説明

燃料電池を流れる冷却水の制御方法及び制御装置

【課題】外乱があっても燃料電池に供給する冷却水の量を一定に制御すると共に、冷却水の温度も一定に制御可能な燃料電池を流れる冷却水の制御方法及び制御装置を提供する。
【解決手段】1)燃料電池11の排水口13から排出される冷却水を、降温用熱交換器14で温度を下げ、加熱ヒータ15を用いて所定温度に保持してタンク16内に溜め、2)タンク16内の所定温度に保持された冷却水をポンプ18によって汲み上げ、3)ポンプ18で汲み上げた冷却水を3方弁20を介して燃料電池11の排水側流路と燃料電池11の給水側流路に分流し、4)燃料電池11の給水側流路に分流した冷却水を2方弁21を介して更に精密に流量調整し、かつ、5)燃料電池11を通過する流量を3方弁20と2方弁21によって制御して、燃料電池11の給水口12と排水口13との冷却水の温度差を一定に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の負荷試験、温度上昇試験等の各種試験を行う場合に、燃料電池に供給する冷却水の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子型の燃料電池の試験を行う場合、純水を用いた冷却水を循環させているが、燃料電池の使用によって冷却水の温度が上昇し、例えば、特許文献1に記載のように、ファンによって空冷されるラジエータを用いて、加熱された冷却水の温度を下げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−260966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、ラジエータによって冷却水の温度を下げているので、極めて応答性が悪く、燃料電池の急速放電や急速充電を行った場合には、冷却水の温度制御が遅れる傾向にあり、また、冷却水を冷し過ぎた場合は加熱する手段がなく、燃料電池を商用で用いる場合には問題がないとしても、例えば、燃料電池の特性を試験する場合には適切でないという問題があった。
【0005】
燃料電池の試験にあっては、負荷電流によって冷却水の温度が変わるので、1)冷却水を常温から90℃まで安定に制御できること、2)流量制御比が20:1であっても安定した冷却水の制御ができることが望まれているが、特許文献1記載の技術では細かい流量及び温度の制御は困難であった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、外乱があっても燃料電池に供給する冷却水の量を一定に制御すると共に、冷却水の温度も一定に制御可能な燃料電池を流れる冷却水の制御方法及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る燃料電池を流れる冷却水の制御方法は、1)燃料電池の排水口から排出される冷却水を、降温用熱交換器で温度を下げ、加熱ヒータを用いて所定温度に保持してタンク内に溜め、2)前記タンク内の所定温度に保持された前記冷却水をポンプによって汲み上げ、3)前記ポンプで汲み上げた前記冷却水を3方弁を介して前記燃料電池の排水側流路と前記燃料電池の給水側流路に分流し、4)前記燃料電池の給水側流路に分流した前記冷却水を2方弁を介して更に精密に流量調整し、かつ、5)前記燃料電池を通過する流量を前記3方弁と前記2方弁によって制御して、前記燃料電池の給水口と前記排水口との前記冷却水の温度差を一定に保持する。
【0008】
第2の発明に係る燃料電池を流れる冷却水の制御方法は、1)燃料電池の排水口から排出される冷却水を、降温用熱交換器で温度を下げ、加熱ヒータを用いて所定温度に保持してタンク内に溜め、2)前記タンク内の所定温度に保持された前記冷却水をポンプによって汲み上げ、3)前記ポンプで汲み上げた前記冷却水を3方弁を介して前記燃料電池の排水側流路と前記燃料電池の給水側流路に分流し、4)前記燃料電池の給水側流路に分流した前記冷却水を2方弁を介して更に精密に流量調整し、かつ、5)前記燃料電池を通過する流量を前記3方弁と前記2方弁によって制御して、前記燃料電池の給水口の前記冷却水の流量を一定に保持する。
【0009】
なお、第1、第2の発明に係る燃料電池を流れる冷却水の制御方法において、前記ポンプは回転数を制御可能なモータによって回転駆動されているのが好ましい。
【0010】
第3の発明に係る燃料電池を流れる冷却水の制御装置は、1)燃料電池の排水口から排出される冷却水を冷却する降温用熱交換器と、2)前記降温用熱交換器によって冷却された前記冷却水をタンクに溜めて、該タンク内に溜まった前記冷却水を加熱する加熱ヒータと、3)前記タンク内の冷却水を汲み上げるポンプと、4)前記ポンプで汲み上げられた冷却水を前記燃料電池の排水側流路と前記燃料電池の給水側流路に分流する流量調整可能な3方弁と、5)前記3方弁で前記燃料電池の給水側流路に分流された冷却水を更に精密に流量調整する2方弁と、6)前記燃料電池の給水口と前記排水口を流れる冷却水の温度をそれぞれ測定する第1、第2の温度センサと、7)前記第1、第2の温度センサで測定した前記給水口と前記排水口を流れる冷却水の温度差が一定値になるように、前記3方弁の開度、及び前記2方弁の開度を制御する制御部とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る燃料電池を流れる冷却水の制御方法及び制御装置においては、降温用熱交換器とタンク内の加熱ヒータによって冷却水を温度制御しているので、燃料電池から排出された加熱冷却水の温度を下げて、必要な温度にすることができる。更に、一旦降温用熱交換器で冷却した冷却水を加熱ヒータが加熱するようにしているので、常温から90℃までの冷却水を容易に作成できる。
【0012】
また、タンクからポンプで汲み上げた冷却水を、3方弁によってその一部を戻り側(排水側流路)に返すと共に、燃料電池に供給される残りの冷却水を2方弁を用いて流量制御しているので、燃料電池に供給される冷却水を1〜1/20の広範囲に渡って流量制御が可能となる。
従って、燃料電池の冷却水の排水口の温度が変動した場合は、直ちに、冷却水の流量を変えることで排水口側の冷却水の温度を一定にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る燃料電池を流れる冷却水の制御装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しながら、本発明を具体化した実施の形態について説明する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る燃料電池を流れる冷却水の制御装置10は、燃料電池11の給水口12及び排水口13に接続されて、排水口13に接続される降温用熱交換器14と、内部に加熱ヒータ15が設けられているタンク16とを有している。
【0015】
タンク16にはインバータによって周波数制御されて回転数が変わるモータ17によって回転駆動されるポンプ18が接続され、ポンプ18の出口には第1の流量制御部19、3方弁20、2方弁21、及び第2の流量制御部23が接続されて、燃料電池11の給水口12に制御された冷却水を供給するようになっている。
【0016】
また、燃料電池11の給水口12及び排水口13、降温用熱交換器14の出口、並びにタンク16内の冷却水の温度を測定する第1〜第4の温度センサ25〜28が設けられ、制御部30aに測定した温度データを送っている。この制御部30aは、1)第1、第2の温度センサ25、26の温度データから、指示によって、第1、第2の温度センサ25、26の差分を一定にするように、3方弁20及び2方弁21を制御すること、2)第1の温度センサ25によって燃料電池11の給水口12の温度を検知して、この温度を一定にするように、加熱ヒータ15を制御することを行っている。
【0017】
降温用熱交換器14の一次側には第1の弁29を介して一次冷却水が供給され、第2の弁30を介して外部に一次冷却水が排出されている。なお、32は圧力計を示す。
【0018】
燃料電池11の給水口12の温度がT1℃(例えば、95℃)、燃料電池11の排水口13の温度がT2℃(>T1℃、例えば、98℃)として、燃料電池11の給水口12と排水口13の冷却水の温度差を一定にする場合について説明する。なお、タンク16から出た冷却水の温度は、燃料電池11の給水口12に届くまでに、Td℃(例えば3℃)の温度降下があるものとする。
【0019】
排水口13から放出された高温の冷却水(流量Q1)を、降温用熱交換器14によって温度をTc℃に下げる。この温度Tcは、T1に等しいか又はT1より低い温度(例えば95℃)とする。そして、降温用熱交換器14によって冷却された冷却水をタンク16に入れて加熱ヒータ15によって加熱する。加熱される冷却水の温度(第4の温度センサ28で計測)はT1+Td(例えば98℃)にする。
これによって、ポンプ18によって汲み出される冷却水の温度は、T1+Tdとなる。
【0020】
ここで、ホンプ18によって汲み出される冷却水の量Q2は、Q1+Qbとなる。ここで、Qbは3方弁20を介して、燃料電池11の排水口13側(排水側流路)にバイパスする冷却水の量である。ポンプ18の汲み出し量は、第1の流量調整部19で測定し、その流量が常時一定になるようにモータ17の電源周波数を制御する。この量Q2は例えば、ポンプ18の定格吐出量の80〜95%程度とするのがよく、この値は第1の流量制御部19で設定可能である。
【0021】
次に、3方弁20によって、給水口12を通過する冷却水の流量がQ1になるように、分岐するが、更に3方弁20の下流側に2方弁21を設け、第2の流量制御部23によって2方弁21を通過する冷却水の量が正確にQ1になるようにする。この制御は、第2の流量制御部23で測定された冷却水の量がQ1より多い場合は、2方弁21を適正量絞り、第2の流量制御部23で測定された冷却水の量がQ1より少ない場合は、2方弁21を適正量開く制御を行うことによって達成している。これによって、3方弁20をバイパスする冷却水の量が制御されて、結果として、正確に一定量の冷却水を燃料電池11に供給することになる。
【0022】
燃料電池11の給水口12に設けられている第1の温度センサ25によって冷却水の温度を測定し、この温度T1が常時一定になるように、加熱ヒータ15の温度を制御している。これによって、タンク16内の冷却水の温度はT1+Tdとなる。
【0023】
次に、燃料電池11の負荷が変動して、排水口13から排出される冷却水の温度に変化があった場合(即ち、Δtの変動があった場合)、燃料電池11の冷却水の量がQ1で一定であるとすると、燃料電池11からの発熱量にΔt×Q1の変化があったことになる。ここで、冷却水の通過量を増減(増減量をΔqとする)すると、(Q1+Δq)×T2=(T2+Δt)×Q1とすることが可能となる。結局、Δq= Δt・Q1/T2になるように冷却水の量を増減すればよいことになる。但し、T2は最小に設定した値である。
【0024】
今、燃料電池11の給水口12の温度は一定としているので、結局はT2′−T1(=Δt)を見て、Q1の量を増減する。ここで、T2′は実際の測定値である。Q1の量を増減するには、第2の流量制御部23の設定値を変えることよって行う。なお、3方弁20の開閉を全く行わず、2方弁21のみで冷却水の量は制御できないので、第2の流量制御部23がまず3方弁20の粗調整を行い、次に2方弁21の精密制御を行うようにする。
【0025】
従って、本発明の一実施の形態に係る燃料電池を流れる冷却水の制御方法は、即ち、この燃料電池の制御装置10を使用する場合、燃料電池11の排水口13から排出される冷却水を、降温用熱交換器14で温度を下げ、加熱ヒータ15を用いて所定温度に保持してタンク16内に溜め、タンク16内の所定温度に保持された冷却水をポンプ18によって汲み上げ、3方弁20を介して燃料電池11の排水側流路と燃料電池11の給水側流路に分流し、燃料電池11の給水側流路に分流した冷却水を2方弁21を介して更に精密に流量調整し、かつ、燃料電池11を通過する冷却水の流量を3方弁20と2方弁21によって制御して、燃料電池11の給水口12と排水口13との冷却水の温度差を一定に保持することができる。
【0026】
また、以上の制御方法に加えて、第2の流量制御部23を通過する冷却水の量を測定し、3方弁20及び2方弁21を制御して、燃料電池11を通過する冷却水の量(即ち、給水口12の冷却水の流量)を一定に制御できる。
本発明は前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、冷却水の通路を変更できる。
【符号の説明】
【0027】
10:燃料電池を流れる冷却水の制御装置、11:燃料電池、12:給水口、13:排水口、14:降温用熱交換器、15:加熱ヒータ、16:タンク、17:モータ、18:ポンプ、19:第1の流量制御部、20:3方弁、21:2方弁、23:第2の流量制御部、25:第1の温度センサ、26:第2の温度センサ、27:第3の温度センサ、28:第4の温度センサ、29:第1の弁、30:第2の弁、30a:制御部、32:圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)燃料電池の排水口から排出される冷却水を、降温用熱交換器で温度を下げ、加熱ヒータを用いて所定温度に保持してタンク内に溜め、2)前記タンク内の所定温度に保持された前記冷却水をポンプによって汲み上げ、3)前記ポンプで汲み上げた前記冷却水を3方弁を介して前記燃料電池の排水側流路と前記燃料電池の給水側流路に分流し、4)前記燃料電池の給水側流路に分流した前記冷却水を2方弁を介して更に精密に流量調整し、かつ、5)前記燃料電池を通過する流量を前記3方弁と前記2方弁によって制御して、前記燃料電池の給水口と前記排水口との前記冷却水の温度差を一定に保持することを特徴とする燃料電池を流れる冷却水の制御方法。
【請求項2】
1)燃料電池の排水口から排出される冷却水を、降温用熱交換器で温度を下げ、加熱ヒータを用いて所定温度に保持してタンク内に溜め、2)前記タンク内の所定温度に保持された前記冷却水をポンプによって汲み上げ、3)前記ポンプで汲み上げた前記冷却水を3方弁を介して前記燃料電池の排水側流路と前記燃料電池の給水側流路に分流し、4)前記燃料電池の給水側流路に分流した前記冷却水を2方弁を介して更に精密に流量調整し、かつ、5)前記燃料電池を通過する流量を前記3方弁と前記2方弁によって制御して、前記燃料電池の給水口の前記冷却水の流量を一定に保持することを特徴とする燃料電池を流れる冷却水の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池を流れる冷却水の制御方法において、前記ポンプは回転数を制御可能なモータによって回転駆動されていることを特徴とする燃料電池を流れる冷却水の制御方法。
【請求項4】
1)燃料電池の排水口から排出される冷却水を冷却する降温用熱交換器と、2)前記降温用熱交換器によって冷却された前記冷却水をタンクに溜めて、該タンク内に溜まった前記冷却水を加熱する加熱ヒータと、3)前記タンク内の冷却水を汲み上げるポンプと、4)前記ポンプで汲み上げられた冷却水を前記燃料電池の排水側流路と前記燃料電池の給水側流路に分流する流量調整可能な3方弁と、5)前記3方弁で前記燃料電池の給水側流路に分流された冷却水を更に精密に流量調整する2方弁と、6)前記燃料電池の給水口と前記排水口を流れる冷却水の温度をそれぞれ測定する第1、第2の温度センサと、7)前記第1、第2の温度センサで測定した前記給水口と前記排水口を流れる冷却水の温度差が一定値になるように、前記3方弁の開度、及び前記2方弁の開度を制御する制御部とを有することを特徴とする燃料電池を流れる冷却水の制御装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−4205(P2013−4205A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131438(P2011−131438)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000233697)株式会社日鉄エレックス (51)
【Fターム(参考)】