説明

燃料電池システム及びその運転方法

【課題】別途の加湿器を設けなくても、起動時に燃料電池スタックの電解質膜を効率的に加湿することができる燃料電池システム及びその運転方法の提供。
【解決手段】燃料電池システムの運転方法は、非発電状態のときに、少なくとも酸化剤極へ改質ガスを供給し、電解質膜を加湿するステップS10と、燃料極よりも酸化剤極が高電位となるように電圧を印加し、酸化剤極側の改質ガス中の水素を、電解質膜を介して燃料極へ移動させるステップS20と、電圧の印加後に酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始するステップS30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及びその運転方法に関するものであり、特に、起動時に燃料電池を加湿するための運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、一般的には原料ガスを改質した改質ガスと酸化剤ガスとを用い、電気化学的な反応により電気を発生させるものである。この種の燃料電池システムは、発電効率が高く、しかも、排出ガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ない。そのため、近年では、発電用電源や低公害の自動車用電源など、種々の用途への利用が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池を用いた燃料電池システムの場合、一般に、プロトン導電性のある高分子電解質膜を備えており、該高分子電解質膜の両主面に対向するようにして、一対の電極を成す燃料極と酸化剤極とが高分子電解質膜を挟んで設けられる。このようにして、高分子電解質膜とこれを挟む一対の電極とによって電極接合体が構成され、該電極接合体をセパレータで挟持して成る単セルが、燃料電池における最小の発電単位となっている。
【0004】
燃料電池システムを発電運転する際には、燃料極へは改質ガス(例えば、水素含有ガス)を供給し、酸化剤極へは酸化剤ガス(例えば、空気)を供給する。すると、燃料極に担持された触媒により、改質ガスが電子及びプロトン(水素イオン)へと変換される。このうち電子は、燃料極から外部へ取り出されて電流となり、外部負荷を経由して再び酸化剤極へ到達する。また、プロトンは、燃料極から高分子電解質膜を通過して酸化剤極へ到達し、上記のように外部負荷を経由して同じく酸化剤極へ到達した電子と反応し、水が生成される。
【0005】
ところで、上記のような燃料電池システムでは、燃料極から酸化剤極への高分子電解質膜を介したプロトンの伝導度を向上させるために、高分子電解質膜を湿潤状態に維持する必要がある。そのため、加湿された改質ガスを燃料極へ供給すると共に、加湿された酸化剤ガスを酸化剤極へ供給することにより、高分子電解質膜を加湿している。このように改質ガス及び酸化剤ガスを加湿するため、加湿器が備えられている。一般的にこの加湿器は、燃料電池から排出される改質ガスのオフガスと酸化剤ガスのオフガスとを反応させて水を生成し、この水を、各電極へ供給される改質ガス及び酸化剤ガスへ供給する。
【0006】
しかしながら、このような加湿器の設置は、燃料電池システムの大型化及び製造コストの上昇を招いてしまい、好ましくない。
【0007】
一方、燃料電池システムにおいて加湿器を備えない場合、起動時に高分子電解質膜を加湿することが困難であり、非常に乾燥した状態で発電運転を開始しなければならない。この場合、低加湿に起因して高分子電解質膜のプロトンの伝導度が低くなるだけでなく、高分子電解質膜の機械劣化及び化学劣化が進行する可能性もある。即ち、上述したように発電時には酸化剤極にて水が生成されるため、高分子電解質膜は、乾燥した状態から急激に加湿状態へと変化する。すると、運転及び停止を繰り返すたび、高分子電解質膜は膨潤と乾燥による収縮とが繰り返されるため、機械劣化の進行が早まる可能性がある。また、低湿度状態ではヒドロキシラジカルの生成が促進されるため、これによる高分子電解質膜の分解といった化学劣化が生じる可能性もある。
【0008】
上記のような事情を鑑みて、様々のシステム構成が提案されている(特許文献1〜4参照)。このうち特許文献1に記載されたシステムでは、起動時に、加湿した原料ガスを用いて燃料電池を加湿する構成を採用している。より具体的には、水蒸気で加湿した原料ガスを、低温状態の改質器を通過させて燃料電池へ供給している。そして、所定量の加湿原料ガスを供給した時点で改質器を昇温することで、原料ガスを改質した水素リッチな改質ガスを燃料電池へ供給するようにしている。
【0009】
特許文献2に記載されたシステムの場合は、停止時に加湿された改質ガスを酸化剤極に封入し、起動時にはこの改質ガスを不活性ガスである原料ガスに置換することとしている。これにより、停止中の電解質膜の乾燥を抑制しつつ、起動時には、改質ガス中の水素と酸化剤ガス中の酸素とが直接的に接触して燃焼が起きるのを防止できるようになっている。
【0010】
また、この他にも、システムの停止時に水を電気分解して生成した水素(パージ用ガス)により酸化剤極を満たすという技術思想(特許文献3)や、システムの停止中に燃料極から電解質膜を介して酸化剤極へ透過した水素を除去するために、起動時に、燃料極に対して酸化剤極が正となるように電圧を印加するという技術思想(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−209362号公報
【特許文献2】特開2003−93115号公報
【特許文献3】特開2002−93448号公報
【特許文献4】特開2009−170388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1のシステムの場合、結果的に加湿器を必要とするものであると共に、低温の原料ガスを加湿するものであるため、原料ガスの含水量を高めることが困難であって、加湿効率を十分に高めることができないと考えられる。
【0013】
また、特許文献2のシステムの場合は、停止中は加湿された改質ガスを封入しているものの、起動時には乾燥した原料ガスが導入されるため、発電開始時に電解質膜が低加湿状態になってしまう。
【0014】
一方、特許文献3に記載されたシステムは、電解質膜を加湿するための技術思想を開示するものではない。しかも、発電開始の時点で供給される酸化剤ガスが、酸化剤極に残存するパージ用ガスである水素と反応して燃焼が生じ、触媒を劣化させる可能性がある。また、特許文献4のシステムも同様に、電解質膜を加湿するための技術思想を開示するものではない。そして、このシステムの場合は、電圧を印加して酸化剤極の水素を除去する際に、酸化剤極に生じる負圧によって、酸化剤極へ外部の空気が浸入してくる可能性がある。
【0015】
本発明は上述したような事情を鑑みてなされたものであり、別途の加湿器を設けなくても、起動時に燃料電池スタックの電解質膜を効率的に加湿することができる燃料電池システム及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る燃料電池システムの運転方法は、電解質膜を挟んで位置する燃料極及び酸化剤極のうち、燃料極へ水素含有の改質ガスを供給し、且つ酸化剤極へ酸化剤ガスを供給することにより、発電を行う燃料電池システムの運転方法であって、非発電状態のときに、少なくとも前記酸化剤極へ改質ガスを供給して前記電解質膜を加湿し、前記燃料極よりも前記酸化剤極が高電位となるように電圧を印加し、前記酸化剤極側の改質ガス中の水素を、前記電解質膜を介して前記燃料極へ移動させ、前記電圧の印加後に前記酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始する。
【0017】
また、本発明に係る燃料電池システムは、原料ガスを水蒸気改質して水素を含有する改質ガスを生成する改質器と、前記改質ガスが供給される燃料極、酸化剤ガスが供給される酸化剤極、並びに、前記燃料極及び前記酸化剤極間に挟まれた電解質膜、を有する燃料電池スタックと、前記燃料極に連通して改質ガスを通す改質ガスラインと、前記酸化剤極に連通して酸化剤ガスを通す酸化剤ガスラインと、前記酸化剤極に連通して改質ガスを通す改質ガス分配ラインと、前記燃料極及び前記酸化剤極間に電圧を印加する電圧印加装置と、非発電状態のときに、前記改質ガス分配ラインを通じて改質ガスを前記酸化剤極へ供給して前記電解質膜を加湿し、前記電圧印加装置により、前記燃料極よりも前記酸化剤極の方が高電位となるように電圧を印加して、改質ガス中の水素を、前記電解質膜を介して前記酸化剤極側から前記燃料極側へ移動させ、前記電圧の印加後に前記酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始するように制御する制御装置と、を備える。
【0018】
このような構成とすることにより、酸化剤極へ加湿ガスを供給するための専用の加湿器を設けなくても、水蒸気改質により加湿された改質ガスを酸化剤極へ供給することで、酸化剤極側から電解質膜を加湿することができる。また、酸化剤極へ供給した改質ガス中の水素は、印加電圧により、電解質膜を介して燃料極へと移動させる。従って、発電開始時に酸化剤極へ供給する酸化剤ガス中の酸素と残留水素とが燃焼して触媒が劣化するのを防止することができる。
【0019】
また、前記制御装置は、前記酸化剤極内のガス圧に応じて、前記改質ガス分配ラインを通じた前記酸化剤極への改質ガスの供給と、前記電圧印加装置による電圧の印加とを制御するように構成されていてもよい。
【0020】
また、前記制御装置は、改質ガスの供給開始後、前記ガス圧が第1閾値以上であることを検知した場合には、改質ガスの供給を中断すると共に前記電圧印加装置を駆動し、前記燃料極よりも前記酸化剤極の方が高電位となるような電圧印加を開始し、電圧印加後、前記ガス圧が第2閾値未満であることを検知した場合には、電圧印加を中断すると共に前記改質ガス分配ラインを通じて前記酸化剤極へ改質ガスを補充するよう構成されていてもよい。
【0021】
また、前記制御装置は、前記ガス圧が前記第1閾値以上であることを検知した場合の電圧印加と、前記ガス圧が第2閾値未満であることを検知した場合の改質ガスの補充とを、繰り返し実行するよう構成されていてもよい。
【0022】
また、前記制御装置は、電圧印加後、前記ガス圧が前記第2閾値以上である状態が所定時間継続した場合に、前記酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始するよう構成されていてもよい。
【0023】
また、前記制御装置は、改質ガスの供給開始後、前記ガス圧が第1閾値以上であることを検知した場合には、改質ガスの供給を中断すると共に前記電圧印加装置を駆動し、前記燃料極よりも前記酸化剤極の方が高電位となるような電圧印加を開始し、電圧印加後、前記酸化剤極内のCO濃度が所定値以上になった場合に、電圧印加を終了すると共に前記酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始するよう構成されていてもよい。
【0024】
また、前記制御装置は、前記酸化剤極への改質ガスの供給を、供給開始から所定時間を経過するまで、又は、前記電解質膜の電気抵抗が所定値以下になるまで継続するように構成されていてもよい。
【0025】
また、前記改質ガスラインは、前記燃料極を経ずに該燃料極の上流位置と下流位置とを接続するバイパスラインを有し、前記制御装置は、前記改質器内が所定温度未満の場合には、改質ガスを前記燃料極へ通さず、前記バイパスラインを通じて前記改質器が有する加熱器へ供給し、前記改質器内が所定温度以上の場合には、改質ガスを前記燃料極へ供給して前記電解質膜を加湿するように構成されていてもよい。
【0026】
また、前記制御装置は、前記改質器内の温度にかかわらず、改質ガスを、前記改質ガス分配ラインを通じて前記酸化剤極へ供給するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る燃料電池システム及びその運転方法によれば、別途の加湿器を設けなくても、起動時に燃料電池スタックの電解質膜を効率的に加湿することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る燃料電池システムの構成を示す模式的なブロック図である。
【図2】図2は、実施の形態1に係る燃料電池システムの運転方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は、実施の形態1に係る燃料電池システムの運転方法を示す他のフローチャートである。
【図4】図4は、実施の形態1に係る燃料電池システムの運転方法を示す更に他のフローチャートである。
【図5】図5は、実施の形態2に係る燃料電池システムの他の運転方法を示すフローチャートである。
【図6】図6は、実施の形態2に係る燃料電池システムの運転方法を示すフローチャートである。
【図7】図7は、実施の形態3に係る燃料電池システムの構成を示す模式的なブロック図である。
【図8】図8は、実施の形態3に係る燃料電池システムの運転方法を示すフローチャートである。
【図9】図9は、実施の形態4に係る燃料電池システムの構成を示す模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池システム及びその運転方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、燃料電池システムは、水素を含む改質ガスと酸化剤ガスとを用いて発電するものであれば特に限定されないが、頻繁に起動及び停止できるもの(例えば、高分子電解質形燃料電池)に対して、本発明を好適に適用することができる。
【0030】
また、燃料電池システムの運転態様としては、定格電位を出力可能な発電状態、全ての機能が停止状態にある停止状態、該停止状態から発電状態へ移行する起動状態、及び発電運転状態から待機状態へ移行させる停止移行状態があり、以下では各状態を区別する。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る燃料電池システム1Aの構成を示す模式的なブロック図である。図1に示すように、この燃料電池システム1Aは、水素を含む改質ガスが供給される燃料極(アノード)3と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸化剤極(カソード)4と、これら燃料極3及び酸化剤極4の間に挟まれた電解質膜5とを有する燃料電池スタック2を備えている。
【0032】
このうち電解質膜5には、イオン導電性を有する高分子膜が用いるが、その種類は特に限定されない。また、燃料極3及び酸化剤極4の夫々は、例えば、白金等の貴金属をカーボン粒子に担持させた触媒を含む触媒層と、カーボンクロス等のガスが拡散可能な多孔質材料から成る拡散層との二層により構成されている。そして、このような電解質膜5を燃料極3及び酸化剤極4で挟み込んだ電極接合体を、更にセパレータにより外側から挟み込むことで、上記燃料電池スタック2が構成されている。
【0033】
また、燃料電池システム1Aは、原料ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する改質器7、該改質器7へ原料ガスを供給する原料供給器8、及び、改質器7へ改質水を供給する改質水供給器9を備えている。
【0034】
改質器7は、改質触媒等を収容する反応容器(図示せず)と、この反応容器を加熱する加熱器7aとを備えている。反応容器は、例えば、改質部、変成部、及びCO除去部を含んで構成される。このうち改質部は、原料ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する。変成部は、改質部にて生成された改質ガスに含まれる一酸化炭素を低減するように処理する。CO除去部は、変成部を通過した改質ガスに含まれる一酸化炭素をさらに低減するように処理する。一方、加熱器7aは、例えば、改質ガスのオフガス又は原料ガス等の燃焼用ガスと空気とを燃焼反応させるバーナ(burner)により構成することができる。なお、この加熱器7aでは、燃料電池スタック2で発電された電力により、着火及び空気の供給等の処理が行われるようになっている。
【0035】
このような構成の改質器7には、原料供給器8から原料ガスラインL1を介して原料ガスが供給され、改質水供給器9から改質水ラインL2を介して改質水が供給される。また、原料ガスラインL1及び改質水ラインL2の夫々には、開閉弁V1,V2が設けられており、原料ガス及び改質水の供給量を調整可能になっている。
【0036】
原料供給器8は、例えば都市ガスインフラ等の原料供給源に接続されており、制御装置11からの制御信号による開閉弁V1の駆動により、原料供給量が調整されながら原料を供給する。また、改質水供給器9は、例えば市水や回収水等を水源とし、制御装置11からの制御信号による開閉弁V2の駆動により、給水量が調整されながら水を供給する。なお、原料供給器8から供給する原料ガスとしては、水蒸気改質により水素含有ガスを生成できるものであればよく、例えば、メタン、エタン、プロパン、又はブタン等を含む天然ガスや、LPガスを採用できる。
【0037】
改質器7は、原料供給器8からの原料ガスと改質水供給器9からの改質水とを用い、水蒸気改質反応により、水素含有ガスから成る改質ガスを生成する。生成された改質ガスは、改質ガスラインL3を介して送出される。なお、開閉弁V1により原料ガスの供給量を調整することにより、改質器7での改質ガスの生成量を適宜調整することができ、開閉弁V2により改質水の供給量を調整することにより、改質ガスの加湿度を適宜調整することができる。
【0038】
改質ガスラインL3は、改質器7から燃料電池スタック2の燃料極3の入口へ至り、更に燃料極3の出口から改質器7の加熱器7aへ至る経路として構成されている。従って、改質器7から送出された改質ガスは燃料極3へ送られ、そこで一部の水素が発電のための反応(H→2H+2e)に使用される。その結果、生成された電子(電流)は図示しない外部負荷へ送られ、発電反応に使用されなかった改質ガス(オフガス)は、改質ガスラインL3を介して改質器7の加熱器7aへ供給される。
【0039】
また、改質ガスラインL3における燃料極3の入口上流位置には、開閉弁V3が設けられている。従って、開閉弁V3の開度を調整することにより、改質ガスの燃料極3への供給量を適宜調整することができる。
【0040】
酸化剤極4には酸化剤ガスラインL4が接続されている。より具体的に説明すると、酸化剤ガスラインL4は、大気開放された上流端から酸化剤極4の入口へ至り、更に酸化剤極4の出口から下流端へと延びている。この酸化剤ガスラインL4における、酸化剤極4の上流位置と下流位置との夫々には、三方弁V4,V5が設けられている。更に、酸化剤ガスラインL4の上流端から三方弁V4へ至る経路の途中にはブロワ13が設けられている。
【0041】
従って、ブロワ13を駆動し、三方弁V4,V5を介して酸化剤ガスラインL4に酸化剤ガスとしての空気を通流させることにより、酸化剤極4へ酸化剤ガスを供給することができる。酸化剤極4へ供給された酸化剤ガスは、その一部が発電のための反応(1/2O+2H+2e→HO)に使用される。そして、この発電反応に使用されなかった酸化剤ガス(オフガス)は、酸化剤ガスラインL4の下流端から本システム1Aの外部へ排出される。
【0042】
また、上述した改質ガスラインL3には、その上流端(改質器7との接続箇所)から開閉弁V3へ至る経路の途中に分岐点が設けられ、該分岐点と上記三方弁V4の残り1ポートとの間は改質ガス分配ラインL5によって接続されている。更に、改質ガスラインL3には、燃料極3の出口から下流端8(加熱器7aとの接続箇所)へ至る経路の途中に分岐点(合流点)が設けられ、該分岐点と上記三方弁V5の残り1ポートとの間は改質ガス回収ラインL6によって接続されている。
【0043】
従って、三方弁V4,V5のポート間の接続態様を適宜調整することにより、酸化剤極4に対し、ブロワ13を介した酸化剤ガスの供給、及び、改質ガス分配ラインL5を介した改質ガスの供給を、択一的に行うことができる。また、酸化剤極4へ改質ガスを供給した場合には、そのオフガスを、改質ガス回収ラインL6を介して加熱器7aへ戻すことができる。
【0044】
なお、図1では各ラインL3〜L6を区別しやすいように、各ラインを示すのに太線と細線とを用いている(後述の図5,7,9も同じ)。具体的には、通常の発電時に使用されるライン、即ち、発電時に改質ガスが通流する改質ガスラインL3と、酸化剤ガスが通流する酸化剤ガスラインL4とを太い実線で示している。そして、その他のライン(本実施の形態1では、改質ガス分配ラインL5及び改質ガス回収ラインL6)は細い実線で示している。
【0045】
本実施の形態に係る燃料電池システム1Aは、上述した構成に加えて更に、電解質膜5の電気抵抗を測定する抵抗測定器20、酸化剤極4内のガス圧を測定するガス圧測定器21、燃料極3及び酸化剤極4の間に電圧を印加する電圧印加装置22、及び、計時手段30aを機能の1つとして有する制御装置30を備えている。
【0046】
抵抗測定器20は、電気抵抗を測定することのできる公知のセンサであり、電解質膜5の両主面(燃料極3に接する主面、及び酸化剤極4に接する主面)間の抵抗値を、本システム1Aの状態(起動状態、発電状態等)に拘わらず、直接的に又は間接的に測定できるようになっている。また、この測定値は、制御装置30へ送信される。
【0047】
ガス圧測定器21は、標準大気圧の前後数kPa(例えば95〜100kPa)を測定範囲に含む、気体の静圧を測定することのできるものであればよく、その測定値は、制御装置30へ送信される。また、ガス圧測定器21は、酸化剤極4内のガス圧を直接的に測定するようにしてもよいが、酸化剤ガスラインL4における酸化剤極4の上流近傍位置を通流するガス圧を測定することで、酸化剤極4内のガス圧を間接的に測定するようにしてもよい。
【0048】
電圧印加装置22は、燃料極3に対して酸化剤極4が高電位となるように所定の電圧を印加するものであり、少なくとも1ボルト程度の電圧を印加できる構成であればよい。
【0049】
制御装置30は、CPU等のプロセッサを用いて構成することができ、機能の1つとして、経過時間を測定する計測手段30aを備えている。また、制御装置30は、上述した各弁V1〜V5の開度調整、加熱器7aの着火、ブロワ13及び電圧印加装置22の動作等を制御し、抵抗測定器20及びガス圧測定器21の測定値を受信することができる。
【0050】
[運転方法1]
次に、上記燃料電池システム1Aの運転方法について説明する。図2は、実施の形態1に係る燃料電池システム1Aの運転方法を示すフローチャートである。なお、このフローチャートに示す処理の実行は、燃料電池システム1Aが非発電状態にあるときに、制御装置30が各部を制御することによって開始される。
【0051】
図2に示すように、非発電状態にある燃料電池システム1Aは、改質器7で生成した改質ガスを燃料極3及び酸化剤極4へ供給し、これらを電解質膜5と共に加湿する(ステップS10)。具体的には、開閉弁V3を開放する一方、三方弁V4,V5を操作して改質ガス分配ラインL5から酸化剤ガスラインL4を経て改質ガス回収ラインL6へ至る経路を連通させる。これにより、改質器7からの改質ガスを、燃料極3及び酸化剤極4へ供給できるため、加湿された改質ガスによって各極3,4及び電解質膜5を加湿することができる。
【0052】
続いて、電圧印加装置22を駆動して、燃料極3よりも酸化剤極4の方が高電位となるように所定の電圧を印加する(ステップS20)。これにより、酸化剤極4内の改質ガスに含まれる水素(より正確には、酸化剤極4でプロトンになった水素イオン)を、電解質膜5を介して燃料極3側へ移動させる。なお、電圧を印加する際には、三方弁V4,V5を操作することにより、酸化剤極4を封止して改質ガスが供給されないようにしておく。
【0053】
このようにして酸化剤極4内の水素を燃料極3へ移動させた後、酸化剤極4への改質ガスの供給を終了し、これに換えて酸化剤ガスを酸化剤極4へ供給する(ステップS30)。具体的には、三方弁V4,V5を操作し、酸化剤ガスラインL4と改質ガス分配ラインL5及び改質ガス回収ラインL6との間を遮断すると共に、酸化剤ガスラインL4の上流端から下流端までを連通状態とする。そして、ブロワ13を駆動して酸化剤ガスラインL4へ酸化剤ガスを通流させる。これにより、燃料極3へは改質ガスが供給され、酸化剤極4へは酸化剤ガスが供給されるため、発電が開始される。
【0054】
以上に説明したような運転方法によれば、加湿された改質ガスを燃料極3及び酸化剤極4の夫々へ直接供給するため、効率的に各極3,4及び電解質膜5を加湿することができる。また、酸化剤極4へ供給された改質ガス中には水素が含まれるが、電圧を印加することにより、発電前に燃料極3側へ移動させるため、発電開始時に供給される酸化剤ガス中の酸素と燃焼するのを防止することができる。
【0055】
[運転方法2]
ここでは、燃料電池システム1Aのより詳細な運転方法について説明する。図3は、実施の形態1に係る燃料電池システム1Aの他の運転方法を示すフローチャートである。なお、図3に示す処理において、図2を用いて説明した処理と同様の内容のものには同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0056】
図3に示すように、非発電状態にある燃料電池システム1Aは、改質器7で生成した改質ガスを燃料極3及び酸化剤極4へ供給し、これらを電解質膜5と共に加湿する(ステップS10)。次に、制御装置30は、酸化剤極4のガス圧が所定の第1閾値PH(例えば、100kPa)以上であるか否かを判定する(ステップS12)。即ち、制御装置30は、ガス圧測定器21から受信した測定値に基づき、この判断を行う。その結果、酸化剤極4のガス圧がPH未満であれば(ステップS12:NO)、改質ガスの供給を継続する。
【0057】
一方、酸化剤極4のガス圧がPH以上であると判断すると(ステップS12:YES)、三方弁V4,V5を操作して酸化剤極4を封止すると共に、電圧印加装置22を駆動し、燃料極3よりも酸化剤極4の方が高電位となるように所定の電圧を印加する(ステップS20)。これにより、酸化剤極4内の水素を、電解質膜5を介して燃料極3へ移動させる。また、この際、水素の移動に伴って、封止された酸化剤極4内の圧力は低下していく。
【0058】
続いて制御装置30は、ガス圧測定器21から受信した測定値に基づき、酸化剤極4内のガス圧が所定の第2閾値PL(例えば、95kPa)以上の状態が所定時間(例えば、10秒間)以上継続したか否かを判断する(ステップS21)。そして、ガス圧がPL以上である状態の継続時間が所定時間未満であったと判断した場合は(ステップS21:NO)、再びステップS10からの処理を繰り返す。即ち、この場合は酸化剤極4内が第2閾値PL未満の負圧の状態であり、この状態のときには改質ガスの供給と、電圧印加による水素の移動とを再度実行する。
【0059】
一方、ガス圧がPL以上である状態の継続時間が所定時間以上になったと判断した場合は(ステップS21:YES)、電圧の印加を停止した上で、三方弁V4,V5を操作しブロワ13を駆動して酸化剤ガスを酸化剤極4へ供給し(ステップS30)、発電を開始する。
【0060】
以上に説明したような運転方法によれば、上記運転方法1の場合と同様に、各極3,4及び電解質膜5の効率的な加湿と、発電開始時における燃焼の防止とを実現することができる。また、これに加えて、発電開始前の酸化剤極4を所定のガス圧の不活性ガスによって満たすことができる。即ち、電圧の印加によって酸化剤極4内の改質ガスに含まれる水素のみを燃料極3へ移動させるため、酸化剤極4内には、改質ガスに含まれる他の成分である不活性ガス(CO)が残留する。そして、上記ステップS10からステップS21までの処理を繰り返すことにより、酸化剤極4内を高密度の不活性ガスで満たすことができる。その結果、発電開始時の燃焼をより確実に防止することができる。
【0061】
[運転方法3]
ここでは、燃料電池システム1Aのより詳細な運転方法について説明する。図4は、実施の形態1に係る燃料電池システム1Aの更に他の運転方法を示すフローチャートである。なお、図4に示す処理において、図2又は図3を用いて説明した処理と同様の内容のものには同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0062】
図4に示すように、この運転方法では、図3に示したステップS10の処理とステップS12の処理との間にステップS11に示す処理を実行する。具体的には、改質ガスを燃料極3及び酸化剤極4へ供給しはじめた後に、制御装置30は、抵抗測定器20から受信した測定値に基づいて電解質膜5の電気抵抗が所定値R以下になったか否かを判断する(ステップS11)。即ち、改質ガスの供給によって電解質膜5が加湿されるにつれ、電解質膜5の電気抵抗値は低下するため、この電気抵抗値が発電開始に適した所定値R以下に到達したか否かを判断する。
【0063】
そして、電解質膜5の電気抵抗が所定値Rより大きいと判断した場合は(ステップS11:NO)、改質ガスの供給により引き続き低下する電気抵抗値を測定し、同様の判断を繰り返す。一方、電解質膜5の電気抵抗が所定値R以下と判断した場合は(ステップS11:YES)、上記運転方法2で既に説明したのと同様にして、ステップS12以降の処理を実行する。
【0064】
以上に説明した運転方法によれば、上記運転方法1,2の場合と同様の作用効果を奏することができるのに加え、発電開始時(ステップS30)の電解質膜5を、確実に発電開始に適した電気抵抗値とすることができる。
【0065】
なお、図4のステップS11に示すように、ステップS12へ以降するタイミングを測る判断基準を、電解質膜5の電気抵抗値に換えて、酸化剤極4への改質ガスの供給開始時点からの経過時間に基づいて判断するようにしてもよい。この場合は、酸化剤極4への改質ガスの供給時間として、実質的に電解質膜5の電気抵抗が所定値R以下となるのに必要な所定時間を設定しておき、この所定時間を経過したか否かに基づき、ステップS12へ以降するタイミングを判断するようにすればよい。
【0066】
更に、電解質膜5の電気抵抗値と電解質膜5の湿度との間には相関関係がある。従って、ステップS11での判断基準を、電解質膜5の電気抵抗値に替えて露点にしてもよい。この場合、例えば改質ガスラインL3における燃料電池スタック2の下流位置に露点計(図示せず)を設けておき、露点計の測定値を制御装置30へ送信するようにしておく。そして、制御装置30が、露点計から受信した測定値
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2に係る燃料電池システム1Bの構成を示す模式的なブロック図である。以下、本実施の形態2に係る燃料電池システム1Bについて、上述した燃料電池システム1Aと同様の構成部分については同一符号を付してその詳細説明は省略し、異なる構成について主に説明する。
【0067】
図5に示す燃料電池システム1Bは、既に説明した燃料電池システム1Aに対して、酸化剤極4内の二酸化炭素濃度を測定することのできるCO濃度測定器23を更に備えた構成になっている。このCO濃度測定器23は、例えばCOガスによる赤外線の減衰量から濃度を測定するものなど、公知の原理を用いた測定器を採用することができる。また、測定値は制御装置30へ送信されるようになっている。
【0068】
[運転方法4]
次に、燃料電池システム1Bの運転方法について説明する。図6は、実施の形態2に係る燃料電池システム1Bの運転方法を示すフローチャートである。なお、図6を見れば分かるように、この運転方法で実行する処理は、図4に示した運転方法3で実行する処理のうち、ステップS21の処理をステップS22に示す処理に置き換えたものとなっている。従って以下では、図6に示す処理において、図4を用いて説明した処理と同様の内容のものには同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0069】
図6に示す運転方法の場合、制御装置30は、図4に示した処理と同様に、改質ガスの各極3,4への供給による加湿(ステップS10)、電解質膜5の電気抵抗値に基づく判定処理(ステップS11)、酸化剤極4のガス圧に基づく判定処理(ステップS12)を行う。そして、酸化剤極4のガス圧がPH以上であれば、三方弁V4,V5を操作して酸化剤極4を封止した状態で各極3,4間に電圧を印加する(ステップS20)。
【0070】
制御装置30は、電圧印加を開始した後、CO濃度測定器23から受信した測定値に基づき、CO濃度が所定値D以上になったか否かを判断する(ステップS22)。即ち、各極3,4間に電圧を印加することにより、酸化剤極4内の水素が燃料極3へ移動するため、酸化剤極4内の改質ガス中のCO濃度が次第に高くなっていく。従って、制御装置30は、この高くなっていくCO濃度が所定値D以上になったか否かを継続的に判断する。その結果、CO濃度が所定値D以上になると(ステップS22:YES)、電圧の印加を停止した上で、三方弁V4,V5を操作しブロワ13を駆動して酸化剤ガスを酸化剤極4へ供給し(ステップS30)、発電を開始する。
【0071】
以上に説明したような運転方法によれば、上記運転方法3の場合と同様に、各極3,4及び電解質膜5の効率的な加湿と、発電開始時における燃焼の防止とを実現することができる。また、発電開始前の酸化剤極4を不活性ガスで満たし、発電開始時に供給される酸化ガスと残留水素との燃焼反応を防止することができる。特に、本運転方法4では、酸化剤極4内の不活性ガスである残留CO濃度を測定することにより、上記燃焼反応をより確実に防止することができる。
【0072】
なお、この運転方法4を実行するに際し、図4のステップS21の処理を組み合わせることとしてもよい。例えば、各極3,4間へ電圧印加を開始(ステップS20)した後、酸化剤極4のガス圧がPL以上の状態が所定時間以上継続したか否かを判定する(図4のステップS21参照)。ここで判定結果が「NO」であればステップS10からの処理を繰り返し、「YES」であればCO濃度に基づく判定処理(ステップS22)を実行するようにしてもよい。
【0073】
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3に係る燃料電池システム1Cの構成を示す模式的なブロック図である。以下、本実施の形態3に係る燃料電池システム1Cについて、上述した燃料電池システム1A,1Bと同様の構成部分については同一符号を付してその詳細説明は省略し、異なる構成について主に説明する。
【0074】
図7に示す燃料電池システム1Cは、既に説明した燃料電池システム1Bに対して、改質ガスラインL3に燃料極3を迂回して改質ガスを通流させる改質ガスバイパスラインL7を設けた構成になっている。より具体的には、改質ガスラインL3と改質ガス分配ラインL5との分岐点から燃料極3の入口へ至る間に、図1に示す開閉弁V3に替えて三方弁V6が設けられている。また、燃料極3の出口から、改質ガスラインL3と改質ガス回収ラインL6との分岐点(合流点)へ至る間には、別の三方弁V7が設けられている。このように、燃料極3の上流位置と下流位置との夫々に三方弁V6,V7が設けられており、これら三方弁V6,V7を接続するように改質ガスバイパスラインL7が設けられている。
【0075】
従って、三方弁V6,V7の連通方向を調整することにより、改質ガスを燃料極3へ供給する状態と、改質ガスを燃料極3へ供給せずに改質ガスバイパスラインL7を介して加熱器7aへ供給する状態とで、切り換えることができる。
【0076】
更に、図7の燃料電池システム1Cは、改質器7(正確には、その反応容器)の温度を測定する温度測定器24を備えている。この温度測定器24は、燃料電池システム1Cの状態に拘わらず改質器7の温度を測定することができ、その測定値は制御装置30へ送られるようになっている。
【0077】
次に、燃料電池システム1Cの運転方法について説明する。この運転方法は、基本的には既に説明した運転方法1〜4(図2,3,4,6参照)の何れかと同じであるが、各運転方法に含まれるステップS10の加湿処理について、その詳細例を開示するものである。図8は、実施の形態3に係る燃料電池システム1Cの運転方法を示すフローチャートであり、(a)は、運転方法1〜4にて実行するステップS10の処理例の詳細を、(b)は別の処理例の詳細を示している。
【0078】
[運転方法5]
まず、図8(a)に示す加湿処理について説明する。ここでは、はじめに制御装置30が三方弁V6,V7及び三方弁V4,V5を操作して、改質器7と燃料極3及び酸化剤極4との間を遮断する(ステップS10−1)。即ち、三方弁V6,V7を操作して、改質ガスラインL3を改質ガスバイパスラインL7に連通させことにより、燃料極3を封止して改質器7から遮断する。また、三方弁V4,V5を操作して、改質ガス分配ラインL5及び酸化剤ガスラインL4間を遮断すると共に、改質ガス回収ラインL6及び酸化剤ガスラインL4間を遮断することにより、酸化剤極4を改質器7から遮断する。
【0079】
この状態で改質器7を作動する(ステップS10−2)。即ち、加熱器7aを着火すると共に、原料供給器8及び改質水供給器9から原料ガス及び水を改質器7へ供給する。これにより、改質器7が低温の状態のときに生成した改質ガスは、燃料極3及び酸化剤極4へ供給されず、加熱器7aへ供給される。低温の改質器7で生成される改質ガスには、一酸化炭素(CO)が高濃度で含まれるため、上記のようにすることにより、COによる各極3,4の触媒が被毒するのを防止することができる。一方、改質器7を継続的に運転することにより、改質器7の温度は次第に上昇し、改質ガス中のCOの濃度は低くなっていく。
【0080】
次に、制御装置30は、温度測定器24から受信した測定値に基づいて、改質器7の改質部が所定温度(例えば、500度)以上になったか否かを判断する(ステップS10−3)。なお、この所定温度としては、改質器7で生成される改質ガス中に含まれるCO濃度が、燃料電池スタック2の触媒被毒の観点で支障がない程度となる温度を適宜設定することができる。そして、そのようなCO濃度としては、一例として20ppm以下の値を採用することができる。
【0081】
改質器7が所定温度未満であると判断した場合(ステップS10−3:NO)はこの判断処理を繰り返し実行し、所定温度以上になったと判断した場合(ステップS10−3:YES)は、改質器7と燃料極3及び酸化剤極4との間を開放し、改質ガスを燃料極3及び酸化剤極4へ供給する(ステップS10−4)。これにより、燃料電池スタック2の加湿が開始される。
【0082】
即ち、制御装置30は、三方弁V6,V7を操作して改質ガスバイパスラインL7を遮断し、改質ガスが改質ガスラインL3を通じて燃料極3へ供給されるようにする。また、三方弁V4,V5を操作し、改質ガス分配ラインL5及び酸化剤ガスラインL4間を開放すると共に、改質ガス回収ラインL6及び酸化剤ガスラインL4間も開放し、酸化剤極4へ改質ガスが供給されるようにする。
【0083】
以上に説明したような運転方法によれば、低温の改質ガス中のCOによる触媒の被毒を防止しつつ、CO濃度が低下した加湿改質ガスを燃料極3及び酸化剤極4へ供給でき、燃料電池スタック2を加湿することができる。
【0084】
[運転方法6]
次に、図8(b)に示す加湿処理について説明する。ここでは、はじめに制御装置30が三方弁V6,V7を操作して、改質器7と燃料極3との間を遮断する(ステップS10−5)。なお、図8(a)の場合と異なり、改質器7と酸化剤極4との間は連通状態としておく。そして、この状態で改質器7を作動する(ステップS10−6)。その結果、低温の改質ガスは酸化剤極4へのみ供給され、燃料極3へは供給されない。
【0085】
制御装置30は、運転の継続に伴って上昇する改質器7の温度を、温度測定器24から取得し、改質器7が所定温度以上になったか否かを判断する(ステップS10−7)。そして、改質器7が所定温度未満であると判断した場合(ステップS10−7:NO)はこの判断処理を繰り返し実行し、所定温度以上になったと判断した場合(ステップS10−7:YES)は、三方弁V6,V7を操作して改質器7と燃料極3との間を開放し、改質ガスを燃料極3へも供給する(ステップS10−8)。
【0086】
以上に説明したような運転方法によれば、早期に改質ガスを酸化剤極4へ供給できるため、酸化剤極4及び電解質膜5の加湿を効率的に行うことができる。また、低温の改質ガス中のCOによる燃料極3側の触媒被毒を防止することができる。なお、酸化剤極4側の触媒は、低温の改質ガス中のCOにより被毒されるが、発電開始後に供給される酸化剤ガス中の酸素によってCOはCO2に変わるため、被毒の拡大を抑制することができる。
【0087】
なお、図8(a),(b)の各ステップS10−3,S10−6では、改質器7の温度に基づいて判定処理を行う態様を例示したが、これに替えて、改質ガス中のCO濃度に基づいて判定処理を行う態様を採用してもよい。この場合、改質器7又は改質ガスラインL3の適所にCO濃度測定器(図示せず)を設け、その測定値を制御装置30が取得するようにする。そして、測定値が所定値(例えば、20ppm)未満になったことを検知した場合には、次の処理へ移行するようにすればよい。
【0088】
(実施の形態4)
図9は、本発明の実施の形態4に係る燃料電池システム1Dの構成を示す模式的なブロック図である。以下、本実施の形態4に係る燃料電池システム1Dについて、上述した燃料電池システム1A〜1Cと同様の構成については同一符号を付してその詳細説明は省略し、異なる構成について主に説明する。
【0089】
図9に示す燃料電池システム1Dは、燃料電池システム1A(図1参照)から改質ガス分配ラインL5を除外する一方、改質器7と三方弁V4との間を接続する改質ガス分配ラインL8を、改質ガスラインL3とは別個に設けた構成となっている。
【0090】
このような構成とすることにより、燃料極3及び酸化剤極4への改質ガスの供給量を互いに独立して調整することができる。また、例えばシステムの停止時に、三方弁V4を通じて酸化剤ガスが燃料極3側へ漏洩するのを防止することができる。また、この燃料電池システム1Dの運転方法としては、例えば、燃料電池システム1Aと同様の運転方法1〜3を採用することができる。
【0091】
なお、燃料電池システム1B,1Cについても、改質ガス分配ラインL5を除外する一方、改質器7と三方弁V4との間を接続する改質ガス分配ラインL8を、改質ガスラインL3とは別個に設けた構成とすることができる。そしてその場合、本実施の形態4に係る燃料電池システム1Dと同様の上記作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、別途の加湿器を設けなくても、起動時に燃料電池スタックの電解質膜を効率的に加湿することができる燃料電池システム及びその運転方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1A〜1D 燃料電池システム
2 燃料電池スタック
3 燃料極
4 酸化剤極
5 電解質膜
7 改質器
8 原料供給器
9 改質水供給器
20 抵抗測定器
21 ガス圧測定器
22 電圧印加装置
23 CO濃度測定器
24 温度測定器
30 制御装置
L3 改質ガスライン
L4 酸化剤ガスライン
L5 改質ガス分配ライン
L6 改質ガス回収ライン
L7 改質ガスバイパスライン
L8 改質ガス分配ライン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜を挟んで位置する燃料極及び酸化剤極のうち、燃料極へ水素含有の改質ガスを供給し、且つ酸化剤極へ酸化剤ガスを供給することにより、発電を行う燃料電池システムの運転方法であって、
非発電状態のときに、少なくとも前記酸化剤極へ改質ガスを供給して前記電解質膜を加湿し、
前記燃料極よりも前記酸化剤極が高電位となるように電圧を印加し、前記酸化剤極側の改質ガス中の水素を、前記電解質膜を介して前記燃料極へ移動させ、
前記電圧の印加後に前記酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始する、
燃料電池システムの運転方法。
【請求項2】
原料ガスを水蒸気改質して水素を含有する改質ガスを生成する改質器と、
前記改質ガスが供給される燃料極、酸化剤ガスが供給される酸化剤極、並びに、前記燃料極及び前記酸化剤極間に挟まれた電解質膜、を有する燃料電池スタックと、
前記燃料極に連通して改質ガスを通す改質ガスラインと、
前記酸化剤極に連通して酸化剤ガスを通す酸化剤ガスラインと、
前記酸化剤極に連通して改質ガスを通す改質ガス分配ラインと、
前記燃料極及び前記酸化剤極間に電圧を印加する電圧印加装置と、
非発電状態のときに、前記改質ガス分配ラインを通じて改質ガスを前記酸化剤極へ供給して前記電解質膜を加湿し、
前記電圧印加装置により、前記燃料極よりも前記酸化剤極の方が高電位となるように電圧を印加して、改質ガス中の水素を、前記電解質膜を介して前記酸化剤極側から前記燃料極側へ移動させ、
前記電圧の印加後に前記酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始するように制御する制御装置と、
を備える燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記酸化剤極内のガス圧に応じて、前記改質ガス分配ラインを通じた前記酸化剤極への改質ガスの供給と、前記電圧印加装置による電圧の印加とを制御するように構成されている、請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御装置は、
改質ガスの供給開始後、前記ガス圧が第1閾値以上であることを検知した場合には、改質ガスの供給を中断すると共に前記電圧印加装置を駆動し、前記燃料極よりも前記酸化剤極の方が高電位となるような電圧印加を開始し、
電圧印加後、前記ガス圧が第2閾値未満であることを検知した場合には、電圧印加を中断すると共に前記改質ガス分配ラインを通じて前記酸化剤極へ改質ガスを補充する
よう構成されている、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記ガス圧が前記第1閾値以上であることを検知した場合の電圧印加と、前記ガス圧が第2閾値未満であることを検知した場合の改質ガスの補充とを、繰り返し実行するよう構成されている、請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御装置は、電圧印加後、前記ガス圧が前記第2閾値以上である状態が所定時間継続した場合に、前記酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始するよう構成されている、請求項3乃至5の何れかに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御装置は、
改質ガスの供給開始後、前記ガス圧が第1閾値以上であることを検知した場合には、改質ガスの供給を中断すると共に前記電圧印加装置を駆動し、前記燃料極よりも前記酸化剤極の方が高電位となるような電圧印加を開始し、
電圧印加後、前記酸化剤極内のCO濃度が所定値以上になった場合に、電圧印加を終了すると共に前記酸化剤極へ酸化剤ガスを供給して発電を開始するよう構成されている、請求項3乃至5の何れかに記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記酸化剤極への改質ガスの供給を、供給開始から所定時間を経過するまで、又は、前記電解質膜の電気抵抗が所定値以下になるまで継続するように構成されている、請求項2乃至7の何れかに記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記改質ガスラインは、前記燃料極を経ずに該燃料極の上流位置と下流位置とを接続するバイパスラインを有し、
前記制御装置は、
前記改質器内が所定温度未満の場合には、改質ガスを前記燃料極へ通さず、前記バイパスラインを通じて前記改質器が有する加熱器へ供給し、
前記改質器内が所定温度以上の場合には、改質ガスを前記燃料極へ供給して前記電解質膜を加湿するように構成されている
請求項2乃至8の何れかに記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記改質器内の温度にかかわらず、改質ガスを、前記改質ガス分配ラインを通じて前記酸化剤極へ供給するように構成されている、請求項9に記載の燃料電池システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−248322(P2012−248322A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117162(P2011−117162)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】