説明

燃料電池システム、燃料電池システムの運転方法

【課題】中温域で発電運転が可能な無水電解質を用いた燃料電池の発電性能を改良する。
【解決手段】燃料電池システム20は、複数の燃料電池31が積層された燃料電池スタック30を備えている。燃料電池31は、電解質膜にイオン液体を用いた燃料電池である。燃料電池システム20は、燃料電池31の電圧Vが所定値Th以下に低下すると、出力要求95よりも大きい電流を流す。また、ヒータ75を起動して、100℃以上の酸化ガスを燃料電池スタック30に供給する。また、酸化ガスの供給ルートを、バイパス配管77を経由するルートから脱水装置74を経由するルートに切り替えて、ドライエアを燃料電池スタック30に供給する。また、供給する酸化ガスの流速を速くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、更に詳しくは、無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質と、アノードと、カソードとを有する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の形式の燃料電池が開発されている。そのうちの1つに、無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質を用いた燃料電池がある。こうした電解質としては、例えば、イオン液体を挙げることができる。イオン液体は、イオン性物質でありながら常温で液体であるという性質を有しており、不揮発性で、熱安定性が高く、加湿する必要がないことから、中温域(例えば、100〜150℃)で高効率の発電を行う燃料電池の電解質として注目されている。
【0003】
しかしながら、イオン液体を電解質として利用する燃料電池は、他の形式の燃料電池と比べて、開発の歴史が比較的浅く、さらなる改良が望まれていた。かかる課題は、イオン性液体を電解質として利用する燃料電池に限らず、中温域で発電運転が可能な無水電解質を用いた燃料電池に共通する課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−311297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の問題の少なくとも一部を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、中温域で発電運転が可能な無水電解質を用いた燃料電池の発電性能を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]燃料電池システムであって、無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質と、アノードと、カソードとを備える燃料電池と、前記カソードの周辺に存在する水分を除去して、該カソードの水分による被毒を抑制する被毒抑制処理を行う水分除去手段とを備えた燃料電池システム。
【0008】
かかる構成の燃料電池システムは、無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質を備える燃料電池において、被毒抑制処理によってカソードの水分被毒を抑制できるので、カソードの活性低下を抑制して、発電性能の低下を抑制することができる。なお、カソードの水分被毒とは、カソードに所定量の水分が付着すると、カソードの活性が急激に低下することであり、かかる知見は、本願発明と共に得られたものである。
【0009】
[適用例2]適用例1記載の燃料電池システムであって、更に、前記カソードの活性を監視する監視手段を備え、前記水分除去手段は、前記監視手段が前記カソードの活性が所定以下に低下したことを検知した場合に、前記被毒抑制処理を行う燃料電池システム。
【0010】
かかる構成の燃料電池システムは、カソードの活性が低下した場合に、被毒抑制処理を行って、活性を回復させることができるので、効率的に、カソードの水分被毒を抑制することができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2記載の燃料電池であって、前記水分除去手段は、前記カソードに供給する酸化ガス中に含まれる水分量を低減させる脱水手段を備え、前記被毒抑制処理の1つとして、前記脱水手段で水分量を低減させた酸化ガスを前記カソードに供給する燃料電池システム。
【0012】
かかる構成の燃料電池システムは、脱水手段によって水分量が低減された酸化ガスをカソードに供給することで、カソードの周辺に存在する水分を乾燥、除去して、カソードの水分被毒を抑制することができる。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれか記載の燃料電池であって、前記水分除去手段は、前記カソードに供給する酸化ガスを加熱する加熱手段を備え、前記被毒抑制処理の1つとして、前記加熱手段で加熱した酸化ガスを前記カソードに供給する燃料電池システム。
【0014】
かかる構成の燃料電池システムは、加熱手段によって加熱された酸化ガスをカソードに供給することで、カソードの周辺に存在する水分を乾燥、除去して、カソードの水分被毒を抑制することができる。
【0015】
[適用例5]前記水分除去手段は、前記被毒抑制処理の1つとして、前記カソードに供給する酸化ガスの流速を速くする適用例1ないし適用例4のいずれか記載の燃料電池システム。
【0016】
かかる構成の燃料電池システムは、カソードに供給する酸化ガスの流速を速くすることで、カソードの周辺に存在する水分を乾燥、除去して、カソードの水分被毒を抑制することができる。
【0017】
[適用例6]前記水分除去手段は、前記被毒抑制処理の1つとして、前記燃料電池システムに出力要求される電流よりも大きな電流を前記燃料電池に発生させる適用例1ないし適用例5のいずれか記載の燃料電池。
【0018】
かかる構成の燃料電池システムは、燃料電池システムに出力要求される電流よりも大きな電流を燃料電池に発生させ、発電反応による自己発熱によって、カソードの周辺に存在する水分を乾燥、除去して、カソードの水分被毒を抑制することができる。
【0019】
[適用例7]前記水分除去手段は、前記燃料電池システムの発電運転の起動前に、前記被毒抑制処理を行う適用例3または適用例4記載の燃料電池システム。
【0020】
かかる構成の燃料電池システムは、発電運転の起動前に、水分量が低減された酸化ガスのカソードへの供給、及び/または、加熱された酸化ガスのカソードへの供給を行うので、前回の発電運転時にカソードに残留した水分を発電運転前に事前に乾燥、除去し、カソードの水分被毒を抑制して、好適な発電運転を行うことができる。
【0021】
[適用例8]前記水分除去手段は、前記燃料電池システムの発電運転の停止後に、前記アノードへの燃料ガスの供給を停止した状態で、前記被毒抑制処理を行う適用例3または適用例4記載の燃料電池システム。
【0022】
かかる構成の燃料電池システムは、燃料電池システムの発電運転の停止後に、水分量が低減された酸化ガスのカソードへの供給、及び/または、加熱された酸化ガスのカソードへの供給を行う。したがって、カソードの周辺の水分を乾燥、除去して、残留させないので、次回の発電運転開始時において、カソードの水分被毒を抑制して、好適に発電運転を行うことができる。
【0023】
[適用例9]燃料電池システムであって、無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質と、アノードと、カソードとを備える燃料電池と燃料電池が複数積層された、複数の燃料電池スタックと、前記複数の燃料電池スタックの各々に対して、前記カソードの周辺に存在する水分を除去して、該カソードの水分による被毒を抑制する被毒抑制処理を行う水分除去手段と、前記複数の燃料電池スタックの各々に対して、前記カソードの活性を監視する監視手段とを備え、前記水分除去手段は、前記監視手段が、前記複数の燃料電池スタックのうちの、発電運転中の燃料電池スタックの前記カソードの活性が所定以下に低下したことを検知した場合に、前記複数の燃料電池スタックのうちの、運転停止中の燃料電池スタックの発電運転を開始し、前記活性の低下が検知された燃料電池スタックに対して、発電運転を停止すると共に、前記被毒抑制処理を行う燃料電池システム。
【0024】
かかる構成の燃料電池システムは、カソードの活性が低下した場合に、運転停止中の燃料電池スタックの発電運転を開始し、活性の低下が検知された燃料電池スタックに対して、発電運転を停止すると共に被毒抑制処理を行うので、システム全体として、カソードの活性低下による発電性能の低下を抑制した運転を行うことができる。また、発電運転を停止して被毒抑制処理を行うので、水分除去効果が大きく、確実に、または、短時間で、活性の低下を回復させることができる。
【0025】
[適用例10]前記無水電解質は、トリフルオロメタンスルホン酸とジエチルメチルアミンとを含む適用例1ないし適用例9のいずれか記載の燃料電池システム。
【0026】
かかる構成の燃料電池システムは、無水電解質をトリフルオロメタンスルホン酸とジエチルメチルアミンとを含むものとすれば、高いプロトン伝導度を発揮して、好適な発電性能を発揮することができる。
【0027】
[適用例11]前記カソードは、少なくとも白金を含む適用例1ないし適用例10のいずれか記載の燃料電池システム。
【0028】
かかる構成の燃料電池システムは、カソードに白金を含む構成とすれば、高い触媒活性を発揮して、好適な発電性能を発揮することができる。
【0029】
また、本発明は、燃料電池システムとしての構成のほか、適用例12の燃料電池の運転方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記憶媒体等としても実現することができる。
[適用例12]無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質と、アノードと、カソードとを備える燃料電池システムの運転方法であって、前記カソードの活性を監視し、前記カソードの活性が所定以下に低下した場合に、前記カソードの周辺に存在する水分を除去する燃料電池システムの運転方法。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池システム20の概略構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池スタック30の概略構成を示す説明図である。
【図3】燃料電池システム20におけるカソード被毒抑制処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】電解質にイオン液体を用いた従来型燃料電池における、イオン液体への水の添加量と酸素還元電流密度(電圧0.8V時)との関係を示す説明図である。
【図5】第2実施例としての燃料電池システム20の概略構成を示す説明図である。
【図6】第2実施例としての燃料電池システム20における運転切替処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】第3実施例としての燃料電池システム20における起動・停止処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施例について説明する。
A.第1実施例:
A−1.燃料電池システム20の概略構成:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池システム20の概略構成を示す説明図である。燃料電池システム20は、電気化学反応により発電を行う燃料電池スタック30、燃料電池スタック30に燃料ガスを供給・排出する燃料ガス系機器60、燃料電池スタック30に酸化ガスを供給・排出する酸化ガス系機器70、燃料電池スタック30を冷却する冷却系機器80、燃料電池システム20を制御する制御ユニット90を備えている。
【0032】
燃料電池スタック30は、アノード、カソード、電解質膜、セパレータ等を備える燃料電池31を複数積層して構成される。燃料電池スタック30の構成の詳細については、後述する。燃料電池スタック30には、電圧計35が設けられている。電圧計35は、各々の燃料電池31の出力電圧と、燃料電池スタック30の全体出力電圧とを測定可能である。
【0033】
燃料ガス系機器60は、水素タンク61、シャットバルブ62、レギュレータ63、希釈器66、配管64,65,68を備えている。水素タンク61に貯蔵された高圧水素は、シャットバルブ62、レギュレータ63によって圧力及び供給量が調整されて、配管64を介して燃料電池スタック30のアノードに燃料ガスとして供給される。そして、アノードからの排ガス(以下、アノードオフガスともいう)は、配管65を介して希釈器66に導かれた後、配管68を介して、燃料電池システム20の系外に排出される。
【0034】
酸化ガス系機器70は、エアクリーナ71、エアコンプレッサ72、三方弁73、脱水装置74、ヒータ75、配管76,78、バイパス配管77を備えている。エアクリーナ71から吸入された空気は、エアコンプレッサ72によって圧縮され、三方弁73、脱水装置74、ヒータ75及び配管76を介して、燃料電池スタック30のカソードに酸化ガスとして供給される。また、吸入された空気は、三方弁73を制御することにより、バイパス配管77を介して、つまり、脱水装置74をバイパスして、ヒータ75に導くこともできる。カソードからの排ガス(以下、カソードオフガスともいう)は、配管78を介して希釈器66に導入される。
【0035】
脱水装置74は、供給空気中の水分量を低減させる。本実施例では、吸着方式を採用した。具体的には、活性炭が充填された層に空気を通過させることにより、水分を吸着させることとした。ただし、吸着性部材は、活性炭に限るものではなく、例えば、吸水性ポリマーなどであってもよい。また、脱水方式は、吸着式に限らず、冷却や加圧によって脱水する形式であってもよい。脱水装置74は、後述するカソード被毒抑制処理に用いるものであり、燃料電池システム20の通常の発電運転時には使用されない。すなわち、通常運転時には、供給空気は、バイパス配管77を介してヒータ75に導かれるように、三方弁73が制御される。
【0036】
ヒータ75は、本実施例では、電熱式ヒータであり、供給空気の流路に設けられた加熱器によって、供給空気を加熱する。本実施例では、ヒータ75を起動すると、空気を100℃以上に加熱することができる。ヒータ75は、後述するカソード被毒抑制処理に用いるものであり、燃料電池システム20の通常の発電運転時には使用されない。すなわち、通常運転時には、ヒータ75は、停止(OFF)状態にある。なお、本実施例のように、ヒータ75を、脱水装置74と燃料電池スタック30との間の経路に設ければ、脱水装置74を経由するルートで供給された空気をヒータ75で加熱する際には、供給空気の水分が少ないので、効率的に加熱することができる。ただし、脱水装置74及びヒータ75の配列順序は逆であってもよい。
【0037】
希釈器66は、カソードオフガスとアノードオフガスとを混合することによって、アノードオフガスに含まれる水素の濃度を希釈する。希釈器66から排出された排出ガスは、配管68を介して、燃料電池システム20の系外へ排出される。なお、燃料ガス系機器60は、アノードオフガスを、再度、配管64に導いて、燃料電池スタック30で循環使用する構成としてもよい。また、燃料ガス系機器60は、アノードオフガスの排出経路を持たない、いわゆるアノードデッドエンドの構成としてもよい。また、燃料ガス系機器60と酸化ガス系機器70とは、それぞれ個別的にオフガスの排出経路を備えていてもよい。
【0038】
冷却系機器80は、ラジエータ81、循環ポンプ82、配管83を備えている。冷却水は、配管83を介して循環ポンプ82によって燃料電池スタック30とラジエータ81との間を循環する。これにより、燃料電池スタック30の電気化学反応に伴う発熱を吸収し、ラジエータ81で放熱することで、燃料電池スタック30の温度を適正に保つことができる。
【0039】
上述の各構成機器は、制御ユニット90により制御される。制御ユニット90は、内部にCPU、RAM、ROMを備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ROMに記憶されたプログラムをRAMに展開して実行することで、出力要求95と燃料電池システム20の各種センサ97からの信号を受けて、レギュレータ63、エアコンプレッサ72、ヒータ75等や、燃料電池システム20の各種アクチュエータ96に駆動信号を出力し、燃料電池システム20の運転全般を制御する。また、制御ユニット90は、監視部91、水分除去制御部92としても機能する。この監視部91及び水分除去制御部92の詳細については、「A−3.カソード被毒抑制処理」で後述する。
【0040】
A−2.燃料電池スタック30の概略構成:
上述した燃料電池スタック30の構成について、図2を用いて説明する。本実施例の燃料電池スタック30は、電解質膜・電極接合体41、ガス拡散層46、セパレータ50を備える燃料電池31が複数積層され、その積層体の両端から図示しないターミナル、インシュレータ、エンドプレートで挟持されて構成される。なお、燃料電池スタック30は、燃料電池31を複数積層した構成に限らず、勿論、単一の燃料電池31で構成されてもよい。
【0041】
電解質膜・電極接合体41は、燃料電池の電気化学反応が行われる部位であり、アノード42、電解質膜43、カソード44を備えている。電解質膜43は、イオン液体を利用した、無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質である。本実施例においては、電解質膜43は、イオン液体をゲル化して形成した。こうしたゲル化材としては、種々の高分子材などを用いることができるが、本実施例では、環状ジペプチド誘導体(cyclo(L−Asp(OR)−L−Phe))を用いた。
【0042】
また、イオン液体は、常温で液体となる塩であり、種々の公知のものを用いることができる。例えば、イミダゾリウム誘導体カチオンとトリフルオロメタンスルホン酸アニオンとを含む親水性のイオン液体であってもよいし、イミダゾリウム誘導体カチオン、ピリジニウム誘導体カチオン、ピロリジニウム誘導体カチオン及びアンモニウム誘導体カチオンよりなる群から選択された少なくとも1種の分子性カチオンと、四フッ化ホウ素アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、フッ化水素アニオン、硫酸一水素アニオン及びリン酸二水素アニオンよりなる群から選択された少なくとも1種の分子性アニオンとを含むイオン液体であってもよい。本実施例では、プロトン伝導性に優れたトリフルオロメタンスルホン酸とジエチルメチルアミンとを含むイオン液体を用いた。
【0043】
アノード42及びカソード44は、導電性を有する担体上に触媒を担持させることによって形成され、触媒、電解質及び反応ガス(燃料ガスまたは酸化ガス)の三相界面を形成する。本実施例においては、白金触媒を担持したカーボン粒子を上述のイオン液体に浸漬し、アイオノマー(ここでは、ポリテトラフルオロエチレン)で固着させたものを用いた。本実施例では、触媒として活性が高い白金を用いたが、触媒の種類は、特に限定するものではなく、例えば、白金とニッケルやコバルトとの合金を用いてもよいし、ニッケルやルテニウムなどを用いてもよい。
【0044】
ガス拡散層46は、電解質膜・電極接合体41での電気化学反応に供される反応ガスの流路になると共に、集電を行なうものである。ガス拡散層46は、一般的に、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンナノチューブなどによって形成することができる。本実施例においては、カーボンクロスを用いた。
【0045】
また、上述の電解質膜・電極接合体41及びガス拡散層46の外周部には、ガス拡散層46によって形成される反応ガスの流路のシール性を確保するためにシール部47が設けられている。シール部47には、図示するとおり、いくつかの貫通孔が設けられている。当該貫通孔は、セパレータ50にも同様に設けられており、セパレータ50の説明と共に以下に述べる。
【0046】
セパレータ50は、反応ガスの流路となるガス拡散層46の壁面を成す部位である。本実施例においては、ステンレス鋼を用いたが、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボンなどであってもよい。セパレータ50及び上述のシール部47には、その外周部にいくつかの貫通孔が設けられている。これらの貫通孔が連通することで、図示するように、燃料ガスの流路としての燃料ガス供給マニホールド51及び燃料ガス排出マニホールド52、酸化ガスの流路としての酸化ガス供給マニホールド53及び酸化ガス排出マニホールド54、冷却水の流路としての冷却水供給マニホールド55及び冷却水排出マニホールド56が形成されている。
【0047】
上述した燃料ガス系機器60の配管64から燃料ガス供給マニホールド51に供給された燃料ガスは、セパレータ50の内部に形成された流路及び孔部(図示せず)を介して、ガス拡散層46に供給され、ガス拡散層46からアノード42に供給される。そして、アノードオフガスは、ガス拡散層46からセパレータ50の孔部及び内部に形成された流路(図示せず)を介して、燃料ガス排出マニホールド52に排出され、燃料ガス系機器60の配管65に導かれる。
【0048】
また、上述した酸化ガス系機器70の配管76から酸化ガス供給マニホールド53に供給された酸化ガスは、セパレータ50の内部に形成された流路及び孔部(図示せず)を介して、ガス拡散層46に供給され、ガス拡散層46からカソード44に供給される。そして、カソードオフガスは、ガス拡散層46からセパレータ50の孔部及び内部に形成された流路(図示せず)を介して、酸化ガス排出マニホールド54に排出され、酸化ガス系機器70の配管78に導かれる。
【0049】
また、上述した冷却系機器80から冷却水供給マニホールド55に供給された冷却水は、セパレータ50の内部に形成された流路(図示せず)を介して、冷却水排出マニホールド56に排出され、再び、冷却系機器80に導かれる。
【0050】
上述した燃料電池システム20は、電解質膜43が、無水条件でプロトン伝導性を有することから、100℃以上での運転が可能である。本実施例においては、燃料電池システム20の運転温度は、100℃以上、具体的には、120℃である。このように、運転温度を高めに設定するのは、触媒に白金を用いる場合には、触媒にイオン液体が吸着し、酸素還元反応が阻害されて過電圧が増大するおそれがあり、高温化によって過電圧の増大を抑制できるからである。ただし、燃料電池システム20の運転の温度は、中温域であればよく、例えば、常温から180℃程度の範囲であってもよい。
【0051】
A−3.カソード被毒抑制処理:
燃料電池システム20におけるカソード被毒抑制処理について図3を用いて説明する。ここでのカソード被毒抑制処理とは、カソード44に供給される酸化ガス中に含まれる水分や、カソード44で発電反応により生成される生成水によって、カソード44が被毒し、活性が低下することを抑制する処理である。本実施例では、カソード被毒抑制処理は、燃料電池システム20の発電運転が定常運転に達したときに開始され、繰返し実行される。ここでの定常運転とは、燃料電池システム20の起動モードの運転が終了した後に、停止モードの運転が開始されるまでに行われる運転をいう。
【0052】
カソード被毒抑制処理が開始されると、制御ユニット90は、監視部91の処理として、電圧計35が検出した電圧Vが所定値Th以下であるか否かを判断する(ステップS110)。本実施例においては、電圧Vとは、燃料電池スタック30を構成する各々の燃料電池31の出力電圧であり、いずれかの燃料電池31の出力電圧が所定値Th以下となれば、制御ユニット90は、電圧Vが所定値Th以下になったと判断する。こうすれば、より安全側で燃料電池スタック30の出力低下を検知できるからである。ただし、電圧Vは、燃料電池スタック30の全体電圧としてもよい。あるいは、制御ユニット90は、所定数の燃料電池31の出力電圧が所定値Th以下となった場合に、電圧Vが所定値Th以下になったと判断してもよい。
【0053】
ステップS110での判断は、カソード44の活性が低下しているか否かの判断を行うものであり、制御ユニット90は、電圧Vが所定値Th以下となった際に、カソード44の活性が所定以下に低下したと判断する。ただし、カソード44の活性低下の判断基準は、このような例に限るものではない。本実施例の燃料電池システム20においては、燃料電池31の出力電圧が低下する主な要因は、カソード44の活性低下と、燃料電池31の運転温度Tの低下である。したがって、例えば、燃料電池スタック30が運転温度Tを検知する温度センサを備える構成とし、制御ユニット90は、運転温度Tが所定値以上であり、かつ、電圧Vが所定値Th以下の場合にのみ、カソード44の活性が低下したと判断してもよい。
【0054】
その結果、電圧Vが所定値Thよりも大きければ(ステップS110:NO)、カソード44の活性は低下していないということであり、制御ユニット90は、処理を元に戻す。一方、電圧Vが所定値Th以下であれば(ステップS110:YES)、カソード44の活性は低下しているということであり、制御ユニット90は、水分除去制御部92の処理として、出力要求95よりも大きい電流を流す制御を行う(ステップS120)。具体的には、シャットバルブ62、レギュレータ63及びエアコンプレッサ72を制御して、出力要求95に対応する反応ガスの供給量よりも多量の反応ガスを燃料電池スタック30に供給する。このように大きい電流を流すのは、燃料電池スタック30の発電反応による発熱量を増加させて、自己発熱によって、カソード44の周辺に存在する水分を乾燥、除去するためである。
【0055】
出力要求95よりも大きい電流を流すと、制御ユニット90は、所定期間の経過後、電圧Vが所定値Th以下であるか否かを判断する(ステップS130)。ここでの所定値Thは、上述のステップS110における所定値Thと同じ値である。また、後述するステップS150及びステップS170における所定値Thも同様である。その結果、電圧Vが所定値Th以下であれば(ステップS130:YES)、カソード44の活性は回復していないので、制御ユニット90は、更に、水分除去制御部92の処理として、ヒータ75を起動(ON)し、100℃以上の酸化ガス(以下、高温酸化ガスともいう)を燃料電池スタック30に供給する(ステップS140)。本実施例では、ヒータ75によって、酸化ガスが110℃まで加熱される。
【0056】
このように、高温酸化ガスを供給するのは、カソード44の周辺に存在する水分を乾燥、除去するためであり、酸化ガスの温度を水の沸点(100℃)以上にすることで、乾燥、除去効果が大きくなる。ただし、酸化ガスの加熱温度は、100℃以下であってもよい。100℃以下であっても、加熱しない場合と比べて、水の飽和蒸気圧が大きくなり、水分の乾燥、除去効果がある程度期待できるからである。
【0057】
また、ヒータ75の電源として、ステップS120において出力要求95よりも大きな出力の発電を行う際の余剰電力を利用することができる。つまり、ステップS120の処理とステップS140の処理とを組み合わせることで、効率的な処理を実現できる。ただし、ヒータ75の電源として、燃料電池システム20が備えるバッテリの電力などを利用してもよい。
【0058】
ヒータ75を起動すると、制御ユニット90は、所定期間の経過後、電圧Vが所定値Th以下であるか否かを判断する(ステップS150)。その結果、電圧Vが所定値Th以下であれば(ステップS150:YES)、カソード44の活性は回復していないので、制御ユニット90は、更に、水分除去制御部92の処理として、三方弁73を制御して、酸化ガスの供給ルートを、バイパス配管77を経由するルートから脱水装置74を経由するルートに切り替える(ステップS160)。これにより、脱水装置74によって、水分量が低減された酸化ガス(以下、ドライエアともいう)が燃料電池スタック30に供給される。
【0059】
ドライエアを供給すると、制御ユニット90は、所定期間の経過後、電圧Vが所定値Th以下であるか否かを判断する(ステップS170)。その結果、電圧Vが所定値Th以下であれば(ステップS170:YES)、カソード44の活性は回復していないので、制御ユニット90は、更に、水分除去制御部92の処理として、エアコンプレッサ72を制御して、供給する酸化ガスの流速を速くする(ステップS180)。
【0060】
酸化ガスの流速を速くすると、制御ユニット90は、所定期間の経過後、電圧Vが所定値Th以下であるか否かを判断する(ステップS190)。その結果、電圧Vが所定値Th以下であれば(ステップS190:YES)、カソード44の活性は回復していないので、制御ユニット90は、発電運転を行いながら、上記ステップS120,S140,S160,S180の処理を継続する。
【0061】
一方、電圧Vが所定値Thより大きければ(ステップS190:NO)、あるいは、上記ステップS130,S150,S170において電圧Vが所定値Thより大きければ(ステップS130,S150,S170のいずれか:NO)、カソード44の活性は回復したので、制御ユニット90は、水分除去制御部92の処理として、上記ステップS120,S140,S160,S180の処理を停止し、燃料電池スタック30の運転を通常運転に戻す(ステップS200)。こうして、カソード被毒抑制処理は、終了となる。
【0062】
上述のカソード被毒抑制処理においては、制御ユニット90は、上記ステップS120,S140,S160,S180の4つの処理を、当該順序で、所定の経過期間を経て、段階的に実行する構成としたが、4つの処理の処理順序は、特に限定するものではなく、任意に入れ替えてもよい。また、制御ユニット90は、電圧Vが所定値Th以下である場合に、4つの処理のうちの少なくとも2つを同時に実行する構成としてもよい。また、制御ユニット90は、4つの処理を全て実行する必要はなく、これらの処理のうちの少なくとも1つを実行する構成としてもよい。また、4つの処理の実行の可否の判断基準となる所定値Thは、上述のように全てを同一の値にする必要はなく、それぞれが異なる値であってもよい。また、制御ユニット90は、電圧Vの値に応じて、上記ステップS120,S140,S160,S180の処理のうちから実行する処理を選択してもよい。
【0063】
A−4.効果:
本実施例の効果について説明する前に、イオン液体を電解質に用いた従来の燃料電池(以下、従来型燃料電池という)における課題について説明する。図4は、従来型燃料電池における電解質としてのイオン液体に水を添加し、その水の添加量と酸素還元電流密度(電圧0.8V時)との関係をプロットした図である。図示するように、従来型燃料電池の酸素還元電流密度は、水添加量が1000ppmまでは0.15〜0.16mA/cm2の範囲で推移しているのに対して、水添加量が約10000ppmでは、約0.04mA/cm2、100000ppmでは、ほぼ0mA/cm2となる。
【0064】
つまり、水添加量が所定以上増加すると、酸素還元電流密度は、急激に低下するのである。このことは、従来型燃料電池においては、酸化ガス中に含まれる水分や発電反応による生成水がカソードに所定以上残留すると、カソードの活性を急激に低下させること(カソードの水分被毒)を示している。かかる知見は、本願発明と共に得られたものである。
【0065】
かかる課題を踏まえ、上述した本実施例の燃料電池システム20は、燃料電池31の電圧Vが低下したことを検知すると、すなわち、カソード44の活性が水分被毒によって低下したことを検知すると、カソード44の周辺に存在する水分を乾燥、除去する処理、具体的には、以下の4つの処理を実行する。
(1)出力要求95よりも大きな電流を流す。
(2)高温酸化ガスを燃料電池31に供給する。
(3)ドライエアを燃料電池31に供給する。
(4)酸化ガスの流速を速くする。
燃料電池システム20は、こうした処理によって、カソード44の周辺に存在する水分を乾燥、除去して、水分によるカソード44の被毒を回復させ、発電性能の低下を抑制することができる。
【0066】
また、上述の4つの処理を段階的に実行するので、処理の内容が過大となることがなく、効率的である。また、カソード44の活性が低下した場合にのみ、上述の4つの処理を実行するので、効率的である。
【0067】
B.第2実施例:
本発明の第2実施例について、第1実施例と異なる点について説明する。第2実施例としての燃料電池システム20の概略構成を図5に示す。図示するように、第2実施例としての燃料電池システム20は、第1系統20aと、第2系統20bと、制御ユニット90とを備えている。第1系統20aは、燃料電池スタック30a、燃料ガス系機器60a、酸化ガス系機器70a、冷却系機器80aを備えている。燃料電池スタック30a,燃料ガス系機器60a、酸化ガス系機器70a、冷却系機器80aの各々の構成は、上述した第1実施例の燃料電池スタック30,燃料ガス系機器60、酸化ガス系機器70、冷却系機器80と同様であり、図示を簡略化している。第2系統20bの構成は、第1系統20aと同様である。つまり、燃料電池システム20は、2系列の燃料電池スタックを備えている。なお、以降、第1系統20a及び第2系統20bの構成機器については、第1実施例で用いた構成機器の符号の末尾に「a」,「b」を付して表現するものとする。
【0068】
制御ユニット90の構成は、基本的には第1実施例と同様であるが、出力要求95と、第1系統20aと第2系統20bの各種センサ97a,97bからの信号とを受けて、第1系統20aと第2系統20bの各種アクチュエータ96a,96bに駆動信号を出力し、第1系統20aと第2系統20bの両方の運転全般を制御する。また、本実施例においては、制御ユニット90は、第1系統20aと第2系統20bのいずれか一方を用いて、発電運転を行う。つまり、第1系統20aと第2系統20bのいずれか一方は、予備機として機能する。なお、制御ユニット90は、各系統ごとに個別的に設けられていてもよい。
【0069】
かかる燃料電池システム20における運転切替処理について図6を用いて説明する。運転切替処理とは、カソード44a,44bの水分被毒を抑制しながら、第1系統20aと第2系統20bとの発電運転を切り替えて制御する処理である。この処理は、第1系統20a及び第2系統20bのいずれか一方の発電運転が起動され、定常運転に達したときに開始される。ここでは、第1系統20aが定常運転に達したものとして説明する。なお、第2系統20bは、停止した状態である。
【0070】
運転切替処理が開始されると、制御ユニット90は、図6に示すように、監視部91の処理として、発電運転中の第1系統20aの電圧計35aが検出した電圧Vが所定値Th以下であるか否かを判断する(ステップS310)。その結果、電圧Vが所定値Thよりも大きければ(ステップS310:NO)、カソード44aの活性は低下していないので、制御ユニット90は、定常運転を継続する。
【0071】
一方、電圧Vが所定値Th以下であれば(ステップS310:YES)、カソード44aの活性は低下しているので、制御ユニット90は、水分除去制御部92の処理として、運転停止中の第2系統20bの発電運転を起動させ(ステップS320)、起動した第2系統20bの発電運転が定常運転に達するまで待機する(ステップS330)。
【0072】
そして、起動した第2系統20bの発電運転が定常運転に達すると(ステップS330:YES)、制御ユニット90は、水分除去制御部92の処理として、当初、発電運転を行っていた第1系統20aの発電運転を停止し、ヒータ75aを起動(ON)すると共に、酸化ガスの供給ルートを、バイパス配管77を経由するルートから脱水装置74を経由するルートに切り替えて、100℃以上のドライエアを所定期間、燃料電池スタック30aに供給する(ステップS340)。なお、ここでの処理は、ドライエアの供給と、高温酸化ガスの供給のいずれか一方であってもよい。
【0073】
100℃以上のドライエアの供給が終了すると、制御ユニット90は、当初、発電運転を行っていた第1系統20aの運転を停止する(ステップS350)。こうして、運転切替処理は終了となる。なお、次回の運転切替処理では、第1系統20aをステップS320で起動し、第2系統20bをステップS350で停止する処理となる。
【0074】
上述の例では、ステップS340において、発電運転を停止した状態で、所定期間、100℃以上のドライエアを第1系統20aに供給したが、第1系統20aの発電運転を行いながら、100℃以上のドライエアを供給し、電圧Vが所定値よりも大きくなった時点で、当該供給を停止してもよい。こうすれば、カソード44aが回復したことを確実に確認してから、第1系統20aを停止することができる。また、燃料電池システム20は、3系列以上の燃料電池スタックを備えていてもよい。少なくとも1系列が予備機として機能すれば、上述の例と同様の制御が可能である。
【0075】
かかる構成の燃料電池システム20は、第1系統20a及び第2系統20bのうちのいずれか一方を発電運転させる。そして、発電運転中の系統のカソードの活性が低下すると、発電運転を行う系統を切り替えると共に、活性が低下した系統に対して、高温のドライエアを供給し、活性を回復させる。つまり、活性が低下していない燃料電池スタックによって好適な発電を行いながら、活性が低下した燃料電池スタックのカソードの活性を回復させることができる。したがって、システム全体として、発電性能の低下を抑制することができる。また、新たに起動する系統は、活性が回復した状態で発電運転を開始することが可能である。また、発電運転を停止した状態で、すなわち、カソード44に生成水が生成されない状態で被毒抑制処理を行うので、水分除去効果が大きく、確実に、活性の低下を回復させることができる。あるいは、短時間で、活性の低下を回復させることができる。また、発電運転を停止した後も、高温のドライエアで残留水素を完全に消費(発電)できるので、高温のドライエアによるカソード44の水分除去効果に加えて、発電に伴う自己発熱による水分除去効果も期待できる。
【0076】
C.第3実施例:
本発明の第3実施例について第1実施例と異なる点について説明する。第3実施例としての燃料電池システム20の構成は、第1実施例と同様であり、後述する起動・停止処理を行う点が、第1実施例と異なる。以下、起動・停止処理について図7を用いて説明する。起動・停止処理とは、カソード44の活性低下を抑制するための燃料電池システム20の起動及び停止制御を行う処理である。本実施例においては、起動・停止処理は、燃料電池システム20の電源を投入した際に開始される。
【0077】
起動・停止処理が開始されると、制御ユニット90は、図7に示すように、燃料電池システム20の発電運転の起動の指示を待機する(ステップS410)。かかる指示は、燃料電池システム20が備えるユーザインタフェースから受け付けてもよいし、燃料電池システム20が搭載される車両や機器のCPU等から受け付けてもよい。
【0078】
そして、燃料電池システム20の発電運転の起動指示を受け付けると(ステップS410:YES)、制御ユニット90は、水分除去制御部92の処理として、ドライエアを燃料電池31に所定期間供給し、前回の発電運転終了時にカソード44の周辺に残留した水分を乾燥、除去する(ステップS420)。ドライエアを供給すると、制御ユニット90は、燃料電池システム20の発電運転を起動する(ステップS430)。
【0079】
発電運転を起動すると、制御ユニット90は、燃料電池システム20の発電運転の停止の指示を待機する(ステップS440)。そして、発電運転の停止指示を受け付けると(ステップS440:YES)、制御ユニット90は、水分除去制御部92の処理として、燃料ガスの供給を停止した後、ドライエアを燃料電池31に供給して、燃料電池31内に残留する水素を完全に消費(発電)させる(ステップS450)。なお、上記ステップS420及びS450においては、ドライエアの供給に代えて、または加えて、高温酸化ガスを供給してもよい。また、発電運転の起動前、または、発電運転の停止後のいずれか一方で、上述の処理を実行してもよい。
【0080】
かかる構成の燃料電池システム20は、燃料電池システム20の発電運転の起動前や停止後に、ドライエアを供給することで、カソード44の周辺に存在する水分を乾燥、除去するので、発電運転の起動後や、次回起動時のカソード44の水分被毒を抑制し、発電性能の低下を抑制することができる。また、発電運転の停止後には、ドライエアで残留水素を完全に消費するために、ドライエアによるカソード44の水分除去効果に加えて、発電に伴う自己発熱による水分除去効果も期待できる。また、発電運転を停止した状態で被毒抑制処理を行うので、水分除去効果が大きく、確実に、活性の低下を回復させることができる。あるいは、短時間で、活性の低下を回復させることができる。
【0081】
D.変形例:
上述した実施例の変形例について説明する。
D−1.変形例1:
上述の第1実施例や第2実施例においては、制御ユニット90は、カソード44の活性が低下したと判断した場合に、ドライエアの供給など、カソード44の水分被毒を抑制する処理を実行する構成としたが、かかる処理は、カソード44の活性にかかわらず、常時行ってもよい。こうすれば、より確実に、カソード44の水分被毒を抑制することができる。また、かかる処理を常時行う場合には、通常時と、カソード44の活性低下の検知時とで、処理の程度や数に差を設けてもよい。例えば、制御ユニット90は、ヒータ75を用いて酸化ガスを常時加熱する場合には、通常時には、酸化ガスが50℃となるように加熱し、カソード44の活性低下時には、酸化ガスが100℃以上となるように制御してもよい。こうすれば、状況に応じて効率的な処理を行うことができる。
【0082】
あるいは、制御ユニット90は、所定のタイミングで間欠的に、カソード44の水分被毒を抑制する処理を実行してもよい。所定のタイミングは、例えば、所定の期間ごととすることができる。こうした期間としては、例えば、発電運転時間が所定時間に達した時や延べ出力が所定値に達した時などとすることができる。こうすれば、処理を効率化できる。
【0083】
また、第3実施例においては、第1系統20aと第2系統20bのうちの発電運転を行う系統を所定のタイミング、例えば、所定期間ごとに切り替えて、発電運転を停止する系統に対して、ドライエアの供給を行ってもよい。なお、上述した各々の構成において、電圧計35によるカソード44の活性低下の検知を処理の実行契機としない場合には、電圧計35は必須ではない。
【0084】
D−2.変形例2:
上述の実施形態においては、電解質膜43にイオン液体を保持させる方法として、イオン液体を高分子材でゲル化して形成した電解質膜43を用いたが、イオン液体の保持方法は、かかる例に限られるものではない。例えば、シリコンカーバイドなどの微粒子で形成されたマトリックス層にイオン液体を含浸させて、マトリックス層にイオン液体を保持させるマトリックス型としてもよいし、アノード42とカソード44との間にダイヤフラム膜などにより形成された電解液室に、イオン液体を循環させる自由電解液型としてもよい。これらの方法は、アルカリ形燃料電池やリン酸形燃料電池において一般的に用いられている方法である。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態における本発明の構成要素のうち、独立クレームに記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明は、イオン性液体を電解質として利用する燃料電池に限らず、無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質を用いた種々の燃料電池システムに適用することができる。また、本発明は、燃料電池システムとしての構成のほか、燃料電池の運転方法、そのコンピュータプログラム、当該プログラムを記録した記憶媒体等としても実現することができる。
【符号の説明】
【0086】
20…燃料電池システム
20a…第1系統
20b…第2系統
30,30a,30b…燃料電池スタック
31…燃料電池
35…電圧計
41…電解質膜・電極接合体
42…アノード
43…電解質膜
44…カソード
46…ガス拡散層
47…シール部
50…セパレータ
51…燃料ガス供給マニホールド
52…燃料ガス排出マニホールド
53…酸化ガス供給マニホールド
54…酸化ガス排出マニホールド
55…冷却水供給マニホールド
56…冷却水排出マニホールド
60,60a,60b…燃料ガス系機器
61…水素タンク
62…シャットバルブ
63…レギュレータ
64,65,68…配管
66…希釈器
70,70a,70b…酸化ガス系機器
71…エアクリーナ
72…エアコンプレッサ
73…三方弁
74…脱水装置
75…ヒータ
76,78…配管
77…バイパス配管
80,80a,80b…冷却系機器
81…ラジエータ
82…循環ポンプ
83…配管
90…制御ユニット
91…監視部
92…水分除去制御部
95…出力要求
96,96a,96b…各種アクチュエータ
97,97a,97b…各種センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質と、アノードと、カソードとを備える燃料電池と、
前記カソードの周辺に存在する水分を除去して、該カソードの水分による被毒を抑制する被毒抑制処理を行う水分除去手段と
を備えた燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
更に、前記カソードの活性を監視する監視手段を備え、
前記水分除去手段は、前記監視手段が前記カソードの活性が所定以下に低下したことを検知した場合に、前記被毒抑制処理を行う
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の燃料電池システムであって、
前記水分除去手段は、
前記カソードに供給する酸化ガス中に含まれる水分量を低減させる脱水手段を備え、
前記被毒抑制処理の1つとして、前記脱水手段で水分量を低減させた酸化ガスを前記カソードに供給する
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか記載の燃料電池システムであって、
前記水分除去手段は、
前記カソードに供給する酸化ガスを加熱する加熱手段を備え、
前記被毒抑制処理の1つとして、前記加熱手段で加熱した酸化ガスを前記カソードに供給する
燃料電池システム。
【請求項5】
前記水分除去手段は、前記被毒抑制処理の1つとして、前記カソードに供給する酸化ガスの流速を速くする請求項1ないし請求項4のいずれか記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記水分除去手段は、前記被毒抑制処理の1つとして、前記燃料電池システムに出力要求される電流よりも大きな電流を前記燃料電池に発生させる請求項1ないし請求項5のいずれか記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記水分除去手段は、前記燃料電池システムの発電運転の起動前に、前記被毒抑制処理を行う請求項3または請求項4記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記水分除去手段は、前記燃料電池システムの発電運転の停止後に、前記アノードへの燃料ガスの供給を停止した状態で、前記被毒抑制処理を行う請求項3または請求項4記載の燃料電池システム。
【請求項9】
燃料電池システムであって、
無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質と、アノードと、カソードとを備える燃料電池が複数積層された、複数の燃料電池スタックと、
前記複数の燃料電池スタックの各々に対して、前記カソードの周辺に存在する水分を除去して、該カソードの水分による被毒を抑制する被毒抑制処理を行う水分除去手段と、
前記複数の燃料電池スタックの各々に対して、前記カソードの活性を監視する監視手段と
を備え、
前記水分除去手段は、前記監視手段が、前記複数の燃料電池スタックのうちの、発電運転中の燃料電池スタックの前記カソードの活性が所定以下に低下したことを検知した場合に、前記複数の燃料電池スタックのうちの、運転停止中の燃料電池スタックの発電運転を開始し、前記活性の低下が検知された燃料電池スタックに対して、発電運転を停止すると共に、前記被毒抑制処理を行う
燃料電池システム。
【請求項10】
前記無水電解質は、トリフルオロメタンスルホン酸とジエチルメチルアミンとを含む請求項1ないし請求項9のいずれか記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記カソードは、少なくとも白金を含む請求項1ないし請求項10のいずれか記載の燃料電池システム。
【請求項12】
無水条件でプロトン伝導性を有する無水電解質と、アノードと、カソードとを備える燃料電池システムの運転方法であって、
前記カソードの活性を監視し、
前記カソードの活性が所定以下に低下した場合に、前記カソードの周辺に存在する水分を除去する
燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−251219(P2010−251219A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101557(P2009−101557)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】