネルギー分散分光法を用いて前記乾燥膜中のPtの存在を決定する、請求項41に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−156147(P2012−156147A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−104655(P2012−104655)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【分割の表示】特願2007−555150(P2007−555150)の分割
【原出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】