説明

燃料電池システム,負電圧要因の特定方法及びプログラム

【課題】燃料電池の電圧が負電圧である場合に、負電圧の要因を正確に特定する。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、燃料電池を流れる電流を調整する電流調整部と、電流調整部を制御して電流を変化させて電流値と電圧測定部により測定された電圧値との対応関係を示す情報であるI−V特性情報を取得するI−V特性情報取得部と、燃料電池が負電圧である場合に、取得されたI−V特性情報に基づき、燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定する負電圧要因特定部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特にセル電圧の低下に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池として、電解質膜の両面に触媒電極層を配置した膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)を備え、燃料ガス(例えば、水素ガス)と、酸化剤ガス(例えば、空気)とを用いた電気化学反応により発電を行う燃料電池が用いられている。このような燃料電池において、燃料ガス不足や酸化剤ガス不足に起因して燃料電池の電圧(カソード及びアノードの電位差:以下、「セル電圧」と呼ぶ)が低下して負電圧になることが知られている。セル電圧が負電圧になると、触媒層を形成する部材(例えば、白金(Pt)触媒や、カーボン)の劣化等により、発電性能の著しい劣化が生じ得る。それゆえ、負電圧解消のための対処が求められるが、負電圧の要因に応じて対処が異なるので、負電圧の要因を特定したいという要請があった。そこで、燃料電池の掃引電流をステップ状に急増させてセル電圧の低下速度を測定し、このセル電圧の低下速度に基づき負電圧要因を特定する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−130443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したセル電圧の低下速度に基づき負電圧要因を特定する技術では、燃料ガス不足の場合と酸化剤ガス不足の場合とでセル電圧の低下速度の差が小さいため、負電圧要因を正確に特定するのが困難であるという問題があった。加えて、負電圧要因としては、燃料ガス不足及び酸化剤ガス不足に加えて、ドライアップによる電解質膜の抵抗値の増大(抵抗過電圧の増大)が想定されるが、上述したセル電圧の低下速度に基づき負電圧要因を特定する技術では、このドライアップをセル電圧低下要因として特定することができない。
【0005】
本発明は、燃料電池の電圧が負電圧である場合に、負電圧の要因を正確に特定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、
前記燃料電池を流れる電流を調整する電流調整部と、
前記電流調整部を制御して前記電流を変化させ、電流値と前記電圧測定部により測定された電圧値との対応関係を示す情報であるI−V特性情報を取得するI−V特性情報取得部と、
前記燃料電池の電圧が負電圧である場合に、前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定する負電圧要因特定部と、
を備える、燃料電池システム。
【0008】
適用例1の燃料電池システムでは、電流を変化させて電圧を測定してI−V特性情報を取得し、得られたI−V特性情報に基づき燃料電池が負電圧である要因を特定するので、負電圧要因を正確に特定することができる。また、I−V特性情報に基づくことで、水素欠乏及び酸素欠乏に加えて、ドライアップを要因として特定することができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記負電圧要因特定部は、前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因が、水素欠乏であるか又は水素欠乏を除く他の要因であるか、を切り分ける、燃料電池システム。
【0010】
このような構成により、燃料電池の電圧が負電圧である要因が、水素欠乏であるか又は他の要因であるか、を切り分けられるので、水素欠乏が要因であると特定された場合に、適切な対処を行うことができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記I−V特性情報取得部は、前記I−V特性情報を取得する際に、前記電流を所定の正の電流値範囲で変化させて電圧値を取得し、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記負電圧要因特定部は、前記電流が0の場合の電圧値であるゼロ電流時電圧値を、得られた前記I−V特性情報に基づき外挿により求め、前記ゼロ電流時電圧値が0V未満である場合に前記要因は水素欠乏であると特定し、前記ゼロ電流時電圧値が0V以上、かつ、通常時における前記燃料電池の開回路電圧未満である場合に前記要因は酸素欠乏であると特定し、前記ゼロ電流時電圧値が前記開回路電圧以上である場合に前記要因はドライアップであると特定する、燃料電池システム。
【0012】
このような構成により、燃料電池の負電圧要因として、水素欠乏と酸素欠乏とドライアップとを、正確に特定することができる。また、電流値範囲の上限が同じ電流値であり、下限値が0(ゼロ)である構成に比べて、電流値範囲を狭くできるので、I−V特性情報の取得に要する期間を短くすることができる。したがって、負電圧要因を特定するまでに要する期間を短くすることができる。
【0013】
[適用例4]適用例3に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、触媒層と、前記触媒層に前記酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給流路とを有し、
前記負電圧要因特定部は、前記ゼロ電流時電圧値が0Vである場合に、前記要因は前記酸化剤ガス供給流路の閉塞による酸素欠乏であると特定し、前記ゼロ電流時電圧値が0Vよりも大きく、かつ、前記開回路電圧未満である場合に、前記要因は前記触媒層付近での酸素欠乏であると特定する、燃料電池システム。
【0014】
このような構成により、負電圧要因が酸素欠乏の場合に、酸素欠乏の原因を特定することができる。したがって、酸素欠乏の原因に応じた適切な対処を選択して実行することができる。
【0015】
[適用例5]適用例3または適用例4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記所定の正の電流値範囲の下限値は、前記要因が酸素欠乏又はドライアップである場合における前記電流値の変化に対する前記電圧値の変化を示すdV/dIの変曲点の電流値よりも大きな値である、燃料電池システム。
【0016】
このような構成により、外挿により求めるゼロ電流時電圧を、負電圧要因に応じて適切な電圧範囲となるように制御することができる。したがって、ゼロ電流時電圧に基づきより正確に負電圧要因を特定することができる。
【0017】
[適用例6]適用例1または適用例2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記負電圧要因特定部は、前記電流値の変化に対する前記電圧値の変化を示すdV/dIを前記I−V特性情報に基づき求め、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲が無い場合には前記要因は水素欠乏であると特定し、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲を有し、かつ、前記dV/dIの変曲点の電圧値が0V未満である場合に前記要因は酸素欠乏であると特定し、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲を有し、かつ、前記変曲点の電圧値が0V以上である場合に前記要因はドライアップであると特定する、燃料電池システム。
【0018】
このような構成により、燃料電池の負電圧要因として、水素欠乏と酸素欠乏とドライアップとを、正確に特定することができる。
【0019】
[適用例7]適用例1または適用例2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記燃料電池は、触媒層と、前記触媒層に前記酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給流路と、を有し、
前記負電圧要因特定部は、前記電流値の変化に対する前記電圧値の変化を示すdV/dIを前記I−V特性情報に基づき求め、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲がない場合には前記要因は水素欠乏であると特定し、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲を有し、かつ、前記dV/dIの変曲点がない場合に前記要因は前記酸化剤ガス供給流路の閉塞による酸素欠乏であると特定し、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲を有し、かつ、前記dV/dIの変曲点がある場合に前記要因は前記触媒層付近での酸素欠乏であると特定する、燃料電池システム。
【0020】
このような構成により、負電圧要因が酸素欠乏の場合に、酸素欠乏の原因を特定することができる。したがって、酸素欠乏の原因に応じた適切な対処を選択して実行することができる。
【0021】
[適用例8]適用例4または適用例7に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
前記要因が前記酸化剤ガス供給流路の閉塞による酸素欠乏であると特定された場合に、前記燃料電池の温度を0℃以上に調整する温度調整部と、
前記要因が前記酸化剤ガス供給流路の閉塞による酸素欠乏であると特定され、かつ、前記燃料電池の温度が0℃以上に調整されている状態において、前記燃料電池への前記酸化剤ガスの供給量を増加させる酸化剤ガス供給部と、
を備える、燃料電池システム。
【0022】
このような構成により、酸化剤ガス供給流路の閉塞が燃料電池の発電により生じた水(生成水)の貯留に起因する場合に、燃料電池の温度を0℃以上とすることで、飽和水蒸気圧を高めて貯留している生成水を排出し易くできる。加えて、0℃以上となり生成水が排出し易くなっている状態で酸化剤ガスの供給量を増加させるので、酸化剤ガス供給流路から生成水を容易に排出させることができ、酸素欠乏を解消させることができる。
【0023】
[適用例9]適用例8に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
前記酸化剤ガス供給部により前記酸化剤ガスの供給量が増加された後において、前記電圧値が負電圧である場合に、前記燃料電池システムが異常であると検出する異常検出部を備える、燃料電池システム。
【0024】
このような構成により、酸化剤ガス供給流路の閉塞が生成水以外の要因で起こっている場合に、燃料電池システムが異常であると検出することができる。したがって、例えば、異常の検出に応じて適切な対処(例えば、管理者に対する通知やログの記録)を実行することができる。
【0025】
[適用例10]適用例3ないし適用例7のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
前記要因が酸素欠乏であると特定された場合に、前記燃料電池への前記酸化剤ガスの供給量を増加させる酸化剤ガス供給部と、
前記要因が水素欠乏であると特定された場合に、前記燃料電池への前記燃料ガスの供給量を増加させる燃料ガス供給部と、
前記要因がドライアップであると特定された場合に、前記燃料電池を加湿する加湿部と、
を備える、燃料電池システム。
【0026】
このような構成により、負電圧要因に応じて適切な対処を実行することができる。したがって、負電圧を早期に解消でき、触媒層を形成する部材の劣化など負電圧に起因する不具合の発生を抑制できる。
【0027】
[適用例11] 燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定するための方法であって、
(a)前記燃料電池を流れる電流を変化させると共に前記燃料電池の電圧を測定し、電流値と電圧値との対応関係を示す情報であるI−V特性情報を取得する工程と、
(b)前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定する工程と、
を備える、方法。
【0028】
適用例11の方法では、電流を変化させて電圧を測定してI−V特性情報を取得し、得られたI−V特性情報に基づき燃料電池が負電圧である要因を特定するので、負電圧要因を正確に特定することができる。また、I−V特性情報に基づくことで、水素欠乏及び酸素欠乏に加えて、ドライアップを要因として特定することができる。
【0029】
[適用例12]適用例11に記載の方法において、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記工程(b)において、前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因が、水素欠乏であるか又は水素欠乏を除く他の要因であるか、を切り分ける、方法。
【0030】
このような構成により、燃料電池の電圧が負電圧である要因が、水素欠乏であるか又は他の要因であるか、を切り分けられるので、水素欠乏が要因であると特定された場合に、適切な対処を行うことができる。
【0031】
[適用例13]燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定するためのプログラムであって、
前記燃料電池を流れる電流を変化させると共に前記燃料電池の電圧を測定し、電流値と電圧値との対応関係を示す情報であるI−V特性情報を取得する機能と、
前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定する機能と、
をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【0032】
適用例13のプログラムでは、電流を変化させて電圧を測定してI−V特性情報を取得し、得られたI−V特性情報に基づき燃料電池が負電圧である要因を特定するので、負電圧要因を正確に特定することができる。また、I−V特性情報に基づくことで、水素欠乏及び酸素欠乏に加えて、ドライアップを要因として特定することができる。
【0033】
[適用例14]請求項13に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【0034】
このような構成により、かかる記録媒体を用いてコンピュータにプログラムを読み取らせ、各機能を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】第1実施例における負電圧要因特定処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】ステップS105により得られたI−V特性を示す説明図である。
【図4】正常時におけるI−V特性曲線が導かれる理由を模式的に示す説明図である。
【図5】水素欠乏状態におけるI−V特性曲線が導かれる理由を模式的に示す説明図である。
【図6】酸素欠乏状態におけるI−V特性曲線が導かれる理由を模式的に示す説明図である。
【図7】ドライアップ状態におけるI−V特性曲線が導かれる理由を模式的に示す説明図である。
【図8】第1実施例におけるセル電圧回復処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】第2実施例における負電圧要因特定処理の手順を示すフローチャートである。
【図10】ステップS310により求められるゼロ電流時電圧値の一例を示す説明図である。
【図11】直線近似により得られる直線が存在し得る領域を各負電圧要因ごとに示す説明図である。
【図12】第3実施例における負電圧要因特定処理の手順を示すフローチャートである。
【図13】流路閉塞による酸素欠乏状態においてステップS105により得られるI−V特性曲線を示す説明図である。
【図14】触媒層付近における酸素欠乏状態においてステップS105により得られるI−V特性曲線を示す説明図である。
【図15】第3実施例におけるセル電圧回復処理の手順を示すフローチャートである。
【図16】第4実施例における負電圧要因特定処理の手順を示すフローチャートである。
【図17】第4実施例においてステップS310により求められるゼロ電流時電圧値の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
A.第1実施例:
A1.システム構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。本実施例において、燃料電池システム100は、駆動用電源を供給するためのシステムとして、電気自動車に搭載されて用いられる。燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、水素タンク61と、遮断弁71と、調圧弁72と、第1循環ポンプ62と、エアコンプレッサ65と、加湿器66と、ラジエータ30と、第2循環ポンプ31と、温度センサ63と、セルモニタ40と、電流センサ41と、DC−DCコンバータ51と、二次電池52と、インバータ50と、制御ユニット90と、燃料ガス供給流路81と、燃料ガス排出流路82と、バイパス流路83と、酸化剤ガス供給流路87と、酸化剤ガス排出流路88と、冷却媒体供給流路84と、冷却媒体排出流路85とを備えている。
【0037】
燃料電池スタック10は、固体高分子型燃料電池である単セル20が複数積層された構成を有し、燃料ガスとしての純水素と、酸化剤ガスとしての空気中の酸素が、各電極において電気化学反応を起こすことによって起電力を得るものである。単セル20は、図示しないMEAの両面を2つのガス拡散層で挟み、さらにMEA及びガス拡散層を2つのセパレータで挟んだ構造を有している。積層された単セル20の両端には、総合電極としての2つのターミナルプレート111が配置されている。
【0038】
水素タンク61は、高圧水素ガスを貯蔵しており、燃料ガス供給流路81を介して燃料電池スタック10に燃料ガスとしての水素ガスを供給する。水素タンク61としては、例えば、水素吸蔵合金を内部に備え、水素吸蔵合金に吸蔵させることによって水素を貯蔵するタンクを用いても良い。
【0039】
遮断弁71は、水素タンク61の図示しない水素ガス排出口に配置されており、水素ガスの供給及び停止を行う。調圧弁72は、燃料ガス供給流路81に配置されており、水素タンク61から排出された高圧水素ガスを、所定の圧力まで低下させる。第1循環ポンプ62は、バイパス流路83に配置され、燃料ガス排出流路82を介して燃料電池スタック10から排出されるアノード側オフガス(電気化学反応に用いられなかった余剰水素ガス)を、燃料ガス供給流路81に供給する。
【0040】
エアコンプレッサ65は、酸化剤ガス供給流路87に配置され、外部から取り込んだ空気を加圧して燃料電池スタック10に供給する。加湿器66は、酸化剤ガス供給流路87及び酸化剤ガス排出流路88に亘って配置され、エアコンプレッサ65から供給される比較的乾いた空気と、酸化剤ガス排出流路88から排出される比較的湿ったガス(生成水を含むカソード側オフガス)との間で水分交換を行って、燃料電池スタック10に供給される空気を加湿する。
【0041】
ラジエータ30は、冷却媒体供給流路84及び冷却媒体排出流路85に接続されており、燃料電池スタック10から排出される冷却媒体(冷却水や空気など)と外気との間で熱交換を行い、熱交換後の冷却媒体を、冷却媒体供給流路84を介して燃料電池スタック10に供給する。第2循環ポンプ31は、冷却媒体排出流路85に配置されており、燃料電池スタック10から排出された冷却媒体をラジエータ30に供給する。温度センサ63は、第2循環ポンプ31に配置されており、燃料電池スタック10から排出される冷却媒体の温度を測定する。燃料電池システム100では、この温度センサ63により測定される温度を、燃料電池スタック10の温度として用いる。
【0042】
セルモニタ40は、各単セル20と接続されており、各単セル20のセル電圧(カソード及びアノード電極の電位差)を測定する。電流センサ41は、燃料電池スタック10と直列接続されており、燃料電池スタック10を流れる電流値を測定する。DC−DCコンバータ51は、燃料電池スタック10及び二次電池52と並列接続されており、二次電池52の出力電圧を昇圧してインバータ50に供給し、また、燃料電池スタック10の余剰発電力を蓄電するために、出力電圧を降圧して二次電池52に供給する。インバータ50は、燃料電池スタック10及びDC−DCコンバータ51と並列に接続されており、燃料電池スタック10又はDC−DCコンバータ51から供給される直流電流を、交流電流に変換して負荷L(例えば、車両駆動用モータ)に供給する。
【0043】
制御ユニット90は、エアコンプレッサ65,加湿器66,遮断弁71,調圧弁72,第1循環ポンプ62,第2循環ポンプ31,インバータ50,DC−DCコンバータ51と電気的に接続されており、これらの各要素を制御する。また、制御ユニット90は、温度センサ63と接続されており、温度センサ63において測定された温度を取得する。
【0044】
また、制御ユニット90は、CPU(Central Processing Unit)91と、ROM(Read Only Memory)92と、RAM(Random Access Memory)93とを備えている。ROM92には、燃料電池システム100を制御するための図示しない制御プログラムが格納されており、CPU91は、RAM93を利用しながらこの制御プログラムを実行することにより、電流調整部91a,電圧測定部91b,負電圧要因特定部91c,ガス流量調整部91d,加湿制御部91e,スタック温度調整部91f,及び異常発生通知部91gとして機能する。
【0045】
電流調整部91aは、DC−DCコンバータ51を制御することにより、燃料電池スタック10を流れる電流を調整する。電圧測定部91bは、セルモニタ40から通知される各単セル20の電圧値を取得する。負電圧要因特定部91cは、単セル20が負電圧となった場合に、負電圧の要因を特定する。ガス流量調整部91dは、燃料電池スタック10に供給される水素ガス量及び空気量を調整する。具体的には、ガス流量調整部91dは、遮断弁71及び調圧弁72の開度を調整することにより、燃料電池スタック10に供給される水素ガス量を調整する。また、ガス流量調整部91dは、エアコンプレッサ65の回転数を制御することにより、燃料電池スタック10に供給される空気量を調整する。加湿制御部91eは、加湿器66を制御することにより、燃料電池スタック10に供給される空気の加湿量を調整する。スタック温度調整部91fは、第2循環ポンプ31を制御して冷却媒体供給流路84及び冷却媒体排出流路85を流通する冷却媒体の流量を調整することにより、燃料電池スタック10の温度を調整する。異常発生通知部91gは、燃料電池システム100の異常を検出して通知する。具体的には、異常発生通知部91gは、システム異常を検出すると、図示しない操作パネルに異常発生の旨を表示する。
【0046】
なお、前述のROM92には、正常時における燃料電池スタック10の開回路電圧(負荷Lが接続されていない場合のセル電圧:OCV)の値や、各種しきい値が予め記憶されている。
【0047】
燃料電池システム100では、燃料電池スタック10を構成する各単セル20のセル電圧が負電圧となった場合に、後述する負電圧要因特定処理が実行され、負電圧の要因が特定される。また、燃料電池システム100では、後述するセル電圧回復処理が実行されることにより、特定された負電圧に応じた対処が実行され、セル電圧が負電圧から正電圧に回復する。
【0048】
なお、前述の電圧測定部91bは、請求項における電圧測定部及びI−V特性情報取得部に相当する。また、ガス流量調整部91d及びエアコンプレッサ65は請求項における酸化剤ガス供給部に、ガス流量調整部91d,遮断弁71及び調圧弁72は請求項における燃料ガス供給部に、加湿制御部91e及び加湿器66は請求項における加湿部に、異常発生通知部91gは請求項における異常検出部に、それぞれ相当する。
【0049】
A2.負電圧要因特定処理:
図2は、第1実施例における負電圧要因特定処理の手順を示すフローチャートである。燃料電池システム100では、各単セル20のセル電圧を常時監視しており、いずれかの単セル20のセル電圧が負電圧となった場合に、負電圧要因特定処理が開始される。
【0050】
電流調整部91aは、負電圧を測定した状態における電流値から、電流値が0となるまで電流を減少させ、電圧測定部91bは、各電流値ごとのセル電圧を測定してI−V特性としてRAM93に記憶させる(ステップS105)。このとき、電流調整部91aは、電流を段階的に減少させる、或いは、電流を連続的減少させることができる。電圧測定部91bは、電流が段階的に減少する場合に、各段階ごとに電圧値を取得することができる。また、電圧測定部91bは、電流が連続的に減少する場合に、所定の電流間隔ごとに電圧値を取得することができる。なお、ステップS105で得られる各電流値ごとのセル電圧(I−V特性曲線)は、請求項におけるI−V特性情報に相当する。
【0051】
負電圧要因特定部91cは、ステップS105で得られたI−V特性に基づき、電流変化に対する電圧変化(dV/dI)が一定である電流範囲があるか否かを判定する(ステップS110)。
【0052】
図3は、ステップS105により得られたI−V特性を示す説明図である。図3において、横軸は電流密度(電流)を示し、縦軸は電圧値(セル電圧)を示す。図3において、曲線L0は、正常時(水素ガス及び空気が発電に必要な量以上に供給されて発電している状態)における単セル20のI−V特性曲線を示す。また、動作点p0は、負電圧要因特定処理の開始時点における動作点を示す。曲線L1は、水素ガスが欠乏している状態においてステップS105の処理が実行された場合に得られるI−V特性曲線である。曲線L2は、酸素(空気)が欠乏している状態においてステップS105の処理が実行された場合に得られるI−V特性曲線である。曲線L3は、ドライアップ状態においてステップS105の処理が実行された場合に得られるI−V特性曲線である。
【0053】
図3に示すように、負電圧要因特定処理の開始時における動作点p0の電圧値は負電圧である。水素欠乏状態において電流を減少させていくと、曲線L1に示すように、電圧値は徐々に上昇して、電流=0において電圧値=0となる。このとき、dV/dI(曲線L1の各点における接線の傾き)は連続的に変化し、dV/dIが一定となる電流範囲は存在しない。
【0054】
酸素欠乏状態において電流を減少させていくと、曲線L2に示すように、動作点p0から動作点p1(電流値=I1,電圧値=V1)までは、dV/dIが一定で、電圧値は直線的に上昇する。なお、動作点p1の電圧値V1は負電圧である。そして、動作点p1が変曲点となり、dV/dIが急増し、電圧値は正電圧となる。その後、dV/dIは減少に転じ、曲線L2は曲線L0と一致する。
【0055】
ドライアップ状態において電流を減少させていくと、曲線L2に示すように、動作点p0から動作点p2(電流値=I2,電圧値=V2)までは、dV/dIが一定で、電圧値は直線的に上昇する。なお、動作点p2の電圧値V2は正電圧である。そして、動作点p2が変曲点となり、dV/dIが減少して曲線L0と一致する。
【0056】
したがって、酸素欠乏又はドライアップの場合にはdV/dIが一定である電流範囲が存在し、水素欠乏の場合にはdV/dIが一定である電流範囲が存在しない。このように、負電圧要因に応じてI−V特性曲線が異なる理由について、図4〜図7を用いて説明する。
【0057】
図4は、正常時におけるI−V特性曲線が導かれる理由を模式的に示す説明図である。図5は、水素欠乏状態におけるI−V特性曲線が導かれる理由を模式的に示す説明図である。図6は、酸素欠乏状態におけるI−V特性曲線が導かれる理由を模式的に示す説明図である。図7は、ドライアップ状態におけるI−V特性曲線が導かれる理由を模式的に示す説明図である。
【0058】
図4〜図7において、左上は、アノード側の電極電位と電流密度との関係を示す。また、右上はカソード側の電極電位と電流密度との関係を、右下は単セル20全体としての電流密度とセル電圧との関係を、左下は各電極電位と電流密度との関係に基づくセル電圧の求め方を、それぞれ示す。なお、図4〜図7では、酸化反応により生じる電流をプラスとして、還元反応により生じる電流をマイナスとして、それぞれ便宜上表わしている。
【0059】
図4左上に示すように、正常時においてカソード側では、下記式(1)の反応が起こり、電流(酸化電流)の増大と共に、カソード電位が直線的に上昇する。
【0060】
【数1】

【0061】
図4右上に示すように、正常時においてアノード側では、下記式(2)の反応が起こり、電流(還元電流)の増大と共に、アノード電位が減少する。
【0062】
【数2】

【0063】
図4左下に示すように、カソード及びアノードの電位差がセル電圧となる。なお、図4左下では、還元反応により生じる電流をマイナスからプラスに変換して表わしているが、これは以下の理由による。各図4〜7の左上及び右上では、便宜上、酸化電流をプラス電流に、還元電流をマイナス電流に、それぞれ定めたが、セル電圧を求める場合には、絶対値が同じ電流値におけるカソード電位からアノード電位を減じることで求められるからである。
【0064】
そして、各電流値(電流値の絶対値)における各極の電位差をセル電圧として求めた結果が右下に示すI−V特性曲線(曲線L0)となる。
【0065】
水素欠乏状態においては、図5左上に示すように、アノード側において、上記式(1)の反応に代わって、下記式(3)の反応が起こる。これは、水素不足に起因して式(1)の反応により得られるプロトン量が減少するため、これを補償するように、触媒を構成するカーボンが酸化してプロトンを発生させるためである。
【0066】
【数3】

【0067】
式(3)の反応が起こると、アノード電位は、正常時(式(1)の反応が起こる状態)に比べて高くなる。また、電流の増加に伴うアノード電位の上昇度合いは、徐々に増す。図5右上に示すように、カソード電位は正常時と同じであるので、図5左下に示すようにカソード電位がアノード電位を上回る結果、図5右下に示すように、I−V特性曲線は、電流の上昇と共にセル電圧が負電圧の領域で徐々に減少し、図3の曲線L1と同様な曲線L1aとなる。
【0068】
なお、図5右下に示すように、ひとたび水素欠乏状態となると、電流値が減少して0に近い値となっても水素欠乏は解消されず、I−V特性曲線L1aは、正常時のI−V特性曲線である曲線L0と接することはない。これは、以下の理由による。水素欠乏により触媒(Pt)の酸化が発生すると、酸化物(白金酸化物など)は、水素の酸化反応(式(1)の反応)に不活性となる。それゆえ、電流値が減少して水素の供給量が足りてもプロトンの生成が十分に行われないため、式(3)の反応が起きるからである。
【0069】
酸素欠乏状態においては、図6右上に示すように、カソード側において、上記式(2)の反応に代わって、式(4)の反応が起こる。これは、酸素不足により式(2)の反応によって還元されるプロトン量が減少するため、これを補償するように、式(4)の反応によってプロトンが還元されるためである。
【0070】
【数4】

【0071】
式(4)の反応が起こると、カソード電位は、正常状態に比べて低下して負電位となる。図6左上に示すように、アノード電位は正常時と同じであるので、図6左下に示すようにカソード電位がアノード電位を上回る結果、図6右下に示すように、I−V特性曲線は、電流の上昇と共にセル電圧が負電圧の領域で直線的に減少して直線L2aとなる。
【0072】
なお、図6では、電流(電流密度)が減少して0に近い値であっても酸素欠乏状態である場合の各電極電位及びセル電圧を示している。これは、カソード側(カソード側触媒層)に全く酸素が供給されていない状態を意味する。これに対し、わずかであるが酸素が供給されている状態では、電流が減少していくといずれかの電流値において、酸素欠乏状態が解消される。燃料電池スタック10を流れる電流値が小さければ、その電流を発生させるために必要な酸素量も少なくて済むため、酸素不足は解消されるからである。このように、わずかであるが酸素が供給されている状態では、図6右上の一点鎖線で示す曲線L50のように、電流値が比較的高い状態においては、式(2)の反応が起こり、電流が比較的低い状態においては式(4)の反応が起こる。その結果、図6右下の一点鎖線で示すように、I−V特性曲線は、図3と同じ曲線L2となる。
【0073】
ドライアップ状態においては、図7左上及び右上に示すように、アノード側及びカソード側において、いずれも正常時と同じ反応が起こるが、各曲線・直線の形状が異なる。これは、ドライアップにより電解質膜の抵抗が増加することに起因する。その結果、図7左下に示すように、カソード電位がアノード電位を下回る範囲が存在し、図7右下に示すように、I−V特性曲線は、電流の上昇と共にセル電圧が正電圧から直線的に減少して、負電圧になった後も減少する曲線L3aとなる。
【0074】
なお、図7では、電流(電流密度)が減少して0に近い値であってもドライアップ状態である場合の各電極電位及びセル電圧を示している。実際には、電流が減少すると、発電があまり行われない(式(1),(2)の反応が抑制される)ため、セル温度は低下する。その結果、単セル20内部の湿度は上昇しドライアップは解消される。したがって、各電極電位は、図7左上及び右上の一点鎖線で示す曲線L61,L62のように、電流値が比較的低い状態では、正常時のI−V特性曲線と一致する。その結果、図7右下に示すように、I−V特性曲線は、図3と同様な曲線L3bとなる。なお、電解質膜の乾燥度合いに応じて、各極における電流−電位曲線の形状は変わり得る。図7右下の曲線L3bと図3の曲線L3とが互いに形状が異なっているのは、それぞれを測定した際の電解質膜の乾燥度合いが異なるからである。
【0075】
図2に戻って、dV/dIが一定である電流範囲が存在しない(ステップS110:NO)と判定した場合、負電圧要因特定部91cは、負電圧の要因は水素欠乏であると特定し(ステップS115)、特定した要因をRAM93に記憶させる(ステップS135)。
【0076】
dV/dIが一定である電流範囲が存在する(ステップS110:YES)と判定した場合、負電圧要因特定部91cは、ステップS105で得られたI−V特性曲線において、電流を減少させていった場合に最初に得られる変曲点の電圧は負電圧であるか否かを判定する(ステップS120)。そして、最初に得られる変曲点の電圧が負電圧であると判定した場合(ステップS120:YES)、負電圧要因特定部91cは、負電圧の要因は酸素欠乏であると特定し(ステップS125)、特定した要因をRAM93に記憶させる(ステップS135)。これに対し、最初に得られる変曲点の電圧が0V以上であると判定した場合(ステップS120:NO)、負電圧要因特定部91cは、負電圧の要因はドライアップであると特定し(ステップS130)、特定した要因をRAM93に記憶させる(ステップS135)。
【0077】
図3の曲線L2に示すように、酸素欠乏の状態において最初に生じる変曲点(動作点p1)の電圧値V1は負電圧である。一方、図3の曲線L3に示すように、ドライアップ状態において最初に生じる変曲点(動作点p2)の電圧値V2は正電圧である。このように、電流を減少させていった場合に最初に生じる変曲点の電圧値は、酸素欠乏の場合にマイナスであり、ドライアップの場合にプラスであることを出願人は見出した。したがって、dV/dIの電圧値により、負電圧の要因が酸素欠乏であるかドライアップであるかを判別することができる。
【0078】
A3.セル電圧回復処理:
図8は、第1実施例におけるセル電圧回復処理の手順を示すフローチャートである。燃料電池システム100では、上述した負電圧要因特定処理が終わると、セル電圧回復処理が開始される。
【0079】
負電圧要因特定部91cは、RAM93から負電圧要因を取得し(ステップS205)、負電圧要因が水素欠乏であるか否かを判定する(ステップS210)。負電圧要因が水素欠乏であると判定されると(ステップS210:YES)、ガス流量調整部91dは、遮断弁71及び調圧弁72を制御して、燃料電池スタック10に供給される水素ガス量を増加させる(ステップS215)。そして、ガス流量調整部91dは、単セル20のセル電圧が、水素ガス供給量の増加に伴い0Vよりも高くなったか否かを判定し(ステップS220)、セル電圧が0Vよりも高くなるまで、ステップS215,S220を繰り返す。そして、セル電圧が0Vよりも高くなった場合には、セル電圧回復処理は終了する。
【0080】
負電圧要因が水素欠乏でないと判定されると(ステップS210:NO)、負電圧要因特定部91cは、負電圧要因が酸素欠乏であるか否かを判定する(ステップS225)。負電圧要因が酸素欠乏であると判定されると(ステップS225:YES)、ガス流量調整部91dは、エアコンプレッサ65の回転数を制御して、燃料電池スタック10に供給される空気量を増加させる(ステップS230)。そして、ガス流量調整部91dは、負電圧となった単セル20のセル電圧が、空気供給量の増加に伴い正電圧となったか否かを判定し(ステップS235)、正電圧となるまで、ステップS230,S235を繰り返す。これに対し、セル電圧が正電圧となった場合には、セル電圧回復処理は終了する。
【0081】
負電圧要因が酸素欠乏でないと判定されると(ステップS225:NO)、加湿制御部91eは、加湿器66を制御して、燃料電池スタック10に供給される空気の加湿量を増加させる(ステップS240)。かかる処理により、単セル20内の水分量が増加してドライアップ状態が解消され得る。そして、加湿制御部91eは、負電圧となった単セル20のセル電圧が、ドライアップの解消に伴い0Vよりも高くなったか否かを判定し(ステップS235)、セル電圧が0Vよりも高くなるまで、ステップS240,S245を繰り返す。これに対し、セル電圧が0Vよりも高くなった場合には、セル電圧回復処理は終了する。
【0082】
以上説明した第1実施例の燃料電池システム100では、燃料電池スタック10を流れる電流を0となるまで減少させながら電圧値を測定してI−V特性曲線を得て、得られたI−V特性曲線においてdV/dIが一定である電流範囲が存在するか否かにより、また、dV/dIが一定である電流範囲がある場合に、最初の変曲点の電圧は負電圧であるか否かによって、負電圧要因が、水素欠乏,酸素欠乏,ドライアップのいずれであるかを特定する。したがって、負電圧要因を正確に特定できると共に、ドライアップが原因で負電圧が生じた場合においても、その要因を正確に特定することができる。
【0083】
加えて、負電圧要因を特定した後に、セル電圧回復処理を実行して、特定した要因に応じた適切な処理を行うので、短期間のうちにセル電圧を負電圧から正電圧に回復させることができる。したがって、負電圧に伴う触媒層を形成する部材の劣化を抑制できる。
【0084】
B.第2実施例:
図9は、第2実施例における負電圧要因特定処理の手順を示すフローチャートである。第2実施例の燃料電池システムは、負電圧の要因を特定する方法において、第1実施例の燃料電池システム100と異なり、他の構成は、第1実施例と同じである。図2に示す第1実施例の負電圧要因特定処理では、電流を0となるまで低減させて、dV/dIが一定である電流範囲の有無、及び最初の変曲点の電圧が負電圧であるか否かにより、負電圧の要因を特定していた。これに対し、第2実施例では、電流を所定の電流値範囲内で低減させ、得られたI−V特性に基づき電流値が0である場合の電圧値を外挿により求めて、かかる電圧値に基づき負電圧の要因を特定する。
【0085】
具体的には、図9に示すように、電流調整部91aは、負電圧を測定した状態における電流値から、所定の電流範囲内(電流値が0よりも大きい値の範囲内)で電流を減少させ、電圧測定部91bは、各電流値ごとのセル電圧(I−V特性曲線)を取得してRAM93に記憶させる(ステップS305)。このとき、所定の電流範囲としては、例えば、負電圧を測定した状態における電流値から、この電流値の0.7倍となる電流値まで減少させることができる。また、例えば、予め下限値を設定しておき、かかる下限値まで電流値を減少させることができる。
【0086】
負電圧要因特定部91cは、ステップS305で得られたI−V特性に基づき、電流値が0である場合の電圧値(以下、「ゼロ電流時電圧値」と呼ぶ)を外挿により求める(ステップS310)。外挿の方法としては、例えば、ステップS305で得られたI−V特性を直線近似し、得られた直線において、電流値=0を代入して求めることができる。
【0087】
図10は、ステップS310により求められるゼロ電流時電圧値の一例を示す説明図である。図10において、横軸は図3の横軸と、縦軸は図3の縦軸と、それぞれ同じである。また、動作点p0は、図3の動作点p0と同じである。図10では、各負電圧要因ごとに、ステップS305で得られるI−V特性曲線(直線)と、直線近似して得られた直線と、ゼロ電流時電圧値とを示している。また、参考として、図3に示す曲線L1〜L3も併せて表わしている。なお、図10では、ステップS305において、動作点p0の電流値I10から、電流値I20(0<I20<I10)まで電流を減少させた結果を表わしている。電流値I20は、動作点p1(変曲点p1)の電流値I1及び動作点p2(変曲点p2)の電流値I2のいずれよりも低い値であり、予め実験により求めて設定されている。なお、電流値I10からI20の範囲は、請求項における所定の正の電流値範囲に相当する。
【0088】
図10において、曲線L10は、水素欠乏状態においてステップS305により得られたI−V特性曲線(直線)を示す。直線L20は、酸素欠乏状態においてステップS305により得られたI−V特性曲線(直線)を示す。直線L30は、ドライアップ状態においてステップS305により得られたI−V特性曲線(直線)を示す。直線L11は、曲線L10内の複数の動作点に基づく直線近似により得られた直線である。直線L21は、直線L20内の複数の動作点に基づく直線近似により得られた直線である。直線L31は、曲線L30内の複数の動作点に基づく直線近似により得られた直線である。
【0089】
図10に示すように、水素欠乏状態におけるゼロ電流時電圧Ve1は、負電圧となっている。酸素欠乏状態におけるゼロ電流時電圧Ve2は、0Vとなっている。ドライアップ状態におけるゼロ電流時電圧Ve3は、V0(OCV)よりも高い値となっている。
【0090】
図11は、直線近似により得られる直線が存在し得る領域を各負電圧要因ごとに示す説明図である。図11において、領域Arhは、負電圧要因が水素欠乏の場合に、直線近似により得られる直線が存在し得る領域を示す。また、領域Aroは負電圧要因が酸素欠乏の場合に、領域Ardは負電圧要因がドライアップの場合に、それぞれ直線近似により得られる直線が存在し得る領域を示す。
【0091】
図11に示すように、各要因ごとに、直線近似により得られる直線が存在し得る領域があること、換言すると、直線近似により得られる直線にバラツキが生じ得ることは、各反応ガスの欠乏度合いや、乾燥の度合い等によって、ステップS305により得られる曲線が変化し得るからである。例えば、軽い水素欠乏状態(すなわち、必要量に比べて少ないが、或る程度多くの水素ガスが供給されている状態)では、I−V特性曲線は、正常時のI−V特性曲線L0に近づいた形状の曲線となる。これに対して、重度の水素欠乏状態(すなわち、ほとんど水素ガスが供給されていない状態)では、I−V特性曲線は、正常時のI−V特性曲線L0から大きく離れた形状の曲線となる。したがって、I−V特性に基づき直線近似により得られる直線の傾きは変化し得る。
【0092】
図11に示すように、領域Arhにおいてゼロ電流時電圧値は、0V未満となっている。領域Aroにおいてゼロ電流時電圧値は、0V以上V0(OCV)未満となっている。領域Ardにおいてゼロ電流時電圧値は、V0(OCV)以上となっている。ドライアップ状態では膜抵抗値が大きいため、開回路状態においてもドライアップ状態でない場合の電圧値よりも高い電圧値となる。
【0093】
図9に示すステップS310の後、負電圧要因特定部91cは、ステップS310で得られたゼロ電流時電圧値Veが0V未満であるか否かを判定する(ステップS315)。ゼロ電流時電圧値Veが0V未満であると判定した場合(ステップS315:YES)、負電圧要因特定部91cは、負電圧要因は水素欠乏であると特定し(ステップS320)、特定した要因をRAM93に記憶させる(ステップS340)。
【0094】
ゼロ電流時電圧値Veが0以上であると判定した場合(ステップS315:NO)、負電圧要因特定部91cは、ゼロ電流時電圧値VeがV0(OCV)以上であるか否かを判定する(ステップS325)。ゼロ電流時電圧値VeがV0以上でないと判定した場合(ステップS325:NO)、負電圧要因特定部91cは、負電圧要因は酸素欠乏であると特定し(ステップS330)、特定した要因をRAM93に記憶させる(ステップS340)。
【0095】
ゼロ電流時電圧値VeがV0以上であると判定した場合(ステップS325:YES)、負電圧要因特定部91cは、負電圧要因はドライアップであると特定し(ステップS335)、特定した要因をRAM93に記憶させる(ステップS340)。
【0096】
以上の構成を有する第2実施例の燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム100と同様な効果を有する。加えて、ステップS305において電流値を減少させる際の下限値が0よりも大きく、かつ、変曲点p1,p2の電流値よりも大きな値であるので、下限値が0である場合に比べて、短期間で電圧値の測定処理を完了することができる。したがって、より短期間で負電圧要因が特定できるので、負電圧状態となってから早期に負電圧回復処理を実行することができ、触媒の劣化を抑制できる。
【0097】
C.第3実施例:
図12は、第3実施例における負電圧要因特定処理の手順を示すフローチャートである。第3実施例の燃料電池システムは、負電圧の要因が酸素欠乏の場合に、酸素欠乏が流路閉塞による酸素欠乏(換言すると、流路閉塞によりカソード側触媒層に全く空気が届いていない状態)であるか、又は、触媒層付近における酸素欠乏(換言すると、カソード側触媒層に空気が届いているが、必要量に達していない状態)であるかを特定する点と、酸素欠乏の原因に応じて異なる対処を行なう点において、第1実施例の燃料電池システム100と異なり、他の構成は、第1実施例と同じである。
【0098】
C1.負電圧要因特定処理:
第3実施例の負電圧要因特定処理は、ステップS405,S410を追加して実行する点と、ステップS125に代えて、ステップS415を実行する点とにおいて、図2に示す負電圧要因特定処理と異なり、他の処理は第1実施例と同じである。具体的には、dV/dIが一定である範囲があると判定した場合(ステップS110:YES)、負電圧要因特定部91cは、ステップS105で得られたI−V特性曲線において、変曲点があるか否かを判定する(ステップS405)。
【0099】
図13は、流路閉塞による酸素欠乏状態においてステップS105により得られるI−V特性曲線を示す説明図である。図14は、触媒層付近における酸素欠乏状態においてステップS105により得られるI−V特性曲線を示す説明図である。図13及び図14において、横軸は図3の横軸と、縦軸は図3の縦軸と、それぞれ同じである。また、図13,14において動作点p0は、図3の動作点p0と同じである。図13において、直線L22は、流路閉塞による酸素欠乏状態においてステップS105で得られるI−V特性曲線を示す。図14において、曲線L23は、触媒層付近における酸素欠乏状態においてステップS105で得られるI−V特性曲線を示す。
【0100】
図13に示すように、流路閉塞による酸素欠乏状態においてステップS105で得られる直線L22は、図6右下に示す直線L2aと同様に、動作点p0と、電流値0及び電圧値0の動作点(原点)とを結ぶ直線となる。単セル20のカソード側触媒層に対して酸素が全く供給されないので、電流値が0に近くても酸素不足が解消されることはない。したがって、電流値が0となるまで電流の減少に比例して電圧が低下するので、直線L22には変曲点は存在しない。
【0101】
図14に示すように、触媒層付近における酸素欠乏状態においてステップS105で得られる曲線L23は、図3及び図6に示す曲線L2と同様に、動作点p0から変曲点p11までは直線的に変化し、変曲点p11から曲線L0に向かって伸びて、電流値が小さい領域において、曲線L0と一致する。
【0102】
図12に示すステップS405において、変曲点がないと判定された場合(ステップS405:NO)、負電圧要因特定部91cは、負電圧要因は流路閉塞による酸素欠乏であると特定する(ステップS410)。ステップS405において、変曲点があると判定された場合(ステップS405:YES)、負電圧要因特定部91cは、前述のステップS120を実行する。そして、負電圧要因特定部91cは、最初の変曲点の電圧が負電圧であると判定された場合(ステップS120:YES)、負電圧要因は触媒層付近における酸素欠乏であると特定する(ステップS415)。これに対し、最初の変曲点の電圧が負電圧でないと判定された場合(ステップS120:NO)、負電圧要因特定部91cは、負電圧要因はドライアップであると判定する(ステップS130)。
【0103】
C2.セル電圧回復処理:
図15は、第3実施例におけるセル電圧回復処理の手順を示すフローチャートである。第3実施例のセル電圧回復処理は、ステップS505,S510,S515,S520,S525,S530を追加して実行する点において、図8に示すセル電圧回復処理と異なり、他の処理は第1実施例と同じである。具体的には、ステップS225において負電圧要因が酸素欠乏であると判定された場合(ステップS505:YES)、負電圧要因特定部91cは、酸素欠乏が、流路閉塞による酸素欠乏であるか否かを判定する(ステップS505)。
【0104】
流路閉塞による酸素欠乏でない、すなわち、触媒層付近における酸素欠乏状態であると判定されると(ステップS505:NO)、セル電圧が0Vよりも高くなるまで空気供給量が増加される(ステップS230,S235)。
【0105】
これに対し、流路閉塞による酸素欠乏であると判定された場合(ステップS505:YES)、スタック温度調整部91fは、燃料電池スタック10の温度を所定温度(例えば、0℃)以上となるまで上昇させる(ステップS510)。ガス流量調整部91dは、燃料電池スタック10に供給される空気量を増加させる(ステップS515)。ガス流量調整部91dは、セル電圧が0Vよりも高くなったか否かを判定し(ステップS520)、セル電圧が0Vよりも高くなった場合には、セル電圧回復処理は終了する。一方、セル電圧が0Vよりも高くないと判定された場合(ステップS520:NO)、ガス流量調整部91dは、空気供給量を所定量以上に増加させたか否かを判定する(ステップS525)。所定量以上に増加させていないと判定された場合(ステップS525:NO)、ガス流量調整部91dは、前述のステップS515〜S525を実行する。これに対し、所定量以上に増加させたと判定された場合(ステップS525:YES)、異常発生通知部91gは、図示しない操作パネルに異常発生の旨を表示することにより、異常発生を管理者に通知する(ステップS530)。
【0106】
前述のように、流路閉塞による酸素欠乏の場合に、燃料電池スタック10の温度を上昇させた後に、燃料電池スタック10への供給空気量を増加させるのは、以下の理由による。発電に伴う生成水が空気供給流路に溜まり、この溜まった生成水が原因で流路閉塞が生じている場合には、昇温させることで飽和水蒸気圧を上昇させ、溜まった水を水蒸気として排出し易くできる。それゆえ、その後、供給空気量を増加させることで、溜まった水(水蒸気)を空気の流れを利用して排出できると共に、酸素不足を解消し得るからである。
【0107】
燃料電池スタック10を昇温させ、所定量以上に供給空気量を増加させてもなおセル電圧が0Vよりも高くならない場合には、生成水の貯留以外の理由により流路閉塞が生じている可能性が高い。この場合、管理者による閉塞原因の確認及びメンテナンスが必要となるため、第3実施例の燃料電池システムでは、異常発生を管理者に通知するように構成されている。
【0108】
以上の構成を有する第3実施例の燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム100と同様な効果を有する。加えて、第3実施例の燃料電池システムは、酸素欠乏が、流路閉塞による酸素欠乏及び触媒層付近における酸素欠乏のいずれであるかを特定するので、セル電圧回復処理において、酸素欠乏の原因に応じた適切な処理を選択して実行することができる。
【0109】
また、酸素欠乏が流路閉塞によるものである場合に、燃料電池スタック10の温度を上昇させた後に空気供給量を増加させるので、流路閉塞が、発電に伴う生成水の流路における貯留によって生じている場合には、貯留している生成水を排出させることができ、酸素欠乏を速やかに解消させることができる。
【0110】
また、酸素欠乏が流路閉塞によるものである場合であって、燃料電池スタック10の温度を上昇させた後に所定量以上に空気供給量を増加させてもなお、セル電圧が0Vよりも高くならない場合に異常発生を通知するので、管理者は、かかる通知に基づき流路閉塞要因の特定及びメンテナンスを行なうことができる。したがって、流路閉塞が生成水が原因でない場合であっても、早期にメンテナンスを行なうことができ、酸素欠乏を速やかに解消させることができる。
【0111】
D.第4実施例:
図16は、第4実施例における負電圧要因特定処理の手順を示すフローチャートである。第4実施例の燃料電池システムは、負電圧の要因が酸素欠乏の場合に、酸素欠乏が流路閉塞による酸素欠乏であるか、又は、触媒層付近における酸素欠乏であるかを特定する点と、酸素欠乏の原因に応じて異なる対処を行なう点において、第1実施例の燃料電池システム100と異なり、他の構成は、第1実施例と同じである。また、酸素欠乏が流路閉塞による酸素欠乏であるか、又は、触媒層付近における酸素欠乏であるかを特定する方法において、第3実施例の燃料電池システムと異なり、他の構成は、第3実施例の燃料電池システムと同じである。第4実施例の燃料電池システムでは、第2実施例と同様に、電流を所定の電流値範囲内で低減させ、得られたI−V特性に基づきゼロ電流時電圧値を外挿により求める。そして、このゼロ電流時電圧値に基づき、酸素欠乏の原因を特定する。
【0112】
図16に示す第4実施例の負電圧要因特定処理は、ステップS330に代えて、ステップS605,S610,S615を追加して実行する点において、図9に示す第2実施例の負電圧特定要因処理と異なり、他の処理は第2実施例と同じである。
【0113】
ステップS325において、ゼロ電流時電圧値VeがV0(OCV)以上でないと判定された場合(ステップS325:NO)、負電圧要因特定部91cは、ゼロ電流時電圧値Veが0Vであるか否かを判定する(ステップS605)。負電圧要因特定部91cは、ゼロ電流時電圧値Veが0Vであると判定された場合、酸素欠乏が流路閉塞による酸素欠乏であると特定し(ステップS610)、ゼロ電流時電圧値Veが0Vでない(すなわち、ゼロ電流時電圧値Veが0Vよりも高く、かつ、V0(OCV)よりも低い)と判定された場合、酸素欠乏が触媒層付近における酸素欠乏であると特定する(ステップS615)。
【0114】
図17は、第4実施例においてステップS310により求められるゼロ電流時電圧値の一例を示す説明図である。図17において、横軸及び縦軸は、いずれも、図10における縦軸及び横軸と同じである。また、動作点p0は、図3の動作点p0と同じである。図17では、参考として、図13に示す直線L22及び図14に示す曲線L23を破線で表わしている(なお、直線L22は、後述の直線L42と一致している)。図17において、直線L32は、酸素欠乏が流路閉塞による酸素欠乏である場合にステップS305により得られるI−V直線を示す。また、直線L33は、酸素欠乏が触媒層付近における酸素欠乏である場合にステップS305により得られるI−V直線を示す。これら直線L32,L33は、いずれも、ステップS305において、動作点p0の電流値I10から、電流値I20(0<I20<I10)まで電流を減少させた結果を表わしている。
【0115】
図17において、直線L42は、直線L32内の複数の動作点に基づく直線近似により得られた直線である。この直線L42において、電流値が0である場合の電圧値(すなわち、ゼロ電流時電圧値)Ve5は0Vである。このように、流路閉塞による酸素不足の場合に、ゼロ電流時電圧値Veが0Vとなるのは、図13を用いて説明したとおりである。
【0116】
図17において、直線L43は、直線L33内の複数の動作点に基づく直線近似により得られた直線である。この直線L43において、電流値が0である場合の電圧値(すなわち、ゼロ電流時電圧値)Ve4は、0Vよりも高く、V0(OCV)よりも低い。触媒層付近における酸素欠乏では、必要量よりも少ないがカソード側触媒層に酸素が供給されているため、電流を減少させた場合に得られる電圧値は、全く酸素が供給されない場合に比べて高くなる。したがって、直線L43のゼロ電流時電圧値Ve4の値は、直線L42のゼロ電流時電圧値Ve5よりも高い。また、酸素不足ゆえ、ゼロ電流時電圧値Veの値はV0(OCV)よりも低くなる。したがって、前述のステップS605のように、ゼロ電流時電圧値Veが0Vであるか否かによって、酸素欠乏が流路閉塞による酸素欠乏であるか、又は、触媒層付近における酸素欠乏であるかを特定することができる。
【0117】
前述のステップS610,S615の後、ステップS340(特定した要因のRAM93への記憶)が実行され、負電圧要因特定処理は終了する。なお、第4実施例におけるセル電圧回復処理は、図15に示す第3実施例のセル電圧回復処理と同じである。
【0118】
以上の構成を有する第4実施例の燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム100と同様な効果を有する。加えて、第4実施例の燃料電池システムは、酸素欠乏が、流路閉塞による酸素欠乏及び触媒層付近における酸素欠乏のいずれであるかを特定するので、セル電圧回復処理において、酸素欠乏の原因に応じた適切な処理を実行することができる。また、ステップS305において電流値を減少させる際の下限値が0よりも大きく、かつ、変曲点p1,p2の電流値よりも大きな値であるので、下限値が0の場合に比べて、短期間で電圧値の測定処理を完了することができる。したがって、より短期間で負電圧要因が特定できるので、負電圧状態となってから早期に負電圧回復処理を実行することができ、触媒の劣化を抑制できる。
【0119】
E.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0120】
E1.変形例1:
第1,3実施例では、ステップS105において、負電圧を測定した状態における電流値から、電流値が0となるまで電流を減少させていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、負電圧を測定した状態における電流値から電流値を減少させて電圧値を取得するたびに変曲点の有無を判定し、変曲点が生じた場合に電流の減少を停止させて、ステップS105を終了することもできる。このような構成により、負電圧要因が酸素欠乏又はドライアップの場合には、電流値を0となるまで減少させなくて済むため、負電圧特定処理に要する期間を短くすることができる。
【0121】
E2.変形例2:
各実施例では、セル電圧回復処理において、負電圧要因が水素欠乏である場合に水素ガスの供給量を増加させていたが、これに加えて、燃料電池スタック10と負荷Lとを電気的に切り離してもよい。また、このとき、負荷Lに対して二次電池52から電力を供給することが好ましい。このような構成により、燃料電池スタック10をOCV状態とすることができるので、水素ガスの供給量を増加させた際に、アノード側触媒層を潤沢な水素ガスに曝すことができ、不活性化していた触媒を活性化状態にすることができる。すなわち、水素欠乏によってアノード側触媒層において生じたプラチナ等の触媒の酸化物を、水素ガス供給量を増加させた際に除去することができる。また、負荷Lに対して二次電池52から電力を供給するので、電気車両を停止させることなくセル電圧回復処理を実行することができる。
【0122】
E3.変形例3:
第3実施例のセル電圧回復処理では、負電圧要因が触媒層付近における酸素欠乏である場合に、ステップS230において空気供給量を増加させていたが、空気供給量の増加に加えて、燃料電池スタック10の温度を昇温させてもよい。同様に、第1実施例においても、負電圧要因が酸素欠乏である場合に、空気供給量の増加(ステップS230)に加えて、燃料電池スタック10の温度を昇温させてもよい。このような構成により、触媒層付近における酸素欠乏が、触媒層付近における生成水の貯留に起因する場合には、生成水を排除して酸素欠乏を解消させることができる。
【0123】
E4.変形例4:
各実施例においてスタック温度調整部91fは、第2循環ポンプ31を制御して冷却媒体の流量を調整することにより、燃料電池スタック10の温度を調整していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、冷却媒体供給流路84又は冷却媒体排出流路85にヒーターを設置して、かかるヒーターにより冷却媒体を昇温させることにより、燃料電池スタック10の温度を調整することもできる。また、各単セル20を直接温めることができるようにヒーターを配置し、かかるヒーターにより燃料電池スタック10の温度を調整することもできる。
【0124】
E5.変形例5:
各実施例では、異常発生通知部91gは、図示しない操作パネルに異常発生の旨を表示していたが、これに代えて、又は、これに加えて、ブザー等の音声による通知や、ランプの点灯・点滅を行なって異常発生の旨を通知することもできる。また、異常発生の旨の通知に代えて、異常発生の旨をRAM93にログとして記録することもできる。この構成においても、RAM93に記録されているログを確認することにより、管理者は異常発生の旨を知ることができ、負電圧要因の特定及びメンテナンス等を行なうことができる。
【0125】
E6.変形例6:
各実施例では、負電圧の要因として、水素欠乏,酸素欠乏,およびドライアップのいずれであるかを特定していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、負電圧の要因が、水素欠乏であるか又は水素欠乏を除く他の要因であるか、を切り分けることもできる。具体的には、例えば、第1実施例の負電圧要因特定処理において、ステップS120以降の処理を省略することで実現できる。このような構成においても、負電圧の要因が、水素欠乏であるか、または、他の要因であるかを切り分けることができるので、負電圧の要因が水素欠乏である場合には、適切な対処(例えば、図8のステップS215,S220)を実行することができる。
【0126】
E7.変形例7:
各実施例では、燃料電池システムは、電気自動車に搭載されて用いられていたが、これに代えて、ハイブリッド自動車,船舶,ロボットなどの各種移動体に適用することもできる。また、燃料電池スタック10を定置型電源として用い、燃料電池システムをビルや一般住宅等の建物に適用することもできる。
【0127】
E8.変形例8:
各実施例において、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。また、これとは逆に、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0128】
10…燃料電池スタック
20…単セル
30…ラジエータ
31…第2循環ポンプ
40…セルモニタ
41…電流センサ
50…インバータ
51…DC−DCコンバータ
52…二次電池
61…水素タンク
62…第1循環ポンプ
63…温度センサ
65…エアコンプレッサ
66…加湿器
71…遮断弁
72…調圧弁
81…燃料ガス供給流路
82…燃料ガス排出流路
83…バイパス流路
84…冷却媒体供給流路
85…冷却媒体排出流路
87…酸化剤ガス供給流路
88…酸化剤ガス排出流路
90…制御ユニット
91…CPU
91a…電流調整部
91b…電圧測定部
91c…負電圧要因特定部
91d…ガス流量調整部
91e…加湿制御部
91f…スタック温度調整部
91g…異常発生通知部
92…ROM
93…RAM
100…燃料電池システム
111…ターミナルプレート
L…負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、
前記燃料電池を流れる電流を調整する電流調整部と、
前記電流調整部を制御して前記電流を変化させ、電流値と前記電圧測定部により測定された電圧値との対応関係を示す情報であるI−V特性情報を取得するI−V特性情報取得部と、
前記燃料電池の電圧が負電圧である場合に、前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定する負電圧要因特定部と、
を備える、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記負電圧要因特定部は、前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因が、水素欠乏であるか又は水素欠乏を除く他の要因であるか、を切り分ける、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記I−V特性情報取得部は、前記I−V特性情報を取得する際に、前記電流を所定の正の電流値範囲で変化させて電圧値を取得し、
前記負電圧要因特定部は、前記電流が0の場合の電圧値であるゼロ電流時電圧値を、得られた前記I−V特性情報に基づき外挿により求め、前記ゼロ電流時電圧値が0V未満である場合に前記要因は水素欠乏であると特定し、前記ゼロ電流時電圧値が0V以上、かつ、通常時における前記燃料電池の開回路電圧未満である場合に前記要因は酸素欠乏であると特定し、前記ゼロ電流時電圧値が前記開回路電圧以上である場合に前記要因はドライアップであると特定する、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、触媒層と、前記触媒層に前記酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給流路とを有し、
前記負電圧要因特定部は、前記ゼロ電流時電圧値が0Vである場合に、前記要因は前記酸化剤ガス供給流路の閉塞による酸素欠乏であると特定し、前記ゼロ電流時電圧値が0Vよりも大きく、かつ、前記開回路電圧未満である場合に、前記要因は前記触媒層付近での酸素欠乏であると特定する、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記所定の正の電流値範囲の下限値は、前記要因が酸素欠乏又はドライアップである場合における前記電流値の変化に対する前記電圧値の変化を示すdV/dIの変曲点の電流値よりも大きな値である、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記負電圧要因特定部は、前記電流値の変化に対する前記電圧値の変化を示すdV/dIを前記I−V特性情報に基づき求め、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲が無い場合には前記要因は水素欠乏であると特定し、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲を有し、かつ、前記dV/dIの変曲点の電圧値が0V未満である場合に前記要因は酸素欠乏であると特定し、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲を有し、かつ、前記変曲点の電圧値が0V以上である場合に前記要因はドライアップであると特定する、燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記燃料電池は、触媒層と、前記触媒層に前記酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給流路と、を有し、
前記負電圧要因特定部は、前記電流値の変化に対する前記電圧値の変化を示すdV/dIを前記I−V特性情報に基づき求め、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲がない場合には前記要因は水素欠乏であると特定し、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲を有し、かつ、前記dV/dIの変曲点がない場合に前記要因は前記酸化剤ガス供給流路の閉塞による酸素欠乏であると特定し、前記dV/dIが一定である前記電流値の範囲を有し、かつ、前記dV/dIの変曲点がある場合に前記要因は前記触媒層付近での酸素欠乏であると特定する、燃料電池システム。
【請求項8】
請求項4または請求項7に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
前記要因が前記酸化剤ガス供給流路の閉塞による酸素欠乏であると特定された場合に、前記燃料電池の温度を0℃以上に調整する温度調整部と、
前記要因が前記酸化剤ガス供給流路の閉塞による酸素欠乏であると特定され、かつ、前記燃料電池の温度が0℃以上に調整されている状態において、前記燃料電池への前記酸化剤ガスの供給量を増加させる酸化剤ガス供給部と、
を備える、燃料電池システム。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
前記酸化剤ガス供給部により前記酸化剤ガスの供給量が増加された後において、前記電圧値が負電圧である場合に、前記燃料電池システムが異常であると検出する異常検出部を備える、燃料電池システム。
【請求項10】
請求項3ないし請求項7のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
前記要因が酸素欠乏であると特定された場合に、前記燃料電池への前記酸化剤ガスの供給量を増加させる酸化剤ガス供給部と、
前記要因が水素欠乏であると特定された場合に、前記燃料電池への前記燃料ガスの供給量を増加させる燃料ガス供給部と、
前記要因がドライアップであると特定された場合に、前記燃料電池を加湿する加湿部と、
を備える、燃料電池システム。
【請求項11】
燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定するための方法であって、
(a)前記燃料電池を流れる電流を変化させると共に前記燃料電池の電圧を測定し、電流値と電圧値との対応関係を示す情報であるI−V特性情報を取得する工程と、
(b)前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定する工程と、
を備える、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、
前記燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを反応ガスとして用い、
前記工程(b)において、前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因が、水素欠乏であるか又は水素欠乏を除く他の要因であるか、を切り分ける、方法。
【請求項13】
燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定するためのプログラムであって、
前記燃料電池を流れる電流を変化させると共に前記燃料電池の電圧を測定し、電流値と電圧値との対応関係を示す情報であるI−V特性情報を取得する機能と、
前記取得されたI−V特性情報に基づき、前記燃料電池の電圧が負電圧である要因を特定する機能と、
をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−74172(P2012−74172A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216647(P2010−216647)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】