説明

燃料電池システム及びその発電停止方法

【課題】燃料電池システムにおいて、簡単且つコンパクトな構成で、燃料電池カソード側の封止領域を削減することができ、発電停止時の酸素による劣化を抑制するとともに、酸化剤ガスの再循環率の制御を良好に遂行可能にする。
【解決手段】燃料電池システム10を構成する酸化剤ガス供給装置14は、燃料電池12の酸化剤ガス入口40aに連通する酸化剤ガス供給流路44と、前記燃料電池12の酸化剤ガス出口40bに連通する酸化剤ガス排出流路46と、前記酸化剤ガス供給流路44に配設されるコンプレッサ48と、前記酸化剤ガス供給流路44に、前記コンプレッサ48の下流に位置して配置される供給流路封止弁52と、前記酸化剤ガス排出流路46に配設される排出流路封止弁62と、前記酸化剤ガス排出流路46に、前記排出流路封止弁62よりも上流に位置して連通する一方、前記酸化剤ガス供給流路44に、前記コンプレッサ48よりも上流に位置して連通する排出流体循環流路64とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置とを備える燃料電池システム及びその発電停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード電極及びカソード電極を設けた電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持している。一方のセパレータと電解質膜・電極構造体との間には、アノード電極に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路が形成されるとともに、他方のセパレータと前記電解質膜・電極構造体との間には、カソード電極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0003】
燃料電池は、通常、複数積層されて燃料電池スタックを構成するとともに、酸化剤ガス供給装置、燃料ガス供給装置及び冷却媒体供給装置等の各種補機類と関連して燃料電池電気自動車に組み込まれることにより、車載用燃料電池システムを構成している。
【0004】
この種の燃料電池システムでは、上記のように、高分子電解質膜が用いられており、この高分子電解質膜は、良好なイオン導電性を確保するために、適度な水分を保水していることが必要である。このため、燃料電池のカソード側に供給される酸化剤ガスや、前記燃料電池のアノード側に供給される燃料ガスを、予め加湿することにより、固体高分子電解質膜の乾燥を阻止して所望の加湿状態を維持することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されている燃料電池発電システムでは、図6に示すように、燃料電池1aに酸化剤ガスを供給する供給通路2aと、前記燃料電池1aの酸化剤極から吐出された酸化剤オフガスを流す吐出通路3aと、前記吐出通路3a及び前記供給通路2aを連通するとともに、前記燃料電池1aから吐出された湿った酸化剤オフガスの少なくとも一部を、前記供給通路2aに戻すオフガスリターン通路4aとを備えている。
【0006】
供給通路2aとオフガスリターン通路4aとの合流域より下流側の前記供給通路2aには、回転式の酸化剤オフガス搬送駆動源5aが設けられている。このため、燃料電池1aに供給される反応前の酸化剤ガスは、反応後の湿った酸化剤オフガスにより加湿されるため、加湿器を廃止することができる、としている。
【0007】
さらに、反応前の酸化剤ガスと反応後の酸化剤オフガスとが合流して合流流体となった後に、酸化剤オフガス搬送駆動源5aを通過するため、前記合流流体が積極的に混合されて拡散混合性を高めることができる、としている。
【0008】
一方、上記の燃料電池システムでは、発電時に水が生成されており、発電が停止されると、酸化剤ガス流路及び燃料ガス流路の下流側に生成水が滞留し易い。そして、燃料電池の停止時に、酸化剤ガス流路及び燃料ガス流路に空気による掃気が行われていると、起動時に、特に前記酸化剤ガス流路の下流側で高電位によりカソード側電極の劣化が惹起されるという問題がある。
【0009】
そこで、例えば、特許文献2に開示されている燃料電池の発電停止方法が知られている。この発電停止方法では、図7に示すように、第1流路切替弁1bの開閉状態を、空気循環路2bとエアコンプレッサ3bとを接続させるように開くとともに、外気流入側を遮断している。第2流路切替弁4bの開閉状態は、燃料電池5bから排出された空気オフガスを空気循環路2bに流通させるように開くとともに、大気放出側を遮断している。
【0010】
このため、燃料電池5bには、新たな外気が供給されることがなく、前記燃料電池5bのカソードから排出される空気オフガスは、前記燃料電池5b、第2空気遮断弁6b、第2流路切替弁4b、除湿器7b、第1流路切替弁1b、エアコンプレッサ3b、第1空気遮断弁8b及び前記燃料電池5bに至る閉回路を循環している。
【0011】
これにより、空気オフガス中の酸素が発電用に消費され、前記空気オフガス中の酸素濃度が低下していく。従って、発電停止後にクロスリークが生じても、水素と酸素との反応がほとんどなく、固体高分子電解質膜を保護することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−268117号公報
【特許文献2】特開2003−115317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、燃料電池システムでは、運転時の膜加湿用制御やストイキ制御(特許文献1)を行うとともに、カソード系内を封止する(特許文献2)機能を有することが望ましい。特に、発電停止後にカソード系を封止するとともに、該カソード系内に酸化剤ガスを循環させながら、酸素を消費させて窒素富化を行うことが好ましい。しかしながら、上記の特許文献1及び特許文献2では、この種の要請に対応することができないという問題がある。
【0014】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単且つコンパクトな構成で、カソード側の封止領域を削減することができ、発電停止時の酸素による劣化を抑制するとともに、酸化剤ガスの再循環率の制御が良好に遂行可能な燃料電池システム及びその発電停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置とを備える燃料電池システムに関するものである。
【0016】
この燃料電池システムでは、酸化剤ガス供給装置は、燃料電池の酸化剤ガス入口に連通する酸化剤ガス供給流路と、前記燃料電池の酸化剤ガス出口に連通する酸化剤ガス排出流路と、前記酸化剤ガス供給流路に配設されるコンプレッサと、前記酸化剤ガス供給流路に、前記コンプレッサの下流に位置して配置される供給流路封止弁と、前記酸化剤ガス排出流路に配設される排出流路封止弁と、前記酸化剤ガス排出流路に、前記排出流路封止弁よりも上流に位置して連通する一方、前記酸化剤ガス供給流路に、前記コンプレッサよりも上流に位置して連通する排出流体循環流路とを備えている。
【0017】
また、この燃料電池システムでは、酸化剤ガス供給流路及び酸化剤ガス排出流路に跨って加湿器が配設されるとともに、供給流路封止弁は、加湿器の上流に位置して前記酸化剤ガス供給流路に配置される一方、排出流路封止弁は、前記加湿器の下流に位置して前記酸化剤ガス排出流路に配置されることが好ましい。
【0018】
さらに、この燃料電池システムでは、排出流路封止弁は、少なくとも全開状態と、カソード側を常圧以上に高め且つ全ての酸素成分を消費させるために必要な流量を維持する微小開度状態とに開度調整可能であり、前記燃料電池システムは、排出流体循環流路に配設される循環流路弁と、前記循環流路弁が開成された際、前記排出流路封止弁を前記微小開度状態にする制御装置とを備えることが好ましい。
【0019】
さらにまた、この燃料電池システムでは、燃料ガス供給装置は、燃料電池の燃料ガス入口に連通する燃料ガス供給流路を備えるとともに、酸化剤ガス供給流路に、供給流路封止弁の下流に位置して分岐流路の一端が連通し、且つ、前記分岐流路の他端が燃料ガス供給流路に連通することが好ましい。
【0020】
また、この燃料電池システムでは、酸化剤ガス排出流路には、排出流路封止弁の下流に位置してエキスパンダタービンが配設されるとともに、前記エキスパンダタービンは、コンプレッサに連結されて動力伝達可能であることが好ましい。
【0021】
さらに、この発電停止方法では、燃料電池の発電停止時に、排出流路封止弁の開度を絞ることにより、カソード側を常圧以上に高め且つ全ての酸素成分を消費させている。
【0022】
さらに、この発電停止方法では、カソード側に酸化剤ガス中の窒素成分が充填された後、前記窒素成分を燃料ガス供給装置に供給して前記アノード側に充填させることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、供給流路封止弁が、コンプレッサの下流に位置して酸化剤ガス供給流路に配置されている。このため、供給流路封止弁と排出流路封止弁とにより封止されるカソード側封止領域が狭小化される。しかも、空気漏れし易いコンプレッサは、カソード側封止領域外に配置されており、発電停止時に前記カソード側封止領域内に酸素が進入することを抑制することが可能になる。従って、燃料電池は、酸素による劣化を可及的に阻止することができる。
【0024】
さらに、排出流体循環流路の一端は、排出流路封止弁よりも上流に位置して酸化剤ガス排出流路に連通するとともに、前記排出流体循環流路の他端は、コンプレッサよりも上流に位置して酸化剤ガス供給流路に連通している。
【0025】
これにより、排出流路封止弁の開度を制御することによって、コンプレッサに供給される新たな空気に対して循環される酸化剤オフガス(燃料電池から排出された酸化剤ガス)の比である循環比(酸化剤オフガス/新たな空気)を制御することが可能になる。このため、運転状況等に応じた循環比に容易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】比較例1の燃料電池システムの概略構成図である。
【図3】比較例2の燃料電池システムの概略構成図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図6】特許文献1に開示された燃料電池発電システムの概略説明図である。
【図7】特許文献2に開示された発電停止方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システム10は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池12と、前記燃料電池12に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、前記燃料電池12に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、コントローラ(制御装置)18とを備える。
【0028】
燃料電池12は、複数の単位セル20を積層して構成される。各単位セル20は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜22をカソード電極24とアノード電極26とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)28を備える。
【0029】
カソード電極24及びアノード電極26は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜22の両面に形成される。
【0030】
電解質膜・電極構造体28は、カソード側セパレータ30及びアノード側セパレータ32で挟持される。カソード側セパレータ30及びアノード側セパレータ32は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0031】
カソード側セパレータ30と電解質膜・電極構造体28との間には、酸化剤ガス流路34が設けられるとともに、アノード側セパレータ32と前記電解質膜・電極構造体28との間には、燃料ガス流路36が設けられる。カソード側セパレータ30とアノード側セパレータ32との間には、冷却媒体流路38が設けられる。
【0032】
燃料電池12には、各燃料電池12の積層方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガス(以下、空気ともいう)を供給する酸化剤ガス入口40a、燃料ガス、例えば、水素含有ガス(以下、水素ガスともいう)を供給する燃料ガス入口42a、冷却媒体を供給する冷却媒体入口(図示せず)、前記酸化剤ガスを排出する酸化剤ガス出口40b、前記燃料ガスを排出する燃料ガス出口42b、及び前記冷却媒体を排出する冷却媒体出口(図示せず)が設けられる。
【0033】
酸化剤ガス供給装置14は、燃料電池12の酸化剤ガス入口40aに連通する酸化剤ガス供給流路44と、前記燃料電池12の酸化剤ガス出口40bに連通する酸化剤ガス排出流路46とを備える。
【0034】
酸化剤ガス供給流路44には、酸化剤ガスである空気の流れ方向(矢印A方向)上流側から下流側に向かって、コンプレッサ48、加湿器50及び供給流路封止弁52が、順次、配置される。
【0035】
コンプレッサ48は、モータ54により駆動されるとともに、エキスパンダタービン56に連結されて動力連達可能である。このエキスパンダタービン56は、酸化剤ガス排出流路46に配設される。
【0036】
加湿器50は、酸化剤ガス供給流路44と酸化剤ガス排出流路46とに跨って設けられており、前記酸化剤ガス供給流路44を矢印A方向に流通する供給ガス(供給空気)と排出ガス(酸化剤オフガス)との間で、水分と熱を交換する。酸化剤ガス供給流路44には、加湿器50をバイパスしてバイパス流路58が連通し、このバイパス流路58に開閉弁60が配設される。
【0037】
酸化剤ガス排出流路46には、排出される酸化剤オフガスの流れ方向(矢印B方向)上流側から下流側に向かって、排出流路封止弁62、加湿器50及びエキスパンダタービン56が配設される。
【0038】
酸化剤ガス排出流路46には、排出流路封止弁62よりも上流(酸化剤ガス出口40bの近傍)に一端が連通し、酸化剤ガス供給流路44には、コンプレッサ48よりも上流に位置して他端が連通する排出流体循環流路64が設けられる。この排出流体循環流路64には、開閉弁66が配設されるとともに、前記排出流体循環流路64は、加湿器50内に挿入される。
【0039】
燃料ガス供給装置16は、高圧水素を貯留する水素タンク(Hタンク)70を備える。この水素タンク70は、水素供給流路72を介して燃料電池12の燃料ガス入口42aに連通する。水素供給流路72には、遮断弁74及びエゼクタ76が設けられる。
【0040】
燃料ガス供給装置16は、燃料電池12の燃料ガス出口42bに連通する燃料オフガス流路78を備える。この燃料オフガス流路78には、エゼクタ76に連通する水素循環路80と遮断弁(パージ弁)82とが設けられる。
【0041】
このように構成される燃料電池システム10の動作について、以下に説明する。
【0042】
先ず、酸化剤ガス供給装置14を構成するコンプレッサ48を介して、酸化剤ガス供給流路44に空気が送られる。この空気は、加湿器50を通って加湿された後、燃料電池12の酸化剤ガス入口40aに供給される。この空気は、燃料電池12内の各単位セル20に設けられている酸化剤ガス流路34に沿って移動することにより、カソード電極24に供給される。
【0043】
未反応の空気を含む酸化剤オフガスは、酸化剤ガス出口40bから酸化剤ガス排出流路46に排出され、加湿器50に送られることによって新たに供給される空気を加湿する。酸化剤オフガスは、エキスパンダタービン56に駆動源として供給された後、外部に排出される。エキスパンダタービン56は、コンプレッサ48に動力を伝達することができる。
【0044】
一方、燃料ガス供給装置16では、遮断弁74が開放されることにより、水素タンク70から導出された水素ガスが、水素供給流路72に供給される。この水素ガスは、水素供給流路72を通って燃料電池12の燃料ガス入口42aに供給される。燃料電池12内に供給された水素ガスは、各単位セル20の燃料ガス流路36に沿って移動することにより、アノード電極26に供給される。
【0045】
燃料ガス流路36から排出される水素オフガスは、燃料ガス出口42bから水素循環路80を介してエゼクタ76に吸引され、燃料ガスとして、再度、燃料電池12に供給される。従って、カソード電極24に供給される空気とアノード電極26に供給される水素ガスとが電気化学的に反応して、発電が行われる。
【0046】
ここで、酸化剤ガス供給装置14には、酸化剤ガス供給流路44と酸化剤ガス排出流路46とに連通する排出流体循環流路64が設けられている。このため、排出流体循環流路64に設けられている開閉弁66が開放操作されると、燃料電池12の酸化剤ガス出口40bから酸化剤ガス排出流路46に導出される酸化剤オフガスは、前記排出流体循環流路64を通って酸化剤ガス供給流路44に導入される。
【0047】
これにより、酸化剤オフガスは、この酸化剤ガス供給流路44に新たに供給される空気と混合してコンプレッサ48に吸引され、この混合された酸化剤ガスは、加湿器50を通って、あるいは、開閉弁60の開放作用下にバイパス流路58を通って、燃料電池12の酸化剤ガス入口40aに供給される。
【0048】
この場合、第1の実施形態では、酸化剤ガス供給流路44には、コンプレッサ48の下流に位置して供給流路封止弁52が配置されている。このため、供給流路封止弁52と排出流路封止弁62とにより封止されるカソード側封止領域が有効に狭小化される。
【0049】
しかも、空気漏れし易いコンプレッサ48は、カソード側封止領域外に配置されており、発電停止時に前記カソード側封止領域内に酸素が進入することを抑制することが可能になる。従って、燃料電池12は、不要な酸素の侵入による劣化を可及的に阻止することができる。
【0050】
さらに、排出流体循環流路64の一端は、排出流路封止弁62よりも上流に位置して酸化剤ガス排出流路46に連通するとともに、前記排出流体循環流路64の他端は、コンプレッサ48よりも上流に位置して酸化剤ガス供給流路44に連通している。これにより、排出流路封止弁62の開度を調整するだけで、排出流体循環流路64に供給される酸化剤オフガスの流量を適宜調整することができる。
【0051】
従って、排出流路封止弁62を全開にすれば、回生装置であるエキスパンダタービン56に必要なエネルギ回生量が十分に確保できる一方、前記排出流路封止弁62を微小開度に設定すれば、排出流体循環流路64に対して極めて少量の酸化剤オフガスを循環させることも可能である。
【0052】
特に、排出流路封止弁62は、少なくとも全開状態と微小開度状態とに開度調整可能である。この微小開度状態とは、排出流体循環流路64に循環させる酸化剤オフガスの流量を調整し、カソード側を常圧以上に高め、且つ、新たにコンプレッサ48に吸引される空気を含めて全ての酸素成分を消費させるために必要な流量を維持する開度状態をいう。
【0053】
このため、燃料電池システム10のカソード側では、酸素成分が消費されて窒素成分が充填される(窒素富化)とともに、この窒素成分による圧力は、大気圧よりも大きく、すなわち、外部からの空気の導入を阻止し得る圧力に設定されている。
【0054】
これにより、第1の実施形態では、排出流路封止弁62の開度を制御することによって、コンプレッサ48に供給される新たな空気に対して循環される酸化剤オフガスの比である循環比(酸化剤オフガス/新たな空気)を制御することが可能になる。従って、運転状況等に応じた循環比に、容易且つ確実に制御することができるという利点がある。
【0055】
ここで、図2には、通常考えられ得る燃料電池システム10aの構成が示されており、図3には、同様に、通常考えられ得る燃料電池システム10bが示されている。なお、第1の実施形態に係る燃料電池システム10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0056】
図2に示すように、燃料電池システム10aでは、酸化剤ガス供給流路44と酸化剤ガス排出流路46とに、排出流体循環流路64aが設けられる。この排出流体循環流路64aの一端は、酸化剤ガス供給流路44にコンプレッサ48の上流側に位置して連通するとともに、前記排出流体循環流路64aの他端は、酸化剤ガス排出流路46にエキスパンダタービン56の下流に位置して連通する。
【0057】
このように構成される燃料電池システム10aでは、供給流路封止弁52と排出流路封止弁62とにより、カソード側封止領域が狭小化されるとともに、酸素オフガスの循環が可能である。
【0058】
しかしながら、カソード側封止領域を封止しながら、前記カソード側封止領域内を窒素で充填することは困難である。排出流体循環流路64aは、酸化剤ガス排出流路46にエキスパンダタービン56の下流に位置して接続されるため、極小流量で内圧を高める出力制御が困難となるからである。
【0059】
また、図3に示すように、燃料電池システム10bでは、酸化剤ガス供給流路44にコンプレッサ48の上流に位置して供給流路封止弁52aが配置されるとともに、酸化剤ガス排出流路46には、エキスパンダタービン56の下流側に位置して、排出流路封止弁62aが配置される。さらに、燃料電池システム10aと同様に、排出流体循環流路64aが設けられる。
【0060】
このように構成される燃料電池システム10bでは、供給流路封止弁52aと排出流路封止弁62aとにより封止されるカソード側封止領域が相当に拡大するとともに、気密性の低いコンプレッサ48が前記カソード側封止領域内に配置されている。従って、気密性の保持が困難になる。
【0061】
これに対して、第1の実施形態では、特に、発電停止後において、排出流路封止弁62を微小開度に制御することにより、微小流量の酸化剤オフガスを、排出流体循環流路64に流通させながら発電することによって、燃料電池12のカソード側の酸素を完全且つ均一に消費し、前記カソード側を窒素で充填することが可能になる。
【0062】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システム100の概略構成説明図である。
【0063】
なお、第1の実施形態に係る燃料電池システム10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様にその詳細な説明は省略する。
【0064】
燃料電池システム100では、供給流路封止弁52が、加湿器50の上流に位置して酸化剤ガス供給流路44に配置される一方、排出流路封止弁62が、前記加湿器50の下流に位置して酸化剤ガス排出流路46に配置されている。
【0065】
このように構成される第2の実施形態では、供給流路封止弁52は、加湿器50の入口側近傍に配置されており、酸化剤ガス供給流路44に沿って流動するドライな空気に曝される。一方、排出流路封止弁62は、加湿器50の出口側に配置されている。このため、加湿器50により水分が除去された酸化剤オフガスが、排出流路封止弁62を流通する。
【0066】
従って、供給流路封止弁52及び排出流路封止弁62は、低湿度のガスに曝されており、水分による影響を良好に回避することができるという効果が得られる。
【0067】
なお、図4において、排出流路封止弁62を加湿器50の上流側に配置すると、例えば、この加湿器50の膜特性によって、前記加湿器50の内部で酸化剤ガスのクロスリークが発生するおそれがある。
【0068】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池システム110の概略構成説明図である。
【0069】
燃料電池システム110では、酸化剤ガス供給流路44に供給流路封止弁52の下流に位置して分岐流路112の一端が連通し、且つ、前記分岐流路112の他端が、燃料ガス供給装置16を構成する水素供給流路72に連通する。この分岐流路112には、開閉弁114が配置される。
【0070】
このように構成される第3の実施形態では、燃料電池12の発電停止時に、上記の第1の実施形態と同様に、カソード側封止領域に窒素成分が充填された後、開閉弁114が開放される。このため、窒素成分は、分岐流路112を介して水素供給流路72にも送られる。
【0071】
燃料ガス供給装置16では、遮断弁74、82が閉塞されてアノード側封止領域が封止されており、このアノード側封止領域に窒素成分が充填される。これにより、燃料電池12は、発電停止期間中に、カソード側及びアノード側にそれぞれ窒素が充填されており、膜劣化等の不具合が可及的に回避されるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0072】
10、100、110…燃料電池システム
12…燃料電池 14…酸化剤ガス供給装置
16…燃料ガス供給装置 18…コントローラ
20…単位セル 22…固体高分子電解質膜
24…カソード電極 26…アノード電極
28…電解質膜・電極構造体 34…酸化剤ガス流路
36…燃料ガス流路 40a…酸化剤ガス入口
40b…酸化剤ガス出口 42a…燃料ガス入口
42b…燃料ガス出口 44…酸化剤ガス供給流路
46…酸化剤ガス排出流路 48…コンプレッサ
50…加湿器 52、52a…供給流路封止弁
56…エキスパンダタービン 58…バイパス流路
62、62a…排出流路封止弁 64…排出流体循環流路
66、114…開閉弁 112…分岐流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
を備える燃料電池システムであって、
前記酸化剤ガス供給装置は、前記燃料電池の酸化剤ガス入口に連通する酸化剤ガス供給流路と、
前記燃料電池の酸化剤ガス出口に連通する酸化剤ガス排出流路と、
前記酸化剤ガス供給流路に配設されるコンプレッサと、
前記酸化剤ガス供給流路に、前記コンプレッサの下流に位置して配置される供給流路封止弁と、
前記酸化剤ガス排出流路に配設される排出流路封止弁と、
前記酸化剤ガス排出流路に、前記排出流路封止弁よりも上流に位置して連通する一方、前記酸化剤ガス供給流路に、前記コンプレッサよりも上流に位置して連通する排出流体循環流路と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、前記酸化剤ガス供給流路及び前記酸化剤ガス排出流路に跨って加湿器が配設されるとともに、
前記供給流路封止弁は、前記加湿器の上流に位置して前記酸化剤ガス供給流路に配置される一方、
前記排出流路封止弁は、前記加湿器の下流に位置して前記酸化剤ガス排出流路に配置されることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池システムにおいて、前記排出流路封止弁は、少なくとも全開状態と、前記カソード側を常圧以上に高め且つ全ての酸素成分を消費させるために必要な流量を維持する微小開度状態とに開度調整可能であり、
前記燃料電池システムは、前記排出流体循環流路に配設される循環流路弁と、
前記循環流路弁が開成された際、前記排出流路封止弁を前記微小開度状態にする制御装置と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、前記燃料ガス供給装置は、前記燃料電池の燃料ガス入口に連通する燃料ガス供給流路を備えるとともに、
前記酸化剤ガス供給流路に、前記供給流路封止弁の下流に位置して分岐流路の一端が連通し、且つ、前記分岐流路の他端が前記燃料ガス供給流路に連通することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、前記酸化剤ガス排出流路には、前記排出流路封止弁の下流に位置してエキスパンダタービンが配設されるとともに、
前記エキスパンダタービンは、前記コンプレッサに連結されて動力伝達可能であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
を備え、
前記酸化剤ガス供給装置は、前記燃料電池の酸化剤ガス入口に連通する酸化剤ガス供給流路と、
前記燃料電池の酸化剤ガス出口に連通する酸化剤ガス排出流路と、
前記酸化剤ガス供給流路に配設されるコンプレッサと、
前記酸化剤ガス供給流路に、前記コンプレッサの下流に位置して配置される供給流路封止弁と、
前記酸化剤ガス排出流路に配設される排出流路封止弁と、
前記酸化剤ガス排出流路に、前記排出流路封止弁よりも上流に位置して連通する一方、前記酸化剤ガス供給流路に、前記コンプレッサよりも上流に位置して連通する排出流体循環流路と、
を備える燃料電池システムの発電停止方法であって、
前記燃料電池の発電停止時に、前記排出流路封止弁の開度を絞ることにより、前記カソード側を常圧以上に高め且つ全ての酸素成分を消費させることを特徴とする燃料電池システムの発電停止方法。
【請求項7】
請求項6記載の発電停止方法において、前記カソード側に前記酸化剤ガス中の窒素成分が充填された後、前記窒素成分を前記燃料ガス供給装置に供給して前記アノード側に充填させることを特徴とする燃料電池システムの発電停止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−221731(P2012−221731A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86128(P2011−86128)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】