説明

燃料電池システム

【課題】冷却水の導電率の上昇に起因する燃料電池の性能の低下や損傷を、必要以上に冷却水用ポンプを駆動したり、必要以上に待ち時間を要することなく抑制する。
【解決手段】反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池2と、該燃料電池に反応ガスを供給する酸化ガス配管系3及び燃料ガス配管系4と、燃料電池を循環する冷却水を流通させる冷却水流路31であって、冷却水を圧送する冷却水ポンプ32と、冷却水の導電率を低下させるイオン交換器34と、冷却水を冷却するラジエータ35とが設けられた冷却水流路31と、冷却水流路における冷却水の流通を制御する制御部6とを備え、制御部は、燃料電池の運転停止後に、冷却水中の不純物のイオン量と相関のある値に基づいて、冷却水の温度を低下させるように冷却水を循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、特には、燃料電池を冷却する冷却媒体の循環系の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガスと酸化ガス(これらを反応ガスともいう)との電気化学反応により電力を発生し、それと同時に水分を生成する。燃料電池の一種である固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜を水素極(アノード)と酸素極(カソード)とにより挟み込んだ構造を有している。固体高分子型やリン酸型の燃料電池の場合、アノード及びカソードには、カーボン素材をベースに白金等の触媒が担持(結着)されたものが一般に用いられる。燃料ガスとしては、例えば、ガスタンクから供給される水素ガスが用いられ、酸化ガスとしては、例えば、外部から取り込まれた空気が用いられる。
【0003】
電気化学反応は発熱反応であるため、燃料電池の運転を継続すると、次第に温度が上昇する。一方、燃料電池における発電の高効率化を図るためには、燃料電池の温度を所定の範囲内に維持する必要がある。そのため、燃料電池システムには、燃料電池を冷却するための冷却水循環系が設けられている。
【0004】
ところが、燃料電池の運転を継続すると、燃料電池や配管からイオンが徐々に冷却水に溶出し、冷却水の導電率が次第に上昇してくる。しかし、このような状態は、燃料電池内や冷却水循環系における絶縁性を確保できなくなるので好ましくない。そこで、冷却水の一部をイオン交換器(イオン交換フィルタ)に通すことにより、冷却水に溶出したイオンを少しずつ除去している。しかし、特に、燃料電池システムを搭載した車両等において低負荷運転を行うと、イオン交換が十分に為されなくなるにも関わらず、水温が上昇することによりイオンの溶出が増えるため、燃料電池システムに対する影響は大きい。
【0005】
関連する技術として、特許文献1には、燃料電池システムの運転停止時に燃料電池の温度が高い場合には、冷却系を作動して燃料電池の温度を低下させることにより、冷却水へのイオン溶出を防止することが開示されている。また、特許文献2には、燃料電池システムの運転停止時に冷却水の導電率を検出し、この導電率が閾値を超えている場合には、冷却水の循環を継続してイオン交換を行うことが開示されている。さらに、特許文献3には、燃料電池システムの運転停止後、所定時間が経過する毎に冷却水を循環させることにより、冷却水の導電率を低減することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−192854号公報
【特許文献2】特開2005−235489号公報
【特許文献3】特開2007−128811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献1のように、燃料電池の運転を停止する度に一律に冷却水の温度を下げるとすれば、短時間の運転停止であっても、再始動する度に暖機運転が必要となり、燃費が悪くなると共に待ち時間を要してしまう。また、一般に導電率測定器は高価なので、引用文献2においては、燃料電池システムのコストが高くなる。さらに、引用文献2及び3のように、全ての冷却水にイオン交換器を通過させるとすれば、冷却水の循環に時間がかかり、また、イオン交換器の負荷も大きい。加えて、特許文献3のように、燃料電池システムの停止後の時間に基づいて一律に冷却水を循環させる場合には、必要以上に冷却水用ポンプを駆動していることもあり得る。
【0007】
そこで、本発明は、冷却水の導電率の上昇に起因する燃料電池の性能の低下や損傷を、必要以上のコストを生じさせることなく抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の1つの観点に係る燃料電池システムは、反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に反応ガスを供給するガス供給路と、前記燃料電池を循環する冷却媒体を流通させる冷却媒体流路であって、冷却媒体を圧送するポンプと、冷却媒体を冷却するラジエータと、冷却媒体の導電率を低下させるイオン交換器とが設けられた冷却媒体流路と、前記冷却媒体流路における冷却媒体の流通を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記燃料電池の運転停止後に、冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値に基づいて、冷却媒体の温度を低下させるように前記冷却媒体の流通を制御する。
【0009】
本発明の1つの観点によれば、燃料電池の運転停止後に冷却媒体の温度を低下させることにより、冷却媒体へのさらなる不純物のイオン溶出を抑制する。その際に、冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値に基づいて、冷却媒体の温度を低下させるか否かを決定することにより、必要以上にポンプを駆動することがなくなり、無駄を省くことができる。
【0010】
ここで、前記冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値は、前記燃料電池の運転中に前記イオン交換器を流通した冷却媒体の積算量を前記燃料電池の運転時間で除した値であっても良く、前記制御部は、該冷却媒体の積算量を前記燃料電池の運転時間で除した値が所定の閾値以下である場合に、冷却媒体の温度を低下させる。
【0011】
一般に、定温度で運転中、冷却媒体には単位時間あたり一定量のイオンが溶出する。そのため、その間にイオン交換器に通水させる冷却媒体の流量を多くすることにより、一定に溶出するイオン量を上回る量のイオンを浄化すると、冷却媒体のイオン残在量(冷却媒体中に残存するイオンの量)は運転前よりも少なくなる。即ち、(通水量/運転時間)の値が大きいほど冷却媒体のイオン残在量は少なく、この値が小さいほど冷却媒体のイオン残在量は多い。そこで、(通水量/運転時間)の値が所定の閾値以下である場合にのみ、冷却媒体の温度を低下させるようにすることにより、不純物のイオンのさらなる溶出を無駄なく抑制することができる。
【0012】
また、前記冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値は、燃料電池システム本体の主電源とは異なる電源から電力の供給を受けて駆動し、計時動作を行うリアルタイムクロックの値であっても良く、前記制御部は、該リアルタイムクロックの値が所定の閾値以下である場合に、冷却媒体の温度を低下させる。
【0013】
一般に、冷却媒体へのイオンの溶出量は、新品の燃料電池ほど多く、運転時間の増加に伴って低減する。そこで、運転停止時のリアルタイムクロック値が所定の閾値以下である場合にのみ冷却媒体の温度を低下させることにより、不純物のイオンのさらなる溶出を無駄なく抑制することができる。
【0014】
さらに、前記冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値は、前記燃料電池の絶縁抵抗値であっても良く、前記制御部は、該絶縁抵抗値が所定の閾値以下である場合に、冷却媒体の温度を低下させる。
【0015】
燃料電池の絶縁抵抗値は、冷却媒体の導電率の変化、即ち、イオン残在量を反映している。そこで、この絶縁抵抗値が所定の閾値以下である場合、即ち、イオン残在量が多い場合にのみ冷却媒体の温度を低下させることにより、不純物のイオンのさらなる溶出を無駄なく抑制することができる。
【0016】
前記冷却媒体流路は、前記ラジエータをバイパスするバイパス流路をさらに有し、前記制御部は、冷却媒体の温度を低下させる場合に、前記バイパス流路への流通を制限することにより、全ての冷却媒体に前記ラジエータを通過させる。このように、ラジエータを通過する流路とバイパス流路とを併用することにより、燃料電池の運転中に冷却水を一定の温度に維持するための循環と、運転停止後に冷却水の温度を低下させるための循環とを容易に切り替えることができる。
さらに、前記制御部は、冷却媒体の温度を低下させる場合に、前記ポンプの回転数を上昇させるようにしても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高価な装置を使用したり、必要以上にポンプを駆動することなく、運転停止中におけるイオン溶出を抑制することができる。それにより、冷却水の導電率の上昇に起因する燃料電池の性能低下や損傷等を、低コストで防止することが可能となる。また、必要以上に冷却水を冷却しないので、燃料電池を再始動する際の暖機運転の回数を抑えることができ、燃費の悪化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すシステム図である。この燃料電池システム1は、燃料電池自動車の車載発電システムや船舶、航空機、電車あるいは歩行ロボット等のあらゆる移動体用の発電システム、さらには、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システム等に適用可能である。本実施形態においては自動車用となっている。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池システム1は、反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池2と、酸化ガスとしての空気を燃料電池2に供給する酸化ガス配管系3と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に供給する燃料ガス配管系4と、燃料電池2を冷却するための冷却水を供給する冷却水循環系5と、システム全体を制御する制御部6とを備えている。
【0020】
燃料電池2は、例えば固体高分子電解質型であり、多数のセルを積層したスタック構造を有している。燃料電池2の各セルは、イオン交換膜からなる電解質と、その一方の面に形成された空気極(カソード)と、その他方の面に形成された燃料極(アノード)と、空気極及び燃料極を両側から挟みこむように配置された一対のセパレータとを有している。燃料極側のセパレータの燃料ガス流路には燃料ガスが供給され、空気極側のセパレータの酸化ガス流路には酸化ガスが供給される。これらのガス供給により各セルにおいて電気化学反応が起こり、その結果、電力が発生する。図示はしていないが、燃料電池2には、発生電圧を測定する電圧測定器や、燃料電池2全体の抵抗値を測定する絶縁抵抗測定器がさらに設けられている。
【0021】
酸化ガス配管系3は、燃料電池2に供給される酸化ガスが流れる酸化ガス供給流路11と、燃料電池2から排出された使用済みの酸化ガス(酸化オフガス)が流れる排気流路12とを有している。酸化ガス供給流路11には、フィルタ13を介して酸化ガスを取り込むコンプレッサ14と、コンプレッサ14により圧送される酸化ガスを加湿する加湿器15とが設けられている。排気流路12を流れる酸化オフガスは、背圧調整弁16を通って加湿器15で水分交換に供された後、最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。コンプレッサ14は、図示されていないモータの駆動により大気中の酸化ガスを取り込む。
【0022】
燃料ガス配管系4は、例えば、燃料ガス供給源21と、燃料ガス供給源21から燃料電池2に供給される水素ガスが流れる燃料ガス供給流路22と、燃料電池2から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を燃料ガス供給流路22との合流点に戻すための循環流路23と、循環流路23内の水素オフガスを燃料ガス供給流路22に圧送する燃料ガスポンプ24と、循環流路23に分岐接続された排気排水流路25とを有している。
【0023】
燃料ガス供給源21は、例えば高圧タンクや水素吸蔵合金などで構成され、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能に構成されている。遮断弁26を開くと、燃料ガス供給源21から燃料ガス供給流路22に水素ガスが流出する。水素ガスは、レギュレータ27や開閉弁28により最終的に例えば200kPa程度まで減圧されて、燃料電池2に供給される。燃料電池2から排出された使用済みの燃料ガス(燃料オフガス)は、循環流路23に設けられた気液分離器29を介して、燃料ガスポンプ24により圧送され、燃料ガス供給流路22に循環させられる。気液分離器29により回収された水分や循環されない燃料オフガス等は、排気排水流路25を介して排出される。
【0024】
冷却水循環系5は、冷却媒体としての冷却水(例えば、純水又は純水とエチレングリコールとの混合液)を燃料電池2内に循環させる。冷却水循環系5は、燃料電池2内の冷却流路に連通する冷却水流路31と、冷却水流路31に設けられた冷却水ポンプ32と、三方弁33と、冷却媒体の導電率を低下させるイオン交換器34と、燃料電池2から排出される冷却水を冷却するラジエータ35と、該ラジエータ35をバイパスするバイパス流路36と、三方弁37と、冷却水の温度を検出する温度センサ38と、冷却水流路31内の圧力を検出する圧力センサ39とを有している。
【0025】
冷却水ポンプ32は、制御部6の制御の下で、モータの駆動により冷却水流路31内の冷却水を圧送する。冷却水ポンプ32から圧送された冷却水(流量a)は三方弁33によって分流され、冷却水の一部(流量b)は燃料電池2に供給され、残り(流量c)はイオン交換器34に供給される。燃料電池2及びイオン交換器34をそれぞれ通過した冷却水は再び合流し、冷却水流路31内を循環する。
【0026】
三方弁37は、制御部6の制御の下で、ラジエータ35を流通する冷却水とバイパス流路36を流通する冷却水との割合を調節する。燃料電池2の運転時には、冷却水が所定の温度TD付近に収まるように、ラジエータ35を含む流路(ラジエータ流路)31a及びバイパス流路36の開弁率が決定される。例えば、通常の運転時に、三方弁37の開弁率は、ラジエータ流路31a側に40%(RP=40%と表す)、即ち、バイパス流路36側に60%(BP=60%と表す)となっている。このとき、冷却水の約4割がラジエータ流路31aに流れ、約6割がバイパス流路36に流れる。
【0027】
温度センサ38及び圧力センサ39は、それぞれ、冷却水の温度及び圧力に関する情報を制御部6に出力する。なお、冷却水流路31に、寒冷時に冷却水を加温するための装備をさらに設けてもよい。
【0028】
制御部6は、車両に設けられた各種負荷装置の動作を制御する。なお、負荷装置とは、トラクションモータのほかに、燃料電池2を作動させるために必要な補機装置(例えばコンプレッサ14、燃料ガスポンプ24、冷却水ポンプ32の各モータや各種弁等)、車両の走行に関与する各種装置(変速機、車輪制御部、操舵装置、懸架装置等)で使用されるアクチュエータ、乗員空間の空調装置(エアコン)、照明、オーディオ等を含む電力消費装置を総称したものである。
【0029】
制御部6は、図示していないコンピュータシステムによって構成されている。かかるコンピュータシステムは、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力インタフェース及びディスプレイ等を備えるものであり、ROMに記録された各種制御プログラムをCPUが読み込んで所望の演算を実行することにより、種々の処理や制御を行う。
【0030】
次に、図2〜図5を参照しながら、本実施形態に係る燃料電池システム1の動作を説明する。
ステップS01において、制御部6は、イグニッションスイッチ(IG)がオン(ON)になっているか否かを判定する。オンになっている場合(燃料電池2の運転中)には、イオン交換器34を流通した冷却水の量(通水量)を積算すると共に(ステップS02)、燃料電池2の運転時間を積算する(ステップS03)。ここで、図3に示すように、冷却水ポンプ32から圧送される冷却水の量aと、燃料電池2の通水量bと、イオン交換器34の通水量cとは、a=b+cの関係にある。従って、イオン交換器34の通水量は、その時の冷却水ポンプ32の回転数から、マップを用いて求めることができる。
【0031】
一方、ステップS01において、イグニッションスイッチがオフになると、即ち、燃料電池2の運転が停止すると、ステップS11において、制御部6は積算された通水量を運転時間で除する計算を行う。
【0032】
積算された通水量を運転時間で除した(通水量/運転時間)の値は、単位時間当たりにイオン交換器34を流通した冷却水の平均的な流量を表している。ここで図4を参照すると、一般には、定温度で運転中、冷却水には単位時間あたり一定量のイオンが溶出する(グラフY1)。一方、冷却水をイオン交換器34に通水することによって残在イオンを浄化する場合に、単位時間あたりのイオン浄化量(グラフY2)は、イオン交換器34の通水量に比例する。そこで、イオン交換器34の通水量を増加させ、一定に溶出するイオン量を上回るように、冷却水中の残在イオンを浄化すると((Y1−Y2)<0)、冷却水中のイオン残在量は運転前よりも少なくなる。そこで、以下において、(通水量/運転時間)の値を、「イオン交換率」と呼ぶ。イオン交換率が大きいほど冷却水の残在イオンは少なくなり、イオン交換率が小さいほど冷却水の残在イオンは多くなる。
【0033】
制御部6はさらに、算出したイオン交換率を所定の閾値と比較する。そして、イオン交換率が閾値よりも大きい場合(即ち、残在イオンが少ない場合)に、ステップS15において、制御部6は、三方弁37の開弁率をラジエータ流路31a側に0%(バイパス流路36側に100%)とし、さらに、冷却水ポンプ32を停止させる。
上記イオン交換率の閾値は、例えば、運転中のイオン溶出量分を浄化できるイオン交換率をパラメータとするシミュレーションにより求められる。
【0034】
一方、イオン交換率が所定の閾値以下である場合に、ステップS12において、制御部6は、三方弁37の開弁率をラジエータ流路31a側に100%とし、ステップS13において、冷却水ポンプ32の回転をアップさせる。それにより、図5に示すように、冷却水の温度θDが急勾配で低下し始める。
【0035】
制御部6は、三方弁37の開弁率をRP=100%としてから所定時間Tが経過したか否かを随時判定する(ステップS14)。この所定時間Tは、燃料電池2の運転中における冷却水の温度θDが、イオンが溶出し難くなる温度θL以下となるまでの時間であり、諸条件の下での演算やシミュレーション等により予め求められ、設定されている。
【0036】
所定時間Tが経過すると、ステップS15において、制御部6は、図5に示すように、三方弁37の開弁率をラジエータ流路31a側に0%(バイパス流路36側に100%)とすると共に、冷却水ポンプ32を停止させる。それにより、燃料電池システム1全体の運転が停止する。
【0037】
本実施形態によれば、燃料電池の運転停止後、イオン交換率が小さい場合にのみ冷却水の温度を素早く低下させるので、無駄なコストを生じさせることなく、冷却水へのさらなるイオン溶出を抑制することができる。
【0038】
次に、図6及び図7を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システムの動作を説明する。本実施形態に係る燃料電池システムの構成は、図1に示すものと同様であり、以下に説明するように、燃料電池の運転停止後に冷却水の循環を行う際の判定基準において、第1の実施形態と異なっている。
【0039】
図6に示すように、燃料電池2(図1)の運転を停止すると(即ち、ステップS01においてIG=OFF)、ステップS21において、制御部6はリアルタイムクロック(real time clock:RTC)の値(以下、RTC値という)を所定の閾値と比較する。
【0040】
ここで、RTCとは、制御部6を構成するコンピュータシステム本体の主電源とは異なる電源から電力の供給を受けて駆動する計時(時計・カレンダー)装置又は計時機能のことである。RTCは、コンピュータシステム本体の電源を切っても計時動作を継続する。
【0041】
図7に示すように、冷却水へのイオン溶出量は、新品の燃料電池を搭載した新車の時期や、あまり運転することなく長期に渡って放置された場合に最も多く、運転時間の増加に伴って低減する。そこで、新品の燃料電池の使用開始からの積算運転時間に対応するRTC値を、冷却水へのイオン溶出量の多少を判定する基準として使用する。閾値としては、例えば、図7に示すようなイオン溶出量曲線をシミュレーションによって取得し、燃料電池2の性能低下や損傷を引き起こす可能性があるイオン溶出量の最小値IMINに対応する値RTCSを用いれば良い。
【0042】
RTC値が閾値RTCS以下である場合に、制御部6は、当該車両が新車であると判断する。また、前回停止時と今回起動時との間のRTC変化量ΔRTCが閾値RTCS以上である場合には、長期放置車両であると判断する。そして、運転停止後のさらなるイオン溶出を抑制するために、三方弁37の開弁率をラジエータ流路31a側に100%とし、冷却水ポンプ32の回転数をアップすることにより、冷却水の温度を所定時間低下させる(ステップS12〜S14)。
【0043】
一方、RTC値が閾値RTCSよりも大きい場合、又は、ΔRTCが閾値RTCSよりも小さい場合には、制御部6は冷却水の循環を停止させる(ステップS15)。
【0044】
ここで、上述の通り、RTCの動作は燃料電池システムの主電源を切っても停止しないが、図7に示すように、オーバーフローするとRTC値がゼロに戻ってしまう。そこで、RTC値のオーバーフローによる誤差を防ぐために、例えば、制御部6は、運転終了時のRTC値を記憶装置に格納しておき、ステップS21の判定を行う前に、現在のRTC値と先に格納されたRTC値とを比較する。そして、現在のRTC値が格納されたRTC値以上である場合には、現在のRTC値を用いてステップS21の判定を行う。一方、現在のRTC値が格納されたRTC値よりも小さい場合には、その時点で格納されているRTC値をリセット前の最終RTC値として保存し、現在のRTC値に最終RTC値を加算した値を用いてステップS21の判定を行う。
【0045】
次に、図8を参照しながら、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池システムの動作を説明する。本実施形態に係る燃料電池システムの構成は、図1に示すものと同様であり、以下に説明するように、燃料電池の運転停止後に冷却水の循環を行う際の判定基準において、第1の実施形態と異なっている。
【0046】
図8に示すように、燃料電池2(図1)の運転を停止すると(即ち、ステップS01においてIG=OFF)、ステップS31において、制御部6は燃料電池2の絶縁抵抗値を所定の閾値と比較する。
【0047】
ここで、冷却水の抵抗値と導電率とは、次のような関係にある。
抵抗値=(1/導電率)(流路の長さ/流路の断面積)
図1に示す燃料電池システムにおいては、燃料電池2全体の抵抗を測定しているため、この測定値は、燃料電池2を構成する様々な部品の抵抗値を含んでいる。しかし、それらの部品の抵抗値に比較して、冷却水の抵抗値の変化は大きいので、抵抗の測定値の変化は、冷却水の導電率の変化、即ち、イオン溶出量を反映していると言える。
【0048】
そこで、抵抗の測定値が閾値以下である場合(即ち、導電率が高い場合)に、制御部6は、さらなるイオン溶出を抑制するために、三方弁37の開弁率をラジエータ流路31a側に100%とし、冷却水ポンプ32の回転数をアップすることにより、所定時間、冷却水の温度を急速に低下させる(ステップS12〜S14)。閾値は、例えば、燃料電池2の性能低下や損傷等を引き起こす可能性がある導電率の値から逆算することができる。
【0049】
一方、抵抗の測定値が閾値よりも大きい場合には、制御部6は冷却水の循環を停止させる(ステップS15)。
【0050】
本実施形態によれば、比較的安価な測定器を構成でき、且つ、冷却水へのイオン溶出量を比較的精度良く反映する抵抗値に基づいて、運転停止後の冷却水の循環を制御するので、燃料電池システムの製造コストや運転コストを低減することが可能となる。
【0051】
以上説明した第1〜第3の実施形態においては、燃料電池の運転停止後に冷却水を循環させる時間Tは予め設定されているが、冷却水の温度や外気の温度等のその場の環境に応じて時間Tを算出しても良いし、予めシミュレーションにより得られた複数の時間から、その場の環境に応じて時間Tを選択しても良い。或いは、温度センサ38によるリアルタイムな測定値に基づいて、冷却水の循環を停止するタイミングを決定しても良い。
【0052】
次に、図1を参照しながら、第1〜第3の実施形態に係る燃料電池システムの変形例について説明する。
この変形例においては、燃料電池2の運転中及び運転停止後の三方弁33の動作を、制御部6によって制御する。例えば、燃料電池2の運転中には、イオン交換器34、ラジエータ35、バイパス流路36のそれぞれの通水量を適宜調節することにより、イオン交換器34に過度の負荷をかけることなく残在イオンを浄化し、且つ、冷却水の温度を所定の範囲に維持しつつ、冷却水を適切な速度で循環させることができる。また、燃料電池2の運転停止後に冷却水をさらに循環させる場合には、イオン交換器34の通水量を増加して残在イオンの浄化量を増やしても良いし、冷却水の温度低下を優先させるために、イオン交換器34の通水量を減らして冷却水の流速を上げても良い。それにより、燃料電池2の運転停止後においても、冷却水の温度低下と残在イオンの浄化とを所望のバランスで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システムの動作を示すフローチャートである。
【図3】冷却水ポンプ、燃料電池及びイオン交換器の通水量の関係を示す図である。
【図4】イオン溶出量と残在イオン浄化量との関係を示す図である。
【図5】冷却水の循環を制御するタイミングを示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システムの動作を示すフローチャートである。
【図7】RTCとイオン溶出量との関係を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池システムの動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
1…燃料電池システム、2…燃料電池、3…酸化ガス配管系、4…燃料ガス配管系、5…冷却水循環系、6…制御部、31…冷却水流路、31a…ラジエータ流路、32…冷却水ポンプ、34…イオン交換器、35…ラジエータ、36…バイパス流路、37…三方弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に反応ガスを供給するガス供給路と、
前記燃料電池を循環する冷却媒体を流通させる冷却媒体流路であって、冷却媒体を圧送するポンプと、冷却媒体を冷却するラジエータと、冷却媒体の導電率を低下させるイオン交換器とが設けられた冷却媒体流路と、
前記冷却媒体流路における冷却媒体の流通を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の運転停止後に、冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値に基づいて、冷却媒体の温度を低下させるように前記冷却媒体を循環させる、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値は、前記燃料電池の運転中に前記イオン交換器を流通した冷却媒体の積算量を前記燃料電池の運転時間で除した値であり、
前記制御部は、該冷却媒体の積算量を前記燃料電池の運転時間で除した値が所定の閾値以下である場合に、冷却媒体の温度を低下させる、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値は、燃料電池システム本体の主電源とは異なる電源から電力の供給を受けて駆動し、計時動作を行うリアルタイムクロックの値であり、
前記制御部は、該リアルタイムクロックの値が所定の閾値以下である場合に、冷却媒体の温度を低下させる、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記冷却媒体中の不純物のイオン量と相関のある値は、前記燃料電池の絶縁抵抗値であり、
前記制御部は、該絶縁抵抗値が所定の閾値以下である場合に、冷却媒体の温度を低下させる、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記冷却媒体流路は、前記ラジエータをバイパスするバイパス流路をさらに有し、
前記制御部は、冷却媒体の温度を低下させる場合に、前記バイパス流路への流通を制限することにより、全ての冷却媒体に前記ラジエータを通過させる、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御部は、冷却媒体の温度を低下させる場合に、前記ポンプの回転数を上昇させる、請求項5に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−151992(P2009−151992A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327148(P2007−327148)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】